(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】眼鏡レンズ加工装置、及びヤゲン又は溝の形成データ設定プログラム
(51)【国際特許分類】
B24B 9/14 20060101AFI20240723BHJP
B24B 49/10 20060101ALI20240723BHJP
B24B 49/12 20060101ALI20240723BHJP
G02C 13/00 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
B24B9/14 A
B24B49/10
B24B49/12
G02C13/00
(21)【出願番号】P 2020060576
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】中子 裕也
(72)【発明者】
【氏名】武市 教児
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-047656(JP,A)
【文献】特開2006-212735(JP,A)
【文献】特開2018-004931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 9/14
B24B 49/10
B24B 49/12
G02C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼鏡フレームのリムに眼鏡レンズを保持させるためのヤゲン又は溝を眼鏡レンズの周縁に形成する眼鏡レンズ加工装置であって、
眼鏡フレームの反り角を取得する反り角取得手段と、
玉型のデータを取得する玉型データ取得手段と、
前記玉型に対応した眼鏡レンズの前屈折面及び後屈折面のコバ位置を含むレンズ形状情報を取得するレンズ形状取得手段と、
前記玉型に対する眼鏡レンズの光学中心の位置関係のレイアウトデータを取得するレイアウトデータ取得手段と、
前記玉型と前記レンズ形状情報とに基づいて眼鏡レンズの周縁に形成するヤゲン又は溝の形成データを求める演算手段であって、さらに前記レイアウトデータと前記反り角とに基づき、眼鏡レンズの光軸方向を眼鏡装用時の
装用者が遠方視したときの装用者眼の視軸方向と同一にするヤゲン又は溝の形成データを演算する演算手段と、
を備え
、
前記レンズ形状情報には眼鏡レンズの前屈折面のカーブ情報が含まれ、
前記演算手段は、前記レイアウトデータの前記玉型の幾何中心と眼鏡レンズの光学中心との位置関係と、眼鏡レンズの前記カーブ情報と、に基づいてヤゲン又は溝形成時の眼鏡レンズの光軸方向を求め、求めた光軸方向と前記反り角とに基づき、前記玉型に対応した眼鏡レンズのコバ方向における鼻側のヤゲン又は溝の位置と耳側のヤゲン又は溝の位置との位置関係を求めることで、眼鏡レンズの光軸方向を眼鏡装用時の装用者が遠方視したときの装用者眼の視軸方向と同一にするヤゲン又は溝の形成データを演算することを特徴とする眼鏡レンズ加工装置。
【請求項2】
請求項1の眼鏡レンズ加工装置において、
眼鏡レンズの周縁に形成するヤゲン又は溝のカーブ情報を取得するヤゲン又は溝カーブ取得手段を備え、
前記演算手段は、前記ヤゲン又は溝のカーブが、前記鼻側のヤゲン又は溝の位置と、前記耳側のヤゲン又は溝の位置と、を通るようにヤゲン又は溝の形成データを演算することを特徴とする眼鏡レンズ加工装置。
【請求項3】
請求項
1の眼鏡レンズ加工装置において、
前記演算手段は、前記玉型に対応した眼鏡レンズのコバ位置に基づいて仮のヤゲン形成データを求め、前記鼻側のヤゲン又は溝の位置と前記耳側のヤゲン又は溝の位置との一方を基準にして他方に近づくように前記仮のヤゲン又は溝の形成データを傾斜させることで、ヤゲン又は溝の形成データを求めることを特徴とする眼鏡レンズ加工装置。
【請求項4】
請求項
1の眼鏡レンズ加工装置において、
眼鏡フレームの前傾角を取得する前傾角取得手段を備え、
前記演算手段は、前記レイアウトデータと前記前傾角とに基づき、上下方向における眼鏡レンズの光軸方向を眼鏡装用時に装用者が遠方視したときの装用者眼の視軸方向と同一にするヤゲン又は溝の形成データを演算することを特徴とする眼鏡レンズ加工装置。
【請求項5】
眼鏡フレームの反り角を取得する反り角取得手段と、玉型のデータを取得する玉型データ取得手段と、前記玉型に対応した眼鏡レンズの前屈折面及び後屈折面のコバ位置、眼鏡レンズの前屈折面のカーブ情報を含むレンズ形状情報を取得するレンズ形状取得手段と、前記玉型に対する眼鏡レンズの光学中心の位置関係のレイアウトデータを取得するレイアウトデータ取得手段と、を備え、眼鏡フレームのリムに眼鏡レンズを保持させるためのヤゲン又は溝を眼鏡レンズの周縁に形成する眼鏡レンズ加工装置で実行されるヤゲン又は溝の形成データ設定プログラムであって、
前記玉型と前記レンズ形状情報とに基づいて眼鏡レンズの周縁に形成するヤゲン又は溝の形成データを求める演算ステップであって、さらに前記レイアウトデータと前記反り角とに基づき、眼鏡レンズの光軸方向を眼鏡装用時に装用者が遠方視したときの装用者眼の視軸方向と同一にするヤゲン又は溝の形成データを演算する演算ステップを、眼鏡レンズ加工装置の演算ユニットに実行させ、
前記演算ステップは、前記レイアウトデータの前記玉型の幾何中心と眼鏡レンズの光学中心との位置関係と、眼鏡レンズの前記カーブ情報と、に基づいてヤゲン又は溝形成時の眼鏡レンズの光軸方向を求め、求めた光軸方向と前記反り角とに基づき、前記玉型に対応した眼鏡レンズのコバ方向における鼻側のヤゲン又は溝の位置と耳側のヤゲン又は溝の位置との位置関係を求めることで、眼鏡レンズの光軸方向を眼鏡装用時に装用者が遠方視したときの装用者眼の視軸方向と同一にするヤゲン又は溝の形成データを演算することを特徴とするヤゲン又は溝の形成データ設定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼鏡フレーム(リム)に眼鏡レンズを保持させる(嵌める)ためのヤゲン又は溝を眼鏡レンズに形成する眼鏡レンズ加工装置、ヤゲン又は溝を眼鏡レンズに形成するときの形成データを設定するヤゲン又は溝の形成データ設定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズの周縁に形成されるヤゲン又は溝を設定する方法として、レンズのコバ厚を所定の比率で分割する方法、眼鏡フレームのフレームカーブに沿わせる方法が一般的に知られている。また、レンズを眼鏡フレームに枠入れしたときのフレームに対するコバの見栄えを良好にするために、レンズの上下方向及び左右方向のコバ位置でレンズ前面からのヤゲン位置が同程度になるように設定する方法(例えば、特許文献1参照)、レンズ後面のヤゲン斜面の幅が大きく見えることを防止するようにヤゲンを設定する方法(例えば、特許文献2参照)、が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-160682号公報
【文献】特開2009-241240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のヤゲン又は溝の設定方法は、レンズを眼鏡フレームに枠入れしたときのフレームに対するコバの見栄えを良好にすることを主に重視して行われており、眼鏡装用者眼の視軸方向と眼鏡レンズの光軸方向との位置関係については考慮されていなかった。例えば、眼鏡装用者眼の視軸方向と眼鏡レンズの光軸方向との関係が平行から離れていくと、眼鏡レンズによる眼鏡装用者眼の矯正を適正に行えなくなってしまう。
【0005】
本開示は、上記従来技術に鑑み、眼鏡装用者眼の矯正状態をより良くできるヤゲン又は溝を形成可能な眼鏡レンズ加工装置、及びヤゲン又は溝の形成データ設定プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示は以下のような構成を備えることを特徴とする。
(1) 本開示の第1態様に係る眼鏡レンズ加工装置は、眼鏡フレームのリムに眼鏡レンズを保持させるためのヤゲン又は溝を眼鏡レンズの周縁に形成する眼鏡レンズ加工装置であって、眼鏡フレームの反り角を取得する反り角取得手段と、玉型のデータを取得する玉型データ取得手段と、前記玉型に対応した眼鏡レンズの前屈折面及び後屈折面のコバ位置を含むレンズ形状情報を取得するレンズ形状取得手段と、前記玉型に対する眼鏡レンズの光学中心の位置関係のレイアウトデータを取得するレイアウトデータ取得手段と、前記玉型と前記レンズ形状情報とに基づいて眼鏡レンズの周縁に形成するヤゲン又は溝の形成データを求める演算手段であって、さらに前記レイアウトデータと前記反り角とに基づき、眼鏡レンズの光軸方向を眼鏡装用時の装用者が遠方視したときの装用者眼の視軸方向と同一にするヤゲン又は溝の形成データを演算する演算手段と、を備え、前記レンズ形状情報には眼鏡レンズの前屈折面のカーブ情報が含まれ、前記演算手段は、前記レイアウトデータの前記玉型の幾何中心と眼鏡レンズの光学中心との位置関係と、眼鏡レンズの前記カーブ情報と、に基づいてヤゲン又は溝形成時の眼鏡レンズの光軸方向を求め、求めた光軸方向と前記反り角とに基づき、前記玉型に対応した眼鏡レンズのコバ方向における鼻側のヤゲン又は溝の位置と耳側のヤゲン又は溝の位置との位置関係を求めることで、眼鏡レンズの光軸方向を眼鏡装用時の装用者が遠方視したときの装用者眼の視軸方向と同一にするヤゲン又は溝の形成データを演算することを特徴とする。
(2) 本開示の第2態様に係るヤゲン又は溝の形成データ設定プログラムは、眼鏡フレームの反り角を取得する反り角取得手段と、玉型のデータを取得する玉型データ取得手段と、前記玉型に対応した眼鏡レンズの前屈折面及び後屈折面のコバ位置を含むレンズ形状情報を取得するレンズ形状取得手段と、前記玉型に対する眼鏡レンズの光学中心の位置関係のレイアウトデータを取得するレイアウトデータ取得手段と、を備え、眼鏡フレームのリムに眼鏡レンズを保持させるためのヤゲン又は溝を眼鏡レンズの周縁に形成する眼鏡レンズ加工装置で実行されるヤゲン又は溝の形成データ設定プログラムであって、前記玉型と前記レンズ形状情報とに基づいて眼鏡レンズの周縁に形成するヤゲン又は溝の形成データを求める演算ステップであって、さらに前記レイアウトデータと前記反り角とに基づき、眼鏡レンズの光軸方向を眼鏡装用時に装用者が遠方視したときの装用者眼の視軸方向と同一にするヤゲン又は溝の形成データを演算する演算ステップと、を眼鏡レンズ加工装置の演算ユニットに実行させ、前記演算ステップは、前記レイアウトデータの前記玉型の幾何中心と眼鏡レンズの光学中心との位置関係と、眼鏡レンズの前記カーブ情報と、に基づいてヤゲン又は溝形成時の眼鏡レンズの光軸方向を求め、求めた光軸方向と前記反り角とに基づき、前記玉型に対応した眼鏡レンズのコバ方向における鼻側のヤゲン又は溝の位置と耳側のヤゲン又は溝の位置との位置関係を求めることで、眼鏡レンズの光軸方向を眼鏡装用時に装用者が遠方視したときの装用者眼の視軸方向と同一にするヤゲン又は溝の形成データを演算することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】眼鏡レンズ加工装置における加工機構部の構成を説明する図である。
【
図2】レンズ形状測定ユニットの概略構成図である。
【
図3】眼鏡レンズ加工装置に関する制御系ブロック図である。
【
図5】加工条件を設定するときのディスプレイの画面例である。
【
図6】ヤゲンの形成データを求める方法を説明する図である。
【
図7】仮のヤゲン軌跡でヤゲン加工されたレンズをリムに保持させた状態の例を示す図である。
【
図8】反り角を考慮したヤゲン軌跡でヤゲン加工されたレンズをリムに保持させた状態の例を示す図である。
【
図9】レンズの上下方向のヤゲン位置を配置するための説明図である。
【
図10】リムの前側端に対するレンズ前屈折面の食み出し量が多くなっている場合を説明する図である。
【
図11】眼鏡フレームの前傾角を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本実施形態を図面に基づいて説明する。
図1~11は本実施形態に係る眼鏡レンズ加工装置、及びヤゲン又は溝の形成データ設定プログラムの構成について説明する図である。
【0009】
[概要]
例えば、眼鏡レンズ加工装置は、眼鏡レンズ(以下、レンズLE)を保持するために構成された保持手段(例えば、レンズ保持ユニット100)を備える。例えば、保持手段は、レンズLEを保持するために構成された保持軸(例えば、レンズチャック軸102)を備える。例えば、眼鏡レンズ加工装置は、レンズLEを回転するためのレンズ回転手段(例えば、モータ120)を備える。例えば、眼鏡レンズ加工装置は、レンズLEの周縁を加工するための加工具(例えば、加工具168、溝堀加工具462)を備える。例えば、加工具はレンズLEの周縁にヤゲンを形成するためのヤゲン加工具(例えば、仕上げ加工具164)を備える。例えば、加工具はレンズLEの周縁に溝を形成するための溝堀加工具(例えば、溝堀加工具462)を備える。例えば、眼鏡レンズ加工装置は、保持手段に保持されたレンズLEと加工具との位置関係を相対的に変化させる移動手段(例えば、移動ユニット300)を備える。例えば、眼鏡レンズ加工装置は、移動手段の駆動を制御する制御手段(例えば、制御ユニット50)を備える。
【0010】
例えば、眼鏡レンズ加工装置は、眼鏡フレームの反り角を取得する反り角取得手段(例えば、データ取得ユニット10)を備える。例えば、眼鏡レンズ加工装置は、玉型(目標とするレンズの二次元の外径形状)を取得する取得手段(例えば、データ取得ユニット10)を備える。なお、「玉型」の用語は眼鏡レンズの加工分野においては自明である。例えば、眼鏡レンズ加工装置は、玉型に対するレンズLEの光学中心の位置関係のレイアウトデータを取得するレイアウトデータ取得手段(例えば、データ取得ユニット10)を備える。
【0011】
例えば、眼鏡レンズ加工装置は、レンズLEの屈折面のレンズ形状情報を取得するレンズ形状取得手段(例えば、制御ユニット50)を備える。例えば、レンズ形状取得手段は、玉型に対応したレンズLEの前屈折面及び後屈折面の位置を取得するために構成されたレンズ形状測定手段(例えば、レンズ形状測定ユニット200)を備える。例えば、レンズ形状測定手段は、レンズLEの前屈折面及び後屈折面に接触させる測定子(例えば、測定子206F、206R)を備える。例えば、レンズ形状測定手段は、保持手段の保持軸の軸方向(例えば、
図1のX軸方向)における測定子の位置を検知する検知手段(例えば、検知器213F、213R)を備える。例えば、レンズ形状取得手段は、レンズLEの前屈折面のカーブ情報を取得するカーブ情報取得手段(例えば、制御ユニット50、データ取得ユニット10)を備えていてもよい。
【0012】
例えば、眼鏡レンズ加工装置は、玉型とレンズ形状情報とに基づいてレンズLEの周縁に形成するヤゲン又は溝の形成データを求める演算手段(例えば、制御ユニット50)を備える。例えば、演算手段は、さらにレイアウトデータと、反り角取得手段によって取得された反り角と、に基づいてヤゲン又は溝の形成データを求める。例えば、演算手段は、レンズLEの光軸方向を眼鏡装用時における装用者(装用者眼)の視軸方向と同一にするヤゲン又は溝の形成データを求める。例えば、演算手段は、反り角を考慮することで、左右方向におけるレンズLEの光軸方向を眼鏡装用時の装用者眼の視軸方向と同一にするヤゲン又は溝の形成データを求める。これにより、レンズLEによる装用者眼の矯正状態をより良くできる。
【0013】
なお、レンズLEの光軸方向と眼の視軸方向との同一とは、レンズLEによる眼の矯正状態が目標通りにできるように、実質的に同一であればよい。言い換えれば、略同一であればよい。例えば、レンズLEの屈折度数(パワー)の処方は、一定度数単位(例えば、一般的に0.25デイオプター単位)であるので、この度数単位での矯正状態が確保されるものであれば、レンズLEの光軸方向と眼の視軸方向との位置関係が多少変化していてもよい。
【0014】
例えば、演算手段は、レイアウトデータの玉型の幾何中心と眼鏡レンズの光学中心との位置関係と、レンズLEのカーブ情報と、に基づいてヤゲン又は溝形成時のレンズLEの光軸方向を求める。次に演算手段は、求めた光軸方向と反り角とに基づき、玉型に対応したレンズLEのコバ方向における鼻側のヤゲン又は溝の位置と耳側のヤゲン又は溝の位置との位置関係を求めることで、左右方向におけるレンズLEの光軸方向を眼鏡装用時の装用者眼の視軸方向と同一にするヤゲン又は溝の形成データを演算する。
【0015】
例えば、眼鏡レンズ加工装置は、レンズLEの周縁に形成するヤゲン又は溝のカーブ情報を取得するヤゲン又は溝カーブ取得手段(例えば、制御ユニット50)を備える。例えば、演算手段は、ヤゲン又は溝のカーブが鼻側のヤゲン又は溝の位置と、耳側のヤゲン又は溝の位置と、を通るようにヤゲン又は溝の形成データを演算する。
【0016】
また、例えば、演算手段は、玉型に対応した眼鏡レンズのコバ位置に基づいて仮のヤゲン又は溝の形成データを求め、鼻側のヤゲン又は溝の位置と耳側のヤゲン又は溝の位置との一方を基準にして他方に近づくように仮のヤゲン又は溝の形成データを傾斜させることで、ヤゲン又は溝の形成データを求める。例えば、演算手段は、鼻側のヤゲン又は溝の位置を基準にして仮のヤゲン又は溝の形成データを傾斜させ、耳側のヤゲン又は溝の位置を通るようにヤゲン又は溝の形成データを求める。
【0017】
また、眼鏡レンズ加工装置は、少なくともリムの溝位置に対するリムの前側端データを取得するリムデータ取得手段(例えば、データ取得ユニット10)を備えていてもよい。例えば、演算手段は、リムに眼鏡レンズを保持させた(嵌めた)ときに、リムの前側端とレンズLEの前屈折面との位置関係が所定の基準に近づくように、ヤゲン又は溝の形成データを補正してもよい。例えば、鼻側及び耳側で、リムの前側端に対するレンズ前面の食み出し量又は食い込み量が一定距離以内となるように、ヤゲン又は溝の形成データをオフセットする。これにより、レンズLEをリムに取り付けたときの見栄え(リムとレンズLEのコバとの位置関係)を良好にできる。
【0018】
例えば、眼鏡レンズ加工装置は、眼鏡フレームの前傾角を取得する前傾角取得手段(例えば、データ取得ユニット10)を備えていてもよい。例えば、演算手段は、レイアウトデータと前傾角とに基づき、玉型の上下方向におけるレンズLEの光軸方向を眼鏡装用者眼の視軸方向と同一にするヤゲン又は溝の形成データを求める。例えば、演算手段は、レイアウトデータの玉型の幾何中心と眼鏡レンズの光学中心の位置関係と、レンズLEのカーブ情報と、に基づいてヤゲン又は溝の形成時のレンズLEの光軸方向を求め、求めた光軸方向と前傾角とに基づき、玉型に対応したレンズLEのコバ方向における上側のヤゲン又は溝の位置と下側のヤゲン又は溝の位置との位置関係を求めることで、上下方向におけるレンズLEの光軸方向を眼鏡装用時の装用者眼の視軸方向と同一にするヤゲン又は溝の形成データを演算する。これにより、上下方向においても、レンズLEによる装用者眼の矯正状態をより良くできる。
【0019】
例えば、眼鏡レンズ加工装置の演算ユニットで実行されるヤゲン又は溝の形成データ設定プログラムは、玉型とレンズ形状情報とに基づいてレンズLEの周縁に形成するヤゲン又は溝の形成データを求める演算ステップであって、さらにレイアウトデータと反り角とに基づき、レンズLEの光軸方向を眼鏡装用時における装用者眼の視軸方向と同一にするヤゲン又は溝の形成データを演算する演算ステップと、を眼鏡レンズ加工装置の演算ユニットに実行させる。
【0020】
[実施例]
本開示の典型的な実施例の一つについて、図面を参照して説明する。
図1は、実施例に係る眼鏡レンズ加工装置1における加工機構部の構成を説明する図である。
【0021】
例えば、眼鏡レンズ加工装置1はレンズLEを保持する保持手段の例であるレンズ保持ユニット100を備える。例えば、眼鏡レンズ加工装置1は、レンズLEの屈折面のレンズ形状情報を取得するために構成されたレンズ形状測定ユニット200を備える。例えば、眼鏡レンズ加工装置1は、レンズLEの周縁を加工する加工具168を回転させるために構成された加工具ユニット150を備える。例えば、眼鏡レンズ加工装置1は移動手段の例である移動ユニット300を備える。移動ユニット300は、レンズLEと加工具ユニット150が持つ加工具168との相対的な位置関係を変える(調整)するために構成されている。また、移動ユニット300は、レンズ形状測定ユニット200が備える測定子200とレンズLEとの相対的な位置関係を変えるために使用される。
【0022】
例えば、レンズ保持ユニット100は、保持軸の例であるレンズチャック軸102を備える。また、レンズ保持ユニット100は、キャリッジ101を備える。レンズチャック軸102はレンズLEを狭持(保持)して回転させるために構成されている。レンズチャック軸102は、一対のレンズチャック軸102L及び102Rを備える。キャリッジ101の左腕101Lにレンズチャック軸102Lが回転可能に保持され、キャリッジ101の右腕101Rにレンズチャック軸102Rが回転可能に保持されている。レンズチャック軸102(レンズLE)は、レンズ回転手段の例であるモータ120によって回転される。
【0023】
例えば、加工具ユニット150は、加工具回転軸161を回転するための加工具回転手段の例であるモータ160を備える。加工具回転軸161は、レンズチャック軸102と平行な位置関係で、本体ベース170に回転可能に保持されている。加工具回転軸161にレンズLEの周縁を加工するための加工具168が取り付けられている。例えば、加工具168は、ヤゲン加工具の例である仕上げ加工具164を備える。仕上げ加工具164は、レンズLEの周縁にヤゲンを形成するためのヤゲン加工用のV溝を備える。仕上げ加工具164は、平仕上げ加工用の平仕上げ面を備えていてもよい。また、加工具168は、粗加工具166を備えていてもよい。また、加工具168は、鏡面仕上げ加工具165を含んでいてもよい。また、加工具168は、高カーブレンズ用の前ヤゲン加工具162と後ヤゲン加工具163と、含んでいてもよい。例えば、加工具168は、砥石が使用されるが、カッターであってもよい。
【0024】
移動ユニット300は、レンズチャック軸102に保持されたレンズLEと加工具168との相対的な位置を変える(調整する)ために構成されている。例えば、移動ユニット300は、レンズチャック軸102と加工具回転軸161との軸間距離を変動させる第1移動ユニット310と、レンズチャック軸102の軸方向にレンズLEを移動させる第2移動ユニット330と、を備える。実施例ではレンズチャック軸102の軸方向をX方向とする。レンズチャック軸102と加工具回転軸161との軸間距離を変動させる方向をY方向とする。
【0025】
第1移動ユニット310は、モータ315を備える。モータ315の回転により移動支基301がX方向に移動される。これにより、移動支基301に搭載されたキャリッジ101及びレンズチャック軸102(レンズLE)がX方向に移動される。なお、第1移動ユニット310の構成は、加工具回転軸161をX方向に移動させることでもよい。
【0026】
第2移動ユニット330は、キャリッジ101(レンズチャック軸102)をY方向に移動するためモータ335を備える。キャリッジ101はシャフト333、334に沿ってY方向に移動可能に移動支基301に保持されている。モータ335の回転はY方向に延びるボールネジ337に伝達され、ボールネジ337の回転によりキャリッジ101(レンズチャック軸102とレンズLE)はY方向に移動される。なお、実施例では第2移動ユニット330はレンズチャック軸102をY方向に移動する構成であるが、加工具回転軸161をY方向に移動させる構成でもよい。すなわち、第2移動ユニット330はレンズチャック軸102と加工具回転軸161との軸間の距離を相対的に変化させる構成であれば良い。
【0027】
また、例えば、眼鏡レンズ加工装置1は、面取り・溝堀り加工ユニット450を備えていてもよい。面取り・溝堀り加工ユニット450が持つ加工具回転軸には、面取り加工具462と溝堀加工具462の少なくとも一つが設けられている。例えば、面取り加工具462は、レンズLEの前屈折面のコバを面取りするための前面取り加工具と、レンズLEの後屈折面のコバを面取りするための後面取り加工具と、を備える。溝堀加工具462は、平仕上げ加工されたレンズLEの周縁に溝を形成するために使用される。例えば、面取り・溝堀り加工ユニット450の加工具回転軸は、退避位置に置かれており、加工時には退避位置から所定の加工位置に移動される。移動ユニット300は、レンズチャック軸102に保持されたレンズLEと面取り加工具462、溝堀加工具462の少なくとも一方との相対的な位置を変える(調整する)ために構成されていている。移動ユニット300は、溝堀り加工ユニット450の加工具回転軸を退避位置から加工位置に移動する手段を含んでいてもよい。
【0028】
図1において、キャリッジ101の上方にレンズ形状測定ユニット200が配置されている。レンズ形状測定ユニット200は、レンズLEの前屈折面(レンズ前面)の形状と、後屈折面(レンズ後面)の形状と、を取得するために使用される。例えば、レンズ形状測定ユニット200は、レンズLEの前屈折面の形状を測定するための測定ユニット200Fと、レンズLEの後屈折面の形状を測定するための測定ユニット200Rと、を備える。
【0029】
図2は、測定ユニット200Fの概略構成図である。測定ユニット200Fは、レンズLEの前屈折面に接触する測定子206Fを有する。測定ユニット200Fは、レンズチャック軸102(102L、102R)の軸方向(X方向)における測定子206Fの位置を検知する検知手段の例である検知器213Fを備える。測定子206Fはアーム204Fの先端に取り付けられている。アーム204Fは、X方向に移動可能に、取付支基201Fに保持されている。アーム204Fは、ラック211F、ピニオン212F、ギヤ214F等を介してモータ216Fに接続されている。モータ216Fの駆動によってアーム204FがX方向に移動され、測定子206FがレンズLEの前屈折面に押し当てられる。ピニオン212Fは、検知器213F(例えば、エンコーダ)の回転軸に取り付けられている。X方向に移動される測定子206Fの位置が検知器213Fによって検知される。
【0030】
例えば、レンズLEの後屈折面の形状を測定するための測定ユニット200Rの構成は、測定ユニット200Fと左右対称であるので、その説明は省略する。測定ユニット200Rは、後屈折面に接触される測定子206Rと、測定子206RをX方向に移動させるモータ216Rと、測定子206RのX方向における位置を検知する検知器213Rと、を備える。
【0031】
レンズ形状の測定時には、測定子206FがレンズLEの前屈折面に接触され、測定子206RがレンズLEの後屈折面に接触される。この状態でレンズ保持ユニット100によってレンズLEが回転されるとともに、玉型データに基づいて移動ユニット300によってレンズチャック軸102L及び102RがY方向に移動されることにより、玉型に対応したレンズLEの前屈折面及び後屈折面の形状が同時に測定される。すなわち、測定ユニット200Fによって玉型に対応したレンズLEの前屈折面のコバ位置が測定され、測定ユニット200Rによって玉型に対応したレンズLEの後屈折面のコバ位置が測定される。
【0032】
図3は眼鏡レンズ加工装置1に関する制御系ブロック図である。制御ユニット50に
図1及び2に示した各ユニットの電気系構成要素(モータ等)が接続されている。制御ユニット50は装置全体の制御を司るために構成されている。また、制御ユニット50は、レンズLEの周縁に形成するヤゲンの形成データを求める演算手段の例として構成されている。また、制御ユニット50は、レンズ加工のための各種の演算を行う演算手段の例として構成されている。
【0033】
例えば、眼鏡レンズ加工装置1はデータ取得ユニット10を備える。データ取得ユニット10はデータ入力ユニットの機能を兼ねていてもよい。例えば、データ取得ユニット10はディスプレイ12を備える。例えば、データ取得ユニット10はデータ入力ユニット13を備える。例えば、ディスプレイ12はタッチパネルの機能を備え、データ入力ユニット13を含むように構成されていてもよい。
【0034】
データ取得ユニット10は、眼鏡枠形状測定装置30に接続されていてもよい。例えば、眼鏡枠形状測定装置30は、眼鏡フレームのリム又はデモレンズ(眼フレームから取り外されたレンズ)の形状を測定するために構成されている。例えば、眼鏡枠形状測定装置30は、リムの溝に測定子を挿入し、リムに沿って相対的に移動される測定子の位置を検知することでリムの形状(リムの溝の三次元形状)を取得する構成のものを使用できる(例えば、特開2014-21069号公報を参照)。また、眼鏡枠形状測定装置30は、ハーフリムから取り外されたデモレンズの外径形状を測定する構成であってもよい。この場合、デモレンズの玉型が得られる。また、例えば、眼鏡枠形状測定装置30は、光源から測定光をリムの溝に向けて照射し、リムの溝によって反射された測定光の反射光を検出器によって受光し、検出器で受光された反射光に基づいてリムの溝の断面形状(リムの厚さ方向の断面形状)を取得する構成のものを使用してもよい(例えば、国際公開2019-026416号公報を参照)。この眼鏡枠形状測定装置30では、リムの全周の断面形状を得ることで、リムの溝(底)の三次元形状を得ることができる。
【0035】
例えば、眼鏡枠形状測定装置30においては、リム又はデモレンズの測定結果を基に玉型(目標とするレンズの二次元の外径形状)が得られる。また、眼鏡枠形状測定装置30においては、眼鏡フレームの左右のリムをフレーム保持手段で保持して測定することで、その測定結果から眼鏡フレームの反り角の情報が得られる。眼鏡枠形状測定装置30で得られたリム又はデモレンズの形状、眼鏡フレームの反り角は、データ取得ユニット10に入力され、データ取得ユニット10によって取得される。
【0036】
例えば、眼鏡レンズ加工装置1は記憶手段の例であるメモリ20を備える。メモリ20はデータ取得ユニット10によって取得された各種データが記憶される。また、メモリ20には、眼鏡レンズ加工装置1の動作を制御するための各種プログラムが記憶されている。例えば、メモリ20にはレンズLEの周縁加工に関するプログラムが記憶されている。また、メモリ20にはヤゲン又は溝を眼鏡レンズに形成するときのヤゲン又は溝の形成データを設定するヤゲン又は溝の形成データ設定プログラムが記憶されている。データ取得ユニット10、メモリ20は制御ユニット50に接続されている。
【0037】
以上のような構成を備える眼鏡レンズ加工装置1における動作を説明する。
初めに、データ取得ユニット10によってレンズLEを加工するための玉型(動径長r、動径角θ)のデータが取得される。例えば、眼鏡枠形状測定装置30によって眼鏡フレームのリム又はデモレンズの形状が測定され、玉型データがデータ取得ユニット10に入力される。玉型データはメモリ20に予め記憶されていたデータが呼び出されることで、データ取得ユニット10によって取得されてもよい。
【0038】
また、
図4に示すように、眼鏡枠形状測定装置30によって測定されたリムの三次元形状を基に眼鏡フレーム(リム)の反り角αが得られ、反り角αはデータ取得ユニット10に入力される。
図4は眼鏡フレームの反り角を説明する図である。例えば、右リムFRの三次元形状において、
図4上の左右方向Xsの鼻側端(最も鼻側の点)をFR1とし、左右方向Xsの耳側端(最も耳側の点)をFR2とする。反り角αは、鼻側端FR1と耳側端FR2とを結んだ直線と、左右方向Xsと、が成す角度として求められる。なお、左右のリムの三次元形状が得られている場合、反り角αは、右リムの反り角と左リムの反り角の平均値として求めてもよい。
【0039】
また、眼鏡フレームの反り角αは、リムの三次元形状から得るのではなく、例えば、反り角簡易測定チャート又は角度測定用の画面に眼鏡フレームを載せ、作業者が目視によって得ることでもよい。この場合、例えば、作業者がデータ入力ユニット13を使用して反り角αの値を入力することでもよい。これにより、反り角αがデータ取得ユニット10によって取得される。
【0040】
玉型データ等の必要なデータが取得されたら、作業者はレンズLEの周縁を加工するための加工条件をディスプレイ12によって設定(入力)する。
図5は、加工条件を設定するときのディスプレイ12の画面例である。
図5において、ディスプレイ12の画面600には右眼用玉型TGRと左眼用玉型TGLが表示されている。レンズLEの周縁加工のために、玉型に対するレンズLEの光学中心の位置関係のレイアウトデータが入力される。例えば、レイアウトデータは、左右の玉型中心間距離FPD(右眼用玉型TGRの幾何学中心TCRと左眼用玉型TGLの幾何学中心TCLとの距離)と、瞳孔間距離PD(眼鏡装用者の右眼用レンズの光学中心OCRと左眼用レンズの光学中心OCLとの距離)と、を含む。また、レイアウトデータは、左右の玉型中心に対する光学中心の高さ距離を含む。これらの値は、画面600上の表示欄をタッチすることで表示されるテンキーによって入力できる。
【0041】
また、加工条件として、レンズLEの材質(プラスチック、ポリカーボネイト等)、眼鏡フレームのタイプ(メタル、セル、リムレス、等)、レンズLEの加工タイプ(ヤゲン加工、平加工、溝堀加工等)、鏡面加工の有無、面取り加工の有無を入力欄611、612、613、614及び615によって入力できる。また、入力欄616によって、レンズチャック軸102でレンズLEを保持する位置として、枠心チャック(玉型の幾何中心でレンズLEを保持)と、光心チャック(レンズLEの光学中心位置でレンズLEを保持)と、を選択できる。以下では、枠心チャックを例にして説明する。また、以下ではヤゲン加工を行う場合を例にして説明する。また、以下ではレンズLEがマイナスレンズである場合を例にして説明する。
【0042】
加工条件の入力が完了し、レンズLEの加工準備が完了したら、作業者はレンズLEをレンズチャック軸102に保持させ、眼鏡レンズ加工装置1の加工動作を開始させる。例えば、レンズLEの加工に先立ち、制御ユニット50によってレンズ形状測定ユニット200が駆動され、玉型に対応したレンズLEの前屈折面及び後屈折面のコバ位置を含む屈折面形状が測定される。例えば、ヤゲン加工の場合、玉型に沿った第1測定軌跡にて、レンズLEの前屈折面及び後屈折面の形状(X軸方向における位置)が測定される。また、ヤゲンの裾野のコバ位置に対応した第2測定軌跡にて、レンズLEの前屈折面及び後屈折面の形状が測定される。レンズLEの屈折面の形状情報は、制御ユニット50によって取得される。また、前屈折面及び後屈折面の形状が測定されることにより、レンズLEの動径角毎のコバ厚(レンズ厚)が制御ユニット50によって取得される。また、第1測定軌跡と第2測定軌跡によって、前屈折面(レンズ前面)の動径方向の異なる位置情報が得られることにより、前屈折面のレンズカーブが制御ユニット50によって演算される。
【0043】
レンズLEの屈折面の形状情報が得られると、制御ユニット50によってレンズLEの周縁に形成するヤゲンの形成データの例であるヤゲン軌跡データ(Vr、Vθ、Vz)が演算される。例えば、ヤゲン軌跡データのVrはヤゲン頂点の動径長データであり、Vθは動径角データであり、Vzはレンズチャック軸102の軸方向(X方向)における基準位置に対するヤゲン頂点の距離データである。初めに、仮のヤゲン形成データを利用する例を説明する。
【0044】
図6は、ヤゲンの形成データを求める方法を説明する図であり、右眼用のレンズLEを例にしている。
図6において、LXはレンズチャック軸102の中心軸を示し、LOはレンズLEの光軸を示す。例えば、
図6(a)のように、レンズチャック軸102に保持されたレンズLEにおいて、レンズLEの全周のコバ厚を所定の比率(例えば、4:6の比率)で分割するようにヤゲンLvの頂点位置Lvtが配置されることで、仮のヤゲン軌跡YC1が制御ユニット50によって演算される。なお、仮のヤゲン軌跡YC1の設定は、この例に限られず、周知のものを使用できる。
【0045】
レンズチャック軸102に保持されたレンズLEの前屈折面Lf上の光軸LOの位置が、レイアウトデータ(玉型中心間距離FPD、瞳孔間距離PD、玉型中心に対する光学中心の高さ距離)を基に求められる。また、中心軸LXに対する光軸LOの方向が、前屈折面Lfのカーブ情報に基づいて求められる。例えば、制御ユニット50は前屈折面Lfのカーブが載る球を求め、求めた球の中心を通るように光軸LOを算出する。
【0046】
ここで、仮のヤゲン軌跡YC1で実際にレンズLEのヤゲン加工が行われ、加工後のレンズLEが
図4の眼鏡フレームの右リムFRに保持されると、例えば、
図7に示すように、左右方向における装用者の眼の視軸SO(遠方視したときの視軸)とレンズLEの光軸LOとが同一方向にならず、光軸LOが傾いてしまうことがある。この場合、レンズLEによる眼鏡装用者の眼の矯正を適正に行えなくなってしまう。これは、ヤゲン軌跡YC1の算出において、眼鏡フレームの反り角αが考慮されていないためである。
図7は、仮のヤゲン軌跡YC1でヤゲン加工されたレンズLEをリムRFに保持させた状態の例を示す図である。
【0047】
そこで、本実施例では、制御ユニット50は、レンズLEの光軸LO方向と反り角αとに基づき、玉型に対応したレンズLEのコバ方向における鼻側のヤゲン位置と耳側のヤゲン位置の位置関係を求めることで、左右方向におけるレンズLEの光軸方向を眼鏡装用者の眼の視軸方向と同一にするヤゲン形成データ(ヤゲン軌跡)を演算する。例えば、鼻側のヤゲン位置及び耳側のヤゲン位置は、玉型の幾何中心を基準とした左右方向の位置として決定される。
【0048】
例えば、
図6(b)のように、制御ユニット50は、仮のヤゲン軌跡YC1における鼻側のヤゲン位置YPn1を基準にして光軸LOに直交する方向LHを求める。次に、ヤゲン位置YPn1を基準に、方向LHに対して反り角α分だけ傾いた方向Lαを求める。続いて、方向Lαとコバとが交わる耳側のヤゲン位置YPe2を求める。そして、鼻側のヤゲン位置YPn1と耳側のヤゲン位置YPe2の一方を基準にして他方に近づくように仮のヤゲン軌跡YC1を傾斜させることで、新たなヤゲン軌跡YC2を求める。例えば、ヤゲン位置YPe2にヤゲン位置が来るように、鼻側のヤゲン位置YPn1を基準に仮のヤゲン軌跡YC1を傾斜させることで新たなヤゲン軌跡YC2を求める。この時のヤゲン軌跡の傾斜量ΔTは、
図6(c)に示すように、仮のヤゲン軌跡YC1における耳側のヤゲン位置YPe1と、新たなヤゲン軌跡YC2における耳側のヤゲン位置YPe2と、の差によって求められる。
【0049】
図8は、反り角αを考慮したヤゲン軌跡YC2によってヤゲン加工されたレンズLEをリムFRに枠入れした(保持された)状態を示す図である。反り角αを考慮した方向に耳側のヤゲン位置があるため、左右方向におけるレンズLEの光軸LOが装用者眼の視軸SOに同一にされている。このため、レンズLEによって装用者眼の矯正がより適切に行われるようになる。
【0050】
上記の説明では、初めに求めた仮のヤゲン軌跡YC1を傾斜させることで、反り角αを考慮したヤゲン軌跡YC2を求める例としたが、これに限られない。例えば、レンズLEの光軸LO方向と反り角αとに基づき、レンズLEのコバ方向における鼻側のヤゲン位置YPn1と耳側のヤゲン位置YPe2との位置関係を求めることでもよい。例えば、
図6(b)において、制御ユニット50は、玉型の幾何中心を通る左右方向の位置で、コバ厚を所定の比率で分割する位置を鼻側のヤゲン位置YPn1に決定し、このヤゲン位置YPn1を基準に、光軸LOに直交する方向LHに対して反り角α分だけ傾いた方向Lαを求め、この方向Lαと耳側のコバ位置(玉型に対応したコバ位置)とが交わる位置を耳側のヤゲン位置YPe2として決定する。
【0051】
また、制御ユニット50は、レンズLEのコバの全周に配置するヤゲンカーブを予め取得しておき、ヤゲンカーブが鼻側のヤゲン位置YPn1と耳側のヤゲン位置YP2eを通るようにヤゲン軌跡YC2を設定してもよい。例えば、ヤゲンカーブはフレームカーブと同一とされる。例えば、フレームカーブは、眼鏡枠形状測定装置30によって測定されたリムの三次元形状から求められ、データ取得ユニット10によって取得される。あるいは、ヤゲンカーブは、レンズLEの前屈折面のカーブと同一のカーブとして制御ユニット50によって取得されてもよい。レンズLEの前屈折面のカーブは、レンズ形状測定ユニット200による測定結果から得られる。
【0052】
ヤゲンカーブを基にヤゲン軌跡YC2を設定するに当たっては、ヤゲン位置YPn1、YPe2以外に少なくとも1点あればよい。
図9は、レンズLEの上下方向のヤゲン位置を配置するための説明図であり、玉型の幾何中心を基準にした上下方向の断面図である。例えば、
図9に示すように、制御ユニット50は、玉型の幾何中心を通る上下方向の上端のコバ位置において、コバ厚を所定の比率(例えば、4:6)で分割する位置を上側のヤゲン位置LPu1として決定する。あるいは、ヤゲン位置LPu1は、レンズ前屈折面から所定距離(例えば、ヤゲンの幅やリムの幅を考慮して定めた距離)の位置とされてもよい。そして、ヤゲン位置YPn1、YPe2及びLPu1を通るようにヤゲンカーブを配置することで、ヤゲン軌跡YC2が演算される。
【0053】
また、ヤゲン軌跡YC2を設定するに当たっては、予め設定したヤゲンカーブを配置するのではなく、ヤゲン位置YPn1、YPe2以外の他の2点のヤゲン位置を決め、4点が載る球を求めることでヤゲンカーブを決めてもよい。例えば、他の2点は玉型の幾何中心を通る上下方向の上端置及び下端とし、そのコバ厚方向の位置は、レンズ前屈折面から所定距離(例えば、ヤゲンの幅やリムの幅を考慮して定めた距離)の位置として決定する。そして、この4点が載る球を求めることで、ヤゲンカーブを設定することができる。ヤゲンカーブとフレームカーブとの差が大きくなるときは、フレームカーブに近づけるように上端及び下端のヤゲン位置を調整してもよい。ヤゲン位置YPn1、YPe2以外の他の2点の決め方は種々の方法がある。
【0054】
以上のように求めたヤゲン軌跡YC2によっても、
図8のように、レンズLEの光軸LOが装用者眼の視軸SOに同一方向(実質的に同一方向)にされる。これにより、レンズLEによって装用者眼の矯正がより適切に行われるようになる。
【0055】
なお、以上のように求めたヤゲン軌跡YC2は、必要に応じて前後移動(オフセット)させてもよい。例えば、リムFRの前側端に対するレンズ前屈折面の食み出し量又食い込み量が多くなっている場合にヤゲン軌跡YCを前後に移動する。
【0056】
例えば、
図10に示すように、リムFRのヤゲン溝位置(溝の底)VGtから前側端FRfまでの距離RfDがデータ取得ユニット10によって取得されていれば、レンズLEをリムFRに保持させたときに、リムFRの前側端FRfからレンズLEの前屈折面LEfの食み出し量(又は食い込み量)EXfが求められる。そして、食み出し量(又は食い込み量)EXfが所定の基準に近づくように(基準内に入るか、又はできるだけ基準に近づける)、ヤゲン軌跡YC2を前後に移動し、補正したヤゲン軌跡YC3(図示を略す)を求める。例えば、前側の食み出し量(又は食い込み量)EXfの所定の基準は、リムFRの前側端FRfとレンズ前屈折面LEfとの位置関係の見栄えが良好になるように設定された値である。
【0057】
また、逆に、リムFRの後側端FRrよりもレンズLEの後屈折面LErが後ろ側に位置し過ぎ、リムFRの後ろ側端FRrよりも後屈折面LErが食み出し過ぎのときは、後屈折面LErが所定の基準に近づくように(基準内に入るか、又はできるだけ基準に近づける)、ヤゲン軌跡YC2を後ろ側に移動して補正したヤゲン軌跡YC3(図示を略す)を求めることでもよい。リムFRの幅RD、又はリムFRのヤゲン溝位置VGtに対する後側端FRrまでの距離Rrdは、データ取得ユニット10によって取得される。後屈折面LErの位置は、レンズ形状測定ユニット200の測定結果から得られるので、後側端FRrからレンズLEの後屈折面LErの食み出し量EXrが求められる。
【0058】
また、ヤゲン軌跡YC2のヤゲンカーブが眼鏡フレーム(リム)のフレームカーブと異なり、レンズLEに形成されるヤゲンの山が部分的に大きく欠ける場合は、ヤゲン軌跡YC2を後ろ側に移動するように補正することでもよい。ヤゲンの幅は設計的に既知であるので、ヤゲンの山が欠ける程度は、レンズLEの前屈折面LEfに対するヤゲン軌跡YC2の位置関係で求められる。
【0059】
また、鼻側のヤゲン位置及び耳側のヤゲン位置は、コバに対するヤゲンの形成状態又はリムにレンズLE保持させたときの見栄えを考慮し、レンズ度数による装用者眼の矯正が確保される範囲(実質的に同一)であれば、それぞれ多少前後移動してもよい。
【0060】
以上のように、反り角αを考慮したヤゲン軌跡YC2(又は補正後のヤゲン軌跡YC3)の演算ができたら、レンズLEの加工段階に移行される。初めに、粗加工データに基づき、制御ユニット50によって移動ユニット300の駆動が制御され、レンズチャック軸102に保持されたレンズLEの周縁が粗加工具166によって粗加工される。例えば、粗加工データは玉型に対して所定の仕上げ代分だけ大きくされたデータとして求められる。次に、ヤゲン形成データ(ヤゲン軌跡)に基づき、制御ユニット50によって移動ユニット300の駆動が制御され、粗加工後のレンズLEの周縁が仕上げ加工具164によって加工され、レンズLEの周縁にヤゲンが形成される。
【0061】
上記では眼鏡フレームの反り角αを考慮したヤゲン設定を説明したが、必要であれば、眼鏡フレームの前傾角を考慮し、上下方向におけるレンズLEの光軸方向を装用者眼の視軸方向に同一にするヤゲン設定を行ってもよい。例えば、
図11に示すように、一般に、前傾角βは、垂直方向に対するリムFRの上側端FR3と下側端FR4を結ぶ線分方向の角度として定義されている。例えば、眼鏡フレームの前傾角βは、眼鏡フレームを装用した状態で装用者の顔の側面をカメラで撮影し、その撮影画像から得ることができる。前傾角βの値はデータ入力ユニット13によって入力されることにより、データ取得ユニット10に取得される。
【0062】
例えば、前傾角βを考慮したヤゲン軌跡の設定は、前述の
図6等の眼鏡フレームの反り角αを前傾角βに代え、
図6で示した玉型及びリムFRの左右方向を上下方向に置き換えて演算すればよい。すなわち、制御ユニット50は、レイアウトデータの玉型の幾何中心と眼鏡レンズの光学中心との位置関係と、眼鏡レンズのカーブ情報と、に基づいてヤゲン形成時の眼鏡レンズの光軸方向を求める。次に、制御ユニット50は、光軸方向と前傾角βとに基づき、玉型に対応した眼鏡レンズのコバ方向における上側のヤゲン位置と下側のヤゲン位置との位置関係を求めることで、眼鏡レンズの光軸方向を眼鏡装用時の上下方向における装用者眼の視軸方向と同一にするヤゲン形成データを演算する。
【0063】
なお、上下方向におけるレンズLEの光軸方向と装用者眼の視軸方向との同一性に関しては、前傾角βを考慮したヤゲン設定を必ずしも必要としないこともある。通常、人の普段の生活における常用視線の角度(水平方向に対する下方の傾き)は5~10度程度であり、眼鏡フレームの前傾角は通常の常用視線の角度に合わせて設計されている。また、眼鏡店では、眼鏡フレームのフィッテイング時に前傾角が装用者に合わせて調整される。このため、左右方向のように、ヤゲン加工によってレンズLEの光軸方向を装用者眼の視軸方向に同一とする必要性は少ない場合もある。
【0064】
なお、一般的に玉型(リムの形状)は、上下方向よりも左右方向が長い形状が多い。このため、マイナスレンズの場合、上下方向のコバ厚は左右方向のコバ厚よりも薄く、上下方向においては、コバ厚に収まるヤゲン位置が限定され、前傾角を考慮したヤゲン位置を配置できないことがある。この場合は、左右方向における前傾角を考慮したヤゲン形成で行えばよい。一方、プラスレンズの場合、左右方向のコバ厚は上下方向のコバ厚よりも薄く、左右方向においては、コバ厚に収まるヤゲン位置が限定され、反り角を考慮したヤゲン位置を配置できないことがある。この場合は、上下方向における前傾角を考慮したヤゲン形成で行えばよい。
【0065】
上記の説明では、レンズLEにヤゲンを形成する場合について説明したが、ハーフリムにナイロールでレンズLEを保持させるためにレンズLEに溝を形成する場合も、ヤゲン形成と同じ考え方が適用できる。この場合、上記実施例でのヤゲンに関する演算を溝に置き換えればよい。例えば、
図6に示された仮のヤゲン軌跡YC1及びYC2は溝軌跡に置き換えられ、鼻側のヤゲン位置YPn1は鼻側の溝位置に置き換えられ、耳側のヤゲン位置YP2eは耳側の溝位置に置き換えられる。また、
図9に示された上側のヤゲン位置LPu1も上側の溝位置に置き換えられる。
【0066】
以上、本開示の典型的な実施例を説明したが、本開示はここに示した実施例に限られず、本開示の技術思想を同一にする範囲において種々の変容が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 眼鏡レンズ加工装置
10 データ取得ユニット
13 データ入力ユニット
50 制御ユニット
100 レンズ保持ユニット
102 レンズチャック軸
150 加工具ユニット
168 加工具
200 レンズ形状測定ユニット
300 移動ユニット