(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】運転者状態検出装置
(51)【国際特許分類】
B60W 40/08 20120101AFI20240723BHJP
【FI】
B60W40/08
(21)【出願番号】P 2020065821
(22)【出願日】2020-04-01
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100123630
【氏名又は名称】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】桑原 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩下 洋平
(72)【発明者】
【氏名】青木 壮椰
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-044707(JP,A)
【文献】特開2017-206039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00- 1/16
B60T 7/12- 8/1769
B60T 8/32- 8/96
B62D 6/00- 6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の状態を検出する運転者状態検出装置であって、
運転者の運転操作及び/又は自車両の走行状態を検出する自車挙動センサと、
この自車挙動センサによる検出値に基づいて、運転者がリスクを予測した運転をしているか否かを判定するリスク予測判定部と、
このリスク予測判定部により、運転者がリスクを予測した運転をしていないと判定された場合に、運転者が機能低下状態にあると判定する機能低下判定部と、
運転者状態判定部と、を有し、
上記運転者状態判定部は、上記機能低下判定部により、運転者が機能低下状態にあると第1の判定が為された後、上記リスク予測判定部が、再び、運転者がリスクを予測した運転をしていないと第2の判定をした場合において、上記第2の判定が上記第1の判定から第1所定時間以内に為された場合には運転者に疾患があると判定する一方、上記第2の判定が上記第1の判定から上記第1所定時間経過後に為された場合には運転者に疾患があるとは判定しないことを特徴とする運転者状態検出装置。
【請求項2】
さらに、自車両の走行経路の近傍に存在する静止物を検出する静止物検出センサを有し、上記リスク予測判定部は、上記静止物検出センサによって検出された静止物の向こう側から、自車両の走行経路上に進出してくる仮想物体と、自車両が干渉するリスクを算出するリスク予測評価モデルを使用して、運転者がリスクを予測した運転をしているか否かを判定する請求項1記載の運転者状態検出装置。
【請求項3】
上記運転者状態判定部は、上記機能低下判定部により、運転者が機能低下状態にあると第1の判定が為された後、上記リスク予測判定部が、再び、運転者がリスクを予測した運転をしていないと第2の判定をした場合において、上記第2の判定が上記第1の判定から上記第1所定時間経過後に為された場合には運転者は漫然状態にあると判定し、
さらに、運転者支援装置を有し、この運転者支援装置は、上記運転者状態判定部により、運転者に疾患があると判定された場合と、運転者は漫然状態にあると判定された場合で、異なる運転者支援を提供する請求項1又は2に記載の運転者状態検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者状態検出装置に関し、特に、運転者の状態を検出する運転者状態検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2012-234291号公報(特許文献1)には、車両のドライバが意識低下状態にあるか否かを判定するドライバ状態判定装置が記載されている。このドライバ状態判定装置では、車両が車両の前方に位置する先行車に接近しているか否かを判定し、車両のドライバが無操作状態であるか否かを判定し、車両のドライバが過去所定時間内に運転操作をしたか否かを判定し、車両が先行車と接近していると判定され、ドライバが無操作状態であると判定され、かつ、ドライバが過去所定時間内に運転操作をしていないと判定された場合に、ドライバが意識低下状態であると判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載のドライバ状態判定装置では、運転者が無操作状態にあることを異常判定の条件としているため、運転者が或る程度重篤な機能低下状態に陥らない限り、異常が判定されず、運転者の異常に起因する事故等の抑止効果も限定的なものとなってしまう。例えば、運転者が軽い脳卒中を患っている状態であっても、運転者は車両の操舵や、加減速等の最低限の運転操作を行うことが可能である。このため、軽い脳卒中等により、注意障害や、遂行機能障害のある運転者を、特許文献1記載のドライバ状態判定装置等の、従来の判定装置では、異常判定することが難しいという問題がある。
【0005】
ところで、軽い脳卒中等により、運転者が注意障害や、遂行機能障害等の軽度の機能低下状態にある場合には、脳の高次機能を発揮した運転が難しくなる。健常な運転者は、自車両の走行経路上に歩行者等が突然現れる等のリスクを予測し、予測したリスクに基づいて車両の速度を低下させるなど衝突してしまうリスクを未然に回避している。これに対し、軽い脳卒中等により軽度の機能低下状態に陥った運転者では、このような脳の高次機能を発揮した運転を行うことが難しくなる。
【0006】
しかしながら、このような脳の高次機能の低下は、運転者に疾患がある場合ばかりでなく、極度の疲労等により運転者が漫然状態にある場合にも見られることが、本件発明者により見出された。脳の高次機能が低下した状態にある運転者に対しては、如何なる原因によるものであっても支援を行う必要があるが、漫然状態にある運転者と、疾患のある運転者では、必要な支援が異なるものとなる。
【0007】
従って、本発明は、軽度の機能低下状態に陥っている運転者の異常を、早期に発見することができると共に、運転者の疾患を漫然状態から区別することができる運転者状態検出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明は、運転者の状態を検出する運転者状態検出装置であって、運転者の運転操作及び/又は自車両の走行状態を検出する自車挙動センサと、この自車挙動センサによる検出値に基づいて、運転者がリスクを予測した運転をしているか否かを判定するリスク予測判定部と、このリスク予測判定部により、運転者がリスクを予測した運転をしていないと判定された場合に、運転者が機能低下状態にあると判定する機能低下判定部と、運転者状態判定部と、を有し、運転者状態判定部は、機能低下判定部により、運転者が機能低下状態にあると第1の判定が為された後、リスク予測判定部が、再び、運転者がリスクを予測した運転をしていないと第2の判定をした場合において、第2の判定が第1の判定から第1所定時間以内に為された場合には運転者に疾患があると判定する一方、第2の判定が第1の判定から第1所定時間経過後に為された場合には運転者に疾患があるとは判定しないことを特徴とする運転者状態検出装置。
【0009】
このように構成された本発明においては、リスク予測判定部が、運転者の運転操作及び/又は自車両の走行状態を検出する自車挙動センサによる検出値に基づいて、運転者がリスクを予測した運転をしているか否かを判定する。機能低下判定部は、運転者がリスクを予測した運転をしていないと判定された場合に、まず、運転者が機能低下状態にあると判定する。運転者状態判定部は、運転者が機能低下状態にあると判定された後、所定時間以内に、リスク予測判定部が、再び、運転者がリスクを予測した運転をしていないと判定した場合に、運転者に疾患があると判定する。また、運転者状態判定部は、運転者が機能低下状態にあると判定された後、所定時間以内に、リスク予測判定部が、運転者はリスクを予測した運転をしていると判定し場合には、運転者は漫然状態にあると判定する。
【0010】
軽度の機能低下状態に陥っている運転者の異常を早期に発見すべく、脳の高次機能を発揮した運転が為されているか否かを検出すると、運転者が特別な疾患ではなく、極度の疲労等により漫然と運転を行っている状態についても疾患であると誤判定してしまう場合がある。このように、運転者が漫然としている状態と、疾患による軽度の機能低下状態を区別することは困難である。即ち、運転者の異常を早期に発見すべく、運転において脳の高次機能が発揮されているか否かを判定すると、漫然状態を疾患と誤認してしまう可能性があるという、新たな技術課題が本件発明者によって見出された。この新たな技術課題に対し、本件発明者は、漫然状態にある運転者では、事故に至るリスクのある運転をした後、所定時間の間は、脳の高次機能を発揮した運転を行っているという新たな知見を得た。これに対し、疾患により機能低下状態に陥っている運転者では、事故に至るリスクのある運転が短時間の間に繰り返されていることが見出された。上記のように構成された本発明によれば、運転者が機能低下状態にあると判定された後、所定時間以内に、リスク予測判定部が、再び、運転者がリスクを予測した運転をしていないと判定した場合に、運転者に疾患があると判定している。また、運転者が機能低下状態にあると判定された後、所定時間以内に、リスク予測判定部が、運転者はリスクを予測した運転をしていると判定し場合には、運転者は漫然状態にあると判定している。このため、運転者の軽度の機能低下状態の発見を可能にしながら、運転者の疾患を、漫然状態と区別することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、さらに、自車両の走行経路の近傍に存在する静止物を検出する静止物検出センサを有し、リスク予測判定部は、静止物検出センサによって検出された静止物の向こう側から、自車両の走行経路上に進出してくる仮想物体と、自車両が干渉するリスクを算出するリスク予測評価モデルを使用して、運転者がリスクを予測した運転をしているか否かを判定する。
【0012】
このように構成された本発明によれば、静止物の向こう側から走行経路上に進出してくる仮想物体と自車両が干渉するリスクを算出することにより、運転者がリスクを予測した運転をしているか否かを判定するので、運転者が脳の高次機能を発揮した運転を行っているか否かを正確に判定することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、運転者状態判定部は、機能低下判定部により、運転者が機能低下状態にあると第1の判定が為された後、リスク予測判定部が、再び、運転者がリスクを予測した運転をしていないと第2の判定をした場合において、第2の判定が第1の判定から第1所定時間経過後に為された場合には運転者は漫然状態にあると判定し、さらに、運転者支援装置を有し、この運転者支援装置は、運転者状態判定部により、運転者に疾患があると判定された場合と、運転者は漫然状態にあると判定された場合で、異なる運転者支援を提供する。
【0014】
このように構成された本発明によれば、運転者に疾患があると判定された場合と、運転者は漫然状態にあると判定された場合で、異なる運転者支援が提供されるので、提供された運転支援により運転者に違和感を与えるのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の運転者状態検出装置によれば、軽度の機能低下状態に陥っている運転者の異常を、早期に発見することができると共に、運転者の疾患を漫然状態から区別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態による運転者状態検出装置の全体構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態による運転者状態検出装置において、リスク評価指標の算出に使用されるリスク予測評価モデルを説明するための図である。
【
図3】本発明の実施形態による運転者状態検出装置において、リスク評価指標の算出に使用されるリスク予測評価モデルを説明するための図である。
【
図4】本発明の実施形態による運転者状態検出装置において、リスク評価指標の算出に使用されるリスク予測評価モデルを説明するための図である。
【
図5】リスク評価指標の値が所定の閾値以上となる領域の一例を、車速、進行方向距離、横方向距離をパラメータとして表した三次元グラフである。
【
図6】健常者及び軽度の機能低下状態にある患者が車両を運転し、駐車車両を追い越したときの横方向距離の一例を示すグラフである。
【
図7】健常者及び軽度の機能低下状態にある患者が車両を運転し、駐車車両を追い越したときの自車両の速度の一例を示すグラフである。
【
図8】
図6及び
図7に示した走行について算出されたリスク評価指標の値の一例を示すグラフである。
【
図9】患者が運転する車両の走行によりリスク評価指標が最大になった時点における健常者及び患者が夫々運転している自車両の状態を示す表である。
【
図10】本発明の実施形態による運転者状態検出装置の作用を示すフローチャートである。
【
図11】本発明の実施形態による運転者状態検出装置の作用を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、添付図面を参照して、本発明の実施形態による運転者状態検出装置を説明する。
図1は、本発明の実施形態による運転者状態検出装置の全体構成を示すブロック図である。
図2乃至
図4は、本発明の実施形態による運転者状態検出装置において、リスク評価指標の算出に使用されるリスク予測評価モデルを説明するための図である。
【0018】
図1に示すように、本発明の実施形態による運転者状態検出装置1は、静止物検出センサである車外カメラ2及びレーダ4と、自車挙動センサである車速センサ6と、これらのセンサからの検出信号が入力される電子制御ユニット(ECU)10と、電子制御ユニット10からの指令信号に基づいて作動する運転者支援装置である警報装置12及び自動運転制御部14と、を有する。
【0019】
車外カメラ2は、自車両前方の走行経路を撮影するように、車両に取り付けられたカメラである。この車外カメラ2によって撮影された画像は、順次電子制御ユニット10に送られ、そこで画像解析され、自車両前方の走行経路の近傍に存在する駐車車両等の静止物が検出される。従って、車外カメラ2は、自車両前方の走行経路の近傍に存在する静止物を検出する静止物検出センサとして機能する。また、画像解析により駐車車両等の静止物が検出された場合には、車外カメラ2によって取得された画像を解析することにより、自車両と静止物との間の横方向距離(車両の左右方向の距離)が計算される。
【0020】
レーダ4は、自車両の前方に向けてマイクロ波等の電磁波を射出すると共に、自車両前方に存在する物体により反射された電磁波を検出することにより、先行車両や、自車両前方の走行経路の近傍に存在する駐車車両等の静止物を検出するように構成されている。レーダ4の検出信号は、電子制御ユニット10に送られ、そこで、自車両から先行車両や、静止物までの距離、相対速度等を算出するように構成されている。また、レーダ4を、自車両前方の走行経路の近傍に存在する静止物を検出するセンサとして使用することもできる。この場合には、レーダ4は、静止物検出センサとしても機能する。静止物検出センサとしては、1又は複数の任意のセンサを使用することができる。また、本実施形態においては、電磁波を使用したレーダ4が使用されているが、これに代えて、又はこれと共に、超音波を使用した超音波センサを使用することもできる。
【0021】
車速センサ6は、自車両の走行速度を検出するように構成されている。従って、車速センサ6は、自車両の走行状態を検出する自車挙動センサとして機能する。車速センサ6として、任意のセンサを使用することができる。また、レーダ4の検出信号に基づいて自車両の走行状態を算出することもできる。この場合には、レーダ4は、自車挙動センサとしても機能する。自車挙動センサとしては、1又は複数の任意のセンサを使用することができる。
【0022】
電子制御ユニット10は、車両に搭載されたマイクロプロセッサ、メモリ、インターフェイス回路、これらを作動させるソフトウェア等(以上、図示せず)により構成されている。本実施形態の運転者状態検出装置1においては、電子制御ユニット10に備えられたマイクロプロセッサ、メモリ、インターフェイス回路、及びソフトウェアにより、リスク予測判定部10a、機能低下判定部10b、及び運転者状態判定部10cの機能が実現される。
【0023】
リスク予測判定部10aは、車速センサ6等による検出値に基づいて、運転者がリスクを予測した運転をしているか否かを判定するように構成されている。また、リスク予測判定部10aは、車外カメラ2によって検出された駐車車両の向こう側から、自車両の走行経路上に進出してくる歩行者と自車両が干渉するリスクを算出するためのリスク予測評価モデルを備えている。また、リスク予測判定部10aは、車速センサ6によって検出された運転者の運転操作や、自車両の走行状態を、リスク予測評価モデルに適用することによりリスク評価指標を算出するリスク評価指標算出部(図示せず)の機能を有する。
【0024】
機能低下判定部10bは、リスク予測判定部10aにより、運転者がリスクを予測した運転をしていないと判定された場合に、運転者が機能低下状態にあると判定するように構成されている。この機能低下判定部10bは、リスク予測判定部10aにより算出されたリスク評価指標と、所定の閾値を比較して運転者の異常の有無を判定する異常判定部(図示せず)の機能を有する。さらに、運転者状態判定部10cは、機能低下判定部10bにより運転者が機能低下状態にあると判定された後、所定時間以内に、リスク予測判定部10aが、再び、運転者がリスクを予測した運転をしていないと判定した場合に、運転者に疾患があると判定するように構成されている。リスク予測判定部10a、機能低下判定部10b、及び運転者状態判定部10cによる処理の詳細については後述する。
【0025】
警報装置12は、電子制御ユニット10の機能低下判定部10b又は運転者状態判定部10cによって、運転者が漫然状態であると判定された場合や、運転者に疾病があると判定された場合に、警報音声及び/又は表示により、運転者に報知するように構成されている。例えば、漫然状態や、疾病が検出された旨のメッセージを音声で報知するスピーカ(図示せず)や、それらを表示するディスプレイ(図示せず)を、警報装置12として使用することができる。
【0026】
自動運転制御部14は、電子制御ユニット10の運転者状態判定部10cによって、運転者に疾病があると判定された場合に、自動運転により自車両を安全な場所に停車させるように構成されている。即ち、自動運転制御部14は、車両の操舵装置、エンジン制御装置、アクセル制御装置、ブレーキ制御装置等(以上、図示せず)に制御信号を送り、自車両を自動運転するように構成されている。なお、自動運転制御部14は、電子制御ユニット10に備えられたマイクロプロセッサ等(図示せず)により実現されても良く、或いは、電子制御ユニット10とは別の装置により実現されても良い。
【0027】
次に、
図2乃至
図4を参照して、電子制御ユニット10のリスク予測判定部10aに備えられているリスク予測評価モデルを説明する。
図2は、自車両前方の駐車車両の向こう側から、自車両の走行経路上に進出してくる歩行者と、自車両が干渉するリスクに寄与すると考えられるパラメータを示す図である。
【0028】
まず、自車両前方の駐車車両の向こう側から、自車両の走行経路上に進出してくる歩行者と、自車両が干渉するリスクに寄与すると考えられるパラメータを検討する。
図2に示すように、このリスクに関係するパラメータとしては、自車両の速度V、自車両と駐車車両との間の車両の進行方向の距離d
long(前後距離)、自車両と駐車車両との間の横方向距離d
lat(左右距離)、車両の質量mが挙げられる。なお、本実施形態においては、進行方向の距離d
longとして、自車両の中心点から駐車車両の中心点までの前後方向の距離を採用しているが、自車両の先端から駐車車両の後端までの距離等、種々の距離を距離d
longとして設定することができる。また、本実施形態においては、横方向距離d
latとして、自車両の中心点から駐車車両の中心点までの左右方向の距離を採用しているが、自車両の駐車車両側の端から、駐車車両の自車両側の端までの距離等、種々の距離を距離d
latとして設定することができる。
【0029】
まず、自車両と駐車車両の進行方向の距離dlongが長い状態では、駐車車両の向こう側から歩行者が進出してきたとしても、自車両を減速して自車両と歩行者の干渉を容易に回避することができる。従って、通常、距離dlongが長いほど自車両と歩行者が干渉するリスクは低く、距離dlongが近くなるにつれてリスクが上昇すると考えられる。しかしながら、自車両と駐車車両の進行方向の距離dlongが極めて短くなった状態では、駐車車両の向こう側から歩行者が進出してきたとしても、歩行者が自車両の走行経路上に到達する前に、自車両は駐車車両を通り過ぎてしまう。このため、進行方向の距離dlongが極めて短くなった状態では、自車両と歩行者が干渉するリスクは低くなる。
【0030】
また、自車両の速度Vが低い状態では、駐車車両の向こう側から進出してくる歩行者を認識した後、容易に自車両を停止させることができる。従って、自車両の速度Vが低いほど自車両と歩行者が干渉するリスクは低く、自車両の速度Vが高くなるにつれてリスクが上昇すると考えられる。
同様に、自車両の質量mが小さい場合には、歩行者を認識した後、自車両を停止させるために必要な距離が短くなる。このため、自車両の質量mは小さいほど自車両と歩行者が干渉するリスクは低く、自車両の質量mが大きくなるにつれてリスクが上昇すると考えられる。
【0031】
さらに、自車両と駐車車両の横方向距離dlatが長い状態では、駐車車両の向こう側から進出してくる歩行者を認識した後、歩行者が自車両の走行経路上に到達するまでの時間が長くなる。このため、自車両と駐車車両の横方向距離dlatが長い場合には、運転者は、歩行者が自車両の走行経路上に到達するまでに容易に自車両を停止させることができる。また、自車両と駐車車両の横方向距離dlatが長い場合には、自車両と駐車車両の進行方向の距離dlongが長い段階(駐車車両が遠い段階)で歩行者を認識することが可能になる。このため、距離dlatが長いほど自車両と歩行者が干渉するリスクは低く、距離dlatが短くなるにつれてリスクが上昇すると考えられる。
【0032】
以上のパラメータを考慮して、本実施形態の運転者状態検出装置1では、数式(1)に示すリスク予測評価モデルが使用されている。
数式(1)において、R
pedは、リスク予測評価モデルによって算出されるリスク評価指標を表している。数式(1)において、自車両の走行速度をV、自車両の質量をm、自車両と駐車車両の進行方向の距離をd
long、自車両と駐車車両の横方向距離をd
latとしている。また、数式(1)におけるVcは、運転者が歩行者を発見した後、所定の減速度で自車両を減速させた場合に、歩行者と自車両の干渉が発生する仮想的な干渉点における自車両の車速を表している。さらに、Fは干渉発生フラグを表し、歩行者と自車両の干渉が発生する場合に「1」となり、干渉が発生しない場合には「0」となる。
【0033】
次に、干渉点における速度Vc、及び干渉発生フラグFについて、
図3及び
図4を参照して詳細に説明する。
図3は、運転者が、駐車車両の向こう側から走行経路上に進出してくる歩行者を認識した瞬間の状態を模式的に示す図である。
図4は、
図3において歩行者を認識した運転者が、自車両を減速させ、減速した車両が、自車両と歩行者の干渉が発生する仮想的な干渉点まで走行した状態を模式的に示す図である。
【0034】
まず、
図3に示す瞬間において、自車両Sの運転者Dは、駐車車両Pの向こう側から自車両Sの走行経路上に進出しようとしている歩行者Wが視界に入る。この瞬間における自車両Sの速度が数式(1)における車速Vであり、自車両Sと駐車車両Pの進行方向の距離がd
long、横方向距離がd
latである。
図3に示す瞬間において、運転者Dはブレーキをかけて所定の減速度αで減速を開始し、その後、
図4に示すように、歩行者Wと自車両Sの干渉が発生する仮想的な干渉点Cまで自車両Sが走行する。一方、歩行者Wは、
図3に示す瞬間から所定の速度vで自車両Sの走行経路に向けて進出する。このように、自車両Sが干渉点Cまで走行した
図4に示す時点における自車両Sの速度が、数式(1)における、干渉点Cにおける速度Vcである。
【0035】
従って、速度Vcは、
図3の瞬間における自車両Sの速度V、及び横方向距離d
latの関数となる。また、数式(1)の分子は、干渉点Cにおける速度Vcの2乗に、自車両Sの質量m及び1/2を乗じた値であるため、
図4に示す時点における自車両Sのもつ運動エネルギーを表している。このため、数式(1)に示すリスク予測評価モデルにより算出されるリスク評価指標R
pedの値は、干渉点Cにおいて自車両Sがもっている運動エネルギーに比例する。また、数式(1)の分母は、進行方向距離d
longの2乗で計算されるため、リスク評価指標R
pedの値は自車両Sと駐車車両Pとの間の車両の進行方向の距離d
longの2乗に反比例する。
【0036】
一方、
図3に示す瞬間における自車両Sの速度が低い場合には、
図3に示す瞬間から所定の減速度αで減速を開始することにより、仮想的な干渉点Cに到達する前に自車両Sは停止することができるため、歩行者Wと自車両Sの干渉は発生しない。また、自車両Sの速度Vに対して、横方向距離d
latが長い場合には、自車両Sが干渉点Cに到達した時点では、歩行者Wはまだ干渉点Cに到達しないため、この場合も歩行者Wと自車両Sの干渉は発生しない。このように、歩行者Wと自車両Sの干渉が発生し得ない場合には干渉発生フラグFが「0」に設定されるため、数式(1)の分子はゼロとなり、数式(1)によって計算されるリスク評価指標R
pedもゼロとなる。
【0037】
健常な運転者は、脳の高次機能を発揮した運転を行うことにより、数式(1)に示すリスク予測評価モデルによって算出されるリスク評価指標Rpedの値が、常に所定の閾値以下となるように運転を行っているものと考えられる。これに対し、軽度の脳卒中等の疾病や、疲労等による漫然状態により機能低下に陥っている運転者は、脳の高次機能を発揮した運転を行うことが困難であるため、運転中にリスク評価指標Rpedの値が所定の閾値よりも大きくなる場合がある。なお、駐車車両の向こう側に常に歩行者が存在することはなく、また、歩行者が存在したとしても、歩行者は通常、自車両を認識して走行経路上に進出してくることはない。このため、リスク評価指標Rpedの値が閾値以上となったとしても、実際に歩行者と自車両の干渉が発生することは極めて希である。
【0038】
図5は、リスク評価指標R
pedの値が所定の閾値以上となる領域の一例を、車速V、進行方向距離d
long、横方向距離d
latをパラメータとして表した三次元グラフである。
図5において、縦軸が車速V、横軸が横方向距離d
lat、奥行き方向の軸が進行方向距離d
longを夫々表しており、グラフの曲面の上側が、リスク評価指標R
pedの値が所定の閾値以上となる領域になる。
【0039】
図5に示すように、車速Vが極めて低い領域では、リスク評価指標R
pedの値が所定の閾値以上となることはなく、車速Vが高くなるにつれてリスク評価指標R
pedが閾値以上となる領域が広くなる。また、横方向距離d
latは、距離が短いほどリスク評価指標R
pedが閾値以上となる領域が広くなり、所定の値以上ではリスク評価指標R
pedが閾値以上となることはない。さらに、進行方向距離d
longは、距離が長いほどリスク評価指標R
pedが閾値以上となる領域が狭くなるが、また、距離が短い領域でも閾値以上となる領域が狭くなっている。これは、歩行者が干渉点Cに到達する前に、自車両が干渉点Cを通り過ぎてしまうためである。
【0040】
次に、
図6乃至
図9を参照して、実際の走行において算出されたリスク評価指標R
pedの一例を説明する。
図6は、健常者及び軽度の機能低下状態にある患者が車両を運転し、駐車車両を追い越したときの横方向距離の一例を示すグラフである。
図7は、健常者及び軽度の機能低下状態にある患者が車両を運転し、駐車車両を追い越したときの自車両の速度の一例を示すグラフである。
図8は、
図6及び
図7に示した走行について算出されたリスク評価指標R
pedの値の一例を示すグラフである。
【0041】
図6において、横軸は自車両と駐車車両の進行方向距離d
longを示しており、進行方向距離d
long=0[m]が、自車両が干渉点Cに到達した時点に相当する。また、
図6の縦軸は自車両と駐車車両の横方向距離d
latを示している。
図6に示すように、実線で示す健常者1、及び破線で示す健常者2は、駐車車両に近づくと、自車両と駐車車両の間の横方向距離d
latを長く取り、駐車車両から離れた位置で駐車車両を追い越している。これに対し、
図6に一点鎖線で示す軽度の機能低下状態にある患者では、全体に自車両と駐車車両の横方向距離d
latが短く、駐車車両の近くを通り過ぎている。また、患者では、駐車車両に近づく際、横方向距離d
latにふらつきがみられる。
【0042】
図7は、
図6に示した走行における自車両の速度V[km/h]を縦軸に示しており、横軸は自車両と駐車車両の進行方向距離d
longを示している。
図7に示すように、実線で示す健常者1、及び破線で示す健常者2は、比較的速い車速Vで駐車車両を追い越している。これに対し、一点鎖線で示す患者では、健常者1、健常者2に比べ、低い速度で駐車車両を追い越している。
【0043】
図8は、
図6及び
図7に示した走行に対して計算されたリスク評価指標R
pedの値を縦軸に示し、横軸は自車両と駐車車両の進行方向距離d
longを示している。即ち、
図6及び
図7に示した進行方向距離d
long、横方向距離d
lat、車速Vを数式(1)に示すリスク予測評価モデルに適用して算出されたリスク評価指標R
pedの値を示している(ただし、質量mは所定の定数)。
図8に示すように、実線で示す健常者1、及び破線で示す健常者2では、進行方向距離d
longが長い(駐車車両から遠い)段階で僅かにリスク評価指標R
pedが値を有するものの、駐車車両から30m以内に接近すると、リスク評価指標R
pedの値は常に0になっている。これは、駐車車両から十分な横方向距離d
latを確保した上で駐車車両を追い越しているためである。
【0044】
これに対し、
図8に一点鎖線で示す患者では、駐車車両に近づくにつれてリスク評価指標R
pedが急上昇しており、進行方向距離d
long約16mにおいてピークに達し、事故に至るリスクが増大している。なお、進行方向距離d
long約10m以下の領域においてリスク評価指標R
pedがゼロになっているのは、自車両と駐車車両との距離が近く、最早歩行者が自車両の走行経路まで到達することがなく干渉が発生しない(干渉発生フラグF=0)ためである。
【0045】
図9は、患者が運転する車両の走行によりリスク評価指標R
pedが最大になった時点における健常者1、2、及び患者が夫々運転している自車両の状態を示す表である。
図9に示すように、患者が運転する車両は、駐車車両に対し進行方向距離d
long=16m、横方向距離d
lat=2.5mの地点を、速度21km/hで通過している。この時点において、リスク予測評価モデルを使用して算出されたリスク評価指標R
pedは21225に達している。これに対し、健常者1は駐車車両に対し進行方向距離d
long=16mの地点を、横方向距離d
lat=6.5m、速度32km/hで通過しており、リスク評価指標R
pedは0である。また、健常者2は駐車車両に対し進行方向距離d
long=16mの地点を、横方向距離d
lat=5.5m、速度44km/hで通過しており、リスク評価指標R
pedは0である。
【0046】
このように、軽度の機能低下状態に陥った患者では、脳の高次機能を発揮した運転ができず、駐車車両を追い越す際にリスク評価指標Rpedが増大する。換言すれば、数式(1)に示すリスク予測評価モデルを使用してリスク評価指標Rpedを算出することにより、運転者が脳の高次機能を発揮した運転をしているか否かを判定することができ、軽い脳卒中等による軽度の機能低下状態を早期に発見することが可能になる。
【0047】
次に、
図1、
図10及び
図11を参照して、本発明の実施形態による運転者状態検出装置1の作用を説明する。
図10及び
図11は、本発明の実施形態による運転者状態検出装置の作用を示すフローチャートである。
図10に示すフローチャートは、本実施形態の運転者状態検出装置1を搭載した車両の走行中、所定の時間間隔で繰り返し実行される。
図11に示すフローチャートは、
図10のフローチャートにおいて運転者が機能低下状態であると判定された後で実行されるフローチャートである。
【0048】
まず、
図10のステップS1においては、車外カメラ2及びレーダ4(
図1)から、検出信号が電子制御ユニット10に入力される。さらに、ステップS1において、電子制御ユニット10は、車外カメラ2から入力された画像の解析、及びレーダ4からの入力信号に基づいて、自車両前方の走行経路の近傍(道路の路肩等)に存在する駐車車両等の静止物を検出する。なお、走行経路の近傍とは、歩行者等が側方から自車両の走行経路上に進出してくる可能性がある所定の範囲を意味する。
【0049】
次に、ステップS2においては、自車両前方の走行経路の近傍に駐車車両等の静止物が検出されたか否かが判断される。駐車車両等の静止物が検出された場合にはステップS3に進み、検出されていない場合には、
図10に示すフローチャートの1回の処理を終了する。
【0050】
ステップS3においては、電子制御ユニット10に入力された各センサからの入力信号に基づいて、自車両の速度V、自車両から駐車車両までの進行方向距離dlong、自車両と駐車車両の間の横方向距離dlatを取得、又は算出する。なお、自車両の速度Vは、自車両の走行状態を直接検出する車速センサ6によって取得することもできるが、例えば、アクセルペダル(図示せず)の踏み込み量等の、運転者の運転操作を検出するセンサの検出値等を使用して算出することもできる。同様に、進行方向距離dlong、横方向距離dlatについても、車外カメラ2によって取得された画像の他、運転者の運転操作を検出するセンサの検出値等を使用して算出することもできる。従って、運転者の運転操作を検出するセンサや、自車両の走行状態を検出するセンサは、自車両の挙動(速度V、進行方向距離dlong、横方向距離dlat等)を検出する自車挙動センサとして機能させることができる。
【0051】
次に、ステップS4においては、数式(1)に示すリスク予測評価モデルに基づいて、電子制御ユニット10に備えられたリスク予測判定部10a(
図1)により、リスク評価指標R
pedが算出される。即ち、リスク予測判定部10aは、車外カメラ2によって検出された駐車車両等の向こう側から、自車両の走行経路上に進出してくる歩行者等と、自車両が干渉するリスクを算出する。即ち、ステップS3において求められた自車両の走行状態である自車両の速度V、進行方向距離d
long、及び横方向距離d
latが、数式(1)に示すリスク予測評価モデルに適用され、リスク評価指標R
pedが算出される。なお、自車両の質量mとして、リスク予測判定部10aに予め記憶されている所定の値が計算に使用される。
【0052】
さらに、ステップS5においては、電子制御ユニット10に備えられた機能低下判定部10b(
図1)により、ステップS4において算出されたリスク評価指標R
pedと所定の閾値が比較される。ステップS5において、リスク評価指標R
pedが所定の閾値未満である場合には、ステップS6において運転者は正常(健常者)であると判断され、
図10に示すフローチャートの1回の処理を終了する。一方、ステップS5において、リスク評価指標R
pedが所定の閾値以上である場合には、ステップS7において運転者は軽度の機能低下状態であると判断され、ステップS8に進む。即ち、ステップS7においては、運転者が疾病、又は漫然状態の何れかであると判断される。
【0053】
ステップS8においては、次回実行されるフローチャートが、
図11に示すフローチャートに変更される。即ち、ステップS7において、運転者が軽度の機能低下状態にあると判断されると、次回は、
図10に示すフローチャートに代えて、
図11に示すフローチャートが実行される。
【0054】
まず、
図11に示すフローチャートのステップS10においては、
図10のフローチャートのステップS7において運転者が機能低下状態にあると判断された後、第1所定時間が経過したか否かが判断される。第1所定時間が経過している場合にはステップS20へ進み、第1所定時間が経過していない場合にはステップS11以下の処理が実行される。本実施形態においては、第1所定時間として、10[Sec]が設定されている。
【0055】
図11に示すフローチャートのステップS11~S15における処理は、
図10に示すフローチャートのステップS1~S5における処理と同一であるため説明を省略する。また、
図11に示すフローチャートのステップS12において、駐車車両が存在しないと判断された場合には、
図11に示すフローチャートの1回の処理を終了する。このため、
図10に示すフローチャートのステップS7において運転者が機能低下状態にあると判断された後、自車両の前方に駐車車両が存在しない場合には、
図11のステップS10→S11→S12→RETURNの処理が、第1所定時間が経過するまで繰り返し実行される。
【0056】
一方、
図10に示すフローチャートのステップS7において運転者が機能低下状態にあると判断された後、第1所定時間が経過する前に、駐車車両が存在すると判断された場合には、
図11のステップS12の後、ステップS13~S15が実行される。ステップS15においては、電子制御ユニット10に備えられたリスク予測判定部10a(
図1)により、ステップS14において算出されたリスク評価指標R
pedと所定の閾値が比較される。ステップS15において、リスク評価指標R
pedが所定の閾値未満である場合には、ステップS16において、運転者状態判定部10cにより、運転者は機能低下状態ではあるが、疾病ではなく、漫然状態であると判断される。
【0057】
このように、
図10に示すフローチャートのステップS7において、一旦運転者が機能低下状態にあると判断された場合であっても、その後、第1所定時間が経過する前に脳の高次機能を発揮した運転(リスク評価指標R
pedが所定の閾値未満となる運転)が行われているため、運転者は漫然状態であると判断される。即ち、運転者が漫然状態にある場合には、1回リスクのある走行をする(
図10のステップS7)と、その直後の10秒程度は緊張感が高まり、脳の高次機能を発揮した運転ができるようになる。このため、1回リスクのある走行(リスク評価指標R
pedが所定の閾値以上となる運転)が行われたとしても、その直後に脳の高次機能を発揮した運転ができていれば、運転者は漫然状態であると判断することができる。
【0058】
次いで、ステップS17においては、電子制御ユニット10は警報装置12(
図1)に信号を送り、漫然状態になっている旨を運転者に報知して、
図11に示すフローチャートの1回の処理を終了する。具体的には、リスクのある運転が行われたので、注意して運転するよう促すメッセージや、自車両を安全な場所に停車させ、休息を取るよう促すメッセージを、スピーカや表示装置(以上、図示せず)により運転者に報知する。なお、ステップS17における処理が行われた後は、再び
図10に示すフローチャートが実行される。
【0059】
一方、
図11のステップS15において、リスク予測判定部10a(
図1)により、リスク評価指標R
pedと所定の閾値が比較され、所定の閾値以上であると判断された場合には、ステップS18において、運転者状態判定部10cにより、運転者には疾病の疑いがあると判断される。このように、
図10に示すフローチャートのステップS7において、運転者が機能低下状態にあると判断された後、第1所定時間以内に、リスク予測判定部10aが、再び、運転者がリスクを予測した運転をしていないと判定した場合に、運転者状態判定部10cは、運転者に疾患があると判定する。即ち、運転者が1回リスクのある走行をする(
図10のステップS7)と、漫然状態の運転者であれば、その直後の10秒程度は緊張感が高まり、脳の高次機能を発揮した運転(リスク評価指標R
pedが所定の閾値未満の運転)ができると考えられる。これに対し、疾患のある運転者では、リスクのある走行をしてしまったことに気づかず、その直後にもリスクのある運転(リスク評価指標R
pedが所定の閾値以上の運転)が繰り返えされるものと考えられる。
【0060】
次いで、ステップS19において、電子制御ユニット10は自動運転制御部14(
図1)に信号を送り、自動運転により自車両を安全な場所に停車させる。また、スピーカからの音声及びディスプレイの表示により、運転者が軽度の機能低下状態に陥っている虞があるため、自車両が自動運転に切り替えられた旨が報知され、
図11に示すフローチャートの処理を終了する。このように、本実施形態の運転者状態検出装置1によれば、ステップS18において運転者に疾患があると判定された場合と、ステップS16において運転者は漫然状態にあると判定された場合で、異なる運転者支援が提供される。このため、運転者が漫然状態にあるとき、不意に自動運転に移行され、運転者に違和感を与えるのを抑制することができる。
【0061】
一方、
図10に示すフローチャートのステップS7において、運転者が機能低下状態にあると判断された後、自車両の走行経路の前方に駐車車両が存在しない状態が継続し、第1所定時間経過すると、
図11に示すフローチャートにおける処理は、ステップS10からステップS20に移行する。ステップS20においては、
図10のフローチャートのステップS7において運転者が機能低下状態と判断された回数、及び
図11のフローチャートのステップS16において運転者が漫然状態と判断された回数が積算される。また、ステップS20においては、運転者が機能低下状態又は漫然状態と判断された時刻も記録される。
【0062】
次に、ステップS21においては、直近の過去の第2所定時間以内に、4回以上機能低下状態又は漫然状態と判断されているか否かが判断される。本実施形態において、この第2所定時間は第1所定時間よりも長い10分に設定されている。即ち、リスクのある運転(リスク評価指標Rpedが所定の閾値以上の運転)が行われた後、第1所定時間に再びリスクのある運転が行われなくとも、短期間(第2所定時間)にリスクのある運転が繰り返されている場合には、運転者に疾患があると疑われる。
【0063】
そこで、ステップS21において、直近の過去の第2所定時間以内に、4回以上機能低下状態又は漫然状態と判断された場合には、ステップS18に進み、ここで、運転者状態判定部10cにより、運転者に疾患があると判定される。次いで、ステップS19の処理が実行され、
図11に示すフローチャートの処理を終了する。
【0064】
一方、ステップS21において、直近の過去の第2所定時間以内に機能低下状態又は漫然状態と判断された回数が4回未満であると判断された場合には、ステップS16に進む。ステップS16においては、運転者状態判定部10cにより、運転者は漫然状態であると判断され、さらに、ステップS17の処理がじっこうされ、
図11に示すフローチャートの1回の処理を終了する。
【0065】
本発明の実施形態の運転者状態検出装置1によれば、運転者が機能低下状態にあると判定(
図10のステップS7)された後、所定時間(
図11のステップS10)以内に、リスク予測判定部10aが、再び、運転者がリスクを予測した運転をしていないと判定した場合(
図11のステップS15→S18)に、運転者に疾患があると判定している。一方、運転者が機能低下状態にあると判定(
図10のステップS7)された後、所定時間以内に、リスクを予測した運転をしていると判定された場合(
図11のステップS15→S16)には、運転者は漫然状態にあると判定される。このため、運転者の軽度の機能低下状態の発見を可能にしながら、運転者の疾患を、漫然状態と区別することができる。
【0066】
また、本実施形態の運転者状態検出装置1によれば、駐車車両の向こう側から走行経路上に進出してくる歩行者と自車両が干渉するリスクを算出(
図10のステップS4、
図11のステップS14)することにより、運転者がリスクを予測した運転をしているか否かを判定するので、運転者が脳の高次機能を発揮した運転を行っているか否かを正確に判定することができる。
【0067】
さらに、本実施形態の運転者状態検出装置1によれば、運転者に疾患があると判定された場合(
図11のステップS18)と、運転者は漫然状態にあると判定された場合(
図11のステップS16)で、異なる運転者支援が提供される。このため、実行された運転支援(
図11のステップS17又はS19)により運転者に違和感を与えるのを抑制することができる。
【0068】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上述した実施形態に種々の変更を加えることができる。特に、上述した実施形態においては、リスク予測評価モデルとして、数式(1)に示したものが使用されているが、運転者による脳の高次機能が発揮されているか否かを判定することができる任意のリスク予測評価モデルを使用することができる。或いは、リスク予測評価モデルを使用することなく、運転者がリスクを予測した運転をしているか否かを判定することもできる。
【符号の説明】
【0069】
1 運転者状態検出装置
2 車外カメラ(静止物検出センサ)
4 レーダ
6 車速センサ(自車挙動センサ)
10 電子制御ユニット
10a リスク予測判定部
10b 機能低下判定部
10c 運転者状態判定部
12 警報装置(運転者支援装置)
14 自動運転制御部(運転者支援装置)