(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/42 20060101AFI20240723BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240723BHJP
F16C 43/06 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
F16C33/42 A
F16C19/06
F16C43/06
(21)【出願番号】P 2020076311
(22)【出願日】2020-04-22
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 康彦
(72)【発明者】
【氏名】岩田 孝
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-101922(JP,A)
【文献】特開2011-122656(JP,A)
【文献】特開2011-047474(JP,A)
【文献】特開2006-322564(JP,A)
【文献】実開昭50-010950(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56
33/30-33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に設けられている複数の玉と、複数の前記玉を周方向に間隔をあけて保持する環状の保持器と、を備え、
前記保持器は、前記玉に沿った形状を有し当該玉を収容するポケット部を、周方向に沿って複数有すると共に、隣り合う前記ポケット部を繋ぐ連結部を複数有し、
前記ポケット部は、軸方向一方側に、保持器中心線に直交する面に沿った外側平面を有すると共に、前記玉の軸方向一方側の端を入り込ませかつ当該外側平面において露出させる穴が設けら
れ、
前記保持器は、複数の前記玉を軸方向両側から挟む第一の環状部材及び第二の環状部材を有し、
軸方向一方側の前記第一の環状部材は、前記玉に沿った形状を有する第一の収容部を、前記ポケット部の一部として、周方向に沿って複数有し、
前記第一の収容部が、軸方向一方側に、前記外側平面を有し、当該第一の収容部に、前記玉の軸方向一方側の端を入り込ませかつ当該外側平面において露出させる前記穴が設けられており、
前記第一の収容部は、前記外側平面を有する軸方向一方側の側殻部と、前記外側平面以外の面として曲面を有する軸方向他方側の中央殻部と、を有し、
前記側殻部の最小厚さ寸法は、前記中央殻部の最小厚さ寸法よりも小さい、
転がり軸受。
【請求項2】
前記第一の収容部は、前記外側平面を有する軸方向一方側の側殻部と、前記外側平面以外の面として曲面を有する軸方向他方側の中央殻部と、を有し、
前記側殻部は、前記中央殻部と保持器径方向について同じ寸法を有し前記穴が設けられている本体殻部と、当該本体殻部から保持器径方向について突出している拡大片部と、を有する、請求項
1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記第一の収容部は、前記外側平面を有する軸方向一方側の側殻部と、前記外側平面以外の面として曲面を有する軸方向他方側の中央殻部と、を有し、
前記側殻部は、前記外側平面と反対側に、当該外側平面と平行となる内側平面を有する、請求項
1又は請求項
2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記第一の収容部は、前記外側平面を有する軸方向一方側の側殻部と、前記外側平面以外の面として曲面を有する軸方向他方側の中央殻部と、を有し、
前記側殻部及び前記中央殻部に囲まれる領域が前記玉を収容するポケット空間の一部となり、
前記ポケット空間に収容されている前記玉の中心から前記側殻部までの軸方向寸法は、前記玉の半径と、同じである、請求項
1~
3のいずれか一項に記載の転がり軸受。
【請求項5】
軸方向において、前記玉の中心から前記内輪及び前記外輪の軸方向一方側の
端面までの寸法は、
前記玉の中心から前記保持器の軸方向一方側の
端面までの寸法と略同じである、請求項1~
4のいずれか一項に記載の転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受は、内輪と、外輪と、これら内輪と外輪との間に設けられている複数の転動体と、これら転動体を周方向に沿って間隔をあけて保持する環状の保持器とを備える。特許文献1に、転動体が玉である転がり軸受が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
転がり軸受が用いられる回転機器(例えば自動車のトランスミッション)を小型化するために、転がり軸受の軸方向寸法(幅寸法)を小さくすることが望まれている。特許文献1に記載の転がり軸受では、保持器の軸方向寸法が、内輪及び外輪の軸方向寸法よりも僅かに小さい程度になっている。これにより、転がり軸受の軸方向寸法を小さくすることが可能になると考えられる。
【0005】
転がり軸受の軸方向寸法を小さくするための別の手段として、玉を小さくすればよいが、この場合、負荷容量が小さくなってしまう。
更に別の手段として、保持器の軸方向寸法よりも内輪及び外輪の軸方向寸法を小さくすればよいが、この場合、内輪と外輪との間から保持器が突出する。すると、軸受の組み立て、輸送、及び機器への組み付けの際、保持器が他の部品と干渉することがある。このため、通常では、内輪及び外輪の軸方向寸法は保持器の軸方向寸法よりも大きい。
【0006】
そこで、本開示は、転がり軸受の軸方向寸法を小さくすることが可能となる新たな技術的手段を備えた転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の転がり軸受は、内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に設けられている複数の玉と、複数の前記玉を周方向に間隔をあけて保持する環状の保持器と、を備え、前記保持器は、前記玉に沿った形状を有し当該玉を収容するポケット部を、周方向に沿って複数有すると共に、隣り合う前記ポケット部を繋ぐ連結部を複数有し、前記ポケット部は、軸方向一方側に、保持器中心線に直交する面に沿った外側平面を有すると共に、前記玉の軸方向一方側の端を入り込ませかつ当該外側平面において露出させる穴が設けられている。
【0008】
前記転がり軸受によれば、ポケット部に収容されている玉の中心から、そのポケット部の軸方向一方側の端となる前記外側平面までの軸方向寸法が、玉の半径と略同じとなるように構成することが可能となる。つまり、保持器の軸方向寸法を小さくすることが可能となる。その結果、転がり軸受の軸方向寸法を小さくすることができる。
【0009】
(2)好ましくは、前記保持器は、複数の前記玉を軸方向両側から挟む第一の環状部材及び第二の環状部材を有し、軸方向一方側の前記第一の環状部材は、前記玉に沿った形状を有する薄板状の第一の収容部を、前記ポケット部の一部として、周方向に沿って複数有すると共に、隣り合う前記第一の収容部を繋ぐ薄板状である第一の板片部を、前記連結部の一部として、複数有し、前記第一の収容部が、軸方向一方側に、前記外側平面を有し、当該第一の収容部に、前記玉の軸方向一方側の端を入り込ませかつ当該外側平面において露出させる前記穴が設けられている。
前記構成によれば、第一の環状部材を構成する第一の収容部及び第一の板片部が薄板状であることから、第一の環状部材を薄板の部材から例えばプレス加工することで容易に製造することが可能となる。更に、そのプレス加工に併せて前記外側平面を形成することも可能である。
【0010】
(3)また、前記(2)に記載の転がり軸受において、更に、好ましくは、前記第一の収容部は、前記外側平面を有する軸方向一方側の側殻部と、前記外側平面以外の面として曲面を有する軸方向他方側の中央殻部と、を有し、前記側殻部の最小厚さ寸法は、前記中央殻部の最小厚さ寸法よりも小さい。
前記構成によれば、保持器の軸方向寸法を更に小さくすることが可能となる。
【0011】
(4)また、前記(2)又は(3)に記載の転がり軸受において、更に、好ましくは、前記第一の収容部は、前記外側平面を有する軸方向一方側の側殻部と、前記外側平面以外の面として曲面を有する軸方向他方側の中央殻部と、を有し、前記側殻部は、前記中央殻部と保持器径方向について同じ寸法を有し前記穴が設けられている本体殻部と、当該本体殻部から保持器径方向について突出している拡大片部と、を有する。
前記拡大片部によれば、側殻部を中央殻部よりも保持器径方向に拡大させる。側殻部の本体殻部に穴が設けられ、側殻部の強度が低下することが考えられるが、その側殻部の本体殻部から突出して拡大片部が設けられていることで、側殻部全体として、強度不足が補われる。
【0012】
(5)また、前記(2)~(4)に記載の転がり軸受において、好ましくは、前記第一の収容部は、前記外側平面を有する軸方向一方側の側殻部と、前記外側平面以外の面として曲面を有する軸方向他方側の中央殻部と、を有し、前記側殻部は、前記外側平面と反対側に、当該外側平面と平行となる内側平面を有する。
前記構成によれば、第一の収容部をプレス加工で成型する場合、前記外側平面をそのプレス加工と同時に成型することがきる。しかも、その外側平面と反対側の面に、平行となる内側平面を有する。外側平面と内側平面とが平行の配置となることでプレスによる成型が行われやすく、成型精度を高めることが可能となる。
【0013】
(6)また、前記(2)~(5)に記載の転がり軸受において、好ましくは、前記第一の収容部は、前記外側平面を有する軸方向一方側の側殻部と、前記外側平面以外の面として曲面を有する軸方向他方側の中央殻部と、を有し、前記側殻部及び前記中央殻部に囲まれる領域が前記玉を収容するポケット空間の一部となり、前記ポケット空間に収容されている前記玉の中心から前記側殻部までの軸方向寸法は、前記玉の半径と、同じである。
前記構成によれば、保持器の軸方向一方側の寸法と玉の半径とが略同じとなり、保持器と玉とのユニットの軸方向寸法が小さくなる。
【0014】
(7)また、前記(2)とは異なる形態として、前記保持器は、前記玉に沿った形状を有する薄板状の収容部を、前記ポケット部として、周方向に沿って複数有すると共に、隣り合う前記収容部を繋ぐ薄板状である板片部を、前記連結部として、複数有し、前記収容部が、軸方向一方側に、前記外側平面を有し、前記玉の軸方向一方側の端を入り込ませかつ当該外側平面において露出させる前記穴が設けられている。
前記構成によれば、収容部及び板片部が薄板状であることから、保持器を薄板の部材から例えばプレス加工することで容易に製造することが可能となる。更に、そのプレス加工に併せて前記外側平面を形成することも可能である。
【0015】
(8)前記(7)に記載の転がり軸受において、好ましくは、前記収容部は、前記外側平面を有する軸方向一方側の側殻部と、前記外側平面以外の面として曲面を有する軸方向他方側の中央殻部と、を有し、前記側殻部及び前記中央殻部に囲まれる領域が前記玉を収容するポケット空間となり、前記ポケット空間に収容されている前記玉の中心から前記側殻部までの軸方向寸法は、前記玉の半径と、同じである。
前記構成によれば、保持器の軸方向一方側の寸法と玉の半径とが略同じとなり、保持器と玉とのユニットの軸方向寸法が小さくなる。
【0016】
(9)また、前記(1)~(8)の転がり軸受において、好ましくは、前記内輪及び前記外輪の軸方向一方側の寸法は、前記保持器の軸方向一方側の寸法と略同じである。
前記構成によれば、内輪及び外輪の軸方向一方側の寸法を、玉の半径と略同じとすることが可能となる。このため、玉径を小さくしなくても、転がり軸受の軸方向寸法を小さくすることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、転がり軸受の軸方向寸法(幅寸法)を小さくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】
図1に示す転がり軸受が備える保持器の斜視図である。
【
図4】周方向に沿った切断面が得られるように第一の環状部材を切断した場合のその一部を示す図である。
【
図5】
図4の切断面に直交する方向に第一の環状部材の一部を切断した場合の図である。
【
図6】周方向に沿った切断面が得られるように第二の環状部材を切断した場合のその一部を示す図である。
【
図7】
図6の切断面に直交する方向に第二の環状部材の一部を切断した場合の図である。
【
図8】第一の環状部材(変形例)の一部を軸方向から見た図である。
【
図10】第一の環状部材の別の変形例を示す図である。
【
図11】第一の環状部材の別の変形例を示す図である。
【
図12】第一の環状部材の更に別の変形例を示す図である。
【
図13】第一の環状部材の更に別の変形例を示す図である。
【
図14】他の形態の保持器を備える転がり軸受の断面図である
【
図16】周方向に沿った切断面が得られるように
図15に示す保持器を切断した場合のその一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔転がり軸受の全体構成〕
図1は、転がり軸受の断面図である。
図1に示す転がり軸受10は、内輪11と、外輪12と、これら内輪11と外輪12との間に設けられている複数の転動体と、環状の保持器14とを備える。本開示の前記転動体は玉13であり、転がり軸受10は玉軸受(深溝玉軸受)である。
図1は、転がり軸受10の中心線Cを含む断面を示す。
【0020】
本開示における、内輪11、外輪12、周方向に並ぶ複数の玉13(玉13の列)、及び保持器14の各説明での「軸方向」「径方向」「周方向」について定義する。「軸方向」とは、内輪11、外輪12、保持器14それぞれの中心線に沿った方向である。なお、その軸方向には、前記中心線に平行な方向も含まれる。玉13に関する説明では、その玉13が内輪11と外輪12との間に設けられた状態を基準としている。つまり、
図1に示すようにピッチ円に沿って周方向に並ぶ複数の玉13のそのピッチ円の中心線に平行な方向が「軸方向」となる。
「径方向」とは、内輪11、外輪12、保持器14、及び玉13のピッチ円それぞれの中心線に直交する方向である。「周方向」とは、内輪11、外輪12、保持器14、及び玉13のピッチ円それぞれの中心線を中心とした円に沿う方向である。
各図において、内輪11、外輪12、保持器14、及び玉13のピッチ円それぞれの中心線が一致した状態で、その中心線の符号を「C」としている。保持器14の中心線Cを「保持器中心線C」と称することもある。
【0021】
内輪11は環状の部材であり、その外周側に、玉13が転がり接触する内輪軌道21が形成されている。
図1に示す断面において、内輪軌道21は、玉13の半径よりも僅かに大きな半径の凹円弧形状を有する溝により構成されている。内輪11は、内輪軌道21の軸方向両側に肩部25,25を有する。
【0022】
外輪12は環状の部材であり、その内周側に、玉13が転がり接触する外輪軌道22が形成されている。
図1に示す断面において、外輪軌道22は、玉13の半径よりも僅かに大きな半径の凹円弧形状を有する溝により構成されている。外輪12は、外輪軌道22の軸方向両側に肩部26,26を有する。
【0023】
玉13は、内輪軌道21と外輪軌道22との間に複数設けられている。転がり軸受10(内輪11)が回転すると、玉13は内輪軌道21及び外輪軌道22を転動する。保持器14は、複数の玉13を周方向に間隔をあけて保持する。内輪11、外輪12、玉13は、鋼製であり、例えば軸受鋼である。保持器14も鋼製であり、いわゆる「(波形)鉄保持器」である。
【0024】
〔保持器14(その1)について〕
図2は、
図1に示す転がり軸受10が備える保持器14の斜視図である。保持器14は、複数のポケット部15と、複数の連結部16とを有する。各ポケット部15は、一つの玉13に沿った形状を有していて、一つの玉13を収容する部分である。連結部16は、周方向について隣り合うポケット部15,15を繋ぐ部分である。ポケット部15は、周方向に沿って複数設けられていて、連結部16は、周方向に沿って複数設けられている。ポケット部15と連結部16とは交互に配置されている。
【0025】
図2に示す保持器14は、複数の玉13を軸方向両側から挟む第一の環状部材31及び第二の環状部材32を有する。
図3は、第一の環状部材31の斜視図である。第一の環状部材31と第二の環状部材32とは同じ形状を有する。環状部材31,32それぞれは、鋼製である薄板の部材をプレス加工することで成型された塑性加工品である。軸方向一方側の第一の環状部材31と軸方向他方側の第二の環状部材32とは、別部品であり、リベット33等の締結部材により結合され、一体化される。
【0026】
第一の環状部材31は、玉13に沿った形状を有する薄板状の第一の収容部41aを、前記ポケット部15の一部(半分の部分)として、周方向に沿って複数有する。第一の環状部材31は、周方向について隣り合う第一の収容部41a,41aを繋ぐ薄板状である第一の板片部42aを、前記連結部16の一部(半分の部分)として、複数有する。
【0027】
第二の環状部材32は、玉13に沿った形状を有する薄板状の第二の収容部41bを、前記ポケット部15の他部(残りの半分の部分)として、周方向に沿って複数有する。第二の環状部材32は、周方向について隣り合う第二の収容部41b,41bを繋ぐ薄板状である第二の板片部42bを、前記連結部16の他部(残りの半分の部分)として、複数有する。
【0028】
リベット33は、第一の板片部42a及び第二の板片部42bそれぞれに形成されている貫通穴34を挿通し、その先端部がカシメ加工される。これにより、第一の環状部材31と第二の環状部材32とは一体となり、保持器14が得られる。
【0029】
〔第一の環状部材31について〕
図4は、周方向に沿った切断面が得られるように第一の環状部材31を切断した場合のその一部を示す図である。
図5は、
図4の切断面に直交する方向に第一の環状部材31の一部を切断した場合の図である。
第一の収容部41aは、軸方向一方側に、保持器中心線Cに直交する面K1に沿った第一の外側平面46aを有する。第一の外側平面46aは、軸方向一方に臨む平坦面である。その第一の外側平面46aにおいて、玉13の軸方向一方側の端(頂点)13aを露出させる第一の穴47aが設けられている。第一の穴47aに、玉13の軸方向一方側の端13aが入り込んだ状態となる。
【0030】
第一の収容部41aの構成について更に説明する。各第一の収容部41aは、一つの第一の側殻部48aと、その両側に設けられている二つの第一の中央殻部49a,49aとを有する。第一の側殻部48aは、第一の収容部41aのうち、軸方向一方側の部分であって、第一の外側平面46aを有する部分である。第一の中央殻部49aは、第一の収容部41aのうち、軸方向他方側の部分であって、第一の曲面50aを有する。第一の曲面50aは、第一の収容部41aの軸方向一方側の面のうち、第一の外側平面46a以外の面である。一方の中央殻部49aと他方の中央殻部49aとは同じ形状を有する。
【0031】
第一の収容部41aの軸方向他方側の面51aは、玉13に沿った形状であり、玉13の半径よりもわずかに大きな半径を有する球面に沿った形状を有する。第一の収容部41aの軸方向他方側の面51aは、第一の外側平面46a及び第一の曲面50aと反対側(裏側)の面である。面51aは、凹曲面状の面であり、玉13側の面である。
【0032】
第一の環状部材31は、前記のとおり、薄板の部材をプレス加工することにより成型される。第一の外側平面46a、第一の曲面50a、及び軸方向他方側の面51aは、第一の収容部41aと同時に成型される。第一の穴47aについては、プレス加工の際に形成されてもよいが、プレス加工される前の前記薄板の部材の所定位置に、予め成形されていればよい。
【0033】
第一の側殻部48aに、第一の外側平面46aが形成されている。
図4において、第一の側殻部48aの最小厚さ寸法を「t1」としている。その最小厚さ寸法t1は、第一の穴47aが形成されている部分における厚さである。第一の中央殻部49aの最小厚さ寸法を「t2」としている。なお、第一の中央殻部49aの厚さ寸法は、全体にわたって(略)同一である。第一の側殻部48aの最小厚さ寸法t1は、第一の中央殻部49aの最小厚さ寸法t2よりも小さい(t1<t2)。
【0034】
〔第二の環状部材32について〕
図6は、周方向に沿った切断面が得られるように第二の環状部材32を切断した場合のその一部を示す図である。
図7は、
図6の切断面に直交する方向に第二の環状部材32の一部を切断した場合の図である。
第二の収容部41bは、軸方向他方側に、保持器中心線Cに直交する面K2に沿った第二の外側平面46bを有する。第二の外側平面46bは、軸方向他方に臨む平坦面である。その第二の外側平面46bにおいて、玉13の軸方向他方側の端(頂点)13bを露出させる第二の穴47bが設けられている、第二の穴47bに、玉13の軸方向他方側の端13bが入り込んだ状態となる。
【0035】
第二の収容部41bの構成について更に説明する。各第二の収容部41bは、一つの第二の側殻部48bと、その両側に設けられている二つの第二の中央殻部49b,49bとを有する。第二の側殻部48bは、第二の収容部41bのうち、軸方向他方側の部分であって、第二の外側平面46bを有する。第二の中央殻部49bは、第二の収容部41bのうち、軸方向一方側の部分であって、第二の曲面50bを有する。第二の曲面50bは、第二の収容部41bの軸方向他方側の面のうち、第二の外側平面46b以外の面である。一方の中央殻部49bと他方の中央殻部49bとは同じ形状を有する。
【0036】
第二の収容部41bの軸方向一方側の面51bは、玉13に沿った形状であり、玉13の半径よりもわずかに大きな半径を有する球面に沿った形状を有する。第二の収容部41bの軸方向一方側の面51bは、第二の外側平面46b及び第二の曲面50bと反対側(裏側)の面である。面51bは、凹曲面状の面であり、玉13側の面である。
【0037】
第二の環状部材32は、前記のとおり、薄板の部材をプレス加工することにより成型される。第二の外側平面46b、第二の曲面50b、及び軸方向一方側の面51bは、第二の収容部41bと同時に成型される。第二の穴47bについては、プレス加工の際に形成されてもよいが、プレス加工される前の前記薄板の部材の所定位置に、予め成形されていればよい。
【0038】
第二の側殻部48bに、第二の外側平面46bが形成されている。
図6において、第二の側殻部48bの最小厚さ寸法を「t3」としている。その最小厚さ寸法t3は、第二の穴47bが形成されている部分における厚さである。第二の中央殻部49bの最小厚さ寸法を「t4」としている。なお、第二の中央殻部49bの厚さ寸法は、全体にわたって(略)同一である。第二の側殻部48bの最小厚さ寸法t3は、第二の中央殻部49bの最小厚さ寸法t4よりも小さい(t3<t4)。
【0039】
〔第一の環状部材31の変形例(1)について〕
図8は、第一の環状部材31(変形例)の一部を軸方向から見た図である。
図9は、
図8のIX矢視の断面図である。
図8及び
図9に示す第一の環状部材31(第二の形態)は、
図2に示す環状部材31(第一の形態)と同じ構成を備えている。
【0040】
第二の形態に係る第一の環状部材31は、第一の形態と同様、第一の外側平面46aが設けられている第一の側殻部48aと、その両側の第一の中央殻部49a,49aとを有する。
第一の側殻部48aは、第一の本体殻部53aと、第一の拡大片部54aとを有する。第一の拡大片部54aは、第一の本体殻部53aを挟んで、径方向両側(保持器径方向の両側)に設けられている。
図8及び
図9において、第一の本体殻部53aと第一の拡大片部54aとの境界を二点鎖線で示している。
【0041】
第一の本体殻部53aは、第一の側殻部48aを主に構成する部分である。つまり、第一の本体殻部53aは、第一の穴47aが設けられている部分であって、第一の中央殻部49aと保持器径方向について同じ寸法(高さ寸法)を有している部分である。
第一の拡大片部54aは、第一の本体殻部53aに追加されている部分である。第一の拡大片部54aは、第一の本体殻部53aから保持器径方向の両側について突出している部分である。第一の拡大片部54aによって、第一の側殻部48aは、第一の中央殻部49aよりも保持器径方向に拡大されている。
図9に示すように、第一の拡大片部54aの軸方向一方側の面55aは、第一の外側平面46aと同一平面上に設けられている。
【0042】
以上のように、第一の側殻部48aが有する第一の拡大片部54aによれば、第一の側殻部48aを第一の中央殻部49aよりも保持器径方向に拡大させる。第一の側殻部48aに第一の穴47aが設けられ、第一の側殻部48aの強度が低下することが考えられるが、第一の拡大片部54aが設けられていることで、第一の側殻部48aの全体として、強度不足が補われる。
また、プレス加工の際、第一の側殻部48aは第一の中央殻部49aよりも薄く加工される(
図4においてt1<t2)。第一の側殻部48aに含まれる本体殻部53aが薄く加工される際に生じる余肉が、第一の拡大片部54aとなって構成される。
【0043】
なお、第二の環状部材32についても、第一の環状部材31と同じ構成を有する。すなわち、
図7において破線で示すように、第二の側殻部48bは、第二の中央殻部49bと保持器径方向について同じ寸法(高さ寸法)を有し第二の穴47bが設けられている第二の本体殻部53bと、その第二の本体殻部53bから保持器径方向の両側について突出している第二の拡大片部54bとを有する。
【0044】
〔第一の環状部材31の変形例(2)について〕
図10及び
図11は、第一の環状部材31の別の変形例を示す図である。
図10及び
図11は、
図4及び
図5に示す図と同じ切断面における図である。
図10及び
図11に示す第一の環状部材31(第三の形態)は、
図2に示す環状部材31(第一の形態)と同じ構成を備えている。
第三の形態に係る第一の環状部材31は、第一の形態と同様、玉13に沿った形状の第一の収容部41aを有する。第一の収容部41aは、第一の形態と同様、第一の外側平面46aを有する第一の側殻部48aと、その両側に設けられている第一の中央殻部49a,49aとを有する。
【0045】
図10及び
図11それぞれの拡大図に示すように、第一の側殻部48aは、第一の外側平面46aと反対側に、第一の外側平面46aと平行となる第一の内側平面56aを有する。第一の穴47aと第一の内側平面56aとの間には、テーパ面57aが設けられている。第一の内側平面56aは、第一の穴47a及びテーパ面57aの周囲に位置する環状の面となる。前記のとおり、第一の外側平面46aはプレス加工によって成形される。その第一の外側平面46aのプレス加工と同時に、第一の内側平面56a及びテーパ面57aは成形される。なお、テーパ面57aの代わりに、
図10及び
図11において破線で示すように、段付き面となっていてもよい。
【0046】
以上のように、第一の外側平面46aと平行となる第一の内側平面56aが、その第一の外側平面46aと反対側に設けられている。第一の収容部41aを、第一の外側平面46aと共にプレス加工で成型する際、第一の外側平面46aと第一の内側平面56aとが平行の配置となることで、プレスによる成型が行われやすく、成型精度を高めることが可能となる。
【0047】
なお、第二の環状部材32についても、第一の環状部材31と同じ構成を有する。すなわち、(
図6及び
図7を参考にして説明すると)第二の収容部41bは、第二の外側平面46bを有する第二の側殻部48bと、曲面50bを有する第二の中央殻部49bとを有する。第二の側殻部48bは、第二の外側平面46bと反対側に、その第二の外側平面46bと平行となる第二の内側平面を有する。
【0048】
このような第三の形態に係る保持器14おいても、
図8及び
図9により説明した変形例(1)の構成(第二の形態)を有していてもよい。例えば、第一の環状部材31において、第一の側殻部48aは、第一の本体殻部53aと、第一の拡大片部54aとを有する。
【0049】
〔第一の環状部材31の変形例(3)について〕
図12及び
図13は、第一の環状部材31の更に別の変形例を示す図である。
図12及び
図13は、
図4及び
図5に示す図と同じ切断面における図である。
図12及び
図13に示す第一の環状部材31(第四の形態)は、
図2に示す環状部材31(第一の形態)と同じ構成を備えている。
第四の形態に係る第一の環状部材31は、第一の形態と同様、玉13に沿った形状の第一の収容部41aを有する。第一の収容部41aは、第一の形態と同様、第一の外側平面46aを有する第一の側殻部48aと、その両側に設けられている第一の中央殻部49a,49aとを有する。
【0050】
図12及び
図13それぞれの拡大図に示すように、第一の側殻部48aは、第一の外側平面46aと反対側に、第一の外側平面46aと平行となる第一の内側平面56aを有する。第一の内側平面56aは、第一の穴47aの周囲に位置する環状の面となる。第一の内側平面56aの周囲に、テーパ面58aが設けられている。テーパ面58aの周囲に凹曲面59aが設けられている。凹曲面59aは、第二の中央殻部49aのうち、玉13側の面である。前記のとおり、第一の外側平面46aはプレス加工によって成形される。その第一の外側平面46aのプレス加工と同時に、第一の内側平面56a及びテーパ面58aは成形される。
【0051】
以上のように、第一の外側平面46aと平行となる第一の内側平面56aが、その第一の外側平面46aと反対側に設けられている。第一の収容部41aを、第一の外側平面46aと共にプレス加工で成型する際、第一の外側平面46aと第一の内側平面56aとが平行の配置となることで、プレスによる成型が行われやすく、成型精度を高めることが可能となる。
【0052】
なお、第二の環状部材32についても、第一の環状部材31と同じ構成を有する。すなわち、(
図6及び
図7を参考にして説明すると)第二の収容部41bは、第二の外側平面46bを有する第二の側殻部48bと、曲面50bを有する第二の中央殻部49bとを有する。第二の側殻部48bは、第二の外側平面46bと反対側に、その第二の外側平面46bと平行となる第二の内側平面を有する。
【0053】
このような第一の環状部材31(第四の形態)においても、
図8及び
図9により説明した変形例(1)の構成(第二の形態)を有していてもよい。例えば、第一の環状部材31において、第一の側殻部48aは、第一の本体殻部53aと、第一の拡大片部54aとを有する。
【0054】
〔前記の第一の形態から第四の形態までの各形態の保持器14について〕
図2に示すように、保持器14(その1)は、玉13に沿った形状を有しその玉13を収容するポケット部15を、周方向に沿って複数有すると共に、隣り合うポケット部15,15を繋ぐ連結部16を複数有する。例えば
図4に示すように、各ポケット部15は、軸方向一方側に第一の外側平面46aを有すると共に、そのポケット部15に、玉13の軸方向一方側の端13aを入り込ませかつ第一の外側平面46aにおいて露出させる第一の穴47aが設けられている。第一の外側平面46aは、保持器中心線Cに直交する面K1に沿った面である。
【0055】
また、
図6に示すように、各ポケット部15は、軸方向他方側に第二の外側平面46bを有すると共に、そのポケット部15に、玉13の軸方向他方側の端13bを入り込ませかつ第二の外側平面46bにおいて露出させる第二の穴47bが設けられている。第二の外側平面46bは、保持器中心線Cに直交する面K2に沿った面である。
【0056】
図2に示す保持器14は、複数の玉13を軸方向両側から挟む第一の環状部材31及び第二の環状部材32を有する。
第一の環状部材31は、前記ポケット部15の一部として、薄板状の第一の収容部41aを有すると共に、前記連結部16の一部として、隣り合う第一の収容部41a,41aを繋ぐ薄板状である第一の板片部42aを複数有する。そして、第一の収容部41aが、軸方向一方側に、第一の外側平面46aを有していて、その第一の収容部41aに第一の穴47aが設けられている。
【0057】
このように、第一の環状部材31を構成する第一の収容部41a及び第一の板片部42aが薄板状であることから、第一の環状部材31を薄板の部材からプレス加工することで容易に製造することが可能となる。更に、そのプレス加工に併せて第一の外側平面46aを形成することも可能である。なお、第二の環状部材32についても、これと同様、薄板の部材からプレス加工することで容易に製造することが可能となり、そのプレス加工に併せて第二の外側平面46bを形成することも可能である。
【0058】
保持器14の軸方向寸法に関して説明する。
第一の収容部41aは、第一の外側平面46aを有する軸方向一方側の第一の側殻部48aと、第一の外側平面46a以外の面として曲面50aを有する第一の中央殻部49aとを有する。
第一の側殻部48a及び第一の中央殻部49aに囲まれる領域が玉13を収容するポケット空間Qの一部(半分)となる。
図1に示すように、そのポケット空間Qに収容されている玉13の中心Pから第一の側殻部48aまでの軸方向寸法L1は、玉13の半径Rと、同じである。つまり、第一の側殻部48aにおいて第一の穴47aが形成されている領域の軸方向の範囲内に、玉13の端13aが存在する。これを言い換えると、第一の穴47aに玉13の軸方向一方側の端13aが入り込んだ状態となっている。
【0059】
図1に示す形態では、第一の側殻部48aが第一の外側平面46aを有していて、この第一の外側平面46aで開口する第一の穴47aに玉13の端13aが入り込み、その第一の穴47aから玉13の端13aが露出する。前記ポケット空間Qに収容されている玉13の中心Pから第一の外側平面46aまでの軸方向寸法L2は、玉13の半径Rと、略同じである。つまり、軸方向寸法L2は、玉13の半径Rと完全に同じであってもよく、半径Rよりも僅かに大きくてもよい。軸方向寸法L2が、玉13の中心Pを基準とした保持器14の軸方向一方側の寸法となる。
【0060】
第一の環状部材31と一体となって保持器14を構成する第二の環状部材32は、配置が第一の環状部材31と軸方向で反対となって設けられているが、構成は第一の環状部材31と同じである。
ポケット部15の軸方向他方側において、第二の側殻部48b及び第二の中央殻部49bに囲まれる領域が玉13を収容するポケット空間Qの他部(残りの半分)となる。
図1に示すように、そのポケット空間Qに収容されている玉13の中心Pから第二の側殻部48bまでの軸方向寸法L4は、玉13の半径Rと、同じである。つまり、第二の側殻部48bにおいて第二の穴47bが形成されている領域の軸方向の範囲内に、玉13の端13bが存在する。これを言い換えると、第二の穴47bに玉13の軸方向他方側の端13bが入り込んだ状態となっている。
【0061】
また、前記ポケット空間Qに収容されている玉13の中心Pから第二の外側平面46bまでの軸方向寸法L3が、玉13の半径Rと略同じである。つまり、軸方向寸法L3は、玉13の半径Rと完全に同じであってもよく、半径Rよりも僅かに大きくてもよい。軸方向寸法L3が、玉13の中心Pを基準とした保持器14の軸方向他方側の寸法となる。
【0062】
以上より、保持器14の軸方向寸法L(L2+L3)は、玉13の直径(R×2)と略同じとなる。
【0063】
転がり軸受10の軸方向寸法に関して説明する。
図1に示す転がり軸受10において、内輪11と外輪12との軸方向寸法は同じである。内輪11の軸方向一方側の側面11aと外輪12の軸方向一方側の側面12aとは、中心線Cに直交する同一の第一の仮想面に沿って配置されている。内輪11の軸方向他方側の側面11bと外輪12の軸方向他方側の側面12bとは、中心線Cに直交する同一の第二の仮想面に沿って配置されている。
【0064】
そして、玉13の中心Pを基準とした内輪11及び外輪12の軸方向一方側の寸法M1は、玉13の中心Pを基準とした保持器14の軸方向一方側の寸法(L2)と略同じである。つまり、保持器14の前記寸法(L2)は、内輪11等の前記寸法M1と、同じであってもよく、内輪11等の前記寸法M1よりも僅かに小さくてもよい。
そして、転がり軸受10(内輪11等)の前記寸法M1が、玉13の半径Rと略同じとなる。
【0065】
これと同様に、玉13の中心Pを基準とした内輪11及び外輪12の軸方向他方側の寸法M2は、玉13の中心Pを基準とした保持器14の軸方向他方側の寸法(L3)と略同じである。つまり、保持器14の前記寸法(L3)は、内輪11等の前記寸法M2と、同じであってもよく、内輪11等の前記寸法M2よりも僅かに小さくてもよい。
そして、転がり軸受10(内輪11等)の前記寸法M2が、玉13の半径Rと略同じとなる。
また、内輪11又は外輪12の軸方向寸法(幅寸法)が、転がり軸受10の軸方向寸法(幅寸法)Mとなる。
【0066】
以上より、前記のとおり、保持器14の軸方向寸法L(L2+L3)は、玉13の直径(R×2)と略同じとなる。そして、内輪11及び外輪12の軸方向寸法(全幅)M(M1+M2)、つまり、転がり軸受10の軸方向寸法Mが、保持器14の軸方向寸法(全幅)Lと略同じとなる。
よって、
図1に示す転がり軸受10の場合、転がり軸受10の軸方向寸法Mが、玉13の直径(R×2)と略同じとなり、転がり軸受10の薄型化が可能となる。
なお、保持器14の軸方向寸法Lは、転がり軸受10(内輪11等)の軸方向寸法Mと、同じであってもよく、転がり軸受10(内輪11等)の軸方向寸法Mよりも僅かに小さくてもよい。
【0067】
〔保持器について(その2)〕
他の形態の保持器について説明する。
図14は、その保持器114を備える転がり軸受10の断面図である。
図14に示す転がり軸受10と、
図1に示す転がり軸受10とは、保持器が異なるのみであり、その他は同じである。同じ点については説明を省略する。
【0068】
図15は、
図14に示す保持器114の斜視図である。保持器114は、複数のポケット部115と、複数の連結部116とを有する。各ポケット部115は、一つの玉13に沿った形状を有していて、一つの玉13を収容する部分である。連結部116は、周方向について隣り合うポケット部115,115を繋ぐ部分である。ポケット部115は、周方向に沿って複数設けられていて、連結部116は、周方向に沿って複数設けられている。ポケット部115と連結部116とは交互に配置されている。
【0069】
図15に示す保持器114は、
図2に示す保持器14と異なり、単一の部材により構成されている。保持器114は、玉13に沿った形状を有する薄板状の収容部141を、前記ポケット部115(の全部)として、周方向に沿って複数有する。保持器114は、周方向について隣り合う収容部141,141を繋ぐ薄板状である板片部142を、前記連結部116(の全部)として、複数有する。
【0070】
図16は、周方向に沿った切断面が得られるように
図15に示す保持器114を切断した場合のその一部を示す図である。収容部141は、軸方向一方側に、保持器中心線Cに直交する面K3に沿った外側平面146を有する。外側平面146は、軸方向一方に臨む平坦面である。その外側平面146において、玉13の軸方向一方側の端(頂点)13aを露出させる穴147が設けられている。穴147に、玉13の軸方向一方側の端13aが入り込んだ状態となる。
【0071】
収容部141の構成について更に説明する。各収容部141は、一つの側殻部148と、その両側に設けられている二つの中央殻部149,149とを有する。側殻部148は、収容部141のうち、軸方向一方側の部分であって、外側平面146を有する。中央殻部149は、収容部141のうち、軸方向他方側の部分であって、曲面150を有する。曲面150は、収容部141の軸方向一方側の面のうち、外側平面146以外の面である。一方の中央殻部149と他方の中央殻部149とは同じ形状を有する。
【0072】
収容部141の軸方向他方側の面151は、玉13に沿った形状であり、玉13の半径Rよりもわずかに大きな半径を有する球面に沿った形状を有する。収容部141の軸方向他方側の面151は、外側平面146及び曲面150と反対側(裏側)の面である。面151は、凹曲面状の面であり、玉13側の面である。
【0073】
保持器114は、薄板の部材をプレス加工することにより成型される。外側平面146、曲面150、及び軸方向他方側の面151は、収容部141と同時に成型される。穴147については、プレス加工の際に形成されてもよいが、プレス加工される前の前記薄板の部材の所定位置に、予め成形されていればよい。
【0074】
側殻部148に、外側平面146が形成されている。
図16において、側殻部148の最小厚さ寸法を「t5」としている。その最小厚さ寸法t5は、穴147が形成されている部分における厚さである。中央殻部149の最小厚さ寸法を「t6」としている。なお、中央殻部149の厚さ寸法は、全体にわたって(略)同一である。側殻部148の最小厚さ寸法t5は、中央殻部149の最小厚さ寸法t6よりも小さい(t5<t6)。
【0075】
〔保持器114の変形例について〕
図15及び
図16に示す保持器114は、
図8及び
図9により説明した構成(前記第二の形態)を有していてもよい。つまり、側殻部148は、
図8及び
図9を参考にして説明すると、本体殻部53aと、拡大片部54aとを有していてもよい。本体殻部53aは、穴147(
図16参照)が設けられている部分であって、中央殻部149と保持器径方向について同じ寸法(高さ寸法)を有している。拡大片部54a(
図8参照)は、本体殻部53aから保持器径方向の両側について突出している部分である。
【0076】
また、
図15及び
図16に示す保持器114においても、
図10及び
図11、並びに、
図12及び
図13により説明した構成(前記第三の形態、前記第四の形態)を有していてもよい。つまり、側殻部148は、外側平面146と反対側に、外側平面146と平行となる内側平面を有していてもよい。
【0077】
〔保持器114(その2)について〕
以上のように、
図15に示す保持器114(その2)は、玉13に沿った形状を有しその玉13を収容するポケット部115を、周方向に沿って複数有すると共に、隣り合うポケット部115,115を繋ぐ連結部116を複数有する。各ポケット部115は、軸方向一方側に外側平面146を有すると共に、そのポケット部115に、玉13の軸方向一方側の端13aを入り込ませかつ外側平面146において露出させる穴147が設けられている。外側平面146は、保持器中心線Cに直交する面K3(
図16参照)に沿った面である。
【0078】
図15及び
図16に示す保持器114は、前記ポケット部115として、薄板状の収容部141を有すると共に、前記連結部116として、隣り合う収容部141,141を繋ぐ薄板状である板片部142を複数有する。そして、収容部141が、軸方向一方側に、外側平面146を有する。そして、その収容部141に穴147が設けられている。
【0079】
このように、収容部141及び板片部142が薄板状であることから、保持器114を薄板の部材からプレス加工することで容易に製造することが可能となる。更に、そのプレス加工に併せて外側平面146を形成することも可能である。
【0080】
収容部141は、外側平面146を有する軸方向一方側の側殻部148と、外側平面146以外の面として曲面150を有する中央殻部149とを有する。
側殻部148及び中央殻部149に囲まれる領域が玉13を収容するポケット空間Qとなる。
図14に示すように、そのポケット空間Qに収容されている玉13の中心Pから側殻部148までの軸方向寸法L4は、玉13の半径Rと、同じである。つまり、側殻部148において穴147が形成されている領域の軸方向の範囲内に、玉13の端13aが存在する。これを言い換えると、穴147に玉13の軸方向一方側の端13aが入り込んだ状態となっている。
【0081】
図14に示す形態では、外側平面146で開口する穴147に玉13の端13aが入り込み、その穴147から玉13の端13aが露出する。前記ポケット空間Qに収容されている玉13の中心Pから外側平面146までの軸方向寸法L5は、玉13の半径Rと、略同じである。つまり、軸方向寸法L5は玉13の半径Rと完全に同じてあってもよく、軸方向寸法L5が半径Rよりも僅かに大きくてもよい。軸方向寸法L5が、玉13の中心Pを基準とした保持器114の軸方向一方側の寸法となる。
以上より、保持器14の軸方向一方側の軸方向寸法(L5)が、玉13の半径Rと略同じとなる。このため、保持器14の軸方向一方側の寸法は小さい。
【0082】
また、ポケット部115に収容されている玉13の中心Pから、保持器114の軸方向他方側の端となる連結部16(板片部142)までの軸方向寸法L6は、玉13の半径Rよりも小さい。軸方向寸法L6が、玉13の中心Pを基準とした保持器114の軸方向他方側の寸法となる。
以上より、保持器14の軸方向寸法(L5+L6)は小さい。
【0083】
図14に示す転がり軸受10において、内輪11と外輪12との軸方向寸法は同じである。内輪11の軸方向一方側の側面11aと外輪12の軸方向一方側の側面12aとは、中心線Cに直交する同一の第一の仮想面に沿って配置されている。内輪11の軸方向他方側の側面11bと外輪12の軸方向他方側の側面12bとは、中心線Cに直交する同一の第二の仮想面に沿って配置されている。
【0084】
そして、玉13の中心Pを基準とした内輪11及び外輪12の軸方向一方側の寸法M1は、玉13の中心Pを基準とした保持器14の軸方向一方側の寸法(L5)と略同じである。つまり、保持器14の前記寸法(L5)は、内輪11等の前記寸法M1と、同じであってもよく、内輪11等の前記寸法M1よりも僅かに小さくてもよい。
この構成により、転がり軸受10(内輪11及び外輪12)の軸方向一方側の寸法M1は、玉13の半径Rと略同じとなる。
【0085】
図14に示す転がり軸受10では、玉13の中心Pを基準とした保持器114の軸方向他方側の寸法(前記L6)は、玉13の半径Rよりも充分に小さい。
玉13の中心Pを基準とした転がり軸受10(内輪11及び外輪12)の軸方向他方側の寸法M2は、玉13の半径Rと略同じである。つまり、前記寸法M2は、玉13の半径Rと同じであってもよく、玉の半径Rよりも僅かに大きくてもよい。
また、内輪11又は外輪12の軸方向寸法(幅寸法)が、転がり軸受10の軸方向寸法(幅寸法)Mとなる。
【0086】
以上より、内輪11及び外輪12の軸方向寸法(全幅)M(M1+M2)、つまり、転がり軸受10の軸方向寸法Mが、玉13の直径(2×R)と略同じとなり、転がり軸受10の薄型化が可能となる。
なお、転がり軸受10の軸方向寸法Mは、玉13の直径と同じであってもよく、玉の直径よりも僅かに大きくてもよい。
【0087】
図15及び
図16に示す保持器114について更に説明する。
連結部116(板片部142)は、ポケット部115(収容部141)のうち、軸方向他方側の部分、つまり、ポケット部115が開口している側の部分と繋がっている。ポケット部115の開口側の部分115aに、玉13の脱落を防止するために、例えば樹脂製であるいわゆる冠形の保持器が有するような「爪」が設けられていない。ポケット部115の軸方向他方側の端となる開口側の部分115aから、周方向に延びるようにして連結部116(板片部142)が設けられている。よって、薄板の部材をプレス加工することで保持器114の製造が容易となる。
【0088】
ポケット部115は、玉13の軸方向一方側の半球を覆うと共に、残りとなる軸方向他方側の半球の一部も覆っている。薄板状である連結部116は、その全体が、玉13の中心Pよりも軸方向他方側に存在している。一つのポケット部115が有する一対の開口側の部分115a,115aの開口幅(最小値)Wは、玉13の直径(2×R)よりも小さい。全てのポケット部115(全ての収容部141)は、軸方向他方に向かって開口している。
以上の構成により、転がり軸受10の組み立ての際、内輪11と外輪12との間に配置した複数の玉13に対して、保持器114を軸方向一方側から押し入れることで、転がり軸受10の組み立てが可能となる。なお、この際、保持器114は弾性変形する。そして、組み立てが完了すると、前記の構成により、連結部16が例えば座屈しない限り、保持器114が複数の玉13の列から脱落しない。
【0089】
連結部116は、玉13の軸方向他方側の端(頂点)13bよりも軸方向一方側(玉13のピッチ円J側)に位置していて、玉13のピッチ円Jよりも軸方向他方側に位置している。このため、保持器114を、玉13の中心Pから軸方向他方側に小さくすることができる。
そして、前記のとおり、ポケット部115は、軸方向一方側に、外側平面146を有すると共に、そのポケット部115に、玉13の軸方向一方側の端13aを入り込ませかつ外側平面146において露出させる穴147が設けられている。これにより、保持器114を、玉13の中心Pから軸方向一方側に小さくすることができる。
以上より、保持器114が全体として軸方向に小さくすることができ、その結果、転がり軸受10の軸方向寸法が小さくなる。
【0090】
以上のように、
図15及び
図16に示す保持器114の場合、全体として薄板状の部材により構成されているが、樹脂製ではなく鋼製であるため、保持器114としての強度が充分に確保される。そして、内輪11と外輪12との間に配置した複数の玉13に対して、保持器114を押し入れることで、組み立てが可能となり、しかも、組み立てが完了すると保持器114が玉13から脱落しない。そして、保持器114の軸方向寸法を小さくすることが可能であり、その結果、転がり軸受10を薄型化することができる。
【0091】
〔その他〕
なお、参考として開示する発明として、転がり軸受は、
図14、
図15及び
図16に示す保持器114(その2)から、外側平面146及び穴147が省略された保持器を備えていてもよい。この場合、全体として薄板状の部材により構成されているが、樹脂製ではなく鋼製であるため、保持器としての強度が充分に確保される。そして、内輪11と外輪12との間に配置した複数の玉13に対して、その保持器を押し入れることで、組み立てが可能となり、しかも、組み立てが完了すると保持器が玉13から脱落しない。
【0092】
今回開示した実施形態は全ての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲に記載された構成と均等の範囲内での全ての変更が含まれる。
前記実施形態では、転がり軸受が深溝玉軸受である場合について説明したが、アンギュラ玉軸受であってもよい。
【符号の説明】
【0093】
10:転がり軸受 11:内輪 12:外輪
13:玉 13a,13b:端 14:保持器
15:ポケット部 16:連結部 31:第一の環状部材
32:第二の環状部材 41a,41b:収容部 42a,42b:板片部
46a,46b:外側平面 47a,47b:穴 48a,48b:側殻部
49a,49b:中央殻部 50a,50b:曲面 53a,53b:本体殻部
54a,54b:拡大片部 56a:内側平面 114:保持器
115:ポケット部 116:連結部 141:収容部
142:板片部 146:外側平面 147:穴
148:側殻部 149:中央殻部 150:曲面
K1:面 K2:面 K3:面
P:玉の中心 Q:ポケット空間