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特許7524597インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240723BHJP
【FI】
B41J2/01 123
B41J2/01 501
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020083703
(22)【出願日】2020-05-12
(65)【公開番号】P2021178428
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-12-23
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新妻 直人
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-237619(JP,A)
【文献】特開2007-276400(JP,A)
【文献】特開2009-196274(JP,A)
【文献】特開2011-252029(JP,A)
【文献】特開平09-277507(JP,A)
【文献】国際公開第2013/050080(WO,A1)
【文献】特開2005-007649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも色材を含むインクと、少なくとも凝集剤を含む処理液を、それぞれ液滴吐出手段により記録媒体表面に付与し合一させることにより画像を形成するインクジェット記録方法であって、
前記画像が形成される画像形成領域及び前記画像形成領域の周辺領域に、前記処理液を付与し、前記画像形成領域の周辺領域に付与する前記処理液の付与量を、前記画像形成領域の端部における前記処理液の付与量と同じ量とするように制御し、
前記画像形成領域の周辺領域が、前記画像形成領域の外周を起点として外周の外側に、0.030~0.150mmの範囲内の領域であり、
前記画像形成領域の端部における前記インクの付与量が15g/m 以下のときに、当該端部の周辺領域に前記処理液が付与されないように制御することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
25℃における、前記処理液の表面張力が前記インクの表面張力より小さいことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記処理液が、前記凝集剤として多価金属塩又は溶解系カチオンポリマーを含有し、かつ、前記処理液が樹脂微粒子を含有していないことを特徴とする請求項1又は請求項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
最大泡圧法により求められる、前記処理液の25℃、かつ寿命時間50msにおける動的表面張力が35mN/m以下であることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
少なくとも色材を含むインクと、少なくとも凝集剤を含む処理液を、それぞれ液滴吐出手段により、記録媒体表面に付与し合一させることにより画像を形成するインクジェット記録装置であって、
前記インクを吐出する吐出口と、前記処理液を吐出する吐出口とを有する液滴吐出手段を少なくとも備え、
前記画像が形成される画像形成領域及び前記画像形成領域の周辺領域に、前記処理液を付与し、前記画像形成領域の周辺領域を、前記画像形成領域の外周を起点として外周の外側に、0.030~0.150mmの範囲内の領域とし、前記画像形成領域の周辺領域に付与する前記処理液の付与量を、前記画像形成領域の端部における前記処理液の付与量と同じ量とし、前記画像形成領域の端部における前記インクの付与量が15g/m 以下のときに、当該端部の周辺領域に前記処理液が付与されないように制御する手段を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に関し、より詳しくは2液方式のインクジェット記録方法において、記録媒体上、特には低吸収性又は非吸収性の記録媒体上に形成される画像に係り、画像の品質が向上されたインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法において、記録媒体上で着滴インク同士が合一する液寄り現象や、異なる色間で滲みが起きるカラーブリードにより、画像品質が低下することが知られている。これらの解決手段として、インクジェットヘッド(以下、単に「ヘッド」ともいう。)から、インクとは別に、インク中の色材を凝集させる処理液を吐出させ、記録媒体上でインクと合一させることで、インクを良好に記録媒体に定着させる2液方式のインクジェット記録方法が、例えば、特開平8-52867号公報に開示されている。
【0003】
この2液方式のインクジェット記録方式において、カラーブリードの解決策として、色間の画像境界部に対して処理液を相対的に多く付与し、その周辺部分には処理液を少なく付与する手段が開示されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、画像境界部に処理液を相対的に多く付与し、その周辺部には処理液を付与することにより、ブリード現象やフェザリング現象のない良好なカラー画像が得られるインクジェット記録方法が開示されている。また、特許文献2には、印刷領域の境界領域における処理液の面密度を、印刷領域の内部領域の面密度より相対的に高く設定することにより、カラーブリード等の発生を抑制し、画像品質を向上させる印刷方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、余剰の凝集剤に起因して記録物の耐擦性などの耐久性の低下と画像境界部でのにじみを防ぐことを目的に、顔料に対する凝集剤の比率を、印刷領域では高く設定し、境界領域では所定以内に制御するインクジェット記録方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、連続した同一のインク付与量の印刷領域と境界領域で処理液の量を異ならせると、印刷領域と境界領域でのインクの凝集性の差が生じてしまい、抜き文字品質等の画像品質の低下を招くことが判明した。さらに、2液方式のインクジェット記録方式においてもカラーブリードの問題も十分に解決されていない。
【0007】
加えて、特に、記録媒体として、プラスチック基材、金属基材、皮革基材等の低吸収性、非吸収性の記録媒体を用いた場合には、上記影響がより顕著に発現し、従来の2液方式のインクジェット記録方法では、これらを解決する手段としては不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平8-216393号公報
【文献】国際公開第2013/050080号
【文献】特開2019-42997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、2液方式のインクジェット記録方法において、記録媒体上、特には低吸収性又は非吸収性の記録媒体上に形成される画像に係り、カラーブリード耐性、特に、抜き文字品質が向上されたインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、インクと凝集剤を含む処理液を用い、画像形成領域及び画像形成領域の周辺領域に処理液を付与する際、画像形成領域の周辺領域に付与する処理液の付与量を、画像形成領域の端部における処理液の付与量と同じ量とするように制御するインクジェット記録方法により、カラーブリード耐性、特には、抜き文字品質が向上したインクジェット画像が得られることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0012】
1.少なくとも色材を含むインクと、少なくとも凝集剤を含む処理液を、それぞれ液滴吐出手段により記録媒体表面に付与し合一させることにより画像を形成するインクジェット記録方法であって、
前記画像が形成される画像形成領域及び前記画像形成領域の周辺領域に、前記処理液を付与し、前記画像形成領域の周辺領域に付与する前記処理液の付与量を、前記画像形成領域の端部における前記処理液の付与量と同じ量とするように制御し、
前記画像形成領域の周辺領域が、前記画像形成領域の外周を起点として外周の外側に、0.030~0.150mmの範囲内の領域であり、
前記画像形成領域の端部における前記インクの付与量が15g/m 以下のときに、当該端部の周辺領域に前記処理液が付与されないように制御することを特徴とするインクジェット記録方法。
【0015】
.25℃における、前記処理液の表面張力が前記インクの表面張力より小さいことを特徴とする第1項に記載のインクジェット記録方法。
【0016】
.前記処理液が、前記凝集剤として多価金属塩又は溶解系カチオンポリマーを含有し、かつ、前記処理液が樹脂微粒子を含有していないことを特徴とする第1項又は2項に記載のインクジェット記録方法。
【0017】
.最大泡圧法により求められる、前記処理液の25℃、かつ寿命時間50msにおける動的表面張力が35mN/m以下であることを特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【0018】
.少なくとも色材を含むインクと、少なくとも凝集剤を含む処理液を、それぞれ液滴吐出手段により、記録媒体表面に付与し合一させることにより画像を形成するインクジェット記録装置であって、
前記インクを吐出する吐出口と、前記処理液を吐出する吐出口とを有する液滴吐出手段を少なくとも備え、
前記画像が形成される画像形成領域及び前記画像形成領域の周辺領域に、前記処理液を付与し、前記画像形成領域の周辺領域を、前記画像形成領域の外周を起点として外周の外側に、0.030~0.150mmの範囲内の領域とし、前記画像形成領域の周辺領域に付与する前記処理液の付与量を、前記画像形成領域の端部における前記処理液の付与量と同じ量とし、前記画像形成領域の端部における前記インクの付与量が15g/m 以下のときに、当該端部の周辺領域に前記処理液が付与されないように制御する手段を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明の上記手段により、2液方式のインクジェット記録方法において、記録媒体上、特には低吸収性又は非吸収性の記録媒体上に形成される画像に係り、カラーブリード耐性、特に、抜き文字品質(シャープネス)が向上したインクジェット画像が得られるインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供することができる。
【0020】
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、以下のように推察している。
【0021】
上記のとおり、2液方式のインクジェット記録方法においては、連続した同一のインク付き量の印刷領域と境界領域で処理液の量を異ならせると、印刷領域と境界領域でのインクの凝集性の差が生じてしまい、画像品質の低下を招くことが判明した。さらに、2液方式のインクジェット記録方式においてもカラーブリードの問題も十分に解決されていない。また、特に、プラスチック基材、金属基材、皮革基材等の低吸収、非吸収性基材は、上記影響が顕著に表れ、従来の2液方式のインクジェット記録方法では、これらを解決する手段としては不十分であった。
本発明のインクジェット記録方法では、画像が形成される画像形成領域及び記画像形成領域の周辺領域に処理液を付与し、前記画像形成領域の周辺領域に付与する前記処理液の付与量を、前記画像形成領域の端部における前記処理液の付与量と同じ量とするように制御することにより、上記課題が解決できることを見出した。
【0022】
すなわち、前記画像が形成される画像形成領域及び前記画像形成領域の周辺領域に、前記処理液を付与し、前記画像形成領域の周辺領域に付与する前記処理液の付与量を、前記画像形成領域の端部における前記処理液の付与量と同じ量とするように制御することにより、画像形成領域の境界領域におけるインクとの合一をより促進させることにより、インクジェット画像のエッジ部によるフェザリング等を抑制することにより、抜き文字等の品質、例えば、インク画像のシャープネスを飛躍的に向上させることができたものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明が適用可能な2液方式のインクジェット記録装置の主要部の一例を模式的に示す図
図2図1に示す方法により記録媒体表面に液滴吐出手段からインクと処理液が付与される様子を模式的に示す図
図3図1の記録装置を用いて本発明の記録方法により画像が形成された記録媒体の一例を示す図
図4図3の画像に対し、周辺領域に処理液を付与した画像が形成された記録媒体の一例を示す図
図5図4の処理液を付与した画像が形成された記録媒体のA-A切断面における構成の一例を示す断面図
図6】エッジ処理の一例を示すフロー図
図7】実施例で作製した原稿画像の構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のインクジェット記録方法は、少なくとも色材を含むインクと、少なくとも凝集剤を含む処理液を、それぞれ液滴吐出手段により記録媒体表面に付与し合一させることにより画像を形成するインクジェット記録方法であって、前記画像が形成される画像形成領域及び前記画像形成領域の周辺領域に、前記処理液を付与し、前記画像形成領域の周辺領域に付与する前記処理液の付与量を、前記画像形成領域の端部における前記処理液の付与量と同じ量とするように制御することを特徴とする。この特徴は、下記実施態様に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0025】
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記画像形成領域の端部における前記インクの付与量が15g/m以下のときに、当該端部の周辺領域に前記処理液が付与されないように制御することが、本発明の目的効果をより発現させることができる点で好ましい。
【0026】
また、前記画像形成領域の周辺領域が、前記画像形成領域の外周を起点として外周の外側に0.030~0.150mmの範囲内の領域であることが、処理液とインクとの合一をより促進させることができ、カラーブリードがより抑制されたシャープなインク画像を形成することができる点で好ましい。
【0027】
また、前記処理液が、前記凝集剤として多価金属塩又は溶解系カチオンポリマーを含有することが好ましい。
【0028】
通常、有機酸を使用すると一般的にpHが酸性域になる。そのため、インクジェットヘッド内で使用されている接着剤等の樹脂を劣化させ、インクジェットヘッド耐性が劣位になることがある。多価金属塩は、pHが中性域から弱アルカリ性であり、溶解系カチオンポリマーについても品番等を適宜選択することで、pHを中性域に調整することができる。そのため、上記の課題が解決できることから、凝集剤は溶解系カチオンポリマー又は多価金属塩であることがより好ましい。
【0029】
また、前記処理液が樹脂微粒子を含有していないことが、インクに対してより効果的な合一を発現させることができる点で好ましい。処理液が樹脂微粒子を含有しないことで、ヘッドのノズル面で処理液が乾燥増粘することが殆どなく、インクジェットの吐出性が良好となる効果を発現する点で好ましい。
【0030】
最大泡圧法により求められる、前記処理液の25℃、かつ寿命時間50msにおける動的表面張力が35mN/m以下であることが、本発明の目的効果をより発現させることができる点で好ましい。
【0031】
また、本発明のインクジェット記録装置としては、少なくとも色材を含むインクと、少なくとも凝集剤を含む処理液を、それぞれ液滴吐出手段により、記録媒体表面に付与し合一させることにより画像を形成するインクジェット記録装置であって、前記インクを吐出する吐出口と、前記処理液を吐出する吐出口とを有する液滴吐出手段を少なくとも備え、 前記画像が形成される画像形成領域及び前記画像形成領域の周辺領域に、前記処理液を付与し、前記画像形成領域の周辺領域に付与する前記処理液の付与量を、前記画像形成領域の端部における前記処理液の付与量と同じ量とするように制御する手段を有することを特徴とする。
【0032】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0033】
《インクジェット記録方法》
本発明のインクジェット記録方法(以下、インクジェット法、又は単に「記録方法」ともいう。)は、少なくとも色材を含むインクと、少なくとも凝集剤を含む処理液を、それぞれ液滴吐出手段により記録媒体表面に付与し合一させることにより画像を形成するインクジェット記録方法であって、前記画像が形成される画像形成領域及び前記画像形成領域の周辺領域に、前記処理液を付与し、前記画像形成領域の周辺領域に付与する前記処理液の付与量を、前記画像形成領域の端部における前記処理液の付与量と同じ量とするように制御することを特徴とする。
【0034】
初めに、本発明の記録方法に適用が可能なインクジェット記録装置の基本的な構成について説明する。
【0035】
本発明の記録方法は、少なくとも色材を含むインクと、少なくとも凝集剤を含む処理液を、それぞれ液滴吐出手段により記録媒体表面に付与し合一させることにより画像を形成する、いわゆる2液方式の記録方法である。
【0036】
《インクジェット記録装置》
図1に本発明の記録方法に適用可能な2液方式のインクジェット記録装置(スキャン方式、以下、単に「記録装置」ともいう。)の主要部の一例を模式的に示す。また、図2に、図1に示す装置により記録媒体表面に液滴吐出手段からインクと処理液が付与される様子を模式的に示す。以下、図1及び図2を参照しながら、スキャン方式による画像形成を一例に本発明の記録方法を説明するが、本発明の記録方法はこれに限定されない。後述するライン方式のインクジェット記録装置にも適用可能である。
【0037】
図1に示す記録装置を用いた記録方法では、図2に示すとおり記録媒体M上を液滴吐出手段20が各色のインクY、M、C、K(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)及び処理液Prを吐出しながら走査方向X(以下、「X方向」ともいう。)に移動することで画像の形成が行われる。図1に示す記録装置においては、記録媒体Mは、搬送手段(図示せず)により、走査方向Xに直交する方向Y(以下、「搬送方向Y」又は「Y方向」ともいう。)に、順次、搬送されることで記録媒体Mの表面(画像形成面)の略全体に画像が形成可能である。
【0038】
液滴吐出手段20は、処理液用のヘッド1Pr及び各色のインクに対応するヘッド1Y、1M、1C、1K(以下、これらをまとめて「ヘッドユニット1」ともいう。)と、これらのヘッドを走査方向Xに沿って配置、保持するためのキャリッジ22を有する。
【0039】
各ヘッドの記録媒体Mの表面と対向する面(ノズル面)には、それぞれノズルが走査方向Xと直交する方向Yに沿って複数配列されて設けられており、インク及び処理液に対して適切に圧力が印加されることでこれらのノズルから微小な液滴を吐出する。液滴吐出手段20は、ヘッドユニット1におけるノズル面が記録媒体Mの表面に直交する方向(高さ方向)に当該表面から所定の距離で離間した状態で支持されている。
【0040】
液滴吐出手段20は走査部30により走査方向Xに走査される。走査部30は、例えば、ノズル面が高さ方向に記録媒体Mの表面から上述の所定の距離で離間した状態でキャリッジ22を支持するレールを備え、走査方向Xに沿って延在するレールに沿ってキャリッジ22を移動可能とする。
【0041】
図1には、液滴吐出手段20のX方向への走査と記録媒体MのY方向への搬送により、記録媒体M上に画像の形成が可能な範囲としての全印刷領域Pを示す。全印刷領域PのX方向の長さを印刷領域幅PW、Y方向の長さを印刷領域長PLとする。
【0042】
液滴吐出手段20が走査方向Xに1回移動すると、全印刷領域Pの印刷領域幅PWについて、ヘッドユニット1の走査方向Xと直交する方向Yの幅Wの領域で、インクY、M、C、K(以下、まとめて「In」ともいう。)及び処理液Prの付与が行われる。図1に示すようなスキャン方式の記録方法では、液滴吐出手段20の走査方向Xへの1回の移動によりインクIn及び処理液Prを記録媒体Mに付与する操作を1回の印刷パスとして、同じ領域に複数回の印刷パスを行い、最終的に記録媒体M上に所望の画像を形成することが行われる。
【0043】
ここで、記録装置においては、原稿の画像データに応じて制御部で画素領域毎にインクの付与の有無及び付与量が決定され、液滴吐出手段がこの決定に基づいて記録媒体Mの表面にインクの付与を行うことで画像が形成される。1回の印刷パスで記録媒体Mへの画像形成が完了する場合もあるが、解像度(dpi)が高い画像を形成する場合には、画像を分解して、複数回の印刷パスを行うことで、記録媒体Mへの画像形成を行う。
【0044】
図1では、液滴吐出手段20の1回の移動でインク及び処理液が付与される領域は、走査方向Xの印刷領域幅PWとヘッドユニット1の走査方向Xと直交する方向Yの幅W(以下、「ヘッドユニット1の幅W」ともいう。)を掛け合わせた面積の領域である。
【0045】
全印刷領域Pは、この印刷領域Aの集合体である。全印刷領域Pを構成する印刷領域Aの個数は、印刷領域長PLをヘッドユニット1の幅Wで除した値で示される。全印刷領域Pは、例えば、図1に示す記録媒体Mの場合、全印刷領域Pを構成する印刷領域Aの個数は6であり、記録媒体Mの手前から奥に向かって、印刷領域A1、A2、A3、A4、A5、及びA6が順番に並列して全印刷領域Pが構成されている。
【0046】
図1では、全印刷領域Pにおいて、印刷領域A1、A2及びA3には既に画像が形成されている。印刷領域A4においては液滴吐出手段20により画像が形成されている途中であり、印刷領域A5及びA6には印刷領域A4での画像形成が完了した後、順次画像が形成される。図1においてImは画像形成領域を示す。
【0047】
本発明の記録方法においては、例えば、図1に示す記録装置を用いて、インクIn及び処理液Prを、それぞれ液滴吐出手段20により記録媒体M表面に上記のように付与し合一させることにより画像を形成する記録方法である。図1及び図2において処理液PrはインクInより前に記録媒体M表面に付与される形態が示されているが、本発明の記録方法においては、処理液Prの付与はインクInより後に行ってもよい。例えば、処理液Pr用のヘッド1Prをインク用のヘッドの後に配置することで、インクInの付与後に処理液Prが付与される構成でもよい。
【0048】
本発明の記録方法においては、画像が形成される画像形成領域、例えば、図1においてImで示される領域に、下記(1)及び(2)の制御条件に適合するように、インクIn及び処理液Prが付与されることが好ましい。
【0049】
(1)前記画像が形成される単位領域毎に前記インクの付与量に応じて前記処理液の付与量を変化させ、かつ、前記単位領域の全てにおいて前記処理液の付与量が5g/m以下となるように制御する。
【0050】
(2)複数回の印刷パスで前記画像が形成されたときに、前記処理液の付与量が0.8g/m以上となる前記単位領域において、各印刷パスにおける前記単位領域における前記処理液の付与量の平均を、各印刷パス間で比較したときの偏差が±30%以内となるように制御する。
【0051】
また、液滴吐出手段がライン方式の場合、液滴吐出手段は、記録媒体Mに対して全印刷領域Pの印刷領域幅PW以上の長さを持ち、処理液用のヘッド1Pr及び各色のインクに対応するヘッド1Y、1M、1C、1Kは印刷領域幅PWと平行するように搬送方向Yに沿って順に配置される。処理液用のヘッド1Prの配置は、各色のインクのヘッドの前であっても後であってもよい。
【0052】
ライン方式の液滴吐出手段において、一つのヘッドユニット1(ヘッド1Pr及びヘッド1Y、1M、1C、1Kのセット)で印刷領域幅PW以上であるものを用いてもよいし、複数のヘッドユニット1を組み合わせて印刷領域幅PW以上となるように構成してもよい。
【0053】
また、複数のヘッドユニット1を、互いのノズルが互い違いとなるように並設して、これらヘッド全体として液滴吐出手段の解像度を高くしてもよい。また、このような液滴吐出手段を、記録媒体の搬送方向Yに沿って複数並設してもよい。その場合、上記(2)の制御条件に係る印刷パスの回数は搬送方向Yに沿って並設されたヘッドユニット1の数に相当する。
【0054】
各ヘッドの方式は、特に制限されず、オンデマンド方式及びコンティニュアス方式のいずれのヘッドでもよい。オンデマンド方式のヘッドの例には、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型及びシェアードウォール型を含む電気-機械変換方式、ならびにサーマルインクジェット型及びバブルジェット(「バブルジェット」はキヤノン株式会社の登録商標)型を含む電気-熱変換方式等が含まれる。
【0055】
上記ヘッドの中では、電気-機械変換方式に用いられる電気-機械変換素子として圧電素子を用いたヘッド(「ピエゾ型インクジェットヘッド」ともいう。)であることが好ましい。
【0056】
《エッジ処理》
本発明の記録方法においては、記録画像が形成される画像形成領域及び前記画像形成領域の周辺領域に、前記処理液を付与し、前記画像形成領域の周辺領域に付与する前記処理液の付与量を、前記画像形成領域の端部における前記処理液の付与量と同じ量とするように制御して画像形成することを特徴とする。エッジ処理の具体的な方法については後述する。
【0057】
本発明の記録装置の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記画像が形成される画像形成領域及び前記画像形成領域の周辺領域に、前記処理液を付与し、前記画像形成領域の周辺領域に付与する前記処理液の付与量を、前記画像形成領域の端部における前記処理液の付与量と同じ量とするように制御する手段を有することを特徴とする。
【0058】
更には、前述の様に、前記画像形成領域の端部における前記インクの付与量が15g/m以下という中~低濃度条件下では、当該端部の周辺領域に前記処理液の付与を行わないことが好ましい。
【0059】
図3に、図1の記録装置を用いて本発明の記録方法により画像が形成された記録媒体の一例を示す。図3に示す画像形成領域Imは、原稿画像に対応するものである。なお、図1において画像が形成途中の記録媒体Mについて、図3では画像形成が完了した状態を示す。2液方式のインクジェット記録方法により、記録媒体M表面の全印刷領域Pに画像を形成する場合、例えば、パソコン上の原稿の画像であればハーフトーン処理された画像データに基づいて、全印刷領域PにおけるインクInが付与される画素の配置、付与量等が決定され、それに対応するように、処理液Pr付与される画素の配置、付与量等が決定される。
【0060】
図3に示す例では、インクInは、原稿の画像データに基づいて決定された付与位置、付与量に従って、記録媒体M上の画像形成領域Imに付与される。また、処理液Prについては、画像形成領域Imに、前記インクの付与量に応じて前記処理液の付与量を変化させ、かつ、前記単位領域の全てにおいて処理液の付与量が5g/m以下となるように制御する。
【0061】
本発明においては、図3に記載した形成画像に対し、画像形成領域に加えて当該画像形成領域の周辺領域にも処理液Prを付与することを特徴としている。そして、周辺領域に付与する処理液Prの付与量を、当該周辺領域に隣接する画像形成領域の端部における処理液Prの付与量と同じ量とすることが特徴である。
【0062】
図4は、図1の記録装置を用いて本発明の記録方法により画像が形成された記録媒体の別の一例を示す図である。図4に示す画像形成領域Imは、図3に示す画像形成領域Imと同じ原稿画像を用いて形成された、当該原稿画像に対応するものである。図4に示す例においては、インクInは記録媒体M上の画像形成領域Imのみに付与され、処理液Prについては画像形成領域Imと画像形成領域Imの周辺領域Sの両方に付与されている。
【0063】
図4の例において、画像形成領域Imには、図3の例と同様にして、本発明の記録方法により、インクIn及び処理液Prが付与される。そして、処理液Prについては、周辺領域Sにも付与される。周辺領域Sに付与される処理液Prの付与量は、周辺領域Sに隣接する画像形成領域Imの端部に付与される処理液Prの付与量と同じ量とする。これにより、画像形成領域Imとその周辺領域Sとの境界近傍におけるインクの滲みの発生を抑制する効果が得られる。
【0064】
例えば、周辺領域Sに隣接する画像形成領域Imの端部において、単位領域に付与される処理液Prが2g/mであれば、周辺領域Sにおいて付与量2g/mで処理液Prが付与される。周辺領域Sにおける処理液Prの付与量が、周辺領域Sに隣接する画像形成領域Imの端部に付与される処理液Prの付与量より多いとインク塗膜にひび割れが生じる場合があり、少ないと画像形成領域Imとその周辺領域Sとの境界近傍におけるインクの滲みを十分に抑えることができないことがある。なお、本発明において「同じ量」については、ヘッドにおける処理液Prの吐出性能等の記録装置の性能により生じる付与量の誤差範囲内であれば「同じ量」として扱う。
【0065】
なお、画像形成領域Imとその周辺領域Sとの境界近傍におけるインクの滲みについては、画像形成領域Imの端部におけるインクInの付与量が多い場合に発生しやすく、周辺領域Sに処理液Prを付与する効果は大きい。一方で、画像形成領域Imの端部におけるインクInの付与量が少ない場合には、周辺領域Sに処理液Prを付与すると、反って上記境界近傍においてインクの滲みが発生することがある。
【0066】
このような観点から、本発明の記録方法においては、画像形成領域Imの端部におけるインクInの付与量が15g/m以下のときには、より具体的には、画像形成領域Imの端部において、単位領域Uに付与されるインクInの付与量が15g/m以下のときには、当該端部の周辺領域Sに処理液Prが付与されないように制御することが好ましい。
【0067】
周辺領域Sは、画像形成領域Imの端部Gを起点として端部Gの外側に0.030~0.150mmまでの領域であることが好ましい。すなわち、周辺領域Sの幅Swは0.030~0.150mmが好ましい。
【0068】
なお、画像形成領域Imの端部Gとは画像形成領域Imの輪郭を示し、図4に示す画像形成領域Imのように、内側に画像が形成されない白抜き領域Whが存在する場合、当該白抜き領域Whと画像形成領域Imの境界線も端部Gの範疇とする。ここで、画像形成領域Imの端部Gは、原稿の画像をハーフトーン処理して、インクInを付与する画素の配置等を決定する場合には、ハーフトーン処理前の原稿の画像に対して、種々の手法(Sobel法、Laplacian of Gaussian法、Canny法等)により画像の濃淡の差が大きい境界として検出することができる。
【0069】
本発明の記録方法においては、上記のとおりインクInと処理液Prを記録媒体表面に付与し合一させた後、通常、合一された液状成分を乾燥してインク塗膜を得ることで画像を形成する。乾燥は、以下に説明するインクIn及び処理液Prの組成及び付与量に応じて公知の方法で行うことができる。
【0070】
図5は、図4に記載の構成において、切断面A-Aにおける形成したインクジェット画像と、その周辺領域に形成した処理液単独の付与領域を示す。
【0071】
図5の(a)は、本発明に係るインクジェット画像の断面図であり、図5の(b)は、インクIn及び処理液Prによる画像構成の一例を示してある。
【0072】
図5の(a)及び(b)で示すように、インクジェット画像の画像形成領域Imは、インクIn及び処理液Prの液滴の集合体として構成され、その画像形成領域Imの周辺領域Sに、画像形成領域Imの端部Gにおける処理液Prの付与量と同じ量の処理液Prを付与することを特徴とする。
【0073】
次いで、エッジ処理における処理方法について、さらに説明する。
【0074】
図6は、本発明の記録方法におけるエッジ処理の一例を示すフロー図である
1)例えば、RGBで表現された画像を、パソコン画面上表示する。このRGB画像を、市販の画像加工ソフト、例えば、Photoshop等を用いて、CMYK画像に変換する。
【0075】
2)作製したCMYK画像について、ハーフトーン処理を行う。ハーフトーン処理は、画像濃度をインクにより形成されるドットの大きさ、面密度等の面積諧調として表現する手法であり、既知の誤差拡散法やディザ法等を適応することにより行うことができる。
【0076】
3)CMYK画像のエッジ部の検出。ハーフトーン処理前のCMYK画像に対し、種々の手法(Sobel法、Laplacian of Gaussian法、Canny法等)により画像のエッジ部(濃淡の差が大きい部位)を検出することができる。
【0077】
4)処理液量の調整手段
次いで、下記の方法により、処理液量を調整する。
(1)前記画像が形成される単位領域毎に前記インクの付与量に応じて前記処理液の付与量を変化させ、かつ、前記単位領域の全てにおいて前記処理液の付与量が5g/m以下となるように制御する。
【0078】
(2)複数回の印刷パスで前記画像が形成されたときに、前記処理液の付与量が0.8g/m以上となる前記単位領域において、各印刷パスにおける前記単位領域における前記処理液の付与量の平均を、各印刷パス間で比較したときの偏差が±30%以内となるように制御する。
【0079】
5)エッジ領域の拡張
画像のエッジ処理は、ハーフトーン処理前画像でエッジ部として検出された画素アドレスを記録し、液量調整された処理液用画像の上記記録した画素アドレスに対応する画素より、指定した範囲で画素を拡張するように処理液を付与する画素を追加する。このとき、拡張する範囲の処理液の付与量が、印刷領域の処理液の付与量と同じになりように、制御する。
【0080】
6)周辺領域への処理液の付与。CMYK画像のエッジ検出部に対応する処理液画像の画素の周辺部に、新たな処理液画素を配置することで、エッジ部のインク滲みを防止することができる。
【0081】
ここで、インク印刷領域からはみ出す処理液の付き量が、エッジ検出部に隣接するインク印刷領域より多い場合は、インク塗膜にひび割れが生じ、少ない場合はインクの滲みを十分に抑えることができず、画像品質の低下を招く。
【0082】
《インクジェット画像の形成方法》
本発明のインクジェット記録方法(以下、単に「記録方法」ともいう。)においては、少なくとも色材を含むインクと、少なくとも凝集剤を含む処理液を、それぞれ液滴吐出手段により記録媒体表面に付与し合一させることにより画像を形成する記録方法であって、この時、インクの付与量と処理液の付与量の関係を制御して画像形成することが好ましい。
【0083】
(1)前記画像が形成される単位領域毎に前記インクの付与量に応じて前記処理液の付与量を変化させ、かつ、前記単位領域の全てにおいて前記処理液の付与量が5g/m以下となるように制御する。
【0084】
(2)複数回の印刷パスで前記画像が形成されたときに、前記処理液の付与量が0.8g/m以上となる前記単位領域において、各印刷パスにおける前記単位領域における前記処理液の付与量の平均を、各印刷パス間で比較したときの偏差が±30%以内となるように制御する。
【0085】
本発明の記録方法において、各画素領域へのインクInの付与量の決定は、原稿の画像データに応じて公知の方法で行われる。本発明の記録方法においては、上記のとおり、このように決定され記録媒体M表面に付与されるインクInの付与量と処理液Prの付与量の関係を上記の(1)及び(2)のとおり制御することを特徴とする。
【0086】
上記(1)においては、処理液Prの付与量の制御は、画像が形成される単位領域毎にインクInの付与量に応じて変化するように行われる。ただし、画像が形成される単位領域の全てにおいて処理液Prの付与量が5g/m以下となるように、処理液Prの付与量の制御が行われる。
【0087】
画像が形成される単位領域(以下、「単位領域U」ともいう。)の大きさは、本発明の効果が発現できる範囲で適宜選択される。具体的には、1画素を単位領域Uとしてもよい。本発明の効果を発現しやすいことから単位領域Uは4画素以上を1単位とすることが好ましい。さらに、縦2画素×横2画素で構成される4画素、縦4画素×横4画素で構成される16画素、及び縦6画素×横6画素で構成される36画素を単位領域Uとすることがより好ましい。
【0088】
《インクジェット画像の形成材料》
次いで、本発明の記録方法で用いる、少なくとも色材を含むインクInと、少なくとも凝集剤を含む処理液Prについて説明する。
【0089】
〔インク〕
本発明に係るインクInは、少なくとも色材を含有する。色材としては顔料であることが好ましい。インクInは、例えば、色材としての顔料と、顔料を分散するための高分子分散剤及び樹脂微粒子、並びに、媒体としての水及び有機溶剤等を含有することが好ましい。
【0090】
(色材)
本発明に係るインクに含有される色材としては、顔料であることが好ましく、本発明に適用が可能な顔料としては、アニオン性の分散顔料、例えば、アニオン性の自己分散性顔料や、アニオン性の高分子分散剤により顔料を分散したものを用いることができ、特に、アニオン性の高分子分散剤により顔料を分散した顔料分散液を適用することが好適である。
【0091】
顔料としては、従来公知のものを特に制限なく使用でき、例えば、不溶性顔料、レーキ顔料等の有機顔料及び、酸化チタン等の無機顔料を好ましく用いることができる。
【0092】
なお、インク吐出安定性と密着性の確保が一般に困難な酸化チタンにおいて、本発明により特に好適に滲みを生じにくくし、かつ、密着性を高めることができる。
【0093】
酸化チタンには、アナターゼ型、ルチル型及びブルーカイト型の三つの結晶形態があるが、汎用なものとしてはアナターゼ型とルチル型に大別できる。特に限定するものではないが、屈折率が大きく隠蔽性が高いルチル型が好ましい。具体的には、富士チタン工業株式会社のTRシリーズ、テイカ株式会社のJRシリーズや石原産業株式会社のタイペークなどが挙げられる。
【0094】
不溶性顔料としては、特に限定するものではないが、例えば、アゾ、アゾメチン、メチン、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、キナクリドン、アントラキノン、ペリレン、インジゴ、キノフタロン、イソインドリノン、イソインドリン、アジン、オキサジン、チアジン、ジオキサジン、チアゾール、フタロシアニン、ジケトピロロピロール等が好ましい。
【0095】
好ましく用いることのできる具体的な有機顔料としては、以下の顔料が挙げられる。
【0096】
マゼンタ又はレッド用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド222、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
【0097】
オレンジ又はイエロー用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー15:3、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー155等が挙げられる。特に色調と耐光性のバランスにおいて、C.I.ピグメントイエロー155が好ましい。
【0098】
グリーン又はシアン用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
【0099】
また、ブラック用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、C.I.ピグメントブラック6、C.I.ピグメントブラック7等が挙げられる。
【0100】
(高分子分散剤)
顔料を分散させるために用いる高分子分散剤は、特に限定されないが、アニオン性基を有する高分子分散剤が好ましく、分子量が5000~200000の範囲内のものを好適に用いることができる。
【0101】
高分子分散剤としては、例えば、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン誘導体、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマル酸、フマル酸誘導体から選ばれた2種以上の単量体に由来する構造を有するブロック共重合体、ランダム共重合体及びこれらの塩、ポリオキシアルキレン、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等を挙げることができる。
【0102】
高分子分散剤は、アクリロイル基を有することが好ましく、中和剤(中和塩基)で中和して添加することが好ましい。ここで中和塩基は特に限定されないが、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン等の有機塩基であることが好ましい。特に、顔料が酸化チタンであるとき、酸化チタンは、アクリロイル基を有する高分子分散剤で分散されていることが好ましい。
【0103】
高分子分散剤としては、市販品を用いてもよい。高分子分散剤の市販品としては、例えば、BASF社製のジョンクリル819等が挙げられる。
【0104】
また、高分子分散剤の添加量は、顔料に対して、10~100質量%の範囲内であることが好ましく、10~40質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0105】
顔料としては、顔料粒子表面を上記高分子分散剤で被覆した、いわゆるカプセル顔料の形態を有することも好ましい。顔料を高分子分散剤で被覆する方法としては、公知の種々の方法を用いることができるが、例えば、転相乳化法、酸析法、又は、顔料を重合性界面活性剤により分散し、そこへモノマーを供給し、重合しながら被覆する方法などを好ましく例示できる。
【0106】
特に好ましい方法として、水不溶性樹脂を、メチルエチルケトンなどの有機溶剤に溶解し、さらに塩基にて樹脂中の酸性基を部分的、又は完全に中和後、顔料及びイオン交換水を添加し、分散したのち、有機溶剤を除去し、必要に応じて加水して調製する方法を挙げることができる。
【0107】
インク中における顔料の分散状態の平均粒子径は、50nm以上、200nm未満であることが好ましい。これにより、顔料の分散安定性を向上でき、インクの保存安定性を向上できる。顔料の粒子径測定は、動的光散乱法、電気泳動法等を用いた市販の粒径測定機器により求めることができるが、動的光散乱法による測定が簡便で、且つ該粒子径領域を精度よく測定できる。
【0108】
顔料は、分散剤及びその他所望する諸目的に応じて必要な添加物とともに、分散機により分散して用いることができる。
【0109】
分散機としては、従来公知の分散装置、例えば、ボールミル、サンドミル、ラインミル、高圧ホモジナイザー等を使用できる。中でも、サンドミルによって顔料を分散させると、粒度分布がシャープとなるため好ましい。また、サンドミル分散に使用するビーズの材質としては、格別限定されないが、ビーズ破片の生成やイオン成分のコンタミネーションを防止する観点から、ジルコニア又はジルコンであることが好ましい。さらに、このビーズ径は、0.3~3.0mmの範囲内であることが好ましい。
【0110】
インクにおける顔料の含有量は、特に限定されないが、酸化チタンについては、7~18質量%の範囲内が好ましく、有機顔料については0.5~7質量%の範囲内が好ましい範囲である。
【0111】
(樹脂微粒子)
本発明に係るインクに用いる樹脂微粒子は、水不溶性樹脂微粒子であることが好ましい。本発明で使用する水不溶性樹脂微粒子は、インクを受容でき、当該インクに対して溶解性又は親和性を有する水不溶性樹脂の微粒子分散液である。
【0112】
当該水不溶性樹脂微粒子とは、前述したように、本来水不溶性であるが、ミクロな微粒子として樹脂が水系媒体中に分散する形態を有するものであり、乳化剤等を用いて強制乳化させ水中に分散している非水溶性樹脂、又は、分子内に親水性の官能基を導入して、乳化剤や分散安定剤を使用することなくそれ自身で安定な水分散体を形成する自己乳化できる非水溶性樹脂である。これらの樹脂は、通常、水又は水/アルコール混合溶剤中に乳化分散させた状態で用いられる。
【0113】
用いられる樹脂としては、少なくとも、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂又はポリウレタン系樹脂とポリアクリル系樹脂の複合樹脂微粒子であることが好ましい。
【0114】
上記ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂又はポリウレタン系樹脂とポリアクリル系樹脂の複合樹脂微粒子については、後述の処理液の項でその詳述を記載したものを適宜用いることが好ましいが、処理液に用いる樹脂微粒子は、イオン性がカチオン性又はノニオン性であることが好ましいのに対して、インクに用いる樹脂微粒子は、アニオン性であることが好ましい。
【0115】
中でも、インクに用いられる樹脂微粒子は、酸構造を含有することが好ましく、界面活性剤の添加量が少なくても、水中に分散させることが可能となり、形成するインク画像の耐水性が向上する。これを、自己乳化型といい、界面活性剤を使用すること無く分子イオン性のみで、水中にウレタン系樹脂が分散安定化しうることを意味する。酸構造の例には、カルボキシ基(-COOH)、スルホン酸基(-SOH)等の酸基等が含まれる。酸構造は、樹脂において側鎖に存在していてもよく、末端に存在していてもよい。
【0116】
上記酸構造の一部又は全部は、中和されていることが好ましい。酸構造を中和することにより、樹脂の水分散性を向上させることができる。酸構造を中和する中和剤の例としては、有機アミン類が好ましく、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミンを用いることが好ましい。
【0117】
インクに用いられる樹脂微粒子としては市販品を用いてもよい。樹脂微粒子の市販品の例を、樹脂の種類別に以下に挙げる。
【0118】
〈ポリエステル系〉
高松油脂社製;ペスレジンA-110F、A-520、A-613D、A-615GE、A-640、A-645GH、A-647GEX、ユニチカ社製;エリーテルKA-5034、KA-5071S、KA-1449、KA-0134、KA-3556、KA-6137、KZA-6034、KT-8803、KT-8701、KT-9204、KT-8904、KT-0507、KT-9511等
〈ウレタン系〉
楠本化成社製;NeoRez R-967、R-600、R-9671、三井化学社製;W-6061、W-5661、WS-4000等
〈アクリル系〉
楠本化成社製;NeoCryl A-1127、ジャパンコーティングレジン社製;モビニール 6899D、6969D、6800、6810、トーヨーケム社製;TOCRYL W-7146、W-7150、W-7152等
インクにおける樹脂微粒子の含有量は、特に限定されないが、2~10質量%の範囲内が好ましく、2~5質量%の範囲内がより好ましい。
【0119】
(有機溶剤)
インクに含有される有機溶剤としては、水溶性の有機溶剤を好適に用いることができる。水溶性の有機溶剤としては、例えば、アルコール類、多価アルコール類、アミン類、アミド類、グリコールエーテル類、炭素数が4以上である1,2-アルカンジオール類などが挙げられる。
【0120】
〈アルコール類〉
アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、t-ブタノール、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、n-ノニルアルコール、トリデシルアルコール、n-ウンデシルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ベンジルアルコール等が挙げられる。
【0121】
〈多価アルコール類〉
多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、エチレンオキサイド基の数が5以上のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、プロピレンオキサイド基の数が4以上のポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール等が挙げられる。
【0122】
〈アミン類〉
アミン類としては、例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン等が挙げられる。
【0123】
〈アミド類〉
アミド類としては、例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0124】
〈グリコールエーテル類〉
グリコールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0125】
〈炭素数が4以上である1,2-アルカンジオール類〉
炭素数が4以上である1,2-アルカンジオール類としては、例えば、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール等が挙げられる。
【0126】
特に好ましく用いられる有機溶剤は、多価アルコール類であり、高速プリント時の滲みを好適に抑制することができる。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールが好ましい。
【0127】
インクには、これら有機溶剤から選ばれる1種又は2種以上を組み合わせて含有することができる。
【0128】
インクにおける有機溶剤の含有量は、特に限定されないが、10~60質量%の範囲内であることが好ましい。
【0129】
(水)
本発明に係るインクに含まれる水については、特に限定されるものではなく、イオン交換水、蒸留水、又は純水であり得る。インクにおける水の含有量は、特に限定されないが、45~85質量%の範囲内であることが好ましい。
【0130】
(その他の添加剤)
本発明に係るインクは、必要に応じて、界面活性剤、出射安定性、プリントヘッドやインクカートリッジ適合性、保存安定性、画像保存性、その他の諸性能向上の目的に応じて、公知の各種添加剤を含有することができる。
【0131】
〈界面活性剤〉
本発明に係るインクでは、界面活性剤を含有することが好ましく、これにより、インクのノズルからの出射安定性の向上や、記録媒体に着弾したインク液滴の広がり(ドット径の拡大)を制御することができる。
【0132】
本発明に係るインクで用いることができる界面活性剤は、特に制限なく用いることができるが、インクの他の構成成分にアニオン性の化合物を含有するときは、界面活性剤のイオン性はアニオン、ノニオン又はベタイン型が好ましい。
【0133】
本発明において、好ましくは静的な表面張力の低下能が高いフッ素系又はシリコーン系の界面活性剤や、動的な表面張力の低減能が高いジオクチルスルホサクシネートなどのアニオン界面活性剤、比較的低分子量のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アセチレングリコール類、プルロニック型界面活性剤(プルロニックは登録商標)、ソルビタン誘導体などのノニオン界面活性剤が好ましく用いられる。フッ素系又はシリコーン系界面活性剤と、動的な表面張力の低減能が高い界面活性剤を併用して用いることも好ましい。
【0134】
界面活性剤として、シリコーン系又はフッ素系の界面活性剤を添加することで、塩化ビニルシートをはじめ種々の疎水性樹脂からなる記録媒体や、印刷本紙などのインク吸収能が低い記録媒体に対して、インク混じり(ビーディング)をいっそう抑えることができ、高画質な印字画像を得られる点で好ましい。
【0135】
上記シリコーン系の界面活性剤としては、好ましくはポリエーテル変性ポリシロキサン化合物があり、例えば、信越化学工業製のKF-351A、KF-642やビッグケミー製のBYK345、BYK347、BYK348、エボニック社製のTegowet260等が挙げられる。
【0136】
上記フッ素系の界面活性剤は通常の界面活性剤の疎水性基の炭素に結合した水素の代わりに、その一部または全部をフッ素で置換したものを意味する。この内、分子内にパーフルオロアルキル基を有するものが好ましい。
【0137】
上記フッ素系の界面活性剤のうち、ある種のものは大日本インキ化学工業社からメガファック(Megafac)Fなる商品名で、旭硝子社からサーフロン(Surflon)なる商品名で、ミネソタ・マイニング・アンド・マニファクチュアリング・カンパニー社からフルオラッド(Fluorad)FCなる商品名で、インペリアル・ケミカル・インダストリー社からモンフロール(Monflor)なる商品名で、イー・アイ・デュポン・ネメラス・アンド・カンパニー社からゾニルス(Zonyls)なる商品名で、またファルベベルケ・ヘキスト社からリコベット(Licowet)VPFなる商品名で、それぞれ市販されている。
【0138】
インクにおける界面活性剤の含有量は、特に限定されないが、インク全質量の0.1~5.0質量%の範囲内であることが好ましい。
【0139】
本発明に用いられるインクでは、上記説明した以外に、必要に応じて、出射安定性、プリントヘッドやインクカートリッジ適合性、保存安定性、画像保存性、その他の諸性能向上の目的に応じて、公知の各種添加剤、例えば、多糖類、粘度調整剤、比抵抗調整剤、皮膜形成剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、防ばい剤、防錆剤等を適宜選択して用いることができ、例えば、流動パラフィン、ジオクチルフタレート、トリクレジルホスフェート、シリコーンオイル等の油滴微粒子、特開昭57-74193号公報、同57-87988号公報、同62-261476号公報等に記載の紫外線吸収剤、特開昭57-74192号公報、同57-87989号公報、同60-72785号公報、同61-146591号公報、特開平1-95091号公報、同3-13376号公報等に記載の退色防止剤、特開昭59-42993号公報、同59-52689号公報、同62-280069号公報、同61-242871号公報、特開平4-219266号公報等に記載の蛍光増白剤等を挙げることができる。
【0140】
本発明に用いられるインクInは、インクInの粘度としては、25℃で1~40mPa・sであることが好ましく、より好ましくは2~10mPa・sである。インクInの粘度は、回転式粘度計により測定できる。特に断りのない限り本明細書における粘度は25℃での粘度である。
【0141】
また、25℃における、インクInの静的表面張力は、処理液Prの静的表面張力より大きいことが好ましい。インクInの静的表面張力は、25℃で25~33mN/mの範囲内にあることが好ましく、25~29mN/mの範囲内にあることがより好ましい。インクInの静的表面張力は、白金プレート法(ウィルヘルミ法)等を適用した表面張力計により測定できる。特に断りのない限り本明細書における静的表面張力は25℃での静的表面張力である。
【0142】
〔処理液〕
本発明のインクジェット記録方法に適用する処理液Prは、少なくとも凝集剤を含有する。処理液Prはインクジェット法によりヘッド1Prのノズルから吐出可能なように、溶剤が添加される等して粘度が調整される。処理液Prは、凝集剤を必須成分として含有し、さらに、水、有機溶剤及び界面活性剤を基本成分として含有する。また、処理液Prは樹脂微粒子を含有していないことが好ましい。
【0143】
処理液Prの粘度は、25℃で1~40mPa・sの範囲内にあることが好ましく、1~10mPa・sの範囲内にあることがより好ましい。
【0144】
また、25℃における、処理液Prの静的表面張力は、インクInの静的表面張力より小さいことが好ましい。処理液Prの静的表面張力は、25℃で22~30mN/mの範囲内にあることが好ましく、22~26mN/mの範囲内にあることがより好ましい。
【0145】
また、処理液Prの25℃、50msにおける動的表面張力は40mN/m以下であることが好ましく、より好ましくは、36mN/m以下であり、さらに好ましくは25~35mN/mの範囲内にある。なお、処理液Prの動的表面張力は、25℃にて、協和界面科学社製のDynamic Surface Tension Meter BP-D4タイプを使用し、連続的に泡を発生させたときの、寿命時間50ms時の値として求めた。特に断りのない限り本明細書における動的表面張力は、最大泡圧法を用いて、25℃、50msで測定した動的表面張力である。
【0146】
(凝集剤)
本発明に係る処理液には、色材を含有するインクと合一したときに、凝集物を生じさせる機能を備えている材料、すなわち凝集剤を含有することで、インクと合一したときの相互作用が大きくなり、インクのドットを固定化して、ドット径の拡大を抑制する作用を有する。なお、凝集剤は、インク中に含まれる色材の種類に応じて選択することができる。
【0147】
凝集剤は、溶解系カチオンポリマー、有機酸又は多価金属塩のいずれを含有することが好ましく、より好ましくは溶解系カチオンポリマー又は多価金属塩である。
【0148】
上記溶解系カチオンポリマー及び多価金属塩は、塩析によって上記インク中のアニオン性の成分(通常は色材、又は顔料等)を凝集させることができる。上記有機酸は、pH変動によって上記インク中のアニオン性の成分を凝集させる機能を有している。
【0149】
上記溶解系カチオンポリマーの例には、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン及びポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドなどが含まれる。溶解系カチオンポリマーの市販品としては、例えば、センカ社製;KHE100L、FPA100L、ニットーボーメディカル社製;PAS-92A、PAS-M-1A、PAS-21CLなどが挙げられる。
【0150】
上記有機酸は、インク中に含まれうる顔料を凝集し得るものであり、第一解離定数が3.5以下であることが好ましく、1.5~3.5の範囲内が好ましい。当該範囲内であると印字率が低い低濃度部における液寄りが更に防止され、印字率が高い高濃度部におけるビーディングが更に改善される。
【0151】
また、有機酸を用いることで処理液の保存安定性を維持しやすく、処理液を塗布、乾燥した後にブロッキングが起きにくい。上記観点から好ましい有機酸は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、シュウ酸、フマル酸、リンゴ酸、クエン酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、安息香酸、2-ピロリドン-5-カルボン酸、乳酸、アクリル酸及びその誘導体、メタクリル酸及びその誘導体、又は、アクリルアミド及びその誘導体などを含むカルボキシ基を有する化合物、スルホン酸誘導体、又は、リン酸及びその誘導体などが含まれる。
【0152】
処理液Prにおける有機酸の含有量は、処理液のpHを前記有機酸の第一解離定数未満に調整する量であればよい。処理液のpHが前記有機酸の第一解離定数未満となる量の有機酸を処理液に含有させることにより、高速プリント時の滲みを効果的に抑制できる。
【0153】
上記多価金属塩の例には、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩及び亜鉛塩などの水溶性の塩が含まれる。多価金属と塩を形成する化合物としては、塩酸、臭酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、チオシアン酸、および、酢酸、蓚酸、乳酸、フマル酸、フマル酸、クエン酸、サリチル酸、安息香酸等の有機カルボン酸及び、有機スルホン酸等が挙げられる。
【0154】
凝集剤は、前記処理液に対して5質量%以下の範囲で含有することが好ましく、1~4質量%の範囲内で含有することが、インク中のアニオン性の成分を効果的に凝集させることができ、画像品質と耐熱水性をバランスする観点から好ましい。
【0155】
処理液Pr中の凝集剤の含有量は、公知の方法で測定することができる。例えば、凝集剤が多価金属塩であるときはICP発光分析で、凝集剤が酸であるときは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で含有量を測定することができる。
【0156】
(水、有機溶剤及び界面活性剤)
本発明に係る処理液Prに含まれる水については、特に限定されるものではなく、イオン交換水、蒸留水、又は純水であり得る。処理液Prにおける水の含有量は、特に限定されないが、45~80質量%の範囲内であることが好ましい。
【0157】
また、本発明に係る処理液Prの溶剤として、水の他に有機溶剤を含有することができる。有機溶剤としては、上記インクInで例示したのと同様の有機溶剤を用いることができる。処理液Prにおける有機溶剤の含有量は、特に限定されないが、10~50質量%の範囲内であることが好ましい。
【0158】
本発明に係る処理液Prは、界面活性剤を含有することができる。界面活性剤としては、上記インクInで例示したのと同様の界面活性剤を用いることができる。処理液Prにおける界面活性剤の含有量は、特に限定されないが、0.08~3質量%の範囲内であることが好ましい。
【0159】
処理液は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他、架橋剤、防黴剤、殺菌剤等、他の成分を適宜配合することができる。
【0160】
さらに、例えば、特開昭57-74193号公報、同57-87988号公報及び同62-261476号公報に記載の紫外線吸収剤、特開昭57-74192号公報、同57-87989号公報、同60-72785号公報、同61-146591号公報、特開平1-95091号公報及び同3-13376号公報等に記載の退色防止剤、アニオン、カチオン又は非イオンの各種界面活性剤、特開昭59-42993号公報、同59-52689号公報、同62-280069号公報、同61-242871号公報及び特開平4-219266号公報等に記載の蛍光増白剤、消泡剤、ジエチレングリコール等の潤滑剤、防腐剤、増粘剤、帯電防止剤等、公知の各種添加剤を含有させることもできる。
【0161】
〔記録媒体〕
本発明の記録方法で適用が可能な記録媒体としては、特に限定されるものではないが、非吸収性の材料からなる記録媒体(以下、「非吸収性記録媒体」ともいう。)であることが好ましい。非吸収性記録媒体を用いることで、本発明の記録方法の効果がより顕著である。本発明でいう非吸収性とは、水に対する非吸収性を表す。
【0162】
非吸水性記録媒体の例としては、公知のプラスチックのフィルムが使用できる。具体例としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ナイロン等のポリアミド系フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、ポリ乳酸フィルム等の生分解性フィルム等が挙げられる。また、ガスバリアー性、防湿性、保香性などを付与するために、フィルムの片面又は両面にポリ塩化ビニリデンをコートしたものや、金属酸化物を蒸着したフィルムも好ましく用いることができる。非吸水性フィルムは、未延伸フィルムでも延伸フィルムでも好ましく用いることができる。
【0163】
これらの他に、非吸水性記録媒体として、金属類やガラス等の無機化合物からなる記録媒体が挙げられる。
【0164】
また、皮革を使用することもできる。印刷用途で使用される皮革としては、牛革が一般的ある。しかしながら、牛革は、そのままでは耐久性を有していないので、クロムによるなめし加工を施すことが好まし。なめされた皮革には、アクリルやウレタン系の白色顔料塗料を塗布して、記録媒体とすることが一般的である。
【0165】
また、金属記録媒体上に、熱硬化性樹脂を塗工層として設けた、レトルト食品用の包材などにも好適に用いることができる。前記レトルト食品用の包材は、空気や水分、光を遮断し、内部の食品を密閉するため、例えば、食品側にはポリプロピレン、外側にはポリエステル空気や水分、光を遮断し、内部の食品を密閉するといった熱可塑性樹脂層やアルミ箔層を積層加工(ラミネート加工)したフィルムで構成されている。
【0166】
本発明においては、記録媒体の厚さとしては、フィルム基材であれば、10~120μm、より好ましくは12~60μmの範囲内である。また、金属基材であれば、0.05~0.5mm、より好ましくは、0.1~0.3mmの範囲内である。また、皮革基材であれば、1~5mm、より好ましくは1~3mmの範囲内であることが好ましい。
【実施例
【0167】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
【0168】
〔インクセットAの調製〕
(シアンインクの調製)
表Iに記載の各構成材料を混合して、シアンインクを調製した。なお、シアン顔料は、ピグメントブルー15:3を用い、顔料分散剤として、中和されたカルボキシ基を有するアクリル系分散剤(BASF社製「ジョンクリル819」、酸価75mgKOH/g、固形分20質量%)と、インク溶剤としてプロピレングリコールと、イオン交換水を所定量混合した混合液をプレミックスした後、0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、シアン顔料の含有量が18質量%のシアン顔料分散液を調製した。この顔料分散液に含まれる顔料粒子の平均粒径は110nmであった。インク構成時には、シアン顔料が固形分として5.0質量%となるようにシアン顔料分散液を使用した。
【0169】
シアンインクの25℃における粘度を回転式粘度計により測定した結果、5.12mPa/sであった。また、シアンインクの25℃における静的表面張力を、白金プレート法(ウィルヘルミー法)により測定した結果、28.7mN/mであった。
【表1】
【0170】
(イエローインク、マゼンタインク及びブラックインクの調製)
上記シアンインクの調製において、シアン顔料であるピグメントブルー15:3に代えて、それぞれイエロー顔料としてC.I.ピグメントイエロー155、マゼンタ顔料としてC.I.ピグメントレッド202/ピグメントバイオレッド19、ブラック顔料としてピグメントブラック7を用いた以外は同様にして、イエローインク、マゼンタインク及びブラックインクを調製した。
【0171】
(インクセットAの作製)
上記調製したシアンインク、イエローインク、マゼンタインク及びブラックインクから構成されるインクセットAを作製した。
【0172】
〔処理液A~Cの調製〕
表IIに記載の多価金属塩(酢酸カルシウム)、インク溶剤(プロピレングリコール)、界面活性剤、及びイオン交換水を、撹拌しながら順次添加した後、5.0μmのフィルターにより濾過して処理液A、B、Cを得た。濾過前後で実質的な組成変化はなかった。
【0173】
上記調製した各処理液の静的表面張力と動的表面張力は、以下の通りである。
【0174】
処理液A:粘度=4.89mPa・s、静的表面張力=28.8mN/m、動的表面張力=38.3mN/m
処理液B:粘度=5.02mPa・s、静的表面張力=26.7mN/m、動的表面張力=35.6mN/m
処理液C:粘度=5.09mPa・s、静的表面張力=25.5mN/m、動的表面張力=32.1mN/m
なお、粘度及び静的表面張力は上記の方法で測定し、動的表面張力は、最大法圧法により、25℃にて、協和界面科学社製のDynamic Surface Tension Meter BP-D4タイプを使用し、連続的に泡を発生させたときの、寿命時間50ms時の値として求めた。
【表2】
【0175】
《インクジェット画像の形成》
下記のスキャン方式で、表IIIに記載のインクセットAと処理液の組み合わせで、図7に記載のインク付き量を変化させた高濃度~低濃度の各色ベタ画像を作製した。なお、図7における縦軸は、インク付き量(%)を示してある。
【0176】
〔画像1の形成〕
(スキャン方式)
コニカミノルタ社製の独立駆動インクジェットヘッド(360dpi、吐出量:小滴7pL、中滴15pL、大滴23pL)をイメージ図1のように設置し、ヘッドとステージを移動させることで、記録媒体としてポリエステルフィルム(フタムラ化学社製、FE2001、厚さ:50μm)を用い、当該記録媒体上にインクセットAであるCMYKと、処理液Aを吐出し、表IIIに記載のインク付与量及び処理液付与量で、高濃度、中高濃度、中濃度、中低濃度及び低濃度のインクベタ画像を形成した。
【0177】
このとき、高濃度、中高濃度、中濃度、中低濃度、低濃度は、C、M、Y及びKについては、100~0%を5分割した濃度のうちの最大濃度に対応する濃度(100%、80%、60%、40%、20%)であり、R、G及びBについては、それを2倍した200~0%を5分割した濃度のうちの最大濃度に対応する濃度(200%、160%、120%、80%、40%)である。
【0178】
また、PrとCMYKの塗布順番は、CMYKに対して、Prが先、後のどちらでも良く、両方でも良い。
【0179】
また、各色ベタ画像形成時に、図3に記載の構成からなる6ポイントの抜き文字画像を形成した。
【0180】
IJヘッドの移動速度は、500mm/secに設定した。720dpi×720dpiの画像を、ヘッド移動方向、ステージ移動方向に各々2分割した4つの画像(180dpi×180dpi)とし、ひとつの印刷領域を4回印刷することで、画像を形成した。
【0181】
インクジェット法による印刷後に、記録媒体を乾燥機に投入し、各設定温度で10分間乾燥し、画像記録物を得た。
【0182】
画像1の形成では、エッジ処理及び周辺領域への処理液の付与は行わなかった。
【0183】
〔画像2の形成〕
上記画像1の作製において、下記の方法に従って、エッジ処理を行った以外は同様にして、画像2を形成した。
【0184】
下記の方法に従ってエッジ処理を行った。
【0185】
(ハーフトーン処理)
画像濃度をインクにより形成されるドットの大きさ、面密度等の面積諧調として表現する手法であり、既知の誤差拡散法を適応してハーフトーン処理を行った。
【0186】
(エッジ検出)
ハーフトーン処理前のCMYK画像に対し、Canny法により画像のエッジ部(濃淡の差が大きい部位)を検出した。
【0187】
次いで、6ポイントの抜き文字画像の内部に端部(エッジ部)から0.176mmの領域に、画像領域端部の付与量を100%としたとき、周辺領域の付与量が125%となるように付与した。
【0188】
〔画像3の形成〕
上記画像2の作製において、6ポイントの抜き文字画像の内部に端部(エッジ部)から0.176mmの領域に、画像領域端部の付与量を100%としたとき、周辺領域の付与量が75%となるように付与したい以外は同様にして、画像3形成した。
【0189】
〔画像4形成〕
上記画像2の作製において、6ポイントの抜き文字画像の内部に端部(エッジ部)から0.176mmの領域に、画像領域端部の付与量を100%としたとき、周辺領域の付与量が100%となるように、すなわち、画像領域端部における処理液の付与量と同一量付与量となるようにした以外は同様にして、画像4形成した。
【0190】
〔画像5の形成〕
上記画像4の作製において、エッジ検出部に隣接する領域への処理液の付与を、インク付与量が15g/m以下の領域には行わなかった以外は同様にして、画像5を作製した。
【0191】
〔画像6の形成〕
上記画像4の作製において、処理液を付与するエッジ検出部端部からの領域を、0.141mmに変更した以外は同様にして、画像6を作製した。
【0192】
〔画像7の形成〕
上記画像4の作製において、処理液を付与するエッジ検出部端部からの領域を、0.035mmに変更した以外は同様にして、画像7を作製した。
【0193】
〔画像8の形成〕
上記画像4の作製において、処理液を処理液Aから処理液Bに変更した以外は同様にして、画像8を作製した。
【0194】
〔画像9の形成〕
上記画像4の作製において、処理液を処理液Aから処理液Cに変更した以外は同様にして、画像9を作製した。
【0195】
《抜き文字品質の評価》
上記画像形成において、各設定したインク付与量の各色のベタ画像に6ptの抜き文字が描画された画像品質について、画像としてのにじみ状況を目視観察し、下記のランクに従って評価した。
【0196】
1:にじみ及びムラの発生が認められない
2:わずかににじみ及びムラが見られるが、実用上問題のない品質である
3:明らかなにじみ及びムラが認められ、鮮鋭性に欠ける品質である
以上により得られた結果を、表IIIに示す。
【表3】
表IIIに記載の結果より明らかなように、本発明で規定するインクジェット記録方法に従って形成した画像は、比較例に対し、抜き文字品質に優れていることが分かる。
【0197】
上記形成した画像について、常法に従って、カラーブリード耐性について評価した結果、本発明は優れた効果を発現した。なお、「表3」の「備考」の欄において、画像番号4,5,8,9の「本発明」を「参考例」と読み替える。
【符号の説明】
【0198】
1 ヘッドユニット
1C、1M、1Y、1K、1Pr ヘッド
20 液滴吐出手段
22 キャリッジ
30 走査部
A1~A6 印刷領域
C、M、Y、K、In インク
G 端部
Im 画像形成領域
M 記録媒体
P 全印刷領域
PL 印刷領域長
PW 印刷領域幅
Pr 処理液
S 周辺領域
Sw 周辺領域Sの幅
W 幅
Wh 白抜き領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7