(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】記録方法及びインク吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20240723BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240723BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20240723BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41J2/01 125
B41J2/01 305
B41J2/01 451
B41M5/00 120
C09D11/322
(21)【出願番号】P 2020086694
(22)【出願日】2020-05-18
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【氏名又は名称】西木 信夫
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【氏名又は名称】松田 朋浩
(72)【発明者】
【氏名】奥村 祐生
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕幸
【審査官】高草木 綾音
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-081908(JP,A)
【文献】特開2018-134762(JP,A)
【文献】特開2007-264829(JP,A)
【文献】特開2013-087207(JP,A)
【文献】特開2017-114123(JP,A)
【文献】特開2008-137201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00- 5/52
B41J 2/01
B41J 2/165-2/215
C09D 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送機構により搬送方向へ搬送される
加熱前の記録媒体にヘッドから記録用水性インクを吐出し、上記記録媒体又は上記記録媒体に付着した上記記録用水性インクをヒータで加熱する記録方法であって、
上記記録媒体が上記ヒータと対向する位置における上記搬送機構の搬送速度が、20cm/秒以上、100cm/秒以内の範囲内であり、
記録媒体に記録された第1画像を読取り部によって読み取り、読み取った第1画像の正誤を判定し、
上記第1画像の判定結果が誤りであることを条件として、上記搬送機構により上記記録媒体を上記搬送方向とは逆向きに搬送し、当該記録媒体に上記ヘッドから上記記録用水性インクを吐出して、上記第1画像に重ねて第2画像を記録し、
上記記録用水性インクは、樹脂分散顔料と、樹脂微粒子と、水溶性有機溶剤と、水と、を含み、
上記水溶性有機溶剤は、炭素数が6~8及び水酸基が2つからなり、且つ少なくとも1つの水酸基が炭素鎖の末端には結合していないジオール系化合物、並びにグリコールエーテルから選ばれる1種以上であり、
上記記録用水性インクは、20℃における蒸気圧が0.03hPa以下の物質が、インク全量に対して10質量%以下であり、且つ、表面張力が30mN/m以下であることを特徴とするインクを用いた記録方法。
【請求項2】
上記記録用水性インクは、20℃における蒸気圧が0.03hPa以下の物質を含まないことを特徴とするインクを用いた請求項1に記載の記録方法。
【請求項3】
上記水溶性有機溶剤は、炭素数が6~8及び水酸基が2つからなり、且つ少なくとも1つの水酸基が炭素鎖の末端には結合していないジオール系化合物を含むことを特徴とするインクを用いた請求項1又は2に記載の記録方法。
【請求項4】
上記水溶性有機溶剤は、主炭素鎖から分岐したアルキル鎖を有しないことを特徴とするインクを用いた請求項3に記載の記録方法。
【請求項5】
上記水溶性有機溶剤は、1,2-ヘキサンジオール、又は1,2-オクタンジオールから選ばれる1種以上であることを特徴とするインクを用いた請求項4に記載の記録方法。
【請求項6】
上記ヒータは、赤外線ヒータである請求項1から5のいずれかに記載の記録方法。
【請求項7】
上記読取り部は、コンタクトイメージセンサである請求項1から6のいずれかに記載の記録方法。
【請求項8】
上記ヘッドと上記ヒータとの距離は、30cm以内である請求項1から7のいずれかに記載の記録方法。
【請求項9】
上記ヒータの単位面積当たりの照射エネルギーが、0.05J/cm
2以上、2.50J/cm
2以下の範囲内である請求項1から8のいずれかに記載の記録方法。
【請求項10】
上記ヒータの消費電力が、600W以下である請求項1から
9のいずれかに記載の記録方法。
【請求項11】
上記記録媒体における上記搬送方向と直交する幅方向に沿った上記ヒータの照射長さが、25cm以下である請求項1から
10のいずれかに記載の記録方法。
【請求項12】
記録媒体を搬送方向へ搬送する搬送機構と、
加熱前の上記記録媒体へ記録用水性インクを吐出するヘッドと、
上記記録媒体又は上記記録媒体に付着した上記記録用水性インクを加熱するヒータと、
記録媒体に記録された第1画像を読み取る読取り部と、
コントローラと、を具備しており、
上記記録用水性インクは、樹脂分散顔料と、樹脂微粒子と、水溶性有機溶剤と、水と、を含み、
上記水溶性有機溶剤は、炭素数が6~8及び水酸基が2つからなり、且つ少なくとも1つの水酸基が炭素鎖の末端には結合していないジオール系化合物、並びにグリコールエーテルから選ばれる1種以上であり、
上記記録用水性インクは、20℃における蒸気圧が0.03hPa以下の物質が、インク全量に対して10質量%以下であり、且つ、表面張力が30mN/m以下であり、
上記コントローラは、
上記搬送機構により、上記記録媒体が上記ヒータと対向する位置において上記記録媒体を20cm/秒以上、100cm/秒以内の範囲内の搬送速度で搬送し、
上記読取り部が読み取った第1画像の正誤を判定し、
上記第1画像の判定結果が誤りであることを条件として、上記搬送機構により上記記録媒体を上記搬送方向とは逆向きに搬送し、当該記録媒体に上記ヘッドから上記記録用水性インクを吐出して、上記第1画像に重ねて第2画像を記録するインク吐出装置。
【請求項13】
筐体を更に具備しており、
上記搬送機構、上記ヘッド、上記ヒータ、上記読取り部、及び上記コントローラは、上記筐体の内部空間に位置する請求項
12に記載のインク吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1画像が記録された記録媒体に、さらに第2画像を記録する記録方法及びインク吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷ヘッドのノズルから吐出されたインクが付着した記録媒体が、ヒータにより加熱されることによって、インクが記録媒体に定着する印刷装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、記録媒体に印刷された画像を判定して、印刷結果が合格でなかった場合に、既に印刷済みの部分に対して所謂ボイド印刷を行う印刷結果無効化処理が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4505921号公報
【文献】特開2007-261090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヒータによる乾燥が必要なインクを用いたボイド印刷では、既にシートに付着して乾燥したインクに重ねて、新たにインクを付着して乾燥することとなる。インクに含まれる溶媒は、シートへの吸収、及び蒸発によってインクから除去されるが、ボイド印刷においては、既に印刷された画像におけるインクが、ボイド印刷におけるインクがシートへ吸収されることを妨げるので、インクが乾燥し難い。その結果、ボイド印刷の耐擦性が低下するという問題がある。
【0006】
また、連続したシートにおいてボイド印刷を行うには、既に印刷済みの部分をヘッドと対向する位置まで逆向きに搬送する必要がある。このようなシートの逆向きの搬送において、ヘッドから吐出されたインクが付着しているが、ヒータによって十分に加熱されていない部分を、すなわちシートにおいてインクが十分に乾燥していない部位分も逆向きに搬送される。その結果、十分に乾燥していないインクが、ローラなどの搬送機構に付着するおそれがある。
【0007】
本発明は、前述された事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、画像を重ねて記録するに適したインクの速乾性を有し、且つ記録後の記録媒体の耐擦性に優れる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、搬送機構により搬送方向へ搬送される記録媒体にヘッドから記録用水性インクを吐出し、上記記録媒体又は上記記録媒体に付着した上記記録用水性インクをヒータで加熱する記録方法に関する。本記録方法は、記録媒体に記録された第1画像を読取り部によって読み取り、読み取った第1画像の正誤を判定し、上記第1画像の判定結果が誤りであることを条件として、上記搬送機構により上記記録媒体を上記搬送方向とは逆向きに搬送し、当該記録媒体に上記ヘッドから上記記録用水性インクを吐出して、上記第1画像に重ねて第2画像を記録する。上記記録用水性インクは、樹脂分散顔料と、樹脂微粒子と、水溶性有機溶剤と、水と、を含む。上記水溶性有機溶剤は、炭素数が6~8及び水酸基が2つからなり、且つ少なくとも1つの水酸基が炭素鎖の末端には結合していないジオール系化合物、並びにグリコールエーテルから選ばれる1種以上である。上記記録用水性インクは、20℃における蒸気圧が0.03hPa以下の物質が、インク全量に対して10質量%以下であり、且つ、表面張力が30mN/m以下である。
【0009】
また、本発明は、記録媒体を搬送方向へ搬送する搬送機構と、記録用水性インクを吐出するヘッドと、上記記録媒体又は上記記録媒体に付着した上記記録用水性インクを加熱するヒータと、記録媒体に記録された第1画像を読み取る読取り部と、コントローラと、を具備するインク吐出装置に関する。上記記録用水性インクは、樹脂分散顔料と、樹脂微粒子と、水溶性有機溶剤と、水と、を含む。上記水溶性有機溶剤は、炭素数が6~8及び水酸基が2つからなり、且つ少なくとも1つの水酸基が炭素鎖の末端には結合していないジオール系化合物、並びにグリコールエーテルから選ばれる1種以上である。上記記録用水性インクは、20℃における蒸気圧が0.03hPa以下の物質が、インク全量に対して10質量%以下であり、且つ、表面張力が30mN/m以下である。上記コントローラは、上記読取り部が読み取った第1画像の正誤を判定し、上記第1画像の判定結果が誤りであることを条件として、上記搬送機構により上記記録媒体を上記搬送方向とは逆向きに搬送し、当該記録媒体に上記ヘッドから上記記録用水性インクを吐出して、上記第1画像に重ねて第2画像を記録する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、画像を重ねて記録するに適したインクの速乾性を有し、且つ記録後の記録媒体の耐擦性に優れる手段を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】
図2は、印刷装置10の内部構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、ヒータ38を上方から視た模式図である。
【
図4】
図4は、コントローラ74を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、印刷装置10の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る印刷装置10について説明する。なお、以下に説明される実施形態は本発明の一例にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で、実施形態を適宜変更できることは言うまでもない。また、以下の説明では、矢印の起点から終点に向かう進みが向きと表現され、矢印の起点と終点とを結ぶ線上の往来が方向と表現される。また、以下の説明においては、印刷装置10が使用可能に設置された状態(
図1の状態)を基準として上下方向7が定義され、排出口13が設けられている側を手前側(前面)として前後方向8が定義され、印刷装置10を手前側(前面)から視て左右方向9が定義される。
【0013】
[印刷装置10の外観構成]
図1に示されるように、プリンタ10は、筐体20と、筐体20に保持されるパネルユニット21、カバー22、給紙トレイ23、及び排紙トレイ24と、を備える。プリンタ10は、シート6(
図2参照)に画像を記録する。
【0014】
シート6は、記録媒体の一例である。シート6は、所定の寸法にカットされた記録媒体であってもよいし、シートが円筒形状に巻かれたロールから引き出されたものであってもよいし、ファンフォールドタイプのものであってもよい。また、シート6は、普通紙であってもよいし、コート紙であってもよい。「コート紙」とは、例えば、上級印刷紙、中級印刷紙等のパルプを構成要素とした普通紙に、平滑性、白色度、光沢度等の向上を目的として、コート剤を塗布したものをいい、具体的には、上質コート紙、中質コート紙等があげられる。印刷装置10は、コート紙へのインクジェット記録に好適に利用可能であるが、これに限定されるものではなく、例えば、普通紙、光沢紙、マット紙、合成紙、板紙、ダンボール、フィルム等のコート紙以外の記録媒体へのインクジェット記録にも利用可能である。また、シート6は、粘着剤と剥離紙とが組み合わされたタック紙であってもよい。
【0015】
パネルユニット21は、タッチパネル及び複数の操作スイッチを備える。パネルユニット21は、ユーザの操作を受け付ける。
【0016】
図2に示されるように、給紙トレイ23は、筐体20の下部に位置する。排紙トレイ24は、筐体20の下部であって、給紙トレイ23の上に位置する。カバー22は、筐体20の前面の右部に位置する。カバー22は、筐体20に対して回動可能である。カバー22が開かれると、インクを貯留するタンク70にアクセス可能である。
【0017】
なお、本実施形態では、1つのタンク70のみが示されているが、タンク70は、ブラックなどの1色のインクを貯留するものに限定されず、例えば、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタの4色のインクをそれぞれ貯留する4つの貯留室を有するものであってもよい。
【0018】
図2に示されるように、筐体20は、印刷エンジン50を内部に保持する。印刷エンジン50は、給送ローラ25、搬送ローラ26、排出ローラ27、プラテン28、及び記録ユニット29を主に備える。給送ローラ25は、給紙トレイ23に載置されたシート6に当接可能に、筐体20内に設けられた不図示のフレームに保持されている。給送ローラ25は、不図示のモータによって回転される。回転する給送ローラ25は、シート6を搬送路37に送り出す。搬送路37は、不図示のガイド部材によって区画された空間である。図示例では、搬送路37は、給紙トレイ23の後端から給紙トレイ23の上方となる位置まで湾曲して延びており、次いで、前方に向かって延びている。給送ローラ25、搬送ローラ26、及び排出ローラ27は、搬送機構の一例である。
【0019】
搬送ローラ26は、シート6の搬送方向における給紙トレイ23の下流に位置している。搬送ローラ26は、搬送ローラ26は、従動ローラ35とともに、ローラ対を構成している。搬送ローラ26は、不図示のモータによって回転される。回転する搬送ローラ26及び従動ローラ35は、給送ローラ25によって搬送路37に送り出されたシート6を挟持しつつ搬送する。排出ローラ27は、シート6の搬送方向における搬送ローラ26の下流に位置している。排出ローラ27は、従動ローラ36とともに、ローラ対を構成している。排出ローラ27は、不図示のモータによって回転される。回転する排出ローラ27及び従動ローラ36は、シート6を挟持しつつ搬送し、排紙トレイ24に排出する。プラテン28は、前後方向8における搬送ローラ26と排出ローラ27との間であって、シート6の搬送方向における搬送ローラ26の下流、かつ排出ローラ27の上流に位置している。
【0020】
搬送ローラ26には、ロータリーエンコーダ96が設けられている。ロータリーエンコーダ96は、エンコーダディスク97と、光センサ98とを有する。エンコーダディスク97は、搬送ローラ26と同軸に設けられており、搬送ローラ26と共に回転する。エンコーダディスク97には、透過率が異なる2種のインデックスが周方向の全周に交互に複数が並んでいる。光センサ98は、エンコーダディスク97の2種のインデックスを光学的に読み取り可能である。回転するエンコーダディスク97の2種のインデックスを光センサが読み取ることによって、光センサ98から2種の信号がパルス形状に出力される。光センサ98の出力信号は、後述するコントローラが受信して、搬送ローラ26の回転速度が判定される。
【0021】
記録ユニット29は、印刷ヘッド34及びヒータ38を有する。印刷ヘッド34は、搬送ローラ26と排出ローラ27との間に位置する。印刷ヘッド34は、いわゆるシリアルヘッドであってもよいし、いわゆるラインヘッドであってもよい。印刷ヘッド34は、インクが流通する流路を内部に有する。当該流路は、チューブ31によって、タンク70と連通されている。すなわち、チューブ31を通じて、タンク70が貯留するインクが印刷ヘッド34に供給される。
【0022】
印刷ヘッド34の下方に、プラテン28が位置する。プラテン28は、その上面がシート6の支持面である。各図には現れていないが、プラテン28の上面には、吸引圧が生ずる開口が形成されている。プラテン28の上面に生じた吸引圧によって、シート6がプラテン28の上面に密接する。
【0023】
図2及び
図3に示されるように、搬送路37の上方において、印刷ヘッド34の下流であって、且つ排出ローラ27の上流に、ヒータ38が位置する。ヒータ38は、所謂ハロゲンヒータである。印刷ヘッド34とヒータ38との前後方向8に沿った距離Dは、30cm以下であることが好ましく、更に好ましくは20cm以下であり、特に好ましくは10cm以下である。
【0024】
図2に示されるように、ヒータ38は、印刷ヘッド34より搬送方向の下流、すなわち前方に位置する。ヒータ38は、赤外線を放射する発熱体であるハロゲンランプ40、反射板41、及び筐体42を有する。筐体42は、概ね直方体形状であり、下向きに開口する。筐体42の下壁に、開口43が位置する。開口43を通じて、ハロゲンランプ40や反射板41からの熱が外部へ放射されたり、遮断されたりする。
【0025】
筐体42の内部空間に、ハロゲンランプ40が位置する。ハロゲンランプ40は、細長な円筒形状であり、左右方向9が長手方向である。筐体42の内部空間において、ハロゲンランプ40の上方に、反射板41が位置する。反射板41は、セラミック膜などがコーティングされた金属板であり、開口43付近を中心軸とする円弧形状に湾曲している。なお、反射板41に代えて、セラミック膜などがコーティングされたハロゲンランプ40が用いられてもよい。
【0026】
ヒータ38は、開口43の下方を通過するシート6、またはシート6に付着したインクの少なくとも一方を加熱する。本実施形態では、ヒータ38は、シート6及びインクの双方を加熱する。インクが加熱されることによって、樹脂微粒子がガラス転移し、ヒータ38の下方を通過したシート6が冷えることによって、ガラス転移した樹脂が硬化する。これにより、シート6にインクが定着される。
【0027】
ヒータ38の消費電力は、小型化の要請からは、600W以下であることが好ましく、更に好ましくは400W以下であり、特に好ましくは200W以下である。ヒータ38の消費電力は、ヒータ38からシートの単位面積当たりに照射されるエネルギーに関係する。照射エネルギーは、消費電力に応じてヒータ38が駆動され、ヒータ38の下方を移動するシートが一定の搬送速度で移動するときに、シートの単位面積(cm2)に付与される熱量(J)である。
【0028】
図3に示されるように、ヒータ38の左右方向9(幅方向の一例)に沿った照射長さL、すなわちハロゲンランプ40と開口43とが重複する範囲であって、かつ左右方向9に沿った長さLは、小型化の要請からは、25cm以下であることが好ましく、更に好ましくは21cm以下であり、特に好ましくは15cm以下である。
【0029】
なお、ヒータ38は、シート又はインクを加熱可能なものであれば、ハロゲンヒータに限らない。例えば、ヒータ38は、カーボンヒータ、ドライヤー、オーブン、ベルトコンベアオーブン等であってもよい。
【0030】
CIS(コンタクトイメージセンサ)29(読取り部の一例)は、ヒータ38よりも搬送方向の下流であって、排出ローラ27よりも搬送方向の上流に位置する。CIS29は、LEDなどの光源から照射されてシート6で反射された反射光が、屈折率分布型レンズによりラインセンサに集光されることによって、ラインセンサが受光した反射光の強度に応じた電気信号を出力するものである。CIS29は、シート6の印刷面(上面)の画像を読み取ることができる。CIS29において、左右方向9が読取りラインである。なお、本実施形態では、CIS29が筐体20の内部に位置するが、CIS29は、筐体20の外部に位置していてもよい。
【0031】
図4に示されるように、筐体14の内部空間には、コントローラ74及び電源回路(不図示)が配置されている。コントローラ74は、CPU131、ROM132、RAM133、EEPROM134、ASIC135、CIS29などがバス137によってデータ通信可能に接続されたものである。CPU131がROM132に記憶されたプログラムを実行し、ASIC135が設定された特定の機能を果たすことによって、印刷装置10の動作が制御される。
【0032】
なお、コントローラ74は、CPU131のみによって各種処理が実行されるものであってもよいし、ASIC135のみによって各種処理が実行されるものであってもよい。また、コントローラ74に複数のCPU131が実装されており、コントローラ74は、複数のCPU131が各処理を分担して実行するものであってもよい。また、コントローラ74に複数のASIC135が実装されており、コントローラ74は、複数のASIC135が各処理を分担して実行するものであってもよい。
【0033】
電源回路は、大容量コンデンサなどによって構成された回路である。本実施形態において、電源回路は、紙フェノールなどで構成された基板に実装されている。電源回路は、印刷装置10が備える各構成要素への給電のための電力の変換などを行う回路である。
【0034】
例えば、電源回路から給送用モータ102及び搬送用モータ101へ電力が供給され、各モータの回転が、給送ローラ25、搬送ローラ26、排出ローラ27へ伝達される。また、電源回路から、ヒータ38及びCIS29へ電力が供給される。
【0035】
コントローラ74は、ヒータ38と対向する位置において、シート6の単位面積当たりにヒータ38から受ける積算熱量が0.05J/cm2以上2.50J/cm2以下の範囲内となることが好ましく、更に好ましくは0.05J/cm2以上1.50J/cm2以下の範囲内であり、特に好ましくは0.06J/cm2以上0.25J/cm2以下の範囲内となるように、第1搬送ローラ60及び第2搬送ローラ62の回転速度を制御する。すなわちヒータ38の下方におけるシート6の搬送速度を制御する。ヒータ38の下方におけるシート6の搬送速度は、20cm/秒以上、100cm/秒以内の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは20cm/秒以上80cm/秒以下の範囲内となることであり、特に好ましくは20cm/秒以上70cm/秒以下の範囲内である。
【0036】
シート6の単位面積当たりの積算熱量は、例えば、つぎのようにして測定できる。ヒータ38に付与される電力と、ヒータ38が赤外線を輻射する領域(前後方向8及び左右方向9に沿った平面における領域)の面積(例えば、開口43の投影面積)とから、ヒータ38の単位面積当たりの電力である電力密度(W/m2)を算出する。例えば、ヒータ38の消費電力が600Wであり、ヒータ38が赤外線を輻射する領域が50cm2であれば、電力密度は、12W/cm2である。また、シート6の搬送速度から、シート6における定点が、ヒータ38が赤外線を輻射する領域を通過するために要する時間(秒)を算出する。そして、当該時間に電力密度を乗じることにより、積算熱量(J/cm2)が算出される。なお、シート6の単位面積当たりの積算熱量は、ヒータ38が通電された状態で、シート6がヒータ38と対向する位置を1回通過するときの値である。ボイド印刷が行われるときは、ヒータ38が通電された状態で、シート6がヒータ38と対向する位置を2回通過するが、シート6の単位面積当たりの積算熱量は、シート6がヒータ38と対向する位置を2回通過したときの合算値ではない。
【0037】
[インクの組成]
以下、タンク70に貯留されるインク(記録用水性インクの一例)の詳細が説明される。インクは、樹脂分散顔料と、樹脂微粒子と、水溶性有機溶剤と、水と、を含む。
【0038】
樹脂分散顔料は、例えば、顔料分散用樹脂(樹脂分散剤)によって、水に分散可能なものである。樹脂分散顔料は、特に限定されず、例えば、カーボンブラック、無機顔料及び有機顔料等があげられる。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等があげられる。無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄系無機顔料及びカーボンブラック系無機顔料等があげられる。有機顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料;塩基性染料型レーキ顔料、酸性染料型レーキ顔料等の染料レーキ顔料;ニトロ顔料;ニトロソ顔料;アニリンブラック昼光蛍光顔料;等があげられる。これら以外の樹脂分散顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、6及び7;C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、15、16、17、55、73、74、75、78、83、93、94、95、97、98、114、128、129、138、150、151、154、180、185及び194;C.I.ピグメントオレンジ31及び43;C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、12、15、16、48、48:1、48:3、53:1、57、57:1、112、122、123、139、144、146、149、150、166、168、175、176、177、178、184、185、190、202、209、221、222、224、238及び254;C.I.ピグメントバイオレット19及び196;C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、22及び60;C.I.ピグメントグリーン7及び36;並びにこれらの顔料の固溶体等があげられる。なお、インクは、樹脂分散顔料に加え、さらに、他の顔料及び染料等を含んでもよい。
【0039】
水性インク全量における樹脂分散顔料の顔料固形分含有量は、特に限定されず、例えば、所望の光学濃度又は彩度等により、適宜決定できる。顔料固形分含有量は、例えば、0.1質量%以上20質量%以下の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは1質量%以上15質量%以下の範囲内であり、特に好ましくは2質量%以上10質量%以下の範囲内である。顔料固形分含有量は、顔料のみの質量であり、樹脂微粒子の質量は含まない。樹脂分散顔料は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0040】
樹脂微粒子としては、例えば、メタクリル酸及びアクリル酸の少なくとも一方をモノマーとして含むものを用いることができ、例えば、市販品を用いてもよい。樹脂微粒子は、例えば、モノマーとして、さらに、スチレン、塩化ビニル等を含んでもよい。樹脂微粒子は、例えば、樹脂エマルジョンに含まれるものであってもよい。樹脂エマルジョンは、例えば、樹脂微粒子と、分散媒(例えば、水等)とで構成されるものである。樹脂微粒子は、分散媒に対して溶解状態ではなく、特定の粒子径の範囲で分散している。樹脂エマルジョンに含まれる樹脂微粒子としては、例えば、アクリル酸系樹脂、マレイン酸系エステル樹脂、酢酸ビニル系樹脂、カーボネート型樹脂、ポリカーボネート型樹脂、スチレン系樹脂、エチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂及びこれらの共重合体樹脂等があげられる。
【0041】
樹脂微粒子のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが30℃以上である。樹脂微粒子のTgは、例えば、30℃以上120℃以下の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは30℃以上100℃以下の範囲内であり、特に好ましくは30℃以上80℃以下の範囲内である。Tgが30℃以上の樹脂微粒子を用いれば、記録媒体において耐擦性に優れたインクを得ることができる。
【0042】
樹脂エマルジョンとしては、例えば、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、星光PMC(株)製の「ハイロス-X(登録商標)KE-1062」、「ハイロス-X(登録商標)QE-1042」、ジャパンコーティングレジン(株)製の「モビニール(登録商標)6969D」、「モビニール(登録商標)5450」、「モビニール(登録商標)DM774」、「モビニール(登録商標)6899D」、第一工業製薬(株)製の「スーパーフレックス(登録商標)150」等があげられる。
【0043】
樹脂微粒子の平均粒子径は、例えば、30nm以上200nm以下である。平均粒子径は、例えば、(株)堀場製作所製の動的光散乱式粒径分布測定装置「LB-550」を用いて、算術平均径として測定可能である。
【0044】
水性インク全量における樹脂微粒子の含有量は、例えば、0.1質量%以上30質量%以下の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは0.5質量%以上20質量%以下の範囲内であり、特に好ましくは1質量%以上10質量%以下の範囲内である。樹脂微粒子は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0045】
樹脂微粒子と樹脂分散顔料の配合比(樹脂微粒子の質量:樹脂分散顔料の質量)としては、2:1~1:2の範囲内であることが好ましい。
【0046】
水溶性有機溶剤は、ボイド印刷時のインクの速乾性に関係する。水溶性有機溶剤は、炭素数が6~8及び水酸基が2つからなり、且つ少なくとも1つの水酸基が炭素鎖の末端には結合していないジオール系化合物、並びにグリコールエーテルから選ばれる1種以上である。上記ジオール系化合物としては、例えば、1,2-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、又は2-エチル-1,3-ヘキサンジオールが挙げらる。グリコールエーテルとしては、例えば、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(BTG)が挙げられる。水溶性有機溶剤は、好ましくはジオール系化合物を含み、更に好ましくは主炭素鎖から分岐したアルキル鎖を有しないジオール系化合物である。
【0047】
水性インク全量における水溶性有機溶剤の含有量は、例えば、0.1質量%以上20質量%以下の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは0.5質量%以上15質量%以下の範囲内であり、特に好ましくは1質量%以上10質量%以下の範囲内である。
【0048】
樹脂微粒子と水溶性有機溶剤の配合比(樹脂微粒子の質量:水溶性有機溶剤の質量)としては、3:1~1:3の範囲内であることが好ましい。
【0049】
インクは、その他の有機溶剤として、20℃における蒸気圧が0.03hPa以上の水溶性有機溶剤(以下、「特定有機溶剤」と言う。)を含む。特定有機溶剤としては、例えば、プロピレングリコール(20℃における蒸気圧:0.11hPa)、ジエチレングリコール(20℃における蒸気圧:0.03hPa)等があげられ、プロピレングリコールが好ましい。特定有機溶剤がプロピレングリコールであれば、記録媒体への耐擦性により優れたインクを得ることができる。
【0050】
有機溶剤は、特定有機溶剤以外の有機溶剤を含んでもよい。特定有機溶剤以外の湿潤剤は、特に限定されず、例えば、グリセリン、トリエチレングリコール、ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、2-ピロリドン、トリメチルグリシン等があげられる。これらの有機溶剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。ただし、インクは、20℃における蒸気圧が0.03hPa以下の物質が、インク全量に対して10質量%以下であることが好ましく、全く含まないことが特に好ましい。
【0051】
水は、イオン交換水又は純水であることが好ましい。インク全量における水の含有量は、例えば、10質量%以上90質量%以下の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは20質量%以上80質量%以下の範囲内である。水の含有量は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0052】
インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。粘度調整剤は、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0053】
インクは、例えば、樹脂分散顔料と、樹脂微粒子と、特定有機溶剤と、水と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
【0054】
インクの表面張力は、30mN/m以下であることが好ましく、更に好ましくは、25.0mN/m以上30mM/m以下である。
【0055】
[印刷装置10の動作]
以下に、
図5が参照されつつ、印刷装置10による画像記録動作が説明される。
【0056】
コントローラ74は、印刷データを受信すると(S11:Yes)、印刷を実行する(S12)。詳細には、コントローラ74は、給送ローラ25、搬送ローラ26、排出ローラ27を回転(正転)させて、シート6を、印刷ヘッド34の下方へ送り出す。
【0057】
コントローラ74は、ヒータ38と対向する位置において、搬送ローラ26及び排出ローラ27により搬送方向(前後方向8の前向き)に搬送されるシート6の搬送速度を前述された好ましい範囲内となるように、搬送ローラ26及び排出ローラ27を回転する。このような搬送速度の制御は、例えば、搬送ローラ26に設けられたロータリーエンコーダ96の信号に基づいて、搬送ローラ26の回転が制御されることにより実現される。
【0058】
また、コントローラ74は、ヒータ38のハロゲンランプ40に通電する。コントローラ74は、ヒータ38の単位面積当たりの照射エネルギーが前述された好ましい範囲内となるように、ヒータ38に通電される電力(W)を制御する。そして、コントローラ74は、給送ローラ25、搬送ローラ26、及び排出ローラ27を回転(正転)させつつ、印刷データに基づいて、印刷ヘッド34からシート6へ向けてインクを吐出する。
【0059】
プラテン28上を排紙トレイ24へ向かって搬送されるシート6は、搬送ローラ26と排出ローラ27との間において、プラテン28の上面に吸着されつつ排紙トレイ24へ向かって移動する。印刷ヘッド34から吐出されたインク滴は、プラテン28の上面に支持されているシート6に付着する。インク滴が付着したシート6がヒータ38の下方へ到達すると、シート6はヒータ38により加熱される。ヒータ38の加熱によってインク滴がシート6に定着する。
【0060】
コントローラ74は、CIS29を作動させて、CIS29の下方を通過するシート6の画像(第1画像の一例)を読み取らせて画像データを取得する。コントローラ74は、CIS29から受信した画像データを解析することによって、シート6に印刷された画像の正誤を判定する(S13)。
【0061】
コントローラ74は、例えば、取得した画像データにバーコードシンボルが含まれる場合、画像データに含まれるバーコードシンボルの光学的特性(反射率、反射濃度、PCS(Print Contrast Signal)値など)がJIS規格(日本工業規格)を満たしているかによって画像の正誤を判定することができる。したがって、コントローラ74は、取得した画像データに含まれるバーコードシンボルの光学的特性が、予めROM132、RAM133、EEPROM134などに記憶されたJIS規格に対応する閾値範囲に含まれるときに、シート6に印刷された画像を「正」と判定し、バーコードシンボルの光学的特性が閾値範囲に含まれないときに、シート6に印刷された画像を「誤」と判定する。なお、CIS29を用いて、シート6に印刷された画像の正誤を判定する手法は一例であり、その他の公知の判定手法が採用されてもよい。また、CIS29に読み取られるシート6の画像(第1画像)は、バーコードシンボルに限らず、例えばQRコード(登録商標)のような2次元コードであってもよい。
【0062】
コントローラ74は、画像データの判定結果が正しいことを条件として(S13:Yes)、印刷後のシート6を排紙トレイ24へ排出して(S14)、印刷を終了する。
【0063】
コントローラ74は、画像データの判定結果が誤りであることを条件として(S13:No)、搬送ローラ26及び排出ローラ27を逆転させて、シート6を、印刷ヘッド34の下方へ戻す(S16)。シート6の搬送方向の下流端が、印刷ヘッド34より搬送方向の上流に到達すると、コントローラ74は、搬送ローラ26及び排出ローラ27を正転させつつ、ボイド印刷データに基づいて、印刷ヘッド34からシート6へ向けてインクを吐出する。これにより、シート6に記録された画像に重ねて、ボイド画像(第2画像の一例)が印刷される(S16)。ボイド画像は、例えば「VOID」のアルファベット文字からなるものである。なお、ボイド印刷は、シート6が搬送方向に搬送されつつ実行されてもよいし、シート6が搬送方向と逆向きに搬送されつつ実行されてもよい。
【0064】
ボイド印刷によってインク滴が付着したシート6がヒータ38の下方へ到達すると、シート6はヒータ38により加熱される。ヒータ38の加熱によってインク滴がシート6に定着する。そして、コントローラ74は、ボイド印刷を行ったシート6を排紙トレイ24へ排出して(S14)、印刷を終了する。
【0065】
インクに含まれる水溶性有機溶剤は、炭素数が6~8及び水酸基が2つからなり、且つ少なくとも1つの水酸基が炭素鎖の末端には結合していないジオール系化合物、並びにグリコールエーテルから選ばれる1種以上であることにより、ボイド印刷によりシート6に付着したインクが、シート6に浸潤しやすくなり、速乾性が向上すると推定される。
【0066】
また、インクは、20℃における蒸気圧が0.03hPa以下の物質が、インク全量に対して10質量%以下であり、且つ、表面張力が30mN/m以下なので、ボイド印刷においてシート6上に付着した状態でヒータ38により加熱された際に蒸発しやすく、ボイド印刷においてインクの耐擦性が向上すると推定される。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実
施例及び比較例により限定及び制限されない。
【0068】
[顔料分散液A]
顔料(カーボンブラック)20質量%、スチレン-アクリル酸共重合体の水酸化ナトリウム中和物7質量%(酸価175mgKOH/g、分子量10000)に、純水を加えて全体を100質量%とし、攪拌混合して混合物を得た。この混合物を、0.3mm径ジルコニアビーズを充填した湿式サンドミルに入れて、6時間分散処理を行った。その後、ジルコニアビーズをセパレータにより取り除き、孔径3.0μmセルロースアセテートフィルタでろ過することにより、顔料分散液Aを得た。なお、スチレン-アクリル酸共重合体は、一般に顔料の分散剤として用いられる水溶性のポリマーである。
【0069】
[記録用水性インクの調製]
以下の成分を表1に示す組成における樹脂微粒子及び樹脂分散顔料分散液を除いた成分を均一に混合してインク溶媒を得た。つぎに、樹脂微粒子を加え、均一に混合した後、樹脂分散顔料分散液を加えて全体を100質量%として混合物を得た。得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、実施例1~5及び比較例1~4の記録用水性インクを得た。
樹脂微粒子:ジャパンコーティングレジン(株)製の「モビニール(登録商標)6969D」
湿潤剤:グリセリン(20℃における蒸気圧:0.01hPa未満)、プロピレングリコール(20℃における蒸気圧:0.11hPa)
界面活性剤:日信化学工業(株)製「オルフィン(登録商標)E1004」
水溶性有機溶剤:1,2-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(BTG)、1,2-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール
【0070】
実施例1~5及び比較例1~5の記録用水性インクを用いてコート紙に画像記録及びボイド印刷を行い、速乾性及び耐擦性の評価を、下記方法により実施した。
【0071】
[速乾性]
ブラザー工業(株)製の「インクジェットプリンタMFC-J4225N」を使用して、実施例1~5及び比較例1~5の記録用水性インクを用いて、コート紙(王子製紙(株)製の「OKトップコート+」)に対して、解像度600×300dpiの単色パッチの画像を記録して、評価サンプルを作製した。その後ジョンソン・アンド・ジョンソン社製の綿棒に荷重500gを加え、評価サンプルの擦過試験を行った。擦過した評価サンプルについて、インク塗布部に隣接した白紙部について、目視により以下の評価基準により評価した。なお、擦れはインク塗布部で視認される擦過痕、汚れは白紙部で視認される擦過痕(綿棒に付着したインクが移った痕)である。
AA:擦れ、汚れがない。
A擦れはあるが、汚れがない。
C:擦れ、汚れがある。
【0072】
[ボイド印刷部耐擦性]
ブラザー工業(株)製の「インクジェットプリンタMFC-J4225N」を使用して、実施例1~5及び比較例1~5の記録用水性インクを用いて、コート紙(王子製紙(株)製の「OKトップコート+」)に対して、解像度600×300dpiの単色パッチの画像を記録して、評価サンプルを作製した。その後、評価サンプルをIRヒーター(トーコー製の「プロモハンディミニSIR-760」(加熱長6.2cm、出力600W))の直下を通過させ、評価サンプルの乾燥を行った。その上でインク塗布部について、再度同様の手法にてインクを重ねて記録し、同様に乾燥を行った。その後テスター産業(株)製の「学振型摩擦堅牢度試験機AB-301」にて荷重500gの下、100往復擦過を繰り返し、評価サンプルの擦過試験を行った。擦過した評価サンプルについて、黒ベタ部に隣接した白紙部について、目視により以下の評価基準により評価した。
AA:汚れなし
A:わずかに汚れあり
C:汚れあり
【0073】
[総合グレード]
速乾性及び耐擦性の評価をもとに、以下の評価基準によりの総合グレードを評価した。
A:2項目ともAA
B:1項目がAA、かつ残る1項目がA
C:2項目ともA
D:1項目がA、かつ残る1項目がC
E:2項目ともC
【0074】
実施例1~5及び比較例1~5の記録水性インク組成及び評価結果を表1に示す。
【0075】
【0076】
表1に示すとおり、実施例1~5では、速乾性及び耐擦性ともに、C評価がなく、評価結果が良好であった。また、20℃における蒸気圧が0.03hPa以下であるグリセリンを含まない実施例1~4では、総合グレードがA又はBであり、総合グレードがCである実施例5より評価結果が優れていた。
【0077】
また、水溶性有機溶剤がジオール系化合物である実施例1~3は、ボイド印刷部耐擦性がAA評価であった。また、水溶性有機溶剤が主炭素鎖から分岐したアルキル鎖を有しない実施例1,2,4は、速乾性がAA評価であった。
【0078】
また、水溶性有機溶剤が1,2-ヘキサンジオール又は1,2-オクタンジオールである実施例1,2では、総合グレードがAであり、総合グレードがB又はCである実施例3~5と比べて評価結果がより優れていた。
【0079】
他方、水溶性有機溶剤を含まない比較例1は、総合グレードがEであった。また、水溶性有機溶剤として、炭素数が6未満の1,2-ブタンジオール、又は1,6-ヘキサンジオールを含む比較例2,3は、総合グレードがD又はEであった。また、水溶性有機溶剤として1,2-ヘキサンジオールを含むが、20℃における蒸気圧が0.03hPa以下であるグリセリンを11質量%含む比較例4は、総合グレードがEであった。また、水溶性有機溶剤として1,2-ヘキサンジオールを含むが、表面張力が30mN/m以上である比較例5は、総合グレードがEであった。
【符号の説明】
【0080】
10・・・印刷装置(インク吐出装置)
25・・・給送ローラ(搬送機構)
26・・・搬送ローラ(搬送機構)
27・・・排出ローラ(搬送機構)
29・・・CIS(読取り部)
34・・・印刷ヘッド(ヘッド)
35・・・ヒータ