(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】硫黄系活物質、電極、非水電解質二次電池および製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20240723BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240723BHJP
C01B 32/70 20170101ALI20240723BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
C01B32/70
(21)【出願番号】P 2020090874
(22)【出願日】2020-05-25
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 達也
(72)【発明者】
【氏名】中条 文哉
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-028949(JP,A)
【文献】国際公開第2013/001693(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/076958(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/084445(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/114651(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/132173(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/147242(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/044437(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/38
H01M 4/36
C01B 32/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)アクリル系共重合体を含んでなる外殻と、前記外殻の内側に内包した炭化水素とを有し、膨張開始温度が150℃以下である熱膨張性粒子、および、
(2)硫黄
を含む原料を焼成してなる硫黄系活物質
であって、
前記アクリル系共重合体が、モノマー成分として、メタクリロニトリル、アクリロニトリル、および(メタ)アクリル酸エステルのいずれか1種以上と、それ以外の1種以上のモノマー成分とを含む共重合体である、硫黄系活物質。
【請求項2】
前記焼成の温度が、250~550℃である、請求項1記載の硫黄系活物質。
【請求項3】
前記炭化水素が、イソブタン、イソペンタンおよびイソオクタンからなる群から選ばれる1種以上である、請求項1
または2記載の硫黄系活物質。
【請求項4】
前記原料が、さらに(3)導電助剤を含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載の硫黄系活物質。
【請求項5】
前記導電助剤が、導電性炭素材料である、請求項
4記載の硫黄系活物質。
【請求項6】
前記熱膨張性粒子の粒径が、0.1~1000μmである、請求項1~
5のいずれか1項に記載の硫黄系活物質。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の硫黄系活物質を含んでなる、非水電解質二次電池用電極。
【請求項8】
請求項
7記載の電極を具備した非水電解質二次電池。
【請求項9】
硫黄系活物質の製造方法であって、
(1)アクリル系共重合体を含んでなる外殻と、前記外殻の内側に内包した炭化水素とを有し、膨張開始温度が150℃以下である熱膨張性粒子、および、
(2)硫黄
を含む原料を、焼成する工程を含
み、
前記アクリル系共重合体が、モノマー成分として、メタクリロニトリル、アクリロニトリル、および(メタ)アクリル酸エステルのいずれか1種以上と、それ以外の1種以上のモノマー成分とを含む共重合体である、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用電極に使用する硫黄系活物質、該硫黄系活物質を含んでなる電極および該電極を具備した非水電解質二次電池並びにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は充放電容量が大きいため、主として携帯電子機器用の電池として用いられている。また非水電解質二次電池は、電気自動車用の電池としても使用量が増加しており、性能の向上が期待されている。
【0003】
特許文献1には、硫黄粉末とポリアクリロニトリル粉末を含む原料粉末を非酸化性雰囲気下で加熱して得た、リチウムイオン二次電池用の正極活物質が記載されている。また、特許文献2は、工業用のゴムを使用することで安価に正極活物質を提供しようとするものである。
【0004】
一方、負極活物質としては、ケイ素(Si)、スズ(Sn)などのより多くのリチウムイオンを吸蔵および放出可能な材料を用いることで、リチウムイオン二次電池の電池容量を増加させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2010/044437号
【文献】特開2015-92449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の正極活物質は、原料であるポリアクリロニトリルが高価であること、特に、品質が安定したポリアクリロニトリルはより高価であるため、リチウムイオン二次電池を安価に提供し難いという問題がある。特許文献2の正極活物質は、サイクル特性の十分な向上になお課題がある。負極活物質として提案されている上記材料は、リチウムイオンの吸蔵および放出に伴う体積変化が大きいため、充放電を繰り返した際のサイクル特性が良好ではないという問題がある。また、グラファイトやハードカーボンといった炭素材料も用いられるが、既に理論容量に達しつつあり、大幅な容量向上は見込めない状況である。
【0007】
本発明は、非水電解質二次電池の充放電容量とサイクル特性を向上できる、新規な硫黄系活物質、該硫黄系活物質を含んでなる電極および該電極を具備した非水電解質二次電池並びにこれらの製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、(1)アクリル系共重合体を含んでなる外殻と前記外殻の内側に内包した炭化水素とを有し、膨張開始温度が150℃以下である熱膨張性粒子と、(2)硫黄とを含む原料を焼成してなる硫黄系活物質を用いれば、上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を重ねて、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1](1)アクリル系共重合体を含んでなる外殻と、前記外殻の内側に内包した炭化水素とを有し、膨張開始温度が150℃以下、好ましくは70~150℃である熱膨張性粒子、および、
(2)硫黄
を含む原料を焼成してなる硫黄系活物質、
[2]前記焼成の温度が、250~550℃、好ましくは300~500℃、より好ましくは350~500℃である、上記[1]記載の硫黄系活物質、
[3]前記アクリル系共重合体が、モノマー成分として、メタクリロニトリルと、メタクリロニトリル以外の1種以上のモノマー成分とを含む共重合体である、上記[1]または[2]記載の硫黄系活物質、
[4]前記メタクリロニトリル以外の1種以上のモノマー成分が、アクリロニトリルおよび(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる1種以上である、上記[3]記載の硫黄系活物質、
[5]前記炭化水素が、イソブタン、イソペンタンおよびイソオクタンからなる群から選ばれる1種以上である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の硫黄系活物質、
[6]前記原料が、さらに(3)導電助剤を含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載の硫黄系活物質、
[7]前記導電助剤が、導電性炭素材料である、上記[6]記載の硫黄系活物質、
[8]前記熱膨張性粒子の粒径が、0.1~1000μm、好ましくは0.5~500μm、より好ましくは1~100μm、さらに好ましくは5~50μmである、上記[1]~[7]のいずれかに記載の硫黄系活物質、
[9]上記[1]~[8]のいずれかに記載の硫黄系活物質を含んでなる、非水電解質二次電池用電極、
[10]上記[9]記載の電極を具備した非水電解質二次電池、
[11]硫黄系活物質の製造方法であって、
(1)アクリル系共重合体を含んでなる外殻と、前記外殻の内側に内包した炭化水素とを有し、膨張開始温度が150℃以下、好ましくは70~150℃である熱膨張性粒子、および、
(2)硫黄
を含む原料を、焼成する工程を含む、製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安価かつ簡便に充放電容量が大きくかつサイクル特性に優れた非水電解質二次電池用の硫黄系活物質、該硫黄系活物質を含んでなる電極および該電極を具備した非水電解質二次電池並びにこれらの製造方法を提供することができる。
【0011】
本明細書において、「サイクル特性」とは、充放電の繰り返しにも拘わらず、二次電池の充放電容量が維持される特性をいう。したがって、充放電の繰り返しに伴い、充放電容量の低下の度合いが大きく、容量維持率が低い二次電池はサイクル特性が劣っているのに対し、逆に、充放電容量の低下の度合いが小さく、容量維持率が高い二次電池はサイクル特性が優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】硫黄系活物質の製造に使用する反応装置を模式的に示す断面図である。
【
図2】実施例1で得られた硫黄系活物質をラマンスペクトル分析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の構成について、以下、詳細に説明する。但し、以下の記載は本開示を説明するための例示であり、本開示の技術的範囲をこの記載範囲にのみ限定する趣旨ではない。なお、数値範囲の記載に関する「以上」、「以下」、「~」にかかる上限および下限の数値は任意に組み合わせできる数値であり、実施例における数値を該上限及び下限とすることもできる。また、「~」によって数値範囲を特定する場合、特に断りのない限り、その両端の数値も含む意味である。
【0014】
本開示の一実施形態は、(1)アクリル系共重合体を含んでなる外殻と前記外殻の内側に内包した炭化水素とを有し、膨張開始温度が150℃以下である熱膨張性粒子、および、(2)硫黄を含む原料を焼成してなる硫黄系活物質である。
【0015】
理論に拘束されることは意図しないが、本開示において、充放電容量が大きくかつサイクル特性に優れた硫黄系活物質を得ることができる理由としては、以下が考えられる。すなわち、アクリル系共重合体を含んでなる外殻とその内側に内包された炭化水素とを有する熱膨張性粒子であって、所定の膨張開始温度を有するものと、硫黄とを含む原料を焼成する場合、該熱膨張性粒子は加熱による温度の上昇とともにまず外殻が軟化し始め、同時に内包されている炭化水素がガス化を始めて内圧が上がるため、膨張を開始する。この膨張開始時に硫黄が液体状態にあると、硫黄は熱膨張性粒子の膨張に追従して動くので、その結果、硫黄が良く分散され、熱膨張性粒子の外殻との接触が均一になる。本開示では、熱膨張性粒子の膨張開始温度が150℃以下のため、膨張開始の時に硫黄はアモルファス状(ゴム状)ではなく液体状態にあるため、上記の如き硫黄と熱膨張性粒子の外殻との均一な接触が達成されると考えられる。
【0016】
さらに温度が上昇してゆくと、炭化水素ガスによる内圧が上昇し、熱膨張性粒子の外殻の厚みは一層薄くなり、良く分散された硫黄によって外殻の変性が促進されることとなる。以上のような過程を経て、外殻が硫黄により均一かつ十分に変性される結果、充放電容量が大きくかつサイクル特性に優れた硫黄系活物質が得られるものと考えられる。
【0017】
前記焼成の温度は、250~550℃であることが好ましい。
【0018】
前記アクリル系共重合体は、モノマー成分として、メタクリロニトリルと、メタクリロニトリル以外の1種以上のモノマー成分とを含む共重合体であることが好ましい。
【0019】
前記メタクリロニトリル以外の1種以上のモノマー成分は、アクリロニトリルおよび(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0020】
前記炭化水素は、イソブタン、イソペンタンおよびイソオクタンからなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0021】
前記原料は、さらに(3)導電助剤を含むことが好ましい。
【0022】
前記導電助剤は、導電性炭素材料であることが好ましい。
【0023】
前記熱膨張性粒子の粒径は、0.1~1000μmであることが好ましい。
【0024】
本開示の他の実施形態は、上記硫黄系活物質を含んでなる、非水電解質二次電池用電極である。
【0025】
本開示の他の実施形態は、上記電極を具備した非水電解質二次電池である。
【0026】
本開示の他の実施形態は、硫黄系活物質の製造方法であって、アクリル系共重合体を含んでなる外殻と前記外殻の内側に内包した炭化水素とを有し、膨張開始温度が150℃以下である熱膨張性粒子、および、硫黄を含む原料を焼成する工程を含む、製造方法である。
【0027】
<硫黄系活物質>
本実施形態の硫黄系活物質は、(1)アクリル系共重合体を含んでなる外殻と前記外殻の内側に内包した炭化水素とを有し、膨張開始温度が150℃以下である熱膨張性粒子、および、(2)硫黄を含む原料を焼成してなるものである。前記原料は、さらに(3)導電助剤を含むものであってもよい。また、前記原料は、さらに(4)加硫促進剤を含むものであってもよい。
【0028】
(熱膨張性粒子)
本実施形態の熱膨張性粒子は、アクリル系共重合体を含んでなる外殻と前記外殻の内側に内包した炭化水素とを有し、その膨張開始温度が150℃以下であるものであれば、好適に使用することができる。熱膨張性粒子の膨張開始温度とは、周囲の温度が上昇してゆく中で、次第に軟化する熱膨張性粒子の外殻の強度と、次第に上昇する内包された炭化水素のガス圧との間の力関係により決定される温度であり、熱膨張性粒子が、膨張を開始する温度である。本開示では該膨張開始温度が150℃以下であることで、前記のとおり、硫黄による熱膨張性粒子の外殻の変性が均一となり、これにより、本開示の効果が得られるものと考えられる。なお、該膨張開始温度は、その下限は特に限定されないが、通常、70℃以上である。
【0029】
ここで、アクリル系共重合体とは、少なくとも1種のアクリル系モノマーを含み、2種以上のモノマー成分から構成される共重合体をいう。この場合において、アクリル系モノマーの共重合比は、50%以上であることが好ましく、50%超であることがより好ましい。
【0030】
アクリル系共重合体としては、内包される炭化水素との関係において、上記の如き膨張のメカニズムの下、所定の膨張開始温度を満たすものであれば特に限定されないが、好ましい例示としては、例えば、アクリル系モノマーとして、メタクリロニトリルを含むものが挙げられる。この場合、アクリル系共重合体は、メタクリロニトリルの単独重合体(ポリメタクリロニトリル)であってもよいし、モノマー成分としてメタクリロニトリルとメタクリロニトリル以外の1種以上のモノマー成分とを含む共重合体であってもよいし、メタクリロニトリルとメタクリロニトリル以外の1種以上のモノマー成分との共重合体であってもよい。
【0031】
メタクリロニトリル以外のモノマー成分としては、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド等の公知の(メタ)アクリルモノマーを好適に使用可能である。なかでも、アクリロニトリルおよび(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる1種以上が好ましい。ここで、(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。また、この場合の「アルキル」としては、炭素数1~6のアルキルが挙げられ、炭素数1~4のアルキルが好ましく、中でも、メチルが好ましい。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」または「メタクリル」を意味する。
【0032】
メタクリロニトリル以外のモノマー成分としては、アクリロニトリルおよびメタクリル酸メチルからなる群から選ばれる1種以上がより好ましく、アクリロニトリルおよびメタクリル酸メチルがさらに好ましい。
【0033】
また、メタクリロニトリル以外のモノマー成分として、ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン化合物も使用可能である。
【0034】
共重合体において、メタクリロニトリルの共重合比は、通常1~99%、好ましくは10~95%、より好ましくは20~90%、さらに好ましくは30~80%である。
【0035】
重合体の重量平均分子量(Mw)は、1,000~1,000,000が好ましく、10,000~300,000よりが好ましい。なお、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ-M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0036】
なお、熱膨張性粒子は、特公昭42-26524号公報、特開昭60-19033号公報、特許第6370219号公報等に記載の方法に準じて製造することができる。具体的には、例えば、上記で例示したモノマー成分、炭化水素、および分散を維持するのに利用される分散安定剤を含む水性分散液を調製する工程、およびモノマーを重合させる工程を行うことにより製造することができる。
【0037】
また、かかる熱膨張性粒子として、日本フィライト(株)製のもの、松本油脂製薬(株)製のもの、呉羽化学工業(株)製のもの、積水化学工業(株)製のもの等の市販の熱膨張性粒子を使用することができる。
【0038】
炭化水素の沸点は、熱膨張性粒子の外殻の軟化点以下の温度であって、上記の如き膨張のメカニズムの下、熱膨張性粒子の所定の膨張開始温度が達成されるものであれば、特に限定されない。当該炭化水素の沸点は、通常-20℃~120℃、好ましくは0℃~100℃、より好ましくは20℃~80℃である。炭化水素の具体例としては、例えば、炭素数2~10の飽和または不飽和の脂肪族炭化水素が挙げられ;炭素数3~8の飽和または不飽和の脂肪族炭化水素が好ましく;ブタン、イソブタン、イソブテン、ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、ネオヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタンおよびイソオクタンがより好ましく;イソブタン、イソペンタンおよびイソオクタンがさらに好ましい。これらの炭化水素は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
熱膨張性粒子中の炭化水素の含有量は、1~70質量%が好ましく、3~40質量%がより好ましく、5~20質量%がさらに好ましい。
【0040】
熱膨張性粒子の膨張前の平均粒子径(D50)は、0.1~1000μmが好ましく、0.5~500μmがより好ましく、1~100μmがさらに好ましく、5~50μmであることがさらに好ましい。本開示において、平均粒子径(D50)は、レーザー回折・散乱法により、体積基準で測定される。
【0041】
熱膨張性粒子の外殻には、アクリル系共重合体以外に、水酸化マグネシウム等の重合触媒や重合開始剤を含有していてもよい。熱膨張性粒子の外殻100質量%に対するアクリル系共重合体の含有量は、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましい。
【0042】
熱膨張性粒子の外殻の膜厚は、熱膨張性粒子の膨張開始温度が所定の温度以下である限り特に制限はなく、該外殻を構成するアクリル系共重合体等の種類や、内包される炭化水素の種類等により変動し得るものであるが、通常は、2~15μm程度である。
【0043】
(硫黄)
硫黄としては粉末硫黄、不溶性硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄等をいずれも使用できる。このうち、沈降硫黄またはコロイド硫黄が好ましい。硫黄の配合量は、充放電容量およびサイクル特性の観点から、熱膨張性粒子100質量部に対して、250質量部以上が好ましく、300質量部以上がより好ましい。一方、硫黄の配合量の上限は特に制限されないが、充放電容量が飽和しコスト的にも不利となることから、1500質量部以下が好ましく、1000質量部以下がより好ましい。
【0044】
(導電助剤)
導電助剤は、特に制限されず、この分野で通常使用されるものをいずれも好適に用いることができるが、例えば、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)、炭素粉末、カーボンブラック(CB)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、黒鉛等の導電性炭素材料を好適に使用することができる。容量密度、入出力特性、および導電性の観点からは、アセチレンブラック(AB)またはケッチェンブラック(KB)が好ましい。これらの導電助剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
導電助剤を配合する場合の熱膨張性粒子100質量部に対する使用量は、充放電容量およびサイクル特性の観点から、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。一方、該配合量は、50質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。1質量部以上であることで、導電助剤を添加する効果が得られ易い傾向があり、50質量部以下であることで、硫黄系活物質における硫黄を含む構造の割合を相対的に多くすることができ、充放電容量やサイクル特性を一層向上させるという目的を達成し易い傾向がある。
【0046】
(加硫促進剤)
加硫促進剤を配合する場合の熱膨張性粒子100質量部に対する使用量は、充放電容量およびサイクル特性の観点から、3質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましい。また、一方、配合量の上限は特に制限されないが、充放電容量が飽和しコスト的にも不利となることから、250質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましい。
【0047】
(焼成)
前記の成分を配合した原料の焼成は、非酸化性雰囲気下で原料を加熱することにより実施される。
【0048】
≪非酸化性雰囲気≫
非酸化性雰囲気とは、酸素を実質的に含まない雰囲気をいい、構成成分の酸化劣化や過剰な熱分解を抑制するために採用されるものである。具体的には、窒素やアルゴン等の不活性ガスを充填した、不活性ガス雰囲気下、硫黄ガス雰囲気等をいう。したがって、焼成は、例えば、不活性ガス雰囲気の下、石英管中で実施される。
【0049】
≪昇温速度≫
該昇温速度は、例えば、50~500℃/hの範囲内であることが好ましい。該昇温速度は、100℃/h以上であることがより好ましく、120℃以上であることがさらに好ましい。一方、該昇温速度は、400℃/h以下であることがより好ましく、300℃/h以下であることがさらに好ましく、200℃/h以下であることがさらに好ましく、180℃以下であることがさらに好ましい。昇温速度がこのような範囲内にあることで、充放電容量やサイクル特性を向上させるという目的を達成し易い傾向がある。
【0050】
≪焼成の温度・時間≫
焼成温度とは、焼成原料の昇温完了後の温度であって、焼成原料の焼成のために一定時間維持される温度をいう。該温度は、250~550℃の範囲であることが好ましい。250℃以上であることで、硫黄による変性が十分に進行し、目的物の充放電容量の低下を防止できる傾向がある。一方、550℃以下とすることで、焼成原料の分解を防ぎ、収率の低下や、充放電容量の低下を防止できる傾向がある。該温度は、300℃以上がより好ましく、350℃以上がより好ましい。一方、該温度は、500℃以下がより好ましく、450℃以下がより好ましい。焼成温度で維持する時間は、焼成原料の種類、焼成温度等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1~6時間であることが好ましい。1時間以上であることで、焼成を十分に進行させることができる傾向があり、6時間以下であることで、構成成分の過剰な熱分解を防止できる傾向がある。
【0051】
≪装置≫
焼成は、
図1に示す装置によって実施できる他、例えば、二軸押出機等の連続式の装置を用いて実施することもできる。連続式の装置を用いる場合、該装置内で、焼成原料を混練して粉砕・混合しながら、焼成も施すなど、硫黄系活物質を一連の操作により連続して製造できるというメリットがある。
【0052】
≪残留物除去工程≫
焼成後に得られる硫化物中には、焼成時に昇華した硫黄が冷えて析出した未反応硫黄等が残留している。これら残留物はサイクル特性を低下させる要因となるため、できるだけ除去することが望ましい。残留物の除去は、例えば、減圧加熱乾燥、温風乾燥、溶媒洗浄などの常法に従い、実施することができる。
【0053】
(活物質)
このようにして得られる硫黄系活物質は、メジアン径で10μm未満の微粉となっているため、さらなる粉砕や分級を行うことなく、そのまま電極への塗布に使用することができるが、より不純物を除くために分級を行ってもよい。熱膨張性粒子は、通常の使用では、加熱により中空粒子内の炭化水素が膨張し、それに追随しシェルも膨張することで、発泡剤としての役割を果たす。
【0054】
硫黄系活物質における硫黄の総含有量が多いほど、非水電解質二次電池のサイクル特性が向上する傾向にあるため、硫黄系活物質における元素分析による硫黄の総含有量は35質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、45質量%以上がさらに好ましい。ただし、導電性炭素材料を配合する場合には、当該導電性炭素材料を構成する炭素の影響で、硫黄の含有量が多少下回っても、充放電容量やサイクル特性の向上効果を期待できる場合がある。そのような場合の硫黄の含有量は、上述の硫黄量を約5.0質量%下回るものであってもよい。
【0055】
また、焼成により熱膨張性粒子中の水素(H)は、硫黄と反応し、硫化水素となり、硫化物中から減っていく。したがって、硫黄系活物質の水素含有量は、1.6質量%以下であることが好ましい。1.6質量%以下である場合には、焼成(硫黄変性)が十分であるという傾向がある。したがって、この場合、充放電容量が向上する傾向にある。水素含有量は、より好ましくは1.0質量%以下、さらに好ましくは0.8質量%以下である。
【0056】
本実施形態に係る硫黄系活物質は、ラマンスペクトルにおいて、200cm-1~1800cm-1の範囲で1530cm-1付近、1320cm-1付近、940cm-1付近、470cm-1付近、370cm-1付近、および310cm-1付近にピークが存在するという特徴を有する。このうち、主ピークは、1320cm-1付近のピークである。上記した各ピークは、上記したピーク位置を中心として、ほぼ±8cm-1の範囲内に存在することができる。なお、前記のラマンシフトは、ナノフォトン(株)製のRAMANtouch(励起波長λ=532nm、グレーチング:1200gr/mm、分解能:1.2cm-1)で測定したものである。
【0057】
熱膨張性粒子と硫黄とを混合して前記所定の温度で加熱すると、閉環反応が起こり、前記アクリル系共重合体に硫黄が取り込まれて三次元的に架橋した構造が形成される。このようにして得られた、本実施形態に係る硫黄系活物質は、充放電サイクルにおいて電解質への硫黄活物質の溶出が抑制される。このことから、該硫黄系活物質を電極に使用した非水電解質二次電池は、サイクル特性が向上する。
【0058】
<電極>
本実施形態に係る非水電解質二次電池用電極(正極および負極)は、前記の硫黄系活物質に、バインダ、導電助剤および溶媒、並びに集電体を用いて、常法により、製造することができる。このような非水電解質二次電池用電極は、一般的な非水電解質蓄電デバイスと同様の構造とすることができる。
【0059】
非水電解質二次電池用電極は、例えば、前記の硫黄系活物質、バインダ、導電助剤、および溶媒を混合した電極スラリーを集電体に塗布することにより製造することができる。また、その他の方法として、硫黄系活物質、導電助剤およびバインダの混合物を、乳鉢やプレス機等で混練しかつフィルム状にし、フィルム状の混合物をプレス機等で集電体に圧着することにより製造することもできる。
【0060】
これら非水電解質二次電池用電極は、好ましくは、リチウムイオン二次電池用電極として使用することができる。
【0061】
(集電体)
集電体としては、非水電解質二次電池用の電極として一般に用いられるものを使用することができる。集電体の具体例としては、例えば、アルミ箔、アルミニウムメッシュ、パンチングアルミニウムシート、アルミニウムエキスパンドシート等のアルミニウム系集電体;ステンレススチール箔、ステンレススチールメッシュ、パンチングステンレススチールシート、ステンレススチールエキスパンドシート等のステンレス系集電体;発泡ニッケル、ニッケル不織布等のニッケル系集電体;銅箔、銅メッシュ、パンチング銅シート、銅エキスパンドシート等の銅系集電体;チタン箔、チタンメッシュ等のチタン系集電体;カーボン不織布、カーボン織布等の炭素系集電体が挙げられる。なかでも、機械的強度、導電性、質量密度、コスト等の観点から、アルミニウム系集電体が好ましい。
【0062】
集電体の形状には特に制約はないが、例えば、箔状基材、三次元基材等を用いることができる。三次元基材(発泡メタル、メッシュ、織布、不織布、エキスパンド等)を用いると、集電体との密着性に欠けるようなバインダであっても高い容量密度の電極が得られるとともに、高率充放電特性も良好になる傾向がある。
【0063】
(バインダ)
バインダとしては、電極に用いられる公知のバインダが使用可能であるが、水との親和性および環境負荷低減の観点から、水性バインダが好適に用いられる。水性バインダとしては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、アクリル樹脂、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、水溶性ポリイミド(PI)、水溶性ポリアミドイミド(PAI)、メタクリル樹脂(PMA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ウレタン等が挙げられる。これらのバインダは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0064】
(導電助剤)
導電助剤としては、前記の硫黄系活物質の製造において使用可能な導電助剤を同様に使用できる。
【0065】
(溶媒)
電極スラリーの製造において、硫黄系活物質、バインダ、導電助剤等の固形成分を分散させるために使用される溶媒としては、水を含む溶媒(水系溶媒)好ましく、水が好ましい。水以外の有機溶媒を使用すると、硫黄系活物質から充放電反応に寄与する硫黄成分が溶出し、電池の充放電容量が低下する傾向がある。また、環境負荷低減の観点からも、水系溶媒が好ましい。なお、本開示の効果を損なわない範囲(例えば、水以外の有機溶媒が20質量%未満)であれば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアルデヒド、低級アルコール等の水と混和する溶媒を混合してもよい。
【0066】
電極スラリー中の固形成分(特に、硫黄系活物質、バインダ、および導電助剤。以下同じ。)100質量%に対する硫黄系活物質の含有量は、85質量%以上が好ましく、87質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。また、硫黄系活物質の含有量の上限は特に制限されないが、99質量%以下が好ましく、97質量%以下がより好ましく、95質量%以下がさらに好ましい。
【0067】
電極スラリー中の固形成分100質量%に対するバインダの含有量は、0.1~10.0質量%が好ましく、0.5~8.0質量%がより好ましく、1.0~6.0質量%がさらに好ましく、2.0~5.0質量%が特に好ましい。
【0068】
電極スラリー中に導電助剤を配合する場合の固形成分100質量%に対する含有量は、0.1~10.0質量%が好ましく、0.5~8.0質量%がより好ましく、1.0~6.0質量%がさらに好ましく、2.0~5.0質量%が特に好ましい。
【0069】
<非水電解質二次電池>
非水電解質二次電池は、上述した本実施形態に係る非水電解質二次電池用電極(正極または負極)に、その対極となる電極、電解質等を用いて、常法により、製造することができる。非水電解質二次電池は、例えば、正極、負極、電解質以外にも、セパレータ等の部材を備えても良い。セパレータは、正極と負極との間に介在して両極間のイオンの移動を許容するとともに、当該正極と負極との内部短絡を防止するために機能する。非水電解質二次電池が密閉型であれば、セパレータには電解液を保持する機能も求められる。
【0070】
(対極となる電極)
本実施形態に係る硫黄系活物質を正極に用いる場合、その対極となる負極には、例えば、金属リチウム、黒鉛等の炭素系材料;シリコン薄膜、SiO等のシリコン系材料;銅-スズやコバルト-スズ等のスズ合金系材料等の公知の負極材料を使用することができる。負極にリチウムを含まない材料、例えば、炭素系材料、シリコン系材料、スズ合金系材料等を用いる場合には、デンドライトの発生による正負極間の短絡を生じにくくでき、非水電解質二次電池の長寿命化を図ることができる。なかでも、高容量の負極材料であるシリコン系材料が好ましく、電極厚さを小さくでき、体積当りの容量の点で有利となる薄膜シリコンがより好ましい。
【0071】
ただし、リチウムを含まない負極材料を、本実施形態に係る正極と組み合わせて用いる場合には、正極および負極がいずれもリチウムを含まないことになるため、いずれか一方、または両方に、あらかじめリチウムを挿入するプリドープの処理が好ましい。
【0072】
プリドープの方法としては、公知の方法を利用することができる。例えば、負極にリチウムをドープする場合は、対極として金属リチウムを用いて半電池を組んで電気化学的にリチウムをドープする電解ドープ法や、金属リチウム箔を電極に貼り付けた状態で電解液中に放置して電極へのリチウムの拡散によってドープする貼り付けプリドープ法等が挙げられる。なお、正極にリチウムをプリドープする場合にも、上述した電解ドープ法を採用することができる。
【0073】
本実施形態に係る硫黄系活物質を負極に用いる場合、その対極となる正極には、例えば、リチウムと遷移金属の複合酸化物(特に、コバルト系複合酸化物、ニッケル系複合酸化物、マンガン系複合酸化物、コバルト・ニッケル・マンガンの3元素から成る三元系複合酸化物)等を使用することができる。また、オリビン型の結晶構造を有するリチウム遷移金属リン酸塩(特にリン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウム)等も使用可能である。なお、リチウムを含有する遷移金属リチウム複合酸化物系の化合物を活物質に用いて作製される電極を正極とし、本実施形態に係る電極スラリーを使用した電極を負極として組み合せる場合は、正極にリチウムが含まれるため、リチウムを挿入するためのリチウムプリドープ処理は必ずしも必要ではない。
【0074】
(電解質)
非水電解質二次電池を構成する電解質としては、イオン伝導性を有する液体または固体であればよく、公知の非水電解質二次電池に用いられる電解質と同様のものが使用できるが、電池の出力特性が高いという観点から、有機溶媒に支持電解質であるアルカリ金属塩を溶解させたものを使用することが好ましい。
【0075】
有機溶媒としては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルエーテル、γ-ブチロラクトン、アセトニトリル等の非水性溶媒から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。好ましくは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、またはこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0076】
支持電解質としては、例えばLiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiI、LiClO4等が挙げられ、LiPF6が好ましい。
【0077】
支持電解質の濃度は0.5mol/L~1.7mol/L程度であればよい。なお電解質は液状には限定されない。例えば非水電解質二次電池がリチウムイオン二次電池である場合、電解質は固体状(例えば、高分子ゲル状)、あるいはイオン性液体や溶融塩等であってもよい。
【0078】
(セパレータ)
セパレータとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、アラミド、ポリイミド、セルロース、ガラス等を材料とする薄肉かつ微多孔性または不織布状の膜を用いるのが好ましい。
【0079】
(電池の形状)
本実施形態に係る非水電解質二次電池の形状は特に限定されず、円筒型、積層型、コイン型、ボタン型等の種々の形状にすることができる。
【0080】
(電池の用途)
本実施形態に係る電極を具備した非水電解質二次電池は、高容量かつサイクル特性に優れるため、スマートフォン、パワーツール、自動車、UPS等の電源として使用可能な電気機器に利用することができる。
【実施例】
【0081】
実施例に基づいて、本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらのみに限定されるものではない。
【0082】
実施例および比較例で使用した各種薬品について説明する。
粒子1:エクスパンセル980-120-Du(日本フィライト(株)製;メタクリロニトリルとアクリロニトリルとメタクリル酸メチルの共重合体からなる外殻の内側に、2,2,4-トリメチルペンタンを内包させた熱膨張性粒子;膨張開始温度:158~173℃;粒子径:25~40μm)
粒子2:エクスパンセル920-40-Du(日本フィライト(株)製;メタクリロニトリルとアクリロニトリルとメタクリル酸メチルの共重合体からなる外殻の内側に、イソペンタンを内包させた熱膨張性粒子;膨張開始温度:123~133℃;粒子径:10~16μm)
粒子3:マツモトマイクロスフェアー(登録商標)FN-180SS(松本油脂製薬(株)製;アクリル系共重合体からなる外殻の内側に、炭化水素を内包させた熱膨張性粒子;膨張開始温度:135~150℃;粒子径:15~25μm)
粒子4:マツモトマイクロスフェアー(登録商標)FN-100S(松本油脂製薬(株)製;アクリル系共重合体からなる外殻の内側に、炭化水素を内包させた熱膨張性粒子;膨張開始温度:125~135℃;粒子径:10~20μm)
硫黄:鶴見化学工業(株)製の沈降硫黄
【0083】
<実施例1>
(原料の調製)
表1の配合に従い、粒子1および硫黄をブレンダーで混合し、焼成のための原料(焼成原料)を得た。
【0084】
(反応装置)
原料の焼成には、
図1に示す反応装置1を用いた。反応装置1は、原料2を収容して焼成するための、有底筒状をなす石英ガラス製の、外径60mm、内径50mm、高さ300mmの反応容器3、当該反応容器3の上部開口を閉じるシリコーン製の蓋4、当該蓋4を貫通する1本のアルミナ保護管5((株)ニッカトー製の「アルミナSSA-S」、外径4mm、内径2mm、長さ250mm)と、2本のガス導入管6とガス排出管7(いずれも、(株)ニッカトー製の「アルミナSSA-S」、外径6mm、内径4mm、長さ150mm)、および反応容器3を底部側から加熱する電気炉8(ルツボ炉、開口幅φ80mm、加熱高さ100mm)を備えている。
【0085】
アルミナ保護管5は、蓋4から下方が、反応容器3の底に収容した原料2に達する長さに形成され、内部に熱電対9が挿通されている。アルミナ保護管5は、熱電対9の保護管として用いられる。熱電対9の先端は、アルミナ保護管5の閉じられた先端で保護された状態で、原料2に挿入されて、当該原料2の温度を測定するために機能する。熱電対9の出力は、図中に実線の矢印で示すように、電気炉8の温度コントローラ10に入力され、温度コントローラ10は、この熱電対9からの入力に基づいて、電気炉8の加熱温度をコントロールするために機能する。
【0086】
ガス導入管6とガス排出管7は、その下端が、蓋4から下方へ3mm突出するように形成されている。
【0087】
ガス導入管6には、図示しないガスの供給系から、アルゴン(Ar)ガスが継続的に供給される。またガス排出管7は、水酸化ナトリウム水溶液11を収容したトラップ槽12に接続されている。反応容器3からガス排出管7を通って外部へ出ようとする排気は、一旦、トラップ槽12内の水酸化ナトリウム水溶液11を通ったのちに外部へ放出される。そのため排気中に、加硫反応によって発生する硫化水素ガスが含まれていても、水酸化ナトリウム水溶液と中和されて排気からは除去される。
【0088】
(焼成工程)
焼成工程は、まず原料2を反応容器3の底に収容した状態で、ガスの供給系から、80mL/分の流量でArガスを継続的に供給しながら、供給開始30分後に、電気炉8による加熱を開始した。昇温速度は150℃/時で実施した。そして原料の温度が450℃に達した時点で、450℃を維持しながら2時間焼成をした。次いでArガスの流量を調整しながら、Arガス雰囲気下、反応生成物の温度を25℃まで自然冷却させたのち、該反応生成物を反応容器3から取り出した。
【0089】
(未反応硫黄の除去)
焼成工程後の生成物に残存する未反応硫黄(遊離した状態の単体硫黄)を除去するために、以下の工程を行なった。すなわち、該生成物を乳鉢で粉砕し、粉砕物2gをガラスチューブオーブンに収容して、真空吸引しながら250℃で3時間加熱して、未反応硫黄が除去された(または、微量の未反応硫黄しか含まない)硫黄系活物質を得た。昇温速度は10℃/分とした。
【0090】
(分級作業)
焼成物中に含まれる不純物を除去するために、32μmメッシュのステンレスふるいを用いて分級して硫黄系活物質を得た。これを実施例1の硫黄系活物質とした。
【0091】
(ラマンスペクトル分析)
得られた硫黄系活物質について、ナノフォトン(株)製のRAMANtouchを用いて励起波長λ=532nm、グレーチング:1200gr/mm、分解能:1.2cm
-1の条件でラマンスペクトル分析をした(
図2)。なお、
図2において縦軸は相対強度、横軸はラマンシフト(cm
-1)を示す。得られた硫黄系活物質は、200cm
-1~1800cm
-1の範囲で1530cm
-1付近、1320cm
-1付近、940cm
-1付近、470cm
-1付近、370cm
-1付近、および310cm
-1付近にピークが観測された。1320cm
-1付近のピークが主ピークであった。
【0092】
(元素分析)
得られた硫黄系活物質について、元素分析を実施した。炭素、水素、および窒素については、Elementar社製の全自動元素分析装置vario MICRO cubeを用いて測定した質量から、硫黄系活物質の総量中に占める質量比(%)を算出した。また、硫黄は、Dionex社製のイオンクロマトグラフ装置DX-320に、同社製のカラム(IonPac AS12A)を用いて測定した質量から、硫黄系活物質の総量中に占める質量比(%)を算出した。
【0093】
(リチウムイオン二次電池の作製)
〔1〕正極
上記の硫黄系活物質、導電助剤としてアセチレンブラック、および、バインダとしてアクリル樹脂を用いた。硫黄系活物質:導電助剤:バインダを、90:5:5(質量比)の割合で秤量し、容器に入れ、分散剤にmilliQ水を使用して自転公転ミキサー((株)シンキー製のARE-250)を用いて攪拌、混合を行い、均一なスラリーを作製した。作製したスラリーを厚さ20μmのアルミ箔上に、スリット幅60μmのアプリケーターを使用して塗工し、ロールプレスを用いて圧縮した正極を120℃で3時間、乾燥機で加熱し、乾燥後、φ11に打ち抜くことでリチウムイオン二次電池用の正極を得た。その後正極の重量を測定し、上述の比率から電極中の活物質量を算出した。
【0094】
〔2〕負極
負極としては、金属リチウム箔(直径14mm、厚さ500μmの円盤状、本城金属(株)製)を用いた。
【0095】
〔3〕非水電解質
非水電解質としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒に、LiPF6を溶解した電解液を用いた。エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとは体積比1:1で混合した。電解液中のLiPF6の濃度は、1.0mol/Lであった。
【0096】
〔4〕電池
〔1〕、〔2〕で得られた正極および負極を用いて、コイン電池を製作した。詳しくは、ドライルーム内で、セパレータ(Celgard社製Celgard2400、厚さ25μmのポリプロピレン微孔質膜)と、ガラス不織布フィルタ(厚さ440μm、ADVANTEC社製、GA100)とを正極と負極との間に挟装して、電極体電池とした。この電極体電池を、ステンレス容器からなる電池ケース(CR2032型コイン電池用部材、宝泉(株)製)に収容した。電池ケースには〔3〕で得られた電解液を注入した。電池ケースをカシメ機で密閉して、実施例1のコイン型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0097】
<その他の実施例・比較例>
表1の配合に従い、実施例1と同様に処理して、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0098】
<試験方法>
(充放電容量測定試験)
各実施例および比較例で作製したコイン型リチウムイオン二次電池について、試験温度30℃の条件下で、硫黄系活物質1gあたり50mAに相当する電流値の充放電をさせた。放電終止電圧は1.0V、充電終止電圧は3.0Vとした。また充放電は30回繰り返し、各回の放電容量(mAh/g)を測定するとともに、2回目の放電容量(mAh/g)を初期容量とした。結果を表1に示す。なお、初期容量が大きいほど、リチウムイオン二次電池は充放電容量が大きく好ましいと評価できる。
【0099】
また、10回目の放電容量DC10(mAh/g)と30回目の放電容量DC30(mAh/g)から、下記式により容量維持率(%)を求めた。結果を表1に示す。なお、容量維持率が大きいほど、リチウムイオン二次電池はサイクル特性に優れているといえる。
(容量維持率(%))=(DC30(mAh/g))/(DC10(mAh/g))×100
【0100】
【0101】
表1の結果より、本開示の硫黄系活物質を電極材料として使用したリチウムイオン二次電池は、優れた充放電容量およびサイクル特性を有していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本開示の硫黄系活物質を電極材料として使用することにより、安価かつ簡便に充放電容量が大きくかつサイクル特性に優れた非水電解質二次電池を製造することができる。
【符号の説明】
【0103】
1 反応装置
2 原料
3 反応容器
4 シリコーン製の蓋
5 アルミナ保護管
6 ガス導入管
7 ガス排出管
8 電気炉
9 熱電対
10 温度コントローラ
11 水酸化ナトリウム水溶液
12 トラップ槽