(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】炭化水素生成システム及び炭化水素生成方法
(51)【国際特許分類】
C07C 1/12 20060101AFI20240723BHJP
C07C 9/02 20060101ALI20240723BHJP
C07C 11/02 20060101ALI20240723BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240723BHJP
【FI】
C07C1/12
C07C9/02
C07C11/02
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020093889
(22)【出願日】2020-05-29
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 博之
(72)【発明者】
【氏名】水上 範貴
(72)【発明者】
【氏名】石田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】吉野谷 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】奥野 真也
【審査官】▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-026595(JP,A)
【文献】特開2014-036942(JP,A)
【文献】特開2017-155035(JP,A)
【文献】特開2020-037535(JP,A)
【文献】特開2012-140382(JP,A)
【文献】特開2015-109767(JP,A)
【文献】特開2017-170359(JP,A)
【文献】特開2011-213559(JP,A)
【文献】特開2010-202677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C1/12,C10G2/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を含有するガスから二酸化炭素を回収する回収部と、
炭化水素を生成する反応器と、
前記反応器から排出される未反応の二酸化炭素を捕捉する捕捉部と、
を備え、
前記反応器は、前記回収部で回収される二酸化炭素、前記捕捉部で捕捉される二酸化炭素、及び水素を含む原料から前記炭化水素を生成
し、
前記捕捉部はアルカリ性溶液を含む吸収材で二酸化炭素を吸収する第2吸収塔を含み、
前記回収部は、前記アルカリ性溶液で二酸化炭素を吸収する第1吸収塔と、前記第1吸収塔で吸収された二酸化炭素を放散する放散塔とを含み、前記第2吸収塔で二酸化炭素が吸収されたアルカリ性溶液は、前記回収部の前記放散塔へ移送される、炭化水素生成システム。
【請求項2】
二酸化炭素を含有するガスから二酸化炭素を回収する回収部と、
炭化水素を生成する反応器と、
前記反応器から排出される未反応の二酸化炭素を捕捉する捕捉部と、
を備え、
前記反応器は、前記回収部で回収される二酸化炭素、前記捕捉部で捕捉される二酸化炭素、及び水素を含む原料から前記炭化水素を生成し、
前記捕捉部は、前記反応器から排出される未反応の二酸化炭素を固化する
、炭化水素生成システム。
【請求項3】
前記反応器から排出される排出ガスから5以上の所定の炭素数を有する炭化水素を前記捕捉部に至る前に分離する第1分離装置をさらに備える、請求項
1又は2に記載の炭化水素生成システム。
【請求項4】
前記反応器から排出され、前記捕捉部を通過する排出ガスのうち、炭素数が4以下の炭化水素の混合物を化学構造に応じて分離する第2分離装置をさらに備える、請求項
1~3のいずれか一項に記載の炭化水素生成システム。
【請求項5】
二酸化炭素を含有するガスから二酸化炭素を回収する回収部と、
炭化水素を生成する反応器と、
前記反応器から排出される未反応の二酸化炭素を捕捉する捕捉部と、
前記反応器から排出され、前記捕捉部を通過する排出ガスのうち、炭素数が4以下の炭化水素の混合物を化学構造に応じて分離する第2分離装置と、
前記反応器から排出され、前記捕捉部を通過する排出ガスに含まれる水素を、前記第2分離装置に至る前に圧力スイング法で回収する水素回収部
と、
を備え、
前記反応器は、前記回収部で回収される二酸化炭素、前記捕捉部で捕捉される二酸化炭素、及び水素を含む原料から前記炭化水素を生成する
、炭化水素生成システム。
【請求項6】
二酸化炭素を含有するガスから二酸化炭素を
回収部で回収する工程と、
炭化水素を反応器で生成する工程と、
前記反応器から排出される未反応の二酸化炭素を
捕捉部で捕捉する工程と、
を含み、
前記反応器は、前記
回収部で回収された二酸化炭素、
前記捕捉部で捕捉された二酸化炭素、及び水素を含む原料から炭化水素を生成
し
前記捕捉部はアルカリ性溶液を含む吸収材で二酸化炭素を吸収する第2吸収塔を含み、
前記回収部は、前記アルカリ性溶液で二酸化炭素を吸収する第1吸収塔と、前記第1吸収塔で吸収された二酸化炭素を放散する放散塔とを含み、前記第2吸収塔で二酸化炭素が吸収されたアルカリ性溶液は、前記回収部の前記放散塔へ移送される、炭化水素生成方法。
【請求項7】
二酸化炭素を含有するガスから二酸化炭素を回収部で回収する工程と、
炭化水素を反応器で生成する工程と、
前記反応器から排出される未反応の二酸化炭素を捕捉部で捕捉する工程と、
を含み、
前記反応器は、前記回収部で回収された二酸化炭素、前記捕捉部で捕捉された二酸化炭素、及び水素を含む原料から炭化水素を生成し
前記捕捉部は、前記反応器から排出される未反応の二酸化炭素を固化する、炭化水素生成方法。
【請求項8】
二酸化炭素を含有するガスから二酸化炭素を回収部で回収する工程と、
炭化水素を反応器で生成する工程と、
前記反応器から排出される未反応の二酸化炭素を捕捉部で捕捉する工程と、
前記反応器から排出され、前記捕捉部を通過する排出ガスのうち、炭素数が4以下の炭化水素の混合物を化学構造に応じて第2分離装置で分離する工程と、
前記反応器から排出され、前記捕捉部を通過する排出ガスに含まれる水素を、前記第2分離装置に至る前に水素回収部において圧力スイング法で回収する工程と、
を含み、
前記反応器は、前記回収部で回収された二酸化炭素、前記捕捉部で捕捉された二酸化炭素、及び水素を含む原料から炭化水素を生成する、炭化水素生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭化水素生成システム及び炭化水素生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンなどの炭化水素は、プラスチックの原料として用いられている。エチレンは、ナフサの熱分解、又は、天然ガス中のエタンのクラッキングによって得ることができる。しかしながら、熱分解及びクラッキングの工程では、高温状態を維持するために多くの熱エネルギーが消費され、地球温暖化の原因として問題視されている二酸化炭素が排出される。
【0003】
エチレンを含む炭化水素は、フィッシャー・トロプシュ反応で生成することもできる。このような方法として、特許文献1では、一酸化炭素、水素及び二酸化炭素を含む合成ガスを、鉄元素を含む触媒と分散媒との共存下において反応させ、得られた炭化水素を分解触媒に接触させて炭素原子数2~4のオレフィンを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1によれば、上記のような方法により、副生物である二酸化炭素の選択率を抑制しつつ、オレフィンの選択率を高くすることができるようである。しかしながら、特許文献1のような方法であっても、未反応の二酸化炭素が反応器から排出されるおそれがあるため、反応器における二酸化炭素の利用率が十分ではないという課題がある。
【0006】
また、上記の方法で生成された生成物は、ナフサ分解で得られる生成物と同様に、低級オレフィンだけでなく、様々な種類の炭化水素を含んでおり、通常、分離装置で化学種ごとに分離される。しかしながら、上述のように反応器から未反応の二酸化炭素が排出される。反応器から排出される排出ガスが分離装置で低温高圧になると、排出ガス中の二酸化炭素がドライアイスとなって分離装置に付着するおそれがある。そのため、生成物を既存の分離装置で分離することが困難になるおそれがある。
【0007】
そこで、本開示は、未反応の二酸化炭素を効率よくリサイクルして二酸化炭素の利用率を向上させ、分離装置に供給される二酸化炭素も低減可能な炭化水素生成システム及び炭化水素生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る炭化水素生成システムは、二酸化炭素を含有するガスから二酸化炭素を回収する回収部と、炭化水素を生成する反応器と、反応器から排出される未反応の二酸化炭素を捕捉する捕捉部と、を備える。反応器は、回収部で回収される二酸化炭素、捕捉部で捕捉される二酸化炭素、及び水素を含む原料から炭化水素を生成する。
【0009】
捕捉部はアルカリ性溶液を含む吸収材で二酸化炭素を吸収する第2吸収塔を含んでもよい。回収部は、アルカリ性溶液で二酸化炭素を吸収する第1吸収塔と、第1吸収塔で吸収された二酸化炭素を放散する放散塔とを含み、第2吸収塔で二酸化炭素が吸収されたアルカリ性溶液は、回収部の放散塔へ移送されてもよい。捕捉部は、反応器から排出される未反応の二酸化炭素と固体の捕捉材との接触により捕捉材に二酸化炭素を捕捉してもよい。捕捉部は捕捉材に捕捉された二酸化炭素を脱着する脱着塔を含んでもよい。捕捉材は、多孔質体、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びこれらの組み合わせを含んでもよい。捕捉材は、塩基性物質が表面に担持された多孔質体、及び、表面が塩基で修飾された多孔質体の少なくともいずれか一方を含んでもよい。捕捉部は、反応器から排出される未反応の二酸化炭素を固化してもよい。反応器から排出される排出ガスから5以上の所定の炭素数を有する炭化水素を捕捉部に至る前に分離する第1分離装置をさらに備えてもよい。反応器から排出され、捕捉部を通過する排出ガスのうち、炭素数が4以下の炭化水素の混合物を化学構造に応じて分離する第2分離装置をさらに備えてもよい。反応器から排出され、捕捉部を通過する排出ガスに含まれる水素を、第2分離装置に至る前に圧力スイング法で回収する水素回収部をさらに備えてもよい。
【0010】
本開示に係る炭化水素生成方法は、二酸化炭素を含有するガスから二酸化炭素を回収する工程と、炭化水素を反応器で生成する工程と、反応器から排出される未反応の二酸化炭素を捕捉する工程と、を含む。回収された二酸化炭素、捕捉された二酸化炭素、及び水素を含む原料から炭化水素を生成する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、未反応の二酸化炭素を効率よくリサイクルして二酸化炭素の利用率を向上させ、分離装置に供給される二酸化炭素も低減可能な炭化水素生成システム及び炭化水素生成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態に係る炭化水素生成システムを示す概略図である。
【
図2】一実施形態に係る回収部を示す概略図である。
【
図3】一実施形態に係る炭化水素生成システムを示す概略図である。
【
図4】一実施形態に係る炭化水素生成システムを示す概略図である。
【
図5】一実施形態に係る炭化水素生成システムを示す概略図である。
【
図6】一実施形態に係る炭化水素生成システムを示す概略図である。
【
図7】一実施形態に係る第2分離装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、いくつかの例示的な実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0014】
図1は、本実施形態に係る炭化水素生成システム1を示す概略図である。炭化水素生成システム1は、二酸化炭素発生源10から排出され、二酸化炭素を含有するガスから炭化水素を生成する。二酸化炭素は、近年、地球温暖化の原因として問題視されており、二酸化炭素の排出を抑制する動きが活発化している。二酸化炭素発生源10から回収する二酸化炭素を炭化水素の原料とすることにより、大気中に放出される二酸化炭素の量を低減し、有用な炭化水素を生成することができる。さらに、二酸化炭素を原料として炭化水素を生成することができれば、有限の資源である石油の使用も低減することができる。二酸化炭素発生源10は、例えば、燃料が燃焼されることによって二酸化炭素を排出する発電所及び工場などである。ただし、本実施形態に係る炭化水素生成システムは、二酸化炭素を含む原料から炭化水素を生成することができれば、二酸化炭素発生源10はこれらに限定されない。炭化水素生成システム1は、例えば、前処理部20と、回収部30と、水素供給部50、反応器60と、第1分離装置70と、捕捉部80と、水素回収部100と、第2分離装置110とを備える。以下、各構成について詳細に説明する。
【0015】
(前処理部20)
前処理部20は、二酸化炭素発生源10から排出され、二酸化炭素を含有する排気ガスが、回収部30に供給される前に排気ガス中の異物を除去する。前処理部20は、例えば、脱硝装置、除塵装置及び脱硫装置などを含む。脱硝装置は排気ガスから窒素酸化物を除去することができる。除塵装置は排気ガスから粉塵などの微粒子を除去することができる。脱硫装置は排気ガスから硫黄酸化物を除去することができる。前処理部20で前処理されたガスは、回収部30に供給される。なお、前処理部20は、回収部30に排気ガスが供給されても回収部30に影響を及ぼさなければ特に必要がないため、炭化水素生成システム1は前処理部20を備えていなくてもよい。
【0016】
(回収部30)
回収部30は、二酸化炭素を含有するガスから二酸化炭素を回収する。回収部30は、具体的には、回収対象となる二酸化炭素を含有するガスから、回収対象となるガスよりも高い二酸化炭素濃度のガスを生成する。回収部30は、例えば、化学吸収法、圧力スウィング吸着法、温度スウィング吸着法、膜分離濃縮法又はこれらの組み合わせなどによって二酸化炭素を回収することができるが、本実施形態では化学吸収法を利用した回収部30を例として説明する。化学吸収法によれば、常圧のガスから大量の二酸化炭素を回収することができる。回収部30は、
図2に示すように、例えば、第1吸収塔31と、放散塔35と、供給配管41と、還流配管42と、ポンプ43と、ポンプ44と、熱交換器45と、冷却器46とを含む。
【0017】
第1吸収塔31は、アルカリ性溶液で二酸化炭素を吸収する。第1吸収塔31は、具体的には、二酸化炭素を含有するガスとアルカリ性溶液との気液接触によって二酸化炭素を含有するアルカリ性溶液を生成する。放散塔35は、第1吸収塔31で吸収された二酸化炭素を放散する。放散塔35は、具体的には、二酸化炭素を含有するアルカリ性溶液から二酸化炭素を放散する。アルカリ性溶液は、例えば、アルカノールアミン及びアルコール性水酸基を有するヒンダードアミンの少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。アルカノールアミンは、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン及びジグリコールアミンからなる群より選択される少なくとも一種のアミンを含む。アルコール性水酸基を有するヒンダードアミンは、例えば、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)、2-(エチルアミノ)エタノール(EAE)及び2-(メチルアミノ)エタノール(MAE)からなる群より選択される少なくとも一種のアミンを含む。アルカリ性溶液は、モノエタノールアミン(MEA)を含んでいることが好ましい。アルカリ性溶液における吸収材の濃度は、処理対象とするガスに含まれる二酸化炭素量や処理速度等に応じて適宜設定することができ、アルカリ性溶液の流動性や消耗損失抑制などの点を考慮すると、例えば10質量%~50質量%である。
【0018】
第1吸収塔31、放散塔35は、例えば向流型気液接触装置である。第1吸収塔31は、吸収槽32と、充填材33と、デミスタ34とを含んでいる。放散塔35は、放散槽36と、充填材37と、デミスタ38と、循環配管39と、ヒーター40とを含んでいる。
【0019】
供給配管41は、第1吸収塔31の充填材33よりも下方の吸収槽32の底部と、放散塔35の充填材37よりも上方の放散槽36の上部とを接続する。還流配管42は、放散塔35の充填材37よりも下方の放散槽36の底部と、第1吸収塔31の充填材33よりも上方の吸収槽32の上部とを接続する。供給配管41にはポンプ43が設けられ、還流配管42にはポンプ44と冷却器46とが設けられる。また、供給配管41及び還流配管42には、熱交換器45が設けられる。
【0020】
熱交換器45の種類は特に限定されず、例えば、スパイラル式、プレート式、二重管式、多重円筒式、多重円管式、渦巻管式、渦巻板式、タンクコイル式、タンクジャケット式及び直接接触液式等を使用することができる。
【0021】
第1吸収塔31の充填材33より下方に供給された二酸化炭素を含有するガスは、吸収槽32の上部から供給されるアルカリ性溶液と気液接触しながら吸収槽32内を上昇し、ガスに含まれる二酸化炭素がアルカリ性溶液に吸収される。ガスは、吸収槽32内を上昇する際、充填材33を通過することにより、アルカリ性溶液との気液接触が促進される。二酸化炭素を吸収したアルカリ性溶液は、充填材33から吸収槽32の底部に滴り落ち、吸収槽32の底部に滞留する。吸収槽32の底部に滞留するアルカリ性溶液は、ポンプ43によって吸い上げられ、供給配管41を通じ、熱交換器45によって加熱された後、放散塔35の充填材37より上方へ送られる。
【0022】
熱交換器45によって加熱されたアルカリ性溶液は、充填材37の上方から二酸化炭素を放散しながら滴り落ち、放散槽36の底部に滞留する。この際、アルカリ性溶液は、充填材37を通過し、充填材37での気液接触によりアルカリ性溶液からの二酸化炭素の放散が促進される。循環配管39は、放散槽36の底部に設けられ、循環配管39にはスチーム式のヒーター40が設けられる。放散槽36の底部に滞留するアルカリ性溶液の一部は、循環配管39を通じてヒーター40に分流され、高温蒸気との熱交換によって、例えばアルカリ性溶液の沸点付近まで加熱された後に放散槽36内へ還流される。この加熱によって、放散槽36の底部のアルカリ性溶液から二酸化炭素が放散される。さらに、この加熱によって、充填材37も間接的に加熱され、充填材37での気液接触によりアルカリ性溶液からの二酸化炭素の放散が促進される。放散された二酸化炭素を含むガスは、微小液滴を除去するデミスタ38を通過し、放散槽36の天頂に設けられたガス排出口から排出される。
【0023】
一方、放散槽36の底部に滞留するアルカリ性溶液の一部は、ポンプ44によって吸い上げられ、還流配管42を通じ、熱交換器45で冷却された後、放散槽36の底部から第1吸収塔31の充填材33より上方へ送られる。この際、供給配管41を通るアルカリ性溶液と還流配管42を通るアルカリ性溶液の熱とが熱交換され、供給配管41を通るアルカリ性溶液が加熱され、還流配管42を通るアルカリ性溶液が冷却される。また、還流配管42を通るアルカリ性溶液は、熱交換器45よりも下流に設けられた冷却器46によってさらに冷却される。第1吸収塔31の充填材33より上方から供給されたアルカリ性溶液は、回収部30に供給された二酸化炭素を含有するガスと気液接触し、再びアルカリ性溶液に二酸化炭素が吸収される。吸収槽32内で二酸化炭素が除去されたガスは、微小液滴を除去するデミスタ34を通過し、吸収槽32の天頂に設けられたガス排出口から排出される。
【0024】
回収部30の充填材33及び充填材37は、供給された気体と液体との接触面積を大きくするために設けられる。充填材33及び充填材37は、ステンレス鋼及び炭素鋼等の鉄系金属材料製のものが用いられるが、特に限定されず、処理温度における耐久性及び耐腐食性を有する素材で、所望の接触面積を提供し得る形状のものを適宜選択して使用できる。
【0025】
回収部30によって放散されるガスは、例えば質量比で90%以上の二酸化炭素を含有し、
図3に示すように、配管47を通って反応器60に供給される。高濃度の二酸化炭素を含有し、配管47を通過するガスには、水素供給部50から水素が供給される。
【0026】
(水素供給部50)
水素供給部50は水素を反応器60に供給する。水素供給部50は水素を反応器60に供給することができれば特に限定されないが、太陽光、風力及び水力などの再生可能エネルギーを利用し、水を電気分解して得られたものを使用してもよい。このような水素を用いることにより、炭化水素生成システム1全体として、二酸化炭素の排出量を低減することができる。
【0027】
二酸化炭素と水素とを含む混合ガスは、配管47に設けられた圧縮機48によって圧縮され、反応器60に供給される。反応器60に供給される二酸化炭素に対する水素の量の比は、適宜設定することができるが、例えばモル比で2以上であってもよく、2.5以上であってもよい。また、反応器60に供給される二酸化炭素に対する水素の量の比は、例えばモル比で4未満であってもよく、3.5未満であってもよい。
【0028】
(反応器60)
反応器60は、炭化水素を生成する。具体的には、反応器60は、回収部30で回収される二酸化炭素、後述する捕捉部80で捕捉される二酸化炭素、及び水素を含む原料から炭化水素を生成する。反応器60から排出された排出ガスは、配管61を介して第1分離装置70へ供給される。
【0029】
反応器60で生成される炭化水素は、例えば、パラフィン及びオレフィンの少なくともいずれか一方を含んでいる。これらの炭化水素は、フィッシャー-トロプシュ法によって生成することができる。パラフィン及びオレフィンの少なくともいずれか一方は、炭素数が1から4の炭化水素を含んでいることが好ましい。炭素数が1から4のパラフィンとしては、例えば、メタン、エタン、プロパン及びブタンが挙げられる。炭素数が1から4のオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン、イソブテン及び1,3-ブタジエンが挙げられる。なお、これらの中でも、メタン、エタン及びプロパンは、都市ガスの燃料とすることができる。また、炭素数が2以上4以下のオレフィンは、プラスチックの原料にもなるため有用である。なお、反応器60から排出された排出ガスは、上記以外の化合物を含んでいてもよい。
【0030】
反応器60は、公知の反応装置を用いることができ、例えば、シェルアンドチューブ型、又は、平板型のリアクター、又は流動層型のリアクターを使用することができる。シェルアンドチューブ型のリアクターは、構造が簡易であるため、安価であり、チューブ数を増やすことで大容量化にも容易に対応することができる。一方、平板型のリアクターは熱交換効率が高いため、反応熱を除去し、反応効率を向上させる点において優れている。
【0031】
反応器60には、原料が通過する流路内に触媒が配置されており、原料が触媒に接触することによって炭化水素を生成することができる。反応器60に設けられる触媒は、原料から炭化水素を生成することができれば特に限定されない。触媒は、生成する炭化水素の種類の観点から選択され、例えば鉄触媒又はコバルト触媒などの公知の触媒を使用することができる。鉄触媒の場合は軽質炭化水素を主に生成することができ、コバルト触媒の場合はワックスを含む重質炭化水素を主に生成することができる。また、鉄触媒の場合はオレフィン及びパラフィンを主として生成することができ、コバルト触媒の場合はパラフィンを主として生成することができる。なお、鉄触媒は鉄を活性成分として含む触媒であり、コバルト触媒はコバルトを活性成分として含む触媒である。活性成分の含有量は、触媒全体の20質量%以上であることが好ましい。鉄触媒は、炭素数が2以上の炭化水素を生成することが好ましい。これにより、プラスチックの原料にもなる軽質オレフィン(低級オレフィン)を生成することができる。反応器60での反応条件は特に限定されないが、例えば、反応温度が200℃~400℃であり、圧力が0.1MPa~2MPaである。
【0032】
(第1分離装置70)
第1分離装置70は、反応器60から排出される排出ガスから5以上の所定の炭素数を有する炭化水素及び水を捕捉部80に至る前に分離する。そのため、第1分離装置70は、反応器60から排出される排出ガスから炭素数が4以下の炭化水素を分離し、炭素数が4以下の炭化水素を捕捉部80に供給することができる。炭素数が5以上の炭化水素のような重質成分を分離することで、捕捉部80での捕捉材の劣化を抑制したり、捕捉部80による二酸化炭素の捕捉効率を向上させたりすることができる。5以上の所定の炭素数を有する炭化水素は、炭素数が10以上の炭化水素であってもよく、8以上の炭化水素であってもよく、6以上の炭化水素であってもよい。第1分離装置70は、少なくとも1以上の分離塔を含んでいてもよい。第1分離装置70は、例えば、反応器60から排出される排出ガスを冷却して液化した成分を分離する高温側分離塔71と、高温側分離塔71で冷却した温度よりも低い温度まで冷却して液化した成分を分離する低温側分離塔72とを含んでいてもよい。
【0033】
高温側分離塔71は、反応器60から排出される排出ガスを冷却することにより、排出ガスから重質成分を分離することができる。重質成分は、例えばガソリン成分よりも炭素数の多い炭化水素を含む。ガソリン成分は、例えば、炭素数が5~9の炭化水素を含む。すなわち、高温側分離塔71は、炭素数が10以上の炭化水素を含む液体と、炭素数が9以下の炭化水素を含む気体とを分離することができる。炭素数が9以下の炭化水素を含む気体は、配管73を介して低温側分離塔72へ移送される。
【0034】
低温側分離塔72は、炭素数が9以下の炭化水素を含む気体を冷却することにより、ガソリン成分及び水分を分離することができる。低温側分離塔72は、例えば、炭素数が5以上の炭化水素及び水を含む液体と、炭素数が4以下の炭化水素を含む気体とを分離する。炭素数が4以下の炭化水素を含む気体は、配管74を介して捕捉部80に供給される。
【0035】
なお、本実施形態では、炭化水素生成システム1が第1分離装置70を備える例について説明したが、炭化水素生成システム1は第1分離装置70を備えていなくてもよい。また、本実施形態では、第1分離装置70が高温側分離塔71と低温側分離塔72の2塔を含む例について説明したが、第1分離装置70はいずれか一方の塔だけを含んでいてもよく、3塔以上の複数の分離塔を含んでいてもよい。
【0036】
(捕捉部80)
捕捉部80は、反応器60から排出される未反応の二酸化炭素を捕捉する。反応器60から排出される排出ガスには、複数種の炭化水素が含まれるため、例えば後述する第2分離装置110で分離される。しかしながら、反応器60から排出される排出ガスの中には、上述した炭化水素以外にも、未反応の二酸化炭素も含まれる。したがって、第2分離装置110内で排出ガスがドライアイスを生成する-79℃以下の低温になると、排出ガス中の二酸化炭素がドライアイスとして固体になり、第2分離装置110に付着するおそれがある。そこで、捕捉部80で排出ガス中の二酸化炭素を捕捉することにより、第2分離装置110に到達する二酸化炭素の量を低減することができる。また、捕捉した二酸化炭素を反応器60の上流に戻してリサイクルすることで、二酸化炭素の利用率を向上させることができる。
【0037】
捕捉部80は、例えば捕捉材で二酸化炭素を捕捉する。捕捉材で二酸化炭素を捕捉する方法は特に限定されない。例えば、反応器60から排出される排出ガスと捕捉材とを接触させ、排出ガスに含まれる二酸化炭素を捕捉材で捕捉してもよい。捕捉材は、液体、固体及びこれらの組み合わせであってもよい。捕捉材は、二酸化炭素を吸収する吸収材、及び二酸化炭素を吸着する吸着材の少なくともいずれか一方を含んでもよい。吸着材は、物理吸着、化学吸着及びこれらの組み合わせによって二酸化炭素を吸着することができる。
【0038】
捕捉部80は、例えば
図3に示すように、第2吸収塔81を含んでいてもよい。第2吸収塔81は、アルカリ性溶液を含む吸収材で二酸化炭素を吸収してもよい。アルカリ性溶液は二酸化炭素の吸収効率が高いため、捕捉材として使用することで、効率よく二酸化炭素を回収することができる。
【0039】
上述したように、回収部30は、アルカリ性溶液で二酸化炭素を吸収する第1吸収塔31と、第1吸収塔31で吸収された二酸化炭素を放散する放散塔35とを含んでいてもよい。そして、第2吸収塔81で二酸化炭素が吸収されたアルカリ性溶液は、回収部30の放散塔35へ移送されてもよい。アルカリ性溶液が第2吸収塔81から放散塔35へ移送されることより、捕捉部80で捕捉した二酸化炭素を反応器60の原料としてリサイクルすることができる。また、第1吸収塔31で吸収した二酸化炭素と第2吸収塔81で吸収した二酸化炭素とを共通する放散塔35で放散することができる。
【0040】
第2吸収塔81は、第1吸収塔31と同様の構成を有していてもよい。すなわち、第2吸収塔81は、例えば向流型気液接触装置であってもよい。また、第2吸収塔81は、充填材82を含んでいてもよい。充填材82は、回収部30の充填材33及び充填材37と同様のものを使用することができる。アルカリ性溶液は、上述したアルカリ性溶液を使用することができる。すなわち、アルカリ性溶液は、アルカノールアミン及びアルコール性水酸基を有するヒンダードアミンの少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。
【0041】
配管83は、第2吸収塔81の充填材82よりも下方の底部と、放散塔35の充填材37よりも上方とを接続する。配管84は、放散塔35の充填材37よりも下方の底部と、第2吸収塔81の充填材82よりも上方とを接続する。また、配管83及び配管84には、熱交換器85が設けられる。
【0042】
第2吸収塔81の充填材82より下方に供給された排出ガスは、第2吸収塔81の上部から供給されるアルカリ性溶液と気液接触しながら第2吸収塔81内を上昇し、排出ガスに含まれる二酸化炭素がアルカリ性溶液に吸収される。排出ガスは、第2吸収塔81内を上昇する際、充填材82を通過することにより、アルカリ性溶液との気液接触が促進される。二酸化炭素を吸収したアルカリ性溶液は、充填材82から第2吸収塔81の底部に滴り落ち、第2吸収塔81の底部に滞留する。一方、第2吸収塔81内で二酸化炭素が除去された排出ガスは、第2吸収塔81の天頂に設けられたガス排出口から排出され、水素回収部100へ供給される。第2吸収塔81の底部に滞留するアルカリ性溶液は、配管83を通じ、熱交換器85によって加熱された後、放散塔35の充填材37より上方へ送られる。
【0043】
熱交換器85によって加熱されたアルカリ性溶液は、上述したように、充填材37を通過し、充填材37での気液接触によりアルカリ性溶液からの二酸化炭素の放散が促進される。放散塔35の底部に落下したアルカリ性溶液は、配管84を通じ、熱交換器85で冷却された後、放散塔35の底部から第2吸収塔81の充填材82より上方へ送られる。この際、配管83を通るアルカリ性溶液と配管84を通るアルカリ性溶液の熱とが熱交換され、配管83を通るアルカリ性溶液が加熱され、配管84を通るアルカリ性溶液が冷却される。第2吸収塔81の充填材82より上方から供給されたアルカリ性溶液は、第2吸収塔81に供給された排出ガスと気液接触し、再びアルカリ性溶液に二酸化炭素が吸収される。なお、第2吸収塔81で二酸化炭素が吸収されたアルカリ性溶液を、回収部30の放散塔35へ移送することができれば、配管83及び配管84の接続位置などの構成は特に限定されない。また、本実施形態では、炭化水素生成システム1が熱交換器45と熱交換器85とを備える例について説明したが、熱交換器45及び熱交換器85を1つの熱交換器として兼用してもよい。
【0044】
なお、捕捉部80が第2吸収塔81を備える例について説明したが、本実施形態に係る炭化水素生成システム1はこのような形態に限定されない。捕捉部80は、反応器60から排出される未反応の二酸化炭素と固体の捕捉材との接触により捕捉材に二酸化炭素を捕捉してもよい。二酸化炭素は、温度スイング法、圧力スイング法及びこれらの組み合わせによって捕捉材へ捕捉及び脱着することができる。
【0045】
捕捉部80は、例えば
図4に示すように、捕捉塔86と、脱着塔87とを含んでいてもよい。捕捉塔86は、反応器60から排出される排出ガスと固体の捕捉材との接触によって捕捉材に二酸化炭素を捕捉することができる。脱着塔87は、捕捉材に捕捉された二酸化炭素を脱着することができる。脱着塔87により、捕捉塔86で捕捉した二酸化炭素を効率よく脱着することができる。
【0046】
捕捉塔86には、反応器60から排出される排出ガスが、第1分離装置70を介して供給される。捕捉塔86では、粉末状の捕捉材がスプレー噴射などにより噴射される。粉末状の捕捉材は、球状、繊維状、針状、棒状及び多角形状などの粒子の集合体であってもよい。捕捉塔86では、低温及び高圧の少なくともいずれか一方の状態になっているため、反応器60から排出された排出ガスと捕捉材とが接触することにより、二酸化炭素が捕捉材に捕捉される。二酸化炭素が捕捉された捕捉材は、配管88を通じて脱着塔87に移送される。
【0047】
脱着塔87では、昇温及び/又は減圧プロセスにより、捕捉材から二酸化炭素が脱着される。具体的には、捕捉材は、捕捉塔86内よりも脱着塔87内の方が高温及び低圧の少なくともいずれか一方の状態に置かれている。上記プロセスにより捕捉材から脱着された二酸化炭素は、配管89を介して反応器60の上流側に戻され、原料として反応器60に供給されてリサイクルされる。二酸化炭素が脱着された捕捉材は、配管90を通じて捕捉塔86に移送され、再び捕捉塔86でスプレー噴射される。一方、脱着塔87により二酸化炭素が除去されたガスは、水素回収部100に供給される。
【0048】
固体の捕捉材は、二酸化炭素を捕捉するものであれば特に限定されないが、物理吸着材、化学吸着材、反応吸収材及びこれらの組み合わせであってもよい。固体の捕捉材は、例えば、多孔質体、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びこれらの組み合わせを含んでいてもよい。これらの捕捉材は、二酸化炭素を効率的に捕捉することができる。
【0049】
多孔質体は、比表面積が大きいため、二酸化炭素を効率的に捕捉することができる。多孔質体は、例えば、ゼオライト、シリカ、アルミナ及び炭素材料からなる群より選択される少なくとも1以上の物理吸着材を含んでいてもよい。
【0050】
アルカリ金属を含む捕捉材としては、例えば、アルカリ金属の炭酸塩が挙げられる。炭酸塩は、例えば以下の反応式(1)に示すように、水及び二酸化炭素と反応することにより炭酸水素塩を生成するため、排出ガス中の二酸化炭素を捕捉することができる。
M2CO3+H2O+CO2→2MHCO3 (1)
なお、上記反応式(1)中、Mはナトリウム及びカリウムのようなアルカリ金属を表す。
【0051】
また、アルカリ金属を含む捕捉材としては、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。リチウム遷移金属複合酸化物は、例えば以下の反応式(2)に示すように、二酸化炭素と反応することにより、遷移金属酸化物及び炭酸リチウムを生成するため、排出ガス中の二酸化炭素を捕捉することができる。
Li2XO3+CO2→XO2+Li2CO3 (2)
なお、上記反応式(2)中、Xはジルコニウム、鉄、ニッケル、チタン及びケイ素のような遷移金属を表す。
【0052】
アルカリ土類金属を含む捕捉材としては、例えば、アルカリ土類金属の酸化物が挙げられる。アルカリ土類金属の酸化物は、例えば以下の反応式(3)に示すように、二酸化炭素と反応することにより、炭酸塩を生成するため、排出ガス中の二酸化炭素を捕捉することができる。
MO+CO2→MCO3 (3)
なお、上記反応式(3)中、Mはカルシウム及びマグネシウムのようなアルカリ土類金属を表す。
【0053】
捕捉材は、塩基性物質が表面に担持された多孔質体、及び、表面が塩基で修飾された多孔質体の少なくともいずれか一方を含んでもよい。このような捕捉材は、比表面積が大きく、塩基の二酸化炭素に対する反応性が高いことから、多くの二酸化炭素を捕捉することが可能となる。多孔質体は、例えば上述した、ゼオライト、シリカ、アルミナ及び炭素材料からなる群より選択される少なくとも1以上の吸着材を含んでいてもよい。また、塩基性物質は、上述したようなアルカノールアミン及びアルコール性水酸基を有するヒンダードアミンの少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。また、多孔質体の表面を修飾する塩基は、例えばアミノ基である。これらの捕捉材は、多孔質体を上述したアルカリ性溶液に浸漬後、乾燥させ、多孔質体の表面に塩基性物質を担持又は塩基で修飾することにより得ることができる。
【0054】
なお、
図4に示す形態では、捕捉部80が捕捉塔86と脱着塔87とを含む例について説明したが、捕捉部80は脱着塔87を含んでいなくてもよい。捕捉部80は、例えば捕捉材が収容される第1捕捉塔及び第2捕捉塔を含んでおり、第1捕捉塔と第2捕捉塔が並列に配置されてもよい。このような配置により、第1捕捉塔で二酸化炭素が捕捉されている間に第2捕捉塔で二酸化炭素が脱着され、第1捕捉塔で二酸化炭素が脱着されている間に第2捕捉塔で二酸化炭素を捕捉することができる。この場合、第1及び第2捕捉塔に収容される捕捉材は、粉体に限られず、ハニカム構造体のようなものであってもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、捕捉材が二酸化炭素を吸収又は吸着する例について説明したが、捕捉部80はこのような例に限定されない。捕捉部80は、反応器60から排出される未反応の二酸化炭素を固化してもよい。捕捉部80は、
図5に示すように、反応器60から排出される未反応の二酸化炭素を固化する固化槽91を含んでいてもよい。固化槽91は、排出ガスの冷却、加圧及びこれらの組み合わせによって二酸化炭素を固化することができる。捕捉部80が固化槽91を含むことによって、排出ガス中の二酸化炭素ガスを固化してドライアイスを生成することができるため、二酸化炭素を排出ガスから容易に取り除くことができる。
【0056】
例えば、固化槽91の底部を熱交換器などの公知の冷却装置で冷却することにより、固化槽91内を通過する二酸化炭素が固化槽91の底部で固化し、固化槽91の底部にドライアイスが堆積する。なお、固化槽91の底部を冷却する例について説明したが、冷却する場所は底部に限られず、固化槽91の側壁部であってもよく、天面部であってもよい。また、固化槽91の内部に二酸化炭素を冷却によって固化する固化部材を配置し、固化部材と排出ガスとを接触させることによって固化部材の表面で二酸化炭素を固化及び堆積させてもよい。
【0057】
固化槽91に堆積したドライアイスは、固化槽91から取り除き、配管92を介して反応器60の上流に戻すことにより、リサイクルすることができる。固化槽91からドライアイスを取り除く方法は特に限定されない。例えば、二酸化炭素が固化して堆積した部材を、ドライアイスが付着していない部材と交換してもよく、ブレードなどのような部材でドライアイスを機械的に削り落して取り除いてもよく、特定の周波数で振動させて壁部から脱離させてもよい。また、捕捉部80は、例えば二酸化炭素を固化する第1固化槽と、二酸化炭素を固化する第2固化槽とを含んでおり、第1固化槽と第2固化槽が並列に配置されてもよい。このような配置により、第1固化槽で二酸化炭素が固化されている間に第2固化槽で二酸化炭素が取り除かれ、第1固化槽で二酸化炭素が取り除かれている間に第2固化槽で二酸化炭素を固化することができる。また、固化槽91は、ドライアイスの量を検知するセンサーを含んでいてもよく、ドライアイスの量が所定のレベル以上になった場合に上記の方法によってドライアイスが取り除かれてもよい。また、ドライアイスを一定の周期ごとに取り除いてもよい。固化槽91により二酸化炭素が除去されたガスは、水素回収部100に供給される。
【0058】
なお、捕捉部80は、
図6に示すように、上述したような固化槽93と、分離部94とを含んでもよい。ドライアイスは上述のように固化槽91から取り除かれた後、排出ガスと一緒に配管95を介して分離部94へ移送される。分離部94は、排出ガスからドライアイスを分離する。分離部94は、例えば遠心分離によって排出ガスからドライアイスを分離してもよい。分離部94は、例えばサイクロンを含んでいてもよい。サイクロンは、例えば、円筒状又は漏斗状の本体部を含み、本体部に供給される排出ガスは、本体部で旋回し、旋回の遠心力によってドライアイスと炭化水素を含む気体成分とを分離することができる。分離部94により分離されたドライアイスは、配管96を介して反応器60の上流側に戻され、原料として反応器60に供給される。また、分離部94により二酸化炭素が除去されたガスは、水素回収部100に供給される。
【0059】
(水素回収部100)
水素回収部100は、反応器60から排出され、捕捉部80を通過する排出ガスに含まれる水素を、第2分離装置110に至る前に圧力スイング法で回収する。水素回収部100で水素を回収して分離することにより、純度の高い炭化水素を深冷分離で冷却することができ、沸点の低い水素を冷却するための負荷を軽減することができる。また、上述のように、反応器60が高圧で運転される場合には、水素以外の成分(炭化水素分)を高圧のまま吸着材に吸着させることができる。これにより、高圧の水素を回収することができるため、回収した水素を高圧のまま反応器60へ供給することができる。したがって、原料を昇圧するためのエネルギーを低減することができる。なお、水素回収部100がなくても炭化水素を分離することができるため、炭化水素生成システム1は、水素回収部100を備えていなくてもよい。
【0060】
水素回収部100は圧力スイング法で水素を回収することができれば特に限定されない。水素回収部100で使用される吸着材としては、活性炭のような炭化水素を吸着する公知の吸着材を使用することができる。吸着材に吸着した炭化水素は、減圧して回収し、回収された炭化水素は、第2分離装置110に供給される。
【0061】
(第2分離装置110)
第2分離装置110は、反応器60から排出され、捕捉部80を通過する排出ガスのうち、炭素数が4以下の炭化水素の混合物を化学構造に応じて分離する。第2分離装置110によって炭化水素を分離することにより、化学構造に応じて分離された炭化水素を化学材料の原料として使用することができる。第2分離装置110は、少なくとも1つの分離塔を含んでいる。第2分離装置110は、例えば
図7に示すように、深冷分離装置112、脱メタン塔113、脱エタン塔114、脱エチレン塔115、脱プロパン塔116、脱プロピレン塔117、脱ブタン塔118を含む。
【0062】
捕捉部80によって二酸化炭素が除去された排出ガスは、圧縮機111によって圧縮され、第2分離装置110に供給される。具体的には、二酸化炭素が除去された排出ガスは、深冷分離装置112に供給され、加圧及び冷却される。本実施形態では、排出ガス中の二酸化炭素が捕捉部80によって除去されているため、ナフサ分解と同様に、深冷分離しても二酸化炭素がドライアイスとして生成されにくい。深冷分離装置112は、二酸化炭素が除去された排出ガスを、水素(H2)を含む気体と、脱メタン塔113に供給される液体とに分離する。
【0063】
脱メタン塔113は、深冷分離装置112から供給された液体を、メタン(CH4)を含む気体と、炭素数が2以上の炭化水素を含む液体とに分離する。炭素数が2以上の炭化水素を含む液体は、脱エタン塔114へ供給される。脱エタン塔114は、脱メタン塔113から供給される液体を、炭素数が2の炭化水素を含む気体と、炭素数が3以上の炭化水素を含む液体とに分離する。炭素数が2の炭化水素を含む気体は水素添加され、脱エチレン塔115に供給される。脱エチレン塔115は、脱エタン塔114から供給される気体を、エチレン(C2H4)を含む気体と、エタン(C2H6)を含む液体とに分離する。炭素数が3以上の炭化水素を含む液体は、脱プロパン塔116に供給される。脱プロパン塔116は、脱エタン塔114から供給される液体を、炭素数が3の炭化水素を含む気体と、炭素数が4以上の炭化水素を含む液体とに分離する。炭素数が3の炭化水素を含む気体は水素添加され、脱プロピレン塔117へ供給される。脱プロピレン塔117は、炭素数が3の炭化水素を含む気体を、プロピレン(C3H6)を含む気体と、プロパン(C3H8)を含む液体とに分離する。炭素数が4以上の炭化水素を含む液体は、脱ブタン塔118に供給される。脱ブタン塔118は、脱プロパン塔116から供給される液体を、ブタン(C4H10)などの炭素数が4の炭化水素を含む気体と、ペンタン(C5H12)などの炭素数が5以上の炭化水素を含む液体とに分離する。
【0064】
以上の通り、本実施形態に係る炭化水素生成システム1は、二酸化炭素を含有するガスから二酸化炭素を回収する回収部30と、炭化水素を生成する反応器60と、反応器60から排出される未反応の二酸化炭素を捕捉する捕捉部80と、を備える。反応器60は、回収部30で回収される二酸化炭素、捕捉部80で捕捉される二酸化炭素、及び水素を含む原料から炭化水素を生成する。
【0065】
また、本実施形態に係る炭化水素生成方法は、二酸化炭素を含有するガスから二酸化炭素を回収する工程と、炭化水素を反応器60で生成する工程と、反応器60から排出される未反応の二酸化炭素を捕捉する工程と、を含む。回収された二酸化炭素、捕捉された二酸化炭素、及び水素を含む原料から炭化水素を生成する。
【0066】
炭化水素生成システム1は、上述のように、回収部30で回収される二酸化炭素、捕捉部80で捕捉される二酸化炭素、及び水素を含む原料から炭化水素を生成することができる。そのため、炭化水素生成システム及び炭化水素生成方法によれば、未反応の二酸化炭素を効率よくリサイクルして二酸化炭素の利用率が向上し、分離装置に供給される二酸化炭素も低減することができる。
【0067】
なお、本実施形態では、炭化水素生成システム1が1つの反応器60を備える例について説明した。しかしながら、炭化水素生成システム1は複数の反応器60を備えてもよい。また、炭化水素生成システム1は、反応器60と第1分離装置70との繰り返し単位を含む複数の反応装置を備えていてもよい。例えば、炭化水素生成システム1は、反応器60、第1分離装置70、反応器60及び第1分離装置70を含む反応装置を備えていてもよい。これにより、後段の反応器60の触媒に重質成分が付着して触媒の活性が低下するのを抑制することができる。
【0068】
いくつかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正または変形をすることが可能である。上記実施形態のすべての構成要素、及び請求の範囲に記載されたすべての特徴は、それらが互いに矛盾しない限り、個々に抜き出して組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 炭化水素生成システム
30 回収部
31 第1吸収塔
35 放散塔
60 反応器
70 第1分離装置
80 捕捉部
81 第2吸収塔
87 脱着塔
91 固化槽
100 水素回収部
110 第2分離装置