(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】偽造防止印刷物
(51)【国際特許分類】
B41M 3/14 20060101AFI20240723BHJP
B42D 25/337 20140101ALI20240723BHJP
B42D 25/373 20140101ALI20240723BHJP
B42D 25/378 20140101ALI20240723BHJP
G07D 7/12 20160101ALI20240723BHJP
G07D 7/20 20160101ALI20240723BHJP
【FI】
B41M3/14
B42D25/337
B42D25/373
B42D25/378
G07D7/12
G07D7/20
(21)【出願番号】P 2020095426
(22)【出願日】2020-06-01
【審査請求日】2023-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】早坂 哲
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/110370(WO,A1)
【文献】特開2001-213042(JP,A)
【文献】特許第3131771(JP,B2)
【文献】特開2002-254791(JP,A)
【文献】国際公開第2019/063961(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 1/00-3/18
B42D 25/337
B42D 25/373
B42D 25/378
G07D 7/12
G07D 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する基材の一方
の面の少なくとも一部に、潜像部と背景部からなる第一印刷画像を有する第一印刷画像領域を備え、
前記潜像部と前記背景部は、線部と非線部が並列する万線状パターンからなり、前記潜像部と前記背景部で隣接する万線状パターンの位相が1/2ピッチずれ、
前記第一印刷画像領域の第一印刷画像は、透かしインキを含む材料より形成されて成り、
前記基材の、他方の面に、前記第一印刷画像領域下に、前記第一印刷画像領域と同形の、第二印刷画像領域を備え、
第二印刷画像領域は第二印刷画像を有し、前記第二印刷画像は、前記第一印刷画像の前記潜像部もしくは前記背景部の万線状パターンと、線部の並び方向における線の並びが同位相の万線状パターンから成り、
前記第二印刷画像は、光遮光性を有する金属顔料を含む材料より形成されて成
り、
透過光を介さずに、反射光で観察された場合、前記基材の両面それぞれで、類似した印刷パターンが認識され、
前記第二印刷画像領域の面からの透過光を通して前記第一印刷画像領域の面が観察された場合、前記第二印刷画像の万線状パターンの光遮蔽性と、前記第一印刷画像の透かし性とにより、前記第一印刷画像領域の面から、前記潜像部が万線モアレ方式の潜像として視認されることを特徴とする、偽造防止印刷物。
【請求項2】
前記第一印刷画像及び前記第二印刷画像における万線状パターンのピッチは等ピッチかまたは可変ピッチであることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止印刷物。
【請求項3】
前記第一印刷画像及び前記第二印刷画像における万線状パターンの線部の太さは、一定かまたは可変であることを特徴とする請求項1または2に記載の偽造防止印刷物。
【請求項4】
前記第一印刷画像及び前記第二印刷画像における万線状パターンの線部の太さは20から500μmであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の偽造防止印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を必要とするセキュリティ印刷物である銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等の貴重印刷物の分野において、反射光下で観察した場合と、透過光下とで観察される画像の一部の見え方が変化する偽造防止印刷物に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
従来、商品券、銀行券、株券、債権等の有価証券類、各種証明書及び貴重書類等の偽造・複製による不正使用を防止するため、精巧な印刷技術による印刷等が施されているのが一般的であったが、近年の偽造・複製による不正使用の頻発に鑑み、これら精巧な印刷等に加え特殊な偽造防止策が施されるようになってきた。
【0003】
この特殊な偽造防止策として、例えばホログラムの貼り付けや、紫外線で発色する材料や画像を施して紫外線照射で真偽判定をする方法などがある。さらには「万線モアレ方式」という技術を用いた方法がある。これは万線における線部と非線部が略1対1の幅である潜像部と背景部から成り、潜像部と背景部は位相が1/2ピッチずらしてある印刷物に、線部と非線部の間隔が同パターンである万線フィルムを重ね合わせると、ある位置で背景部の線部と万線フィルムの線部が重なり、パターンが隠され、潜像部のみが浮かび上がって見えるようになり、この潜像部の視認有無で真偽判定をする方法である。
【0004】
万線モアレ方式を用いた偽造防止印刷物として、例えば特許文献1では、シート上の万線状パターンにおける線部と非線部の比率が1対1の同一ピッチによる万線を、異なる2種類以上の角度で延伸、配置させた印刷物や、または、前記万線パターン内の少なくとも2箇所以上の任意の箇所で万線パターンに対して位相を半ピッチ分だけずらして配置させた印刷物に、万線パターンと同一のピッチを有する顕像化万線シートを重ね合わせることで、万線パターン領域内に文字パターンを顕像化させている。
【0005】
しかし、特許文献1のような万線モアレ方式の印刷物の真偽判定には、専用の検証器が必要となる。通常、小売業者やサービス業者もしくは行政は、消費者から受け取る有価証券類や証明書等を想定して、真偽判定用の検証器を準備し真偽判定を行うことはできるが、一般消費者はこれらの状況を想定して事前に検証器を入手しているとは考えにくく、真偽判定を行うことができない。
そこで、この問題を解決するために特許文献2では、可とう性を有する支持体の同一面内、もしくは異なる面に潜像部および検証部を具備し、支持体を変形させて潜像部に対して検証部を重ね合わせた際に潜像部を顕像化させ、検証器を必要としない偽造防止印刷物が提供されている。
【0006】
特許文献2の印刷物は、基材上に万線状パターンからなる潜像部と検証部と背景部を有し、潜像部もしくは検証部の少なくともいずれか一方が、透かしインキを含む材料により形成させた印刷物で、潜像部および背景部と検証部をそれぞれ重ね合わせ、更に透過光で観察することで潜像部を顕在化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-213042号公報
【文献】特開2018-176440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の万線モアレ方式の技術を用いた印刷物では、潜像パターンの顕像化(有価証券類等の真偽判定のための検証)に際し、その潜像パターンに整合した検証用の透明フィルムを別途必要とし、その管理も容易ではなかった。さらに検証用フィルムが1種類では、有価証券類等に形成させる潜像パターンのピッチや万線形状等も、検証用フィルムのパターンに合わせざるを得ないことから、デザイン性を含めセキュリティ性に制限があった。また、真偽判定できるシチュエーションも限られるという問題点があった。さらには別な問題点として、印刷物の他に検証用のフィルターを作成するにはコストもかかってしまう。
これに対し、特許文献2の印刷物は、検証用フィルムを別途必要とする問題点を解決しているが、重ね合わせによって真偽判定を行うことになるため印刷物の両端に潜像部、検証部を設ける必要があり、真偽判定部を印刷物のセンターに設けられないなどのデザイン上の制限があった。このデザインの制限によって、観察者に容易に偽造防止策が施されていると認識させてしまう懸念があり、セキュリティ上の問題にもなってしまう。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みなされたものであって、偽造防止及び真偽判定が容易に行え、かつ、デザインの自由度の高い偽造防止印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、本発明の第1の態様は、光透過性を有する基材の一方面の少なくとも一部に、潜像部と背景部からなる第一印刷画像を有する第一印刷画像領域を備え、前記潜像部と前記背景部は、線部と非線部が並列する万線状パターンからなり、前記潜像部と前記背景部で隣接する万線状パターンの位相が1/2ピッチずれ、前記第一印刷画像領域の第一印刷画像は、透かしインキを含む材料より形成されて成り、前記基材の、他方の面に、前記第一印刷画像領域下に、前記第一印刷画像領域と同形の、第二印刷画像領域を備え、前記第二印刷画像領域の第二印刷画像は、前記第一印刷画像の前記潜像部もしくは前記背景部の万線状パターンと、線部の並び方向における線の並びが同位相の万線状パターンから成り、前記第二印刷画像領域の第二印刷画像は、光遮光性を有する金属顔料を含む材料より形成されて成る、ことを特徴とする、偽造防止印刷物である。
【0011】
第2の態様は、前記第一印刷画像及び前記第二印刷画像における万線状パターンのピッチは等ピッチかまたは可変ピッチであることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止印刷物である。
【0012】
第3の態様は、前記第一印刷画像及び前記第二印刷画像における万線状パターンの線部の太さは、一定かまたは可変であることを特徴とする請求項1または2に記載の偽造防止印刷物である。
【0013】
第4の態様は、前記第一印刷画像及び前記第二印刷画像における万線状パターンの線部の太さは20から500μmであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の偽造防止印刷物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、観察者が一般的な照明条件下で透過光を介さずに、反射光のみで本印刷物を観察した場合、基材の表裏、それぞれで類似した印刷パターンが印刷されているのみと認識するが、第二印刷画像からなる第二印刷画像領域の面からの透過光を通して第一印刷画像からなる第一印刷画像領域の面から印刷物を観察したときには、第二印刷画像の印刷パターンの光遮蔽性と、第一印刷画像の透かし性により、観察者面側の印刷パターン内に万線モアレ方式の潜像として潜像部を視認させることができる。また、万線モアレ方式の潜像部の配置は基材上での場所を選ばないため自由度の高いデザインの印刷物として提供できることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態における偽造防止印刷物の構成を説明する図。(a)概略断面図、(b)第一印刷画像の模式的拡大平面図(反射光によりA側から見た)、(c)第二印刷画像の模式的拡大平面図(第一印刷画像が無い場合で反射光によりA側から見た)、(d)B側から透過光をあてた場合のA側から見た時の印刷物の見え方を示す模式的平面図。
【
図2】本発明の実施形態における偽造防止印刷物の模式的平面図(A側から見た)。
【
図3】本発明の実施形態における偽造防止印刷物において真偽判別部の模式的平面図。(a)第一印刷画像の模式的拡大平面図(反射光によりA側から見た)、(b)第二印刷画像の模式的拡大平面図(第一印刷画像が無い場合で反射光によりA側から見た)、(c)B側から透過光をあてた場合のA側から見た時の印刷物の真偽判別部の見え方を示す模式的平面図。
【
図4】本発明の実施形態における偽造防止印刷物の模式的平面図(B側から見た)。
【
図5】本発明の実施形態における偽造防止印刷物において真偽判別部の模式的平面図(B側から見た)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。ここで、図面は模式的なものであり平面寸法は現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造等が下記のものに特定されるものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0017】
図1は本発明の実施形態における偽造防止印刷物100の構成を説明する図であり、
図1(a)は偽造防止印刷物100の概略断面図、
図1(b)は第一印刷画像の模式的拡大平面図(反射光によりA側から見た)、
図1(c)は第二印刷画像の模式的拡大平面図(第一印刷画像が無い場合で反射光によりA側から見た)、
図1(d)はB側から透過光をあてた場合のA側から見た時の印刷物の見え方を示す模式的平面図を示す。(A側、B側の説明は後記する。)
本発明の偽造防止印刷物100は、光透過性を有する基材10の一方面(A側)の少なくとも一部に、潜像部22と背景部23からなる第一印刷画像20を有する第一印刷画像領域30を備え、潜像部22と背景部23は、線部と非線部が並列する万線状パターンからなり、潜像部22と背景部23で隣接する万線状パターンの位相が1/2ピッチずれ、第一印刷画像領域30の第一印刷画像20は、透かしインキを含む材料より形成されて成り、基材10の、他方の面(B側)に、第一印刷画像領域30下に、第一印刷画像領域と同形の、第二印刷画像領域50を備え、第二印刷画像領域50は第二印刷画像40を有し、第二印刷画像40は、第一印刷画像20の潜像部22もしくは背景部23の万線状パターンと、線部の並び方向における線の並びが同位相の万線状パターンから成り、第二印刷画像40は、光遮光性を有する金属顔料を含む材料より形成されて成る。
【0018】
真偽判別部101は、A側の第一印刷画像領域とB側の第二印刷画像領域と、それらに囲まれた基材の部分である。
【0019】
図1(b)は、基材10のA側面の第一印刷画像領域30の第一印刷画像20で、「P」を潜像した模式的平面図と、さらに、潜像部22と背景部23の境界付近を拡大した模式的平面図である。
【0020】
図1(c)は、基材10のA側面の第一印刷画像領域30の第一印刷画像20が無いことを想定した場合に、基材10のB側側面の第二印刷画像領域50の第二印刷画像40の万線状パターンを、基材10のA側から、基材10超しに、見た時の模式的平面図と、さらに、潜像部22と背景部23の境界付近の下部の第二印刷画像40の万線状パターンを拡大した模式的平面図である。
【0021】
潜像部22と背景部23の万線状パターンは、線部と非線部の太さの比率は1対1の同一ピッチで、線部と非線部の線の並び方向の位相を1/2ピッチずらした配置としているが、太さの異なるパターンでもよい(図示せず)。潜像部22と背景部23とは、それぞれが万線状パターンからなるため、目視ではその境界の判別ができず、一般的な照明条件下では一様の印刷領域として視認される。
【0022】
基材10のB側面の第二印刷画像領域50の第二印刷画像40は、基材10のA側面の第一印刷画像領域30の第一印刷画像20の潜像部22もしくは背景部23の万線状パターンと、線部の並び方向における線の並びが同位相の万線状パターンになるよう、基材10の表裏において所望の位置でそれぞれ位置合わせを行い印刷する。
図1(c)においては、基材10のB側面の第二印刷画像領域50の第二印刷画像40の万線パターンは、
図1(b)の第一印刷画像領域30の第一印刷画像20の背景部23と、同位相のパターンとした。第二印刷画像40の万線パターンは、
図1(b)の第一印刷画像領域30の第一印刷画像20の潜像部22と、同位相のパターンとしてもよい(図示せず)。
【0023】
第一印刷画像領域30の第一印刷画像20は、透かしインキを含む材料より形成されて成り、第二印刷画像40は、光遮光性を有する金属顔料を含む材料より形成されて成る。
【0024】
図1(d)は基材10のB側から透過光をあてた場合の基材10のA側から見た時の印刷物の見え方を示す模式的平面図であり、この図に示されるように、偽造防止印刷物100を、B側からの透過光によって、観察者がA側から観察した際に、潜像「P」が、観察される。
【0025】
本発明による偽造防止印刷物の潜像発現について、詳しく説明する。
【0026】
図1(b)に示すように真偽判別時の観察者面側にあたる基材A面の第一印刷画像領域30の第一印刷画像20に透かしインキで印刷された「P」という文字と潜像部22と背景部23の万線状パターンは、パターン線の延伸方向が同じで、同ピッチでかつ、線の並び方向で位相を1/2ピッチずらしてあり、一般的な照明条件下では潜像部22は顕在化されない。
【0027】
この潜像部22と背景部23を含んだ第一印刷画像20の下部で、基材10のB面での同位置には、光遮蔽性を有する金属顔料を含む材料で、背景部23と同位相パターンで一様の万線状パターンである第二印刷画像40が印刷されている。このため透過光を介し基材10のA面側から偽造防止印刷物100を観察すると、
図1(d)のように、第一印刷画像20の万線状パターンの潜像部22の非線部に、基材10のB面の第二印刷画像40の万線状パターンの線部が見え、第一印刷画像20の万線状パターンの背景部23の線部と基材10のB面の第二印刷画像40の万線状パターンの線部とが重なり、観察者には
図1(d)に示すような万線状パターンの潜像部22の全体形状である「P」という文字を認識できるようになる。
【0028】
印刷物の真偽判別は、偽造防止印刷物100の潜像部22の全体形状が、基材B面側からの透過光によって、基材A面側からの観察で現れるか現れないかによって、行える。
【0029】
図2に本発明の実施形態における偽造防止印刷物の模式的平面図(A側から見た)を示す。
【0030】
偽造防止印刷物100は真偽判別部101を有する。真偽判別部101は、基材10のA側の第一印刷画像領域と基材10のB側の第二印刷画像領域と、それらに囲まれた基材10の部分から成る。
【0031】
図3(a)は、真偽判別部101のA側面の第一印刷画像領域30の第一印刷画像20で、「COPY」を潜像した模式的平面図である。
【0032】
図3(b)は、真偽判別部101のA側面の第一印刷画像領域30の第一印刷画像20が無いことを想定した場合に、B側側面の第二印刷画像領域50の第二印刷画像40の万線状パターンを、基材10のA側から、基材10超しに、見た時の模式的平面図である。
【0033】
潜像部22と背景部23の万線状パターンは、線部と非線部の太さの比率は1対1の同一ピッチで、線部と非線部の線の並び方向の位相を1/2ピッチずらした配置としているが、太さの異なるパターンでもよい(図示せず)。潜像部22と背景部23とは、それぞれが万線状パターンからなるため、目視ではその境界の判別ができず、一般的な照明条件下では一様の印刷領域として視認される。
【0034】
真偽判別部101のB側面の第二印刷画像領域50の第二印刷画像40は、真偽判別部101の基材10のA側の第一印刷画像領域30の第一印刷画像20の潜像部22もしくは背景部23の万線状パターンと、線部の並び方向における線の並びが同位相の万線状パターンになるよう、基材10の表裏において所望の位置でそれぞれ位置合わせを行い印刷する。
図3(b)においては、真偽判別部101の基材10のB面の第二印刷画像領域50の第二印刷画像40の万線パターンは、
図3(a)の第一印刷画像領域30の第一印刷画像20の背景部23と、線の並びが同位相の一様のパターンとした。第二印刷画像40の万線パターンは、
図3(a)の第一印刷画像領域30の第一印刷画像20の潜像部22と、線の並びが同位相の一様のパターンとしてもよい(図示せず)。
【0035】
真偽判別部101の基材10のA側の第一印刷画像領域30の第一印刷画像20は、透かしインキを含む材料より形成されて成り、真偽判別部101の基材10のB面の第二印刷画像領域50の第二印刷画像40は、光遮光性を有する金属顔料を含む材料より形成されて成る。
【0036】
図3(c)は基材10のB側から透過光をあてた場合のA側から見た時の印刷物の見え方を示す模式的平面図であり、この図に示されるように、偽造防止印刷物100の真偽判別部101を、基材10のB側からの透過光によって、観察者が基材10のA側から観察した際に、潜像部の全体形状である「COPY」が、文字として観察され認識される。
【0037】
印刷物の真偽判別は、偽造防止印刷物100の真偽判別部101の基材10のA側の第一印刷画像領域30の第一印刷画像20の潜像部22の全体形状が、基材10のB面側からの透過光によって、基材A面側からの観察で現れるか現れないかで、行える。
【0038】
図4は本発明の実施形態における偽造防止印刷物100の、基材10のB面側から見た模式的平面図であり、
図5は本発明の実施形態における偽造防止印刷物において真偽判別部の、基材10のB面側から見た模式的平面図である。
【0039】
偽造防止印刷物100の真偽判別部101を、基材10のB面側から、一般的な照明条件下で見ると、基材10のB面の第二印刷画像領域50の第二印刷画像40の一様な万線パターンが観察されるだけである。
【0040】
基材10上の一方の面に形成させる潜像部22、背景部23のパターン個数は限定されないが、複数個のパターンを設けた場合、他方の面の万線状パターンは一方の面の背景部ないし潜像部22と同一のパターンとなるようパターンのデザインを合わせる必要がある。
【0041】
有価証券等の一般的な印刷物に対して、標準的な印刷方法で潜像部22、背景部23からなる万線状パターンを形成する場合、線幅は好ましくは20から500μmである。線幅が20μmに満たない場合、万線状パターンの印刷再現性に欠けるとともに、デザインも細かすぎて潜像部22の形状の視認、もしくは真偽判定に必要な専用の検証器の機械読み取りが困難なものとなる。一方で500μmより太くなると印刷物に形成された潜像部22と背景部23との境界線が目視で判別可能となり、本発明の効果が得られなくなる。
【0042】
本発明における印刷物を構成する基材10は、光透過性を有する必要があり、その基材の代表例としては、紙が挙げられる。光透過性を表す物性値として基材の不透明度があり、例えば80%以下の薄紙の紙基材としては、坪量55g/m2程度以下の上質紙、中質紙、あるいは半透明のグラシン紙、模造紙などが挙げられる。
【0043】
不透明度とは、JIS P8138に規定する紙の不透明度試験方法により得られる値で、ハンターリフレクトメータを用い、緑色フィルターをセットして測定する。その測定方法は、試験紙の裏面へ、反射率89%の白色板を用いたときと、反射率0.5%以下の黒色板を用いたときの反射率の比を百分率によって示している。
【0044】
基材10は必ずしも紙に限定するものではなく、例えばプラスチックでもよい。プラスチックは本来、透明かまたは半透明であり、表面への印刷やマット処理(表面を粗くして平滑度を低下させる)によって不透明度を選択的に高められる。これらには、セロハン、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリオレフィン(PO)、エチレンビニールアルコール(EVOH)、ポリビニールアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、アクリル、トリアセチルセルロース(TAC)フィルムなどが挙げられる。
【0045】
基材10のA側の第一印刷画像領域30の第一印刷画像20を形成するインキは、透かしインキ(浸透型インキ)に着色染料や着色顔料を混合したインキを用いる。このインキを用いて印刷した場合に、反射光下ではっきりと視認できる色彩を有した画像が形成でき、一方、透過光下ではその画像を淡く変化させ透け、裏面の同位置の印刷画像である基材10のB側の第二印刷画像領域50の第二印刷画像40が、基材10のA側から認識可能となる。
【0046】
これは透かしインキ(浸透型インキ)内に含まれる成分により、印刷時に用紙内部へと浸透して印刷領域の透過率を上昇させる。具体的にはセルロースの屈折率(1.49)に近い樹脂やワックス、動植物油脂等を指す。これらの成分は、印刷した場合に用紙の中に存在するセルロース繊維間の空隙を埋め、主として用紙内部における光の散乱を抑制することで光の透過率を上げる働きを成す。
【0047】
本発明における透かしインキ(浸透型インキ)とは、一般的に透かしインキとして販売されているインキを指す。このようなインキとしては、T&K TOKA製ベストワン透かしインキ、合同インキ製E2ニス等が挙げられる。
【0048】
基材の他方の面の印刷画像を形成する第二のインキとしては、前述した第一のインキよりも高い光遮蔽性を有する必要がある。具体的には、チタンや酸化鉄、酸化亜鉛等のような光反射性の高い金属顔料を含んだインキや、二酸化ケイ素や炭酸カルシウム等を含んだインキを用いる。あるいは、特殊な金属顔料を含まない一般的なインキを用いて、厚い膜厚で印刷することで高い光遮蔽性を実現しても良い。
【0049】
本発明における基材の真偽判別部以外の印刷インキとしては、印刷方式によって適宜、選択する必要がある。例えば、ボイル油を主成分とする印刷インキ、或いは、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂などの熱硬化性樹脂、又は紫外線により重合硬化する紫外線硬化型樹脂、又はポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂などの熱可塑性樹脂を主体とする樹脂をインキバインダー又はインキビヒクルとする印刷インキを使用することができ、また、p-ニトロベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロホスフェートなどのカチオン重合開始剤及びビスフェノールA-エピクロルヒドリン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂を主成分とする樹脂組成物、及び必要に応じて、反応性希釈剤、有機溶剤、可塑剤など揮発性、又は非揮発性の非反応性希釈剤などを添加した紫外線照射によりカチオン重合し得るエポキシ系樹脂組成物を印刷インキとして使用できる。
【0050】
本発明の印刷物は、公知の印刷法であるスクリーン印刷、スクリーンオフセット印刷、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷、フレキソ印刷、反転印刷など、形成する印刷線パターンや使用するインキ材料に応じて選定する。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を用いて、本発明の偽造防止印刷物の効果を検証する。また、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
図2、
図4に示される偽造防止印刷物100を作製した。基材10の上に、線部が青色の万線パターンである潜像部22と背景部23を有する第一印刷画像20を形成した。
【0053】
基材10には、一般的な白色上質紙である日本製紙のnpi上質紙を用いた。
【0054】
第一印刷画像20を形成するインキとしては、透かしインキ(ベストワン 透かしインキ T&K TOKA製)に青色インキ(ダイキュア アビリオ プロセス 藍 DIC製)を混合することで作製した。この第一印刷画像20を形成するインキを第一のインキと称することにする。第一のインキは高い光透過性を有する。第一のインキを用い、基材のA面に真偽判別部101の印刷画像をグラビアオフセット印刷で印刷した。背景部23は30/30μmの線部と非線部の万線状パターンとし、潜像部22も30/30μmの線部と非線部の万線状パターンではあるが、背景部23とは線の並び方向の位相を1/2ピッチずらしてあり、第一印刷画像20として「COPY」の文字の潜像を印刷している。
【0055】
第二印刷画像40を形成するインキとしては、チタンを顔料とする白インキ(No.3 UVLカートン白 GW T&K TOKA製)に青色インキ(ダイキュア アビリオ プロセス 藍 DIC製)を混合することで作製した。この第二印刷画像40を形成するインキを第二のインキと称することにする。この第二のインキは第一のインキに比べ高い光遮蔽性を有する。第二のインキを用いて基材10のB面に真偽判別部101の第二印刷画像40をグラビアオフセット印刷で印刷した。
【0056】
その際、真偽判別部101の第二印刷画像40の万線パターンは基材10のA面における潜像部23と同じ30/30μmの線部と非線部の万線状パターンとし、基材10のA面における第一印刷画像20の背景部23の、線の並び方向の位相と、基材10のB面に真偽判別部101の第二印刷画像40の線の並び方向の位相が合うように、基材10の表裏で位置合わせをした後に印刷を行った。
【0057】
<評価結果>
以上の構成で作製した偽造防止印刷物100について、基材10のB面側から太陽光や蛍光灯で照らし、これらの光源の透過光を介し偽造防止印刷物100の基材10のA面側から真偽判別部101を観察した。観察者は
図3(c)のように潜像部22の形状である「COPY」の文字を視認することができた。
【0058】
また、反射光で基材10のA面及び基材10のB面をそれぞれ観察した場合は、どちらの面においても潜像部22と背景部23の境界を区別できず、潜像部22の形状を目視にて確認することはできなかった。
【0059】
以上の結果より、本発明の偽造防止印刷物100が、基材10のB面側からの透過光で、基材10のA面側で、潜像を視認することができ、反射光で基材10のA面及び基材10のB面を観察した場合は潜像を視認されないことが確かめられた。
【符号の説明】
【0060】
10・・・基材
20・・・第一印刷画像
22・・・潜像部
23・・・背景部
30・・・第一印刷画像領域
40・・・第二印刷画像
50・・・第二印刷画像領域
100・・・偽造防止印刷物
101・・・真偽判別部
A・・・基材の第一印刷画像領域側
B・・・基材の第二印刷画像領域側