(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】吸湿材料
(51)【国際特許分類】
B01J 20/22 20060101AFI20240723BHJP
F25B 17/08 20060101ALI20240723BHJP
B01D 53/28 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
B01J20/22 A
F25B17/08 C
B01D53/28
(21)【出願番号】P 2020096250
(22)【出願日】2020-06-02
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】大橋 良央
【審査官】阪▲崎▼ 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-529258(JP,A)
【文献】特表2018-500157(JP,A)
【文献】特開2019-162573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
B01D 53/26-53/28
F25B 15/00-17/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅イオンCu
2+と、
前記銅イオンに配位している配位子としての2,5-ジヒドロキシテレフタル酸イオン
及び2-ヒドロキシテレフタル酸イオンを含む金属有機構造体からなる吸湿材料。
【請求項2】
2,5-ジヒドロキシテレフタル酸イオンと2-ヒドロキシテレフタル酸イオンの合計量100モル%に対して、2-ヒドロキシテレフタル酸イオンを5モル%以上、40モル%以下含む、請求項
1に記載の吸湿材料。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の吸湿材料を備えた、吸着式ヒートポンプ。
【請求項4】
請求項1
又は2に記載の吸湿材料を備えた、調湿システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属有機構造体からなる吸湿材料に関する。
【背景技術】
【0002】
吸湿材料は、水蒸気の吸着及び脱着を繰り返し行うことができ、この水蒸気の吸着及び脱着を利用する吸着式ヒートポンプや調湿システムに利用されている。このような吸湿材料としては、一般的にゼオライトが用いられている。
【0003】
このゼオライトは、一般に水熱合成及び焼成より合成されるが、この合成に時間を要し、また高温高圧での反応のため特殊な装置を用いる必要があるため、工業的には有利とはいえない。また、水蒸気の吸着量についても十分とはいえず、さらなる改善が求められている。
【0004】
一方、多孔性化合物である金属有機構造体(MOF:Metal Organic Framework)は、多孔性配位高分子(PCP:Porous Coordination Polymer)とも呼ばれる材料であり、金属と有機配位子との相互作用により形成された高表面積の配位ネットワーク構造を有する材料が知られている。
【0005】
MOFは、水蒸気を吸着することができ、したがって、自動車、住居、製造設備等に使用される吸着式ヒートポンプ、調湿システム等に関して、吸湿材料として用いることが考慮される。
【0006】
例えば、特許文献1では、二価の銅イオンと、トリメシン酸類のアニオンを構成成分とする金属有機構造体を吸湿材料として用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
MOFを吸湿材料として用いる場合、低い相対湿度で水蒸気を吸着できること、及び吸着湿度と脱着湿度との湿度差の範囲が狭いことが重要である。
【0009】
しかしながら、これまで報告されていたMOFは、低い相対湿度で水蒸気を吸着することができなかったり、吸着湿度と脱着湿度との湿度差の範囲が広かったりする場合が多い。したがって、このようなMOFを、吸着式ヒートポンプのための吸湿材料として用いた場合には、熱出力が不十分な場合があり、またこれらのMOFを、調湿システムのための吸湿材料として用いた場合には、除湿性能が不十分な場合がある。
【0010】
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、低い相対湿度で水蒸気を吸着することと、吸着湿度と脱着湿度との湿度差の範囲を狭めることとを両立できるMOFからなる吸湿材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討の結果、以下の手段により、上記課題を解決できることを見出した。
【0012】
<態様1>
銅イオンCu2+と、
前記銅イオンに配位している配位子としての2,5-ジヒドロキシテレフタル酸イオン
を含む金属有機構造体からなる吸湿材料。
<態様2>
配位子として、2-ヒドロキシテレフタル酸イオンをさらに含む、態様1に記載の吸湿材料。
<態様3>
2,5-ジヒドロキシテレフタル酸イオンと2-ヒドロキシテレフタル酸イオンの合計量100モル%に対して、2-ヒドロキシテレフタル酸イオンを5モル%以上、40モル%以下含む、態様2に記載の吸湿材料。
<態様4>
態様1~3のいずれかに記載の吸湿材料を備えた、吸着式ヒートポンプ。
<態様5>
態様1~3のいずれかに記載の吸湿材料を備えた、調湿システム。
【発明の効果】
【0013】
本発明の吸湿材料によれば、低い相対湿度で水蒸気を吸着することと、吸着湿度と脱着湿度との湿度差の範囲を狭めることとを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、Cu-MOF-74の水蒸気吸着メカニズムを示す図である。
【
図2】
図2は、配位不飽和Cuの構造を示す図であり、(a)は、Cu-MOF-74の配位不飽和CUの構造を示す図であり、(b)は、HKUST-1の配位不飽和Cuの構造を示す図である。
【
図3】
図3は、実施例1~4及び比較例1のデータをまとめたX線回折図である。
【
図4】
図4は、比較例2~4のデータをまとめたX線回折図である。
【
図5】
図5は、実施例1~4、及び比較例1のMOFの水蒸気吸着等温線を示す図である。
【
図6】
図6は、比較例2~4のMOFの水蒸気吸着等温線を示す図である。
【
図7】
図7は、実施例2で合成したMOFのHe雰囲気におけるTG-DTAの測定結果を示す図である。
【
図8】
図8は、実施例2で合成したMOFのO
2雰囲気におけるTG-DTAの測定結果を示す図である。
【
図9】
図9は、本開示のMOFを用いるヒートポンプの構成及び出力時の機能を示す概略図である。
【
図10】
図10は、本開示のMOFを用いるヒートポンプの構成及び再生時の機能を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照しつつ、本発明について以下説明する。以下に示す形態は本発明の例であり、本発明は以下に示す形態に限定されない。
【0016】
《吸湿材料》
本発明の吸湿材料は、銅イオンCu2+と、前記銅イオンに配位している配位子としての2,5-ジヒドロキシテレフタル酸イオンを含む金属有機構造体からなる。
【0017】
本発明の吸湿材料によって、湿度10%程度の低い相対湿度で水蒸気を吸着することと、吸着湿度と脱着湿度との湿度差の範囲を狭めること、すなわち小さな湿度変化で大量の水蒸気を吸着することを両立することができる理由は、細孔表面に活性な吸着点である配位不飽和金属を有するためであると考えられる。
【0018】
コバルトイオンCo2+と、前記銅イオンに配位している配位子としての2,5-ジヒドロキシテレフタル酸(H4DOBDC)イオンからなる金属有機構造体(MOF)であるCo-MOF-74や、ニッケルイオンNi2+と、配位子としてのH4DOBDCイオンからなるMOFであるNi-MOF-74は、湿度0%から水蒸気吸着曲線が立ち上がるが、銅イオンCu2+と、配位子としてのH4DOBDCイオンからなるMOFであるCu-MOF-74やその誘導体は、湿度10%程度まで水蒸気を吸着しない。Co-MOF-74の水蒸気吸着状態の解析結果からは、まず配位不飽和金属に1つの水分子が吸着し、次に、吸着した水分子にもう1つの水分子が吸着し、最後に細孔内で水分子が凝縮すると考えられる。
【0019】
一方、Cu-MOF-74の二価の銅イオン(Cu
2+)は、ヤーン・テラー効果の強いイオンであり、水分子が吸着する配位不飽和な方向の電子密度が高く、Cu
2+の電荷が遮蔽されて水分子との結合が弱くなると予想される。
図1の(a)に示すような配位不飽和金属の吸着サイトの吸着力が弱いと、水分子を吸着する(
図1の(b))ためにはある程度の湿度が必要になるが、水分子を吸着した後の細孔表面は水分子により親水性となり、細孔直径も小さくなるので吸着力が強くなる(
図1の(c))。その結果、小さな湿度変化で大量の水蒸気を吸着すると考えられる。
【0020】
また、銅イオンCu
2+と、配位子としてのトリメシン酸(H
3BTC)イオンからなるMOFであるHKUST-1も水蒸気を吸着することが知られているが、HKUST-1が大量の水蒸気を吸着するには、湿度0~20%程度の大きな湿度変化を必要とする。その原因としては、HKUST-1の配位不飽和Cuの構造は、
図2の(b)に示すように、
図2の(a)に示すCu-MOF-74の配位不飽和Cuの構造とは違い、2つのCuが近接しており、配位不飽和金属の吸着力が強いことと、1つのCuに水分子が吸着した影響をもう1つの水分子が受けて、吸着力が変化することが原因であると考えられる。
【0021】
さらに、Cu-MOF-74のH4DOBDCをH3MBDで置換すると、吸着湿度が高くなる。これは、配位子の負電荷が減少するため、電荷補償として水酸化物イオン(OH-)や硝酸イオン(NO3
-)は配位不飽和Cuに配位することにより、MOF中の配位不飽和Cuが減少して吸着力が低下したものと考えられる。
【0022】
以下では、本発明の吸湿材料を構成する各成分について、詳細に説明する。
【0023】
〈金属イオン〉
本発明の吸湿材料を構成するMOFに用いられる金属イオンは、銅イオン(Cu2+)である。銅イオン源として、銅原子を含有するものであれば特に制限はないが、水や極性溶媒への溶解度が高いという観点から、例えば、過塩素酸銅、ギ酸銅、酢酸銅、硝酸銅、塩化銅、硫酸銅などの二価の銅イオンの塩又は水和塩が好ましい。
【0024】
〈配位子:2,5-ジヒドロキシテレフタル酸イオン〉
本発明の吸湿材料を構成するMOFに用いられる配位子は、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸のイオンである。この配位子源としては、下式
【化1】
で表される2,5-ジヒドロキシテレフタル酸、又はその塩、例えば2,5-ジヒドロキシテレフタル酸リチウム、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ナトリウム、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸カリウムなどのアルカリ金属塩を用いることができる。
【0025】
〈第2の配位子:2-ヒドロキシテレフタル酸イオン〉
本発明の吸湿材料を構成するMOFには、配位子として、上記2,5-ジヒドロキシテレフタル酸のイオンに加え、第2の配位子として、2-ヒドロキシテレフタル酸イオンを用いてもよい。この第2の配位子源としては、下式
【化2】
で表される2-ヒドロキシテレフタル酸、又はその塩、例えば2-ヒドロキシテレフタル酸リチウム、2-ヒドロキシテレフタル酸ナトリウム、2-ヒドロキシテレフタル酸カリウムなどのアルカリ金属塩、を用いることができる。
【0026】
本発明の吸湿材料を構成するMOFにおいて、第2の配位子を用いる場合、第1の配位子である2,5-ジヒドロキシテレフタル酸イオンと第2の配位子である2-ヒドロキシテレフタル酸イオンの合計量100モル%に対して、2-ヒドロキシテレフタル酸イオンを5モル%以上、10モル%以上、20モル%以上、40モル%以下、35モル%以下、30モル%以下含む。換言すれば、配位子全体に対して、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸イオン60~95モル%、2-ヒドロキシテレフタル酸イオン40~5モル%である。このように第2の配位子を用いることにより、吸着湿度を制御することができる。
【0027】
《吸湿材料の製造方法》
本発明の吸湿材料は、例えば水熱合成法又はソルボサーマル合成法を用いて、製造することができる。
【0028】
より具体的には、金属イオン源としての銅イオン源、第1の配位子源、及び必要により第2の配位子源、及び溶媒を含む原料溶液を加熱して反応させることによって、本発明の吸湿材料を製造することができる。
【0029】
ここで、原料溶液に含まれる銅イオンの濃度は、特に限定されず、例えば、溶媒に対して、10mmol/L以上、25mmol/L以上、50mmol/L以上、75mmol/L以上、100mmol/L以上、125mmol/L以上、150mmol/L以上、175mmol/L以上、200mmol/L以上、225mmol/L以上、250mmol/L以上、又は300mmol/L以上であってよく、また500mmol/L以下、400mmol/L以下、300mmol/L以下、又は250mmol/L以下であってよい。
【0030】
また、原料溶液に含まれる第1の配位子、及び第2の配位子のそれぞれの濃度は、特に限定されず、例えば、溶媒に対して、10mmol/L以上、20mmol/L以上、30mmol/L以上、40mmol/L以上、50mmol/L以上、60mmol/L以上、70mmol/L以上、80mmol/L以上、90mmol/L以上、100mmol/L以上、150mmol/L以上、又は200mmol/L以上であってよく、また300mmol/L以下、250mmol/L以下、又は200mmol/L以下であってよい。
【0031】
また、第1の配位子源、及び第2の配位子源の配合比は、上述した特有の存在割合範囲内で、第1の配位子、及び第2の配位子を得ることができれば、特に限定されない。
【0032】
溶媒としては、例えばN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジエチルホルムアミド(DEF)、ギ酸、酢酸、メタノール、エタノール、水及びそれらの混合物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
加熱の際に、原料溶液を任意の密封容器に入れて行ってもよく、原料溶液を還流させながら行ってもよい。
【0034】
加熱の温度は、特に限定されず、特に限定されず、例えば、反応性を高める観点から100℃以上、又は120℃以上であってよく、また、反応中の蒸気漏れを防止する観点から150℃以下であってよい。
【0035】
加熱の時間は、特に限定されず、加熱の温度に合わせて適宜に調整することができる。加熱の時間は、例えば、反応を完全に完成させる観点から、6時間以上、10時間以上、12時間以上、18時間以上、24時間以上、30時間以上、36時間以上、42時間以上、48時間以上、54時間以上、又は60時間以上であってよく、また96時間以下、84時間以下、72時間以下、60時間以下、48時間以下、24時間以下、12時間以下、又は10時間以下であってよい。
【0036】
また、反応終了後、得られた生成物に対して、適宜に後処理を行ってよい。
【0037】
後処理として、例えば、得られた生成物をろ過することを行ってよい。また、必要に応じて、ろ過で得られたろ塊に対して、貧溶媒等を加え、室温で又は適宜に加熱をして、分散させてから、再度ろ過してもよい。ここで、貧溶媒としては、目的のMOFが溶解しにくい溶媒であってよく、例えば、水、アセトニトリル、ヘキサン、又はエタノール等を用いてよい。また、加熱する場合の温度は、例えば40℃以上、50℃以上、60℃以上、70℃以上、又は80℃以上であってよく、また100℃以下、90℃以下、又は80℃以下であってよい。加熱する場合の加熱時間は、例えば1時間以上、2時間以上、6時間以上、10時間以上、又は12時間以上であってよく、また24時間以下、又は16時間以下であってよい。
【0038】
また、ろ過又は再度ろ過で得られたろ塊を適宜に乾燥させることによって、目的のMOFを得ることができる。ここで、乾燥は、常圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよいが、効率向上の観点から減圧下で行うことが好ましい。また、乾燥する場合の温度は、例えば20℃以上、25℃以上、40℃以上、50℃以上、又は60℃以上であってよく、また100℃以下、90℃以下、80℃以下、又は60℃以下であってよい。乾燥する場合の乾燥時間は、例えば1時間以上、2時間以上、6時間以上、10時間以上、又は12時間以上であってよく、また24時間以下、又は16時間以下であってよい。
【0039】
《吸着式ヒートポンプ》
本発明の吸湿材料は、例えば、吸着式ヒートポンプにおける吸湿材料として用いることができる。この場合の吸着式ヒートポンプは、作動媒体としての水を貯留している水貯留部、吸湿材料を保持している吸湿材料保持部、及び水貯留部と吸湿材料保持部との間で水蒸気を流通させる水蒸気流路を有する。このような吸着式ヒートポンプは、水貯留部を蒸発器及び凝縮器の両方として用いても、水貯留部を蒸発器として用い、かつ別個の凝縮器によって水蒸気の凝縮を行わせてもよい。このような吸着式ヒートポンプは、自動車、住居、製造設備等において、冷房及び暖房のために使用することができる。
【0040】
このような化学ヒートポンプでは、水貯留部を蒸発器及び凝縮器の両方として用いる態様について説明すると、例えば、
図9に示すように、外部から水貯留部10の水(H
2O(液体))に熱を供給して水貯留部の水を気化させて水蒸気(H
2O(気体))にする。この段階は、水貯留部の水を気化して水蒸気にすることによって水貯留部から外部に冷熱を供給する段階としても言及することができる。この際、このような化学ヒートポンプでは、
図10に示すように、水貯留部10で発生させた水蒸気を、水蒸気流路30を通して吸湿材料保持部20に供給し、そして吸湿材料と反応させて、吸着熱を外部に供給する。すなわち、このようなヒートポンプでは、水貯留部10の側から、吸湿材料保持部20の側へと熱を移動させることができる。
【0041】
また、この化学ヒートポンプでは、
図9で示した反応を再び行うことを可能にする再生段階において、
図10に示すように、外部から吸湿材料保持部20に熱を供給して吸湿材料から水を脱離させて水蒸気にする。この段階は、吸湿材料保持部20の吸湿材料から水を脱離させることによって吸湿材料保持部20から外部に冷熱を供給する段階としても言及することができる。この際、このような化学ヒートポンプでは、
図9に示すように、吸湿材料保持部20で発生させた水蒸気を、水貯留部10に供給し、そして液化させて、凝縮潜熱を外部に供給する。
【0042】
《調湿システム》
本発明の吸湿材料は、例えば、調湿システムにおける吸湿材料として用いることができる。この場合の調湿システムは、吸湿材料を保持している吸湿材料保持部、水蒸気を含有している空気を吸湿材料保持部に供給するための空気供給流路、及び吸湿材料保持部に供給された空気を吸湿材料保持部から取り出すための空気取り出し流路を有する。このような調湿システムは、自動車、住居、製造設備等において、除湿又は調湿のために使用することができる。
【実施例】
【0043】
以下に示す実施例を参照して本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例によって限定されるものではない。
【0044】
《金属有機構造体(MOF)の合成》
表1に示す試薬を用いて、実施例及び比較例の金属有機構造体(MOF)を合成した。
【0045】
【0046】
〈実施例1:Cu:DOBDC=2:1(モル比)〉
(1)25mlのPTFE製容器(HUT-25、三愛科学)に金属源として483mg(20mmol)のCu(NO3)2・3H2O、配位子源として198mg(10mmol)のH4DOBDC、及び溶媒として15mLのDMFを加えた。
(2)PTFE製容器を耐圧ステンレス製の外筒(HUS-25、三愛科学)に入れて80℃で48時間加熱した。
(3)生成物の沈殿をろ過し、10mLのDMFで3回、10mLのエタノールで3回洗浄した後、再度ろ過により沈殿を回収した。
(4)10-1Pa以下に減圧しながら60℃で1晩加熱して乾燥し、実施例1のMOFを得た。
【0047】
〈実施例2:Cu:DOBDC:MOBDC=2:0.95:0.05(モル比)〉
配位子源を、188mg(9.5mmol)のH4DOBDCと9mg(0.5mmol)のH3MOBDCに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2のMOFを得た。
【0048】
〈実施例3:Cu:DOBDC:MOBDC=2:0.8:0.2(モル比)〉
配位子源を、159mg(8mmol)のH4DOBDCと36mg(2mmol)のH3MOBDCに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3のMOFを得た。
【0049】
〈実施例4:Cu:DOBDC:MOBDC=2:0.6:0.4(モル比)〉
配位子源を、119mg(6mmol)のH4DOBDCと73mg(4mmol)のH3MOBDCに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4のMOFを得た。
【0050】
〈比較例1:Cu:MOBDC=2:1(モル比)〉
配位子源を、182mg(10mmol)のH3MOBDCに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1のMOFを得た。
【0051】
〈比較例2:Co:DOBDC=2:1(モル比)〉
金属源を、582mg(20mmol)のCo(NO3)2・6H2Oに変更し、溶媒を、5mLの水と5mLのエタノールと5mLのDMFの混合物に変更し、加熱温度を120℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2のMOFを得た。
【0052】
〈比較例3:Ni:DOBDC=2:1(モル比)〉
金属源を、582mg(20mmol)のNi(NO3)2・6H2Oに変更し、溶媒を、5mLの水と5mLのエタノールと5mLのDMFの混合物に変更し、加熱温度を120℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3のMOFを得た。
【0053】
〈比較例4:Basolite C300(HKUST-1)〉
Sigma-Aldrich製のものをそのまま使用した。なお、HKUST-1は、Cuとトリメシン酸(H3BTC)からなるMOFである。
【0054】
《評価》
〈X線回折測定(MOFの結晶構造の確認)〉
実施例1~4及び比較例1~4において合成したMOFについて、それぞれX線回折測定を行った。なお、測定装置及び測定条件を以下に示す。
・測定装置:RINT RAPID II(株式会社リガク)
・測定条件:電圧50V、電流100mA、コリメータ径φ0.3、試料角度ω5°
【0055】
また、測定して得られた実施例1~4及び比較例1のMOFのX線回折図を
図3に、比較例2~4のMOFのX線回折図を
図4に示す。図中、CuとH
4DOBDCからなるCu-MOF-74に対して、X線回折図のシミュレーションを行い比較した。
【0056】
〈ガスクロマトグラフ-質量(GC/MS)分析(MOFの組成分析)〉
H4DOBDC及びH3MOBDCについて、それぞれを誘導体化処理した後、溶液のGC/MSを測定し、取得したピークの保持時間及びマススペクトルを用いて検量線を作成した。次いで、実施例1~4及び比較例1において合成したMOFについて、同様に誘導体化処理した後、溶液のGC/MSを測定し、配位子と保持時間及びマススペクトルが一致するピークを用いて配位子組成を求めた。なお、誘導体化条件、測定装置、及び測定条件を以下に示す。
・誘導体化条件:配位子及びMOFに塩酸メタノール溶液(HCl/MeOH)を加えて、70℃で2時間加熱
・測定装置:JMS-Q1050GC(日本電子株式会社)
・カラム:Ultra ALLOY-5 MS/HT
・温度:150℃で5分間保持、20℃/minで昇温後、350℃で測定
・ヘリウム流量:1mL/min
【0057】
実施例1~4及び比較例1において合成したMOFの組成分析結果を以下の表2に示す。
【表2】
【0058】
〈水蒸気吸脱着測定(MOFの水蒸気吸脱着特性の評価)〉
実施例1~4及び比較例1~4において合成したMOFについて、それぞれ前処理した。また、水蒸気吸着量が200mL(STP)・g-1以上増加する湿度を吸着湿度とし、湿度7~12%における水蒸気の吸着量とともに求めた。なお、前処理装置、前処理条件、測定装置及び測定条件を以下に示す。
・前処理装置:BELPREP-vacII(マイクロトラック・ベル株式会社)
・前処理条件:真空度<10-2Pa、130℃で6時間加熱
・測定装置:BELSORP-max(マイクロトラック・ベル株式会社)
・測定条件:温度20℃、相対湿度0~85%における水蒸気吸着量を測定
【0059】
実施例1~4及び比較例1において合成したMOFの水蒸気吸着等温線の評価結果を
図5に、比較例2~4において合成したMOFの水蒸気吸着等温線の評価結果を
図6に示す。
【0060】
また、実施例1~4及び比較例1~4において合成したMOFの吸着温度と湿度7~12%における水蒸気吸着量を以下の表3に示す。
【0061】
【0062】
〈TG-DTA測定(MOFの熱・酸化雰囲気安定性の評価)〉
実施例1において合成したMOFについて、約5mgの粉末を用いてTG-DTAを測定した。また、500℃における生成物がCuOであると仮定し、等モルのCu-MOF-74の重量を100%としてTGを計算した。なお、測定装置及び測定条件を以下に示す。
・測定装置:Thermo plus TG8120(株式会社リガク)
・測定雰囲気:ヘリウム(He)及び酸素(O2)気流下
・測定条件:昇温速度5K/min、室温~500℃におけるTG-DTAを測定
【0063】
実施例1において合成したMOFのHe雰囲気下におけるTG-DTA結果を
図7に示す。また、実施例1において合成したMOFのO
2雰囲気下におけるTG-DTA結果を
図8に示す。
【0064】
《結果の考察》
<MOFの結晶構造>
図3に示すように、実施例1~4では、Cu-MOF-74と類似のX線回折図が得られた。一方、比較例1では、異なる角度に複数の回折線が見られた。これは、H
3MOBDCの添加量が配位子の総量の40モル%以下であれば、Cu-MOF-74と同じ結晶構造を形成するが、配位子がH
3MOBDCのみの場合は異なる結晶構造(Cu(BDC-OH))を取ると考えられる。
【0065】
また
図4に示すように、比較例2及び3では、Cu-MOF-74と類似のX線回折図が得られた。一方、比較例4では、異なる角度に複数の回折線が見られた。これは、配位子と配位する金属が、CuではなくCoやNiであっても、Cu-MOF-74と同じ結晶構造を形成するが、配位子がH
3BTCのみの場合は異なる結晶構造(HKUST-1)を取ると考えられる。
【0066】
<MOFの組成>
表2に示すように、実施例2~4では、MOF中のH
3MOBDCの含有量は添加量と同程度であった。
図1を参照すると、Cu-MOF-74の構造中のH
4DOBDCを、添加量と同程度のH
3MOBDCが置換していると考えられる。
【0067】
<MOFの水蒸気吸着特性>
図5に示すように、実施例1~4では、湿度10%付近において200mL(STP)・g
-1以上の水蒸気吸着量を示した。一方、比較例1では、湿度10%付近における大きな水蒸気吸着量は見られなかった。この結果から、金属がCuであり、MOF-74の結晶構造を有するMOFであれば、湿度10%程度かつ小さな湿度変化で大量の水蒸気を吸着することができることがわかる。
【0068】
図6に示すように、比較例2及び3では、湿度0%から水蒸気吸着曲線が立ち上がった。一方、比較例4では、湿度0~20%程度の湿度範囲で水蒸気吸着が見られた。この結果から、金属がCu以外である場合か、MOF-74の結晶構造を有さない場合のいずれの場合においても、湿度10%程度かつ小さな湿度変化で大量の水蒸気を吸着することができないことがわかる。
【0069】
表3に示すように、Cu-MOF-74中のH4DOBDCをH3MOBDCで置換すると、吸着湿度が変化した。この結果から、H3MOBDCの置換量を変えることにより、吸着湿度を制御可能であることがわかる。
【0070】
<MOFの熱・酸化雰囲気安定性>
図7及び
図8に示すように、実施例1のMOFは250℃以下において小さな吸熱を伴う重量減少がみられ、250℃付近において大きな発熱を伴う重量減少がみられた。250℃以下における重量減少は、水蒸気の脱離によるものであり、250℃付近の重量減少はMOFの酸化によるものであると考えられる。He雰囲気下と比べてO
2雰囲気下では、MOFの酸化における発熱及び重量減少が急激に起こったが、酸化による温度はほとんど変化しなかった。この結果から、Cu-MOF-74は、100℃の熱源による再生で駆動する吸着ヒートポンプに適した吸着特性及び熱・酸化雰囲気安定性を有する材料であるといえる。
【符号の説明】
【0071】
10 水貯留部
20 吸湿材料保持部
30 水蒸気流路