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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】化粧シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20240723BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240723BHJP
   C08K 9/10 20060101ALI20240723BHJP
   E04F 13/07 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
B32B27/00 E
C08L101/00
C08K9/10
E04F13/07 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020113232
(22)【出願日】2020-06-30
(65)【公開番号】P2022011844
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】戸賀崎 浩昌
(72)【発明者】
【氏名】河西 優衣
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特許第6603468(JP,B2)
【文献】特許第6576096(JP,B2)
【文献】国際公開第2016/076360(WO,A1)
【文献】特開2015-199313(JP,A)
【文献】特開2017-19134(JP,A)
【文献】特開2017-42930(JP,A)
【文献】国際公開第2017/034021(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/00
C08L 101/00
C08K 9/10
E04F 13/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色層、印刷絵柄層、透明原反層、表面保護層の順に位置し、
前記透明原反層は、
透明コア層と、
前記表面保護層の側であって、前記透明コア層の表面に位置する表面側透明スキン層と、
前記透明コア層をはさんで、前記表面側透明スキン層と反対側であって、前記透明コア層の裏面に位置する裏面側透明スキン層と、
から構成され、
前記表面側透明スキン層及び前記裏面側透明スキン層は、
同種の熱可塑性樹脂を用い、
外膜に分散剤を配合してナノ化処理した造核剤ベシクルを添加していることを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
前記表面側透明スキン層及び前記裏面側透明スキン層は、
無機フィラーを添加していることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記表面保護層の表面には、
前記印刷絵柄層の印刷絵柄と同調した同調絵柄を印刷した印刷コート層を形成していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の化粧シート。
【請求項4】
前記表面側透明スキン層の表面側には、
凹凸模様部を形成していることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項5】
着色層、印刷絵柄層、透明原反層、表面保護層の順に位置し、
前記透明原反層は、
透明コア層と、
前記表面保護層の側であって、前記透明コア層の表面に位置する表面側透明スキン層と、
前記透明コア層をはさんで、前記表面側透明スキン層と反対側であって、前記透明コア層の裏面に位置する裏面側透明スキン層と、
から構成される化粧シートの製造方法であって、
前記表面側透明スキン層及び前記裏面側透明スキン層は、
同種の熱可塑性樹脂を用い、
外膜に分散剤を配合してナノ化処理した造核剤ベシクルを添加し、
前記透明原反層は、
同時押出し成形することを特徴とする化粧シートの製造方法。
【請求項6】
前記表面側透明スキン層及び前記裏面側透明スキン層は、
無機フィラーを添加していることを特徴とする請求項5に記載の化粧シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内に使用され、建具(室内ドア、玄関収納)、造作材(見切り、廻り縁、巾木、窓枠、ドア枠)などの表面に貼られ、家や部屋毎に建具や造作材の柄を合わせたりして使用される化粧シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化粧シートにおいて、燃焼時のガスの問題から近年ではオレフィン系材料のものが主に使用されている(特許文献1~3参照)。
また、従来、表面の摩耗から絵柄を守るために、化粧シートを複層にし、着色オレフィンシート上に印刷したものの上に透明のオレフィンシートを貼り合わせたものが広く使われている(特許文献2の段落[0034]及び図1参照、特許文献3の段落[0059]及び図1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-110929号公報
【文献】特開2015-199313号公報
【文献】特開2016-101663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来の化粧シートの作製には、印刷工程とラミネート工程との複数の工程が必要となるという問題点があった。
また、従来の化粧シートは、複層であるために、シートを薄膜化するにも、成膜上の限界とシートの硬さとが得られないという問題があった。
本発明は、上記のような点に着目したもので、従来のオレフィン系の化粧シートでは困難だった耐傷付き性能を実現することが可能な化粧シート及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る化粧シートは、着色層、印刷絵柄層、透明原反層、表面保護層の順に位置し、前記透明原反層は、透明コア層と、前記表面保護層の側であって、前記透明コア層の表面に位置する表面側透明スキン層と、前記透明コア層をはさんで、前記表面側透明スキン層と反対側であって、前記透明コア層の裏面に位置する裏面側透明スキン層と、から構成され、前記表面側透明スキン層及び前記裏面側透明スキン層は、同種の熱可塑性樹脂を用い、ナノサイズの添加剤としての分散剤を添加していることを特徴とする。
【0006】
また、本発明の一態様に係る化粧シートは、前記表面側透明スキン層及び前記裏面側透明スキン層に、無機フィラーを添加していることを特徴とする。
本発明の一態様に係る化粧シートは、前記表面保護層の表面に、前記印刷絵柄層の印刷絵柄と同調した同調絵柄を印刷した印刷コート層を形成していることを特徴とする。
本発明の一態様に係る化粧シートは、前記表面側透明スキン層の表面側に、凹凸模様部を形成していることを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様に係る化粧シートの製造方法は、着色層、印刷絵柄層、透明原反層、表面保護層の順に位置し、前記透明原反層は、透明コア層と、前記表面保護層の側であって、前記透明コア層の表面に位置する表面側透明スキン層と、前記透明コア層をはさんで、前記表面側透明スキン層と反対側であって、前記透明コア層の裏面に位置する裏面側透明スキン層と、から構成される化粧シートの製造方法であって、前記表面側透明スキン層及び前記裏面側透明スキン層は、同種の熱可塑性樹脂を用い、ナノサイズの添加剤としての分散剤を添加し、前記透明原反層は、同時押出し成形することを特徴とする。
本発明の一態様に係る化粧シートの製造方法は、前記表面側透明スキン層及び前記裏面側透明スキン層に、無機フィラーを添加していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、耐傷付き性能を実現することが可能な化粧シート及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態1に係わる化粧シートの断面図である。
図2図1の透明原反層を抽出した断面図である。
図3】実施形態2に係わる化粧シートの断面図である。
図4】比較例1に係わる化粧シートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1に係わる化粧シート10)
図1中、10は、実施形態1に係わる化粧シートであり、図示しないが、室内に使用され、建具(例えば室内ドア、玄関収納)、造作材(例えば見切り、廻り縁、巾木、窓枠、ドア枠)などの表面に貼られ、家や部屋毎に建具や造作材の柄を合わせたりして使用される。
化粧シート10は、次の層を含む。
なお、次の(1)~(5)については後述する。
(1)透明原反層20
(2)印刷絵柄層30
(3)着色層40
(4)プライマー層50
(5)表面保護層60
【0011】
化粧シート10は、プライマー層50、着色層40、印刷絵柄層30、透明原反層20、表面保護層60の順に位置し、例えば当該順に設けても良い。
なお、化粧シート10は、上記した(1)~(5)に限定されず、例えば「(4)プライマー層50」を省いたり、又、図示しないが、下地基材の色や意匠も同時に活かす場合を考慮し、「(3)着色層40」を省いても良く、さらに、後述する図3に示すように、表面保護層60の表面に印刷コート層70を形成しても良い。」
【0012】
(透明原反層20)
透明原反層20は、図2に示すように、次の3層から形成されている。
なお、(1)~(3)については後述する。
(1)透明コア層21
(2)表面側透明スキン層22
(3)裏面側透明スキン層23
透明原反層20は、裏面側透明スキン層23、透明コア層21、表面側透明スキン層22が順次積層される。
【0013】
(透明コア層21)
透明コア層21は、ポリプロピレン樹脂に、耐候剤をブレンドしたものを使用する。
透明コア層21は、例えば、透明ポリプロピレン樹脂フィルムである。
透明コア層21の厚さは、例えば40μm以上200μm以下であることが好ましく、120μm以上160μm以下であることがより好ましい。
透明コア層21の厚さが40μm以上である場合、基材としての強度を十分に有し、耐傷性の悪化を抑制することができる。一方、透明コア層21の厚さが200μm以下である場合、印刷絵柄層の絵柄をシート表面から見るのに十分な透明性を維持することができ、曲げ加工時において白化や割れといった不具合が生じることを抑制することができる。
【0014】
(樹脂材料)
透明コア層21を構成する樹脂材料としては、例えば熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、特に制限はなく、従来の化粧シート10で基材層等として用いられていた熱可塑性樹脂と同様の材料を用いることができる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体、プロピレン-α-オレフィン共重合体等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート-イソフタレート共重合体、1,4-シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリカーボネート等のポリエステル系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸(エステル)共重合体、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体金属中和物(アイオノマー)等のオレフィン系共重合体樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、ポリアクリルアミド等のアクリル系樹脂、6-ナイロン、6,6-ナイロン、6,10-ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のビニル系樹脂、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフロロエチレン、エチレン-テトラフロロエチレン共重合体、エチレン-パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体等のフッ素系樹脂等、或いはそれらの2種以上の混合物、共重合体、複合体、積層体等を使用できる。
【0015】
なかでも、近年の環境問題に対する社会的な関心の高まりに鑑みれば、熱可塑性樹脂としてポリ塩化ビニル樹脂等の塩素(ハロゲン)を含有する熱可塑性樹脂を使用することは好ましくなく、非ハロゲン系の熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。
特に、各種物性や加工性、汎用性、経済性等の面からは、非ハロゲン系の熱可塑性樹脂としてポリエステル系樹脂(非晶質又は二軸延伸)又はポリオレフィン系樹脂、特にポリオレフィン系樹脂を使用することが最も好ましい。例えば、ポリオレフィン系樹脂として、アイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)が95%以上の高結晶性ホモポリプロピレン樹脂を30質量%以上100質量%以下含むポリプロピレン樹脂を使用することが好ましい。
【0016】
透明コア層21には、必要に応じて、例えば、充填剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、難燃剤、抗菌剤、防黴剤、減摩剤、光散乱剤及び艶調整剤等の各種の添加剤から選ばれる1種以上が添加されていても良い。
【0017】
(表面側透明スキン層22及び裏面側透明スキン層23)
表面側透明スキン層22及び裏面側透明スキン層23(以下、「透明スキン層22,23」ともいう。)は、同種の熱可塑性樹脂、例えば透明ポリプロピレン系樹脂を用い、ナノサイズの添加剤としての分散剤を添加して形成する(以下、「分散剤ナノ仕様」ともいう。)。
このため、透明原反層20は、2種3層で形成される。
また、透明スキン層22,23にも、透明コア層21と同様に、耐候剤をブレンドしたものを使用する。
さらに、透明スキン層22,23は、分散剤に加え、無機フィラーを添加して形成してもよい(以下、「無機ナノ粒子仕様」ともいう。)。すなわち、透明スキン層22,23は、分散剤ナノ仕様だけでも良いし、分散剤ナノ仕様に加え、無機ナノ粒子仕様を追加しても良い。
【0018】
(表面側透明スキン層22)
表面側透明スキン層22は、表面保護層60の側であって、透明コア層21の表面に位置する。
表面側透明スキン層22の表面側には、図2に示すように、凹凸模様部24を形成している。凹凸模様部24は、原反成膜時に、エンボス版で目的の意匠・性能に見合った形状に形成される。
【0019】
(裏面側透明スキン層23)
裏面側透明スキン層23は、透明コア層21をはさんで、表面側透明スキン層22と反対側、すなわち印刷絵柄層30の側である透明コア層21の裏面側に位置する。
【0020】
(透明スキン層22,23)
透明スキン層22,23は、樹脂材料と樹脂材料の結晶化度を向上させる造核剤とを含む層であり、表面に凹凸形状を有している。本実施形態では、造核剤は、外膜で包含されてベシクル化された造核剤ベシクルの状態で樹脂材料に添加されている。
透明スキン層22,23の厚さは、例えば1μm以上50μm以下であることが好ましく、2μm以上10μm以下であることがより好ましい。透明スキン層22,23の厚さが1μm以上である場合、化粧シート1の耐傷性が十分に高くなる。また、透明スキン層22,23の厚さが50μm以下である場合、化粧シート1の曲げ性が必要以上に高くなりすぎず、化粧シート1を貼り付ける貼り付け面が平面でない場合にも化粧シート10を貼り付け面に密着させた状態で施工することができる。
また、透明原反層20は、例えば、「表面側透明スキン層22:透明コア層21:裏面側透明スキン層23」が「0.5:9:0.5」の厚み比率になるように同時押出して形成している。
【0021】
(樹脂材料)
透明スキン層22,23を構成する樹脂材料としては、例えば熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、特に制限はなく、透明コア層21と同様の樹脂材料を用いることができる。
【0022】
(造核剤)
透明スキン層22,23はナノサイズの造核剤を含んでいる。ナノサイズの造核剤は、単層膜の外膜を具備するベシクルに内包された、造核剤ベシクルの形でポリプロピレン樹脂に添加されて使用されることが好ましい。また、本実施形態において、透明スキン層22,23を構成する樹脂中の造核剤は、当該造核剤の一部を露出させた状態で、ベシクルに内包されていても良い。透明スキン層22,23は造核剤を含むため結晶化度を向上でき、化粧シート10の耐擦傷性(耐傷性)を向上することができる。
ナノサイズの造核剤は、平均粒径が可視光の波長領域の1/2以下であることが好ましく、具体的には、可視光の波長領域が400nm以上750nm以下であるので、平均粒径が375nm以下であることが好ましい。
【0023】
ナノサイズの造核剤は、粒径が極めて小さいため、単位体積当たりに存在する造核剤の数と表面積とが粒子直径の三乗に反比例して増加する。その結果、各造核剤粒子間の距離が近くなるため、樹脂に添加された一の造核剤粒子の表面から結晶成長が生じた際に、結晶が成長している端部が直ちに、一の造核剤粒子に隣接する他の造核剤粒子の表面から成長している結晶の端部と接触し、互いの結晶の端部が成長を阻害して各結晶の成長が止まる。そのため、結晶性樹脂の結晶部における、球晶の平均粒径を小さく、例えば、球晶サイズを小さくして1μm以下とすることができる。
この結果、結晶化度の高い高硬度の樹脂フィルムとすることができると共に、曲げ加工時に生じる球晶間の応力集中が効率的に分散されるため、曲げ加工時の割れや白化を抑制した樹脂フィルムを実現することができる。
【0024】
造核剤を単純添加した場合、樹脂中の造核剤が2次凝集することで粒径が大きくなる。
一方、造核剤ベシクルを添加する場合、樹脂中における分散性が向上するため、造核剤を単純添加した場合と比較して添加した造核剤量に対しする結晶核の数が大幅に増加する。
このため、樹脂の結晶部における球晶の平均粒径が小さくなり、曲げ加工時の割れや白化の発生を抑制することができる。よって、造核剤ベシクルを添加することにより結晶化度をより高めることができ、弾性率向上と加工性をより両立可能となる。
【0025】
透明スキン層22,23は、例えば、主成分としてのポリプロピレン樹脂100質量部に対して好ましくは0.05質量部以上0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以上0.3質量部以下の範囲内で造核剤が添加された樹脂材料により形成される。
造核剤ベシクルを用いる場合、樹脂材料への造核剤の添加量は、造核剤ベシクル中の造核剤に換算した添加量である。造核剤の添加量が0.05質量部未満の場合、ポリプロピレンの結晶化度が十分に向上せず、透明スキン層22,23の耐傷性が十分に向上しないおそれがある。また、造核剤の添加量が0.5質量部を超える場合、結晶核が過多のためポリプロピレンの球晶成長が逆に阻害され、結果的にポリプロピレンの結晶化度が十分に向上せず、透明スキン層22,23の耐傷性が十分に向上しないおそれがある。
ここで、「主成分」とは、透明スキン層22,23を構成する樹脂材料の50質量%以上を占める樹脂材料を示すものとする。
【0026】
また、造核剤をナノ化する手法としては、例えば、造核剤に対して主に機械的な粉砕を行ってナノサイズの粒子を得る固相法、造核剤や造核剤を溶解させた溶液中でナノサイズの粒子の合成や結晶化を行う液相法、造核剤や造核剤からなるガス・蒸気からナノサイズの粒子の合成や結晶化を行う気相法等の方法を適宜用いることができる。
固相法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、ロッドミル、コロイドミル、コニカルミル、ディスクミル、ハンマーミル、ジェットミル等が挙げられる。
また、液相法としては、例えば、晶析法、共沈法、ゾルゲル法、液相還元法、水熱合成法等が挙げられる。更に、気相法としては、例えば、電気炉法、化学炎法、レーザー法、熱プラズマ法等が挙げられる。
【0027】
造核剤をナノ化する手法としては、超臨界逆相蒸発法が好ましい。超臨界逆相蒸発法とは、超臨界状態又は臨界点以上の温度条件下又は圧力条件下の二酸化炭素を用いて対象物質を内包したカプセル(ナノサイズのベシクル)を作製する方法である。
超臨界状態の二酸化炭素とは、臨界温度(30.98℃)及び臨界圧力(7.3773±0.0030MPa)以上の超臨界状態にある二酸化炭素を意味し、臨界点以上の温度条件下又は圧力条件下の二酸化炭素とは、温度だけ又は圧力だけが臨界条件を越えた条件下の二酸化炭素を意味する。
【0028】
また、超臨界逆相蒸発法による具体的なナノ化処理としては、まず超臨界二酸化炭素と外膜形成物質としてのリン脂質と内包物質としての造核剤との混合流体中に水相を注入し、攪拌することによって、超臨界二酸化炭素と水相のエマルジョンを生成させる。
つぎに、減圧することで、二酸化炭素が膨張・蒸発して転相が生じ、リン脂質が造核剤粒子の表面を単層膜で覆ったナノカプセル(ナノベシクル)を生成させる。
この超臨界逆相蒸発法を用いることにより、造核剤粒子表面で外膜が多重膜となる従来のカプセル化方法とは異なり、容易に単層膜のカプセルを生成することができるので、より小径なカプセルを調製することができる。
なお、造核剤ベシクルは、例えば、Bangham法、エクストルージョン法、水和法、界面活性剤透析法、逆相蒸発法、凍結融解法、超臨界逆相蒸発法などによって調製される。造核剤ベシクルは、その中でも特に超臨界逆相蒸発法を用いて調整されることが好ましい。
【0029】
造核剤ベシクルを構成する外膜は例えば単層膜から構成される。また、その外膜は、例えば、リン脂質等の生体脂質を含む物質から構成される。
本明細書では、外膜がリン脂質のような生体脂質を含む物質から構成される造核剤ベシクルを、造核剤リポソームと称する。
外膜を構成するリン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオピン、黄卵レシチン、水添黄卵レシチン、大豆レシチン、水添大豆レシチン等のグリセロリン脂質、スフィンゴミエリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール等のスフィンゴリン脂質が挙げられる。
【0030】
ベシクルの外膜となるその他の物質としては、例えば、ノニオン系界面活性剤や、これとコレステロール類もしくはトリアシルグリセロールの混合物などの分散剤が挙げられる。
このうち、ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリグリセリンエーテル、ジアルキルグリセリン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンコポリマー、ポリブタジエン-ポリオキシエチレン共重合体、ポリブタジエン-ポリ(2-ビニルピリジン)、ポリスチレン-ポリアクリル酸共重合体、ポリエチレンオキシド-ポリエチルエチレン共重合体、ポリオキシエチレン-ポリカプロラクタム共重合体等の1種又は2種以上を使用することができる。コレステロール類としては、例えば、コレステロール、α-コレスタノール、β-コレスタノール、コレスタン、デスモステロール(5、24-コレスタジエン-3β-オール)、コール酸ナトリウム又はコレカルシフェロール等を使用することができる。
【0031】
また、リポソームの外膜は、リン脂質と分散剤との混合物から形成するようにしても良い。
本実施形態の化粧シート10においては、造核剤ベシクルを、リン脂質からなる外膜を具備したラジカル捕捉剤リポソームとすることが好ましく、外膜をリン脂質から構成することによって、化粧シート10の主成分である樹脂材料とベシクルとの相溶性を良好なものとすることができる。
造核剤としては、樹脂が結晶化する際に結晶化の起点となる物質であれば特に限定するものではない。造核剤としては、例えば、リン酸エステル金属塩、安息香酸金属塩、ピメリン酸金属塩、ロジン金属塩、ベンジリデンソルビトール、キナクリドン、シアニンブルー及びタルク等が挙げられる。特に、ナノ化処理の効果を最大限に得るべく、非溶融型で良好な透明性が期待できるリン酸エステル金属塩、安息香酸金属塩、ピメリン酸金属塩、ロジン金属塩を用いることが好ましいが、ナノ化処理によって材料自体の透明化が可能な場合には、有色のキナクリドン、シアニンブルー、タルクなども用いることができる。また、非溶融型の造核剤に対して、溶融型のベンジリデンソルビトールを適宜混合して用いるようにしても良い。
【0032】
上述のように、本実施形態の化粧シート10は、透明スキン層22,23が樹脂材料と造核剤とを含有する点に特徴を有している。
また、本実施形態の化粧シート10は、透明スキン層22,23を形成する際に、樹脂材料に対してベシクルに内包された造核剤を添加して樹脂材料を結晶化させる点に特徴を有している。造核剤をベシクルに内包させた状態で樹脂組成物に添加することで、樹脂材料中、すなわち透明スキン層22,23中への造核剤の分散性を飛躍的に向上するという効果が奏する。一方、ベシクルに内包された造核剤を、完成された化粧シート10の状態における物の構造や特性にて直接特定することが、状況により困難な場合も想定され、非実際的であるといえる。その理由は次の通りである。
【0033】
ベシクルの状態で添加された造核剤は、高い分散性を有して分散された状態になっており、作製された化粧シート10の前駆体である積層体の状態においても透明スキン層22,23に高分散されている。
しかしながら、化粧シート10の作製工程において、通常、積層体は圧縮処理や硬化処理などの種々の処理が施され、このような処理によって造核剤を内包するベシクルの外膜が破砕したり、化学反応する場合がある。
【0034】
このため、化粧シート10の処理工程によって、完成後の化粧シート10における造核剤の外膜が破砕したり、化学反応している状態がばらつき、造核剤が外膜で包含(包皮)されていない可能性も高い。
そして、造核剤が外膜で包含されていない場合、造核剤の物性自体を数値範囲で特定することが困難であり、また破砕された外膜の構成材料が、ベシクルの外膜なのか造核剤とは別に添加された材料なのか判定が困難な場合も想定される。
このように、本開示は、従来に比して、化粧シート10に対し、造核剤が高分散で配合されている点で相違があるものの、造核剤を内包するベシクルの状態で添加されたためなのかどうかが、化粧シート10の状態において、その構造や特性を測定に基づき解析した数値範囲で特定することが非実際的である場合も想定される。
【0035】
透明スキン層22,23の少なくとも一方の表面は、凹凸形状とされている。凹凸形状は、表面側(表面保護層60の側)の透明スキン層22、裏面側(印刷絵柄層30の側)の透明スキン層23の一方もしくは双方に設けられており、表面側(表面保護層60の側)の透明スキン層22に設けられていることが好ましい。
【0036】
(印刷絵柄層30)
印刷絵柄層30は、図1に示すように、透明原反層20の裏面側(同図において下側)に、グラビア印刷法により、例えばウレタン系樹脂で印刷絵柄を印刷したものである。
【0037】
(着色層40)
着色層40は、図1に示すように、印刷絵柄層30の更に裏面側(同図において下側)に、隠蔽を出すためにグラビア印刷法により、例えばウレタン樹脂で酸化チタンの白顔料を混ぜた2液ウレタン系樹脂で印刷したものである。
【0038】
(プライマー層50)
プライマー層50は、図1に示すように、着色層40の更に裏面側(同図において下側)に、例えばグラビア印刷法により固形分量が1g/mとなるようにウレタン系樹脂を塗工して形成したものである。
【0039】
(表面保護層60)
表面保護層60は、トップコート層ともいい、図1に示すように、透明原反層20の表面側(同図において上側)にコロナ処理を施した後、アクリル系二液硬化型樹脂(DICグラフィック社製アクリルウレタン樹脂)を6μmの厚さになるよう塗布したものである。
【0040】
(化粧シート10の製造方法)
化粧シート10の製造方法としては、透明原反層20を同時押出して形成する。
このとき、すなわち原反成膜時に、表面側透明スキン層22の表面側には、凹凸模様部24を形成する。
作製した透明原反層20の裏面側に、印刷絵柄層30、着色層40、プライマー層50の順に形成する。
また、透明原反層20の表面側には、表面保護層60を形成し、化粧シート10を製造する。
【0041】
(実施形態1による効果)
実施形態1によれば、ナノサイズの添加剤としての分散剤を添加する技術を活用した2種3層の透明原反層20を作製することで、これまでのオレフィン系の化粧シートでは困難だった耐傷付き性能を実現することが可能となった。
【0042】
図3に示す実施形態2の説明)
図3を用い、実施形態2について説明する。
本実施形態2は、図3に示すように、表面保護層60の表面に、印刷絵柄層30の印刷絵柄と同調した同調絵柄を印刷した印刷コート層70を形成した点を特徴とする。
すなわち、印刷コート層70は、表面保護層60に艶の低い樹脂を使用し、表面保護層60と同じ樹脂で、艶を高くしたものを使用し、印刷絵柄層30の印刷絵柄と同調した同調絵柄を表面保護層60の表面側に印刷したものである。
【0043】
(実施形態2による効果)
実施形態2によれば、複層シートでは印刷絵柄層の付与と、化粧シートの表面の表面保護層との同調表現が困難であったが、インラインで化粧シートの表裏に印刷絵柄と同調絵柄と付与することで、同調させることが容易にできる。
【実施例
【0044】
以下に、本発明に係るシートの実施例1及び2、並びに比較例1について説明する。 なお、本発明は、下記の実施例1及び2に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
実施例1は、次の材料と手順で、評価シートを作製した。
透明原反層20の透明コア層21(コア層)には、ポリプロピレン樹脂、耐候剤をブレンドしたものを使用し、表面側透明スキン層22及び裏面側透明スキン層23(スキン層)にはナノサイズの添加剤としての分散剤を添加する処方の透明ポリプロピレン樹脂を使用し、「表面側透明スキン層22:透明コア層21:裏面側透明スキン層23」が「0.5:9:0.5」の厚み比率になるように同時押出し、総厚130μmで透明原反層20を作製した。
【0046】
透明原反層20の裏面側に、グラビア印刷法によりウレタン系樹脂で絵柄を印刷して、印刷絵柄層30を付与した後、隠蔽を出すためにグラビア印刷法により、ウレタン樹脂で酸化チタンの白顔料を混ぜた2液ウレタン系樹脂で着色層40を付与した。
さらに、グラビア印刷法により、固形分量が1g/mとなるようにウレタン系樹脂を塗工し、プライマー層50を形成した。
その後、透明原反層20の表面側に、コロナ処理を施した後、表面保護層60(トップコート層)として、アクリル系二液硬化型樹脂(DICグラフィック社製アクリルウレタン樹脂)を6μmの厚さになるよう塗布し、評価シートを作製した。
【0047】
(実施例2)
実施例2は、実施例1と同様だが、層厚50μmの透明原反層20を作製し、更に表面保護層60(トップコート層)に艶の低い樹脂を使用し、その上に表面保護層60と同じ樹脂で艶を高くしたものを、印刷絵柄層30の印刷絵柄と同調した同調絵柄を印刷し、図3に示すように、印刷コート層70を形成し、評価シートを作製した。
【0048】
(比較例1)
比較例1は、図4に示すように、着色原反層110として厚さ55μmの顔料配合着色ポリエチレンシート(リケンテクノス製)を用いる。
着色原反層110の表面側に、グラビア印刷によってウレタンインキ(東洋インキ製造製ラミスター)を用いて絵柄印刷層120を形成した。
絵柄印刷層120の表面側に、透明PP層130としてホモポリプロピレン樹脂(プライムポリマー社製)70μmを押出ラミネートし、更に表面保護層140(トップコート層)として、実施例1と同じアクリル系二液硬化型樹脂(DICグラフィック社製アクリルウレタン樹脂)を6μmの厚さになるように塗布する、
さらに、着色原反層110の裏面側に、実施例1と同様のプライマー層150を塗布し、評価シート(比較例1の化粧シート100)を作製した。
【0049】
(評価方法および評価基準)
上記して作製した評価シートの評価方法は、次の通りである。
(1)スクラッチ試験
(2)引っ掻き硬度試験(鉛筆硬度)
(スクラッチ試験)
スクラッチ試験は、各評価シートのそれぞれに対して、コインスクラッチ試験を行い、評価シートの表面に連続的な傷跡が生じなかった際の荷重を測定した。
なお、スクラッチ試験では、10円硬貨 を評価シートの表面に当てて、荷重1Kgから試験を開始し、1Kgずつ徐々に荷重を増加し、4kgまで 試験を行った。
【0050】
(引っ掻き硬度試験)
引っ掻き硬度試験は、各評価シートのそれぞれに対して、JISK5600-5-4:1999に規定する引っ掻き硬度(鉛筆法)試験により、評価シートの表面に傷跡を生じなかった最も固い鉛筆の硬度(鉛筆硬度)を測定した。
【0051】
(評価基準)
スクラッチ試験においては、荷重が「1Kg」以上を合格とし、それ以外は不合格とした。
引っ掻き硬度試験においては、鉛筆の硬度(鉛筆硬度)が「2B」以上を合格とし、それ以外は不合格とした。
【0052】
(評価結果)
評価シートの評価結果は、次の表1の通りである。
【0053】
【表1】
【0054】
(実施例1及び2並びに比較例1)
実施例1及び2、並びに比較例1の計3枚の評価シートのうち、「合格」のものは、実施例1及び2の計2枚の評価シートだけである。
残る比較例1の1枚の評価シートは、「不合格」であった。
比較例1は、着色原反層110がナノ化処理仕様でないのが原因と推測できる。
また、実施例1と実施例2において、スクラッチ試験及び引っ掻き硬度試験で差が出たのは、評価シートの厚みが影響しているもの推測できる。すなわち、実施例1のものは、実施例2と比較し、評価シートの厚みが厚く、厚い方が、スクラッチ試験及び引っ掻き硬度試験において有利であるものと推測できる。
【符号の説明】
【0055】
10 化粧シート
20 透明原反層
21 透明コア層
22 表面側透明スキン層
23 裏面側透明スキン層
24 凹凸模様部
30 印刷絵柄層
40 着色層
50 プライマー層
60 表面保護層
70 印刷コート層
100 比較例1の化粧シート
110 着色原反層
120 絵柄印刷層
130 透明PP層
140 表面保護層
150 プライマー層
図1
図2
図3
図4