(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】光応答性重合体、光応答性接着剤、トナー、および画像形成方法
(51)【国際特許分類】
C08F 20/18 20060101AFI20240723BHJP
C08F 293/00 20060101ALI20240723BHJP
G03G 9/08 20060101ALI20240723BHJP
G03G 9/087 20060101ALI20240723BHJP
C09J 153/00 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C08F20/18
C08F293/00
G03G9/08
G03G9/087 325
G03G9/087 331
C09J153/00
(21)【出願番号】P 2020145015
(22)【出願日】2020-08-28
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】堀口 治男
(72)【発明者】
【氏名】須釜 宏二
(72)【発明者】
【氏名】中村 和明
(72)【発明者】
【氏名】草野 優咲子
(72)【発明者】
【氏名】芝田 豊子
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/119412(WO,A1)
【文献】特開2007-206461(JP,A)
【文献】特開2011-256155(JP,A)
【文献】特開2011-256291(JP,A)
【文献】特開2014-191078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00、301/00
C08F 251/00-283/00、283/02-289/00
291/00-297/08
C09J 1/00-5/10、9/00-201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造単位を含み、光照射により流動化し、可逆的に非流動化する光応答性重合体:
【化1】
前記一般式(1)中、
r
1は、水素原子またはメチル基であり、
Aは、下記一般式(2-a)、(2-b)、または(2-c)で表されるプロペンイミン構造を有する基であり、
【化2】
前記一般式(2-a)、(2-b)、および(2-c)中、
Z
1およびZ
2は、それぞれ独立して、NまたはCXであり、かつZ
1≠Z
2であり、
B
1は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の2価の芳香族炭化水素基または置換もしくは非置換の2価の芳香族複素環基であり、
B
2は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の1価の芳香族炭化水素基または置換もしくは非置換の1価の芳香族複素環基であり、
X、r
2、およびr
3は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~2のアルキル基であり、
r
4は、それぞれ独立して、炭素数1~18のアルキレン基である。
【請求項2】
前記X、r
2、およびr
3が、それぞれ独立して、水素原子である、請求項1に記載の重合体。
【請求項3】
前記B
1は、それぞれ独立して、Z
1と酸素原子またはr
4との関係がパラ位である2価の芳香族炭化水素基であり、
前記B
2は、それぞれ独立して、非置換であるか、または、Z
2に対してパラ位に炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、および炭素数2~10のジアルキルアミノ基から選択される置換基を有する1価の芳香族炭化水素基である、請求項1または2に記載の重合体。
【請求項4】
前記B
1およびB
2の少なくとも一方は、Z
1もしくはZ
2に対する2つのオルト位および2つのメタ位が置換されていないか、または、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、および炭素数2~10のジアルキルアミノ基から選択される基で置換される、請求項3に記載の重合体。
【請求項5】
前記B
1は、それぞれ独立して、Z
1と酸素原子またはr
4との関係がパラ位である2価の芳香族炭化水素基であり、
前記B
2は、それぞれ独立して、非置換であるか、または、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基、もしくは炭素数2~19のアルコキシカルボニル基で置換された1価の芳香族複素環基である、請求項1または2に記載の重合体。
【請求項6】
前記B
1は、それぞれ独立して、置換または非置換の2価の芳香族複素環基であって、かつ前記Z
1との結合位置と隣接しない位置で酸素原子またはr
4と結合し、
前記B
2が、それぞれ独立して、非置換であるか、または、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基、もしくは炭素数2~19のアルコキシカルボニル基置換された1価の芳香族炭化水素基である、請求項1または2に記載の重合体。
【請求項7】
前記B
1は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の2価の芳香族複素環基であって、Z
1との結合位置と隣接しない位置で酸素原子またはr
4と結合し、
前記B
2は、それぞれ独立して、非置換であるか、または、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基もしくは炭素数2~19のアルコキシカルボニル基で置換された1価の芳香族複素環基である、請求項1または2に記載の重合体。
【請求項8】
数平均分子量Mnが3500以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の重合体。
【請求項9】
ビニル系重合性基を有する単量体に由来する他の構造単位をさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の重合体。
【請求項10】
前記他の構造単位は、スチレン誘導体、アクリル酸誘導体、メタクリル酸誘導体、またはオレフィン誘導体に由来する構造単位である、請求項9に記載の重合体。
【請求項11】
下記一般式(3)で表される、光照射により流動化し、可逆的に非流動化する請求項1~10のいずれか1項に記載の重合体:
【化3】
前記一般式(3)中、αは前記一般式(1)で表される構造単位を含む重合体ブロックであり、βはプロペンイミン構造を含まない重合体ブロックである。
【請求項12】
前記一般式(3)で表される重合体に含まれる重合体ブロックαの合計の数平均分子量が1000以上であり、重合体ブロックβの合計の数平均分子量が1000以上であり、前記一般式(3)で表される重合体の全数平均分子量が3500以上である、請求項11に記載の重合体。
【請求項13】
前記重合体ブロックβは、スチレン誘導体に由来する構造単位、(メタ)アクリル酸誘導体に由来する構造単位、およびオレフィン誘導体に由来する構造単位からなる群より選択される少なくとも1種の構造単位を含む重合体ブロックである、請求項11または12に記載の重合体。
【請求項14】
照射光の波長は、280nm以上480nm以下である請求項1~13のいずれか1項に記載の重合体。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の重合体を用いたトナー。
【請求項16】
さらに結着樹脂を含む請求項15に記載のトナー。
【請求項17】
前記結着樹脂は、スチレンアクリル樹脂およびポリエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項15または16に記載のトナー。
【請求項18】
請求項15~17のいずれか1項に記載のトナーからなるトナー像を記録媒体上に形成する工程と、前記トナー像に光を照射して、前記トナー像を軟化させる工程とを含む、画像形成方法。
【請求項19】
前記光の波長は、280nm以上480nm以下である、請求項18に記載の画像形成方法。
【請求項20】
前記トナー像を加圧する工程をさらに含む、請求項18または19に記載の画像形成方法。
【請求項21】
前記加圧する工程は、前記トナー像を加熱することをさらに含む、請求項20に記載の画像形成方法。
【請求項22】
請求項1~14のいずれか1項に記載の重合体を用いた光応答性接着剤。
【請求項23】
請求項1~14のいずれか1項に記載の重合体を含む、光スイッチング材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射により流動化し、可逆的に非流動化する光応答性重合体、これを用いた光応答性接着剤、およびトナー、ならびに上記トナーを用いた画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光異性化反応に伴って可逆的に流動化・非流動化する化合物として、アゾベンゼン誘導体が広く知られている。例えば、特許文献1、2には、アゾベンゼン液晶化合物が紫外光もしくは可視光の照射によって結晶相-等方相の相変化を示すことが開示されている。これらは光に応答してアゾベンゼン部位のシス-トランス異性化反応を起こす。これによる分子構造変化が非流動体(結晶相)状態から流動体(等方相)状態への相転移を誘起すると考えられている。また、波長を変えて再光照射するか、加熱するか、或いは、暗所に室温で放置することで、逆反応が起きて再び固化(非流動化)するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-256155号公報
【文献】特開2011-256291号公報
【文献】特開2014-191078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載のアゾベンゼン部位を有する化合物(単に、アゾベンゼン化合物ともいう)は、橙色に着色しているため、工業製品に適用する際に所望の色を再現できないという点で問題があった。
【0005】
また、特許文献1、2に記載のアゾベンゼン化合物は橙色を有しており、該アゾベンゼン化合物を含むトナーは、色再現性がよくないという課題がある。現在報告されている光溶融トナーは、熱以外の外部刺激によって定着するが、定着に必要な軟化速度が十分ではないため生産性が低いという課題がある。
【0006】
一方、本発明者らの研究によれば、ベンゼン環をアゾメチン基で繋いだ構造を有するアゾメチン化合物は、光照射によってトランス体からシス体に変化しても、逆反応が速すぎて、トナーに適用した際に定着に必要な軟化状態を保つことが不十分であるという課題があることを見出した。
【0007】
そこで、本発明では、光照射により流動化し、可逆的に非流動化する靭性(トナーでは定着性に影響する)の高い無色の重合体を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の他の目的は、着色剤と混ぜても所望の色再現に影響を与えず、軟化速度が著しく向上し、定着に必要な軟化状態を保つことで良好な定着性を有する上記重合体を含有するトナーおよびこれを用いた画像形成方法を提供するものである。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、良好な接着性を有する上記重合体を用いた接着剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を積み重ねた。その結果、重合性基を有するプロペンイミン(-C=C-C=N-)構造を有する誘導体(単にプロペンイミン誘導体ともいう)に由来する構造単位を含む重合体を用いることで、光照射により流動化し、可逆的に非流動化する着色のない高靭性の光応答性高分子材料(光応答性重合体)を実現できることを見出した。さらに上記光応答性重合体をトナーに含有させることで、トナーの色再現性に影響を与えず、軟化速度が著しく向上し、定着に必要な軟化状態を保つことで良好な定着性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記に示す光応答性重合体、これを用いた光応答性接着剤、およびトナー、ならびにこのトナーを用いた画像形成方法により達成されるものである。
【0012】
下記一般式(1)で表される構造単位を含み、光照射により流動化し、可逆的に非流動化する光応答性重合体:
【0013】
【0014】
前記一般式(1)中、
r1は、水素原子またはメチル基であり、
Aは、下記一般式(2-a)、(2-b)、または(2-c)で表されるプロペンイミン構造を有する基であり、
【0015】
【0016】
前記一般式(2-a)、(2-b)、および(2-c)中、
Z1およびZ2は、それぞれ独立して、NまたはCXであり、かつZ1≠Z2であり、
B1は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の2価の芳香族炭化水素基または置換もしくは非置換の2価の芳香族複素環基であり、
B2は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の1価の芳香族炭化水素基または置換もしくは非置換の1価の芳香族複素環基であり、
X、r2、およびr3は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~2のアルキル基であり、
r4は、それぞれ独立して、炭素数1~18のアルキレン基である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、光照射により流動化し、可逆的に非流動化し、かつ著しい着色のない重合体を提供できる。
【0018】
また、本発明によれば、着色剤と混ぜても所望の色再現に影響を与えず、トナーの光照射による軟化速度が著しく向上し、定着に必要な軟化状態を保つことで画像の定着性を向上することができる上記重合体を含有するトナーおよびこのトナーを用いた画像形成方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態による画像形成方法で用いられる画像形成装置100を示す概略構成図である。
【
図2】画像形成装置100における照射部40の概略構成図である。
【
図3】実施例の光応答接着試験で用いた重合体の光照射に伴う接着性の変化を測定する装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、下記一般式(1)で表される構造単位を含み、光照射により流動化し、可逆的に非流動化する光応答性重合体:
【0021】
【0022】
前記一般式(1)中、
r1は、水素原子またはメチル基であり、
Aは、下記一般式(2-a)、(2-b)、または(2-c)で表されるプロペンイミン構造を有する基であり、
【0023】
【0024】
前記一般式(2-a)、(2-b)、および(2-c)中、
Z1およびZ2は、それぞれ独立して、NまたはCXであり、かつZ1≠Z2であり、
B1は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の2価の芳香族炭化水素基または置換もしくは非置換の2価の芳香族複素環基であり、
B2は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の1価の芳香族炭化水素基または置換もしくは非置換の1価の芳香族複素環基であり、
X、r2、およびr3は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~2のアルキル基であり、
r4は、それぞれ独立して、炭素数1~18のアルキレン基である。
【0025】
上記一般式(1)で表される構造単位を含む重合体は、光照射により流動化し、また可逆的に非流動化し、靭性が高く、トナー等の色材に応用する際に所望の色の再現に影響しない程度に着色の少ない光応答性重合体を実現することができる。
【0026】
なぜ、本発明の重合体により上記効果が得られるのか、詳細は不明であるが、下記のようなメカニズムが考えられる。なお、下記のメカニズムは推測によるものであり、本発明は下記メカニズムに何ら制限されるものではない。以下の説明では、上記一般式(1)で表される構造単位を「プロペンイミン構造を有する構造単位」とも称する。
【0027】
末端に長鎖のアルキル鎖を有するアゾベンゼン化合物は、光を吸収し固体状態から軟化(光相転移)する、すなわち、光照射により流動化する材料であることが知られており、その光相転移は、シス-トランス異性化により結晶構造が崩れることで生じていると考えられる。特許文献1、2に記載のアゾベンゼン化合物では、光照射による異性化反応に伴って相変化を起こすが、これらの化合物は、比較的低分子量であるため、材料としての靱性が低いという問題点があった。また、可視光領域にn-π*遷移に由来する強い吸収を示し、橙色に着色しているため、工業製品に適用する際に所望の色を再現できないという点で問題があった。
【0028】
本発明では、プロペンイミン(-C=C-C=N-)構造を有する構造単位を含む重合体を用いることで、光照射により流動化し、可逆的に非流動化し、靱性が高く、かつ著しい着色のない重合体を提供することを実現した。アゾベンゼン化合物に代わりプロペンイミン構造を有する構造単位導入することで、アゾベンゼン化合物における強いn-π*吸収を大幅に弱めることができるため、著しい着色のない重合体を実現できる。
【0029】
また、一般にアゾメチン誘導体に由来する構造単位を含む重合体は、アゾメチン部位(C=N)が光吸収し、光励起・失活過程で放出される熱エネルギーが、結合する繰り返しユニット(構造単位)に伝わること(光熱変換)により可逆的な流動化・非流動化現象を誘起することができる。特に、当該重合体に含まれるアゾメチン部位がトランス体(E)であると、前述の光熱変換に加えて、光照射によりシス体(Z)へ異性化する。トランス-シス光異性化が生じると、ガラス転移温度(Tg)が低いシス体が生成する。これにより、重合体の規則構造が崩れ、より効率的な流動化現象を誘起できると考えられる。また、シス体がトランス体へと戻っていくことで、再び規則構造が形成され、可逆的に非流動化現象を誘起できると考えられる。したがって、光照射により流動化現象を誘起するためには、多くのトランス体(E)がシス体(Z)へ光異性化する必要があると考えられる。しかしながら、一般的にアゾメチン部位は、アゾベンゼン部位に比べて、シス体からトランス体へのZ→E異性化(逆反応)速度が速いことが知られている。このことから、C=N結合の両端に非置換のベンゼン環が結合したアゾメチン部位では、光照射による流動化およびその後の可逆的な非流動化現象を誘起するには不利になることが予想された。
【0030】
本発明では、アゾメチン部位のC=N結合にビニレン基を導入した構造とすることで光照射時のシス体(Z)量が増加し、光異性化反応に伴った流動化およびその後の可逆的な非流動化現象を誘起することができたと考えられる。これは、ベンゼン環ではなくビニレン基を導入することで、シス-トランス異性化速度、特にシス体からトランス体へのZ→E異性化(逆反応)速度が低下したことによるものと考えられる。
【0031】
さらに、プロペンイミン誘導体を高分子化することで材料としての靭性も向上しうる。そのため、特にトナーに用いた際に優れた画像強度を得ることができると考えられる。
【0032】
ここで、光照射により流動化し、可逆的に非流動化するとは、光照射によって非流動状態から流動状態へと変化し、さらに非流動状態へと戻ることを指す。
【0033】
さらに、プロペンイミン誘導体を高分子化することで、プロペンイミン誘導体が光吸収して、光励起・失活過程で放出される熱エネルギーが、結合する構造単位に伝わること(光熱変換)により、効果的に溶融または軟化させることができたものと考えられる。加えて、材料としての靭性も向上しうる。そのため、特にトナーに用いた際に優れた定着性(画像強度)を得ることができると考えられる。
【0034】
また、プロペンイミン構造を有する構造単位を導入することで、アゾベンゼン部位における強いn-π*吸収を大幅に弱めることができるため、著しい着色のない重合体を実現できる。
【0035】
上記の理由から、本発明の重合体は、光異性化に伴う流動化および可逆的な非流動化の現象を誘起することができるものと考えられる。また、本発明の重合体は、靱性に優れ、著しい着色がないことから、トナーや光応答性接着剤に好適に使用できる。
【0036】
なお、本発明における流動とは、外力なし、または小さい外力で変形する状態のことを指す。
【0037】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。なお、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は、室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で行う。
【0038】
<プロペンイミン構造を有する構造単位を含む重合体>
本発明の重合体は、下記一般式(1)で表される構造単位を含み、光照射により流動化し、可逆的に非流動化する重合体である。
【0039】
【0040】
前記一般式(1)中、
r1は、水素原子またはメチル基であり、
Aは、下記一般式(2-a)、(2-b)または(2-c)で表されるプロペンイミン構造を有する基であり、
【0041】
【0042】
前記一般式(2-a)、(2-b)、および(2-c)(以下、単に一般式(2)ともいう)中、
Z1およびZ2は、それぞれ独立して、NまたはCXであり、かつZ1≠Z2であり、
B1は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の2価の芳香族炭化水素基または置換もしくは非置換の2価の芳香族複素環基であり、
B2は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の1価の芳香族炭化水素基または置換もしくは非置換の1価の芳香族複素環基であり、
X、r2、およびr3は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~2のアルキル基であり、
r4は、それぞれ独立して、炭素数1~18のアルキレン基である。
【0043】
上記B2の1価の芳香族炭化水素基としては、特に制限されないが、炭素数6~30のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、ピレニル基(上記B1においては、これらの基に由来する2価の基)などが挙げられる。なかでも流動化、非流動化が効果的に生じることから、B2はフェニル基が好ましく、B1は、フェニレン基が好ましい。
【0044】
上記B2の1価の芳香族複素環基としては、特に制限されないが、炭素数2~30のものが好ましい。また、電子供与性の高いものが好ましく、例えば、チオフェニル基、ピロリル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、トリアジニル基、ベンゾチオフェニル基、ベンズイミダゾリル基、インドリル基、イソインドリル基、キノリニル基、イソキノリニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、ナフチリジニル基、アクリジニル基、カルバゾリル基、ジベンゾチオフェニル基(上記B1においては、これらの基に由来する2価の基)などが挙げられるがこれらに制限されない。なかでも、流動化、非流動化が効果的に生じることから、チオフェニル基、ピロリル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、インドリル基、カルバゾリル基が好ましい。B1においては、これらの基に由来する2価の基が好ましい。
【0045】
上記の芳香族炭化水素基または芳香族複素環基は、それぞれ、置換基を有していてもよい。置換基としては特に制限されないが、例えば、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基、または炭素数2~19のアルコキシカルボニル基などが挙げられる。好ましくは、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基、または炭素数2~19のアルコキシカルボニル基である。
【0046】
上記のように、プロペンイミン部位の光相転移はアゾベンゼン部位と同様、シス-トランス異性化により結晶構造が崩れることで生じていると考えられる。一般的にプロペンイミン部位の分子間のπ-π相互作用が強いため、光相転移は結晶構造の極最表面でしか生じない。ここで、上記一般式(1)のB1およびB2で表される芳香族炭化水素基または芳香族複素環基が置換基を有すると、本発明の重合体は、π-π相互作用が支配的な周期構造中に、これらの置換基の熱運動によって等方的に乱れた構造が共存する特異的な結晶構造を形成する。そのため、局所的にシス-トランス異性化反応が進行しプロペンイミン部位の部分のπ-π相互作用が低減すると、系全体で連鎖的に等方的な融解を生じる。そのため、シス-トランス異性化がより進行しやすくなり、流動化が発現しやすくなると考えられる。
【0047】
この際、上記置換基の少なくとも1つが、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~18のアシル基、または炭素数2~18のアルコキシカルボニル基であることが好ましい。このような構造とすることで、シス-トランス異性化がより進行しやすくなり、流動化が発現しやすくなると考えられる。これらのうち、熱運動性が高いことから、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、または炭素数2~10のジアルキルアミノ基であることがより好ましい。
【0048】
上記アルキル基としては、より好ましくは炭素数1~12のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数4~12のアルキル基である。また、上記アルコキシ基としては、より好ましくは炭素数1~12のアルコキシ基であり、さらに好ましくは炭素数4~12のアルコキシ基である。上記ジアルキルアミノ基としては、より好ましくは炭素数2~8のジアルキルアミノ基であり、さらに好ましくは炭素数4~6のジアルキルアミノ基である。上記アシル基としては、より好ましくは炭素数2~13のアシル基であり、さらに好ましくは炭素数5~13のアシル基である。上記アルコキシカルボニル基としては、より好ましくは炭素数2~13のアルコキシカルボニル基であり、さらに好ましくは炭素数5~13のアルコキシカルボニル基である。このように、長鎖置換基を導入することで結晶が崩れやすく、光溶融性がよくなり、定着性がよくなる。
【0049】
炭素数1~18のアルキル基の例としては、特に制限されるものではなく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基などの直鎖状のアルキル基;イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、1-メチルペンチル基、4-メチル-2-ペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、1-メチルヘキシル基、t-オクチル基、1-メチルヘプチル基、2-エチルヘキシル基、2-プロピルペンチル基、2,2-ジメチルヘプチル基、2,6-ジメチル-4-ヘプチル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基、1-メチルデシル基、1-ヘキシルヘプチル基などの分岐状のアルキル基が挙げられる。
【0050】
炭素数1~18のアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、n-トリデシルオキシ基、n-テトラデシルオキシ基、n-ペンタデシルオキシ基、n-ヘキサデシルオキシ基などの直鎖状のアルコキシ基:1-メチルペンチルオキシ基、4-メチル-2-ペンチルオキシ基、3,3-ジメチルブチルオキシ基、2-エチルブチルオキシ基、1-メチルヘキシルオキシ基、t-オクチルオキシ基、1-メチルヘプチルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、2-プロピルペンチルオキシ基、2,2-ジメチルヘプチルオキシ基、2,6-ジメチル-4-ヘプチルオキシ基、3,5,5-トリメチルヘキシルオキシ基、1-メチルデシルオキシ基、1-ヘキシルヘプチルオキシ基などの分岐状のアルコキシ基が挙げられる。
【0051】
炭素数1~10のアルキルアミノ基の例としては、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n-プロピルアミノ基、n-ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、n-ヘキシルアミノ基、n-ヘプチルアミノ基、n-オクチルアミノ基、n-ノニルアミノ基、n-デシルアミノ基などが挙げられる。
【0052】
炭素数2~10のジアルキルアミノ基の例としては、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ-n-プロピルアミノ基、ジ-n-ブチルアミノ基、ジ-イソブチルアミノ基、メチルエチルアミノ基などが挙げられる。
【0053】
炭素数2~19のアシル基の例としては、飽和または不飽和の直鎖状または分岐状のアシル基であり、例えば、アセチル基、プロパノイル基(プロピオニル基)、ブタノイル基(ブチリル基)、イソブタノイル基(イソブチリル基)、ペンタノイル基(バレリル基)、イソペンタノイル基(イソバレリル基)、sec-ペンタノイル基(2-メチルブチリル基)、t-ペンタノイル基(ピバロイル基)、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、t-オクタノイル基(2,2-ジメチルヘキサノイル基)、2-エチルヘキサノイル基、ノナノイル基、イソノナノイル基、デカノイル基、イソデカノイル基、ウンデカノイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ベヘノイル基、ウンデシレノイル基、およびオレオイル基等が挙げられる。
【0054】
炭素数2~19のアルコキシカルボニル基の例としては、直鎖状または分岐状でのアルコキシカルボニル基であり、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基、n-ヘキシルオキシカルボニル基、n-ヘプチルオキシカルボニル基、n-オクチルオキシカルボニル基、n-ノニルオキシカルボニル基、n-デシルオキシカルボニル基、n-ウンデシルオキシカルボニル基、n-ドデシルオキシカルボニル基、n-トリデシルオキシカルボニル基、n-テトラデシルオキシカルボニル基、n-ペンタデシルオキシカルボニル基、n-ヘキサデシルオキシカルボニル基などの直鎖状のアルコキシカルボニル基:1-メチルペンチルオキシカルボニル基、4-メチル-2-ペンチルオキシカルボニル基、3,3-ジメチルブチルオキシカルボニル基、2-エチルブチルオキシカルボニル基、1-メチルヘキシルオキシカルボニル基、t-オクチルオキシカルボニル基、1-メチルヘプチルオキシカルボニル基、2-エチルヘキシルオキシカルボニル基、2-プロピルペンチルオキシカルボニル基、2,2-ジメチルヘプチルオキシカルボニル基、2,6-ジメチル-4-ヘプチルオキシカルボニル基、3,5,5-トリメチルヘキシルオキシカルボニル基、1-メチルデシルオキシカルボニル基、1-ヘキシルヘプチルオキシカルボニル基などの分岐状のアルコキシカルボニル基が挙げられる。
【0055】
上記一般式(1)に示される構造単位においては、1つのプロペンイミン部位に対して重合性基を1つ有する。これにより、低い光照射エネルギー量であっても、溶融しやすい重合体が得られやすい。
【0056】
一般式(1)で表される構造単位を有する重合体を得るための単量体における、重合性を有する基は、下記式(i)~(iii)のいずれかで表される基を有する。これらの重合性を有する基を有すると重合体の合成に好適であるため好ましい。これにより、一般式(1)における基Aが、それぞれ、一般式(2-a)、(2-b)、または(2-c)で表される重合体が得られうる。中でも、軟化溶融のしやすさの観点から、下記式(ii)または(iii)で表される基を有することが好ましく、下記式(iii)で表される基を有することがさらに好ましい。すなわち、上記一般式(1)において、Aは、上記一般式(2-b)または(2-c)で表される基であることが好ましく、一般式(2-c)で表される基であることがより好ましい。
【0057】
【0058】
上記式(i)~(iii)において、r1は、一般式(1)のr1に相当し、それぞれ独立して、水素原子またはメチル基である。r4は、一般式(2-b)および(2-c)のr4に相当し、それぞれ独立して、炭素数1~18のアルキレン基である。好ましくは、r4は炭素数3~12のアルキレン基である。上記アルキレン基は、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよく、好ましくは直鎖状である。上記アルキレン基の一部は、置換基で置換されていてもよい。置換基の例としては、ハロゲン基、ニトロ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基などが挙げられる。
【0059】
前記一般式(2)において、X、r2、およびr3は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~2のアルキル基であり、好ましくは、それぞれ独立して、水素原子である。本発明のメカニズムは、配列(結晶化)している一般式(2)の部位を、光異性化により配列を乱すことで、非流動化状態から流動化状態へ転移させるものであると推測される。配列(結晶化)させるためには、一般式(2)の部位同士のπ-π相互作用とスタッキングのしやすさ(平面性)が必要である。かかる観点から、X、r2、およびr3は、原子半径が小さい水素原子が有利である。
【0060】
前記一般式(1)において、前記B1は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の2価の芳香族炭化水素基、または置換もしくは非置換の2価の芳香族複素環基である。また、前記B2は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の1価の芳香族炭化水素基、または置換もしくは非置換の1価の芳香族複素環基である。このような構成とすることで、流動化、非流動化がより効果的に生じうる。特にB1およびB2のいずれか一方が芳香族複素環基である場合、B1およびB2がいずれも芳香族複素環基である場合に比べ、溶液中のモル吸光係数が小さいため、光を照射したときに、より深い方向にまで光が到達できる。よって、上層のみでなくより下層まで光溶融させることができ、流動化を誘起するために有利であると考えられる。
【0061】
本発明の好ましい一実施形態は、前記一般式(1)において、B1は、それぞれ独立して、Z1と酸素原子またはr4との関係がパラ位である2価の芳香族炭化水素基であり、B2は、それぞれ独立して、非置換であるか、もしくはZ2に対してパラ位に炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、および炭素数2~10のジアルキルアミノ基から選択される置換基を有する1価の芳香族炭化水素基である、重合体である。当該芳香族炭化水素基は、芳香族複素環基に比べて平面性が高いため、一般式(2)の部位を配列(結晶化)させるのに有利である。この際、B1は、Z1および酸素原子またはr4に結合する炭素原子以外の炭素原子上に置換基を有していてもよい。それぞれの置換基の具体的な形態は上記の通りである。
【0062】
両端にベンゼン環を導入したアゾメチン部位では、一端が電子供与性の芳香族複素環基である場合と比較して、アゾメチン部位の電子密度が低くなり、活性化エネルギーが低くなりやすい。しかし、アゾメチン部位においてC=N結合にビニレン基を導入し、さらに上記B1、B2の置換基を導入することで、プロペンイミン部位の電子密度が高くなり、活性化エネルギーを高めることができ、流動化および可逆的な非流動化現象を効果的に誘起することができる。また、シス-トランス異性化に有利に作用する格子欠陥の生成や自由体積の発現、π-π相互作用の低減等が生じる。ゆえに、シス-トランス異性化がより進行しやすくなり、流動化が発現しやすくなると考えられる。
【0063】
すなわち、C=N結合にビニレン基を導入したプロペンイミン部位においては、B2が非置換の1価の芳香族炭化水素基であるか、Z2に対してパラ位に特定の炭素数を有するアルキル基、アルコキシ基、およびジアルキルアミノ基から選択される電子供与性の置換基を有する1価の芳香族炭化水素基であることが好ましい。この場合、電子吸引性の置換基のみを有する場合と比較して、プロペンイミン部位の電子密度が高くなる。そのため活性化エネルギーが高くなりやすく、光照射による流動化および可逆的な非流動化の現象を効果的に誘起することができるため好ましい。
【0064】
上記のように、B2が、非置換であるか、または、Z2に対するパラ位に炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、および炭素数2~10のジアルキルアミノ基から選択される置換基を有する1価の芳香族炭化水素基であると、結晶が崩れやすく、光溶融性がよくなり、トナーとして用いたときに優れた定着性が得られうる。このような置換基としては、結晶が崩れやすく、光溶融性がよくなる効果が高いことから、炭素数4~12のアルキル基、炭素数4~12のアルコキシ基、または炭素数4~10のジアルキルアミノ基であることがより好ましい。
【0065】
この際、前記B1およびB2の少なくとも一方は、Z1もしくはZ2に対する2つのオルト位および2つのメタ位が置換されていないか、または、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、および炭素数2~10のジアルキルアミノ基から選択される基で置換されていることが好ましい。前記B1およびB2が、共に、パラ位が置換された芳香族炭化水素基である場合よりも、いずれか一方が、パラ位が置換された芳香族炭化水素基であり、他方がオルト位またはメタ位が置換された芳香族炭化水素基である場合の方が、溶融性を向上させた構造となる点で有利である。すなわち、2つのオルト位および2つのメタ位の計4つの炭素原子がすべて非置換であってもよいが、上記の4つの炭素原子がそれぞれハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基および炭素数2~10のジアルキルアミノ基から選択される基で置換されている形態であってもよい。また、上記の4つの炭素原子のうちの一部が非置換であり、残りがハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、および炭素数2~10のジアルキルアミノ基から選択される基で置換されている形態であってもよい。このように置換されている場合、置換基は、それぞれ同一であっても異なる基であってもよい。なお、アルキル基およびアルコキシ基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。このような構成とすることで、-Z1=C-C=Z2構造の近傍の立体障害を制御でき、流動化、非流動化が効果的に発現しうる。また、重合体の融点を好適な範囲に制御できるため好ましい。
【0066】
したがって、本発明の好ましい実施形態によれば、一般式(1)の基Aにおける、-B1-Z1=C-C=Z2-B2の構造は、下記構造を有する。
【0067】
【0068】
上記式中、Z1およびZ2は、それぞれ独立して、NまたはCHであり、かつ、Z1≠Z2であり、
r2およびr3は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~2のアルキル基であり、
R13は、一般式(1)において酸素原子またはr4との連結部分であり、
R16~R20は、いずれも水素原子であるか、または、R18は、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、もしくは炭素数2~10のジアルキルアミノ基であり、好ましくは、炭素数4~12のアルキル基、炭素数4~12のアルコキシ基、もしくは炭素数4~10のジアルキルアミノ基であり、R16、R17、R19、およびR20は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基、または炭素数2~19のアルコキシカルボニル基であり、
R11、R12、R14、およびR15は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基、または炭素数2~19のアルコキシカルボニル基である。
【0069】
より好ましくは、上記式において、さらに以下の少なくとも1つを満たすことである;
R11、R12、R14、およびR15は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、または炭素数2~10のジアルキルアミノ基である;
R16、R17、R19、およびR20は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、または炭素数2~10のジアルキルアミノ基である。
【0070】
さらに好ましくは、R11、R12、R14、およびR15がすべて水素原子である形態、またはR16、R17、R19、およびR20がすべて水素原子である形態である。
【0071】
上記の本発明の好ましい実施形態によれば、一般式(1)の基Aにおける、-B1-Z1=C-C=Z2-B2の構造の例としては、下記構造例2が挙げられる。
【0072】
【0073】
式中、Z1、Z2、r2、およびr3は上記構造例1のZ1、Z2、r2、およびr3と同様であり、式中、R99~R103は上記構造例1のR16~R20と同様であり、
R95は、一般式(1)において酸素原子またはr4との連結部分であり、
R92~R94、およびR96~R98は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基、または炭素数2~19のアルコキシカルボニル基である。
【0074】
上記の本発明の好ましい実施形態によれば、一般式(1)の基Aにおける、-B1-Z1=C-C=Z2-B2の構造の例としては、下記構造例3が挙げられる。
【0075】
【0076】
式中、Z1、Z2、r2、およびr3は上記構造例1のZ1、Z2、r2、およびr3と同様であり、R113~R117は上記構造例1のR16~R20と同様であり、
R108は、一般式(1)において酸素原子またはr4との連結部分であり、
R104~R107、およびR109~R112は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基、または炭素数2~19のアルコキシカルボニル基である。
【0077】
本発明の他の好ましい実施形態は、前記一般式(1)において、B1が、それぞれ独立して、Z1と酸素原子またはr4との関係がパラ位である2価の芳香族炭化水素基であり、B2が、それぞれ独立して、非置換であるか、または、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基もしくは炭素数2~19のアルコキシカルボニル基のいずれかで置換された1価の芳香族複素環基である、重合体である。芳香族複素環基は、芳香族炭化水素基と異なり、環を構成する原子として炭素以外の原子(O、N、S等)を含有している。これらの原子は、炭素原子よりも原子半径が大きいため、B1およびB2が共に芳香族炭化水素基からなる一般式(2)の部位よりも、B1が芳香族炭化水素基で、B2が芳香族複素環基からなる一般式(2)の部位である本構造の方が、平面性が崩れる。このため、本構造の方が、B1およびB2が共に芳香族炭化水素基からなる一般式(2)の部位よりも結晶性が劣るが、溶融性に優れる点で有利である。
【0078】
上記構成により、プロペンイミン部位の電子密度を高めて活性化エネルギーを高くすることができ、光照射による流動化および可逆的な非流動化の現象を効果的に誘起することができる。また、シス-トランス異性化に有利に作用する格子欠陥の生成や自由体積の発現、π-π相互作用の低減等が生じる。ゆえに、シス-トランス異性化がより進行しやすくなり、流動化が発現しやすくなると考えられる。ここで、芳香族複素環基やそれぞれの置換基の具体的な形態は上記と同様である。
【0079】
B1が、Z1と酸素原子またはr4との関係がパラ位である2価の芳香族炭化水素基であると、Z1に対するパラ位に長鎖置換基を有することになり、結晶が崩れやすく、光溶融性がよくなり、トナーに用いたときに定着性がよくなる。
【0080】
さらには、B2の1価の芳香族複素環基は、非置換であるか、または、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基、もしくは炭素数2~19のアルコキシカルボニル基で置換されていることが好ましい。上記構成により、活性化エネルギーを高くすることができ、光照射による流動化および可逆的な非流動化の現象を効果的に誘起することができる。また、シス-トランス異性化に有利に作用する格子欠陥の生成や自由体積の発現、π-π相互作用の低減等が生じる。ゆえに、シス-トランス異性化がより進行しやすくなり、流動化が発現しやすくなると考えられる。
【0081】
ここで、B1が2価の芳香族炭化水素基であり、B2が1価の芳香族複素環基である当該実施形態においては、Z1がNであり、Z2がCHであることが好ましい。また、当該実施形態においては、B1の2価の芳香族炭化水素基は、置換または非置換のフェニレン基であることが好ましい。B2の1価の芳香族複素環基は、置換もしくは非置換のチオフェニル基、ピロリル基、ピラゾリル基、またはイミダゾリル基であることが好ましく、置換もしくは非置換のチオフェニル基またはピロリル基であることが特に好ましい。
【0082】
このような構造単位では、シス体からトランス体への異性化の活性化エネルギーが高くなるため、可逆的な非流動化の速度を制御でき、十分なシス体が得られるものと考えられる。
【0083】
上記の本発明の好ましい実施形態によれば、一般式(1)の基Aにおける、-B1-Z1=C-C=Z2-B2の構造の例としては、下記構造例4が挙げられる。
【0084】
【0085】
式中、Z1およびZ2は、それぞれ独立して、NまたはCHであり、かつ、Z1≠Z2であり、
r2およびr3は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~2のアルキル基であり、
R23は、一般式(1)において酸素原子またはr4との連結部分であり、
X1は、S、O、またはNR’21であり、好ましくはSまたはNR’21であり、R’21は、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、または炭素数2~19のアルコキシカルボニル基であり、
R26~R28は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基、または炭素数2~19のアルコキシカルボニル基であり、
R21、R22、R24、およびR25は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基、または炭素数2~19のアルコキシカルボニル基である。
【0086】
上記の好ましい実施形態によれば、一般式(1)の基Aにおける、-B1-Z1=C-C=Z2-B2の構造の他の例としては、下記構造例5が挙げられる。
【0087】
【0088】
式中、Z1、Z2、r2、およびr3は、上記構造例4のZ1、Z2、r2、およびr3と同様であり、X2は上記構造例4のX1と同様であり、R29~R33は上記構造例4のR21~R25と同様であり、
R34~R36は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基、または炭素数2~19のアルコキシカルボニル基である。より好ましい一実施形態において、R34~R36はいずれも水素原子である。
【0089】
上記の本発明の好ましい実施形態によれば、一般式(1)の基Aにおける、-B1-Z1=C-C=Z2-B2の構造の他の例としては、下記構造例6が挙げられる。
【0090】
【0091】
式中、Z1、Z2、r2、およびr3は上記構造例4のZ1、Z2、r2、およびr3と同様であり、R51~R55は上記構造例4のR21~R25と同様であり、
R56~R58は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基、または炭素数2~19のアルコキシカルボニル基である。より好ましい一実施形態において、R56~R58はいずれも水素原子である。
【0092】
上記の本発明の好ましい実施形態によれば、一般式(1)の基Aにおける、-B1-Z1=C-C=Z2-B2の構造の他の例としては、下記構造例7が挙げられる。
【0093】
【0094】
式中、Z1、Z2、r2、およびr3は上記構造例4のZ1、Z2、r2、およびr3と同様であり、R59~R63は上記構造例4のR21~R25と同様であり、
R64~R66は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基、または炭素数2~19のアルコキシカルボニル基である。好ましい一実施形態において、R64~R66は、いずれも水素原子である。
【0095】
上記の本発明の好ましい実施形態によれば、一般式(1)の基Aにおける、-B1-Z1=C-C=Z2-B2の構造の他の例としては、下記構造例8が挙げられる。
【0096】
【0097】
式中、Z1、Z2、r2、およびr3は上記構造例4のZ1、Z2、r2、およびr3と同様であり、R73~R77は上記構造例4のR21~R25と同様であり、
R78~R81は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基、または炭素数2~19のアルコキシカルボニル基である。より好ましい一実施形態において、R78~R81はいずれも水素原子である。
【0098】
上記の本発明の好ましい実施形態によれば、一般式(1)の基Aにおける、-B1-Z1=C-C=Z2-B2の構造の他の例としては、下記構造例9が挙げられる。
【0099】
【0100】
式中、Z1、Z2、r2、およびr3は上記構造例4のZ1、Z2、r2、およびr3と同様であり、R82~R86は上記構造例4のR21~R25と同様であり、
R87~R92は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基、または炭素数2~19のアルコキシカルボニル基である。より好ましい一実施形態において、R87~R92はいずれも水素原子である。
【0101】
本発明のさらに他の好ましい実施形態は、前記一般式(1)において、B1が、置換もしくは非置換の2価の芳香族複素環基であって、Z1との結合位置と隣接しない位置で酸素原子またはr4と結合し、B2が、それぞれ独立して、非置換であるか、または、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基もしくは炭素数2~19のアルコキシカルボニル基のいずれかで置換された1価の芳香族炭化水素基である、重合体である。芳香族複素環基が好ましい理由は、上記構造例3において説明した理由と同様である。光溶融性をより向上させる観点から、B1は、炭素数4~12のアルキル基、炭素数4~12のアルコキシ基、または炭素数4~10のジアルキルアミノ基で置換された2価の芳香族複素環基であることがより好ましい。ここで、芳香族複素環基やそれぞれの置換基の具体的な形態は上記と同様である。
【0102】
この際、B2は、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、または炭素数2~10のジアルキルアミノ基で置換された1価の芳香族炭化水素基であることが好ましい。これにより、シス-トランス異性化に有利に作用する格子欠陥の生成や自由体積の発現、π-π相互作用の低減等が生じる。ゆえに、シス-トランス異性化がより進行しやすくなり、流動化が発現しやすくなるものと考えられる。
【0103】
ここで、B1が芳香族複素環基であり、B2が芳香族炭化水素基である当該実施形態においては、Z1がCHであり、Z2がNであることが好ましい。また、当該実施形態においては、B1の2価の芳香族複素環基としては、置換もしくは非置換のチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環を有する基であることが好ましく、特に好ましくは置換もしくは非置換のチオフェン環、またはピロール環を有する基である。B2の1価の芳香族炭化水素基としては、置換もしくは非置換のフェニル基であることが好ましい。
【0104】
このような構造単位では、シス体からトランス体への異性化の活性化エネルギーを高くすることができるため、可逆的な非流動化の速度を制御でき、十分なシス体が得られる。これとともに、B1およびB2が六員環構造を有する場合に比べ、溶液中のモル吸光係数が小さいため、光を照射したときに、より深い方向にまで光が到達できる。よって、上層のみでなくより下層まで光溶融させることができ、流動化を誘起するために有利であると考えられる。
【0105】
上記の本発明の好ましい実施形態によれば、一般式(1)の基Aにおける、-B1-Z1=C-C=Z2-B2-の構造の他の例としては、下記構造例10が挙げられる。
【0106】
【0107】
式中、Z1、Z2、r2、およびr3は上記構造例1のZ1、Z2、r2、およびr3と同様であり、X3は上記構造例4のX1と同様であり、R40~R44は上記構造例1のR16~R20と同様であり、
R38およびR39は、それぞれ独立して、一般式(1)において酸素原子またはr4との連結部分であるか、あるいは水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基、または炭素数2~19のアルコキシカルボニル基であり、この際、R38およびR39のいずれか一方は、一般式(1)において酸素原子またはr4との連結部分であり、
R37は、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基、または炭素数2~19のアルコキシカルボニル基である。
【0108】
本発明のさらに他の好ましい実施形態は、前記一般式(1)において、B1が、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の2価の芳香族複素環基であって、Z1との結合位置と隣接しない位置で酸素原子またはr4と結合し、B2は、それぞれ独立して、非置換であるか、または、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数2~10のジアルキルアミノ基、炭素数2~19のアシル基もしくは炭素数2~19のアルコキシカルボニル基のいずれかで置換された1価の芳香族複素環基である、重合体である。芳香族複素環基が好ましい理由は、上記構造例3において説明した理由と同様である。ここで、B1およびB2を構成する芳香族複素環基は、同一の環構造を有するものであっても互いに異なる環構造を有するものであってもよい。
【0109】
好ましくは、B1が、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、および炭素数2~10のジアルキルアミノ基から選択される少なくとも1つの置換基を有する2価の芳香族複素環基である。このような構成とすることで、流動化、非流動化が効果的に発現しうる。また、重合体の融点を好適な範囲に制御できるため好ましい。
【0110】
なお、光溶融性をより向上させる観点から、B1およびB2の少なくとも一方は、炭素数4~12のアルキル基、炭素数4~12のアルコキシ基、または炭素数4~10のジアルキルアミノ基で置換されていることがより好ましい。
【0111】
B1およびB2を構成する芳香族複素環基やそれぞれの置換基の具体的な形態は上記と同様である。
【0112】
ここで、当該実施形態においては、B1およびB2の芳香族複素環基としては、それぞれ、置換もしくは非置換のチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、またはイミダゾール環を有する基であることが特に好ましい。
【0113】
上記の本発明の好ましい実施形態によれば、一般式(1)の基Aにおける、-B1-Z1=C-C=Z2-B2の構造の例としては、下記構造例11が挙げられる。
【0114】
【0115】
式中、Z1、Z2、r2、およびr3は上記構造例4のZ1、Z2、r2、およびr3と同様であり、X4およびX5は、それぞれ独立して、上記構造例4のX1と同様であり、R48~R50は上記構造例4のR26~R28と同様であり、R45~R47は、上記構造例10のR37~R39と同様である。
【0116】
上記の本発明の好ましい実施形態によれば、一般式(1)の基Aにおける、-B1-Z1=C-C=Z2-B2の構造の例としては、下記構造例12が挙げられる。
【0117】
【0118】
式中、Z1、Z2、r2、およびr3は上記構造例4のZ1、Z2、r2、およびr3と同様であり、X6は、上記構造例4のX1と同様であり、R70~R72は上記構造例4のR26~R28と同様であり、R67~R69は、上記構造例10のR37~R39と同様である。
【0119】
なお、本発明の重合体において、一般式(1)で表される構造単位は、1種類であっても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0120】
一般式(1)で表される構造単位の具体例としては、下記表1-1~表1-12に表される構造単位が挙げられる。
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
<重合性基を有するプロペンイミン誘導体の調製方法>
重合性基を有するプロペンイミン誘導体の調製方法は特に制限されない。例えば、所望のプロペンイミン誘導体を準備し、得られたプロペンイミン誘導体に重合性基を導入することで調製することができる。
【0134】
例えば、ベンゼン環を含むプロペンイミン誘導体を調製する場合、第1段階として、アニリン誘導体と、ベンゼン環を有する化合物としてフェニルプロパナール誘導体とを反応させる。この際、原料であるアニリン誘導体またはフェニルプロパナール誘導体のいずれかに置換基としてOH基を有する場合、上記OH基の位置に重合性基を容易に導入できる。
【0135】
例えば、上記一般式(1)のZ1がNであり、Z2がCHであり、B1がフェニレン基であり、当該フェニレン基においてZ1に対してパラ位に重合性基が導入され、B2がへキシルフェニル基であり、へキシル基に対してパラ位でZ2に結合するフェニレン基を有するプロペンイミン誘導体の場合、下記反応式により中間体Aを得ることができる。
【0136】
具体的には、メタノール(MeOH)中、4-アミノフェノールと、3-(4-へキシルフェニル)-2-プロペナールを加熱還流して反応させ、反応液をろ過し、得られた粉末を冷却エタノールで洗浄する。その後、メタノール/エタノール混合溶媒で再結晶すれば、目的物の中間体Aを得ることができる。
【0137】
【0138】
次いで、第2段階として、上記中間体Aに対して重合性基を導入する。重合性基を導入する方法も特に制限されない。例えば、上記中間体Aに対してリンカー部-C10H20-を導入する場合は、ハロゲン化アルコール化合物として、例えばCl-C10H20-OH(10-クロロ-1-デカノール)を作用させて下記の中間体Bを得る。
【0139】
反応条件としては特に制限されないが、例えばN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)などの溶媒中、炭酸カリウムおよびヨウ化カリウムの存在下、好ましくは50℃以上170℃以下の範囲内、より好ましくは70℃以上150℃以下の範囲内、さらに好ましくは、90℃以上130℃以下の範囲内で反応させる。
【0140】
【0141】
その後、第3段階として、中間体Bに、重合性基を構成するための化合物、例えば、アクリル酸塩化物またはメタクリル酸塩化物を反応させる。この反応は、特に限定されず、例えば、公知の有機溶媒中で、トリエチルアミン、トリエタノールアミンなどの三級アミン類の存在下で行う。好ましくは、上記中間体B、三級アミン類、および溶媒を含む混合液を0~10℃に保ちながら、この混合液にアクリル酸塩化物またはメタクリル酸塩化物などの重合性基を構成するための化合物を滴下して混合する。その後、混合液を、例えば室温で5~10時間程度反応させて、重合性基を有するプロペンイミン誘導体を得ることができる。
【0142】
【0143】
なお、上記の第1段階において、使用する原料を他の化合物に変更することで、所望の置換基を有するプロペンイミン誘導体を得ることができる。例えば、アニリン誘導体と、チエニルプロパナール誘導体とを反応させることで、一般式(1)のZ1がNであり、Z2がCHであり、B1がフェニレン基であり、B2がチエニル基であるプロペンイミン誘導体を得ることができる。原料としてチオフェン環を有する化合物に代えて、他の芳香族炭化水素化合物、芳香族複素環化合物を用いることで、B2の構造が異なるプロペンイミン誘導体を得ることができる。同様に、原料であるアニリン誘導体を他のアミノ基を有する芳香族炭化水素化合物、芳香族複素環化合物に変更することで、B1の構造が異なるプロペンイミン誘導体を得ることができる。
【0144】
また、フェニルプロパナール誘導体とアミノチオフェン誘導体とを反応させることで、一般式(1)のZ1がCHであり、Z2がNであり、B1がチオニレン基であり、B2がフェニル基であるプロペンイミン誘導体を得ることができる。また、原料としてチオフェン環を有する化合物に代えて、他の芳香族炭化水素化合物、芳香族複素環化合物を用いることで、B1の構造が異なるプロペンイミン誘導体を得ることができる。同様に、原料であるアミノチオフェン誘導体を他のアミノ基を有する芳香族炭化水素化合物、芳香族複素環化合物に変更することで、B2の構造が異なるプロペンイミン誘導体を得ることができる。
【0145】
また、第2段階、および第3段階で添加する化合物を代えることで、異なる構造の重合性基を有する基を導入することができる。当業者であれば、上記変更を適宜行い、適当な反応条件を選択することで、所望の重合性基を有するプロペンイミン誘導体を合成することができる。
【0146】
また、一般式(2-a)または一般式(2-b)の構造を有するプロペンイミン誘導体の場合、上記の第1段階において、使用する原料を適当に選択することで第2段階を行わずに中間体Aに重合性基を導入することもできる。
【0147】
<プロペンイミン構造を有する基を含む構造単位以外の構造単位>
本発明の重合体は、上記一般式(1)で表される構造単位以外の他の構造単位を含んでもよい。他の構造単位を含む共重合体である場合、共重合体の繰り返し単位の配列形態も特に制限されず、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体のいずれであってもよい。
【0148】
上記他の構造単位としては、プロペンイミン構造を含まないものが好ましく、加熱により軟化する熱可塑性樹脂を構成する構造単位であることがより好ましい。
【0149】
上記他の構造単位としては、共重合体の合成が容易であることから、ビニル系重合性基を有するものであることが好ましい。具体的には、例えば、スチレン誘導体、(メタ)アクリル酸誘導体、オレフィン誘導体、ビニルエステル誘導体、ビニルエーテル誘導体、ビニルケトン誘導体等に由来する構造単位が用いられ、スチレン誘導体、(メタ)アクリル酸誘導体、またはオレフィン誘導体に由来する構造単位であることが好ましい。
【0150】
スチレン誘導体としては、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、p-フェニルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレンなどが挙げられる。
【0151】
(メタ)アクリル酸誘導体としては、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0152】
オレフィン誘導体としては、エチレン、プロピレン、n-ブチレン、イソブチレン、n-ペンテン、3-メチル-1-ペンテンなどが挙げられる。オレフィン誘導体は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、炭素数も特に限定されない。
【0153】
ビニルエステル誘導体としては、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニルなどが挙げられる。ビニルエーテル誘導体としては、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルなどが挙げられる。ビニルケトン誘導体としては、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトンなどが挙げられる。
【0154】
重合体における上記他の構造単位の含有量は特に制限されず、適宜選択されうるが、重合体を構成する全構造単位の合計量100質量%に対して、70質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。
【0155】
本発明の重合体の数平均分子量Mnは、特に制限されないが、好ましくは3500以上であり、より好ましくは3500以上100000以下であり、さらに好ましくは3500以上70000以下であり、さらにより好ましくは3500以上50000以下であり、特に好ましくは5000以上50000以下である。重合体の数平均分子量が3500以上であれば、靱性に優れ、トナーとして用いた場合に定着性に優れるトナー像がより容易に得られるため好ましい。また、数平均分子量が100000以下であれば異性化および軟化溶融の効率が高くなるため好ましい。
【0156】
本発明の重合体の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。具体的には、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0157】
<重合体の調製方法>
本発明の重合体の合成方法は特に制限されず、アニオン重合、カチオン重合、リビングラジカル重合など、公知の重合開始剤を使用して、単量体としての上記の重合性基を有するプロペンイミン誘導体を重合する方法が用いられうる。必要に応じて公知の連鎖移動剤を使用してもよい。
【0158】
重合開始剤としては、たとえば、以下に示すアゾ系またはジアゾ系重合開始剤や、過酸化物系重合開始剤が用いられる。
【0159】
アゾ系またはジアゾ系重合開始剤としては、2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)などが挙げられる。
【0160】
過酸化物系重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、クメンヒドロパーオキサイド、t-ブチルヒドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,2-ビス-(4,4-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、トリス-(t-ブチルパーオキシ)トリアジンなどが挙げられる。
【0161】
連鎖移動剤としては、例えば、ジチオ安息香酸ベンジル、1-フェニルエチルジチオ安息香酸塩、2-フェニルプロプ-2-イルジチオ安息香酸塩、1-アセトキシルエチルジチオ安息香酸塩、ヘキサキス(チオベンゾイルチオメチル)ベンゼン、1,4-ビス(チオベンゾイルチオメチル)ベンゼン、1,2,4,5-テトラキス(チオベンゾイルチオメチル)ベンゼン、1,4-ビス-(2-(チオベンゾイルチオ)プロプ-2-イル)ベンゼン、1-(4-メトキシフェニル)エチルジチオ安息香酸塩、ジチオ酢酸ベンジル;エトキシカルボニルメチルジチオアセタート、2-(エトキシカルボニル)プロプ-2-イルジチオベンゾアート、2-シアノプロプ-2-イルジチオベンゾアート、t-ブチルジチオベンゾアート、2,4,4-トリメチルペント-2-イルジチオベンゾアート、2-(4-クロロフェニル)プロプ-2-イルジチオベンゾアート、3-および4-ビニルベンジルジチオベンゾアート、S-ベンジルジエトキシホスフィニルジチオフォルマート、t-ブチルトリチオペルベンゾアート、2-フェニルプロプ-2-イル4-クロロジチオベンゾアート、2-フェニルプロプ-2-イル1-ジチオナフタラート、4-シアノペンタン酸ジチオベンゾアート、ジベンジルテトラチオテレフタラート、ジベンジルトリチオカーボネート、カルボキシメチルジチオベンゾアートなどが挙げられる。
【0162】
重合温度は、用いる単量体や重合開始剤の種類によっても異なるが、50~100℃であることが好ましく、55~90℃であることがより好ましい。また、重合時間は、用いる単量体や重合開始剤の種類によっても異なるが、たとえば2~60時間であることが好ましい。
【0163】
なお、上記一般式(1)で表される構造単位以外の他の構造単位を含む共重合体についても、その調製方法は特に制限されない。
【0164】
例えば、ランダム共重合体を調製する場合は、原料となる単量体として、一般式(1)で表される構造単位を構成するための単量体に加えて、上記他の構造単位を構成するための単量体を、連鎖移動剤、重合開始剤などと混合し、重合反応を行うことで所望の共重合体を得ることができる。他の構造単位を構成するための単量体の具体的な形態は上述した通りである。
【0165】
本発明の重合体の好ましい一実施形態は、下記一般式(3)で表される、光照射により流動化し、可逆的に非流動化する重合体である。
【0166】
【0167】
上記一般式(3)中、αは前記一般式(1)で表される構造単位を含む重合体ブロックであり、βはプロペンイミン構造(B1-Z1=C-C=Z2-B2)を含まない重合体ブロックである。
【0168】
本発明の重合体は、高分子化することでプロペンイミン構造の部分が光吸収して、光励起・失活過程で放出される熱エネルギーが、結合する繰り返しユニット(構造単位)に伝わること(光熱変換)により溶融または軟化が進行しうる。また、ブロック共重合体を形成することで、プロペンイミン構造の部分が重合体内でドメインを形成しやすくなり、軟化・溶融を効率的に誘起すると考えられる。そのため、本発明の効果がより一層顕著に得られうる。
【0169】
上記のブロック共重合体構造のうち、軟化溶融のしやすさとトナーとして用いたときの画像強度との観点から、α-β-α(2α-βとも表す)またはβ-α-β(2β-αとも表す)のブロック共重合体構造であることが好ましく、α-β-αのブロック共重合体構造であることがより好ましい。
【0170】
重合体ブロックαを構成する、前記一般式(1)で表される構造単位の具体的な形態は上記の通りである。
【0171】
重合体ブロックβを構成する構造単位は、プロペンイミン構造(B1-Z1=C-C=Z2-B2)を含まないものである。具体的には、上記の他の構造単位が好ましく用いられうる。特には、ATRP法、ARGET-ATRP法またはRAFT法などのリビングラジカル重合法によるブロック共重合体の合成に適用する観点から、ビニル系重合性基を有するものであることが好ましい。単量体としては、具体的には、例えば、スチレン誘導体、(メタ)アクリル酸誘導体、オレフィン誘導体、ビニルエステル誘導体、ビニルエーテル誘導体、ビニルケトン誘導体等が用いられ、スチレン誘導体、(メタ)アクリル酸誘導体、またはオレフィン誘導体であることが好ましい。すなわち、重合体ブロックβは、スチレン誘導体に由来する構造単位、(メタ)アクリル酸誘導体に由来する構造単位、およびオレフィン誘導体に由来する構造単位からなる群より選択される少なくとも1種の構造単位を含む重合体ブロックであることが好ましい。
【0172】
一般式(3)で表される重合体に含まれる重合体ブロックαの数平均分子量(合計の平均分子量)は、特に制限されないが、好ましくは500以上であり、より好ましくは1000以上であり、さらに好ましくは1000以上100000以下であり、よりさらに好ましくは1000以上70000以下であり、特に好ましくは1000以上50000以下であり、より特に好ましくは3000以上50000以下である。重合体ブロックαの合計の数平均分子量が500以上であれば、トナーとして用いたときに定着性に優れるトナー像がより容易に得られるため好ましい。また、重合体ブロックαの合計の数平均分子量が100000以下であれば、軟化溶融の効率が高くなるため好ましい。ここで、重合体ブロックαの合計の数平均分子量とは、一般式(3)で表される重合体が単一の重合体ブロックαを含む場合は当該重合体ブロックαの数平均分子量を意味し、複数の重合体ブロックαを含む場合は各重合体ブロックαの数平均分子量の総和を意味する。
【0173】
一般式(3)で表される重合体に含まれる重合体ブロックβの数平均分子量(合計の数平均分子量)は、特に制限されないが、好ましくは1000以上であり、より好ましくは1000以上100000以下であり、さらに好ましくは1000以上70000以下であり、さらにより好ましくは1000以上50000以下であり、特に好ましくは3000以上50000以下である。重合体ブロックβの合計の数平均分子量が1000以上であれば、トナーとして用いたときに定着性に優れるトナー像がより容易に得られるため好ましい。また、重合体ブロックβの合計の数平均分子量が100000以下であれば軟化溶融の効率が高くなるため好ましい。ここで、重合体ブロックβの合計の数平均分子量とは、一般式(3)で表される重合体が単一の重合体ブロックβを含む場合は、当該重合体ブロックβの数平均分子量を意味し、複数の重合体ブロックβを含む場合は、各重合体ブロックβの数平均分子量の総和を意味する。
【0174】
また、一般式(3)で表される重合体の全数平均分子量Mnは、好ましくは3500以上であり、より好ましくは3500以上100000以下であり、さらに好ましくは3500以上70000以下であり、さらにより好ましくは3500以上50000以下であり、特に好ましくは5000以上50000以下である。一般式(3)で表される重合体の全数平均分子量が3500以上であれば、トナーとして用いたときに定着性に優れるトナー像がより容易に得られるため好ましい。また、全数平均分子量が100000以下であれば軟化溶融の効率が高くなるため好ましい。
【0175】
したがって、本発明の好ましい一実施形態によれば、一般式(3)で表される重合体に含まれる重合体ブロックαの合計の数平均分子量が1000以上であり、重合体ブロックβの合計の数平均分子量が1000以上であり、前記一般式(3)で表される重合体の全数平均分子量Mnが3500以上である。
【0176】
一般式(3)で表される重合体において、重合体ブロックαの合計の数平均分子量と重合体ブロックβの合計の数平均分子量との比は特に制限されないが、軟化溶融のしやすさおよび画像強度の観点から、重合体ブロックαの合計の数平均分子量:重合体ブロックβの合計の数平均分子量の比は、1:20~20:1であることが好ましく、1:15~15:1であることがより好ましい。
【0177】
一般式(3)で表される重合体の全数平均分子量、ならびに重合体ブロックαおよびβの合計の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。具体的には、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0178】
一般式(3)で表されるブロック共重合体の合成方法は特に制限されず、アニオン重合、カチオン重合、リビングラジカル重合などの公知の方法が用いられうる。中でも、簡便な合成方法として原子移動ラジカル重合法(ATRP法)、ARGET-ATRP法またはRAFT法といったリビングラジカル重合法が好適に用いられうる。
【0179】
ATRP法を例にとれば、開始剤として、1官能、2官能、3官能、または4官能のハロゲン元素を含む化合物を出発物質として、重合体ブロックαまたはβの構造単位となる単量体を触媒下で重合させる、等の方法により行うことができる。
【0180】
モノマーを重合する段階においては、例えば、開始剤、触媒および配位子の存在下で、重合体ブロックαおよびβのいずれか一方(ブロック共重合体のコア部分となるブロック)の構造単位となる単量体を重合してマクロ開始剤を製造する。
【0181】
前記開始剤としては、例えば、2-ブロモイソ酪酸ブチル、2-ブロモイソ酪酸エチル、エチレンビス(2-ブロモイソブチレート)(=エチレンビス(2-ブロモイソ酪酸ともいう)、1,1,1-トリス(2-ブロモイソブチリルオキシメチル)エタン、ペンタエリスリトールテトラキス(2-ブロモイソブチレート)、α,α’-ジブロモ-p-キシレン、ブロモ酢酸エチル、2-ブロモイソブチリルブロミド、またはこれらの混合物などを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0182】
触媒としては銅(I)触媒、鉄(II)触媒などがあり、例えば、Cu(I)Cl、Cu(I)Br、Fe(II)Cl、Fe(II)Br、またはこれらの混合物などを例示することができる。
【0183】
配位子としては公知のものを使用することができるが、2,2’-ビピリジル、4,4’-ジメチル-2,2’-ビピリジル、4,4’-ジ-t-ブチル-2,2’-ビピリジル、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、N,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン、シクラム(1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン)、1,4,8,11-テトラメチルシクラム(1,4,8,11-テトラメチル-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン)、トリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミンからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0184】
上記触媒および配位子の使用量は特に制限されず、従来公知の知見を参照して適宜決定することができる。
【0185】
次に、上記重合により得られたマクロ開始剤を単離して開始剤として用い、再び触媒および配位子の存在下で、重合体ブロックαまたはβの構造単位となるモノマーのうち、マクロ開始剤の合成で使用していない方のモノマーの重合を行う。または、マクロ開始剤の合成でモノマーをほぼすべて消費した段階で、マクロ開始剤を単離せずそのまま、マクロ開始剤の合成で使用していない方のモノマーを追加して、重合を続けてもよい。これらの操作により目的とするブロック共重合体を得ることができる。
【0186】
上記の各反応は、窒素、またはアルゴン等の希ガス類など不活性雰囲気で行うことが好ましい。上記の各反応は、例えば、25~160℃、好ましくは35~130℃の温度で実行することができる。また、上記の各反応は、溶媒を用いずに行ってもよく、有機溶媒などの溶媒中で行ってもよい。
【0187】
なお、重合体ブロックαおよびβのいずれか一方の構造単位となるモノマーを重合してマクロ開始剤を得る反応と、該マクロ開始剤を他方の重合体ブロックの構造単位となるモノマーと反応させてブロック共重合体を得る反応とにおいて、使用する触媒や配位子の種類や使用量、反応時の温度などの条件は同一であっても異なるものであってもよい。
【0188】
<光照射による流動化および可逆的な非流動化>
光照射により本発明の重合体が流動化する際の照射光の波長は、好ましくは280nm以上480nm以下の範囲、より好ましくは300nm以上420nm以下の範囲内、さらに好ましくは330nm以上420nm以下の範囲内である。上記範囲であれば結晶が崩れやすく光溶融性がよくなり、定着性がよくなる。また、流動化させる際には、光照射に加え、熱や圧力を加えて流動化を促進させてもよい。上記波長の照射光を照射することにより、熱や圧力を加える場合であっても、より少ない熱や圧力で流動化させることができる。そのため、本発明の重合体をトナーに導入することで、上記波長での定着が可能となり、定着性に優れ、かつ色再現性の高いトナーを得ることができる。
【0189】
なお、上記波長範囲には、可視光の一部が含まれる。そのため、本発明の重合体は、太陽光(自然光)や蛍光灯などの照明による光を受けただけでは流動化せず、かつ出来るだけ照射量および照射時間を抑えた低コスト条件でより流動化するのが望ましい。かかる観点から、上記重合体が流動化する際の照射光の照射量(積算光量)は、好ましく0.1J/cm2以上200J/cm2以下の範囲内、より好ましくは0.1J/cm2以上100J/cm2以下の範囲内、さらに好ましくは、0.1J/cm2以上50J/cm2以下の範囲内である。
【0190】
一方、本発明の重合体を非流動化(再固化)する条件は、室温(25±15℃の範囲)で放置(自然環境下)が好ましい。この際は、暗所におくのが良いが、自然光や蛍光灯などの可視光を受けていてもよい。非流動化させる過程で、熱を加えるとより好ましい。また光を加えても良い。
【0191】
前記重合体を加熱して非流動化させる場合、加熱温度としては、好ましくは0℃以上200℃以下の範囲内、より好ましくは20℃以上150℃以下の範囲内である。
【0192】
[トナーの構成]
本発明の一実施形態は、本発明の重合体を含む、トナーである。本発明の重合体をトナーに導入することで、光照射により定着可能であり、定着性に優れ、色再現性の高いトナーを得ることができる。なお、トナーとは、トナー母体粒子またはトナー粒子の集合体をいう。トナー粒子とは、トナー母体粒子に外添剤を添加したものであることが好ましいが、トナー母体粒子をそのままトナー粒子として用いることもできる。なお、本発明において、トナー母体粒子、トナー粒子およびトナーを特に区別する必要がない場合、単に「トナー」ともいう。
【0193】
トナー中の前記重合体の含有量は、一般式(1)におけるプロペンイミン構造や他の構造単位の種類によるが、効率的な流動化および画像強度の観点から、トナーを構成する結着樹脂、着色剤、離型剤、および本発明の重合体の総量に対して、例えば5~95質量%の範囲である。
【0194】
<結着樹脂>
本発明のトナーは、結着樹脂をさらに含んでもよい。結着樹脂は、プロペンイミン構造を有しない樹脂であって、一般にトナーを構成する結着樹脂として用いられている樹脂を制限なく用いることができる。結着樹脂としては、たとえば、スチレン樹脂、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、オレフィン樹脂、アミド樹脂、およびエポキシ樹脂などが用いられうる。これら結着樹脂は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0195】
これらの中でも、溶融すると低粘度になり、かつ高いシャープメルト性を有するという観点から、結着樹脂は、スチレン樹脂、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、およびポリエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、スチレンアクリル樹脂およびポリエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0196】
(スチレンアクリル樹脂)
本発明でいうスチレンアクリル樹脂とは、少なくとも、スチレン単量体に由来する構造単位と、(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構造単位とを含む重合体である。ここで、スチレン単量体とは、CH2=CH-C6H5の構造式で表されるスチレンの他、スチレン構造中に公知の側鎖や官能基を有する構造のものも含まれる。
【0197】
スチレン単量体の例としては、前述の重合体を構成しうるスチレン単量体と同様のものが挙げられる。
【0198】
また、(メタ)アクリル酸エステル単量体とは、エステル結合を有する官能基を側鎖に有するものである。具体的には、CH2=CHCOOR(Rはアルキル基)で表されるアクリル酸エステル単量体の他、CH2=C(CH3)COOR(Rはアルキル基)で表されるメタクリル酸エステル単量体などのビニル系エステル化合物が含まれる。なお、(メタ)アクリル酸エステル単量体における(メタ)アクリル酸は、アクリル酸およびメタクリル酸を意味する。
【0199】
(メタ)アクリル酸エステル単量体の例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0200】
スチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体は、それぞれ単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0201】
スチレンアクリル樹脂におけるスチレン単量体に由来する構造単位および(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構造単位の含有量は、特に限定されず、結着樹脂の軟化点やガラス転移温度を制御する観点から適宜調整されうる。具体的には、スチレン単量体に由来する構造単位の含有量は、スチレンアクリル樹脂を構成する全構造単位に対して40質量%以上95質量%以下であることが好ましく、50質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構造単位の含有量は、スチレンアクリル樹脂を構成する全構造単位に対して5質量%以上60質量%以下であることが好ましく、10質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。
【0202】
スチレンアクリル樹脂は、必要に応じて、スチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体以外の他の単量体に由来する構造単位をさらに含んでもよい。他の単量体の例としては、ビニル単量体が挙げられる。以下に、本発明でいうスチレンアクリル共重合体を形成する際に併用可能なビニル単量体を例示するが、併用可能なビニル単量体は以下に示すものに限定されるものではない。
【0203】
(1)オレフィン類
エチレン、プロピレン、イソブチレンなど
(2)ビニルエステル類
プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニルなど
(3)ビニルエーテル類
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルなど
(4)ビニルケトン類
ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトンなど
(5)N-ビニル化合物類
N-ビニルカルバゾール、N-ビニルインドール、N-ビニルピロリドンなど
(6)その他
ビニルナフタレン、ビニルピリジンなどのビニル化合物類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドなどのアクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体など。
【0204】
また、多官能性ビニル単量体を使用して、架橋構造の樹脂を作製することも可能である。さらに、側鎖にイオン性解離基を有するビニル単量体を使用することも可能である。イオン性解離基の具体例としては、たとえば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられる。以下に、これらイオン性解離基を有するビニル単量体の具体例を示す。
【0205】
カルボキシル基を有するビニル単量体の具体例としては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステルなどが挙げられる。
【0206】
本発明に使用されるスチレンアクリル樹脂を形成する場合、スチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量は特に限定されるものではなく、結着樹脂の軟化点温度やガラス転移温度を制御する観点から適宜調整することが可能である。具体的には、スチレン単量体の含有量は、スチレンアクリル樹脂を構成する単量体全体に対し40質量%以上95質量%以下が好ましく、50質量%以上90質量%以下がより好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量は、スチレンアクリル樹脂を構成する単量体全体に対し5質量%以上60質量%以下が好ましく、10質量%以上50質量%以下がより好ましい。
【0207】
スチレンアクリル樹脂の形成方法は、特に制限されず、公知の油溶性あるいは水溶性の重合開始剤を使用して単量体を重合する方法が挙げられる。必要に応じてたとえば、n-オクチルメルカプタンなどの公知の連鎖移動剤を使用してもよい。油溶性の重合開始剤としては、たとえば、以下に示すアゾ系またはジアゾ系重合開始剤や過酸化物系重合開始剤が用いられる。
【0208】
アゾ系またはジアゾ系重合開始剤としては、2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリルなどが挙げられる。
【0209】
過酸化物系重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、クメンヒドロパーオキサイド、t-ブチルヒドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,2-ビス-(4,4-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、トリス-(t-ブチルパーオキシ)トリアジンなどが挙げられる。
【0210】
また、乳化重合法でスチレンアクリル樹脂粒子を形成する場合は水溶性ラジカル重合開始剤が使用可能である。水溶性ラジカル重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、アゾビスアミノジプロパン酢酸塩、アゾビスシアノ吉草酸およびその塩、過酸化水素などが挙げられる。
【0211】
重合温度は、用いる単量体や重合開始剤の種類によっても異なるが、50℃以上100℃以下であることが好ましく、55℃以上90℃以下であることがより好ましい。また、重合時間は、用いる単量体や重合開始剤の種類によっても異なるが、たとえば2時間以上12時間以下であることが好ましい。
【0212】
乳化重合法により形成されるスチレンアクリル樹脂粒子は、組成の異なる樹脂よりなる2層以上の構成とすることもできる。この場合の製造方法としては、常法に従った乳化重合処理(第1段重合)により調製した樹脂粒子の分散液に、重合開始剤と重合性単量体とを添加し、この系を重合処理(第2段、第3段重合)する多段重合法を採用することができる。
【0213】
(ポリエステル樹脂)
ポリエステル樹脂は、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸成分)と、2価以上のアルコール(多価アルコール成分)との重縮合反応によって得られるポリエステル樹脂である。なお、ポリエステル樹脂は、非晶性であってもよいし、結晶性であってもよい。
【0214】
多価カルボン酸成分および多価アルコール成分の価数は、好ましくはそれぞれ2~3であり、より好ましくはそれぞれ2である。すなわち、多価カルボン酸成分は、ジカルボン酸成分を含むことが好ましく、多価アルコール成分は、ジアルコール成分を含むことが好ましい。
【0215】
ジカルボン酸成分としては、たとえば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9-ノナンジカルボン酸、1,10-デカンジカルボン酸(ドデカン二酸)、1,11-ウンデカンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸、1,13-トリデカンジカルボン酸、1,14-テトラデカンジカルボン酸、1,16-ヘキサデカンジカルボン酸、1,18-オクタデカンジカルボン酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸;メチレンコハク酸、フマル酸、マレイン酸、3-ヘキセンジオイック酸、3-オクテンジオイック酸、ドデセニルコハク酸などの不飽和脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、t-ブチルイソフタル酸、テトラクロロフタル酸、クロロフタル酸、ニトロフタル酸、p-フェニレン二酢酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸などの不飽和芳香族ジカルボン酸;などが挙げられ、また、これらの低級アルキルエステルや酸無水物を用いることもできる。ジカルボン酸成分は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。
【0216】
その他、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸、およびその無水物、あるいは炭素数1~3のアルキルエステルなども用いることができる。
【0217】
ジオール成分としては、たとえば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,18-オクタデカンジオール、1,20-エイコサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの飽和脂肪族ジオール;2-ブテン-1,4-ジオール、3-ブテン-1,4-ジオール、2-ブチン-1,4-ジオール、3-ブチン-1,4-ジオール、9-オクタデセン-7,12-ジオールなどの不飽和脂肪族ジオール;ビスフェノールA、ビスフェノールFなどのビスフェノール類、およびこれらのエチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物などのビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物などの芳香族ジオールが挙げられ、また、これらの誘導体を用いることもできる。ジオール成分は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。
【0218】
ポリエステル樹脂の製造方法は特に制限されず、公知のエステル化触媒を利用して、上記多価カルボン酸成分および多価アルコール成分を重縮合する(エステル化する)ことによりを製造することができる。
【0219】
ポリエステル樹脂の製造の際に使用可能な触媒としては、ナトリウム、リチウムなどのアルカリ金属化合物;マグネシウム、カルシウムなどの第2族元素を含む化合物;アルミニウム、亜鉛、マンガン、アンチモン、チタン、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウムなどの金属の化合物;亜リン酸化合物;リン酸化合物;およびアミン化合物などが挙げられる。具体的には、スズ化合物としては、酸化ジブチルスズ(ジブチル錫オキサイド)、オクチル酸スズ、ジオクチル酸スズ、これらの塩などを挙げることができる。チタン化合物としては、テトラノルマルブチルチタネート(Ti(O-n-Bu)4)、テトライソプロピルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラステアリルチタネートなどのチタンアルコキシド;ポリヒドロキシチタンステアレートなどのチタンアシレート;チタンテトラアセチルアセトナート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネートなどなどのチタンキレートなどを挙げることができる。ゲルマニウム化合物としては、二酸化ゲルマニウムなどを挙げることができる。さらにアルミニウム化合物としては、ポリ水酸化アルミニウム、アルミニウムアルコキシド、トリブチルアルミネートなどを挙げることができる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0220】
重合温度は特に限定されるものではないが、70℃以上250℃以下であることが好ましい。また、重合時間も特に限定されるものではないが、0.5時間以上10時間以下であることが好ましい。重合中には、必要に応じて反応系内を減圧にしてもよい。
【0221】
本発明のトナーが本発明の重合体に加えて結着樹脂を含む場合、前記重合体と結着樹脂との含有割合は特に制限されない。前記重合体と結着樹脂との含有質量比は、60:40~80:20が好ましく、65:35~75:25がより好ましい。
【0222】
トナーのガラス転移温度(Tg)は、定着性や耐熱保管性などの観点から、25℃以上100℃以下であることが好ましく、30℃以上80℃以下であることがより好ましい。トナーのガラス転移温度(Tg)は、重合体の分子量、プロペンイミン構造を有する基を含む構造単位以外の他の構造単位を含む場合は、その種類や含有量などによって調整することができる。トナーが結着樹脂を含む場合は、さらに上記重合体と結着樹脂との含有比率や、結着樹脂の種類、および分子量などによって調整することができる。
【0223】
なお、本発明のトナーは、単層構造を有する粒子であってもよいし、コアシェル構造を有する粒子であってもよい。コアシェル構造のコア粒子およびシェル部に用いられる結着樹脂の種類は、特に制限されない。
【0224】
<着色剤>
本発明のトナーは、着色剤をさらに含んでいてもよい。本発明の重合体は著しい着色がないため、着色剤の色再現性の高いトナーを得ることができる。着色剤としては、一般に知られている染料および顔料を用いることができる。
【0225】
黒色のトナーを得るための着色剤としては、カーボンブラック、磁性体、鉄・チタン複合酸化物ブラックなどが挙げられ、カーボンブラックとしてはチャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラックが含まれる。また、磁性体としてはフェライト、マグネタイトなどが挙げられる。
【0226】
イエローのトナーを得るための着色剤としては、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162などの染料;C.I.ピグメントイエロー14、同17、同74、同93、同94、同138、同155、同180、同185などの顔料が挙げられる。
【0227】
マゼンタのトナーを得るための着色剤としては、C.I.ソルベントレッド1、同49、同52、同58、同63、同111、同122などの染料;C.I.ピグメントレッド5、同48:1、同53:1、同57:1、同122、同139、同144、同149、同166、同177、同178、同222などの顔料が挙げられる。
【0228】
シアンのトナーを得るための着色剤としては、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93、同95などの染料;C.I.ピグメントブルー1、同7、同15、同15:3、同60、同62、同66、同76などの顔料が挙げられる。
【0229】
各色のトナーを得るための着色剤は、各色について、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0230】
着色剤の含有量は、外添剤の添加前のトナー母体粒子中、0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、2質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
【0231】
<離型剤>
本発明に係るトナーは、離型剤をさらに含んでもよい。離型剤をトナーに導入することで、光照射と共に熱定着を行う場合に、より定着性に優れ色再現性の高いトナーを得ることができる。
【0232】
使用される離型剤は、特に限定されるものではなく、公知の種々のワックスを用いることができる。ワックスとしては、低分子量ポリプロピレン、ポリエチレン、または酸化型の低分子量ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン、パラフィンワックス、合成エステルワックスなどが挙げられる。中でも、トナーの保存安定性を向上させる観点から、パラフィンワックスを用いることが好ましい。
【0233】
離型剤の含有量は、トナー母体粒子中、1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、3質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。
【0234】
<荷電制御剤>
本発明に係るトナーは、荷電制御剤を含有してもよい。使用される荷電制御剤は、摩擦帯電により正または負の帯電を与えることのできる物質であり、かつ無色のものであれば特に限定されず、公知の種々の正帯電性の荷電制御剤および負帯電性の荷電制御剤を用いることができる。
【0235】
荷電制御剤の含有量は、トナー母体粒子中、0.01質量%以上30質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
【0236】
<外添剤>
トナーの流動性、帯電性、クリーニング性等を改良するために、トナー母体粒子に、いわゆる後処理剤である流動化剤、クリーニング助剤等の外添剤を添加して本発明に係るトナーを構成してもよい。
【0237】
外添剤としては、たとえば、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化チタン粒子などの無機酸化物粒子、ステアリン酸アルミニウム粒子、ステアリン酸亜鉛粒子などの無機ステアリン酸化合物粒子、チタン酸ストロンチウム粒子、チタン酸亜鉛粒子などの無機チタン酸化合物粒子などの無機粒子が挙げられる。必要に応じてこれらの無機粒子は疎水化処理されていてもよい。これらは単独でもまたは2種以上を組み合わせても用いることができる。
【0238】
これらの中でも、外添剤としては、例えば、ゾルゲルシリカ粒子や、表面を疎水化処理したシリカ粒子(疎水性シリカ粒子)または酸化チタン粒子(疎水性酸化チタン粒子)が好ましく、これらのうち2種以上の外添剤を使用することがより好ましい。
【0239】
外添剤の数平均一次粒径は、1nm以上200nm以下の範囲内であることが好ましく、10nm以上180nm以下であることがより好ましい。この際、少なくとも1種の外添剤の数平均一次粒径は30nm以上180nm以下であることが特に好ましい。
【0240】
これら外添剤の添加量は、トナー中、0.05質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。
【0241】
<トナーの平均粒径>
トナーの平均粒径(およびトナー母体粒子の平均粒径)は、体積基準のメジアン径(D50)で4μm以上20μm以下の範囲であることが好ましく、5μm以上15μm以下であることがより好ましい。体積基準のメジアン径(D50)が上記範囲にあると、転写効率が高くなり、ハーフトーンの画質が向上し、細線やドット等の画質が向上する。
【0242】
体積基準のメジアン径(D50)は、「コールターカウンター3」(ベックマン・コールター株式会社製)に、データ処理用ソフト「Software V3.51」を搭載したコンピューターシステム(ベックマン・コールター株式会社製)を接続した測定装置を用いて測定・算出することができる。
【0243】
[トナーの製造方法]
本発明のトナーの製造方法は特に制限されない。例えば、本発明の重合体のみでトナーとする場合は、前記重合体を、ハンマーミル、フェザーミル、カウンタージェットミルなどの装置を用いて粉砕した後、スピンエアーシーブ、クラッシール、マイクロンクラッシファイアーなどの乾式分級機を用いて所望の粒径になるように分級することを含む製造方法を用いることができる。着色剤をさらに含むトナーを製造する場合は、本発明の重合体および着色剤がともに溶解する溶媒を用いて、前記重合体および着色剤を溶解させて溶液とした後、脱溶媒し、その後上記と同様の方法で、粉砕・分級することができる。
【0244】
特には、本発明の重合体ならびに必要に応じて結着樹脂および着色剤を含むトナーは、粒径および形状の制御が容易な乳化凝集法を利用した製造方法により製造することが好ましい。
【0245】
かような製造方法は、
(1A)必要に応じて、結着樹脂粒子の分散液を調製する結着樹脂粒子分散液調製工程
(1B)本発明の重合体粒子の分散液を調製する重合体粒子分散液調製工程
(1C)必要に応じて、着色剤粒子の分散液を調製する着色剤粒子分散液調製工程
(2)重合体粒子、ならびに必要に応じて結着樹脂粒子および着色剤粒子が存在している水系媒体中に、凝集剤を添加し、塩析を進行させると同時に凝集および融着を行い、会合粒子を形成する会合工程
(3)会合粒子の形状制御をすることによりトナー母体粒子を形成する熟成工程
(4)水系媒体からトナー母体粒子を濾別し、当該トナー母体粒子から界面活性剤等を除去する濾過、洗浄工程
(5)洗浄処理されたトナー母体粒子を乾燥する乾燥工程
(6)乾燥処理されたトナー母体粒子に外添剤を添加する外添剤添加工程
の各工程を含むことが好ましい。
【0246】
以下、(1A)~(1C)の工程について説明する。
【0247】
(1A)結着樹脂粒子分散液調製工程
本工程では、従来公知の乳化重合などにより樹脂粒子を形成し、この樹脂粒子を凝集、融着させて結着樹脂粒子を形成する。一例として、結着樹脂を構成する重合性単量体を水系媒体中へ投入、分散させ、重合開始剤によりこれら重合性単量体を重合させることにより、結着樹脂粒子の分散液を作製する。
【0248】
また、結着樹脂粒子分散液を得る方法として、上記の水系媒体中で重合開始剤により重合性単量体を重合させる方法の他に、たとえば、溶媒を用いることなく、水性媒体中において分散処理を行う方法、あるいは結晶性樹脂を酢酸エチルなどの溶媒に溶解させて溶液とし、分散機を用いて当該溶液を水性媒体中に乳化分散させた後、脱溶媒処理を行う方法などが挙げられる。
【0249】
この際、必要に応じ、結着樹脂には離型剤を予め含有させておいてもよい。また、分散のために、適宜公知の界面活性剤(たとえば、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸などのアニオン系界面活性剤)の存在下で重合させることも好ましい。
【0250】
分散液中の結着樹脂粒子の体積基準のメジアン径は、50nm以上300nm以下の範囲であることが好ましい。分散液中の結着樹脂粒子の体積基準のメジアン径は、「マイクロトラックUPA-150」(日機装株式会社製)を用いて動的光散乱法によって測定することができる。
【0251】
(1B)重合体粒子分散液調製工程
この重合体粒子分散液調製工程は、本発明の重合体を、水系媒体中に微粒子状に分散させて、前記重合体の粒子の分散液を調製する工程である。
【0252】
重合体粒子の分散液を調製するにあたり、まず、重合体の乳化液を調製する。重合体の乳化液は、例えば有機溶媒に重合体を溶解させた後、得られた溶液を水系媒体中で乳化させる方法が挙げられる。
【0253】
重合体を有機溶媒に溶解させる方法は、特に制限されず、たとえば、重合体を有機溶媒に添加して、重合体が溶解するように攪拌混合する方法が挙げられる。重合体の添加量は、有機溶媒100質量部に対して、好ましくは5質量部以上100質量部以下、より好ましくは10質量部以上50質量部以下である。
【0254】
次に、得られた重合体溶液と水系媒体とを混合し、ホモジナイザーなどの公知の分散機を用いて攪拌する。これにより、重合体が液滴となって、水系媒体中に乳化され、重合体の乳化液が調製される。
【0255】
重合体溶液の添加量は、水系媒体100質量部に対して、好ましくは10質量部以上110質量部以下である。
【0256】
重合体溶液と水系媒体との混合時における、重合体溶液および水系媒体の温度は、それぞれ有機溶媒の沸点未満となる温度範囲であって、好ましくは20℃以上80℃以下、より好ましくは30℃以上75℃以下である。重合体溶液と水系媒体との混合時における、重合体溶液の温度と水系媒体の温度とは、互いに同一であっても異なっていてもよく、好ましくは互いに同一である。
【0257】
分散機の攪拌条件は、例えば攪拌容器の容量が1~3Lである場合、回転数は7000rpm以上20000rpm以下であることが好ましく、攪拌時間は10分以上30分以下であることが好ましい。
【0258】
重合体粒子の分散液は、重合体の乳化液から有機溶媒を除去することによって調製される。重合体の乳化液から有機溶媒を除去する方法としては、たとえば、送風、加熱、減圧、またはこれらの併用など、公知の方法が挙げられる。
【0259】
一例として、重合体の乳化液は、たとえば、窒素などの不活性ガス雰囲気下において、好ましくは25℃以上90℃以下、より好ましくは30℃以上80℃以下で、たとえば初期の有機溶媒量の80質量%以上95質量%以下程度が除去されるまで、加熱される。これにより、前記重合体の粒子が水系媒体中に分散された前記重合体の粒子の分散液が調製される。
【0260】
重合体粒子分散液中の重合体粒子の質量平均粒径は、90nm以上1200nm以下であることが好ましい。上記質量平均粒径は、重合体を有機溶媒に配合したときの粘度、重合体溶液と水系媒体との配合割合、重合体の乳化液を調製するときの分散機の攪拌速度などを適宜調節することにより、上記範囲内に設定することができる。重合体粒子分散液中の重合体粒子の質量平均粒径は、電気泳動光散乱光度計「ELS-800」(大塚電子株式会社製)を用いて測定することができる。
【0261】
<有機溶媒>
本工程で用いられる有機溶媒は、重合体を溶解させることができれば、特に制限されず使用することができる。具体的には、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ヘキサン、ヘプタンなどの飽和炭化水素類、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類が挙げられる。
【0262】
このような有機溶媒は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。これら有機溶媒の中でも、ケトン類、ハロゲン化炭化水素類が好ましく、メチルエチルケトン、ジクロロメタンがより好ましい。
【0263】
<水系媒体>
本工程で用いられる水系媒体は、水、または水を主成分として、アルコール類、グリコール類などの水溶性溶媒や、界面活性剤、分散剤などの任意成分が配合されている水系媒体などが挙げられる。水系媒体は、好ましくは水と界面活性剤とを混合したものが用いられる。
【0264】
界面活性剤としては、たとえば、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などが挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、たとえば、ドデシルアンモニウムクロライド、ドデシルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルピリジニウムクロライド、ドデシルピリジニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイドなどが挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、たとえば、ステアリン酸ナトリウム、ドデカン酸ナトリウムなどの脂肪酸石けん、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウムなどが挙げられる。また、ノニオン性界面活性剤としては、たとえば、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアートエーテル、モノデカノイルショ糖などが挙げられる。
【0265】
このような界面活性剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。界面活性剤の中では、好ましくはアニオン性界面活性剤、より好ましくはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが使用される。
【0266】
界面活性剤の添加量は、水系媒体100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上10質量部以下、より好ましくは0.04質量部以上1質量部以下である。
【0267】
(1C)着色剤粒子分散液調製工程
この着色剤粒子分散液調製工程は、着色剤を水系媒体中に微粒子状に分散させて着色剤粒子の分散液を調製する工程である。
【0268】
着色剤の分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができる。分散液中の着色剤粒子の個数基準のメジアン径は、10nm以上300nm以下の範囲であることが好ましく、50nm以上200nm以下であることがより好ましい。着色剤粒子の個数基準のメジアン径は、電気泳動光散乱光度計「ELS-800」(大塚電子株式会社製)を用いて測定することができる。
【0269】
(2)会合工程から(6)外添剤添加工程までの工程については、従来公知の種々の方法に従って行うことができる。
【0270】
なお、(2)会合工程において使用される凝集剤は、特に限定されるものではないが、金属塩から選択されるものが好適に使用される。金属塩としては、たとえばナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属の塩等の一価の金属塩;カルシウム、マグネシウム、マンガン、銅などの二価の金属塩;鉄、アルミニウムなどの三価の金属塩などが挙げられる。具体的な金属塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、硫酸マンガンなどを挙げることができ、これらの中で、より少量で凝集を進めることができることから、二価の金属塩を用いることが特に好ましい。これらは単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0271】
[現像剤]
本発明に係るトナーは、たとえば磁性体を含有させて一成分磁性トナーとして使用する場合、いわゆるキャリアと混合して二成分現像剤として使用する場合、非磁性トナーを単独で使用する場合などが考えられ、いずれも好適に使用することができる。
【0272】
上記磁性体としては、たとえば、マグネタイト、γ-ヘマタイト、または各種フェライトなどを使用することができる。
【0273】
二成分現像剤に含まれるキャリアとしては、鉄、鋼、ニッケル、コバルト、フェライト、マグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金などの従来公知の材料からなる磁性粒子を用いることができる。
【0274】
キャリアとしては、磁性粒子の表面を樹脂等の被覆剤で被覆したコートキャリアであってもよいし、バインダー樹脂中に磁性体粉末を分散させた樹脂分散型キャリアであってもよい。被覆用の樹脂としては、特に限定はないが、たとえば、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、スチレンアクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂またはフッ素樹脂などが用いられる。また、樹脂分散型キャリア粒子を構成するための樹脂としては、特に限定されず公知のものを使用することができ、たとえば、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂などを使用することができる。
【0275】
キャリアの体積基準のメジアン径は、20μm以上100μm以下の範囲であることが好ましく、25μm以上80μm以下であることがより好ましい。キャリアの体積基準のメジアン径は、代表的には湿式分散機を備えたレーザー回折式粒度分布測定装置「ヘロス(HELOS)」(シンパテック(SYMPATEC)社製)により測定することができる。
【0276】
トナーのキャリアに対する混合量は、トナーとキャリアとの合計質量を100質量%として、2質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0277】
[画像形成方法]
本発明のトナーは、電子写真方式の公知の種々の画像形成方法において用いることができる。たとえば、モノクロの画像形成方法やフルカラーの画像形成方法に用いることができる。フルカラーの画像形成方法では、イエロー、マゼンタ、シアン、およびブラックの各々に係る4種類のカラー現像装置と、1つの感光体とにより構成される4サイクル方式の画像形成方法や、各色に係るカラー現像装置および感光体を有する画像形成ユニットを、それぞれ色別に搭載するタンデム方式の画像形成方法など、いずれの画像形成方法にも適用することができる。
【0278】
すなわち、本発明の一実施形態による画像形成方法は、1)記録媒体上に本発明のトナーからなるトナー像を形成する工程と、2)前記トナー像に光を照射して、前記トナー像を軟化させる工程とを含む。
【0279】
1)の工程について
本工程では、本発明のトナーからなるトナー像を、記録媒体上に形成する。
【0280】
(記録媒体)
記録媒体は、トナー画像を保持するための部材である。記録媒体の例としては、普通紙、上質紙、アート紙、コート紙などの塗工された印刷用紙、市販の和紙やはがき用紙、OHP用または包装材用の樹脂フィルム、および布などが挙げられる。
【0281】
記録媒体は、所定の大きさを有するシート状(枚葉状)であってもよいし、トナー像が定着された後にロール状に巻き取られる長尺状であってもよい。
【0282】
トナー像の形成は、後述するように、例えば感光体上のトナー像を記録媒体上に転写することにより行うことができる。
【0283】
2)の工程について
本工程では、形成されたトナー像に光を照射してトナー像を軟化させる。これにより記録媒体上にトナー像を接着させることができる。
【0284】
照射する光の波長は、トナー中の前記重合体による光熱変換などにより、トナー像を十分に軟化させうる程度であれば特に制限されないが、好ましくは280nm以上480nm以下である。上記範囲であればトナー像をより効率的に軟化させることができる。また、光の照射量(積算光量)は、同様の観点から、好ましくは0.1J/cm2以上200J/cm2以下、より好ましくは0.1J/cm2以上100J/cm2以下、さらに好ましくは0.1J/cm2以上50J/cm2以下の範囲である。
【0285】
光の照射は、後述するように、例えば発光ダイオード(LED)やレーザー光源などの光源を用いて行うことができる。
【0286】
2)の工程の後、必要に応じて、3)軟化させたトナー像を加圧する工程をさらに行ってもよい。
【0287】
3)の工程について
本工程では、軟化させたトナー像を加圧する。
【0288】
記録媒体上のトナー像を加圧する際の圧力は、特に限定されないが、0.01MPa以上5.0MPa以下であることが好ましく、0.05MPa以上1.0MPa以下であることがより好ましい。圧力を0.01MPa以上とすることで、トナー像の変形量を大きくしうるため、トナー像と記録用紙Sとの接触面積が増加し、画像の定着性をさらに高めやすい。また、圧力を5.0MPa以下とすることで、加圧時のショックノイズを抑制できる。
【0289】
当該加圧工程は、前述の2)の工程であるトナー像を軟化させる工程の前または同時に行ってもよいが、2)の工程の後に行うほうが、あらかじめ軟化した状態のトナー像に加圧することができ、この結果、画像の定着性がより向上するため好ましい。
【0290】
また、加圧する工程において、軟化させたトナー像をさらに加熱してもよい。すなわち、加圧工程は、トナー像を加熱しながら行ってもよい。
【0291】
トナー像の加熱温度(加熱時のトナー像の表面温度)は、トナーのガラス転移温度をTgとしたとき、(Tg+20)℃以上(Tg+100)℃以下の範囲であることが好ましく、(Tg+25)℃以上(Tg+80)℃以下であることがより好ましい。トナー像の表面温度が(Tg+20)℃以上であれば、加圧によってトナー像を変形させやすく、(Tg+100)℃以下であれば、ホットオフセットを抑制しやすい。なお、ホットオフセットとは、定着工程において、ローラーなどの加圧部材にトナーの一部が転移してしまい、トナー層が分断してしまう現象をいう。
【0292】
また、2)の工程の前に、必要に応じて4)予めトナー像を加熱する工程をさらに行ってもよい。このように、2)の工程の前に4)予めトナー像を加熱する工程をさらに行うことで、本発明の重合体の光に対する感受性をより高めることができる。それにより、高分子であっても光に対する感受性は損なわれにくいため、光照射によるトナー像の溶融または軟化を促進しやすい。
【0293】
本発明の画像形成方法は、例えば以下の画像形成装置を用いることにより行うことができる。
【0294】
図1は、本発明の一実施形態による画像形成方法で用いられる画像形成装置100を示す概略構成図である。ただし、本発明に用いられる画像形成装置としては、下記の形態および図示例に限定されるものではない。
図1には、モノクロの画像形成装置100の例を示すが、カラーの画像形成装置にも本発明を適用することができる。
【0295】
画像形成装置100は、記録媒体としての記録用紙Sに画像を形成する装置であって、画像読取装置71および自動原稿送り装置72を備え、用紙搬送系7により搬送される記録用紙Sに対し画像形成部10、照射部40、および圧着部9により画像形成を行う。
【0296】
また、記録媒体として、画像形成装置100では記録用紙Sを用いているが、画像形成を行う対象とされる媒体は、用紙以外でもよい。
【0297】
自動原稿送り装置72の原稿台上に載置された原稿dは、画像読取装置71の走査露光装置の光学系により走査露光されてイメージセンサーCCDに読み込まれる。イメージセンサーCCDにより光電変換されたアナログ信号は、画像処理部20において、アナログ処理、A/D変換、シェーディング補正、画像圧縮処理等が行われた後、画像形成部10の露光器3に入力される。
【0298】
用紙搬送系7は、複数のトレイ16、複数の給紙部11、搬送ローラー12、搬送ベルト13等を備えている。トレイ16は、決められたサイズの記録用紙Sをそれぞれ収容しており、制御部90からの指示に応じて定められたトレイ16の給紙部11を作動させ、記録用紙Sを供給する。搬送ローラー12は、給紙部11によってトレイ16から送り出された記録用紙Sまたは手差し給紙部15から搬入された記録用紙Sを画像形成部10へ搬送する。
【0299】
画像形成部10は、感光体1の周りに、感光体1の回転方向に沿って、帯電器2、露光器3、現像部4、転写部5、およびクリーニング部8がこの順番に配置されて構成されている。
【0300】
像担持体である感光体1は、表面に光導電層の形成された像担持体であり、図示しない駆動装置により
図1中の矢印方向に回転可能に構成されている。感光体1の近傍には、画像形成装置100内の温度や湿度を検知する温湿度計17が設けられている。
【0301】
帯電器2は、感光体1の表面に均一に電荷を与え、感光体1の表面を一様に帯電させる。露光器3は、レーザーダイオード等のビーム発光源を備え、帯電された感光体1の表面にビーム光を照射することで照射部分の電荷を消失させ、感光体1上に画像データに応じた静電潜像を形成する。現像部4は、内部に収容されるトナーを感光体1に供給して、感光体1表面上に静電潜像に基づくトナー像を作像する。
【0302】
転写部5は、記録用紙Sを介して感光体1と対向し、トナー像を記録用紙Sに転写する。クリーニング部8は、ブレード85を備える。ブレード85により、感光体1の表面をクリーニングして感光体1の表面に残留した現像剤を除去する。
【0303】
トナー像が転写された記録用紙Sは、搬送ベルト13により圧着部9へ搬送される。圧着部9は、任意に設置されるものであり、トナー像が転写された記録用紙Sに対し、加圧部材91および92によって圧力のみまたは熱および圧力を加えて定着処理を施し、これにより記録用紙S上に画像を定着させる。画像が定着された記録用紙Sは、搬送ローラーによって排紙部14に搬送され、排紙部14から機外へ排出される。
【0304】
また、画像形成装置100は用紙反転部24を備えており、加熱定着処理がなされた記録用紙Sを排紙部14の手前で用紙反転部24に搬送し、表裏を反転して排出するか、または表裏を反転した記録用紙Sを再度画像形成部10に搬送し記録用紙Sの両面に画像形成を行うことを可能としている。
【0305】
<照射部>
図2は、画像形成装置100における照射部40の概略構成図である。
【0306】
本発明の一実施形態による画像形成装置100は、照射部40を備える。照射部40は、記録用紙S上に形成されたトナー像に光を照射する。照射部40を構成する装置の例としては、発光ダイオード(LED)、レーザー光源などが挙げられる。照射部40としては、例えば、記録用紙上のトナー像に対して(超)高速で走査露光(光照射)してトナー像全体を短時間で照射可能な走査型の照射部40を用いてもよい。あるいは、一度に記録用紙上のトナー像全体に対して光照射可能なように、多数の光源を横一列(搬送方向に直角な方向)または縦横に隙間なく配置した固定式の照射部40を用いてもよいなど、特に制限されるものではなく、従来公知の光照射技術を適用することができる。
【0307】
照射部40はトナー像を保持する記録用紙Sにおける感光体側の第1面に向かって光を照射するものであり、感光体1と転写部(転写ローラー)5とにニップされた記録用紙S面に対して感光体側に配置されている。
【0308】
照射部40は、感光体1と転写部5とのニップ位置に対して、用紙搬送方向下流側、かつ圧着部9に対して用紙搬送方向上流側に配置されている。
【0309】
本発明の一実施形態による画像形成方法によれば、帯電器2により感光体1に一様な電位を付与して帯電させた後、原画像データに基づいて露光器3により照射した光束で感光体1上を走査し、静電潜像を形成する。次に現像部4により本発明のトナーを含む現像剤を感光体1上に供給する。
【0310】
感光体1の表面に担持されたトナー像が、感光体1の回転によって転写部5の位置に至るタイミングに合わせて、トレイ16から記録用紙Sを画像形成部10に搬送すると、転写部5に印加される転写バイアスにより、感光体1上のトナー像が、転写部5と感光体1とにニップされた記録用紙S上に転写される。
【0311】
また、転写部5は、加圧部材を兼ねており、感光体1から記録用紙Sにトナー像を転写させることができながら、トナー像に含まれる前記重合体を確実に記録用紙Sに密着させることができる。
【0312】
トナー像が記録用紙Sに転写された後に、クリーニング部8のブレード85は、感光体1表面に残留する現像剤を除去する。
【0313】
トナー像が転写された記録用紙Sが搬送ベルト13により圧着部9に搬送される過程において、照射部40は、記録用紙S上に転写されたトナー像に対して光を照射する。照射部40により記録用紙Sの第1面上のトナー像に向かって光を照射することにより、トナー像をより確実に溶融させることができ、トナー像の記録用紙Sに対する定着性を向上させることができる。
【0314】
トナー像が保持された記録用紙Sが、搬送ベルト13により圧着部9に至ると、加圧部材91および92が、トナー像を記録用紙Sの第1面に圧着する。圧着部9により定着処理が施される前に、トナー像が照射部40による光照射により軟化するため、記録用紙Sに対する画像圧着の省エネルギー化を図ることができる。
【0315】
トナー像を加圧する際の圧力は、前述の通りである。なお、該加圧工程は、光を照射して、トナー像を軟化させる工程の前または同時に行ってもよいし、後に行ってもよいが、あらかじめ軟化した状態のトナー像に加圧することができ、画像強度を高めやすい観点では、加圧工程は、光照射後に行うほうが好ましい。
【0316】
また、加圧部材91は、記録用紙Sが加圧部材91および92の間を通過する際に、記録用紙S上のトナー像を加熱することができる。光照射によって軟化したトナー像は、この加熱によりさらに軟化され、その結果、トナー像の記録用紙Sへの定着性がより向上する。
【0317】
トナー像の加熱温度は、前述の通りである。トナー像の加熱温度(トナー像の表面温度)は、非接触温度センサーにて測定することができる。具体的には、たとえば、加圧部材から記録媒体が排出される位置に非接触温度センサーを設置して、記録媒体上のトナー像の表面温度を測定すればよい。
【0318】
加圧部材91および92によって圧着されたトナー像は、固化されて記録用紙S上に定着される。
【0319】
(光応答性接着剤)
本発明の重合体は光照射により流動化し、可逆的に非流動化するため、本発明の重合体を用いて繰り返しの利用が可能な光応答性接着剤(感光性接着剤)を作製することができる。例えば、粘度(摩擦係数)の変化に対応して、繰り返しの光脱着可能な光応答性接着剤として各種の接着技術に応用することが可能である。すなわち、本発明の一実施形態は、本発明の重合体を含む、光応答性接着剤である。
【0320】
本発明の光応答性接着剤は、繰り返しの利用が可能な仮止めに使えるほか、リサイクル利用にも適しているが、これらに何ら制限されるものではない。
【0321】
(光スイッチング材料)
本発明の重合体は、光照射により流動化し、可逆的に非流動化するため、本発明の重合体を用いて光スイッチング材料を作製することができる。例えば、光異性化に伴う色や極性の変化、物質移動、配向の変化、粘度の変化、表面張力の変化を利用して光スイッチング材料を作製することができる。例えば、液晶材料などにおいて、光異性化に伴う分子の配向の変化に対応して、繰り返しの書き換えが可能なパターニング描画に応用することが可能である。また、例えば、光照射に伴う表面張力の変化やこれによる物質移動を利用して、高分子膜の表面の微細加工を行うことができる。すなわち、本発明の一実施形態は、本発明の重合体を含む、光スイッチング材料である。例えば、本形態の重合体を、そのまま、または適量の任意の公知の添加剤を加えて、光スイッチング材料として用いることができる。
【0322】
本発明の光スイッチング材料は、液晶ディスプレイ材料や、高分子膜の表面加工に使用できるが、これらに何ら制限されるものではない。
【実施例】
【0323】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0324】
(実施例1)
<プロペンイミン誘導体モノマー1の合成>
【0325】
【0326】
100mlの4頭フラスコに、4-アミノフェノール(5g、0.046mol)と、3-(4-へキシルフェニル)-2-プロペナール(9.9g、0.046mol)と、メタノール(MeOH)100mlと、を投入し、加熱攪拌した。反応液を吸引ろ過し、得られた粉末を冷却エタノールで洗浄した。さらに、メタノール/エタノールで再結晶を行い、目的物1を得た。
【0327】
【0328】
200mlの4頭フラスコにおいて、上記で得られた目的物1(5g、0.016mol)を、ジメチルホルムアミド(DMF)25mlに溶解させた。これに、炭酸カリウム(4.88g、0.035mol)を加え、30℃に保ちながら攪拌した。これに、ヨウ化カリウム(10.2mg、0.06mmol)と、10-クロロ-1-デカノール(5.79g、0.030mol)とを添加し、110℃で反応させた。これを、室温まで冷却し、650gの氷に添加した後、ろ過した。結晶を水400mlに分散させ、一晩攪拌して洗浄し、ろ過して乾燥させた。さらに、エタノールにて再結晶を行い、目的物2を得た。
【0329】
【0330】
100mlの4頭フラスコに、上記で得られた目的物2(3g、6.2mmol)、トリエチルアミン(1.34ml、0.001mol)およびジクロロメタン30mlを投入した。この時、原料は分散状態であった。内温を0℃に保ちながら、アクリル酸クロライド(1.04g、0.011mol)をジクロロメタン10mlに溶かした溶液を、内温を0℃以上5℃以下の範囲に保ちながら滴下した。滴下していくと、原料は溶解した。
【0331】
滴下終了後、反応液を室温に戻して攪拌を行った。反応終了後、ジクロロメタンを濃縮して除去し、酢酸エチルに溶解して、希塩酸、炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水にて洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムにて乾燥させた後、濃縮した。得られたオレンジ色の結晶をシリカゲルカラム(酢酸エチル/へプタン=1/5(体積比))にて精製し、下記表2-1において構造単位1を有するプロペンイミン誘導体モノマー1を得た。
【0332】
<重合体1の合成>
100mlの4頭フラスコにおいて、上記で得られたプロペンイミン誘導体モノマー1 1.5g(3.2mmоl)、4-シアノペンタン酸ジチオベンゾアート5mg(0.023mmоl)およびアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1mg(0.006mmоl)を、アニソール4mlに溶解させた。そして、凍結脱気によりアルゴンガス雰囲気にした後、75℃に昇温し、攪拌することで重合させた。得られたポリマー溶液に、メタノール40mlを徐々に滴下した後、テトラヒドロフラン(THF)を加えて、未反応のプロペンイミン誘導体モノマー1を除去した。分取したポリマー溶液は、40℃の真空乾燥炉内にて24時間乾燥させて、重合体1を得た。得られた重合体1の数平均分子量Mnをゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法で測定したところ、24,000であった。
【0333】
【0334】
<重合体粒子分散液1の調製>
ジクロロメタン80質量部と、上記で得られた重合体1を20質量部とを、50℃で加熱しながら混合攪拌し、重合体1を含む溶液を得た。得られた溶液100質量部に、50℃に温めた蒸留水99.5質量部と、20質量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液0.5質量部との混合液を添加した。その後、シャフトジェネレーター18Fを備えるホモジナイザー(ハイドルフ社製)により16000rpmで20分間攪拌して乳化させ、重合体1の乳化液を得た。
【0335】
得られた乳化液をセパラブルフラスコへ投入し、窒素を気相中へ送気しながら40℃で90分間加熱攪拌して有機溶媒を除去して、重合体粒子分散液1を得た。重合体粒子分散液1中の重合体粒子の粒径を、電気泳動光散乱光度計「ELS-800」(大塚電子株式会社製)を用いて測定したところ、質量平均粒径で152nmであった。
【0336】
<シアン着色剤粒子分散液(Cy-1)の調製>
n-ドデシル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1600質量部に添加した。この溶液を撹拌しながら、銅フタロシアニン(C.I.ピグメントブルー15:3)420質量部を当該溶液に徐々に添加し、次いで、撹拌装置「クレアミックス(登録商標)」(エム・テクニック株式会社製)を用いて分散処理することにより、シアン着色剤粒子分散液(Cy-1)を調製した。
【0337】
シアン着色剤粒子分散液(Cy-1)における着色剤粒子の体積基準のメジアン径は、110nmであった。
【0338】
<トナー1の作製>
上記で作製した重合体粒子分散液1を固形分換算で602質量部、シアン着色剤粒子分散液(Cy-1)を固形分換算で52質量部、およびイオン交換水900質量部を、攪拌装置、温度センサー、および冷却管を装着した反応装置に投入した。容器内の温度を30℃に保持して、5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10に調整した。
【0339】
次に、塩化マグネシウム・6水和物2質量部をイオン交換水1000質量部に溶解した水溶液を攪拌下、10分間かけて滴下した後、昇温を開始し、この系を60分間かけて70℃まで昇温し、70℃を保持したまま粒子成長反応を継続した。この状態で「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター株式会社製)にて会合粒子の粒径を測定し、体積基準のメジアン径(D50)が6.5μmになった時点で、塩化ナトリウム190質量部をイオン交換水760質量部に溶解した水溶液を添加して粒子成長を停止させた。70℃で1時間攪拌した後、さらに昇温を行い、75℃の状態で加熱攪拌することにより、粒子の融着を進行させた。その後、30℃まで冷却することにより、トナー母体粒子の分散液を得た。
【0340】
得られたトナー母体粒子の分散液を、遠心分離機で固液分離し、トナー母体粒子のウェットケーキを形成した。該ウェットケーキを、遠心分離機で濾液の電気伝導度が5μS/cmになるまで35℃のイオン交換水で洗浄し、その後「フラッシュジェットドライヤー(株式会社セイシン企業製)」に移し、水分量が0.5質量%になるまで乾燥して、トナー母体粒子を作製した。
【0341】
得られたトナー母体粒子100質量部に、疎水性シリカ(数平均一次粒径:12nm)1質量部、および疎水性チタニア(数平均一次粒径:20nm)0.3質量部を添加し、ヘンシェルミキサー(登録商標)を用いて混合することにより、トナー1を得た。
【0342】
(実施例2)
実施例1のプロペンイミン誘導体モノマー1の合成において、3-(4-へキシルフェニル)-2-プロペナールを3-(4-デカノフェニル)-2-プロペナールに変更した以外は、実施例1と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー2、下記表2-1に示す重合体2、およびトナー2を作製した。
【0343】
(実施例3)
実施例1のプロペンイミン誘導体モノマー1の合成において、3-(4-へキシルフェニル)-2-プロペナールを3-(4-へキシルオキシフェニル)-2-プロペナールに変更した以外は、実施例1と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー3、下記表2-1に示す重合体3、およびトナー3を作製した。
【0344】
(実施例4)
実施例1のプロペンイミン誘導体モノマー1の合成において、3-(4-へキシルフェニル)-2-プロペナールを3-(4-ジエチルアミノフェニル)-2-プロペナールに変更した以外は、実施例1と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー4、下記表2-1に示す重合体4、およびトナー4を作製した。
【0345】
(実施例5)
実施例1のプロペンイミン誘導体モノマー1の合成において、3-(4-へキシルフェニル)-2-プロペナールを3-(3-メチル-4-へキシルフェニル)-2-プロペナールに変更した以外は、実施例1と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー5、下記表2-1に示す重合体5、およびトナー5を作製した。
【0346】
(実施例6)
実施例1のプロペンイミン誘導体モノマー1の合成において、10-クロロ-1-デカノールを6-クロロ-1-ヘキサノールに変更した以外は、実施例1と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー6、下記表2-1に示す重合体6、およびトナー6を作製した。
【0347】
(実施例7)
実施例1のプロペンイミン誘導体モノマー1の合成において、4-アミノフェノールを4-へキシルフェノールに変更し、3-(4-へキシルフェニル)-2-プロペナールを3-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロペナールに変更した以外は、実施例1と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー7、下記表2-1に示す重合体7、およびトナー7を作製した。
【0348】
(実施例8)
実施例1のプロペンイミン誘導体モノマー1の合成において、4-アミノフェノールを4-(ヒドロキシヘキシル)アニリンに変更し、目的物2の合成工程を除いた以外は、実施例1と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー8、下記表2-1に示す重合体8、およびトナー8を作製した。
【0349】
(実施例9)
実施例1のプロペンイミン誘導体モノマー1の合成において、3-(4-へキシルフェニル)-2-プロペナールを3-(4-へキシルフェニル)-3-ブテン-2-オンに変更した以外は、実施例1と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー9、下記表2-1に示す重合体9、およびトナー9を作製した。
【0350】
(実施例10)
実施例1のプロペンイミン誘導体モノマー1の合成において、アクリル酸クロライドをメタクリル酸クロライドに変更した以外は、実施例1と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー10、下記表2-1に示す重合体10、およびトナー10を作製した。
【0351】
(実施例11)
実施例1のプロペンイミン誘導体モノマー1の合成において、4-アミノフェノールを3-アミノフェノールに変更した以外は、実施例1と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー11、下記表2-1に示す重合体11、およびトナー11を作製した。
【0352】
(実施例12)
実施例1のプロペンイミン誘導体モノマー1の合成において、目的物1を用いてアクリル酸クロリドと反応させた以外は、実施例1と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー12、下記表2-1に示す重合体12、およびトナー12を作製した。
【0353】
(実施例13)
実施例1のプロペンイミン誘導体モノマー1の合成において、3-(4-へキシルフェニル)-2-プロペナールを3-(5-メチル-2-チエニル)-2-プロペナールに変更した以外は、実施例1と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー13、下記表2-2に示す重合体13、およびトナー13を作製した。
【0354】
(実施例14)
実施例1のプロペンイミン誘導体モノマー1の合成において、3-(4-へキシルフェニル)-2-プロペナールを3-(5-へキシル-2-チエニル)-2-プロペナールに変更した以外は、実施例1と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー14、下記表2-2に示す重合体14、およびトナー14を作製した。
【0355】
(実施例15)
実施例1のプロペンイミン誘導体モノマー1の合成において、3-(4-へキシルフェニル)-2-プロペナールを3-(5-メトキシ-2-チエニル)-2-プロペナールに変更した以外は、実施例1と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー15、下記表2-2に示す重合体15、およびトナー15を作製した。
【0356】
(実施例16)
実施例1のプロペンイミン誘導体モノマー1の合成において、3-(4-へキシルフェニル)-2-プロペナールを3-(4-メチル-2-チエニル)-2-プロペナールに変更した以外は、実施例1と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー16、下記表2-2に示す重合体16、およびトナー16を作製した。
【0357】
(実施例17)
実施例1のプロペンイミン誘導体モノマー1の合成において、3-(4-へキシルフェニル)-2-プロペナールを3-(5-メチル-1H-ピロール-2-イル)-2-プロペナールに変更した以外は、実施例1と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー17、下記表2-2に示す重合体17、およびトナー17を作製した。
【0358】
(実施例18)
実施例1のプロペンイミン誘導体モノマー1の合成において、3-(4-へキシルフェニル)-2-プロペナールを3-(1-メチル-1H-ピロール-2-イル)-2-プロペナールに変更した以外は、実施例1と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー18、下記表2-2に示す重合体18、およびトナー18を作製した。
【0359】
(実施例19)
実施例1のプロペンイミン誘導体モノマー1の合成において、3-(4-へキシルフェニル)-2-プロペナールを3-(5-メチル-2-フラニル)-2-プロペナールに変更した以外は、実施例1と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー19、下記表2-2に示す重合体19、およびトナー19を作製した。
【0360】
(実施例20)
実施例1のプロペンイミン誘導体モノマー1の合成において、3-(4-へキシルフェニル)-2-プロペナールを3-(5-メチル-3-チオニル)-2-プロペナールに変更した以外は、実施例1と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー20、下記表2-3に示す重合体20、およびトナー20を作製した。
【0361】
(実施例21)
実施例1のプロペンイミン誘導体モノマー1の合成において、4-アミノフェノールを5-アミノ-チオフェン-2-オールに変更した以外は、実施例1と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー21、下記表2-4に示す重合体21、およびトナー21を作製した。
【0362】
(実施例22)
実施例21のプロペンイミン誘導体モノマー20の合成において、3-(4-へキシルフェニル)-2-プロペナールを3-(5-メチル-2-チエニル)-2-プロペナールに変更した以外は、実施例21と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー22を得た。次いで、このプロペンイミン誘導体モノマー22を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、下記表2-5に示す重合体22、およびトナー22を作製した。
【0363】
(実施例23)
実施例22のプロペンイミン誘導体モノマー22の合成において、5-アミノ-チオフェン-2-オールを5-アミノ-1H-ピロール-2-オールに変更した以外は、実施例22と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー23を得た。次いで、このプロペンイミン誘導体モノマー23を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、下記表2-5に示す重合体23、およびトナー23を作製した。
【0364】
(実施例24)
実施例1のプロペンイミン誘導体モノマー1の合成において、3-(4-へキシルフェニル)-2-プロペナールを3-(1-メチル-1H-ピラゾール-3-イル)-2-プロペナールに変更した以外は、実施例1と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー24、下記表2-6に示す重合体24、およびトナー24を作製した。
【0365】
(実施例25)
実施例1のプロペンイミン誘導体モノマー1の合成において、3-(4-へキシルフェニル)-2-プロペナールを3-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-プロペナールに変更した以外は、実施例1と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー25、下記表2-7に示す重合体25、およびトナー25を作製した。
【0366】
(実施例26)
実施例25のプロペンイミン誘導体モノマー25の合成において、4-アミノフェノールを5-アミノ-チオフェン-2-オールに変更した以外は、実施例25と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー26、下記表2-8に示す重合体26、およびトナー26を作製した。
【0367】
(実施例27)
実施例1のプロペンイミン誘導体モノマー1の合成において、3-(4-へキシルフェニル)-2-プロペナールを3-(5-へキシル-2-ピリジニル)-2-プロペナールに変更した以外は、実施例1と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー27、下記表2-9に示す重合体27、およびトナー27を作製した。
【0368】
(実施例28)
実施例1のプロペンイミン誘導体モノマー1の合成において、3-(4-へキシルフェニル)-2-プロペナールを3-(1-メチル-1H-インドール-2-イル)-2-プロペナールに変更した以外は、実施例1と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー28、下記表2-10に示す重合体28、およびトナー28を作製した。
【0369】
(実施例29)
実施例1のプロペンイミン誘導体モノマー1の合成において、4-アミノフェノールを6-アミノ-2-ナフトールに変更した以外は、実施例1と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー29、下記表2-11に示す重合体29、およびトナー29を作製した。
【0370】
(実施例30)
実施例1のプロペンイミン誘導体モノマー1の合成において、4-アミノフェノールを4‘-アミノ[1,1’-ビフェニル]-4-オールに変更した以外は、実施例1と同様にして、プロペンイミン誘導体モノマー30、下記表2-9に示す重合体30、およびトナー30を作製した。
【0371】
(実施例31)
実施例1の重合体1の合成において、重合時間を適宜調節することで、重合体1と同じ構造単位を有し、数平均分子量の異なる下記表3-1に示す重合体31を得た。次いで、重合体1に代えて重合体31を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で、トナー31を作製した。
【0372】
(実施例32)
実施例1の重合体1の合成において、プロペンイミン誘導体モノマー1を1.5gから1.2gに変更し、スチレンを0.3g加えたこと以外は、実施例1と同様の方法で、下記表3-2に示す重合体32、およびトナー32を作製した。
【0373】
(実施例33)
実施例1の重合体1の合成において、プロペンイミン誘導体モノマー1を1.5gから1.2gに変更し、アクリル酸エチルを0.3g加えたこと以外は、実施例1と同様の方法で、下記表3-2に示す重合体33、およびトナー33を作製した。
【0374】
(実施例34)
実施例1の重合体1の合成において、プロペンイミン誘導体モノマー1を1.5gから1.2gに変更し、n-メタクリル酸へキシルを0.3g加えたこと以外は、実施例1と同様の方法で、下記表3-2に示す重合体34、およびトナー34を作製した。
【0375】
(実施例35)
実施例1の重合体1の合成において、プロペンイミン誘導体モノマー1を1.5gから1.2gに変更し、スチレンを0.15g、およびn-メタクリル酸へキシルを0.15g加えたこと以外は、実施例1と同様の方法で、下記表3-2に示す重合体35、およびトナー35を作製した。
【0376】
(実施例36)
<マクロ開始剤1の合成>
100mlのナスフラスコにおいて、2,2’-ビピリジル(230mg、1.47mmol)を入れ、窒素雰囲気下のグローブボックス内でさらにCu(I)Br(95mg、0.66mmol)、イソブチルメタクリレート(15g、144mmol)、2-ブロモイソ酪酸エチル(35mg、0.18mmol)を加えて密閉した。これを100℃のオイルバスで加熱攪拌すると経時で分子量が直線的に増加した。その後、テトラヒドロフランを適量加え、中性アルミナカラムに通した。これをメタノールで再沈殿・遠心分離して精製し、マクロ開始剤1を得た。得られたマクロ開始剤1の数平均分子量(β Mn)をGPC法で測定したところ10000であった。
【0377】
<重合体36の合成、トナー36の作製>
100mlのナスフラスコにおいて、上記で得られたプロペンイミン誘導体モノマー1(18g、35mmol)、および上記のマクロ開始剤1(1.1g、0.22mmol)を入れ、窒素雰囲気下のグローブボックス内でさらにCu(I)Cl(29mg、0.29mmol)、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン(136mg、0.59mmol)、溶媒としてのアニソール(4.9g、41.1mmol)を加えて密閉した。そして、80℃のオイルバスで加熱攪拌すると経時で分子量が直線的に増加した。その後、クロロホルムを適量加え、塩基性アルミナカラムに通した。これをメタノールで再沈殿・遠心分離して精製し、下記表3-2に示す重合体36を得た。得られた重合体36の全数平均分子量MnをGPC法で測定したところ18000であった。これより、プロペンイミン構造を有する基を含む構造単位(プロペンイミン誘導体モノマー1に由来する構造単位)由来の数平均分子量(α Mn)を8000と算出した。
【0378】
次いで、重合体1に代えて重合体36を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で、トナー36を作製した。
【0379】
(実施例37)
実施例36のマクロ開始剤1の合成において、2-ブロモイソ酪酸エチルをα,α’-ジブロモ-p-キシレンに変更した以外は、実施例36と同様の方法で、マクロ開始剤2を得た。次いで、マクロ開始剤1をマクロ開始剤2に変更した以外は、実施例36と同様の方法で、下記表3-2に示す重合体37を得た後、重合体1に代えて重合体37を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で、トナー37を作製した。
【0380】
(実施例38)
実施例36のマクロ開始剤1の合成において、2-ブロモイソ酪酸エチルをエチレンビス(2-ブロモイソ酪酸)(ethylene bis(2-bromoisobutyrate))に変更し、2,2’-ビピリジルを1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミンに変更し、イソブチルメタクリレートをプロペンイミン誘導体モノマー1に変更し、さらにアニソールを加えた以外は、実施例36と同様の方法で、マクロ開始剤3を得た。次いで、実施例36の重合体36の合成において、マクロ開始剤1をマクロ開始剤3に変更し、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミンを2,2’-ビピリジルに変更し、プロペンイミン誘導体モノマー1をイソブチルメタクリレートに変更し、アニソールを除いた以外は、実施例36と同様の方法で、下記表3-2に示す重合体38を得た後、重合体1に代えて重合体38を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で、トナー38を作製した。
【0381】
(実施例39)
実施例36のマクロ開始剤1の合成において、2-ブロモイソ酪酸エチルを1,1,1-トリス(2-ブロモイソブチリルオキシメチル)エタンに変更した以外は、実施例36と同様な方法で、マクロ開始剤4を得た。次いで、実施例36の重合体36の合成において、マクロ開始剤1をマクロ開始剤4に変更した以外は、実施例36と同様の方法で、下記表3-2に示す重合体39を得た後、重合体1に代えて重合体39を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で、トナー39を作製した。
【0382】
(実施例40)
実施例38のマクロ開始剤3の合成において、エチレンビス(2-ブロモイソ酪酸)(ethylene bis(2-bromoisobutyrate))を1,1,1-トリス(2-ブロモイソブチリルオキシメチル)エタンに変更した以外は、実施例38と同様の方法で、マクロ開始剤5を得た。次いで、実施例38の重合体38の合成において、マクロ開始剤3をマクロ開始剤5に変更した以外は、実施例38と同様の方法で、下記表3-2に示す重合体40を得た後、重合体1に代えて重合体40を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で、トナー40を作製した。
【0383】
(実施例41)
実施例36のマクロ開始剤1の合成において、2-ブロモイソ酪酸エチルをペンタエリスリトールテトラキス(2-ブロモイソブチレート)に変更した以外は、実施例36と同様の方法でマクロ開始剤6を得た。次いで、実施例36の重合体36の合成において、マクロ開始剤1をマクロ開始剤6に変更した以外は、実施例36と同様の方法で下記表3-2に示す重合体41を得た後、重合体1に代えて重合体41を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で、トナー41を作製した。
【0384】
(実施例42)
実施例38のマクロ開始剤3の合成において、エチレンビス(2-ブロモイソ酪酸)をペンタエリスリトールテトラキス(2-ブロモイソブチレート)に変更した以外は、実施例38と同様の方法でマクロ開始剤7を得た。次いで、実施例38の重合体38の合成において、マクロ開始剤3をマクロ開始剤7に変更した以外は、実施例38と同様の方法で下記表3-2に示す重合体42を得た後、重合体1に代えて重合体42を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で、トナー42を作製した。
【0385】
(実施例43)
実施例36のマクロ開始剤1の合成において、100℃のオイルバスで加熱攪拌する時間を適宜調節することで、マクロ開始剤1と同様の構造であり、かつ数平均分子量(β Mn)が4500であるマクロ開始剤8を得た。実施例36の重合体36の合成において、マクロ開始剤2をマクロ開始剤8に変更し、さらに80℃のオイルバスで加熱攪拌する時間を適宜調節することで、重合体36と同様の構造単位から構成され、かつ全数平均分子量Mnが5000である下記表3-2に示す重合体43を得た。重合体43において、プロペンイミン構造を有する基を含むブロックの数平均分子量(α Mn)は500であった。次いで、重合体1に代えて重合体43を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で、トナー43を作製した。
【0386】
(実施例44)
実施例37のマクロ開始剤2の合成において、イソブチルメタクリレートをスチレンに変更した以外は、実施例37と同様の方法で、マクロ開始剤9を得た。次いで、実施例37の重合体37の合成において、マクロ開始剤2をマクロ開始剤9に変更した以外は、実施例37と同様の方法で下記表3-2に示す重合体44を得た後、重合体1に代えて重合体44を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で、トナー44を作製した。
【0387】
(実施例45)
実施例37のマクロ開始剤2の合成において、イソブチルメタクリレートをブチルアクリレートに変更した以外は、実施例37と同様の方法で、マクロ開始剤10を得た。次いで、実施例37の重合体37の合成において、マクロ開始剤2をマクロ開始剤10に変更した以外は、実施例37と同様の方法で下記表3-2に示す重合体45を得た後、重合体1に代えて重合体45を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で、トナー45を作製した。
【0388】
(実施例46)
実施例37のマクロ開始剤2の合成において、イソブチルメタクリレートを3-メチル-1-ペンテンに変更した以外は、実施例37と同様の方法で、マクロ開始剤11を得た。次いで、実施例37の重合体37の合成において、マクロ開始剤2をマクロ開始剤11に変更した以外は、実施例37と同様の方法で、下記表3-2に示す重合体46を得た。この重合体46を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で、トナー46を作製した。
【0389】
(実施例47)
実施例37のマクロ開始剤2の合成において、イソブチルアクリレートを、イソブチルアクリレート:スチレンのモル比が5:5となる混合物に変更したこと以外は、実施例37と同様の方法で、マクロ開始剤12を得た。次いで、実施例37の重合体37の合成において、マクロ開始剤2をマクロ開始剤12に変更した以外は、実施例37と同様の方法で、下記表3-2に示す重合体47を得た。この重合体47を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で、トナー47を作製した。
【0390】
(実施例48)
実施例1のトナー1の作製において、重合体粒子分散液1を固形分換算で602質量部から421質量部に変更し、下記に示すスチレンアクリル樹脂粒子分散液1を固形分換算で181質量部添加した以外は、実施例1と同様の方法でトナー48を得た。
【0391】
[結着樹脂の作製]
(スチレンアクリル樹脂1を含有するスチレンアクリル樹脂粒子分散液1の作製)
(第1段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム8質量部をイオン交換水3000質量部に溶解させた溶液を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。昇温後、過硫酸カリウム10質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた溶液を添加し、再度液温80℃とし、スチレン480質量部、n-ブチルアクリレート250質量部、メタクリル酸68.0質量部、およびn-オクチル-3-メルカプトプロピオネート16.0質量部よりなる重合性モノマー溶液を1時間かけて滴下した。その後、80℃にて2時間加熱、撹拌することにより重合を行い、スチレンアクリル樹脂粒子(1a)を含有するスチレンアクリル樹脂粒子分散液(1A)を調製した。
【0392】
(第2段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた反応容器に、ポリオキシエチレン-2-ドデシルエーテル硫酸ナトリウム7質量部をイオン交換水800質量部に溶解させた溶液を仕込んだ。溶液を98℃に加熱後、上記のスチレンアクリル樹脂粒子分散液(1A)260質量部、スチレン245質量部、n-ブチルアクリレート120質量部、n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート1.5質量部、および離型剤としてパラフィンワックス「HNP-11」(日本精蝋株式会社製)67質量部を90℃にて溶解させた重合性モノマー溶液を添加した。その後、循環経路を有する機械式分散機「CREARMIX」(エム・テクニック株式会社製)により1時間混合分散させ、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。次いで、この分散液に、過硫酸カリウム6質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた開始剤溶液を添加し、この系を82℃にて1時間にわたって加熱撹拌することにより重合を行い、スチレンアクリル樹脂粒子(1b)を含有するスチレンアクリル樹脂粒子分散液(1B)を調製した。
【0393】
(第3段重合)
上記のスチレンアクリル樹脂粒子分散液(1B)に、過硫酸カリウム11質量部をイオン交換水400質量部に溶解させた溶液を添加した。溶液を82℃の温度とし、スチレン435質量部、n-ブチルアクリレート130質量部、メタクリル酸33質量部およびn-オクチル-3-メルカプトプロピオネート8質量部からなる重合性モノマー溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間にわたって加熱撹拌することにより重合を行った後、28℃まで冷却しスチレンアクリル樹脂1を含有するスチレンアクリル樹脂粒子分散液1を得た。また、このスチレンアクリル樹脂1のガラス転移温度Tgを測定したところ、45℃であった。
【0394】
(実施例49)
トナー1の作製において、重合体粒子分散液1を固形分換算で602質量部から421質量部に変更し、以下に示すポリエステル樹脂粒子分散液1を固形分換算で181質量部添加した以外は、実施例1と同様の方法で、トナー49を得た。
【0395】
[結着樹脂の作製]
(ポリエステル樹脂1を含有するポリエステル樹脂粒子分散液1の調製)
窒素導入管、脱水管、攪拌器、および熱電対を備えた容量10リットルの四つ口フラスコに、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物 524質量部、テレフタル酸 105質量部、フマル酸 69質量部、およびオクチル酸スズ(エステル化触媒)2質量部を投入し、温度230℃で8時間の重縮合反応を行った。さらに、8kPaで1時間重縮合反応を継続後、160℃に冷却し、ポリエステル樹脂1を得た。ポリエステル樹脂1 100質量部を、「ランデルミル 形式:RM」(株式会社徳寿工作所製)で粉砕し、予め作製した0.26質量%のラウリル硫酸ナトリウム水溶液 638質量部と混合し、攪拌しながら超音波ホモジナイザー「US-150T」(株式会社日本精機製作所製)を用いて、V-LEVEL、300μAで30分間超音波分散し、ポリエステル樹脂粒子分散液1を得た。上記ポリエステル樹脂粒子分散液1中のポリエステル樹脂粒子の粒径を「マイクロトラックUPA-150」(日機装株式会社製)を用いて動的光散乱法によって測定したところ、体積基準のメジアン径で135nmであった。また、このポリエステル樹脂1のガラス転移温度(Tg)を測定したところ、42℃であった。
【0396】
(比較例1)
<比較化合物(アゾベンゼン誘導体)>
特開2014-191078号公報の段落「0217」~「0227」に記載の方法で、以下の比較化合物(アゾベンゼン誘導体、数平均分子量Mn:2870)を得た。
【0397】
【0398】
<比較化合物分散液の調製>
実施例1の<重合体粒子分散液1の調製>において、重合体1を比較化合物(アゾベンゼン誘導体)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、比較化合物分散液を得た。
【0399】
<比較例1のトナーの作製>
実施例1の重合体粒子分散液1を上記で作製した比較化合物分散液に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、トナー50を得た。
【0400】
(比較例2)
実施例1の<トナー1の作製>において、重合体粒子分散液1を上記実施例48で作製したスチレンアクリル樹脂粒子分散液1に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、トナー51を得た。
【0401】
<測定方法>
(数平均分子量Mn)
重合体1~47および比較例1の比較化合物(アゾベンゼン誘導体)の数平均分子量Mnは、GPC法により測定した。具体的には、装置「HLC-8120GPC」(東ソー株式会社製)およびカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZ-M3連」(東ソー株式会社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2mL/分で流した。測定試料は、濃度1mg/mlになるようにテトラヒドロフランに溶解させた。当該溶液の調製は、超音波分散機を用いて、室温にて5分間処理を行うことにより行った。次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得、この試料溶液10μLを上記のキャリア溶媒と共に装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出した。単分散のポリスチレン標準粒子を用いて作成された検量線に基づいて、測定試料の分子量分布を算出した。上記検量線測定用のポリスチレンとしては10点用いた。
【0402】
なお、重合体36~47においては、全数平均分子量の他、マクロ開始剤の数平均分子量についても上記の方法で測定した。また、マクロ開始剤の数平均分子量を重合体ブロックαまたはβの数平均分子量として、ブロック構造ごとに、重合体の全数平均分子量から(マクロ開始剤の数平均分子量×ブロック数)を差し引くことで他方の重合体ブロックの合計の数平均分子量(他方の重合体ブロックの数平均分子量×ブロック数)を得た。結果を下記表3-2に示す。表3-2中、Mnは重合体の全数平均分子量、α Mnは重合体ブロックαの合計の数平均分子量、β Mnは重合体ブロックβの合計の数平均分子量をそれぞれ表す。
【0403】
(ガラス転移温度(Tg))
結着樹脂のガラス転移温度(Tg)は、株式会社日立ハイテク製のDSC7000Xにて測定した。具体的には、結着樹脂約3mgを小数点以下2桁まで精秤し、アルミニウム製パンに封入して、セットした。リファレンスは、空のアルミニウム製パンを使用した。昇温速度10℃/分にて0℃から200℃まで昇温する第1昇温過程;降温速度10℃/分にて200℃から0℃まで冷却する冷却過程;および昇温速度10℃/分にて0℃から200℃まで昇温する第2昇温過程をこの順に経る測定条件とした。そして、第2昇温過程におけるデータを基に解析を行った。第1の吸熱ピークの立ち上がり前のベースラインの延長線と、第1の吸熱ピークの立ち上がり部分からピーク頂点までの間における最大傾斜を示す接線との交点の値をガラス転移温度とした。なお、各実施例、比較例で作製した重合体およびトナーのガラス転移温度も同様の方法で測定することができる。
【0404】
[評価方法]
(重合体の光応答接着試験)
実施例1~47で調製した重合体1~47および比較例1の比較化合物(アゾベンゼン誘導体)の光照射に伴う接着性の変化を、
図3に示す装置を用いて、以下の光応答接着試験で評価した。
図3に示すように、18mm角のカバーガラス1に重合体または比較化合物の試料2mgをガラス中心から半径6mm内に載せ、同サイズのカバーガラス2を、カバーガラス1に対して平行方向に約4mmずらした位置で、重合体または比較化合物の試料をすべて覆いかぶせるように被せた。これを加熱し、試料を溶融させ、カバーガラス1とカバーガラス2とを接着させた。得られた各サンプルを下記の非流動性→流動性の試験に供し、その後、下記の流動性→非流動性(戻り)の試験に供した。
【0405】
<非流動性→流動性の試験>
図3に示す(A)部分を台にセロハンテープで固定し、(C)部分には100gのおもりを装着した長さ30cmのビニール紐をセロハンテープで固定した。(B)部分に波長365nmの光を照射量18J/cm
2で照射し、カバーガラス2がカバーガラス1から剥がれるかを確認し、下記の評価基準に従って判定した。結果を下記表3-1、表3-2に示す:
-非流動性→流動性の試験の評価基準-
〇:カバーガラス2がカバーガラス1から完全に剥がれた
△:カバーガラス2がずれた
×:カバーガラス2は動かなかった。
【0406】
<流動性→非流動性(戻り)の試験>
上記非流動性→流動性試験の評価が「○」の各サンプルについて、非流動性→流動性試験実施後、1時間室温で放置した後に、上記試験で使用したカバーガラス1の試料部分((B)部分)を覆いかぶせるようにカバーガラス3(カバーガラス1、2と同サイズ)をのせ、カバーガラス1とカバーガラス3とが接着するかを確認し、下記の評価基準に従って判定した。結果を下記表3-1、表3-2に示す:
-流動性→非流動性(戻り)の試験の評価基準-
〇:接着しなかった(非流動化していた)
△:一部接着した(一部、流動化状態が保たれていた)
×:接着した(流動化状態が保たれていた)。
【0407】
上記流動性→非流動性(戻り)の試験の評価が「○」であった実施例1~47で調製した重合体1~47については、いずれも非流動性→流動性試験実施後、可逆的に非流動化(再固化)していることが確認できた。
【0408】
(トナーの定着性試験)
(現像剤の作製)
上記で作製したトナー1~51と、シクロヘキサンメタクリレートとメチルメタクリレートとの共重合体樹脂(モノマー質量比1:1)で被覆した体積平均粒径が30μmのフェライトキャリア粒子とを、トナー濃度が6質量%となるように混合し、現像剤1~51を得た。混合は、V型混合機を用いて30分間行った。
【0409】
(画像形成;印刷物の作製)
現像剤1~51を用いて、記録媒体としての普通紙(グロスコート紙)上にトナー画像を形成し、印刷物を得た。
【0410】
具体的には、一方に現像剤、他方に普通紙(グロスコート紙、坪量:128g/m2)を設置した一対の平行平板(アルミニウム)電極間に、現像剤を磁力によって摺動させながら配置し、電極間ギャップが0.5mm、DCバイアスとACバイアスとはトナー付着量4g/m2となる条件でトナーを現像させ、普通紙の表面にトナー層(トナー画像)を形成し、定着装置で定着させて、トナー画像が形成された印刷物を得た。
【0411】
<定着性試験>
上記「画像形成;印刷物の作製」により得られた印刷物の1cm角のトナー画像を、「JKワイパー(登録商標)」(日本製紙クレシア株式会社製)で40kPaの圧力をかけて20回こすり、画像の定着率を評価した。定着率60%以上を合格とした。なお、画像の定着率とは、印刷後の画像およびこすった後の画像の反射濃度を、蛍光分光濃度計「FD-7」(コニカミノルタ株式会社製)で測定し、こすった後のベタ画像の反射濃度を、印刷後のベタ画像の反射濃度で除した値を百分率で表した数値である。画像の定着率の測定は、常温常湿環境下(温度20℃、相対湿度50%RH)で行った。
【0412】
定着装置は、
図2に示す装置を適宜改変して構成された下記4種の定着装置を用いた。
【0413】
定着装置No.1:
図2の圧着部9がなく、照射部40から照射される紫外光の波長は365nmであり(光源:発光波長が365nm±10nmのLED光源)、照射量は13J/cm
2である。
【0414】
定着装置No.2:
図2の圧着部9があり、加圧部材91の温度は20℃(非加熱)であり、加圧時の圧力は0.2MPaである。照射部40の光源および照射量は、定着装置No.1と同様である。
【0415】
定着装置No.3:
図2の圧着部9があり、加圧部材91の温度は80℃(加熱)であり、加圧時の圧力は0.2MPaである。照射部40の光源および照射量は、定着装置No.1と同様である。
【0416】
定着装置No.4:
図2の圧着部9があり、加圧部材91の温度は160℃(加熱)であり、加圧時の圧力は0.2MPaであり、光照射は実施しない。
【0417】
実施例1~49及び比較例1は、現像剤1~49(トナー1~49)及び現像剤50(トナー50)を用い、定着装置No.1により実施した。実施例50は、現像剤1(トナー1)を用い、定着装置No.2により実施した。実施例51は、現像剤1(トナー1)を用い、定着装置No.3により実施した。比較例2は、現像剤51(トナー51)を用い、定着装置No.4により実施した。
【0418】
(色再現性評価)
上記で得られた実施例および比較例の印刷物の画像について色再現性を、10名のモニターによる目視評価により下記評価基準に従って評価した。
【0419】
具体的には、比較例2の現像剤51(トナー51)を上記「画像形成;印刷物の作製」と同様に現像してトナー層(トナー画像)を形成し、定着装置No.4にて定着を行って作製した印刷物の画像を「評価比較用サンプル」とした。10名のモニターに対して、前記評価比較用サンプルと各実施例および比較例1で得られた印刷物の画像サンプルとを順番に見せ、2つの画像の色が明らかに異なるか質問した。下記色再現性の評価基準による判定結果を下記表4-1、表4-2に示す:
-色再現性の評価基準-
◎:2名以下が明らかに異なると答えた
○:3~4名が明らかに異なると答えた
△:5~7名が明らかに異なると答えた
×:8名以上が明らかに異なると答えた。
【0420】
【0421】
【0422】
【0423】
【0424】
【0425】
【0426】
【0427】
【0428】
【0429】
【0430】
【0431】
【0432】
【0433】
【0434】
表3-2中、Stはスチレン、EAはエチルアクリレート、nHMAはn-ヘキシルメタクリレート、St/EAはスチレンとエチルアクリレートとをモル比1:1で混合したもの、iBMAはイソブチルメタクリレート、BAはブチルアクリレート、3MPeは3-メチル-1-ペンテン、St/iBMAはスチレンとイソブチルメタクリレートとをモル比1:1で混合したもの、をそれぞれ表す。
【0435】
【0436】
【0437】
表4-1および表4-2中の重合体および結着樹脂の各「比率」は、トナー中の重合体と結着樹脂との合計量に対する重合体の割合(質量%)および結着樹脂の割合(質量%)を示す。比率が0質量%の場合には「-」とした。
【0438】
表2~表4で明らかなように、上記一般式(1)で表される構造単位を含み、上記一般式(2)で表されるプロペンイミン構造を有する各実施例の重合体は、光照射により流動化し、可逆的に非流動化することが確認された。これに対して、比較例1で作製したアゾベンゼン誘導体では、流動化の後の可逆的な非流動化が確認されなかった。
【0439】
また、表4-1、表4-2に示されるように、各実施例で作製した重合体を用いたトナーは、いずれも光照射により定着を行うことができ、高い定着性と優れた色再現性を示した。一方、比較例1におけるアゾベンゼン誘導体を用いたトナーは、定着性、色再現性が低いことがわかった。定着性試験で用いられた紫外線の光源および紫外線の照射条件は一定であることから、各実施例のトナーは比較例1のトナーに比べて、光照射により流動化し、可逆的に非流動化し、かつ著しい着色のない重合体による効果が十分に発現されたものといえる。また、色再現性に関しては、使用する一般式(1)の重合体の着色度で決まる。着色は、一般式(2)の部位の電子状態で決まる。一般式(2)部位の電子状態は、B1、B2とその置換基、r2、r3の電子求引性/電子供与性で決まると考えられる。言い換えれば、実施例の色再現性は、全て◎評価であり、これは、上記知見に基づき、◎評価が得られるように、一般式(2)の部位の電子状態、すなわち、B1、B2とその置換基、r2、r3等の基の性質(電子求引性/電子供与性)を制御した結果ともいえる。すなわち、重合体は、無色が好ましく、一般的に、電子求引性基を一般式(2)の部位へ導入すると吸収波形がレッドシフト(長波長シフト)することなどを勘案し、波長予測の計算を行った。その結果から、無色に近いB1、B2とその置換基、r2、r3を予測し、合成を実施し検証することで、本発明の重合体に必要なB1、B2とその置換基、r2、r3を決めたものである。
【0440】
定着装置の比較をすると、同じトナー1を用い、同じ条件で紫外線照射し、加圧部材を用いないNo.1の定着装置による光照射だけでも十分な定着性が有ることが分かった。また、加圧部材で加圧したNo.2の定着装置、更には加圧部材で加熱しつつ加圧したNo.3の定着装置を用いた方が、より高い定着性が得られることがわかった(実施例1、50、51の比較)。さらに、従来のトナーでは加圧のみでの定着は不可能であり、従来のトナーを加熱・加圧する場合よりも、本発明の光溶融トナーの方が、定着性が向上し、定着時に加える光照射エネルギーが、従来の定着エネルギー(加熱+加圧エネルギー)より小さくてすむ。このことから、加圧も加熱も行わないNo.1の定着装置が、構成の簡素化・小型化、省エネ化、地球温暖化防止(CO2削減)等の観点から最も好ましいといえる。
【0441】
各実施例に示されるように、プロペンイミン構造を有する一般式(1)で表される構造単位を含む重合体であれば、いずれも光照射により流動化し、可逆的に非流動化し、着色が少なく、これを用いたトナーによるトナー画像の定着性試験において70%以上の優れた定着率を示すことがわかる。このことから、定着性のポイントは、下記の通りである。第1段階では、重合体は、トランス体から光照射によりシス体に異性化し、結晶構造が崩れる。第2段階では、重合体は、光照射後のシス体から、トランス体に異性化し、結晶化する。よって、定着性向上のポイントとしては、異性化率と溶融/結晶化とが肝要と考えられる。より詳しくは、一般式(2)の部位の配列(平面性/直線性)、溶融/結晶化のしやすさ、異性化率が定着性に特に大きな影響を与えると考えられる。
【0442】
各実施例のトナーの定着性の比較から、一般式(1)の構造単位においてB1およびB2の両方が芳香族炭化水素基である場合が、定着性が相対的に高い傾向にある。次にB1およびB2のいずれか一方に芳香族複素環基を有する場合の方が、B1およびB2の両方が芳香族複素環基である場合よりも定着性が高い傾向にある。
【0443】
また、B1およびB2の両方が芳香族複素環基である実施例1~12の比較から、実施例4の炭素数4のジアルキルアミノ基、実施例2の炭素数10のアルキル基、実施例3の炭素数6のアルコキシ基、実施例1の炭素数6のアルキル基の順に徐々に定着性が高くなる傾向にある。このことからジアルキルアミノ基よりもアルコキシ基、アルキル基の方が、いずれも定着性が高くなることがわかる。
【0444】
また、B2のフェニル基の置換基が全て水素原子である実施例1の方が、メチル基を1つを導入した実施例5よりも定着性が高くなることがわかる。
【0445】
r4の炭素数が10である実施例1の方が、r4の炭素数が6の実施例6よりも定着性が高くなることから、r4の炭素数が大きい方が、定着性が良くなると考えられる。
【0446】
Z1がNである実施例1の方が、Z1がCHである実施例7よりも定着性が高くなることがわかる。
【0447】
一般式(2-c)の実施例1の方が、一般式(2-b)の実施例8や一般式(2-a)の実施例12よりも定着性が高くなることから、一般式(2-a)、(2-b)、(2-c)の順に定着性が高くなると考えられる。
【0448】
r2、r3が全て水素原子である実施例1の方が、メチル基を1つ導入した実施例9よりも定着性が高くなることがわかる。
【0449】
r1が水素原子である実施例1の方が、メチル基である実施例10よりも定着性が高くなることがわかる。
【0450】
B1がZ1に対してパラ位で重合性基に結合する実施例1の方が、メタ位で重合性基に結合する実施例11よりも定着性が高くなることがわかる。
【0451】
プロペンイミン構造を有する基を含む構造単位だけでなく、他の構造単位を組み合わせても同様に光照射による流動化および可逆的な非流動化が得られる。また、トナーに用いたときに良好な定着率が得られる。この際、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であっても優れた性能が得られることがわかった。特にブロック共重合体では定着性がより優れることがわかった。
【0452】
さらに、実施例1と実施例31との比較から、同じ構造単位を有する重合体であっても、数平均分子量が3500以上である実施例1の重合体のほうが、トナーの定着性に優れることがわかった。
【0453】
ブロック共重合体の場合、実施例36と実施例43との比較から、同じ構造単位を有する重合体であっても、重合体ブロックαの数平均分子量が1000以上であり、重合体ブロックβの数平均分子量が1000以上である実施例36の重合体のほうが、トナーの定着性に優れることがわかった。
【0454】
また、結着樹脂をさらに用いた場合も同様に良好な定着率および色再現性が得られることが確認された。上記重合体を用いることで、結着樹脂の含有比率が少なくても良好な定着率が得られうる。また、結着樹脂は、スチレンアクリル樹脂とポリエステル樹脂のどちらも良いといえる。
【符号の説明】
【0455】
1 感光体、
2 帯電器、
3 露光器、
4 現像部、
5 転写部、
7 用紙搬送系、
8 クリーニング部、
9 圧着部、
10 画像形成部、
11 給紙部、
12 搬送ローラー、
13 搬送ベルト、
14 排紙部、
15 手差し給紙部、
16 トレイ、
17 温湿度計、
20 画像処理部、
24 用紙反転部、
40 照射部、
71 画像読取装置、
72 自動原稿送り装置、
85 ブレード、
90 制御部、
91、92 加圧部材、
100 画像形成装置、
d 原稿、
S 記録用紙。