(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】バレル研磨装置
(51)【国際特許分類】
B24B 31/023 20060101AFI20240723BHJP
B24B 31/12 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
B24B31/023
B24B31/12 A
(21)【出願番号】P 2020174906
(22)【出願日】2020-10-16
【審査請求日】2023-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2020033850
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【氏名又は名称】大森 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100211052
【氏名又は名称】奥村 大輔
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 茂
(72)【発明者】
【氏名】末菅 啓朗
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第19614272(DE,A1)
【文献】特開昭58-082671(JP,A)
【文献】実開昭55-107955(JP,U)
【文献】実開昭62-201651(JP,U)
【文献】特開平10-277917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 31/00 - 31/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸線を有する筒状の固定槽と、前記固定槽の底部を覆うように設けられ且つ前記中心軸線周りに回転可能な回転盤と、を含むバレル槽を有するバレル研磨装置であって、
水平方向に延在する傾動軸を有し、前記傾動軸周りに前記バレル槽を傾動させる傾動機構を備え、
前記傾動軸の延在方向に平行な方向から見て、前記傾動軸は、前記傾動軸に対して平行に延び且つ前記バレル槽の重心を通る重心線よりも前記固定槽の上縁部に近接して配置され
、
前記傾動機構は、
前記傾動軸と前記バレル槽とを連結する連結部材と、
前記連結部材に連結された一端部及び他端部を有するシリンダと、を更に含み、
前記シリンダの伸縮によって前記バレル槽を前記傾動軸周りに傾動させ、
前記傾動機構が、前記傾動軸の延在方向に対して垂直な方向に延在するレールを更に含み、
前記シリンダの他端部は、前記レールに沿ってスライド可能である、バレル研磨装置。
【請求項2】
前記傾動軸が、前記バレル槽の外側で延在する、請求項1に記載のバレル研磨装置。
【請求項3】
前記固定槽の前記上縁部に取り付けられ、前記バレル槽から排出された被処理体を排出方向に案内するシュートを更に備える、請求項1又は2に記載のバレル研磨装置。
【請求項4】
前記バレル槽が水平に支持されていることを検知するセンサを更に備える、請求項1~3の何れか一項に記載のバレル研磨装置。
【請求項5】
前記バレル槽の傾動角度を予め定められた範囲内に規制する傾動規制部材を更に備える、請求項1~
4の何れか一項に記載のバレル研磨装置。
【請求項6】
前記固定槽は、筒状の筒状剛体と前記筒状剛体の内周面を被覆する第1のライニングとを有し、
前記回転盤は、前記中心軸線周りに回転可能な盤状剛体と前記盤状剛体の内面を被覆する第2のライニングとを有し、且つ、前記第1のライニングと前記第2のライニングとの間に間隙が形成された状態で回転可能であり、
前記盤状剛体には、前記筒状剛体によって画成された研磨空間に向けて突出する凸部が形成され、該凸部の周囲は前記第2のライニングで覆われており、
前記筒状剛体の内周面と前記第1のライニングとの間には退避空間が形成され、
前記退避空間は、前記中心軸線に直交する方向から見て、前記間隙と重なる位置に形成されている、請求項1~
5の何れか一項に記載のバレル研磨装置。
【請求項7】
前記中心軸線に直交する方向から見て、前記凸部が前記間隙に対して重なっており、前記凸部の前記間隙に対して重なる部分の前記中心軸線方向における長さが、前記間隙の前記中心軸線方向における長さの3分の1以上である、請求項
6に記載のバレル研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バレル研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
研磨空間内で研磨メディアと共に被処理体を流動させることで被処理体を研磨する流動バレル研磨装置が知られている。例えば、特許文献1には、円筒状の筒状剛体(固定槽)及び円盤状の回転底部(回転盤)を含むバレル槽と、バレル槽の内面に設けられた突壁と、バレル槽を垂直面内で傾動可能に、且つ、中心軸周りに固定槽を回転可能にバレル槽を支持する支持機構とを備えるバレル加工装置が記載されている。この装置は、バレル槽の中心軸線を水平に傾けた状態で中心軸周りに筒状剛体を回転させることにより、被処理体及び研磨メディアを突壁に沿って案内してバレル槽の口元部(上縁部)から排出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の装置では、バレル槽の底部に配置されたジョイントを中心にバレル槽を傾動させている。この構成では、バレル槽の上縁部の回転半径が大きくなるので、バレル槽の上縁部と排出位置との間の高さ方向における距離は傾動角度に応じて大きく変化する。したがって、バレル槽の傾動角度によっては、バレル槽の上縁部と排出位置との間の落差が大きくなり、落下時の衝撃によって被処理体に損傷が生じることがある。
【0005】
被処理体に損傷が生じる別の要因として、バレル研磨の際に異物が混入することがある。特許文献1に記載の装置では、バレル槽を傾動させる構造上、バレル槽の位置が必然的に高い位置に配置されることになる。そのため、被処理体や研磨メディア等をバレル槽に投入する際は、作業者の目線以上の位置から投入することになる。その際、被処理体や研磨メディア等の状態を確認しながら投入するのが困難なため、仮に異物が混入しても取り除くのが困難である。
【0006】
特許文献1に記載の装置では、上記のような被処理体に損傷が生じる問題だけでなく、作業性の問題もある。被処理体や研磨メディア等をバレル槽に投入する際は、作業者の目線以上の位置から投入することになる為、作業者にとって重労働になる。
【0007】
さらに、被処理体を排出する際、被処理体の形状によってはバレル槽を傾斜させただけでは排出できないので、排出されたか否かを目視で確認する必要がある。しかし、特許文献1に記載の装置では、バレル槽の位置が必然的に高い位置に配置されることとなるので、被処理体の排出状況を確認する作業の作業性が悪い。
【0008】
したがって、被処理体の損傷を抑制することができ、且つ、作業性のよいバレル研磨装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様のバレル研磨装置は、バレル槽を有するバレル研磨装置である。バレル槽は、中心軸線を有する筒状の固定槽と、固定槽の底部を覆うように設けられ且つ中心軸線周りに回転可能な回転盤と、を含む。このバレル研磨装置は、傾動機構を備える。傾動機構は、水平方向に延在する傾動軸を有し、傾動軸周りにバレル槽を傾動させる。傾動軸の延在方向に平行な方向から見て、傾動軸は、傾動軸に対して平行に延び且つバレル槽の重心を通る重心線よりも固定槽の上縁部に近接して配置されている。
【0010】
上記態様のバレル研磨装置では、傾動軸の延在方向に平行な方向から見て、傾動軸が固定槽の上縁部に近接して配置されているので、バレル槽の上縁部の回転半径を小さくすることができる。したがって、バレル槽の傾動角度を変化させた場合であっても、バレル槽の上縁部と排出位置との間の高さ方向の距離の変化が小さくなり、その結果、落下による被処理体の損傷を抑制することができる。また、バレル研磨装置の構造上、バレル槽を低い位置に配置することができるので、被処理体の投入作業又は確認作業を容易に行うことが可能となる。
【0011】
一実施形態では、傾動軸が、バレル槽の外側で延在していてもよい。傾動軸が、バレル槽の外側で延在することにより、傾動軸を固定槽の上縁部に近接させて配置することができる。
【0012】
一実施形態では、固定槽の上縁部に取り付けられ、バレル槽から排出された被処理体を排出方向に案内するシュートを更に備えていてもよい。シュートによって被処理体を排出方向に案内することにより、被処理体の損傷をより生じにくくさせることができる。
【0013】
一実施形態では、バレル槽が水平に支持されていることを検知するセンサを更に備えていてもよい。
【0014】
一実施形態では、傾動機構は、傾動軸とバレル槽とを連結する連結部材と、連結部材に連結された一端部及び他端部を有するシリンダと、を更に含んでもよい。そして、シリンダの伸縮によってバレル槽を傾動軸周りに傾動させてもよい。なお、傾動機構が、傾動軸の延在方向に対して垂直な方向に延在するレールを更に含んでもよい。そして、シリンダの他端部は、レールに沿ってスライド可能であってもよい。
【0015】
一実施形態では、バレル槽の傾動角度を予め定められた範囲内に規制する傾動規制部材を更に備えていてもよい。傾動規制部材によってバレル槽の傾動角度が過剰に大きくなることを防止することができる。
【0016】
一実施形態では、固定槽は、筒状の筒状剛体と第1のライニングとを有する。第1のライニングは、筒状剛体の内周面を被覆する。回転盤は、中心軸線周りに回転可能な盤状剛体と第2のライニングとを有する。第2のライニングは、盤状剛体の内面を被覆する。回転盤は、第1のライニングと第2のライニングとの間に間隙が形成された状態で回転可能であり、盤状剛体には、筒状剛体によって画成された研磨空間に向けて突出する凸部が形成され、該凸部の周囲は第2のライニングで覆われており、筒状剛体の内周面と第1のライニングとの間には退避空間が形成され、退避空間は、中心軸線に直交する方向から見て、間隙と重なる位置に形成されていてもよい。
【0017】
上記実施形態では、第1のライニング及び第2のライニングの間隙側への膨張を抑制することができるので、間隙の幅を小さく設計することが可能となる。その結果、薄い形状の被処理体を研磨することができる。このような形状の被処理体は、バレル槽を傾けた際にバレル槽の内壁に貼りついた状態となり自由落下で排出できない場合がある。この現象は、湿式で研磨する際は特に顕著である。一実施形態のバレル研磨装置では、被処理体の排出時にバレル槽の内部の視認性を向上させることができるので、被処理体の排出作業を容易にすることができる。
【0018】
一実施形態では、中心軸線に直交する方向から見て、凸部が間隙に対して重なっており、凸部の間隙に対して重なる部分の中心軸線方向における長さが、間隙の中心軸線方向における長さの3分の1以上であってもよい。この実施形態では、盤状剛体に形成された凸部が間隙に対して重なり合うように配置されているので、第2のライニングの間隙側への膨張をより確実に規制することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様及び種々の実施形態によれば、被処理体の損傷を抑制し、且つ、作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】一実施形態のバレル研磨装置を概略的に示す側面図である。
【
図3】バレル槽の一部を拡大して示す断面図である。
【
図5】バレル槽が傾動されたバレル研磨装置を示す側面図である。
【
図6】一実施形態のバレル研磨方法を示すフローチャートである。
【
図7】比較例に係るバレル研磨装置によって排出された被処理体の評価結果を示す図である。
【
図8】実施例に係るバレル研磨装置によって排出された被処理体の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本開示の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は繰り返さない。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0022】
図1は、一実施形態に係るバレル研磨装置を概略的に示す断面図である。
図1に示すバレル研磨装置1は、被処理体を研磨する流動式のバレル研磨装置であり、被処理体と研磨メディアを選別する選別装置60に隣接して配置されている。
図1に示すように、バレル研磨装置1は、バレル槽2及び傾動機構3を備えている。
【0023】
図2は、バレル槽2を概略的に示す断面図である。
図2に示すように、バレル槽2は、固定槽10及び回転盤20を備えている。
図2に示すように、固定槽10は、上部及び底部が開放され、軸線Zを中心軸線とする筒状に形成されている。固定槽10は、上縁部10a及び下縁部10bを有している。固定槽10は、筒状剛体12及び第1のライニング14を備えている。筒状剛体12は、金属等の剛体によって構成されており、軸線Zを中心軸線とする円筒形状を有している。
【0024】
筒状剛体12の内周面12aは、第1のライニング14によって被覆されている。第1のライニング14は、略円筒形をなしており、耐摩耗性を有する材料によって構成されている。第1のライニング14は、被処理体の研磨時に筒状剛体12が摩耗することを防止する。なお、第1のライニング14の材料としては、ウレタン樹脂が例示されるが、耐摩耗性を有する高分子材料であればウレタン樹脂に限定されるものではない。
【0025】
筒状剛体12の下方には、フランジ18が設けられている。フランジ18は、環状に形成され、固定槽10の下縁部10bに対して固定されている。
【0026】
フランジ18は、支持盤32によって支持されている。支持盤32は、中心部に開口が形成された円盤形状を有しており、径方向の内側端部が基部36に固定されている。支持盤32は、径方向の外側に向かうにつれて下方に位置するように傾斜する内側領域32a、及び、径方向の外側に向かうにつれて上方に位置するように傾斜する外側領域32bを含んでいる。内側領域32aと外側領域32bとの間の位置には滞留部32cが形成されている。支持盤32には、滞留部32cに連通するように排出管34が接続されている。排出管34には、バルブ35が設けられている。
【0027】
回転盤20は、固定槽10の下部を覆うように設けられている。この回転盤20は、固定槽10と共に被処理体を研磨するための研磨空間Sを画成している。回転盤20は、盤状剛体22及び第2のライニング24を有している。
【0028】
盤状剛体22は、支持盤32の上方に設けられている。盤状剛体22は、金属等の剛体によって構成されており、中心部に開口が形成された円盤形状を有している。盤状剛体22は、中心領域22a、及び、当該中心領域22aを囲むように設けられた外側領域22bを有している。盤状剛体22の外側領域22bには、軸線Z方向に沿って研磨空間S側に突出する凸部23が形成されている。凸部23の詳細については、後述する。
【0029】
盤状剛体22の上面(研磨空間S側の表面)は、第2のライニング24によって被覆されている。第2のライニング24は、中心部に開口が形成された円盤形状を有しており、耐摩耗性を有する材料によって構成されている。第2のライニング24は、被処理体の研磨時に盤状剛体22が摩耗することを防止する機能を有する。なお、第2のライニング24の材料としては、ウレタン樹脂が例示されるが、耐摩耗性を有する高分子材料であればウレタン樹脂に限定されるものではない。
【0030】
第1のライニング14の内周面14aと第2のライニング24の端面24aとの間には、回転盤20の回転を許容するための間隙40が形成されている。研磨空間S内の被処理体が間隙40から落下することを防止するために、第1のライニング14の内周面14aと第2のライニング24の端面24aとの距離(後述する間隙40の幅d)は、被処理体の幅よりも小さくなるように設計される。
【0031】
また、盤状剛体22の径方向の内側端部は、連結部材26に固定されており、当該連結部材26は回転軸28に固定されている。回転軸28は、軸線Zに沿って延在しており、軸線Z周りに回転可能となっている。回転軸28には、モータ30が接続されている。モータ30は、回転軸28を軸線Z周りに回転させる駆動力を発生し、その駆動力を伝達機構を介して回転軸28に伝達する。このモータ30の駆動力が回転軸28に伝達されると、第1のライニング14と第2のライニング24との間に間隙40が形成された状態で、盤状剛体22が軸線Zを中心に回転する。
【0032】
盤状剛体22が軸線Zを中心に回転すると、被処理体及び研磨メディアが遠心力によって研磨空間S内で渦状に流動する。この流動によって、被処理体と研磨メディアとが互いに衝突して被処理体が研磨される。なお、湿式のバレル研磨を行う場合には、被処理体及び研磨メディアと共に水及びコンパウンドが研磨空間S内に投入され、研磨空間S内で流動される。
【0033】
また、盤状剛体22と支持盤32との間には、ドレン通路31が形成されている。ドレン通路31は、バレル研磨で生じた被処理体の研磨屑、研磨メディアの破片(以下、被処理体の研磨屑及び研磨メディアの破片をまとめて「切粉」と称する。)、又は、切粉を含む研磨液を排出するための通路として利用される。ドレン通路31は、間隙40及び後述する退避空間42に連通している。研磨空間Sでのバレル研磨によって生じた切粉や研磨液は、第1のライニング14と第2のライニング24との間に形成された間隙40を通過し、ドレン通路31に回収される。ドレン通路31に回収された切粉や研磨液は、滞留部32cに集められ、排出管34からバレル研磨装置1の外部に排出される。
【0034】
次に、
図3を参照して、固定槽10について詳細に説明する。
【0035】
図3に示すように、固定槽10の筒状剛体12の内周面12aと第1のライニング14との間には、退避空間42が形成されている。より詳細には、退避空間42は、筒状剛体12と第1のライニング14との間に形成されている。この退避空間42は、軸線Zに直交する方向(
図3では左右方向)から見て、間隙40に対して重なる位置に形成されている。
【0036】
研磨空間S内に投入された被処理体をバレル研磨した場合には、研磨時間の経過に伴って被処理体と研磨メディアの摩擦熱等によって研磨空間S内の温度が上昇する。研磨空間Sの温度上昇に伴って第1のライニング14の温度が上昇すると、第1のライニング14は熱膨張して体積が増大する。このとき、第1のライニング14は円筒形を有しているので、第1のライニング14は径方向に膨張して退避空間42内に進入する。一方、第1のライニング14が径方向外側に膨張した分だけ、第1のライニング14の径方向内側への膨張が抑制される。その結果、間隙40の幅d(
図4参照)が狭まることが抑制される。
【0037】
次いで、
図3及び
図4を参照して、回転盤20及び間隙40について詳細に説明する。上記のように、間隙40は、第1のライニング14の内周面14aと第2のライニング24の外周側の端面24aとの間に形成されている。
図3及び
図4に示す断面視において、内周面14aと端面24aとは間隙40を介して対面するように配置されており、当該間隙40は、内周面14aと端面24aとの間で軸線Zに平行な方向に延びている。
図4に示すように、間隙40は、軸線Z方向において長さL1を有しており、軸線Zに直交する方向において幅dを有している。
【0038】
盤状剛体22の外側領域22b、より具体的には、盤状剛体22の径方向の外側端部には、凸部23が形成されている。凸部23は、間隙40の延在方向に平行な方向、すなわち軸線Z方向に盤状剛体22から突出している。凸部23が間隙40に露出しないように、凸部23の周囲は第2のライニング24で覆われている。このように凸部23の周囲が第2のライニング24で覆われることによって、間隙40を通過する切粉や研磨液によって凸部23が摩耗することが防止される。
【0039】
また、軸線Z方向に直交する方向(
図3及び
図4の左右方向)から見て、凸部23は、間隙40に対して少なくとも部分的に重なるように配置されている。ここで、軸線Zに直交する方向から見て、凸部23の間隙40に対して重なる重なり部分23aは、軸線Z方向において長さL2を有している。この重なり部分23aの長さL2は、間隙40の長さL1の3分の1以上に設定されている。なお、重なり部分23aの長さL2は、間隙40の長さL1の2分の1以上に設定されていてもよい。
【0040】
この凸部23は、第2のライニング24の間隙40側(外周側)への膨張を規制する機能を有する。すなわち、研磨空間S内で被処理体が研磨されて研磨空間S内の温度が上昇すると、第2のライニング24が熱膨張して、第2のライニング24の体積が増大する。ここで、軸線Z方向に延在する凸部23が設けられていると、第2のライニング24の間隙40側(外周側)への膨張が規制され、第2のライニング24の膨張が研磨空間S側(軸線Z方向)に進行する。したがって、第2のライニング24の膨張によって間隙40の幅dが狭まることが抑制される。特に、凸部23の重なり部分23aの長さL2が、間隙40の長さL1の3分の1以上に設定されていることで、間隙40の幅dが狭まることをより確実に抑制することができる。
【0041】
また、
図3に示すように、凸部23上に形成された第2のライニング24は、中心領域22a上に形成された第2のライニングの厚みTH2よりも大きな厚みTH1を有している。流動式のバレル研磨では、盤状剛体22の回転によって遠心力が生じ、研磨空間S内の固定槽10側の領域で被処理体及び研磨メディアが渦状に流動するので、第2のライニング24の外側部分(第2のライニングのうち外側領域22b上に形成された部分)は、第2のライニング24の内側部分(第2のライニングのうち中心領域22a上に形成された部分)よりも早く摩耗が進行する。このとき、凸部23上の第2のライニング24の厚みTH1を、中心領域22a上の第2のライニング24の厚みTH2よりも大きくすることによって、第2のライニング24が摩耗して凸部23が研磨空間Sに露出することが抑制される。よって、バレル研磨装置1の寿命を向上させることが可能となる。
【0042】
図1に示すように、固定槽10の上縁部10aには、バレル槽2から排出された被処理体を選別装置60(排出方向)へ案内するシュート15が取り付けられていてもよい(
図1及び
図5参照)。シュート15は、例えば軸線Zを含み且つ後述する傾動軸50に垂直な面に重なる位置において上縁部10aに取り付けられ、上縁部10aから軸線Z方向に延在している。
【0043】
図1を参照する。傾動機構3は、軸線Zを含む垂直面内においてバレル槽2を傾動させる。傾動機構3は、傾動の支点となる傾動軸50を有している。
図1に示すように、傾動軸50は、バレル槽2の外側において水平方向に延在しており、その軸周りで回転可能なようにフレーム55上に支持されている。ここで、傾動軸50に対して平行に延び且つバレル槽2の重心を通る仮想線を重心線Yとした場合、傾動軸50に平行な方向から見て、傾動軸50は、重心線Yよりも固定槽10の上縁部10aに近接して配置されている。例えば、傾動軸50は、バレル槽2の径方向において軸線Zよりも上縁部10aに対して近接して配置され、軸線Z方向において下縁部10bと上縁部10aとの中間位置よりも上縁部10aに近接して配置されている。
【0044】
傾動機構3は、連結部材51、シリンダ52及びレール53を更に備えている。連結部材51は、例えばプレート状に形成され、傾動軸50とバレル槽2とを連結している。
図1に示す実施形態では、連結部材51は、重心線Yに重なる位置においてバレル槽2に固定されている。
【0045】
シリンダ52は、傾動軸50を支点としてバレル槽2を回転させるための駆動力をバレル槽2に付与する。シリンダ52は、例えば油圧式のシリンダであり、その長さ方向に伸縮可能に構成されている。シリンダ52は、一端部52a及び他端部52bを有し、その一端部52aは、例えば傾動軸50と重心線Yとの間の位置において連結部材51に対して回転可能に接続されている。
【0046】
レール53は、ベース54上に支持されており、水平面内において傾動軸50に対して垂直な方向に沿って延在している。レール53上には、シリンダ52の他端部52bがスライド可能な状態で支持されている。また、レール53上には、他端部52bの移動を規制するスライドストッパ56が設けられている。
【0047】
図1及び
図5を参照して、傾動機構3の動作について説明する。
図1に示すように、バレル研磨前又はバレル研磨中には、傾動機構3のシリンダ52は、短縮された状態でバレル槽2を水平に支持する。
【0048】
これに対して、バレル研磨の終了後等、被処理体を排出するためにバレル槽2を傾動させるときには、シリンダ52を伸長させる。シリンダ52が伸長すると、シリンダ52の他端部52bは、レール53に沿って傾動軸50に垂直な方向にスライドし、やがてスライドストッパ56に接触する。他端部52bがスライドストッパ56に接触した状態でシリンダ52が更に伸長すると、
図5に示すように、シリンダ52からの押圧力によって傾動軸50を支点としてバレル槽2が傾動する。バレル槽2の傾動角度がある程度の角度に達すると、バレル槽2内の被処理体及び研磨メディアを含むマスMが、例えばシュート15を介して選別装置60に排出される。このとき、選別装置60の高さ位置を傾動軸50の高さ位置に近づけておくことで、マスMの落下距離を小さくすることができるので、被処理体の損傷を抑制することができる。
【0049】
なお、バレル槽2からマスMを排出するときに、反転されたバレル槽2の内部に対して洗浄ノズルから洗浄液を噴射してマスMの排出を促進してもよい。
【0050】
選別装置60は、例えば洗浄ノズル61から洗浄水を供給しながらスクリーン62上でバレル槽2から排出されたマスMを振動させることで、被処理体と研磨メディアとを選別する。
【0051】
なお、一実施形態では、傾動機構3は、反転ストッパ57及びセンサ58を更に備えていてもよい。反転ストッパ57は、バレル槽2の傾動角度を予め定められた範囲内に規制する傾動規制部材として機能する。
図5に示すように、反転ストッパ57は、例えばフレーム55に固定されており、バレル槽2の傾動角度が、予め定められた最大傾動角度θに達すると連結部材51に当接して、最大傾動角度θを超えるバレル槽2の傾動を規制する。
【0052】
センサ58は、バレル槽2が水平に支持されていることを検知する。センサ58は、例えば接触式センサであり、バレル槽2が水平位置にあるときにバレル槽2に接触するようにフレーム55に取り付けられている。なお、センサ58は、バレル槽2に取り付けられ、フレーム55に接触したことを検知することでバレル槽2の水平状態を検知してもよい。
【0053】
バレル研磨装置1は、制御装置Cntを更に備えていてもよい。制御装置Cntは、プロセッサ、記憶部、入力装置、表示装置等を備えるコンピュータであり、バレル研磨装置1の各部を制御する。この制御装置Cntでは、入力装置を用いて、オペレータがバレル研磨装置1を管理するためにコマンドの入力操作等を行うことができ、また、表示装置により、バレル研磨装置1の稼働状況を可視化して表示すことができる。制御装置Cntの記憶部には、バレル研磨装置1で実行される各種処理をプロセッサにより制御するための制御プログラムや、処理条件に応じてバレル研磨装置1の各構成部に処理を実行させるためのプログラムが格納される。
【0054】
次に、バレル研磨装置1を用いたバレル研磨方法の一例について説明する。
図6は、一実施形態のバレル研磨方法を示すフローチャートである。
図6に示す処理の少なくとも一部は、制御装置Cntがバレル研磨装置1の各部を制御することによって実行される。
【0055】
このバレル研磨方法では、まずバレル槽2内に被処理体及び研磨メディアが投入される(ステップS1)。なお、必要に応じて水及びコンパウンドをバレル槽2内に投入してもよい。以下では、被処理体及び研磨メディアに加え水とコンパウンドを投入する湿式のバレル研磨方法について説明する。
【0056】
次に、制御装置Cntは、盤状剛体22を回転させることで、バレル槽2内で被処理体及び研磨メディアを流動させてバレル研磨を行う(ステップS2)。被処理体が一定時間バレル研磨されると、制御装置Cntは、排出管34に設けられたバルブ35を開放してバレル槽2内の処理液を排水する(ステップS3)。
【0057】
次に、制御装置Cntは、バレル槽2を傾動させて被処理体及び研磨メディアをバレル槽2から排出する(ステップS4)。より具体的には、制御装置Cntは、シリンダ52を伸長させることにより、傾動軸50を支点としてバレル槽2を傾動させる。バレル槽2の傾動角度がある程度の角度に達すると、バレル槽2の上縁部10aから排出された被処理体及び研磨メディアがシュート15を介して選別装置60に移載される。
【0058】
次に、選別装置60が、バレル研磨装置1から移載された被処理体と研磨メディアとを選別する(ステップS5)。このとき、被処理体は、洗浄ノズル61から吹き付けられた洗浄水によって洗浄される。
【0059】
上述したバレル研磨装置1では、傾動軸50に平行な方向から見て、傾動軸50が固定槽10の上縁部10aに近接して配置されているので、バレル槽2の傾動角度を変化させた場合であっても、バレル槽2の上縁部10aと排出先である選別装置60との間の落差の変化を小さくすることができる。したがって、落下による被処理体の損傷を抑制することができる。なお、被処理体の落下時の衝撃を緩和するために、選別装置60には衝撃吸収用のライニングが形成されていてもよい。また、選別装置60には、バレル槽2の上縁部10aと選別装置60との高さ方向の距離を減少させる傾斜面を有する落差減少シュートが設けられていてもよい。さらに、バレル研磨装置1では、その構造上バレル槽2を低い位置に配置することができるので、視認性を改善することができ、その結果、被処理体の投入作業又は確認作業を容易に行うことができる。特に、バレル槽2の固定槽10の上部が開放されているので、バレル槽を傾斜させた際にバレル槽の内部を目視で確認しながら排出することが可能である。
【0060】
次に、実施例及び比較例に基づいて、バレル研磨装置1の作用効果についてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
実施例及び比較例では、容積190Lのバレル槽内に研磨メディア、ダミーワーク及び評価用ワークを投入し、130min-1の回転数で1分間研磨を行った。研磨メディアとしては、セラミック製の研磨材である新東工業社製のパワーメディアV7-A6×10を70L投入した。ダミーワークとしては、SS440製のL字アングルを1000個投入した。なお、ダミーワークの寸法は、25mm×25mm×3mmであった。評価用ワークとしては、S45C製の製品を10個投入した。なお、評価用ワークの寸法は、直径22mm×長さ15mmであった。
【0062】
比較例では、重心線Yの付近に傾動軸を有する従来式のバレル研磨装置を用いて、研磨後の研磨メディア、ダミーワーク及び評価用ワークを選別装置60に排出して研磨メディア、ダミーワーク及び評価用ワークを選別した。そして、評価用ワークに生じた打痕を評価した。一方、実施例では、固定槽10の上縁部10aに近接して配置された傾動軸50を支点としてバレル槽2を傾動するバレル研磨装置1を用いて、研磨後の研磨メディア、ダミーワーク及び評価用ワークを選別装置60に排出して研磨メディア、ダミーワーク及び評価用ワークを選別した。そして、評価用ワークに生じた打痕を評価した。
【0063】
図7は、比較例に係るバレル研磨装置によって排出された評価用ワークの打痕の評価結果を示している。
図8は、実施例に係るバレル研磨装置によって排出された評価用ワークの打痕の評価結果を示している。
図7及び
図8に示す通り、実施例に係るバレル研磨装置1を用いた場合には、評価用ワークに生じる打痕の平均数が減少すると共に、打痕の平均サイズを小さくすることができることが確認された。この結果から、バレル研磨装置1によれば、落下による被処理体の損傷を抑制することができることが確認された。
【0064】
以上、種々の実施形態に係るバレル研磨装置について説明してきたが、上述した実施形態に限定されることなく発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形態様を構成可能である。
【0065】
例えば、上記実施形態では、伸縮可能なシリンダ52を用いてバレル槽2を傾動しているが、少なくとも上縁部10aに近接する傾動軸50を支点としてバレル槽2を傾動可能であれば、バレル槽2の傾動手段はシリンダ52に限定されるものではない。例えば、モータの駆動力によってバレル槽2を傾動軸50周りに回動してもよい。
【0066】
また、被処理体の排出先は、選別装置60に限定されるものではなく、バレル研磨装置1は、任意の排出先に被処理体を排出することができる。
【符号の説明】
【0067】
1…バレル研磨装置、2…バレル槽、3…傾動機構、10…固定槽、10a…上縁部、12…筒状剛体、12a,14a…内周面、14…第1のライニング、24…第2のライニング、15…シュート、20…回転盤、22…盤状剛体、23…凸部、40…間隙、42…退避空間、50…傾動軸、51…連結部材、52…シリンダ、52a…一端部、52b…他端部、53…レール、58…センサ、S…研磨空間、Y…重心線。