(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】サーボパラメータの調整方法、及び調整装置
(51)【国際特許分類】
H02P 29/00 20160101AFI20240723BHJP
G05B 11/36 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
H02P29/00
G05B11/36 A
(21)【出願番号】P 2020198892
(22)【出願日】2020-11-30
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 健治
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 巧
(72)【発明者】
【氏名】原田 浩行
(72)【発明者】
【氏名】海田 僧太
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-328829(JP,A)
【文献】特開2018-151682(JP,A)
【文献】特開2018-151884(JP,A)
【文献】国際公開第2019/078129(WO,A1)
【文献】特開2004-260891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/00
G05B 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータが取り付けられた設備装置における、該モータのサーボ制御に関連するサーボパラメータを、該設備装置が設けられた場所とは異なる調整場所から遠隔で調整する方法であって、
前記設備装置において前記モータのイナーシャ比に関連するパラメータを含む暫定パラメータが暫定的に設定された状態で少なくとも2つのサンプリング周期のそれぞれで計測された該モータの周波数応答の周波数解析結果を取得する第1ステップと、
前記調整場所で、前記暫定パラメータと前記少なくとも2つのサンプリング周期に対応する前記周波数解析結果とに基づいて、前記設備装置に関連するシミュレーション処理を経て前記サーボパラメータを調整する第2ステップと、
前記調整されたサーボパラメータを前記設備装置に送信する第3ステップと、
を含む、サーボパラメータの調整方法。
【請求項2】
前記第1ステップでは、前記周波数応答の計測結果を取得し、前記調整場所で該計測結果に対して所定の高速フーリエ変換処理を施して前記周波数解析結果を取得する、
請求項1に記載のサーボパラメータの調整方法。
【請求項3】
前記第1ステップでの前記周波数解析結果の取得前に、前記モータを駆動して暫定的なサンプリング周期で計測された該モータの周波数応答の暫定的な周波数解析に基づいて、前記少なくとも2つのサンプリング周期が決定される、
請求項1又は請求項2に記載のサーボパラメータの調整方法。
【請求項4】
前記少なくとも2つのサンプリング周期は、前記設備装置の共振周波数と、前記モータのサーボ制御において形成される速度開ループとに基づいて決定される、
請求項3に記載のサーボパラメータの調整方法。
【請求項5】
前記設備装置において生じる事象に関連する所定パラメータの時系列データを取得する第4ステップを更に含み、
前記第2ステップでは、前記暫定パラメータと、前記周波数解析結果と、前記所定パラメータの時系列データとに基づいて、前記サーボパラメータが調整される、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載のサーボパラメータの調整方法。
【請求項6】
前記所定パラメータの時系列データは、前記モータを位置制御した際の、該モータの停止時を含む所定期間の、速度指令、トルク指令、位置偏差のうち少なくとも1つに関連する時系列データである、
請求項5に記載のサーボパラメータの調整方法。
【請求項7】
モータが取り付けられた設備装置における該モータのサーボ制御に関連するサーボパラメータを、該設備装置が設けられた場所とは異なる調整場所から遠隔で調整する調整装置であって、
前記設備装置において前記モータのイナーシャ比に関連するパラメータを含む暫定パラメータが暫定的に設定された状態で少なくとも2つのサンプリング周期のそれぞれで計測された該モータの周波数応答の周波数解析結果を取得する取得部と、
前記暫定パラメータと前記少なくとも2つのサンプリング周期に対応する前記周波数解析結果とに基づいて、前記設備装置に関連するシミュレーション処理を経て前記サーボパラメータを調整する調整部と、
前記調整されたサーボパラメータを前記設備装置に送信する送信部と、
を備える、調整装置。
【請求項8】
前記少なくとも2つのサンプリング周期は、前記モータを駆動して暫定的なサンプリング周期で計測された該モータの周波数応答の暫定的な周波数解析で得られる、前記設備装置の共振周波数と、前記モータのサーボ制御において形成される速度開ループとに基づいて決定される、
請求項7に記載の調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボパラメータの調整方法、及びサーボパラメータの調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
負荷を駆動するためのモータ等が取り付けられた設備装置においては、一般的に、モータを適切にサーボ制御するために、サーボドライバのサーボパラメータ(位置ゲイン、速度ゲイン、フィルタのカットオフ周波数等)の調整が行われる。そして、このようなサーボパラメータの調整方法としては、一般的には、モータや負荷装置を実際に駆動することにより行われる調整方法が採用される。そこでは、サーボドライバ等のモータ制御装置にサーボパラメータを設定するとともに、そのサーボパラメータに応じたモータの周波数応答等を計測し、当該サーボパラメータの適否を判断することでサーボパラメータの調整が行われる。また上記のように実際の負荷装置を駆動させながらパラメータを調整する形態に代えて、負荷装置の応答に関するシミュレーション結果に基づきサーボパラメータを決定する手法も例示できる。
【0003】
ここで、特許文献1に示す先行技術では、設定されたサーボパラメータの適否を判断するための性能指標を算出し、その性能指標に基づいて最終的に設定されるべきサーボパラメータが決定される。性能指標としては、制御の安定性や、整定時間等の応答性に関するパラメータが採用されている。すなわち、当該技術では、サーボパラメータとモータ挙動との相関を、当該性能指標を用いて可視化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的には、モータをサーボ制御するためのサーボパラメータを決定するために、実際にモータや負荷等を含む設備装置を駆動させてその応答を計測することが広く行われている。これは負荷やモータをモデル化したシミュレーション処理だけでは、完全に実際の設備装置を計算機上で再現することは難しく、結果として、最適なサーボパラメータの調整が行い得ないからである。現実的には、設定されたサーボパラメータ次第では、設備装置において振動や異音が発生する場合もあり、このような好ましくない事象をシミュレーションだけでは発見しにくいため、実際の設備装置を駆動しながらサーボパラメータの調整が行われることが多い。
【0006】
しかし、サーボパラメータによっては設備装置の挙動は大きく変わるため、サーボパラメータの調整は容易ではなく、相応に熟練した技術が必要とされる。そのため、そのような技術を有する者が、設備装置が設けられた場所にいない場合には、速やかなサーボパラメータの調整が困難となり、当該設備装置の立ち上げに時間を要してしまう。また、設備装置が設けられた場所が遠方にある場合、相応の技術を有する者が遠方まで移動する必要があり、その作業負荷は小さくない。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、サーボパラメータの調整に関する相応の技術を有する者が、設備装置の設置場所から離れた場所にいる場合でも、速やかに当該設備装置におけるモータのサーボパラメータの調整が行い得る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係るサーボパラメータの調整方法は、モータが取り付けられた設備装置における、該モータのサーボ制御に関連するサーボパラメータを、該設備装置が設けられた場所とは異なる調整場所から遠隔で調整する方法であって、前記設備装置において前記モータのイナーシャ比に関連するパラメータを含む暫定パラメータが暫定的に設定された状態で少なくとも2つのサンプリング周期のそれぞれで計測された該モータの周波数応答の周波数解析結果を取得する第1ステップと、前記調整場所で、前記暫定パラメータと前記少なくとも2つのサンプリング周期に対応する前記周波数解析結果とに基づいて、前記設備装置に関連するシミュレーション処理を経て前記サーボパラメータを調整する第2ステップと、前記調整されたサーボパラメータを前記設備装置に送信する第3ステップと、を含む。
【0009】
上記調整方法は、設備装置が設けられた場所と異なる場所、すなわち遠隔にある調整場所で行われる、設備装置のモータのサーボ制御を行うためのサーボパラメータの調整方法である。すなわち、当該調整方法は、実際の制御対象であるモータを有する設備装置の挙動を直接確認できない場所で行われることになる。そこで、概略的には、設備装置でモータの周波数応答が計測され、その計測された周波数応答の周波数解析が行われ、その結果を用いてサーボパラメータの調整が行われることになる。パラメータ調整のために好適な周波数応答を計測するためには、必ずしも最適ではなくてもある程度は好適な速度ゲインが設定されているのが好ましい。そこで、暫定パラメータには、モータのイナーシャ比に関連するパラメータが含まれる。
【0010】
上記調整方法では、上記周波数応答の周波数解析を好適に実現するために、少なくとも2つのサンプリング周期のそれぞれで計測された周波数応答の周波数解析が行われる。これは、サンプリング周期によって周波数解析結果を通して見える、モータのサーボ特性が変動するからである。すなわち、サンプリング周期が短くなるほど広い周波数領域の特性解析が可能であるが、反面、低周波領域における特性が不正確となる。逆に、サンプリング周期が長くなるほど低周波数領域の特性解析を正確に行い得るが、反面、解析できる周波数領域は狭くなり、高周波数領域での特性を見逃す恐れが生じる。遠隔の調整場所からサーボパラメータの調整を行う場合、設備装置が調整者の近くに存在していないため、設備装置の状況に応じて様々な条件でモータの駆動を行い、都度その挙動を確認することは容易ではない。サーボパラメータの調整者と、モータの駆動者との間で多くのやり取りを要してしまうと、円滑なサーボパラメータの調整が妨げられることになる。
【0011】
そこで、設備装置において好適な広さの周波数領域と、低周波領域での解析精度との両立の観点から、少なくとも2つのサンプリング周期のそれぞれで計測された周波数応答の周波数解析を行うために、当該サンプリング周期が決定される。例えば、前記周波数解析結果の取得前に、前記モータを駆動して暫定的なサンプリング周期で計測された該モータの周波数応答の暫定的な周波数解析に基づいて、前記少なくとも2つのサンプリング周期が決定されてもよい。より具体的には、前記少なくとも2つのサンプリング周期は、前記設備装置の共振周波数と、前記モータのサーボ制御において形成される速度開ループとに基づいて決定されてもよい。また、周波数解析のためのサンプリング周期は、3つ以上設定しても構わない。
【0012】
そして、第1ステップでは、上記少なくとも2つのサンプリング周期のそれぞれで計測されたモータの周波数応答の周波数解析結果が取得される。なお、第1ステップにおける周波数解析結果の取得は、前記周波数応答の計測結果を取得し、前記調整場所で、該計測結果に対して所定の高速フーリエ変換処理を施すことで実現してもよい。また、別法として、設備装置において計測された周波数応答に対する所定の高速フーリエ変換処理は、調
整場所とは異なる場所、例えば、設備装置の設置場所や、当該設置場所でも調整場所でもない第3の場所で施されてもよい。調整場所には、その所定の高速フーリエ変換処理済みの結果、すなわち周波数解析結果が届けられることで上記取得が実現されても構わない。
【0013】
次に、第2ステップでは、周波数応答を計測した際の暫定パラメータと、第1ステップで取得した周波数解析結果とに基づいて、設備装置に関連するシミュレーション処理を経て、より好適なサーボパラメータの調整が行われる。サーボパラメータとしては、位置ループゲイン、速度ループゲインや、振動抑制のためのフィルタに関連するパラメータ(カットオフ周波数等)が例示できる。例えば、周波数解析結果から把握できるゲインの乱れ(制御帯域付近のピークゲインや共振点等)を抑えるように、サーボパラメータが調整される。また、当該調整に利用されるシミュレーション処理は、公知の様々な処理を採用することができる。例えば、モータと負荷のイナーシャ比から特定される単純な物理モデルや、周波数解析結果を反映させた複雑なモデル等を設定したシミュレーション処理を採用できる。当該第2ステップにおける調整は、設備装置の設置場所とは異なる調整場所で実施される。
【0014】
そして、第3ステップでは、第2ステップで調整されたサーボパラメータが設備装置に送信される。送信されたサーボパラメータは設備装置において、モータのサーボ制御のために設定される。このように上記の調整方法によれば、サーボパラメータの調整に関する相応の技術を有する者が、設備装置の設置場所から離れた場所にいる場合でも、速やかに当該設備装置におけるモータのサーボパラメータの調整が行うことができ、設備装置を好適に稼働させることができる。
【0015】
ここで、上記の調整方法は、前記設備装置において生じる事象に関連する所定パラメータの時系列データを取得する第4ステップを更に含んでもよい。そして、前記第2ステップでは、前記暫定パラメータと、前記周波数解析結果と、前記所定パラメータの時系列データとに基づいて、前記サーボパラメータが調整されてもよい。このように周波数応答の周波数解析結果以外のデータであって、調整対象のモータの位置制御が行われた際の所定パラメータに関する時系列データを利用することで、より好適なサーボパラメータの調整が可能となる。
【0016】
そして、例えば、前記所定パラメータの時系列データは、前記モータを位置制御した際の、該モータの停止時を含む所定期間の、速度指令、トルク指令、位置偏差のうち少なくとも1つに関連する時系列データであってもよい。位置制御時におけるモータの停止時は、比較的振動が生じやすいタイミングであり、そのような振動の有無が設備装置の性能等に大きな影響を及ぼす。そこで、停止時を含む所定期間における速度指令、トルク指令、位置偏差の時系列データは、機械で生じる振動を反映するデータであるから、これらのデータを利用することで、モータのサーボパラメータの調整をより好適に行いやすい。
【0017】
ここで、本発明を、モータが取り付けられた設備装置における該モータのサーボ制御に関連するサーボパラメータを、該設備装置が設けられた場所とは異なる調整場所から遠隔で調整する調整装置の側面から捉えることができる。そして、当該調整装置は、前記設備装置において前記モータのイナーシャ比に関連するパラメータを含む暫定パラメータが暫定的に設定された状態で少なくとも2つのサンプリング周期のそれぞれで計測された該モータの周波数応答の周波数解析結果を取得する取得部と、前記暫定パラメータと前記少なくとも2つのサンプリング周期に対応する前記周波数解析結果とに基づいて、前記設備装置に関連するシミュレーション処理を経て前記サーボパラメータを調整する調整部と、前記調整されたサーボパラメータを前記設備装置に送信する送信部と、を備える。このように構成される調整装置によれば、上述までのサーボパラメータの調整方法を実現可能である。
【0018】
また、上記の調整装置において、前記少なくとも2つのサンプリング周期は、前記モータを駆動して暫定的なサンプリング周期で計測された該モータの周波数応答の暫定的な周波数解析で得られる、前記設備装置の共振周波数と、前記モータのサーボ制御において形成される速度開ループとに基づいて決定されてもよい。また、周波数解析のためのサンプリング周期は、3つ以上設定しても構わない。その他、上記にてサーボパラメータの調整方法について開示した技術思想は、技術的齟齬の生じない範囲で当該調整装置にも適用することができる。
【発明の効果】
【0019】
サーボパラメータの調整に関する相応の技術を有する者が、設備装置の設置場所から離れた場所にいる場合でも、速やかに当該設備装置におけるモータのサーボパラメータの調整が行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明のサーボパラメータの調整方法が適用されるモータを搭載する設備装置の制御システム、および、当該調整方法を実行する調整装置の概略構成を示す図である。
【
図2】上段(a)は、
図1に示す制御システムに含まれるサーボドライバの制御構造を示す図であり、下段(b)は、調整装置が有するシミュレーション系の構造を示す図である。
【
図3】設備装置の制御システムと調整装置との間で行われる、設備装置のモータのサーボパラメータの調整方法に関するフローチャートである。
【
図4】左図(a)は、サンプリング周期が比較的短い場合の周波数応答の周波数解析結果を示す図であり、右図(b)は、サンプリング周期が比較的長い場合の周波数応答の周波数解析結果を示す図である。
【
図5】
図4の(a)に示す周波数解析結果と(b)に示す周波数解析結果を結合して生成した解析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<実施例1>
図1は、本発明のサーボパラメータの調整方法が適用される制御システムの概略構成と、当該調整方法が実行される調整装置10の概略構成を示す図である。先ず、制御システムについて説明する。制御システムは、ネットワーク1と、モータ2と、負荷装置3と、サーボドライバ4と、標準PLC(Programmable Logic Controller)5とを備える。当該
制御システムは、モータ2とともに負荷装置3を駆動制御するためのシステムである。そして、モータ2及び負荷装置3が、当該制御システムによって制御される設備装置6とされる。ここで、負荷装置3としては、各種の機械装置(例えば、産業用ロボットのアームや搬送装置)が例示でき、モータ2はその負荷装置3を駆動するアクチュエータとして負設備装置6内に組み込まれている。例えば、モータ2は、ACサーボモータである。なお、モータ2には図示しないエンコーダが取り付けられており、当該エンコーダによりモータ2の動作に関するパラメータ信号がサーボドライバ4にフィードバック送信されている。このフィードバック送信されるパラメータ信号(以下、フィードバック信号という)は、たとえばモータ2の回転軸の回転位置(角度)についての位置情報、その回転軸の回転速度の情報等を含む。
【0022】
サーボドライバ4は、ネットワーク1を介して標準PLC5からモータ2の動作(モーション)に関する動作指令信号を受けるとともに、モータ2に接続されているエンコーダから出力されたフィードバック信号を受ける。サーボドライバ4は、標準PLC5からの動作指令信号およびエンコーダからのフィードバック信号に基づいて、モータ2の駆動に
関するサーボ制御、すなわち、モータ2の動作に関する指令値を算出するとともに、モータ2の動作がその指令値に追従するように、モータ2に駆動電流を供給する。なお、この供給電流は、交流電源7からサーボドライバ4に対して送られる交流電力が利用される。本実施例では、サーボドライバ4は三相交流を受けるタイプのものであるが、単相交流を受けるタイプのものでもよい。なお、サーボドライバ4によるサーボ制御については、サーボドライバ4が有する位置制御器41、速度制御器42、電流制御器43を利用したフィードバック制御であり、その詳細については
図2に基づいて後述する。
【0023】
このように構成される設備装置6とそれをサーボ制御する制御システム(サーボドライバ4等)は、工場等の所定の場所R1に設けられている。したがって、設備装置6が実際に稼働するためには、それに組み込まれモータ2のサーボ制御のためのサーボパラメータが、負荷装置3の実際の構造や制御上の特性等を適切に反映したものでなければならない。そのため、従来では、設備装置6を稼働させるためには、サーボパラメータの調整技術を有する者が実際に設備装置6の設置場所を訪問し、調整を行わなければならなかった。しかし、本願が開示する調整装置10は、このような調整技術を有する者が設備装置の設置場所を訪問しなくても、そのサーボパラメータの調整を効率的に行うことを可能とするものである。
【0024】
具体的に、調整装置10の構成について、
図1に基づいて説明する。
図1では、調整装置10において実行されるソフトウェア等によって実行される各種の機能をイメージ化して表した機能ブロック図である。なお、調整装置10は、設備装置6が設置されている場所R1とは遠く離れた場所R2に配置されている。この場所R2は、調整装置10を操作するユーザが、設備装置6の挙動を直接確認できない程度に、設置場所R1から十分に遠方に離れた場所である。例えば、場所R1と場所R2は、数十km、数百km離れていてもよく、また、場所R2が日本国内としたときに場所R1は日本の国外であってもよい。
【0025】
ここで、調整装置10は、サーボドライバ4の装置制御パラメータを調整するための装置であり、調整用のソフトウェア(プログラム)が搭載されている。具体的には、調整装置10は、演算装置やメモリ等を有するコンピュータであり、そこで実行可能な調整用ソフトウェアがインストールされている。そして、調整装置10はこの調整用ソフトウェアを用いて、設備装置6のモータ2のサーボ制御に関連するサーボパラメータを調整する。なお、調整装置10と、設備装置6もしくはサーボドライバ4とは、有線や無線にて通信可能に接続されている。
【0026】
そして、調整装置10は、取得部11、調整部12、通信部13を有している。取得部11は、サーボパラメータの調整対象であるモータ2の周波数応答の周波数解析結果を取得する機能部である。取得部11は、自身でモータ2の周波数応答を取得し、更にそれに対して所定の高速フーリエ変換処理を施すことで周波数解析結果を取得してもよく、別法として、取得部11以外により実行された所定の高速フーリエ変換処理で生成された周波数解析結果を取得する形態でも構わない。調整部12は、サーボドライバ4によりサーボ制御された際の設備装置6の応答を算出するためのシミュレーション処理を実行することで、取得部11が取得した周波数解析結果等に基づいてモータ2をサーボ制御するためのサーボパラメータの調整を行う機能部である。また、通信部13は、調整装置10と設備装置6の制御システムとのデータの送受信を司る機能部である。
【0027】
ここで、モータ2をサーボ制御するためのサーボドライバ4の制御構造と、調整装置10の調整部12が有する、シミュレーション処理のための処理構造について、
図2に基づいて説明する。サーボドライバ4は、位置制御器41、速度制御器42、電流制御器43を備え、これらの処理により上記サーボ制御が実行される。そこで、
図2の上段(a)に示すサーボドライバ4の制御構造に基づいて、サーボドライバ4による上記サーボ制御の
内容について説明する。位置制御器41は、例えば、比例制御(P制御)を行う。具体的には、標準PLC5から通知された位置指令と検出位置との偏差である位置偏差に、位置比例ゲインKppを乗ずることにより速度指令を算出する。なお、位置制御器41が有する位置比例ゲインKppは、調整されるべきサーボパラメータの1つである。
【0028】
次に、速度制御器42は、例えば、比例積分制御(PI制御)を行う。具体的には、位置制御器41に算出された速度指令と検出速度との偏差である速度偏差の積分量に速度積分ゲインKviを乗じ、その算出結果と当該速度偏差の和に速度比例ゲインKvpを乗ずることにより、トルク指令を算出する。なお、速度制御器42が有する速度比例ゲインKvp及び速度積分ゲインKviも、調整されるべきサーボパラメータの1つである。また、速度制御器42はPI制御に代えてP制御を行ってもよい。この場合には速度制御器42が有する速度比例ゲインKvpが、調整されるべきサーボパラメータの1つとなる。次に、電流制御器43は、速度制御器42により算出されたトルク指令に基づいて電流指令を出力し、それによりモータ2が駆動制御される。電流制御器43は、トルク指令に関するフィルタ(1次のローパスフィルタ)や一又は複数のノッチフィルタを含み、調整されるべきサーボパラメータとして、これらのフィルタの性能に関するカットオフ周波数等を有している。
【0029】
そして、サーボドライバ4の制御構造は、速度制御器42、電流制御器43、設備装置6を前向き要素とする速度フィードバック系を含み、更に、当該速度フィードバック系と位置制御器41を前向き要素とする位置フィードバック系を含んでいる。このように構成される制御構造によって、サーボドライバ4は標準PLC5から供給される位置指令に追従するようにモータ2をサーボ制御することが可能となる。
【0030】
一方で、調整装置10の調整部12が有する、シミュレーション処理のための処理構造(以下、「シミュレーション系」と称する)について、
図2の下段(b)に基づいて説明する。当該シミュレーション処理は、所定のサーボパラメータがサーボドライバ4に設定された際の、モータ2の応答を算出する処理である。そして、調整装置10によるシミュレーション結果を用いて、サーボドライバ4に設定すべきサーボパラメータを決定することができる。調整装置10が有するシミュレーション系は、設備装置6に関するモデル構造を含む系である。シミュレーション系は、
図1に示す制御システムの構成に対応し、モデル位置制御部51、モデル速度制御部52、モデル電流制御部53、機械モデル部54を含む。モデル位置制御部51は、サーボドライバ4の位置制御器41に対応し、モデル速度制御部52は、サーボドライバ4の速度制御器42に対応し、モデル電流制御部53はサーボドライバ4の電流制御器43に対応し、機械モデル部54は、設備装置6に対応する。シミュレーション系では、サーボドライバ4と同様に、モデル位置制御部51に位置指令pcmdと系の出力である応答位置psimとの位置偏差が入力されて速度指令vcmdが出力される。そして、モデル速度制御部52に当該速度指令vcmdと機械モデル部54の出力である応答速度vsimとの速度偏差が入力されてトルク指令τcmdが出力される。そして、モデル電流制御部53に当該トルク指令τcmdが入力されて電流指令ccmdが出力される。そして、機械モデル部54に当該電流指令ccmdが入力されて、上記の応答速度vsim及びその積分結果である上記の応答位置psimが出力される。
【0031】
このようなシミュレーション系を有する調整装置10は、シミュレーション系におけるモデル位置制御部51、モデル速度制御部52、モデル電流制御部53の設定を調整してシミュレーション処理を行うことで、実際の位置制御器41、速度制御器42、電流制御器43において設定されるサーボパラメータの調整が可能となる。
【0032】
次に、互いに遠隔の場所(上述のように場所R1と場所R2)に配置されている設備装
置6(サーボドライバ4)と調整装置10との間で行われるサーボパラメータの調整方法について、
図3に基づいて説明する。
図3に示すサーボパラメータの調整方法は、基本的には、設備装置6がサーボドライバ4のサーボ制御により正式に稼働する前に行われるものであるが、一度正式に稼働した後に、設備装置6で発生した問題等の諸事情を踏まえて再度サーボパラメータを調整する必要がある場合にも適用することができる。
【0033】
まず、S10では、サーボドライバ4に暫定パラメータが設定される。この暫定パラメータは、後述するモータ2の周波数応答の計測や調整のための位置制御を可能にする程度のサーボパラメータである。すなわち、暫定パラメータは、設備装置6における機械条件を必ずしも十分に反映しているとは限らないが、周波数応答の計測や位置制御が実現可能な程度の暫定的なパラメータである。そこで、暫定パラメータには、設備装置6におけるモータ2のイナーシャ比(モータ2のイナーシャに対する負荷装置3のイナーシャの比率)を設定するのが好ましい。一般的には当該イナーシャ比は速度ループゲインに対応するため、イナーシャ比を設定することで、ある程度好適なモータ2のサーボ制御が期待できる。ただし、実際には、負荷装置3には摩擦や機械剛性が存在するため、最適の速度ループゲインは、後述するように調整装置10によりサーボパラメータの調整を行う必要がある。また、上記イナーシャ比以外のサーボパラメータについても、上記加減速運転が可能な範囲で適宜暫定的に設定することができる。
【0034】
次に、S11では、後に調整装置10で行われる周波数解析処理の高速フーリエ変換処理を考慮してサンプリング周期が決定される。ここで、
図4に基づいて、サンプリング周期と周波数解析の関係について説明する。
図4の左図(a)は、サンプリング周期が比較的短い場合(例えば、125μs)の周波数応答の周波数解析結果を示す図である。一方で、
図4の右図(b)は、サンプリング周期が比較的長い場合(例えば、500μs)の周波数応答の周波数解析結果を示す図である。なお、両図において、データ点数は同数である。サンプリング周期が短くなると計測ができる周波数帯域は広くなるが、周波数分解能が粗くなるため特に低周波数側の帯域でゲインの計測が良好ではない。例えば、(a)の領域C1と(b)の領域C3を比較して理解できるように、サンプリング周期が短い方では低周波数帯域でのゲインピークを良好に計測できていない。また、(a)の領域C2と(b)の領域C4を比較して理解できるように、サンプリング周期が長い方では設備装置6における共振点を計測できていない。
【0035】
このようにサンプリング周期によって、周波数応答から得られる周波数解析結果に違いが生じるため、計測時のサンプリング周期次第ではサーボドライバ4に設定したサーボパラメータの適否を好適に判断できない恐れが生じてしまう。特に、設備装置6の設置場所から離れてそのサーボパラメータを調整しようとした場合、機械の振動や異音等の挙動を直接把握できないため、周波数解析結果等のデータに頼らざるを得ない。そうした場合、計測時のサンプリング周期をどのように設定するかは極めて重要な問題となる。
【0036】
そこで、本実施形態では、以下のようにサンプリング周期が決定される。
(手順1)比較的短い暫定的なサンプリング周期でモータ2の周波数応答を計測し、その周波数解析を行い(暫定的な周波数解析)、設備装置6に関連する共振点を抽出する。そして、最も周波数が高い共振点をカバーできるように、サンプリング周期の下限周期(最短周期)を設定する。例えば、
図4の(a)の領域C2に示される共振点の共振周波数に所定のマージンを加えた周波数帯域が計測できるように、サンプリング周期の下限周期が設定される。
(手順2)続いて、上記の暫定的な周波数解析を用いて、速度開ループのゼロクロス周波数近傍を好適に計測できるように、サンプリング周期の上限周期(最長周期)を設定する。例えば、
図4の(a)の領域C1や(b)の領域C3に示される、ゲインが低下し始める周波数に所定のマージンを加えた周波数帯域が計測できるように、サンプリング周期
の上限周期が設定される。
【0037】
次に、S12では、S11で決定されたサンプリング周期のそれぞれで、モータ2の周波数応答の計測が行われる。なお、当該周波数応答の計測は、公知の技術により実現することができる。また、モータ2の最高回転速度に到達する加減速運転を伴う位置決め制御を行った際の速度指令、トルク指令、位置偏差のうち少なくとも1つに関連する時系列データも計測される。これらの時系列データは、モータ2が位置制御において停止するタイミングを含む所定期間におけるデータである。サーボパラメータの調整においては、設備装置6におけるモータ2の停止時の振動は異音や制御精度に好ましくない影響を及ぼすため、振動を抑制することが求められることが多い。そこで、時系列データに、設備装置6の振動との相関を有する上記パラメータの、モータ2の停止タイミングを含む所定期間の時系列データを含めることで、調整装置10による好適なサーボパラメータの調整が可能となる。
【0038】
そして、S13で、計測された設備装置6に関連する周波数応答(各サンプリング周期での周波数応答)と時系列データが調整装置10に送信される。更に、S13では当該周波数応答が計測されたときのサーボパラメータ、すなわち暫定パラメータも調整装置10側に送信される。調整装置10は、通信部13を介してこれらのデータを受信する(S14の処理)。S14から後述するS17までの処理が調整装置10で行われる処理である。
【0039】
S15では、サーボドライバ4から送信された各周波数応答に対して高速フーリエ変換処理が実行され、最終的な周波数解析結果が取得される。当該周波数解析結果の取得処理は、取得部11によって行われる。具体的な周波数解析結果の取得について、
図5に基づいて説明する。先ず、上記手順1で決定した下限周期で計測された周波数応答の高速フーリエ変換処理を行う。この処理結果のうち、共振点の共振周波数近傍を閾値としてそれより高周波数側の結果を応答1とする。更に、上記手順2で決定した上限周期で計測された周波数応答の高速フーリエ変換処理を行う。この処理結果のうち、上記閾値より低周波数側の結果を応答2とする。そして、両応答を合成することで、
図5に示す最終的な周波数解析結果を得る。なお、両応答を合成する際にデータが不連続とならないように、周知のスムージング技術(例えば、一定期間のデータの平均処理)を適用してもよい。
【0040】
そして、S16では、S15で取得された周波数解析結果と、サーボドライバ4から送信された暫定パラメータを用いて、調整部12による上記シミュレーション処理を介してサーボパラメータの調整処理が行われる。例えば、10~15Hz辺りのゲインピークを抑制し、かつ、600Hz近傍の共振点を抑制するように、シミュレーション処理を行いながらサーボパラメータの調整が行われる。更に、S13で調整装置10に送信された時系列データもサーボパラメータの調整に利用される。例えば、時系列データに、モータの停止時の速度指令に関するデータが含まれている場合、停止時の振動が許容される程度に収まるように、位置ループゲインや速度ループゲインの調整が行われる。
【0041】
サーボパラメータの調整が終了すると、S17で、調整済みのパラメータが、調整装置10の通信部13を介して設備装置6側に送信される。そして、受信された調整済みのサーボパラメータは、サーボドライバ4に設定されモータ2のサーボ制御に供される(S18の処理)。
【0042】
なお、S15~S16の一連の処理は、調整装置10により全て自動的に実行されてもよく、別法として、処理ごとにユーザが調整装置10を操作して実行してもよい。また、上記の実施形態では周波数解析処理を調整装置10で行っているが、それに代えて、サーボドライバ4で周波数解析処理を行い、その解析結果をS13で調整装置10に送信して
もよい。このときは、取得部11が、通信部13を介して周波数解析結果を取得することになる。
【0043】
<付記1>
モータ(2)が取り付けられた設備装置(6)における、該モータ(2)のサーボ制御に関連するサーボパラメータを、該設備装置(6)が設けられた場所(R1)とは異なる調整場所(R2)から遠隔で調整する方法であって、
前記設備装置(6)において前記モータ(2)のイナーシャ比に関連するパラメータを含む暫定パラメータが暫定的に設定された状態で少なくとも2つのサンプリング周期のそれぞれで計測された該モータ(2)の周波数応答の周波数解析結果を取得する第1ステップ(S15)と、
前記調整場所(R2)で、前記暫定パラメータと前記少なくとも2つのサンプリング周期に対応する前記周波数解析結果とに基づいて、前記設備装置(6)に関連するシミュレーション処理を経て前記サーボパラメータを調整する第2ステップ(S16)と、
前記調整されたサーボパラメータを前記設備装置(6)に送信する第3ステップ(S17)と、
を含む、サーボパラメータの調整方法。
【0044】
<付記2>
モータ(2)が取り付けられた設備装置(6)における該モータ(2)のサーボ制御に関連するサーボパラメータを、該設備装置(6)が設けられた場所(R1)とは異なる調整場所(R2)から遠隔で調整する調整装置(10)であって、
前記設備装置(6)において前記モータ(2)のイナーシャ比に関連するパラメータを含む暫定パラメータが暫定的に設定された状態で少なくとも2つのサンプリング周期のそれぞれで計測された該モータの周波数応答の周波数解析結果を取得する取得部(11)と、
前記暫定パラメータと前記少なくとも2つのサンプリング周期に対応する前記周波数解析結果とに基づいて、前記設備装置に関連するシミュレーション処理を経て前記サーボパラメータを調整する調整部(12)と、
前記調整されたサーボパラメータを前記設備装置(6)に送信する送信部(13)と、
を備える、調整装置。
【符号の説明】
【0045】
2 モータ
4 サーボドライバ
6 設備装置
10 調整装置