(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】点火装置の制御システム、装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
F02P 3/045 20060101AFI20240723BHJP
【FI】
F02P3/045 303Z
(21)【出願番号】P 2020209965
(22)【出願日】2020-12-18
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 良平
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-012426(JP,A)
【文献】特開2015-175340(JP,A)
【文献】特開2017-117733(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0063687(US,A1)
【文献】特開2000-357578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 1/00-3/12
F02P 7/00-17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心電極、及び前記中心電極に対向するように配置された外側電極を具備する点火プラグと、前記点火プラグに電圧を印加するイグニッションコイルとを備えた点火装置を制御する点火装置の制御システムであって、
内燃機関に設置された状態の前記点火プラグの前記外側電極の向きを検知する検知装置と、
前記検知装置で検知した前記外側電極の向きに基づいて、前記イグニッションコイルの通電時間を設定し、設定した前記通電時間に従って前記イグニッションコイルを制御する制御装置とを備えたことを特徴とする点火装置の制御システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記外側電極の向きが基準方向にあるときを想定して設定された前記イグニッションコイルの通電時間を基準通電時間として、前記検知装置で検知した前記外側電極の向きに基づいて、前記基準通電時間を補正して前記通電時間を設定することを特徴とする請求項1に記載の点火装置の制御システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記検知装置で検知した前記外側電極の向きが前記基準方向からずれている場合、前記通電時間を前記基準通電時間よりも短くすることを特徴とする請求項2に記載の点火装置の制御システム。
【請求項4】
前記基準方向は、前記外側電極の向きが、吸気弁側から排気弁側へ向かう方向に対して直交する向きであることを特徴とする請求項2又は3に記載の点火装置の制御システム。
【請求項5】
中心電極、及び前記中心電極に対向するように配置された外側電極を具備する点火プラグと、前記点火プラグに電圧を印加するイグニッションコイルとを備えた点火装置を制御する制御装置であって、
内燃機関に設置された状態の前記点火プラグの前記外側電極の向きの情報を取得する取得手段と、
前記取得手段で取得した前記外側電極の向きの情報に基づいて、前記イグニッションコイルの通電時間を設定する通電時間設定手段と、
前記通電
時間設定手段で設定した前記通電時間に従って前記イグニッションコイルを制御する通電制御手段とを備えたことを特徴とする制御装置。
【請求項6】
中心電極、及び前記中心電極に対向するように配置された外側電極を具備する点火プラグと、前記点火プラグに電圧を印加するイグニッションコイルとを備えた点火装置を制御するためのプログラムであって、
内燃機関に設置された状態の前記点火プラグの前記外側電極の向きの情報を取得する取得手段と、
前記取得手段で取得した前記外側電極の向きの情報に基づいて、前記イグニッションコイルの通電時間を設定する通電時間設定手段と、
前記通電
時間設定手段で設定した前記通電時間に従って前記イグニッションコイルを制御する通電制御手段としてコンピュータに機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点火装置の制御システム、装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関に設置される点火プラグには、着火性の向上や電極摩耗の抑制等が求められる。
特許文献1にあるように、燃焼室内部における外側電極の取付角度位置によっても着火性が変化することが知られており、外側電極を吸気弁側から排気弁側へ向かう方向に対して直交するような向きに、点火プラグの取付角度位置を調整することで着火性を向上させることができることが実験データ等により知られている。特許文献1には、外側電極とプラグ本体とを別体に形成して、外側電極を燃焼室内部に配置する構成が開示されている。これにより、外側電極が、プラグ本体の軸心回りの取付角度位置に関係なく、常時燃焼室内部の混合気の流れを妨げない向きに向けられて配置されるので、点火プラグの着火性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、外側電極とプラグ本体とを別体にした特殊な点火プラグを用い、また、点火プラグとは別に外側電極を燃焼室内部に設置する必要があるため、点火プラグを設置するのにコストアップするとともに、外側電極の摩耗等に対するメンテナンス性に劣る。
また、特許文献1では、点火プラグの着火性を向上させることができるが、点火プラグの電極摩耗を抑えることはできない。
【0005】
本発明はかかる実情に鑑みてなされたものであり、点火プラグを設置するためのコストアップを避け、メンテナンス性を損なうことなく、点火プラグの電極摩耗を抑えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の点火装置の制御システムは、中心電極、及び前記中心電極に対向するように配置された外側電極を具備する点火プラグと、前記点火プラグに電圧を印加するイグニッションコイルとを備えた点火装置を制御する点火装置の制御システムであって、内燃機関に設置された状態の前記点火プラグの前記外側電極の向きを検知する検知装置と、前記検知装置で検知した前記外側電極の向きに基づいて、前記イグニッションコイルの通電時間を設定し、設定した前記通電時間に従って前記イグニッションコイルを制御する制御装置とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、点火プラグを設置するためのコストアップを避け、メンテナンス性を損なうことなく、点火プラグの電極摩耗を抑えることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る点火装置の制御システムの構成を示す図である。
【
図2】イグニッションコイルの構成例を示す図である。
【
図3】点火プラグの外側電極の向きと要求電圧との関係の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態に係る点火装置の制御システムは、中心電極、及び前記中心電極に対向するように配置された外側電極を具備する点火プラグと、前記点火プラグに電圧を印加するイグニッションコイルとを備えた点火装置を制御する点火装置の制御システムであって、内燃機関に設置された状態の前記点火プラグの前記外側電極の向きを検知する検知装置と、前記検知装置で検知した前記外側電極の向きに基づいて、前記イグニッションコイルの通電時間を設定し、設定した前記通電時間に従って前記イグニッションコイルを制御する制御装置とを備える。
これにより、例えば外側電極の向きにより要求電圧が下がるときには、イグニッションコイルの通電時間を短くすることができる。イグニッションコイルの通電時間が短くなることにより、点火プラグでの放電時間が短くなり、点火プラグの再放電の発生を抑え、点火プラグの電極摩耗を抑えることができる。また、点火プラグは、特許文献1のように外側電極とプラグ本体とを別体にした特殊な点火プラグでなく、プラグ本体に中心電極及び外側電極が設けられている点火プラグを用いることができ、点火プラグを設置するためのコストアップを避け、メンテナンス性を損なうこともない。
【実施例】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施例について説明する。
図1は、実施形態に係る点火装置の制御システムの構成を示す図である。
自動車等の内燃機関300の点火装置は、内燃機関300に設置される点火プラグ100と、点火プラグ100に電圧を印加するイグニッションコイル200とを備える。
【0011】
点火プラグ100は、プラグ本体101と、プラグ本体101の先端の中央部に設けられた中心電極102と、プラグ本体101の先端の側部に設けられ、中心電極102に対向するように配置されたL字形の外側電極103とを備える。点火プラグ100は、内燃機関300の気筒毎に設置され、燃焼室301に中心電極102及び外側電極103を突出させるようにして配置される。
【0012】
イグニッションコイル200は、プラグ本体101の端子104に接続して、点火プラグ100に電圧を印加する。
図2に、イグニッションコイル200の構成例を示す。イグニッションコイル200は、バッテリVBから電力が供給される一次コイル201と、点火プラグ100に接続する二次コイル202とを備える。イグナイタ203がONされると、一次コイル201に電流が流れ、イグナイタ203がOFFされると、一次コイル201への電流が停止される。一次コイル201への電流が停止されることにより、二次コイル202に電磁誘導により高電圧が発生する。これにより、点火プラグ100の電極102、103間に火花放電を発生させ、燃焼室301の混合気に点火する。
【0013】
内燃機関300に点火プラグ100を設置するとき、外側電極103の向きを、吸気弁側から排気弁側へ向かう方向に対して直交する向き、すなわち、
図3の状態(a)に示すように、ガス(混合気)の流れ方向に対して直交するような向きにする(以下、基準方向という)。これにより、特許文献1にもあるように、点火プラグ100の着火性を向上させることができる。
しかしながら、部品の公差上、
図3の状態(b)、(c)に示すように、外側電極103の向きが基準方向から所定の範囲(±25°程度)でずれることがある。
【0014】
ここで、
図3に、外側電極103の向きと要求電圧との関係の例を示す。
図3に示すように、実験等から、外側電極103の向きによって、点火プラグ100の要求電圧が変化することがわかった。要求電圧とは、点火プラグ100の電極102、103間に火花放電を発生させるのに必要な電圧、換言すればイグニッションコイル200の二次コイル202に発生させるべき二次電圧である。点31は、外側電極103の向きが基準方向にあるときの要求電圧を示す。また、点32、33は、外側電極103の向きが基準方向から±25°ずれたときの要求電圧を示す。外側電極103の向きが基準方向からずれると、そのずれ量に応じて、要求電圧が下がる特性がみられる。これは、燃焼室301での電極102、103へのガスの当たり方等に起因するものと考えられる。
【0015】
イグニッションコイル200の二次電圧が変わらない状態で、点火プラグ100の要求電圧が下がると、点火プラグ100で残存エネルギが生じやすく、点火プラグ100での放電時間が長くなる。点火プラグ100での放電時間が長くなると、点火プラグ100の再放電(リストライクとも呼ばれる)が発生しやすくなり、点火プラグ100の電極摩耗が起きやすくなる。点火プラグの再放電には、電極102、103間での放電伸長の吹き消えによる再放電(ガス流動により放電伸長が切れてからまた繋がるもの)や短絡による再放電(放電伸長が完全に切れてからまた繋がるもの)がある。
【0016】
そこで、本実施形態では、以下に述べるように、点火プラグ100の電極摩耗を抑えるために、内燃機関300に設置された状態の点火プラグ100の外側電極103の向きに基づいて、イグニッションコイル200の通電時間を設定し、設定した通電時間に従ってイグニッションコイル200を制御する。
この制御を実現するために、
図1に示すように、点火装置の制御システムは、制御装置1と、検知装置2とを備える。
【0017】
検知装置2は、内燃機関300に設置された状態の点火プラグ100の外側電極103の向きを検知する。検知装置2は、例えば点火プラグ100が外側電極103の向きに応じた信号を送信する発信部2aを備え、イグニッションコイル200が発信部2aからの信号を受信する受信部2bを備える構成になっている。なお、検知装置2は点火プラグ100の外側電極103の向きを検知できるものであればよく、その具体的構成は限定されるものではない。例えば接触式、非接触式は問わず、また、磁気的な検知装置、光学的な検知装置等として構成することが可能である。
【0018】
制御装置1は、記憶部1aと、取得部1bと、通電時間設定部1cと、通電制御部1dとを備え、気筒毎に、検知装置2で検知した外側電極103の向きに基づいて、イグニッションコイル200の通電時間を設定し、設定した通電時間に従ってイグニッションコイル200を制御する。
【0019】
記憶部1aは、通電時間設定部1cでイグニッションコイル200の通電時間を設定するのに使用する補正係数を定めたマップを記憶する。表1に、補正係数を定めたマップの例を示す。外側電極103の向きが基準方向にあるときを想定して設定されたイグニッションコイル200通電時間を、基準通電時間Tとする。補正係数は、基準通電時間Tに乗算する係数である。外側電極103の向きが基準方向にある場合、補正係数は「1」であり、基準通電時間Tがそのまま設定されるようになっている。そして、外側電極103の向きが基準方向からずれると、補正係数は「1」よりも小さい値になり、基準方向からのずれが大きいほど、補正係数が「0.99」、「0.98」、「0.95」のようにより小さい値になる。すなわち、基準方向からのずれが大きいほど、基準通電時間Tよりも短い通電時間が設定されるようになっている。
【0020】
【0021】
取得部1bは、検知装置2で検知した外側電極103の向きの情報を取得する。
【0022】
通電時間設定部1cは、取得部1bで取得した外側電極103の向きの情報に基づいて、イグニッションコイル200の通電時間を設定する。詳細には、通電時間設定部1cは、取得部1bで取得した外側電極103の向きの情報に基づいて、記憶部1aのマップから補正係数を決定し、その補正係数を基準通電時間Tに乗算して通電時間を設定する。上述したように、基準方向からのずれが大きいほど、基準通電時間Tよりも短い通電時間が設定される。
なお、表1の例では、基準方向からのずれ(基準方向に対する角度)が±5°のとき補正係数「0.99」、±15°のとき補正係数「0.98」、±25°のとき補正係数「0.95」となっているが、基準方向からのずれをαとして、例えば0°<α≦5°及び-5°≦α<0°のときの補正係数を「0.99」、5°<α≦15°及び-15≦α<-5°のときの補正係数を「0.98」、15°<α≦25°及び-25≦α<-15°のときの補正係数を「0.95」とすればよい。或いは、基準方向からのずれαが0°、±5°、±15°、±25°以外の値のときに、0°、±5°、±15°、±25のときの補正係数を用いて補間計算を行い、補正係数を決定すればよい。なお、表1の例では、基準方向からのずれが±5°、±15°、±25°のときの補正係数が定められているが、より細かな角度で補正係数が定められるようにしてもよい。
【0023】
通電制御部1dは、通電時間設定部1cで設定した通電時間に従ってイグニッションコイル200を制御する。詳細には、通電制御部1dは、通電時間設定部1cで設定した通電時間に従って、イグニッションコイル200のイグナイタ203をON/OFFして、通電時間設定部1cで設定した通電時間の通電を実行する。
【0024】
上述した取得部1bによる外側電極103の向きの情報の取得、及び通電時間設定部1cによる通電時間の設定は、例えばエンジン始動時に実行されて、通電時間設定部1cで設定した通電時間が記憶媒体に保持されるようにすればよい。そして、通電制御部1dでは、記憶媒体に保持されている通電時間の通電を実行するようにする。
【0025】
以上のように、制御装置1は、外側電極103の向きが基準方向にあるときのイグニッションコイル200の通電時間を基準通電時間Tとして、検知装置2で検知した外側電極103の向きに基づいて、基準通電時間Tを補正して通電時間を設定する。具体的には、検知装置2で検知した外側電極103の向きが基準方向からずれている場合、通電時間を基準通電時間Tよりも短くする。そして、制御装置1は、設定した通電時間に従ってイグニッションコイル200を制御する。
これにより、外側電極103の向きが基準方向からずれて、点火プラグ100の要求電圧が下がるときには、イグニッションコイル200の通電時間を基準通電時間よりも短くすることができる。イグニッションコイル200の通電時間が短くなることにより、点火プラグ100での放電時間が短くなり、点火プラグ100の再放電の発生を抑え、点火プラグ100の電極摩耗を抑えることができる。また、イグニッションコイル200の通電時間が短くなることにより、二次コイル202の二次電圧が下がる傾向になるので、点火プラグ100の要求電圧が下がる特性に合わせることができる。
【0026】
また、点火プラグ100は、特許文献1のように外側電極とプラグ本体とを別体にした特殊な点火プラグでなく、プラグ本体に中心電極及び外側電極が設けられている点火プラグを用いることができ、点火プラグを設置するためのコストアップを避け、メンテナンス性を損なうこともない。
【0027】
なお、制御装置1は、例えばCPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータ装置により構成され、CPUが例えばROMに記憶された所定のプログラムを実行することにより、取得部1b、通電時間設定部1c、通電制御部1dの機能が実現される。例えば車両に搭載されるコントロールユニットの一部の機能として制御装置1が実現されるようにすればよい。
【0028】
以上、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明したが、各実施例は、本発明の実施にあたっての具体例を示したに過ぎない。本発明の技術的範囲は、各実施例に限定されるものではない。本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に含まれる。
また、本発明は、ソフトウェア(プログラム)をネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータがプログラムを読み出して実行することによっても実現可能である。
【符号の説明】
【0029】
1:制御装置、1a:記憶部、1b:取得部、1c:通電時間設定部、1d:通電制御部、2:検知装置、100:点火プラグ、101:プラグ本体、102:中心電極、103:外側電極、200:イグニッションコイル、300:内燃機関