(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】プリプレグ、積層体および成形品
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20240723BHJP
B29B 11/16 20060101ALI20240723BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20240723BHJP
B29K 105/10 20060101ALN20240723BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20240723BHJP
【FI】
C08J5/24 CER
C08J5/24 CEZ
B29B11/16
B29C70/16
B29K105:10
B29K105:08
(21)【出願番号】P 2020544544
(86)(22)【出願日】2020-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2020019469
(87)【国際公開番号】W WO2020235487
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2019097034
(32)【優先日】2019-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三角 潤
(72)【発明者】
【氏名】本間 雅登
(72)【発明者】
【氏名】篠原 響子
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/082982(WO,A1)
【文献】特開2006-049878(JP,A)
【文献】特開2007-092072(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第1731553(EP,A1)
【文献】プラスチック成形加工データブック(第2版),日本,日本工業新聞社,2002年01月28日,p.2-p.3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
B29C 70/00-70/88
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の構成要素[A]、[B]及び[C]を含むプリプレグであって、
プリプレグの表面に[C]が存在しており、
[C]はガラス転移温度が100℃以上の結晶性の熱可塑性樹脂またはガラス転移温度が180℃以上の非晶性の熱可塑性樹脂であり、
[B]を含む樹脂領域と[C]を含む樹脂領域との境界面をまたいで両樹脂領域に含まれる[A]の強化繊維が存在していることを特徴とする、プリプレグ。
[A]強化繊維
[B]熱硬化性樹脂
[C]熱可塑性樹脂
【請求項2】
前記[B]を含む樹脂領域と前記[C]を含む樹脂領域とがそれぞれ層状をなして隣接することにより前記境界面を形成している、請求項
1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
構成要素[C]は、ポリアリーレンエーテルケトンまたはポリエーテルイミドから選ばれる、請求項1
または2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
構成要素[C]は、ポリアリーレンエーテルケトンであり、その融点が200℃から340℃である、請求項
3に記載のプリプレグ。
【請求項5】
さらに、次の構成要素[E]が構成要素[B]に溶解した状態で含まれる、請求項1~
4のいずれかに記載のプリプレグ。
[E]熱硬化性樹脂に可溶な熱可塑性樹脂
【請求項6】
構成要素[B]100質量部に対して、構成要素[E]が3質量部以上30質量部以下含まれる、請求項
5に記載のプリプレグ。
【請求項7】
前記構成要素[E]は、ポリエーテルスルホンまたはポリエーテルイミドである、請求項
6に記載のプリプレグ。
【請求項8】
構成要素[A]には、ストランド引張強度が5.5GPa以上の炭素繊維が含まれる、請求項1~
7のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれかに記載のプリプレグが硬化物の状態で少なくとも一部の層を構成
し、層間に構成要素[C]が存在する、積層体。
【請求項10】
表面に構成要素[C]が存在する、請求項
9に記載の積層体。
【請求項11】
次の構成要素[A]、[C]及び[D]を含む層が含まれる積層体であって、
[C]はガラス転移温度が100℃以上の結晶性の熱可塑性樹脂またはガラス転移温度が180℃以上の非晶性の熱可塑性樹脂であり、
[C]を含む樹脂領域と[D]を含む樹脂領域との境界面をまたいで両樹脂領域に含まれる[A]の強化繊維が存在し
、
層間に構成要素[C]が存在することを特徴とする、積層体。
[A]強化繊維
[C]熱可塑性樹脂
[D]熱硬化性樹脂硬化物
【請求項12】
表面に構成要素[C]が存在する、請求項
11に記載の積層体。
【請求項13】
構成要素[C]は、ポリアリーレンエーテルケトンまたはポリエーテルイミドから選ばれる、請求項
11または12に記載の積層体。
【請求項14】
構成要素[C]は、ポリアリーレンエーテルケトンであり、その融点が200℃から340℃である、請求項
13に記載の積層体。
【請求項15】
さらに、構成要素[E]が構成要素[D]に溶解した状態で含まれる、請求項
11~
14のいずれかに記載の積層体。
[E]熱硬化性樹脂に可溶な熱可塑性樹脂
【請求項16】
構成要素[D]100質量部に対して、構成要素[E]が3質量部以上30質量部以下含まれる、請求項
15に記載の積層体。
【請求項17】
前記構成要素[E]は、ポリエーテルスルホンまたはポリエーテルイミドである、請求項
15または
16に記載の積層体。
【請求項18】
構成要素[A]には、ストランド引張強度が5.5GPa以上の炭素繊維が含まれる、請求項
11~
17のいずれかに記載の積層体。
【請求項19】
別の部材が、構成要素[C]の面に接合することにより、請求項
9~
18のいずれかに記載の積層体と一体化されてなる、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂が強化繊維に含浸されてなるプリプレグ、および熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂および強化繊維を含む積層体または一体化成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂をマトリックスとして用い、炭素繊維やガラス繊維などの強化繊維と組み合わせた繊維強化複合材料は、軽量でありながら、強度や剛性などの力学特性や耐熱性、また耐食性に優れているため、航空・宇宙、自動車、鉄道車両、船舶、土木建築およびスポーツ用品などの数多くの分野に応用されてきた。しかしながら、これらの繊維強化複合材料は、複雑な形状を有する部品や構造体を単一の成形工程で製造するには不向きであり、上記用途においては、繊維強化複合材料からなる部材を作製し、次いで、他の部材と一体化することが必要である。強化繊維と熱硬化性樹脂からなる繊維強化複合材料と他の部材を一体化する手法として、ボルト、リベット、ビスなどの機械的接合方法や、接着剤を使用する接合方法が用いられている。機械的接合方法では、穴あけなど接合部分をあらかじめ加工する工程を必要とするため、製造工程の長時間化および製造コストの増加につながり、また、穴をあけるため、材料強度が低下するという問題があった。接着剤を使用する接合方法では、接着剤の準備や接着剤の塗布作業を含む接着工程および硬化工程を必要とするため、製造工程の長時間化につながり、接着強度においても、信頼性に十分な満足が得られないという課題があった。
【0003】
熱可塑性樹脂をマトリックスに用いた繊維強化複合材料は、強化繊維と熱硬化性樹脂からなる繊維強化複合材料と、他の部材を一体化する上記の手法に加え、溶着により部材間を接合する方法を適用することができるため、部材間の接合に要する時間を短縮できる可能性がある。一方で、航空機用構造部材のように、高温高湿環境下での力学特性や優れた薬品への耐性が求められる場合は、熱硬化性樹脂と強化繊維からなる繊維強化複合材料に比べて、耐熱性、耐薬品性が十分ではないという課題があった。
【0004】
ここで、特許文献1には、熱硬化性樹脂と強化繊維からなる繊維強化複合材料を、接着剤を介して接合する方法が示されている。
【0005】
特許文献2には、熱可塑性樹脂で形成される部材と、熱硬化性樹脂からなる繊維強化複合材料で形成される部材を一体化する手法が示されている。すなわち、強化繊維と熱硬化性樹脂からなるプリプレグシートの表面に熱可塑性樹脂フィルムを積層し、加熱・加圧により、繊維強化複合材料を得る。その後、得られた繊維強化複合材料を金型に入れ、熱可塑性樹脂を射出成形し、射出成形により形成された熱可塑性樹脂部材と繊維強化複合材料を接合させる。
【0006】
また、特許文献3には、熱硬化性樹脂と強化繊維からなる複合材料の表面に、熱可塑性樹脂接着層を形成した積層体の製造方法が示されており、熱可塑性樹脂を介して他の部材との接着効果を示すことが述べられている。
【0007】
特許文献4には、強化繊維と熱硬化性樹脂からなるプリプレグの表層に、熱可塑性樹脂からなる粒子、または繊維、またはフィルムが配置されてなるプリプレグおよび繊維強化複合材料が示されている。そしてかかるプリプレグおよび繊維強化複合材料において、層間破壊靭性値が向上することが示されている
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-161801号公報
【文献】特開平10-138354号公報
【文献】特許第3906319号公報
【文献】特開平8-259713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に示される手法は、強化繊維と熱硬化性樹脂よりなる繊維強化複合材料を接着剤により互いに接合する方法であり、熱硬化性樹脂がマトリックス樹脂であるため、そのままでは繊維強化複合材料間の接合の方法として溶着を適用できない、また、接着剤の硬化に時間を要するため、接合工程に時間を要するという課題があり、さらに、発現する接合強度は十分ではなかった。
【0010】
特許文献2に記載の方法では、繊維強化複合材料中の熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂フィルムとの接合部における接合強度が十分ではなかった。
【0011】
特許文献3に係る繊維強化複合材料は、熱可塑性樹脂を介して溶着による一体化を行うことができ、室温では優れた接合強度を示すが、高温高湿環境下での接合強度は十分ではなかった。
【0012】
特許文献4に記載の方法では、溶着による接合に用いた場合は接合強度が十分ではなかった。
【0013】
そこで、本発明の目的は、同種または異種の部材と溶着により接合可能かつ、室温および高温高湿環境下での優れた接合強度(引張せん断接合強度)と高い疲労接合強度を発現し、更に層間破壊靱性値にも優れ、構造材料として好適な積層体を与えるプリプレグ、積層体および一体化成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち本発明は、次の構成要素[A]、[B]及び[C]を含むプリプレグであって、[C]はガラス転移温度が100℃以上の結晶性の熱可塑性樹脂またはガラス転移温度が180℃以上の非晶性の熱可塑性樹脂であり、プリプレグの表面に[C]が存在しており、[B]を含む樹脂領域と[C]を含む樹脂領域との境界面をまたいで両樹脂領域に含まれる[A]の強化繊維が存在していることを特徴とする、プリプレグである。
[A]強化繊維
[B]熱硬化性樹脂
[C]熱可塑性樹脂。
【0015】
また本発明は、本発明のプリプレグが硬化物の状態で少なくとも一部の層を構成する、積層体である。
【0016】
また本発明は、次の構成要素[A]、[C]及び[D]を含む層が含まれる積層体であって、[C]はガラス転移温度が100℃以上の結晶性の熱可塑性樹脂またはガラス転移温度が180℃以上の非晶性の熱可塑性樹脂であり、[C]を含む樹脂領域と[D]を含む樹脂領域との境界面をまたいで両樹脂領域に含まれる[A]の強化繊維が存在していることを特徴とする、積層体である。
[A]強化繊維
[C]熱可塑性樹脂
[D]熱硬化性樹脂硬化物。
【0017】
また本発明は、別の部材が、構成要素[C]の面に接合することにより、本発明の積層体と一体化されてなる、成形品である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のプリプレグおよび積層体は、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂を用いており、両者が強固に接合されている上、同種または異種の部材との良好な溶着が可能であるため、従来の熱硬化性樹脂と強化繊維からなる繊維強化複合材料に対し、接合工程に要する時間を短縮でき、構造部材の成形を高速化することが可能となる。また、積層体と部材を接合して一体化成形品とした際に、優れた疲労接合強度および高温高湿環境下での接合強度を発現し、構造材料として優れた積層体が得られ、航空機構造部材、風車の羽根、自動車構造部材およびICトレイやノートパソコンの筐体などのコンピューター用途等に適用することで、構造体としての優れた性能を示す上、上記用途に係る製品の成形時間および成形コストを大きく低減させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は本発明に係るプリプレグまたは積層体の模式図であり、
図2に係るプリプレグ平面または積層体平面に垂直な断面を示すものである。
【
図2】
図2は本発明における、プリプレグ平面または積層体平面に垂直な断面の模式図であり、粗さ平均長さRSmおよび粗さ平均高さRcの測定方法の説明を助けるものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のプリプレグは、次の構成要素[A]、[B]および[C]を含む。
[A]強化繊維
[B]熱硬化性樹脂
[C]熱可塑性樹脂。
【0021】
<構成要素[A]強化繊維>
本発明で用いる構成要素[A]の強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリアラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、玄武岩繊維などがある。これらは、単独で用いてもよいし、適宜2種以上併用して用いてもよい。これらの強化繊維は、表面処理が施されているものであっても良い。表面処理としては、金属の被着処理、カップリング剤による処理、サイジング剤による処理、添加剤の付着処理などがある。これらの強化繊維の中には、導電性を有する強化繊維も含まれている。強化繊維としては、炭素繊維が、比重が小さく、高強度、高弾性率であることから、好ましく使用される。
【0022】
炭素繊維の市販品としては、“トレカ(登録商標)”T800G-24K、“トレカ(登録商標)”T800S-24K、“トレカ(登録商標)”T700G-24K、“トレカ(登録商標)”T700S-24K、“トレカ(登録商標)”T300-3K、および“トレカ(登録商標)”T1100G-24K(以上、東レ(株)製)などが挙げられる。
【0023】
強化繊維の形態や配列については、強化繊維が一方向に配列されているか、一方向に配列されたものの積層物か、または織物の形態等から適宜選択できる。軽量で耐久性がより高い水準にある積層体を得るためには、各プリプレグにおいて、強化繊維が一方向に配列された長繊維(繊維束)または織物等連続繊維の形態であることが好ましい。
【0024】
強化繊維束は、同一の形態の複数本の繊維から構成されていても、あるいは、異なる形態の複数本の繊維から構成されていても良い。一つの強化繊維束を構成する強化繊維数は、通常、300~60,000であるが、基材の製造を考慮すると、好ましくは、300~48,000であり、より好ましくは、1,000~24,000である。上記の上限のいずれかと下限のいずれかとの組み合わせによる範囲であってもよい。
【0025】
構成要素[A]の強化繊維について、JIS R7608(2007)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠して測定したストランド引張強度が5.5GPa以上であると、引張強度に加え、優れた接合強度を有する積層体が得られるため、好ましい。当該ストランド引張強度が5.8GPaであると、さらに好ましい。ここで言う接合強度とは、ISO4587:1995(JIS K6850(1994))に準拠して求められる、引張せん断接合強度を指す。
【0026】
本発明のプリプレグは、単位面積あたりの強化繊維量が30~2,000g/m2であることが好ましい。かかる強化繊維量が30g/m2以上であると、積層体成形の際に所定の厚みを得るための積層枚数を少なくすることができ、作業が簡便となりやすい。一方で、強化繊維量が2,000g/m2以下であると、プリプレグのドレープ性が向上しやすくなる。
【0027】
本発明のプリプレグおよび本発明の積層体の強化繊維質量含有率は、好ましくは30~90質量%であり、より好ましくは35~85質量%であり、更に好ましくは40~80質量%である。上記の上限のいずれかと下限のいずれかとの組み合わせによる範囲であってもよい。強化繊維質量含有率が30質量%以上であると、樹脂の量が繊維対比多くなりすぎず、比強度と比弾性率に優れる積層体の利点が得られやすくなり、また、プリプレグから積層体に成形する際、硬化時の発熱量が過度に高くなりにくい。また、強化繊維質量含有率が90質量%以下であると、樹脂の含浸不良が生じにくく、得られる積層体のボイドが少なくなりやすい。
【0028】
<構成要素[B]熱硬化性樹脂>
構成要素[B]に使用される熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、シアネートエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、またはこれらの共重合体、変性体、および、これらの少なくとも2種類をブレンドした樹脂がある。耐衝撃性向上のために、熱硬化性樹脂には、エラストマーもしくはゴム成分が添加されていても良い。中でも、エポキシ樹脂は、力学特性、耐熱性および強化繊維との接着性に優れ、好ましい。エポキシ樹脂の主剤としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルなどの臭素化エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、N,N,O-トリグリシジル-m-アミノフェノール、N,N,O-トリグリシジル-p-アミノフェノール、N,N,O-トリグリシジル-4-アミノ-3-メチルフェノール、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-メチレンジアニリン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-2,2’-ジエチル-4,4’-メチレンジアニリン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジル-o-トルイジンなどのグリシジルアミン型エポキシ樹脂、レゾルシンジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレートなどを挙げることができる。
【0029】
本発明の構成要素[B]:熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂を含むものが好ましく、熱硬化性樹脂に含まれる全エポキシ樹脂100質量部に対しグリシジル基を3個以上含むグリシジルアミン型エポキシ樹脂を40~100質量部含むことで、耐熱性の高い硬化物が得られるため、より好ましい態様となる。グリシジル基を3個以上含むグリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、N,N,O-トリグリシジル-m-アミノフェノール、N,N,O-トリグリシジル-p-アミノフェノール、N,N,O-トリグリシジル-4-アミノ-3-メチルフェノール、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-メチレンジアニリン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-2,2’-ジエチル-4,4’-メチレンジアニリン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミンなどを挙げることができる。
【0030】
エポキシ樹脂の硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド、芳香族アミン化合物、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ポリフェノール化合物、イミダゾール誘導体、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミン、カルボン酸ヒドラジド、カルボン酸アミド、ポリメルカプタンなどが挙げられる。
【0031】
なかでも、エポキシ樹脂の硬化剤として芳香族アミン硬化剤を用いることにより、耐熱性の良好なエポキシ樹脂硬化物が得られる。芳香族アミン化合物としては、例えば、3,3’-ジイソプロピル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジ-t-ブチル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジエチル-5,5’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジイソプロピル-5,5’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジ-t-ブチル-5,5’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’,5,5’-テトラエチル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジイソプロピル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジ-t-ブチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’,5,5’-テトライソプロピル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジ-t-ブチル-5,5’-ジイソプロピル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’,5,5’-テトラ-t-ブチル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホンなどが挙げられる。
【0032】
<構成要素[E]熱可塑性樹脂成分>
構成要素[B]の熱硬化性樹脂を含む樹脂領域には、構成要素[B]の熱硬化性樹脂に可溶な熱可塑性樹脂成分(構成要素[E])を、溶解した状態で含むことが好ましい。かかる熱可塑性樹脂成分は、構成要素[B]を含む樹脂領域に含まれるという点で、構成要素[C]とは区別される。かかる構成要素[E]を含むことで、構成要素[B]と、構成要素[C]の熱可塑性樹脂との親和性が向上し、積層体と部材を、構成要素[C]を介して接合した際の、接合強度が向上する。ここで「熱硬化性樹脂に可溶」とは、熱可塑性樹脂成分を熱硬化性樹脂に混合したものを加熱、または加熱撹拌することによって、均一相をなす温度領域が存在することを指す。ここで、「均一相をなす」とは、目視で分離のない状態が得られることを指す。ここで、「溶解した状態」とは、熱可塑性樹脂成分を含む熱硬化性樹脂を、ある温度領域にし、均一相をなした状態を指す。一旦ある温度領域で均一相をなせば、その温度領域以外、例えば室温で分離が起こっても構わない。
【0033】
構成要素[E]の熱可塑性樹脂成分としては、一般に、主鎖に炭素-炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、チオエーテル結合、スルホン結合およびカルボニル結合からなる群から選ばれる結合を有する熱可塑性樹脂であることが好ましい。また、この熱可塑性樹脂成分は、部分的に架橋構造を有していても差し支えなく、結晶性を有していても非晶性であってもよい。特に、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フェニルトリメチルインダン構造を有するポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、フェノキシ樹脂、ポリエーテルニトリルおよびポリベンズイミダゾールからなる群から選ばれる少なくとも一つの樹脂が好適である。良好な耐熱性を得るためには、成形体として用いたときに熱変形を起こしにくいという観点から、150℃以上のガラス転移温度が好ましく、より好ましくは170℃以上であり、ポリエーテルイミドやポリエーテルスルホンが好適な例として挙げられる。
【0034】
また、接合強度向上の観点から、構成要素[B]100質量部に対して、構成要素[E]が3質量部以上30質量部以下含まれることが好ましい。
【0035】
<構成要素[C]熱可塑性樹脂>
本発明の構成要素[C]の熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度が100℃以上の結晶性のものであること、またはガラス転移温度が180℃以上の非晶性のものであることが重要である。ガラス転移温度が100℃以上の結晶性の熱可塑性樹脂としては、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン等のポリアリーレンエーテルケトン、脂環式ポリアミド、半芳香族ポリアミド、変性ポリフェニレンスルフィドなどが挙げられる。また、ガラス転移温度が180℃以上の非晶性の熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、変性ポリスルホン 、ポリアミドイミドなどが挙げられる。また、これら熱可塑性樹脂は、上述の樹脂の共重合体や変性体、および/または2種類以上ブレンドした樹脂などであってもよい。ガラス転移温度は、JIS K7121(2012)に基づいて、示差走査熱量計(DSC)により測定することができる。また、ガラス転移温度の上限については特に限定されないが、通常の熱可塑性樹脂は400℃が上限である。
【0036】
これらの中でも、耐熱性の観点から、ポリアリーレンエーテルケトン、およびポリエーテルイミドが好ましい。更に好ましくは、融点が200℃から340℃のポリアリーレンエーテルケトンである。
【0037】
構成要素[C]には、耐衝撃性向上のために、エラストマーもしくはゴム成分が添加されていても良い。さらに、用途等に応じ、本発明の目的を損なわない範囲で適宜、他の充填材や添加剤を含有しても良い。例えば、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、カップリング剤などが挙げられる。
【0038】
本発明のプリプレグにおける、構成要素[C]の熱可塑性樹脂の目付は、10g/m2以上であると好ましい。10g/m2以上であると、優れた接合強度を発現するための十分な厚みが得られ、好ましい。より好ましくは20g/m2である。上限値は特に限定されないが、熱可塑性樹脂の量が強化繊維対比多くなりすぎず、比強度と比弾性率に優れる積層体が得られるため、好ましくは500g/m2以下である。ここで目付とは、プリプレグ1m2あたりに含まれる構成要素[C]の質量(g)を指す。
【0039】
<構成要素[D]熱硬化性樹脂硬化物>
本発明における構成要素[D]の熱硬化性樹脂は、構成要素[B]の熱硬化性樹脂を、加熱硬化することにより得ることができる。
【0040】
加熱硬化の温度条件は、熱硬化性樹脂種および硬化剤や促進剤の種類や量に応じて適宜設定することができ、例えば、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を含み、アミン化合物としてジアミノジフェニルスルホンを用いた場合は、180℃で2時間の温度条件が好適に使用でき、硬化剤にジシアンジアミドを用いた場合は、135℃2時間の温度条件が好適に使用できる。
【0041】
積層体に含まれる構成要素[D]の硬化の判定について、積層体を不活性ガス雰囲気下、昇温速度10℃/分にて示差走査熱量分析を行った際に発熱反応として現れるピークの面積(残存発熱)が、50J/g以下であれば、実質的に硬化物であると判定することができる。もしくは、硬化前の熱硬化性樹脂組成物を特定できる場合は、以下の式により硬化度を求めて、90%以上であれば硬化物としてよい。
硬化度(%)=((熱硬化性樹脂を含む組成物の硬化前の発熱量)-(熱硬化性樹脂の硬化物の発熱量))/(熱硬化性樹脂を含む組成物の硬化前の発熱量)×100
上式において各発熱量は、構成要素[D]の熱硬化性樹脂および硬化剤として特定された硬化前の熱硬化性樹脂組成物、およびかかる熱硬化性樹脂の硬化物の、不活性ガス雰囲気下、昇温速度10℃/分にて示差走査熱量分析を行った際に発熱反応として現れるそれぞれのピークの面積としてそれぞれ算出した値である。積層体に含まれる構成要素[D]とは別に、熱硬化性樹脂および硬化剤として特定されたものと同一構造の樹脂を準備して、測定に供することもできる。ここで、硬化剤を特定できない場合は、4,4’-ジアミノジフェニルスルホンを上記組成物における硬化剤として用いてよい。その他、上記組成物を構成し得る要素として硬化触媒、粘度調整剤など実施例に後述する化合物を好ましく用いることができるが、測定結果に影響しなければ、これらは特に限定されることはない。
【0042】
<プリプレグ>
本発明のプリプレグにおいては、[B]を含む樹脂領域と[C]を含む樹脂領域との境界面をまたいで両樹脂領域に含まれる[A]の強化繊維が存在している。 両樹脂領域の境界面をまたいで両樹脂領域に含まれるということについて、
図2を用いて示す。
図2の観察画像9において、構成要素[C]を含む樹脂領域7は構成要素[B]を含む樹脂領域8と密着しており、観察画像9において境界面10として図示されている。また、境界面10上には複数の構成要素[A]6が存在している。このように強化繊維の周囲に構成要素[C]および構成要素[B]が接している状態は、強化繊維が「境界面をまたいで両樹脂領域に含まれる」状態といえる。
【0043】
境界面をまたいで両樹脂領域に含まれる[A]の強化繊維が存在することで、構成要素[C]を含む樹脂領域の強度が向上し、接合強度が向上する。境界面上に存在する構成要素[A]が構成要素[B]および構成要素[C]と化学的または/および物理的に結合することにより、構成要素[B]を含む樹脂領域と構成要素[C]を含む樹脂領域との密着力が向上する。境界面上に存在する構成要素[A]の本数は1本以上あれば良く、上限本数は、特に限定されないが、後述の観察範囲においては200本である。
【0044】
本発明のプリプレグは、プリプレグの平面視において、前記両樹脂領域に含まれる任意の[A]の繊維方向に対し時計回りか反時計回りかを問わず45度異なる角度の方向から、前記[A]の繊維を含むプリプレグ平面に垂直な断面、すなわち、プリプレグ平面方向に対し垂直にカットするなどして得られる断面において、境界面における樹脂領域の態様を観察することで、繊維軸方向およびこれと直交する方向の密着力を同時に評価することが出来る。
【0045】
本発明のプリプレグは、両樹脂領域の密着する境界面が形成する断面曲線の、JIS B0601(2001)で定義される粗さ平均長さRSmが100μm以下であり、粗さ平均高さRcが3.5μm以上であることが好ましい。
【0046】
かかる断面観察において、当該境界面が形成する断面曲線の、JIS B0601(2001)で定義される粗さ平均長さRSmが100μm以下であると、化学的または/および物理的な結合力のみならず、交絡(interpenetration)という機械的な結合力も加わり、構成要素[B]を含む樹脂領域と構成要素[C]を含む樹脂領域とが剥離しにくくなる。下限値は、特に限定されないが、応力集中による機械的な結合力の低下を忌避するという観点から、好ましくは15μm以上である。また、断面曲線の粗さ平均高さRcが3.5μm以上であることにより、交絡による機械的な結合力の発現のみならず、境界面上に存在する構成要素[A]が構成要素[B]および構成要素[C]と化学的または/および物理的に結合し、構成要素[B]を含む樹脂領域と構成要素[C]を含む樹脂領域との密着力が向上する。またRcが上記範囲を満足していると、[B]を含む樹脂領域と[C]を含む樹脂領域との境界面をまたいで両樹脂領域に含まれる[A]の強化繊維を得やすい。
【0047】
断面曲線の粗さ平均高さRcの好ましい範囲としては、構成要素[A]が両樹脂領域に含まれやすくなり密着力がより向上する10μm以上であり、特に好ましくは20μm以上である。上限値は、特に限定されないが、応力集中による機械的な結合力の低下を忌避するという観点から、好ましくは100μm以下である。
【0048】
ここで、断面曲線の粗さ平均高さRcおよび粗さ平均長さRSmの測定方法としては、公知の手法を用いることが出来る。例えば、構成要素[B]を硬化させた後、X線CTを用いて取得した断面画像から測定する方法、エネルギー分散型X線分光器(EDS)による元素分析マッピング画像から測定する方法、あるいは光学顕微鏡あるいは走査電子顕微鏡(SEM)あるいは透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察画像から測定する方法が挙げられる。観察において、構成要素[B]および/または構成要素[C]はコントラストを調整するために、染色されても良い。上記のいずれかの手法により得られる画像において、500μm×500μmの範囲において、断面曲線の粗さ平均高さRcおよび粗さ平均長さRSmを測定する。
【0049】
断面曲線の粗さ平均高さRcおよび粗さ平均長さRSmの測定方法の一例を、
図2を用いて示す。
図2に示される観察画像9において、構成要素[C]を含む樹脂領域7は構成要素[B]を含む樹脂領域8と密着しており、観察画像9において境界面10として図示されている。また、境界面10上には複数の構成要素[A]6が存在している。
【0050】
断面曲線の粗さ平均高さRcおよび粗さ平均長さRSmの測定方法の一例(断面曲線要素の測定方法1)を示す。長方形型の観察画像9の構成要素[B]を含む樹脂領域側の端部11を基準線として、構成要素[B]を含む樹脂領域8から構成要素[C]を含む樹脂領域7に向かって5μm間隔で垂基線12を描く。基準線から描かれる垂基線が初めて構成要素[C]と交わる点をプロットし、プロットされた点を結んだ線を断面曲線13とする。得られた断面曲線13につき、JIS B0601(2001)に基づくフィルタリング処理を行い、断面曲線13の粗さ平均高さRcおよび粗さ平均長さRSmを算出する。
【0051】
また本発明のプリプレグは、[B]を含む樹脂領域と[C]を含む樹脂領域とがそれぞれ層状をなして隣接することにより前記境界面を形成していることが、優れた力学特性を発現する点から好ましい 。
【0052】
<積層体>
<積層体(その1)>
本発明の積層体(その1)は、本発明のプリプレグが硬化物の状態で少なくとも一部の層を構成する。そして、表面もしくは層間に構成要素[C]の熱可塑性樹脂が存在することが好ましい。積層体の表面に構成要素[C]の熱可塑性樹脂が存在することで、本発明の積層体は、構成要素[C]を通して同種または異種の部材との接合を溶着で行うことができる。一方、積層体の層間に構成要素[C]の熱可塑性樹脂が存在すると、優れた層間破壊靱性値(GICおよびGIIC)が得られる。表面および層間の両方に構成要素[C]が存在すると、より好ましい。
【0053】
本発明の積層体(その1)は、上述した本発明のプリプレグを、単独で、または他のプリプレグと共に積層し、加圧・加熱して硬化させる方法により製造することができる。ここで、熱及び圧力を付与する方法には、例えば、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法等が採用される。
【0054】
<積層体(その2)>
本発明の積層体(その2)は、次の構成要素[A]、[C]および[D]を含む層が含まれる。
[A]強化繊維
[C]熱可塑性樹脂
[D]熱硬化性樹脂硬化物
本発明の積層体(その2)は、[C]を含む樹脂領域と[D]を含む樹脂領域との境界面をまたいで両樹脂領域に含まれる[A]の強化繊維が存在している。その詳細な説明は、構成要素[B]を構成要素[D]にかえた以外は本発明のプリプレグにおけるものと共通する。
【0055】
本発明の積層体(その2)は、積層体の平面視において、前記両樹脂領域に含まれる任意の[A]の繊維方向に対し時計回りか反時計回りかを問わず45度異なる角度の方向から、前記[A]を含む積層体の平面に垂直な断面、すなわち、積層体平面方向に対し垂直にカットするなどして得られる断面において、両樹脂領域の密着する境界面が形成する断面曲線の、JIS B0601(2001)で定義される粗さ平均長さRSmが100μm以下であり、粗さ平均高さRcが3.5μm以上であることが好ましい。その詳細な説明は、構成要素[B]を構成要素[D]にかえた以外は本発明のプリプレグにおけるものと共通する。
【0056】
また本発明の積層体(その2)は、前記[D]を含む樹脂領域と前記[C]を含む樹脂領域とがそれぞれ層状をなして隣接することにより前記境界面を形成していることが、優れた力学特性を発現する点から好ましい 。
【0057】
本発明の積層体(その2)において、表面もしくは層間に構成要素[C]の熱可塑性樹脂が存在することが好ましい。積層体の表面に構成要素[C]の熱可塑性樹脂が存在することで、本発明の積層体は、構成要素[C]を通じて同種または異種の部材との接合を溶着で行うことができる。一方、積層体の層間に構成要素[C]の熱可塑性樹脂を含む材料が存在すると、優れた層間破壊靱性値(GICおよびGIIC)が得られる。表面および層間の両方に構成要素[C]が存在すると、より好ましい。
【0058】
本発明の積層体(その2)は、例えばプレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法、ハンド・レイアップ法、フィラメント・ワインディング法、プルトルージョン法、レジン・インジェクション・モールディング法、レジン・トランスファー・モールディング法などの成形法によって作製することができる。
【0059】
<成形品>
本発明の積層体は、なんらかの加熱手段によって、別の部材、すなわち積層体を構成する部材と同種および/または異種の部材(被着材)を、積層体の表面に存在する構成要素[C]に接合させて、構成要素[C]を通して積層体と一体化(溶着)することができる。異種の部材(被着材)として、熱可塑性樹脂からなる部材、金属材料からなる部材が挙げられる。一体化手法は特に制限はなく、例えば、熱溶着、振動溶着、超音波溶着、レーザー溶着、抵抗溶着、誘導溶着、インサート射出成形、アウトサート射出成形などを挙げることができる。
【0060】
一体化した部材の接合部の強度は、ISO4587:1995(JIS K6850(1994))に基づいて評価できる。ISO4587:1995に基づき測定した引張せん断接合強度が、試験環境温度が23℃のとき、25MPa以上であれば好ましく、より好ましくは、28MPa以上である。一般的には、20MPa以上あれば、積層体は構造材料用の接合に用いるものとして利用でき一般的な接着剤の試験環境温度が23℃のときの引張せん断接合強度(10MPa程度)と比べても高い強度である。高温高湿環境下での力学特性が求められる用途では、吸水後の状態で試験環境温度が80℃のとき、ISO4587:1995に基づいた評価で13MPa以上の引張せん断接合強度を示すことが好ましく、より好ましくは16MPa以上である。引張せん断接合強度は高いほど好ましく、上限については特に限定されないが、通常の積層体の一体化成形品では、23℃の試験環境温度または吸水後の状態における80℃の試験環境温度での引張せん断接合強度は、200MPaが上限である。
【0061】
さらに、一体化した部材の接合部の疲労接合強度は、JASO M353(1998)に基づいて評価できる。試験環境温度が23℃のとき、11MPa以上であれば好ましく、より好ましくは13MPa以上である。疲労接合強度は高いほど好ましく、上限については特に限定されないが、通常の積層体の一体化成形品では、100MPaが上限である。
【0062】
本発明の積層体および一体化成形品は、航空機構造部材、風車羽根、自動車外板およびICトレイやノートパソコンの筐体などのコンピューター用途さらにはゴルフシャフトやテニスラケットなどスポーツ用途に好ましく用いられる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、組成比の単位「部」は、特に注釈のない限り質量部を意味する。また、各種特性の測定は、特に注釈のない限り温度23℃、相対湿度50%の環境下で行った。
【0064】
<評価・測定方法>
(1)熱可塑性樹脂のガラス転移温度および融点
熱可塑性樹脂のガラス転移温度および融点は、JIS K7121(2012)に基づいて、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した。
【0065】
(2)引張せん断接合強度
本発明の実施態様としての積層体またはその比較品を、0°方向を試験片の長さ方向として、幅250mm、長さ92.5mmの形状に2枚カットし、真空オーブン中で24時間乾燥させた。その後、幅250mm、長さ92.5mmの形状にカットした2枚のパネルを、0°方向を長さ方向として、幅25mm×長さ12.5mmとして重ね合わせ、用いた構成要素[C]の熱可塑性樹脂の融点よりも20℃高い温度にて、3MPaの圧力をかけて、1分間保持することで、重ね合わせた面を溶着し、一体化成形品を得た。得られた一体化成形品に、ISO4587:1995(JIS K6850(1994))に準拠してタブを接着し、幅25mmでカットすることで、目的の試験片を得た。
【0066】
得られた試験片を、真空オーブン中で24時間乾燥させ、ISO4587:1995(JIS K6850(1994))に基づき、環境温度23℃で引張せん断接合強度を評価した。また、吸水後の80℃環境下での引張せん断接合強度は、得られた試験片を70℃の温水中に2週間浸漬した後、環境温度80℃で、ISO4587:1995(JIS
K6850(1994))に基づき評価した。測定結果に基づいて以下のように評価した。
【0067】
(a)23℃での引張せん断接合強度
28MPa以上:A
25MPa以上28MPa未満:B
20MPa以上25MPa未満:C
20MPa未満:D(不合格)。
【0068】
(b)吸水後の80℃での引張せん断接合強度
16MPa以上:A
13MPa以上16MPa未満:B
10MPa以上13MPa未満:C
10MPa未満:D(不合格)。
【0069】
(4)疲労接合強度
上記(1)の引張せん断接合強度の測定方法と同様の手順で試験片を作製し、疲労試験機によって試験を行った。JASO M353(1998)を参考に、チャック間距離100mm、正弦波応力波形、応力比R=0.1、周波数10Hzにて、環境温度23℃で試験を実施した。
105回で破断する応力波形の最大応力を、疲労接合強度とした。測定結果に基づいて以下のように評価した。
13MPa以上:A
11MPa以上13MPa未満:B
9MPa以上11MPa未満:C
9MPa未満:D(不合格)。
【0070】
(5)層間破壊靱性値(GICおよびGIIC)
後述するプリプレグ[I]またはその比較品を所定の大きさにカットし、同一の強化繊維方向となるよう、計20枚積層した。このとき、中央の10枚目と11枚目の間の位置に予備亀裂導入のための離型フィルムを挟み込み、プリフォームを作製した。このプリフォームをプレス成形金型にセットし、必要に応じ、治具やスペーサーを使用して、この形状を維持させたまま、プレス機で0.6MPaの圧力をかけ、180℃で2時間加温することで、積層体を得た。この積層体は、本発明の積層体の実施態様またはその比較品にも該当しうるが、予備亀裂導入のための離型フィルムを挟み込んでいるという点においては、層間破壊靱性値の評価用積層体であるとも言える。
【0071】
上記の評価用積層体より、強化繊維軸を試験片の長さ方向として、長さ150mm、幅20mmの矩形試験片を切り出し、60℃の真空オーブン中で24時間乾燥させた。得られた試験片を、JIS K7086(1993)に従い、23℃環境下において、層間破壊靱性値(GICおよびGIIC) を評価した。
【0072】
(6)プリプレグまたは積層体の粗さ平均長さRSmおよび粗さ平均高さRc
作製したプリプレグ[I]または積層体を用い、前記両樹脂領域に含まれる[A]の任意の繊維方向に対し、プリプレグの平面視における45度の角度にてプリプレグ平面方向に対し垂直にカットした断面において、光学顕微鏡を用いて、1000倍の画像を撮影した。得られた画像中の任意の500μm×500μmの観察範囲において、前記断面曲線要素の測定方法1により得られる断面曲線要素の、JIS B0601(2001)で定義される、粗さ平均長さRSmおよび粗さ平均高さRcを測定した。
【0073】
<実施例および比較例で用いた材料>
以下に示す構成要素[A]、[B]、[C]及び[E]を用いた。それぞれの実施例および比較例で用いた構成要素は、表1と2に示すとおりである。
【0074】
(1)構成要素[A]:強化繊維
・T800:炭素繊維(“トレカ(登録商標)”T800S-24K、東レ(株)製、ストランド引張強度:5.9GPa)
・T1100:炭素繊維(“トレカ(登録商標)”T1100G-24K、東レ(株)製、ストランド引張強度:7.0GPa)
・T700:炭素繊維(“トレカ(登録商標)”T700S-24K、東レ(株)製、ストランド引張強度:4.9GPa)。
【0075】
(2)構成要素[C]:熱可塑性樹脂
・PEKK:ポリエーテルケトンケトン(“KEPSTAN”(登録商標)7002(アルケマ社製、結晶性、融点331℃、ガラス転移温度162℃))からなる目付120g/m2のフィルム
・PEEK:ポリエーテルエーテルケトン(PEEK 450G(Victrex社製、結晶性、融点343℃、ガラス転移温度143℃))からなる目付120g/m2のフィルム
・半芳香族PA:ポリアミド6T(結晶性、融点320℃、ガラス転移温度125℃))からなる目付120g/m2のフィルム
・PEI:ポリエーテルイミド(“ULTEM”(登録商標)1010 SABIC社製、非晶性、ガラス転移温度217℃)からなる目付120g/m2のフィルム
・PA6:ポリアミド6(“アミラン”(登録商標)CM1007(東レ(株)製、結晶性、融点225℃、ガラス転移温度48℃))からなる目付120g/m2のフィルム。
【0076】
(3)構成要素[B]:熱硬化性樹脂
表1に記載の各具体例の熱硬化性樹脂組成物を、以下の化合物を用いて作製した。
【0077】
(3-1)熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)
・テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(“アラルダイト”(登録商標)MY721、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)エポキシ当量:113(g/eq.)、4官能のグリシジルアミン型エポキシ樹脂)
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(“jER”(登録商標)825、三菱ケミカル(株)製)エポキシ当量:175(g/eq.))。
【0078】
(3-2)硬化剤
・4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(“セイカキュア”S、和歌山精化工業(株)製)。
【0079】
(4)構成要素[E]:熱硬化性樹脂に可溶な熱可塑性樹脂
・ポリエーテルイミド(“ULTEM”(登録商標)1010 SABIC社製)。
【0080】
(5)熱硬化性樹脂組成物の調製
B-1:混練装置中に、50質量部のアラルダイトMY721と50質量部のjER825と7.6質量部のポリエーテルイミドを投入し、加熱混練を行うことでポリエーテルイミドを溶解させた。次いで、混練を続けたまま100℃以下の温度まで降温させ、45.1質量部の4,4’-ジアミノジフェニルスルホンを加えて撹拌し、熱硬化性樹脂組成物を得た。
B-2:ポリエーテルイミドを配合しないこと以外はB-1と同様の配合量および方法で、熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0081】
<プリプレグの作製>
プリプレグは、以下の2種の方法により作製した。各例で使用した構成要素は表1,2記載のそれぞれのとおりである。
【0082】
プリプレグ[I]
構成要素[A]の強化繊維を目付193g/m2で一方向に整列させた連続した状態の強化繊維シートを引き出し、一方向に走行させつつ、構成要素[C]からなる目付120g/m2の樹脂シートを連続強化繊維シート上に配置して、IRヒータで加熱して構成要素[C]を溶融し、連続強化繊維シート片面全面に付着させ、表面温度が構成要素[C]の融点以下に保たれたニップロールで加圧して、強化繊維シートに含浸したものを冷却させて繊維強化樹脂中間体を得た。表1,2記載のとおり選定した構成要素[B]に係る熱硬化性樹脂組成物を、ナイフコーターを用いて樹脂目付100g/m2で離型紙上にコーティングし、熱硬化性樹脂フィルムを作製した後、上記中間体における構成要素[C]を含浸させた反対の表面に上記熱硬化性樹脂フィルムを重ね、ヒートロールにより加熱加圧しながら熱硬化性樹脂組成物を中間体に含浸させ、プリプレグ[I]を得た。このプリプレグ[I]が、本発明のプリプレグの実施態様またはその比較品に該当しうる。
【0083】
プリプレグ[II]
プリプレグ[I]と組み合わせて積層体の前駆体とするプリプレグ[II]を、次のように作製した。表1,2記載のとおり選定した構成要素[B]に係る熱硬化性樹脂組成物を、ナイフコーターを用いて樹脂目付50g/m2で離型紙上にコーティングし、樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルムを、一方向に引き揃えた構成要素[A]の強化繊維(目付193g/m2)の両側に重ね合せてヒートロールを用い、加熱加圧しながら熱硬化性樹脂組成物を炭素繊維に含浸させ、プリプレグ[II]を得た。
【0084】
<積層体の作製>
上記で作製したプリプレグ[I]および[II]を所定の大きさにカットし、プリプレグ[I]を2枚とプリプレグ[II]を6枚得た。強化繊維の軸方向を0°とし、軸直交方向を90°と定義して、[0°/90°]2s(記号sは、鏡面対称を示す)で積層し、プリフォームを作製した。このとき両面それぞれの最外層の2枚はプリプレグ[I]となるように積層し、プリフォームの両の表層が、構成要素[C]を含む熱可塑性樹脂層となるように配置した。このプリフォームをプレス成形金型にセットし、必要に応じ、治具やスペーサーを使用して、この形状を維持させたまま、プレス機で0.6MPaの圧力をかけ、180℃で2時間加温することで、積層体を得た。この積層体が、本発明の積層体の実施態様またはその比較品に該当しうる。
【0085】
<実施例1>
実施例1では、表1の記載のとおり構成要素を選定し、上記<プリプレグの作製>にしたがってプリプレグ[I],[II]を作製し、上記<積層体の作製>にしたがって本発明の積層体を作製し、引張せん断接合強度および疲労接合強度の評価を行った。
【0086】
<比較例1>
比較例1は、表2に記載のとおり、熱可塑性樹脂としてPA6を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、プリプレグ[I],[II]および積層体の作製を行い、引張せん断接合強度および疲労接合強度の評価を行った。
【0087】
実施例1は構成要素[C]としてポリエーテルケトンケトンを用いることで、比較例1(熱可塑性樹脂のガラス転移温度が100℃以下)と比べ、積層体として、吸水後の80℃での引張接合強度および疲労接合強度が優れていることを示した。
【0088】
<実施例2>
表1に記載のとおり、熱硬化性樹脂に可溶な熱可塑性樹脂としてポリエーテルイミドを添加しなかった以外は実施例1と同様にして、実施例2のプリプレグ[I],[II]および積層体の作製を行い、引張せん断接合強度および疲労接合強度の評価を行った。
【0089】
実施例1では、熱硬化性樹脂に可溶な熱可塑性樹脂として、ポリエーテルイミドを含むことで、ポリエーテルイミド未含有の実施例2に対し、23℃および吸水後の80℃での引張せん断接合強度と疲労接合強度が向上しており、好ましい傾向を示した。
【0090】
<実施例3,4>
表1に記載のとおり、実施例3および実施例4では、ストランド引張強度の異なる強化繊維を用いた。
【0091】
実施例1,3および4を比較すると、ストランド引張強度が高いほど、23℃および吸水後の80℃での引張せん断接合強度と疲労接合強度が向上し、好ましい特性を示した。
【0092】
<比較例2>
比較例2では、上述の<プリプレグの作製>によるプリプレグの作製はせず、代わりに、一方向平面状に配列させた強化繊維シートの両面に、フィルム目付50g/m2のポリアミド6(“アミラン”(登録商標)CM1007(東レ(株)製))のフィルムを貼り付け、250℃で加熱加圧して、強化炭素繊維目付193g/m2のプリプレグを得た。得られたプリプレグを、所定のサイズにカットし、[0°/90°]2s構成で積層した後、プレス機で3MPaの圧力をかけ、250℃で10分間加温することで積層体を得た。得られた積層体より、実施例に記載の方法で引張接合強度と疲労接合強度を測定した。表2に示すとおり、熱可塑性樹脂としてポリアミド6を用いて、さらに熱硬化性樹脂非含有であるため、実施例1に比べて吸水後の80℃での引張せん断接合強度および疲労接合強度が低く、構造材料として十分な特性を示さなかった。
【0093】
<実施例5~7>
表1に記載のとおり、実施例5~7では、実施例1と異なる構成要素[C]を用いたが、実施例1と同様に優れた各種接合強度を示した。
【0094】
<実施例8および比較例3,4>
実施例8では、上記プリプレグ[I]を所定の大きさにカットし、同一の強化繊維方向となるよう、計20枚積層し、中央の10枚目と11枚目の間の位置に予備亀裂導入のための離型フィルムを挟み込み、プリフォームを作製した。
比較例3では、構成要素[C]を用いず、プリプレグ[II]を所定の大きさにカットし、実施例5と同じ方法で積層し、離型フィルムを挟み込み、プリフォームを得た。
比較例4では、所定の大きさにカットしたプリプレグ[II]の片側表面に、ポリアミド粒子(SP-500、東レ(株)製)を、プリプレグ単位面積あたりの粒子量が7g/m2となるよう均一に散布したのち、実施例8と同じ方法で積層し、離型フィルムを挟み込み、プリフォームを得た。
これらのプリフォームを、前述の手順で加圧・加熱し、層間破壊靱性値の評価用積層体を得た。得られた評価用積層体について、前述の方法で、層間破壊靱性値(GICおよびGIIC)を評価した。表1および2に記載の通り、構成要素[C]を積層体の層間に含む実施例8は、構成要素[C]非含有の比較例3および熱可塑性樹脂を異なる形態として含む比較例4に比べ、優れた層間破壊靱性値を示した。
【0095】
なお、全ての実施例のプリプレグおよび積層体において、[A]の強化繊維が、[B]を含む樹脂領域と[C]を含む樹脂領域との境界面をまたいで両樹脂領域に含まれていること、または、[C]を含む樹脂領域と[D]を含む樹脂領域との境界線をまたいで両樹脂領域に含まれていること、を確認した。比較例4においては、[A]の強化繊維が[C]の樹脂領域に含まれていなかった。
【0096】
【0097】
【符号の説明】
【0098】
1:プリプレグまたは積層体
2:構成要素[A]
3:構成要素[C]および構成要素[B]または構成要素[D]
4:任意の繊維束の軸方向
5:観察断面
6:構成要素[A]
7:構成要素[C]を含む樹脂領域
8:構成要素[B]または構成要素[D]を含む樹脂領域
9:観察画像
10:境界面
11:基準線
12:垂基線
13:断面曲線