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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】多翼ファン及び室内機
(51)【国際特許分類】
   F04D 17/04 20060101AFI20240723BHJP
   F04D 29/30 20060101ALI20240723BHJP
   F04D 29/66 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
F04D17/04 B
F04D29/30 101
F04D29/30 C
F04D29/30 F
F04D29/66 M
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021010250
(22)【出願日】2021-01-26
(65)【公開番号】P2022114106
(43)【公開日】2022-08-05
【審査請求日】2023-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 大貴
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-190747(JP,A)
【文献】特開2011-058450(JP,A)
【文献】国際公開第2014/207908(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/002987(WO,A1)
【文献】特開2003-028089(JP,A)
【文献】国際公開第2013/094387(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 17/04
F04D 29/30
F04D 29/66
F24F 1/0022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の軸方向に沿って延ばされると共に、前記回転軸まわりに所定のピッチで配列された複数の翼を備える多翼ファンであって、
前記複数の翼は内周側部と外周側部を有し、
前記複数の翼は前記内周側部を基準としたとき前記外周側部が翼の厚み方向における一方向にずらされると共に前記内周側部と前記外周側部が連結されることで、前記内周側部と前記外周側部の境目に形成される段差部を有する翼を含み、
前記段差部は、前記翼の翼面と交差する端面を有し、
複数の翼の配列方向に隣り合う翼同士は、前記回転軸上でいずれかの翼に前記段差部が形成された位置において、前記回転軸と直交する断面形状が異なって配置され、前記回転軸の軸方向に対する前記端面の傾斜角が互いに異なる、多翼ファン。
【請求項2】
回転軸の軸方向に沿って延ばされると共に、前記回転軸まわりに所定のピッチで配列された複数の翼を備える多翼ファンであって、
前記複数の翼は内周側部と外周側部を有し、
前記複数の翼は前記内周側部を基準としたとき前記外周側部が翼の厚み方向における一方向にずらされると共に前記内周側部と前記外周側部が連結されることで、前記内周側部と前記外周側部の境目に形成される段差部を有する翼を含み、
前記段差部は、前記翼の正圧面に交差して形成された正圧面側の端面と、前記翼の負圧面に交差して形成された負圧面側の端面と、を有し、
前記正圧面側の端面と前記負圧面側の端面は、前記回転軸の軸方向に対する傾斜角が互いに異なり、
複数の翼の配列方向に隣り合う翼同士は、前記回転軸上でいずれかの翼に前記段差部が形成された位置において、前記回転軸と直交する断面形状が異なって配置されている、多翼ファン。
【請求項3】
回転軸の軸方向に沿って延ばされると共に、前記回転軸まわりに所定のピッチで配列された複数の翼を備える多翼ファンであって、
前記複数の翼は内周側部と外周側部を有し、
前記複数の翼は前記内周側部を基準としたとき前記外周側部が翼の厚み方向における一方向にずらされると共に前記内周側部と前記外周側部が連結されることで、前記内周側部と前記外周側部の境目に形成される段差部を有する翼を含み、
前記段差部は、前記翼の翼面と交差する端面を有し、
複数の翼の配列方向に隣り合う翼同士は、前記回転軸上でいずれかの翼に前記段差部が形成された位置において、前記回転軸と直交する断面形状が異なって配置され、前記回転軸の軸方向における前記段差部の前記端面の長さが異なる、多翼ファン。
【請求項4】
前記複数の翼の配列方向に隣り合う翼同士は、翼弦に沿う方向に対する前記段差部の位置が互いに異なる、
請求項1~3のいずれか1項に記載の多翼ファン。
【請求項5】
全ての前記複数の翼は、前記配列方向に隣り合う翼同士において前記回転軸の軸方向に直交する翼の断面形状が互いに異なる、
請求項1~のいずれか1項に記載の多翼ファン。
【請求項6】
前記複数の翼は、前記段差部を有し、各段差部において、前記内周側部と前記外周側部の一方の各翼面に対して他方の各翼面がずらされる向きが、前記多翼ファンの回転方向に対して同じ向きである、
請求項1~のいずれか1項に記載の多翼ファン。
【請求項7】
記段差部において、前記内周側部と前記外周側部の一方の各翼面に対して他方の各翼面は、前記端面に沿う前記他方の厚みよりも大きくずらされている、
請求項1~のいずれか1項に記載の多翼ファン。
【請求項8】
前記複数の翼は、前記回転軸の回転中心に対する翼の内接円の直径をA、翼の外接円の直径をBとしたとき、翼の内外径比(A/B)が0.720以上、0.800以下である、
請求項1~のいずれか1項に記載の多翼ファン。
【請求項9】
前記複数の翼は、前記回転軸の回転中心に対する翼の内接円の直径をA、外接円の直径をBとしたとき、翼の内外径比(A/B)が0.800を超える、
請求項1~のいずれか1項に記載の多翼ファン。
【請求項10】
熱交換器と、
前記熱交換器を通過した空気が流入する、請求項1~のいずれか1項に記載の多翼ファンと、
を備える、室内機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多翼ファン及び室内機に関する。
【背景技術】
【0002】
回転軸の軸方向に沿って延ばされると共に回転軸まわりに配列された複数の翼を備える多翼ファンが知られている。この種の多翼ファンとしては、遠心ファンや、例えば空気調和機が備えるクロスフローファン(貫流ファン)がある(特許文献1)。
【0003】
上述した多翼ファンでは、翼の回転時に翼間の気流の風切り音である翼ピッチ音(周期音)が発生し、回転時の騒音になる。この翼ピッチ音は、一般にNz音と呼ばれ、多翼ファンの回転数Nと翼の個数zの積(N×z)によって周波数が表される。翼ピッチ音は、翼の個数が多いほど周波数が高くなり、(周波数)=(回転数)×(翼の個数)で決まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許2014-190543号公報
【文献】特許昭60-17296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多翼ファンでは、翼ピッチ音を抑制するために、翼のピッチが異なるように配列(以下、不等ピッチ配列と称する。)する構造が知られている(特許文献2)。しかし、不等ピッチ配列する構造では、隣り合う翼同士の間における翼面に沿う流路全体が狭くなる個所において、流路抵抗が増えるおそれがある。
【0006】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、翼の回転時に生じる翼ピッチ音による騒音を抑えると共に、不等ピッチ配列と比べて流路抵抗を抑えることができる多翼ファン及び室内機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の開示する多翼ファンの一態様は、回転軸の軸方向に沿って延ばされると共に、回転軸まわりに所定のピッチで配列された複数の翼を備える多翼ファンであって、複数の翼は内周側部と外周側部を有し、複数の翼は内周側部を基準としたとき外周側部が翼の厚み方向における一方向にずらされると共に内周側部と外周側部が連結されることで、内周側部と外周側部の境目に形成される段差部を有する翼を含み、段差部は、翼の翼面と交差する端面を有し、複数の翼の配列方向に隣り合う翼同士は、回転軸上でいずれかの翼に段差部が形成された位置において、回転軸と直交する断面形状が異なって配置され、回転軸の軸方向に対する端面の傾斜角が互いに異なる。
【発明の効果】
【0008】
本願の開示する多翼ファンの一態様によれば、翼の回転時に生じる翼ピッチ音による騒音を抑えると共に、不等ピッチ配列と比べて流路抵抗を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例の室内機を示す断面図である。
図2図2は、実施例の多翼ファンを示す斜視図である。
図3図3は、実施例の多翼ファンを示す断面図である。
図4図4は、実施例の多翼ファンの翼の一例を拡大して示す模式図である。
図5図5は、実施例の多翼ファンの翼の他の例を拡大して示す模式図である。
図6図6は、実施例の多翼ファンにおける複数の翼の段差部の一例を示す断面図である。
図7図7は、実施例の多翼ファンにおける複数の翼の段差部の変形例1を示す断面図である。
図8図8は、実施例の多翼ファンにおける複数の翼の段差部の変形例1を示す平面図である。
図9図9は、実施例の多翼ファンにおける複数の翼の段差部の変形例2を示す平面図である。
図10図10は、実施例の多翼ファンにおける複数の翼の段差部の変形例3を示す平面図である。
図11図11は、実施例の多翼ファンにおける騒音レベルを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本願の開示する多翼ファン及び室内機の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例によって、本願の開示する多翼ファン及び室内機が限定されるものではない。
【実施例
【0011】
(室内機の構成)
図1は、実施例の室内機を示す断面図である。図2は、実施例の多翼ファンを示す斜視図である。図1に示すように、実施例の室内機1は、冷凍サイクル装置、例えば、空気調和機(図示せず)を構成する室内機であり、熱交換器5と、熱交換器5を通過した空気が流入する多翼ファン6と、多翼ファン6から送られる気流の流路を形成するファンケーシング7と、熱交換器5、多翼ファン6、ファンケーシング7を内部に収容する本体ケーシング8と、を備える。本体ケーシング8は、空気の吸い込み口8a及び吹き出し口8bを有する。
【0012】
多翼ファン6は、図2に示すように、複数の翼12が回転軸13まわりに配列された羽根車11を備える。羽根車11は、回転軸13の軸方向Xに複数配列されており、各羽根車11の間に仕切板14を挟んで連結されている。回転軸13の軸方向Xにおける両端には、回転軸13を備える端板15が設けられており、ファンケーシング7の図示しない軸受けに多翼ファン6の両端の回転軸13が回転可能に支持されている。
【0013】
また、各羽根車11は、回転軸13まわりの周方向、つまり複数の翼12の配列方向に対して互いにずらされて連結されている。これにより、各羽根車11は、回転軸13の軸方向Xに並ぶ羽根車11間で翼ピッチ音に位相差が生じるので、多翼ファン6の回転時の騒音を抑えられる。
【0014】
(多翼ファンの構成)
図3は、実施例の多翼ファン6を示す断面図である。実施例の多翼ファン6は、空気の流れが、回転軸13の軸方向Xと交差する方向に多翼ファン6を貫通する、いわゆる貫流ファンとして用いられている。
【0015】
多翼ファン6は、図2に示すように、回転軸13の軸方向Xに沿って延ばされると共に、図3に示すように、回転軸13まわりに所定のピッチPで配列された複数の翼12を備える(等ピッチ配列)。翼12の翼面17は、多翼ファン6の回転方向Rとは逆方向に向かって凸となるように湾曲しており、正圧面17aと負圧面17bを有する。翼12は、多翼ファン6の回転中心O側に位置し、翼12の翼面を形成する内周側部18aと、回転中心O側とは反対側に位置、翼12の翼面を形成する外周側部18bと、を有する。なお、実施例の多翼ファン6は、翼12が等ピッチ配列にされたが、等ピッチ配列に限定するものではなく、翼12が不等ピッチ配列にされてもよい。
【0016】
図4は、実施例の多翼ファン6の翼12の一例を拡大して示す模式図である。図4に示すように、複数の翼12は、翼12の内周側部18aと外周側部18bのうち、一方の各翼面17に対して他方の各翼面17が、翼12の厚み方向における一方向にずらされると共に内周側部18aと外周側部18bが連結されることで形成される段差部20を有する翼12を含む。言い換えると、本実施例の多翼ファン6では一例として、内周側部18aに対して外周側部18bが翼12の厚み方向に沿って、多翼ファン6の回転方向Rにずらされることで段差部20が形成される共に、正圧面17aにおいて内周側部18aと外周側部18bとが段差部20(端面20a)によって連結され、負圧面17bにおいて内周側部18aと外周側部18bとが段差部20(端面20b)によって連結されている。ここで翼12の厚み方向は、翼12の翼弦に沿う方向に直交する方向を指す。なお、この場合、回転軸13の軸方向に垂直な断面において端面20aと内周側部18aの正圧面17aのなす角が90度であるが、90度より大きくても良い。また、回転軸13の軸方向に垂直な断面において端面20bと外周側部18bの負圧面17bのなす角が90度であるが、90度より大きくてもよい。
【0017】
本実施例の多翼ファン6では、例えば、複数の翼12の全てに段差部20がそれぞれ形成されるが、この構造に限定されず、複数の翼12のうちの少なくとも1つの翼12が段差部20を有する構造であればよい。そして、本実施例の多翼ファン6は、回転軸13の軸方向Xにおいて段差部20を通る、翼12の同一位置で、回転軸13の軸方向Xに直交する翼12の断面形状(以下、翼12の断面形状と称する。)が互いに異なる2つの翼12が、複数の翼12の配列方向に隣り合って配置されている。言い換えると、複数の翼12の配列方向に隣り合う翼12同士は、翼面17に交差し翼弦に沿う翼12の断面形状が互いに異なる。なお、多翼ファン6は、複数の翼12の配列方向において、少なくとも2つの翼12の断面形状が互いに異なり、この2つの翼12が隣り合って配置されていればよく、断面形状が異なる翼12間で、翼ピッチ音の周波数を異ならせることができる。
【0018】
多翼ファン6は、正圧面17a及び負圧面17bが、翼12の厚み方向における一方向にずらされると共に内周側部18aと外周側部18bが連結された段差部20が形成されることにより、内周側部18aと外周側部18bのうちのいずれか一方のみが翼12の厚み方向にずらされるので、翼12が不等ピッチ配列される構造のように、隣り合う翼12同士の間の流路全体のピッチが狭まることで流路抵抗が増えることが抑えられる。すなわち、多翼ファン6は、翼12が不等ピッチ配列される構造と比べて、隣り合う翼12同士の間の流路抵抗を抑えられる。言い換えると、多翼ファン6では、隣り合う翼12同士の間の流路において、段差部20の箇所で流路抵抗が増えるおそれがあるが、不等ピッチ配列のように、隣り合う翼12同士の間の流路全体で流路抵抗が増えることを避けられる。
【0019】
例えば、図4に示すように、多翼ファン6が有する翼12の段差部20は、正圧面17aに凹部を形成すると共に、負圧面17bに、正圧面17aの凹部の深さに相当する高さの凸部を形成する構造に相当する。つまり、翼12の厚み方向において、段差部20によって、内周側部18aの正圧面17aが外周側部18bの正圧面17aよりも窪んでおり、内周側部18aの負圧面17bが外周側部18bの負圧面17bよりも突出している。
【0020】
ここで、図示しないが、例えば、翼12の負圧面17bを変化させずに正圧面17aに凹部を形成する参考例と、段差部20が翼12に形成された実施例とを比較してみる。この場合、実施例における段差部20を有する翼12は、翼12の厚み方向において正圧面17aに凹部が形成されると共に負圧面17bに凸部が形成される点で、負圧面17bを変化させずに正圧面17aに凹部を形成する参考例と異なる。
【0021】
負圧面17bを変化させずに正圧面17aに凹部を形成する参考例では、凹部によって翼ピッチ音に位相差を生じさせる作用を翼12の一方の翼面17(正圧面17a)のみに与えられるが、この作用を翼12の他方の翼面17(負圧面17b)に与えられない。これに対して、実施例における翼12の段差部20によれば、凹部によって翼ピッチ音に位相差を生じさせる作用を正圧面17aに与えられると共に、凸部によって翼ピッチ音に位相差を生じさせる作用を負圧面17bに与えられる。
【0022】
このように、実施例における段差部20は、翼12の正圧面17aと負圧面17bの両方で翼ピッチ音に位相差を生じさせることで、翼ピッチ音に生じる位相差を大きくできるので、参考例よりも騒音を低減する効果が高い。さらに、実施例の段差部20では、後述する段差部20における端面20aと端面20bの傾斜角を互いに異ならせることで、正圧面17aによって翼ピッチ音に生じる位相差と、負圧面17bによって翼ピッチ音に生じる位相差とを異ならせることが可能であり、翼12の位置によって風を切るタイミングが異なるので騒音の位相が異なり、それらが干渉して騒音を低減させる効果を高められる。
【0023】
また、例えば、翼12の一方の翼面17のみに凹部を形成する参考例では、翼ピッチ音に生じさせる位相差を大きくする場合、凹部を大きく形成する必要があり、凹部によって翼12の厚みが薄くなることで翼12の機械的強度が低下する不都合がある。さらに、参考例において、凹部を大きく形成しながら翼12の機械的強度を確保する場合には、翼12の厚みを大きくする必要があり、翼12の厚みを大きくすると隣り合う翼12同士の間隔が狭まり、隣り合う翼12同士の間における流路抵抗が増える不都合がある。
【0024】
また、多翼ファン6では、複数の翼12の配列方向に隣り合う各翼12において、内周側部18aに対して外周側部18bが、多翼ファン6の回転方向Rに向かって揃えてずらされることで、隣り合う翼12間における流路が狭くなることが避けられ、流路抵抗が抑えられる。これにより、翼12間の流路を翼面17に沿って通過する気流に圧力損失が生じることが抑えられ、多翼ファン6を駆動するモータ(図示せず)の消費電力の低減を図れる。言い換えると、隣り合う翼12間における流路で生じる気流の圧力損失を減少させて、多翼ファン6の風量を増やすことができる。
【0025】
なお、複数の翼12の配列方向に隣り合う各翼12において、外周側部18bに対して内周側部18aがずらされる方向は、多翼ファン6の回転方向Rに限定されず、隣り合う翼12が、回転方向Rとは逆方向にずらされてもよい。
【0026】
図示しないが、多翼ファン6は、例えば、段差部20を有する翼12と、段差部20が無い翼12が隣り合って配置される構造であってもよい。この構造であっても、段差部20を有する翼12と、段差部20が無い翼12との間で、周波数を異ならせることが可能であり、多翼ファン6の騒音を抑える効果が得られる。
【0027】
上述のように、隣り合う翼12同士において翼12の断面形状が異なるとは、隣り合う各翼12の、回転軸13の軸方向Xに直交する断面形状を、回転軸13の軸方向Xにおいて段差部20を通る、翼12の同一位置で比較したときに、翼12の断面形状が互いに異なることを指す。このように異なる翼12の断面形状には、段差部20の断面形状が異なる構造と、翼弦に沿う方向における段差部20の位置が異なる構造が含まれる。
【0028】
(段差部の断面形状)
段差部20は、図4に示すように、翼12の翼面17と交差する2つの端面20a、20bを有する。段差部20の正圧面17a側の端面20aは、翼12の正圧面17aと交差しており、内周側部18a側の正圧面17aと外周側部18b側の正圧面17aに跨って形成されている。同様に、段差部20の負圧面17b側の端面20bは、翼12の負圧面17bと交差しており、内周側部18aの負圧面17bと外周側部18bの負圧面17bに跨って形成されている。また、端面20aと端面20bは、同一面上に位置している。また、段差部20は、翼12における回転軸13の軸方向Xにわたって形成されるが、軸方向Xにおける翼12の一部に形成されてもよい。
【0029】
隣り合う翼12同士で段差部20の断面形状が異なる構造には、内周側部18aの正圧面17aに対する外周側部18bの正圧面17aの変位量、つまり、翼面17に交差する方向に対する段差部20の深さが異なる構造が含まれる。この構造を言い換えると、翼面17に交差する方向に対する、段差部20の端面20a、20bの幅が異なる構造である。また、翼12同士で段差部20の断面形状が異なる構造には、翼面17に対する端面20a、20bの傾斜角が異なる構造、つまり翼面17と端面20a、20bとがなす角度を異なる構造も含まれる。このように複数の翼12の配列方向に隣り合う翼12同士の各段差部20において、端面20a、20bの表面を通過する空気の流れ方向や風速を異ならせることができる。これにより、翼面17に対する端面20a、20bの傾斜角が異なることで、隣り合う翼12間で翼ピッチ音の周波数を異ならせることができる。
【0030】
また、段差部20の深さは、例えば、翼弦長Lの中央における翼12の厚みの1/2程度に設定されているが、深さを限定するものではない。翼12の厚みが薄い場合には、翼12間で翼ピッチ音の周波数が適正に変化するように段差部20の深さを確保できないこともある。この場合、段差部20の深さは、翼12の厚みと同等に形成されたり、翼12の厚みよりも大きく形成されたりしてもよい。また、複数の翼12は、段差部20が、翼12の厚みが最大になる最大肉厚部に端面20a、20bが位置するように形成されている翼12を含む。翼12の最大肉厚部は、例えば、翼12の翼弦に沿う方向において、翼弦長Lの中央よりも内周側部18a側に位置しており、内周側部18aに段差部20が形成されている。
【0031】
図5は、実施例の多翼ファン6の翼12の他の例を拡大して示す模式図である。図5に示すように、他の例の翼12は、図4に示した翼12と比べて翼12の厚みが薄く形成されている。段差部20において、内周側部18aの各翼面17である正圧面17a及び負圧面17bに対して、外周側部18bの各翼面17である正圧面17a及び負圧面17bは、端面20bに沿う外周側部18bの厚みよりも大きくずらされている。このように段差部20の深さは、段差部20が形成される部分の翼12の厚み以上に形成されてもよい。
【0032】
図5に示す例の翼12では、内周側部18aの各翼面17である正圧面17a及び負圧面17bに対して、外周側部18bの各翼面17である正圧面17a及び負圧面17bは、端面20bに沿う外周側部18bの厚みよりも大きくずらされているので、段差部20の端面20aと端面20bが翼弦に沿う方向に対して離れている。端面20aと端面20bとの間の距離は、例えば、端面20bに沿う外周側部18bの厚み程度に形成されており、段差部20の機械的強度が確保されている。
【0033】
図6は、実施例の多翼ファン6における複数の翼12の段差部20の一例を示す断面図である。図6に示すように、複数の翼12の配列方向に隣り合う翼12同士は、段差部20の深さが異なっており、例えば、段差部20の深さが、多翼ファン6の回転方向Rに対して徐々に大きくなるように形成されている。なお、このように段差部20の深さが、多翼ファン6の回転方向Rに沿って徐々に変化する構造に限定されず、例えば、複数の翼12の配列方向において、隣り合う翼12同士の各段差部20の深さが不規則に異なっていてもよい。多翼ファン6は、隣り合う翼12同士において段差部20の深さが異なるように形成されていればよく、隣り合う翼12間で翼ピッチ音の周波数を異ならせることができる。
【0034】
(変形例1)
図7は、実施例の多翼ファン6における複数の翼12の段差部20の変形例1を示す断面図である。図8は、実施例の多翼ファン6における複数の翼12の段差部20の変形例1を示す平面図である。
【0035】
図7及び図8に示すように、変形例1では、複数の翼12の配列方向に隣り合う翼12同士において、翼弦に沿う方向に対する段差部20の位置が異なっており、例えば、段差部20の位置が、多翼ファン6の回転方向Rに沿って、内周側部18a側から外周側部18b側に徐々に変化するように形成されている。なお、このように段差部20の位置が、回転方向Rに沿って徐々に変化する構造に限定されず、例えば、複数の翼12の配列方向において、隣り合う翼12同士の各段差部20の位置が不規則に異なっていてもよい。多翼ファン6は、隣り合う翼12同士において段差部20の位置が異なるように形成されていればよく、隣り合う翼12間で翼ピッチ音の周波数を更に異ならせることができる。
【0036】
なお、隣り合う翼12同士は、段差部20の深さと段差部20の位置を組み合わせることにより、翼12の断面形状が異なっていてもよく、複数の翼12の全ての断面形状が異なるように形成されてもよい。
【0037】
図6図8に示した多翼ファン6では、1つの翼12において、段差部20を有する翼12の断面形状が、回転軸13の軸方向Xにおいて同一形状に形成されているが、1つの翼12における翼12の断面形状が回転軸13の軸方向Xに沿って変化するように形成されてもよい。
【0038】
(変形例2)
図9は、実施例の多翼ファン6における複数の翼12の段差部20の変形例2を示す平面図である。図9に示すように、1つの翼12において、段差部20の端面20a、20bが、回転軸13の軸方向Xに対して傾斜されることで、翼12の断面形状が回転軸13の軸方向Xにおいて変化している。このため、1つの翼12において、翼弦に沿う方向における段差部20の位置(端面20a、20bの位置)が、回転軸13の軸方向における位置に応じて変化する。また、翼12は、翼弦に沿う方向における翼12の厚みが均一ではないので、翼弦に沿う方向における段差部20の位置が変化することに伴って、段差部20の深さも変化する。
【0039】
そして、変形例2では、複数の翼12の配列方向、つまり多翼ファン6の回転方向Rにおいて、回転軸13の軸方向Xに対する端面20a、20bの傾斜角θが互いに異なる2つの翼12が隣り合って配置されている。このため、例えば、図9中のD-D断面において、隣り合う翼12同士の翼12の断面形状が異なることにより、隣り合う翼12間で翼ピッチ音の周波数を異ならせることができる。
【0040】
上述した段差部20を有する翼12は、成形金型を用いた射出成形によって形成されており、成形された翼12を成形金型に対して、翼面17に交差し翼弦に沿う断面と直交する方向、つまり回転軸13の軸方向Xに抜くことで形成される。このため、翼12の成形時に成形金型に対する翼12の抜き勾配を調整することにより、回転軸13の軸方向Xに対する段差部20の端面20a、20bの傾斜角θを容易に変化させることができる。したがって、隣り合う翼12同士において、回転軸13の軸方向Xに対する段差部20の端面20a、20bの傾斜角θを異ならせることで、段差部20の位置や深さを容易に異ならせることができる。
【0041】
また、段差部20において、正圧面17a側の端面20aと負圧面17b側の端面20bは、回転軸13の軸方向Xに対する傾斜角が互いに異なる。これにより、段差部20によって正圧面17a側の気流の翼ピッチ音が発生する位相と、段差部20によって負圧面17b側の気流の翼ピッチ音が発生する位相を互いに異ならせることができるので、翼ピッチ音による騒音を低減できる。なお、成形金型で成形された翼12を成形金型から回転軸13の軸方向Xに抜く場合、成形金型に対する翼12の抜き方向とは逆方向に向かって、段差部20の端面20aの位置が徐々に内周側部18aに近づくと共に、端面20bの位置が徐々に外周側部18bに近くづくように各端面20a、20bが傾斜されている。
【0042】
(変形例3)
図10は、実施例の多翼ファン6における複数の翼12の段差部20の変形例3を示す平面図である。図10に示すように、変形例3では、複数の翼12の配列方向に隣り合う翼12同士において、翼弦に沿う方向における段差部20の断面形状が同一であり、回転軸13の軸方向Xに対する段差部20の長さHが異なる。変形例3では、隣り合う翼12同士において段差部20の長さHが異なるので、例えば、図10中のE-E断面において、隣り合う翼12同士の翼12の断面形状が異なることにより、隣り合う翼12間で翼ピッチ音の周波数を異ならせることができる。
【0043】
なお、図示しないが、隣り合う翼12同士において、上述した実施例、変形例1、2の段差部20の構造と組み合わされて、段差部20の長さHが異なるように形成されてもよく、実施例の効果が更に高められる。また、多翼ファン6は、実施例、変形例1~3の各翼12をそれぞれ備えてもよい。
【0044】
(段差部の作用)
以上のように多翼ファン6の隣り合う翼12同士は、実施例、変形例1~3における段差部20のいずれかを有することにより、各翼12の断面形状が異なるので、隣り合う翼12間で翼ピッチ音の周波数を異ならせる。これにより、隣り合う翼12同士において、翼ピッチ音の周波数を分散させることが可能になり、翼12の回転時に生じる翼ピッチ音による騒音が抑えられる。また、翼12は、内周側部18aと外周側部18bが段差部20によって連結されているので、機械的強度が低下することが抑えられる。
【0045】
図11は、実施例の多翼ファン6における騒音レベルを説明するための図である。図11において、縦軸が、騒音レベル[dB]を示し、横軸が騒音の周波数[Hz]を示す。図11において、実施例の多翼ファン6を破線で示し、比較例の多翼ファンを実線で示す。
【0046】
比較例の多翼ファンは、翼12が段差部20を有さず、複数の翼12の配列方向において翼12の断面形状が同一である。図11に示すように、実施例の多翼ファン6は、段差部20を有する翼12の断面形状が、翼12の配列方向に隣り合う翼12同士で異なることで、翼12間で翼ピッチ音の周波数を異ならせることで、矢印F1で示す1次の周波数付近と、矢印F2で示す2次の周波数付近において、騒音レベルを低減できる。
【0047】
(翼の内外径比)
上述した多翼ファン6の複数の翼12は、図3に示すように、回転軸13の回転中心Oに対する翼12の内接円C1の直径(内径)をA、翼12の外接円C2の直径(外径)をBとしたとき、翼12の内外径比(A/B)が0.720以上、0.800以下である。このような翼12の内外径比(A/B)の場合に、実施例における段差部20によって、翼ピッチ音の周波数を異ならせることにより、段差部20が無い多翼ファンに比べて騒音を低減できる。
【0048】
また、多翼ファン6の風量を増やすために翼12の内外径比(A/B)を拡大し、翼12の内外径比(A/B)が0.800を超える場合には、多翼ファン6を貫通するように翼12間を通過する風速が増加するので、騒音の悪化を引き起こすおそれがある。このような場合であっても、段差部20によって翼ピッチ音の位相を異ならせることにより、騒音の悪化を回避しつつ風量を増やすことができる。
【0049】
(効果)
上述したように多翼ファン6において、複数の翼12は内周側部18aと外周側部18bを有し、複数の翼12は内周側部18aを基準としたとき外周側部18bが、翼12の厚み方向における一方向にずらされると共に内周側部18aと外周側部18bが連結されることで、内周側部18aと外周側部18bの境目に形成される段差部20を有する翼12を含む。回転軸13の軸方向Xにおいて段差部20を通る、複数の翼12の配列方向に隣り合う翼12同士は、回転軸13上でいずれかの翼12に段差部20が形成された位置において、回転軸13と直交する断面形状が異なって配置されている。これにより、複数の翼12において、隣り合う翼12の翼ピッチ音の周波数を変化させることで、翼12の回転時に生じる翼ピッチ音による騒音を抑えることができる。
【0050】
加えて、多翼ファン6が有する翼12には、正圧面17a及び負圧面17bが、翼12の厚み方向における一方向にずらされることで、内周側部18aと外周側部18bの境目に形成される段差部20を有することにより、内周側部18aと外周側部18bのうちのいずれか一方のみが翼12の厚み方向にずらされるので、翼12が不等ピッチ配列される構造のように、隣り合う翼12同士の間の流路全体で流路抵抗が増えることが抑えられる。すなわち、多翼ファン6は、翼12が不等ピッチ配列される構造と比べて、隣り合う翼12同士の間の流路抵抗を抑えられる。
【0051】
また、多翼ファン6は、段差部20において内周側部18aと外周側部18bが連結されていることで、翼12の機械的強度の低下を抑えられる。加えて、多翼ファン6では、内周側部18aの各翼面17が外周側部18bの各翼面17に対して翼12の厚み方向にずらされることによって段差部20が形成されることにより、翼弦に沿う方向において翼12の厚みが大きく変化することが避けられ、翼12の機械的強度の低下を抑えると共に、成形金型から翼12を取り出す際の離型性の低下を抑えられえる。
【0052】
また、多翼ファン6において、複数の翼12の配列方向に隣り合う2つの翼12は、翼弦に沿う方向に対する段差部20の位置が互いに異なる。このように隣り合う翼12同士において、段差部20の位置を異ならせることにより、隣り合う翼12間で翼ピッチ音の周波数を異ならせることができるので、翼ピッチ音による騒音を抑えることができる。
【0053】
また、多翼ファン6において、複数の翼12の配列方向に隣り合う2つの翼12は、回転軸13の軸方向Xに対する段差部20の端面20a、20bの傾斜角θが互いに異なる。このように、段差部20の端面20a、20bの傾斜角θを異ならせることで、翼弦に沿う方向における段差部20の位置や深さを容易に変化させることができる。また、成形金型に対する翼12の抜き勾配を調節することで、翼弦に沿う方向における段差部20の端面20a、20bの位置や段差部20の深さを容易に調整できる。その結果、翼弦に沿う方向において断面形状が異なる複数の翼12を容易に形成できる。
【0054】
また、多翼ファン6において、複数の翼12の配列方向に隣り合う2つの翼12は、回転軸13の軸方向Xにおける段差部20の長さHが異なる。このように隣り合う翼12同士において、段差部20の長さHを異ならせることにより、隣り合う翼12間で翼ピッチ音の周波数を異ならせることができるので、翼ピッチ音による騒音を抑えることができる。
【0055】
また、多翼ファン6において、複数の翼12の配列方向に隣り合う翼12同士は、回転軸13の軸方向Xに直交する翼12の断面形状が互いに異なる。このように、複数の翼12の配列方向の全周にわたって、全ての隣り合う翼12間で翼ピッチ音の周波数を異ならせることにより、翼ピッチ音による騒音を抑える効果を更に高められる。
【0056】
また、多翼ファン6は、複数の翼12の各段差部20において、内周側部18aと外周側部18bのうち、一方の各翼面17に対して他方の各翼面17がずらされる向きが、多翼ファン6の回転方向Rに対して同じ向きである。このように各翼12のずらされる向きが回転方向Rに対して一方向に揃えられていることにより、隣り合う翼12間の流路が狭くならないように流路を適正に確保し、隣り合う翼12間における気流の圧力損失を抑えて、多翼ファン6の風量を増やすことができる。また、多翼ファン6は、隣り合う翼12間における気流の流動抵抗が抑えられるので、多翼ファン6を駆動するための消費電力を減らせる。
【0057】
また、多翼ファン6は、段差部20において、内周側部18aと外周側部18bのうち、一方の各翼面17に対して他方の各翼面17が、端面20a、20bに沿う他方の厚みよりも大きくずらされている。これにより、翼12の厚みが薄い場合であっても、翼12の厚み方向にずらされる内周側部18aと外周側部18bとの変位量を適正に確保し、翼12間で翼ピッチ音の周波数を異ならせることができる。
【0058】
また、多翼ファン6において、複数の翼12は、回転軸13の回転中心Oに対する翼12の内接円C1の直径をA、翼12の外接円C2の直径をBとしたとき、翼12の内外径比(A/B)が0.720以上、0.800以下である。これにより、このような翼12の内外径比(A/B)の場合に、段差部20によって翼ピッチ音の位相を異ならせることにより、段差部20が無い多翼ファンに比べて騒音を低減できる。
【0059】
また、多翼ファン6において、複数の翼12は、回転軸13の回転中心Oに対する翼12の内接円C1の直径をA、外接円C2の直径をBとしたとき、翼12の内外径比(A/B)が0.800を超える。翼12の内外径比(A/B)が0.800を超える場合には、多翼ファン6を貫通するように翼12間を通過する風速が増加して騒音の悪化を引き起こすおそれがあるが、段差部20によって翼ピッチ音の位相を異ならせることで、騒音の悪化を回避しつつ風量を増やすことができる。
【0060】
なお、本願の開示する多翼ファンは、実施例において貫流ファンとして用いられたが、貫流ファンに限定されない。多翼ファンは、例えば、シロッコファン等の遠心ファンに適用されてもよく、本実施例と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0061】
1 室内機
5 熱交換器
6 多翼ファン
12 翼
13 回転軸
17 翼面
17a 正圧面
17b 負圧面
18a 内周側部
18b 外周側部
20 段差部
20a、20b 端面
A、B 直径
(A/B) 内外径比
C1 内接円
C2 外接円
H 長さ
L 翼弦長
X 軸方向
θ 傾斜角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11