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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】X線撮影装置およびX線撮影方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/046 20180101AFI20240723BHJP
   A61B 6/03 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
G01N23/046
A61B6/03 573
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021026502
(22)【出願日】2021-02-22
(65)【公開番号】P2022128137
(43)【公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100155608
【弁理士】
【氏名又は名称】大日方 崇
(72)【発明者】
【氏名】小桧山 朝華
(72)【発明者】
【氏名】謝 志敏
(72)【発明者】
【氏名】白井 太郎
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-042604(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0150864(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0087463(US,A1)
【文献】特開2004-037386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/03
G01N 23/00 - G01N 23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源と、
前記X線源から照射され、被写体を透過したX線フォトンを検出するX線検出部と、
前記X線検出部の出力を処理する処理部と、を備え、
前記処理部は、
前記X線検出部により検出された前記X線フォトンの検出結果に基づいて、前記X線フォトンのカウント数を取得する処理、
取得した前記X線フォトンのカウント数に基づいて、複数のエネルギー範囲を設定する処理、及び、
設定した前記複数のエネルギー範囲に基づいて、前記複数のエネルギー範囲にそれぞれ対応する画像データを取得する処理
を行うように構成されており、
前記処理部は、前記複数のエネルギー範囲において前記X線フォトンのカウント数のばらつきが所定のばらつき範囲内になるように、前記複数のエネルギー範囲の各々の始点及び終点を取得して設定するように構成されている、X線撮影装置。
【請求項2】
前記処理部は、前記複数のエネルギー範囲において前記X線フォトンのカウント数が平均値に対して所定値内に収まるように、前記複数のエネルギー範囲を設定するように構成されている、請求項1に記載のX線撮影装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記被写体に対応する被写体領域と前記被写体外に対応する被写体外領域とのうち、前記被写体領域の前記X線フォトンのカウント数を取得するとともに、取得した前記被写体領域の前記X線フォトンのカウント数に基づいて、前記複数のエネルギー範囲を設定するように構成されている、請求項1または2に記載のX線撮影装置。
【請求項4】
前記処理部は、前記X線検出部により検出された前記X線フォトンの検出結果に基づいて、全エネルギー範囲の画像データ、または、特定のエネルギー範囲の画像データを取得するとともに、取得した前記全エネルギー範囲の画像データ、または、前記特定のエネルギー範囲の画像データに基づいて、前記被写体領域を識別するように構成されている、請求項に記載のX線撮影装置。
【請求項5】
被写体を透過したX線フォトンを検出するステップと、
前記X線フォトンの検出結果に基づいて、前記X線フォトンのカウント数を取得するステップと、
前記X線フォトンのカウント数に基づいて、複数のエネルギー範囲を設定するステップと、
前記複数のエネルギー範囲に基づいて、前記複数のエネルギー範囲にそれぞれ対応する画像データを取得するステップと、を備え
前記複数のエネルギー範囲を設定するステップは、前記複数のエネルギー範囲において前記X線フォトンのカウント数のばらつきが所定のばらつき範囲内になるように、前記複数のエネルギー範囲の各々の始点及び終点を取得して設定するステップを含む、X線撮影方法。
【請求項6】
前記複数のエネルギー範囲を設定するステップは、前記複数のエネルギー範囲において前記X線フォトンのカウント数が平均値に対して所定値内に収まるように、前記複数のエネルギー範囲を設定するステップを含む、請求項に記載のX線撮影方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線撮影装置およびX線撮影方法に関し、特に、X線フォトンを検出するX線撮影装置およびX線撮影方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されているフォトンカウンティングCT装置は、X線発生部から発生され、被検体を透過したX線フォトンを検出し、検出されたX線フォトンの数を表現する計数データを予め決められた複数のエネルギー範囲について収集するように構成されている。また、このフォトンカウンティングCT装置は、予め決められた複数のエネルギー範囲のうちの画像化対象のエネルギー範囲に関するフォトンカウンティングCT画像(エネルギー範囲画像)を再構成するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-131028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のフォトンカウンティングCT装置では、画像化のための複数のエネルギー範囲が予め決められているため、あるエネルギー範囲では、X線フォトンのカウント数が十分な一方、別のエネルギー範囲では、X線フォトンのカウント数が少なくなってノイズ成分が相対的に大きくなる場合がある。この場合、エネルギー範囲画像の画質が低下するという問題点がある。また、上記特許文献1には明記されていないが、上記特許文献1に記載されるようなフォトンカウンティングCT装置では、エネルギー範囲画像に基づいて、物質弁別が行われる場合がある。この場合、ノイズ成分が相対的に大きくなることに起因してエネルギー範囲画像に基づく物質弁別能(物質を判別する性能)が低下するという問題点もある。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、エネルギー範囲画像の画質が低下することを抑制すること、および、エネルギー範囲画像に基づく物質弁別能が低下することを抑制することが可能なX線撮影装置およびX線撮影方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面におけるX線撮影装置は、X線源と、X線源から照射され、被写体を透過したX線フォトンを検出するX線検出部と、X線検出部の出力を処理する処理部と、を備え、処理部は、X線検出部により検出されたX線フォトンの検出結果に基づいて、X線フォトンのカウント数を取得する処理、取得したX線フォトンのカウント数に基づいて、複数のエネルギー範囲を設定する処理、及び、設定した複数のエネルギー範囲に基づいて、複数のエネルギー範囲にそれぞれ対応する画像データを取得する処理を行うように構成されており、処理部は、複数のエネルギー範囲においてX線フォトンのカウント数のばらつきが所定のばらつき範囲内になるように、複数のエネルギー範囲の各々の始点及び終点を取得して設定するように構成されている。
【0007】
また、上記目的を達成するために、この発明の第2の局面におけるX線撮影方法は、被写体を透過したX線フォトンを検出するステップと、X線フォトンの検出結果に基づいて、X線フォトンのカウント数を取得するステップと、X線フォトンのカウント数に基づいて、複数のエネルギー範囲を設定するステップと、複数のエネルギー範囲に基づいて、複数のエネルギー範囲にそれぞれ対応する画像データを取得するステップと、を備え、複数のエネルギー範囲を設定するステップは、複数のエネルギー範囲においてX線フォトンのカウント数のばらつきが所定のばらつき範囲内になるように、複数のエネルギー範囲の各々の始点及び終点を取得して設定するステップを含む
【発明の効果】
【0008】
上記第1の局面におけるX線撮影装置および上記第2の局面によるX線撮影方法では、X線フォトンの検出結果に基づいて、X線フォトンのカウント数を取得するとともに、X線フォトンのカウント数に基づいて、画像化のための複数のエネルギー範囲を設定し、複数のエネルギー範囲に基づいて、複数のエネルギー範囲にそれぞれ対応する画像データを取得する。これにより、予め決められた複数のエネルギー範囲を設定する場合と異なり、実際のX線フォトンのカウント数に基づいて複数のエネルギー範囲を設定するので、あるエネルギー範囲でX線フォトンのカウント数が少なくなってノイズ成分が相対的に大きくなることを抑制するようにエネルギー範囲を設定することができる。その結果、ノイズ成分が相対的に大きいことに起因して、エネルギー範囲画像の画質が低下することを抑制することができるとともに、エネルギー範囲画像に基づく物質弁別能が低下することを抑制することができる。また、実際のX線フォトンのカウント数に基づいて複数のエネルギー範囲を自動設定するので、X線源およびX線検出部の仕様によらず、適切なエネルギー範囲を設定することができるとともに、被写体の材料およびサイズによらず、適切なエネルギー範囲を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態によるX線撮影装置の構成を示した模式図である。
図2】一実施形態によるサイノグラム画像データを示した模式図である。
図3】一実施形態によるX線撮影装置によるエネルギー範囲の設定を説明するための模式図である。
図4】比較例によるエネルギー範囲の設定を説明するための模式図である。
図5】シミュレーション結果を説明するための模式図である。
図6】一実施形態によるX線撮影装置によるX線撮影処理を説明するためのフローチャートである。
図7】一実施形態の変形例によるX線撮影装置によるエネルギー範囲の設定を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
(X線撮影装置の構成)
図1図3を参照して、本発明の一実施形態によるX線撮影装置100の構成について説明する。
【0012】
図1に示すように、X線撮影装置100は、被写体200を透過したX線フォトンを利用して、被写体200の内部の画像を生成するフォトンカウンティング型のX線撮影装置である。具体的には、X線撮影装置100は、PCCT(Photon Counting Computed Tomography:フォトンカウンティングコンピュータ断層撮影)装置である。また、X線撮影装置100は、被写体200を透過したX線フォトンのエネルギー値の特性が物質ごとに異なることを利用して、物質弁別を行うことが可能なように構成されている。
【0013】
X線撮影装置100は、X線源1と、X線検出部2と、回転ステージ3と、制御部4とを備えている。なお、制御部4は、特許請求の範囲の「処理部」の一例である。
【0014】
X線源1は、被写体200にX線を照射するように構成されている。X線源1は、X線管を含み、高電圧が印加されることにより、X線を発生させるとともに、発生されたX線をX線検出部2に向かって照射するように構成されている。
【0015】
X線検出部2は、フォトンカウント型のX線検出部である。X線検出部2は、X線源1から照射され、被写体200を透過したX線フォトンを検出するように構成されている。また、X線検出部2は、検出されたX線フォトンを電気信号に変換し、変換された電気信号を出力するように構成されている。具体的には、X線検出部2は、エネルギー値ごとのX線フォトンの数を計数することが可能なように、X線フォトンに対応する電気信号を出力するように構成されている。これにより、エネルギー範囲(いわゆる、ビン)ごとのX線フォトンの数を計数(カウント)することが可能である。また、X線検出部2は、5keV以下のエネルギー分解能を有することが好ましい。
【0016】
また、X線検出部2は、X線フォトンを電気信号に変換する複数の検出素子を含んでいる。検出素子としては、たとえば、X線フォトンを直接的に電気信号に変換する直接変換型の半導体素子を採用することができる。このような半導体素子としては、たとえば、カドウミウムテルル系の半導体素子を挙げることができる。また、検出素子としては、たとえば、X線フォトンを光に変換するシンチレータと、光を電気信号に変換するフォトダイオードとを含み、X線フォトンを間接的に電気信号に変換する間接変換型の検出素子を採用してもよい。
【0017】
回転ステージ3は、被写体200を回転させるように構成されている。回転ステージ3は、被写体200を載置するための載置台と、載置台を回転駆動させるモータなどの駆動部とを含んでいる。制御部4の制御の下、回転ステージ3により被写体200を回転させることにより、被写体200をX線源1とX線検出部2とを含む撮影系に対して回転させることができる。これにより、被写体200に対するX線の照射位置を変更しながら、X線撮影を行うことができる。
【0018】
制御部4は、X線撮影装置100の各部を制御するように構成されている。制御部4は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサと、メモリとを含んでいる。また、制御部4は、画像に関するデータ処理を行う画像処理部として機能する。具体的には、制御部4は、X線検出部2の出力を処理するように構成されている。より具体的には、制御部4は、X線検出部2によるX線フォトンの検出結果に基づいて、画像化のための複数のエネルギー範囲にそれぞれ対応するエネルギー範囲画像データ5(図2参照)を取得するように構成されている。なお、エネルギー範囲画像データ5は、特許請求の範囲の「画像データ」の一例である。
【0019】
図2に示すように、制御部4は、複数のエネルギー範囲の各々のX線フォトンのカウント数に基づいて、複数のエネルギー範囲画像データ5の各々を取得するように構成されている。エネルギー範囲画像データ5は、サイノグラム画像データである。サイノグラム画像データは、X線検出部2によるX線フォトンの検出結果を、検出素子の番号(検出器番号)と、回転角度とにより、2次元的に配置した画像データである。サイノグラム画像データは、被写体200に対応する被写体領域と、被写体200外に対応する被写体外領域(被写体外の空気領域)とを含んでいる。
【0020】
制御部4は、サイノグラム画像データに対して、FBP(Filtered Back Projection)などの再構成処理を行うことにより、再構成画像データを取得するように構成されている。なお、再構成画像データは、サイノグラム画像データごとに取得することが可能である。すなわち、複数のサイノグラム画像データに基づいて、複数の再構成画像データを取得することが可能である。また、複数の再構成画像データも、複数のエネルギー範囲に対応するため、エネルギー範囲画像といえる。また、制御部4は、複数の再構成画像データに基づいて、被写体200の物質弁別を行うように構成されている。
【0021】
(カウント数の平均分配)
図3では、X線検出部2により取得したエネルギーに対するX線フォトンのカウント数の分布の一例を示すグラフ(図中左のグラフ)と、図中左のグラフの各エネルギー範囲のカウント数の総数(エネルギー範囲内のカウント数の合計値)を示すグラフ(図中右のグラフ)とを示している。また、図3に示す2つのグラフでは、縦軸はX線フォトンのカウント数を示し、横軸はX線フォトンのエネルギーを示している。なお、図3では、便宜上、E1~E4の4つのエネルギー範囲を設定する例を示しているが、エネルギー範囲の数は、特に限られない。
【0022】
ここで、本実施形態では、図3に示すように、制御部4は、X線検出部2により検出されたX線フォトンの検出結果に基づいて、X線フォトンのカウント数を取得する処理、取得したX線フォトンのカウント数に基づいて、複数のエネルギー範囲を設定する処理、及び、設定した複数のエネルギー範囲に基づいて、複数のエネルギー範囲にそれぞれ対応するエネルギー範囲画像データ5を取得するように構成されている。
【0023】
具体的には、制御部4は、被写体200の撮影後に、X線検出部2により検出されたX線フォトンの検出結果に基づいて、エネルギー値ごとのX線フォトンのカウント数を取得するように構成されている。この際、制御部4は、画像化対象の全エネルギー範囲において、エネルギー値ごとのX線フォトンのカウント数を取得するように構成されている。すなわち、制御部4は、画像化対象の全エネルギー範囲のX線フォトンのカウント数の分布を取得するように構成されている。そして、制御部4は、画像化対象の全エネルギー範囲におけるエネルギー値ごとのX線フォトンのカウント数に基づいて、複数のエネルギー範囲を設定するように構成されている。
【0024】
また、本実施形態では、制御部4は、複数のエネルギー範囲においてX線フォトンのカウント数のばらつきが所定のばらつき範囲6内になるように、複数のエネルギー範囲を設定するように構成されている。具体的には、制御部4は、複数のエネルギー範囲においてX線フォトンのカウント数が平均値に対して所定値内(たとえば、平均値に対するばらつきが10%以内)に収まるように、複数のエネルギー範囲を設定するように構成されている。また、設定を行うエネルギー範囲の数は、予め決められている。すなわち、制御部4は、予め決められた数(図3では、4つ)のエネルギー範囲において、X線フォトンのカウント数が平均的に分配されるように、複数のエネルギー範囲を設定するように構成されている。なお、平均値とは、画像化対象の全エネルギー範囲のX線フォトンのカウント数の総数(合計値)を、予め決められたエネルギー範囲の数で除した値である。また、エネルギー範囲の数は、たとえばユーザにより予め設定されている。
【0025】
なお、各エネルギー範囲のX線フォトンのカウント数の平均値からのばらつきは、X線検出部2のエネルギー分解能によって、左右される。すなわち、各エネルギー範囲のX線フォトンのカウント数の平均値からのばらつきは、X線検出部2によるX線フォトンの検出結果に基づいて、何keVごとにX線フォトンを計数可能かによって、左右される。また、各エネルギー範囲のX線フォトンのカウント数の平均値からのばらつきは、X線フォトンを計数可能な単位エネルギーが小さいほど小さくなるため、ばらつきを低減する観点からは、5keV以下の単位でX線フォトンを計数可能であることが好ましい。
【0026】
ここで、図3を参照して、複数のエネルギー範囲の設定の一例を説明する。図3では、エネルギー範囲の数として4つが設定されている。
【0027】
この場合、画像化対象の全エネルギー範囲におけるエネルギー値ごとのX線フォトンのカウント数に基づいて、4つのエネルギー範囲E1~E4が設定される。この際、複数のエネルギー範囲においてX線フォトンのカウント数が平均値に対して所定値内に収まるように、4つのエネルギー範囲E1~E4の各々の始端および終端が取得されて設定される。これにより、4つのエネルギー範囲E1~E4が、X線フォトンのカウント数を概ね均等に含むように設定されるので、あるエネルギー範囲においてX線フォトンのカウント数が少なくなることを抑制することが可能である。
【0028】
一方、カウント数の平均分配を行わない場合、図4に示す比較例のような、エネルギー範囲の設定が行われる。具体的には、図4に示す例では、画像化対象の全エネルギー範囲を等分割した4つのエネルギー範囲E1~E4が、予め決められたエネルギー範囲として設定されている。この場合、エネルギー範囲E3およびE4において、X線フォトンのカウント数が少なくなるため、ノイズ成分が相対的に大きくなる。その結果、エネルギー範囲E3およびE4に対応するエネルギー範囲画像の画質が低下してしまうとともに、物質弁別能が低下してしまう。
【0029】
また、本実施形態では、図2および図3に示すように、制御部4は、被写体200に対応する被写体領域と被写体200外に対応する被写体外領域とのうち、被写体領域のX線フォトンのカウント数を取得するとともに、取得した被写体領域のX線フォトンのカウント数に基づいて、複数のエネルギー範囲を設定するように構成されている。具体的には、制御部4は、被写体領域のエネルギー値ごとのX線フォトンのカウント数を取得するとともに、取得した被写体領域のエネルギー値ごとのX線フォトンのカウント数に基づいて、複数のエネルギー範囲においてX線フォトンのカウント数が平均値に対して所定値内に収まるように、複数のエネルギー範囲を設定するように構成されている。
【0030】
また、本実施形態では、制御部4は、X線検出部2により検出されたX線フォトンの検出結果に基づいて、全エネルギー範囲の画像データ(全エネルギー範囲のサイノグラム画像データ)、または、特定のエネルギー範囲の画像データ(特定のエネルギー範囲のサイノグラム画像データ)を取得するとともに、取得した全エネルギー範囲の画像データ、または、特定のエネルギー範囲の画像データに基づいて、被写体領域を識別するように構成されている。たとえば、制御部4は、画像化対象の全エネルギー範囲に対応する全エネルギー範囲の画像データを取得するとともに、全エネルギー範囲の画像データと、予め被写体200が無い状態で撮影したブランクデータとを比較し、全エネルギー範囲の画像データと、予め被写体200が無い状態で撮影したブランクデータとの比較結果に基づいて、被写体領域および被写体外領域を識別する。
【0031】
また、たとえば、制御部4は、画像化対象の全エネルギー範囲のうちの特定のエネルギー範囲に対応する特定のエネルギー範囲の画像データを取得するとともに、特定のエネルギー範囲の画像データと、予め被写体200が無い状態で撮影したブランクデータとを比較し、特定のエネルギー範囲の画像データと、予め被写体200が無い状態で撮影したブランクデータとの比較結果に基づいて、被写体領域および被写体外領域を識別する。なお、特定のエネルギー範囲の画像データを用いる場合、特定のエネルギー範囲を予め指定しておく必要がある。
【0032】
(シミュレーション結果)
次に、図5を参照して、カウント数の平均分配による物質弁別能の向上の確認のためのシミュレーション結果について説明する。なお、実際のシミュレーションでは、実際のX線フォトンの検出結果に基づいてグレースケール画像およびカラー画像を取得したが、図5では、便宜上、実際のグレースケール画像およびカラー画像を模式図により示している。
【0033】
シミュレーションでは、ASA(Acrylate Styrene Acrylonitrile)樹脂製の円柱状の本体に、PEI(Polyetherimide)樹脂製の円柱部材と、ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂製の円柱部材とを埋め込み、円柱状の空洞部分(空気部分)を設けたものを、被写体として用いた。
【0034】
図5は、この被写体の再構成画像(本来はグレースケール画像)と、カウント数の平均分配を行わなかった場合の物質弁別結果を示す画像(本来はカラー画像)と、カウント数の平均分配を行った場合の物質弁別結果を示す画像(本来はカラー画像)とを示している。物質弁別結果を示す画像では、同一物質と識別された部分が同一カラー(図5ではハッチングまたは黒)で示されている。
【0035】
なお、カウント数の平均分配を行わなかった場合の物質弁別結果を示す画像およびカウント数の平均分配を行った場合の物質弁別結果を示す画像のいずれにおいても、エネルギー範囲の数を5つとした。また、カウント数の平均分配を行わなかった場合の物質弁別結果を示す画像では、5つのエネルギー範囲を、E1=11keV~20keV、E2=21keV~30keV、E3=31keV~40keV、E4=41keV~50keV、E5=51keV~60keVと設定した。また、カウント数の平均分配を行った場合の物質弁別結果を示す画像では、X線フォトンの検出結果に基づいて、エネルギー範囲を、E1=11keV~15keV、E2=16keV~18keV、E3=19keV~21keV、E4=22keV~27keV、E5=28keV~60keVと設定した。
【0036】
カウント数の平均分配を行わなかった場合の物質弁別結果を示す画像では、物質弁別の正解率が32%となった。一方、カウント数の平均分配を行った場合の物質弁別結果を示す画像では、物質弁別の正解率が80%となった。このため、シミュレーション結果から、カウント数の平均分配を行った場合、カウント数の平均分配を行わなかった場合に比べて、物質弁別能が向上していることが分かった。
【0037】
(X線撮影処理)
次に、図6を参照して、本実施形態のX線撮影装置100によるX線撮影処理をフローチャートに基づいて説明する。なお、フローチャートの各処理は、制御部4により行われる。
【0038】
図6に示すように、まず、ステップ101において、撮影条件の受付が行われる。
【0039】
そして、ステップ102において、被写体200に対するスキャン撮影が行われる。ステップ102では、回転ステージ3により被写体200を回転させながら、X線源1とX線検出部2とを含む撮影系によるX線撮影が行われる。
【0040】
そして、ステップ103において、被写体領域の識別が行われる。ステップ103では、全エネルギー範囲の画像データ、または、特定のエネルギー範囲の画像データに基づいて、被写体領域の識別が行われる。
【0041】
そして、ステップ104において、被写体領域のエネルギー値ごとのX線フォトンのカウント数が取得される。ステップ104では、被写体領域における、画像化対象の全エネルギー範囲のX線フォトンのカウント数の分布が取得される。
【0042】
そして、ステップ105において、被写体領域のエネルギー値ごとのX線フォトンのカウント数に基づいて、複数のエネルギー範囲が設定される。ステップ105では、複数のエネルギー範囲においてX線フォトンのカウント数が平均値に対して所定値内に収まるように、複数のエネルギー範囲が設定される。
【0043】
そして、ステップ106において、複数のエネルギー範囲に基づいて、画像生成が行われる。ステップ106では、複数のエネルギー範囲に対応する複数のサイノグラム画像データ(エネルギー範囲画像データ5)、および、複数のサイノグラム画像データに対応する複数の再構成画像データが生成される。
【0044】
そして、ステップ107において、画像出力および画像保存が行われる。ステップ107では、たとえば、モニタなどの表示部に画像が出力される。また、ステップ107では、たとえば、HDDなどの記憶装置に画像が保存される。
【0045】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0046】
本実施形態では、上記のように、X線源1と、X線源1から照射され、被写体200を透過したX線フォトンを検出するX線検出部2と、X線検出部2の出力を処理する制御部4と、を備え、制御部4は、X線検出部2により検出されたX線フォトンの検出結果に基づいて、X線フォトンのカウント数を取得する処理、取得したX線フォトンのカウント数に基づいて、複数のエネルギー範囲を設定する処理、及び、設定した複数のエネルギー範囲に基づいて、複数のエネルギー範囲にそれぞれ対応するエネルギー範囲画像データ5を取得する処理を行うように構成されている。
【0047】
これにより、予め決められた複数のエネルギー範囲を設定する場合と異なり、実際のX線フォトンのカウント数に基づいて複数のエネルギー範囲を設定するので、あるエネルギー範囲でX線フォトンのカウント数が少なくなってノイズ成分が相対的に大きくなることを抑制するようにエネルギー範囲を設定することができる。その結果、ノイズ成分が相対的に大きいことに起因して、エネルギー範囲画像の画質が低下することを抑制することができるとともに、エネルギー範囲画像に基づく物質弁別能が低下することを抑制することができる。また、実際のX線フォトンのカウント数に基づいて複数のエネルギー範囲を自動設定するので、X線源1およびX線検出部2の仕様によらず、適切なエネルギー範囲を設定することができるとともに、被写体200の材料およびサイズによらず、適切なエネルギー範囲を設定することができる。
【0048】
また、上記実施形態では、以下のように構成したことによって、下記のような更なる効果が得られる。
【0049】
すなわち、本実施形態では、上記のように、制御部4は、複数のエネルギー範囲においてX線フォトンのカウント数のばらつきが所定のばらつき範囲6内になるように、複数のエネルギー範囲を設定するように構成されている。これにより、複数のエネルギー範囲においてX線フォトンのカウント数をばらつきが少なくなるように分配することができるので、複数のエネルギー範囲において、X線フォトンのカウント数が少なくなってノイズ成分が相対的に大きくなることを抑制することができる。その結果、複数のエネルギー範囲画像の画質が低下することを抑制することができるとともに、複数のエネルギー範囲画像に基づく物質弁別能が低下することを抑制することができる。
【0050】
また、本実施形態では、上記のように、制御部4は、複数のエネルギー範囲においてX線フォトンのカウント数が平均値に対して所定値内に収まるように、複数のエネルギー範囲を設定するように構成されている。これにより、複数のエネルギー範囲においてX線フォトンのカウント数を容易にばらつきが少なくなるように分配することができるので、複数のエネルギー範囲において、X線フォトンのカウント数が少なくなってノイズ成分が相対的に大きくなることを容易に抑制することができる。
【0051】
また、本実施形態では、上記のように、制御部4は、被写体200に対応する被写体領域と被写体200外に対応する被写体外領域とのうち、被写体領域のX線フォトンのカウント数を取得するとともに、取得した被写体領域のX線フォトンのカウント数に基づいて、複数のエネルギー範囲を設定するように構成されている。これにより、物質弁別を行う被写体領域のX線フォトンのカウント数に基づいて複数のエネルギー範囲を設定するので、エネルギー範囲を効果的に設定することができる。その結果、エネルギー範囲画像に基づく物質弁別能が低下することを効果的に抑制することができる。また、被写体外領域の被写体領域のX線フォトンのカウント数を取得する必要がないので、被写体領域および被写体外領域の両方のX線フォトンのカウント数を取得する場合に比べて、処理負荷を低減することができる。
【0052】
また、本実施形態では、上記のように、制御部4は、X線検出部2により検出されたX線フォトンの検出結果に基づいて、全エネルギー範囲の画像データ、または、特定のエネルギー範囲の画像データを取得するとともに、取得した全エネルギー範囲の画像データ、または、特定のエネルギー範囲の画像データに基づいて、被写体領域を識別するように構成されている。これにより、被写体領域を容易に識別することができるので、識別した被写体領域のX線フォトンのカウント数に基づいて複数のエネルギー範囲を容易に設定することができる。
【0053】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0054】
たとえば、上記実施形態では、CT装置としてのX線撮影装置に、本発明を適用する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明は、CT装置以外のX線撮影装置に適用されてもよい。たとえば、本発明は、透視撮影を行うX線撮影装置に適用されてもよいし
トモシンセシス撮影を行うX線撮影装置に適用されてもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、被写体をX線源とX線検出部とを含む撮影系に対して回転させる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、X線源とX線検出部とを含む撮影系を被写体に対して回転させることによって、被写体に対するX線の照射位置を変更しながら、X線撮影を行ってもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、制御部が、画像処理部として機能する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制御部とは別個に独立して、GPU(Graphics Processing Unit)などのプロセッサを含む画像処理部が設けられていてもよい。この場合、画像処理部が本発明の「処理部」として機能してもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、複数のエネルギー範囲においてX線フォトンのカウント数のばらつきが所定のばらつき範囲内になるように、複数のエネルギー範囲を設定する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、図7に示す変形例では、複数のエネルギー範囲のうちの所定のエネルギー範囲(図7では、エネルギー範囲E2)においてX線フォトンのカウント数が他のエネルギー範囲に比べて大きくなるように、複数のエネルギー範囲が設定されている。すなわち、図7に示す変形例では、複数のエネルギー範囲の重みづけに応じてX線フォトンのカウント数が分配されるように、複数のエネルギー範囲を設定するように構成されている。
【0058】
ここで、図7に示すグラフは、物質の線減弱係数のエネルギーに対する変化を示している。また、図7に示すグラフでは、縦軸は線減弱係数であり、横軸はX線フォトンのエネルギーである。図7に示すグラフでは、物質のK吸収端に対応するスペクトルが存在している。また、物質のK吸収端に対応するエネルギー範囲E2の重みが、エネルギー範囲E1、E3およびE4に比べて、大きく設定されている。すなわち、エネルギー範囲E2のX線フォトンのカウント数が、エネルギー範囲E1、E3およびE4に比べて大きくなるように、4つのエネルギー範囲E1~E4が設定されている。この場合、物質のK吸収端に対応するエネルギー範囲E2のX線フォトンのカウント数を大きくすることができるので、K吸収端を強調した画像を取得することができる。
【0059】
また、上記実施形態では、被写体に対応する被写体領域と被写体外に対応する被写体外領域とのうち、被写体領域のX線フォトンのカウント数を取得するとともに、取得した被写体領域のX線フォトンのカウント数に基づいて、複数のエネルギー範囲を設定する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、被写体に対応する被写体領域と被写体外に対応する被写体外領域との両方を含む視野全体のX線フォトンのカウント数を取得するとともに、取得した視野全体のX線フォトンのカウント数に基づいて、複数のエネルギー範囲を設定してもよい。また、視野中心のX線フォトンのカウント数を取得するとともに、取得した視野中心のX線フォトンのカウント数に基づいて、複数のエネルギー範囲を設定してもよい。被写体は、通常、視野中心に写り込むため、視野中心のX線フォトンのカウント数を取得すれば、被写体領域に対応するX線フォトンのカウント数を簡易に取得可能である。
【0060】
[態様]
上記した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0061】
(項目1)
X線源と、
前記X線源から照射され、被写体を透過したX線フォトンを検出するX線検出部と、
前記X線検出部の出力を処理する処理部と、を備え、
前記処理部は、
前記X線検出部により検出された前記X線フォトンの検出結果に基づいて、前記X線フォトンのカウント数を取得する処理、
取得した前記X線フォトンのカウント数に基づいて、複数のエネルギー範囲を設定する処理、及び、
設定した前記複数のエネルギー範囲に基づいて、前記複数のエネルギー範囲にそれぞれ対応する画像データを取得する処理を行うように構成されている、X線撮影装置。
【0062】
(項目2)
前記処理部は、前記複数のエネルギー範囲において前記X線フォトンのカウント数のばらつきが所定のばらつき範囲内になるように、前記複数のエネルギー範囲を設定するように構成されている、項目1に記載のX線撮影装置。
【0063】
(項目3)
前記処理部は、前記複数のエネルギー範囲において前記X線フォトンのカウント数が平均値に対して所定値内に収まるように、前記複数のエネルギー範囲を設定するように構成されている、項目1に記載のX線撮影装置。
【0064】
(項目4)
前記処理部は、前記被写体に対応する被写体領域と前記被写体外に対応する被写体外領域とのうち、前記被写体領域の前記X線フォトンのカウント数を取得するとともに、取得した前記被写体領域の前記X線フォトンのカウント数に基づいて、前記複数のエネルギー範囲を設定するように構成されている、項目1~3のいずれか1項に記載のX線撮影装置。
【0065】
(項目5)
前記処理部は、前記X線検出部により検出された前記X線フォトンの検出結果に基づいて、全エネルギー範囲の画像データ、または、特定のエネルギー範囲の画像データを取得するとともに、取得した前記全エネルギー範囲の画像データ、または、前記特定のエネルギー範囲の画像データに基づいて、前記被写体領域を識別するように構成されている、項目4に記載のX線撮影装置。
【0066】
(項目6)
被写体を透過したX線フォトンを検出するステップと、
前記X線フォトンの検出結果に基づいて、前記X線フォトンのカウント数を取得するステップと、
前記X線フォトンのカウント数に基づいて、複数のエネルギー範囲を設定するステップと、
前記複数のエネルギー範囲に基づいて、前記複数のエネルギー範囲にそれぞれ対応する画像データを取得するステップと、を備える、X線撮影方法。
【0067】
(項目7)
前記複数のエネルギー範囲を設定するステップは、前記複数のエネルギー範囲において前記X線フォトンのカウント数のばらつきが所定のばらつき範囲内になるように、前記複数のエネルギー範囲を設定するステップを含む、項目6に記載のX線撮影方法。
【0068】
(項目8)
前記複数のエネルギー範囲を設定するステップは、前記複数のエネルギー範囲において前記X線フォトンのカウント数が平均値に対して所定値内に収まるように、前記複数のエネルギー範囲を設定するステップを含む、項目6に記載のX線撮影方法。
【符号の説明】
【0069】
1 X線源
2 X線検出部
4 制御部(処理部)
5 エネルギー範囲画像データ(画像データ)
6 所定のばらつき範囲
100 X線撮影装置
200 被写体
E1~E4 エネルギー範囲
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7