(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】エンジンの排気装置
(51)【国際特許分類】
F01N 13/08 20100101AFI20240723BHJP
【FI】
F01N13/08 B
(21)【出願番号】P 2021035779
(22)【出願日】2021-03-05
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木塚 幸雄
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0276041(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたエンジンの排気ガスを排出し、下流において第1分岐排気管と第2分岐排気管に分岐している排気管であって、前記第1分岐排気管はマフラを含
み、
前記第2分岐排気管はマフラを含まない、排気管と、
前記第2分岐排気管に備えられ、当該第2分岐排気管を開閉する排気管バルブと、
前記車両の運転者が要求する車両駆動トルクと走行中の車両速度と
の組にあらかじめ対応付けられた前記排気管バルブの開閉状態に基づき前記排気管バルブの開閉を制御するバルブ制御装置
であって、あらかじめ定められた要求駆動トルクが大きくかつ車両速度が高い、要求駆動トルクと車両速度の組のとき、前記排気管バルブを開状態に制御し、あらかじめ定められた要求駆動トルクが小さくかつ車両速度が低い、要求駆動トルクと車両速度の組のとき、前記排気管バルブを閉状態に制御する、バルブ制御装置と、
を有するエンジンの排気装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されたエンジンの排気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの排気ガスは、マフラを含む排気管を通して排出される。排気ガスが排気管を通過する過程で温度が低下し、消音される。下記特許文献1には、2本の排気管(6,7)を備えたエンジンの排気装置が示されている。一方の排気管には、排気管の通路を開閉する制御バルブ(10)が設けられている。車両走行中において、エンジン回転速度が2500rpm以上、かつ過給圧が50mmHg以上で制御バルブ(10)が開放され、排気音が増大する。また、車両走行中において、エンジン回転速度が2500rpm未満または過給圧が50mmHg未満で制御バルブ(10)が閉鎖され、排気音が減少する。なお、上記の( )内の符号は、下記特許文献1で用いられている符号であり、本願の実施形態の説明で用いられる部材名および符号とは関連しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の運転者が知覚しているのは車両速度であり、エンジン回転速度により排気管の開閉制御を行うと、運転者が感じる加速感と、排気音の増加が一致せず違和感を生じる場合がある。
【0005】
本発明は、運転者の感じる加速感と排気音の増加についての違和感を軽減することを目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るエンジンの排気装置は、車両に搭載されたエンジンの排気ガスを排出し、下流において第1分岐排気管と第2分岐排気管に分岐している排気管であって、第1分岐排気管はマフラを含み、第2分岐排気管はマフラを含まない、排気管と、第2分岐排気管に備えられ、当該第2分岐排気管を開閉する排気管バルブと、車両の運転者が要求する車両駆動トルクと走行中の車両速度との組にあらかじめ対応付けられた前記排気管バルブの開閉状態に基づき前記排気管バルブの開閉を制御するバルブ制御装置と、を有する。バルブ制御装置は、あらかじめ定められた要求駆動トルクが大きくかつ車両速度が高い、要求駆動トルクと車両速度の組のとき、前記排気管バルブを開状態に制御し、あらかじめ定められた要求駆動トルクが小さくかつ車両速度が低い、要求駆動トルクと車両速度の組のとき、前記排気管バルブを閉状態に制御する。
【発明の効果】
【0007】
運転者が要求する車両駆動トルクと、走行中の車両速度とに基づき排気音を制御することで、運転者の感じる加速感と排気音の増加が関連して車両との一体感が得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態のエンジンの排気装置の構成を模式的に示す図である。
【
図2】排気管バルブの開閉に係る制御マップを示す図である。
【
図3】排気管バルブの開閉に係る制御フローの一例を示す図である。
【
図4】排気管バルブの開閉に係る制御フローの他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
図1は、車両10に搭載されたエンジンの排気装置12の構成を示す模式図である。車両10は、車両を駆動するエンジン14と変速機16を備える。エンジン14の排気ガスは、排気マニホルド18を介して排気装置12の排気管20に送られ、排気管20に導かれて車両の後方に送られ排出される。排気管20は、上流端が排気マニホルド18に接続され、下流端にサブマフラ22を備える上流側排気管24と、サブマフラ22から下流において分岐した第1分岐排気管26と第2分岐排気管28を含む。第1分岐排気管26は、メインマフラ30およびテールパイプ32を含み、第1分岐排気管26を通る排気ガスは、メインマフラ30内で膨張し、メインマフラ30からテールパイプ32を介して外部に排出される。第2分岐排気管28は、排気ガスをメインマフラ30を介さず、直接外部に排出する。第2分岐排気管28には、当該第2分岐排気管28を開閉する排気管バルブ34が備わる。
【0010】
排気管バルブ34が閉じているときは、エンジン14からの排気ガスは、第1分岐排気管26を通って排出され、第2分岐排気管28からは排出されない。排気管バルブ34が開いているときは、排気ガスの多くの部分が、流路抵抗が少ない第2分岐排気管28を通って排出され、一部の排気ガスが第1分岐排気管26を通って排出される。
【0011】
排気装置12は、排気管バルブ34の開閉を制御するバルブ制御装置36を含む。バルブ制御装置36は、車両10の運転者の要求する車両駆動トルク(以下、「要求駆動トルク」と記す。)と車両速度に基づき排気管バルブ34を制御する。要求駆動トルクは、運転者の操作するアクセルペダルの操作量、そのときのエンジン14の回転速度および変速機16のギア比に基づいて求める。アクセルペダルの操作量は、アクセルペダルに設けられたアクセルペダルセンサ38の出力に基づき取得することができる。エンジン14の回転速度およびギア比は、エンジン14および変速機16を制御するエンジン制御装置40から取得することができる。車両速度は、車輪の回転速度に基づいて車両速度を検出する車速センサ42から取得することができる。
【0012】
バルブ制御装置36は、エンジン14の回転速度とアクセルペダルの操作量の組と、エンジンの出力トルクを対応付ける対応表、いわゆるトルクマップを格納している。この対応表を参照して、エンジン14の回転速度とアクセルペダルの操作量に基づいてエンジン14の出力トルクを算出する。さらに、エンジン14の出力トルクに変速機16のギア比および最終減速比を乗ずることで車両駆動トルクを算出することができる。最終減速比は固定値であり定数として扱うことができる。このようにして、バルブ制御装置36は、エンジン14の回転速度、アクセルペダルの操作量および変速機16のギア比に基づき、要求駆動トルクを算出する。
【0013】
バルブ制御装置36は、要求駆動トルクと車両の速度に基づき排気管バルブ34の開閉を制御する。車両速度が高く、かつ要求駆動トルクが大きいときに排気管バルブ34が開き、車両速度が低く、かつ要求駆動トルクが小さいときに排気管バルブ34が閉じるように制御する。例えば、車両速度が速くなるに従ってより低い要求駆動トルクで排気管バルブ34が開くようにすることができる。
【0014】
図2は、要求駆動トルクと車両速度の組と、排気管バルブ34の開閉状態を対応付けた図である。境界線Aより下側が排気管バルブ34を閉状態に制御する領域であり、境界線Aより上側が排気管バルブ34を開状態に制御する領域である。バルブ制御装置36は、
図2に示す対応付けに基づき排気管バルブ34の制御を行う。
【0015】
図3は、バルブ制御装置36が実行する、排気管バルブ34の開閉に係る制御フローの一例を示す図である。まず、要求駆動トルクおよび車両速度を取得し(S100)、これらが、例えば
図2に示す閉領域にあるかを判断する(S102)。閉領域にある場合、排気管バルブ34を閉状態に制御し(S104)、閉領域にない場合、つまり開領域にある場合、排気管バルブ34を開状態に制御する(S106)。
【0016】
図4は、バルブ制御装置36が実行する、排気管バルブ34の開閉に係る制御フローの他の一例を示す図である。まず、要求駆動トルクおよび車両速度を取得し(S200)、これらが、例えば
図2に示す閉領域にあるかを判断する(S202)。閉領域にある場合、フラグFが1であるかを判断する(S204)。フラグFは、排気管バルブ34の現在の状態を示すフラグであり、フラグFが1のとき、排気管バルブ34が現在開状態であり、0のとき閉状態であることを示す。ステップS204で、フラグFが1であった場合、エンジン14の回転速度が取得され(S206)、さらにエンジン14の回転速度が所定値、例えば2000rpm未満であるかを判断する(S208)。エンジン14の回転速度が2000rpm未満であれば、フラグFを0に更新して(S210)、排気管バルブ34を閉制御する(S212)。ステップS204において、フラグFが1ではない場合には、ステップS212に移行し、排気管バルブ34を閉状態に維持する。ステップS202において、取得した要求駆動トルクと車両速度の組が閉領域にはないとされた場合、フラグFを1とし(S214)、排気管バルブ34を開制御する(S216)。ステップS208で、エンジン14の回転速度が2000rpm以上であるとされた場合、ステップS216に移行し、排気管バルブ34を開状態に維持する。
【0017】
図4に示す制御フローによれば、排気管バルブ34が一旦開状態となると、エンジン14の回転速度が2000rpm以上であれば、開状態が維持される。これにより、変速機16のシフトアップによってエンジン14の回転速度が低下した場合でも、回転速度が所定値(2000rpm)以上であれば排気管バルブ34の開状態が維持され、排気音が急に小さくなることを抑えている。
【0018】
上述の実施形態において、第2分岐排気管28は、排気ガスをメインマフラ30を介さずに直接排出するものとしたが、排気ガスの一部をメインマフラ30に導くようにしてもよい。また、上流側排気管24は、V型エンジンに対応して2本を備えてもよい。
【符号の説明】
【0019】
10 車両、12 排気装置、14 エンジン、16 変速機、18 排気マニホルド、20 排気管、22 サブマフラ、24 上流側排気管、26 第1分岐排気管、28 第2分岐排気管、30 メインマフラ、34 排気管バルブ、36 バルブ制御装置、38 アクセルペダルセンサ、40 エンジン制御装置、42 車速センサ。