(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】太陽電池パネル、及び、太陽電池パネルの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/048 20140101AFI20240723BHJP
【FI】
H01L31/04 560
(21)【出願番号】P 2021037131
(22)【出願日】2021-03-09
【審査請求日】2023-03-15
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】山田 登
(72)【発明者】
【氏名】高木 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】石井 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】許斐 一郎
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-053298(JP,A)
【文献】特開2011-084689(JP,A)
【文献】特開2018-154767(JP,A)
【文献】特開2018-203843(JP,A)
【文献】特開2019-075468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/04-31/078
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池パネルであって、
太陽電池セルと、
前記太陽電池セルの受光面側に配置された加飾層と、
を備え、
前記加飾層は、透明なクリア層と、前記クリア層内に分散して配置された顔料粒子とを有し、
前記顔料粒子は、ナノ粒子と、前記ナノ粒子の間に充填された透明マトリックスと、を含むコロイド結晶構造を有し、
前記加飾層における前記顔料粒子の含有量は、
25wt%以上、かつ、40wt%以下である、太陽電池パネル。
【請求項2】
請求項1に記載の太陽電池パネルであって、
前記ナノ粒子は、単分散シリカ粒子と、単分散ポリマー粒子とのいずれかであり、
前記透明マトリックスは、アクリル樹脂と、ケイ素系ポリマーと、エポキシ樹脂とのいずれかである、太陽電池パネル。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の太陽電池パネルであって、
前記顔料粒子について、前記透明マトリックスにおける前記ナノ粒子の含有量は、20wt%以上、かつ、60wt%以下である、太陽電池パネル。
【請求項4】
太陽電池パネルの製造方法であって、
太陽電池セルを準備する工程と、
前記太陽電池セルの受光面側に、加飾層を形成する工程と、
を備え、
前記加飾層を形成する工程では、
ナノ粒子と、前記ナノ粒子の間に充填された透明マトリックスと、を含むコロイド結晶からなるフィルムを粉砕して顔料粒子を得る工程と、
前記顔料粒子を透明なクリア層内に分散して配置した加飾層を形成する工程と、を含み、
前記加飾層を形成する工程では、前記加飾層における前記顔料粒子の含有量を、
25wt%以上、かつ、40wt%以下とする、太陽電池パネルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池パネル、及び、太陽電池パネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光を電気エネルギーに変換する太陽電池パネル(「ソーラーパネル」、「ソーラーモジュール」とも呼ばれる)が知られている。近年、クリーンエネルギー活用の時流の高まりに伴い、このような太陽電池パネルは、車両、建築物、山林、モビリティツール等、身の回りの様々な場所において活用されている。太陽電池パネルにおいて用いられる太陽電池セルは、暗黒色や濃青色であることから、太陽電池パネルも同様に暗黒色や濃青色となり、美観に劣るという課題があった。
【0003】
これに対して、太陽電池パネルのうち、人の目にふれる面を着色すれば、美観に優れる太陽電池パネルを提供できる。しかし、太陽電池パネルの人の目にふれる面は、太陽電池パネルが太陽光を取り込むための受光面でもあるため、受光面を着色すると、太陽電池パネルの発電効率が低下するという課題があった。また、太陽電池パネルの受光面は、絶えず太陽光に晒されるため、着色に用いられた色素が太陽光によって退色するという課題があった。この点、特許文献1には、太陽電池パネル(ソーラーモジュール)の受光面(光入射側面)に、クリア塗料層と、クリア塗料層内に配置された複数の不透明反射性顔料を含む有色層を設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術によれば、クリア塗料層内において、複数層(5層、7層等)にわたって設けられた不透明反射性顔料の層によって、構造色を持つ有色層が実現されている。このため、特許文献1に記載の技術では、美観に優れた有色の太陽電池パネルであって、付された色が退色しづらい太陽電池パネルを提供できる。しかし、特許文献1に記載の技術では、有色層(複数層にわたって設けられた不透明反射性顔料の層)により太陽光が遮られるため、太陽電池パネルの発電効率が低下するという課題があった。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、美観に優れた有色の太陽電池パネルにおいて、付された色の退色を抑制し、かつ、発電効率の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。太陽電池パネルであって、太陽電池セルと、前記太陽電池セルの受光面側に配置された加飾層と、を備え、前記加飾層は、透明なクリア層と、前記クリア層内に分散して配置された顔料粒子とを有し、前記顔料粒子は、ナノ粒子と、前記ナノ粒子の間に充填された透明マトリックスと、を含むコロイド結晶構造を有し、前記加飾層における前記顔料粒子の含有量は、25wt%以上、かつ、40wt%以下である、太陽電池パネル。そのほか、本発明は、以下の形態としても実現可能である。
【0008】
(1)本発明の一形態によれば、太陽電池パネルが提供される。この太陽電池パネルは、太陽電池セルと、前記太陽電池セルの受光面側に配置された加飾層と、を備え、前記加飾層は、透明なクリア層と、前記クリア層内に分散して配置された顔料粒子とを有し、前記顔料粒子は、ナノ粒子と、前記ナノ粒子の間に充填された透明マトリックスと、を含むコロイド結晶構造を有する。
【0009】
この構成によれば、太陽電池パネルの加飾層には、クリア層内に分散して配置された顔料粒子であって、ナノ粒子と、ナノ粒子の間に充填された透明マトリックスと、を含むコロイド結晶構造を有する顔料粒子が配置されている。この顔料粒子によって、加飾層に対して構造色を付与できるため、美観に優れた有色の太陽電池パネルを実現できる。また、従来、太陽電池パネルの着色に用いられていた色素は、太陽光に含まれる紫外線に晒されると退色するのに対して、構造色は退色が起こりにくいため、付された色が退色しづらい太陽電池パネルを提供できる。さらに、加飾層は、透明なクリア層内に分散して顔料粒子が配置されているため、加飾層全体に顔料が配置されている従来の構成(換言すれば、クリア塗料層内において、複数層にわたって設けられた不透明反射性顔料の層によって、構造色を持つ有色層が実現された構成)と比較して、太陽電池セルに到達する太陽光の量を多くすることができるため、発電効率の低下を抑制できる。これらの結果、本構成によれば、美観に優れた有色の太陽電池パネルにおいて、付された色の退色を抑制し、かつ、発電効率の低下を抑制することができる。
【0010】
(2)上記形態の太陽電池パネルにおいて、前記ナノ粒子は、単分散シリカ粒子と、単分散ポリマー粒子とのいずれかであり、前記透明マトリックスは、アクリル樹脂と、ケイ素系ポリマーと、エポキシ樹脂とのいずれかであってもよい。
この構成によれば、ナノ粒子として、単分散シリカ粒子と、単分散ポリマー粒子とのいずれかを用い、透明マトリックスとして、アクリル樹脂と、ケイ素系ポリマーと、エポキシ樹脂とのいずれかを用いることにより、加飾層に対して構造色を付与し、付された色が退色しづらい太陽電池パネルを提供できる。
【0011】
(3)上記形態の太陽電池パネルにおいて、前記加飾層における前記顔料粒子の含有量は、1wt%以上、かつ、40wt%以下であってもよい。
この構成によれば、加飾層における顔料粒子の含有量は、1wt%以上、かつ、40wt%以下であるため、太陽電池パネルに構造色を付与できると共に、太陽電池パネルの発電効率の低下をより一層抑制できる。
【0012】
(4)上記形態の太陽電池パネルにおいて、前記顔料粒子について、前記透明マトリックスにおける前記ナノ粒子の含有量は、20wt%以上、かつ、60wt%以下であってもよい。
この構成によれば、顔料粒子について、透明マトリックスにおけるナノ粒子の含有量は、20wt%以上、かつ、60wt%以下であるため、加飾層に含まれる顔料粒子の品質を向上できる。
【0013】
(5)本発明の一形態によれば、太陽電池パネルの製造方法が提供される。この太陽電池パネルの製造方法は、太陽電池セルを準備する工程と、前記太陽電池セルの受光面側に、加飾層を形成する工程と、を備え、前記加飾層を形成する工程では、ナノ粒子と、前記ナノ粒子の間に充填された透明マトリックスと、を含むコロイド結晶からなるフィルムを粉砕して顔料粒子を得る工程と、前記顔料粒子を透明なクリア層内に分散して配置した加飾層を形成する工程と、を含む。
この構成によれば、美観に優れた有色の太陽電池パネルであって、付された色の退色を抑制し、かつ、発電効率の低下を抑制することが可能な太陽電池パネルを製造できる。
【0014】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、太陽電池パネル、太陽電池パネルが搭載された車両、建造物、及びデバイス、太陽電池パネルを含むシステム、太陽電池パネルの製造方法、太陽電池パネルを製造するための製造装置、これら装置及びシステムの制御方法、これら装置及びシステムにおいて実行されるコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、そのコンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態としての太陽電池パネルの概略構成を示す説明図である。
【
図2】太陽電池セルの概略構成を示す説明図である。
【
図4】太陽電池パネルの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図5】顔料粒子の含有量と色に関する説明図である。
【
図6】顔料粒子の観察方向と色に関する説明図である。
【
図7】太陽電池パネルの性能評価結果を示すグラフである。
【
図8】第2実施形態の太陽電池パネルの概略構成を示す説明図である。
【
図9】第3実施形態の太陽電池パネルの概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態>
図1は、本発明の一実施形態としての太陽電池パネル1の概略構成を示す説明図である。
図1上段には、太陽電池パネル1の断面図を表し、
図1下段には、封止材20の一部分の拡大図を表す。太陽電池パネル1は、太陽光によって発電することで、光エネルギーを電気エネルギーに変換することが可能な装置である。太陽電池パネル1は、太陽電池セル10と、封止材20と、第1保護層30と、第2保護層40と、を備えている。本実施形態の太陽電池パネル1は、封止材20が、透明なクリア層として形成され、かつ、封止材20内において顔料粒子2が分散して配置されていることにより、美観に優れた有色の太陽電池パネル1であって、付された色の退色を抑制し、かつ、発電効率の低下を抑制することが可能な太陽電池パネル1を提供できる。
【0017】
なお、
図1及び以降の図では、説明の便宜上、各構成部材の大きさの相対比を実際とは異なるように記載した部分を含んでいる。また、各構成部材の一部を誇張して記載した部分を含んでいる。また、
図1及び以降の図には、相互に直交するXYZ軸を図示する。X軸は太陽電池パネル1の長手方向に対応し、Y軸は太陽電池パネル1の高さ方向に対応し、Z軸は太陽電池パネル1の幅方向に対応する。
【0018】
図2は、太陽電池セル10の概略構成を示す説明図である。
図2(A)は、太陽電池セル10の構成の一例を示す。
図2(A)に示すように、太陽電池セル10は、平板状の基板11と、基板11の一方の面側(+Y軸方向の面側)に配置された単セル12と、を備えている。基板11は、複数の単セル12を配置するための板状部材であって、例えば、ガラス、アルミと樹脂との複合板などの材料によって形成されている。単セル12は、太陽電池パネル1の発電部であって、例えば、結晶シリコン、アモルファスシリコン、テルル化カドミウム等により形成されている。
図2(A)に示す太陽電池セル10では、単セル12が配置されている側(+Y軸方向)が「受光面側」に相当する。
【0019】
図2(B)は、太陽電池セル10の構成の他の例を示す。太陽電池セル10は、
図2に示すように、基板11の両面側(±Y軸方向の面側)に、それぞれ単セル12が配置されていてもよい。
図2(B)に示す太陽電池セル10では、±Y軸方向がそれぞれ「受光面側」に相当する。
【0020】
図1に示すように、太陽電池セル10の周囲は、封止材20によって覆われ、固定されている。換言すれば、太陽電池セル10の両面側(±Y軸方向の面側)には、封止材20が配置されている。封止材20は、透明なEVA(Ethylene Vinyl Acetate Copolymer)樹脂によって形成されている。なお、本実施形態において「透明」とは、半透明の場合も含む。なお、封止材20は、透明である限りにおいて、EVA以外の周知の材料(例えば、ガラス)により形成されていてよい。以降、太陽電池セル10の一方の面側(+Y軸方向の面側)に配置された封止材20を「第1封止材21」とも呼ぶ。太陽電池セル10の他方の面側(-Y軸方向の面側)に配置された封止材20を「第2封止材22」とも呼ぶ。
【0021】
図1下段に示すように、本実施形態の第1封止材21には、透明なEVA樹脂層内に、顔料粒子2が分散して配置されている。以降、顔料粒子2が配置されたクリア層を「加飾層」とも呼ぶ。第1封止材21は加飾層に相当する。このように、第1封止材21(加飾層)では、透明なEVA樹脂層内に、顔料粒子2が分散して配置されているため、太陽電池パネル1に入射した太陽光LTは、第1封止材21を通過して太陽電池セル10へと到達しやすい(
図1下段)。
【0022】
ここで、第1封止材21(加飾層)における顔料粒子2の含有量C1は、1wt%以上、かつ、40wt%以下であることが好ましい。この理由については後述する。なお、含有量C1[wt%]は下記式(1)により算出できる。
含有量C1=(顔料粒子2の重量/第1封止材21の重量)×100 ・・・(1)
【0023】
なお、太陽電池セル10が
図2(B)に示す構成である場合、換言すれば、太陽電池セル10の両面(±Y軸方向の面)が受光面として機能する場合、第1封止材21に加えて、第2封止材22も
図1下段に示す構成とされる。すなわち、第2封止材22にも、透明なEVA樹脂層(クリア層)内に、顔料粒子2が分散して配置される。この場合、封止材20の全体(すなわち、第1封止材21と第2封止材22)が加飾層に相当する。この場合、含有量C1[wt%]は下記式(1´)により算出できる。
含有量C1=(顔料粒子2の重量/封止材20の重量)×100 ・・・(1´)
【0024】
図3は、顔料粒子2の概略構成を示す説明図である。
図3に示すように、顔料粒子2は、周期的に配列された複数のナノ粒子Cと、ナノ粒子Cの間に充填された透明マトリックスPと、を有している。顔料粒子2の粒径L2は任意に定めることができ、例えば、数mm以下とできる。ナノ粒子Cは、ナノサイズ領域(10
-9~10
-6m)の粒径ΦCを有する粒子である。このようなコロイド結晶構造を有することにより、顔料粒子2は、顔料粒子2そのものが無色であっても、Bragg反射に起因した構造色を有する。具体的には、顔料粒子2は、特定波長の光LT1,2を反射し、他の波長の光LT3を透過することにより、見る角度によって様々な色に見える。
【0025】
ナノ粒子Cとしては、例えば、単分散シリカ粒子と、単分散ポリマー粒子(例えば、ポリスチレン)とのいずれかを用いることができる。ナノ粒子Cは、上記以外の周知の材料により形成されていてもよい。透明マトリックスPとしては、例えば、アクリル樹脂(換言すれば、アクリレートもしくはメタクリレートを原料とした樹脂)と、ケイ素系ポリマーと、エポキシ樹脂と、EVA、PET、ETFE、PA、PVC、セロファン、これらの複合材料のいずれかを用いることができる。透明マトリックスPは、上記以外の周知の材料により形成されていてもよい。
【0026】
ここで、顔料粒子2について、透明マトリックスPにおけるナノ粒子Cの含有量C2は、20wt%以上、かつ、60wt%以下であることが好ましい。含有量C2を20wt%以上とすることにより、
図3に示すコロイド結晶構造を得やすくなる。また、含有量C2を60wt%以下とすることにより、顔料粒子2の材料となるフィルム(後述)を形成しやすくなるため、顔料粒子2の作成が容易になる。なお、含有量C2[wt%]は下記式(2)により算出できる。
含有量C2=(ナノ粒子Cの重量/透明マトリックスPの重量)×100 ・・・(2)
【0027】
図1に戻り説明を続ける。第1保護層30は、封止材20の一方の面側(+Y軸方向の面側)に配置された平板状の部材である。第2保護層40は、封止材20の他方の面側(-Y軸方向の面側)に配置された平板状の部材である。第1及び第2保護層30,40は、テトラフルオロエチレン(C
2F
4)とエチレン(C
2H
4)との共重合体であるETFEによって形成されている。
【0028】
図4は、太陽電池パネル1の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図1~
図3に示した太陽電池パネル1は、例えば、以下のようにして製造できる。まず、ステップS10において、太陽電池セル10を準備する。太陽電池セル10は、
図2(A)で説明した構成でもよく、
図2(B)で説明した構成でもよい。以降では、
図2(B)で説明した、両面(±Y軸方向の面)が受光面として機能する太陽電池セル10を採用する場合を例示する。
【0029】
次に、ステップS12において、コロイド結晶からなるフィルムを準備する。このフィルムは、
図3で説明したナノ粒子Cと、ナノ粒子Cの間に充填された透明マトリックスPと、を含むコロイド結晶からなるフィルムである。このフィルムは、例えば、特開2011-84689号公報に記載の方法を用いて形成できる。次に、ステップS14において、ステップS12で準備したフィルムを粉砕して、顔料粒子2を得る。なお、ステップS14で作成される顔料粒子2の粒径は、一定であることが好ましいが、顔料粒子2の粒径は必ずしも一定でなくてもよい。
【0030】
次に、顔料粒子2を含む封止材20を形成する。封止材20は、溶媒法や、溶融プレス法等の周知の方法を用いて形成できる。溶媒法を用いる場合、まず、ステップS14で作成した顔料粒子2を、ポリマー溶液中に分散させる。その後、ステップS10で準備した太陽電池セル10が支持された支持基材上に、ポリマー溶液を流し入れ(または塗布し)、乾燥させる。このポリマー溶液は、スプレー塗装されてもよく、スピンコートやドクターブレード等のアプリケータを用いることにより膜厚(封止材20の厚さ)が制御されてもよい。なお、光硬化性樹脂を用いて、封止材20を形成してもよい。この場合、顔料粒子2を、光重合性プレポリマー、光重合性モノマー、光重合開始材等を含む、光硬化性樹脂の液体中に分散させる。その後、ステップS10で準備した太陽電池セル10が支持された支持基材上に、この液体を流し入れ(または塗布し)、UV露光により硬化させる。この方法によれば、短時間で第1封止材21を形成できると共に、第1封止材21の製造工程を簡略化できる。
【0031】
溶融プレス法を用いる場合、EVAなどのペレットを加温して溶融させた溶液中に、顔料粒子2を分散させた後、プレス機を用いて板状に加工する。得られた板を短冊状にカットした後、再度ホットプレスによって板状にする。これを繰り返し、ステップS10で準備した太陽電池セル10を、得られた板状部材で挟み込んでプレスする。この際の成形温度は、使用される樹脂のTg(ガラス転移点温度)、Tm(融点温度)、及び軟化点温度のうちの最も低い温度よりも、高くすることが好ましい。例えば、Tm140℃グレードの樹脂の場合、成形温度は200℃程度とすることが好ましい。また、成形温度は、顔料粒子2の変性温度(本実施形態では、約240℃)よりも、低いことが好ましい。なお、ステップS12,S14,S16を総称して「加飾層を形成する工程」とも呼ぶ。
【0032】
ステップS18において、封止材20の両面に第1,第2保護層30,40を形成する。具体的には、第1封止材21の上面(+Y軸方向の面)に第1保護層30を形成し、第2封止材22の下面(-Y軸方向の面)に第2保護層40を形成する。第1,第2保護層30,40の形成は、封止材20と同様に、溶媒法や、溶融プレス法等の周知の方法を用いることができる。
【0033】
図5は、顔料粒子2の含有量と色に関する説明図である。
図5(A),(B)には、式(1),(1´)で説明した含有量C1を変化させつつ作成した、複数の封止材20のサンプル#1~#7をそれぞれ示している。サンプル#1は、封止材20における顔料粒子2の含有量C1が最も少なく、サンプル番号の昇順に含有量C1が徐々に大きくなり、サンプル#7の含有量C1が最も大きい。
図5に示すように、サンプル#1~#7は、封止材20における顔料粒子2の含有量C1によって、色の濃淡が変化している。具体的には、含有量C1が多ければ大きいほど、より濃い色となる。また、
図5に示すように、同じサンプルであっても、サンプルに垂直な上方向から見た場合、光が当たる角度によって、視認される色相が変化する。
図5の例では、
図5(A)に示すように0°に近い地点から光が当たった場合は、上方向から見た際の各サンプル#1~#7は赤っぽい色となり、
図5(B)に示すように60°に近い地点から光が当たった場合は、上方向から見た際の各サンプル#1~#7は緑っぽい色となる。
【0034】
図6は、顔料粒子2の観察方向と色に関する説明図である。
図6には、同じサンプル#5について、光が当たる角度を変化させた場合の、色の変化を示している。
図6に示すように、光が当たる角度を0°から60°まで変化させるにつれて、サンプル#5に垂直な上方向から見た際のサンプル#5の色は、赤、橙、黄、青、緑へと変化する。なお、
図5及び
図6で説明した色の変化は、光が当たる角度を一定として、サンプルを見る角度を変えた場合であっても同様に生じる。
【0035】
図7は、太陽電池パネル1の性能評価結果を示すグラフである。この評価試験は、以下のようにして行った。まず、フォトダイオードを固定した状態で、フォトダイオードを覆うようにして、封止材20における顔料粒子2の含有量C1が異なる、複数の封止材20の試料を置く。その状態で、株式会社ワコム電創製の太陽電池特性評価装置IV-9802と、株式会社ワコム電創製のソーラーシミュレータWXS-155S-L2,AM1.5GMMとを用いて、I-V特性を測定した。なお、フォトダイオードとしては、浜松ホトニクス株式会社製のフォトダイオードS12915-1010R(有効受光面積100mm
2)を使用した。なお、本評価では、封止材20の試料に対して1sunの光量が当たるように調整してI-V特性を測定した。
【0036】
I-V特性のグラフから、短絡電流密度(Isc)と、開放電圧(Voc)とを算出した。これらの積(Isc×Voc)から、加飾層のない試料での積の値が100%となるように、「発電出力に比例する指標(RPI)」を算出した。
図7では、縦軸に各試料のRPIを、横軸に顔料粒子2の含有量C1をプロットした。なお、短絡電流密度(Isc)は、電圧が0の時の電流密度であり、開放電圧(Voc)は電流が0の時の電圧である。
図7に示すように、封止材20における顔料粒子2の含有量C1が小さければ小さいほど、高いRPIが得られる。また、含有量C1が25wt%以下であれば、約90%以上の高いRPIが得られる。さらに、含有量C1が40wt%以下であれば、約85%以上の高いRPIが得られる。換言すれば、本実施形態の封止材20では、顔料粒子2の含有量C1が40wt%程度でも、封止材20による光減衰に起因した出力の低下は、2割に満たないことがわかる。
【0037】
以上のように、第1実施形態の太陽電池パネル1によれば、封止材20(加飾層)には、クリア層内に分散して配置された顔料粒子2であって、ナノ粒子Cと、ナノ粒子Cの間に充填された透明マトリックスPと、を含むコロイド結晶構造を有する顔料粒子2が配置されている(
図1,3)。この顔料粒子2によって、封止材20(加飾層)に対して構造色を付与できるため、美観に優れた有色の太陽電池パネル1を実現できる(
図5,6)。また、従来、太陽電池パネル1の着色に用いられていた色素は、太陽光に含まれる紫外線に晒されると退色するのに対して、構造色は退色が起こりにくいため、付された色が退色しづらい太陽電池パネル1を提供できる。さらに、封止材20(加飾層)は、透明なクリア層内に分散して顔料粒子2が配置されているため、封止材20(加飾層)の全体に顔料が配置されている従来の構成(換言すれば、クリア塗料層内において、複数層にわたって設けられた不透明反射性顔料の層によって、構造色を持つ有色層が実現された構成)と比較して、太陽電池セル10に到達する太陽光の量を多くすることができるため、発電効率の低下を抑制できる(
図1下段、
図7)。これらの結果、第1実施形態の太陽電池パネル1によれば、美観に優れた有色の太陽電池パネル1において、付された色の退色を抑制し、かつ、発電効率の低下を抑制することができる。
【0038】
また、第1実施形態の太陽電池パネル1では、ナノ粒子Cとして、単分散シリカ粒子と、単分散ポリマー粒子とのいずれかを用い、透明マトリックスPとして、アクリル樹脂と、ケイ素系ポリマーと、エポキシ樹脂とのいずれかを用いることにより、封止材20(加飾層)に対して構造色を付与し、付された色が退色しづらい太陽電池パネル1を提供できる。
【0039】
さらに、第1実施形態の太陽電池パネル1では、封止材20(加飾層)における顔料粒子2の含有量C1は、1wt%以上、かつ、40wt%以下であるため、太陽電池パネル1に構造色を付与できる(
図5,6)と共に、太陽電池パネル1の発電効率の低下をより一層抑制できる(
図7)。また、顔料粒子2について、透明マトリックスPにおけるナノ粒子Cの含有量C2は、20wt%以上、かつ、60wt%以下であるため、封止材20(加飾層)に含まれる顔料粒子2の品質を向上できる。
【0040】
<第2実施形態>
図8は、第2実施形態の太陽電池パネル1Aの概略構成を示す説明図である。第2実施形態の太陽電池パネル1Aは、第1実施形態で説明した構成において、封止材20に代えて封止材20Aを備え、第1保護層30に代えて第1保護層30Aを備える。封止材20Aには、顔料粒子2が含まれていない。一方、第1保護層30Aには、第1実施形態(
図3)で説明した顔料粒子2が含まれている。このような第2実施形態では、第1保護層30Aが「加飾層」として機能する。
【0041】
このように、顔料粒子2は、太陽電池パネル1Aの受光面側に配置されていれば足り、封止材20Aでなく第1保護層30A内に配置されていてもよい。なお、太陽電池セル10として、
図2(B)で説明した、両面(±Y軸方向の面)が受光面として機能する太陽電池セル10を採用する場合、第2保護層40にも、顔料粒子2が含まれていることが好ましい。このような第2実施形態の太陽電池パネル1Aにおいても、上述した第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0042】
<第3実施形態>
図9は、第3実施形態の太陽電池パネル1Bの概略構成を示す説明図である。第3実施形態の太陽電池パネル1Bは、第1実施形態で説明した構成において、封止材20に代えて封止材20Bを備え、さらに、第1保護層30の上(+Y軸方向の面)に配置された第1クリア層50と、第2保護層40の下(-Y軸方向の面)に配置された第2クリア層60と、を備えている。第1クリア層50は、任意の材料により形成された透明な層と、層内に分散して配置された顔料粒子2と、を有している(
図9下段)。また、第2クリア層60は、任意の材料により形成されている。このような第3実施形態では、第1クリア層50が「加飾層」として機能する。
【0043】
このように、顔料粒子2は、太陽電池パネル1Bの受光面側に配置されていれば足り、第1実施形態で説明した封止材20や第1保護層30以外の層(
図9の例では、第1クリア層50)に配置されていてもよい。
図9の例では、第1クリア層50は、第1保護層30の上(+Y軸方向の面)に配置されているとしたが、第1クリア層50は任意の位置に配置されていてよい。例えば、第1クリア層50は、太陽電池セル10と第1封止材21(封止材20)との間に配置されてもよく、第1封止材21と第1保護層30の間に配置されてもよい。このような第3実施形態の太陽電池パネル1Bにおいても、上述した第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0044】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0045】
上記実施形態では、太陽電池パネル1,1A,1Bの構成について一例を示した。しかし、太陽電池パネル1の構成は種々の変更が可能である。例えば、太陽電池パネル1は、第1保護層30や第2保護層40を有していなくてもよい。例えば、太陽電池パネル1は、第2封止材22や第2保護層40を有しておらず、基板の一方の面のみに樹脂層が積層された構成であってもよい。例えば、封止材20(第1封止材21、第2封止材22)、第1保護層30、第2保護層40、第1クリア層50、第2クリア層60の厚さ(Y軸方向の長さ)は、任意に決定できる。
【0046】
上記実施形態では、封止材20,20A,20B(加飾層)の構成について一例を示した。しかし、封止材20(加飾層)の構成は種々の変更が可能である。例えば、封止材20は、透明な樹脂材料に代えて、透明なガラス材料により形成されていてもよい。例えば、封止材20における顔料粒子2の含有量C1は、1wt%未満であってもよく、40wt%より大きくてもよい。
【0047】
上記実施形態では、顔料粒子2の構成について一例を示した。しかし、顔料粒子2の構成は種々の変更が可能である。例えば、
図3で示した顔料粒子2の形状はあくまで一例である。顔料粒子2は、ナノ粒子と、ナノ粒子の間に充填された透明マトリックスと、を含むコロイド結晶構造を有する限りにおいて、任意の形状(例えば、球状、多面体状など)であってよい。例えば、透明マトリックスPにおけるナノ粒子Cの含有量C2は、20wt%未満であってもよく、60wt%より大きくてもよい。
【0048】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0049】
1,1A,1B…太陽電池パネル
2…顔料粒子
10…太陽電池セル
11…基板
12…単セル
20,20A,20B…封止材
21…第1封止材
22…第2封止材
30,30A…第1保護層
40…第2保護層
50…第1クリア層
60…第2クリア層
C…ナノ粒子
P…透明マトリックス