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特許7524809走行道路特定装置、走行道路特定方法及び走行道路特定用コンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】走行道路特定装置、走行道路特定方法及び走行道路特定用コンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01C 21/30 20060101AFI20240723BHJP
   G01C 21/26 20060101ALI20240723BHJP
   G09B 29/10 20060101ALI20240723BHJP
   G08G 1/0969 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
G01C21/30
G01C21/26 A
G09B29/10 A
G08G1/0969
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021053863
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022151005
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】中谷 俊洋
(72)【発明者】
【氏名】寺前 康隆
【審査官】篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-126048(JP,A)
【文献】国際公開第2020/240243(WO,A1)
【文献】特開2009-287925(JP,A)
【文献】特開2012-098997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 99/00
G01C 21/00 - 21/36
G01C 23/00 - 25/00
B60W 10/00 - 10/30
B60W 30/00 - 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の直近の所定区間における走行軌跡と、道路を表す第1の地図とを照合することで、前記第1の地図に表された道路のうち、前記走行軌跡と最も一致する道路に含まれる、前記車両の現在位置に最も近い区間を、前記車両が走行中の道路の候補として検出するとともに、前記道路の候補の確からしさを表す第1の確信度を算出する照合部と、
前記車両に搭載されたセンサにより得られた、前記車両の周囲の環境を表すセンサ信号と、各道路の個々の車線を表す第2の地図とを照合することで、前記車両が走行中の車線を検出するとともに、前記検出された車線の確からしさを表す第2の確信度を算出する車線検出部と、
前記検出された車線が前記道路の候補に含まれる場合、前記道路の候補を前記車両が走行中の道路として特定し、前記検出された車線が前記道路の候補に含まれず、かつ、前記第2の確信度が前記第1の確信度よりも高い場合、前記検出された車線を含む道路を、前記車両が走行中の道路として特定する道路特定部と、
を有する、走行道路特定装置。
【請求項2】
前記道路特定部は、検出された道路の候補が存在しない場合、前記検出された車線を含む道路を、前記車両が走行中の道路として特定する、請求項1に記載の走行道路特定装置。
【請求項3】
前記道路特定部は、前記検出された車線が前記道路の候補に含まれず、かつ、前記第2の確信度が前記第1の確信度よりも低い場合、前記車両が走行中の道路を特定しない、請求項1または2に記載の走行道路特定装置。
【請求項4】
車両の直近の所定区間における走行軌跡と、道路を表す第1の地図とを照合することで、前記第1の地図に表された道路のうち、前記走行軌跡と最も一致する道路に含まれる、前記車両の現在位置に最も近い区間を、前記車両が走行中の道路の候補として検出し、
前記道路の候補の確からしさを表す第1の確信度を算出し、
前記車両に搭載されたセンサにより得られた、前記車両の周囲の環境を表すセンサ信号と、各道路の個々の車線を表す第2の地図とを照合することで、前記車両が走行中の車線を検出し、
前記検出された車線の確からしさを表す第2の確信度を算出し、
前記検出された車線が前記道路の候補に含まれる場合、前記道路の候補を前記車両が走行中の道路として特定し、
前記検出された車線が前記道路の候補に含まれず、かつ、前記第2の確信度が前記第1の確信度よりも高い場合、前記検出された車線を含む道路を、前記車両が走行中の道路として特定する、
とを含む走行道路特定方法。
【請求項5】
車両の直近の所定区間における走行軌跡と、道路を表す第1の地図とを照合することで、前記第1の地図に表された道路のうち、前記走行軌跡と最も一致する道路に含まれる、前記車両の現在位置に最も近い区間を、前記車両が走行中の道路の候補として検出し、
前記道路の候補の確からしさを表す第1の確信度を算出し、
前記車両に搭載されたセンサにより得られた、前記車両の周囲の環境を表すセンサ信号と、各道路の個々の車線を表す第2の地図とを照合することで、前記車両が走行中の車線を検出し、
前記検出された車線の確からしさを表す第2の確信度を算出し、
前記検出された車線が前記道路の候補に含まれる場合、前記道路の候補を前記車両が走行中の道路として特定し、
前記検出された車線が前記道路の候補に含まれず、かつ、前記第2の確信度が前記第1の確信度よりも高い場合、前記検出された車線を含む道路を、前記車両が走行中の道路として特定する、
とを前記車両に搭載されたプロセッサに実行させるための走行道路特定用コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が走行中の道路を特定する走行道路特定装置、走行道路特定方法及び走行道路特定用コンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両を適切に自動運転制御するためには、車両が走行中の道路を正確に検出することが求められる。そこで、車両の走行軌跡と地図情報とを照合することで、車両が走行中の道路を特定する技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1に記載された、デジタル地図における車両の位置を決定する方法は、車両の運動に関する運動情報を使用して、車両が進んだ道程の経路に特徴的な経路情報を決定する。そしてこの方法は、その経路情報と、デジタル地図に保存された道路の経路に特徴的な地図情報とを比較する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-126048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両の走行軌跡の算出に利用される情報の精度、あるいは、車両が走行中の道路及びその周囲の環境によっては、走行軌跡と地図との照合において、車両が実際に走行中の道路とは異なる道路が、車両が走行中の道路として誤って検出されることがある。このような場合、車両を自動運転制御する車両制御装置は、車両が走行中の道路に関する正しい情報を利用することができなくなり、自動運転制御に支障を生じるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、車両が走行中の道路を精度良く特定することができる走行道路特定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一つの実施形態によれば、走行道路特定装置が提供される。この走行道路特定装置は、車両の直近の所定区間における走行軌跡と、道路を表す第1の地図とを照合することで、第1の地図に表された道路のうち、走行軌跡と最も一致する道路に含まれる車両の現在位置に最も近い区間を、車両が走行中の道路の候補として検出する照合部と、車両に搭載されたセンサにより得られた、車両の周囲の環境を表すセンサ信号と、各道路の個々の車線を表す第2の地図とを照合することで、車両が走行中の車線を検出する車線検出部と、検出された車線が道路の候補に含まれる場合、その道路の候補を車両が走行中の道路として特定し、検出された車線が道路の候補に含まれない場合、検出された車線を含む道路を、車両が走行中の道路として特定する道路特定部とを有する。
【0008】
この走行道路特定装置において、照合部は、道路の候補の確からしさを表す第1の確信度を算出し、車線検出部は、検出された車線の確からしさを表す第2の確信度を算出し、道路特定部は、第2の確信度が第1の確信度よりも高い場合に限り、検出された車線を含む道路を、車両が走行中の道路として特定することが好ましい。
【0009】
また、この走行道路特定装置において、照合部は、第1の地図に表された道路のうち、走行軌跡との一致度合が所定の一致度閾値以上となる道路を、車両が走行中の道路の候補として検出し、道路特定部は、検出された道路の候補が複数存在する場合、その複数の道路の候補のうち、検出された車両が走行中の車線を含む道路を、車両が走行中の道路として特定することが好ましい。
【0010】
あるいは、この走行道路特定装置において、道路特定部は、検出された道路の候補が存在しない場合、検出された車線を含む道路を、車両が走行中の道路として特定することが好ましい。
【0011】
他の実施形態によれば、走行道路特定方法が提供される。この走行道路特定方法は、車両の直近の所定区間における走行軌跡と、道路を表す第1の地図とを照合することで、第1の地図に表された道路のうち、走行軌跡と最も一致する道路に含まれる車両の現在位置に最も近い区間を、車両が走行中の道路の候補として検出し、車両に搭載されたセンサにより得られた、車両の周囲の環境を表すセンサ信号と、各道路の個々の車線を表す第2の地図とを照合することで、車両が走行中の車線を検出し、検出された車線が道路の候補に含まれる場合、道路の候補を車両が走行中の道路として特定し、検出された車線が道路の候補に含まれない場合、検出された車線を含む道路を、車両が走行中の道路として特定する、ことを含む。
【0012】
さらに他の実施形態によれば、走行道路特定用コンピュータプログラムが提供される。この走行道路特定用コンピュータプログラムは、車両の直近の所定区間における走行軌跡と、道路を表す第1の地図とを照合することで、第1の地図に表された道路のうち、走行軌跡と最も一致する道路に含まれる車両の現在位置に最も近い区間を、車両が走行中の道路の候補として検出し、車両に搭載されたセンサにより得られた、車両の周囲の環境を表すセンサ信号と、各道路の個々の車線を表す第2の地図とを照合することで、車両が走行中の車線を検出し、検出された車線が道路の候補に含まれる場合、道路の候補を車両が走行中の道路として特定し、検出された車線が道路の候補に含まれない場合、検出された車線を含む道路を、車両が走行中の道路として特定する、ことを車両に搭載されたプロセッサに実行させるための命令を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る走行道路特定装置は、車両が走行中の道路を精度良く特定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】走行道路特定装置が実装される車両制御システムの概略構成図である。
図2】走行道路特定装置の一つの実施形態である電子制御装置のハードウェア構成図である。
図3】走行道路特定処理に関する、電子制御装置のプロセッサの機能ブロック図である。
図4】本実施形態による走行道路特定の概要を示す図である。
図5】走行道路特定処理の動作フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図を参照しつつ、走行道路特定装置及び走行道路特定装置において実施される走行道路特定方法ならびに走行道路特定用コンピュータプログラムについて説明する。この走行道路特定装置は、車輪速センサあるいはジャイロセンサといった、車両の運動に関する情報を取得するセンサにより得られた車両運動信号に基づいて直近の所定区間における車両の走行軌跡を求める。さらに、この走行道路特定装置は、その走行軌跡と道路を表す第1の地図とを照合することで、地図に表された道路のうち、走行軌跡と最も一致する道路を特定する。そしてこの走行道路特定装置は、特定した道路に含まれる、車両の現在位置に最も近い区間を、車両が走行中の道路(以下、単に走行道路と呼ぶことがある)の候補として特定する。さらにまた、この走行道路特定装置は、車両に搭載されたセンサにより得られた、車両の周囲の環境を表すセンサ信号と、各道路の個々の車線を表す第2の地図とを照合することで、車両が走行中の車線(以下、単に走行車線と呼ぶことがある)を検出する。そしてこの走行道路特定装置は、検出された走行車線が走行道路の候補に含まれる場合、その候補を走行道路として特定し、一方、検出された走行車線が走行道路の候補に含まれない場合、その走行車線を含む道路を走行道路として特定する。このように、走行車線の検出結果を走行道路の特定に利用することで、この走行道路特定装置は、車両が走行中の道路の検出精度を向上する。
【0016】
図1は、走行道路特定装置が実装される車両制御システムの概略構成図である。また図2は、走行道路特定装置の一つの実施形態である電子制御装置のハードウェア構成図である。本実施形態では、車両10に搭載され、かつ、車両10を制御する車両制御システム1は、少なくとも一つの車両運動センサ2と、カメラ3と、距離センサ4と、ストレージ装置5と、走行道路特定装置の一例である電子制御装置(ECU)6とを有する。車両運動センサ2、カメラ3、距離センサ4及びストレージ装置5とECU6とは、コントローラエリアネットワークといった規格に準拠した車内ネットワークを介して通信可能に接続される。なお、車両制御システム1は、目的地までの走行予定ルートを探索するためのナビゲーション装置(図示せず)を有していてもよい。さらに、車両制御システム1は、他の機器と無線通信するための無線通信器(図示せず)を有していてもよい。さらにまた、車両制御システム1は、GPSといった衛星測位システムからの測位信号に基づいて車両10の位置を測位するための受信機(図示せず)を有していてもよい。
【0017】
車両運動センサ2は、運動測定部の一例であり、車両10の運動に関する情報を取得して、その情報を表す車両運動信号を生成する。車両10の運動に関する情報は、例えば、車輪速、車両10の互いに直交する3軸それぞれの角速度、または、車両10の加速度である。車両運動センサ2には、例えば、車両10の車輪速を測定する車輪速センサ、車両10の互いに直交する3軸それぞれの角速度を測定するジャイロセンサ、及び、車両10の加速度を測定する加速度センサのうちの少なくとも一つが含まれる。車両運動センサ2は、所定の周期ごとに、車両運動信号を生成し、生成した車両運動信号を、車内ネットワークを介してECU6へ出力する。
【0018】
カメラ3は、車両10の周囲の環境を表すセンサ信号を生成するセンサの一例であり、CCDあるいはC-MOSなど、可視光に感度を有する光電変換素子のアレイで構成された2次元検出器と、その2次元検出器上に撮影対象となる領域の像を結像する結像光学系を有する。そしてカメラ3は、例えば、車両10の前方を向くように、例えば、車両10の車室内に取り付けられる。そしてカメラ3は、所定の撮影周期(例えば1/30秒~1/10秒)ごとに車両10の前方領域を撮影し、その前方領域が写った画像を生成する。カメラ3により得られた画像は、センサ信号の一例であり、カラー画像であってもよく、あるいは、グレー画像であってもよい。なお、車両10には、撮影方向または焦点距離が異なる複数のカメラが設けられてもよい。
【0019】
カメラ3は、画像を生成する度に、その生成した画像を、車内ネットワークを介してECU6へ出力する。
【0020】
距離センサ4は、LiDARあるいはレーダといった、車両10の周囲の環境を表すセンサ信号を生成するセンサの他の一例である。距離センサ4は、所定の周期ごとに、測定範囲内の各方位について、車両10からその方位において車両10の周囲に存在する物体までの距離を測定し、その測定結果を表す測距信号を生成する。距離センサ4により得られた測距信号は、センサ信号の他の一例である。
【0021】
距離センサ4は、測距信号を生成する度に、その生成した測距信号を、車内ネットワークを介してECU6へ出力する。
【0022】
ストレージ装置5は、記憶部の一例であり、例えば、ハードディスク装置、不揮発性の半導体メモリ、または光記録媒体及びそのアクセス装置の少なくとも何れかを有する。そしてストレージ装置5は、道路上の個々の車線を表す第2の地図の一例である高精度地図を記憶する。高精度地図が有する空間情報には、その高精度地図に表される所定の領域に含まれる道路の各区間について、車両の走行に影響する地物に関する情報が含まれる。車両の走行に影響する地物には、例えば、個々の車線を区画する車線区画線といった道路標示、道路標識、道路脇の遮音壁などの構造物が含まれる。このように、高精度地図は、車線区画線といった個々の車線を特定するための情報を含んでいるので、高精度地図は、道路上の個々の車線を表すことができる。また、高精度地図には、特定の種別の道路、例えば、自動車専用道についてのみ、空間情報が含まれてもよい。
【0023】
ストレージ装置5は、ECU6からの高精度地図の読出し要求を受信すると、記憶している高精度地図から、車両10の現在位置における走行道路及びその走行道路から所定の範囲内に位置する他の道路の空間情報を読み出す。そしてストレージ装置5は、その読み出した空間情報を、車内ネットワークを介してECU6へ出力する。
【0024】
ECU6は、車両10を自動運転するよう、車両10の走行を制御する。さらに、ECU6は、車両10の自動運転制御において利用される、走行道路に関する空間情報をストレージ装置5から取得するために、走行道路特定処理を実行する。
【0025】
図2に示されるように、ECU6は、通信インターフェース21と、メモリ22と、プロセッサ23とを有する。通信インターフェース21、メモリ22及びプロセッサ23は、それぞれ、別個の回路として構成されてもよく、あるいは、一つの集積回路として一体的に構成されてもよい。
【0026】
通信インターフェース21は、ECU6を車内ネットワークに接続するためのインターフェース回路を有する。そして通信インターフェース21は、車両運動センサ2から車両運動信号を受信する度に、その車両運動信号をプロセッサ23へわたす。また、通信インターフェース21は、カメラ3から画像を受信する度に、受信した画像をプロセッサ23へわたす。さらに、通信インターフェース21は、距離センサ4から測距信号を受信する度に、受信した測距信号をプロセッサ23へわたす。さらにまた、通信インターフェース21は、ストレージ装置5から読み込んだ空間情報をプロセッサ23へわたす。
【0027】
メモリ22は、記憶部の他の一例であり、例えば、揮発性の半導体メモリ及び不揮発性の半導体メモリを有する。そしてメモリ22は、ECU6のプロセッサ23により実行される、走行道路特定処理を含む車両制御処理において使用される各種のデータを記憶する。例えば、メモリ22は、道路を表す地図(以下、単に道路地図と呼ぶ)を記憶する。道路地図は、第1の地図の一例であり、例えば、ナビゲーション装置において経路探索に利用されるものであり、個々の道路区間の識別情報(リンクID)、位置、形状、種別(例えば、自動車専用道または一般道)及び接続関係を表す情報を含む。また、メモリ22は、直近の所定期間内において、車両運動センサ2から受信した車両運動信号、カメラ3から受信した車両10の周囲の画像、距離センサ4から受信した測距信号、及び、ストレージ装置5から読み込んだ空間情報を記憶する。さらに、メモリ22は、カメラ3の焦点距離、画角、撮影方向及び取り付け位置などを表すパラメータ、及び、車線区画線などの検出に利用される識別器を特定するためのパラメータセットなどを記憶する。さらに、メモリ22は、車両制御処理の途中で生成される各種のデータを一時的に記憶する。
【0028】
プロセッサ23は、1個または複数個のCPU(Central Processing Unit)及びその周辺回路を有する。プロセッサ23は、論理演算ユニット、数値演算ユニットあるいはグラフィック処理ユニットといった他の演算回路をさらに有していてもよい。そしてプロセッサ23は、所定の周期ごとに、車両10に対する走行道路特定処理を含む車両制御処理を実行する。
【0029】
図3は、走行道路特定処理を含む車両制御処理に関する、プロセッサ23の機能ブロック図である。プロセッサ23は、軌跡推定部31と、照合部32と、車線検出部33と、道路特定部34と、空間情報取得部35と、制御部36とを有する。プロセッサ23が有するこれらの各部は、例えば、プロセッサ23上で動作するコンピュータプログラムにより実現される機能モジュールである。あるいは、プロセッサ23が有するこれらの各部は、それぞれ別個に設けられる、専用の演算回路であってもよい。なお、プロセッサ23が有するこれらの各部のうち、軌跡推定部31、照合部32、車線検出部33及び道路特定部34が、走行道路特定処理に関連する。
【0030】
軌跡推定部31は、所定の周期ごとに、車両運動センサ2から取得した車両運動信号に基づいて直近の所定期間における車両10の走行軌跡を推定する。例えば、軌跡推定部31は、車両運動信号に表される車輪速及び各軸の角速度をそれぞれその所定期間にわたって積分することで、車両10の走行軌跡を推定することができる。また、車両10が衛星測位システムの受信機を有している場合、軌跡推定部31は、直近の所定期間においてその受信機による測位信号で表された車両10の位置を時系列順に並べることで、車両10の走行軌跡を推定してもよい。軌跡推定部31は、推定した走行軌跡を照合部32へ出力する。
【0031】
照合部32は、軌跡推定部31から車両10の走行軌跡を受け取る度に、その走行軌跡と道路地図とを照合することで、車両10の走行道路の候補を検出する。例えば、照合部32は、道路地図に対する走行軌跡の相対的な位置及び向きを変えながら、道路地図上に表された道路と走行軌跡との一致度を算出する。そして一致度が最大となるときの地図上の道路に含まれる個々の道路区間のうち、走行軌跡上の車両10の現在位置に最も近い道路区間を、車両10の走行道路の候補として検出する。
【0032】
照合部32は、一致度を算出する際、例えば、走行軌跡を複数の区間に分割する。そして照合部32は、走行軌跡中の区間ごとに、道路地図における最も近い道路区間までの距離を算出する。照合部32は、走行軌跡中の区間ごとに算出した距離の和の逆数を一致度として算出する。あるいは、照合部32は、走行軌跡中の区間ごとに算出した距離の二乗和の逆数を一致度として算出してもよい。あるいはまた、照合部32は、上記の距離の和または距離の二乗和に、正の値を有する所定の定数を加えた値の逆数を、一致度としてもよい。
【0033】
なお、車両10の走行軌跡中の各区間は連続しているはずであるので、照合部32は、一致度の算出対象となる道路地図上の各道路区間も互いに連続するものに限定してもよい。また、照合部32は、道路地図上で走行軌跡との一致度を算出する範囲を、車両10に搭載された衛星測位システムの受信機から受け取った測位信号により表される車両10の現在位置または前回の照合時において検出された走行道路を含むように限定してもよい。これにより、走行道路の検出に要する演算量が削減される。
【0034】
また、一致度の最大値が所定の閾値未満である場合、照合部32は、走行道路の候補を検出できなかったと判定してもよい。
【0035】
照合部32は、検出した走行道路の候補を表す情報を、道路特定部34へ通知する。なお、検出した走行道路の候補を表す情報には、その走行道路の候補に相当する道路区間のリンクID及びその道路区間の道路の種別が含まれる。
【0036】
車線検出部33は、カメラ3から画像を受け取る度に、画像と高精度地図とを照合することで、車両10の走行車線を検出する。その照合の際、車線検出部33は、前回の走行道路特定の際に読み込まれた空間情報を利用すればよい。
【0037】
車線検出部33は、画像を識別器に入力することで、画像に表された道路上または道路周辺の地物を検出する。そのような識別器として、車線検出部33は、例えば、Single Shot MultiBox Detector(SSD)、または、Faster R-CNNといった、コンボリューショナルニューラルネットワーク型(CNN)のアーキテクチャを持つディープニューラルネットワーク(DNN)を用いることができる。このような識別器は、画像から検知対象となる地物を検出するように予め学習される。そして車線検出部33は、車両10の位置及び姿勢を仮定して、画像から検出された地物をカメラ3のパラメータを参照して高精度地図上に投影するか、あるいは、高精度地図上の車両10の周囲の道路上または道路周辺の地物を画像上に投影する。車線検出部33は、画像から検出された地物と高精度地図の空間情報に表された地物とが最も一致するときの車両10の位置及び姿勢を、車両10の現在位置及び姿勢として推定する。そして車線検出部33は、高精度地図に表された個々の車線のうち、推定した車両10の現在位置を含む車線を、走行車線として検出すればよい。また、車線検出部33は、画像から検出された地物のそれぞれと高精度地図上の対応する地物との距離の和の逆数を一致度として算出する。あるいは、車線検出部33は、画像から検出された地物のそれぞれと高精度地図上の対応する地物との距離の二乗和の逆数を一致度として算出してもよい。あるいはまた、車線検出部33は、上記の距離の和または距離の二乗和に、正の値を有する所定の定数を加えた値の逆数を、一致度としてもよい。
【0038】
車線検出部33は、高精度地図を参照して、検出した走行車線を含む道路区間を特定する。そして車線検出部33は、その走行車線を含む道路区間のリンクID、及び、その走行区間について算出された一致度を道路特定部34へ通知する。また、車線検出部33は、検出した走行車線及び車両10の位置を制御部36へ通知する。
【0039】
道路特定部34は、車線検出部33により検出された走行車線が照合部32により特定された走行道路の候補に含まれるか否かに基づいて、車両10の走行道路を特定する。本実施形態では、道路特定部34は、検出された走行車線が走行道路の候補に含まれる場合、その走行道路の候補を走行道路として特定する。一方、検出された走行車線が走行道路の候補に含まれない場合、道路特定部34は、検出された走行車線を含む道路区間を、車両10の走行道路として特定する。なお、道路特定部34は、検出された走行車線を含む道路区間のリンクIDと、走行道路の候補のリンクIDとが一致する場合、検出された走行車線が走行道路の候補に含まれると判定すればよい。一方、検出された走行車線を含む道路区間のリンクIDと、走行道路の候補のリンクIDとが異なる場合、道路特定部34は、検出された走行車線は走行道路の候補に含まれないと判定すればよい。
【0040】
図4は、本実施形態による走行道路特定の概要を示す図である。図4に示される例では、道路400は、分岐地点401にて二つに分岐している。道路400のうち、車両10は、その進行方向において分岐地点401を過ぎた二つの道路区間のうちの一方である区間411に含まれる車線421を走行している。そのため、車線421が走行車線として検出される。また、走行道路の候補として、分岐地点401を過ぎた二つの道路区間のうちの他方である区間412が検出されているとする。この場合、車線421は走行道路の候補である区間412には含まれていないので、区間412は走行道路として特定されない。そして車線421を含む区間411が走行道路として特定される。一方、走行道路の候補として、区間411が検出されている場合には、区間411が走行車線として検出された車線421を含んでいるので、区間411がそのまま走行道路として特定される。
【0041】
道路特定部34は、特定した走行道路を表す情報、例えばその走行道路のリンクIDを空間情報取得部35へ通知する。
【0042】
空間情報取得部35は、道路特定部34から走行道路を表す情報が通知される度に、その通知された情報で表される走行道路を含む所定の範囲の空間情報をストレージ装置5から取得する。なお、所定の範囲は、例えば、車両10の自己位置推定及び車両10が現在位置から所定距離先までの区間において通過する予定の軌跡(以下、走行予定軌跡と呼ぶ)を設定するのに十分な範囲、例えば、走行道路を中心とする数100m~数kmの範囲とすることができる。空間情報取得部35は、空間情報を取得する度に、取得した空間情報をメモリ22に一時的に保存する。
【0043】
制御部36は、車両10の車室内に設けられた操作スイッチ(図示せず)を介して自動運転制御を適用することを指示する操作がドライバによりなされている場合に、空間情報を参照して、車両10を自動運転制御する。
【0044】
本実施形態では、制御部36は、車両10が自動運転制御されている場合、車線検出部33により空間情報を参照して検出された走行車線に沿って車両10が走行するように走行予定軌跡を設定する。また、制御部36は、空間情報を参照して、車両10の目的地へ向かう目的車線を特定する。そして制御部36は、走行車線と目的車線とが異なる場合、走行車線から目的車線への車線変更するように走行予定軌跡を設定する。
【0045】
制御部36は、走行予定軌跡を設定すると、その走行予定軌跡に沿って車両10が走行するように車両10を自動運転制御する。例えば、制御部36は、車両10の現在位置及び走行予定軌跡を参照して、車両10が走行予定軌跡に沿って走行するための操舵角を求め、その操舵角に応じた制御信号を、車両10の操舵輪を制御するアクチュエータ(図示せず)へ出力する。また、制御部36は、車室内の操作スイッチを介して設定された車両10の目標速度、及び、車速センサ(図示せず)により測定された車両10の現在の車速に従って、車両10の目標加速度を求め、その目標加速度となるようにアクセル開度またはブレーキ量を設定する。そして制御部36は、設定されたアクセル開度に従って燃料噴射量を求め、その燃料噴射量に応じた制御信号を車両10のエンジンの燃料噴射装置へ出力する。あるいは、制御部36は、設定されたアクセル開度に従って車両10のモータへ供給する電力を求め、その電力に応じた制御信号を、モータの駆動装置へ出力する。さらに、制御部36は、設定されたブレーキ量に応じた制御信号を車両10のブレーキへ出力する。
【0046】
図5は、プロセッサ23により実行される、走行道路特定処理を含む車両制御処理の動作フローチャートである。プロセッサ23は、所定の周期ごとに、以下の動作フローチャートに従って車両制御処理を実行すればよい。以下の動作フローチャートのうち、ステップS101~ステップS106の処理が走行道路特定処理に関連する。
【0047】
プロセッサ23の軌跡推定部31は、直近の所定区間における車両10の走行軌跡を推定する(ステップS101)。プロセッサ23の照合部32は、走行軌跡と道路地図とを照合して、走行軌跡と最も一致する道路における、車両10の現在位置に最も近い道路区間を、車両10の走行道路の候補として検出する(ステップS102)。
【0048】
また、プロセッサ23の車線検出部33は、カメラ3から受け取った画像と高精度地図とを照合することで、車両10の走行車線を検出する(ステップS103)。そしてプロセッサ23の道路特定部34は、車線検出部33により検出された走行車線が照合部32により特定された走行道路の候補に含まれるか否か判定する(ステップS104)。
【0049】
検出された走行車線が走行道路の候補に含まれる場合(ステップS104-Yes)、道路特定部34は、その走行道路の候補を走行道路として特定する(ステップS105)。一方、検出された走行車線が走行道路の候補に含まれない場合(ステップS104-No)、道路特定部34は、検出された走行車線を含む道路区間を、車両10の走行道路として特定する(ステップS106)。
【0050】
走行道路が特定されると、プロセッサ23の空間情報取得部35は、走行道路を含む所定の範囲の空間情報をストレージ装置5から取得する(ステップS107)。そしてプロセッサ23の制御部36は、空間情報を参照して車両10を自動運転制御する(ステップS108)。そしてプロセッサ23は、車両制御処理を終了する。
【0051】
以上に説明してきたように、この走行道路特定装置は、直近の所定区間における車両の走行軌跡と道路地図とを照合することで、車両が走行中の走行道路の候補を検出する。また、この走行道路特定装置は、車両に搭載されたセンサにより得られた、車両の周囲の環境を表すセンサ信号と、高精度地図とを照合することで、車両の走行車線を検出する。そしてこの走行道路特定装置は、検出された走行車線が走行道路の候補に含まれる場合、その候補を走行道路として特定し、一方、検出された走行車線が走行道路の候補に含まれない場合、その走行車線を含む道路を走行道路として特定する。このように、車線単位の情報を含む高精度地図を参照した走行車線検出の結果を走行道路の特定に利用することで、この走行道路特定装置は、走行道路の検出精度を向上することができる。
【0052】
変形例によれば、道路特定部34は、照合部32により算出された、走行道路の候補についての一致度よりも、車線検出部33により算出された、走行車線についての一致度が高い場合に限り、走行車線を含む道路を、走行道路として特定してもよい。なお、走行道路の候補について算出された一致度が高いほど、その候補が走行道路である可能性が高くなると考えられるので、その一致度は、道路の候補の確からしさを表す第1の確信度の一例となる。同様に、検出された走行車線について算出された一致度が高いほど、検出された走行車線が、実際に車両10が走行している車線である可能性が高いと考えられるので、その一致度は、検出された走行車線の確からしさを表す第2の確信度の一例となる。これにより、道路特定部34は、走行車線の検出精度が走行道路の候補の検出精度よりも低い場合において、走行車線の誤検出により、走行道路を誤って特定することを抑制できる。なお、走行道路の候補についての一致度よりも走行車線についての一致度の方が低く、かつ、走行車線が走行道路の候補に含まれない場合、道路特定部34は、走行道路を特定できないと判定してもよい。
【0053】
他の変形例によれば、照合部32は、道路地図に表された道路のうち、走行軌跡との一致度合が所定の一致度閾値以上となる道路のそれぞれについて、その道路に含まれる、車両10の現在位置に最も近い道路区間を、走行道路の候補として検出してもよい。そして道路特定部34は、検出された走行道路の候補が複数存在する場合、その複数の候補のうち、検出された走行車線を含む候補を、走行道路として特定してもよい。これにより、走行軌跡と道路地図との照合では、走行道路を特定することが困難な場合でも、道路特定部34は、走行道路を特定することができる。
【0054】
また他の変形例によれば、照合部32が走行道路の候補を検出できなかった場合、道路特定部34は、車線検出部33により検出された走行車線を含む道路を、走行道路として特定してもよい。この場合も、走行軌跡と道路地図との照合では、走行道路を特定することが困難な場合でも、道路特定部34は、走行道路を特定することができる。
【0055】
さらに他の変形例によれば、車線検出部33は、カメラ3により得られた画像または距離センサ4により得られた測距信号に基づいて、検出された走行車線の確からしさを判定してもよい。そして道路特定部34は、検出された走行車線が確からしいと判定された場合にのみ、上記の実施形態または変形例に従って、走行車線に基づいて走行道路を特定してもよい。これにより、道路特定部34は、走行車線の誤検出により、走行道路を誤って特定することを抑制できる。なお、車線検出部33は、以下に説明する手法の何れかに従って検出された走行車線の確からしさを判定する。
【0056】
車線検出部33は、カメラ3により得られた画像から検出した走行車線の左右何れかの着目する側に位置する車線の数と、高精度地図上で走行車線に対してその同じ側に位置する車線の数とを比較する。そして車線検出部33は、両者が一致する場合、検出された走行車線は確からしいと判定する。この場合、車線検出部33は、画像から検出された、走行車線よりもその着目する側に位置する車線区画線の数をカウントすることで、その着目する側に位置する車線の数をカウントできる。また、車線検出部33は、検出された走行車線の位置と、その位置における、高精度地図に表された車線の数とに基づいて、高精度地図上でのその着目する側に位置する車線の数をカウントすればよい。
【0057】
あるいは、車線検出部33は、測距信号に表された車両10の周囲の地物(例えば、遮音壁)までの距離を、検出された走行車線の確からしさを判定してもよい。この場合、車線検出部33は、測距信号に表された車両10の周囲の地物までの距離と、高精度地図上での検出された走行車線の位置からその地物までの距離との差が所定の誤差範囲内である場合、検出された走行車線は確からしいと判定すればよい。
【0058】
また、上記の実施形態または変形例による、ECU6のプロセッサ23の機能を実現するコンピュータプログラムは、半導体メモリ、磁気記録媒体または光記録媒体といった、コンピュータ読取可能な可搬性の記録媒体に記録された形で提供されてもよい。
【0059】
以上のように、当業者は、本発明の範囲内で、実施される形態に合わせて様々な変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0060】
1 車両制御システム
10 車両
2 車両運動センサ
3 カメラ
4 距離センサ
5 ストレージ装置
6 電子制御装置(ECU)
21 通信インターフェース
22 メモリ
23 プロセッサ
31 軌跡推定部
32 照合部
33 車線検出部
34 道路特定部
35 空間情報取得部
36 制御部
図1
図2
図3
図4
図5