(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】穿孔方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/382 20140101AFI20240723BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20240723BHJP
【FI】
B23K26/382
B23K26/00 N
(21)【出願番号】P 2021060605
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】福井 道人
(72)【発明者】
【氏名】松沼 和明
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-024476(JP,A)
【文献】特開2017-165485(JP,A)
【文献】特開昭52-108598(JP,A)
【文献】特開平02-108483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/382
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品用容器の脱気孔付き蓋として製造される基材において複数の脱気孔のそれぞれが貫設される断続領域と前記断続領域に隣接する間欠領域とが線状に延在して交互に並ぶ所定領域へ向けて、前記所定領域をなぞるように移動させるレーザー光の照射を継続するシリーズ工程と、
前記シリーズ工程において、前記断続領域に照射される前記レーザー光は遮蔽せずに、前記間欠領域へ照射される前記レーザー光を照射経路上に介在する遮蔽部材で遮蔽するマスク工程と、を備え
、
前記マスク工程は、照射開始時または照射終了時の前記レーザー光を遮蔽する領域端マスク工程を有する
ことを特徴とする穿孔方法
。
【請求項2】
前記シリーズ工程は、前記所定領域を一方から他方へなぞるように移動させる往工程と、前記所定領域を前記他方から前記一方へなぞるように移動させる復工程と、を有する
ことを特徴とする請求項
1に記載の穿孔方法。
【請求項3】
食品用容器の脱気孔付き蓋として製造される基材において複数の脱気孔のそれぞれが貫設される断続領域と前記断続領域に隣接する間欠領域とが線状に延在して交互に並ぶ所定領域へ向けて、前記所定領域をなぞるように移動させるレーザー光の照射を継続するシリーズ工程と、
前記シリーズ工程において、前記断続領域に照射される前記レーザー光は遮蔽せずに、前記間欠領域へ照射される前記レーザー光を照射経路上に介在する遮蔽部材で遮蔽するマスク工程と、を備え
、
前記シリーズ工程は、前記所定領域を一方から他方へなぞるように移動させる往工程と、前記所定領域を前記他方から前記一方へなぞるように移動させる復工程と、を有する
ことを特徴とする穿孔方法
。
【請求項4】
食品用容器の脱気孔付き蓋として製造される基材に延在する脱気孔をレーザー光で貫設する穿孔方法であって、
前記脱気孔における一端側の一部として貫設される一端側領域に向けて前記レーザー光を前記一端側領域の前記一端側から前記一端側とは反対側の末端部へ移動させて前記一端側領域に前記脱気孔の前記一部を貫設する第一工程と、
前記末端部に隣接するとともに面状に延在するポーズ領域上に配置された遮蔽部材の端縁の一箇所を跨いて移動させつつ前記レーザー光の照射を継続し、前記一端側領域に照射された前記レーザー光を遮蔽せずに前記ポーズ領域へ照射された前記レーザー光を前記遮蔽部材で遮蔽して前記脱気孔の貫設を中断するポーズ工程と、
前記ポーズ工程の後に、前記脱気孔において前記一部に接続するとともに他端側の他部として貫設される他端側領域に向けて前記ポーズ領域から前記遮蔽部材の前記一箇所を跨いで移動させつつ前記レーザー光の照射を継続し、前記脱気孔において前記他部の貫設を再開する第二工程と、を備えた
ことを特徴とする穿孔方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光を用いた穿孔方法および穿孔装置に関する。
【背景技術】
【0002】
穿孔技術の一つとして、レーザー光を用いた手法が知られている。たとえば、特許文献1には、レーザー加工により電子レンジで加熱される食品を収容する容器の蓋に複数の排気長孔を形成する技術が開示されている。特許文献1では、レーザー光の照射装置をONにしてから蓋を貫通可能なエネルギーまでレーザー光の出力を高める準備期間が経過すると貫通孔が形成され、その後に高められたエネルギーを維持したままレーザー光あるいは蓋を移動させる作業時間が経過すると貫通孔が所定の長孔形状にまで拡張されてレーザー光の照射をOFFにする。このようにレーザー光の照射装置をONにしてから一つの長孔を穿設してOFFにする一連の工程を蓋の異なる照射範囲で繰り返すことにより、蓋に複数の長孔が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように孔の穿設加工中にレーザー光の照射を繰り返しON/OFFすると、孔の加工性が低下しうる。
たとえば、複数の孔のそれぞれを形成するごとにレーザー光の照射をON/OFFする場合、穿設するためのレーザー光の出力準備期間を孔ごとに要するため、穿孔作業時間が長引きうるという第一の課題が挙げられる。よって、穿孔作業時間の短縮を図るうえで改善の余地がある。
あるいは、一つの孔を形成する場合であっても、複雑な形状の孔を穿設する際には、孔を複数の部分に分けて定義して穿設加工中にレーザー光の照射を繰り返しON/OFFする場合がある。この場合、接続する部分同士を綺麗に(なめらかに)繋げることが難しいことから、孔の加工精度を確保するのも困難になりうるという第二の課題が挙げられる。よって、孔の加工精度を確保するうえで改善の余地がある。
【0005】
本件は、上記のような課題に鑑みて創案されたものであり、穿孔作業時間の短縮を第一の目的とし、穿孔加工精度の確保を第二の目的とする。なお、第一の目的や第二の目的のように穿孔加工性の低下抑制を目的とするのに限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用および効果であって、従来の技術では得られない作用および効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここで開示する穿孔方法は、食品用容器の脱気孔付き蓋として製造される基材において複数の脱気孔のそれぞれが貫設される断続領域と前記断続領域に隣接する間欠領域とが線状に延在して交互に並ぶ所定領域へ向けて、前記所定領域をなぞるように移動させるレーザー光の照射を継続するシリーズ工程と、前記シリーズ工程において、前記断続領域に照射される前記レーザー光は遮蔽せずに、前記間欠領域へ照射される前記レーザー光を照射経路上に介在する遮蔽部材で遮蔽するマスク工程と、を備える。
【0007】
また、ここで開示する穿孔装置は、食品用容器の脱気孔付き蓋として製造される基材において複数の脱気孔のそれぞれが貫設される断続領域と前記断続領域に隣接する間欠領域とが線状に延在して交互に並ぶ所定領域へ向けて、前記所定領域をなぞるように移動させるレーザー光の照射を継続する照射装置と、前記レーザー光の照射経路上に介在して、前記断続領域に照射される前記レーザー光は遮蔽せずに、前記間欠領域へ照射される前記レーザー光の照射を遮蔽する遮蔽部材と、を備える。
【0008】
さらに、ここで開示する穿孔方法は、食品用容器の脱気孔付き蓋として製造される基材に延在する脱気孔をレーザー光で貫設する穿孔方法であって、前記脱気孔における一端側の一部として貫設される一端側領域に向けて前記レーザー光を前記一端側領域の前記一端側から前記一端側とは反対側の末端部へ移動させて前記一端側領域に前記脱気孔の前記一部を貫設する第一工程と、前記末端部に隣接するとともに面状に延在するポーズ領域上に配置された遮蔽部材の端縁の一箇所を跨いて移動させつつ前記レーザー光の照射を継続し、前記一端側領域に照射された前記レーザー光を遮蔽せずに前記ポーズ領域へ照射された前記レーザー光を前記遮蔽部材で遮蔽して前記脱気孔の貫設を中断するポーズ工程と、前記ポーズ工程の後に、前記脱気孔において前記一部に接続するとともに他端側の他部として貫設される他端側領域に向けて前記ポーズ領域から前記遮蔽部材の前記一箇所を跨いで移動させつつ前記レーザー光の照射を継続し、前記脱気孔において前記他部の貫設を再開する第二工程と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
開示の穿孔方法および穿孔装置によれば、穿孔作業時間を短縮することができる。
もう一つの開示の穿孔方法によれば、穿孔加工精度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第一実施形態の穿孔方法により穿孔される基材の一部を示す概略図である。
【
図2】第一実施形態に係る穿孔装置の概略図である。
【
図3】
図1の基材上に
図2の穿孔装置が備える遮蔽部材が配置された状態をレーザー光が照射される方向から視た模式図である。
【
図4】第一実施形態の穿孔方法の各工程が実施される期間を示す表である。
【
図5】第一実施形態の変形例に係る穿孔方法により穿孔される基材の一部に遮蔽部材が配置された状態をレーザ光が照射される方向から視た模式図である。
【
図6】第二実施形態の穿孔方法により穿孔される基材の一部を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、実施形態としての穿孔方法および穿孔装置について説明する。この実施形態はあくまでも例示にすぎず、下記の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、必要に応じて取捨選択でき、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0012】
本実施形態の穿孔方法および穿孔装置により穿孔(加工)される基材(被加工物)は、例えば、食品用容器の脱気孔付き蓋として製造される半製品である。この基材は、レーザー光により穿孔可能な程度の板厚を有する。基材に用いられる材質としては、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレン,ポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)などの熱可塑性樹脂シートが挙げられる。
【0013】
[I.第一実施形態]
以下に述べる一実施形態では、項目[1]で構成を説明し、その後の項目[2]で項目[1]の構成による作用および効果を説明し、項目[3]で[1]の構成の変形例を述べる。
[1.構成]
本項目[1]では、穿孔対象の基材を小項目[1-1]で説明し、それから、小項目[1-2]で穿孔装置を説明する。そして、小項目[1-3]で穿孔方法を説明する。
【0014】
[1-1.基材]
図1に示すように、基材1の一部には、基材1を貫通する複数の脱気孔(孔)2が設けられる。複数の脱気孔2は、食品用容器に収容された食品を電子レンジなどにより加熱する際に発生する蒸気を抜くために設けられる。
【0015】
複数の脱気孔2は、一筆書きの線状(開いた形状)に延在する所定領域R(
図1のドット塗りの領域および格子塗りの領域)のうち、断続的に設けられた断続領域RA(
図1のドット塗りの領域)に設けられる。所定領域Rは、後述する穿孔装置10のレーザー光照射装置11からレーザー光が照射される方向と交差する領域である。この所定領域Rは、移動するレーザー光の照射目標となる位置に延在する領域とも言える。所定領域R上では、複数の脱気孔2のそれぞれが貫設される断続領域RAと、断続領域RAに隣接する間欠領域RB(
図1の格子塗りの領域)とが交互に並び、領域RA,RBのそれぞれが線状に延在している。
【0016】
本実施形態では、基材1上における任意の中心位置1cから旋回するに連れて遠ざかるような渦巻状の所定領域Rを例示する。ここで例示する所定領域Rは、21個の断続領域RAと、それぞれの断続領域RAの両側に隣接する22個の間欠領域RBと、を有する。すなわち、この所定領域Rでは、端部にある二つの領域端Erがいずれも間欠領域RBに含まれる。また、21個の断続領域RAのぞれぞれは、所定領域R上において隣り合う断続領域RA同士が所定の間隔をあけて、且つ、中心位置1cから離れた断続領域RAほど貫設される脱気孔2の長径が長くなるように設定される。
【0017】
脱気孔2の長径は、2.0~20.0mmの範囲内であることが好ましい。また、脱気孔2の短径は、0.2~1.0mmの範囲内であることが好ましい。ここでいう「長径」とは、脱気孔2における長手方向の寸法であり、具体的には渦巻状の周方向寸法(いわば孔の太さ)である。また、「短径」とは、脱気孔2における短手方向の寸法であり、中心位置1cから放射状に延びる方向の寸法(いわば径方向寸法)である。
脱気孔2の寸法が上記のような数値範囲内に設定されることで、食品用容器内に異物が混入しにくく、加熱時に発生する蒸気を適切に脱気可能な食品用容器の蓋を提供することができる。
上記のように構成される基材1の脱気孔2は、つぎに説明する穿孔装置10によって穿設される。
【0018】
[1-2.穿孔装置]
図2に示すように、穿孔装置10には、レーザー光を基材1に照射するレーザー光照射装置11(以下、「照射装置11」ともいう)と基材1へのレーザー光の照射を遮蔽する遮蔽部材12とが設けられている。さらに、穿孔装置10には、照射中に基材1の位置を固定する固定部材13と穿孔される基材1を順繰りに搬送するコンベア機構14とが設けられている。
【0019】
照射装置11は、レーザー光を発生させるレーザー光源11aと、レーザー光源11aで発生したレーザー光の照射位置を移動させる調整機構11bと、レーザー光源11aおよび調整機構11bを制御する制御部11cとを備える。
【0020】
レーザー光源11aには、周知のレーザー発振器が用いられる。レーザー光源11aにより出力されるレーザー光の種別としては、たとえば、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、半導体レーザー、アルゴンレーザーなどが挙げられる。
【0021】
レーザー光源11aから出力されたレーザー光は、調整機構11bによりその照射経路(軌道)が調整されて、任意の照射位置まで導かれる。
図2では、レーザー光の照射経路を破線の矢印で示す。この調整機構11bには、レーザー光を反射するミラーが設けられ、ミラーの位置や角度を動かすアクチュエータも設けられている。調整機構11bは、制御部11cより受信した信号に応じて、ミラーの位置や傾きを動かすことでレーザー光を照射位置へ反射させて、レーザー光の照射位置を移動させる。
【0022】
制御部11cは、例えば、マイクロプロセッサやROM,RAMなどを集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成された電子制御装置(Electronic Control Unit)である。
【0023】
制御部11cには、予め所定領域Rの情報およびレーザー光の移動経路が記憶されている。制御部11cは、所定領域Rをなぞるように所定領域Rへ向けた状態で移動させるレーザー光の照射を継続するように、レーザー光源11aによるレーザー光の出力のON/OFF、および、レーザー光の照射位置を制御する。言い換えれば、制御部11cは、記憶された移動経路上をレーザー光が走査するように調整装置11bを制御するとともに、記憶された移動経路上をレーザー光が走査している間にレーザー光の出力がOFFとならないようにレーザー光源11aを制御する。
【0024】
本実施形態で例示する制御部11cは、脱気孔2を確実に穿設する観点から、所定領域Rを一方から他方へ(一方向に)なぞるように移動させたあと、レーザー光の照射を継続したまま、所定領域Rを他方から一方へ(他方向に)なぞるように移動させるように調整機構11bを制御する。
【0025】
このように所定領域Rに沿ってレーザー光を往復動させる(いわば二度書きする)制御部11cは、所定領域Rの領域端Erのうち中心位置2cに近い始端ESr(
図1参照)から、始端ESrよりも中心位置1cから離れた終端EEr(
図1参照)に向かってレーザー光の照射位置を移動(往動)させたあと、終端EErから始端ESrに向かってレーザー光の照射位置を移動(復動)させるように調整機構11bを制御する。
【0026】
遮蔽部材12は、基材1に対するレーザー光の照射を部分的に遮蔽する部材であって、例えば、アルミ製の板状部材が挙げられる。遮蔽部材12の配置は、照射装置11と基材1との間、すなわち、上述のレーザー光の照射経路上に設けられる。ここで例説する遮蔽部材12は、レーザー光が基材1に照射される範囲の精度を向上させるために、レーザー光が基材1へ照射されているときに基材1の表面1fに対して接触した状態あるいは近接した状態に配置される。このように遮蔽部材12が配置されることで、基材1と遮蔽部材12との間にレーザー光が照射されることを防止または抑制することができ、断続領域RAへ照射されるレーザー光が遮蔽部材12で遮蔽されるのを防止または抑制することができる。
【0027】
遮蔽部材12は、基材1に対するレーザー光の照射方向視で上述の間欠領域RBのすべてに重なるような形状かつ配置に設けられ、上述の断続領域RAのすべてと重ならないような形状かつ配置に設けられている。
ここでは、所定の幅Wを有する8本の矩形の板状部材が中心位置12cを中心に放射状に広がった形状の遮蔽部材12を例示する。この遮蔽部材12は、遮蔽部材12の中心位置12cが基材1の中心位置1cに重なるように基材1の表面1f上に配置されたときに、
図3に示すように、すべての間欠領域RBを覆う。これにより、遮蔽部材12は、間欠領域RBへ照射されるレーザー光を遮蔽する。一方で、遮蔽部材12は、照射装置11により断続領域RAに照射されるレーザー光は遮蔽しないため、断続領域RAには照射装置11により照射されたレーザー光によって脱気孔2が穿設される。
【0028】
固定装置13は、照射装置11により照射されるレーザー光が届く範囲の位置である加工位置に搬送された基材1をレーザー光の照射中に動かないように固定する部材である。固定装置13は、例えば、
図2に示すように、搬送装置14により加工位置まで搬送された基材1を搬送装置14とともに挟むことで基材1の位置を固定する。なお、上述の遮蔽部材12は、固定装置13と一体に構成されてもよく、固定装置13に固定されていてもよい。
搬送装置14は、一列に並べられた複数の基材1を準繰りに加工位置まで搬送する装置であって、周知のコンベア機構などが用いられる。
【0029】
[1-3.加工方法]
つぎに、上述した穿孔装置10による穿孔方法を述べる。
この穿孔方法では、照射装置11によってシリーズ工程が実施されるとともに、遮蔽部材12によってマスク工程が断続的に実施される。さらに、シリーズ工程では、所定領域Rを一方から他方へなぞるように移動させる往工程と、所定領域Rを他方から一方へなぞるように移動させる復工程とが実施される。
【0030】
シリーズ工程は、所定領域Rへ向けて、所定領域Rをなぞるように移動させるレーザー光の照射を継続する工程である。このシリーズ工程では、遮蔽部材12によりレーザー光の照射が遮蔽されない領域である断続領域RAに脱気孔2が形成される。
【0031】
往工程は、始端ESr(
図1参照)から、終端EEr(
図1参照)に向かってレーザー光の照射位置を移動させる工程である。復工程は、往工程の直後に実施される工程であり、終端EErから始端ESrに向かってレーザー光の照射位置を移動させる工程である。なお、往工程から復工程に遷移する際にも、レーザー光の照射は継続される。
【0032】
マスク工程は、間欠領域RBへ照射されるレーザー光のみを遮蔽部材12により遮蔽する工程である。換言すれば、シリーズ工程において断続領域RAに照射されるレーザー光は遮蔽せずに、間欠領域RBへ照射されるレーザー光を遮蔽部材12により遮蔽する工程がマスク工程である。シリーズ工程において断続領域RAに照射されるレーザー光は遮蔽しない工程を非マスク工程と称すれば、マスク工程と非マスク工程とが交互に実施されることになる。
【0033】
マスク工程から非マスク工程に移行するときには、断続領域RAに照射されていたレーザー光が遮蔽部材12の端縁を跨いでから、間欠領域RBへ向けて照射されたレーザー光が遮蔽部材12で遮蔽される。反対に、非マスク工程からマスク工程に移行するときには、遮蔽領域RBへ向けて照射されていたレーザー光が遮蔽部材12の端縁を跨いでから断続領域RAにレーザー光が照射される。ここでいう「マスク工程から非マスク工程への移行時に跨ぐ端縁」と「非マスク工程からマスク工程への移行時に跨ぐ端縁」とは、互いに異なる箇所であり、本実施形態の例では間欠領域RBの両端に対応する位置である。
【0034】
このマスク工程には、照射開始時または照射終了時のレーザー光の遮蔽を実施する領域端部マスク工程が含まれる。本実施形態では、照射開始時および照射終了時の双方で領域端部マスク工程が実施される。
【0035】
上述の各工程が実施される期間を
図4に示す。本実施形態の穿孔方法では、
図4に示す期間に各工程が実施されて、基材1に複数の脱気孔2が形成される。なお、
図4では、往工程および復工程の実施期間の一部を省略しているが、この期間にもレーザー光の照射は継続されている。
【0036】
[2.作用および効果]
本実施形態の穿孔装置10および穿孔方法は、上述のように構成されるため、以下のような作用および効果を得ることができる。
【0037】
所定領域Rをなぞるように移動させるレーザー光の照射を継続するシリーズ工程が実施されている間に、断続的にマスク工程が実施されることにより、レーザー光の出力のON/OFFを繰り返すことなく、一筆書きで、基材1に複数の脱気孔2を形成することができる。したがって、各孔を穿設するごとに要するレーザー光の出力準備期間を省略することができるため、穿孔作業時間を短縮することができる。
【0038】
言い換えれば、穿孔装置10は、所定領域Rをなぞるように移動させるレーザー光の照射を継続する照射装置11を備えるとともに、間欠領域RBを覆う遮蔽部材12を備えることで、レーザー光の出力のON/OFFを繰り返すことなく、一筆書きで、基材1に複数の脱気孔2を形成することができ、穿孔作業時間を短縮することができる。
【0039】
マスク工程が、照射開始時または照射終了時のレーザー光を遮蔽する領域端マスク工程を有することで、最初または最後に穿設される脱気孔の形状を安定させることができる。特に、照射開始時のレーザー光を遮蔽する領域端マスク工程が実施されることで、レーザー光の出力を安定させてから、断続領域RAにおける脱気孔2の穿設を実施することができるため、脱気孔の形状を安定させることができる。
【0040】
シリーズ工程は、所定領域Rを一方から他方へなぞるように移動させる往工程と、所定領域Rを他方から前記一方へなぞるように移動させる復工程と、を有することで、脱気孔2の穿設を確実にすることができる。言い換えれば、本実施形態の穿孔方法では、所定領域Rにおいて二度の穿孔と二度のレーザー光の遮蔽とが、レーザー光の照射が継続されたまま実施されることで、穿孔作業時間を抑えつつ、脱気孔2の穿設を確実にすることができる。
【0041】
特に、レーザー光の移動経路の開始位置と終了位置とが異なる場合において、二回同じ移動経路に沿ってレーザー光を走査させると、二回目の走査を開始するための位置決め時間およびレーザー光の出力準備時間を必要となる。これに対して、本実施形態の穿孔方法では、二回目の走査を開始するための位置決め時間およびレーザー光の出力準備時間が不要となるため、加工時間をさらに短縮することができる。
【0042】
[3.変形例]
上述の穿孔装置10および穿孔方法は一例である。上述の穿孔方法では、基材1における渦巻状の所定領域R上に断続的に設けられる脱気孔2を穿設する方法を例示したが、所定領域Rの形状はこれに限らない。
【0043】
たとえば、
図5に示すように、基材1′に規定される所定領域R′は、多角形状(閉じた形状)であってもよい。
図5の例では、星形の多角形状における頂角をなす部分を断続領域RA′(
図5の一点鎖線の領域)として、断続領域RA′に隣接する間欠領域RB′(
図5の破線の領域)と、が線状に延在して交互に並ぶ。この場合の遮蔽部材12′には、円板状の部材を採用可能である。
【0044】
[II.第二実施形態]
上述の第一実施形態では、複数の脱気孔を形成する穿孔方法を例示したが、第二実施形態では、単一の脱気孔を形成する際に加工時間の短縮を図る穿孔方法を説明する。なお、第二実施形態の穿孔方法は、第一実施形態の穿孔方法で穿設される脱気孔の少なくとも一つを穿設するときに組み合わせて用いることができる。
【0045】
図6に示すように、基材1Xの一部には、基材1Xを貫通する脱気孔2Xが一つ設けられる。この脱気孔2Xは、屈曲部を有する「く」の字状の長孔であり、この脱気孔2Xにより、基材1Xには尖った角部が形成される。脱気孔2Xは、脱気孔2Xの一端側の端部と屈曲部とを含む一端側の一部21X、および、脱気孔2Xの他端側の端部と屈曲部とを含む他端側の部分であって一部21Xに接続する他部22Xを有する。
【0046】
基材1Xには、脱気孔2Xにおける一端側の一部21Xとして貫設される一端側領域RC1(
図6の横線ハッチングの領域)が規定されている。また、基材1Xには、他端側の他部22Xとして貫設される他端側領域RC2(
図6の縦線ハッチングの領域)が規定されている。一端側領域RC1および他端側領域RC2は、いずれもレーザー光が照射される方向と交差する領域であり、移動するレーザー光の照射目標となる位置(目標照射位置)に延在する領域とも言える。一端側領域RC1および他端側領域RC2は、一端側領域RC1の一端側とは反対側の領域端Erc1(末端部)と、他端側領域RCの他端側とは反対側の領域端Erc2(末端部)とが同位置となるように規定される。
【0047】
さらに、基材1Xには、領域端Erc1,Erc2に隣接するとともに面状に延在するポーズ領域RD(
図6のドット塗りの領域)が規定されている。ポーズ領域RDは、レーザー光が照射される方向と交差する領域であり、目標照射位置に延在する領域である。このポーズ領域RDは、一端側領域RC1および他端側領域RC2のいずれにも重ならず、これらの端側領域RC1,RC2と間をあけずに隣り合う領域に位置する。脱気孔2Xが穿設される際に、ポーズ領域RD上には、レーザー光を遮蔽する遮蔽部材が配置される。遮蔽部材は、ポーズ領域RDと基材1X上の他の領域との境界に沿って延在する端縁を有し、且つ、ポーズ領域RDを覆うことが可能な部材であれば、その形状は特に限定されない。たとえば、遮蔽部材には、上述の一実施形態の遮蔽部材12が適用されてもよい。
【0048】
本実施形態の穿孔方法では、一端側領域RC1,ポーズ領域RDおよび他端側領域RC2上をこの順で一筆書き状にレーザー光が照射されることで、脱気孔2Xが穿設される。
この穿孔方法では、一端側領域RC1に脱気孔2Xの一部21Xを貫設する第一工程と、ポーズ領域RDへ照射されたレーザー光を遮蔽して脱気孔2Xの貫設を中断するポーズ工程と、一端側領域RC2に脱気孔2Xの他部22Xを貫設する第二工程と、がこの順で実施される。
【0049】
第一工程は、一端側領域RC1に向けてレーザー光を一端側領域RC1の一端側から領域端Erc1,Erc2側へ移動させて、一端側領域RC1に脱気孔2Xの一部21Xを貫設する工程である。
ポーズ工程は、遮蔽部材の端縁の一箇所を跨いて移動させつつレーザー光の照射を継続し、ポーズ領域RDへ照射されたレーザー光を遮蔽部材で遮蔽して、脱気孔2Xの貫設を中断する工程である。ここで、「遮蔽部材の端縁の一箇所」とは、遮蔽部材の端縁のうち領域端Erc1,Erc2に隣接する箇所である。また、ここでいう「隣接」とは、レーザー光の照射方向視で、遮蔽部材の端縁と領域端Erc1,Erc2とが間をあけずに隣り合うことを意味する。
上述の通り、ポーズ領域RDは、一端側領域RC1および他端側領域RC2の双方に重ならない。したがって、ポーズ工程では、一端側領域RC1や他端領域RC2に照射されるレーザー光が遮蔽されない。ポーズ工程において、レーザー光は、例えば、
図6に破線の矢印で示すような経路、すなわち、領域端Erc1,Erc2を出発してから涙型を描くように移動して当該領域端Erc1,Erc2に戻る経路をたどる。
第二工程は、ポーズ工程の後に実施される工程である。第二工程は、他端側領域RC2に向けてポーズ領域RDから遮蔽部材の一箇所を跨いで移動させつつレーザー光の照射を継続し、脱気孔2Xの他部22Xの貫設を再開する工程である。
【0050】
以下、本実施形態の穿孔方法の作用および効果を説明する。
上述のような、くの字状の脱気孔を穿設する場合、くの字状の脱気孔の形状に沿ってレーザー光の照射中に屈曲部でレーザー光の経路方向を変えることで、一度に穿孔する方法が考えられる。しかし、この場合、レーザー光の経路方向を変えている間に基材にレーザー光が過度に照射されたり、レーザー光の経路方向を変えながら屈曲部を形成することで屈曲部が丸くなってしまったりするため、綺麗な屈曲部が形成できない。
【0051】
また、脱気孔の一部を一端側から穿設したあと、一度レーザー光の照射を停止させて、レーザー光の照射位置を移動させてから、他部を他端側から穿設する方法も考えられる。しかし、この場合、一部と他部とを綺麗に接続することが難しく、したがって穿孔加工精度を確保することが困難となる。さらに、脱気孔の各部のそれぞれを穿設するために都度レーザー光出力準備時間を都度要するとともに、レーザー光の照射停止中にレーザー光の照射位置を移動させる時間も要するため、穿孔作業時間が長引きうる。
【0052】
これに対して、本実施形態の穿孔方法では、レーザーの照射が継続されたまま、一端側領域RC1に一部21Xを貫設する第一工程と、ポーズ領域RDへ照射されたレーザー光を遮蔽して脱気孔2Xの貫設を中断するポーズ工程と、他部22Xの貫設を再開する第二工程と、がこの順で実施されることから、レーザー光の出力のON/OFFを繰り返すことなく、一筆書きで、基材1にくの字状の脱気孔2Xを形成することができる。したがって、脱気孔2Xの各部21X,22Xを穿設するために都度要するレーザー光の出力準備期間、あるいは、レーザー光の照射停止中にレーザー光の照射位置を移動させる時間を短縮することができるため、穿孔作業時間を短縮することができる。また、ポーズ工程を経ることによって、レーザー光の経路方向を修正してから、ポーズ工程の実施開始時と同じ箇所を跨ぎ、他部22Xの貫設を再開することができるため、綺麗な脱気孔2Xを形成することができ、穿孔加工精度を確保することができる。
【符号の説明】
【0053】
1,1′,1X 基材
1c 中心位置
1f 表面
2,2X 脱気孔
10 穿孔装置
11 レーザー照射装置(照射装置)
11a レーザー光源
11b 調整機構
11c 制御部
12,12′ 遮蔽部材
12c 中心位置
13 固定部材
14 コンベア機構
21X 一部(一端側の一部)
22X 他部(他端側の他部)
Er 領域端
Erc1,Erc2 領域端(末端部)
EEr 終端
ESr 始端
R,R′ 所定領域
RA,RA′ 断続領域
RB,RB′ 間欠領域
RC1 一端側領域
RC2 他端側領域
RD ポーズ領域