(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】分取液体クロマトグラフ
(51)【国際特許分類】
G01N 30/80 20060101AFI20240723BHJP
G01N 30/78 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
G01N30/80 F
G01N30/80 E
G01N30/78
(21)【出願番号】P 2021064133
(22)【出願日】2021-04-05
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110003993
【氏名又は名称】弁理士法人野口新生特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】上田 史織
(72)【発明者】
【氏名】舎川 知広
(72)【発明者】
【氏名】玉置 宗一朗
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-045263(JP,A)
【文献】特開平04-326058(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163276(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離カラムと、
前記分離カラムに通じる流路を流れる移動相中に試料を注入するインジェクタと、
前記分離カラムの下流にそれぞれ流体接続され、前記分離カラムで分離された試料中の成分に由来する互いに異なる複数の検出器信号を生成する少なくとも1つの検出器と、
前記分離カラムからの溶出液のうち前記分離カラムで分離された成分を含む部分を個別の捕集容器に分画して捕集するためのフラクションコレクタと、
前記複数の検出器信号のそれぞれに基づく複数のクロマトグラムにおいて成分ピークを検出し、その検出結果に基づいて前記フラクションコレクタの動作を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは
、1つのクロマトグラムにおい
て成分ピークとして検出されている部分
のうち、
他のクロマトグラ
ムにおいても成分ピークとして検出されている部分と
、他のクロマトグラムにおいては成分ピークとして検出されていない部分とを、互いに異なる捕集容器に分けて捕集する細分化捕集を実行するように構成された細分化捕集部を備えている、分取液体クロマトグラフ。
【請求項2】
前記コントローラの前記細分化捕集部は、前記複数のクロマトグラムのいずれかにおいて成分ピークが検出されてから前記複数のクロマトグラムのいずれにおいても成分ピークが検出されなくなるまでの間において、前記複数のクロマトグラムにおける成分ピークの検出状態が変化するたびに前記フラクションコレクタにおいて使用する捕集容器を新たなものに変更するように構成されている、請求項1に記載の分取液体クロマトグラフ。
【請求項3】
前記少なくとも1つの検出器が、互いに異なる検出方式によりそれぞれの検出器信号を生成する複数の検出器を含む、請求項1又は2に記載の分取液体クロマトグラフ。
【請求項4】
前記コントローラは、前記細分化捕集部の機能の有効/無効の切替えを行なうことができるように構成されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の分取液体クロマトグラフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分取液体クロマトグラフに関する。
【背景技術】
【0002】
高速液体クロマトグラフなどのクロマトグラフ装置を利用して、試料に含まれる複数の成分を分離し、各成分を分画して捕集する分取クロマトグラフ装置が知られている。分取液体クロマトグラフは、送液ポンプや分離カラムを有する試料分離部と、その後段に設けられた検出器、フラクションコレクタ、及びこれらを制御するコントローラを備えている。分離カラムによって時間的に分離された試料中の成分は、分光光度計などの検出器により生成される検出器信号に基づくクロマトグラムにおいてピークとして検出される。コントローラは、分離カラムからの溶出液のうちクロマトグラムにおいてピークとして検出された成分を含む部分が個別の捕集容器に捕集されるようにフラクションコレクタの動作を制御する。
【0003】
ところで、分取液体クロマトグラフでは、互いに検出方式の異なる複数の検出器を併用して複数の検出器信号を取得し、それらの検出器信号に基づく複数のクロマトグラムに基づいて成分の分取を行なうことがある(特許文献1参照)。また、1つの検出器で複数の検出器信号を取得し、それらの検出器信号に基づく複数のクロマトグラムに基づいて成分の分取を行なうこともある。複数の検出器信号を併用することによって、1つの検出器信号のみでは検出しきれない成分を補完的に検出することができ、検出精度の向上が図られ、成分の捕集漏れを防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の検出器信号に基づいて成分の分取を行なう分取液体クロマトグラフでは、すべての検出器信号のクロマトグラムにおいてピークとして検出された部分のみを個別の捕集容器に捕集する“AND”条件での分取方法のほかに、いずれかの検出器信号のクロマトグラムにおいてピークとして検出された部分のすべてをそれぞれ個別の捕集容器に捕集する“OR”条件での分取方法を実行することができる。しかし、これらの分取方法では、互いのピークの一部が重複している複数の成分の高純度の分取を十分に行なうことができない場合もある。
【0006】
そこで、本発明は、ピークが他の成分のピークと部分的に重複している成分を高純度で分取することができる分取液体クロマトグラフを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る分取液体クロマトグラフは、分離カラムと、前記分離カラムに通じる流路を流れる移動相中に試料を注入するインジェクタと、前記分離カラムの下流にそれぞれ流体接続され、前記分離カラムで分離された試料中の成分に由来する互いに異なる複数の検出器信号を生成する少なくとも1つの検出器と、前記分離カラムからの溶出液のうち前記分離カラムで分離された成分を含む部分を個別の捕集容器に分画して捕集するためのフラクションコレクタと、前記複数の検出器信号のそれぞれに基づく複数のクロマトグラムにおいて成分ピークを検出し、その検出結果に基づいて前記フラクションコレクタの動作を制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記複数のクロマトグラムのうちの1つのクロマトグラムにおいてのみ成分ピークとして検出されている部分と、前記複数のクロマトグラムのいずれにおいても成分ピークとして検出されている部分とを、互いに異なる捕集容器に分けて捕集するように構成された細分化捕集部を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る分取液体クロマトグラフでは、複数の検出器信号のそれぞれに基づく複数のクロマトグラムのうちの1つのクロマトグラムにおいてのみ成分ピークとして検出されている部分と、複数のクロマトグラムのいずれにおいても成分ピークとして検出されている部分とを、互いに異なる捕集容器に分けて捕集することができるので、ピークの一部が他の成分のピークと重なっている成分が存在する場合に、他の成分のピークと重なっていない純度の高い部分を個別の容器に捕集することができる。したがって、ピークが他の成分のピークと部分的に重複している場合に、他の成分のピークと重複していない部分の成分を高純度で分取することが可能な分取液体クロマトグラフが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】分取液体クロマトグラフの一実施例を示す概略構成図である。
【
図2】同実施例における2つの検出器の検出信号に基づくクロマトグラムと成分ピークの検出状態の一例を示すグラフである。
【
図3】同実施例の分取動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る分取液体クロマトグラフの一実施例について、図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1に示されているように、この実施例の分取液体クロマトグラフは、送液ポンプ2、インジェクタ4、分離カラム6、複数の検出器8,10、フラクションコレクタ12及びコントローラ14を備えている。なお、この実施例では、第1検出器8及び第2検出器10の2台の検出器が設けられているが、本発明はこれに限定されるものではなく、互いに異なる複数の検出器信号が得られる構成であればどのような構成であってもよい。例えば、1台で互いに異なる複数の検出器信号を生成可能な検出器が1台のみ設けられていてもよいし、3台以上の検出器が設けられていてもよい。
【0012】
送液ポンプ2は流路16を通じて分離カラム6へ移動相を送液する。インジェクタ4は、流路16を流れる移動相中に試料を注入する。試料中の成分は分離カラム6において互いに分離される。分離カラム6の下流の流路18はスプリッタ20に通じている。スプリッタ20は、分離カラム6からの溶出液を、所定の比率で第1検出器8へ通じる流路22と第2検出器10へ通じる流路24へ分流する。第1検出器8の下流にフラクションコレクタ12が設けられている。分離カラム6からの溶出液からの大部分は、流路22を通じて第1検出器8及びフラクションコレクタ12へ導入される。
【0013】
第1検出器8と第2検出器10は検出方式が互いに異なる検出器であり、分離カラム6からの溶出液中の成分に由来する検出器信号として、互いに異なる信号を生成する。第1検出器8は、例えばUV検出器であり、第2検出器10は、例えば質量分析計である。フラクションコレクタ12は、分離カラム6からの溶出液のうち分離カラム6で分離された成分を含む部分を個別の捕集容器に分画して捕集するための装置である。
【0014】
コントローラ14は、CPU(中央演算装置)及び情報記憶装置を備えた1又は複数のコンピュータ装置によって実現することができる。コントローラ14は、第1検出器8及び第2検出器10により生成された検出器信号のそれぞれに基づいて2つのクロマトグラムを作成し、各クロマトグラムにおいて成分ピークを検出し、分離カラム6からの溶出液のうちピークとして検出した成分を含む部分が個別の捕集容器に捕集されるようにフラクションコレクタ12の動作を制御する。
【0015】
各クロマトグラムにおけるピークの検出条件(レベル、スロープ等)はユーザが任意にコントローラ14に対して設定することができる。また、いずれかのクロマトグラムで検出されたピークをすべて捕集するか(条件:OR)、いずれのクロマトグラムにおいても検出されているピーク部分のみを捕集するか(条件:AND)といった捕集条件も、ユーザがコントローラ14に対して設定できるようになっていてもよい。
【0016】
図2に、第1検出器8の検出器信号に基づくクロマトグラムと第2検出器10の検出器信号に基づくクロマトグラムの一例を示す。
図2において2つのクロマトグラムの時間軸(横軸)は一致している。各クロマトグラムの下に、ピークが検出されていないときの検出状態=0、ピークが検出されているときの検出状態=1としたときの各クロマトグラムにおけるピークの検出状態が示されている。この例では、信号レベルのしきい値を用いて各クロマトグラムにおけるピークを検出している。
【0017】
図2において、(1)~(4)の部分における各クロマトグラムでのピークの検出状態(第1検出器のピーク検出状態,第2検出器のピーク検出状態)はそれぞれ、(1,0)、(1,0)、(1,1),(1,0)となっている。(2)~(4)の部分に着目すると、(3)の部分では2つの成分が重なって存在しており、(2)及び(4)の部分では単一の成分のみが存在していると考えられる。捕集条件を“AND”にした場合、検出状態が(1,1)である(3)の部分のみが捕集容器に捕集されることになり、捕集条件を“OR”にすると、(1)の部分が捕集容器に捕集され、(2)~(4)の部分がまとめて1つの捕集容器に捕集されることになる。このように、捕集条件を単純に“AND”、“OR”としただけでは、第1検出器8のクロマトグラムにおいて(2)~(4)の部分にピークとして表れている成分のうち他の成分と混合されていない部分、すなわち、(2)、(4)の部分を(3)の部分と分けて捕集することができない。
【0018】
コントローラ14は、
図2のようなクロマトグラムにおいて、(2)、(3)及び(4)の各部分を個別の捕集容器に捕集するための細分化捕集部26を備えている。細分化捕集部26は、CPUが所定のプログラムを実行することによって得られる機能である。細分化捕集部26は、第1検出器8のクロマトグラムと第2検出器10のクロマトグラムのいずれか一方のみでピークが検出されている部分と、第1検出器8のクロマトグラムと第2検出器10のクロマトグラムの両方でピークが検出されている部分とを、例えば、ピークの検出状態の変化をトリガーとして捕集に使用する捕集容器を新たなものに変更することによって、互いに異なる捕集容器に捕集する細分化捕集を実行する。細分化捕集部26による細分化捕集機能は、ユーザが任意に有効/無効を切り替えることができるようになっていてもよい。
【0019】
細分化捕集部26による細分化捕集機能が有効である場合の分取動作の一例について、
図1とともに
図3のフローチャートを用いて説明する。
【0020】
インジェクタ4によって移動相中に試料が注入されて分取が開始されると、コントローラ14は、第1検出器8及び第2検出器10のそれぞれにより生成された検出器信号に基づくクロマトグラムにおける成分ピークの検出状態を監視する(ステップ101)。少なくともいずれか一方のクロマトグラムにおいて成分ピークが検出された場合(ステップ101:Yes)、コントローラ14は、ピークとして検出された成分が捕集容器に捕集されるようにフラクションコレクタ12を制御する(ステップ102、103)。
【0021】
上記の捕集動作が終了する前にピークの検出状態が変化した場合(ステップ105)、細分化捕集部26は、捕集に使用する捕集容器が新たなものに変更されるようにフラクションコレクタ12を制御する(ステップ106)。
図2の例で説明すれば、(2)の部分から(3)の部分へ遷移して検出状態が(1,0)から(1,1)に変化したときに、さらには、(3)の部分から(4)の部分へ遷移して検出状態が(1,1)から(1,0)に変化したときに、細分化捕集部26が検出状態の変化を検知し、フラクションコレクタ12に制御信号を送信して捕集に使用する捕集容器を新たな容器へ変更させる。これにより、
図2の例では、(2)、(3)及び(4)の部分がそれぞれ別々の捕集容器に捕集される。なお、捕集に使用する捕集容器を新たな容器へ変更するとは、分離カラム6からの溶出液を滴下させるプローブを別の捕集容器上の位置へ移動させることを意味する。
【0022】
ピーク成分の捕集動作は、いずれのクロマトグラムにおいてもピークが検出されなくなったとき、すなわち、検出状態が(0,0)になったときに終了する(ステップ104)。上記のステップ101~106を繰り返し実行し、分取動作が開始されてから予め設定された時間が経過した場合など、所定の終了条件が満たされたときに分取動作を終了する(ステップ107)。
【0023】
上記のように、細分化捕集部26による細分化捕集機能を使用すれば、互いに異なる複数の検出器信号に基づく複数のクロマトグラムにおいて検出されるピーク同士が部分的に重複している場合に、互いのピークが重複していない部分と重複している部分とを別々の捕集容器に分けて捕集されるので、ピークとして検出された成分のうち他の成分のピークと重複していない純度の高い部分を個別の捕集容器に捕集することができる。
【0024】
なお、以上において説明した実施例は、本発明に係る分取液体クロマトグラフの実施形態の一例を示したに過ぎない。本発明に係る分取液体クロマトグラフの実施形態は以下に示すとおりである。
【0025】
本発明に係る分取液体クロマトグラフの一実施形態では、分離カラムと、前記分離カラムに通じる流路を流れる移動相中に試料を注入するインジェクタと、前記分離カラムの下流にそれぞれ流体接続され、前記分離カラムで分離された試料中の成分に由来する互いに異なる複数の検出器信号を生成する少なくとも1つの検出器と、前記分離カラムからの溶出液のうち前記分離カラムで分離された成分を含む部分を個別の捕集容器に分画して捕集するためのフラクションコレクタと、前記複数の検出器信号のそれぞれに基づく複数のクロマトグラムにおいて成分ピークを検出し、その検出結果に基づいて前記フラクションコレクタの動作を制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記複数のクロマトグラムのうちの1つのクロマトグラムにおいてのみ成分ピークとして検出されている部分と、前記複数のクロマトグラムのいずれにおいても成分ピークとして検出されている部分とを、互いに異なる捕集容器に分けて捕集する細分化捕集を実行するように構成された細分化捕集部を備えている。
【0026】
上記一実施形態の第1態様では、前記コントローラの前記細分化捕集部は、前記複数のクロマトグラムのいずれかにおいて成分ピークが検出されてから前記複数のクロマトグラムのいずれにおいても成分ピークが検出されなくなるまでの間において、前記複数のクロマトグラムにおける成分ピークの検出状態が変化するたびに前記フラクションコレクタにおいて使用する捕集容器を新たなものに変更するように構成されている。
【0027】
上記一実施形態の第2態様では、前記少なくとも1つの検出器が、互いに異なる検出方式によりそれぞれの検出器信号を生成する複数の検出器を含む。
【0028】
上記一実施形態の第3態様では、前記コントローラは、前記細分化捕集部の機能の有効/無効の切替えを行なうことができるように構成されている。このような態様により、ユーザによる分取条件の設定の自由度が高くなる。
【符号の説明】
【0029】
2 送液ポンプ
4 インジェクタ
6 分離カラム
8 第1検出器
10 第2検出器
12 フラクションコレクタ
14 コントローラ
16,18,22,24 流路
20 スプリッタ
26 細分化捕集部