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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】ロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/276 20220101AFI20240723BHJP
   H02K 15/02 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
H02K1/276
H02K15/02 K
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021069555
(22)【出願日】2021-04-16
(65)【公開番号】P2022164213
(43)【公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武島 健太
(72)【発明者】
【氏名】山本 啓史
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-192222(JP,A)
【文献】特開2021-083289(JP,A)
【文献】特開平9-285079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/276
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータの製造方法であって、
複数の金属板が積層された積層体によって構成されたロータコアに磁石と熱可塑性樹脂を配置する工程であって、前記ロータコアに前記積層体の積層方向に沿って伸びる孔または溝によって構成された磁石固定部が設けられており、前記磁石と前記熱可塑性樹脂を前記磁石固定部内に配置する工程と、
前記ロータコアの中心軸が鉛直方向に対して交差している状態で、前記ロータコアを前記中心軸周りに回転させながら加熱する工程と、
前記中心軸が鉛直方向に対して交差している状態で、前記ロータコアを前記中心軸周りに回転させながら冷却することによって、前記磁石を前記熱可塑性樹脂を介して前記ロータコアに固定する工程と、
を有する製造方法。
【請求項2】
前記ロータコアを加熱する前記工程では、前記ロータコアの温度を、前記熱可塑性樹脂の軟化温度よりも高い温度に制御する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ロータコアを加熱する前記工程では、前記ロータコアの温度を、前記熱可塑性樹脂の前記軟化温度に対して50℃高い温度よりも低い温度に制御する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記磁石固定部の内面に、複数の前記金属板の境界に沿って伸びる凹部が設けられている、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、ロータの製造方法に関する。
【0002】
特許文献1に開示のロータの製造方法では、ロータコアに磁石を固定する工程を有する。ロータコアは、複数の金属板が積層された積層体を有している。積層体に、積層方向に沿って伸びる孔によって構成された磁石固定部が設けられている。この製造方法では、磁石固定部内に、磁石と接着剤シートを配置する。次に、ロータコアを加熱することによって、接着剤シートを硬化させる。これによって、磁石固定部内に磁石を固定する。なお、特許文献1では、磁石固定部が積層体に設けられた孔によって構成されていたが、磁石固定部が積層体に設けられた溝によって構成されたロータも存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-311782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ロータの高速回転を実現するために、磁石のロータコアに対する固定強度の向上が望まれている。したがって、本明細書では、磁石をロータコアに高い強度で固定する技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示するロータの製造方法は、複数の金属板が積層された積層体によって構成されたロータコアに磁石と熱可塑性樹脂を配置する工程を有する。前記ロータコアに前記積層体の積層方向に沿って伸びる孔または溝によって構成された磁石固定部が設けられている。この工程では、前記磁石と前記熱可塑性樹脂を前記磁石固定部内に配置する。この製造方法は、前記ロータコアの中心軸が鉛直方向に対して交差している状態で、前記ロータコアを前記中心軸周りに回転させながら加熱する工程と、前記中心軸が鉛直方向に対して交差している状態で、前記ロータコアを前記中心軸周りに回転させながら冷却することによって、前記磁石を前記熱可塑性樹脂を介して前記ロータコアに固定する工程を有する。
【0006】
この製造方法では、磁石固定部内に磁石と熱可塑性樹脂を配置した後に、ロータコアを加熱する工程を実施する。ロータコアが加熱されることで、熱可塑性樹脂が軟化する。したがって、ロータコアを加熱する工程では、軟化した熱可塑性樹脂が磁石固定部内で流動する。ロータコアを加熱する工程が、ロータコアの中心軸が鉛直方向に対して交差している状態でロータコアを中心軸周りに回転させながら実施されるので、ロータコアを加熱する工程中に熱可塑性樹脂に加わる重力の方向が変化する。したがって、磁石とロータコアの間の領域で、熱可塑性樹脂が複雑に流動する。これによって、熱可塑性樹脂の磁石及びロータコアに対する密着性を向上させることができる。その後、ロータコアの中心軸が鉛直方向に対して交差している状態でロータコアを中心軸周りに回転させながら冷却する工程が実施される。このため、熱可塑性樹脂が、磁石とロータコアに高い密着性で密着している状態で硬化する。したがって、磁石をロータコアに高い強度で固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】ロータ10の斜視図。
図2】中心軸AXを含む平面におけるロータ10の断面図。
図3】中心軸AXに直交する平面におけるロータ10の断面図。
図4】中心軸AXに直交する平面における貫通孔70及び溝72の拡大断面図。
図5】磁石40とロータコア30の境界部の拡大断面図。
図6】加熱工程及び冷却工程におけるロータコア30を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書が開示する一例の製造方法では、前記ロータコアを加熱する前記工程では、前記ロータコアの温度を、前記熱可塑性樹脂の軟化温度よりも高い温度に制御してもよい。
【0009】
なお、本明細書において、軟化温度は、熱可塑性樹脂が軟化して変形可能となる温度を意味する。軟化温度は、ガラス転移点であってもよい。
【0010】
本明細書が開示する一例の製造方法では、前記ロータコアを加熱する前記工程では、前記ロータコアの温度を、前記熱可塑性樹脂の前記軟化温度に対して50℃高い温度よりも低い温度に制御してもよい。
【0011】
この構成によれば、熱可塑性樹脂の粘度が極端に低下することを抑制できる。したがって、熱可塑性樹脂が磁石固定部から漏れ出すことを抑制できる。
【0012】
本明細書が開示する一例の製造方法では、前記磁石固定部の内面に、複数の前記金属板の境界に沿って伸びる凹部が設けられていてもよい。
【0013】
この構成によれば、凹部内に熱可塑性樹脂が入り込むので、アンカー効果によって磁石をロータコアにより高い強度で固定できる。
【0014】
図1に示すロータ10は、例えば、電気自動車またはハイブリッド自動車等の自動車に搭載されるモータ(図示省略)に組み込まれて使用される。電力がモータに供給されると、ロータ10は回転する。ロータ10は、円筒形状のロータコア30を有している。図1の中心軸AXは、ロータコア30の中心軸を示している。ロータコア30の中心軸AXは、ロータ10の回転軸と一致している。すなわち、ロータ10は、中心軸AXを中心として回転する。図1に示すように、ロータ10は、シャフト20と、第1エンドプレート50と、第2エンドプレート52を備えている。
【0015】
シャフト20は、金属材料(例えば、炭素鋼、特殊鋼、非磁性体のアルミまたはステンレス)からなる。シャフト20は、円筒形状を有する。図1、2に示すように、シャフト20の外周面から、フランジ24が突出している。シャフト20の外周面には、レゾルバ26が取り付けられている。レゾルバ26は、フランジ24に隣接する位置に配置されている。レゾルバ26は、ロータ10の回転角度を検出する。
【0016】
図1、2に示すように、ロータコア30は、複数の電磁鋼板34が積層された積層体である。図3に示すように、各電磁鋼板34は、円環形状を有する。円環形状を有する複数の電磁鋼板34が積層されることで、円筒形状のロータコア30が構成されている。図1、2に示すように、ロータコア30は、その軸方向の両側に端面30a、30bを有している。
【0017】
第1エンドプレート50は、金属材料(例えば、非磁性体のアルミまたはステンレス)からなる。図1、2に示すように、第1エンドプレート50は、円環形状を有している。第1エンドプレート50は、ロータコア30の端面30aを覆っている。第1エンドプレート50は、ロータコア30と同心状に配置されている。第1エンドプレート50は、ロータコア30の端面30aに溶接により固定されている。
【0018】
第2エンドプレート52は、金属材料(例えば、非磁性体のアルミまたはステンレス)からなる。第2エンドプレート52は、ロータコア30の端面30bに溶接されて固定されている。第2エンドプレート52は、円環形状を有している。第2エンドプレート52は、ロータコア30の端面30bを覆っている。第2エンドプレート52は、ロータコア30と同心状に配置されている。
【0019】
図1~3に示すように、第1エンドプレート50、ロータコア30、及び、第2エンドプレート52の中心孔32に、シャフト20が挿通されている。シャフト20の中心軸は、ロータコア30の中心軸AXと一致している。第1エンドプレート50は、フランジ24に当接している。フランジ24の反対側に、ワッシャ27とナット28が配置されている。ワッシャ27は、第2エンドプレート52に当接している。第1エンドプレート50とロータコア30と第2エンドプレート52は、フランジ24とナット28との間に挟まれている。これにより、第1エンドプレート50とロータコア30と第2エンドプレート52は、シャフト20に固定されている。
【0020】
図3に示すように、シャフト20のうちのロータコア30内に挿入されている部分の外周面には、2つの固定溝22が設けられている。2つの固定溝22は、シャフト20の長手方向に沿って伸びている。ロータコア30の中心孔32の内面に、2つの凸部32aが形成されている。凸部32aが固定溝22に係合するように、シャフト20がロータコア30の中心孔32に挿入されている。これにより、シャフト20がロータコア30に対して相対的に回転することが抑制される。
【0021】
図2、3に示すように、ロータコア30に、複数の貫通孔70が設けられている。各貫通孔70は、ロータコア30の中心軸AXと平行な方向に沿って伸びている。すなわち、各貫通孔70は、電磁鋼板34の積層方向に沿って伸びている。各貫通孔70は、各電磁鋼板34に設けられた貫通孔が互いに繋がることによって構成されている。図2に示すように、各貫通孔70は、ロータコア30を貫通している。すなわち、各貫通孔70は、端面30aから端面30bまで伸びている。貫通孔70の両端は、第1エンドプレート50と第2エンドプレート52によって塞がれている。図3に示すように、中心軸AXに垂直な断面において、各貫通孔70は扁平な断面形状を有している。図4に示すように、以下では、各貫通孔70の内面のうちの幅が広い2つの表面(互いに対向する表面)を、内面70a、70bという。
【0022】
図1、3に示すように、ロータコア30の外周面に、複数の溝72が設けられている。各溝72は、ロータコア30の中心軸AXと平行な方向に沿って伸びている。すなわち、各溝72は、電磁鋼板34の積層方向に沿って伸びている。各溝72は、各電磁鋼板34に設けられた切り欠き部が互いに繋がることによって構成されている。図1に示すように、各溝72は、端面30aから端面30bまで伸びている。各溝72の両端は、第1エンドプレート50と第2エンドプレート52によって覆われている。図4に示すように、以下では、各溝72の内面のうちの互いに対向する2つの表面を、内面72a、72bという。
【0023】
図2~4に示すように、各貫通孔70内及び各溝72内に、磁石40と樹脂シート48が配置されている。
【0024】
磁石40は、永久磁石である。磁石40として、例えば、ネオジム磁石、アルニコ磁石、フェライト磁石、サマリウムコバルト磁石、プラセオジム磁石、サマリウム窒素鉄磁石、白金磁石、またはセリウムコバルト磁石を用いることができる。図2に示すように、各磁石40は、ロータコア30の中心軸AXと平行な方向に長い形状を有している。また、図3、4に示すように、各磁石40は、中心軸AXに垂直な断面において扁平な断面形状を有している。図4に示すように、各磁石40は、幅広面40a、40bを有している。幅広面40aは、幅広面40bの反対側に位置している。貫通孔70内では、磁石40の幅広面40aが貫通孔70の内面70aに対向しており、磁石40の幅広面40bが貫通孔70の内面70bに対向している。溝72内では、磁石40の幅広面40aが溝72の内面72aに対向しており、磁石40の幅広面40bが溝72の内面72bに対向している。
【0025】
樹脂シート48は、熱可塑性樹脂を含む材料によって構成されている。樹脂シート48の熱可塑性樹脂として、ガラス転移温度(Tg)が高い材料を用いることができる。また、樹脂シート48の熱可塑性樹脂として、絶縁性、耐水性、耐油性、耐クリープ性、耐熱衝撃性に優れる材料を用いることができる。また、樹脂シート48の熱可塑性樹脂は、結晶性であっても、非結晶性であってもよい。例えば、樹脂シート48の熱可塑性樹脂として、ポリエーテルイミド(Tg=217℃)、ポリエーテルサルホン(Tg=230℃)、ポリサルホン(Tg=190℃)等を用いることができる。図4に示すように、貫通孔70内では、樹脂シート48は、磁石40の幅広面40aと貫通孔70の内面70aの間、及び、磁石40の幅広面40bと貫通孔70の内面70bの間に配置されている。樹脂シート48は、磁石40を内面70a、70bに接着している。溝72内では、樹脂シート48は、磁石40の幅広面40aと溝72の内面72aの間、及び、磁石40の幅広面40bと溝72の内面72bの間に配置されている。樹脂シート48は、磁石40を内面72a、72bに接着している。このように、磁石40は、樹脂シート48によって、貫通孔70内、及び、溝72内に固定されている。
【0026】
図5は、磁石40とロータコア30との接着領域の拡大図を示している。なお、図5におけるロータコア30の表面30cは、貫通孔70の内面70a、70b及び溝72の内面72a、72bを表している。図5に示すように、ロータコア30の表面30cには、積層された電磁鋼板34の境界に沿って伸びる凹部30dが設けられている。各電磁鋼板34はプレスせん断加工によって形成されているので、各電磁鋼板34の端面に微小な傾斜部が形成されている。したがって、複数の電磁鋼板34の積層体であるロータコア30の表面30cには、電磁鋼板34の境界に沿って伸びる凹部30dが存在する。樹脂シート48を構成する熱可塑性樹脂は、各凹部30d内に隙間なく充填されている。
【0027】
次に、ロータ10の製造方法について説明する。最初に、複数の電磁鋼板34を積層するとともに積層した電磁鋼板34を互いに固定することによって、ロータコア30を形成する。次に、ロータコア30の各貫通孔70内及び各溝72内に、磁石40と樹脂シート48を挿入する。使用前の樹脂シート48は、熱可塑性樹脂を主材料とするシート状の部材であり、加熱によって膨張する性質を有する。樹脂シート48として、圧縮した状態のガラス繊維(いわゆる、フィラー)を熱可塑性樹脂で封止した樹脂シートを用いることができる。この種の樹脂シートを加熱すると、熱可塑性樹脂が軟化したときに圧縮状態のガラス繊維の応力が解放され、ガラス繊維が膨張する。このため、樹脂シートが膨張する。また、樹脂シート48として、熱可塑性樹脂中に発泡剤(例えば、発泡カプセル)が分散された部材を用いることもできる。この種の樹脂シートを加熱すると、熱可塑性樹脂が軟化するとともに発泡剤が気化する。その結果、樹脂シートが発泡して膨張する。ここでは、図4に示すように、樹脂シート48が磁石40の幅広面40aと貫通孔70の内面70aの間、及び、磁石40の幅広面40bと貫通孔70の内面70bの間に配置されるように、磁石40と樹脂シート48を貫通孔70内に挿入する。また、図4に示すように、樹脂シート48が磁石40の幅広面40aと溝72の内面72aの間、及び、磁石40の幅広面40bと溝72の内面72bの間に配置されるように、磁石40と樹脂シート48を溝72内に挿入する。
【0028】
次に、図6に示すように、磁石40及び樹脂シート48が設置された状態のロータコア30を、シャフト20xに固定する。なお、シャフト20xは、図1に示すシャフト20(すなわち、ロータ10の部品であるシャフト)であってもよいし、製造工程で使用される治具に設けられたシャフトであってもよい。次に、図6に示すように、シャフト20xを鉛直方向に対して交差させた状態で、シャフト20xを回転させる。なお、図6において、矢印UPは鉛直上方向を示している。このようにシャフト20xを回転させると、ロータコア30の中心軸AXが鉛直方向に対して交差した状態で、中心軸AX周りにロータコア30が回転する。本実施形態では、ロータコア30の中心軸AXが水平に配置された状態で、中心軸AX周りにロータコア30を回転させる。ここでは、1~5rpm程度の比較的低い速度でロータコア30を回転させる。この回転速度では、各樹脂シート48に加わる遠心力は、重力よりも小さい。以下に説明する加熱工程及び冷却工程が終了するまで、中心軸AXが鉛直方向に対して交差した状態で中心軸AX周りにロータコア30が回転している状態を維持する。
【0029】
次に、ロータコア30を加熱する加熱工程を実施する。加熱工程では、図6に示すようにロータコア30を回転させながら、ロータコア30とともに樹脂シート48を加熱する。すると、樹脂シート48中の熱可塑性樹脂が軟化するとともに、樹脂シート48が膨張する。すなわち、樹脂シート48の厚みが増加する。したがって、樹脂シート48中の熱可塑性樹脂が、磁石40とロータコア30に向かって加圧される。加熱工程では、ロータコア30及び樹脂シート48を、樹脂シート48に含まれる熱可塑性樹脂の軟化温度よりも高い温度に所定時間保持する。ロータコア30が鉛直方向に対して交差した中心軸AX周りに回転しているので、加熱工程中に軟化した熱可塑性樹脂に加わる重力の方向が変化する。例えば、中心軸AXに対して上側の位置A1に存在する樹脂シート48には、中心軸AX側に向かって重力が作用する。また、中心軸AXに対して下側の位置A3に存在する樹脂シート48には、ロータコア30の外周側に向かって重力が作用する。また、中心軸AXに対して水平方向の位置A2に存在する樹脂シート48には、周方向(回転方向)に向かって重力が作用する。また、中心軸AXに対して水平方向の位置A4に存在する樹脂シート48には、周方向(回転と逆方向)に向かって重力が作用する。このように、熱可塑性樹脂に加わる重力の方向が変化するので、磁石40とロータコア30の間の領域で熱可塑性樹脂が複雑に流動する。このため、熱可塑性樹脂を、磁石40の表面及びロータコア30の表面になじませることができる。これによって、熱可塑性樹脂の磁石40及びロータコア30に対する密着性を向上させることができる。特に、軟化した熱可塑性樹脂に加わる重力の方向が変化することで、図5に示すように熱可塑性樹脂をロータコア30の表面30cの各凹部30d内に行き渡らせることができる。したがって、熱可塑性樹脂を各凹部30dの内面に密着させることができる。
【0030】
なお、加熱工程では、ロータコア30及び樹脂シート48を、熱可塑性樹脂の軟化温度に対して50℃高い温度よりも低い温度に保持することができる。このように加熱温度を制御することで、熱可塑性樹脂の粘度が過度に低下することを防止できる。これによって、ロータコア30から軟化した熱可塑性樹脂が垂れ落ちることを防止できる。
【0031】
次に、ロータコア30を冷却する冷却工程を実施する。冷却工程では、図6に示すようにロータコア30を回転させながら、ロータコア30とともに樹脂シート48を常温まで冷却する。すると、熱可塑性樹脂が凝固する。このため、樹脂シート48によって磁石40がロータコア30に接着される。ロータコア30を回転させながら冷却工程を実施するので、熱可塑性樹脂が磁石40とロータコア30に密着している状態で凝固する。したがって、熱可塑性樹脂によって磁石40をロータコア30に強固に接着することができる。また、図5に示すように、熱可塑性樹脂は、ロータコア30の表面の凹部30d内に充填された状態で凝固する。このため、アンカー効果によって熱可塑性樹脂がロータコア30に対してより強固に接着される。
【0032】
次に、図1に示すように、冷却工程後のロータコア30を、第1エンドプレート50と第2エンドプレート52とともにシャフト20に取り付ける。これによって、図1に示すロータ10が完成する。
【0033】
以上に説明したように、本実施形態の製造方法によれば、樹脂シート48の熱可塑性樹脂によって、磁石40をロータコア30に強固に接続することができる。したがって、高速回転に耐えるロータ10を製造することができる。
【0034】
なお、上述した実施形態では、樹脂シート48によって磁石40をロータコア30に接着したが、熱可塑性樹脂を有する接着部材が他の構成を有していてもよい。
【0035】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0036】
10 :ロータ
20 :シャフト
30 :ロータコア
34 :電磁鋼板
40 :磁石
48 :樹脂シート
50 :第1エンドプレート
52 :第2エンドプレート
70 :貫通孔
72 :溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6