(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】ロータ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/278 20220101AFI20240723BHJP
【FI】
H02K1/278
(21)【出願番号】P 2021080219
(22)【出願日】2021-05-11
【審査請求日】2023-10-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】波多野 諒
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-033241(JP,A)
【文献】特開2011-072077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/278
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフト(20)と、
前記シャフトに固定されたロータコア(30)と、
前記ロータコアの径方向外側の表面に配置された複数のマグネット(40)と、
複数の前記マグネットを覆う筒状のマグネットカバー(50)と、
前記ロータコアに対して軸方向の両側に配置され、前記マグネットカバーの端部の包みかしめ部(51)に保持されているプレート(60)と、
を備え、
前記プレートおよび前記ロータコアの一方は、前記プレートおよび前記ロータコアの他方に回転方向に接触する回転規制部(71、72、712、722、713、714、715、716、717、727、718)を有する、ロータ。
【請求項2】
前記ロータコアは、軸方向に開いた空隙孔(31)を有し、
前記回転規制部は、前記プレートの本体部(61)から前記空隙孔内に突き出した突起から構成されている、請求項1に記載のロータ。
【請求項3】
前記突起は、前記本体部と一体の板状突起が前記空隙孔の内壁面に当接するまで曲げられてなる曲成部である、請求項2に記載のロータ
【請求項4】
前記突起は複数設けられ、
複数の前記突起は、前記シャフトの回転軸心(O)に対して点対称に配置されている、請求項2または3に記載のロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロータコアの外表面にマグネットが配置された表面磁石型のロータでは、マグネットの飛散を防止するために筒状のマグネットカバーおよび板状のプレートを設置している。マグネットカバーはロータコアの外側に圧入され、プレートはロータコアに対して軸方向の両側に配置されてマグネットカバーに保持される。特許文献1に開示されたロータでは、マグネットカバーの両端の包みかしめ部によりプレートの軸方向移動が規制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、プレートはシャフトに圧入されることで相対回転が拘束されている。しかし、マグネットカバーの包みかしめ部を形成するときにプレートの芯ずれが発生した場合、プレートのシャフトへの嵌合孔が変形して当該プレートの拘束力が小さくなることで、ロータ回転時にプレートが回転方向に動いて異音が発生するおそれがある。
【0005】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、異音の発生が抑制されたロータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のロータは、シャフト(20)と、シャフトに固定されたロータコア(30)と、ロータコアの径方向外側の表面に配置された複数のマグネット(40)と、複数のマグネットを覆う筒状のマグネットカバー(50)と、ロータコアに対して軸方向の両側に配置されたプレート(60)とを備える。プレートは、マグネットカバーの端部の包みかしめ部(51)に保持されている。プレートおよびロータコアの一方は、プレートおよびロータコアの他方に回転方向に接触する回転規制部(71、72、712、722、713、714、715、716、717、727、718)を有する。
【0007】
これにより、仮にマグネットカバーの包みかしめ部を形成するときにプレートの芯ずれが発生し、プレートのシャフトへの嵌合孔が変形して当該プレートの拘束力が小さくなっても、回転規制部によりプレートの相対回転が規制される。したがって、ロータ回転時にプレートが回転方向に動くことが抑制され、異音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図5】第2実施形態のロータの断面図であって、第1実施形態の
図3に対応する図。
【
図6】第3実施形態のロータを軸方向から見た図であって、第1実施形態の
図2に対応する図。
【
図7】第4実施形態のロータを軸方向から見た図であって、第1実施形態の
図2に対応する図。
【
図8】第5実施形態のロータの断面図であって、第1実施形態の
図3に対応する図。
【
図9】第6実施形態のロータの断面図であって、第1実施形態の
図3に対応する図。
【
図10】第7実施形態のロータの断面図であって、第1実施形態の
図3に対応する図。
【
図11】第8実施形態のロータの断面図であって、第1実施形態の
図3に対応する図。
【
図12】第9実施形態の円盤部材を示す図であって、第1実施形態の
図4に対応する図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、ロータの複数の実施形態を図面に基づき説明する。実施形態同士で実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0010】
[第1実施形態]
図1および
図2に示すように、第1実施形態のロータ10は、モータ1の回転子として設けられるものであって、ステータ5の内側で回転可能に設けられる。ロータ10は、シャフト20、ロータコア30、複数のマグネット40、マグネットカバー50および一対のプレート60を備える。
【0011】
シャフト20は、回転軸心Oまわりに回転可能に設けられる。ロータコア30は、円筒状に形成され、シャフト20に一体回転可能に固定されている。第1実施形態では、シャフト20は長手方向の中間部にローレット部21を有しており、ロータコア30はローレット部21に圧入されることでシャフト20に固定されている。
【0012】
図1では、記載が煩雑になることを避けるためにロータコア30を1つの部材で示しているが、実際にはロータコア30は複数枚の板からなる積層体である。ロータコア30は、例えば電磁鋼板材をプレス加工により打ち抜いて形成した複数枚のロータコアシートを軸方向に積層して一体化することにより作られている。
【0013】
以下、回転軸心Oに平行な方向のことを軸方向と記載する。また、回転軸心Oに直交する方向のことを径方向と記載する。また、回転軸心Oまわりの方向のことを回転方向または周方向と記載する。
【0014】
各マグネット40は、ロータコア30の径方向外側の表面において周方向に等間隔に配置されている。マグネットカバー50は、各マグネット40を一括して覆う筒状部材であって、非磁性材料からなる。プレート60は、マグネットカバー50内の軸方向両端であってロータコア30に対して軸方向の両側に配置されている。プレート60は、径方向内側に位置してロータコア30と軸方向に当接する内側部62と、内側部62からマグネット40とは反対側に離間するように屈曲しつつ径方向外側に延びる外側部63とを有する。マグネットカバー50にはその軸方向両端部にプレート60の外縁を支点としてかしめられた包みかしめ部51が形成されており、プレート60は包みかしめ部51に保持されている。プレート60は、包みかしめ部51により軸方向の移動が規制されている。包みかしめ部51は包みかしめにより形成される。
【0015】
プレート60は、ロータコア30と同様にローレット部21に係合することで相対回転が規制されるようになっている。プレート60の中央部にはローレット部21に嵌合する嵌合孔64が形成されている。しかし従来、マグネットカバー50の包みかしめ部51を形成するときにプレート60に径方向の力が作用して当該プレート60の芯ずれが発生した場合、嵌合孔64が変形してプレート60の拘束力が小さくなることで、ロータ10の回転時にプレート60が回転方向に動いて異音が発生する問題がある。
【0016】
上記問題に対して、第1実施形態では、
図2および
図3に示すようにロータ10は「回転規制部」としての爪部71、72を備える。爪部71、72は、プレート60に設けられており、ロータコア30に回転方向に接触してプレート60の相対回転を規制する。つまり爪部71、72は回り止めとして機能する。
【0017】
プレート60は、円盤状の本体部61と爪部71、72とを一体に有する。すなわち本体部61と爪部71、72は同一部材からなる。本体部61は内側部62および外側部63を有する。内側部62は周方向の2箇所に通孔65を有する。各通孔65は回転軸心Oに対して点対称に配置されている。爪部71、72は通孔65の縁部に形成されている。
【0018】
ロータコア30は、軸方向に開いた複数の空隙孔31を有する。爪部71、72は、通孔65の縁から空隙孔31内に突き出した突起である。爪部71は、通孔65の縁のうち周方向の一方に形成されており、プレート60の周方向一方への相対回転を規制する。また、爪部72は、通孔65の縁のうち周方向の他方に形成されており、プレート60の周方向他方への相対回転を規制する。複数の爪部71、72は、回転軸心Oに対して点対称に配置されている。
【0019】
プレート60は、
図4に示すような円盤部材80から作られる。円盤部材80は、例えばプレス加工により打ち抜いて形成され、本体部61、および、後に爪部71、72となる板状突起81、82を有する。板状突起81、82は、通孔65の縁から周方向の一方および他方に突き出す突起であり、本体部61と一体になっている。円盤部材80は、シャフト20に圧入されたあと、マグネットカバー50の軸方向端部が円盤部材80の外縁を支点としてかしめられてなる包みかしめ部51により、軸方向の移動が規制される。板状突起81、82は、
図2および
図3に示すように空隙孔31の内壁面に当接するまで曲げられて爪部71、72となる。
【0020】
(効果)
以上説明したように、第1実施形態では、ロータ10は、マグネットカバー50の端部の包みかしめ部51に保持されているプレート60を備える。プレート60は、ロータコア30に回転方向に接触する回転規制部としての爪部71、72を有する。これにより、仮にマグネットカバー50の包みかしめ部51を形成するときにプレート60の芯ずれが発生し、プレート60のシャフト20への嵌合孔64が変形して当該プレート60の拘束力が小さくなっても、爪部71、72によりプレート60の相対回転が規制される。したがって、ロータ10の回転時にプレート60が回転方向に動くことが抑制され、異音の発生を抑制することができる。
【0021】
また第1実施形態では、ロータコア30は軸方向に開いた空隙孔31を有する。爪部71、72は、プレート60の本体部61から空隙孔31内に突き出した突起から構成されている。これにより爪部71、72がロータコア30と接触して回り止めとなることで、プレート60の相対回転を規制することができる。
【0022】
また第1実施形態では、爪部71、72は、本体部61と一体の板状突起81、82が空隙孔31の内壁面に当接するまで曲げられてなる曲成部である。プレート60の基となる円盤部材80の一部を曲げ加工して爪部71、72とすることで、別部品が不要である。例えば別部品をプレートに組み付けて突起を設けること等が必要ない。そのため従来形態から部品構成を変更しなくてもよい。
【0023】
また第1実施形態では、爪部71、72は複数設けられる。複数の爪部71、72は回転軸心Oに対して点対称に配置されている。これによりロータ10の回転アンバランスが発生しない。
【0024】
[第2実施形態]
第2実施形態では、
図5に示すように「回転規制部」としての爪部712、722が設けられる。爪部712、722は90°以上曲げられている。これにより、通孔65の縁と空隙孔31の縁が一致しない位置関係に設計されても、あるいは組付け時に通孔65の縁と空隙孔31の縁との位置関係にずれが生じても、爪部712、722を空隙孔31の内壁面に必ず当接させることができる。
【0025】
[第3実施形態]
第3実施形態では、
図6に示すように「回転規制部」としての爪部713が設けられる。爪部713は、通孔65の縁のうち径方向内側から空隙孔31内に突き出した突起である。爪部713は、周方向の両側が空隙孔31の内壁面に接触して、プレート60の相対回転を規制する。
【0026】
[第4実施形態]
第4実施形態では、
図7に示すように「回転規制部」としての爪部714が設けられる。爪部714は、通孔65の縁のうち径方向外側から空隙孔31内に突き出した突起である。爪部714は、周方向の両側が空隙孔31の内壁面に接触して、プレート60の相対回転を規制する。
【0027】
[第5実施形態]
第5実施形態では、
図8に示すように「回転規制部」としての凸部715が設けられる。凸部715は、空隙孔31内に出っ張るように形成されており、例えばシャフト20に圧入された円盤部材80の一部がロータコア30側に押圧されることにより形成される。凸部715は、周方向の両側が空隙孔31の内壁面に接触して、プレート60の相対回転を規制する。
【0028】
[第6実施形態]
第6実施形態では、
図9に示すように「回転規制部」としての突起716が設けられる。突起716は、ロータコア30からプレート60の回転規制孔756内に突き出した突起である。突起716は、周方向の両側が回転規制孔756の内壁面に接触して、プレート60の相対回転を規制する。このように、回転規制部がロータコア30に設けられてもよい。
【0029】
[第7実施形態]
第7実施形態では、
図10に示すように「回転規制部」としての爪部材707、757が設けられる。爪部材707、757は、プレート60とは別部材である。爪部材707は空隙孔31内に突き出した爪部717を有し、爪部材757は空隙孔31内に突き出した爪部727を有する。このように、回転規制部としての爪部717、727がプレート60とは別部材から構成されてもよい。
【0030】
[第8実施形態]
第8実施形態では、
図11に示すように「回転規制部」としての突起部材708が設けられる。突起部材708は、プレート60とは別部材であり、空隙孔31内に突き出した突起718を有する。このように、回転規制部がプレート60とは別部材から構成されてもよい。
【0031】
[第9実施形態]
第9実施形態では、
図12に示すようにシャフト20への組付け前の単品状態において円盤部材80の板状突起81、82が曲げられて爪部71、72が形成され、その後にプレート60がシャフト20に組み付けられてもよい。それでも爪部71、72が回転方向でロータコア30に接触することで、プレート60の相対回転を規制することができる。
【0032】
[第10実施形態]
第10実施形態では、
図12に示すようにシャフト20への組付け前の単品状態において円盤部材80の板状突起81、82が曲げられて爪部71、72が形成され、その後にプレート60がシャフト20に組み付けられ、その後さらに
図5に示すように爪部71、72が曲げられて空隙孔31の内壁面に当接させられる。これにより、通孔65の縁と空隙孔31の縁が一致しない位置関係に設計されても、あるいは組付け時に通孔65の縁と空隙孔31の縁との位置関係にずれが生じても、爪部71、72を空隙孔31の内壁面に必ず当接させることができる。また、シャフト20への組付け後に板状突起81、82を曲げる場合に当該板状突起81、82がロータコア30に干渉して曲げられない事態を避けることができる。
【0033】
[他の実施形態]
他の実施形態では、爪部の数は3つ以下、または5つ以上であってもよい。また、通孔は形成されず、円盤部材にU字状のスリットを形成して当該スリット内の部分を曲げて爪部としてもよい。
他の実施形態では、ロータはモータに限らず発電機に適用されてもよい。
【0034】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0035】
10 ロータ、20 シャフト、30 ロータコア、40 マグネット、50 マグネットカバー、51 包みかしめ部、60 プレート、71、72、712、722、713、714、715、716、717、727、718 回転規制部。