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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/24 20160101AFI20240723BHJP
   H02P 21/06 20160101ALI20240723BHJP
   H02P 21/34 20160101ALI20240723BHJP
【FI】
H02P21/24
H02P21/06
H02P21/34
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021107176
(22)【出願日】2021-06-29
(65)【公開番号】P2023005339
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2023-09-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】井手 徹
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 和希
(72)【発明者】
【氏名】名和 政道
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-262398(JP,A)
【文献】特開2014-158336(JP,A)
【文献】特開2004-112939(JP,A)
【文献】特開2013-090545(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0312881(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/24
H02P 21/06
H02P 21/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送波の電圧値と電圧指令値との比較結果により電動機を駆動させるインバータ回路と、
前記電動機に設けられる回転角センサの出力値により前記電動機の回転子の第1の位置を算出する第1の位置算出部と、
前記電動機に流れる電流により求められる誘起電圧を用いて前記回転子の第2の位置を算出する第2の位置算出部と、
前記第1の位置と前記第2の位置との差を記憶する記憶部と、
前記回転子の低回転時、前記第1の位置と前記差との和を第3の位置とし、前記回転子の高回転時、前記第2の位置を前記第3の位置とする補正部と、
前記第3の位置により前記電動機に流れる電流をd軸電流及びq軸電流に変換する電流変換部と、
前記第3の位置により前記回転子の回転数を算出する回転数算出部と、
前記回転数算出部により算出される回転数と回転数指令値との回転数差によりd軸電流指令値及びq軸電流指令値を出力する電流指令値出力部と、
前記d軸電流と前記d軸電流指令値との差が小さくなるようにd軸電圧指令値を算出するとともに前記q軸電流と前記q軸電流指令値との差が小さくなるようにq軸電圧指令値を算出する電圧指令値算出部と、
前記第3の位置により前記d軸電圧指令値及び前記q軸電圧指令値を前記電圧指令値に変換する電圧指令値変換部と、
を備えることを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動機の制御装置であって、
前記第2の位置算出部は、位置推定系の伝達関数の極から求められる設計パラメータを とし、前記d軸電圧指令値をVdとし、前記q軸電圧指令値をVqとし、前記電動機の抵抗成分をRとし、前記d軸電流または前記d軸電流指令値をIdとし、前記q軸電流または前記q軸電流指令値をIqとし、前記回転数をωとし、前記電動機のq軸インダクタンスをLpとする場合、下記式1を計算することにより、前記第2の位置としてのθ^を算出する
【数10】
ことを特徴とする電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の動作を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機の制御装置として、電動機の回転子の低回転時、電動機に設けられる回転角センサの出力値により算出される回転子の位置(予め決められた位置を基準としたときの回転子の位置)に基づいて電動機の動作を制御し、回転子の高回転時、電動機に流れる電流などにより求められる誘起電圧を用いて算出される回転子の位置(制御タイミングに対応する位置を基準としたときの回転子の位置)に基づいて電動機の動作を制御するものがある。これにより、回転子の高回転時、量子化誤差の増加により回転角センサの出力値により算出される回転子の位置の精度が低下しても、量子化誤差の影響が少ない、誘起電圧を用いて算出される回転子の位置に基づいて電動機の動作を制御することができるため、電動機の動作制御の応答性低下を抑制することができる。関連する技術として、特許文献1がある。
【0003】
ところで、予め決められている位置で回転子を停止させているときの回転子の位置を基準として回転角センサの出力値により回転子の位置を算出する場合、停止させているときの回転子の位置が電動機の磁石やコギングの影響により予め決められている位置からずれる可能性がある。
【0004】
そのため、上記制御装置では、停止させているときの回転子の位置が予め決められている位置からずれている場合、回転子の低回転時において、回転角センサの出力値により算出される回転子の位置の精度が低下するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-166677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一側面に係る目的は、電動機の制御装置において、電動機の回転子の回転数によらず、回転子の位置を精度よく算出することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る一つの形態である電動機の制御装置は、搬送波の電圧値と電圧指令値との比較結果により電動機を駆動させるインバータ回路と、前記電動機に設けられる回転角センサの出力値により前記電動機の回転子の第1の位置を算出する第1の位置算出部と、前記電動機に流れる電流により求められる誘起電圧を用いて前記回転子の第2の位置を算出する第2の位置算出部と、前記第1の位置と前記第2の位置との差を記憶する記憶部と、前記回転子の低回転時、前記第1の位置と前記差との和を第3の位置とし、前記回転子の高回転時、前記第2の位置を前記第3の位置とする補正部と、前記第3の位置により前記電動機に流れる電流をd軸電流及びq軸電流に変換する電流変換部と、前記第3の位置により前記回転子の回転数を算出する回転数算出部と、前記回転数算出部により算出される回転数と回転数指令値との回転数差によりd軸電流指令値及びq軸電流指令値を出力する電流指令値出力部と、前記d軸電流と前記d軸電流指令値との差が小さくなるようにd軸電圧指令値を算出するとともに前記q軸電流と前記q軸電流指令値との差が小さくなるようにq軸電圧指令値を算出する電圧指令値算出部と、前記第3の位置により前記d軸電圧指令値及び前記q軸電圧指令値を前記電圧指令値に変換する電圧指令値変換部とを備える。
【0008】
これにより、回転子の低回転時、誘起電圧を用いて算出される位置と回転角センサの出力値により算出される位置との差を用いて回転角センサの出力値により算出される回転子の位置を補正し、その補正後の位置を第3の位置とすることができるため、量子化誤差及び電動機の磁石やコギングの影響が少ない位置を算出することができる。また、回転子の高回転時、誘起電圧を用いて算出される回転子の位置を第3の位置とすることができるため、量子化誤差及び電動機の磁石やコギングの影響が無い位置を算出することができる。すなわち、回転子の回転数によらず、回転子の位置を精度よく算出することができる。
【0009】
また、前記第2の位置算出部は、位置推定系の伝達関数の極から求められる設計パラメータを とし、前記d軸電圧指令値をVdとし、前記q軸電圧指令値をVqとし、前記電動機の抵抗成分をRとし、前記d軸電流または前記d軸電流指令値をIdとし、前記q軸電流または前記q軸電流指令値をIqとし、前記回転数をωとし、前記電動機のq軸インダクタンスをLpとする場合、下記式1を計算することにより、前記第2の位置としてのθ^を算出するように構成してもよい。
【0010】
【数1】
【0011】
このように、位置推定系の伝達関数を考慮して、第2の位置を算出する構成であるため、例えば、K=2、K=3α、K=α2とする場合、位置推定系の伝達関数の極を、誘起電圧を推定するためのオブザーバの極αと一致させることができる。これにより、回転子の低回転時において、第2の位置を精度よく算出することができるため、回転子の回転数によらず、回転子の位置をさらに精度よく算出することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電動機の制御装置において、電動機の回転子の回転数によらず、回転子の位置を精度よく算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態の電動機の制御装置の一例を示す図である。
図2】オブザーバ、伝達関数K(s)、伝達関数P(s)、速度推定系、及び位置推定系を示すブロック線図である。
図3】補正部の動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図面に基づいて実施形態について詳細を説明する。
【0015】
図1は、実施形態の電動機の制御装置の一例を示す図である。
【0016】
図1に示す制御装置1は、例えば、電動フォークリフトやプラグインハイブリッド車などの車両に搭載される電動機Mの動作を制御するものであって、インバータ回路2と、制御回路3とを備える。なお、電動機Mは、例えば、表面磁石型同期モータ(Surface Permanent Magnetic Synchronous Motor)などであり、回転角センサSp(レゾルバなど)が設けられているものとする。
【0017】
インバータ回路2は、電源Pから供給される電力により電動機Mを駆動させるものであって、コンデンサCと、スイッチング素子SW1~SW6(例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor))と、電流センサSe1、Se2とを備える。すなわち、コンデンサCの一方端子が電源Pの正極端子及びスイッチング素子SW1、SW3、SW5の各コレクタ端子に接続され、コンデンサCの他方端子が電源Pの負極端子及びスイッチング素子SW2、SW4、SW6の各エミッタ端子に接続されている。スイッチング素子SW1のエミッタ端子とスイッチング素子SW2のコレクタ端子との接続点は電流センサSe1を介して電動機MのU相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW3のエミッタ端子とスイッチング素子SW4のコレクタ端子との接続点は電流センサSe2を介して電動機MのV相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW5のエミッタ端子とスイッチング素子SW6のコレクタ端子との接続点は電動機MのW相の入力端子に接続されている。
【0018】
コンデンサCは、電源Pから出力されインバータ回路2へ入力される電圧を平滑する。
【0019】
スイッチング素子SW1は、制御回路3から出力される駆動信号S1に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW2は、制御回路3から出力される駆動信号S2に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW3は、制御回路3から出力される駆動信号S3に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW4は、制御回路3から出力される駆動信号S4に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW5は、制御回路3から出力される駆動信号S5に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW6は、制御回路3から出力される駆動信号S6に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW1~SW6がそれぞれオンまたはオフすることで、電源Pから出力される直流電圧が、互いに位相が120度ずつ異なる3つの交流電圧に変換され、それら交流電圧が電動機MのU相、V相、及びW相の入力端子に印加され電動機Mの回転子が回転する。
【0020】
電流センサSe1は、ホール素子やシャント抵抗などにより構成され、電動機MのU相に流れるU相電流Iuを検出して制御回路3に出力する。また、電流センサSe2は、ホール素子やシャント抵抗などにより構成され、電動機MのV相に流れるV相電流Ivを検出して制御回路3に出力する。
【0021】
制御回路3は、記憶部4と、ドライブ回路5と、演算部6とを備える。
【0022】
記憶部4は、RAM(Random Access Memory)またはROM(Read Only Memory)などにより構成される。
【0023】
ドライブ回路5は、IC(Integrated Circuit)などにより構成され、搬送波(三角波、ノコギリ波、または逆ノコギリ波など)の電圧値と、演算部6から出力されるU相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*とを比較し、その比較結果に応じた駆動信号S1~S6をスイッチング素子SW1~SW6のそれぞれのゲート端子に出力する。
【0024】
例えば、ドライブ回路5は、U相電圧指令値Vu*が搬送波の電圧値以上である場合、ハイレベルの駆動信号S1を出力するとともに、ローレベルの駆動信号S2を出力し、U相電圧指令値Vu*が搬送波の電圧値より小さい場合、ローレベルの駆動信号S1を出力するとともに、ハイレベルの駆動信号S2を出力する。また、ドライブ回路5は、V相電圧指令値Vv*が搬送波の電圧値以上である場合、ハイレベルの駆動信号S3を出力するとともに、ローレベルの駆動信号S4を出力し、V相電圧指令値Vv*が搬送波の電圧値より小さい場合、ローレベルの駆動信号S3を出力するとともに、ハイレベルの駆動信号S4を出力する。また、ドライブ回路5は、W相電圧指令値Vw*が搬送波の電圧値以上である場合、ハイレベルの駆動信号S5を出力するとともに、ローレベルの駆動信号S6を出力し、W相電圧指令値Vw*が搬送波の電圧値より小さい場合、ローレベルの駆動信号S5を出力するとともに、ハイレベルの駆動信号S6を出力する。
【0025】
演算部6は、マイクロコンピュータなどにより構成され、位置算出部7(第1の位置算出部)と、電流変換部8と、位置算出部9(第2の位置算出部)と、補正部10と、回転数算出部11と、減算部12と、トルク指令値算出部13と、電流指令値出力部14と、減算部15と、減算部16と、電圧指令値算出部17と、電圧指令値変換部18とを備える。例えば、マイクロコンピュータが記憶部4に記憶されているプログラムを実行することにより、位置算出部7、電流変換部8、位置算出部9、補正部10、回転数算出部11、減算部12、トルク指令値算出部13、電流指令値出力部14、減算部15、減算部16、電圧指令値算出部17、及び電圧指令値変換部18が構成される。
【0026】
位置算出部7は、電動機Mの動作制御開始時、予め決められている位置(例えば、0[deg])で回転子が停止するように電動機Mに電流を流しているときに、回転角センサSpの出力値により回転子の位置θsensを算出し、その算出した位置θsensを基準位置θref1(第1の基準位置)として出力する。例えば、位置算出部7は、回転角センサSpから出力される電圧をデジタル値に変換し、そのデジタル値を回転子の位置に換算し、その換算した位置を位置θsensとする。
【0027】
また、位置算出部7は、電動機Mの動作制御開始後、制御タイミング毎に、基準位置θref1を基準とする回転子の位置θsens(第1の位置)を算出する。
【0028】
電流変換部8は、電流センサSe1により検出されるU相電流Iu及び電流センサSe2により検出されるV相電流Ivを用いて、電動機MのW相に流れるW相電流Iwを求める。
【0029】
また、電流変換部8は、補正部10により補正された位置θ´(第3の位置)を用いて、U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwをd軸電流Id(電動機Mに弱め界磁を発生させるための電流成分)及びq軸電流Iq(電動機Mにトルクを発生させるための電流成分)に変換する。
【0030】
例えば、電流変換部8は、下記式2に示す変換行列C1を用いて、U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwを、d軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。
【0031】
【数2】
【0032】
なお、電流センサSe1、Se2により検出される電流は、U相電流Iu及びV相電流Ivの組み合わせに限定されず、V相電流Iv及びW相電流Iwの組み合わせ、または、U相電流Iu及びW相電流Iwの組み合わせでもよい。電流センサSe1、Se2によりV相電流Iv及びW相電流Iwが検出される場合、電流変換部8は、V相電流Iv及びW相電流Iwを用いて、U相電流Iuを求める。また、電流センサSe1、Se2によりU相電流Iu及びW相電流Iwが検出される場合、電流変換部8は、U相電流Iu及びW相電流Iwを用いて、V相電流Ivを求める。
【0033】
また、インバータ回路2において、電流センサSe1、Se2の他に、電動機MのW相に流れる電流を検出する電流センサSe3をさらに備える場合、電流変換部8は、補正部10から出力される位置θ´を用いて、電流センサSe1~Se3により検出されるU相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwをd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換するように構成してもよい。
【0034】
位置算出部9は、d軸電流Id及びq軸電流Iqに基づいて算出される電動機Mの誘起電圧により電動機Mの回転子の位置θ^を算出する。
【0035】
ここで、図2(a)は、誘起電圧eを外乱としe^を推定した誘起電圧とするときのオブザーバを示すブロック線図である。また、図2(b)は、回転子の実際の位置θと位置θ^との差である位置誤差Δθから位置誤差推定値Δθ^までの伝達関数P(s)と、位置誤差推定値Δθ^から位置θ^までの伝達関数K(s)とを示すブロック線図である。また、図2(c)は、伝達関数P(s)と、位置誤差推定値Δθ^が入力されるとともに回転数ω^が出力される速度推定系と、位置誤差推定値Δθ^及び回転数ω^が入力されるとともに位置θ^が出力される位置推定系とを示すブロック線図である。なお、vは回転座標系における電動機Mにかかる電圧とし、iは回転座標系における電動機Mに流れる電流とする。また、Rは電動機Mの抵抗成分とする。また、Iを下記式3とし、Jを下記式4とする。また、pを微分演算子とする。また、Ldを電動機Mのd軸インダクタンスとし、Lqを電動機Mのq軸インダクタンスとする。また、ωを回転数算出部11により算出される回転数ωとする。また、d軸誘起電圧Edを下記式5とし、q軸誘起電圧Eqを下記式6とし、位置誤差推定値Δθ^を下記式7とする。また、Vdはd軸電圧指令値Vd*とし、Vqはq軸電圧指令値Vq*とする。また、Idはd軸電流Idまたはd軸電流指令値Id*とし、Iqはq軸電流Iqまたはq軸電流指令値Iq*とする。また、伝達関数P(s)を下記式8とする。また、伝達関数K(s)を下記式9とする。また、αを図2(a)に示すオブザーバの極とする。また、 は、図2(c)に示す位置推定系の閉ループの極より決められる設計パラメータとする。
【0036】
図2(a)~図2(c)において、位置算出部9は、電動機Mの動作制御開始時、任意の制御タイミングにおいて算出した位置θ^を出力する。例えば、位置算出部9は、一定時間経過Tc毎に繰り返される制御タイミングのうちの任意の制御タイミングにおいて、下記式1を計算することにより位置θ^(第2の位置)を算出する。
【0037】
【数3】
【0038】
【数4】
【0039】
Ed=Vd-R×Id+ω×Lq×Iq ・・・式5
Eq=Vq-R×Iq+ω×Lq×Id ・・・式6
Δθ^=tan-1(Ed/Eq) ・・・式7
【0040】
【数5】
【0041】
【数6】
【0043】
また、位置算出部9は、電動機Mの動作制御開始後、制御タイミング毎に、下記式10を計算することにより位置θ^(第2の位置)を算出する。
【0044】
【数8】
【0045】
なお、K=2、K=3α、K=α2とする場合、位置推定系の伝達関数K(s)の極を、オブザーバの極αと一致させることができる。これにより、回転子の低回転時において、位置θ^を精度よく算出することができる。
【0046】
図1に示す補正部10は、電動機Mの動作制御開始時、位置算出部7から出力される位置θsensと、位置算出部9から出力される位置θ^との差θoffsetを求め、その差θoffsetを記憶部4に記憶する。
【0047】
また、補正部10は、電動機Mの動作制御開始後、回転子が低回転であると判断すると、記憶部4に記憶される差θoffsetを用いて、位置算出部7から出力される位置θsensを補正する。すなわち、補正部10は、回転子が低回転であると判断すると、位置θsensと差θoffsetとの和を補正後の位置θsensとする。
【0048】
また、補正部10は、電動機Mの動作制御開始後、回転子が低回転であると判断すると、補正後の位置θsensを用いて、位置算出部9から出力される位置θ^を補正し、その補正後の位置θ^を位置θ´として出力する。すなわち、補正部10は、回転子の低回転時、位置θ^を位置θsensと差θoffsetとの和に替えることにより位置θ^を位置θ´として補正する。
【0049】
また、補正部10は、電動機Mの動作制御開始後、回転子が高回転であると判断すると、位置算出部9から出力される位置θ^を用いて、位置算出部7から出力される位置θsensを補正し、その補正後の位置θsensを位置θ´として出力する。すなわち、補正部10は、回転子の高回転時、位置θsensを位置θ^に替えることにより位置θsensを位置θ´として補正する。
【0050】
なお、補正部10は、電動機Mの制御周波数(1/一定時間Tc)を、回転数算出部11により算出される回転数ωを周波数に換算したもので除算した結果が閾値fth1以上である場合、回転子が低回転であると判断する。
【0051】
または、補正部10は、回転数ωを周波数に換算したものを、電動機Mの制御周波数で除算した結果が閾値fth2以下である場合、回転子が低回転であると判断する。
【0052】
または、補正部10は、回転数ωが閾値ωth以下である場合、回転子が低回転であると判断する。
【0053】
また、補正部10は、電動機Mの制御周波数を、回転数ωを周波数に換算したもので除算した結果が閾値fth1より小さい場合、回転子が高回転であると判断する。
【0054】
または、補正部10は、回転数ωを周波数に換算したものを、電動機Mの制御周波数で除算した結果が閾値fth2より大きい場合、回転子が高回転であると判断する。
【0055】
または、補正部10は、回転数ωが閾値ωthより大きい場合、回転子が高回転であると判断する。
【0056】
回転数算出部11は、補正部10により補正された位置θ´により回転子の回転数ωを算出する。例えば、回転数算出部11は、位置θ´を、演算部6を構成するマイクロコンピュータのクロック周期などで除算した結果を回転数ωとする。
【0057】
減算部12は、外部から入力される回転数指令値ω*と回転数算出部11により算出される回転数ωとの回転数差Δωを算出する。
【0058】
トルク指令値算出部13は、減算部12から出力される回転数差Δωを用いて、トルク指令値T*を算出する。例えば、トルク指令値算出部13は、記憶部4に記憶されている、電動機Mの回転子の回転数と電動機Mのトルクとが互いに対応付けられている情報(不図示)を参照して、回転数差Δωに相当する回転数に対応するトルクを、トルク指令値T*とする。
【0059】
電流指令値出力部14は、トルク指令値算出部13により算出されるトルク指令値T*によりd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を出力する。例えば、電流指令値出力部14は、記憶部4に記憶されている、電動機Mのトルクとd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*とが互いに対応付けられている情報(不図示)を参照して、トルク指令値T*に対応するd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を出力する。なお、電流指令値出力部14にトルク指令値算出部13の機能を含ませてもよい。すなわち、電流指令値出力部14は、回転数差Δωによりd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を出力するように構成してもよい。
【0060】
減算部15は、電流指令値出力部14から出力されるd軸電流指令値Id*と、電流変換部8から出力されるd軸電流Idとの差ΔIdを算出する。
【0061】
減算部16は、電流指令値出力部14から出力されるq軸電流指令値Iq*と、電流変換部8から出力されるq軸電流Iqとの差ΔIqを算出する。
【0062】
電圧指令値算出部17は、減算部15から出力される差ΔId及び減算部16から出力される差ΔIqを用いたPI制御により、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を算出する。例えば、電圧指令値算出部17は、下記式11によりd軸電圧指令値Vd*を算出するとともに、下記式12によりq軸電圧指令値Vq*を算出する。なお、KpはPI制御の比例項の定数とし、KiはPI制御の積分項の定数とし、Lqは電動機Mのq軸インダクタンスとし、Ldは電動機Mのd軸インダクタンスとし、ωは回転数算出部11により算出される回転数とし、Keは誘起電圧定数とする。
【0063】
d軸電圧指令値Vd*=Kp×差ΔId+∫(Ki×差ΔId)-ωLqIq・・・式11
q軸電圧指令値Vq*=Kp×差ΔIq+∫(Ki×差ΔIq)+ωLdId+ωKe・・・式12
【0064】
電圧指令値変換部18は、補正部10により補正された位置θ´を用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*に変換する。例えば、電圧指令値変換部18は、下記式13に示す変換行列C2を用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、W相電圧指令値Vw*に変換する。
【0065】
【数9】
【0066】
図3は、補正部10の動作の一例を示すフローチャートである。
【0067】
まず、補正部10は、電動機Mの動作制御開始指示が演算部6に入力されると(ステップS11:Yes)、差θoffsetを求め、その差θoffsetを記憶部4に記憶する(ステップS12)。
【0068】
次に、補正部10は、電動機Mの動作制御開始後、回転子が低回転であると判断すると(ステップS13:Yes)、差θoffsetを用いて位置θsensを補正するとともに補正後の位置θsensを用いて位置θ^を補正する(ステップS14)。
【0069】
一方、補正部10は、電動機Mの動作制御開始後、回転子が高回転であると判断すると(ステップS13:No)、位置θ^を用いて位置θsensを補正する(ステップS15)。
【0070】
また、補正部10は、電動機Mの動作制御終了指示が演算部6に入力されていない場合(ステップS16:No)、ステップS13、S14の処理、または、ステップS13、S15の処理を繰り返し実行する。
【0071】
一方、補正部10は、電動機Mの動作制御終了指示が演算部6に入力されると(ステップS16:Yes)、位置θ^または位置θsensの補正処理を終了する。
【0072】
このように、実施形態の制御装置1は、回転子の低回転時、差θoffsetを用いて、回転角センサSpの出力値により算出される位置θsensを補正し、その補正後の位置θsensを位置θ´として算出する構成である。すなわち、回転子の低回転時、誘起電圧を用いて算出される位置の基準位置を基準として位置θsensを算出し、その位置θsensを位置θ´として算出する構成である。これにより、量子化誤差及び電動機Mの磁石やコギングの影響が少ない位置θ´を算出することができるため、回転子の低回転時において回転子の位置を精度よく算出することができる。
【0073】
また、実施形態の制御装置1は、回転子の高回転時、誘起電圧を用いて算出される位置θ^を位置θ´として算出する構成である。これにより、量子化誤差及び電動機Mの磁石やコギングの影響が無い位置θ´を算出することができるため、回転子の高回転時において回転子の位置を精度よく算出することができる。
【0074】
すなわち、実施形態の制御装置1によれば、回転子の回転数によらず、回転子の位置θ´を精度よく算出することができるため、電動機Mの動作制御の応答性を向上させることができる。
【0075】
また、実施形態の制御装置1は、位置推定系の伝達関数K(s)(上記式9)を考慮して、位置θ^を算出する構成である。上述したように、K=2、K=3α、K=α2とする場合、位置推定系の伝達関数K(s)の極を、オブザーバの極αと一致させることができるため、回転子の高回転時だけでなく低回転時においても、位置θ^を精度よく算出することができる。すなわち、回転子の回転数によらず、位置θ´をさらに精度よく算出することができる。
【0076】
なお、本発明は、以上の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更が可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 制御装置
2 インバータ回路
3 制御回路
4 記憶部
5 ドライブ回路
6 演算部
7 位置算出部
8 電流変換部
9 位置算出部
10 補正部
11 回転数算出部
12 減算部
13 トルク指令値算出部
14 電流指令値出力部
15 減算部
16 減算部
17 電圧指令値算出部
18 電圧指令値変換部
P 電源
C コンデンサ
Sp 回転角センサ
Se1 電流センサ
Se2 電流センサ
図1
図2
図3