(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】自動運転方法、自動運転システム、及び自動運転プログラム
(51)【国際特許分類】
B60W 30/14 20060101AFI20240723BHJP
B60W 40/04 20060101ALI20240723BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
B60W30/14
B60W40/04
G08G1/16 C
(21)【出願番号】P 2021114376
(22)【出願日】2021-07-09
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 大貴
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2018/158875(JP,A1)
【文献】特開2019-218004(JP,A)
【文献】特開2007-176483(JP,A)
【文献】特開平08-216726(JP,A)
【文献】特開2016-043809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00- 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両を前記自車両と同一のレーンを走行する先行車両に追従走行させながら、前記先行車両から発せられる隣接レーンへのレーンチェンジの意思表示を検知し、
前記レーンチェンジの意思表示が検知された場合、前記自車両が前記レーンを走行するときに占有する占有領域から前記隣接レーンに向けて前記先行車両が離脱したことを検知し、
前記先行車両の前記占有領域からの離脱が検知された場合、前記自車両を前記先行車両に追従走行させるための加速抑制を解除
し、
前記先行車両の後方に前記隣接レーンを前記自車両よりも高速で走行する車両が検知された場合、前記加速抑制を解除せずに維持する
ことを特徴とする自動運転方法。
【請求項2】
請求項1に記載の自動運転方法において、
前記先行車両の方向指示器の点滅を前記レーンチェンジの意思表示として検知する
ことを特徴とする自動運転方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の自動運転方法において、
前記先行車両の前方に前記隣接レーンを前記先行車両よりも低速で走行する車両が検知された場合、前記加速抑制を解除せずに維持する
ことを特徴とする自動運転方法。
【請求項4】
少なくとも
一つのプログラムを記憶した少なくとも一つのメモリと、
前記少なく
とも
一つのメモリに結合された少なくとも一つのプロセッサと、を備え、
前記少なくとも
一つのプロセッサは、前記少なくとも
一つのプログラムの実行により
自車両を前記自車両と同一のレーンを走行する先行車両に追従走行させながら、前記先行車両から発せられる隣接レーンへのレーンチェンジの意思表示を検知することと、
前記レーンチェンジの意思表示が検知された場合、前記自車両が前記レーンを走行するときに占有する占有領域から前記隣接レーンに向けて前記先行車両が離脱したことを検知することと、
前記先行車両の前記占有領域からの離脱が検知された場合、前記自車両を前記先行車両に追従走行させるための加速抑制を解除することと、
前記先行車両の後方に前記隣接レーンを前記自車両よりも高速で走行する車両が検知された場合、前記加速抑制を解除せずに維持することと、を実行するように構成されている
ことを特徴とする自動運転システム。
【請求項5】
自車両を前記自車両と同一のレーンを走行する先行車両に追従走行させながら、前記先行車両から発せられる隣接レーンへのレーンチェンジの意思表示を検知することと、
前記レーンチェンジの意思表示が検知された場合、前記自車両が前記レーンを走行するときに占有する占有領域から前記隣接レーンに向けて前記先行車両が離脱したことを検知することと、
前記先行車両の前記占有領域からの離脱が検知された場合、前記自車両を前記先行車両に追従走行させるための加速抑制を解除することと、
前記先行車両の後方に前記隣接レーンを前記自車両よりも高速で走行する車両が検知された場合、前記加速抑制を解除せずに維持することと、をコンピュータに実行させるように構成されている
ことを特徴とする自動運転プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動運転方法、自動運転システム、及び自動運転プログラムを含む自動運転技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自車両を先行車両に追従走行させる追従走行制御において、先行車両の離脱判定を適切なタイミングで行うための技術が開示されている。特許文献1に開示された技術では、自車両の走行レーン上に捕捉していた先行車両が捕捉不能となってから所定の保持時間がカウントされたとき、走行レーンから先行車両が離脱したと判定される。この判定においては、車外環境の認識状態や白線の認識度に基づいて先行車両を捕捉不能とさせ得る要因が推定され、推定された各要因に応じて保持時間のカウント速度が変更される。
【0003】
追従走行制御では、先行車両の車速が自車両の設定車速よりも遅い場合、先行車両が自車両の走行レーンから離脱したことを受けて、自車両を設定車速まで加速させることが行われる。しかし、先行車両が補足不能になることを条件として先行車両の離脱を判定する方法では、先行車両が隣接レーンに完全に移動するまで離脱判定を行えないおそれがある。先行車両がレーンチェンジをする場合に適切なタイミングで自車両を加速させることができなければ、乗員が違和感を覚えるおそれがある。
【0004】
本開示の技術分野における出願時の技術レベルを示す文献としては、特許文献1の他にも下記の特許文献2を例示することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4163074号公報
【文献】特許第4926859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、上述のような課題に鑑みてなされたものである。本開示は、先行車両への追従走行中に先行車両がレーンチェンジする場合に、乗員にとって違和感のないタイミングで自車両を加速させることを可能にした自動運転技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は自動運転方法を提供する。本開示の自動運転方法は、以下のステップを含む。第1ステップは、自車両を自車両と同一のレーンを走行する先行車両に追従走行させながら、先行車両から発せられる隣接レーンへのレーンチェンジの意思表示を検知するステップである。第2ステップは、レーンチェンジの意思表示が検知された場合、占有領域から隣接レーンに向けて先行車両が離脱したことを検知するステップである。占有領域は自車両が自レーンを走行するときに占有する領域である。そして、第3ステップは、先行車両の占有領域からの離脱が検知された場合、自車両を先行車両に追従走行させるための加速抑制を解除するステップである。
【0008】
本開示の自動運転方法において、先行車両の方向指示器の点滅をレーンチェンジの意思表示として検知してもよい。
【0009】
本開示の自動運転方法は、以下の第4ステップと第5ステップの少なくとも一方をさらに含んでもよい。第4ステップは、先行車両の後方に隣接レーンを自車両よりも高速で走行する車両が検知された場合、加速抑制を解除せずに維持するステップである。第5ステップは、先行車両の前方に隣接レーンを先行車両よりも低速で走行する車両が検知された場合、加速抑制を解除せずに維持するステップである。
【0010】
本開示は自動運転システムを提供する。本開示の自動運転システムは、少なくとも1つのプログラムを記憶した少なくとも一つのメモリと、少なくも1つのメモリに結合された少なくとも一つのプロセッサとを備える。上記少なくとも1つのプロセッサは、上記少なくとも1つのプログラムの実行により以下の処理を実行するように構成されている。第1処理は、自車両を自車両と同一のレーンを走行する先行車両に追従走行させながら、先行車両から発せられる隣接レーンへのレーンチェンジの意思表示を検知する処理である。第2処理は、レーンチェンジの意思表示が検知された場合、占有領域から隣接レーンに向けて先行車両が離脱したことを検知する処理である。そして、第3処理は、先行車両の占有領域からの離脱が検知された場合、自車両を先行車両に追従走行させるための加速抑制を解除する処理である。
【0011】
本開示は自動運転プログラムを提供する。本開示の自動運転プログラムは、以下の処理をコンピュータに実行させるように構成されている。第1処理は、自車両を自車両と同一のレーンを走行する先行車両に追従走行させながら、先行車両から発せられる隣接レーンへのレーンチェンジの意思表示を検知する処理である。第2処理は、レーンチェンジの意思表示が検知された場合、占有領域から隣接レーンに向けて先行車両が離脱したことを検知する処理である。そして、第3処理は、先行車両の占有領域からの離脱が検知された場合、自車両を先行車両に追従走行させるための加速抑制を解除する処理である。
【発明の効果】
【0012】
本開示の技術によれば、先行車両からの隣接レーンへのレーンチェンジの意思表示が検知され、さらに、自車両の占有領域から隣接レーンに向けて先行車両が離脱したことが検知された場合に、自車両を先行車両に追従走行させるための加速抑制が解除される。先行車両への追従走行中に先行車両がレーンチェンジする場合に、このような条件の成立を受けて加速抑制の解除が行われることで、乗員にとって違和感のないタイミングで自車両を加速させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の実施形態に係る自動運転方法への序論のための図である。
【
図2】本開示の実施形態に係る自動運転方法で確認される第1の事項を説明する図である。
【
図3】本開示の実施形態に係る自動運転方法で確認される第2の事項を説明する図である。
【
図4】本開示の実施形態に係る自動運転方法で確認される第2の事項を説明する図である。
【
図5】本開示の実施形態に係る自動運転方法で確認される第3の事項を説明する図である。
【
図6】本開示の実施形態に係る自動運転方法で確認される第4の事項を説明する図である。
【
図7】本開示の実施形態に係る自動運転方法のフローチャートである。
【
図8】本開示の実施形態に係る自動運転システムの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。ただし、以下に示す実施形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、本開示に係る思想が限定されるものではない。また、以下に示す実施形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、本開示に係る思想に必ずしも必須のものではない。
【0015】
1.本実施形態の自動運転方法への序論
図1には片側2レーンの道路が示されている。進行方向において右側の区画線12と中央の区画線13とで区画されたレーン10は追い越しレーンであり、中央の区画線13と左側の区画線14とで区画されたレーン11は走行レーンである。
図1に示す例では、自車両2はレーン10を走行している。自車両2の前方のレーン10上には先行車両4が存在する。なお、本明細書において自車両2とは本実施形態の自動運転方法の適用対象となる車両を指すものとする。
【0016】
ここで、先行車両4が後続の自車両2に対して道をあけるようにレーンチェンジを行う場面を想定する。自車両2が運転者によって手動運転されている場合、先行車両4が道を開けることで、運転者は希望速度まで自車両2を加速させることができる。このときの加速のタイミングは運転者自身によって計られる。つまり、自車両2が手動運転されている場合には、先行車両4のレーンチェンジに対する自車両2の加速のタイミングは運転者自身によって適正化される。
【0017】
一方、自車両2が追従走行制御によって自動運転されている場合、例えば、ACC(Adaptive Cruise Control)によって自動運転されている場合、レーンチェンジする先行車両4は追従走行制御における追従目標から除外される。先行車両4が追従目標から除外されることで、自車両2に課せられていた追従走行のための加速抑制は解除される。加速抑制が解除されることで、自車両2は自動運転における設定車速まで加速することが可能になる。このような自動運転における車両2の動作から明らかなように、先行車両4のレーンチェンジに対する自車両2の加速のタイミングは、レーンチェンジする先行車両4を追従目標から除外するロジック次第となる。
【0018】
しかし、自動運転による自車両2の加速のタイミングが乗員の感覚に合わない場合、乗員に違和感を覚えさせるおそれがある。例えば、先行車両4のレーンチェンジに対して自車両2の加速のタイミングが遅すぎる場合、乗員にフラストレーションを与えてしまうおそれがある。逆に、先行車両4のレーンチェンジに対して自車両2の加速のタイミングが早すぎる場合、乗員に緊張感を与えてしまうおそれがある。
【0019】
そこで、本実施形態に係る自動運転方法では、先行車両4への追従走行中に先行車両4がレーンチェンジする場合に、乗員にとって違和感のないタイミングで自車両2を加速させるためのロジックが採用されている。以下、本実施形態に係る自動運転方法について説明する。
【0020】
2.本実施形態の自動運転方法の説明
本実施形態の自動運転方法では、第1から第4までの4つの事項についての確認が順に行われる。そして、それら全ての事項が確認された場合に、先行車両4が追従目標から除外され、自車両2に課せられていた追従走行のための加速抑制は解除される。
【0021】
本実施形態に係る自動運転方法で確認される第1の事項について
図2を用いて説明する。
図2には、自車両2が走行するレーン10の前方を先行車両4が走行し、自車両2は先行車両4に追従走行している様子が描かれている。自車両2を先行車両4に追従走行させる追従走行制御は、自車両2に搭載された自動運転システム100によって行われる。
【0022】
自動運転システム100は、先行車両4から発せられる隣接レーンへのレーンチェンジの意思表示を検知する。本実施形態では、自動運転システム100は、先行車両4の方向指示器の点滅をレーンチェンジの意思表示として検知する。つまり、本実施形態に係る自動運転方法で確認される第1の事項は、先行車両4のレーンチェンジの意思表示としての方向指示器の点滅である。
図2に示す例では、左側の方向指示器4aが点滅していることから、先行車両4は左側のレーン11へのレーンチェンジを意図していると判断することができる。
【0023】
本実施形態に係る自動運転方法で確認される第2の事項について
図3及び
図4を用いて説明する。
図3には、自車両2からレーン10に沿って前方に延びる帯状の領域16が描かれている。この領域16は、自車両2がレーン10を走行するときに占有することになる占有領域である。言い換えれば、自車両2が現在のレーン10を走行し続けたときに自車両2によってトレースされるだろう領域が占有領域16である。占有領域16の幅は自車両2の最大幅と等しい。自動運転システム100は自車両2から前方所定距離までの占有領域16を算出する。占有領域16が算出される距離は、追従走行制御において設定される車間距離よりも長い距離とされている。
【0024】
先行車両4が現在のレーン10を走行している間は、その少なくとも一部が占有領域16に入っている。しかし、先行車両4がレーンチェンジを開始すると、先行車両4の横位置は徐々に隣接レーン11に向かって移動していく。そして、
図4に示すように、やがて先行車両4は占有領域16から離脱する。自動運転システム100は、占有領域16から隣接レーン11に向けて先行車両4が離脱したことを検知する。つまり、本実施形態に係る自動運転方法で確認される第2の事項は、先行車両4が占有領域16から方向指示器4aが指し示している方向に離脱したことである。
【0025】
以上の第1の事項と第2の事項は先行車両4が追従目標から除外されるための積極条件である。第1の事項の確認と第2の事項の確認とを合わせることで、隣接レーン11へ向かう先行車両4の横方向の動きがレーンチェンジを意図したものなのか、それとも単なるふらつきなのかを明確に区別することができる。また、先行車両4が占有領域16から離脱したことを確認事項とすることで、先行車両4との干渉を生じさせない最も早いタイミングで自車両2を加速させることが可能となる。
【0026】
次に、本実施形態に係る自動運転方法で確認される第3の事項と第4の事項とについて説明する。第3の事項と第4の事項は先行車両4が追従目標から除外されるための消極条件である。
【0027】
まず、本実施形態に係る自動運転方法で確認される第3の事項について
図5を用いて説明する。
図5には、方向指示器を点滅させながら自車両2の占有領域16から離脱した先行車両4と、隣接レーン11を先行車両4の後方から高速で近づいてくる高速車両6とが描かれている。
図5に描かれたようなシーンでは、先行車両4の運転者は、レーンチェンジを続けることで起こりうる後方の高速車両6との接触を心配する。また、先行車両4がレーンチェンジを自動で行う自動運転車両である場合、後方の高速車両6との相対的な関係に基づいてレーンチェンジの中止が判定される場合がある。このため、
図5に描かれたようなシーンでは、レーンチェンジを取りやめた先行車両4がレーン10に復帰してくる可能性がある。
【0028】
自動運転システム100は、先行車両4が方向指示器を点滅させながら自車両2の占有領域16から離脱したことを受けて、先行車両4の後方の高速車両6を検知する。高速車両6かどうかは自車両2との相対速度で判断される。具体的には、隣接レーン11を先行車両4の後方から自車両2よりも高い速度で近づいてくる車両は、先行車両4にレーンチェンジを躊躇させる高速車両6であると判断される。つまり、本実施形態に係る自動運転方法で確認される第3の事項は、先行車両4の後方に隣接レーン11を自車両2よりも高速で走行する高速車両6が検知されないことである。
【0029】
先行車両4の後方に高速車両6が検知された場合、自動運転システム100は先行車両4を追従目標から除外せずに維持する。これにより、自車両2に課せられている追従走行のための加速抑制は解除されずに維持される。なお、自動運転システム100は、自車両2を基準とする所定範囲を高速車両6の検知範囲としている。検知範囲は、高速車両6の存在が先行車両4によるレーンチェンジの判断に影響を与えうる範囲である。
【0030】
次に、本実施形態に係る自動運転方法で確認される第4の事項について
図6を用いて説明する。
図6には、方向指示器を点滅させながら自車両2の占有領域16から離脱した先行車両4と、隣接レーン11において先行車両4の前方を走行している低速車両8とが描かれている。
図6に描かれたようなシーンでは、先行車両4の運転者は、レーンチェンジを続けることで起こりうる前方の低速車両8との接触を心配する。また、先行車両4がレーンチェンジを自動で行う自動運転車両である場合、前方の低速車両8との相対的な関係に基づいてレーンチェンジの中止が判定される場合がある。このため、
図6に描かれたようなシーンでは、レーンチェンジを取りやめた先行車両4がレーン10に復帰してくる可能性がある。
【0031】
自動運転システム100は、先行車両4が方向指示器を点滅させながら自車両2の占有領域16から離脱したことを受けて、先行車両4の前方の低速車両8を検知する。低速車両8かどうかは先行車両4との相対速度で判断される。具体的には、先行車両4の前方の隣接レーン11を先行車両4よりも低い速度で走行している車両は、先行車両4にレーンチェンジを躊躇させる低速車両8であると判断される。つまり、本実施形態に係る自動運転方法で確認される第4の事項は、先行車両4の前方に隣接レーン11を先行車両4よりも低速で走行する低速車両8が検知されないことである。
【0032】
先行車両4の前方に低速車両8が検知された場合、自動運転システム100は先行車両4を追従目標から除外せずに維持する。これにより、自車両2に課せられている追従走行のための加速抑制は解除されずに維持される。なお、自動運転システム100は、自車両2を基準とする所定範囲を低速車両8の検知範囲としている。検知範囲は、低速車両8の存在が先行車両4によるレーンチェンジの判断に影響を与えうる範囲である。
【0033】
以上が本実施形態に係る自動運転方法において順に確認される第1から第4までの4つの事項である。各事項の確認を条件判定とすると、本開示の実施形態に係る自動運転方法は
図7に示すようなフローチャートで表すことができる。
【0034】
ステップS101は上述の第1の事項を確認するための条件判定のステップである。ステップS101では、追従走行制御の実施中、先行車両4が方向指示器4aを点滅させているかどうか判定される。先行車両4が方向指示器4aを点滅させていればステップS102に進む。先行車両4が方向指示器4aを点滅させていなければステップS106に進み、先行車両4は追従走行制御における追従目標に維持される。先行車両4が追従目標に維持される結果、追従走行のための加速抑制もまた維持される。
【0035】
ステップS102は上述の第2の事項を確認するための条件判定のステップである。ステップS102では、先行車両4が自車両2の占有領域16の外に移動したかどうか判定される。先行車両4が自車両2の占有領域16の外に移動したのであればステップS103に進む。先行車両4が占有領域16の外に移動していなければステップS106に進み、先行車両4が追従目標に維持されることで追従走行のための加速抑制は維持される。
【0036】
ステップS103は上述の第3の事項を確認するための条件判定のステップである。ステップS103では、隣接レーン11の後方に高速車両6がいないかどうか判定される。隣接レーン11の後方に高速車両6がいなければステップS104に進む。隣接レーン11の後方に高速車両6がいる場合にはステップS106に進み、先行車両4が追従目標に維持されることで追従走行のための加速抑制は維持される。
【0037】
ステップS104は上述の第4の事項を確認するための条件判定のステップである。ステップS104では、隣接レーン11の前方に低速車両8がいないかどうか判定される。隣接レーン11の前方に低速車両8がいなければステップS105に進む。隣接レーン11の前方に低速車両8がいる場合にはステップS106に進み、先行車両4が追従目標に維持されることで追従走行のための加速抑制は維持される。
【0038】
ステップS105では、先行車両4は追従走行制御における追従目標から除外される。先行車両4が追従目標から除外される結果、追従走行のための加速抑制は解除される。先行車両4への追従走行中に先行車両4がレーンチェンジする場合に、このような条件の成立を受けて加速抑制の解除が行われることで、乗員にとって違和感のないタイミングで自車両2を加速させることが可能となる。
【0039】
3.自動運転システムの構成
本実施形態に係る自動運転システム100は、例えばSAE(Society of Automotive Engineers)で定義される自動運転レベルにおいてレベル2以上の自動運転を行うシステムである。上述の自動運転方法は、自動運転システム100が有する以下の構成によって実現される。
【0040】
図8は、自動運転システム100の構成例を示すブロック図である。自動運転システム100は、制御装置200と、制御装置200に情報を入力する車載センサ20と、制御装置200から出力される操作信号によって動作するアクチュエータ30とを備える。車載センサ20とアクチュエータ30は、CAN(Controller Area Network)等の車載ネットワークを用いて制御装置200に接続されている。
【0041】
車載センサ20は、外部センサ22、内部センサ24、及びGPS受信機26を含む。外部センサ22は、自車両の周辺環境に関する情報を取得するセンサである。外部センサ22は、カメラ、ミリ波レーダ、及びLiDARを含む。外部センサ22で得られた情報に基づき、自車両の周辺に存在する物体の検知、検知した物体の自車両に対する相対位置や相対速度の計測、及び検知した物体の形状の認識等の処理が行われる。内部センサ24は、自車両の運動に関する情報を取得するセンサである。内部センサ24は、例えば車輪速センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ、及び操舵角センサを含む。GPS受信機26は、GPS衛星から信号を受信することにより、自車両の現在位置(例えば緯度及び経度)を測定する。これらの他にも、自動運転システム100には、外部のサーバが提供する情報を無線通信ネットワークから受信する通信装置も備えられている。
【0042】
アクチュエータ30は、車両を操舵する操舵装置、車両を駆動する駆動装置、及び車両を制動する制動装置を含む。操舵装置には、例えば、パワーステアリングシステム、ステアバイワイヤ操舵システム、後輪操舵システムなどが含まれる。駆動装置には、例えば、BEVシステム、FCEVシステム、PHEVシステム、HEVシステム、ICEシステムなどが含まれる。制動装置には、例えば、油圧ブレーキ、電力回生ブレーキなどが含まれる。また、方向指示器やワイパー等、車両を安全に走行させる上で動作させることが必要な装置はアクチュエータ30に含まれる。アクチュエータ30は制御装置200から送信される操作信号によって動作する。
【0043】
制御装置200は、少なくとも1つのプロセッサ202と少なくとも1つのメモリ204とを有するECU(Electronic Control Unit)である。メモリ204は、主記憶装置と補助記憶装置とを含む。メモリ204には、プロセッサ202で実行可能な少なくとも1つのプログラム206とそれに関連する種々のデータ208とが記憶されている。プログラム206には上述の自動運転方法を実現するための自動運転プログラムが含まれている。その自動運転プログラムがプロセッサ202で実行されることで、制御装置200には様々な機能が実現される。なお、制御装置200を構成するECUは、複数のECUの集合であってもよい。
【0044】
メモリ204に記憶されるデータ208には高精度地図情報が含まれている。高精度地図情報は高精度地図データベース210によって管理されている。高精度地図データベース210で管理される高精度地図情報には、例えば、道路の位置情報、道路形状の情報、交差点の分岐点の情報、道路構造物の情報などが含まれる。高精度地図データベース210はSSDやHDDなどの補助記憶装置に予め格納されている。ただし、インターネットを介してサーバから高精度地図情報がダウンロードされてもよいし、サーバ上の高精度地図情報が参照されるのでもよい。
【0045】
制御装置200は、追従走行制御に関係する構成として、自己位置推定部211、周辺物体認識部212、追従目標決定部213、追従走行制御部214、方向指示器点滅検知部215、占有領域計算部216、占有領域離脱検知部217、後方高速車両検知部218、前方低速車両検知部219、及び先行車両LC判定部220を備える。これらは、メモリ204に記憶されたプログラム206がプロセッサ202で実行されたときに、制御装置200の機能として実現される。
【0046】
自己位置推定部211は、GPS受信機26で受信した自車両の位置情報と、内部センサ24で検出された自車両の走行状態に関する情報と、高精度地図データベース210から得られる高精度地図情報とに基づいて、地図上における自車両の位置を推定する。走行状態に関する情報には、例えば、車速情報、加速度情報、ヨーレート情報などが含まれる。また、自己位置推定部211は、外部センサ22で検出された特徴物の自車両に対する相対位置と、内部センサ24で検出された自車両の走行状態に関する情報と、検出された特徴物の地図上における位置とを用いて自車両の位置を推定することもできる。
【0047】
周辺物体認識部212は、外部センサ22から受け取った情報に対し、パターンマッチングやディープラーニングなどの手法を用いて自車両の周囲の物体を認識し、その存在位置及び種別を特定する。周辺物体認識部212で認識される対象物体には、例えば、車両、オートバイ、自転車、歩行者などが含まれる。周辺物体認識部212は、位置及び種別が特定された物体を物標として出力する。
【0048】
追従目標決定部213は、周辺物体認識部212から物標情報を取得し、自己位置推定部211から自己位置情報を取得する。追従目標決定部213は取得したこれらの情報に基づいて追従走行制御における追従目標を決定する。詳しくは、
図1に例示されるように、自車両2と同一のレーン10を走行する先行車両の内で自車両2に最も近い先行車両4を追従目標に決定する。
【0049】
追従走行制御部214は、追従目標決定部213で決定された追従目標に対して自車両を追従走行させるためのアクチュエータ操作量を計算する。詳しくは、設定車速を超えない範囲内で、追従目標である先行車両との車間距離が適正距離に保たれるようにアクチュエータ操作量を計算する。制御装置200からアクチュエータ30へは、追従走行制御部214で計算されたアクチュエータ操作量を含む操作信号が送信される。
【0050】
方向指示器点滅検知部215は、追従目標決定部213により追従目標とされた先行車両の方向指示器の点滅を検知する。方向指示器の点滅は、例えば先行車両を撮影したカメラ画像を画像処理することによって検知することができる。また、方向指示器点滅検知部215は、左右のどちらの側の方向指示器が点滅しているのか判定する。
図2に示す例では左側の方向指示器4aが点滅していると判定される。方向指示器点滅検知部215による検知結果は先行車両LC判定部220に入力される。
【0051】
占有領域計算部216は、自車両が現在のレーンを走行するときに占有する占有領域を計算する。占有領域の計算には、自己位置情報と高精度地図情報とが用いられる。高精度地図情報から得られるレーンの形状とレーン上での自車両の横位置とに基づいて占有領域が計算される。
図3に例示される占有領域16は自車両2から前方に真っ直ぐに伸びているが、レーンがカーブしている場合には、占有領域もレーンに沿ってカーブするように計算される。なお、占有領域の計算に用いる自車両の最大幅は、予めメモリ204に記憶されたデータ208に含まれている。
【0052】
占有領域離脱検知部217は、先行車両の占有領域からの離脱を検知する。先行車両の占有領域からの離脱は、地図上での占有領域の位置と先行車両の位置とを比較することによって検知することができる。
図4に示す例では、左方向に移動している先行車両4の右側の端部が占有領域16の外に出たときに、先行車両4が占有領域16から離脱したと判定される。また、占有領域離脱検知部217は、先行車両が占有領域の左右のどちらの側に離脱したのか判定する。占有領域離脱検知部217による検知結果は先行車両LC判定部220に入力される。
【0053】
後方高速車両検知部218は、周辺物体認識部212で認識された物標の中から先行車両の後方の高速車両を検知する。隣接レーンを走行する車両が検知対象である高速車両に該当するかどうかは、追従目標である先行車両との位置関係と、自車両に対する相対速度とに基づいて判定される。また、自車両を基準とする所定の検知範囲内に位置する車両であることも、検知対象である高速車両として判定される条件の1つである。
図5に示す例では、隣接レーン11を走行する先行車両4の後方の車両6は、自車両2よりも速い速度で走行しているので、先行車両4にレーンチェンジを躊躇させる後方高速車両であると判定される。後方高速車両検知部218による検知結果は先行車両LC判定部220に入力される。
【0054】
前方低速車両検知部219は、周辺物体認識部212で認識された物標の中から先行車両の前方の低速車両を検知する。隣接レーンを走行する車両が検知対象である低速車両に該当するかどうかは、追従目標である先行車両との位置関係と、追従目標である先行車両に対する相対速度とに基づいて判定される。また、自車両を基準とする所定の検知範囲内に位置する車両であることも、検知対象である低速車両として判定される条件の1つである。
図6に示す例では、隣接レーン11を走行する先行車両4の前方の車両8は、先行車両4よりも低い速度で走行しているので、先行車両4にレーンチェンジを躊躇させる前方低速車両であると判定される。前方低速車両検知部219による検知結果は先行車両LC判定部220に入力される。
【0055】
先行車両LC判定部220は、方向指示器点滅検知部215、占有領域離脱検知部217、後方高速車両検知部218、及び前方低速車両検知部219の各検知結果に基づいて、追従目標である先行車両がレーンチェンジ(LC)を行うかどうか判定する。この判定は、上述のフローチャートに従って行われる(
図7参照)。つまり、先行車両の方向指示器の点滅が検知され、且つ、先行車両の占有領域からの離脱が検知された場合において、後方高速車両が検知されず、且つ、前方低速車両も検知されない場合、先行車両はレーンチェンジを行なうと判定される。先行車両がレーンチェンジを行なうと判定した場合、先行車両LC判定部220は追従目標決定部213に対して追従目標の変更を指示する。
【0056】
追従目標決定部213は、先行車両LC判定部220からの指示を受けて現在の先行車両を追従目標から除外する。除外した先行車両の前方に別の先行車両が存在する場合、追従目標決定部213は、その先行車両を新たな追従目標に決定する。この場合、追従走行制御部214は、設定速度の範囲内で、新たに追従目標に決定された先行車両に自車両を追従走行させるようにアクチュエータ操作量を計算する。一方、除外した先行車両の前方には車両が存在しない場合、追従走行制御部214は、設定速度まで自車両を加速させるようにアクチュエータ操作量を計算する。
【0057】
4.その他の実施形態
図8に示す自動運転システムでは、高精度地図情報を用いて推定された自車両の地図上の位置に基づき追従目標を決定し、また、占有領域を計算している。しかし、高精度地図情報を用いる代わりに、カメラ画像から認識される区画線との位置関係に基づき追従目標を決定し、また、占有領域を計算してもよい。
【0058】
本開示の自動運転方法は、先行車両が追い越しレーンから走行レーンにレーンチェンジするシーンだけでなく、先行車両が走行レーンから追い越しレーンにレーンチェンジするシーンにも適用可能である。さらに、3レーン以上のレーン数を有する道路の場合、先行車両が第1の走行レーンから隣接する第2の走行レーンにレーンチェンジするシーンにも本開示の自動運転方法は適用可能である。
【0059】
自車両と先行車両との間で車車間通信を行うことができる場合、先行車両の隣接レーンへのレーンチェンジの意思表示を車車間通信によって取得してもよい。例えば、先行車両が自動でレーンチェンジを行う自動運転車両である場合、先行車両はレーンチェンジの開始フラグがオンになったことを車車間通信によって後続車両に送信してもよい。そして、後続車両である自車両は、開始フラグのオン信号を先行車両が発したレーンチェンジの意思表示として検知してもよい。
【0060】
後方高速車両の判断基準を自車両の速度に代えて先行車両の速度としてもよい。つまり、先行車両の後方に隣接レーンを先行車両よりも高速で走行する車両が検知された場合、その車両を後方高速車両として判断してもよい。
【0061】
本開示の自動運転システムは、車載コンピュータと、車載コンピュータとネットワークで接続されたサーバとで構成することもできる。この場合、本開示の自動運転システムの機能の一部をサーバに持たせてもよい。
【符号の説明】
【0062】
2 自車両
4 先行車両
6 高速車両
8 低速車両
10 レーン
11 隣接レーン
12,13,14 区画線
16 占有領域
100 自動運転システム