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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】インホイールモータのケース構造
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/027 20120101AFI20240723BHJP
   F16H 57/029 20120101ALI20240723BHJP
   B60K 7/00 20060101ALI20240723BHJP
   H02K 5/10 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
F16H57/027
F16H57/029
B60K7/00
H02K5/10 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021133551
(22)【出願日】2021-08-18
(65)【公開番号】P2023028076
(43)【公開日】2023-03-03
【審査請求日】2023-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】吉末 監介
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-35878(JP,A)
【文献】特開2009-2409(JP,A)
【文献】特開2011-193559(JP,A)
【文献】再公表特許第2015/083700(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/027
F16H 57/029
B60K 7/00
H02K 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されるインホイールモータの外殻を形成するケースと、前記ケースに設けられ、前記ケースの内側と前記ケースの外側との間で空気を流通させる通気孔と、前記ケースの外側から前記通気孔を覆うカバーと、を備えたインホイールモータのケース構造であって、
前記通気孔は、前記カバー内で前記ケースの外側に開口する開口部を有しており、
前記カバーは、鉛直方向における前記開口部の開口位置よりも下方に位置して前記カバーの外側に開口する空気穴と、鉛直方向における前記空気穴の開口位置よりも上方で空気を保持する空気室と、を有し、
前記空気室は、鉛直方向における前記開口部の開口位置よりも上方に位置する第1領域と、鉛直方向における前記開口部の開口位置よりも下方に位置する第2領域とに区分され、
前記第2領域は、前記インホイールモータが水没して前記空気穴から前記カバー内に水が浸入する場合に、前記カバー内の鉛直方向における前記水の水位を前記開口部の開口位置よりも下方に抑える空気を保持する容積を有し、
前記ケースの外側から前記ケースの表面を覆い、所定の体積の空気を保持するフード部材と、前記フード部材の内部と前記第2領域との間で空気を連通する接続部材と、を更に備えている
ことを特徴とするインホイールモータのケース構造。
【請求項2】
請求項1に記載のインホイールモータのケース構造であって、
前記第2領域の容積は、前記ケース内の温度が低下して前記ケース内の空気が収縮する場合に、前記開口部から前記ケース内に吸い込まれることが想定される最大の空気量に相当する体積よりも大きい
ことを特徴とするインホイールモータのケース構造。
【請求項3】
請求項2に記載のインホイールモータのケース構造であって、
前記第2領域の容積は、常温時に前記ケース内に存在する空気の体積の20%よりも大きい
ことを特徴とするインホイールモータのケース構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動力源として車両に搭載されるインホイールモータの構成要素を収容するケースの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インホイールモータのケーシングに設けられるブリーザホースの配管レイアウトを容易にすることを目的としたインホイールモータのブリーザ構造に関する発明が記載されている。この特許文献1に記載されたインホイールモータのブリーザ構造は、インホイールモータと、インホイールモータのケーシングの内側に連通してケーシングの外側の表面から延び出るブリーザホース(ブリーザ、および、ブリーザに連通する管状部材)と、インホイールモータを車体側メンバに取り付けて支持するサスペンション部材(トレーリングアーム)と、サスペンション部材に取り付けられてブリーザホースを覆うカバーと、を備えている。そして、ブリーザホースは、先端の開口部がカバーの内部に位置するように、カバーと共にサスペンション部材に取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-60422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1に記載されたインホイールモータのブリーザ構造では、従来の構成ではエンジンルーム内に配置されていたブリーザホースの先端の開口部が、サスペンションのトレーリングアームの位置に配置されている。それにより、ブリーザホースの長さを短縮し、ブリーザホースの配管レイアウトを容易にしている。また、ブリーザホースを覆ってトレーリングアームに取り付けられているカバーにより、外部から飛来する石や砂あるいは泥土などの異物から、ブリーザホースを保護することができる。しかしながら、特許文献1に記載されたインホイールモータのブリーザ構造では、ブリーザホースからインホイールモータのケーシング内に水が浸入してしまうおそれがある。
【0005】
例えば、インホイールモータを搭載した車両が、大雨や洪水で冠水した道路を走行するような場面、あるいは、オフロード走行において水たまりや河川を走行するような場面では、車両のタイヤ全体が水没してしまう、すなわち、インホイールモータが水没してしまう状況が想定される。そのような状況では、サスペンションのトレーリングアームも水没してしまう可能性がある。したがって、特許文献1に記載されたインホイールモータのブリーザ構造では、トレーリングアームに取り付けられているブリーザホースも水没してしまう可能性がある。そのため、ブリーザホースの先端の開口部からインホイールモータのケーシング内に、雨水や泥水が入り込んでしまうおそれがある。更に、上記のようにインホイールモータが水没してしまうと、ケーシング内の温度が低下してケーシング内の空気の体積が収縮し、それに伴ってケーシング内の圧力が減少して大気圧よりも低くなる。すなわち、ケーシング内がいわゆる負圧の状態になる。そのような場合には、ブリーザホースが浸水するだけにとどまらず、ブリーザホースからインホイールモータのケーシング内に、雨水や泥水を吸い込んでしまうおそれがある。
【0006】
この発明は、上記のような技術的課題に着目して考え出されたものであり、車両のタイヤが水没してしまうような状況であっても、インホイールモータのケースの内側に水が浸入してしまう事態を、簡単な構成で、確実に抑制することが可能なインホイールモータのケース構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明は、車両に搭載されるインホイールモータの外殻を形成するケースと、前記ケースに設けられ、前記ケースの内側と前記ケースの外側との間で空気を流通させる通気孔(例えば、ブリーザ)と、前記ケースの外側から前記通気孔を覆うカバーと、を備えたインホイールモータのケース構造であって、前記通気孔は、前記カバー内で前記ケースの外側に開口する開口部を有しており、前記カバーは、鉛直方向における前記開口部の開口位置よりも下方に位置して前記カバーの外側に開口する空気穴と、鉛直方向における前記空気穴の開口位置よりも上方の内側で空気を保持する空気室と、を有し、前記空気室は、鉛直方向における前記開口部の開口位置よりも上方に位置する第1領域と、鉛直方向における前記開口部の開口位置よりも下方に位置する第2領域とに区分され、前記第2領域は、前記インホイールモータが水没して前記空気穴から前記カバー内に水が浸入する場合に、前記カバー内の鉛直方向における前記水の水位を前記開口部の開口位置よりも下方に抑える空気を保持する容積を有し、前記ケースの外側から前記ケースの表面を覆い、所定の体積の空気を保持するフード部材と、前記フード部材の内部と前記第2領域との間で空気を連通する接続部材と、を更に備えていることを特徴とするものである。
【0008】
また、この発明における前記第2領域の容積は、前記ケース内の温度が低下して前記ケース内の空気(の体積)が収縮する場合に、すなわち、前記ケース内の空気が収縮して、前記ケース内が負圧になる場合に、前記開口部から前記ケース内に吸い込まれることが想定される最大の空気量に相当する体積よりも大きくてもよい。
【0009】
また、この発明における前記第2領域の容積は、(例えば、20℃前後の)常温時に前記ケース内に存在する空気の体積の20%よりも大きくてもよい。
【発明の効果】
【0011】
この発明のインホイールモータのケース構造では、ケースの内側と外側との間で空気を流通させる通気孔を覆って保護するカバーが設けられる。カバーには、カバーがケースに取り付けられた状態での鉛直方向における下端部分に、空気穴が形成されている。カバーは、その空気穴の部分だけで外部に開口している。したがって、カバーの鉛直方向における空気穴よりも上方の内側部分に、カバー内の空気を保持する空気室が形成されている。空気室は、通気孔よりも上側の第1領域と、通気孔よりも下側の第2領域とに区分することができる。そのうちの第2領域は、カバーの空気穴から水が浸入した場合に、カバー内の鉛直方向における水の水位を開口部の開口位置よりも下方に抑える空気を保持する容積を有している。そのため、カバー内に水が浸入したとしても、カバー内の通気孔からケースの内側まで水が入り込んでしまうことを抑制できる。したがって、この発明のインホイールモータのケース構造によれば、インホイールモータが水没してしまい、通気孔を取り付けたケースも水没してしまうような状況であっても、ケースの内側に水が浸入してしまうことを、簡素な形状のカバーを設けた構成によって、容易に抑制することができる。
【0012】
また、この発明のインホイールモータのケース構造では、上記のような空気室の第2領域の容積が、ケース内がいわゆる負圧になった際にケース内に吸い込まれる可能性のある空気量に相当する体積よりも大きくなるように、空気室、すなわち、カバーが形成される。そのため、例えば、インホイールモータが水没してしまい、それに伴い、インホイールモータのケース内の温度が低下してケース内が負圧になり、カバー内の空気がケース内に吸い込まれてしまう場合に、カバー内の第1領域まで水が浸入してしまうことを回避できる。したがって、この発明のインホイールモータのケース構造によれば、インホイールモータが水没してしまい、カバー内に水が浸入したとしても、カバー内の通気孔からケースの内側まで水が入り込んでしまうことを、確実に抑制することができる。
【0013】
また、この発明のインホイールモータのケース構造では、例えば、ケース内の空気の温度が約70℃から約20℃に低下する場合、すなわち、約50℃の温度差が生じて、空気の体積が約18.3%変化する場合を想定して、上記のような空気室の第2領域の容積が設定される。具体的には、空気室の第2領域の容積が、例えば、20℃前後の常温時にケース内に存在する空気の体積の20%(≒18.3%)よりも大きくなるように、空気室、すなわち、カバーが形成される。そのため、例えば、稼働中のインホイールモータが水没した際に、ケース内の温度が70℃程度の高温から20℃程度まで低下し、それに伴い、ケース内の空気の体積が約18.3%減少してケース内が負圧になってしまうような場合に、カバー内の第1領域まで水が侵入してしまうことを回避できる。したがって、この発明のインホイールモータのケース構造によれば、インホイールモータが水没してしまい、カバー内に水が浸入したとしても、カバー内の通気孔からケースの内側まで水が入り込んでしまうことを、確実に抑制することができる。
【0014】
そして、この発明のインホイールモータのケース構造では、インホイールモータのケースの外側からケースの表面を覆い、内側部分に所定の体積の空気を保持するフード部材(または、他のカバー部材)、および、フード部材の内側部分と、上記のような空気室の第2領域との間で空気を連通する接続部材が設けられる。空気室の第2領域とフード部材の内部とは、接続部材によって、気密が保たれた状態で連通される。そのため、フード部材内で空気を保持する部分の容積を、空気室の第2領域の容積に付加することができる。それによって、空気室の第2領域の容積を設定する場合の自由度を高めることができる。したがって、この発明のインホイールモータのケース構造によれば、インホイールモータが水没してしまい、通気孔を取り付けたケースも水没してしまうような状況であっても、ケースの内側に水が浸入してしまうことを、容易に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明に係るインホイールモータのケース構造の構成を説明するための図であって、この発明に係るインホイールモータのケース構造の外観(カバーを取り除いた状態の通気孔、および、通気孔の開口部)を示す斜視図である。
図2】この発明に係るインホイールモータのケース構造の構成を説明するための図であって、この発明に係るインホイールモータのケース構造の外観(カバーを取り付けた状態の通気孔とカバーとの位置関係)を示す斜視図である。
図3】この発明に係るインホイールモータのケース構造の構成を説明するための図であって、鉛直方向における通気孔の開口部の開口位置とカバーの空気穴の開口位置との位置関係を示す斜視図である。
図4】この発明に係るインホイールモータのケース構造の構成を説明するための図であって、この発明のインホイールモータのケース構造における通気孔およびカバーの詳細を示す断面図であり、インホイールモータのケースが水没した状態を示す断面図である。
図5】この発明に係るインホイールモータのケース構造の構成を説明するための図であって、この発明のインホイールモータのケース構造における通気孔およびカバーの詳細を示す断面図であり、インホイールモータのケースが水没した際に、ケースの内側が負圧になって通気孔から所定量の空気が吸い込まれた状態を示す断面図である。
図6】この発明に係るインホイールモータのケース構造の構成を説明するための図であって、ケーブル保護用のフード部材の内部とカバー内の空気室における第2領域との間を連通する接続部材を設けた例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の実施形態を、図を参照して説明する。なお、以下に示す実施形態は、この発明を具体化した場合の一例に過ぎず、この発明を限定するものではない。
【0017】
この発明の実施形態におけるインホイールモータのケース構造で対象にするインホイールモータは、例えば、電気自動車、あるいは、ハイブリッド車両などの電動車両に搭載される。インホイールモータは、車輪を取り付けるホイールハブやアクスルシャフトなどと一体にモータを組み込み、これらをホイールと共に懸架装置(サスペンション機構)を介して車体に取り付けられる。この発明の実施形態におけるインホイールモータの一例として、図1図2図3に、モータと減速機構とを組み合わせたモータユニット(インホイールモータ)1を示してある。図1図2図3に示すモータユニット1は、それぞれ、ケース2に収容された駆動用のモータ(図示せず)、および、モータのトルクを増幅する減速機構(図示せず)から構成されている。
【0018】
なお、モータユニット1を構成するモータは、例えば、永久磁石式の同期モータ、あるいは、誘導モータなどによって構成されている。モータは、少なくとも、電力が供給されることにより駆動されてトルクを出力する原動機としての機能を有している。また、モータは、外部からトルクを受けて駆動されることによって電力を発生する発電機として機能させてもよい。すなわち、モータは、原動機としての機能と発電機としての機能とを兼ね備えた、いわゆるモータ・ジェネレータであってもよい。モータには、インバータ(図示せず)を介して、バッテリ(図示せず)が接続されている。したがって、バッテリに蓄えられている電力をモータに供給し、モータを原動機として機能させて、駆動トルクを出力する。また、車輪(図示せず)から伝達されるトルクによってモータを発電機として機能させて、その際に発生する回生電力をバッテリに蓄えることもできる。更に、走行中にモータを回生制御して、その際に発生する回生トルクで車輪を制動することができる。
【0019】
また、減速機構は、例えば、互いに平行な二軸(図示せず)の間に設けられた減速ギヤ対(図示せず)によって構成されている。具体的には、減速機構は、モータの回転軸(図示せず)に取り付けられたドライブギヤ(図示せず)と、モータユニット1の出力軸(図示せず)に取り付けられ、ドライブギヤに噛み合っているドリブンギヤ(図示せず)とを有している。ドリブンギヤは、ドライブギヤよりも径が大きく、かつ、ドライブギヤよりも歯数が多くなっている。したがって、これらドライブギヤとドリブンギヤとのギヤ対によって、モータの回転軸(ロータ軸)の回転速度を減速する、すなわち、モータの出力トルクを増幅する減速機構が構成されている。なお、図1図2図3に示す実施形態では、減速機構の出力軸、すなわち、モータユニット1の出力軸に、ホイールハブ3が取り付けられている。このホイールハブ3に、車輪のホイール(図示せず)が取り付けられる。また、この発明の実施形態におけるインホイールモータは、上記のようなモータユニット1に限らず、例えば、遊星歯車機構やその他の構成の減速機構と、モータとを組み合わせたモータユニットであってもよい。また、減速機構を用いずに、直接、モータにホイールを取り付ける構成のインホイールモータであってもよい。
【0020】
ケース2は、上記のように、減速機構、ならびに、コイル、ステータ、および、ロータなど(いずれも図示せず)、モータの構成要素を収容している。言い換えると、ケース2は、モータユニット1、すなわち、この発明の実施形態におけるインホイールモータの外殻を形成している。ケース2の内部には、モータユニット1のモータおよび減速機構を潤滑および冷却するためのオイル(図示せず)が注入されている。そのため、ケース2は、ケース2からオイルの漏出を防ぐために、シール材やパッキンなど(いずれも図示せず)を用いて密閉されている。但し、モータユニット1が稼働してケース2内の温度が上昇すると、密閉されたケース2内の圧力も上昇する。そのため、ケース2には、ケース2内の過剰な圧力の上昇を抑制するための通気孔4が設けられている。
【0021】
通気孔4は、図4に示すように、円筒形状の部材によって形成されている。通気孔4は、鉛直方向(図4の上下方向)におけるケース2の上部に、ケース2の内側とケース2の外側とを貫通して設けられている。そのため、通気孔4は、ケース2の内側(図4の下側)に開口する部分と、ケース2の外側(図4の上側)に開口する部分とを有している。そのうち、ケース2の外側に開口する部分が、この発明の実施形態における開口部5になっている。したがって、通気孔4は、ケース2の内側とケース2の外側との間で空気を流通させる。例えば、モータユニット1が稼働してケース2内の温度が上昇すると、それに伴ってケース2内の空気の体積が膨張する。その際に膨張する空気は、通気孔4の開口部5からケース2の外側に逃がされる。そのため、ケース2内の圧力の上昇が抑制される。
【0022】
更に、この発明の実施形態におけるインホイールモータのケース構造では、図2図3図4に示すように、ケース2に、通気孔4の開口部5から水や異物が浸入してしまうことを防止するために、ケース2の外側から通気孔4を覆うカバー6が設けられている。カバー6は、ケース2の外側から通気孔4を覆うように、ケース2に取り付けられている。例えば、カバー6は、所定の剛性および強度を有する樹脂または金属を材料として、ケース2とは別体に成形され、ケース2の外表面に取り付けられている。あるいは、カバー6は、ケース2の外側から通気孔4を覆うように、ケース2と一体に形成されている。例えば、カバー6は、後述するカバー6の内側の空気室7が設けられるように、ケース2と一体に形成されている。
【0023】
なお、上記の図2図3、および、後述する図6では、便宜上、カバー6で覆われる通気孔4が透過して見えるように、カバー6の形状の輪郭を二点鎖線で示してある。また、図1では、便宜上、カバー6を省いた状態、または、カバー6を取り付ける前の状態を示してある。また、上記の図2図3、および、後述する図6では、カバー6は、直方体状の形状になっているが、この発明の実施形態におけるカバー6の形状は、そのような直方体形状に限らず、例えば、円筒形状や半球形状などであってもよい。
【0024】
そして、この発明の実施形態におけるカバー6は、空気室7、および、空気穴8を有している。
【0025】
空気室7は、カバー6の内側に形成される空間であり、カバー6がケース2に取り付けられた状態で、または、カバー6がケース2と一体に形成された状態で、カバー6の内側で空気を保持する。この空気室7の鉛直方向(図4の上下方向)における下方に、後述する空気穴8が形成されている。したがって、空気室7は、カバー6の内側で、かつ、鉛直方向における空気穴8の開口位置よりも上方で、空気を保持するように構成されている。
【0026】
また、空気室7は、第1領域9と、第2領域10とに区分される。第1領域9は、カバー6が通気孔4を覆っている状態で、鉛直方向における通気孔4の開口部5の開口位置よりも上方に位置する空気室7の領域である。第2領域10は、カバー6が通気孔4を覆っている状態で、鉛直方向における通気孔4の開口部5の開口位置よりも下方に位置する空気室7の領域である。
【0027】
空気穴8は、鉛直方向における通気孔4の開口部の開口位置よりも下方の位置に、カバー6の外側に開口するように形成されている。したがって、カバー6の内側、すなわち、空気室7内の空気は、この空気穴8を通って、カバー6の内側と外側との間を流通することが可能になっている。
【0028】
上記のように、カバー6の空気室7には、鉛直方向における通気孔4の開口部5の開口位置よりも下方に位置する第2領域10が形成されている。この第2領域10は、図4に示すように、モータユニット1が水没して、カバー6の空気穴8からカバー6内に水が浸入する場合に、カバー6内の鉛直方向における水の水位を、通気孔4の開口部5の開口位置よりも下方に抑える空気を保持する容積Vを有している。言い換えると、カバー6の空気室7における第2領域10の容積として、上記のような容積Vが確保されるように、カバー6が形成されている。
【0029】
具体的には、第2領域10の容積Vは、モータユニット1のケース2内の温度が低下して、ケース2内の空気の体積が収縮する場合(すなわち、ケース2内の空気が収縮して、ケース2内がいわゆる負圧になる場合)に、通気孔4の開口部からケース2内に吸い込まれることが想定される最大の空気量に相当する体積よりも大きくなっている。
【0030】
例えば、モータユニット1の稼働中に、モータユニット1が水没してしまった場合には、ケース2内の空気の温度が70℃前後から20℃前後に低下する、すなわち、ケース2内の空気に50℃前後の温度差が生じることが想定される。前述したように、ケース2には通気孔4が設けられており、ケース2内の圧力は、ほぼ一定に維持される。したがって、上記のようにケース2内の空気に50℃前後の温度差が生じる場合、空気の熱膨張率を“0.00366/K”として計算すると、ケース2内の空気の体積は、約18.3%変化すると推定できる。ケース2内の空気の温度が70℃前後から20℃前後に低下する場合は、ケース2内の空気の体積が約18.3%減少すると推定できる。そこで、この発明の実施形態におけるインホイールモータのケース構造では、カバー6の空気室7における第2領域10の容積Vが、例えば、20℃前後の常温時にケース2内に存在する空気の体積の20%(≒18.3%)よりも大きくなるように、空気室7、すなわち、カバー6が形成される。そのため、例えば、稼働中のモータユニット1が水没した際に、ケース2内の温度が100℃前後の高温から20℃前後まで低下し、それに伴い、ケース2内の空気の体積が約18.3%減少してケース2内が負圧になってしまうような場合に、カバー6の第1領域9まで水が浸入してしまうこと、すなわち、カバー6内の通気孔4の開口部5の位置まで水が浸入してしまうことを回避できる。したがって、この発明の実施形態におけるインホイールモータのケース構造によれば、モータユニット1が水没してしまい、カバー6内に水が浸入したとしても、カバー6内の通気孔4からケース2の内側まで水が入り込んでしまうことを、確実に抑制することができる。
【0031】
図6に、この発明の実施形態におけるインホイールモータのケース構造の他の構成例を示してある。なお、以下の図6で図示して説明するモータユニット1において、上述した図1図2図3図4図5で示したモータユニット1と構成や機能が同じ部材もしくは部品等については、図1図2図3図4図5で用いた参照符号と同じ参照符号を付けてある。
【0032】
図6に示すモータユニット1は、上記の図1図2図3図4図5で示した構成に加えて、フード部材11、および、接続部材12を備えている。
【0033】
フード部材11は、ケース2の外側からケース2の表面を覆い、所定の体積の空気を保持する。例えば、フード部材11は、ケース2の外表面に布設される電気ケーブル(図示せず)を保護するために、ケース2の外側から、ケース2の表面、および、電気ケーブル等を覆っている。フード部材11は、所定の剛性および強度を有する樹脂または金属を材料として、ケース2とは別体に成形され、ケース2の外表面に取り付けられた、他の(カバー6と異なる)カバー部材である。ケース2の外表面とフード部材11との間には、フード部材11の内側への水や異物の浸入を防止するため、シール材あるいはパッキン(図示せず)が設けられている。したがって、フード部材11の内側の空間には、所定の体積の空気が保持されている。
【0034】
接続部材12は、フード部材11の内部と、カバー6の空気室7における第2領域10との間で空気を連通する。例えば、接続部材12は、硬質の管状部材、あるいは、可撓性のあるチューブ状またはホース状の部材によって形成されている。接続部材12の両端は、それぞれ、カバー6とフード部材11とに、空気の流通が可能なように接続されている。すなわち、カバー6の第2領域10とフード部材11の内部とは、接続部材12によって、気密が保たれた状態で連通されている。そのため、フード部材12内で空気を保持する部分の容積を、空気室7における第2領域10の容積に付加することができる。それによって、空気室7における第2領域10の容積を設定する場合の自由度を高めることができる。
【0035】
以上のように、この発明の実施形態におけるインホイールモータのケース構造では、ケース2の内側と外側との間で空気を流通させる通気孔4を覆って保護するカバー6が設けられる。カバー6には、カバー6がケース2に取り付けられた状態での鉛直方向における下端部分に、空気穴8が形成されている。カバー6は、その空気穴8の部分だけで外部に開口している。したがって、カバー6の鉛直方向における空気穴8よりも上方の内側部分に、カバー6内の空気を保持する空気室7が形成されている。空気室7は、通気孔4よりも上側の第1領域9と、通気孔4よりも下側の第2領域10とに区分することができる。そのうちの第2領域10は、カバー6の空気穴8から水が浸入した場合に、カバー6内の鉛直方向における水の水位を、通気孔4開口部5の開口位置よりも下方に抑える空気を保持する容積を有している。そのため、カバー6内に水が浸入したとしても、カバー6内の通気孔4からケース2の内側まで水が入り込んでしまうことを抑制できる。
【0036】
したがって、この発明の実施形態におけるインホイールモータのケース構造によれば、モータユニット1(インホイールモータ)が水没してしまい、通気孔4を取り付けたケース2も水没してしまうような状況であっても、ケース2の内側に水が浸入してしまうことを、上記のような簡素な形状のカバー6によって、容易に抑制することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 モータユニット(インホイールモータ)
2 ケース
3 ホイールハブ
4 通気孔
5 (通気孔の)開口部
6 カバー
7 (カバーの)空気室
8 (カバーの)空気穴
9 (空気室の)第1領域
10 (空気室の)第2領域
11 フード部材
12 接続部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6