(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】固体電池及び固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20240723BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240723BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20240723BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240723BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20240723BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01M10/0585
H01M4/38 Z
H01M4/134
(21)【出願番号】P 2021157682
(22)【出願日】2021-09-28
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】加藤 諒一
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-089814(JP,A)
【文献】特開2018-129222(JP,A)
【文献】特開2017-157305(JP,A)
【文献】特開2007-005279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587;10/36-10/39
H01M4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質を含有する負極層と、正極活物質を含有する正極層と、前記負極層と前記正極層との間に位置し且つ固体電解質を含有する固体電解質層とを有する固体電池であって、
前記固体電解質層が含有する前記固体電解質が、硫化物系固体電解質であり、
前記負極層が、界面形成剤を更に含有し、
前記界面形成剤が、非晶質ガラス状カルシウムアルミノシリケートであり、前記界面形成剤は、前記固体電解質層中の固体電解質を伝導し、電極反応に寄与せず、電極反応に寄与するイオンよりイオン伝導度が低く、イオン半径が1.34Å以下である陽イオンとなり得る金属元素及び半金属元素から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記固体電解質層が、前記正極層との界面及び前記負極層との界面の少なくとも一方に樹枝状構造を有
し、前記樹枝状構造において、前記固体電解質層の界面の樹枝状に伸展した部分が、前記界面形成剤に含まれる前記金属元素及び半金属元素から選ばれる少なくとも1種を含有した硫化物系固体電解質を含む、固体電池。
【請求項2】
前記界面形成剤が、前記金属元素又は半金属元素としてCa、Al、Mg、Na及びBからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項
1に記載の固体電池。
【請求項3】
前記界面形成剤
である前記非晶質ガラス状カルシウムアルミノシリケートが、前記金属元素又は半金属元素の酸化物
としてCaO及びAl
2
O
3
を含
む、請求項1
又は2に記載の固体電池。
【請求項4】
前記界面形成剤の含有量が、前記負極活物質100質量部に対し、1質量部以上5質量部以下である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の固体電池。
【請求項5】
前記負極層が前記負極活物質として、Si又はSnを構成元素とする活物質を含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の固体電池。
【請求項6】
負極活物質を含有する負極層と、正極活物質を含有する正極層と、前記負極層と前記正極層との間に位置し且つ固体電解質を含有する固体電解質層とを有する固体電池の製造方法であって、
両面が平坦な固体電解質層を形成する工程と、
前記固体電解質層の一方の面に、前記負極層を形成する工程と、
前記固体電解質層のもう一方の面に、前記正極層を形成する工程とを有し、
前記固体電解質層が含有する前記固体電解質が、硫化物系固体電解質であり、
前記負極層が、界面形成剤を更に含有し、
前記界面形成剤が、非晶質ガラス状カルシウムアルミノシリケートであり、前記界面形成剤は、前記固体電解質層中の固体電解質を伝導し、電極反応に寄与せず、電極反応に寄与するイオンよりイオン伝導度が低く、イオン半径が1.34Å以下である陽イオンとなり得る金属元素及び半金属元素から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記負極層と、前記固体電解質層と、前記正極層とをこの順に有する積層体に、前記正極活物質の分解及び前記負極活物質上での金属の析出が起こらない電圧範囲で、0.364mAh以下の電流値で1サイクル以上の充放電を行うことにより、前記固体電解質層の前記正極層との界面及び前記負極層との界面の少なくとも一方を、樹枝状構造を有する界面とする工程を更に有する、固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電池及び固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラおよび携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。また、自動車産業界等においても、電気自動車用あるいはハイブリッド自動車用の高出力かつ高容量の電池の開発が進められている。
電池の中でもリチウム二次電池は、金属の中で最大のイオン化傾向を持つリチウムを負極として用いるため、正極との電位差が大きく、高い出力電圧が得られるという点で注目されている。
また、固体電池は、正極と負極の間に介在する電解質として、有機溶媒を含む電解液に替えて固体電解質を用いるという点で注目されている。
【0003】
特許文献1には、正極層の側周面が絶縁層で覆われた全固体電池が開示されている。特許文献1には、このような絶縁層を設けることで短絡を抑制することができ、絶縁層に絶縁性フィラーを含有させることで、絶縁層の表面に細かな凹凸が形成されるので、固体電解質層が絶縁層からより剥がれ落ちにくくすることもできると記載されている。
【0004】
特許文献2には、中空粒子を含有する固体電解質層を備えた全固体電池が開示されている。特許文献2には、初回充電時において活物質の膨張によって電極体水平方向に膨張応力が生じた際には、中空粒子が降伏して潰れることにより膨張応力を緩衝し、固体電解質層に電池性能に影響を及ぼす重大な隙間や亀裂が生じるのを防止することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2021-039876号公報
【文献】特開2019-192563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の固体電池の課題の一つとして、充放電を行った際の活物質の膨張収縮により、固体電解質層と負極層又は正極層との界面が剥離する結果、容量維持率が低下するという問題がある。特許文献1に記載されるような、フィラーにより界面に凹凸を形成する技術や、特許文献2に記載されるような、中空粒子により膨張応力を緩衝する技術を用いても、充放電後の固体電解質層と負極層又は正極層との界面の剥離を十分に抑制するのは困難である。特に、充放電時における膨張収縮の度合いが比較的大きいSi系又はSn系の負極活物質を用いた固体電池においては、充放電後の固体電解質層と負極層又は正極層との界面の剥離が生じやすいため、容量維持率の低下も生じやすい。
【0007】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、容量維持率の低下が抑制された固体電池、及び当該固体電池の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の固体電池は、負極活物質を含有する負極層と、正極活物質を含有する正極層と、前記負極層と前記正極層との間に位置し且つ固体電解質を含有する固体電解質層とを有する固体電池であって、
前記負極層が、界面形成剤を更に含有し、前記界面形成剤は、前記固体電解質層中の固体電解質を伝導し、電極反応に寄与せず、電極反応に寄与するイオンよりイオン伝導度が低く、イオン半径が1.34Å以下である陽イオンとなり得る金属元素及び半金属元素から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記固体電解質層が、前記正極層との界面及び前記負極層との界面の少なくとも一方に樹枝状構造を有することを特徴とする。
【0009】
本開示の固体電池においては、前記固体電解質層が含有する前記固体電解質が、硫化物系固体電解質であってもよい。
【0010】
本開示の固体電池においては、前記界面形成剤が、前記金属元素又は半金属元素としてCa、Al、Mg、Na及びBからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むものであってもよい。
【0011】
本開示の固体電池においては、前記界面形成剤が、前記金属元素又は半金属元素の酸化物を含む非晶質ガラス材料であってもよい。
【0012】
本開示の固体電池においては、前記界面形成剤の含有量が、前記負極活物質100質量部に対し、1質量部以上5質量部以下であってもよい。
【0013】
本開示の固体電池においては、前記負極層が前記負極活物質として、Si又はSnを構成元素とする活物質を含むものであってもよい。
【0014】
本開示の固体電池の製造方法は、負極活物質を含有する負極層と、正極活物質を含有する正極層と、前記負極層と前記正極層との間に位置し且つ固体電解質を含有する固体電解質層とを有する固体電池の製造方法であって、
両面が平坦な固体電解質層を形成する工程と、
前記固体電解質層の一方の面に、前記負極層を形成する工程と、
前記固体電解質層のもう一方の面に、前記正極層を形成する工程とを有し、
前記負極層が、界面形成剤を更に含有し、前記界面形成剤は、前記固体電解質層中の固体電解質を伝導し、電極反応に寄与せず、電極反応に寄与するイオンよりイオン伝導度が低く、イオン半径が1.34Å以下である陽イオンとなり得る金属元素及び半金属元素から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記負極層と、前記固体電解質層と、前記正極層とをこの順に有する積層体に、前記正極活物質の分解及び前記負極活物質上での金属の析出が起こらない電圧範囲で、0.364mAh以下の電流値で1サイクル以上の充放電を行うことにより、前記固体電解質層の前記正極層との界面及び前記負極層との界面の少なくとも一方を、樹枝状構造を有する界面とする工程を更に有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、容量維持率の低下が抑制された固体電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は本開示の固体電池の一例を示す断面模式図である。
【
図2】
図2は実施例2で得た固体電池の断面におけるCa元素マッピング分析の画像である。
【
図3】
図3は実施例1、2及び比較例1で得た固体電池の容量維持率を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示において、数値範囲における「~」とは、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0018】
1.固体電池
本開示の固体電池は、負極活物質を含有する負極層と、正極活物質を含有する正極層と、前記負極層と前記正極層との間に位置し且つ固体電解質を含有する固体電解質層とを有する固体電池であって、
前記負極層が、界面形成剤を更に含有し、前記界面形成剤は、前記固体電解質層中の固体電解質を伝導し、電極反応に寄与せず、電極反応に寄与するイオンよりイオン伝導度が低く、イオン半径が1.34Å以下である陽イオンとなり得る金属元素及び半金属元素から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記固体電解質層が、前記正極層との界面及び前記負極層との界面の少なくとも一方に樹枝状構造を有することを特徴とする。
【0019】
図1は本開示の固体電池の一例を示す断面模式図である。
図1に示すように、固体電池100は、負極活物質層11及び負極集電体12を含む負極層13と、正極活物質層14及び正極集電体15を含む正極層16と、負極層13と正極層16との間に位置する固体電解質層17とを備え、固体電解質層17は、負極層13との界面及び正極層16との界面の両方に樹枝状構造を有している。
【0020】
従来の固体電池では、充放電時等に活物質の膨張収縮が生じると、固体電解質層と負極層又は正極層との界面で剥離が生じ、その結果、容量維持率が低下するという問題があった。これに対し、本開示の固体電池は、固体電解質層と正極層との界面、及び固体電解質層と負極層との界面の少なくとも一方が、樹枝状構造を有する界面であり、樹枝状構造を有する界面が高いアンカー効果を発揮するため、活物質の膨張収縮が生じても界面の剥離が生じ難く、界面の剥離による容量維持率の低下が抑制される。
なお、本開示においては、樹枝状構造を有する界面を、単に樹枝状界面と称する場合がある。
【0021】
従来の固体電池は、固体電解質層の界面が平坦である場合が多い。一方、本開示の固体電池は、負極層が界面形成剤を含有することにより、固体電解質層と正極層との界面、及び固体電解質層と負極層との界面の少なくとも一方が、樹枝状構造を有する界面となっている。
本開示の固体電池に用いられる界面形成剤は、固体電解質層中の固体電解質を伝導し、電極反応に寄与せず、電極反応に寄与するイオンよりイオン伝導度が低く、イオン半径が1.34Å以下である陽イオンとなり得る金属元素及び半金属元素から選ばれる少なくとも1種を含む。当該界面形成剤を含有する負極層と、固体電解質層と、正極層とをこの順に有する積層体に対し、低レートの充放電を行うと、負極層に含まれる界面形成剤中の上記金属元素又は半金属元素は、電気化学反応により陽イオン化する。そして生じた陽イオンは、負極層から固体電解質層へと伝導して、固体電解質層で滞留し固体電解質に保持される。上記陽イオンは、イオン半径が1.34Å以下であるため、電池内での移動は可能であるものの、電極反応に寄与するイオンよりイオン伝導度が低いため、正極層までは到達せず、固体電解質層中に滞留する。固体電解質層中の上記陽イオンの濃度が高くなると、正極層側及び負極層側の少なくとも一方に、上記陽イオンの濃度の高い部分が樹枝状に伸展する。更に、上記陽イオンが固体電解質内に滞留することで組成変化を生じさせて、樹枝状構造を有する界面を形成する。固体電解質層の界面の樹枝状に伸展した部分は、上記陽イオンにより組成変化した固体電解質を含むことで、より高いアンカー効果を有する界面となり、剥離抑制効果が発現すると考えられる。
なお、従来のリチウムイオン電池でしばしば問題となっているリチウムデンドライトは、金属リチウムが析出することにより形成されるものである。本開示の固体電池が有する樹枝状界面は、界面形成剤から発生した陽イオンにより組成変化した固体電解質が樹枝状構造を呈している点で、リチウムデンドライトにより形成される界面と区別することができる。
【0022】
なお、本開示において、電極反応に寄与しないイオンとは、活物質と不可逆的に反応し、又は反応せず、電池の外部回路への取り出す電気エネルギーに寄与しないイオンである。電極反応に寄与するイオンとは、活物質へ可逆的に挿入脱離をすることで活物質の電位を変化させ、電池の外部回路へ電気エネルギーを取り出すためのエネルギーを発生させるイオンである。例えばリチウムイオン電池の場合、電極反応に寄与するイオンは、リチウムイオンであり、電極反応に寄与しないイオンは、リチウムイオン以外の金属元素又は半金属元素のイオンである。
【0023】
本開示において、樹枝状構造とは、樹の枝のような枝分かれを有するパターン状の構造のことであり、例えば、主幹と該主幹から分かれた複数の枝とを有する構造、1箇所から伸びた複数の主幹を有する構造、及びこれらを組み合わせた構造等を挙げることができる。なお、本開示において主幹とは、該主幹から分かれる枝を有していてもよいし、有していなくてもよい。
このような樹枝状構造は、固体電解質層を厚さ方向に切断した断面を500~1000倍の倍率で観察した際に観察できるものであればよい。
また、固体電解質層における樹枝状界面は、固体電解質層を厚さ方向に切断した断面において、固体電解質層から伸びる主幹の数が、幅100μmの領域内に、好ましくは5本以上、より好ましくは7本以上、更に好ましくは10本以上であり、一方、上記主幹の数は、好ましくは40本以下、より好ましくは25本以下、更に好ましくは20本以下である。主幹の数が上記範囲内である樹枝状構造は、固体電解質層の界面の剥離を抑制する効果が特に優れる。
また、固体電解質層の樹枝状界面は、界面の全域に亘って樹枝状構造を有することが好ましい。
【0024】
以下に、本開示の固体電池が備える負極層、正極層及び固体電解質層を構成する材料等について詳細に説明する。
【0025】
[負極層]
本開示の固体電池が有する負極層は、少なくとも負極活物質及び界面形成剤を含有し、単層であっても多層であってもよいが、固体電解質層との界面を形成する層が、界面形成剤を含有する層であることが好ましい。
本開示の固体電池が有する負極層は、典型的には、少なくとも負極活物質及び界面形成剤を含有する負極活物質層と、負極集電体とを含み、負極活物質層が、固体電解質層との界面を形成する。以下に、負極活物質層と負極集電体とを含む負極層について詳細に説明する。
【0026】
[負極活物質層]
負極活物質層は、少なくとも負極活物質及び界面形成剤を含有し、必要に応じ、更に固体電解質、導電材、及びバインダー等を含有する。
【0027】
負極活物質としては、例えば、炭素系負極活物質、Si系負極活物質、及びSn系負極活物質等を挙げることができる。中でも、充放電時の膨張収縮の度合いが比較的大きく、本開示の効果が有効に発揮される点から、Si又はSnを構成元素とする活物質を好適に用いることができ、エネルギー密度が高い点から、Si系負極活物質をより好適に用いることができる。
Si系負極活物質としては、例えば、Si単体、Si合金、ケイ素酸化物、ケイ素炭化物、ケイ素窒化物等が挙げられる。Si合金が含むSi以外の元素としては、例えば、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Sn、Ti等が挙げられる。
Sn系負極活物質としては、例えば、Sn単体、Sn合金、スズ酸化物、スズ窒化物等が挙げられる。Sn合金が含むSn以外の元素としては、例えば、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Ti、Si、Mg等が挙げられる。
【0028】
負極活物質の形状は特に限定されるものではないが、粒子状であってもよい。
負極活物質の平均粒径(D50)は、特に限定はされないが、例えば0.1μm~10μmであってよく、0.5μm~5μmであってもよい。
なお、本開示において、粒子の平均粒径は、特記しない限り、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定により測定される体積基準のメディアン径(D50)の値である。メディアン径(D50)とは、粒径の小さい粒子から順に並べた場合に、粒子の累積体積が全体の体積の半分(50%)となる径(体積平均径)である。
【0029】
負極活物質層に含まれる負極活物質の含有量は、特に限定されないが、例えば、負極活物質層の総質量を100質量%としたとき、20質量%~90質量%であってよく、30質量%~60質量%であってもよい。
【0030】
負極活物質層に含まれる界面形成剤は、固体電解質層と負極層又は正極層との界面を樹枝状構造にするための剤である。
界面形成剤は、固体電解質層中の固体電解質を伝導し、電極反応に寄与せず、電極反応に寄与するイオンよりイオン伝導度が低く、イオン半径が1.34Å以下である陽イオンとなり得る金属元素及び半金属元素から選ばれる少なくとも1種を含む。界面形成剤に含まれる当該金属元素又は半金属元素が、固体電解質層と負極層又は正極層との界面を樹枝状構造とすることに寄与する作用については、上述した通りである。なお、界面形成剤は、電極反応に寄与せず、樹枝状界面の形成にも寄与し得ないその他の金属元素又は半金属元素を更に含有していてもよい。
上記陽イオンのイオン半径は、イオン伝導性の観点から、1.34Å以下であればよい。
なお、本開示においてイオン半径は、シャノンのイオン半径とする。シャノンのイオン半径は、例えば、Shannon et al., "Revised Effective Ionic Radii and Systematic Studies of Interatomie Distances in Halides and Chaleogenides", Acta Cryst. A32, (1976) 751に記載されている。
また、負極層又は正極層が固体電解質を含有する場合、上記陽イオンは、負極層又は正極層中の固体電解質を伝導するものであることが好ましい。
【0031】
本開示においては、固体電解質層が含有する固体電解質が硫化物系固体電解質であり、界面形成剤が含有する上記金属元素及び半金属元素から選ばれる少なくとも1種の陽イオンが、硫化物系固体電解質内を伝導することが好ましい。この場合、樹枝状界面を形成するための低レートの充放電反応過程において、電気化学的に上記陽イオンが硫化物系固体電解質を伝導し、硫化物固体電解質層内に滞留することで組成変化を生じさせることで、固体電解質層の樹枝状界面を、よりアンカー効果の高い界面とすることができる。また、本開示においては、固体電池全体において、含有する固体電解質が硫化物系固体電解質であることが好ましい。
【0032】
リチウムイオン電池の場合、電極反応に寄与するイオンはリチウムイオンである。硫化物系固体電解質を伝導し、リチウムイオン電池の電極反応に寄与せず、リチウムイオンよりイオン伝導度が低く、イオン半径が1.34Å以下である金属元素又は半金属元素の陽イオンとしては、例えば、Ca2+、Al3+、Mg2+、Na+、B3+等を挙げることができる。中でも、アンカー効果の高い樹枝状界面を形成しやすい点から、Ca2+が好ましい。
そのため、本開示に用いられる界面形成剤は、樹枝状界面の形成に寄与し得る金属元素又は半金属元素として、Ca、Al、Mg、Na及びBからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。中でも、樹枝状界面の形成に寄与し得る金属元素を含むことが好ましく、少なくともCa及びAlから選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましく、少なくともCaを含むことが特に好ましい。
【0033】
また、界面形成剤において、樹枝状界面の形成に寄与し得る金属元素又は半金属元素は、酸化物の状態で含まれていることが好ましく、具体的には、界面形成剤が、Ca、Al、Mg、Na及びBからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素又は半金属元素の酸化物を含むことが好ましい。中でも、界面形成剤は、樹枝状界面の形成に寄与し得る金属酸化物を含むことが好ましく、少なくともCaO及びAl2O3から選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましく、少なくともCaOを含むことが特に好ましい。
【0034】
また、アンカー効果の高い樹枝状界面を形成しやすい点から、界面形成剤はガラス材料であることが好ましく、ガラス粉末又はガラスファイバー等の非晶質ガラス材料であることがより好ましい。また、界面形成剤としては、粉砕ガラス等の表面積が比較的大きなガラスを用いることが望ましい。
本開示に用いられる界面形成剤は、例えば、少なくともCa、好ましくはCaOを含有し、更に、Al、Mg、Na及びB等の元素を含有していてもよいガラス材料であってもよい。
【0035】
界面形成剤の形状は、特に限定はされず、例えば、粒子状であってもよく、繊維状であってもよい。粒子状の界面形成剤の平均粒径(D50)は、特に限定されないが、比表面積が適度になりやすく樹枝状界面を形成しやすい点、及び電子伝導パスが確保されやすい点から、好ましくは1μm~20μm、より好ましくは5μm~15μmである。
【0036】
界面形成剤としては、樹枝状界面の形成に寄与し得る上記金属元素又は半金属元素を含むガラス材料の市販品を用いることができる。界面形成剤として使用可能な市販品としては、例えば、VCAS-140(:製品名、Vitro Minerals社製)等を挙げることができる。上記VCAS-140は、非晶質ガラス状カルシウムアルミノシリケート粉末であり、CaO及びAl2O3を含み、更にMg、Na及びBを含む非晶質ガラス材料である。
【0037】
界面形成剤の含有量は、特に限定はされないが、負極活物質100質量部に対し、1質量部以上5質量部以下であることが好ましい。界面形成剤の含有量が上記下限値以上であると、アンカー効果の高い樹枝状界面を形成しやすく、一方、上記上限値以下であると、電子伝導パスが確保されやすいため、抵抗増加を抑制することができる。
なお、界面形成剤中の金属元素及び半金属元素は、樹枝状界面を形成するための低レートの充放電に伴い、イオン化して固体電池内を移動し得るため、界面形成剤の含有量は、固体電池全体に含まれる界面形成剤の構成成分の含有量とし、負極層を形成する際の仕込み量から求められる含有量とする。
また、界面形成剤の一部は、樹枝状界面を形成するための低レートの充放電後も、樹枝状界面の形成に寄与し得る金属元素又は半金属元素を含んだまま、負極層中に残存する。
【0038】
負極活物質層が含んでいてもよい固体電解質としては、例えば、後述する固体電解質層が含有する固体電解質と同様のものを挙げることができる。中でも、固体電解質層と負極層との界面がアンカー効果の高い樹枝状構造になりやすい点から、硫化物系固体電解質を用いることが好ましい。
また、負極活物質層に用いられる固体電解質の平均粒径(D50)は、特に限定されないが、活物質と固体電解質の接触面積をより広くする観点から、好ましくは0.1μm~1.0μm、より好ましくは0.3μm~0.8μmである。
負極活物質層に含まれる固体電解質の含有量は、特に限定されないが、例えば、負極活物質層の総質量を100質量%としたとき、20質量%~70質量%であってよく、30質量%~50質量%であってもよい。
【0039】
負極活物質層が含んでいてもよい導電材としては、公知のものを用いることができ、例えば、炭素材料、及び金属粒子等が挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、VGCF、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種を挙げることができる。中でも、電子伝導性の観点から、VGCF、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。金属粒子としては、Ni、Cu、Fe、及びSUS等の粒子が挙げられる。
【0040】
負極活物質層が含んでいてもよいバインダーとしては、公知のものを用いることができ、例えば、アクリロニトリルブタジエンゴム(ABR)、ブタジエンゴム(BR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等を挙げることができる。
【0041】
[負極集電体]
負極集電体としては、公知のものを用いることができ、特に限定はされない。負極集電体の材料は、Liと合金化しない材料であってもよく、例えば、SUS、銅、及びニッケル等を挙げることができる。
負極集電体の形態としては、特に限定されるものではなく、例えば、箔状、板状、又はメッシュ状等の種々の形態とすることができる。
負極集電体の厚さは、材料及び形態等に応じて適宜調整され、特に限定はされないが、例えば1μm~50μmの範囲内であってもよく、5μm~20μmの範囲内であってもよい。
【0042】
[正極層]
本開示の固体電池が有する正極層は、少なくとも正極活物質を含有し、単層であっても多層であってもよいが、典型的には、正極活物質を含有する正極活物質層と、正極集電体とを含み、正極活物質層が、固体電解質層との界面を形成する。以下に、正極活物質層と正極集電体とを含む正極層について詳細に説明する。
【0043】
[正極活物質層]
正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含み、必要に応じ、更に固体電解質、導電材、及びバインダー等を含有する。
【0044】
正極活物質の種類は特に制限がなく、固体電池の正極活物質として使用可能な材料をいずれも採用可能である。具体的には例えば、金属リチウム(Li)、リチウム合金、LiCoO2、LiNixCo1-xO2(0<x<1)、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiMnO2、異種元素置換Li-Mnスピネル、チタン酸リチウム、リン酸金属リチウム、LiCoN、Li2SiO3、及びLi4SiO4、遷移金属酸化物、TiS2、Si、SiO2、及びリチウム貯蔵性金属間化合物等を挙げることができる。
異種元素置換Li-Mnスピネルは、例えばLiMn1.5Ni0.5O4、LiMn1.5Al0.5O4、LiMn1.5Mg0.5O4、LiMn1.5Co0.5O4、LiMn1.5Fe0.5O4、及びLiMn1.5Zn0.5O4等である。チタン酸リチウムは、例えばLi4Ti5O12等である。リン酸金属リチウムは、例えばLiFePO4、LiMnPO4、LiCoPO4、及びLiNiPO4等である。遷移金属酸化物は、例えばV2O5、及びMoO3等である。リチウム貯蔵性金属間化合物は、例えばMg2Sn、Mg2Ge、Mg2Sb、及びCu3Sb等である。リチウム合金としては、例えば、Li-Au、Li-Mg、Li-Sn、Li-Si、Li-Al、Li-B、Li-C、Li-Ca、Li-Ga、Li-Ge、Li-As、Li-Se、Li-Ru、Li-Rh、Li-Pd、Li-Ag、Li-Cd、Li-In、Li-Sb、Li-Ir、Li-Pt、Li-Hg、Li-Pb、Li-Bi、Li-Zn、Li-Tl、Li-Te、及びLi-At等が挙げられる。
【0045】
正極活物質の表面には、Liイオン伝導性酸化物を含有するコート層が形成されていても良い。コート層を有することにより、正極活物質と、固体電解質との反応を抑制することができる。
コート層に用いられるLiイオン伝導性酸化物としては、例えば、LiNbO3、Li4Ti5O12、及び、Li3PO4等が挙げられる。コート層の厚さは、例えば、0.1nm以上であり、1nm以上であっても良い。一方、コート層の厚さは、例えば、100nm以下であり、20nm以下であっても良い。正極活物質の表面におけるコート層の被覆率は、例えば、70%以上であり、90%以上であっても良い。
【0046】
正極活物質の形状は、特に限定されるものではないが、例えば粒子状であってもよい。
正極活物質の平均粒径(D50)は、特に限定はされないが、例えば1μm~20μmであってよく、5μm~15μmであってもよい。
【0047】
正極活物質層に含まれる正極活物質の含有量は、特に限定されないが、例えば、正極活物質層の総質量を100質量%としたとき、50質量%~95質量%であってよく、70質量%~90質量%であってもよい。
【0048】
正極活物質層が含んでいてもよい固体電解質としては、例えば、後述する固体電解質層が含有する固体電解質と同様のものを挙げることができる。中でも、固体電解質層と正極層との界面がアンカー効果の高い樹枝状構造になりやすい点から、硫化物系固体電解質を用いることが好ましい。
また、正極活物質層に含まれる固体電解質の平均粒径(D50)は、特に限定されないが、活物質と固体電解質の接触面積をより広くする観点から、好ましくは0.1μm~1.0μm、より好ましくは0.3μm~0.8μmである。
正極活物質層に含まれる固体電解質の含有量は、特に限定されないが、例えば、正極活物質層の総質量を100質量%としたとき、5質量%~70質量%であってよく、30質量%~50質量%であってもよい。
【0049】
正極活物質層が含んでいてもよい導電材及びバインダーとしては、負極活物質層が含んでいてもよい導電材及びバインダーと同様のものを挙げることができる。
【0050】
[正極集電体]
正極集電体としては、公知のものを用いることができ、特に限定はされない。正極集電体の材料としては、例えば、SUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタン及びカーボン等を挙げることができる。
正極集電体の形態及び厚さについては、上述した負極集電体と同様である。
【0051】
[固体電解質層]
本開示の固体電池が有する固体電解質層には、固体電池に使用可能な公知の固体電解質を適宜用いることができ、例えば、酸化物系固体電解質、及び硫化物系固体電解質等が挙げられる。中でも、アンカー効果の高い樹枝状界面を形成しやすい点から、硫化物系固体電解質を用いることが好ましい。
【0052】
硫化物系固体電解質としては、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、Li2S-P2S5-GeS2、LiX-Li2S-SiS2、LiX-Li2S-P2S5、LiX-Li2O-Li2S-P2S5、LiX-Li2S-P2O5、LiX-Li3PO4-P2S5、及びLi3PS4等が挙げられる。なお、上記「Li2S-P2S5」の記載は、Li2SおよびP2S5を含む原料組成物を用いてなる材料を意味し、他の記載についても同様である。また、上記LiXの「X」は、ハロゲン元素を示す。上記LiXを含む原料組成物中にLiXは1種又は2種以上含まれていてもよい。LiXが2種以上含まれる場合、2種以上の混合比率は特に限定されるものではない。
LiX-Li2S-SiS2、LiX-Li2S-P2S5、LiX-Li2O-Li2S-P2S5、LiX-Li2S-P2O5、又はLiX-Li3PO4-P2S5としては、例えば、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiBr-LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2O-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5等を挙げることができる。より具体的には、例えば、15LiBr・10LiI・75(0.75Li2S・0.25P2S5)、70(0.06Li2O・0.69Li2S・0.25P2S5)・30LiI等を挙げることができる。
【0053】
酸化物系固体電解質としては、例えばLi元素と、La元素と、A元素(Aは、Zr、Nb、Ta、及びAlの少なくとも1種である)と、O元素とを有するガーネット型の結晶構造を有する物質等が挙げられる。酸化物系固体電解質としては、例えばLi3+xPO4-xNx(1≦x≦3)等であってもよい。
【0054】
また、固体電解質は、固体電解質結晶、非晶性固体電解質、固体電解質ガラスセラミックスのいずれであってもよい。
固体電解質の形状は特に限定されず、粒子状、板状等が挙げられ、取扱い性の観点から粒子状であってもよい。
また、固体電解質の平均粒径(D50)は、特に限定されないが、イオン伝導度の観点から、好ましくは1.0μm~3.0μm、より好ましくは1.5μm~2.5μmである。
【0055】
固体電解質は、1種単独で、又は2種以上のものを用いることができる。2種以上の固体電解質を用いる場合、2種以上の固体電解質を混合して用いてもよい。
固体電解質層中の固体電解質の含有量は、特に限定されるものではないが、固体電解質層の総質量を100質量%としたとき、通常、50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。固体電解質層は、固体電解質からなる層であってもよいが、例えば、可塑性を発現させる等の観点からバインダーを含有させる等、固体電解質とは異なる材料を更に含有していてもよい。固体電解質層が固体電解質とは異なる材料を含有する場合、固体電解質の含有量は、例えば、99.8質量%以下であってもよく、99.6質量%以下であってもよい。
【0056】
固体電解質層が含んでいてもよいバインダーとしては、負極活物質層が含んでいてもよいバインダーと同様のものを挙げることができる。
固体電解質層がバインダーを含有する場合、バインダーの含有量は、特に限定されるものではないが、固体電解質層の総質量を100質量%としたとき、0.2質量%以上であってもよく、0.4質量%以上であってもよい。一方で、高出力化を図り易くするために、固体電解質の過度の凝集を防止し且つ均一に分散された固体電解質を有する固体電解質層を形成可能にする等の観点から、固体電解質層に含有させるバインダーの含有量は5質量%以下とすることが好ましい。
【0057】
本開示の固体電池は、必要に応じ、更に外装体を備えていてもよい。
外装体の材質は、電解質に安定なものであれば特に限定されないが、ポリプロピレン、ポリエチレン、及び、アクリル樹脂等の樹脂等が挙げられる。
【0058】
また、本開示の固体電池は、一次電池であっても良く、二次電池であってもよい。二次電池は繰り返し充放電が可能であり、例えば車載用電池として有用である。また、本開示の固体電池は、固体リチウム二次電池であってもよい。
本開示の固体電池の形状としては、特に限定はされないが、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型、及び角型等を挙げることができる。
【0059】
2.固体電池の製造方法
上述した本開示の固体電池の製造方法は、特に限定はされないが、例えば、
両面が平坦な固体電解質層を形成する工程と、
前記固体電解質層の一方の面に、負極層を形成する工程と、
前記固体電解質層のもう一方の面に、正極層を形成する工程とを有し、
前記負極層が、界面形成剤を更に含有し、前記界面形成剤は、前記固体電解質層中の固体電解質を伝導し、電極反応に寄与せず、電極反応に寄与するイオンよりイオン伝導度が低く、イオン半径が1.34Å以下である陽イオンとなり得る金属元素及び半金属元素から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記負極層と、前記固体電解質層と、前記正極層とをこの順に有する積層体に、正極活物質の分解及び負極活物質上での金属の析出が起こらない電圧範囲で、0.364mAh以下の電流値で1サイクル以上の充放電を行うことにより、前記固体電解質層の前記正極層との界面及び前記負極層との界面の少なくとも一方を、樹枝状構造を有する界面とする工程を更に有する方法を挙げることができる。
【0060】
両面が平坦な固体電解質層、並びに、負極層及び正極層を形成する方法は、従来公知の方法を採用することができ、特に限定はされない。例えば、各層を構成する材料の粉末を加圧成形することにより形成する方法、及び、各層を構成する材料を溶媒中に分散させることによりスラリーを作製し、当該スラリーを支持体上に塗布して乾燥させる方法等を挙げることができる。
なお、両面が平坦な固体電解質層とは、表面に樹枝状構造を有しない固体電解質層であればよく、樹枝状構造とは異なる微細な凹凸を表面に有するものであってもよい。例えば、固体電解質層を厚さ方向に切断した断面を1000倍の倍率で観察した際に、固体電解質層の界面に樹枝状構造を確認できなければ、当該界面は平坦であるとする。
【0061】
固体電解質層の一方の面に形成される負極層は、界面形成剤を含有する層が、固体電解質層と接するように形成されることが好ましく、固体電解質層のもう一方の面に形成される正極層は、正極活物質を含有する層が、固体電解質層と接するように形成されることが好ましい。そのため、負極層が負極活物質層及び負極集電体を含む場合は、負極活物質層が固体電解質層と接するように、固体電解質層の一方の面に負極層を形成することが好ましく、正極層が正極活物質層及び正極集電体を含む場合は、正極活物質層が固体電解質層と接するように、固体電解質層のもう一方の面に正極層を形成することが好ましい。
【0062】
負極層が負極活物質層及び負極集電体を含む場合、又は、正極層が正極活物質層及び正極集電体を含む場合は、集電体上に活物質層を形成した構造体を予め作製してもよい。このような構造体を用いることにより、例えば以下のような方法で、負極層と、両面が平坦な固体電解質層と、正極層とをこの順に有する積層体を得ることができる。
まず、正極集電体上に正極活物質層を形成した正極構造体、及び、負極集電体上に負極活物質層を形成した負極構造体を作製し、一方で、支持体上に固体電解質層を形成する。次いで、固体電解質層と正極活物質層とが接するように、正極構造体を、支持体上に形成された固体電解質層上に積層する。その後、固体電解質層から支持体を剥離することによって、正極活物質層上に固体電解質層を転写する。次いで、支持体を剥離して露出した固体電解質層と負極活物質層とが接するように、負極構造体を、固体電解質層上に積層する。これにより、負極集電体、負極活物質層、両面が平坦な固体電解質層、正極活物質層、及び正極集電体をこの順に有する積層体を作製することができる。
【0063】
上記積層体に、正極活物質の分解及び負極活物質上での金属の析出が起こらない電圧範囲で、0.364mAh以下の電流値で1サイクル以上の充放電を行うことにより、固体電解質層と正極層との界面、及び固体電解質層と負極層との界面の少なくとも一方を、樹枝状構造を有する界面とすることができる。
上記積層体に対して電流値0.364mAh以下の低レートの充放電を行うことにより、固体電解質層と正極層との界面、及び固体電解質層と負極層との界面の少なくとも一方が樹枝状構造を有する界面となる作用については、上述した通りである。
【0064】
上記低レートの充放電において、正極活物質の分解及び負極活物質上での金属の析出が起こらない電圧範囲とは、正極活物質及び負極活物質の種類によって適宜調整され、特に限定はされないが、例えば、2V~5Vの範囲内であってよい。電流値は、0.364mAh以下であればよいが、アンカー効果の高い樹枝状界面が形成されやすい点から、0.300mAh以上であることが好ましい。
また、上記低レートの充放電は、1サイクル以上行えばよいが、アンカー効果の高い樹枝状界面が形成されやすい点から、2~5サイクル行うことが好ましく、2~3サイクル行うことがより好ましい。
【実施例】
【0065】
[実施例1]
(1)正極構造体の作製
正極活物質として、転動流動造粒コーティング装置でLiNbO3コートを行ったLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(平均粒径10μm)と、硫化物固体電解質として10LiI・15LiBr・75(0.75Li2S・0.25P2S5)(mol%、平均粒径0.5μm)と、導電材としてVGCF-Hと、バインダーとしてPVDFを、重量比で、正極活物質:硫化物固体電解質:導電材:バインダー=85.4:12.7:1.3:0.6となるように秤量し、分散媒(ジイソブチルケトン)と共に混合した。得られた混合物を、超音波ホモジナイザー(型式:UH-50、株式会社エスエムテー製)で分散させることにより、正極スラリーを得た。得られた正極スラリーを、正極集電体としてのAl箔(厚さ15μm)上に、アプリケーターを用いたブレードコート法により塗工し、100℃で30分間乾燥させて、正極集電体上に正極活物質層を積層し、1cm2の大きさに打ち抜くことにより、正極活物質層及び正極集電体を有する正極構造体を得た。
【0066】
(2)負極構造体の作製
負極活物質としてSi粒子(平均粒0.8μm)と、硫化物固体電解質として10LiI・15LiBr・75(0.75Li2S・0.25P2S5)(mol%、平均粒径0.5μm)と、導電材としてVGCF-Hと、バインダーとしてSBRと、界面形成剤としてVCAS-140(:製品名、Vitro Minerals社製、平均粒径(D50)12μm)を、重量比で、負極活物質:硫化物固体電解質:導電材:バインダー:VCAS-140=46.8:44.4:6.5:1.4:0.5となるように秤量し、分散媒(ジイソブチルケトン)と共に混合した。得られた混合物を、薄膜旋回型高速ミキサー(フィルミックス(登録商標)30-L型、プライミクス株式会社製)で分散させることにより、負極スラリーを得た。得られた負極スラリーを、負極集電体としてのNi箔(厚さ22μm)上に、アプリケーターを用いたブレードコート法により塗工し、100℃で30分間乾燥させて、負極集電体上に負極活物質層を積層し、1cm2の大きさに打ち抜くことにより、負極活物質層及び負極集電体を有する負極構造体を得た。なお、負極スラリー塗工時のアプリケーターのギャップ(隙間)は、正極活物質容量を207mAh/g、負極活物質容量を3579mAh/gとした場合に、1cm2当たりの負極活物質重量が、正極容量/負極容量=3となるように調整した。
【0067】
(3)固体電解質層の作製
硫化物固体電解質として10LiI・15LiBr・75(0.75Li2S・0.25P2S5(mol%、平均粒径2.0μm)と、バインダーとしてSBRを、重量比で、硫化物固体電解質:バインダー=99.6:0.4となるように秤量し、分散媒(ジイソブチルケトン)と共に混合した。得られた混合物を、超音波ホモジナイザー(型式:UH-50、株式会社エスエムテー製)で分散させることにより、固体電解質スラリーを得た。得られた固体電解質スラリーを、Al箔(厚さ15μm)上に、アプリケーターを用いたブレードコート法により塗工し、100℃で30分間乾燥させて、Al箔上に固体電解質層を積層し、1cm2の大きさに打ち抜くことにより、Al箔付きの固体電解質層を得た。
【0068】
(4)固体電池の作製
Al箔付きの固体電解質層と、正極構造体とを対向させて、固体電解質層と正極活物質層とを重ね合わせ、ロールプレス法により、線圧1.6t/cmでプレスした。その後、固体電解質層からAl箔を剥離することにより、正極活物質層上に固体電解質層を転写した。正極活物質層上に転写された固体電解質層と、負極構造体とを対向させて、固体電解質層と負極活物質層とを重ね合わせ、1軸プレス機により、面圧5.0t/cm2でプレスした。その後、集電用のタブを正極集電体及び負極集電体上に配置し、ラミネート封止した。次いで、低レートの充放電として、25℃の恒温槽内で、0.364mAhで4.05Vになるまで定電流充電を行った後、電流値が0.036mAhになるまで4.05Vにて定電圧充電を行い、0.364mAhで2.5Vになるまで定電流放電を行った後、電流値が0.036mAhになるまで2.5Vにて定電圧放電を行った。これを3回繰り返すことにより、実施例1の固体電池を得た。
【0069】
[実施例2]
実施例1において、上記「(2)負極構造体の作製」において、重量比で、負極活物質:硫化物固体電解質:導電材:バインダー:VCAS-140=45.9:43.5:6.4:1.4:2.3となるように各材料を秤量した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の固体電池を得た。
【0070】
[比較例1]
実施例1において、上記「(2)負極構造体の作製」において、VCAS-140を添加せず、重量比で、負極活物質:硫化物固体電解質:導電材:バインダー=47.0:44.6:6.6:1.4となるように各材料を秤量した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の固体電池を得た。
【0071】
[断面観察]
各実施例及び比較例で作製した固体電池の積層方向の断面について、倍率1000倍でSEM観察を行った。
その結果、各実施例で作製した固体電池の断面では、
図1のように、固体電解質層と負極層との界面、及び固体電解質層と正極層との界面の両方が、界面の全域に亘って樹枝状構造を有していた。より具体的には、実施例1で作製した固体電池の断面では、固体電解質層と負極層との界面において、固体電解質層から伸びる主幹の数が幅100μmの領域内に12~19本であり、固体電解質層と正極層との界面において、固体電解質層から伸びる主幹の数が幅100μmの領域内に7~17本であった。実施例2で作製した固体電池の断面では、固体電解質層と負極層との界面において、固体電解質層から伸びる主幹の数が幅100μmの領域内に17~21本であり、固体電解質層と正極層との界面において、固体電解質層から伸びる主幹の数が幅100μmの領域内に10~22本であった。
一方、比較例1で作製した固体電池の断面では、固体電解質層の界面は平坦であった。
【0072】
[Ca元素マッピング]
各実施例で作製した固体電池の断面について、Ca元素マッピング分析を行った。その結果、各実施例で作製した固体電池は、固体電解質層中にCaが存在し、少なくとも負極層側の界面において、樹枝状にCaが分布していることが確認された。これにより、負極活物質層に含有させた界面形成剤中のCaが、固体電解質層へ伝導し、更に固体電解質層の界面においては樹枝状構造を形成するように移動したことが明らかにされた。
Ca元素マッピング分析の画像の具体例として、
図2に、実施例2で作製した固体電池の断面におけるCa元素マッピング分析の画像を示す。
図2に示す画像では、Caが検出された箇所がグレーで表されている。なお、固体電解質層中のCa量と、負極活物質層中のCa量との差が明確になるようにCaの検出限界を設定し、また、負極活物質層中の界面形成剤が映らない視野で撮影したため、
図2に示す画像内では、負極活物質層中にCaがほとんど検出されていないように見えるが、負極活物質層にはCaが含まれている。
【0073】
[充放電評価]
各実施例及び比較例で作製した固体電池に対して、60℃の恒温槽で、3.64mAhで4.05Vになるまで定電流充電を行った後、電流値が1.21mAhになるまで4.05Vにて定電圧充電を行い、3.64mAhで2.5Vになるまで定電流放電を行った後、電流値が1.21mAhになるまで2.5Vにて定電圧放電を行った。これを50回繰り返した。
1サイクル目の放電時の放電容量を初期放電容量とし、その後の各サイクルでの放電容量をサイクル試験後放電容量として、下記式により容量維持率を算出した。
容量維持率(%)=(サイクル試験後放電容量÷初期放電容量)×100
各実施例及び比較例で作製した固体電池の容量維持率を
図3に示す。
【0074】
[評価結果]
比較例1の固体電池は、負極層中に界面形成剤を含有させずに作製した固体電池であったため、固体電解質層と負極層との界面、及び固体電解質層と正極層との界面のいずれも樹枝状構造を有していなかった。比較例1の固体電池は、
図3に示すように、充放電評価において、サイクル数15以降に急激に容量維持率が低下し始めて、サイクル数30の時には容量維持率が約50%にまで低下し、その後も低下し続けて、サイクル数50の時には容量維持率が約40%であった。比較例1の固体電池では、サイクル数15付近で固体電解質層の界面に剥離が生じたため、上述したような容量維持率の低下が生じたと考えられる。
一方で、実施例1、2で得られた固体電池は、負極層中に界面形成剤を含有させ、正極層と固体電解質層と負極層とを積層した後に低レートの充放電を行って作製した固体電池であったため、固体電解質層と正極層との界面、及び固体電解質層と負極層との界面の両方が樹枝状構造を有していた。実施例1、2の固体電池は、
図3に示すように、充放電評価において、サイクル数50の時にも容量維持率が約70%であり、容量維持率の低下が抑制されていた。また、実施例1、2の固体電池は、サイクル数50の時において、固体電解質層の界面の剥離は生じていなかった。
【符号の説明】
【0075】
11 負極活物質層
12 負極集電体
13 負極層
14 正極活物質層
15 正極集電体
16 正極層
17 固体電解質層
100 固体電池