(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
F02B 39/16 20060101AFI20240723BHJP
F02B 37/18 20060101ALI20240723BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20240723BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240723BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20240723BHJP
F01N 3/22 20060101ALI20240723BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20240723BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20240723BHJP
B60W 20/10 20160101ALI20240723BHJP
B60W 20/16 20160101ALI20240723BHJP
B60W 20/50 20160101ALI20240723BHJP
【FI】
F02B39/16 F
F02B37/18 D
F02D43/00 301K
F02D43/00 301R
F02D45/00 366
F02D45/00 360Z
F01N3/20 D
F01N3/22 311B
F01N3/24 T
F01N3/22 311F
B60W10/06 900
B60W20/10 ZHV
B60W20/16
B60W20/50
(21)【出願番号】P 2021206380
(22)【出願日】2021-12-20
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】片山 章弘
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-192841(JP,A)
【文献】特開2018-127939(JP,A)
【文献】特開2020-143665(JP,A)
【文献】特開2014-074386(JP,A)
【文献】特開2017-172476(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0049093(US,A1)
【文献】特開2019-074017(JP,A)
【文献】特開2010-106787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 39/16
F02B 37/18
F02D 43/00
F02D 45/00
F01N 3/20
F01N 3/22
F01N 3/24
B60W 10/06
B60W 20/10
B60W 20/16
B60W 20/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合気の燃焼が行われる燃焼室と、前記燃焼室への吸気の導入路である吸気通路と、前記燃焼室からの排気の排出路である排気通路と、前記排気通路に設けられたタービン及び前記吸気通路に設置されたコンプレッサを有するターボチャージャと、前記排気通路における前記タービンよりも上流側の部分において同排気通路から分岐するとともに同排気通路における前記タービンよりも下流側の部分において同排気通路に合流するバイパス通路と、前記バイパス通路を開閉するウェイストゲートバルブと、前記排気通路における前記バイパス通路の合流位置よりも下流側の部分に設置された排気浄化用の触媒装置と、前記吸気通路における前記コンプレッサよりも下流側の部分の前記吸気の圧力を検出する吸気圧センサと、を備えるエンジンの制御を行う装置であって、
前記エンジンの冷間始動時に前記ウェイストゲートバルブを開弁して前記触媒装置の活性化を促進する触媒早期活性化制御と、
前記触媒早期活性化制御の実行中に、一定の周期での開閉の繰り返しを前記ウェイストゲートバルブに指令するとともに、その指令中の前記吸気圧センサの出力に前記一定の周期の変動成分が含まれているか否かにより前記ウェイストゲートバルブの固着の有無を診断する診断処理と、
前記診断処理の実行中に、前記エンジンの吸気量を増量する吸気増量制御と、
を実行するエンジン制御装置。
【請求項2】
前記開閉の周期と同じ周期の変動成分を前記吸気圧センサの出力から抽出するバンドパスフィルタを有しており、
前記診断処理は、前記バンドパスフィルタを適用した前記吸気圧センサの出力の振幅が既定の判定値以上であるか否かにより前記固着の有無を診断する
請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記診断処理として、前記吸気増量制御を実行していない状態で前記固着の有無を診断する第1診断処理と、前記吸気増量制御を実行した状態で前記固着の有無を診断する第2診断処理と、を有しており、かつ前記第2診断処理は、前記第1診断処理よりも後に実施される請求項
1又は請求項2に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
当該エンジン制御装置は、前記エンジンに駆動連結された発電電動機を備えるハイブリッド車両に搭載されて前記エンジン及び前記発電電動機の双方のトルク調整を通じて前記ハイブリッド車両の駆動力を制御するものであり、
かつ前記吸気増量制御の実行中、同吸気増量制御による前記エンジンのトルクの増加分の少なくとも一部を前記発電電動機のトルク調整により吸収するトルク吸収制御を実行する
請求項
1~請求項3のいずれか1項に記載のエンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボチャージャを備えるエンジンを制御するエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボチャージャにおいて、タービンを迂回して排気を流すバイパス通路と、バイパス通路を開閉するウェイストゲートバルブと、を有するものがある。そして、特許文献1には、バイパス通路及びウェイストゲートバルブを有するターボチャージャを備えるエンジンの制御を行うエンジン制御装置が記載されている。同文献に記載のエンジン制御装置は、エンジンの冷間始動時に、ウェイストゲートバルブを開弁することで、触媒装置が活性化する時期を早める触媒早期活性化制御を行っている。ウェイストゲートバルブを開弁すると、触媒装置の排気当たりが同装置の一部に集中する。そのため、触媒装置全体に均等に排気が吹き付けられる場合よりも、触媒が活性化した部分が形成される時期が早くなる。よって、触媒早期活性化制御を実行することで触媒装置が排気浄化を開始する時期を早められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンの停止中にウェイストゲートバルブが固着することがある。こうした固着が生じると、開弁を指令してもウェイストゲートバルブが開かないため、上記触媒早期活性化制御を適切に実行できなくなる。そのため、触媒早期活性化制御の実行に際しては、ウェイストゲートバルブが固着していないことを予め確認しておくことが望ましい。そこで、触媒早期活性化制御の開始前に、ウェイストゲートバルブの固着の有無を診断することが考えられる。しかしながら、そうした場合には、診断に要する時間の分、触媒早期活性化制御の開始が、ひいては触媒装置が排気浄化を開始する時期が遅れてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するエンジン制御装置は、混合気の燃焼が行われる燃焼室と、燃焼室への吸気の導入路である吸気通路と、燃焼室からの排気の排出路である排気通路と、排気通路に設けられたタービン及び吸気通路に設置されたコンプレッサを有するターボチャージャと、排気通路におけるタービンよりも上流側の部分において同排気通路から分岐するとともに同排気通路におけるタービンよりも下流側の部分において同排気通路に合流するバイパス通路と、バイパス通路を開閉するウェイストゲートバルブと、排気通路におけるバイパス通路の合流位置よりも下流側の部分に設置された排気浄化用の触媒装置と、吸気通路におけるコンプレッサよりも下流側の部分の吸気の圧力を検出する吸気圧センサと、を備えるエンジンの制御を行う装置である。そして、同エンジン制御装置は、エンジンの冷間始動時にウェイストゲートバルブを開弁して触媒装置の活性化を促進する触媒早期活性化制御と、触媒早期活性化制御の実行中に、一定の周期での開閉の繰り返しをウェイストゲートバルブに指令するとともに、その指令中の吸気圧センサの出力に上記一定の周期の変動成分が含まれているか否かによりウェイストゲートバルブの固着の有無を診断する診断処理と、を実行する。
【0006】
上記エンジン制御装置は、エンジンの冷間始動時にウェイストゲートバルブを開弁して触媒装置の活性化を促進する触媒早期活性化制御を実行する。ウェイストゲートバルブを開弁すると、触媒装置への排気の吹き付けが同装置の一部に集中する。そのため、触媒装置全体に均等に排気が吹き付けられる場合よりも、触媒が活性化した部分が形成される時期が早くなる。
【0007】
そして、上記エンジン制御装置は、触媒早期活性化制御の実行中に、ウェイストゲートバルブに対して、一定の周期での開閉の繰り返しを指令する。ウェイストゲートバルブの開度を変更すると、タービンの排気流量が変化して、コンプレッサの過給効率が変化する。そして、過給効率の変化により、吸気通路におけるコンプレッサよりも下流側の部分の吸気の圧力が変化する。よって、ウェイストゲートバルブが正常に動作しており、指令通りに開閉を繰り返している場合には、その開閉と同じ周期の吸気圧変動が発生する。これに対して、ウェイストゲートバルブが固着しており、指令通りに開閉を繰り返していない場合には、開閉と同じ周期の吸気圧変動が生じない。そのため、上記開閉の繰り返しの指令中の吸気圧センサの出力に、上記開閉と同じ周期の変動成分が含まれているか否かによって、ウェイストゲートバルブの固着の有無を診断できる。
【0008】
固着診断中、触媒早期活性化制御において触媒の活性化を促進する部位への排気の吹き付けが中断されると、触媒の活性化が遅れてしまう。その点、上記エンジン制御装置では、ウェイストゲートバルブの開閉を繰り返しながら固着診断を行っている。そのため、固着診断中も、触媒活性化の促進部位への排気の吹き付けが完全に途絶えることがない。そのため、上記診断処理の実行中も、触媒早期活性化制御を継続できる。
【0009】
なお、上記エンジン制御装置での固着の有無の診断は、例えば次の態様で行える。エンジン制御装置を、上記開閉の周期と同じ周期の変動成分を吸気圧センサの出力から抽出するバンドパスフィルタを有する構成とする。そして、診断処理を、バンドパスフィルタを適用した吸気圧センサの出力の振幅が既定の判定値以上であるか否かにより固着の有無を診断する構成とする。
【0010】
上記エンジン制御装置を、診断処理の実行中に、燃焼室に流入する吸気量を増量する吸気増量制御を実行するように構成してもよい。吸気量を増量すれば排気の流量が増えるため、ウェイストゲートバルブが正常に開弁している場合と閉弁固着している場合との空燃比センサの排気の吹き付け量の差が大きくなる。そのため、閉弁固着の診断精度を高められる。
【0011】
また、吸気増量制御を実行する場合のエンジン制御装置を、診断処理として、吸気増量制御を実行していない状態で固着の有無を診断する第1診断処理と、吸気増量制御を実行した状態で固着の有無を診断する第2診断処理と、を有しており、かつ第2診断処理は、第1診断処理において診断結果を確定できない場合に実施されるように構成してもよい。吸気増量制御を実行した状態で診断処理を行えば、診断精度は高まるが、エンジンの燃費性能や排気性能が悪化する虞がある。そのため、まずは吸気増量制御を実行せずに診断を行い、それでは診断結果を確定できない場合には吸気増量制御を実行して診断を行うようにするとよい。
【0012】
なお、上記吸気増量制御装置を実行する場合のエンジン制御装置が、エンジンに駆動連結された発電電動機を備えるハイブリッド車両に搭載されてエンジン及び発電電動機の双方のトルク調整を通じてハイブリッド車両の駆動力を制御するように構成されていれば、吸気増量制御の実行中、同吸気増量制御によるエンジンのトルクの増加分を発電電動機のトルク調整により吸収するトルク吸収制御を実行するとよい。エンジンの吸気量を増量すると、エンジントルクが増加する。そのため、吸気増量制御と共に上記のようなトルク吸収制御を実行すれば、吸気増量制御によるエンジントルクの増加分がハイブリッド車両の駆動力にそのまま反映されないようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態のエンジン制御装置の構成を模式的に示す図である。
【
図2】同エンジン制御装置が実行する触媒早期活性化制御の処理手順を示すフローチャートである。
【
図3】同エンジン制御装置が適用されるエンジンにおいてウェイストゲートバルブが閉弁しているときのタービン下流側の排気の流れを示す図である。
【
図4】同エンジン制御装置が適用されるエンジンにおいてウェイストゲートバルブが開弁しているときのタービン下流側の排気の流れを示す図である。
【
図5】同エンジン制御装置が触媒早期活性化制御を実行しているときの、(A)はウェイストゲートバルブの開度の推移を、(B)はバンドパスフィルタ適用後のインマニ圧センサの出力の推移を、それぞれ示すタイムチャートである。
【
図6】第2実施形態のエンジン制御装置が診断処理を実施しているときの、(A)はウェイストゲートバルブの開度の推移を、(B)は吸気量の推移を、(C)はMGトルクの推移を、それぞれ示すタイムチャートである。
【
図7】第3実施形態のエンジン制御装置が実行する触媒早期活性化制御の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、エンジン制御装置の第1実施形態を、
図1~
図5を参照して詳細に説明する。
<エンジン制御装置の構成>
まず、
図1を参照して、本実施形態のエンジン制御装置の構成を説明する。本実施形態のエンジン制御装置が適用されるエンジン10は、混合気の燃焼を行う燃焼室11を備える。また、エンジン10は、燃焼室11への吸気の導入路である吸気通路12と、燃焼室11からの排気の排出路である排気通路13と、を備えている。エンジン10には、燃焼室11に導入される吸気中に燃焼を噴射するインジェクタ14と、燃焼室11内の混合気を火花放電により着火させる点火装置15と、が設けられている。吸気通路12におけるコンプレッサ21よりも下流側の部分には、スロットルバルブ16が設置されている。スロットルバルブ16は、開度の変更に応じて燃焼室11に導入される吸気の量を調整する。そして、エンジン10は、燃焼室11での混合気の燃焼によりクランク軸17を回転することで、車両の駆動力を発生する。
【0015】
エンジン10は、ターボチャージャ20を備えている。ターボチャージャ20は、吸気通路12に設置されたコンプレッサ21と、排気通路13に設置されたタービン22と、を有している。コンプレッサ21は、回転に応じて吸気を圧縮する羽根車である。タービン22は、排気の流れを受けて回転する羽根車である。コンプレッサ21とタービン22とは、タービン軸23を介して連結されている。これにより、コンプレッサ21は、タービン22の回転に連動して回転する。また、排気通路13には、タービン22を迂回して排気を流すための通路であるバイパス通路24が設けられている。バイパス通路24は、排気通路13におけるタービン22よりも上流側の部分において同排気通路13から分岐している。そして、バイパス通路24は、排気通路13におけるタービン22よりも下流側の部分において同排気通路13に合流している。バイパス通路24における排気通路13への合流部には、バイパス通路24を開閉するWGV(WasteGate Valve:ウェイストゲートバルブ)25が設置されている。
【0016】
排気通路13には、燃焼室11で燃焼した混合気の空燃比を検出するためのセンサである空燃比センサ18が設けられている。空燃比センサ18は、排気通路13におけるタービン22よりも下流側、かつバイパス通路24の合流位置よりも下流側の部分に設置されている。さらに、排気通路13には、三元触媒などの排気浄化用の触媒が担持された触媒装置19が設置されている。触媒装置19は、排気通路13における空燃比センサ18よりも下流側の部分に設置されている。
【0017】
エンジン10は、エンジン制御装置としてのECM(エンジン制御モジュール)30により制御されている。ECM30は、処理装置31と記憶装置32とを備えている。記憶装置32には、エンジン制御用のプログラムやデータが記憶されている。処理装置31は、記憶装置32からプログラムを読み込んで実行することで、エンジン10を制御する。ECM30には、エンジン10の運転状況を検出するための各種センサの検出結果が入力されている。ECM30に検出結果が入力されるセンサには、上述の空燃比センサ18の他、エアフローメータ33、吸気温センサ34、水温センサ35、クランク角センサ36、過給圧センサ37、及びインマニ圧センサ38が含まれる。エアフローメータ33は、吸気通路12を流れる吸気の流量である吸気流量GAを検出するセンサである。吸気温センサ34は、吸気通路12に取り込まれた吸気の温度である吸気温THAを検出するセンサである。水温センサ35は、エンジン10の冷却水の温度であるエンジン水温THWを検出するセンサである。クランク角センサ36は、クランク軸17の回転角であるクランク角CRNKを検出するセンサである。過給圧センサ37は、吸気通路12におけるコンプレッサ21よりも下流側、かつスロットルバルブ16よりも上流側の部分の吸気の圧力である過給圧PBを検出するセンサである。インマニ圧センサ38は、吸気通路12におけるスロットルバルブ16よりも下流側の部分の吸気の圧力であるインマニ圧PMを検出するセンサである。ECM30は、これらセンサの検出結果に基づき、インジェクタ14の燃料の噴射量及び噴射時期、点火装置15の点火時期、スロットルバルブ16及びWGV25の開度等を制御している。
【0018】
<触媒早期活性化制御>
ECM30は、エンジン10の冷間始動時に、WGV25を開弁して触媒装置19の活性化を促進する触媒早期活性化制御を実行する。また、ECM30は、触媒早期活性化制御の実行中に、WGV25の閉弁固着の有無を診断する診断処理を実施している。なお、以下の説明では、バイパス通路24を通じた排気の流通を遮断した状態となるときのWGV25の開度を全閉開度と記載する。また、WGV25の開度の制御範囲の最大値となる開度を全開開度と記載する。そして、全閉開度よりも大きく、かつ全開開度よりも小さいWGV25の開度を中間開度と記載する。
【0019】
図2に、エンジン10の始動完了後にECM30が実行する触媒早期活性化制御ルーチンの処理手順を示す。本ルーチンを開始するとECM30はまずステップS100において、触媒装置19が未活性の状態にあるか否かを判定する。本実施形態では、この判定をエンジン始動時の吸気温THA及びエンジン水温THWに基づき行っている。そして、ECM30は、触媒装置19が未活性の状態にあると判定した場合(YES)にはステップS110に処理を進める。一方、エンジン10の温間始動時のように、この時点で触媒装置19が既に活性化している場合には(NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理を終了する。
【0020】
ステップS110に処理を進めると、ECM30はそのステップS110において、WGV25の開弁を指令する。この開弁の指令は、既定開度、例えば全開開度の保持をWGV25に指令するものである。その後、ECM30は、診断実行条件の成立を待って(S120:YES)、ステップS130に処理を進める。診断実行条件は、例えばエンジン回転数やエンジン負荷率が安定していること、となっている。
【0021】
診断実行条件が成立してステップS130に処理を進めると、ECM30はそのステップS130において、一定の周期Tでの開閉の繰り返しをWGV25に指令する。次にECM30は、ステップS140において一定の期間、インマニ圧センサ38の出力を取得する。続いて、ECM30は、ステップS150において、ステップS140で取得したインマニ圧センサ38の出力に、周期Tの変動成分が含まれているか否かを判定する。そして、ECM30は、周期Tの変動成分が含まれている場合(YES)には、ステップS160において、WGV25が固着していないと診断する。一方、ECM30は、周期Tの変動成分が含まれていない場合(NO)には、ステップS170において、WGV25が固着していると診断する。なお、ECM30は、WGV25が固着していると診断した場合(S170)には、同固着に対応した異常時処理を実行する。この異常時処理の例としては、インジケータの点灯等により異常の発生をユーザに通知する処理や、エンジン10の出力を制限する処理がある。なお、本実施形態では、
図2のステップS130~S170の処理が診断処理に対応している。
【0022】
本実施形態では、ステップS160での判定を次の態様で行っている。すなわち、同判定に際してECM30はまず、ステップS140で取得したインマニ圧センサ38の出力に、周期Tの変動成分を抽出するバンドパスフィルタを適用する。次にECM30は、バンドパスフィルタを適用したインマニ圧センサ38の出力の振幅Sが既定の固着判定値Xを超えているか否かを判定する。そして、ECM30は、振幅Sが固着判定値Xを超えている場合には、周期Tの変動成分がインマニ圧センサ38の出力に含まれていると判定する。また、ECM30は、振幅Sが固着判定値X以下の場合には、周期Tの変動成分がインマニ圧センサ38の出力に含まれていないと判定する。
【0023】
こうしたステップS160又はステップS170での診断後、ECM30は、ステップS180において、ステップS110と同様に、既定開度の保持をWGV25に指令する。その後、ECM30は、触媒装置19の活性化の完了(S190:YES)を待って、今回の冷間始動時における触媒早期活性化制御の処理を終了する。その後、ECM30は、エンジン10の運転状況に応じたWGV25の開度制御を実施する。
【0024】
本実施形態では、触媒装置19の活性化が完了しているか否かの判定を、始動時水温、吸気温THA、及び積算吸気量に基づき行っている。始動時水温は、エンジン10始動時におけるエンジン水温THWの値である。積算吸気量は、エンジン10の始動後の吸気流量GAの積算値である。上記のように、ECM30は、燃焼室11内で燃焼する混合気の空燃比を理論空燃比とするように燃料噴射量を制御している。よって、燃焼室11から排出される排気の熱量は、吸気流量GAが多いほど多くなる。そのため、エンジン10の始動後に触媒装置19が排気から受け取った熱量は、積算吸気量から求められる。一方、エンジン10の始動時の触媒装置19の触媒温度は、始動時水温から求められる。さらに、触媒装置19から外気への放熱量は、触媒装置19と外気との温度差が大きいほど多くなる。そして、外気の温度は吸気温THAから求められる。したがって、触媒が活性化に必要な温度に達したかどうかは、始動時水温、吸気温THA、及び積算吸気量から判定できる。
【0025】
<実施形態の作用、及び効果>
本実施形態の作用及び効果について説明する。なお、以下の説明では、触媒装置19における排気の流れ方向上流側の端面を同触媒装置19の前端と記載する。
【0026】
図3に、WGV25の閉弁時におけるタービン22の下流側の排気の流れを示す。WGV25の閉弁時には、タービン22を通って排気が流れる。タービン22を通過した排気の流れは旋回流となって、広い範囲に拡散される。そのため、このときには、触媒装置19の前端の広い範囲に排気が吹き付ける。
【0027】
図4に、WGV25の開弁時におけるタービン22の下流側の排気の流れを示す。このときには、排気の多くがバイパス通路24を通って流れる。バイパス通路24を通った排気の流れは噴流となる。そのため、このときには、触媒装置19の前端の一部に集中的に排気が吹き付ける。よって、WGV25を開弁した場合には、閉弁している場合よりも早期に、触媒が活性化した部分が触媒装置19に形成される。これにより、触媒早期活性化制御では、エンジン10の冷間始動後の触媒装置19が排気浄化を行えない期間を短縮している。
【0028】
図5(A)は、触媒早期活性化制御の実行中のWGV25の開度の推移を示している。また、
図5(B)は、上記バンドパスフィルタの適用後のインマニ圧センサ38の出力の推移を示している。
図5の場合、ECM30は、時刻t0から時刻t3までの期間、触媒早期活性化制御を実行している。また、
図5の場合、ECM30は、触媒早期活性化制御の実行中の時刻t1から時刻t2までの期間に、診断処理を実施している。なお、
図5(A)(B)には、WGV25が固着していない場合の開度及び出力の推移が実線で示されている。また、
図5(A)(B)には、WGV25が固着している場合の開度及び出力の推移が破線で示されている。
【0029】
ECM30は、触媒早期活性制御を開始する時刻t0に、WGV25の開弁を指令する。
図5では、全開開度へのWGV25の開弁を指令している。その後の時刻t1に、診断処理を開始すると、ECM30は、一定の周期Tでの開閉の繰り返しをWGV25に指令する。
図5では、全閉開度と全開開度との間でのWGV25の開閉の繰り返しを指令している。
【0030】
WGV25の開度を変更すると、タービン22の排気流量が変化して、コンプレッサ21の過給効率が変化する。そして、過給効率の変化により、インマニ圧PMが変化する。よって、診断処理中に、ECM30の指令通りにWGV25が開閉を繰り返していれば、その開閉と同じ周期Tのインマニ圧PMの変動が生じる。一方、WGV25が固着しており、指令通りに開閉を繰り返していない場合には、指令した開閉と同じ周期Tのインマニ圧PMの変動は生じない。そのため、診断処理中のインマニ圧センサ38の出力に、周期Tの変動成分が含まれているか否かにより、WGV25の固着の有無を診断できる。
【0031】
ここで、触媒早期活性化制御中に下記の方法でWGV25の固着の有無を診断することを考える。触媒早期活性化制御中にWGV25に閉弁を指令する。そして、閉弁指令後のインマニ圧PMの変化量に基づき、WGV25の固着の有無を診断する。このときのWGV25が指令通りに閉弁すれば、タービン22の排気流量が増加してインマニ圧PMが上昇する。これに対して、WGV25が固着しており、指令通りに閉弁しなければ、タービン22の排気流量は変化しないため、インマニ圧PMも変化しない。よって、上記方法でもWGV25の固着の有無を診断することは可能である。
【0032】
しかしながら、こうした診断方法には、次の問題がある。WGV25の開度の変化がインマニ圧PMに反映されるまでには、ある程度の時間を要する。一方、エンジン10の運転中のインマニ圧PMは、WGV25の開度変更以外の要因、例えば吸気弁の開閉によっても変動している。そのため、上記方法では、他の要因による変動に比べて明らかに大きいインマニ圧PMの変化が生じるように、ある程度の長い時間、WGV25の閉弁を保持する必要がある。そして、WGV25の閉弁中は、触媒早期活性化制御での活性化の促進部位への排気の吹き付けが中断されてしまう。よって、上記方法では、触媒早期活性化制御の触媒装置19の活性化の遅れが生じ易い。
【0033】
これに対して、本実施形態では、インマニ圧センサ38の出力に、WGV25の開閉と同じ周期Tの変動成分が含まれているか否かで固着の有無を診断している。こうした変動成分の有無は、WGV25の開閉により生じるインマニ圧PMの変化量があまり大きくなくても確認できる。そのため、診断処理でのWGV25の開閉の周期Tとして短い時間を設定して、活性化の促進部位への排気の吹き付けが長時間途切れないようにすることができる。このように、本実施形態の診断方法では、診断による触媒装置19の活性化の遅れが生じ難い。
【0034】
以上の本実施形態のエンジン制御装置によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)触媒早期活性化制御の実行中に、触媒装置19の活性化の遅れを抑えつつ、WGV25の固着の有無を診断できる。
【0035】
(2)エンジン10の始動直後に実行する触媒早期活性化制御中に診断を行っている。そのため、エンジン10の始動から短時間で、WGV25の閉弁固着の発生を確認できる。
【0036】
(第2実施形態)
次に、エンジン制御装置の第2実施形態を、
図6を併せ参照して詳細に説明する。なお、本実施形態のエンジン制御装置は、エンジン10に駆動連結された発電電動機40を備えるハイブリッド車両に搭載されている。そして、本実施形態におけるECM30は、エンジン10及び発電電動機40の双方のトルク調整を通じてハイブリッド車両の駆動力を制御するように構成されている。
【0037】
図6(A)は、本実施形態のエンジン制御装置による触媒早期活性制御の実行中のWGV25の開度の推移を示している。また、
図6(B)は、同じく触媒早期活性化制御の実行中の吸気流量GAの推移を示している。さらに、
図6(C)は、同じく触媒早期活性化制御の実行中のMGトルクの推移を示している。なお、MGトルクは、発電電動機40のトルクを表している。
【0038】
図6の場合、ECM30は、時刻t10に、WGV25の開弁を指令して触媒早期活性化制御を開始している。そして、ECM30は、その後の時刻t11から時刻t12までの期間の空燃比センサ18の出力に基づき、WGV25の閉弁固着の診断処理を行っている。さらに、
図6の場合、ECM30は、その後の時刻t13に、WGV25の閉弁を指令して触媒早期活性化制御を終了している。そして、
図5(B)に示すように、ECM30は、時刻t11から時刻t12までの診断処理を行っている期間に、エンジン10の吸気量を増量させる吸気増量制御を実行している。
【0039】
吸気増量制御を実行すると、WGV25の開度変更に伴うインマニ圧PMの変化が大きくなる。したがって、本実施形態のエンジン制御装置は、WGV25の閉弁固着の有無の診断精度が向上するという効果を奏する。
【0040】
なお、吸気流量GAを増量すると、エンジン10の軸トルクが増加する。そこで、ECM30は、吸気増量制御の実行中、
図6(C)に示すように、MGトルクを減量することで、エンジン10の軸トルクの増加分を吸収するトルク吸収制御を実行している。これにより、ECM30は、吸気増量制御の実行に伴って、駆動力の増加やエンジン回転数の吹き上げが発生しないようにしている。
【0041】
(第3実施形態)
次に、エンジン制御装置の第3実施形態を、
図7を併せ参照して詳細に説明する。
図7には、本実施形態のエンジン制御装置での診断処理の処理手順を示す。
図7に示す一連の処理は、
図2のステップS130~S160の処理の代わりに実行される処理となっている。よって、ECM30は、触媒早期活性化制御の開始後、診断実行条件の成立に応じて、
図7の診断処理を開始する。そして、ECM30は、
図7の処理を終了すると、
図2のステップS180に処理を進める。
【0042】
診断処理を開始すると、ECM30はまずステップS200において、一定の周期Tでの開閉の繰り返しをWGV25に指令する。次にECM30は、ステップS210において、インマニ圧センサ38の出力における周期Tの変動成分の振幅Sを測定する。続いて、ECM30は、ステップS220において、ステップS210で測定した振幅Sが既定の第1固着判定値X1以上であるか否かを判定する。振幅Sが第1固着判定値X1以上の場合(S220:YES)には、ECM30はステップS230において、WGV25が閉弁固着していると診断して
図7の処理を終了する。
【0043】
また、上記振幅Sが第1固着判定値X1未満の場合(S220:NO)には、ECM30は、ステップS240において吸気増量制御を開始する。その後、ECM30は、ステップS250において再び、インマニ圧センサ38の出力における周期Tの変動成分の振幅Sを測定した後、ステップS260において吸気増量制御を終了する。
【0044】
次いでECM30は、ステップS270において、再測定した振幅Sが既定の第2固着判定値X2以上であるか否かを判定する。第2固着判定値X2は、第1固着判定値X1と同じ値を設定しても、異なる値を設定してもよい。再測定した振幅Sが第2固着判定値X2以上の場合(S270:YES)には、ECM30は、上述のステップS220において、WGV25が閉弁固着していると診断して
図7の処理を終了する。一方、再測定した振幅Sが第2固着判定値X2未満の場合(S270:NO)には、ECM30は、ステップS280において、WGV25は閉弁固着していないと診断して
図7の処理を終了する。
【0045】
なお、本実施形態では、
図7のステップS200~S220の処理が第1診断処理に対応する。また、
図7のステップS240~S270の処理が第2診断処理に対応する。
<実施形態の作用効果>
上述のように、吸気増量制御を診断処理中に実行することで、WGV25の閉弁固着の診断精度を向上できる。しかしながら、エンジン10の始動直後の触媒が未活性な状態で吸気を増量すると、エンジン10の排気性能が悪化する虞がある。
【0046】
これに対して本実施形態では、診断処理に際してECM30はまず、吸気増量制御を行っていない状態でWGV25の固着の有無を診断する。そして、その後に、ECM30は、吸気増量制御を実行して再診断を行っている。最初の診断では、固着を検出できなかった場合にも、再診断で検出できる場合がある。また、再診断時には、エンジン10の始動からある程度時間が経過しているため、吸気の増量による排気性能の悪化が生じ難くなっている。そのため、排気性能を悪化させずに診断精度を高められる。
【0047】
(変形例)
さらに上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0048】
・上記実施形態では、WGV25の開閉と同じ周期Tの変動成分がインマニ圧センサ38の出力に含まれているか否かを、バンドパスフィルタを適用したインマニ圧センサ38の出力の振幅Sに基づき判定していた。それ以外の方法で、インマニ圧センサ38の出力に上記変動成分が含まれているか否かを判定するようにしてもよい。
【0049】
・上記実施形態では、インマニ圧センサ38の出力を用いて、WGV25の固着の有無を診断していたが、過給圧センサ37の出力を用いて同診断を行うようにしてもよい。その場合には、過給圧センサ37が吸気圧センサに対応する構成となる。
【0050】
・上記実施形態では、触媒早期活性化制御において、WGV25を全開開度に保持していたが、中間開度に保持するようにしてもよい。
・上記実施形態では、診断処理中に、全開開度から全閉開度までの開度範囲でのWGV25の開閉を行っていた。それ以外の開度範囲でWGV25の開閉を行うようにしてもよい。例えば全開開度から中間開度までの開度範囲で、診断処理中のWGV25の開閉を行うようにしてもよい。
【0051】
・第2実施形態では、吸気増量制御によるエンジン10の軸トルクの増加分をMGトルクの調整により吸収するトルク吸収制御を実行していた。トルク吸収制御を実行する代わりに、吸気増量制御による軸トルクの増加分を、点火時期の遅角等による軸トルクの低下により吸収するようにしてもよい。また、吸気増量制御によるエンジン10の軸トルクの増加分の一部のみを吸収するようにトルク吸収制御を実行してもよい。そうした場合にも、吸気増量制御の実行に伴う駆動力の増加やエンジン回転数の吹き上りを抑えられる。さらに、吸気増量制御によるエンジン10の軸トルクの増加分がそのまま車両の駆動力に反映されても問題なければ、軸トルクの増加に対応する制御を行わずに吸気増量制御を実行してもよい。
【0052】
・エンジン10が高出力運転されて、排気流量が多い状態では、冷間始動後、触媒活性化制御を実行しなくても、許容可能な時間内に触媒装置19を活性化できる場合がある。そこで、診断処理の完了後に、排気流量が一定の量を超える状態となっている場合には、その時点で触媒早期活性化制御を中断、又は中止するようにしてもよい。さらに、中断後に排気流量が低下した場合には、触媒早期活性化制御を再開するようにしてもよい。
【0053】
・触媒装置19の未活性の判定条件、活性化完了の判定条件、診断実行条件の内容は適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0054】
10…エンジン
11…燃焼室
12…吸気通路
13…排気通路
14…インジェクタ
15…点火装置
16…スロットルバルブ
17…クランク軸
18…空燃比センサ
19…触媒装置
20…ターボチャージャ
21…コンプレッサ
22…タービン
23…タービン軸
24…バイパス通路
25…ウェイストゲートバルブ
30…ECM(エンジン制御モジュール)
31…処理装置
32…記憶装置
33…エアフローメータ
34…吸気温センサ
35…水温センサ
36…クランク角センサ
37…過給圧センサ
38…インマニ圧センサ
40…発電電動機