(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】制御システム、制御装置、制御方法、制御プログラム
(51)【国際特許分類】
G05D 1/65 20240101AFI20240723BHJP
G05D 1/83 20240101ALI20240723BHJP
G05D 1/43 20240101ALI20240723BHJP
【FI】
G05D1/65
G05D1/83
G05D1/43
(21)【出願番号】P 2021207404
(22)【出願日】2021-12-21
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】青木 崇
【審査官】尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-129695(JP,A)
【文献】特開2017-19265(JP,A)
【文献】特開2010-58604(JP,A)
【文献】特開2016-186751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/00- 1/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサ(12)を有し、バッテリ(4)から電力供給される個別の電動アクチュエータ(5)により駆動される一対の駆動輪(30)間での回転速度差に応じて直進走行と旋回走行との切り替わる自律走行ロボット(1)を、目標軌道(Tt)に沿って制御する制御システムであって、
前記プロセッサは、
前記バッテリの電力制約(Lw)が含まれる走行制約(L)を、監視することと、
前記走行制約の条件成立に応じて、最小旋回半径での前記旋回走行時の最大速度である旋回最大速度(Vm)を、前記直進走行時の最大速度である直進最大速度(Vme,Vmw)よりも小さく制限することとを、実行するように構成され
、
前記旋回最大速度を制限することは、
前記走行制約の条件成立外となる速度及びヨーレートの相関範囲として、前記旋回最大速度が前記直進最大速度よりも小さくなる速度相関範囲(Cv,Cvw)内に、前記自律走行ロボットの実速度及び実ヨーレートを制御することを、含む制御システム。
【請求項2】
前記プロセッサは、
前記自律走行ロボットに対して、前記目標軌道に追従するための目標速度(Vt)及び目標ヨーレート(YVt)を設定することを、さらに実行するように構成され、
前記旋回最大速度を制限することは、
前記走行制約の条件成立となる前記速度相関範囲外に外れた相関点の前記目標速度及び前記目標ヨーレートを、前記速度相関範囲内のうち限界点(Pv)を与える値(Vl,YVl)まで共通の制限比率(Rv)にて調整することを、含む請求項
1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記プロセッサは、
前記走行制約の条件成立に応じて、最小旋回半径での前記旋回走行時の最大加速度である旋回最大加速度(Am)を、前記直進走行時の最大加速度である直進最大加速度(Ame,Amw)よりも小さく制限することを、さらに実行するように構成される請求項
1又は2に記載の制御システム。
【請求項4】
プロセッサ(12)を有し、バッテリ(4)から電力供給される個別の電動アクチュエータ(5)により駆動される一対の駆動輪(30)間での回転速度差に応じて直進走行と旋回走行との切り替わる自律走行ロボット(1)を、目標軌道(Tt)に沿って制御する制御システムであって、
前記プロセッサは、
前記バッテリの電力制約(Lw)が含まれる走行制約(L)を、監視することと、
前記走行制約の条件成立に応じて、最小旋回半径での前記旋回走行時の最大加速度である旋回最大加速度(Am)を、前記直進走行時の最大加速度である直進最大加速度(Ame,Amw)よりも小さく制限することとを、実行するように構成され
、
前記旋回最大加速度を制限することは、
前記走行制約の条件成立外となる加速度及びヨーレート変化率の相関範囲として、前記旋回最大加速度が前記直進最大加速度よりも小さくなる加速度相関範囲(Ca,Caw)内に、前記自律走行ロボットの実加速度及び実ヨーレート変化率を制御することを、含む制御システム。
【請求項5】
前記プロセッサは、
前記自律走行ロボットに対して、前記目標軌道に追従するための目標加速度(At)及び目標ヨーレート変化率(YAt)を設定することを、さらに実行するように構成され、
前記旋回最大加速度を制限することは、
前記走行制約の条件成立となる前記加速度相関範囲外に外れた相関点の前記目標加速度及び前記目標ヨーレート変化率を、前記加速度相関範囲内のうち限界点(Pa)を与える値(Al,YAl)まで、共通の制限比率(Ra)にて調整することを、含む請求項
4に記載の制御システム。
【請求項6】
前記走行制約の条件成立を監視することは、
前記電力制約と、前記自律走行ロボットの走行環境に依存する環境制約(Le)とが、含まれる前記走行制約の条件成立を監視することとを、含む請求項1~
5のいずれか一項に記載の制御システム。
【請求項7】
プロセッサ(12)を有し、バッテリ(4)から電力供給される個別の電動アクチュエータ(5)により駆動される一対の駆動輪(30)間での回転速度差に応じて直進走行と旋回走行との切り替わる自律走行ロボット(1)に搭載可能に構成され、前記自律走行ロボットを目標軌道(Tt)に沿って制御する制御装置であって、
前記プロセッサは、
前記バッテリの電力制約(Lw)が含まれる走行制約(L)を、監視することと、
前記走行制約の条件成立に応じて、最小旋回半径での前記旋回走行時の最大速度である旋回最大速度(Vm)を、前記直進走行時の最大速度である直進最大速度(Vme,Vmw)よりも小さく制限することとを、実行するように構成され
、
前記旋回最大速度を制限することは、
前記走行制約の条件成立外となる速度及びヨーレートの相関範囲として、前記旋回最大速度が前記直進最大速度よりも小さくなる速度相関範囲(Cv,Cvw)内に、前記自律走行ロボットの実速度及び実ヨーレートを制御することを、含む制御装置。
【請求項8】
プロセッサ(12)を有し、バッテリ(4)から電力供給される個別の電動アクチュエータ(5)により駆動される一対の駆動輪(30)間での回転速度差に応じて直進走行と旋回走行との切り替わる自律走行ロボット(1)に搭載可能に構成され、前記自律走行ロボットを目標軌道(Tt)に沿って制御する制御装置であって、
前記プロセッサは、
前記バッテリの電力制約(Lw)が含まれる走行制約(L)を、監視することと、
前記走行制約の条件成立に応じて、最小旋回半径での前記旋回走行時の最大加速度である旋回最大加速度(Am)を、前記直進走行時の最大加速度である直進最大加速度(Ame,Amw)よりも小さく制限することとを、実行するように構成され
、
前記旋回最大加速度を制限することは、
前記走行制約の条件成立外となる加速度及びヨーレート変化率の相関範囲として、前記旋回最大加速度が前記直進最大加速度よりも小さくなる加速度相関範囲(Ca,Caw)内に、前記自律走行ロボットの実加速度及び実ヨーレート変化率を制御することを、含む制御装置。
【請求項9】
バッテリ(4)から電力供給される個別の電動アクチュエータ(5)により駆動される一対の駆動輪(30)間での回転速度差に応じて直進走行と旋回走行との切り替わる自律走行ロボット(1)を、目標軌道(Tt)に沿って制御するために、プロセッサ(12)により実行される制御方法であって、
前記バッテリの電力制約(Lw)が含まれる走行制約(L)を、監視することと、
前記走行制約の条件成立に応じて、最小旋回半径での前記旋回走行時の最大速度である旋回最大速度(Vm)を、前記直進走行時の最大速度である直進最大速度(Vme,Vmw)よりも小さく制限することとを、含
み、
前記旋回最大速度を制限することは、
前記走行制約の条件成立外となる速度及びヨーレートの相関範囲として、前記旋回最大速度が前記直進最大速度よりも小さくなる速度相関範囲(Cv,Cvw)内に、前記自律走行ロボットの実速度及び実ヨーレートを制御することを、含む制御方法。
【請求項10】
バッテリ(4)から電力供給される個別の電動アクチュエータ(5)により駆動される一対の駆動輪(30)間での回転速度差に応じて直進走行と旋回走行との切り替わる自律走行ロボット(1)を、目標軌道(Tt)に沿って制御するために、プロセッサ(12)により実行される制御方法であって、
前記バッテリの電力制約(Lw)が含まれる走行制約(L)を、監視することと、
前記走行制約の条件成立に応じて、最小旋回半径での前記旋回走行時の最大加速度である旋回最大加速度(Am)を、前記直進走行時の最大加速度である直進最大加速度(Ame,Amw)よりも小さく制限することとを、含
み、
前記旋回最大加速度を制限することは、
前記走行制約の条件成立外となる加速度及びヨーレート変化率の相関範囲として、前記旋回最大加速度が前記直進最大加速度よりも小さくなる加速度相関範囲(Ca,Caw)内に、前記自律走行ロボットの実加速度及び実ヨーレート変化率を制御することを、含む制御方法。
【請求項11】
バッテリ(4)から電力供給される個別の電動アクチュエータ(5)により駆動される一対の駆動輪(30)間での回転速度差に応じて直進走行と旋回走行との切り替わる自律走行ロボット(1)を、目標軌道(Tt)に沿って制御するために記憶媒体(11)に記憶され、プロセッサ(12)により実行される命令を含む制御プログラムであって、
前記命令は、
前記バッテリの電力制約(Lw)が含まれる走行制約(L)を、監視させることと、
前記走行制約の条件成立に応じて、最小旋回半径での前記旋回走行時の最大速度である旋回最大速度(Vm)を、前記直進走行時の最大速度である直進最大速度(Vme,Vmw)よりも小さく制限させることとを、含
み、
前記旋回最大速度を制限させることは、
前記走行制約の条件成立外となる速度及びヨーレートの相関範囲として、前記旋回最大速度が前記直進最大速度よりも小さくなる速度相関範囲(Cv,Cvw)内に、前記自律走行ロボットの実速度及び実ヨーレートを制御させることを、含む制御プログラム。
【請求項12】
バッテリ(4)から電力供給される個別の電動アクチュエータ(5)により駆動される一対の駆動輪(30)間での回転速度差に応じて直進走行と旋回走行との切り替わる自律走行ロボット(1)を、目標軌道(Tt)に沿って制御するために記憶媒体(11)に記憶され、プロセッサ(12)により実行される命令を含む制御プログラムであって、
前記命令は、
前記バッテリの電力制約(Lw)が含まれる走行制約(L)を、監視させることと、
前記走行制約の条件成立に応じて、最小旋回半径での前記旋回走行時の最大加速度である旋回最大加速度(Am)を、前記直進走行時の最大加速度である直進最大加速度(Ame,Amw)よりも小さく制限させることとを、含
み、
前記旋回最大加速度を制限させることは、
前記走行制約の条件成立外となる加速度及びヨーレート変化率の相関範囲として、前記旋回最大加速度が前記直進最大加速度よりも小さくなる加速度相関範囲(Ca,Caw)内に、前記自律走行ロボットの実加速度及び実ヨーレート変化率を制御させることを、含む制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自律走行ロボットを制御する制御技術に、関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、個別の電動アクチュエータにより駆動される一対の駆動輪間での回転速度差に応じて直進走行と旋回走行との切り替わる自律走行ロボットを、目標軌道としての経路に沿って制御する技術が、開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の開示技術のような電動式の自律走行ロボットは、各駆動輪を駆動する個別の電動アクチュエータを、バッテリからの電力供給によって作動させる必要がある。しかし、自律走行ロボットに搭載されるバッテリには、充電量に応じて供給可能な電力に制約が生じることで、各駆動輪の回転速度にも制約が生じる。その結果、特に旋回走行時には、回転速度を増大させる側の駆動輪が制約を受けることで、自律走行ロボットが実際に辿る実軌道は、目標軌道としての経路からずれてしまうおそれがあった。
【0005】
本開示の課題は、自律走行ロボットの軌道ずれを抑制する制御システムを、提供することにある。本開示の別の課題は、自律走行ロボットの軌道ずれを抑制する制御装置を、提供することにある。本開示のまた別の課題は、自律走行ロボットの軌道ずれを抑制する制御方法を、提供することにある。本開示のさらに別の課題は、自律走行ロボットの軌道ずれを抑制する制御プログラムを、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、課題を解決するための本開示の技術的手段について、説明する。尚、特許請求の範囲及び本欄に記載された括弧内の符号は、後に詳述する実施形態に記載された具体的手段との対応関係を示すものであり、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【0007】
本開示の第一態様は、
プロセッサ(12)を有し、バッテリ(4)から電力供給される個別の電動アクチュエータ(5)により駆動される一対の駆動輪(30)間での回転速度差に応じて直進走行と旋回走行との切り替わる自律走行ロボット(1)を、目標軌道(Tt)に沿って制御する制御システムであって、
プロセッサは、
バッテリの電力制約(Lw)が含まれる走行制約(L)を、監視することと、
走行制約の条件成立に応じて、最小旋回半径での旋回走行時の最大速度である旋回最大速度(Vm)を、直進走行時の最大速度である直進最大速度(Vme,Vmw)よりも小さく制限することとを、実行するように構成され、
旋回最大速度を制限することは、
走行制約の条件成立外となる速度及びヨーレートの相関範囲として、旋回最大速度が直進最大速度よりも小さくなる速度相関範囲(Cv,Cvw)内に、自律走行ロボットの実速度及び実ヨーレートを制御することを、含む。
【0008】
本開示の第二態様は、
プロセッサ(12)を有し、バッテリ(4)から電力供給される個別の電動アクチュエータ(5)により駆動される一対の駆動輪(30)間での回転速度差に応じて直進走行と旋回走行との切り替わる自律走行ロボット(1)に搭載可能に構成され、自律走行ロボットを目標軌道(Tt)に沿って制御する制御装置であって、
プロセッサは、
バッテリの電力制約(Lw)が含まれる走行制約(L)を、監視することと、
走行制約の条件成立に応じて、最小旋回半径での旋回走行時の最大速度である旋回最大速度(Vm)を、直進走行時の最大速度である直進最大速度(Vme,Vmw)よりも小さく制限することとを、実行するように構成され、
旋回最大速度を制限することは、
走行制約の条件成立外となる速度及びヨーレートの相関範囲として、旋回最大速度が直進最大速度よりも小さくなる速度相関範囲(Cv,Cvw)内に、自律走行ロボットの実速度及び実ヨーレートを制御することを、含む。
【0009】
本開示の第三態様は、
バッテリ(4)から電力供給される個別の電動アクチュエータ(5)により駆動される一対の駆動輪(30)間での回転速度差に応じて直進走行と旋回走行との切り替わる自律走行ロボット(1)を、目標軌道(Tt)に沿って制御するために、プロセッサ(12)により実行される制御方法であって、
バッテリの電力制約(Lw)が含まれる走行制約(L)を、監視することと、
走行制約の条件成立に応じて、最小旋回半径での旋回走行時の最大速度である旋回最大速度(Vm)を、直進走行時の最大速度である直進最大速度(Vme,Vmw)よりも小さく制限することとを、含み、
旋回最大速度を制限することは、
走行制約の条件成立外となる速度及びヨーレートの相関範囲として、旋回最大速度が直進最大速度よりも小さくなる速度相関範囲(Cv,Cvw)内に、自律走行ロボットの実速度及び実ヨーレートを制御することを、含む。
【0010】
本開示の第四態様は、
バッテリ(4)から電力供給される個別の電動アクチュエータ(5)により駆動される一対の駆動輪(30)間での回転速度差に応じて直進走行と旋回走行との切り替わる自律走行ロボット(1)を、目標軌道(Tt)に沿って制御するために記憶媒体(11)に記憶され、プロセッサ(12)により実行される命令を含む制御プログラムであって、
命令は、
バッテリの電力制約(Lw)が含まれる走行制約(L)を、監視させることと、
走行制約の条件成立に応じて、最小旋回半径での旋回走行時の最大速度である旋回最大速度(Vm)を、直進走行時の最大速度である直進最大速度(Vme,Vmw)よりも小さく制限させることとを、含み、
旋回最大速度を制限させることは、
走行制約の条件成立外となる速度及びヨーレートの相関範囲として、旋回最大速度が直進最大速度よりも小さくなる速度相関範囲(Cv,Cvw)内に、自律走行ロボットの実速度及び実ヨーレートを制御させることを、含む。
【0011】
これら第一~第四態様によると、バッテリの電力制約を含む走行制約が監視されることで、当該走行制約の条件成立に応じて最小旋回半径での旋回最大速度が直進最大速度よりも小さく制限される。これによれば電力制約が生じたとしても、自律走行ロボットの実軌道が目標軌道に沿うように回転速度差を各駆動輪に発生させつつ、旋回走行時には制限された速度を出力することができる。故にバッテリの電力供給状態に拘らず、自律走行ロボットの軌道ずれを抑制することが可能となる。
【0012】
本開示の第五態様は、
プロセッサ(12)を有し、バッテリ(4)から電力供給される個別の電動アクチュエータ(5)により駆動される一対の駆動輪(30)間での回転速度差に応じて直進走行と旋回走行との切り替わる自律走行ロボット(1)を、目標軌道(Tt)に沿って制御する制御システムであって、
プロセッサは、
バッテリの電力制約(Lw)が含まれる走行制約(L)を、監視することと、
走行制約の条件成立に応じて、最小旋回半径での旋回走行時の最大加速度である旋回最大加速度(Am)を、直進走行時の最大加速度である直進最大加速度(Ame,Amw)よりも小さく制限することとを、実行するように構成され、
旋回最大加速度を制限することは、
走行制約の条件成立外となる加速度及びヨーレート変化率の相関範囲として、旋回最大加速度が直進最大加速度よりも小さくなる加速度相関範囲(Ca,Caw)内に、自律走行ロボットの実加速度及び実ヨーレート変化率を制御することを、含む。
【0013】
本開示の第六態様は、
プロセッサ(12)を有し、バッテリ(4)から電力供給される個別の電動アクチュエータ(5)により駆動される一対の駆動輪(30)間での回転速度差に応じて直進走行と旋回走行との切り替わる自律走行ロボット(1)に搭載可能に構成され、自律走行ロボットを目標軌道(Tt)に沿って制御する制御装置であって、
プロセッサは、
バッテリの電力制約(Lw)が含まれる走行制約(L)を、監視することと、
走行制約の条件成立に応じて、最小旋回半径での旋回走行時の最大加速度である旋回最大加速度(Am)を、直進走行時の最大加速度である直進最大加速度(Ame,Amw)よりも小さく制限することとを、実行するように構成され、
旋回最大加速度を制限することは、
走行制約の条件成立外となる加速度及びヨーレート変化率の相関範囲として、旋回最大加速度が直進最大加速度よりも小さくなる加速度相関範囲(Ca,Caw)内に、自律走行ロボットの実加速度及び実ヨーレート変化率を制御することを、含む。
【0014】
本開示の第七態様は、
バッテリ(4)から電力供給される個別の電動アクチュエータ(5)により駆動される一対の駆動輪(30)間での回転速度差に応じて直進走行と旋回走行との切り替わる自律走行ロボット(1)を、目標軌道(Tt)に沿って制御するために、プロセッサ(12)により実行される制御方法であって、
バッテリの電力制約(Lw)が含まれる走行制約(L)を、監視することと、
走行制約の条件成立に応じて、最小旋回半径での旋回走行時の最大加速度である旋回最大加速度(Am)を、直進走行時の最大加速度である直進最大加速度(Ame,Amw)よりも小さく制限することとを、含み、
旋回最大加速度を制限することは、
走行制約の条件成立外となる加速度及びヨーレート変化率の相関範囲として、旋回最大加速度が直進最大加速度よりも小さくなる加速度相関範囲(Ca,Caw)内に、自律走行ロボットの実加速度及び実ヨーレート変化率を制御することを、含む。
【0015】
本開示の第八態様は、
バッテリ(4)から電力供給される個別の電動アクチュエータ(5)により駆動される一対の駆動輪(30)間での回転速度差に応じて直進走行と旋回走行との切り替わる自律走行ロボット(1)を、目標軌道(Tt)に沿って制御するために記憶媒体(11)に記憶され、プロセッサ(12)により実行される命令を含む制御プログラムであって、
命令は、
バッテリの電力制約(Lw)が含まれる走行制約(L)を、監視させることと、
走行制約の条件成立に応じて、最小旋回半径での旋回走行時の最大加速度である旋回最大加速度(Am)を、直進走行時の最大加速度である直進最大加速度(Ame,Amw)よりも小さく制限させることとを、含み、
旋回最大加速度を制限させることは、
走行制約の条件成立外となる加速度及びヨーレート変化率の相関範囲として、旋回最大加速度が直進最大加速度よりも小さくなる加速度相関範囲(Ca,Caw)内に、自律走行ロボットの実加速度及び実ヨーレート変化率を制御させることを、含む。
【0016】
これら第五~第八態様によると、バッテリの電力制約を含む走行制約が監視されることで、当該走行制約の条件成立に応じて最小旋回半径での旋回最大加速度が直進最大加速度よりも小さく制限される。これによれば電力制約が生じたとしても、自律走行ロボットの実軌道が目標軌道に沿うように回転速度差を各駆動輪に発生させつつ、旋回走行時には制限された加速度を出力することができる。故にバッテリの電力供給状態に拘らず、自律走行ロボットの軌道ずれを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態による制御システムの全体構成を示すブロック図である。
【
図2】一実施形態の適用される自動走行ロボットの構成を示すブロック図である。
【
図3】一実施形態による制御システムの機能構成を示すブロック図である。
【
図4】一実施形態による第一速度相関ブロックを説明するためのグラフである。
【
図5】一実施形態による第二速度相関ブロックを説明するためのグラフである。
【
図6】一実施形態による合成速度相関ブロックを説明するためのグラフである。
【
図7】一実施形態による速度制限ブロックを説明するためのグラフである。
【
図8】一実施形態による速度制限ブロックを説明するためのグラフである。
【
図9】一実施形態による第一加速度相関ブロックを説明するためのグラフである。
【
図10】一実施形態による第二加速度相関ブロックを説明するためのグラフである。
【
図11】一実施形態による合成加速度相関ブロックを説明するためのグラフである。
【
図12】一実施形態による加速度制限ブロックを説明するためのグラフである。
【
図13】一実施形態による加速度制限ブロックを説明するためのグラフである。
【
図14】一実施形態による制御フローを示すフローチャートである。
【
図15】変形例による制御システムの機能構成を示すブロック図である。
【
図16】変形例による制御システムの機能構成を示すブロック図である。
【
図17】変形例による制御システムの機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の一実施形態を図面に基づき説明する。
【0019】
図1に示す一実施形態の制御システム10は、
図2に示す自律走行ロボット1を制御する。自律走行ロボット1は、前後左右の任意方向に自律走行する。自律走行ロボット1は、道路を自律走行して荷物を宅配する、宅配ロボットであってもよい。自律走行ロボット1は、倉庫内外を自律走行して荷物を運搬する、物流ロボットであってもよい。自律走行ロボット1は、災害地を自律走行して物資を運搬又は情報を収集する、災害支援ロボットであってもよい。自律走行ロボット1は、これら以外のロボットであっても勿論よい。さらにいずれの種の自律走行ロボット1であっても、外部センサによりリモートでの走行支援又は走行制御を受けてもよい。
【0020】
自律走行ロボット1は、車体2、車輪3、バッテリ4、電動アクチュエータ5、センサ系6、地図データベース7、及び情報提示系8を備えている。車体2は、例えば金属等により、中空状に形成されている。
【0021】
車輪3は、車体2により複数支持されている。各車輪3は、それぞれ独立して回転可能に構成されている。複数車輪3のうち、車体2の左右に一つずつとなる一対の駆動輪30は、それぞれ個別の電動アクチュエータ5により独立して駆動される。これら各駆動輪30間での回転速度差(即ち、単位時間当たりの回転数差)に応じて、自律走行ロボット1の走行状態が直進走行と旋回走行とのいずれかに切り替わる。具体的には、各駆動輪30間での回転速度差が零値、又は零値と擬制可能な範囲では、自律走行ロボット1が直進走行する。一方、各駆動輪30間での回転速度差が増大する範囲では、自律走行ロボット1の旋回走行する旋回半径が、当該回転速度差の増大に応じて縮小する。ここで旋回半径とは、車体2の鉛直中心線と旋回走行の旋回中心との距離を意味する。尚、複数車輪3には、駆動輪30に従動して回転する少なくとも一つの従動輪が、含まれていてもよい。
【0022】
バッテリ4は、車体2内に搭載されている。バッテリ4は、例えばリチウムイオン電池等の蓄電池を主体に、構成されている。バッテリ4は、放電によって車体2内の電装品へ供給する電力を、外部からの充電により蓄える。バッテリ4は、電動アクチュエータ5からの回生電力を、蓄えてもよい。バッテリ4は、電力の供給先となる電動アクチュエータ5、センサ系6、地図データベース7、及び情報提示系8に対し、ワイヤハーネスを介して電力供給可能に接続されている。
【0023】
電動アクチュエータ5は、車体2内に一対搭載されている。各電動アクチュエータ5は、それぞれ電動モータ50及びモータドライバ52の組を主体に構成されている。各電動アクチュエータ5において電動モータ50は、それぞれ対応する駆動輪30を独立して回転駆動する。各電動アクチュエータ5においてモータドライバ52は、同一組の電動モータ50へ印加する電流を制御システム10からの電流指令値に応じて制御することで、それぞれ対応する駆動輪30に対して当該電流指令値に従う回転速度(即ち、単位時間当たりの回転数)を発生させる。各電動アクチュエータ5は、それぞれ対応する駆動輪30の回転中に制動を与える、ブレーキユニットを備えていてもよい。各電動アクチュエータ5は、それぞれ対応する駆動輪30を停止中にロックする、ロックユニットを備えていてもよい。
【0024】
センサ系6は、制御システム10により利用可能なセンシング情報を、自律走行ロボット1における外界及び内界のセンシングにより取得する。そのためにセンサ系6の構成要素は、車体2の複数箇所に搭載されている。具体的にセンサ系6は、外界センサ60と内界センサ61とを含んで構成されている。
【0025】
外界センサ60は、自律走行ロボット1の周辺環境となる外界から、センシング情報としての外界情報を取得する。外界センサ60は、自律走行ロボット1の外界に存在する物標を検知することで、外界情報を取得する。物標検知タイプの外界センサ60は、例えばカメラ、LiDAR(Light Detection and Ranging / Laser Imaging Detection and Ranging)、レーダ、及びソナー等のうち、少なくとも一種類である。
【0026】
外界センサ60は、自律走行ロボット1の外界に存在するGNSS(Global Navigation Satellite System)の人工衛星から測位信号を受信することで、外界情報を取得してもよい。測位タイプの外界センサ60は、例えばGNSS受信機等である。外界センサ60は、自律走行ロボット1の外界に存在するV2Xシステムとの間において通信信号を送受信することで、外界情報を取得してもよい。通信タイプの外界センサ60は、例えばDSRC(Dedicated Short Range Communications)通信機、セルラV2X(C-V2X)通信機、ブルートゥース(Bluetooth:登録商標)機器、Wi-Fi(登録商標)機器、及び赤外線通信機器等のうち、少なくとも一種類である。
【0027】
内界センサ61は、自律走行ロボット1の内部環境となる内界から、センシング情報としての内界情報を取得する。内界センサ61は、自律走行ロボット1の内界において特定の運動物理量を検知することで、内界情報を取得する。物理量検知タイプの内界センサ61は、例えば速度センサ、加速度センサ、及びヨーレートセンサを少なくとも含んだ、複数種類である。
【0028】
地図データベース7は、制御システム10により利用可能な地図情報を、記憶する。地図データベース7は、例えば半導体メモリ、磁気媒体、及び光学媒体等のうち、少なくとも一種類の非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)を含んで構成されている。地図データベース7は、自律走行ロボット1の自己位置を含む自己状態量を推定するロケータの、データベースであってもよい。地図データベース7は、自律走行ロボット1の走行を計画するプランニングユニットの、データベースであってもよい。地図データベース7は、これらのデータベース等のうち複数種類の組み合わせにより、構成されていてもよい。
【0029】
地図データベース7は、例えば外部センタとの通信等により、最新の地図情報を取得して記憶する。ここで地図情報は、自律走行ロボット1の走行環境を表す情報として、二次元又は三次元にデータ化されている。特に三次元の地図データとしては、高精度地図のデジタルデータが採用されるとよい。地図情報は、例えば道路自体の位置、形状、及び路面状態等のうち、少なくとも一種類を表した道路情報を含んでいてもよい。地図情報は、例えば道路に付属する標識及び区画線の位置並びに形状等のうち、少なくとも一種類を表した標示情報を含んでいてもよい。地図情報は、例えば道路に面する建造物及び信号機の位置並びに形状等のうち、少なくとも一種類を表した構造物情報を含んでいてもよい。
【0030】
情報提示系8は、自律走行ロボット1の周辺者へ向けた報知情報を、提示する。情報提示系8は、周辺者の視覚を刺激することで、報知情報を提示してもよい。視覚刺激タイプの情報提示系8は、例えばモニタユニット、及び発光ユニット等のうち、少なくとも一種類である。情報提示系8は、周辺者の聴覚を刺激することで、報知情報を提示してもよい。聴覚刺激タイプの情報提示系8は、例えばスピーカ、ブザー、及びバイブレーションユニット等のうち、少なくとも一種類である。
【0031】
図1に示す制御システム10は、車体2に搭載されたコンピュータを主体とする、少なくとも一つの専用コンピュータを含んで構成されている。そこで、制御システム10を構成する専用コンピュータは、例えばLAN(Local Area Network)回線、ワイヤハーネス、内部バス、及び無線通信回線等のうち少なくとも一種類を介して、
図2に示すバッテリ4、電動アクチュエータ5、センサ系6、地図データベース7、及び情報提示系8に接続されている。
【0032】
図1の制御システム10を構成する専用コンピュータは、自律走行ロボット1の走行する目標軌道を計画する、プランニングECU(Electronic Control Unit)であってもよい。制御システム10を構成する専用コンピュータは、自律走行ロボット1の目標軌道に実軌道を追従させる、軌道制御ECUであってもよい。制御システム10を構成する専用コンピュータは、自律走行ロボット1の電動アクチュエータ5を制御する、アクチュエータECUであってもよい。制御システム10を構成する専用コンピュータは、自律走行ロボット1のセンサ系6を制御する、センシングECUであってもよい。制御システム10を構成する専用コンピュータは、自律走行ロボット1の自己位置を含む自己状態量を地図データベース7に基づき推定する、ロケータECUであってもよい。制御システム10を構成する専用コンピュータは、自律走行ロボット1の情報提示系8を制御する、表示ECUであってもよい。制御システム10を構成する専用コンピュータは、例えば通信タイプの外界センサ60を介して通信可能な外部センタ又はモバイル端末等を構成する、車体2外のコンピュータであってもよい。
【0033】
制御システム10を構成する専用コンピュータは、メモリ11及びプロセッサ12を、少なくとも一つずつ有している。メモリ11は、コンピュータにより読み取り可能なプログラム及びデータ等を非一時的に記憶する、例えば半導体メモリ、磁気媒体、及び光学媒体等のうち、少なくとも一種類の非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)である。プロセッサ12は、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、RISC(Reduced Instruction Set Computer)-CPU、DFP(Data Flow Processor)、及びGSP(Graph Streaming Processor)等のうち、少なくとも一種類をコアとして含んでいる。
【0034】
制御システム10においてプロセッサ12は、自律走行ロボット1を制御するためにメモリ11に記憶された制御プログラムに含まれる複数の命令を、実行する。これにより制御システム10は、自律走行ロボット1を制御するための機能ブロックを、複数構築する。制御システム10において構築される複数の機能ブロックには、
図3に示すように前段目標設定ブロック100、制約監視ブロック110、速度調整ブロック120、加速度調整ブロック130、及び指令調整ブロック140が含まれている。
【0035】
前段目標設定ブロック100は、複数のサブ機能ブロックとして目標軌道計画ブロック101、及び軌道追従制御ブロック102を有している。
【0036】
目標軌道計画ブロック101は、自律走行ロボット1を目標軌道Ttに沿って制御するために、当該目標軌道Ttを計画する。このとき目標軌道計画ブロック101は、センサ系6による各種取得情報に基づくことで、自律走行ロボット1の自己状態量を推定する。ここで自己状態量は、自律走行ロボット1の自己位置を含む。自己状態量は他に、自律走行ロボット1の例えば速度及びヨー角等のうち、少なくとも一種類を含んでいてもよい。目標軌道Ttとは、こうした自己状態量の時系列変化を自律走行ロボット1に対して規定する、目標の走行軌道を意味する。
【0037】
軌道追従制御ブロック102は、最新の目標軌道Ttを目標軌道計画ブロック101から引き継ぐ。それと共に軌道追従制御ブロック102は、自律走行ロボット1の実軌道を表す最新の自己状態量を、センサ系6による各種取得情報に基づき取得する。そこで軌道追従制御ブロック102は、目標軌道Ttに対して自律走行ロボット1の実軌道が追従するように、軌道追従制御を実行する。こうした軌道追従制御により軌道追従制御ブロック102は、実軌道及び目標軌道Ttのそれぞれ規定する自己状態量間の偏差をフィードバック制御により変換することで、目標軌道Ttに追従するための目標速度Vt及び目標ヨーレートYVtを設定する。
【0038】
制約監視ブロック110は、複数のサブ機能ブロックとして第一制約設定ブロック111、及び第二制約設定ブロック112を有している。
【0039】
第一制約設定ブロック111は、バッテリ4における蓄電状態(即ち、充電状態)を監視することで、バッテリ4から供給可能な最新の最大電力を推定する。そこで第一制約設定ブロック111は、最大電力に応じて制約される走行制約Lを、電力制約Lwと設定して監視する。ここで電力制約Lwとして第一制約設定ブロック111は、自律走行ロボット1に対する最大速度Vw、最大ヨーレートYVw、最大加速度Aw、及び最大ヨーレート変化率YAwを決定する。このとき電力制約Lwとなる各運動物理量Vw,YVw,Aw,YAwは、それぞれ最大電力との相関を規定するようにメモリ11に記憶された、例えばマップ、テーブル、及び関数式等のうち少なくとも一種類に基づき取得されるとよい。尚、ヨー角速度であるヨーレートに対して、ヨー角加速度であるヨーレート変化率は、当該ヨーレートの時間変化率に定義される。
【0040】
第二制約設定ブロック112は、自律走行ロボット1の走行環境に依存した走行制約Lを、環境制約Leと設定して監視する。ここで環境制約Leとは、自律走行ロボット1の運用される走行環境に関しての、例えば広狭情報、交通量情報、天候情報、障害物情報、時間帯情報、及び明暗情報等の環境要因に応じた制約に、定義される。そこで環境制約Leとして第二制約設定ブロック112は、電力制約Lwの各運動物理量にそれぞれ対応するように、自律走行ロボット1に対する最大速度Ve、最大ヨーレートYVe、最大加速度Ae、及び最大ヨーレート変化率YAeを決定する。このとき、環境制約Leとなる各運動物理量Ve,YVe,Ae,YAeは、それぞれ環境要因との相関を規定するようにメモリ11に記憶された、例えばマップ、テーブル、及び関数式等のうち少なくとも一種類に基づき取得されるとよい。
【0041】
速度調整ブロック120は、複数のサブ機能ブロックとして第一速度相関ブロック121、第二速度相関ブロック122、合成速度相関ブロック123、及び速度制限ブロック124を有している。
【0042】
第一速度相関ブロック121は、最新の電力制約Lwとして最大速度Vwと最大ヨーレートYVwとを、第一制約設定ブロック111から引き継ぐ。そこで、
図4に右上がり斜めハッチングを付して示すように第一速度相関ブロック121は、電力制約Lwの条件成立外となる速度及びヨーレートの相関範囲を、第一速度相関範囲Cvwとして設定する。このとき速度の正負は、走行停止を意味する零値を挟んで、前方への直進走行及び旋回走行をいずれも正とし、後方への直進走行及び旋回走行をいずれも負として定義されるが、逆に定義されてもよい。また一方でヨーレートの正負は、直進走行及び走行停止をいずれも意味する零値を挟んで、右方への旋回走行を正とし、左方への旋回走行を負として定義されるが、逆に定義されてもよい。
【0043】
こうした定義下において第一速度相関ブロック121は、直進走行時の最大速度である直進最大速度Vmwを、正負の最大速度Vwに設定する。それと共に第一速度相関ブロック121は、旋回走行時の最大ヨーレートである旋回最大ヨーレートYVmwを、正負の最大ヨーレートYVwに設定する。これらの設定を前提に第一速度相関ブロック121は、速度の絶対値が直進最大速度Vmw以下、且つヨーレートの絶対値が旋回最大ヨーレートYVmw以下となる範囲を、第一速度相関範囲Cvwとして取得する。このとき、第一速度相関範囲Cvw内における速度及びヨーレートの相関点群のうち、電力制約Lwの条件成立となる第一速度相関範囲Cvw外に対しての境界線(
図4の輪郭線を参照)を構成する相関点群は、第一速度相関範囲Cvwの限界点群を意味する。そこで、
図4の例において第一速度相関範囲Cvwの境界を構成する限界点群は、速度の絶対値が直進最大速度Vmwから漸次減少するほど、ヨーレートの絶対値が旋回最大ヨーレートYVmwまで漸次増大するように、想定されている。
【0044】
図3に示す第二速度相関ブロック122は、最新の環境制約Leとして最大速度Veと最大ヨーレートYVeとを、第二制約設定ブロック112から引き継ぐ。そこで、
図5に左上がり斜めハッチングを付して示すように第二速度相関ブロック122は、環境制約Leの条件成立外となる速度及びヨーレートの相関範囲を、第二速度相関範囲Cveとして設定する。このとき速度の正負は、第一速度相関範囲Cvwの場合と同様に定義される。
【0045】
こうした定義下において第二速度相関ブロック122は、直進走行時の最大速度である直進最大速度Vmeを、正負の最大速度Veに設定する。それと共に第二速度相関ブロック122は、旋回走行時の最大ヨーレートである旋回最大ヨーレートYVmeを、正負の最大ヨーレートYVeに設定する。これらの設定を前提に第二速度相関ブロック122は、速度の絶対値が直進最大速度Vme以下、且つヨーレートの絶対値が旋回最大ヨーレートYVme以下となる範囲を、第二速度相関範囲Cveとして取得する。このとき、第二速度相関範囲Cve内における速度及びヨーレートの相関点群のうち、環境制約Leの条件成立となる第二速度相関範囲Cve外に対しての境界線(
図5の輪郭線を参照)を構成する相関点群は、第二速度相関範囲Cveの限界点群を意味する。そこで、
図5の例において第二速度相関範囲Cveの境界を構成する限界点群は、速度の絶対値が直進最大速度Vmeを保つと共に、ヨーレートの絶対値が旋回最大ヨーレートYVmeを保つように、想定されている。
【0046】
図3に示す合成速度相関ブロック123は、最新の第一速度相関範囲Cvwを第一速度相関ブロック121から引き継ぐ。それと共に合成速度相関ブロック123は、最新の第二速度相関範囲Cveを第二速度相関ブロック122から引き継ぐ。そこで、
図6にクロスハッチングを付して示すように合成速度相関ブロック123は、第一速度相関範囲Cvwと第二速度相関範囲Cveとの相関点の積集合(即ち、共通集合Cvw∩Cve)となる範囲を、それら相関範囲Cvw,Cveを合成した合成速度相関範囲Cvとして設定する。このとき特に本実施形態の合成速度相関範囲Cvは、最小旋回半径での旋回走行時の最大速度である旋回最大速度Vmを、第二速度相関範囲Cveでの直進最大速度Vmeよりも小さく制限する範囲に、調整される。こうして決定される合成速度相関範囲Cvは、電力制約Lwと環境制約Leとを含む走行制約Lに対して、内部の相関点を条件成立外の許容対象とする一方、外部の相関点を条件成立の制限対象とすることになる。
【0047】
図3に示す速度制限ブロック124は、最新の合成速度相関範囲Cvを合成速度相関ブロック123から引き継ぐ。それと共に速度制限ブロック124は、最新の目標値として目標速度Vtと目標ヨーレートYVtとを、軌道追従制御ブロック102から引き継ぐ。そこで速度制限ブロック124は、自律走行ロボット1の実速度及び実ヨーレートを合成速度相関範囲Cv内に制御するように、目標速度Vt及び目標ヨーレートYVtを調整する。
【0048】
具体的に、
図7に示すように目標速度Vt及び目標ヨーレートYVtの相関点が合成速度相関範囲Cv内に存在することで、走行制約Lが条件成立外となる場合に速度制限ブロック124は、それら目標値Vt,YVtの各々をそのまま維持する。一方、
図8に示すように目標速度Vt及び目標ヨーレートYVtの相関点が合成速度相関範囲Cv外に存在することで、走行制約Lが条件成立となる場合に速度制限ブロック124は、それら目標値Vt,YVtの各々を低減調整する。このとき低減調整によって目標速度Vt及び目標ヨーレートYVtは、互いに共通となる1未満の制限比率Rvを乗算されることで、それぞれ合成速度相関範囲Cv内のうち限界点Pvを与える値Vl,YVlにまで制限される。こうした制限による各目標値Vt,YVtの制限値Vl,YVlは、合成速度相関範囲Cvの外部との境界線と、当該制限前における各目標値Vt,YVtの相関点から零点へと延ばした仮想線との、交点において限界点Pvを構成することになる。
【0049】
図3に示す加速度調整ブロック130は、複数のサブ機能ブロックとして第一加速度相関ブロック131、第二加速度相関ブロック132、合成加速度相関ブロック133、後段目標設定ブロック134、及び加速度制限ブロック135を有している。
【0050】
第一加速度相関ブロック131は、最新の電力制約Lwとして最大加速度Awと最大ヨーレート変化率YAwとを、第一制約設定ブロック111から引き継ぐ。そこで、
図9に右上がり斜めハッチングを付して示すように第一加速度相関ブロック131は、電力制約Lwの条件成立外となる加速度及びヨーレート変化率の相関範囲を、第一加速度相関範囲Cawとして設定する。このとき加速度の正負は、走行停止を意味する零値を挟んで、前方への直進走行及び旋回走行をいずれも正とし、後方への直進走行及び旋回走行をいずれも負として定義されるが、逆に定義されてもよい。また一方でヨーレート変化率の正負は、直進走行及び走行停止をいずれも意味する零値を挟んで、右方への旋回走行を正とし、左方への旋回走行を負として定義されるが、逆に定義されてもよい。
【0051】
こうした定義下において第一加速度相関ブロック131は、直進走行時の最大加速度である直進最大加速度Amwを、正負の最大加速度Awに設定する。それと共に第一加速度相関ブロック131は、旋回走行時の最大ヨーレート変化率である旋回最大ヨーレート変化率YAmwを、正負の最大ヨーレート変化率YAwに設定する。これらの設定を前提に第一加速度相関ブロック131は、加速度の絶対値が直進最大加速度Amw以下、且つヨーレート変化率の絶対値が旋回最大ヨーレート変化率YAmw以下となる範囲を、第一加速度相関範囲Cawとして取得する。このとき、第一加速度相関範囲Caw内における加速度及びヨーレート変化率の相関点群のうち、電力制約Lwの条件成立となる第一加速度相関範囲Caw外に対しての境界線(
図9の輪郭線を参照)を構成する相関点群は、第一加速度相関範囲Cawの限界点群を意味する。そこで、
図9の例において第一加速度相関範囲Cawの境界を構成する限界点群は、加速度の絶対値が直進最大加速度Amwから漸次減少するほど、ヨーレート変化率の絶対値が旋回最大ヨーレート変化率YAmwまで漸次増大するように、想定されている。
【0052】
図3に示す第二加速度相関ブロック132は、最新の環境制約Leとして最大加速度Aeと最大ヨーレート変化率YAeとを、第二制約設定ブロック112から引き継ぐ。そこで、
図10に左上がり斜めハッチングを付して示すように第二加速度相関ブロック132は、環境制約Leの条件成立外となる加速度及びヨーレート変化率の相関範囲を、第二加速度相関範囲Caeとして設定する。このとき加速度の正負は、第一加速度相関範囲Cawの場合と同様に定義される。
【0053】
こうした定義下において第二加速度相関ブロック132は、直進走行時の最大加速度である直進最大加速度Ameを、正負の最大加速度Aeに設定する。それと共に第二加速度相関ブロック132は、旋回走行時の最大ヨーレート変化率である旋回最大ヨーレート変化率YAmeを、正負の最大ヨーレート変化率YAeに設定する。これらの設定を前提に第二加速度相関ブロック132は、加速度の絶対値が直進最大加速度Ame以下、且つヨーレート変化率の絶対値が旋回最大ヨーレート変化率YAme以下となる範囲を、第二加速度相関範囲Caeとして取得する。このとき、第二加速度相関範囲Cae内における加速度及びヨーレート変化率の相関点群のうち、環境制約Leの条件成立となる第二加速度相関範囲Cae外に対しての境界線(
図10の輪郭線を参照)を構成する相関点群は、第二加速度相関範囲Caeの限界点群を意味する。そこで、
図10の例において第二加速度相関範囲Caeの境界を構成する限界点群は、加速度の絶対値が直進最大加速度Ameを保つと共に、ヨーレート変化率の絶対値が旋回最大ヨーレート変化率YAmeを保つように、想定されている。
【0054】
図3に示す合成加速度相関ブロック133は、最新の第一加速度相関範囲Cawを第一加速度相関ブロック131から引き継ぐ。それと共に合成加速度相関ブロック133は、最新の第二加速度相関範囲Caeを第二加速度相関ブロック132から引き継ぐ。そこで、
図11にクロスハッチングを付して示すように合成加速度相関ブロック133は、第一加速度相関範囲Cawと第二加速度相関範囲Caeとの相関点の積集合(即ち、共通集合Caw∩Cae)となる範囲を、それら相関範囲Caw,Caeを合成した合成加速度相関範囲Caとして設定する。このとき特に本実施形態の合成加速度相関範囲Caは、最小旋回半径での旋回走行時の最大加速度である旋回最大加速度Amを、第二加速度相関範囲Caeでの直進最大加速度Ameよりも小さく制限する範囲に、調整される。こうして決定される合成加速度相関範囲Caは、電力制約Lwと環境制約Leとを含む走行制約Lに対して、内部の相関点を条件成立外の許容対象とする一方、外部の相関点を条件成立の制限対象とすることになる。
【0055】
図3に示す後段目標設定ブロック134は、最新の目標値として目標速度Vtと目標ヨーレートYVtとを、速度制限ブロック124から引き継ぐ。それと共に後段目標設定ブロック134は、最新の今回制御周期に対して過去となる前回制御周期に指令調整ブロック140によって後述の如く変化率調整された目標速度Vt及び目標ヨーレートYVtを、メモリ11から取得する。そこで後段目標設定ブロック134は、最新及び過去の各目標値Vt,YVtを値の種別毎に差分をとって時間微分することで、目標軌道Ttに追従するための最新の目標値として目標加速度At及び目標ヨーレート変化率YAtを設定する。
【0056】
加速度制限ブロック135は、最新の合成加速度相関範囲Caを合成加速度相関ブロック133から引き継ぐ。それと共に加速度制限ブロック135は、最新の目標値として目標加速度Atと目標ヨーレート変化率YAtとを、後段目標設定ブロック134から引き継ぐ。そこで加速度制限ブロック135は、自律走行ロボット1の実加速度及び実ヨーレート変化率を合成加速度相関範囲Ca内に制御するように、上述の目標加速度At及び目標ヨーレート変化率YAtをさらに調整する。
【0057】
具体的に、
図12に示すように目標加速度At及び目標ヨーレート変化率YAtの相関点が合成加速度相関範囲Ca内に存在することで、走行制約Lが条件成立外となる場合に加速度制限ブロック135は、それら目標値At,YAtの各々をそのまま維持する。一方、
図13に示すように目標加速度At及び目標ヨーレート変化率YAtの相関点が合成加速度相関範囲Ca外に存在することで、走行制約Lが条件成立となる場合に加速度制限ブロック135は、それら目標値At,YAtの各々を低減調整する。このとき低減調整によって目標加速度At及び目標ヨーレート変化率YAtは、互いに共通となる1未満の制限比率Raを乗算されることで、それぞれ合成加速度相関範囲Ca内のうち限界点Paを与える値Al,YAlにまで制限される。こうした制限による各目標値At,YAtの制限値Al,YAlは、合成加速度相関範囲Caの外部との境界線と、当該制限前における各目標値At,YAtの相関点から零点へと延ばした仮想線との、交点において限界点Paを構成することになる。
【0058】
図3に示す指令調整ブロック140は、複数のサブ機能ブロックとして変化率調整ブロック141、及び指令出力ブロック142を有している。
【0059】
変化率調整ブロック141は、最新の目標速度Vt及び目標ヨーレートYVtを、速度制限ブロック124から引き継ぐ。それと共に変化率調整ブロック141は、最新の目標加速度At及び目標ヨーレート変化率YAtを、加速度制限ブロック135から引き継ぐ。さらに変化率調整ブロック141は、最新の今回制御周期に対して過去となる前回制御周期に同ブロック141によって変化率調整された目標速度Vt及び目標ヨーレートYVtを、メモリ11から取得する。そこで
図3に示すように変化率調整ブロック141は、目標速度Vt及び目標ヨーレートYVtを、それぞれ最新及び過去間での時間変化率が最新の目標加速度At及び目標ヨーレート変化率YAtと一致するように、再調整してメモリ11に記憶する。
【0060】
ここで変化率調整ブロック141は、メモリ11からの過去目標値Vt,YVtの取得に変えて、最新の制限比率Raを加速度制限ブロック135から引き継いでよい。このとき、加速度制限ブロック135において目標加速度At及び目標ヨーレート変化率YAtが低減調整された場合には、値が1未満の制限比率Raを変化率調整ブロック141は引き継ぐことになる。また一方、加速度制限ブロック135において目標加速度At及び目標ヨーレート変化率YAtがそのまま維持された場合には、値が1の制限比率Raを変化率調整ブロック141は引き継ぐとよい。こうして制限比率Raを引き継いだ変化率調整ブロック141は、当該制限比率Raと最新の目標値At,YAtとに基づくことで、最新の目標値Vt,YVtをそれぞれ再調整可能である。
【0061】
指令出力ブロック142は、変化率調整された最新の目標速度Vt及び目標ヨーレートYVtを、変化率調整ブロック141から引き継ぐ。そこで指令出力ブロック142は、目標速度Vt及び目標ヨーレートYVtに基づく次の式1,2を満たすように、右側駆動輪30の目標回転速度ΦRと左側駆動輪30の目標回転速度ΦLとをそれぞれ設定する。ここで数1,2において、dは車体2の鉛直中心線から各駆動輪30までの距離であり、rは各駆動輪30の半径である。以上により指令出力ブロック142は、各駆動輪30の目標回転速度ΦR,ΦLを、それぞれ対応する側の電動アクチュエータ5に対する電流指令値へ変換してから、出力する。
【数1】
【数2】
【0062】
ここまで説明したブロック100,110,120,130,140の共同により、制御システム10が自律走行ロボット1を制御する制御方法は、
図14に示す制御フローに従って実行される。本制御フローは、自律走行ロボット1の起動中に制御周期に従って繰り返し実行される。尚、本制御フローにおける各「S」は、制御プログラムに含まれた複数命令によって実行される複数ステップを、それぞれ意味している。
【0063】
S101において前段目標設定ブロック100は、自律走行ロボット1の目標軌道Ttを目標軌道計画ブロック101により計画し、当該目標軌道Ttに沿う実軌道に制御するための目標速度Vt及び目標ヨーレートYVtを軌道追従制御ブロック102により設定する。S101と並行するS102において制約監視ブロック110は、走行制約Lとしての電力制約Lw及び環境制約Leを、それぞれ第一及び第二制約設定ブロック111,112により監視する。
【0064】
S101,S102に続くS103において速度調整ブロック120は、それぞれ第一及び第二速度相関ブロック121,122により取得した第一及び第二速度相関範囲Cvw,Cveを、合成速度相関ブロック123により合成速度相関範囲Cvへと合成する。S103に続くS104において速度調整ブロック120は、目標速度Vt及び目標ヨーレートYVtの相関点を合成速度相関範囲Cv内に制御するように、それら目標値Vt,YVtを速度制限ブロック124により調整する。
【0065】
S104に続くS105において加速度調整ブロック130は、それぞれ第一及び第二加速度相関ブロック131,132により取得した第一及び第二加速度相関範囲Caw,Caeを、合成加速度相関ブロック133により合成加速度相関範囲Caへと合成する。S105に続くS106において加速度調整ブロック130は、目標加速度At及び目標ヨーレート変化率YAtを、後段目標設定ブロック134により設定する。S106に続くS107において加速度調整ブロック130は、目標加速度At及び目標ヨーレート変化率YAtの相関点を合成加速度相関範囲Ca内に制御するように、それら目標値At,YAtを加速度制限ブロック135により調整する。
【0066】
S107に続くS108において指令調整ブロック140は、変化率調整ブロック141により目標速度Vt及び目標ヨーレートYtを、目標加速度At及び目標ヨーレート変化率YAtに基づき再調整する。S108に続くS109において指令調整ブロック140は、指令出力ブロック142により目標速度Vt及び目標ヨーレートYVtに従って設定した各駆動輪30の目標回転速度ΦR,ΦLを、同ブロック142により各電動アクチュエータ5に対する電流指令値へと変換してから出力する。
【0067】
(作用効果)
以上説明した本実施形態の作用効果を、以下に説明する。
【0068】
本実施形態によると、バッテリ4の電力制約Lwを含む走行制約Lが監視されることで、当該走行制約Lの条件成立に応じて最小旋回半径での旋回最大速度Vmが直進最大速度Vmeよりも小さく制限される。これによれば電力制約Lwが生じたとしても、自律走行ロボット1の実軌道が目標軌道Ttに沿うように回転速度差を各駆動輪30に発生させつつ、旋回走行時には制限された速度を出力することができる。故にバッテリ4の電力供給状態に拘らず、自律走行ロボット1の軌道ずれを抑制することが可能となる。
【0069】
本実施形態によると、走行制約Lの条件成立外となる速度及びヨーレートの相関範囲として、最小旋回半径での旋回最大速度Vmが直進最大速度Vmeよりも小さくなる合成速度相関範囲Cv内に、自律走行ロボット1の実速度及び実ヨーレートが制御される。これによれば、合成速度相関範囲Cv内の実速度及び実ヨーレートによる実軌道が目標軌道Ttに沿うように回転速度差を各駆動輪30に発生させつつ、旋回走行時には制限された速度を出力することができる。故に、自律走行ロボット1の軌道ずれを抑制する効果の信頼性を、確保することが可能となる。
【0070】
本実施形態では自律走行ロボット1に対して、目標軌道Ttに追従するための目標速度Vt及び目標ヨーレートYVtが、設定される。そこで本実施形態によると、走行制約Lの条件成立となる合成速度相関範囲Cv外に外れた相関点の目標速度Vt及び目標ヨーレートYVtは、合成速度相関範囲Cv内のうち限界点Pvを与える値Vl,YVlにまで、共通の制限比率Rvにて調整される。これによれば、目標速度Vtと目標ヨーレートYVtとの相対比Vt/YVtが調整前後において実質維持されることで、合成速度相関範囲Cv内の実速度及び実ヨーレートによる自律走行ロボット1の到達位置は目標軌道Ttに重なり得る。故に旋回走行時には、そうした実速度及び実ヨーレートによる実軌道が目標軌道Ttに沿うように回転速度差を各駆動輪30に発生させつつ、制限された速度を出力することができる。したがって、自律走行ロボット1の軌道ずれを抑制する効果の信頼性を、高めることが可能である。
【0071】
本実施形態によると、バッテリ4の電力制約Lwを含む走行制約Lが監視されることで、当該走行制約Lの条件成立に応じて最小旋回半径での旋回最大加速度Amが直進最大加速度Ameよりも小さく制限される。これによれば電力制約Lwが生じたとしても、自律走行ロボット1の実軌道が目標軌道Ttに沿うように回転速度差を各駆動輪30に発生させつつ、旋回走行時には制限された加速度を出力することができる。故にバッテリ4の電力供給状態に拘らず、自律走行ロボット1の軌道ずれを抑制することが可能となる。
【0072】
本実施形態によると、走行制約Lの条件成立外となる加速度及びヨーレート変化率の相関範囲として、最小旋回半径での旋回最大加速度Amが直進最大加速度Ameよりも小さくなる合成加速度相関範囲Ca内に、自律走行ロボット1の実加速度及び実ヨーレート変化率が制御される。これによれば、合成加速度相関範囲Ca内の実加速度及び実ヨーレート変化率による実軌道が目標軌道Ttに沿うように回転速度差を各駆動輪30に発生させつつ、旋回走行時には制限された加速度を出力することができる。故に、自律走行ロボット1の軌道ずれを抑制する効果の信頼性を、確保することが可能となる。
【0073】
本実施形態では自律走行ロボット1に対して、目標軌道Ttに追従するための目標加速度At及び目標ヨーレート変化率YAtが、設定される。そこで本実施形態によると、走行制約Lの条件成立となる合成加速度相関範囲Ca外に外れた相関点の目標加速度At及び目標ヨーレート変化率YAtは、合成加速度相関範囲Ca内のうち限界点Paを与える値Al,YAlにまで、共通の制限比率Raにて調整される。これによれば、目標加速度Atと目標ヨーレート変化率YAtとの相対比At/YAtが調整前後において実質維持されることで、合成加速度相関範囲Ca内の実加速度及び実ヨーレート変化率による自律走行ロボット1の到達位置は目標軌道Ttに重なり得る。故に旋回走行時には、そうした実加速度及び実ヨーレート変化率による実軌道が目標軌道Ttに沿うように回転速度差を各駆動輪30に発生させつつ、制限された加速度を出力することができる。したがって、自律走行ロボット1の軌道ずれを抑制する効果の信頼性を、高めることが可能である。
【0074】
本実施形態によると、バッテリ4の電力制約Lwだけでなく、自律走行ロボット1の走行環境に依存する環境制約Leも含まれる走行制約Lが、監視される。これによれば、環境制約Leの条件成立が生じた場合にも、自律走行ロボット1の実軌道が目標軌道Ttに沿うように回転速度差を各駆動輪30に発生させつつ、旋回走行時には制限された速度及び加速度を出力することができる。故に走行環境に拘らず、自律走行ロボット1の軌道ずれを抑制することも可能となる。
【0075】
(他の実施形態)
以上、一実施形態について説明したが、本開示は、当該説明の実施形態に限定して解釈されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
【0076】
変形例において制御システム10を構成する専用コンピュータは、デジタル回路及びアナログ回路のうち、少なくとも一方をプロセッサとして有していてもよい。ここでデジタル回路とは、例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、SOC(System on a Chip)、PGA(Programmable Gate Array)、及びCPLD(Complex Programmable Logic Device)等のうち、少なくとも一種類である。またこうしたデジタル回路は、プログラムを記憶したメモリを、有していてもよい。
【0077】
図15に示すように変形例において第二制約設定ブロック112は、構築されなくてもよい。この場合の調整ブロック120,130では、相関ブロック122,123,132,133も構築されずに、制限ブロック124,135において相関範囲Cv,Caに代わる相関範囲Cvw,Caw内に目標値Vt,YVt,At,YAtが調整されるとよい。またこの場合に相関範囲Cvw,Cawは、最小旋回半径での旋回最大速度Vm及び旋回最大加速度Amを、それぞれ直進最大速度Vmw及び直進最大加速度Amwよりも小さく制限する範囲に、調整されるとよい。ここで最小旋回半径での旋回走行時には、片側の駆動輪30が正負の一方に最大回転速度で制御されるのに対し、逆側の駆動輪30が正負の他方に最大回転速度で制御されることで、自律走行ロボット1の重心位置が実質保持されて、当該最小旋回半径と旋回最大速度Vmと旋回最大加速度Amとのいずれも実質零値となる。さらにこれらの変形点に応じて、制御フローが変更されるとよい。
【0078】
図16に示すように変形例において速度調整ブロック120は、構築されなくてもよい。この場合の加速度調整ブロック130では、後段目標設定ブロック134において軌道追従制御ブロック102からの目標値Vt,YVtを用いた時間微分により、最新の目標加速度At及び目標ヨーレート変化率YAtが設定されるとよい。またこの場合の指令調整ブロック140では、変化率調整ブロック141において軌道追従制御ブロック102からの目標値Vt,YVtが、再調整されるとよい。さらにこれらの変形点に応じて、制御フローが変更されるとよい。
【0079】
図17に示すように変形例において加速度調整ブロック130は、構築されなくてもよい。この場合の指令調整ブロック140では、変化率調整ブロック141も構築されずに、指令出力ブロック142において速度制限ブロック124からの目標値Vt,YVtに従って目標回転速度ΦR,ΦLが設定されるとよい。またこれらの変形点に応じて、制御フローが変更されるとよい。
【0080】
ここまでの説明形態の他に上述の実施形態及び変形例は、自律走行ロボット1に搭載可能に構成されてプロセッサ12及びメモリ11を少なくとも一つずつ有する制御装置として、処理回路(例えば処理ECU等)又は半導体装置(例えば半導体チップ等)の形態で実施されてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1:自律走行ロボット、4:バッテリ、5:電動アクチュエータ、10:制御システム、11:メモリ、12:プロセッサ、30:駆動輪、Al,YAl,Vl,YVl:制限値、Am:旋回最大加速度、Ame,Amw:直進最大加速度、At:目標加速度、Ca:加速度相関範囲、Cv:速度相関範囲、L:走行制約、Le:環境制約、Lw:電力制約、Pa,Pv:限界点、Ra,Rv:制限比率、Tt:目標軌道、Vm:旋回最大速度、Vme,Vmw:直進最大速度、Vt:目標速度、YAt:目標ヨーレート変化率、YVt:目標ヨーレート