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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/14 20060101AFI20240723BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
H01M4/14 Q
H01M4/62 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021521916
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2020021482
(87)【国際公開番号】W WO2020241885
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2019103308
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】籠橋 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼野 泰如
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/241878(WO,A1)
【文献】特開2017-016782(JP,A)
【文献】特開2003-331908(JP,A)
【文献】特開昭60-182662(JP,A)
【文献】実公平02-034758(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/14
H01M 4/62
H01M 10/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体と、負極電極材料と、を備える鉛蓄電池用負極板であって、
前記負極電極材料が、
前記負極電極材料の過電圧を上昇させる作用を有する(条件A)、
H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する(条件B)、および、
オキシC 2-4 アルキレンユニットの繰り返し構造を含む(条件C)
の少なくとも1つの条件を満たすポリマー化合物を含み、
前記負極板の上端部から下端部に向かう方向をX方向、前記X方向と交差する方向をY方向として、前記Y方向を行方向、前記X方向を列方向とする8行4列の行列状に前記負極板を32等分し、全32領域における前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量の平均値をC0とするとき、
前記上端部側から第1~4行の16個の領域のうち、前記ポリマー化合物の含有量がC0より小さい領域の数N(1-4)と、第5~8行の16個の領域のうち、前記ポリマー化合物の含有量がC0より小さい領域の数N(5-8)とが、N(1-4)<N(5-8)を満たす、負極板。
【請求項2】
前記行列状の32領域をそれぞれR(x、y)で示し(ただし、xは行の位置を示す1~8の整数、yは列の位置を示す1~4の整数)、R(x、y)における前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量をC(x、y)と定義するとき、以下:
(1)少なくとも1つの列において、C(1,y)~C(4,y)の平均値が、C(5,y)~C(8,y)の平均値よりも大きい;
(2)少なくとも1つの列において、C(1,y)~C(4,y)の平均値が、C(6,y)~C(8,y)の平均値よりも大きい;
(3)少なくとも1つの列において、C(1,y)~C(4,y)の平均値が、C(7,y)~C(8,y)の平均値よりも大きい;
(4)少なくとも1つの列において、C(1,y)~C(4,y)の平均値が、C(8,y)よりも大きい;
(5)少なくとも1つの列において、C(5,y)~C(8,y)の何れかが、残りの何れよりも小さい;
(6)少なくとも1つの列において、C(8,y)が、残りの何れよりも小さい;
(7)少なくとも1つの列において、C(8,y)が、C(7,y)~C(5,y)の何れよりも小さい;
の条件の少なくとも1つを満たす、請求項1に記載の負極板。
【請求項3】
負極集電体と、負極電極材料と、を備える鉛蓄電池用負極板であって、
前記負極電極材料が、
前記負極電極材料の過電圧を上昇させる作用を有する(条件A)、
H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する(条件B)、および、
オキシC 2-4 アルキレンユニットの繰り返し構造を含む(条件C)
の少なくとも1つの条件を満たすポリマー化合物を含み、
前記負極板の上端部から下端部に向かう方向をX方向、前記X方向と交差する方向をY方向として、前記Y方向を行方向、前記X方向を列方向とする8行4列の行列状に前記負極板を32等分し、全32領域における前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量の平均値をC0とするとき、
前記上端部側から第1~2行の8個の領域のうち、前記ポリマー化合物の含有量がC0より小さい領域の数N(1-2)と、第3~4行の8個の領域のうち、前記ポリマー化合物の含有量がC0より小さい領域の数N(3-4)とが、N(1-2)<N(3-4)を満たし、かつ、
第5~6行の8個の領域のうち、前記ポリマー化合物の含有量がC0より小さい領域の数N(5-6)と、第7~8行の8個の領域のうち、前記ポリマー化合物の含有量がC0より小さい領域の数N(7-8)とが、N(5-6)<N(7-8)を満たす、負極板。
【請求項4】
前記ポリマー化合物の含有量の平均値C0が、3ppm以上、400ppm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の負極板。
【請求項5】
前記上端部側から第1~4行の16個の領域の前記ポリマー化合物の含有量の最大値が、400ppm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の負極板。
【請求項6】
複数の正極板と、複数の負極板と、電解液と、を備え、
前記複数の負極板の少なくとも1つが、請求項1~のいずれか1項に記載の負極板である、鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池には、負極板、正極板、セパレータ(またはマット)、および電解液などが含まれる。様々な機能を付与する観点から、鉛蓄電池の構成部材に添加剤が添加されることがある。
【0003】
特許文献1には、リグニンスルホン酸塩と併用してプロピレンオキシドとエチレンオキシドとの共重合体を負極板活物質中に添加したことを特徴とする鉛蓄電池が提案されている。
特許文献2には、有機高分子を含む活性化剤を電槽内への裂開機構を有する小型密閉容器に封入し、小型密閉容器を電槽または蓋部に装着したことを特徴とする鉛蓄電池が提案されている。
【0004】
特許文献3には、サイズ組成物で被覆された複数の繊維と、バインダ組成物と、1種以上の添加剤とを含み、該添加剤が、ゴム添加剤、ゴム誘導体、アルデヒド、金属塩、エチレン-プロピレンオキサイドブロックコポリマー、硫酸エステル、スルホン酸エステル、リン酸エステル、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、リグニン、フェノールホルムアルデヒド樹脂、セルロース、および木粉などのうち1種以上を含み、該添加剤が、鉛蓄電池における水分損失を減じるように機能し得る繊維貼付マットが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭60-182662号公報
【文献】特開2000-149980号公報
【文献】特表2017-525092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鉛蓄電池では、放電が進むにつれて電槽下部の電解液の比重が電槽上部のそれに比べて高くなっていく。また、充電時には電解液の比重差がさらに拡大されていく。このような上下方向における電解液の比重差が生じる現象は成層化と呼ばれる。成層化した状態で充放電を繰り返すと、充放電特性だけでなく、電池寿命が短くなると考えられている。電解液の成層化は、鉛蓄電池を過充電し、電極板でガスを発生させることによって電解液を攪拌することで解消され得るが、ガス発生による電解液の減少(減液)が問題となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、負極集電体と、負極電極材料と、を備える鉛蓄電池用負極板であって、前記負極電極材料が、ポリマー化合物を含み、前記負極板の上端部から下端部に向かう方向をX方向、前記X方向と交差する方向をY方向として、前記Y方向を行方向、前記X方向を列方向とする8行4列の行列状に前記負極板を32等分し、全32領域における前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量の平均値をC0とするとき、前記上端部側から第1~4行の16個の領域のうち、前記ポリマー化合物の含有量がC0より小さい領域の数N(1-4)と、第5~8行の16個の領域のうち、前記ポリマー化合物の含有量がC0より小さい領域の数N(5-8)とが、N(1-4)<N(5-8)を満たす、負極板に関する。
【0008】
本発明の別の側面は、負極集電体と、負極電極材料と、を備える鉛蓄電池用負極板であって、前記負極電極材料が、ポリマー化合物を含み、前記負極板の上端部から下端部に向かう方向をX方向、前記X方向と交差する方向をY方向として、前記Y方向を行方向、前記X方向を列方向とする8行4列の行列状に前記負極板を32等分し、全32領域における前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量の平均値をC0とするとき、上記上端部側から第1~2行の8個の領域のうち、前記ポリマー化合物の含有量がC0より小さい領域の数N(1-2)と、第3~4行の8個の領域のうち、前記ポリマー化合物の含有量がC0より小さい領域の数N(3-4)とが、N(1-2)<N(3-4)を満たし、かつ、第5~6行の8個の領域のうち、前記ポリマー化合物の含有量がC0より小さい領域の数N(5-6)と、第7~8行の8個の領域のうち、前記ポリマー化合物の含有量がC0より小さい領域の数N(7-8)とが、N(5-6)<N(7-8)を満たす、負極板に関する。
【発明の効果】
【0009】
鉛蓄電池において、電解液の成層化と減液を共に抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す一部を切り欠いた分解斜視図である。
図2】行列状に32領域に区分された負極板を示す模式図である。
図3】第1実施形態の第1態様に係る負極板のポリマー化合物の分布を示す図である。
図4】第1実施形態の第2態様に係る負極板のポリマー化合物の分布を示す図である。
図5】第1実施形態の第3態様に係る負極板のポリマー化合物の分布を示す図である。
図6】第1実施形態の第4態様に係る負極板のポリマー化合物の分布を示す図である。
図7】第2実施形態の第1態様に係る負極板のポリマー化合物の分布を示す図である。
図8】第2実施形態の第2態様に係る負極板のポリマー化合物の分布を示す図である。
図9】電池A1~A4の負極板のポリマー化合物の分布を示す図である。
図10】電池A5~A8の負極板のポリマー化合物の分布を示す図である。
図11】電池A9~A12の負極板のポリマー化合物の分布を示す図である。
図12】電池B1~B5の負極板のポリマー化合物の分布を示す図である。
図13】実施例および比較例の電池の電解液の比重差を示す棒グラフである。
図14】実施例および比較例の電池の電解液の比重差を示す線グラフである。
図15】実施例および比較例の電池の過充電電気量を示す棒グラフである。
図16】実施例および比較例の電池の過充電電気量を示す線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[鉛蓄電池]
本発明の実施形態に係る鉛蓄電池は、正極板と、負極板と、電解液と、を備え、正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを備え、負極板は、負極集電体と、負極電極材料とを備え、負極電極材料が、ポリマー化合物を含む。ポリマー化合物は、負極電極材料の過電圧を増大させる作用を有する。
【0012】
負極板のうち、負極電極材料がポリマー化合物を含む部分では、過充電時に水素が発生しにくくなり、負極電極材料におけるポリマー化合物の含有量が高いほど、水素発生を抑制する傾向が大きくなる。この部分では、電解液の減液が抑制される。また、ポリマー化合物は、過充電電気量を抑制する作用を有する。
ポリマー化合物により負極電極材料中の鉛の表面が覆われた状態となることで、上記のような効果が得られるものと考えられる。一般にポリマー化合物(中でも線状構造を取り易いポリマー化合物)は、負極電極材料中に留まり難く、電解液中に拡散し易いと予想されるが、実際には、負極電極材料中に僅かなポリマー化合物が含まれる場合でも、水素過電圧を上昇させる顕著な効果が得られることが判明した。
【0013】
一方、負極電極材料がポリマー化合物を含まない部分や、負極電極材料におけるポリマー化合物の含有量が低い部分では、相対的に水素が発生しやすい。電極板の下端部側に水素が発生しやすい部分を設けることで、水素発生による電解液の攪拌が効率的に行われる。すなわち、電解液の成層化が進行しにくくなる。
【0014】
以上に鑑み、本実施形態では、負極板の上端部(耳部(タブ)を有する側)から下端部に向かう方向をX方向、X方向と交差する方向をY方向として、Y方向を行方向、X方向を列方向とする8行4列の行列状に負極板を32等分し、全32領域における負極電極材料中のポリマー化合物の含有量の平均値をC0とするとき、上端部側から第1~4行の16個の領域のうち、ポリマー化合物の含有量がC0より小さい領域の数N(1-4)と、第5~8行の16個の領域のうち、ポリマー化合物の含有量がC0より小さい領域の数N(5-8)とが、N(1-4)<N(5-8)を満たす。
【0015】
或いは、上端部側から第1~2行の8個の領域のうち、ポリマー化合物の含有量がC0より小さい領域の数N(1-2)と、第3~4行の8個の領域のうち、ポリマー化合物の含有量がC0より小さい領域の数N(3-4)とが、N(1-2)<N(3-4)を満たし、かつ、第5~6行の8個の領域のうち、ポリマー化合物の含有量がC0より小さい領域の数N(5-6)と、第7~8行の8個の領域のうち、ポリマー化合物の含有量がC0より小さい領域の数N(7-8)とが、N(5-6)<N(7-8)を満たす。
【0016】
X方向は、通常の鉛蓄電池の使用状態における上下方向、すなわち鉛直方向に対応する。このとき、Y方向は、水平方向に対応する。
【0017】
以下、行列状の32領域をそれぞれR(x、y)で示す。ただし、xは行の位置を示す1~8の整数、yは列の位置を示す1~4の整数である。図2は、行列状に32領域に区分された負極板を示す模式図である。
【0018】
また、R(x、y)における負極電極材料中のポリマー化合物の含有量をC(x、y)と定義する。つまり、ポリマー化合物の含有量がC0より小さい領域R(x、y)では、C(x、y)<C0が満たされる。なお、C0およびC(x、y)の測定方法による誤差を考慮して、C0の実測値のC(x、y)の実測値に対する比:C0/C(x、y)が、0.95≦C0/C(x、y)≦1.05を満たす場合には、C0=C(x、y)と見なす。すなわち、C0/C(x、y)が1.05より大きくなる領域R(x、y)をC(x、y)<C0が満たされる領域とする。C(x、y)<C0が満たされる領域は、ポリマー化合物を含まなくてもよい(C(x、y)=0ppmでもよい)。
【0019】
各領域に含まれる負極電極材料の含有量を測定する場合、対象となる負極板を、既述の8行4列の行列状に32分割して、各領域の試料を準備すればよい。同じ負極板を複数枚準備し、同様に32分割し、(x、y)値が同じ領域の試料同士を混合して試料の量を調整してもよい。
【0020】
負極板は、更に、以下の条件の少なくとも1つを満たしてもよい。
(1)少なくとも1つの列において、C(1,y)~C(4,y)の平均値が、C(5,y)~C(8,y)の平均値よりも大きい。
(2)少なくとも1つの列において、C(1,y)~C(4,y)の平均値が、C(6,y)~C(8,y)の平均値よりも大きい。
(3)少なくとも1つの列において、C(1,y)~C(4,y)の平均値が、C(7,y)~C(8,y)の平均値よりも大きい。
(4)少なくとも1つの列において、C(1,y)~C(4,y)の平均値が、C(8,y)よりも大きい。
(5)少なくとも1つの列において、C(5,y)~C(8,y)の何れかが、残りの何れよりも小さい。
(6)少なくとも1つの列において、C(8,y)が、残りの何れよりも小さい。
(7)少なくとも1つの列において、C(8,y)が、C(5,y)~C(7,y)の何れよりも小さい。
【0021】
ポリマー化合物の含有量の平均値C0は、例えば3ppm以上、400ppm以下であればよい。また、上端部側から第1~4行の16個の領域のポリマー化合物の含有量の最大値は、例えば400ppm以下であればよい。
【0022】
鉛蓄電池は、電槽に、正極板、負極板および電解液を収容することにより鉛蓄電池を組み立てる工程を含む製造方法により得ることができる。鉛蓄電池の組み立て工程において、セパレータは、通常、正極板と負極板との間に介在するように配置される。鉛蓄電池の組み立て工程は、正極板、負極板および電解液を電槽に収容する工程の後、必要に応じて、正極板および/または負極板を化成する工程を含んでもよい。正極板、負極板、電解液、およびセパレータは、それぞれ、電槽に収容される前に準備される。
【0023】
図1に、本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0024】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0025】
正極棚部5は、各正極板3の上部に設けられた耳部同士をキャストオンストラップ方式やバーニング方式で溶接することにより形成される。負極棚部6も、正極棚部5の場合に準じて各負極板2の上部に設けられた耳部同士を溶接することにより形成される。
【0026】
なお、鉛蓄電池の蓋15は、一重構造(単蓋)であるが、図示例の場合に限らない。蓋15は、例えば、中蓋と外蓋(または上蓋)とを備える二重構造を有するものであってもよい。二重構造を有する蓋は、中蓋と外蓋との間に、中蓋に設けられた還流口から電解液を電池内(中蓋の内側)に戻すための還流構造を備えるものであってもよい。
【0027】
<第1実施形態>
負極板がN(1-4)<N(5-8)を満たす場合について更に例示的に説明する。
(第1態様)
図3は、本実施形態の第1態様に係る負極板におけるポリマー化合物の分布を示す図である。C(x、y)<C0を満たす領域には、“C<C0”を表示し、それ以外の領域には“-”を表示する。以下、図4~12においても同様である。N(1-4)=0、N(5-8)=4であり、N(1-4)<N(5-8)を満たす。
【0028】
図3の負極板は、最下端部の第8行の領域(R(8、y))の負極電極材料だけがポリマー化合物を含まないか、ポリマー化合物の含有量が少なくなっている。この場合、負極板の最下端部の領域では、それ以外の領域よりも水素が発生しやすいため、電解液が効率よく攪拌され得る。
【0029】
なお、図3に示した分布に限らず、少なくとも1つの列において、C(8、y)<C0を満たしてもよい。この場合、本態様の負極板では、少なくとも1つの列において、以下が満たされている。
【0030】
(1)C(1,y)~C(4,y)の平均値がC(5,y)~C(8,y)の平均値よりも大きい。
(2)C(1,y)~C(4,y)の平均値が、C(6,y)~C(8,y)の平均値よりも大きい。
(3)C(1,y)~C(4,y)の平均値が、C(7,y)~C(8,y)の平均値よりも大きい。
(4)C(1,y)~C(4,y)の平均値が、C(8,y)よりも大きい。
(5)C(5,y)~C(8,y)の何れかが、残りの何れよりも小さい。
(6)C(8,y)が、残りの何れよりも小さい。
(7)C(8,y)が、C(5,y)~C(7,y)の何れよりも小さい。
【0031】
(第2態様)
図4は、本実施形態の第2態様に係る負極板におけるポリマー化合物の分布を示す図である。N(1-4)=0、N(5-8)=4であり、N(1-4)<N(5-8)を満たす。
【0032】
図4の負極板は、第7行の領域(R(7、y))の負極電極材料だけがポリマー化合物を含まないか、ポリマー化合物の含有量が少なくなっている。この場合にも、負極板の最下端部に近い領域で、それ以外の領域よりも水素が発生しやすいため、電解液が効率よく攪拌され得る。
【0033】
なお、図4に示した分布に限らず、少なくとも1つの列において、C(7、y)<C0を満たしてもよい。この場合、本態様の負極板では、少なくとも1つの列において、以下が満たされている。
【0034】
(1)C(1,y)~C(4,y)の平均値が、C(5,y)~C(8,y)の平均値よりも大きい。
(2)C(1,y)~C(4,y)の平均値が、C(6,y)~C(8,y)の平均値よりも大きい。
(3)C(1,y)~C(4,y)の平均値が、C(7,y)~C(8,y)の平均値よりも大きい例。
(5)C(5,y)~C(8,y)の何れかが、残りの何れよりも小さい。
【0035】
(第3態様)
図5は、本実施形態の第3態様に係る負極板におけるポリマー化合物の分布を示す図である。N(1-4)=0、N(5-8)=4であり、N(1-4)<N(5-8)を満たす。
【0036】
図5の負極板は、第5行の領域(R(5、y))の負極電極材料だけがポリマー化合物を含まないか、ポリマー化合物の含有量が少なくなっている。この場合にも、負極板の下端部寄りの領域で、上端部寄りの領域よりも水素が発生しやすいため、電解液が比較的効率よく攪拌され得る。
【0037】
なお、図5に示した分布に限らず、少なくとも1つの列において、C(5、y)<C0を満たしてもよい。この場合、本態様の負極板では、少なくとも1つの列において、以下が満たされている。
(1)C(1,y)~C(4,y)の平均値が、C(5,y)~C(8,y)の平均値よりも大きい。
(5)C(5,y)~C(8,y)の何れかが、残りの何れよりも小さい。
【0038】
(第4態様)
図6は、本実施形態の第4態様に係る負極板におけるポリマー化合物の分布を示す図である。N(1-4)=4、N(5-8)=8であり、N(1-4)<N(5-8)を満たす。
【0039】
図6の負極板は、第4行の領域(R(4、y))と第7、8行の領域(R(7、y)、R(8、y))の負極電極材料だけがポリマー化合物を含まないか、ポリマー化合物の含有量が少なくなっている。この場合にも、負極板の最下端部を含むより広い領域で、それ以外の領域よりも水素が発生しやすいため、電解液が比較的効率よく攪拌され得る。また、中央付近の第4行の領域の負極電極材料がポリマー化合物を含まないか、ポリマー化合物の含有量が少なくなっているので、更に電解液の攪拌効率が向上し得る。
【0040】
なお、図6に示した分布に限らず、少なくとも1つの列において、C(4、y)<C0、C(7、y)<C0およびC(8、y)<C0を満たしてもよい。この場合、本態様の負極板では、少なくとも1つの列において、以下が満たされている。
【0041】
(1)C(1,y)~C(4,y)の平均値が、C(5,y)~C(8,y)の平均値よりも大きい。
(2)C(1,y)~C(4,y)の平均値が、C(6,y)~C(8,y)の平均値よりも大きい。
(3)C(1,y)~C(4,y)の平均値が、C(7,y)~C(8,y)の平均値よりも大きい。
(4)C(1,y)~C(4,y)の平均値が、C(8,y)よりも大きい。
【0042】
<第2実施形態>
次に、負極板がN(1-2)<N(3-4)を満たし、かつN(5-6)<N(7-8)を満たす場合について更に例示的に説明する。
(第1態様)
図7は、本実施形態の第1態様に係る負極板におけるポリマー化合物の分布を示す図である。N(1-2)=0、N(3-4)=4であり、N(1-2)<N(3-4)を満たす。また、N(5-6)=0、N(7-8)=4であり、N(5-6)<N(7-8)を満たす。
【0043】
図7の負極板は、第4行の領域(R(4、y))と第8行の領域(R(8、y))の負極電極材料だけがポリマー化合物を含まないか、ポリマー化合物の含有量が少なくなっている。この場合、負極板の最下端部の領域で、それ以外の領域よりも水素が発生しやすいため、電解液が比較的効率よく攪拌され得る。また、中央付近の第4行の領域の負極電極材料がポリマー化合物を含まないか、ポリマー化合物の含有量が少なくなっているので、更に電解液の攪拌効率が向上し得る。
【0044】
なお、図7に示した分布に限らず、少なくとも1つの列において、C(4、y)<C0およびC(8、y)<C0を満たしてもよい。
【0045】
(第2態様)
図8は、本実施形態の第2態様に係る負極板におけるポリマー化合物の分布を示す図である。N(1-2)=0、N(3-4)=8であり、N(1-2)<N(3-4)を満たす。また、N(5-6)=0、N(7-8)=4であり、N(5-6)<N(7-8)を満たす。
【0046】
図8の負極板は、第3、4行の領域(R(3、y)、R(4、y))と第8行の領域(R(8、y))の負極電極材料だけがポリマー化合物を含まないか、ポリマー化合物の含有量が少なくなっている。この場合、負極板の最下端部の領域で、それ以外の領域よりも水素が発生しやすいため、電解液が比較的効率よく攪拌され得る。また、中央付近の第3、4行の領域の負極電極材料がポリマー化合物を含まないか、ポリマー化合物の含有量が少なくなっているので、更に電解液の攪拌効率が向上し得る。
【0047】
なお、図8に示した分布に限らず、少なくとも1つの列において、C(3、y)<C0、C(4、y)<C0およびC(8、y)<C0を満たしてもよい。
【0048】
上記第1実施形態および第2実施形態は、例示に過ぎず、水素ガスが下端部寄りでより多く発生する形態であればよい。
【0049】
負極電極材料に含ませるポリマー化合物は、負極電極材料の過電圧を増大させる作用を有すればよい。また、そのようなポリマー化合物は、過充電電気量を抑制する作用も同時に有し得る。以下に、好ましいポリマー化合物であるH-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有するポリマー化合物、もしくは、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物について詳述する。なお、H-NMRスペクトルの3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲に現れるピークは、オキシC2-4アルキレンユニットに由来する。ここで、H-NMRスペクトルは、重クロロホルムを溶媒として用いて測定される。
【0050】
ポリマー化合物の効果を得るには、ポリマー化合物を鉛や硫酸鉛の近傍に存在させることが必要になる。そのため、本発明に係る鉛蓄電池では、負極電極材料が、上記のようなポリマー化合物を含む。負極電極材料以外の鉛蓄電池の構成要素にポリマー化合物が含まれているか否かに拘わらず、負極電極材料がポリマー化合物を含有していることが重要である。負極板の所望の箇所の負極電極材料にポリマー化合物を含有させることで、当該箇所の水素過電圧を上昇させることができる。
【0051】
一般に、鉛蓄電池では、過充電時の反応は、鉛と電解液との界面における水素イオンの還元反応に大きく影響される。そのため、本発明に係る鉛蓄電池においては、ポリマー化合物により負極活物質である鉛の表面が覆われた状態となることで、水素過電圧が上昇し、過充電時にプロトンから水素が発生する副反応が阻害されるものと考えられる。ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットを有することで線状構造を取り易くなるため、負極電極材料中に留まり難く、電解液中に拡散し易いと予想される。ところが、本発明者らは、実際には、負極電極材料中にごく僅かなポリマー化合物が含まれる場合でも、水素過電圧を上昇させる効果が得られることを見出した。このことから、ポリマー化合物を負極電極材料中に含有させることで、鉛の近傍に存在させることができ、これにより、オキシC2-4アルキレンユニットの鉛に対する高い吸着作用が発揮されるものと考えられる。また、ごく僅かなポリマー化合物でも、水素過電圧を上昇させる効果が得られることから、ポリマー化合物が鉛の表面に薄く広がった状態となり、鉛表面の広範囲な領域で水素イオンの還元反応が抑制されると考えられる。このことは、ポリマー化合物が線状構造を取り易いこととも矛盾しない。また、過充電時の水素発生が抑制されることで、減液を低減できるため、鉛蓄電池の長寿命化に有利である。
【0052】
一般に、蓄電池では、電解液に硫酸水溶液が用いられるため、有機系添加剤(オイル、高分子、または有機防縮剤など)を負極電極材料中に含有させると、電解液への溶出と鉛への吸着とのバランスを取ることが難しくなる。例えば、鉛への吸着性が低い有機系添加剤を用いると、電解液中に溶出し易くなり、水素過電圧を上昇させ難くなる。一方、鉛への吸着性が高い有機系添加剤を用いると、鉛表面に薄く付着させることが難しくなり、有機系添加剤が鉛の細孔内に偏在した状態となり易い。
【0053】
また、一般に、鉛の表面が有機系添加剤で覆われると、水素イオンの還元反応が起こり難くなるため、過充電電気量は減少する傾向にある。鉛の表面が有機系添加剤で覆われた状態になると、放電時に生成した硫酸鉛が充電時に溶出し難くなるため、充電受入性は低下する。そのため、充電受入性の低下抑制と、過充電電気量の低減とは、トレードオフの関係にあり、両立させることは従来困難であった。さらに、有機系添加剤が鉛の細孔内で偏在した状態となると、十分な過充電電気量の低減効果を確保するには、負極電極材料中の有機系添加剤の含有量を多くする必要がある。しかし、有機系添加剤の含有量を多くすると、充電受入性が大きく低下する。
【0054】
鉛の細孔内で有機系添加剤が偏在した状態になると、偏在した有機系添加剤の立体障害により、イオン(鉛イオンおよび硫酸イオンなど)の移動が阻害される。そのため、低温ハイレート(HR)性能も低下する。十分な過充電電気量の低減効果を確保するために、有機系添加剤の含有量を多くすると、細孔内におけるイオンの移動もさらに阻害され、低温HR放電性能も低下することになる。
【0055】
それに対し、本発明に係る鉛蓄電池では、オキシC2-4アルキレンユニットを有するポリマー化合物を負極電極材料中に含有させることで、上述のように、薄く広がった状態のポリマー化合物で鉛表面が覆われることになる。そのため、他の有機系添加剤を用いる場合に比べて、負極電極材料中の含有量が少量でも、水素過電圧を上昇させる効果や過充電電気量を低減させる効果を確保することができる。また、ポリマー化合物は、鉛表面を薄く覆うため、放電時に生成する硫酸鉛の充電時における溶出が阻害され難くなり、これにより充電受入性の低下を抑制することもできる。よって、水素過電圧を上昇させるとともに過充電電気量を低減しながら、充電受入性の低下を抑制することができる。鉛の細孔内におけるポリマー化合物の偏在が抑制されるため、イオンが移動し易くなり、低温HR放電性能の低下を抑制することもできる。
【0056】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池では、ポリマー化合物は、末端基に結合した酸素原子と、酸素原子に結合した-CH-基および/または-CH<基とを含んでもよい。H-NMRスペクトルにおいて、3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値の、このピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH-基の水素原子のピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める割合は、85%以上であることが好ましい。このようなポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットを分子中に多く含む。そのため、鉛に吸着し易くなるとともに、線状構造を取り易いことで鉛表面を薄く覆い易くなると考えられる。よって、より効果的に水素過電圧を上昇させるとともに過充電電気量を低減することができる。また、充電受入性および/または低温HR放電性能の低下抑制効果をさらに高めることができる。
【0057】
H-NMRスペクトルにおいて、3.2ppm~3.8ppmのケミカルシフトの範囲にピークを有するポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物を用いる場合、鉛に対してより吸着し易くなるくなるとともに、線状構造を取り易いことで鉛表面を薄く覆い易くなると考えられる。よって、より効果的に水素過電圧を上昇させるとともに過充電電気量を低減することができる。
【0058】
本明細書中、ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し単位を有するか、および/または数平均分子量(Mn)が500以上であるものをいうものとする。
【0059】
なお、オキシC2-4アルキレンユニットは、-O-R-(RはC2-4アルキレン基を示す。)で表されるユニットである。
【0060】
ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物およびオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。ここで、ヒドロキシ化合物は、ポリC2-4アルキレングリコール、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造を含む共重合体、およびポリオールのC2-4アルキレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも一種である。このようなポリマー化合物を用いる場合、充電受入性の低下をさらに抑制することができる。また、水素過電圧を上昇させ、過充電電気量を低減する効果が高いため、水素ガス発生をより効果的に抑制できるとともに、高い減液抑制効果が得られる。
【0061】
オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造は、少なくともオキシプロピレンユニット(-O-CH(-CH)-CH-)の繰り返し構造を含んでもよい。このようなポリマー化合物は、鉛に対する高い吸着性を有しながらも、鉛表面に薄く広がり易く、これらのバランスに優れていると考えられる。
【0062】
このようにポリマー化合物は、鉛に対する高い吸着性を有しながらも、鉛表面を薄く覆うことができるため、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量が少量(例えば、400ppm未満)であっても水素過電圧を上昇させるとともに過充電電気量を低減させることができる。また、含有量が少量でも十分な過充電電気量の低減効果を確保できるため、充電受入性の低下を抑制することもできる。鉛細孔内におけるポリマー化合物の立体障害を低減できるとともに、水素ガスの衝突に起因する負極活物質の構造変化も抑制できるため、高温軽負荷試験後であっても、低温HR放電性能の低下を抑制することもできる。より高い効果を確保する観点からは、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量は、8ppmより多いことが好ましい。
【0063】
ポリマー化合物は、少なくともMnが1000以上の化合物を含むことが好ましい。この場合、ポリマー化合物が負極電極材料中に留まり易いことに加え、鉛に対する吸着性が高まるため、水素過電圧を上昇させる効果や過充電電気量を低減する効果がより高まる。
また、水素ガスが負極電極材料に衝突することに起因する負極活物質の構造変化も抑制することができる。よって、負極活物質の構造変化が起こりやすい高温軽負荷試験の後であっても、低温HR放電性能の低下を抑制する効果を高めることができる。
【0064】
なお、ポリマー化合物を負極板の所定の箇所の負極電極材料中により多く、もしくは、より少なく含有させることができればよく、負極電極材料に含まれるポリマー化合物の由来は特に制限されない。ポリマー化合物は、鉛蓄電池を作製する際に、鉛蓄電池の構成要素(例えば、負極板、正極板、電解液、および/またはセパレータなど)のいずれに含有させてもよい。ポリマー化合物は、1つの構成要素に含有させてもよく、2つ以上の構成要素(例えば、負極板および電解液など)に含有させてもよい。
【0065】
負極電極材料は、さらに硫黄元素含有量が2000μmol/g以上の有機防縮剤(第1有機防縮剤)を含んでもよい。このような有機防縮剤とポリマー化合物とを併用することで、充電受入性の低下をさらに抑制できる。充電受入性は、負極板における充電時の硫酸鉛の溶解速度に支配される。放電時に生成する硫酸鉛の粒子径は、放電量が同じ場合、第1有機防縮剤を用いると、硫黄元素含有量が小さい(例えば、2000μmol/g未満、好ましくは1000μmol/g以下の)有機防縮剤(第2有機防縮剤)を用いる場合に比べて小さくなり、硫酸鉛の比表面積が大きくなる。そのため、第1有機防縮剤を用いる場合には、第2有機防縮剤を用いる場合に比べて、硫酸鉛の表面がポリマー化合物により被覆される割合が小さくなる。そのため、硫酸鉛の溶解が阻害されにくくなり、充電受入性の低下が抑制されると考えられる。
【0066】
負極電極材料は、第2有機防縮剤を含んでもよい。第2有機防縮剤とポリマー化合物とを併用することで、コロイドの粒子径を小さくすることができるため、低温HR放電性能の低下を抑制する効果をさらに高めることができる。
【0067】
負極電極材料は、第1有機防縮剤に加え、第2有機防縮剤を含んでもよい。第1有機防縮剤および第2有機防縮剤とポリマー化合物とを併用することで、充電受入性の低下を抑制する効果を相乗的に高めることができる。
【0068】
第1有機防縮剤は、硫黄含有基を有する芳香族化合物のユニットを含む縮合物を含み、縮合物は、芳香族化合物のユニットとして、ビスアレーン化合物のユニットおよび単環式の芳香族化合物のユニットからなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。また、縮合物は、ビスアレーン化合物のユニットと、単環式の芳香族化合物のユニットとを含むものであってもよい。単環式の芳香族化合物のユニットは、ヒドロキシアレーン化合物のユニットを含んでもよい。このような縮合物は、常温より高い環境を経験しても、低温HR放電性能が損なわれないため、高温軽負荷試験後の低温HR放電性能の低下を抑制する上でより有利である。
【0069】
有機防縮剤中の硫黄元素の含有量がXμmol/gであるとは、有機防縮剤の1g当たりに含まれる硫黄元素の含有量がXμmolであることをいう。
【0070】
なお、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量、および電解液中のポリマー化合物の濃度は、それぞれ、満充電状態の鉛蓄電池について求めるものとする。
【0071】
鉛蓄電池は、制御弁式(密閉式)鉛蓄電池および液式(ベント式)鉛蓄電池のいずれでもでもよい。
【0072】
本明細書中、液式の鉛蓄電池の満充電状態は、JIS D 5301:2006の定義によって定められる。より具体的には、鉛蓄電池を、定格容量(Ah)として記載の数値の0.2倍の電流(A)で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧または20℃に温度換算した電解液密度が3回連続して有効数字3桁で一定値を示すまで充電した状態を満充電状態とする。また、制御弁式の鉛蓄電池の満充電状態とは、25℃±2℃の気槽中で、定格容量(Ah)に記載の数値の0.2倍の電流(A)で、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流が定格容量(Ah)として記載の数値の0.005倍になった時点で充電を終了した状態である。なお、定格容量として記載の数値は単位をAhとした数値である。定格容量として記載の数値を元に設定される電流の単位はAとする。
【0073】
満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電したものをいう。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい(例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい)。使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池をいう。
【0074】
本明細書中、数平均分子量Mnは、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により求められるものである。Mnを求める際に使用する標準物質は、ポリエチレングリコールとする。
【0075】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池について、主要な構成要件ごとに説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0076】
[鉛蓄電池]
(負極板)
負極板は、通常、負極電極材料に加え、負極集電体を備える。負極電極材料は、負極板から負極集電体を除いたものである。なお、負極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材)は負極板と一体として使用されるため、負極板に含まれるものとする。また、負極板がこのような部材を含む場合には、負極電極材料は、負極集電体および貼付部材を除いたものである。ただし、セパレータにマットなどの貼付部材が貼り付けられている場合には、貼付部材の厚みは、セパレータの厚みに含まれる。
【0077】
負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。負極集電体として負極格子を用いると、負極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0078】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。負極集電体は、表面層を備えていてもよい。負極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なるものであってもよい。表面層は、負極集電体の耳部に形成されていてもよい。耳部の表面層は、SnまたはSn合金を含有するものであってもよい。
【0079】
負極板の少なくとも一部において、負極電極材料は、上記のポリマー化合物を含む。負極電極材料は、さらに、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)を含んでいる。負極電極材料は、防縮剤、炭素質材料、および/または他の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、硫酸バリウム、繊維(樹脂繊維など)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0080】
(ポリマー化合物)
ポリマー化合物は、H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する。このようなポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットを有する。オキシC2-4アルキレンユニットとしては、オキシエチレンユニット、オキシプロピレンユニット、オキシトリメチレンユニット、オキシ2-メチル-1,3-プロピレンユニット、オキシ1,4-ブチレンユニット、オキシ1,3-ブチレンユニットなどが挙げられる。ポリマー化合物は、このようなオキシC2-4アルキレンユニットを一種有していてもよく、二種以上有していてもよい。
【0081】
ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。繰り返し構造は、一種のオキシC2-4アルキレンユニットを含むものであってもよく、二種以上のオキシC2-4アルキレンユニットを含むものであってもよい。ポリマー化合物には、一種の上記繰り返し構造が含まれていてもよく、二種以上の繰り返し構造が含まれていてもよい。
【0082】
ポリマー化合物としては、例えば、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物(ポリC2-4アルキレングリコール、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造を含む共重合体、ポリオールのC2-4アルキレンオキサイド付加物など)、これらのヒドロキシ化合物のエーテル化物またはエステル化物などが挙げられる。
【0083】
共重合体としては、異なるオキシC2-4アルキレンユニットを含む共重合体、ポリC2-4アルキレングリコールアルキルエーテル、カルボン酸のポリC2-4アルキレングリコールエステルなどが挙げられる。共重合体は、ブロック共重合体であってもよい。
【0084】
ポリオールは、脂肪族ポリオール、脂環式ポリオール、芳香族ポリオール、および複素環式ポリオールなどのいずれであってもよい。ポリマー化合物が鉛表面に薄く広がり易い観点からは、脂肪族ポリオール、脂環式ポリオール(例えば、ポリヒドロキシシクロヘキサン、ポリヒドロキシノルボルナンなど)などが好ましく、中でも脂肪族ポリオールが好ましい。脂肪族ポリオールとしては、例えば、脂肪族ジオール、トリオール以上のポリオール(例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、糖アルコールなど)などが挙げられる。脂肪族ジオールとしては、炭素数が5以上のアルキレングリコールなどが挙げられる。アルキレングリコールは、例えば、C5~14アルキレングリコールまたはC5-10アルキレングリコールであってもよい。糖アルコールとしては、例えば、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトールなどが挙げられる。ポリオールのアルキレンオキサイド付加物においては、アルキレンオキサイドは、ポリマー化合物のオキシC2-4アルキレンユニットに相当し、少なくともC2-4アルキレンオキサイドを含む。ポリマー化合物が線状構造を取りやすい観点からは、ポリオールはジオールであることが好ましい。
【0085】
エーテル化物は、上記のオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物の少なくとも一部の末端の-OH基(末端基の水素原子とこの水素原子に結合した酸素原子とで構成される-OH基)がエーテル化された-OR基を有する(式中、Rは有機基である。)。ポリマー化合物の末端のうち、一部の末端がエーテル化されていてもよく、全ての末端がエーテル化されていてもよい。例えば、線状のポリマー化合物の主鎖の一方の末端が-OH基で、他方の末端が-OR基であってもよい。
【0086】
エステル化物は、上記オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物の少なくとも一部の末端の-OH基(末端基の水素原子とこの水素原子に結合した酸素原子とで構成される-OH基)がエステル化された-O-C(=O)-R基を有する(式中、Rは有機基である。)。ポリマー化合物の末端のうち、一部の末端がエステル化されていてもよく、全ての末端がエステル化されていてもよい。例えば、線状のポリマー化合物の主鎖の一方の末端が-OH基で、他方の末端が-O-C(=O)-R基であってもよい。
【0087】
有機基RおよびRのそれぞれとしては、炭化水素基が挙げられる。炭化水素基は、置換基(例えば、ヒドロキシ基、アルコキシ基、および/またはカルボキシ基など)を有するものであってもよい。炭化水素基は、脂肪族、脂環族、および芳香族のいずれであってもよい。芳香族炭化水素基および脂環族炭化水素基は、置換基として、脂肪族炭化水素基(例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基など)を有するものであってもよい。置換基としての脂肪族炭化水素基の炭素数は、例えば、1~20であってもよく、1~10であってもよく、1~6または1~4であってもよい。
【0088】
芳香族炭化水素基としては、例えば、炭素数が24以下(例えば、6~24)の芳香族炭化水素基が挙げられる。芳香族炭化水素基の炭素数は、20以下(例えば、6~20)であってもよく、14以下(例えば、6~14)または12以下(例えば、6~12)であってもよい。芳香族炭化水素基としては、アリール基、ビスアリール基などが挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。ビスアリール基としては、例えば、ビスアレーンに対応する一価基が挙げられる。ビスアレーンとしては、ビフェニル、ビスアリールアルカン(例えば、ビスC6-10アリールC1-4アルカン(2,2-ビスフェニルプロパンなど)など)が挙げられる。
【0089】
脂環族炭化水素基としては、例えば、炭素数が16以下の脂環族炭化水素基が挙げられる。脂環族炭化水素基は、架橋環式炭化水素基であってもよい。脂環族炭化水素基の炭素数は、10以下または8以下であってもよい。脂環族炭化水素基の炭素数は、例えば、5以上であり、6以上であってもよい。
【0090】
脂環族炭化水素基の炭素数は、5(または6)以上16以下、5(または6)以上10以下、あるいは5(または6)以上8以下であってもよい。
【0091】
脂環族炭化水素基としては、例えば、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基など)、シクロアルケニル基(シクロヘキセニル基、シクロオクテニル基など)などが挙げられる。脂環族炭化水素基には、上記の芳香族炭化水素基の水素添加物も包含される。
【0092】
鉛表面にポリマー化合物が薄く付着し易い観点からは、炭化水素基のうち、脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ジエニル基などが挙げられる。脂肪族炭化水素基は、直鎖状および分岐鎖状のいずれであってもよい。
【0093】
脂肪族炭化水素基の炭素数は、例えば、30以下であり、26以下または22以下であってもよく、20以下または16以下であってもよく、14以下または10以下であってもよく、8以下または6以下であってもよい。炭素数の下限は、脂肪族炭化水素基の種類に応じて、アルキル基では1以上、アルケニル基およびアルキニル基では2以上、ジエニル基では3以上である。鉛表面にポリマー化合物が薄く付着し易い観点からは中でもアルキル基やアルケニル基が好ましい。
【0094】
アルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、i-ペンチル、s-ペンチル、3-ペンチル、t-ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル、n-オクチル、n-デシル、i-デシル、ラウリル、ミリスチル、セチル、ステアリル、ベヘニルなどが挙げられる。
【0095】
アルケニル基の具体例としては、ビニル、1-プロペニル、アリル、パルミトレイル、オレイルなどが挙げられる。アルケニル基は、例えば、C2-30アルケニル基またはC2-26アルケニル基であってもよく、C2-22アルケニル基またはC2-20アルケニル基であってもよく、C10-20アルケニル基であってもよい。
【0096】
ポリマー化合物のうち、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物および/またはオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエステル化物を用いると、充電受入性の低下抑制効果をさらに高めることができるため好ましい。また、これらのポリマー化合物を用いた場合にも高い減液抑制効果を確保することができる。
【0097】
負極電極材料は、ポリマー化合物を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0098】
水素過電圧を上昇させる効果や過充電電気量を低減する効果をさらに高めることができるとともに、充電受入性および/または低温HR放電性能の低下抑制効果を高める観点からは、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造が少なくともオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。オキシプロピレンユニットを含むポリマー化合物は、H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm~3.8ppmの範囲に、オキシプロピレンユニットの-CH<および-CH-に由来するピークを有する。これらの基における水素原子の原子核の周囲の電子密度が異なるため、ピークがスプリットした状態となる。このようなポリマー化合物は、H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、例えば、3.2ppm以上3.42ppm以下の範囲と、3.42ppmを超え3.8ppm以下の範囲とのそれぞれにピークを有する。3.2ppm以上3.42ppm以下の範囲のピークは、-CH-に由来し、3.42ppmを超え3.8ppm以下の範囲のピークは、-CH<および-CH-に由来する。
【0099】
このようなポリマー化合物としては、ポリプロピレングリコール、オキシプロピレンの繰り返し構造を含む共重合体、上記ポリオールのプロピレンオキサイド付加物、またはこれらのエーテル化物もしくはエステル化物などが挙げられる。共重合体としては、オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体(ただし、オキシアルキレンは、オキシプロピレン以外のC2-4アルキレン)、ポリプロピレングリコールアルキルエーテル、カルボン酸のポリプロピレングリコールエステルなどが挙げられる。オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体としては、オキシプロピレン-オキシエチレン共重合体、オキシプロピレン-オキシトリメチレン共重合体などが例示される。オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体は、ブロック共重合体であってもよい。
【0100】
オキシプロピレンの繰り返し構造を含むポリマー化合物において、オキシプロピレンユニットの割合は、例えば、5mol%以上であり、10mol%以上または20mol%以上であってもよい。
【0101】
鉛に対する吸着性が高まるとともに、線状構造を取り易くなる観点から、ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットを多く含むことが好ましい。このようなポリマー化合物は、例えば、末端基に結合した酸素原子と、酸素原子に結合した-CH-基および/または-CH<基とを含んでいる。ポリマー化合物のH-NMRスペクトルでは、3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値の、このピークの積分値と、-CH-基の水素原子のピークの積分値と、-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める割合が大きくなる。この割合は、例えば、50%以上であり、80%以上であってもよい。過充電電気量の低減効果がさらに高まるとともに、充電受入性および/または低温HR放電性能の低下抑制効果がさらに高まる観点からは、上記の割合は、85%以上が好ましく、90%以上であることがより好ましい。例えば、ポリマー化合物が末端に-OH基を有するとともに、この-OH基の酸素原子に結合した-CH-基や-CH<基を有する場合、H-NMRスペクトルにおいて、-CH-基や-CH<基の水素原子のピークは、ケミカルシフトが3.8ppmを超え4.0ppm以下の範囲にある。
【0102】
ポリマー化合物は、Mnが500以上の化合物を含んでもよく、Mnが600以上の化合物を含んでもよく、Mnが1000以上の化合物を含んでもよい。このような化合物のMnは、例えば、20000以下であり、15000以下または10000以下であってもよい。負極電極材料中に化合物を保持させ易く、鉛表面により薄く広がり易い観点からは、上記化合物のMnは、5000以下が好ましく、4000以下または3000以下であってもよい。
【0103】
上記の化合物のMnは、500以上(または600以上)20000以下、500以上(または600以上)15000以下、500以上(または600以上)10000以下、500以上(または600以上)5000以下、500以上(または600以上)4000以下、500以上(または600以上)3000以下、1000以上20000以下(または15000以下)、1000以上10000以下(または5000以下)、あるいは1000以上4000以下(または3000以下)であってもよい。
【0104】
ポリマー化合物は、少なくともMnが1000以上の化合物を含むことが好ましい。このような化合物のMnは、1000以上20000以下であってもよく、1000以上15000以下であってもよく、1000以上10000以下であってもよい。負極電極材料中に化合物を保持させ易く、鉛表面により薄く広がり易い観点からは、上記化合物のMnは、1000以上5000以下が好ましく、1000以上4000以下であってもよく、1000以上3000以下であってもよい。このようなMnを有する化合物を用いる場合、より容易に水素過電圧を上昇させるとともに過充電電気量を低減することができる。また、水素ガスが負極活物質に衝突することに起因する負極活物質の構造変化も抑制することができる。よって、高温軽負荷試験後の低温HR放電性能の低下を抑制する効果を高めることもできる。ポリマー化合物としては、Mnが異なる2種以上の化合物を用いてもよい。つまり、ポリマー化合物は、分子量の分布において、Mnのピークを複数有するものであってもよい。
【0105】
既述のように、負極板を32等分し、全32領域における負極電極材料中のポリマー化合物の含有量の平均値をC0とするとき、ポリマー化合物の含有量の平均値C0は、質量基準で、例えば8ppmより多く、13ppm以上が好ましく、15ppm以上または16ppm以上がより好ましい。平均値C0がこのような範囲である場合、水素発生電圧をより高め易く、過充電電気量を低減する効果をさらに高めることができる。より高い低温HR放電性能を確保し易い観点からは、平均値C0は、50ppm以上または80ppm以上であってもよい。平均値C0は、例えば400ppm以下であり、360ppm以下が好ましく、350ppm以下がより好ましい。平均値C0が400ppm以下である場合、鉛の表面がポリマー化合物で過度に覆われることが抑制されるため、低温HR放電性能の低下を効果的に抑制できる。より高い低温HR放電性能を確保し易い観点からは、平均値C0は、240ppm以下が好ましく、200ppm以下がより好ましく、165ppm以下または164ppm以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは、任意に組み合わせることができる。
【0106】
また、負極板の上端部側から第1~4行の16個の領域のポリマー化合物の含有量の最大値は、鉛の表面がポリマー化合物で過度に覆われることを抑制する観点から、例えば400ppm以下であればよく、190ppm以下であることが好ましく、180ppm以下がより好ましい。
【0107】
平均値C0は、3ppm以上(または13ppm以上)400ppm以下、3ppm以上(または13ppm以上)360ppm以下、3ppm以上(または13ppm以上)350ppm以下、3ppm以上(または13ppm以上)240ppm以下、3ppm以上(または13ppm以上)200ppm以下、3ppm以上(または13ppm以上)165ppm以下、3ppm以上(または13ppm以上)164ppm以下、15ppm以上(または16ppm以上)400ppm以下、15ppm以上(または16ppm以上)360ppm以下、15ppm以上(または16ppm以上)350ppm以下、15ppm以上(または16ppm以上)240ppm以下、15ppm以上(または16ppm以上)200ppm以下、15ppm以上(または16ppm以上)165ppm以下、15ppm以上(または16ppm以上)164ppm以下、50ppm以上(または80ppm以上)400ppm以下、50ppm以上(または80ppm以上)360ppm以下、50ppm以上(または80ppm以上)350ppm以下、50ppm以上(または80ppm以上)240ppm以下、50ppm以上(または80ppm以上)200ppm以下、50ppm以上(または80ppm以上)165ppm以下、もしくは50ppm以上(または80ppm以上)164ppm以下であってもよい。
【0108】
(防縮剤)
負極電極材料は、防縮剤を含むことができる。防縮剤としては、有機防縮剤が好ましい。有機防縮剤には、リグニン類および/または合成有機防縮剤を用いてもよい。リグニン類としては、リグニン、リグニン誘導体などが挙げられる。リグニン誘導体としては、リグニンスルホン酸またはその塩(アルカリ金属塩(ナトリウム塩など)など)などが挙げられる。有機防縮剤は、通常、リグニン類と合成有機防縮剤とに大別される。合成有機防縮剤は、リグニン類以外の有機防縮剤であるとも言える。合成有機防縮剤は、硫黄元素を含む有機高分子であり、一般に、分子内に複数の芳香環を含むとともに、硫黄含有基として硫黄元素を含んでいる。硫黄含有基の中では、安定形態であるスルホン酸基もしくはスルホニル基が好ましい。スルホン酸基は、酸型で存在してもよく、Na塩のように塩型で存在してもよい。負極電極材料は、防縮剤を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0109】
有機防縮剤としては、少なくとも芳香族化合物のユニットを含む縮合物を用いることが好ましい。このような縮合物としては、例えば、芳香族化合物の、アルデヒド化合物(アルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド)および/またはその縮合物など)による縮合物が挙げられる。有機防縮剤は、一種の芳香族化合物のユニットを含んでもよく、二種以上の芳香族化合物のユニットを含んでいてもよい。
なお、芳香族化合物のユニットとは、縮合物に組み込まれた芳香族化合物に由来するユニットを言う。
【0110】
有機防縮剤としては、公知の方法により合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。芳香族化合物のユニットを含む縮合物は、例えば、芳香族化合物と、アルデヒド化合物とを反応させることにより得られる。例えば、この反応を亜硫酸塩の存在下で行ったり、硫黄元素を含む芳香族化合物(例えば、ビスフェノールSなど)を用いたりすることで、硫黄元素を含む有機防縮剤を得ることができる。例えば、亜硫酸塩の量および/または硫黄元素を含む芳香族化合物の量を調節することで、有機防縮剤中の硫黄元素含有量を調節することができる。他の原料を用いる場合も、この方法に準じて得ることができる。
【0111】
芳香族化合物が有する芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環などが挙げられる。芳香族化合物が複数の芳香環を有する場合には、複数の芳香環は直接結合や連結基(例えば、アルキレン基(アルキリデン基を含む)、スルホン基など)などで連結していてもよい。このような構造としては、例えば、ビスアレーン構造(ビフェニル、ビスフェニルアルカン、ビスフェニルスルホンなど)が挙げられる。芳香族化合物としては、例えば、上記の芳香環と、ヒドロキシ基および/またはアミノ基とを有する化合物が挙げられる。ヒドロキシ基やアミノ基は、芳香環に直接結合していてもよく、ヒドロキシ基やアミノ基を有するアルキル鎖として結合していてもよい。なお、ヒドロキシ基には、ヒドロキシ基の塩(-OMe)も包含される。アミノ基には、アミノ基の塩(アニオンとの塩)も包含される。Meとしては、アルカリ金属(Li、K、Naなど)、周期表第2族金属(Ca、Mgなど)などが挙げられる。
【0112】
芳香族化合物としては、ビスアレーン化合物(ビスフェノール化合物、ヒドロキシビフェニル化合物、アミノ基を有するビスアレーン化合物(アミノ基を有するビスアリールアルカン化合物、アミノ基を有するビスアリールスルホン化合物、アミノ基を有するビフェニル化合物など)、ヒドロキシアレーン化合物(ヒドロキシナフタレン化合物、フェノール化合物など)、アミノアレーン化合物(アミノナフタレン化合物、アニリン化合物(アミノベンゼンスルホン酸、アルキルアミノベンゼンスルホン酸など)など)などが好ましい。芳香族化合物は、さらに置換基を有していてもよい。有機防縮剤は、これらの化合物の残基を一種含んでもよく、複数種含んでもよい。ビスフェノール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどが好ましい。
【0113】
縮合物は、少なくとも硫黄含有基を有する芳香族化合物のユニットを含むことが好ましい。中でも、硫黄含有基を有するビスフェノール化合物のユニットを少なくとも含む縮合物を用いると、高温軽負荷試験後の低温HR放電性能の低下を抑制する効果を高めることができる。減液を抑制する効果が高まる観点からは、硫黄含有基を有するとともに、ヒドロキシ基および/またはアミノ基を有するナフタレン化合物のアルデヒド化合物による縮合物を用いることが好ましい。
【0114】
硫黄含有基は、化合物に含まれる芳香環に直接結合していてもよく、例えば、硫黄含有基を有するアルキル鎖として芳香環に結合していてもよい。硫黄含有基としては、特に制限されないが、例えば、スルホニル基、スルホン酸基またはその塩などが挙げられる。
【0115】
また、有機防縮剤として、例えば、上記のビスアレーン化合物のユニットおよび単環式の芳香族化合物(ヒドロキシアレーン化合物、および/またはアミノアレーン化合物など)のユニットからなる群より選択される少なくとも一種を含む縮合物を少なくとも用いてもよい。有機防縮剤は、ビスアレーン化合物のユニットと単環式芳香族化合物(中でも、ヒドロキシアレーン化合物)のユニットとを含む縮合物を少なくとも含んでもよい。このような縮合物としては、ビスアレーン化合物と単環式の芳香族化合物との、アルデヒド化合物による縮合物が挙げられる。ヒドロキシアレーン化合物としては、フェノールスルホン酸化合物(フェノールスルホン酸またはその置換体など)が好ましい。アミノアレーン化合物としては、アミノベンゼンスルホン酸、アルキルアミノベンゼンスルホン酸などが好ましい。単環式の芳香族化合物としては、ヒドロキシアレーン化合物が好ましい。このような縮合物は、常温より高い環境を経験しても、低温HR放電性能が損なわれないため、高温軽負荷試験後の低温HR放電性能の低下を抑制する上でより有利である。
【0116】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、例えば、0.01質量%以上であり、0.05質量%以上であってもよい。有機防縮剤の含有量は、例えば、1.0質量%以下であり、0.5質量%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0117】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、0.01~1.0質量%、0.05~1.0質量%、0.01~0.5質量%、または0.05~0.5質量%であってもよい。
【0118】
(炭素質材料)
負極電極材料中に含まれる炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどを用いることができる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。黒鉛は、黒鉛型の結晶構造を含む炭素質材料であればよく、人造黒鉛および天然黒鉛のいずれであってもよい。炭素質材料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせてもよい。
【0119】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、例えば0.05質量%以上であり、0.10質量%以上であってもよい。炭素質材料の含有量は、例えば5質量%以下であり、3質量%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0120】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、0.05~5質量%、0.05~3質量%、0.10~5質量%、または0.10~3質量%であってもよい。
【0121】
(硫酸バリウム)
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば0.05質量%以上であり、0.10質量%以上であってもよい。負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、3質量%以下であり、2質量%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0122】
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、0.05~3質量%、0.05~2質量%、0.10~3質量%、または0.10~2質量%であってもよい。
【0123】
(1)ポリマー化合物の分析
分析に先立ち、化成後の鉛蓄電池を満充電してから解体して分析対象の負極板を入手する。入手した負極板を水洗し、負極板から硫酸分を除去する。水洗は、水洗した負極板表面にpH試験紙を押し当て、試験紙の色が変化しないことが確認されるまで行う。ただし、水洗を行う時間は、2時間以内とする。水洗した負極板は、減圧環境下、60±5℃で6時間程度乾燥する。乾燥後に添付部材が含まれる場合には剥離により負極板から添付部材が除去される。
次に、負極板の上端部から下端部に向かう方向をX方向、X方向と交差する方向をY方向として、Y方向を行方向、X方向を列方向とする8行4列の行列状に負極板を32等分し、全32領域における負極電極材料を採取することにより32領域の試料(以下、試料Aとも称する。)を得る。試料Aは、必要に応じて粉砕され、分析に供される。
(1-1)ポリマー化合物の定性分析
粉砕した100.0±0.1gの試料Aに150.0±0.1mLのクロロホルムを加え、20±5℃で16時間撹拌し、ポリマー化合物を抽出する。その後、ろ過によって固形分を除く。抽出により得られるポリマー化合物が溶解したクロロホルム溶液またはクロロホルム溶液を乾固することにより得られるポリマー化合物について、赤外分光スペクトル、紫外可視吸収スペクトル、NMRスペクトル、LC-MSおよび/または熱分解GC-MSなどから情報を得ることで、ポリマー化合物を特定する。
【0124】
抽出により得られるポリマー化合物が溶解したクロロホルム溶液から、クロロホルムを減圧下で留去することによりクロロホルム可溶分を回収する。クロロホルム可溶分を重クロロホルムに溶解させて、下記の条件でH-NMRスペクトルを測定する。このH-NMRスペクトルから、ケミカルシフトが3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲のピークを確認する。また、この範囲のピークから、オキシC2-4アルキレンユニットの種類を特定する。
【0125】
装置:日本電子(株)製、AL400型核磁気共鳴装置
観測周波数:395.88MHz
パルス幅:6.30μs
パルス繰り返し時間:74.1411秒
積算回数:32
測定温度:室温(20~35℃)
基準:7.24ppm
試料管直径:5mm
【0126】
H-NMRスペクトルから、ケミカルシフトが3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲に存在するピークの積分値(V)を求める。また、ポリマー化合物の末端基に結合した酸素原子に対して結合した-CH-基および-CH<基の水素原子のそれぞれについて、H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値の合計(V)を求める。そして、VおよびVから、VがVおよびVの合計に占める割合(=V/(V+V)×100(%))を求める。
【0127】
なお、定性分析で、H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値を求める際には、H-NMRスペクトルにおいて、該当するピークを挟むように有意なシグナルがない2点を決定し、この2点間を結ぶ直線をベースラインとして各積分値を算出する。例えば、ケミカルシフトが3.2ppm~3.8ppmの範囲に存在するピークについては、スペクトルにおける3.2ppmと3.8ppmとの2点間を結ぶ直線をベースラインとする。例えば、ケミカルシフトが3.8ppmを超え4.0ppm以下の範囲に存在するピークについては、スペクトルにおける3.8ppmと4.0ppmとの2点間を結ぶ直線をベースラインとする。
【0128】
(1-2)ポリマー化合物の定量分析
上記のクロロホルム可溶分の適量を、±0.0001gの精度で測定したm(g)のテトラクロロエタン(TCE)と共に重クロロホルムに溶解させて、H-NMRスペクトルを測定する。ケミカルシフトが3.2~3.8ppmの範囲に存在するピークの積分値(S)とTCEに由来するピークの積分値(S)を求め、以下の式から負極電極材料質中のポリマー化合物の含有量C(ppm)を求める。ここでは、全32領域における負極電極材料中のポリマー化合物の質量基準の含有量と、その平均値C0とを求める。
【0129】
=S/S×N/N×M/M×m/m×1000000
(式中、Mはケミカルシフトが3.2~3.8ppmの範囲にピークを示す構造の分子量(より具体的には、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造の分子量)であり、Nは繰り返し構造の主鎖の炭素原子に結合した水素原子の数である。Nr、はそれぞれ基準物質の分子に含まれる水素数、基準物質の分子量であり、m(g)は抽出に使用した負極電極材料の質量である。)
なお、本分析での基準物質はTCEであるためN=2、M=168である。また、m=100である。
【0130】
例えば、ポリマー化合物がポリプロピレングリコールの場合、Mは58であり、Nは3である。ポリマー化合物がポリエチレングリコールの場合、Mは44であり、Nは4である。共重合体の場合には、Nは、各モノマー単位のN値を繰り返し構造に含まれる各モノマー単位のモル比率(モル%)を用いて平均化した値であり、Mは各モノマー単位の種類に応じて決定される。
【0131】
なお、定量分析では、H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値は、日本電子(株)製のデータ処理ソフト「ALICE」を用いて求める。
【0132】
(1-3)ポリマー化合物のMn測定
ポリマー化合物のGPC測定を、下記の装置を用い、下記の条件で行う。別途、標準物質のMnと溶出時間のプロットから校正曲線(検量線)を作成する。この検量線およびポリマー化合物のGPC測定結果に基づき、ポリマー化合物のMnを算出する。
【0133】
分析システム:20A system((株)島津製作所製)
カラム:GPC KF-805L(Shodex社製)2本を直列接続
カラム温度:30℃
移動相:テトラヒドロフラン
流速:1mL/min.
濃度:0.20質量%
注入量:10μL
標準物質:ポリエチレングリコール(Mn=2,000,000、200,000、20,000、2,000、200)
検出器:示差屈折率検出器(Shodex社製、Shodex RI-201H)
【0134】
(その他)
負極板は、負極集電体に負極ペーストを塗布または充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、鉛粉と有機防縮剤および必要に応じて各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで作製する。熟成する際には、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0135】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
【0136】
(正極板)
鉛蓄電池の正極板は、ペースト式、クラッド式などに分類できる。ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。ペースト式正極板では、正極電極材料は、正極板から正極集電体を除いたものである。正極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。正極集電体として格子状の集電体を用いると、正極電極材料を担持させ易いため好ましい。クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、複数の芯金を連結する集電部と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座とを具備する。クラッド式正極板では、正極電極材料は、チューブ、芯金、集電部、および連座を除いたものである。クラッド式正極板では、芯金と集電部とを合わせて正極集電体と称する場合がある。
【0137】
正極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材)は正極板と一体として使用されるため、正極板に含まれるものとする。また、正極板がこのような部材を含む場合には、正極電極材料は、ペースト式正極板では、正極板から正極集電体および貼付部材を除いたものである。
【0138】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、表面層を備えていてもよい。正極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なるものであってもよい。表面層は、正極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、正極集電体の格子部分のみや、耳部分のみ、枠骨部分のみに形成されていてもよい。
【0139】
正極板に含まれる正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0140】
未化成のペースト式正極板は、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、および硫酸を混練することで調製される。未化成のクラッド式正極板は、集電部で連結された芯金が挿入された多孔質なチューブに鉛粉またはスラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。その後、これらの未化成の正極板を化成することにより正極板が得られる。化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0141】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0142】
(セパレータ)
セパレータは、シート状であってもよく、袋状に形成されていてもよい。正極板と負極板との間に1枚のシート状のセパレータを挟むように配置してもよい。また、折り曲げた状態の1枚のシート状のセパレータで極板を挟むように配置してもよい。この場合、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ正極板と、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ負極板とを重ねてもよく、正極板および負極板の一方を折り曲げたシート状のセパレータで挟み、他方の極板と重ねてもよい。また、シート状のセパレータを蛇腹状に折り曲げ、正極板および負極板を、これらの間にセパレータが介在するように、蛇腹状のセパレータに挟み込んでもよい。蛇腹状に折り曲げられたセパレータを用いる場合、折り曲げ部が鉛蓄電池の水平方向に沿うように(例えば、折り曲げ部が水平方向と平行になるように)セパレータを配置してもよく、鉛直方向に沿うように(例えば、折り曲げ部が鉛直方向と平行になるように)セパレータを配置してもよい。蛇腹状に折り曲げられたセパレータでは、セパレータの両方の主面側に交互に凹部が形成されることになる。正極板や負極板の上部には通常耳部が形成されているため、折り曲げ部が鉛蓄電池の水平方向に沿うようにセパレータを配置する場合、セパレータの一方の主面側の凹部のみに正極板および負極板が配置される(つまり、隣接する正極板と負極板との間には、二重のセパレータが介在した状態となる)。折り曲げ部が鉛蓄電池の鉛直方向に沿うようにセパレータを配置する場合、一方の主面側の凹部に正極板を収容し、他方の主面側の凹部に負極板を収容することができる(つまり、隣接する正極板と負極板との間には、セパレータが一重に介在した状態とすることができる。)。袋状のセパレータを用いる場合、袋状のセパレータが正極板を収容していてもよいし、負極板を収容してもよい。
なお、本明細書中、極板における上下方向は、鉛蓄電池の鉛直方向における上下方向を意味する。
【0143】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。
電解液には、上記のポリマー化合物が含まれていてもよい。
【0144】
電解液中のポリマー化合物の濃度は、質量基準で、1ppm以上500ppm以下、1ppm以上300ppm以下、1ppm以上200ppm以下、5ppm以上500ppm以下、5ppm以上300ppm以下、または5ppm以上200ppm以下であってもよい。
【0145】
電解液中のポリマー化合物の濃度は、既化成の満充電状態の鉛蓄電池から取り出した所定量(m(g))の電解液にクロロホルムを加えて混合し、静置して二層に分離させた後、クロロホルム層のみを取り出す。この作業を数回繰り返した後、クロロホルムを減圧下で留去し、クロロホルム可溶分を得る。クロロホルム可溶分の適量をTCE0.0212±0.0001gと共に重クロロホルムに溶解させて、H-NMRスペクトルを測定する。ケミカルシフトが3.2~3.8ppmの範囲に存在するピークの積分値(S)とTCEに由来するピークの積分値(S)を求め、以下の式から電解液中のポリマー化合物の含有量Cを求める。
=S/S×N/N×M/M×m/m×1000000(式中、MおよびNは、それぞれ前記に同じ。)
【0146】
電解液は、必要に応じて、カチオン(例えば、ナトリウムイオン、リチウムイオン、マグネシウムイオン、および/またはアルミニウムイオンなどの金属カチオン)、および/またはアニオン(例えば、リン酸イオンなどの硫酸アニオン以外のアニオン)を含んでいてもよい。
【0147】
満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.20以上であり、1.25以上であってもよい。電解液の20℃における比重は、1.35以下であり、1.32以下であることが好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。電解液の20℃における比重は、1.20以上1.35以下、1.20以上1.32以下、1.25以上1.35以下、または1.25以上1.32以下であってもよい。
(2)評価
負極板1枚と正極板2枚とで定格容量6.2Ahの単板セルの試験電池を構成し、各種性能を評価する。
(a)電解液の比重差
25℃の水槽中で、満充電状態の試験電池を定格容量(Ah)として記載の数値の0.2倍の電流(A)で1時間放電後、定格容量(Ah)として記載の数値の1.0倍の定電流(A)で充電し、電圧2.5V/セルに達したら定電圧で2h充電を行う。充電時の上限電流は定格容量(Ah)として記載の数値の1.0倍の電流値(A)とする。なお、定格容量として記載の数値は単位をAhとした数値である。定格容量として記載の数値を元に設定される電流の単位はAとする。その後、電槽中の上部(液面から下方に10mm以内の範囲)および下部(各極板の下端から上方に10mm以内の範囲)からそれぞれ電解液を採取し、比重を測定し、比重差を算出する。
【0148】
(b)過充電電気量
JIS D5301に指定される通常の4分-10分試験よりも過充電条件にするために、60℃±2℃の水槽で、放電1分-充電10分の試験(1分-10分試験)を実施する(高温軽負荷試験)。高温軽負荷試験において充放電を450サイクル繰り返す。450サイクルまでの各サイクルにおける過充電電気量(充電電気量-放電電気量)を合計し、平均化することにより1サイクル当たりの過充電電気量(Ah)を求める。
放電:定電流3.57A、1分
充電:定電圧2.47V/セル、上限電流は定格容量(Ah)の数値の1倍の電流、10分
【0149】
(c)低温HR放電性能
上記(b)における高温軽負荷試験後の満充電後の試験電池を、定電流25Aで、-15℃±1℃で端子電圧が1.0V/セルに到達するまで放電し、このときの放電時間(軽負荷試験後の低温HR放電持続時間)(s)を求める。放電持続時間が長いほど、低温HR放電性能に優れる。
【0150】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池を以下にまとめて記載する。
(1)負極集電体と、負極電極材料と、を備える鉛蓄電池用負極板であって、
前記負極電極材料が、ポリマー化合物を含み、
前記負極板の上端部から下端部に向かう方向をX方向、前記X方向と交差する方向をY方向として、前記Y方向を行方向、前記X方向を列方向とする8行4列の行列状に前記負極板を32等分し、全32領域における前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量の平均値をC0とするとき、
前記上端部側から第1~4行の16個の領域のうち、前記ポリマー化合物の含有量がC0より小さい領域の数N(1-4)と、第5~8行の16個の領域のうち、前記ポリマー化合物の含有量がC0より小さい領域の数N(5-8)とが、N(1-4)<N(5-8)を満たす、負極板。
【0151】
(2)上記(1)において、前記ポリマー化合物は、H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有してもよい。
【0152】
(3)上記(1)において、前記ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含んでもよい。
【0153】
(4)上記(1)または(2)において、前記行列状の32領域をそれぞれR(x、y)で示し(ただし、xは行の位置を示す1~8の整数、yは列の位置を示す1~4の整数)、R(x、y)における前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量をC(x、y)と定義するとき、以下:
(a)少なくとも1つの列において、C(1,y)~C(4,y)の平均値が、C(5,y)~C(8,y)の平均値よりも大きい;
(b)少なくとも1つの列において、C(1,y)~C(4,y)の平均値が、C(6,y)~C(8,y)の平均値よりも大きい;
(c)少なくとも1つの列において、C(1,y)~C(4,y)の平均値が、C(7,y)~C(8,y)の平均値よりも大きい;
(d)少なくとも1つの列において、C(1,y)~C(4,y)の平均値が、C(8,y)よりも大きい;
(e)少なくとも1つの列において、C(5,y)~C(8,y)の何れかが、残りの何れよりも小さい;
(f)少なくとも1つの列において、C(8,y)が、残りの何れよりも小さい;
(g)少なくとも1つの列において、C(8,y)が、C(7,y)~C(5,y)の何れよりも小さい;
の条件の少なくとも1つを満たしてもよい。
【0154】
(5)負極集電体と、負極電極材料と、を備える鉛蓄電池用負極板であって、
前記負極電極材料が、ポリマー化合物を含み、
前記負極板の上端部から下端部に向かう方向をX方向、前記X方向と交差する方向をY方向として、前記Y方向を行方向、前記X方向を列方向とする8行4列の行列状に前記負極板を32等分し、全32領域における前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量の平均値をC0とするとき、
前記上端部側から第1~2行の8個の領域のうち、前記ポリマー化合物の含有量がC0より小さい領域の数N(1-2)と、第3~4行の8個の領域のうち、前記ポリマー化合物の含有量がC0より小さい領域の数N(3-4)とが、N(1-2)<N(3-4)を満たし、かつ、
第5~6行の8個の領域のうち、前記ポリマー化合物の含有量がC0より小さい領域の数N(5-6)と、第7~8行の8個の領域のうち、前記ポリマー化合物の含有量がC0より小さい領域の数N(7-8)とが、N(5-6)<N(7-8)を満たす、負極板。
【0155】
(6)複数の正極板と、複数の負極板と、電解液と、を備え、
前記複数の負極板の少なくとも1つが、上記(1)~(5)のいずれか1つの負極板である、鉛蓄電池。
【0156】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0157】
《実施例1~4》
(a)負極板の作製
原料の鉛粉と、硫酸バリウムと、カーボンブラックと、ポリマー化合物(ポリプロピレングリコール(PPG)、Mw=2000)と、有機防縮剤(スルホン酸基を導入したビスフェノール化合物のホルムアルデヒドによる縮合物)とを、適量の硫酸水溶液と混合して、負極ペーストを得る。このとき、いずれも既述の手順で求められる、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量が質量比で0ppm、15ppm、66ppm、200ppmまたは370ppmとなるとともに、硫酸バリウムの含有量が0.6質量%、カーボンブラックの含有量が0.3質量%、有機防縮剤の含有量が0.1質量%となるように各成分を混合し、5種類の負極ペーストを得る。
【0158】
実施例1の電池A1の場合、既述の手順で求められる、負極電極材料中のポリマー化合物を15ppm含むように負極ペーストを作製しPb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子のうち、負極板の1~2行の領域に相当する網目部に充填する。
【0159】
実施例2の電池A2の場合、既述の手順で求められる、負極電極材料中のポリマー化合物を66ppm含むように負極ペーストを作製しPb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子のうち、負極板の1~2行の領域に相当する網目部に充填する。
【0160】
実施例3の電池A3の場合、既述の手順で求められる、負極電極材料中のポリマー化合物を200ppm含むように負極ペーストを作製しPb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子のうち、負極板の1~2行の領域に相当する網目部に充填する。
【0161】
実施例4の電池A4の場合、既述の手順で求められる、負極電極材料中のポリマー化合物を370ppm含むように負極ペーストを作製しPb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子のうち、負極板の1~2行の領域に相当する網目部に充填する。
【0162】
次に、ポリマー化合物を含まないポリマー含有量0ppmの負極ペーストを各エキスパンド格子の網目部の残部に充填し、その後、負極電極材料全体を熟成乾燥させ、未化成の負極板を得る。
【0163】
(b)正極板の作製
原料の鉛粉を、適量の硫酸水溶液と混合して、正極ペーストを得る。正極ペーストを、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成乾燥し、未化成の正極板を得る。
【0164】
(c)試験電池の作製
試験電池は定格電圧2V/セル、定格5時間率容量は32Ahである。試験電池の極板群は、負極1枚とこれを挟持する正極2枚とで構成する。負極板は袋状セパレータに収容し、正極板と積層し、極板群を形成する。極板群をポリプロピレン製の電槽に電解液(硫酸水溶液)とともに収容して、電槽内で化成を施し、液式の鉛蓄電池を作製する。化成後の電解液の比重は1.28(20℃換算)である。
【0165】
なお、既述の手順で測定されるポリマー化合物のH-NMRスペクトルでは、3.2ppm以上3.42ppm以下のケミカルシフトの範囲にオキシプロピレンユニットの-CH<に由来するピークが観察され、3.42ppmを超え3.8ppm以下のケミカルシフトの範囲にオキシプロピレンユニットの-CH-に由来するピークが観察される。また、H-NMRスペクトルにおいて、3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値の、このピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH-基の水素原子のピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める割合は、98.1%である。
【0166】
図9に、電池A1~A4におけるポリマー化合物の分布を示す。C(x、y)<C0を満たす領域(すなわち、ポリマー化合物を含まない領域)には、“C<C0”を表示し、それ以外の領域(すなわちポリマー化合物を含む領域)には“-”を表示する。N(1-4)=8、N(5-8)=16であり、N(1-4)<N(5-8)を満たす。
【0167】
《実施例5~8》
負極板の作製方法において下記の点を変更したこと以外、実施例1~4と同様に鉛蓄電池を作製した。
【0168】
実施例5の電池A5の場合、既述の手順で求められる、負極電極材料中のポリマー化合物を15ppm含むように負極ペーストを作製しPb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子のうち、負極板の1~4行の領域に相当する網目部に充填する。
【0169】
実施例6の電池A6の場合、既述の手順で求められる、負極電極材料中のポリマー化合物を66ppm含むように負極ペーストを作製しPb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子のうち、負極板の1~4行の領域に相当する網目部に充填する。
【0170】
実施例7の電池A7の場合、既述の手順で求められる、負極電極材料中のポリマー化合物を200ppm含むように負極ペーストを作製しPb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子のうち、負極板の1~4行の領域に相当する網目部に充填する。
【0171】
実施例8の電池A8の場合、既述の手順で求められる、負極電極材料中のポリマー化合物を370ppm含むように負極ペーストを作製しPb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子のうち、負極板の1~4行の領域に相当する網目部に充填する。
【0172】
図10に、電池A5~A8におけるポリマー化合物の分布を示す。C(x、y)<C0を満たす領域(すなわち、ポリマー化合物を含まない領域)には、“C<C0”を表示し、それ以外の領域(すなわちポリマー化合物を含む領域)には“-”を表示する。N(1-4)=0、N(5-8)=16であり、N(1-4)<N(5-8)を満たす。
【0173】
《実施例9~12》
負極板の作製方法において下記の点を変更したこと以外、実施例1~4と同様に鉛蓄電池を作製する。
【0174】
実施例9の電池A9の場合、既述の手順で求められる、負極電極材料中のポリマー化合物を15ppm含むように負極ペーストを作製しPb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子のうち、負極板の1~6行の領域に相当する網目部に充填する。
【0175】
実施例10の電池A10の場合、既述の手順で求められる、負極電極材料中のポリマー化合物を66ppm含むように負極ペーストを作製しPb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子のうち、負極板の1~6行の領域に相当する網目部に充填する。
【0176】
実施例11の電池A11の場合、既述の手順で求められる、負極電極材料中のポリマー化合物を200ppm含むように負極ペーストを作製しPb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子のうち、負極板の1~6行の領域に相当する網目部に充填する。
【0177】
実施例12の電池A12の場合、既述の手順で求められる、負極電極材料中のポリマー化合物を370ppm含むように負極ペーストを作製しPb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子のうち、負極板の1~6行の領域に相当する網目部に充填する。
【0178】
図11に、電池A9~A12におけるポリマー化合物の分布を示す。C(x、y)<C0を満たす領域(すなわち、ポリマー化合物を含まない領域)には、“C<C0”を表示し、それ以外の領域(すなわちポリマー化合物を含む領域)には“-”を表示する。N(1-4)=0、N(5-8)=8であり、N(1-4)<N(5-8)を満たす。
【0179】
《比較例1~5》
負極板の作製方法において下記の点を変更したこと以外、実施例1~4と同様に鉛蓄電池を作製する。
【0180】
比較例1の電池B1の場合、既述の手順で求められる、負極電極材料中のポリマー化合物を15ppm含むように負極ペーストを作製しPb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部の全体に充填する。
【0181】
比較例2の電池B2の場合、既述の手順で求められる、負極電極材料中のポリマー化合物を66ppm含むように負極ペーストを作製しPb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部の全体に充填する。
【0182】
比較例3の電池B3の場合、既述の手順で求められる、負極電極材料中のポリマー化合物を200ppm含むように負極ペーストを作製しPb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部の全体に充填する。
【0183】
比較例4の電池B4の場合、既述の手順で求められる、負極電極材料中のポリマー化合物を370ppm含むように負極ペーストを作製しPb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部の全体に充填する。
【0184】
比較例5の電池B5の場合、ポリマー化合物を含まないポリマー含有量0ppmの負極ペーストをエキスパンド格子の網目部の全体に充填する。
【0185】
図12に、電池B1~B5におけるポリマー化合物の分布を示す。C(x、y)<C0を満たさない領域に“-”を表示する。N(1-4)=0、N(5-8)=0であり、N(1-4)<N(5-8)を満たさない。
【0186】
[評価]
既述の方法で、(a)電解液の比重差、(b)過充電電気量および(c)低温HR放電性能を評価した。結果を表1に示す。
【0187】
【表1】
【0188】
図13に、電解液の比重差を棒グラフで示し、図14に横線をPPG充填割合とする場合の電解液の比重差を線グラフで示す。ここでは、PPG充填割合は、ポリマー化合物が負極板の1~2行の領域に含まれている場合を25%、1~4行の領域に含まれている場合を50%、1~6行の領域に含まれている場合を75%、1~8行の領域に含まれている場合を100%、比較例5の場合を0%とする。電池B1~B4に比べて電池A1~A12では電解液の比重差が小さく、成層化がすすみにくいことが理解できる。なお、電池B5では、負極板の全領域で相当の水素発生量があるため、比重差は実施例と同様に小さくなっている。ただし、電池B5の過充電電気量は顕著に大きくなっている。
【0189】
図15に、電解液の過充電電気量を棒グラフで示し、図16に横線をPPG充填割合とする場合の過充電電気量を線グラフで示す。電池B5に比べて電池A1~12では過充電電気量が低減されている。また、全体的にポリマー化合物の平均濃度C0が大きく、かつ実施例の中ではC<C0を満たす領域数が少ないほど、過充電電気量が低減される傾向がある。ただし、C<C0を満たす領域数が50%以下である電池A4~A12の過充電電気量は、電池B1~B4と同等レベルである。
【産業上の利用可能性】
【0190】
本発明に係る鉛蓄電池は、例えば、車両(自動車、バイクなど)の始動用電源や、電動車両(フォークリフトなど)などの産業用蓄電装置などの電源として好適に利用できる。なお、これらの用途は単なる例示であり、これらの用途に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0191】
1:鉛蓄電池
2:負極板
3:正極板
4:セパレータ
5:正極棚部
6:負極棚部
7:正極柱
8:貫通接続体
9:負極柱
11:極板群
12:電槽
13:隔壁
14:セル室
15:蓋
16:負極端子
17:正極端子
18:液口栓
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16