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特許7524904繊維強化複合材料およびプリプレグの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】繊維強化複合材料およびプリプレグの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 11/16 20060101AFI20240723BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20240723BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20240723BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
B29B11/16
C08J5/04 CFC
B32B27/12
B32B27/18 J
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021538973
(86)(22)【出願日】2021-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2021024107
(87)【国際公開番号】W WO2022004586
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2024-04-03
(31)【優先権主張番号】P 2020112487
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】越智 隆志
(72)【発明者】
【氏名】河野 祥和
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/018421(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/050896(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/124450(WO,A1)
【文献】特開2011-213991(JP,A)
【文献】特開2012-211310(JP,A)
【文献】特開2008-231395(JP,A)
【文献】特表2010-508416(JP,A)
【文献】特開平3-124407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16-15/14
C08J 5/04-5/24
B29C 70/00-70/88
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維層に挟まれた樹脂層を有し、該樹脂層に真球度が85%以上の導電粒子が配置され、かつ該導電粒子1個で上下の該強化繊維層を連結している部分を有し、さらに該導電粒子が該強化繊維層にめり込んでいる部分を有し、該導電粒子のめり込み量が15%以上である、繊維強化複合材料。
【請求項2】
直径15μm以上の導電粒子を含有する請求項1記載の繊維強化複合材料。
【請求項3】
導電粒子がカーボン粒子である請求項1または2記載の繊維強化複合材料。
【請求項4】
強化繊維層にめりこんでいる導電粒子が樹脂層長50mmあたりで2個以上である請求項1~のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
【請求項5】
厚み方向の導電率が1S/m以上である請求項1~のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
【請求項6】
強化繊維層に樹脂組成物が含浸されたプリプレグの製造方法であって、
強化繊維層に1次樹脂組成物フィルムを用いて1次樹脂組成物を含浸させ、1次プリプレグを得る工程と、
1次プリプレグに2次樹脂組成物フィルムを用いて2次樹脂組成物を付与してプリプレグを得る工程を含み、
該2次樹脂組成物フィルムに導電粒子が含有され、かつ、該2次樹脂フィルムが基材上にロールコーターを用いて2次樹脂組成物を塗布することにより作製されたものである、プリプレグの製造方法。
【請求項7】
2次樹脂フィルムに含有される導電粒子の平均直径が10μm以上である請求項記載のプリプレグの製造方法。
【請求項8】
2次樹脂組成物に熱可塑性樹脂と、グリシジルアニリン型エポキシ樹脂およびエポキシ当量が200g/eq以上、265g/eq以下であるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂を含有する、請求項または記載のプリプレグの製造方法。
【請求項9】
請求項のいずれかに記載の製造方法で得られたプリプレグを、スリットしてプリプレグテープを得るプリプレグテープの製造方法。
【請求項10】
請求項のいずれかに記載の製造方法で得られるプリプレグまたは請求項に記載の製造方法で得られるプリプレグテープを積層した後、150℃~220℃で硬化して、請求項1~のいずれかに記載の繊維強化複合材料を得る繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項11】
請求項1~のいずれかに記載の繊維強化複合材料からなる構造体であって、平板構造体、円筒構造体、箱形構造体、C形構造体、H形構造体、L形構造体、T形構造体、I形構造体、Z形構造体およびハット形構造体から選ばれた構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料およびプリプレグの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化複合材料(以下、FRPと略す)は、軽量でありながら、強度や剛性などの力学特性や耐熱性および耐食性に優れているため、航空・宇宙、自動車、鉄道車両、船舶、土木建築およびスポーツ用品などの数多くの分野に応用されてきた。特に、高耐熱性能が要求される用途では、連続した強化繊維を用いたFRPが用いられる。強化繊維としては、比強度および比弾性率に優れた炭素繊維(以下、CFと略す)が多く用いられ、マトリックス樹脂としては熱硬化性樹脂、中でも特にCFとの接着性、耐熱性および弾性率に優れ、硬化収縮が小さいエポキシ樹脂が多く用いられている。近年、炭素繊維強化複合材料(以下、CFRPと略す)の使用例が増えるに従い、CFRPに要求される特性はさらに厳しくなっている。
【0003】
航空機にCFRPを適用した場合、特許文献3記載のように、雷によるダメージが懸念される。特に、強化繊維層と樹脂層が交互に積層されるインターリーフ構造を持つCFRPでは、樹脂層が電気的絶縁体として働くため、導電性が不十分であることが指摘されている。また、静電散逸(ESI)および電磁妨害(EMI)からの保護の観点からも導電性を示すCFRPの重要性が記載されている。このため、CFRPを用いた航空機では金属フォイルや金属メッシュなどを用いた耐雷システムが構築されているが、これが航空機の重量増およびコスト増の原因となる問題があった。
【0004】
このため、例えば、CFRPの中間基材の一種であるプリプレグにおいて、CF層に挟まれた樹脂層に金属コーティング粒子などの導電粒子を配置し、CFRP厚み方向の導電性を向上させることが提案されていた(特許文献1)。また、樹脂層に配置する導電粒子としてカーボン粒子を用い、加えてCF層にカーボンブラックを含有させて導電率を向上させる試みもあった(特許文献2)。また、特許文献3には、Z方向の体積抵抗率に関し、『高分子樹脂層の厚みと実質的に等しい大きさを有する銀被覆ガラス球体を使用した実施例11における低下が特に大きい』と記載されており、実施例10、12との比較から樹脂層厚みと同程度の大きさの導電粒子を用いることが好ましいことが記載されていた。また、特許文献4[0038]には、炭素繊維が、X線光電子分光法で測定した全炭素原子と全酸素原子との原子数の比[O/C]が0.12以下とすると、CFRPの力学特性と導電性のバランスが取れることが記載されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開WO2008/018421号
【文献】国際公開WO2012/124450号
【文献】国際公開WO2008/056123号
【文献】特開2013-067750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の実施例に示されたCFRPの厚み方向の体積固有抵抗値は2.0×10Ωcm以上(0.5S/m以下)と、十分な導電性は得られていなかった。また、特許文献2には導電性向上のため導電性粒子とカーボンブラックを併用する技術が開示されているが、特許文献2比較例6を参照すると、CF層内にカーボンブラックを含有させず、樹脂層内にカーボン粒子のみを配置した場合には、カーボン粒子を10部と大量添加したとしてもCFRPの厚み方向の体積抵抗値は2.5×10Ωcm(0.4S/m)と導電性が不十分であった。特許文献3では銀コーティングガラス球体を大量に添加することで十分なCFRPの厚み方向の体積抵抗値が得られることが記載されているものの、特許文献1~3で用いられる導電粒子は一般に高価であり、CFRPに十分な導電性を付与するためにはコストが高くなりすぎる問題があった。そのため、導電粒子の添加量を減じることが好ましいが、特許文献3実施例を参照すると、導電粒子の添加量低減とCFRPの導電性向上は二律背反となっている。さらに、例えば、特許文献2の実施例記載のように、導電粒子の粒子径分布をシャープにするために分級などを行うと導電粒子の収率が低下し、結果的に導電粒子の価格がさらに高価になる問題もあった。
【0007】
本発明の課題は、少ない導電粒子の添加量で十分な厚み方向の導電率を有する繊維強化複合材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するべく、FRP構造を制御することで厚み方向の導電率を向上させることを見出したものである。
【0009】
本発明の繊維強化複合材料は、強化繊維層に挟まれた樹脂層を有し、該樹脂層に真球度が85%以上の導電粒子が配置され、かつ該導電粒子1個で上下の該強化繊維層を連結している部分を有し、さらに該導電粒子が該強化繊維層にめり込んでいる部分を有する、繊維強化複合材料である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の繊維強化複合材料によれば、高価な導電粒子の添加量を減じることができ、十分な厚み方向の導電性および耐衝撃性を有する繊維強化複合材料を、より低コストで得ることが可能となる。また、このような繊維強化複合材料を航空機に適用することで、従来の耐雷システムを簡素化し、航空機の軽量化・コストダウンに寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の繊維強化複合材料の断面の一例を示す図である。
図2】本発明に該当しない繊維強化複合材料の断面の一例を示す図である。
図3】本発明の繊維強化複合材料の断面における樹脂層の長さを説明する図である。
図4】本発明の繊維強化複合材料の断面の一例における導電粒子めり込み部の拡大を示す図である。
図5】本発明の繊維強化複合材料の図1とは別の断面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0013】
強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、金属酸化物繊維、金属窒化物繊維、有機繊維(アラミド繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、セルロースまたはその誘導体からなる繊維など)などを例示することができる。導電性を有する炭素繊維や金属繊維が好ましく、炭素繊維が、得られるFRPの力学特性および軽量性の観点から特に好ましい。
【0014】
強化繊維は一般に多数の単繊維が束ねられた強化繊維束として用いられる。例えば炭素繊維では、通常、1,000本~1,000,000本程度の単繊維がテープ状に集合したものを「トウ」と呼んでおり、このトウを配列させて強化繊維シートを得ることができる。強化繊維を長手方向に、一方向(UD)に配列させた物をUD材、強化繊維を多方向に配列させた物を強化繊維ファブリックと呼ぶ。FRPの力学特性を優先させる時にはUD材が用いられ、複雑な形状のFRPを作製する場合には強化繊維ファブリックが用いられる傾向がある。強化繊維ファブリックとしては、織物や編物などの、強化繊維を2次元で多軸配置したものや、不織布、マット、紙など強化繊維をランダム配向させたものを例示することができる。
【0015】
強化繊維として炭素繊維を用いる場合には、X線光電子分光法で測定した炭素繊維表面の全炭素原子と全酸素原子との原子数の比、いわゆる表面酸素濃度[O/C]を0.12以下とすると、FRPの力学特性と導電性のバランスが取れ、好ましい。[O/C]はより好ましくは0.10以下である。特許文献4[0126]には硫酸水溶液で電気処理することで[O/C]を0.10とできることが記載されている。
【0016】
前記強化繊維シートにマトリックス樹脂を含浸させた中間基材を作製し、これを成形することで、FRPを得ることができる。ここで、本発明のFRPは複数の強化繊維層に挟まれた樹脂層を有しているが、前記した強化繊維シートが強化繊維層を形成する。そして、複数の強化繊維層に挟まれた樹脂層に導電粒子が配置されている。
【0017】
本発明のFRPにおいて、導電粒子1個で上下の強化繊維層を連結している部分を有していることが重要である。これは、注目する1個の導電粒子が上下の強化繊維層に実質的に接することによって、FRPの厚み方向に導電パスを形成することを意味している。通常、導電粒子の粒子径分布はあるばらつきを持っている。本発明のFRPにおいては、1個で導電パスを形成しうる導電粒子が少なくとも1個以上存在する。ここで、実質的に接するとは、以下のことを言うものである。FRP断面写真において、導電粒子と近接する強化繊維層において、導電粒子表面との距離が7μm以下の強化繊維が3本以上であれば、この導電粒子は強化繊維層と接していると判定した。そして、注目する1個の導電粒子が上下の強化繊維層の両方に接していれば、導電粒子1個で上下の強化繊維層を連結していると判定した。なお、FRP断面写真を用いて導電粒子が強化繊維層に実質的に接しているかどうか判断する際、球形の導電粒子の最大断面を示す断面でFRP断面サンプルが作製されているとは限らないため、前記した敷居値で判断することとした。この様子は、図1に示した本発明のFRPの断面写真中のA領域に例示される。もちろん、より小径の複数個の導電粒子が連結して導電パスを形成する可能性もゼロではないかもしれないが、頻度としては非常に少なく無視しうると考えられる。
【0018】
このため、導電粒子のサイズは或る値以上であることが好ましく、具体的には直径15μm以上の導電粒子を含有することが好ましい。含有される導電粒子の直径は、より好ましくは30μm以上、さらに好ましくは直径50μm以上である。ここでいう直径は、倍率200倍で撮影したFRP断面写真で見られる導電粒子の断面での直径の最大値(最大直径)を言うものとする。なお、FRP化する前のプリプレグ等の中間基材の作製時に添加する導電粒子の平均直径(平均粒子径)は好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上である。導電粒子の平均直径が大きすぎると、樹脂層厚みとのバランスが悪化し、FRPのインターリーフ構造を乱すので、平均直径は60μm以下であることが好ましい。導電粒子の平均粒子径測定は光散乱法を適用し、例えば堀場製作所製Partica LA-950V2やマイクロトラック社製MT3300II、島津製作所製SALDシリーズなどを用いて行うことができる。
【0019】
また、本発明のFRPに含有される導電粒子は真球度が85%以上である。導電粒子の真球度は好ましくは90%以上である。これにより、樹脂層中での導電粒子の配置によらず安定した導電性能を発揮させることができる。また、樹脂層を形成するマトリックス樹脂の粘度が過度に上昇することを抑制でき、FRPの中間基材の作製時のトラブルを抑制することができる。ここで、真球度とは、FRP断面写真から無作為に30個の導電粒子を選び、その短径と長径から下記数式に従い、決定される。
【0020】
【数1】
【0021】
なお、S:真球度、a:長径、b:短径、n:測定数30とする。
【0022】
そして、本発明では少なくとも一部の導電粒子が強化繊維層にめり込んでいることが重要である。これを、UD材を用いたFRPを例にとって説明する。FRP断面において、従来技術のFRPでは、強化繊維層と樹脂層の境界は、強化繊維の単繊維レベルでの凹凸はあるものの概略、直線で近似できる。例えば特許文献1の図1左側には積層されたプリプレグの断面写真が示されているが、CF層とCF層に挟まれた樹脂層の境界が略直線であり、樹脂層に導電粒子が配置され、それがCF層を連結している様子が示されている。
【0023】
一方、本発明のFRPを図1を用いて詳述する。図1において、強化繊維層1、1’、1”における小さな白色円の集合体は強化繊維束の断面を示している。また、上下の強化繊維層1、1’および1’、1”に挟まれた暗い部分は樹脂層2、2’であり、その中の暗い円が層間強化のためのポリマー粒子4の断面を示している。樹脂層2’に存在する、強化繊維束の断面よりも明らかに大きな白色円は導電粒子3の断面を示している。図1のA領域に示すように導電粒子3(ここではカーボン粒子)が強化繊維層1’、1”間の樹脂層2’に配置され、かつ強化繊維層1”(ここではCF層)と樹脂層2’の境界線が略直線ではなく導電粒子3に沿った円弧状に凹んでいる。本発明において、導電粒子が強化繊維層にめり込むとは、FRP断面写真において、導電粒子が観察され、かつ導電粒子に接する強化繊維層の境界線が導電粒子の形状に沿って、弧状に凹み、かつ、後述する凹み深さ(めり込み長)が15μm以上の状態を言うものである。そして、『めり込んでいる部分を有する』とは、FRP断面写真において、導電粒子が強化繊維層にめり込んでいる箇所が、樹脂層長50mmあたり1箇所以上観察されることを言うものである。なお、『樹脂層長50mmあたり』は後述のように定義する。一方、図1において、C1~C4に例示した領域は強化繊維層と樹脂層の境界が単に乱れた状態であり、上記の導電粒子が強化繊維層にめり込んでいる状態とは明らかに異なっている。また、強化繊維層の境界がうねった部分にたまたま導電粒子が位置することとも異なる。図2に、図1のFRPと同じ強化繊維、同じマトリックス樹脂、同じ導電粒子(含有量も同じ)を用い、図1のFRPとは別の製法で作製した本発明に該当しないFRPを例示している。図2の樹脂層2にも導電粒子3が観察されるが、導電粒子3近傍の強化繊維層1’、1”の境界線は略直線であり、図1のA領域のような円弧状ではない、すなわち導電粒子3が強化繊維層1’、1”に『めり込んだ』領域は観察できない。そして、両者の強化繊維層間の樹脂層の平均厚みを比較すると、図1のFRPでは樹脂層の厚みは39μm、厚み方向の導電率が16S/mであるのに対し、図2のFRPは樹脂層の厚みは47μmと厚く、一方、厚み方向の導電率は13S/mと図1のFRPに比較すると導電性が低いものであった。このように、本発明のFRPでは導電粒子が強化繊維層に『めり込む』ことで強化繊維層間の樹脂層の厚みを減じている。そして、このことが上下の強化繊維層を連結しうる導電粒子数を単位面積当たりで増加させ、結果としてFRP厚み方向の導電率を向上させていると考えられる。逆に言えば、従来技術のFRPと同じ厚み方向導電率を得る場合は含有させる導電粒子量を減じることができる。
【0024】
次に、図1のB領域の凹みについて考えてみる。この部分に導電粒子3は観察されないが、FRP断面写真の手前側あるいは奥側に導電粒子が存在しており、その導電粒子と強化繊維層の隙間がB領域の凹みとして観察されていると考えられる。B領域の境界線は楕円の一部であるように見えるため2個程度の導電粒子が近接している可能性が考えられる。
【0025】
上記した導電粒子の『めり込み』は少なくとも上下どちらか片側の強化繊維層で発生していれば良い。図1のAの領域では、導電粒子3が下側の強化繊維層1’’のみにめり込んだ例が示されている。
【0026】
また、『めり込み量』として、以下を定義する。これについて、図1のA領域を拡大した図4で説明する。まず、強化繊維層1”と樹脂層2’の境界線を決める。導電粒子3の最左端から左側で導電粒子に最も近接し、樹脂層との境界に位置する強化繊維(図4では強化繊維5と表記)の中心に補助線LL(細い破線で示した)を引く。そしてこの強化繊維5から左側に100μmまでで最も樹脂層側に位置する強化繊維(図4では強化繊維6と表記)の中心に補助線LH(細かい破線で示した)を引く(図4では強化繊維5の中心から左に長さ100μmとしている)、そして補助線LLと補助線LHの中間に補助線LCを引く(中程度の破線で示した)。なお、図4では写真では、強化繊維5と強化繊維6は白の楕円で囲って表記している。なお、図4において、強化繊維層1”中の強化繊維断面が楕円になっているのは、強化繊維層1”の強化繊維が45°配置になっているからである。右側も同様の操作を行い、補助線RL、RH、RCを引く。そして、LCとRCの中間に補助線CC(実線で示した)を引く。そして、補助線CCから強化繊維層1”と樹脂層2’の境界線が円弧状に凹んでいる部分の頂点に向けて垂線(実線両矢印で示した)を下ろし、この長さを『めりこみ長9』とする。なお、すべての補助線は樹脂層と平行になるように引くこととする。
【0027】
図4では『めりこみ長』は21μmとなる。そして、この導電粒子めり込み長を対象としている導電粒子の断面直径で除した値を、導電粒子のめり込み量と定義する。A領域の導電粒子3の断面直径を計測すると53μmなので、めり込み量としては、40%となる。めり込み量は、強化繊維層を連結する導電粒子を無作為に3個選び、その平均値をとる。1つの導電粒子が上下両側の強化繊維層にめり込んでいる場合には、めり込み量が大きい方をその導電粒子のめり込み量として採用する。めり込み量は、好ましくは10%以上である。より好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上である。
【0028】
また、本発明のFRPの別の断面を図5に示す。ここでは2つの黒色円3’、3”(導電粒子が割れて部分的に脱落した痕跡と考えられる領域(以下、同様))が観察できる。黒色円3’、3”の中心部が白く見えることから、これらは断面作製時に導電粒子が割れて部分的に脱落した痕跡と考えられる。特に、右側のA’で示した領域は黒色円3’の上方にある強化繊維層の境界線が円弧状に凹んでいることから、導電粒子の『めり込み』部であると考えられる。ただし、導電粒子のめり込み長を算出するには不確定要素が多いので、図5のような断面写真は、めり込み量の算出には使用しない。めり込み量の算出には、図1のように導電粒子3が明確に観察できる断面写真を使用する。なお、図5の左隣の黒色円3”については、上下の強化繊維層の境界線が明瞭な円弧状とはなっていないので、『めり込み』部とはしない。
【0029】
強化繊維層にめりこんでいる導電粒子は、樹脂層長50mmあたりで2個以上であることが好ましい。なお、樹脂層長50mmあたりで強化繊維層にめりこんでいる導電粒子の個数をめり込み頻度と呼ぶこともある。ここで、めり込んでいる導電粒子とは図1のA領域に示したように、導電粒子が明瞭に観察できるものを言うものである。また、樹脂層長とは、FRP断面写真を撮影した時の、樹脂層の中央部を通る直線の長さ(L)を意味する。図3では、断面写真を撮影する際の倍率は200倍である。図3に本発明のFRPの断面における樹脂層の長さを説明する図を示す。図3においては、2つの樹脂層が観察され、樹脂層の長さは、それぞれL1およびL2である。また、写真は十分な樹脂層の長さ(50mm以上)が得られる程度の枚数をFRP断面を無作為に選んで撮影する。図3ではL1+L2=2.4mmとなるので、樹脂層の長さ50mmあたりの導電粒子の個数を計測するためには、同様の写真が21枚以上必要である。
【0030】
また、導電粒子が強化繊維にめり込んだ周囲に、ポリマー粒子が流入していることが好ましい。図1のB領域に注目すると、強化繊維層1と樹脂層2の境界が楕円の弧状に凹んでいる様子が分かる。そして、その凹みにポリマー粒子4が流入している様子が見られる。これは導電粒子3が強化繊維層1にめり込んだ周囲に、ポリマー粒子4が流入していることを示している。図1のFRPでは樹脂層2にポリマー粒子4を含有しているが、ポリマー粒子4が前記凹みに流入することで、樹脂層中におけるポリマー粒子4の存在量が減少し、結果として樹脂層厚みが減少したと考えられる。いわゆるインターリーフ構造では、層間強化粒子であるポリマー粒子がスペーサーとなり層間厚みを支配するので、このようなことが発生すると考えられる。当初、ポリマー粒子よりも大きなサイズの導電粒子がスペーサーとなり樹脂層厚みを決定するとも考えられたが、図1、2に示すように導電粒子の頻度がポリマー粒子に比べ桁違いに少ないため、メジャー成分であるポリマー粒子が樹脂層厚みを支配していると考えられる。樹脂層厚みが減少することにより、FRPの厚み方向の導電率が向上する。
【0031】
なお、本発明のFRPでは樹脂層の厚み、強化繊維の直線性は、『めり込み』部以外の部分は、できるだけ均一であることが、FRPの力学物性を向上させる観点から好ましい。
【0032】
本発明で用いる導電粒子としては、金属粒子、金属酸化物粒子、金属コーティングを施した無機粒子や有機ポリマー粒子、カーボン粒子等を用いることができる。中でもカーボン粒子は、航空機に用いたとしても腐食の問題が無く、好ましい。さらに、(002)面間隔が3.4~3.7オングストロームのカーボン粒子を用いると、導電性を向上させ易く、好ましい。例えば、カーボン粒子の例として、日本カーボン(株)製ICBは(002)面間隔が3.53オングストロームであり、ほぼ真球状のカーボン粒子であることが、炭素、No.168、157-163(1995).に記載されている。また、この真球状カーボン粒子は非常に硬質であり、圧縮変形を与えても変形し難く、さらに圧縮を除去すると粒子形状が元に戻ることが記載されている。FRPを航空機の構造材として用いた場合、飛行中の主翼のしなりに代表されるように構造材には変形が与えられるが、真球状カーボン粒子を含有するFRPは、真球状カーボン粒子が不可逆的な変形を持ちにくいことから安定した導電性の発現が期待される。さらに、必要に応じて、導電性フィラー・短繊維や導電性ナノマテリアルを併用することもできる。
【0033】
ところで、複数の強化繊維層に挟まれた樹脂層には、層間強化の観点からポリマー粒子を配置することが好ましい。これにより、FRPの層間靭性を向上できるとともに、航空機用途で重要な耐衝撃性を向上させることができる。ポリマー粒子としては、ポリアミド粒子やポリイミド粒子を好ましく用いることができ、優れた靭性のため耐衝撃性を大きく向上できるポリアミドは最も好ましい。ポリアミドとしてはナイロン12、ナイロン11、ナイロン6、ナイロン66やナイロン6/12共重合体、特開平01-104624号公報の実施例1記載のエポキシ化合物にてセミIPN(高分子相互侵入網目構造)化されたナイロン(セミIPNナイロン)などを好適に用いることができる。このポリマー粒子の形状としては、球状、特に真球状であると、FRPの耐衝撃性向上効果が高いため好ましい。より具体的にはポリマー粒子の真球度は85%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。ここで、真球度とは、FRP断面写真から無作為に30個の粒子を選び、その短径と長径から下記数式に従い、決定される。
【0034】
【数2】
【0035】
なお、S:真球度(%)、a:長径、b:短径、n:測定数30とする。
【0036】
真球状ポリマー粒子の市販品としては、ポリアミド系としてはSP-500、SP-10(東レ(株)製)、ポリメチルメタクリレート系としてはMBX-12などのMBXシリーズおよびSSX-115などのSSXシリーズ(積水化成品(株)製)、ポリスチレン系としてはSBX-12などのSBXシリーズ(積水化成品(株)製)、また、それらの共重合体としてはMSXやSMX(積水化成品(株)製)、ポリウレタン系としてはダイミックビーズCMシリーズ、酢酸セルロース系としてはBELLOCEA((株)ダイセル製)、フェノール樹脂系としてはマリリン(群栄化学(株)製)などが挙げられる。さらにポリアミドおよびその共重合体からなる真球状粒子としては、特開平1-104624号公報の実施例1記載のポリアミド系粒子やWO2018/207728号パンフレット記載のポリアミド系粒子などを例示することができる。また、ポリエーテルスルホン系の真球状粒子は、例えば特開2017-197665号公報記載の物を例示することができる。中でも、特開平1-104624号公報の実施例1記載のポリアミド系粒子は耐湿熱性、耐薬品性等が優れており、また、FRPとした時の耐衝撃性発現効果に優れているため好ましい。中間基材作製時に添加するポリマー粒子の粒子径は、光散乱法により決定されるモード径で5μm以上45μm以下であることが好ましい。ポリマー粒子のモード径を本範囲とすることでFRPとしたときに、安定した耐衝撃性を付与することができる。ポリマー粒子のモード径は10~20μmであると、より好ましい。粒子径測定は光散乱法を適用し、例えば堀場製作所製Partica LA-950V2やマイクロトラック社製MT3300II、島津製作所製SALDシリーズなどを用いて行うことができる。
【0037】
本発明のFRPに用いるマトリックス樹脂は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂および硬化剤を含むことが好ましいが、熱硬化性樹脂と硬化剤あるいは熱可塑性樹脂のみでも良い。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂が一般的に用いられている。特に、アミン類、フェノール類、炭素・炭素二重結合を有する化合物を前駆体とするエポキシ樹脂が好ましい。具体的には、アミン類を前駆体とするエポキシ樹脂として、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジル-p-アミノフェノール、トリグリシジル-m-アミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾールの各種異性体;フェノール類を前駆体とするエポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂;炭素・炭素二重結合を有する化合物を前駆体とするエポキシ樹脂としては脂環式エポキシ樹脂等があげられるが、これらに限定されない。
【0038】
FRPの引張強度を向上させるためにはマトリックス樹脂の架橋密度低減が有効であるが、単純に架橋密度を低減させると耐熱性や弾性率が低下してしまう。このため、マトリックス樹脂に含有させるエポキシ樹脂として、剛直骨格を有するジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂やペンダント型エポキシ樹脂であるグリシジルアニリン型エポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を用いることも好ましい。なお、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を用いる場合には、そのエポキシ当量を200g/eq以上、265g/eq以下とすることで、併用する熱可塑性樹脂(特にポリエーテルスルホン)との相溶性が向上し、好ましい。グリシジルアニリン型エポキシ樹脂またはジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂は、1次樹脂組成物および2次樹脂組成物のいずれにも適用可能であるが、少なくとも2次樹脂組成物に用いると、FRPの引張強度向上効果が見られるので好ましい。またこれらのエポキシ樹脂をブロモ化したブロモ化エポキシ樹脂も用いられる。テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンに代表される芳香族アミンを前駆体とするエポキシ樹脂は耐熱性が良好で強化繊維との接着性が良好なため本発明に最も適している。
【0039】
熱硬化性樹脂は、硬化剤と組合せて好ましく用いられる。例えば熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合には、硬化剤はエポキシ基と反応しうる活性基を有する化合物であればよい。硬化剤としては、好ましくは、アミノ基、酸無水物基またはアジド基を有する化合物が適している。具体的には、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体、アミノ安息香酸エステル類等が適している。ジシアンジアミドはプリプレグの保存性に優れるため好んで用いられる。またジアミノジフェニルスルホンの各種異性体は、耐熱性の良好な硬化物を与えるため本発明には最も適している。アミノ安息香酸エステル類としては、トリメチレングリコールジ-p-アミノベンゾエートやネオペンチルグリコールジ-p-アミノベンゾエートが好んで用いられ、ジアミノジフェニルスルホンに比較して、耐熱性に劣るものの、引張強度に優れるため、用途に応じて選択して用いられる。また、必要に応じ硬化触媒を用いることも可能である。また、塗液のポットライフを向上させる意味から、硬化剤や硬化触媒と錯体形成可能な錯化剤を併用することも可能である。
【0040】
またマトリックス樹脂として、熱硬化性樹脂に熱可塑性樹脂を混合して用いることも好適である。熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の混合物は、熱硬化性樹脂を単独で用いた場合より良好な結果を与える。これは、熱硬化性樹脂が、一般に脆い欠点を有しながらオートクレーブによる低圧成型が可能であるのに対して、熱可塑性樹脂が一般に強靭である利点を有しながらオートクレーブによる低圧成型が困難であるという二律背反した特性を示すため、これらを混合して用いることで物性と成形性のバランスをとることができるためである。熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂を混合して用いる場合は、プリプレグを硬化させてなるFRPの力学特性の観点から熱硬化性樹脂を50質量%より多く含むことが好ましい。
【0041】
熱可塑性樹脂としては、主鎖に、炭素・炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、尿素結合、チオエーテル結合、スルホン結合、イミダゾール結合およびカルボニル結合から選ばれる結合を有するポリマーを用いることができる。具体的には、ポリアクリレート、ポリオレフィン、ポリアミド(PA)、アラミド、ポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリアミドイミド(PAI)などを例示できる。航空機用途などの耐熱性が要求される分野では、PPS、PES、PI、PEI、PSU、PEEK、PEKK、PAEKなどが好適である。一方、産業用途や自動車用途などでは、成形効率を上げるため、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィンやPA、ポリエステル、PPSなどが好適である。これらはポリマーでも良いし、低粘度や低温塗布のため、オリゴマーやモノマーを用いても良い。これらは目的に応じ、共重合されていても良いし、各種を混合しポリマーブレンドまたはポリマーアロイとして用いることもできる
本発明のFRPの厚み方向の導電率としては、1S/m以上であれば、航空機での耐雷システムを簡素化できる可能性があり、好ましい。導電率はより好ましくは、5S/m以上、さらに好ましくは15S/m以上である。
【0042】
また、航空機用途で重要な耐衝撃性の指標であるFRPの衝撃後圧縮強度CAI(Compression strength After Impact)は250MPa以上であることが好ましく、より好ましくは280MPa以上である。
【0043】
次に、本発明のFRPを得る方法について詳述する。本発明のFRPは、航空機の構造材に用いることを考慮すると、強化繊維層としてUD材を用いたプリプレグを中間基材とすることが好ましい。また、この意味から強化繊維としては炭素繊維を用いることが好ましい。構造材用プリプレグの表面に貼るカバープリプレグや複雑形状FRPに用いる際には、強化繊維層として強化繊維ファブリックやガラス繊維を用いることもできる。
【0044】
本発明に用いるプリプレグは、強化繊維層に樹脂組成物が含浸されたものである。プリプレグを製造する方法としては、強化繊維層に1次樹脂組成物フィルムを用いて1次樹脂組成物を含浸させ、1次プリプレグを得る工程と、1次プリプレグに2次樹脂組成物フィルムを用いて2次樹脂組成物を付与してプリプレグを得る工程とを含む2段含浸法を用いることが好ましい。
【0045】
以下、マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂を用い、強化繊維層として炭素繊維のUD材を用いたプリプレグを例にとって説明する。
【0046】
まず、1次プリプレグ用に、エポキシ樹脂、芳香族アミン型硬化剤および熱可塑性樹脂を含む1次樹脂組成物をニーディングにより調製する。該1次樹脂組成物を、ロールコーターを用いて基材(離型紙)上に塗布することにより、1次樹脂組成物フィルムを作製する。その後、炭素繊維束を引き揃えて、UDシートと成し、これの上下から前記1次樹脂組成物フィルムを付与し、予熱後、ニップロールで加圧し、1次樹脂組成物をUDシートに含浸することにより、1次プリプレグを得る。この時、1次プリプレグの含浸度を高くしておくことが、好ましい。
【0047】
次に、エポキシ樹脂、芳香族アミン型硬化剤、熱可塑性樹脂、ポリマー粒子および導電粒子を含む2次樹脂組成物を調製し、やはりロールコーターを用いて基材(離型紙)上に塗布し、2次樹脂組成物フィルムを作製する。
【0048】
2次樹脂組成物フィルムを作製する際、一般的には、コーターとしてナイフコーター等のブレードコーターを用いることが多い。背景技術で挙げた特許文献1、2の実施例はいずれもナイフコーターを使用している。しかし、ブレードコーターはブレードと基材の間のクリアランスで樹脂コーティング量を決めるため、粒径の大きな導電粒子がコーターを通過しづらい。前記の通り、本発明では、大粒径の導電粒子が強化繊維層にめり込み、これによって樹脂層の厚みを減じることを考えると、大粒径の導電粒子を2次樹脂組成物フィルム中に含有させることがプリプレグ製造のポイントの一つである。このため、コーターのクリアランスをなるべく大きくする必要があるが、そうすると樹脂量が過大になり、2次樹脂組成物フィルム目付が大きくなり過ぎ、プリプレグとして所望の樹脂目付を得られないという問題が発生する。この問題を解決するため、フィルム作製時の巻取速度を上げ、単位時間当たりの供給樹脂量を増加させることが、クリアランスと所望の樹脂目付を両立するために有効であると考えられる。しかし、一般的に用いられるナイフコーターでは単位時間当たりの供給樹脂量が増加すると、樹脂圧によるブレードの撓みが著しくなり、樹脂フィルムの均一性が損なわれる場合があり、供給樹脂量の限界が低い。
【0049】
本発明のプリプレグの製造方法では、2次樹脂組成物フィルムを作成する際に、ロールコーターが好ましく用いられる。ロールコーターは、ロールに供給樹脂を転写し、それをさらに基材(離型紙など)に転写するため、本質的に大粒径の導電粒子でもコーター通過性が良い。ロールコーターでは転写ロール上へ樹脂を均一に転写するとともにその膜厚を均一にすることが重要であるので、転写ロールと対向させる対向ロールを配置する場合も多い。この時にも単位時間当たりの供給樹脂量が増加すると転写ロールと対向ロールのクリアランスでの樹脂圧が増加するが、ロール自体が太いため樹脂圧が高圧になっても撓み難く、供給樹脂量の上限が高い。また、クリアランスも樹脂圧に応じ大きくすることができ、この観点からも大粒径の導電粒子を通過させ易い。さらに、転写ロールと走行する基材との間で、コーティングされる樹脂の引き伸ばしが可能であり、さらに供給樹脂量を増加させることができる。これらより、2次樹脂組成物フィルムはロールコーターで作製すると大粒径の導電粒子を通過させ易く、好ましい。
【0050】
そして、前記1次プリプレグの上下両面から2次樹脂組成物フィルムを付与し、予熱後、ニップロールで加圧し、2次樹脂組成物が1次樹脂組成物上に付与されたプリプレグを得る。この時、予熱を十分行い、2次樹脂組成物の流動性を十分確保しておくことが望ましい。
【0051】
なお、特表2014-505133号公報(国際公開WO2012/084197号)[0054]~[0067]には、Sラップローラーを用いた1段含浸により、意図的に一方向構造繊維の制御破壊を生じさせ、厚み方向に導電性を有するFRPを得ることが記載されている。しかし、該公報表3に記載されているように、Sラップ1段含浸を用いて得られるFRPは、0°引張強度やCAIが、2段含浸を用いて得られるFRPに比べ低下する傾向が見られる。これは前者ではCF層や樹脂層厚みの乱れが大きすぎるためと考えられる。
【0052】
本発明においては、上記のような2段含浸法によってプリプレグを作成することにより、大粒径の導電粒子が強化繊維層にめり込んだ構造を作りやすいとともに、『めり込み』部以外の部分は、比較的均一な樹脂層厚みにできるため、得られるFRPは、厚み方向の導電性が高いだけでなく、力学物性の観点からも有利である。
【0053】
また、近年では、プリプレグの積層工程を効率化するため、細幅プリプレグやプリプレグテープを自動積層していくATL(Automated Tape Laying)やAFP(Automated Fiber Placement)と呼ばれる装置が広く用いられるようになってきている。プリプレグテープは、プリプレグを細幅にスリットすることにより得ることができる。スリット方法としては、シェアカット、スコアカット、レザーカット、ヒートカット、ウオータージェットカット、超音波カット等の方法を用いることができる。
【0054】
上記のようにして作製したプリプレグまたはプリプレグテープを、積層した後、必要に応じて加圧・加熱して賦形すると共に樹脂を硬化させてFRPを製造することができる。FRPの製造方法としては加熱加圧成形法等を用いることができる。より具体的には、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法等を用いることができる。
【0055】
FRPを成形する温度としては、マトリックス樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、好ましくは150℃~220℃の範囲の温度で成形が行われる。
【0056】
FRPをオートクレーブ成形法で成形する圧力としては、プリプレグの厚みや強化繊維の体積含有率などにより異なるが、通常、0.1から1MPaの範囲の圧力である。これにより、得られるFRP中にボイドのような欠点などがなく、反りなどの寸法変動のすくないFRPを得ることができる。
【0057】
本発明のFRPは航空機用構造体に好適に用いることができる。航空機用構造体としては、平板構造体、円筒構造体、箱形構造体、C形構造体、H形構造体、L形構造体、T形構造体、I形構造体、Z形構造体、ハット形構造体などから選ばれるが挙げられる。これらの構造体を組み合わせることにより、航空機の部品が構成される。詳しくは、例えば『飛行機の構造設計』第5版、鳥養・久世、日本航空技術協会(2003)に記載されている。このような構造体は、例えば、国際公開WO2017/110991号[0084]や国際公開WO2016/043156号[0073]、国際公開WO2019/0314078号[0088]記載のようにプリプレグを賦形して得ることができる。また、前記の所望の形状を有する型にプリプレグテープを自動積層した後、硬化させることにより、所望の形状を有する構造体を得ることもできる。
【0058】
航空機を製造するにあたっては、上記の構造体が複数接合された接合構造体により胴体や主翼、中央翼、尾翼などが形成される。構造体の接合方法としては、ボルト、リベット等のいわゆるファスナーを用いることも、接着フィルム等を用いることもできる。更に、未硬化のプリプレグ積層体やセミキュアしたプリプレグ積層体を接合した後、硬化するコキュア法を用いることもできる。
【実施例
【0059】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、組成比の単位「部」は、特に注釈のない限り質量部を意味する。また、各種特性(物性)の測定は、特に注釈のない限り温度23℃、相対湿度50%の環境下で行った。
【0060】
<実施例および比較例で用いられた原材料>
(1)強化繊維(炭素繊維)
フィラメント数12,000本、引張強度5.8GPa、引張弾性率280GPaの炭素繊維を準備した。炭素繊維の[O/C]が0.10以下となるように電気処理した。
【0061】
(2)エポキシ樹脂
・“EPICLON”HP-7200L(ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、エポキシ当量246g/eq、DIC(株)製)
・“スミエポキシ”ELM434(テトラグリシジジアミノジフェニルメタン、住友化学(株)製、エポキシ当量120g/eq)。
・“EPICLON”830(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、DIC(株)製、エポキシ当量171g/eq)
・jER825(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱ケミカル株式会社製、エポキシ当量170~180g/eq)
・GOT(グリシジルアニリン型エポキシ樹脂(N,N-ジグリシジル-o-トルイジン)、日本化薬(株)製)。
【0062】
(3)硬化剤
・セイカキュア-S(4,4’-DDS、活性水素当量62g/eq、セイカ(株)製)。
【0063】
(4)熱可塑性樹脂(PES)
・“Virantage(登録商標)”VW-10700RFP(PES、SolvayAdvanced Polymers(株)製)
・“スミカエクセル”5003P(PES、住友化学(株)製)。
【0064】
(5)ポリマー粒子
以下の製法により得られた真球状ポリアミド6粒子(モード径15μm、真球度96%)。粒子径はマイクロトラック社製MT3300II(光源780nm-3mW、湿式セル(媒体:水))を用いて測定した。
【0065】
国際公開第2018/207728号公報を参考に、3Lのヘリカルリボン型の撹拌翼が付属したオートクレーブに、ε-カプロラクタム(東レ(株)製)200g、第2成分のポリマーとしてポリエチレングリコール(和光純薬工業(株)製1級ポリエチレングリコール20,000、重量平均分子量18,600)800g、水1,000gを加え均一な溶液を形成後に密封し、窒素で置換した。その後、撹拌速度を100rpmに設定し、温度を240℃まで昇温させた。この際、系の圧力が10kg/cmに達した後、圧が10kg/cmを維持するよう水蒸気を微放圧させながら制御した。温度が240℃に達した後に、0.2kg/cm・分の速度で放圧させた。その後、窒素を流しながら1時間温度を維持し重合を完了させ、2,000gの水浴に吐出しスラリーを得た。溶解物を溶かした後に、ろ過を行い、ろ上物に水2,000gを加え、80℃で洗浄を行った。その後200μmの篩を通過させた凝集物を除いたスラリー液を、再度ろ過して、単離したろ上物を80℃で12時間乾燥させ、ポリアミド6粉末を140g得た。得られた粉末の融点はポリアミド6と同様の218℃、結晶化温度は170℃であった。
【0066】
(6)導電性粒子(カーボン粒子)
“ニカビーズ”ICB(平均粒子径(個数ベース):27μm、日本カーボン(株)製)。
【0067】
(7)導電助剤(カーボンブラック)
三菱“カーボンブラック”#3230B(1次粒子の粒子径23nm(カーボンブラック粒子を電子顕微鏡で観察して求めた算術平均径)、三菱ケミカル(株)製)。
【0068】
<各種評価法>
(1)樹脂組成物の調製
エポキシ樹脂と熱可塑性樹脂を混練し、150℃以上に昇温し、そのまま1時間攪拌することで熱可塑性樹脂を溶解させて透明な粘調液を得た。この液を混練しながら降温した後、硬化剤を添加してさらに混練し、1次樹脂組成物を得た。
【0069】
また、エポキシ樹脂と熱可塑性樹脂を混練し、150℃以上に昇温し、そのまま1時間攪拌することで熱可塑性樹脂を溶解させて透明な粘調液を得た。この液を混練しながら降温した後、硬化剤、ポリマー粒子、導電粒子を添加して混練し、2次樹脂組成物を得た。
【0070】
各実施例、比較例の樹脂組成物の組成比は表1に示す。
【0071】
(2)プリプレグの作製
実施例のプリプレグは以下のように2段含浸法を用いて作製した。シリコーンを塗布した離型紙上に、上記(1)で作製した1次樹脂組成物または2次樹脂組成物を、対向ロールを備えたロールコーターを用いて均一に塗布し、それぞれ1次樹脂組成物フィルム、2次樹脂組成物フィルムを得た。この時、2次樹脂組成物フィルムの作製時には、樹脂フィルムの巻取速度を15m/分とするとともに転写ロールと走行離型紙の間で樹脂の延伸が発生するようにして、単位時間当たりの供給樹脂量を増加させ、ロールコーターでのクリアランスを十分大きくとった。そして、2枚の1次樹脂組成物フィルムの間に一方向に均一に引き揃えた炭素繊維を挟み込み、プレスロールを用いて加熱、加圧して、炭素繊維に1次樹脂組成物が十分含浸した1次プリプレグを得た(炭素繊維の目付は268g/cm、樹脂含有率20質量%)。得られた1次プリプレグから離型紙を剥離した。次に、2枚の2次樹脂組成物フィルムの間に前記1次プリプレグを挟み込み、プレスロールを用いて加熱、加圧して、1次プリプレグに2次樹脂組成物が含浸したプリプレグを得た(炭素繊維目付268g/cm、樹脂含有率34質量%)。
【0072】
比較例のプリプレグは樹脂フィルムの作製を一般的なナイフコーターを用いて行った。2次樹脂組成物フィルム作製時の樹脂フィルムの巻取速度は2m/分であった。1次プリプレグ、プリプレグの作製は実施例と同様に行った。
【0073】
(3)CFRPの断面観察とめり込み評価
上記のようにして得られたプリプレグを[+45°/0°/-45°/90°]2s構成で、擬似等方的に16プライ積層した後、オートクレーブにて180℃の温度で2時間、圧力6kg/cm、昇温速度1.5℃/分で樹脂を硬化させてCFRP(平板構造)を作製した。
【0074】
得られたCFRPから20mm×20mm程度のカットサンプルを取得し、エポキシ樹脂で包埋・硬化後、エッジ部分を研磨した。この研磨面をキーエンス社製デジタルマイクロスコープVHX-5000を用いて観察した。倍率は基本的に200倍としたが、解像度向上や全体像把握のため必要に応じ倍率を調整する場合も有った。
【0075】
A.カーボン粒子1個で上下のCF層の連結
上記の断面写真において、カーボン粒子と近接するCF層において、カーボン粒子表面との距離が7μm以下のCFが3個以上であれば、このカーボン粒子はCF層と接していると判定した。そして、注目する1個のカーボン粒子が上下のCF層の両方に接していれば、カーボン粒子1個で上下のCF層を連結していると判定した。
【0076】
B.めり込みの判定・めり込み頻度
CFRP断面写真においてCF層と樹脂層の境界線が略直線ではなくカーボン粒子に沿った円弧状に凹んでいる部分が有り、かつ、めり込み長が15μm以上の場合、めり込んでいると判定した。そして、樹脂層長50mmあたりで、めり込んでいる箇所が1箇所以上観察された場合、めり込んでいる部分を有すると判定した。
【0077】
なお、この時はCF層と樹脂層の境界線の円弧状の凹みと同時にカーボン粒子が観察できていることが必要である。
【0078】
めり込み頻度は、樹脂層長50mmあたりで、CF層にめり込んでいるカーボン粒子の個数を言うものである。また、樹脂層長とは、CFRP断面写真を撮影した時の、樹脂層の中央部を通る直線の長さ(L)を意味する。断面写真を撮影する際の倍率は200倍とする。また、CFRP断面写真は十分な樹脂層の長さ(計50mm以上)が得られる程度の枚数を無作為に選んで撮影する。
【0079】
C.めり込み量
最初に、めり込み長を、図4で説明する。まず、強化繊維層1”と樹脂層2’の境界線を決める。導電粒子3の左側で導電粒子に最も近接する強化繊維5の中心に補助線LLを引く、そしてこの強化繊維から左側に100μmまでで最も樹脂層側に位置する強化繊維6の中心に補助線LHを引く、そしてLLとLHの中間に補助線LCを引く。右側も同様の操作を行い、補助線RCを引く(右側補助線は記載を省略している)。そして、LCとRCの中間に補助線CCを引く。そして、補助線CCから強化繊維層1”と樹脂層2’の境界線が円弧状に凹んでいる部分の頂点に向けて垂線を下ろし、この長さを導電粒子のめり込み長9とする。
【0080】
めり込み量は、注目するカーボン粒子のめり込み長を対象としている導電粒子の断面直径で除して得られる値である。強化繊維層を連結する導電粒子を無作為に3個選んでめり込み量を測定し、その平均値を求めた。
【0081】
(4)導電粒子の真球度
倍率200倍で撮影したCFRP断面写真から無作為に30個の導電粒子を選び、その短径と長径から下記数式に従い、計算した。
【0082】
【数3】
【0083】
S:真球度(%)、a:長径、b:短径、n:測定数30。
【0084】
(5)樹脂層厚み
(3)で取得したCFRP断面写真において、画像解析ソフトWinroofを用い樹脂層面積を求め、対象とした樹脂層の長さで除することで、断面写真中の樹脂層1層の厚みを計算した。これを無作為に選んだ8層で行い、樹脂層厚みの平均値を求めた。
【0085】
(6)CFRPの厚み方向の導電率
上記のようにして得られたプリプレグを[+45°/0°/-45°/90°]2s構成で、擬似等方的に16プライ積層した後、オートクレーブにて180℃の温度で2時間、圧力6kg/cm、昇温速度1.5℃/分で樹脂を硬化させてCFRPを作製した。得られたCFRPから、縦40mm×横40mmのサンプルを切り出し、両表面の樹脂層を研磨除去後、両面に導電性ペーストN-2057(昭栄化学工業(株)製)を、バーコーターを用いて約70μmの厚さで塗布し、180℃の温度に調整した熱風オーブン中にて、30分かけて硬化させ、導電性評価用のサンプル得た。得られたサンプルの厚さ方向の抵抗を、アドバンテスト(株)製R6581デジタルマルチメーターを用いて四端子法により測定した。測定は6回行い、平均値をCFRPの厚み方向の体積固有抵抗(Ωcm)とした。そして、これから導電率(S/m)を計算した。
【0086】
(7)CFRPの0°引張強度
上記のようにして得られたプリプレグを所定の大きさにカットし、一方向に4枚積層した後、真空バッグを行い、オートクレーブを用いて、温度180℃、圧力6kg/cm、2時間で硬化させ、一方向強化材を得た。得られた一方向強化材を幅12.7mm、長さ230mmでカットし、両端に1.2mm、長さ50mmのガラス繊維強化プラスチック製のタブを接着し試験片を得た。この試験片はインストロン万能試験機を用いて、JIS K7073(1988)の規格に準じて0゜引張試験を行った。測定温度は室温(23℃)とした。
【0087】
(8)CFRPの衝撃後圧縮強度(CAI)
上記のようにして得られたプリプレグを[+45°/0°/-45°/90°]2s構成で、擬似等方的に16プライ積層した後、オートクレーブにて180℃の温度で2時間、圧力6kg/cm、昇温速度1.5℃/分で樹脂を硬化させてCFRPを作製した。得られたCFRPから、縦150mm×横100mmのサンプルを切り出し、SACMA SRM 2R-94に従い、サンプルの中心部に6.7J/mmの落錘衝撃を与えた後、圧縮破壊試験を行い、衝撃後圧縮強度(CAI)を求めた。
【0088】
(実施例1)
表1の組成で、前記(2)の方法に従ってプリプレグを作製し、前記したようにCFRP(平板構造)の評価を行った。この時、カーボン粒子の含有量は、エポキシ樹脂、硬化剤、熱可塑性樹脂、カーボン粒子およびカーボンブラックの合計質量に対し1.0質量%であり、カーボンブラックの含有量はエポキシ樹脂、硬化剤、熱可塑性樹脂、カーボン粒子およびカーボンブラックの合計質量に対し1.5質量%であった。このCFRPの断面観察を行ったところ、図1に示すように、1個のカーボン粒子で上下の炭素繊維層を連結している部分があり、さらにカーボン粒子の『めり込み』を確認できた。また、同じ原料を用いて作製した比較例1のCFRPに比べ、樹脂層の平均厚みが薄く、厚み方向導電率が高いものであった。これより、導電率を同じとする場合には、カーボン粒子添加量を比較例1に比べ減じることが可能と考えられた。
【0089】
また、樹脂層厚みの平均値からの変動幅を見ると、測定数n=8における最大値は+15%、最小値は-10%であり、国際公開WO2012/084197パンフレット(特表2014-505133号公報)記載の層間厚みばらつきが大きいCFRPとは明らかに異なるものであった。
【0090】
さらに、耐衝撃性や0°引張強度も航空機の1次構造材用として十分高いものであった。
【0091】
(比較例1)
実施例1と全く同じ炭素繊維、樹脂組成物(ポリマー粒子、カーボン粒子、カーボンブラックを含む)でプリプレグを作製し、実施例1と同様にCFRP(平板構造)を作製した。これの断面観察写真の代表例を図2に示すが、カーボン粒子の『めり込み』は見られなかった。
【0092】
(実施例2)
表1の組成で実施例1と同様にCFRP(平板構造)を作製した。この時、カーボン粒子の含有量は、エポキシ樹脂、硬化剤、熱可塑性樹脂およびカーボン粒子の合計質量に対し1.0質量%であった。これの断面観察を行ったところ、1個のカーボン粒子で上下の炭素繊維層を連結している部分があり、さらにカーボン粒子の『めり込み』を確認できた。厚み方向導電率も12S/mと十分高いものであった。
【0093】
また、樹脂層厚みの平均値からの変動幅を見ると、測定数n=8における最大値は+10%、最小値は-7%であった。さらに、耐衝撃性や0°引張強度も航空機の1次構造材用として十分高いものであった。
【0094】
(実施例3)
表1の組成で実施例1と同様にCFRP(平板構造)を作製した。この時、カーボン粒子の含有量は、エポキシ樹脂、硬化剤、熱可塑性樹脂およびカーボン粒子の合計質量に対し1.0質量%であった。これの断面観察を行ったところ、1個のカーボン粒子で上下の炭素繊維層を連結している部分があり、さらにカーボン粒子の『めり込み』を確認できた。厚み方向導電率も13S/mと十分高いものであった。
【0095】
また、樹脂層厚みの平均値からの変動幅を見ると、測定数n=8における最大値は+12%、最小値は-12%であった。さらに、耐衝撃性や0°引張強度も航空機の1次構造材用として十分高いものであった。
【0096】
(実施例4)
表1の組成で実施例1と同様にCFRP(平板構造)を作製した。この時、カーボン粒子の含有量は、エポキシ樹脂、硬化剤、熱可塑性樹脂、カーボン粒子およびカーボンブラックの合計質量に対し1.0質量%であった。これの断面観察を行ったところ、1個のカーボン粒子で上下の炭素繊維層を連結している部分があり、さらにカーボン粒子の『めり込み』を確認できた。導電助剤であるカーボンブラックを併用したため、厚み方向導電率も18S/mと実施例3と比較して高いものであった。
【0097】
また、樹脂層厚みの平均値からの変動幅を見ると、測定数n=8における最大値は+12%、最小値は-12%であった。さらに、耐衝撃性や0°引張強度も航空機の1次構造材用として十分高いものであった。
【0098】
(実施例5)
表1の組成で実施例1と同様にCFRP(平板構造)を作製した。これの断面観察を行ったところ、1個のカーボン粒子で上下の炭素繊維層を連結している部分があり、さらにカーボン粒子の『めり込み』を確認できた。厚み方向導電率は8S/mであった。
【0099】
また、樹脂層厚みの平均値からの変動幅を見ると、測定数n=8における最大値は+12%、最小値は-12%であった。さらに、耐衝撃性や0°引張強度も航空機の1次構造材用として十分であった。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明のFRPは材料に導電性が必要な産業分野に広く適用可能である。特に、航空機の構造部材に用いると、金属フォイルや金属メッシュ等の従来の耐雷システムや除電システム、電磁波シールドシステム等を軽減できるため、当該分野に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0103】
1、1’、1” 強化繊維層
2、2’ 樹脂層
3 導電粒子
3’、3” 導電粒子が割れて部分的に脱落した痕跡と考えられる領域
4 ポリマー粒子
5 繊維(LL補助線用)
6 繊維(LH補助線用)
7 繊維(RL補助線用)
8 繊維(RH補助線用)
9 めり込み長
A 導電粒子が強化繊維層にめり込んでいる領域(本発明の範囲内)
A’ 導電粒子が割れて部分的に脱落した痕跡が強化繊維層にめり込んでいる領域(本発明の範囲内)
B 導電粒子が強化繊維にめり込んだ周囲に、ポリマー粒子が流入している領域
C1~C4 強化繊維層と樹脂層の境界線が乱れている領域(本発明の範囲外)
L1、L2 樹脂層の長さを示す
LL、LH、LC 導電粒子左側の補助線を示す
RL、RH、RC 導電粒子右側の補助線を示す
CC めり込み長算出のための補助線を示す
図1
図2
図3
図4
図5