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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】L-アミノ酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 13/04 20060101AFI20240723BHJP
   C12P 13/24 20060101ALI20240723BHJP
   C12P 13/22 20060101ALI20240723BHJP
   C12P 13/12 20060101ALI20240723BHJP
   C12P 13/08 20060101ALI20240723BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20240723BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20240723BHJP
【FI】
C12P13/04 ZNA
C12P13/24 C
C12P13/22 A
C12P13/12 B
C12P13/08 D
C12N1/21
C12N15/31
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021559331
(86)(22)【出願日】2020-04-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-23
(86)【国際出願番号】 JP2020015390
(87)【国際公開番号】W WO2020204179
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】2019110100
(32)【優先日】2019-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-11091
【微生物の受託番号】VKPM  B-8066
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ストイノヴァ ナタリヤ ヴィクトロヴナ
(72)【発明者】
【氏名】イゴニナ オルガ ニコラエヴナ
(72)【発明者】
【氏名】マリフ エフゲニア アレクサンドロヴナ
(72)【発明者】
【氏名】プレハノヴァ ナタリヤ セルゲエヴナ
(72)【発明者】
【氏名】コーノノヴァ イレナ アレクサンドロヴナ
(72)【発明者】
【氏名】ブートフ イワン アレクサンドロヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】サムソノフ ヴィクトル ヴァシルエヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ビリュコヴァ イリナ ヴラジミロヴナ
(72)【発明者】
【氏名】シマギナ イリーナ セルゲエヴナ
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-240161(JP,A)
【文献】Database Uniprot, Accession No. P37636 [online], 2019.02.13 [検索日 2024.01.29], インターネット:<URL:https://rest.uniprot.org/unisave/P37636?format=txt&versions=134>
【文献】Frontiers in Microbiology,2015年,Volume 6, Article 513
【文献】Database Uniprot, Accession No. P52599 [online], 2019.02.13 [検索日 2024.01.29], インターネット:<URL:https://rest.uniprot.org/unisave/P52599?format=txt&versions=125>
【文献】Database Uniprot, Accession No. P76397 [online], 2019.02.13 [検索日 2024.01.29], インターネット:<URL:https://rest.uniprot.org/unisave/P76397?format=txt&versions=132>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
L-アミノ酸を製造する方法であって、
(i)腸内細菌科(Enterobacteriaceae)に属するL-アミノ酸生産細菌を培地で培養し
て培地もしくは該細菌の菌体、またはその両者中にL-アミノ酸を生産および蓄積させること、および
(ii)培地もしくは菌体、またはその両者からL-アミノ酸を回収すること
を含み、
前記細菌が、ペリプラズムアダプタータンパク質をコードする遺伝子を過剰発現するように改変されている方であって、
前記遺伝子が、下記からなる群より選択される、方法:
(A)yibH遺伝子;
(B)配列番号1の塩基配列を含む遺伝子;
(C)配列番号1の塩基配列全体に対して90%以上の同一性を有する遺伝子であって、該遺
伝子を細菌で過剰発現させた際に細菌により生産されるL-アミノ酸の量が非改変細菌と比較して増大する遺伝子;
(D)配列番号1の塩基配列の変異体塩基配列を含む遺伝子であって、該変異体塩基配列が遺伝暗号の縮重によるものである、遺伝子;
(E)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする遺伝子であって、該遺伝子を細菌で過剰発現させた際に細菌により生産されるL-アミノ酸の量が非改変細菌と比較して増大する遺伝子;
(F)配列番号2のアミノ酸配列において、1~30個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする遺伝子であって、該遺伝子を細菌で過剰発現させた際に細菌により生産されるL-アミノ酸の量が非改変細菌と比較して増大する遺伝子;および
(G)配列番号2のアミノ酸配列全体に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含
むタンパク質をコードする遺伝子であって、該遺伝子を細菌で過剰発現させた際に細菌により生産されるL-アミノ酸の量が非改変細菌と比較して増大する遺伝子。
【請求項2】
前記遺伝子が、該遺伝子のコピー数を増加させること、該遺伝子の発現制御領域を改変すること、またはその両者により過剰発現し、以て該遺伝子の発現が非改変細菌と比較して増大している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細菌が、エシェリヒア(Escherichia)属またはパントエア(Pantoea)属に属する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記細菌が、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)またはパントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記L-アミノ酸が、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-シトルリン、L-システイン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-オルニチン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、およびL-バリンからなる群より選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記細菌が、内膜タンパク質をコードする遺伝子、外膜タンパク質をコードする遺伝子、またはその両者を過剰発現するようにさらに改変されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記内膜タンパク質をコードする遺伝子がrhtA、rhtB、rhtC、leuE、eamA、argO、eamB、ygaZH、yddG、cydDC、yjeH、alaE、yahN、およびlysOからなる群より選択され、且つ、前記外膜タンパク質をコードする遺伝子がmdtP、tolC、およびmdtQからなる群より選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記内膜タンパク質をコードする遺伝子がleuEおよびyddGからなる群より選択され、且つ、前記外膜タンパク質をコードする遺伝子がtolCである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記細菌が、yibI遺伝子を過剰発現するようにさらに改変されている、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記L-アミノ酸が、L-ヒスチジン、L-システイン、L-バリン、およびL-トリプトファンからなる群より選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記L-アミノ酸が、L-ヒスチジンおよびL-トリプトファンからなる群より選択される、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広くは微生物工業に関し、特に、ペリプラズムアダプタータンパク質(periplasmic adaptor protein)をコードする遺伝子を過剰発現し、L-アミノ酸の生産が増
強されるように改変された細菌の発酵によりL-アミノ酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、L-アミノ酸は自然源から得られた微生物株あるいはそれらの変異体を利用した発酵法によって工業的に製造されてきた。典型的には、そのような微生物はL-アミノ酸の生産収率が高まるように改変されている。
【0003】
L-アミノ酸の生産収率を高めるための多くの技術が報告されており、組み換えDNAに
よる微生物の形質転換(例えば、U.S. Patent No. 4,278,765 Aを参照のこと)、プロモ
ーター、リーダー配列及び/又はアテニュエーター、あるいはその他の当業者に知られた発現制御領域の改変(例えば、US20060216796 A1やWO9615246 A1を参照のこと)等がある。生産収率を高めるその他の技術としては、アミノ酸生合成に関与する酵素の活性を増加させること、及び/又は生成したL-アミノ酸による目的とする酵素のフィードバック阻害を解除すること(例えば、WO9516042 A1, EP0685555 A1, またはU.S. Patent Nos. 4,346,170 A, 5,661,012 A, および6,040,160 Aを参照のこと)が挙げられる。
【0004】
近年、細菌の三要素排出集合体(tripartite efflux assemblies)の構造的理解が進んでいる。これらの集合体は、多剤排出システムやI型分泌システムの一群を構成し、抗生
物質やその他の毒性化合物の細胞外への排出や分泌に大きく関与している。三要素排出集合体は、3つの主要な構成要素:内膜タンパク質(IMP)、外膜タンパク質(OMP)、およびペリプラズムアダプタータンパク質(PAP)を含む。IMPは、主要な促進スーパーファミリー(major facilitator superfamily;MFS)タンパク質、ATP結合カセット(ATP-binding cassette;ABC)グループのタンパク質、および抵抗性結節細胞分裂(resistance-nodulation-cell division;RND)タンパク質ファミリーに属する内膜トランスポーターであり得る(Symmons et al. (2015) Front. Microbiol., 6: 513)。OMP(これは、外膜因子(outer membrane factors;OMF)とも呼ばれる)は、ポリンとしても知られる外膜チャ
ネルであり得る。
【0005】
yibH遺伝子は、2つの予測上の膜貫通ドメインを有する内膜タンパク質をコードすると
報告されている(Daley et al. (2005) Science, 308(5726): 1321-1333)。yibH遺伝子
は、yibI遺伝子とともに、yibIHオペロンを構成する。細菌におけるyibH遺伝子の過剰発
現またはyibIHオペロン遺伝子の過剰発現が発酵によるL-アミノ酸の生産に及ぼす影響
については、これまでに報告されていない。
【発明の概要】
【0006】
本発明のひとつの態様は、L-アミノ酸を製造する方法であって、
(i)腸内細菌科(Enterobacteriaceae)に属するL-アミノ酸生産細菌を培地で培養し
て培地もしくは該細菌の菌体、またはその両者中にL-アミノ酸を生産および蓄積させること、および
(ii)培地もしくは菌体、またはその両者からL-アミノ酸を回収すること
を含み、
前記細菌が、ペリプラズムアダプタータンパク質をコードする遺伝子を過剰発現するように改変されている、方法を提供することである。
【0007】
本発明のさらなる態様は、前記遺伝子が、下記からなる群より選択される、前記方法を提供することである:
(A)yibH、acrA、emrA、zneB、emrK、mdtA、mexA、macA、およびmdtEからなる群より選
択される遺伝子;
(B)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、および17からなる群より選択される塩基配列を含む遺伝子;
(C)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、および17からなる群より選択される配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を含む遺伝子であって、該遺伝子を細菌で過剰発現させた際に細菌により生産されるL-アミノ酸の量が非改変細菌と比較して増大する遺伝子;
(D)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、および17からなる群より選択される塩基配列全体に対して90%以上の同一性を有する遺伝子であって、該遺伝子を細菌で過剰発現させ
た際に細菌により生産されるL-アミノ酸の量が非改変細菌と比較して増大する遺伝子;(E)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、および17からなる群より選択される変異体塩基配列を含む遺伝子であって、該変異体塩基配列が遺伝暗号の縮重によるものである、遺伝子;
(F)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、および18からなる群より選択されるアミノ
酸配列を含むタンパク質をコードする遺伝子であって、該遺伝子を細菌で過剰発現させた際に細菌により生産されるL-アミノ酸の量が非改変細菌と比較して増大する遺伝子;
(G)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、および18からなる群より選択されるアミノ
酸配列において、1または数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする遺伝子であって、該遺伝子を細菌で過剰発現させた際に細菌により生産されるL-アミノ酸の量が非改変細菌と比較して増大する遺伝子;および
(H)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、および18からなる群より選択されるアミノ
酸配列全体に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードす
る遺伝子であって、該遺伝子を細菌で過剰発現させた際に細菌により生産されるL-アミノ酸の量が非改変細菌と比較して増大する遺伝子。
【0008】
本発明のさらなる態様は、前記遺伝子が、該遺伝子のコピー数を増加させること、該遺伝子の発現制御領域を改変すること、またはその両者により過剰発現し、以て該遺伝子の発現が非改変細菌と比較して増大している、前記方法を提供することである。
【0009】
本発明のさらなる態様は、前記細菌が、エシェリヒア(Escherichia)属またはパント
エア(Pantoea)属に属する、前記方法を提供することである。
【0010】
本発明のさらなる態様は、前記細菌が、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)またはパントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)である、前記方法を提供することである。
【0011】
本発明のさらなる態様は、前記L-アミノ酸が、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-シトルリン、L-システイン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-オルニチン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、およびL-バリンからなる群より選択される、前記方法を提供することである。
【0012】
本発明のさらなる態様は、前記細菌が、内膜タンパク質をコードする遺伝子、外膜タンパク質をコードする遺伝子、またはその両者を過剰発現するようにさらに改変されている、前記方法を提供することである。
【0013】
本発明のさらなる態様は、前記内膜タンパク質をコードする遺伝子がrhtA、rhtB、rhtC、leuE、eamA、argO、eamB、ygaZH、yddG、cydDC、yjeH、alaE、yahN、およびlysOからなる群より選択され、且つ、前記外膜タンパク質をコードする遺伝子がmdtP、tolC、およびmdtQからなる群より選択される、前記方法を提供することである。
【0014】
本発明のさらなる態様は、前記内膜タンパク質をコードする遺伝子がleuEおよびyddGからなる群より選択され、且つ、前記外膜タンパク質をコードする遺伝子がtolCである、前記方法を提供することである。
【0015】
本発明のさらなる態様は、前記細菌が、yibI遺伝子を過剰発現するようにさらに改変されている、前記方法を提供することである。
【0016】
本発明のさらなる態様は、前記L-アミノ酸が、L-ヒスチジン、L-システイン、L-バリン、およびL-トリプトファンからなる群より選択される、前記方法を提供することである。
【0017】
本発明のさらなる態様は、前記L-アミノ酸が、L-ヒスチジンおよびL-トリプトファンからなる群より選択される、前記方法を提供することである。
【0018】
本発明のさらに他の目的、特徴、および付随する利点は、それに従って構築された実施形態の以下の詳細な説明を読めば当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
ここで、本願発明を、当該発明の例示的な実施態様(これは例示としてのみ提供される)と添付の図面を参照してより詳細に記載する。
図1図1は、pGL2-Ptac-SD1プラスミドを図示する。
図2図2は、pGL2-Ptac-SD1-yibHプラスミドを図示する。
図3図3は、pAH162-tetA-tetR-2Ter-PyeaS-yeaSプラスミドを図示する。
図4図4は、I-TASSERにより予測されたE. coliのYibHの構造を図示する。
図5図5は、I-TASSERにより予測されたP. ananatisの推定上のPAP(NCBI reference sequence No. WP_014594151.1)の構造を図示する。
図6図6は、I-TASSERにより予測されたP. ananatisの推定上のPAP(NCBI reference sequence No. WP_014593401.1)の構造を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書に記載の方法は、細菌の発酵によりL-アミノ酸を製造する方法を含み得る。L-アミノ酸を製造する方法は、細菌を培地で培養して培地もしくは該細菌の菌体(すなわち、細菌菌体)、またはその両者中にL-アミノ酸を生産および蓄積させる工程、および培地もしくは菌体、またはその両者からL-アミノ酸を回収する工程を含み得る。L-アミノ酸は、例えば、フリー体もしくはその塩、またはそれらの混合物として製造され得る。当該方法には、ペリプラズムアダプタータンパク質(periplasmic adaptor protein
)をコードする遺伝子を過剰発現するように改変された細菌を用いることができる。
【0021】
ペリプラズムアダプタータンパク質(「PAP」ともいう)は、多剤排出ポンプおよびI型分泌システムの構成要素として同定されている。これらのシステムは、PAPに加えて、内
膜タンパク質(「IMP」ともいう)や外膜タンパク質(「OMP」ともいう)を含み得る。近年、PAPが輸送プロセスにおいて活性で多様な役割を果たしていることが明らかになって
いる。PAPの助けにより、IMPはOMPと結合し、細胞質から細胞外空間への連続した導管を
形成し、三要素複合体を形成する。
【0022】
今回、YibHタンパク質は、PAPとして初めて同定された。YibHタンパク質をコードするyibH遺伝子は、機能未知のYibIタンパク質をコードするyibI遺伝子とともに、yibIHオペロン上に配置されている。今回、YibHタンパク質の構造がEscherichia coli AcrA、Aquifex
aeolicusのEmrA、Cupriavidus metalliduransのZneB、Escherichia coliのEmrK、Escherichia coliのMdtA、Pseudomonas aeruginosaのMexA、Escherichia coliのMacA、Escherichia coliのMdtE、他の既知の排出ポンプ等の他の既知のPAPと類似していることが確認さ
れた。PAPについては三要素複合体の他の構成要素と比較してあまり知られていないが、
最近の研究により、PAPが排出と輸送のプロセス(輸送物の認識と選択を含む)とエネル
ギーの流れの制御における重要な構成要素であると示唆されている。さらに重要なことには、PAPは複数のIMPや複数のOMPと結合し、三要素ポンプシステムの多数のバリアントを
形成し得る。よって、本明細書に記載の方法で使用されるIMPおよびOMPは制限されず、選択されたPAPと共に三要素ポンプシステムで機能できるIMPおよび/またはOMPを含む。
【0023】
本明細書に記載の方法で使用できるIMPは、任意の既知のIMPを含み得る。その例としては、RhtA、RhtB(EP10167710 B1; EP994190 A; Livshits et al. (2003) Res. Microbiol., 154(2): 123-135; Zakataeva et al. (2006) Microbiol., 75(4): 438-448を参照)、LeuE(YeaSともいう; EP1016710 B1を参照)、EamA(WO2012036151 A1を参照)、ArgO(EP1580262 B1; Zakataeva et al. (2006)を参照)、EamB(EP1016710 B1; Zakataeva et al. (2006) を参照)、YgaZH(RU2215782 C2を参照)、YddG(US7666655 B2; Doroshenko et al. (2007) FEMS Microbiol Lett., 275(2): 312-318を参照)、CydDC(Cruz-Ramos et al. (2004) Microbiol., 150(Pt 10): 3415-3427を参照)、YjeH(Liu et al. (2015) Appl Environ. Microbiol., 81(22): 7753-7766を参照)、AlaE(Hori et al. (2011) Appl. Environ. Microbiol., 77(12): 4027-4034を参照)、YahN(EP1016710 B1を参照)、LysO(WO2005073390 A2を参照)が挙げられる。選択されたIMPを本方法で使用される細菌で過剰発現させることもでき、また、選択した細菌にもともと存在する選択したIMPを使
用することもできる。
【0024】
本明細書に記載の方法で使用できるOMPは、任意の既知のOMPを含み得る。その例としては、MdtP(DE102008044768 A1を参照)、TolC(US8278075 B2; Wiriyathanawudhiwong et
al. (2009) Appl Microbiol Biotechnol., 81(5): 903-913; ecocyc.org/gene?orgid=ECOLI&id=EG11009を参照)、およびMdtQ(ecocyc.org/gene?orgid=ECOLI&id=EG12020)が挙げられる。特に、TolCが一例である。選択されたOMPを本方法で使用される細菌で過剰発
現させることもでき、また、選択した細菌にもともと存在する選択したOMPを使用するこ
ともできる。
【0025】
本明細書に記載の細菌は、PAPの活性が増大するように、IMPの活性が増大するように、且つ/又はOMPの活性が増大するように、改変され得る。PAP、IMP、またはOMPの活性は、PAP、IMP、またはOMPをコードする遺伝子を過剰発現することにより増大し得る。PAP、IMP、またはOMPをコードする遺伝子を、それぞれ、「PAP遺伝子」、「IMP遺伝子」、または「OMP遺伝子」ともいう。よって、「細菌がPAP、IMP、またはOMPの活性が増大するように改変される」の用語は、細菌がPAP、IMP、またはOMP遺伝子が過剰発現するように改変さ
れることを意味し得る。「PAP、IMP、またはOMP遺伝子の過剰発現」の用語は、「PAP、IMP、またはOMPの過剰発現」の用語と、代替可能または等価に用いられてよい。細菌を少なくともPAPの活性が増大するように改変することにより、同細菌によるL-アミノ酸生産
が向上し得る。特に、一例では、PAPの活性が増大した細菌をIMPの活性および/またはOMPの活性が増大するように改変することにより、同細菌によるL-アミノ酸生産がさらに
向上し得る。本明細書の非限定的な実施例に示すように、IMPであるLeuE(YeaSともいう
)またはYddG、OMPであるTolC、および推定上のPAPであるYibHの同時過剰発現により、それらが過剰発現したL-アミノ酸生産細菌株によるいくつかのL-アミノ酸(L-ヒスチ
ジン、L-システイン、L-バリン、およびL-トリプトファン等)の生産が増大し得る。よって、これらのタンパク質の1つ、2つ、または3つ全ての過剰発現は、目的のL-アミノ酸の排出を増大させ得るものであり、すなわち、発酵パフォーマンスを改善し得る。
【0026】
細菌は、L-アミノ酸生産能を有する細菌を、PAPの活性が増大するように、IMPの活性が増大するように、且つ/又はOMPの活性が増大するように改変することにより取得でき
る。また、細菌は、PAPの活性が増大するように、IMPの活性が増大するように、且つ/又はOMPの活性が増大するように細菌を改変した後に、細菌にL-アミノ酸生産能を付与す
る、または細菌のL-アミノ酸生産能を増強することによっても取得できる。細菌は、PAPの活性が増大するように、IMPの活性が増大するように、且つ/又はOMPの活性が増大す
るように改変されたことにより、L-アミノ酸生産能を獲得したものであってもよい。細菌を構築するための改変は、任意の順番で実施できる。
【0027】
いずれのPAPも、三要素排出ポンプが本明細書に記載の方法で用いられ得る細菌の菌体
外に目的物質を排出(export)、排出(efflux)、および/または分泌等できるように、選択したIMPおよび選択したOMPと共にPAPが三要素排出ポンプを形成し得る限り、本明細
書に記載の方法で用いられ得る。すなわち、いずれのPAPも、選択したIMPおよび選択したOMPを含む三要素排出ポンプが目的物質に対する輸送活性を有するように、当該三要素排
出ポンプにおいて機能する活性をPAPが有する限り、本明細書に記載の方法で用いられ得
る。目的物質としては、L-アミノ酸が挙げられる。PAPとしては、yibH、acrA、emrA、zneB、emrK、mdtA、mexA、macA、およびmdtE遺伝子にそれぞれコードされるYibH、AcrA、EmrA、ZneB、EmrK、MdtA、MexA、MacA、およびMdtEが挙げられる。PAPとして、具体的には、yibH(配列番号1)、acrA(配列番号3)、emrA(配列番号5)、zneB(配列番号7)、emrK(配列番号9)、mdtA(配列番号11)、mexA(配列番号13)、macA(配列番号15)、and
mdtE(配列番号17)遺伝子にそれぞれコードされるEscherichia coliのYibH(配列番号2)、Escherichia coliのAcrA(配列番号4)、Aquifex aeolicusのEmrA(配列番号6)、Cupriavidus metalliduransのZneB(配列番号8)、Escherichia coliのEmrK(配列番号10)、Escherichia coliのMdtA(配列番号12)、Pseudomonas aeruginosaのMexA(配列番号14)、Escherichia coliのMacA(配列番号16)、Escherichia coliのMdtE(配列番号18)が挙げられる。
【0028】
いずれのIMPも、三要素排出ポンプが本方法で用いられ得る細菌の菌体外に目的物質を
排出(export)、排出(efflux)、および/または分泌等できるように、選択したPAPお
よび選択したOMPと共にIMPが三要素排出ポンプを形成し得る限り、本明細書に記載の方法で用いられ得る。すなわち、いずれのIMPも、選択したPAPおよび選択したOMPを含む三要
素排出ポンプが目的物質に対する輸送活性を有するように、当該三要素排出ポンプにおいて機能する活性をIMPが有する限り、本明細書に記載の方法で用いられ得る。IMPは、IMP
を含む三要素排出ポンプにより菌体外に排出(export)、排出(efflux)、および/または分泌される目的物質に応じて適宜選択され得る。また、IMPは、本明細書に記載の方法
で製造される目的物質に応じて適宜選択され得る。例えば、目的物質がL-アミノ酸である場合、IMPは、目的のL-アミノ酸に対してL-アミノ酸輸送能を有するタンパク質で
あり得る。よって、本明細書に記載の方法で用いられ得るIMPが、L-アミノ酸輸送能を
有するIMPであり得るものであり、且つIMPを含む三要素排出ポンプが本方法で用いられ得る細菌の菌体外にL-アミノ酸を排出(export)、排出(efflux)、および/または分泌等できるように、選択したPAPおよび選択したOMPと共に三要素排出ポンプを形成し得るものであることが許容される。また、本明細書に記載の方法で用いられ得るIMPは、1種より多くの基質(例えば、1種より多くのL-アミノ酸等)、すなわち、異なる複数の基質(
異なる複数のL-アミノ酸等)、を輸送する能力を有するIMPであり得る。IMPが1種より
多くの基質(例えば、異なる複数のL-アミノ酸等)を輸送する能力を有し得ることは、
当業者によく知られている。例えば、leuE遺伝子(yeaSとしても本技術分野において知られている)にコードされ、本明細書に記載の方法で用いられ得るLeuEタンパク質(YeaSとしても本技術分野において知られている)は、異なる複数の種類のL-アミノ酸(例えば、L-ヒスチジン、L-メチオニン、L-ロイシン等)を輸送できるIMPであり得る(Kutukova et al. (2005), FEBS Lett., 579(21): 4629-4634)。別の例では、yddG遺伝子に
コードされ、本明細書に記載の方法で用いられ得るYddGタンパク質は、異なる複数の種類の芳香族L-アミノ酸(例えば、L-トリプトファン、L-フェニルアラニン、L-チロシン等)を輸送できるIMPであり得る(Doroshenko et al. (2007), FEMS Microbiol Lett., 275(2): 312-318)。すなわち、用いられ得るIMPとしては、leuE遺伝子にコードされ
るLeuEタンパク質(YeaSとしても本技術分野において知られている)や、yddG遺伝子にコードされるYddGタンパク質が挙げられる。用いられ得るIMPとしては、他にも、rhtA、rhtB、rhtC、eamA、argO、eamB、ygaZH、cydDC、yjeH、alaE、yahN、およびlysO遺伝子にそ
れぞれコードされるRhtA、RhtB、RhtC、EamA、ArgO、EamB、YgaZH、CydDC、YjeH、AlaE、YahN、およびLysOが挙げられる。
【0029】
いずれのOMPも、三要素排出ポンプが本方法で用いられ得る細菌の菌体外に目的物質を
排出(export)、排出(efflux)、および/または分泌等できるように、選択したPAPお
よび選択したIMPと共にOMPが三要素排出ポンプを形成し得る限り、本明細書に記載の方法で用いられ得る。すなわち、いずれのOMPも、選択したPAPおよび選択したIMPを含む三要
素排出ポンプが目的物質に対する輸送活性を有するように、当該三要素排出ポンプにおいて機能する活性をOMPが有する限り、本明細書に記載の方法で用いられ得る。OMPとしては、mdtP、tolC、およびmdtQ遺伝子にそれぞれコードされるMdtP、TolC、およびMdtQが挙げられる。
【0030】
「三要素排出ポンプ(tripartite efflux pump)」、「三要素ポンプシステム(tripartite pump system)」、「三要素排出複合体(tripartite efflux complex)」、「三要
素複合体(tripartite complex)」、および「三要素排出集合体(tripartite efflux assembly)」の用語は、代替可能または等価に用いられ得る。
【0031】
選択したタンパク質が他の1種またはそれ以上のタンパク質と複合体を形成し得る(すなわち、集合し得る)かを決定するために使用できる方法が知られている(例えば、Miteva et al. (2013) Anal Chem., 85(2): 749-768; von Mering et al. (2007) Nucleic Acids Res., 35(Database issue): D358-62を参照)。特に、グラム陰性細菌の二重膜構造
を模倣するプロテオリポソームを用いてin vitroで三要素排出ポンプを組み立てる方法が詳細に記載されている(Verchere et al. (2015) Nat Commun., 6: 6890; Verchere et al. (2014) J Vis Exp. (84): e50894)。in vivoで三要素排出ポンプを発現する方法も使用できる(Srikumar et al. (1998) Antimicrob Agents Chemother., 42(1): 65-71; Du et al. (2018) Methods Mol Biol., 1700: 71-81)。目的物質に対する三要素排出ポンプの輸送活性は、例えば、プロテオリポソームを用いてin vitroで組み立てた三要素排出ポンプの輸送活性を決定できる方法により決定できる(Verchere et al. (2014); Verchere
et al. (2015))。IMPの輸送活性は、トランスポータータンパク質の輸送活性を決定す
るために使用できる公知の方法をにより決定できる(例えば、Lee et al. (1975) J. Bacteriol., 122(3): 1001-1005; Ghrist et al. (1995) Microbiol., 141(Pt 1): 133-140;
Doroshenko et al. (2007) FEMS Microbiol. Lett., 275(2): 312-318; Livshits et al. (2003) Res. Microbiol., 154(2): 123-135;等を参照)。
【0032】
タンパク質濃度は、ウシ血清アルブミン(BSA)を標準としてクマシー色素を用いたBradfordタンパク質アッセイまたはLowry法により決定することができる(Bradford (1976) Anal. Biochem., 72: 248-254; Lowry et al. (1951) J. Biol. Chem., 193: 265-275)
【0033】
PAP、IMP、およびOMPとしては、例えば、各種細菌(Escherichia coli(以下、E. coli)やPantoea ananatis(以下、P. ananatis)等の腸内細菌科(Enterobacteriaceae)に
属する細菌やPAPについて記載した他の細菌等)に固有のPAP、IMP、およびOMPタンパク質が挙げられる。各種細菌に固有のPAP、IMP、およびOMPタンパク質のアミノ酸配列および
それらをコードする遺伝子の塩基配列は、例えば、NCBI.等のデータベースから取得でき
る。
【0034】
E. coli K-12 MG1655(ATCC 47076)株のyibH遺伝子は、Gene ID: 948110としてNCBIデータベースに登録されたゲノム配列の3770243~3771379位(相補)に相当する。MG1655株のYibHタンパク質は、NCBI Reference Sequence: NP_418054.1としてNCBIに登録されている。MG1655株のyibH遺伝子の塩基配列およびYibHタンパク質のアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号1および2に示す。YibHタンパク質をコードするyibH遺伝子は、機能未知のYibIタンパク質(配列番号58)をコードするyibI遺伝子(配列番号57)とともに、yibIHオペロン上に配置されている。細菌は、yibH遺伝子を過剰発現するようにさらに改変さ
れてもよい。
【0035】
E. coli固有のYibHの三次構造は、公知の確立されたPAP(例えば、E. coliのAcrA(PDB
structure - 2F1M.pdb)、Aquifex aeolicusのEmrA(4TKO.pdb)、E. coliのMacA(3FPP.pdb)、Actinobacillus actinomycetemcomitansのMacA(4DK0.pdb)等)の構造と類似している(Symmons et al. (2015) Front. Microbiol., 6: 513)。E. coli固有のYibHおよびP. ananatis固有の他の推定上のPAPの評価モデルは、I-TASSERを用いた相同性モデリングにより生成された(図4~6を参照)。AcrAおよび他のいくつかの公知のアダプタータンパク質(Symmons et al. (2005))は、I-TASSERによりE. coli固有のYibHおよびP. ananatis固有の他の推定上のPAPと構造的に近いと認識された。
【0036】
このモデリングから、E. coli固有のYibHの三次構造には、他のPAPと同様にOMPとの相
互作用を担うα-ヘアピンドメインが含まれていることが明らかになった。PAPとOMPの間の認識は、三要素複合体の組み立ておよびその機能に必須である。その他のYibHドメインは、ビオチン/リポイルキャリアードメイン、β-バレルドメイン、およびN-末端膜貫通ドメインである。他のPAPでは、これらのドメインは、複合体の組み立ての安定化、内膜
への固定、およびIMPとの相互作用に重要な役割を果たしている。
【0037】
PAP遺伝子は、例えば、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、または17に示す塩基配列を有する遺伝子であってよい。PAPは、例えば、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、
または18に示すアミノ酸配列を有するタンパク質であってよい。「遺伝子またはタンパク質が塩基配列またはアミノ酸配列を有する」という表現は、特記しない限り、遺伝子またはタンパク質がより長い塩基配列またはアミノ酸配列の一部として含まれることを意味し得るものであり、遺伝子またはタンパク質が当該塩基配列または当該アミノ酸配列のみであることも意味し得る。
【0038】
PAP、IMP、および/またはOMPタンパク質は、元の機能が維持されているか、その三次
元構造が非改変タンパク質(例えば、野生型タンパク質等)に対して顕著には変更されていない限り、上記タンパク質のバリアントであってもよい。同様に、PAP、IMP、および/またはOMPタンパク質をコードする遺伝子は、元の機能が維持されているか、その三次元
構造が非改変タンパク質(例えば、野生型タンパク質等)に対して顕著には変更されていない限り、上記例示したPAP、IMP、および/またはOMP遺伝子のバリアントであってもよ
い。そのような元の機能または三次元構造が維持されたバリアントを「保存的バリアント」ともいう。保存的バリアントとしては、例えば、上記例示したPAP、IMP、および/またはOMPタンパク質やそれらをコードする遺伝子のホモログや人為的な改変体が挙げられる
【0039】
「PAPタンパク質」、「IMPタンパク質」、および「OMPタンパク質」の用語は、それぞ
れ、上記例示したPAPタンパク質、IMPタンパク質、およびOMPタンパク質に加えて、それ
らの保存的バリアントを包含し得る。同様に、「PAP遺伝子」、「IMP遺伝子」、および「OMP遺伝子」の用語は、それぞれ、上記例示したPAP遺伝子、IMP遺伝子、およびOMP遺伝子に加えて、それらの保存的バリアントを包含し得る。また、上記遺伝子名で定義される遺伝子および上記タンパク質名で定義されるタンパク質は、上記例示した遺伝子およびタンパク質に加えて、それらの保存的バリアントを包含し得る。すなわち、例えば、「yibH遺伝子」の用語は、上記例示したyibH遺伝子(例えば、配列番号1に示す塩基配列を有するyibH遺伝子)に加えて、それらの保存的バリアントを包含し得る。同様に、例えば、「YibHタンパク質」の用語は、上記例示したYibHタンパク質(例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するYibHタンパク質)に加えて、それらの保存的バリアントを包含し得る。
【0040】
「元の機能が維持されている」の用語は、遺伝子のバリアントまたはタンパク質のバリアントが、元の遺伝子またはタンパク質の機能に対応する機能(例えば活性または性質)を有することを意味し得る。すなわち、PAP遺伝子、IMP遺伝子、およびOMP遺伝子につい
て用いられる「元の機能が維持されている」の用語は、遺伝子のバリアントが、それぞれ、PAP活性を有するタンパク質、IMP活性を有するタンパク質、およびOMP活性を有するタ
ンパク質をコードすることを意味し得る。また、PAPタンパク質、IMPタンパク質、およびOMPタンパク質について用いられる「元の機能が維持されている」の用語は、タンパク質
のバリアントが、それぞれ、PAP活性、IMP活性、およびOMP活性を有することを意味し得
る。「PAP活性」の用語は、選択したIMPおよび選択したOMPを含む三要素排出ポンプが目
的物質に対する輸送活性を有するように三要素排出ポンプにおいて機能する活性を意味し得る。「IMP活性」の用語は、選択したPAPおよび選択したOMPを含む三要素排出ポンプが
目的物質に対する輸送活性を有するように三要素排出ポンプにおいて機能する活性を意味し得る。「OMP活性」の用語は、選択したPAPおよび選択したIMPを含む三要素排出ポンプ
が目的物質に対する輸送活性を有するように三要素排出ポンプにおいて機能する活性を意味し得る。また、PAP遺伝子について用いられる「元の機能が維持されている」の用語は
、遺伝子のバリアントを細菌で過剰発現させた際に細菌により生産されるL-アミノ酸の量が非改変細菌と比較して増大することを意味し得る。また、PAPタンパク質について用
いられる「元の機能が維持されている」の用語は、タンパク質のバリアントを細菌で過剰発現させた際に細菌により生産されるL-アミノ酸の量が非改変細菌と比較して増大することを意味し得る。以下、保存的バリアントについて例示する。
【0041】
PAP、IMP、および/またはOMPタンパク質のホモログとしては、例えば、上記例示した
アミノ酸配列を問い合わせ配列として用いたBLAST検索またはFASTA検索(例えば、ncbi.nlm.nih.govを参照)によって公開データベースから取得されるタンパク質が挙げられる。また、PAP、IMP、および/またはOMP遺伝子のホモログは、例えば、各種微生物の染色体DNAを鋳型にして、上記塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをオリゴヌクレオチドプライマーとして用いたPCR(polymerase chain reaction;White et al. (1989) Trends Genet., 5: 185-189を参照)により取得できる。
【0042】
PAP、IMP、および/またはOMPタンパク質は、元の機能が維持されているか、その三次
元構造が非改変タンパク質(例えば、野生型タンパク質等)に対して顕著には変更されていない限り、上記アミノ酸配列において、1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有していてもよい。「1又は数個」の用語で想定される量は、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には、例えば、1~50個、1~40個、1~30個、1~20個、1~10個、1~5個、または1~3個であり得る。
【0043】
上記の1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、及び/又は付加は、野生型タンパク質に類似した機能が維持される保存的変異であり得る。保存的変異の典型例は、保存的置換である。保存的置換は、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Ala、Leu、Ile、Val間で、置換
部位が親水性アミノ酸である場合にはGlu、Asp、Gln、Asn、Ser、His、Thr間で、置換部
位が極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、置換部位が塩基性アミノ酸である場合にはLys、Arg、His間で、置換部位が酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、置換
部位がヒドロキシル基を有するアミノ酸である場合には、Ser、Thr間で、互いに置換する置換である。保存的置換の例としては、AlaからSerまたはThrへの置換、ArgからGln、HisまたはLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、HisまたはAspへの置換、AspからAsn、GluまたはGlnへの置換、CysからSerまたはAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、AspまたはArgへの置換、GluからAsn、Gln、LysまたはAspへの置換、GlyからProへの置換、Hisか
らAsn、Lys、Gln、ArgまたはTyrへの置換、IleからLeu、Met、ValまたはPheへの置換、LeuからIle、Met、ValまたはPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、HisまたはArgへの置換
、MetからIle、Leu、ValまたはPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、IleまたはLeuへの
置換、SerからThrまたはAlaへの置換、ThrからSerまたはAlaへの置換、TrpからPheまたはTyrへの置換、TyrからHis、PheまたはTrpへの置換、及びValからMet、IleまたはLeuへの
置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、又は付加等は、タンパク質に固有のまたは由来する生物の個体差または種の差によって天然に生じる変異を包含する。
【0044】
1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、及び/又は付加の例としては、非保存的変異も挙げられるが、ただし、その変異は、アミノ酸配列の異なる位置の1つまた
はそれ以上の第2の変異により、PAP、IMP、および/またはOMPタンパク質の機能が維持されるか、タンパク質の三次元構造が非改変タンパク質(例えば、野生型タンパク質等)に対して顕著には変更されないように、補償されるものである。
【0045】
PAP、IMP、および/またはOMPタンパク質は、元の機能が維持されているか、その三次
元構造が非改変タンパク質(例えば、野生型タンパク質等)に対して顕著には変更されていない限り、上記アミノ酸配列全体に対して、例えば、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、または99%以上の、コンピュータプログラムblastpを使用する際のパラメーター「同一性」として定義される相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質であってよい。
【0046】
PAP、IMP、および/またはOMPタンパク質は、DNAにコードされるタンパク質の元の機能が維持されている限り、上記塩基配列から調製され得るプローブ、例えば上記塩基配列の全体または一部に対する相補配列、とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAにコードされてよい。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッ
ドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味し得る。ストリンジェントな条件としては、特異的ハイブリッド、例えば、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、または99%以上の、コンピュータプログラムblastnを使用する際のパラメーター「同一性」として定義される相同性を有するハイブリッドが形成され、非特異的ハイブリッド、例えば、相同性が上記未満のハイブリッドが形成されない条件が挙げられる。例えば、ストリンジェントな条件としては、1×SSC(標準クエン酸ナトリウムまたは標準塩化ナトリウム)、0.1% SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、60℃に相当する塩濃度および温度において、0.1×SSC、0.1% SDS、60℃に相当する塩濃度および温度において、または0.1×SSC、0.1% SDS、68℃に相当する塩濃度および温度において、1回、2回、または3回洗浄する条件が挙げられる。また、例えば、プローブとして300 bp程度の長さのDNA断
片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件は、例えば、2×SSC、0.1% S
DS、50℃であってよい。洗浄時間は、ブロッティングに使用されたメンブレンの種類に依存し得るが、一般的には製造者により推奨されるものとすべきである。例えば、Amersham
HybondTM-N+正荷電ナイロンメンブレン(GE Healthcare)のストリンジェントな条件下
での推奨洗浄時間は15分である。プローブは、PAP、IMP、またはOMPタンパク質をコード
するDNAに基づいて調製されたオリゴヌクレオチドをプライマーとして使用し、前記塩基
配列を含むDNA断片を鋳型として使用するPCR(White et al. (1989))によって調製する
ことができる。
【0047】
ポリペプチドの同一性のパーセンテージは、blastpアルゴリズムにより算出できる。より具体的には、ポリペプチドの同一性のパーセンテージは、National Center for Biotechnology Information(NCBI)より提供されるblastpアルゴリズムによりデフォルト設定
のScoring Parameters(Matrix:BLOSUM62;Gap Costs:Existence=11, Extension=1;Compositional Adjustments:Conditional compositional score matrix adjustment)を用いて算出できる。ポリヌクレオチドの同一性のパーセンテージは、blastnアルゴリズムにより算出できる。より具体的には、ポリヌクレオチドの同一性のパーセンテージは、NCBIより提供されるblastnアルゴリズムによりデフォルト設定のScoring Parameters(Match/Mismatch Scores=1, -2;Gap Costs=Linear)を用いて算出できる。
【0048】
2つの配列間の配列同一性は、2つの配列を最大一致となるように整列した際の2つの配列間で一致する残基の比率として算出できる。
【0049】
また、宿主によってコドンの縮重が異なり得るため、PAP、IMP、および/またはOMP遺
伝子のコドンは、それぞれ、標準遺伝子暗号表(例えば、Lewin B., “Genes VIII”, 2004, Pearson Education, Inc., Upper Saddle River, NJ 07458を参照)による任意の同
義のコドンに置換されてよい。例えば、PAP、IMP、および/またはOMP遺伝子は、選択し
た宿主のコドン頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されてよい。
【0050】
上述した遺伝子およびタンパク質の保存的バリアントに関する記載は、YibHタンパク質やL-アミノ酸生合成経路の酵素等の任意のタンパク質、およびそれらをコードする遺伝子にも準用できる。
【0051】
細菌
「L-アミノ酸生産菌」の用語は、「L-アミノ酸を生産できる細菌」の用語または「L-アミノ酸を生産する能力を有する細菌」の用語と代替可能または等価に使用され得る。
【0052】
「L-アミノ酸生産菌」の用語は、当該細菌を培地で培養したときに、目的とするL-アミノ酸を生成(generate)または製造(produce)し、回収できる程度に培地中および
/または当該細菌の菌体内に蓄積する能力を有する細菌を意味し得る。L-アミノ酸生産能を有する細菌は、非改変株と比較して、より多い量で目的のL-アミノ酸を培地中に蓄積する能力を有する細菌であってよい。「非改変株」の用語は、「非改変細菌」の用語と代替可能または等価に使用されてよい。「非改変株」の用語は、例えば、PAP、IMP、および/またはOMP遺伝子を過剰発現するように改変されていない対照株を意味し得る。非改
変細菌としては、野生株や親株が挙げられる。非改変細菌として、具体的には、以下に例示する細菌株:例えば、Escherichia coli (E. coli) K-12株(例えば、W3110 (ATCC 27325) やMG1655 (ATCC 47076))およびPantoea ananatis (P. ananatis) AJ13355やSC17 (FERM BP-11091)等が挙げられる。L-アミノ酸生産能を有する細菌は、0.5 g/L以上または1.0 g/L以上の量で目的のL-アミノ酸を培地中に蓄積することができる細菌であってよ
い。
【0053】
L-アミノ酸としては、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-シトルリン、L-システイン、L-グルタミン酸、グリシン、L-グルタミン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-オルニチン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、及びL-バリンが挙げられる。L-アミノ酸として、具体的には、L-リジン、L-オルニチン、L-アルギニン、L-ヒスチジン、L-シトルリン等の塩基性アミノ酸、L-イソロイシン、L-アラニン、L-バリン、L-ロイシン、グリシン等の脂肪族アミノ酸、L-スレオニン、L-セリン等のヒドロキシモノアミノカルボン酸であるアミノ酸、L-プロリン等の環式アミノ酸、L-フェニルアラニン、L-チロシン、L-トリプトファン等の芳香族アミノ酸、L-システイン、L-シスチン、タウリン、L-メチオニン等の含硫アミノ酸、L-グルタミン酸、L-アスパラギン酸等の酸性アミノ酸、L-グルタミン、L-アスパラギン等の側鎖にアミド基を有するアミノ酸が挙げられる。L-アミノ酸としては、特に、L-ヒスチジン、L-システイン、L-バリン、L-トリプトファンが挙げられる。L-アミノ酸として、さらに特には、L-ヒスチジンやL-トリプトファンが挙げられる。細菌は、1種のL-アミノ酸の生産能、または2種またはそれ以上のL-アミノ酸の生産能を有し得る。
【0054】
アミノ酸は、特記しない限り、L-アミノ酸であってよい。また、製造されるアミノ酸は、フリー体、塩、またはそれらの形態の混合物であってよい。すなわち、「L-アミノ酸」の用語は、特記しない限り、フリー体のL-アミノ酸、その塩、またはそれらの混合物を意味し得る。塩の例については後述する。
【0055】
腸内細菌科に属する細菌としては、エシェリヒア(Escherichia)、エンテロバクター
(Enterobacter)、パントエア(Pantoea)、クレブシエラ(Klebsiella)、セラチア(Serratia)、エルビニア(Erwinia)、フォトルハブドゥス(Photorhabdus)、プロビデンシア(Providencia)、サルモネラ(Salmonella)、モルガネラ(Morganella)等の属に
属する細菌が挙げられる。そのような細菌は、L-アミノ酸を生産する能力を有し得る。具体的には、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のデータベース
(ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Browser/wwwtax.cgi?id=91347)で用いられている分類法
により腸内細菌科に分類されている細菌を使用することができる。
【0056】
エシェリヒア属細菌種としては、特に制限されないが、微生物学の専門家に知られている分類によりエシェリヒア属に分類されている種が挙げられる。エシェリヒア属細菌としては、例えば、Neidhardtらの著書(Backmann, B. J. 1996. Derivations and Genotypes
of some mutant derivatives of Escherichia coli K-12, p. 2460-2488. Table 1. In F. D. Neidhardt (ed.), Escherichia coli and Salmonella Cellular and Molecular Biology, Second Edition, American Society for Microbiology Press, Washington, D.C.)に記載されたものが挙げられる。エシェリヒア属細菌種としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli(E. coli))が挙げられる。エシェリヒア・コリ種として
、具体的には、例えば、W3110(ATCC 27325)やMG1655(ATCC 47076)等のエシェリヒア
・コリK-12株;エシェリヒア・コリK5株(ATCC 23506);BL21(DE3)等のエシェリヒア・
コリB株;およびそれらの派生株が挙げられる。
【0057】
エンテロバクター属細菌としては、特に制限されないが、微生物学の専門家に知られている分類によりエンテロバクター属に分類されている種が挙げられる。エンテロバクター属細菌としては、例えば、エンテロバクター・アグロメランス(Enterobacter agglomerans)やエンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)が挙げられる。エンテロバクター・アグロメランス株として、具体的には、例えば、エンテロバクター・アグロメランスATCC 12287が挙げられる。エンテロバクター・アエロゲネス株として、具体的には、例えば、エンテロバクター・アエロゲネスATCC 13048、NBRC 12010(Biotechnol B
ioeng. 2007 Mar 27; 98(2) 340-348)、AJ110637(FERM BP-10955)が挙げられる。また、エンテロバクター属細菌株としては、例えば、欧州特許出願公開0952221号明細書に記
載されたものが挙げられる。なお、エンテロバクター・アグロメランスには、パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)と分類されているいくつかの株も含まれる。
【0058】
パントエア属細菌としては、特に制限されないが、微生物学の専門家に知られている分類によりパントエア属に分類されている種が挙げられる。パントエア属細菌種としては、例えば、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis(P. ananatis))、パントエア
・スチューアルティ(Pantoea stewartii)、パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)、パントエア・シトレア(Pantoea citrea)が挙げられる。パントエア・アナナティス株として、具体的には、例えば、パントエア・アナナティスLMG20103、AJ13355
(FERM BP-6614)、AJ13356(FERM BP-6615)、AJ13601(FERM BP-7207)、SC17(FERM BP-11091)、SC17(0)(VKPM B-9246)が挙げられる。エンテロバクター・アグロメランス
のある種のものは、最近、16S rRNAの塩基配列分析等に基づき、パントエア・アグロメランス、パントエア・アナナティス、パントエア・ステワルティイ等に再分類された(Int.
J. Syst. Bacteriol., 43, 162-173 (1993))。パントエア属細菌には、このようにパントエア属に再分類された細菌も含まれる。
【0059】
エルビニア属細菌としては、エルビニア・アミロボーラ(Erwinia amylovora)、エル
ビニア・カロトボーラ(Erwinia carotovora)が挙げられる。クレブシエラ属細菌としては、クレブシエラ・プランティコーラ(Klebsiella planticola)が挙げられる。
【0060】
これらの株は、例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(Address: P.O. Box 1549, Manassas, VA 20108, United States of America)から入手することができる。すなわち各菌株には対応する登録番号が付与されており、この登録番号を利用して発注することができる(atcc.org/を参照)。各菌株の登録番号は、アメリカン・タイプ
・カルチャー・コレクションのカタログに記載されている。これらの株は、例えば、各株が寄託された寄託機関から入手することもできる。
【0061】
細菌は、本来的にL-アミノ酸生産能を有するものであってもよく、L-アミノ酸生産能を有するように改変されたものであってもよい。L-アミノ酸生産能を有する細菌は、例えば、上述したような細菌にL-アミノ酸生産能を付与することにより、または上述したような細菌のL-アミノ酸生産能を増強することにより、取得できる。
【0062】
L-アミノ酸生産能の付与又は増強は、従来、エシェリヒア属細菌等のアミノ酸生産菌の育種に採用されてきた方法により行うことができる(アミノ酸発酵、(株)学会出版センター、1986年5月30日初版発行、第77~100頁参照)。そのような方法としては、
例えば、栄養要求性変異株の取得、L-アミノ酸のアナログ耐性株の取得、代謝制御変異株の取得、L-アミノ酸の生合成系酵素の活性が増強された組換え株の創製が挙げられる。L-アミノ酸生産菌の育種において、付与される栄養要求性、アナログ耐性、代謝制御変異等の性質は、単独であってもよく、2種又は3種以上であってもよい。また、L-アミノ酸生産菌の育種において、活性が増強されるL-アミノ酸生合成系酵素も、単独であってもよく、2種又は3種以上であってもよい。さらに、栄養要求性、アナログ耐性、代謝制御変異等の性質の付与と、生合成系酵素の活性の増強が組み合わされてもよい。
【0063】
L-アミノ酸生産能を有する栄養要求性変異株、アナログ耐性株、又は代謝制御変異株は、親株又は野生株を典型的な変異処理に供し、得られた変異株の中から、栄養要求性、アナログ耐性、又は代謝制御変異を示し、且つL-アミノ酸生産能を有するものを選択することによって取得できる。典型的な変異処理としては、X線や紫外線の照射、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート
(EMS)、メチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理が挙げられる。
【0064】
また、L-アミノ酸生産能の付与又は増強は、目的のL-アミノ酸の生合成に関与する酵素の活性を増強することによっても行うことができる。酵素活性の増強は、例えば、同酵素をコードする遺伝子の発現が増強するように細菌を改変することにより行うことができる。遺伝子の発現を増強する方法は、WO00/18935やEP 1010755 A等に記載されている。酵素活性を増強する詳細な手順は後述する。
【0065】
また、L-アミノ酸生産能の付与又は増強は、目的のL-アミノ酸の生合成経路から分岐して目的のL-アミノ酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素の活性を低下させることによっても行うことができる。なお、「目的のL-アミノ酸の生合成経路から分岐して目的のL-アミノ酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素」には、目的のアミノ酸の分解に関与する酵素も包含される。酵素活性は、例えば、酵素をコードする遺伝子が不活化されるように細菌を改変することにより低下させことができる。酵素活性を低下させる方法は後述する。
【0066】
以下、L-アミノ酸生産菌、およびL-アミノ酸生産能を付与又は増強する方法について具体的に例示する。なお、以下に例示するようなL-アミノ酸生産菌が有する性質およびL-アミノ酸生産能を付与又は増強するための改変は、いずれも、単独で用いてもよく、適宜組み合わせて用いてもよい。
【0067】
<L-アルギニン生産菌>
L-アルギニン生産菌およびL-アルギニン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、制限されないが、E. coli 237株(VKPM B-7925, U.S. Patent Application No. 2002058315 A1)および変異型N-アセチルグルタミン酸シンターゼを有するその派生株
(Russian Patent No. 2215783 C2)、N-アセチルグルタミン酸シンターゼをコードす
るargA遺伝子が導入されたアルギニン生産株(EP1170361 A1)であるE. coli 382株(VKPM B-7926, EP1170358 A1)、382株にE. coliK-12株由来のilvA遺伝子の野生型アレルを導入して得られた株であるE. coli 382 ilvA+株等のEscherichia属に属する株が挙げられる。変異型N-アセチルグルタミン酸シンターゼとしては、例えば、野生型酵素の15位~19位に相当するアミノ酸残基が置換されたことによりL-アルギニンによるフィードバック阻害が解除された変異型N-アセチルグルタミン酸シンターゼが挙げられる(EP1170361 A1)。
【0068】
L-アルギニン生産菌およびL-アルギニン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、L-アルギニン生合成系酵素をコードする1種またはそれ以上の遺伝子の発現が増大した株も挙げられる。そのような遺伝子としては、N-アセチルグルタミン酸シンターゼ(argA)、N-アセチルグルタミン酸キナーゼ(argB)、N-アセチル-γ-グルタミルリン酸レダクターゼ(argC)、N-アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ(argD)、アセチルオルニチンデアセチラーゼ(argE)、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(argF, argI)、アルギニノコハク酸シンターゼ(argG)、アルギニノコハク酸リアーゼ(argH)、オルニチンアセチルトランスフェラーゼ(argJ)、カルバモイルリン酸シンターゼ(carAB)をコードする遺伝子が挙げられる。N-アセチルグルタミン酸
シンターゼ(argA)遺伝子としては、例えば、上記例示したような変異型N-アセチルグルタミン酸シンターゼをコードする遺伝子を好適に使用できる。
【0069】
L-アルギニン生産菌およびL-アルギニン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、アミノ酸アナログ等への耐性を有する株も挙げられる。そのような株としては、例えば、α-メチルメチオニン、p-フルオロフェニルアラニン、D-アルギニン、アル
ギニンヒドロキサム酸、S-(2-アミノエチル)-システイン、α-メチルセリン、β-2-チエニルアラニン、またはスルファグアニジンに耐性を有するE. coli変異株(特
開昭56-106598を参照)が挙げられる。
【0070】
<L-シトルリン生産菌>
L-シトルリン生産菌およびL-シトルリン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、制限されないが、変異型N-アセチルグルタミン酸シンターゼを保持するE. coli 237/pMADS11株、237/pMADS12株、及び237/pMADS13株(RU2215783 C2, 欧州特許1170361
B1, およびU.S. Patent No. 6,790,647 B2)、フィードバック阻害に耐性のカルバモイ
ルリン酸シンセターゼを保持するE. coli 333株(VKPM B-8084)及び374株(VKPM B-8086)(ロシア特許No. 2264459 C2)、α-ケトグルタル酸シンターゼの活性が増大し、且つフェレドキシンNADP+レダクターゼ、ピルビン酸シンターゼ、及び/又はα-ケトグルタ
ル酸デヒドロゲナーゼの活性がさらに改変されたE. coli株(EP2133417 A1)等のEscherichia属に属する株や、コハク酸デヒドロゲナーゼおよびα-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼの活性が低下したPantoea ananantis NA1sucAsdhA株(米国特許出願No. 2009286290 A1)等が挙げられる。
【0071】
L-シトルリンは、L-アルギニン生合成経路における中間体であるため、L-シトルリン生産菌およびL-シトルリン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、L-アルギニン生合成系酵素をコードする1種またはそれ以上の遺伝子の発現が増大した株が挙げられる。L-シトルリン生産のためのそのような遺伝子としては、制限されないが、N-アセチルグルタミン酸シンターゼ(argA)、N-アセチルグルタミン酸キナーゼ(argB)、N-アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ(argC)、アセチルオルニチントランスアミナーゼ(argD)、アセチルオルニチンデアセチラーゼ(argE)、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(argF/I)、オルニチンアセチルトランスフェラーゼ(argJ)、カルバモイルリン酸シンターゼ(carAB)、およびそれらの組み合わせをコードする遺
伝子が挙げられる。
【0072】
また、L-シトルリン生産菌は、任意のL-アルギニン生産菌(例えばE. coli 382株
(VKPM B-7926))から、argG遺伝子にコードされるアルギニノコハク酸シンターゼ不活
化することにより容易に得ることができる。
【0073】
<L-システイン生産菌>
L-システイン生産菌およびL-システイン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、例えば、1種またはそれ以上のL-システイン生合成系酵素の活性が増大した株が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、セリンアセチルトランスフェラーゼ(cysE)や3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(serA)が挙げられる。酵素名の後のカッコ内には、その酵素をコードする遺伝子の一例を示す(同一の命名法は、以下、タンパク質/酵素および遺伝子について言及する場合にも準用される)。セリンアセチルトランスフェラーゼ活性は、例えば、システインによるフィードバック阻害に耐性の変異型セリンアセチルトランスフェラーゼをコードする変異型cysE遺伝子を細菌に導入することにより増強できる。変異型セリンアセチルトランスフェラーゼは、例えば、特開平11-155571やUS2005-0112731Aに開示されている。そのような変異型セリンアセチルトランスフェラーゼとして、具体的には、cysE5遺伝子にコードされる、野生型セリンアセ
チルトランスフェラーゼの95位と96位のVal残基とAsp残基がそれぞれArg残基とPro残基に置換された変異型セリンアセチルトランスフェラーゼが挙げられる(US2005-0112731A)。また、3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ活性は、例えば、セリンによるフ
ィードバック阻害に耐性の変異型3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼをコードする変異型serA遺伝子を細菌に導入することにより増強できる。変異型3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼは、例えば、米国特許第6,180,373号に開示されている。
【0074】
L-システイン生産菌およびL-システイン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、例えば、L-システインの生合成経路から分岐してL-システイン以外の化合物を生成する反応を触媒する1種またはそれ以上の酵素の活性が低下した株も挙げられる。そのような酵素としては、例えば、L-システインの分解に関与する酵素が挙げられる。L-システインの分解に関与する酵素としては、特に制限されないが、シスタチオニン-β-リアーゼ(metC)(特開平11-155571号;Chandra et al., Biochemistry, 1982, 21:3064-3069)、トリプトファナーゼ(tnaA)(特開2003-169668;Austin N. et al., J. Biol. Chem., 1965, 240:1211-1218)、O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼB(cysM
)(特開2005-245311)、malY遺伝子産物(特開2005-245311)、Pantoea ananatisのd0191遺伝子産物(特開2009-232844)、システインデスルフヒドラーゼ(aecD)(特開2002-233384)が挙げられる。
【0075】
また、L-システイン生産菌およびL-システイン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、例えば、L-システイン排出系および/または硫酸塩/チオ硫酸塩輸送系の活性が増大した株も挙げられる。L-システイン排出系のタンパク質としては、ydeD遺伝子にコードされるタンパク質(特開2002-233384)、yfiK遺伝子にコードされるタンパ
ク質(特開2004-49237)、emrAB、emrKY、yojIH、acrEF、bcr、およびcusAの各遺伝子に
コードされる各タンパク質(特開2005-287333)、yeaS遺伝子にコードされるタンパク質
(特開2010-187552)が挙げられる。硫酸塩/チオ硫酸塩輸送系のタンパク質としては、cysPTWA遺伝子クラスターにコードされるタンパク質が挙げられる。
【0076】
L-システイン生産菌およびL-システイン生産菌を誘導するために使用できる親株として、具体的には、例えば、制限されないが、フィードバック阻害耐性の変異型セリンアセチルトランスフェラーゼをコードする種々のcysEアレルで形質転換されたE. coli JM15(米国特許第6,218,168 B1号, ロシア特許出願第2279477 C2号)、細胞に毒性の物質を排出するのに適したタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現するE. coli W3110(米国特
許第5,972,663号)、システインデスルフヒドラーゼ活性が低下した E. coli株(JP11155571 A2)、cysB遺伝子によりコードされる正のシステインレギュロンの転写制御因子の活性が上昇したE. coli W3110(WO0127307 A1)等のEscherichia属に属する株が挙げられる。
【0077】
<L-グルタミン酸生産菌>
L-グルタミン酸生産菌およびL-グルタミン酸生産菌を誘導するために使用できる親株としては、制限されないが、E. coli VL334thrC+(EP 1172433 A1)等のEscherichia属に属する株が挙げられる。E. coli VL334(VKPM B-1641)は、thrCおよびilvA遺伝子に変異を有するL-イソロイシンおよびL-スレオニンの要求性株である(U.S. Patent No. 4,278,765)。E. coli K-12株(VKPM B-7)の細胞で生育させたバクテリオファージP1を
用いた一般的なトランスダクション法によりthrC遺伝子の野生型アレルを導入した。その結果、L-グルタミン酸を生産できるL-イソロイシン要求性株VL334thrC+(VKPM B-8961)が得られた。
【0078】
L-グルタミン酸生産菌およびL-グルタミン酸生産菌を誘導するために使用できる親株としては、制限されないが、L-グルタミン酸生合成系酵素をコードする1種またはそれ以上の遺伝子の発現が増大した株が挙げられる。そのような遺伝子としては、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(gdhA)、グルタミンシンテターゼ(glnA)、グルタミン酸シンターゼ(gltBD)、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(icdA)、アコニテートヒドラターゼ(acnA, acnB)、クエン酸シンターゼ(gltA)、メチルクエン酸シンターゼ(prpC)、ピル
ビン酸カルボキシラーゼ(pyc)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(ppc)、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(aceEF, lpdA)、ピルビン酸キナーゼ(pykA, pykF)、ホ
スホエノールピルビン酸シンターゼ(ppsA)、エノラーゼ(eno)、ホスホグリセロムタ
ーゼ(pgmA, pgmI)、ホスホグリセリン酸キナーゼ(pgk)、グリセルアルデヒド-3-
リン酸デヒドロゲナーゼ(gapA)、トリオースリン酸イソメラーゼ(tpiA)、フルクトースビスリン酸アルドラーゼ(fbp)、ホスホフルクトキナーゼ(pfkA, pfkB)、グルコー
スリン酸イソメラーゼ(pgi)、6-ホスホグルコン酸デヒドラターゼ(edd)、2-ケト-3-デオキシ-6-ホスホグルコン酸アルドラーゼ(eda)、トランスヒドロゲナーゼ
をコードする遺伝子が挙げられる。これらの酵素の中では、例えば、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、クエン酸シンターゼ、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、及びメチルクエン酸シンターゼから選択される1種またはそれ以上の酵素の活性を増強するのが好ましい。
【0079】
クエン酸シンターゼ遺伝子、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子、および/またはグルタミン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の発現が増大するように改変された腸内細菌科に属する株としては、EP1078989 A2、EP955368 A2、およびEP952221 A2に開示されたものが挙げられる。また、エントナー・ドゥドロフ経路の遺伝子(edd, eda)の発現が増大するように改変された腸内細菌科に属する株としては、EP1352966Bに開示されたものが挙げられる。
【0080】
L-グルタミン酸生産菌およびL-グルタミン酸生産菌を誘導するために使用できる親株としては、L-グルタミン酸の生合成経路から分岐してL-グルタミン酸以外の化合物の生合成を触媒する酵素の活性が低下または消失した株も挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、イソクエン酸リアーゼ(aceA)、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ(sucA)、ホスホトランスアセチラーゼ(pta)、酢酸キナーゼ(ack)、アセトヒドロキシ酸シンターゼ(ilvG)、アセト乳酸シンターゼ(ilvI)、ギ酸アセチルトランスフェラーゼ(pfl)、乳酸デヒドロゲナーゼ(ldh)、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(gadAB)、コハク酸デヒドロゲナーゼ(sdhABCD)、1-ピロリン-5-カルボン酸デヒドロゲナーゼ(putA)が挙げられる。これらの酵素の中では、例えば、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を低下又は欠損させることが好ましい。
【0081】
α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性が欠損または低下したEscherichia属細菌、
及びそれらの取得方法は、米国特許第5,378,616号及び米国特許第5,573,945号に記載されている。これらの株として、具体的には、下記のものが挙げられる。
E. coli W3110sucA::KmR
E. coli AJ12624(FERM BP-3853)
E. coli AJ12628(FERM BP-3854)
E. coli AJ12949(FERM BP-4881)
【0082】
E. coli W3110sucA::KmRは、E. coli W3110のα-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ遺
伝子(以下、「sucA遺伝子」ともいう)を破壊することにより得られた株である。この株は、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼを完全に欠損している。
【0083】
L-グルタミン酸生産菌およびL-グルタミン酸生産菌を誘導するために使用できる親株としては、P. ananatis AJ13355株(FERM BP-6614)、P. ananatis SC17株(FERM BP-11091)、P. ananatis SC17(0)株(VKPM B-9246)等のPantoea属細菌も挙げられる。AJ13355株は、静岡県磐田市の土壌から、低pHでL-グルタミン酸及び炭素源を含む培地で増殖できる株として分離された株である。SC17株は、AJ13355株から、粘液質低生産変異株と
して選択された株である(米国特許第6,596,517号)。SC17株は、2009年2月4日に、独立
行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(現、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE IPOD)、郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉
県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に寄託され、受託番号FERM BP-11091が付与されて
いる。AJ13355株は、1998年2月19日に、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(現、NITE IPOD、郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に、受託番号FERM P-16644として寄託され、1999年1月11日にブダペスト条約に基
づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-6614が付与されている。
【0084】
L-グルタミン酸生産菌およびL-グルタミン酸生産菌を誘導するために使用できる親株としては、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性が欠損または低下したPantoea属
に属する変異株も挙げられ、上記のようにして取得できる。そのような株としては、AJ13355株のα-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼのE1サブユニット遺伝子(sucA)欠損株で
あるP. ananatis AJ13356(米国特許第6,331,419号)、及びSC17株のsucA遺伝子欠損株であるPantoea ananatis SC17sucA(米国特許第6,596,517号)が挙げられる。P. ananatis AJ13356は、1998年2月19日に、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(現、NITE
IPOD、郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に受託番号FERM P-16645として寄託され、1999年1月11日にブダペスト条約に基づく国際寄
託に移管され、受託番号FERM BP-6615が付与されている。尚、上記株は、分離された当時はEnterobacter agglomeransと同定され、Enterobacter agglomerans AJ13356として寄託された。しかし、同株は、近年、16S rRNAの塩基配列解析などにより、P. ananatisに再
分類されている。AJ13356は、上記寄託機関にEnterobacter agglomeransとして寄託され
ているが、本明細書の目的ではP. ananatisとして記載する。
【0085】
L-グルタミン酸生産菌およびL-グルタミン酸生産菌を誘導するために使用できる親株としては、P. ananatis SC17sucA/RSFCPG+pSTVCB株、P. ananatis AJ13601株、P. ananatis NP106株、及びP. ananatis NA1株等のパントエア属に属する株も挙げられる。SC17sucA/RSFCPG+pSTVCB株は、SC17sucA株に、エシェリヒア・コリ(E. coli)由来のクエン酸シンターゼ遺伝子(gltA)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子(ppc)
、およびグルタミン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(gdhA)を含むプラスミドRSFCPG、並びに、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)由来
のクエン酸シンターゼ遺伝子(gltA)を含むプラスミドpSTVCBを導入して得られた。AJ13601株は、このSC17sucA/RSFCPG+pSTVCB株から低pH下で高濃度のL-グルタミン酸に耐性
を示す株として選択された株である。NP106株は、AJ13601株からプラスミドRSFCPG+pSTVCBを脱落させて得られた。AJ13601株は、1999年8月18日に、通商産業省工業技術院生命工
学工業技術研究所(現、NITE IPOD、郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市
かずさ鎌足2-5-8 120号室)に受託番号FERM P-17516として寄託され、2000年7月6日にブ
ダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-7207が付与されている。
【0086】
L-グルタミン酸生産菌およびL-グルタミン酸生産菌を誘導するために使用できる親株としては、栄養要求性変異株も挙げられる。栄養要求性変異株として、具体的には、例えば、E. coli VL334thrC+(VKPM B-8961;EP1172433)が挙げられる。E. coli VL334(VKPM B-1641)は、thrC遺伝子及びilvA遺伝子に変異を有するL-イソロイシン及びL-スレオニン要求性株である(米国特許第4,278,765号)。E. coli VL334thrC+は、thrC遺伝
子の野生型アレルをVL334に導入することにより得られた、L-イソロイシン要求性のL
-グルタミン酸生産菌である。thrC遺伝子の野生型アレルは、野生型E. coli K-12株(VKPM B-7)の細胞で増殖したバクテリオファージP1を用いる一般的形質導入法により導入された。
【0087】
L-グルタミン酸生産菌およびL-グルタミン酸生産菌を誘導するために使用できる親株としては、アスパラギン酸アナログに耐性を有する株も挙げられる。これらの株は、例えば、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を欠損していてもよい。アスパラギン酸アナログに耐性を有し、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を欠損した株として、具体的には、例えば、E. coli AJ13199(FERM BP-5807;米国特許第5,908,768号)、さら
にL-グルタミン酸分解能が低下したE. coli FERM P-12379(米国特許第5,393,671号)
、E. coli AJ13138(FERM BP-5565;米国特許第6,110,714号)が挙げられる。
【0088】
<L-ヒスチジン生産菌>
L-ヒスチジン生産菌およびL-ヒスチジン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、L-ヒスチジン生合成系酵素をコードする1種またはそれ以上の遺伝子の発現が増大した株が挙げられる。そのような遺伝子としては、ATPホスホリボシルトランスフェラーゼ(hisG)、ホスホリボシル-ATPピロホスファターゼ(hisE)、ホスホリボシル-AMPサイクロヒドロラーゼ(hisI)、二機能性ホスホリボシル-AMPサイクロヒドロラーゼ/ホスホリボシル-ATPピロホスファターゼ(hisIE)、ホスホリボシルフ
ォルミミノ-5-アミノイミダゾールカルボキサミドリボタイドイソメラーゼ(hisA)、アミドトランスフェラーゼ(hisH)、ヒスチジノールフォスフェイトアミノトランスフェラーゼ(hisC)、ヒスチジノールフォスファターゼ(hisB)、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(hisD)等をコードする遺伝子が挙げられる。
【0089】
hisG及びhisBHAFIにコードされるL-ヒスチジン生合成系酵素は、L-ヒスチジンにより阻害されることが知られている。従って、L-ヒスチジン生産能は、例えば、ATPホスホリボシルトランスフェラーゼにフィードバック阻害への耐性を付与する変異を導入することにより、効率的に増強することができる(Russian Patent Nos. 2003677 C1 and 2119536 C1)。
【0090】
L-ヒスチジン生産菌およびL-ヒスチジン生産菌を誘導するために使用できる親株として、具体的には、制限されないが、Escherichia coli 24株(VKPM B-5945;RU2003677 C1)、Escherichia coli NRRL B-12116~B-12121(米国特許第4,388,405号)、Escherichia coli H-9342(FERM BP-6675)及びH-9343(FERM BP-6676)(米国特許第6,344,347号B1)、Escherichia coli H-9341(FERM BP-6674;EP1085087 A2)、Escherichia coli AI80/pFM201(米国特許第6,258,554号B1)、L-ヒスチジン生合成系酵素をコードするDNAを保持するベクターで形質転換したE. coli FERM P-5038及びFERM P-5048(JP 56-005099 A)、アミノ酸排出用の遺伝子であるrhtで形質転換したE. coli株(EP1016710 A2)、スルファグアニジン、DL-1,2,4-トリアゾール-3-アラニン、及びストレプトマイシンに対する耐性を付与したE. coli 80株(VKPM B-7270;RU2119536 C1)、E. coli MG1655+hisGr hisL'_Δ ΔpurR(RU2119536 and Doroshenko V.G. et al. (2013) Prikl. Biochim. Mikrobiol. (Russian), 49(2): 149-154)等のEscherichia属に属する株が挙げられる。
【0091】
<L-イソロイシン生産菌>
L-イソロイシン生産菌およびL-イソロイシン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、制限されないが、1種またはそれ以上のL-イソロイシン生合成系酵素の活性が増大した株が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、スレオニンデアミナーゼやアセトヒドロキシ酸シンターゼが挙げられる(特開平2-458, EP0356739A, 米国特許第5,998,178号)。
【0092】
L-イソロイシン生産菌およびL-イソロイシン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、制限されないが、6-ジメチルアミノプリンに耐性を有する変異株(JP 5-304969 A)、チアイソロイシン、イソロイシンヒドロキサメート等のイソロイシンアナロ
グに耐性を有する変異株、さらにDL-エチオニン及び/またはアルギニンヒドロキサメートに耐性を有する変異株(JP 5-130882 A)等のEscherichia属細菌が挙げられる。
【0093】
L-イソロイシン生産菌およびL-イソロイシン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、1種またはそれ以上のL-イソロイシン生合成系酵素の活性が増大した株が
挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、スレオニオンデアミナーゼやアセトヒドロキシ酸シンターゼが挙げられる(JP 2-458 A, EP0356739 A1, and U.S. Patent No. 5,998,178)。
【0094】
<L-ロイシン生産菌>
L-ロイシン生産菌およびL-ロイシン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、制限されないが、ロイシン耐性のE. coli株(例えば、57株(VKPM B-7386;米国特許第6,124,121号))、β-2-チエニルアラニン、3-ヒドロキシロイシン、4-アザロ
イシン、5,5,5-トリフルオロロイシン等のロイシンアナログに耐性のE. coli株(JP 62-34397 BおよびJP 8-70879 A)、WO96/06926に記載された遺伝子工学的方法で得られたE. coli株、E. coli H-9068(JP 8-70879 A)等のEscherichia属に属する株が挙げられる。
【0095】
L-ロイシン生産菌およびL-ロイシン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、L-ロイシン生合成に関与する1種またはそれ以上の遺伝子の発現が増大した株が挙げられる。そのような遺伝子としては、leuABCDオペロンの遺伝子が挙げられる。leuA遺
伝子としては、例えば、L-ロイシンによるフィードバック阻害が解除されたα-イソプロピルマレートシンターゼをコードする変異型leuA遺伝子(U.S. Patent No. 6,403,342 B1)が好適に利用できる。
【0096】
また、L-ロイシン生産菌およびL-ロイシン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、細菌菌体からL-アミノ酸を排出するタンパク質をコードする遺伝子の発現が増大した株も挙げられる。そのような遺伝子としては、b2682およびb2683遺伝子(ygaZH
遺伝子)が挙げられる(EP1239041 A2)。
【0097】
<L-リジン生産菌>
L-リジン生産菌およびL-リジン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、Escherichia属に属し、且つL-リジンアナログに耐性を有する変異株が挙げられる。L
-リジンアナログはEscherichia属に属する細菌の生育を阻害するが、この阻害は、L-
リジンが培地に共存するときには完全にまたは部分的に脱感作される。L-リジンアナログとしては、制限されないが、オキサリジン、リジンヒドロキサメート、S-(2-アミノエチル)-L-システイン(AEC)、γ-メチルリジン、α-クロロカプロラクタム等
が挙げられる。これらのリジンアナログに対して耐性を有する変異株は、Escherichia属
に属する細菌を通常の人工変異処理に付すことによって得ることができる。L-リジン生産に有用な細菌株として、具体的には、例えば、E. coli AJ11442(FERM BP-1543, NRRL B-12185;米国特許第4,346,170号を参照のこと)及びE. coli VL611が挙げられる。これ
らの株では、アスパルトキナーゼにおけるL-リジンによるフィードバック阻害が解除されている。
【0098】
L-リジン生産菌およびL-リジン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、L-リジン生合成系酵素をコードする1種またはそれ以上の遺伝子の発現が増大した株が挙げられる。そのような遺伝子としては、制限されないが、ジヒドロジピコリン酸シンターゼ(dihydrodipicolinate synthase)(dapA)、アスパルトキナーゼIII(aspartokinase III)(lysC)、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ(dihydrodipicolinate reductase)(dapB)、ジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼ(diaminopimelate decarboxylase)(lysA)、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ(diaminopimelate dehydrogenase)
(ddh)(米国特許第6,040,160号)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(phosphoenolpyruvate carboxylase)(ppc)、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(aspartate semialdehyde dehydrogenase)(asd)、アスパラギン酸アミノトランス
フェラーゼ(aspartate aminotransferase)(アスパラギン酸トランスアミナーゼ(aspa
rtate transaminase))(aspC)、ジアミノピメリン酸エピメラーゼ(diaminopimelate epimerase)(dapF)、テトラヒドロジピコリン酸スクシニラーゼ(tetrahydrodipicolinate succinylase)(dapD)、スクシニルジアミノピメリン酸デアシラーゼ(succinyl diaminopimelate deacylase)(dapE)、及びアスパルターゼ(aspartase)(aspA)(EP1253195 A1)をコードする遺伝子が挙げられる。これらの酵素の中では、例えば、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ、ジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼ、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ジアミノピメリン酸エピメラーゼ、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ、テトラヒドロジピコリン酸スクシニラーゼ、及びスクシニルジアミノピメリン酸デアシラーゼの1種またはそれ以上の活性を増強するのが好ましい。また、L-リジン生産菌およびL-リジン生産菌を誘導するために使用できる親株では、エネルギー効率に関与する遺伝子(cyo)(EP1170376 A1)、ニコチンアミドヌクレオチドトラ
ンスヒドロゲナーゼ(nicotinamide nucleotide transhydrogenase)をコードする遺伝子(pntAB)(米国特許第5,830,716号A)、ybjE遺伝子(WO2005/073390)、またはこれらの組み合わせの発現レベルが増大していてもよい。アスパルトキナーゼIII(lysC)はL-
リジンによるフィードバック阻害を受けるので、同酵素の活性を増強するには、L-リジンによるフィードバック阻害が解除されたアスパルトキナーゼIIIをコードする変異型lysC遺伝子を利用してもよい(米国特許第5,932,453号)。L-リジンによるフィードバック阻害が解除されたアスパルトキナーゼIIIとしては、318位のメチオニン残基のイソロイシン残基への置換、323位のグリシン残基のアスパラギン酸残基への置換、352位のスレオニン残基のイソロイシン残基への置換等の1つまたはそれ以上の変異を有するエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来のアスパルトキナーゼIIIが挙げられる(米国特許第5,661,012号、米国特許第6,040,160号)。また、ジヒドロジピコリン酸合成酵素(dapA)は
L-リジンによるフィードバック阻害を受けるので、同酵素の活性を増強するには、L-リジンによるフィードバック阻害が解除されたジヒドロジピコリン酸合成酵素をコードする変異型dapA遺伝子を利用してもよい。L-リジンによるフィードバック阻害が解除されたジヒドロジピコリン酸合成酵素としては、118位のヒスチジン残基がチロシン残基に置
換される変異を有するエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来のジヒドロジピコリン酸合成酵素が挙げられる(米国特許第6,040,160号)。
【0099】
L-リジン生産菌またはL-リジン生産菌を誘導するために使用できる親株では、L-アミノ酸の生合成経路から分岐して他の化合物を生成する反応を触媒する酵素の活性が低下または消失していてよい。また、L-リジン生産菌またはL-リジン生産菌を誘導するために使用できる親株では、L-リジンの合成または蓄積に対して負に作用する酵素の活性が低下または消失していてよい。そのような酵素としては、ホモセリンデヒドロゲナーゼ(homoserine dehydrogenase)、リジンデカルボキシラーゼ(lysine decarboxylase;cadA, ldcC)、リンゴ酸酵素(malic enzyme)等が挙げられ、これらの酵素の活性が低下または欠損した株は、WO95/23864, WO96/17930, WO2005/010175等に開示されている。lysine decarboxylase活性は、例えば、lysine decarboxylaseをコードするcadAおよびldcC
遺伝子の両方の発現を低下させることにより、低下または欠損させることができる。両遺伝子の発現は、例えば、WO2006/078039に記載の方法により、低下させることができる。
【0100】
L-リジン生産菌またはL-リジン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、E. coli WC196株(FERM BP-5252, U.S. Patent No. 5,827,698)、E. coli WC196ΔcadA
ΔldcC株(FERM BP-11027;「WC196LC」とも呼ばれる)、E. coli WC196ΔcadAΔldcC/pCABD2株(WO2006/078039)も挙げられる。
【0101】
WC196株は、E. coli K-12に由来するW3110株にAEC耐性を付与することにより育種され
た(米国特許第5,827,698号)。WC196株は、E. coli AJ13069と命名され、1994年12月6日に、工業技術院生命工学工業技術研究所(現、NITE IPOD、郵便番号:292-0818、住所:
日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に受託番号FERM P-14690として寄託さ
れ、1995年9月29日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-5252が付与されている(米国特許第5,827,698号)。
【0102】
WC196ΔcadAΔldcC株は、WC196株より、リジンデカルボキシラーゼをコードするcadA及びldcC遺伝子を破壊することにより構築された。WC196ΔcadAΔldcC株は、AJ110692と命
名され、2008年10月7日に、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(現、NITE IPOD、郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に受
託番号FERM BP-11027として国際寄託された。
【0103】
WC196ΔcadAΔldcC/pCABD2株は、WC196ΔcadAΔldcC株に、リジン生合成系遺伝子を含
むプラスミドpCABD2(米国特許第6,040,160号)を導入することにより構築された。pCABD2は、L-リジンによるフィードバック阻害が解除される変異(H118Y)を有するエシェリヒア・コリ(E. coli)由来のジヒドロジピコリン酸合成酵素(DDPS)をコードする変異
型dapA遺伝子と、L-リジンによるフィードバック阻害が解除される変異(T352I)を有
するエシェリヒア・コリ(E. coli)由来のアスパルトキナーゼIIIをコードする変異型lysC遺伝子と、エシェリヒア・コリ(E. coli)由来のジヒドロジピコリン酸レダクターゼ
をコードするdapB遺伝子と、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)由来ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼをコードするddh遺伝子を含んでいる。
【0104】
L-リジン生産菌またはL-リジン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、E. coli AJIK01株(NITE BP-01520)も挙げられる。AJIK01株は、E. coli AJ111046と命
名され、2013年1月29日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センタ
ー(NITE NPMD;郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に寄託され、2014年5月15日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託
番号NITE BP-01520が付与されている。
【0105】
<L-メチオニン生産菌>
L-メチオニン生産菌およびL-メチオニン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、特に制限されないが、E. coli AJ11539株(NRRL B-12399)、AJ11540株(NRRL B-12400)、AJ11541株(NRRL B-12401)、AJ 11542株(NRRL B-12402)(特許GB2075055);L-メチオニンアナログであるノルロイシンに耐性のE. coli218株(VKPM B-8125;RU2209248 C2)および73株(VKPM B-8126;RU2215782 C2);等のEscherichia属に属する株
が挙げられる。E. coli 73株は、2001年5月14日にルシアン・ナショナル・コレクション
・オブ・インダストリアル・マイクロオルガニズムズ(VKPM; 1stDorozhny proezd., 1, Moscow 117545, Russian Federation)にVKPM B-8126の受託番号で寄託され、2002年2月1日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管された。また、メチオニンリプレッサー欠損株やL-メチオニン生合成に関与するタンパク質(ホモセリントランススクシニラーゼやシスタチオニンγ-シンターゼ等)をコードする遺伝子で形質転換した組み換え株(JP 2000-139471 A)も、L-メチオニン生産菌または親株として用いることができる。Escherichia属のL-メチオニン生産菌およびL-メチオニン生産菌を誘導するために使用でき
る親株の他の例は、L-メチオニン生合成系のリプレッサー(MetJ)を欠損し、細胞内のホモセリントランスクシニラーゼ(homoserine transsuccinylase)(MetA)活性が増大
したE. coli株(US7611873 B1)、コバラミン非依存性メチオニン合成酵素(cobalamin-independent methionine synthase)(MetE)活性が抑制され、コバラミン依存性メチオニン合成酵素(cobalamin-dependent methionine synthase)(MetH)活性が増大したE. coli株(EP2861726 B1)、L-スレオニンを生産する能力を有し、スレオニンデヒドラターゼ(threonine dehydratase)(tdcB, ilvA)と、少なくとも、O-スクシニルホモセリ
ンリアーゼ(O-succinylhomoserine lyase)(metB)、シスタチオニンβ-リアーゼ(cy
stathionine beta-lyase)(metC)、5,10-メチレンテトラヒドロフォレートレダクターゼ(5,10-methylenetetrahydrofolate reductase)(metF)、およびセリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(serine hydroxymethyltransferase)(glyA)を発現する
ベクターで形質転換されたE. coli株(US7790424 B2)、トランスヒドロゲナーゼ(transhydrogenase)(pntAB)の活性が増強されたE. coli株(EP2633037 B1)等であり得る。
【0106】
<L-オルニチン生産菌>
L-オルニチンは、L-アルギニン生合成経路における中間体であるため、L-オルニチン生産菌およびL-オルニチン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、L-アルギニン生合成系酵素をコードする1種またはそれ以上の遺伝子の発現が増大した株が挙げられる。L-オルニチン生産のためのそのような遺伝子としては、制限されないが、N-アセチルグルタミン酸シンターゼ(argA)、N-アセチルグルタミン酸キナーゼ(argB)、N-アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ(argC)、アセチルオルニチントランスアミナーゼ(argD)、アセチルオルニチンデアセチラーゼ(argE)、オルニチンアセチルトランスフェラーゼ(argJ)、およびそれらの組み合わせをコードする遺伝子が挙げられる。
【0107】
L-オルニチン生産菌は、任意のL-アルギニン生産菌(例えばE. coli 382株(VKPM B-7926)等)から、argF及びargI両遺伝子によりコードされるオルニチンカルバモイルトランスフェラーゼを不活化することにより容易に得ることができる。オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼを不活化する方法は、本明細書に記載されている。
【0108】
<L-フェニルアラニン生産菌>
L-フェニルアラニン生産菌およびL-フェニルアラニン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、制限されないが、E. coli AJ12739(tyrA::Tn10, tyrR)(VKPM B-8197)、変異型pheA34遺伝子を保持するE. coli HW1089(ATCC 55371、米国特許第5,354,672号)、E. coli MWEC101-b(KR8903681)、E. coli NRRL B-12141、NRRL B-12145、NRRL B-12146、及びNRRL B-12147(米国特許第4,407,952号)、E. coli K-12 [W3110 (tyrA)/pPHAB](FERM BP-3566)、E. coli K-12 [W3110 (tyrA)/pPHAD](FERM BP-12659)、E. coli K-12 [W3110 (tyrA)/pPHATerm](FERM BP-12662)、並びにAJ12604と命名されたE. coli K-12 [W3110 (tyrA)/pBR-aroG4, pACMAB](FERM BP-3579、EP488424 B1)等のEscherichia属に属する株が挙げられる。さらに、L-フェニルアラニン生産菌およびL-フェニルアラニン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、yedA遺伝子またはyddG遺伝子によりコードされるタンパク質の活性が増強されたEscherichia属に属するL-フェ
ニルアラニン生産菌も挙げられる(米国特許第7,259,003号及び第7,666,655号)。
【0109】
<L-プロリン生産菌>
L-プロリン生産菌およびL-プロリン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、制限されないが、ilvA遺伝子を欠損し、L-プロリンを生産できるE. coli 702ilvA
(VKPM B-8012、EP1172433 A1)等のEscherichia属に属する株が挙げられる。L-プロリン生産菌およびL-プロリン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、L-プロリン生合成に関与する1種またはそれ以上の遺伝子の発現が増強された株も挙げられる。
L-プロリン生産菌において使用することができるそのような遺伝子の例としては、L-プロリンによるフィードバック阻害が解除されたグルタメートキナーゼをコードするproB遺伝子が挙げられる(DE3127361 A1)。さらに、L-プロリン生産菌およびL-プロリン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、細菌の細胞からのL-アミノ酸の排出を担うタンパク質をコードする遺伝子の1種またはそれ以上遺伝子の発現が増強された株
も挙げられる。このような遺伝子の例としては、b2682遺伝子及びb2683遺伝子(ygaZH遺
伝子)(EP1239041 A2)が挙げられる。
【0110】
L-プロリン生産能を有するEscherichia属に属する細菌としては、NRRL B-12403及びNRRL B-12404(英国特許第2075056号)、VKPM B-8012(ロシア特許第2207371 C2号)、DE3127361 A1に記載のプラスミド変異株、Bloom F.R. et al “The 15th Miami winter symposium, 1983, p.34”に記載のプラスミド変異株等のE. coli株が挙げられる。
【0111】
<L-スレオニン生産菌>
L-スレオニン生産菌およびL-スレオニン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、1種またはそれ以上のL-スレオニン生合成系酵素の活性が増大した株が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、アスパルトキナーゼIII(lysC)
、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(asd)、アスパルトキナーゼI(thrA)、ホモセリンキナーゼ(homoserine kinase)(thrB)、スレオニンシンターゼ(threonine synthase)(thrC)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(アスパラギン酸
トランスアミナーゼ)(aspC)が挙げられる。これらの酵素の中では、アスパルトキナーゼIII、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ、アスパルトキナーゼI、ホモセリンキナーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、スレオニンシンターゼ等の1種またはそれ以上の酵素の活性を増強するのが好ましい。L-スレオニン生合成系遺伝子は、スレオニン分解が抑制された株に導入してもよい。スレオニン分解が抑制された株としては、例えば、スレオニンデヒドロゲナーゼ活性が欠損したE. coli TDH6株(特開2001-346578)が挙げられる。
【0112】
L-スレオニン生合成系酵素の活性は、最終産物のL-スレオニンによって阻害される。従って、L-スレオニン生産菌を構築するためには、L-スレオニンによるフィードバック阻害を受けないようにL-スレオニン生合成系遺伝子を改変するのが好ましい。上記thrA、thrB、thrC遺伝子は、スレオニンオペロンを構成しており、スレオニンオペロンは、アテニュエーター構造を形成している。スレオニンオペロンの発現は、培養液中のイソロイシン、スレオニンに阻害を受け、アテニュエーションにより抑制される。スレオニンオペロンの発現の増強は、アテニュエーション領域のリーダー配列あるいはアテニュエーターを除去することにより達成できる(Lynn S.P. et al., J. Mol. Biol., 1987, 194:59-69; WO02/26993; WO2005/049808; WO2003/097839)。
【0113】
スレオニンオペロンの上流には固有のプロモーターが存在するが、同プロモーターを非天然のプロモーターに置換してもよい(WO98/04715)。また、スレオニン生合成関与遺伝子がラムダファ-ジのリプレッサーおよびプロモーターの制御下で発現するようにスレオニンオペロンを構築してもよい(EP0593792B)。また、L-スレオニンによるフィードバック阻害を受けないように改変された細菌は、L-スレオニンアナログであるα-amino-
β-hydroxyisovaleric acid(AHV)に耐性な菌株を選抜することによっても取得できる。
【0114】
このようにL-スレオニンによるフィードバック阻害を受けないように改変されたスレオニンオペロンは、コピー数の上昇により、あるいは強力なプロモーターに連結されることにより、宿主内での発現量が向上しているのが好ましい。コピー数の上昇は、スレオニンオペロンを含むプラスミドを宿主に導入することにより達成できる。また、コピー数の上昇は、トランスポゾン、Muファージ等を利用して、宿主のゲノム上にスレオニンオペロンを転移させることによっても達成できる。
【0115】
また、L-スレオニン生産能を付与又は増強する方法としては、宿主にL-スレオニン耐性を付与する方法やL-ホモセリン耐性を付与する方法も挙げられる。耐性の付与は、例えば、L-スレオニンに耐性を付与する遺伝子、L-ホモセリンに耐性を付与する遺伝子の発現を強化することにより達成できる。耐性を付与する遺伝子としては、rhtA遺伝子(Livshits V.A. et al., Res. Microbiol., 2003, 154:123-135)、rhtB遺伝子(EP0994190A)、rhtC遺伝子(EP1013765A)、yfiK遺伝子、yeaS遺伝子(EP1016710A)が挙げられ
る。宿主にL-スレオニン耐性を付与する方法としては、EP0994190AやWO90/04636に記載の方法が挙げられる。
【0116】
L-スレオニン生産菌およびL-スレオニン生産菌を誘導するために使用できる親株として、具体的には、制限されないが、E. coli TDH-6/pVIC40(VKPM B-3996、米国特許第5,175,107号及び第5,705,371号)、E. coli 472T23/pYN7(ATCC 98081、米国特許第5,631,157号)、E. coli NRRL-21593(米国特許第5,939,307号)、E. coli FERM BP-3756(米国特許第5,474,918号)、E. coli FERM BP-3519及びFERM BP-3520(米国特許第5,376,538号)、E. coli MG442(Gusyatiner et al. (1978) Genetika (Russian), 14: 947-956)、E. coli VL643及びVL2055(EP1149911 A2)、E. coli VKPM B-5318(EP0593792 A1)等のEscherichia属に属する株が挙げられる。
【0117】
TDH-6株は、thrC遺伝子を欠損し、スクロース資化性であり、そのilvA遺伝子がリーキ
ー(leaky)変異を有する。この株は、また、rhtA遺伝子に、高濃度のスレオニンまたは
ホモセリンに対する耐性を付与する変異を有する。VKPM B-3996株は、プラスミドpVIC40
を保持する株であり、TDH-6株にプラスミドpVIC40を導入することにより得られたもので
ある。プラスミドpVIC40は、変異型thrA遺伝子を含むthrA*BCオペロンをRSF1010由来ベクターに挿入することにより得たものである。この変異型thrA遺伝子は、スレオニンによるフィードバック阻害が実質的に解除されたアスパルトキナーゼホモセリンデヒドロゲナーゼIをコードする。VKPM B-3996株は、1987年11月19日にAll-Union Scientific Center of Antibiotics(Russian Federation, 117105 Moscow, Nagatinskaya Street 3-A)に受
託番号RIA 1867で寄託されている。VKPM B-3996株は、1987年4月7日にRussian National Collection of Industrial Microorganisms(VKPM; 1st Dorozhny proezd., 1, Moscow 117545, Russian Federation)にも受託番号B-3996で寄託されている。
【0118】
B-5318株は、イソロイシン非要求性であり、プラスミドpVIC40中のスレオニンオペロンの制御領域が温度感受性ラムダファージC1リプレッサー及びPRプロモーターにより置換されている。VKPM B-5318株は、1990年5月3日にRussian National Collection of Industrial Microorganisms(VKPM)に受託番号VKPM B-5318で寄託されている。
【0119】
L-スレオニン生産菌またはL-スレオニン生産菌を誘導するために使用できる親株は、下記の遺伝子の1種またはそれ以上の発現が増強されるようにさらに改変されていても
よい:
- スレオニンによるフィードバック阻害に対して耐性のアスパルトキナーゼホモセリンデヒドロゲナーゼIをコードする変異型thrA遺伝子、
- ホモセリンキナーゼをコードするthrB遺伝子、
- スレオニンシンターゼをコードするthrC遺伝子;
- スレオニン及びホモセリン排出系の推定膜貫通型タンパク質をコードするrhtA遺伝子、
- アスパルテート-β-セミアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードするasd遺伝子、
- アスパルテートアミノトランスフェラーゼ(アスパルテートトランスアミナーゼ)をコードするaspC遺伝子。
【0120】
E. coliのアスパルトキナーゼI-ホモセリンデヒドロゲナーゼIをコードするthrA遺伝子は明らかにされている(KEGG、Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes、エントリーNo. b0002、GenBank accession No. NC_000913.2、ヌクレオチド位置337~2,799、Gene ID
945803)。thrA遺伝子は、E. coli K-12の染色体においてthrL遺伝子とthrB遺伝子との
間に位置する。
【0121】
E. coliのホモセリンキナーゼをコードするthrB遺伝子は明らかにされている(KEGG、
エントリーNo. b0003、GenBank accession No. NC_000913.2、ヌクレオチド位置2,801~3,733、Gene ID 947498)。thrB遺伝子は、E. coli K-12の染色体においてthrA遺伝子とthrC遺伝子との間に位置する。
【0122】
E. coliのスレオニンシンターゼをコードするthrC遺伝子は明らかにされている(KEGG
、エントリーNo. b0004、GenBank accession No. NC_000913.2、ヌクレオチド位置3,734
~5,020、Gene ID 945198)。thrC遺伝子は、E. coli K-12株の染色体においてthrB遺伝
子とyaaX遺伝子との間に位置する。これらの3つの遺伝子全部が、単一のスレオニンオペロンthrABCとして機能する。スレオニンオペロンの発現を増強するためには、転写に影響するアテニュエーター領域をオペロンから除去することが望ましい(WO2005/049808 A1、WO2003/097839 A1)。
【0123】
スレオニンによるフィードバック阻害に対して耐性のアスパルトキナーゼI-ホモセリンデヒドロゲナーゼIをコードする変異型thrA遺伝子、ならびにthrB遺伝子及びthrC遺伝子
は、E. coliスレオニン生産株VKPM B-3996に存在する周知のプラスミドpVIC40から単一のオペロンとして取得できる。プラスミドpVIC40の詳細は、米国特許第5,705,371号に記載
されている。
【0124】
E. coliのスレオニン及びホモセリン排出系(内膜輸送体)のタンパク質をコードするrhtA遺伝子は明らかにされている(KEGG、エントリーNo. b0813、GenBank accession No. NC_000913.2、ヌクレオチド位置848,433~849,320、相補鎖、Gene ID 947045)。rhtA遺
伝子は、E. coli K-12株の染色体上、グルタミン輸送系の要素をコードするglnHPQオペロン近くのdps及びompX遺伝子の間に位置する。rhtA遺伝子はybiF遺伝子(KEGG、エントリ
ーNo. B0813)と同一である。
【0125】
E. coliのアスパルテート-β-セミアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードするasd遺伝子は明らかにされている(KEGG、エントリーNo. b3433、GenBank accession No. NC_000913.2、ヌクレオチド位置3,571,798~3,572,901、相補鎖、Gene ID947939)。asd遺伝子は、E. coli K-12株の染色体上、同じ鎖上に位置するglgB及びgntU遺伝子の間に位置する(yhgN遺伝子は反対鎖上)。
【0126】
また、E. coliのアスパルテートアミノトランスフェラーゼをコードするaspC遺伝子は
明らかにされている(KEGG、エントリーNo. b0928、GenBank accession No. NC_000913.2、ヌクレオチド位置983,742~984,932、相補鎖、Gene ID 945553)。aspC遺伝子は、E. coli K-12の染色体上、反対鎖上のycbL遺伝子と同一鎖上のompF遺伝子との間に位置している。
【0127】
<L-トリプトファン生産菌>
L-トリプトファン生産菌およびL-トリプトファン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、制限されないが、変異型trpS遺伝子にコードされるトリプトファニル-tRNAシンテターゼを欠損したE. coli JP4735/pMU3028(DSM10122)及びJP6015/pMU91(DSM10123)(米国特許第5,756,345号)、セリンによるフィードバック阻害を受けないホスホグリセリレートデヒドロゲナーゼをコードするserAアレル及びトリプトファンによるフィードバック阻害を受けないアントラニレートシンターゼをコードするtrpEアレルを有するE. coli SV164(pGH5)(米国特許第6,180,373 B1号)、酵素トリプトファナーゼを欠損す
るE. coli AGX17(pGX44)(NRRL B-12263)及びAGX6(pGX50)aroP(NRRL B-12264)(米国
特許第4,371,614号)、ホスホエノールピルビン酸生産能が増強されたE. coli AGX17/pGX50,pACKG4-pps(WO97/08333、米国特許第6,319,696 B1号)等のEscherichia属に属する株が挙げられる。L-トリプトファン生産菌およびL-トリプトファン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、yedA遺伝子またはyddG遺伝子によりコードされるタンパク
質の活性が増強されたEscherichia属に属するL-トリプトファン生産菌も挙げられる(
米国特許出願公開第2003148473 A1号及び第2003157667 A1号)。
【0128】
L-トリプトファン生産菌およびL-トリプトファン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、アントラニレートシンターゼ、ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ、トリプトファンシンターゼの1種またはそれ以上の活性が増強された株も挙げられる。アントラニレートシンターゼ及びホスホグリセレートデヒドロゲナーゼは共にL-トリプトファン及びL-セリンによるフィードバック阻害を受けるので、フィードバック阻害を解除する変異をこれらの酵素に導入してもよい。そのような変異を有する株の具体例としては、フィードバック阻害が解除されたアントラニレートシンターゼを保持するE. coli SV164、及びフィードバック阻害が解除されたホスホグリセレートデヒドロゲナーゼをコー
ドする変異型serA遺伝子を含むプラスミドpGH5(WO94/08031 A1)をE. coli SV164に導入することにより得られた形質転換株が挙げられる。
【0129】
L-トリプトファン生産菌およびL-トリプトファン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、阻害解除型アントラニレートシンターゼをコードする遺伝子を含むトリプトファンオペロンが導入された株(特開昭57-71397号、特開昭62-244382号、米国特許
第4,371,614号)も挙げられる。さらに、トリプトファンオペロン(trpBA)中のトリプトファンシンターゼをコードする遺伝子の発現を増強することによりL-トリプトファン生産能を付与してもよい。トリプトファンシンターゼは、それぞれtrpA及びtrpB遺伝子によりコードされるα及びβサブユニットからなる。さらに、イソシトレートリアーゼ-マレ
ートシンターゼオペロンの発現を増強することによりL-トリプトファン生産能を改良してもよい(WO2005/103275)。
【0130】
<L-バリン生産菌>
L-バリン生産菌およびL-バリン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、制限されないが、ilvGMEDAオペロンを過剰発現するように改変された株(米国特許第5,998,178号)が挙げられる。ilvGMEDAオペロン中のアテニュエーションに必要な領域を除去
し、生産されるL-バリンによりオペロンの発現が減衰しないようにすることが望ましい。さらに、オペロン中のilvA遺伝子が破壊され、スレオニンデアミナーゼ活性が減少していることが望ましい。
【0131】
L-バリン生産菌およびL-バリン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、アミノアシルt-RNAシンテターゼに変異を有する変異株(米国特許第5,658,766号)も挙げられる。そのような株の例としては、イソロイシンtRNAシンテターゼをコードするileS遺伝子に変異を有するE. coli VL1970が挙げられる。E. coli VL1970は、1988年6月24日に
、Russian National Collection of Industrial Microorganisms(VKPM; 1st Dorozhny proezd., 1, Moscow 117545, Russian Federation)に、受託番号VKPM B-4411で寄託され
ている。
【0132】
さらに、増殖にリポ酸を要求し、且つ/又は、H+-ATPアーゼを欠損している変異株もL-バリン生産菌またはその親株として用いることができる(WO96/06926 A1)。
【0133】
L-バリン生産菌およびL-バリン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、E. coli H81株(VKPM B-8066、例えばEP1942183 B1参照)、E. coli NRRL B-12287及びNRRL B-12288(米国特許第4,391,907号)、E. coli VKPM B-4411(米国特許5,658,766号)
、E. coli VKPM B-7707(EP1016710 A2)なども挙げられる。
【0134】
L-アミノ酸生産菌の育種に用いられる遺伝子およびタンパク質は、例えば、上記例示した遺伝子およびタンパク質の公知の塩基配列およびアミノ酸配列をそれぞれ有していて
よい。また、L-アミノ酸生産菌の育種に用いられる遺伝子およびタンパク質は、元の機能(例えば、タンパク質の場合はそれぞれの酵素活性)が維持されている限り、上記例示した遺伝子およびタンパク質のバリアント(例えば、そのような公知の塩基配列およびアミノ酸配列を有する遺伝子およびタンパク質のバリアント)であってもよい。遺伝子およびタンパク質のバリアントについては、本明細書に記載のPAP、IMP、およびOMPタンパク
質およびそれらをコードする遺伝子のバリアントについての記載を準用できる。
【0135】
「細菌がペリプラズムアダプタータンパク質をコードする遺伝子を過剰発現するように改変された」の用語は、改変された細菌において、非改変株(例えば、野生株または親株)と比較して、対応する遺伝子タンパク質産物(例えば、PAP)の総量および/または総
活性が増加する(すなわち、より高くなる)ように、あるいはPAPをコードする遺伝子の
発現レベル(すなわち発現量)が増加する(すなわち、より高くなる)ように、細菌が改変されていることを意味し得る。上記比較のための対照となり得る非改変株としては、腸内細菌科に属する細菌の野生株(例えば、E. coli W3110株(ATCC 27325)、E. coli MG1655株(ATCC 47076)、P. ananatis AJ13355株(FERM BP-6614)、P. ananatis SC17(FERM BP-11091)等)等が挙げられる。
【0136】
すなわち、「ペリプラズムアダプタータンパク質をコードする遺伝子が過剰発現する」の用語は、非改変株と比較して、対応する遺伝子産物(例えば、PAP)の総量および/ま
たは総活性が増加する(すなわち、より高くなる)ことを意味し得る。対応する遺伝子産物(例えば、PAP)の総量および/または総活性は、例えば、遺伝子の発現レベルを非改
変細菌株と比較して増加させる(すなわち増強する)ことにより、または遺伝子にコードされるタンパク質の分子あたりの活性(比活性ともいう)を非改変株(例えば、野生株または親株)と比較して増加させることにより、増加し得る。タンパク質の総量または総活性の増加は、例えば、細胞当たりのタンパク質の量または活性(これは細胞当たりのタンパク質の平均量または平均活性であってよい)の増加として測定され得る。細菌は、細胞あたりのPAPの量および/または活性が、非改変株における量および/または活性の150%
以上、200%以上、または300%以上に増加するように改変され得る。
【0137】
「ペリプラズムアダプタータンパク質をコードする遺伝子が過剰発現する」の用語は、非改変株と比較して、PAPをコードする遺伝子の発現レベル(すなわち発現量)が増加す
る(すなわち、より高くなる)ことも意味し得る。従って、「ペリプラズムアダプタータンパク質をコードする遺伝子が過剰発現する」の用語は、「ペリプラズムアダプタータンパク質をコードする遺伝子の発現が増強される、または増加する」の用語または「ペリプラズムアダプタータンパク質をコードする遺伝子の発現レベルが増強される、または増加する」の用語と代替可能または同等に用いられ得る。遺伝子の発現レベルの増加は、例えば、細胞当たりの遺伝子の発現レベル(これは細胞当たりの遺伝子の平均発現レベルであってよい)の増加として測定され得る。「遺伝子の発現レベル」または「遺伝子の発現量」の用語は、例えば、遺伝子の発現産物の量(例えば、同遺伝子のmRNAの量または同遺伝子にコードされるタンパク質の量)を意味し得る。細菌は、例えば、細胞あたりのペリプラズムアダプタータンパク質をコードする遺伝子の発現レベルが、非改変株における発現レベルの150%以上、200%以上、または300%以上に増加するように改変されてよい。
【0138】
ペリプラズムアダプタータンパク質をコードする遺伝子等の遺伝子の発現を増強するために使用できる方法としては、制限されないが、遺伝子のコピー数、例えば、細菌ゲノム(すなわち染色体)における遺伝子のコピー数および/または細菌に保持された自律複製するベクター(例えばプラスミド)における遺伝子のコピー数、を増加させる方法が挙げられる。遺伝子のコピー数は、例えば、遺伝子を細菌の染色体に導入すること、および/または、遺伝子を含む自律複製するプラスミドを細菌に導入することにより、増加させることができる。そのような遺伝子のコピー数の増加は、当業者に周知の遺伝子工学的手法
により実施できる。
【0139】
腸内細菌科の細菌で使用できるベクターとしては、制限されないが、条件付き複製ベクター(例えば、pAH162ベクター等のR6K(oriRγ)起点で複製するベクター等)、狭宿主
域プラスミド(例えばpMW118/119、pBR322、pUC19等)、広宿主域プラスミド(RSF1010、RP4等)が挙げられる。PAPをコードする遺伝子は、例えば、相同組み換えまたはMuドリブンインテグレーション等によって細菌の染色体DNAに導入することもできる。PAPをコードする遺伝子は、1コピーのみ導入されてもよく、2コピーまたはそれ以上導入されてもよい。例えば、染色体DNA中に複数のコピーが存在する塩基配列をターゲットとして相同組
み換えを実施することにより、染色体DNAに複数コピーのPAPをコードする遺伝子を導入することができる。染色体DNA中に複数のコピーが存在する塩基配列としては、制限されな
いが、レペティティブDNAや転移因子の末端に存在するインバーテッドリピートが挙げら
れる。さらに、遺伝子をトランスポゾンに組み込んで転移させることにより、染色体DNA
に複数コピーの遺伝子を導入することができる。染色体DNAに複数コピーの遺伝子を導入
するためには、染色体間増幅法を使用できる。Mu-driven転移により、3コピーより多い
遺伝子を受容株の染色体DNAに1ステップで導入できる(Akhverdyan et al. (2007) Biotechnol. (Russian), 3: 3-20)。
【0140】
本明細書に記載の細菌に導入される遺伝子は、プロモーターの下流に接続できる。プロモーターは、宿主細菌において機能するものが選択される限り特に制限されず、宿主細菌由来のプロモーターであってもよく、異種由来のプロモーターであってもよい「宿主細菌において機能するプロモーター」の用語は、宿主細菌においてプロモーター活性を有するプロモーターを意味し得る。腸内細菌科の細菌において機能するプロモーターとして、具体的には、制限されないが、下記例示する強力なプロモーターが挙げられる。
【0141】
PAPをコードする遺伝子等の遺伝子の発現を増強するために使用できる方法としては、
遺伝子の発現制御領域を改変することにより、遺伝子の発現レベルを増加させる方法が挙げられる。遺伝子の発現制御領域の改変は、遺伝子のコピー数の増加と組み合わせて採用できる。遺伝子の発現制御領域は、例えば、遺伝子の生来の発現制御領域を生来(native)の及び/又は改変された外来の発現制御領域で置換することにより、改変することができる。「発現制御領域」の用語は、「発現制御配列」の用語と代替可能または同等に用いられ得る。PAPをコードする遺伝子はオペロン構造に編成されてもよいため、同遺伝子の
発現を増強するために使用できる方法は、オペロンの発現制御領域の改変により同遺伝子を含むオペロンの発現レベルを増加させることも含み、改変は、例えば、オペロンの生来の発現制御領域を生来(native)の及び/又は改変された外来の発現制御領域で置換することにより実施できる。この方法では、PAPをコードする遺伝子を含む2つまたはそれ以
上の遺伝子の発現を同時に増強することができる。
【0142】
発現制御領域としては、プロモーター、エンハンサー、オペレーター、アテニュエーターと終結シグナル、抗終結シグナル、リボソーム結合部位(RBS)、及びその他の発現制
御エレメント(例えば、リプレッサーまたはアクチベーターが結合する領域、及び/又は、例えば転写されたmRNA中の転写及び翻訳の制御タンパク質の結合部位)が挙げられる。このような制御領域は、例えば、公知の文献(例えば、Sambrook J., Fritsch E.F. and Maniatis T., “Molecular Cloning: A Laboratory Manual”, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989); Pfleger et al., (2006) Nat. Biotechnol., 24: 1027-1032; Mutalik et al. (2013) Nat. Methods, 10: 354-360)に記載されている。遺伝子
の発現制御領域の改変は、遺伝子のコピー数の増加と組み合わせることができる(例えば、Akhverdyan et al. (2011) Appl. Microbiol. Biotechnol., 91: 857-871; Tyo et al.
(2009) Nature Biotechnol., 27: 760-765を参照)。
【0143】
PAPをコードする遺伝子の発現を増強するのに適したプロモーターとしては、強力なプ
ロモーターが挙げられる。「強力なプロモーター」の用語は、PAPをコードする遺伝子の
生来のプロモーターより強いプロモーターを意味し得る。腸内細菌科の細菌において機能する強力なプロモーターとしては、制限されないが、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、tetプロモーター、araBADプロモーター、rpoHプ
ロモーター、msrAプロモーター、Pm1プロモーター(Bifidobacterium属由来)、Pnlp8プ
ロモーター(WO2012/137689)、およびラムダ(λ)ファージのPRまたはPLプロモーター
が挙げられる。強力なプロモーターとしては、各種レポーター遺伝子を用いることにより、在来のプロモーターの高活性型のものを取得してもよい。例えば、プロモーター領域内の-35および-10領域をコンセンサス配列に近づけることにより、プロモーターの強度を高めることができる(WO0018935 A1)。プロモーターの強度は、RNA合成の開始作用の頻度
により定義され得る。プロモーターの強度の評価法および強力なプロモーターの例は、Goldstein M.A. et al.の論文(Prokaryotic promoters in biotechnology. Biotechnol. Annu. Rev., 1, 105-128 (1995))等に記載されている。細菌(例えば、腸内細菌科の細菌等)において高いレベルの遺伝子発現を与える強力なプロモーターを使用できる。あるいは、プロモーターの効果は、例えば、PAPをコードする遺伝子のプロモーター領域に変異
を導入してより強いプロモーター機能を得ることにより増強することができ、以て、該プロモーターの下流に位置するPAPをコードする遺伝子の転写レベルを増加させることがで
きる。さらに、シャイン・ダルガルノ(SD)配列、及び/又はSD配列と開始コドンの間のスペーサー、及び/又はリボソーム結合部位中の開始コドンの直ぐ上流または下流の配列における数個のヌクレオチドの置換がmRNAの翻訳効率に大きく影響することが知られている。よって、これらの領域は、遺伝子の発現制御領域の一例であり得る。例えば、開始コドンに先行する3つのヌクレオチドの性質に依存して、20倍の範囲の発現レベルが見出さ
れている(Gold et al. (1981) Annu. Rev. Microbiol., 35: 365-403; Hui A. et al. (1984) EMBO J., 3: 623-629)。
【0144】
上述したPAPをコードする遺伝子の過剰発現に関する記載は、IMPをコードする遺伝子およびOMPをコードする遺伝子、ならびに他の任意の遺伝子、例えば、yibH遺伝子やL-ア
ミノ酸生合成経路の酵素をコードする遺伝子にも準用できる。
【0145】
遺伝子を不活化するために使用できる方法としては、改変された遺伝子が、生来(native)のタンパク質をコードする遺伝子と比較して、完全に不活性または機能しないタンパク質をコードするか、改変されたDNA領域が、遺伝子の一部の欠損もしくは遺伝子全体の
欠損、遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸置換をもたらす1塩基以上の置換(ミス
センス変異)、終止コドンの導入(ナンセンス変異)、遺伝子のリーディングフレームシフトをもたらす1塩基または2塩基の欠失、薬剤耐性遺伝子および/もしくは転写終結シグナルの挿入、または遺伝子の隣接領域(プロモーター、エンハンサー、アテニュエーター、リボソーム結合部位等の遺伝子発現を制御する配列を含む)の改変により、自然には遺伝子を発現できないように、遺伝子改変を導入する方法が挙げられる。遺伝子の不活化は、例えば、紫外線照射またはニトロソグアニジン(N-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグア
ニジン)を用いた変異処理、部位特異的変異導入、相同組み換えを用いた遺伝子破壊、および/または「Red/ET-driven integration」または「λRed/ET-mediated integration」に基づく挿入-欠失変異導入(Yu D. et al. (2000) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97(11): 5978-5983; Datsenko et al. (2000) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97(12): 6640-6645; Zhang et al. (1998) Nature Genet., 20: 123-128)等の常法により実施できる。
【0146】
遺伝子のコピー数または遺伝子の存在あるいは不在は、例えば、染色体DNAを制限処理
した後、遺伝子配列に基づいたプローブを使用するサザンブロッテイング、または蛍光in
situハイブリダイゼーション(FISH)等を行うことにより、測定することができる。遺
伝子発現のレベルは、ノーザンブロッティングや定量的RT-PCR等の様々な周知の方法を使
用して遺伝子から転写されたmRNAの量を測定することにより決定することができる。遺伝子によってコードされるタンパク質の量は、SDS-PAGEと、その後の免疫ブロッティング(ウェスタンブロッティング)やタンパク質試料の質量分析等の公知の方法により測定することができる。
【0147】
プラスミドDNAの調製、DNAの切断、DNAの結合、DNAの形質転換、プライマーとしてのオリゴヌクレオチドの選択、変異の導入等の、DNAの組み換え分子の操作及び分子クローニ
ングのための方法は、当業者に周知の通常の方法であってよい。そのような方法は、例えば、Sambrook J., Fritsch E.F. and Maniatis T., “Molecular Cloning: A Laboratory
Manual”, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)またはGreen M.R. and Sambrook J.R., “Molecular Cloning: A Laboratory Manual”, 4th ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012); Bernard R. Glick, Jack J. Pasternak and Cheryl L. Patten, “Molecular Biotechnology: principles and applications of recombinant DNA”, 4th ed., Washington, DC, ASM Press (2009)に記載されている。
【0148】
組み換えDNAを用いた操作法としては、例えば、形質転換、トランスフェクション、感
染、接合、可動等の従来の方法を含め、任意の方法を用いることができる。タンパク質をコードするDNAを用いた細菌の形質転換、トランスフェクション、感染、接合、または可
動により、当該細菌に当該DNAによりコードされるタンパク質を合成する能力を付与する
ことができる。形質転換、トランスフェクション、感染、接合、および可動の方法としては、任意の方法が挙げられる。例えば、効率的なDNAの形質転換およびトランスフェクシ
ョンのために、E. coliK-12の細胞のDNAに対する透過性が高まるように受容細胞を塩化カルシウムで処理する方法が報告されている(Mandel et al. (1970) J. Mol. Biol., 53: 159-162)。特殊化および/または一般化された形質転換の方法が記載されている(Morse
et al. (1956) Genetics, 41(1): 142-156; Miller J.H., Experiments in Molecular Genetics. Cold Spring Harbor, N.Y.: Cold Spring Harbor La. Press, 1972)。宿主微
生物へのDNAのランダムおよび/または標的化された組み込みのための他の方法、例えば
、「Mu-driven integration/amplification」(Akhverdyan V.Z. et al. (2011))、「Red/ET-driven integration」または「λRed/ET-mediated integration」(Datsenko et al. (2000); Zhang et al. (1998) Nature Genet., 20: 123-128)、を適用できる。さらに、所望の遺伝子の多重挿入のためには、Mu駆動の複製的転移(Akhverdyan V.Z. et al. (2011))や所望の遺伝子の増幅をもたらすrecA依存性相同組み換えに基づく化学的に誘導
可能な染色体進化(Tyo et al. (2009))に加えて、転移、部位特異的および/または相
同的なRed/ETを介した組み換え、および/またはP1を介した一般化形質導入の種々の組み合わせを利用する他の方法(例えば、Minaeva et al. (2008) BMC Biotechnology, 8: 63; Koma et al. (2012) Appl. Microbiol. Biotechnol., 93(2): 815-829を参照のこと)
を利用できる。
【0149】
タンパク質または核酸に言及する際の「固有の(native to)」の用語は、タンパク質
または核酸が特定の種(例えば、哺乳類、植物、昆虫、細菌、またはウイルス等)に固有であることを意味し得る。すなわち、特定の種に固有のタンパク質または核酸は、それぞれ、当該種に天然に存在するタンパク質または核酸を意味し得る。特定の種に固有のタンパク質または核酸は、当該種から単離でき、当業者に知られた方法により配列解析できる。さらに、タンパク質または核酸が存在する種からそれぞれ単離されたタンパク質または核酸のアミノ酸配列または塩基配列は容易に決定することができるので、タンパク質または核酸に言及する際の「固有の」の用語は、得られるタンパク質または核酸のアミノ酸配列または塩基配列が当該種に天然に存在する、天然に発現する、且つ/又は天然に製造されるタンパク質または核酸のアミノ酸配列または塩基配列と同一である限り、任意の手段、例えば、組み換えDNA技術を含む遺伝子工学的手法または化学合成法等、により得られ
るタンパク質または核酸も意味し得る。特定の種に固有のアミノ酸配列としては、限定さ
れるものではないが、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド(タンパク質、具体的には酵素、を含む)等が挙げられる。特定の種に固有の塩基配列としては、デオキシリボ核酸(DNA)やリボ核酸(RNA)が挙げられ、具体的には、限定されるものではないが、プロモーター、アテニュエーター、ターミネーター等を含む発現調節配列、遺伝子、遺伝子間配列、シグナルペプチド、タンパク質のプロ部位、人工アミノ酸配列をコードする配列等が挙げられる。アミノ酸配列および塩基配列ならびに各種生物に固有のそれらのホモログは本明細書に記載されており、これらの例としては、配列番号2に示すアミノ酸配列を有
するYibHタンパク質(これは、E. coli種の細菌に固有であり得るものであり、配列番号1に示す塩基配列を有するyibH遺伝子にコードされ得る)。
【0150】
遺伝子(例えば、「非改変遺伝子」)およびタンパク質(例えば、「非改変タンパク質」)について言及する際の「非改変(non-modified)」の用語(これは、「生来(native)」、「天然(natural)」、および「野生型(wild-type)」の用語と代替可能または同等に用いられ得る)は、それぞれ、生物に、具体的には、細菌の非改変株に、天然に存在する、天然に発現する、且つ/又は天然に製造される生来の遺伝子およびタンパク質を意味し得る。そのような生物としては、対応する遺伝子またはタンパク質を有する任意の生物が挙げられ、具体的には、例えば、E. coli W3110株、E. coli MG1655株、P. ananatis
13355株等の腸内細菌科に属する細菌が挙げられる。非改変遺伝子は、非改変タンパク質をコードし得る。
【0151】
細菌は、上記のような性質に加えて、様々な栄養要求性、薬物耐性、薬物感受性、薬物依存性等の特定の性質を有することができる。
【0152】
方法
本明細書に記載の方法は、本明細書に記載の細菌を用いてL-アミノ酸を製造する方法を含み得る。L-アミノ酸を製造する方法は、前記細菌を培地で培養してL-アミノ酸を培地もしくは細菌菌体、またはその両者中に生成させ、排出もしくは分泌させ、且つ/又は蓄積させる工程と、培地及び/又は細菌菌体からL-アミノ酸を回収する工程を含み得る。L-アミノ酸は、フリー体、もしくはその塩、またはそれらの混合物として製造され得る。例えば、L-アミノ酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等の塩または両性イオン等の分子内塩が、前記方法により製造され得る。これは、アミノ酸が発酵条件下で、互いに、あるいは無機または有機の酸またはアルカリ性物質等の中和剤と、典型的な酸塩基中和反応により反応して塩を生成し得ることから可能であり、これは当業者に明らかなアミノ酸の化学的特徴である。また、L-アミノ酸は、跡えば、他の有機または無機成分との付加体として製造され得る。具体的には、L-リジンの一塩酸塩(L-リジン×HCl)またはL-アルギニンの一塩酸塩(L-アルギニン×HCl)等のL-アミノ酸の一塩酸塩が、前記方法により製造され得る。
【0153】
細菌の培養、ならびに培地等からのL-アミノ酸の回収および任意で精製は、微生物を使用してL-アミノ酸を製造する従来の発酵法と同様に実施することができる。すなわち、細菌の培養、ならびに培地等からのL-アミノ酸の回収および精製は、当業者に周知の、細菌の培養に適した条件ならびにL-アミノ酸の回収および精製に適した条件を適用することにより実施してよい。
【0154】
使用される培地は、少なくとも炭素源を含有し、且つ本明細書に記載の細菌が増殖してL-アミノ酸を生産できる限り、特に制限されない。L-アミノ酸の製造のための培地は、炭素源、窒素源、硫黄源、リン源、無機イオン、並びにその他の有機及び無機成分を必要に応じて含む典型的な培地等の、合成培地あるいは天然培地でよい。炭素源としては、グルコース、シュクロース、ラクトース、ガラクトース、フルクトース、アラビノース、マルトース、キシロース、トレハロース、リボース、澱粉加水分解物等の糖類、エタノー
ル、グリセロール、マンニトール、ソルビトール等のアルコール、グルコン酸、フマル酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸等の有機酸、および脂肪酸等を使用することができる。窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物等の有機窒素、アンモニアガス、およびアンモニア水等を使用することができる。さらに、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、麦芽エキス、およびコーンスティープリカー等も使用することができる。培地は、これらの窒素源の1種また
はそれ以上を含むことができる。硫黄源としては、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウム、硫化ナトリウム、硫化アンモニウム等が挙げられる。培地は、炭素源、窒素源、及び硫黄源に加えて、リン源を含んでもよい。リン源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、ピロ燐酸等のリン酸ポリマー等を使用することができる。培地は、例えば、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ニコチン酸、ニコチンアミド等のビタミン;必
要物質、例えばアデニン、RNA等の核酸や、アミノ酸;それらを含む有機成分、例えば、
ペプトン、トリプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆タンパク質分解物;等の他の各種有機および無機成分を含有し得るものであり、それらの成分は、適当量(痕跡量であってもよい)存在してよい。これら以外に、必要であれば、少量のリン酸カルシウム、鉄イオン、マンガンイオン等を加えてもよい。その他の有機及び無機成分としては、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を組み合わせて用いてもよい。また、生育にアミノ酸等を要求する栄養要求性株を用いる場合、要求される栄養素を培地に補填するのが好ましい。
【0155】
培養は、L-アミノ酸を製造する方法で使用される細菌の培養に適した条件で実施することができる。例えば、培養は、好気的条件下で16~72時間、または24~68時間実施することができる。培養中の培養温度は、30~45℃、または30~37℃の範囲内に制御することができる。pHは、5~8の間、または6~7.5の間に調節することができる。pHは、アンモニアガスに加えて、無機もしくは有機の酸性またはアルカリ性物質を使用することにより調節することができる。
【0156】
培養後、培地からL-アミノ酸を回収することができる。具体的には、菌体外に存在するL-アミノ酸を培地から回収することができる。また、培養後、細菌の菌体からL-アミノ酸を回収することができる。具体的には、菌体を破砕し、菌体や菌体破砕懸濁物(細胞デブリともいう)等の固形分を除去して上清を取得し、上清からL-アミノ酸を回収することができる。菌体の破砕は、例えば、高周波音波等を用いて実施することができる。固形分の除去は、例えば、遠心分離または膜ろ過により実施することができる。培地や上清等からのL-アミノ酸の回収は、例えば、濃縮、晶析、膜処理、イオン交換クロマトグラフィー、フラッシュクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等の慣用の技術により実施することができる。これらの方法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて使用してよい。
【実施例
【0157】
下記の非限定的な実施例を参照して本発明をより正確に説明する。
【0158】
実施例1 E. coliのL-ヒスチジン生産株EA92 cat-Ptac-SD1-yibIHの構築
yibIHオペロンの本来のプロモーターを、「Red-driven integration」と呼ばれるDatsenkoとWannerが開発した方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97(12), 6640-6645 (2000)
)を用いてPtacプロモーター(Mashko et al. (2001) Biotechnologiya (Russian), 5: 3-20)で置換した。この手順に従って、PCRプライマーP1(配列番号19)およびP2(配列番号20)(これらは、鋳型染色体中のyibIHオペロンの制御領域とクロラムフェニコール耐
性を付与する遺伝子(CmR)の両方に相同性がある)を構築した。E. coli MG1655 cat-Ptac-lacZ株(Mashko et al. (2001) Biotechnologiya (Russian), 5; 3-20)の染色体DNA
をPCR反応の鋳型として使用した。また、SD1配列をプライマーP1に含めた。PCRの条件は
以下の通りである:95℃で5分の変性;95℃で30秒、55℃で30秒、72℃で4分の最後の30サイクルのプロファイル;72℃で10分の最終ステップ。
【0159】
増幅されたDNA断片のサイズは約1.8 kbp(配列番号21)であり、アガロースゲル電気泳動で精製し、温度感受性複製起点を有するプラスミドpKD46を含むE. coli MG1655(ATCC 47076)株のエレクトロポレーションに使用した。プラスミドpKD46(Datsenko et al. (2000) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97(12): 6640-6645)は、ファージλ(GenBank accession No. J02459)の2,154ヌクレオチドのDNA断片(31088-33241)を含み、アラビノー
ス誘導性のParaBプロモーターの制御下にあるλRed相同組み換え系の遺伝子(γ遺伝子、β遺伝子、およびexo遺伝子)を含む。プラスミドpKD46は、PCR産物をE. coli MG1655株
の染色体に組み込むために必要である。
【0160】
エレクトロコンピテントセルは、以下のようにして調製した。E. coli MG1655/pKD46をアンピシリン(100 mg/L)を含むLB培地で30℃で一晩培養し、培養液をアンピシリンおよびL-アラビノース(1 mM)を含むSOB培地(Sambrook et al, “Molecular Cloning A Laboratory Manual, Second Edition”, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))5 mLで100倍に希釈した。得られた培養液を30℃で通気しながらOD600が約0.6になるまで
培養した後、100倍に濃縮し、氷冷した脱イオン水で3回洗浄することでエレクトロコンピテント化した。エレクトロポレーションは、70 μLの細胞と約100 ngのPCR産物を用いて
実施した。エレクトロポレーション後、細胞を1 mLのSOC培地(Sambrook et al, “Molecular Cloning A Laboratory Manual, Second Edition”, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))を用いて37℃で2.5時間インキュベートした後、溶原ブロス(Sambrook and Russell, 2001 Ref.: Sambrook, J., Russell, D.W., 2001. Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3rd ed.). Cold Spring Harbor Laboratory Press)、寒天1.5%、
およびクロラムフェニコール40 mg/Lを含むプレートにプレーティングし、37℃で培養し
てCmR組み換え体を選択した。次に、pKD46プラスミドを除去するために、クロラムフェニコール(Cm)を添加したL-寒天上で42℃で2回継代を行い、得られたコロニーのアンピ
シリン(Amp)に対する感受性を調べた。
【0161】
yibIHオペロンの上流にCm耐性遺伝子で標識されたPtacプロモーターを有する変異体をPCRで確認した。確認のためのPCRには、プライマーP3(配列番号22)およびP4(配列番号23)を使用した。PCR確認の条件は以下の通りである:95℃で5分の変性;95℃で30秒、56
℃で30秒、72℃で2分10秒の30サイクルのプロファイル;72℃で10分の最終ステップ。親yibIH株であるE. coli MG1655の染色体DNAを鋳型とした反応で得られたPCR産物は、667 bpの長さであった(配列番号24)。変異体MG1655 cat-Ptac-SD1-yibIH株の染色体DNAを鋳型とした反応で得られたPCR産物は、2371 bpの長さであった(配列番号25)。
【0162】
MG1655 cat-Ptac-SD1-yibIH株をドナーとして、E. coliのL-ヒスチジン生産株EA92(下記参照)にcat-Ptac-SD1-yibIH発現カセットを導入した。このカセットは、E. coli MG
1655 cat-Ptac-SD1-yibIHで生育させたバクテリオファージP1を用いた通常のトランスダクション法により導入した。このようにして、E. coli EA92 cat-Ptac-SD1-yibIH株を構
築した。
【0163】
E. coli EA92は、以下のようにして構築した。
【0164】
E. coli EA92株は、E. coliのL-ヒスチジン生産株EA83(MG1655rph+ilvG15-[ΔpurR Phis-ΔhisL' hisGE271KDCBHAFI]-[(IS5.11)::(λ-attB) Ptac21-purApitA-]-[(λ-attB)
PL-purH])(Malykh et al. (2018) Microb. Cell Fact., 17(1): 42)を元に構築した
。aspC遺伝子を過剰発現するようにEA83株を改変し、以てEA92株を構築した。
【0165】
詳細には、λRed組み換えシステム(Datsenko et al. (2000))を用いて本来の調節領
域をλファージのPLプロモーターに置換することにより、aspC遺伝子の上流領域を改変した。プライマーP5(配列番号26)およびP6(配列番号27)を用いて、切り出し可能なcat
マーカーおよびaspC遺伝子の制御領域に相同な塩基配列を有するλRed組み換え用のPCR断片を構築した。染色体に導入されたPLプロモーターの存在は、プライマーP7(配列番号28)およびP8(配列番号29)を用いたPCRにより確認した。そうして、E. coli MG1655 cat-PL-aspC株を得た。この株をドナーとして用い、標準的なP1形質導入(Moore (2011) Methods Mol. Biol., 765: 155-169)により、EA83の染色体にcat-PL-aspC発現カセットを導
入した。切り出し可能なクロラムフェニコール耐性マーカー(CmRex)は、pMWts-λInt/Xisヘルパープラスミド(Minaeva et al. (2008))を用いたXis/Int部位特異的組み換えシステムによりE. coli染色体から除去した。このようにして、E. coli EA92株を得た。
【0166】
実施例2 E. coliのL-ヒスチジン生産株EA92 cat-Ptac-SD1-yibIH/pMIV-yeaSの構築
EA92 cat-Ptac-SD1-yibIH/pMIV-yeaS株を構築するため、通常のエレクトロポーション
法により、yeaS遺伝子を搭載するpMIV-yeaSプラスミド(US20100209977A1, EP2218729 B1)でEA92 cat-Ptac-SD1-yibIH株(実施例1)を形質転換した。このようにして、E. coli
EA92 cat-Ptac-SD1-yibIH/pMIV-yeaS株を構築した。対照株であるEA92/pMIV-yeaSは、EA92株を宿主として同一の手順で構築した。
【0167】
実施例3 E. coli株を用いたL-ヒスチジン生産
EA92/pMIV-yeaS株およびEA92 cat-Ptac-SD1-yibIH/pMIV-yeaS株(実施例2)を、L-
ヒスチジンの発酵生産能を比較する生産試験に供した。ストックチューブのEA92/pMIV-yeaSおよびEA92 cat-Ptac-SD1-yibIH/pMIV-yeaS株(25%グリセロールと0.9%NaClで-70℃で保存)を、必要に応じて抗生物質(Cm - 40 mg/L, Amp - 100 mg/L)を添加したL-寒天(yeast extract - 5 g/L, peptone - 10 g/L, NaCl - 5 g/L, agar - 15 g/L)にプレーティングし、37℃で一晩培養した。プレート表面約0.1 cm2の菌体を5 mLのL-ブロス
(tryptone - 10 g/L, yeast extract - 5 g/L, NaCl - 5 g/L)培地に接種し、30℃、240 rpmで20時間培養した。次いで、0.1 mLの得られた培養液を2 mLのL-ブロスに接種し
、30℃、240 rpmでOD(600 nm)が約0.6になるまで培養して、シード培養液を得た。次いで、0.1 mLのシード培養液を、内径23 mmの試験管(長さは全て200 mm)中の表1に示す2
mLの発酵培地に接種し、培養を開始した。培養は、240 rpmで撹拌しながら32℃で65時間、グルコースが消費されるまで実施した。
【0168】
【表1】
【0169】
培養後、蓄積したL-ヒスチジンを薄層クロマトグラフィー(TLC)で測定した。TLCプレート(10×20 cm)は、無蛍光指示薬を含むSorbfilシリカゲル(Sorbpolymer, Krasnodar, Russian Federation)の0.11 mmの層でコーティングした。サンプルは、Camag Linomat 5サンプルアプリケーターを用いてプレートに塗布した。Sorbfilプレートは、iso-propanol : acetone : 25% aqueous ammonia : water = 6 : 6 : 1.5 : 1 (v/v)からなる移
動相で展開した。ニンヒドリン(1%, w/v)のアセトン溶液を可視化試薬として用いた。
展開後、プレートを乾燥させ、Camag TLC Scanner 3を用いて、winCATSソフトウェア(バージョン1.4.2)により520 nmで検出する吸光度モードでスキャンした。
【0170】
2クローンについての独立した3回の試験管発酵の結果(平均値として)を表2に示す。表2から分かるように、E. coli EA92 cat-Ptac-SD1-yibIH/pMIV-yeaS株は、親株EA92/pMIV-yeaSと比較して、より多量のL-ヒスチジンを蓄積した。
【0171】
【表2】
【0172】
実施例4 pGL2-Ptac-SD1プラスミドの構築
pGL2-Ptac-SD1プラスミド(図1)を構築するために、pGL2プラスミド(これは、pSC101のori、φ80ファージのφ80-attP部位、およびλ-attL/attR部位で挟まれた切り出し可
能なCmRマーカーを有する;Hook C.D. et al. (2016) J. Microbiol. Methods, 130: 83-91)を出発材料として使用した。pGL2プラスミドを鋳型として、プライマーP9(配列番号30)およびP10(配列番号31)を用いたPCRにより、pGL2-Ptacの全体配列を含むDNA断片を得た。プライマーP10はPtacプロモーターの配列を含む。PCRの条件は以下の通りである:95℃で3分の変性;98℃で20秒、67℃で15秒、72℃で3分20秒の最後の30サイクルのプロファイル;72℃で5分の最終ステップ(KAPA HiFi HotStart ReadyMixPCR Kit, Roche)。得られたDNA断片を制限酵素NotIで消化してセルフライゲーションを実施し、pGL2m-Ptac
ラスミドを構築した。
【0173】
得られたpGL2-PtacプラスミドをpGL2-Ptac-SD1構築の出発物質として用いた。pGL2-Ptacプラスミドを鋳型として、プライマーP9(配列番号30)およびP11(配列番号32)を用いた次のラウンドのPCRにより、pGL2-Ptac-SD1の全体配列を含むDNA断片を得た。プライマ
ーP11はSD1配列を含む。PCRの条件は以下の通りである:95℃で3分の変性;98℃で20秒、68℃で15秒、72℃で3分20秒の最後の30サイクルのプロファイル;72℃で5分の最終ステップ(KAPA HiFi HotStart ReadyMixPCR Kit, Roche)。得られたDNA断片を制限酵素NotIで消化してセルフライゲーションを実施し、pGL2m-Ptac-SD1プラスミドを構築した。
【0174】
実施例5 pGL2-Ptac-SD1-yibHプラスミドの構築
pGL2-Ptac-SD1-yibH(配列番号33、図2)を構築するために、pKD46を介したλRed組み換えにより、yibH遺伝子(配列番号1)をpGL2-Ptac-SD1プラスミド(図1)上にin vivo
でクローニングした。pGL2-Ptac-SD1をNotI制限酵素で処理し、得られた直鎖状断片をア
ガロースゲルでの電気泳動により精製し、温度感受性複製起点を有するpKD46プラスミド
(Datsenko et al. (2000), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97(12): 6640-6645)を含むE. coli MG1655株にエレクトロポレーションした。構築されたプラスミドpGL2-Ptac-SD1-yibHを、選択可能なマーカーとしてクロラムフェニコール(Cm)を用いたプレート上で独
立して生育させたクローンの1つから得た。
【0175】
pGL2-Ptac-SD1-yibHプラスミド上のyibH遺伝子の存在をPCRにより確認した。プライマ
ーP12(配列番号34)およびP13(配列番号35)をyibH遺伝子の5'末端からのPCR確認に用
いた。プライマーP14(配列番号36)およびP15(配列番号37)をyibH遺伝子の3'末端からのPCR確認に用いた。pGL2-Ptac-SD1-yibHプラスミド(配列番号33、図2)のDNAを鋳型として用いた。5'末端からのPCR確認の条件は以下の通りである:95℃で3分の変性;95℃で30秒、53℃で30秒、72℃で30秒の30サイクルのプロファイル;72℃で5分の最終伸長。3'
末端からのPCR確認の条件は以下の通りである:95℃で3分の変性;95℃で30秒、56℃で30秒、72℃で50秒の30サイクルのプロファイル;72℃で5分の最終伸長。pGL2-Ptac-SD1-yibHプラスミド由来のDNAを鋳型とした反応で得られたPCR産物1および2は、所望の通り、そ
れぞれ、272 bpの長さ(配列番号38)および750 bpの長さ(配列番号39)であった。
【0176】
実施例6 E. coliMG1655 cat-PLtac-tolC株の構築
cat-PLtac-tolC発現カセットを構築するために、tolC遺伝子の上流領域を、本来の調節領域をλPLtacプロモーター(これは、λPLとλPtacプロモーターのハイブリッドである
(US2015203881 A1))で置換することにより改変した。切り出し可能なcatマーカーとそれを挟むtolC制御領域に相同な配列を含むλRed組み換え用のPCR断片を構築するために、プライマーP16(配列番号40)およびP17(配列番号41)を用いた。
【0177】
増幅されたDNA断片をアガロースゲル電気泳動で精製し、温度感受性複製起点を有する
プラスミドpKD46を含むE. coli MG1655株のエレクトロポレーションに用いた。エレクト
ロコンピテントセルは、前述のようにして調製した。
【0178】
tolC遺伝子の上流にCm耐性遺伝子で標識されたPLtacプロモーターを有する変異体をPCRで確認した。確認のためのPCRには、プライマーP18(配列番号42)およびP19(配列番号43)を使用した。PCR確認の条件は以下の通りである:95℃で5分の変性;95℃で30秒、56
℃で30秒、72℃で2.5分の30サイクルのプロファイル;72℃で7分の最終ステップ。変異体MG1655 cat-PLtac-tolC株の染色体DNAを鋳型とした反応で得られたPCR産物は、2279 bpの長さであった(配列番号44)。
【0179】
実施例7 E. coliのL-バリン生産株H81 PLtac-tolC IS5.8::tetA-tetR-2Ter-PyeaS-yeaS/pGL2-Ptac-SD1-yibHの構築
第1ステップでは、過剰発現するtolC遺伝子を有するcat-PLtac-tolC発現カセット(実施例6)を、P1-トランスダクション(Miller, J.H. (1972) “Experiments in Molecular Genetics”, Cold Spring Harbor Lab. Press, Plainview, NY)によりE. coliのL-
バリン生産株H81に導入することで、H81 cat-PLtac-tolC株を得た。
【0180】
H81株は、2001年1月30日にRussian National Collection of Industrial Microorganisms(VKPM; 1st Dorozhny proezd., 1, Moscow 117545, Russian Federation)に受託番号VKPM B-8066で寄託され、2002年2月1日にブダペスト条約の規定に基づく国際寄託に移管
されている。
【0181】
pMWts-λInt/Xisヘルパープラスミドを用いたXis/Int部位特異的組み換えシステム((Minaeva et al. (2008))により、E. coli H81 cat-PLtac-tolCの染色体からCmRexマーカ
ーを除去した。このようにして、E. coli H81 PLtac-tolC株を構築した。
【0182】
第2ステップでは、過剰発現するyeaS遺伝子を有するIS5.8::tetA-tetR-2ter-PyeaS-yeaS発現カセット(実施例8)を、上述したようにP1-トランスダクションによりE. coliのL-バリン生産株H81 PLtac-tolCに導入した。このようにして、E. coli H81 PLtac-tolC
IS5.8::tetA-tetR-2Ter-PyeaS-yeaS株を得た。
【0183】
最後に、三要素排出システムの第3構成要素であるPAP YibHをコードするプラスミドpGL2-Ptac-SD1-yibH(配列番号33、図2)を、H81 PLtac-tolC IS5.8::tetA-tetR-2Ter-PyeaS-yeaS株の電気形質転換に用いた。エレクトロコンピテントセルは、以下のようにして調製した。H81 PLtac-tolC IS 5.8::tetA-tetR-2Ter-PyeaS-yeaSをLB培地(Luria-bertani
ブロス;溶原ブロスともいう;Sambrook J. and Russell D.W., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3rd ed.), Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)で30℃で
一晩培養し、培養液を5 mLのLB培地で100倍に希釈した。得られた培養液を30℃で通気し
ながらOD600が約0.7になるまで培養した後、100倍に濃縮し、氷冷した脱イオン水で3回洗浄することでエレクトロコンピテント化した。エレクトロポレーションは、100 μLの細
胞と約200 ngのプラスミドを用いてエレクトロポレーション実施した。
【0184】
エレクトロポレーション後、細胞を1 mLのSOC培地(Sambrook et al, “Molecular Cloning A Laboratory Manual, Second Edition”, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))を用いて37℃で2.5時間インキュベートした後、溶原ブロス(Sambrook and Russell, 2001 Ref.: Sambrook, J., Russell, D.W., 2001. Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3rd ed.). Cold Spring Harbor Laboratory Press)、寒天1.5%、およびク
ロラムフェニコール50 mg/Lを含むプレートにプレーティングし、37℃で培養してCmR組み換え体を選択した。このようにして、プラスミド上にCmRマーカーを有するE. coli H81 PLtac-tolC IS5.8::tetA-tetR-2Ter-PyeaS-yeaS/pGL2-Ptac-SD1-yibH株を構築した。
【0185】
導入したcat-PLtac-tolC発現カセット(過剰発現するtolC遺伝子を有する)がE. coliH81の染色体中に存在することは、プライマーP18(配列番号42)およびP19(配列番号43)と、E. coli H81 cat-PLtac-tolC株の染色体DNAを鋳型として用いたPCRにより確認した。PCRの条件は以下の通りである:95℃で3分の変性;95℃で30秒、58℃で2分30秒、72℃で1分の25サイクルのプロファイル;72℃で1分の最終伸長。得られたPCR断片の長さは、所望の通り、2279 bpであった。
【0186】
E. coli H81 cat-PLtac-tolC-CmR染色体からCmRexマーカーが除去されていることは、PCRにより確認した。確認には、プライマーP18およびP19と、E. coli H81 PLtac-tolC株の染色体DNAを鋳型として用いた。PCRの条件は以下の通りである:95℃で3分の変性;95℃
で30秒、58℃で2分30秒、72℃で1分の25サイクルのプロファイル;72℃で1分の最終伸長
。得られたPCR断片の長さは、期待通りであった。
【0187】
導入したIS5.8::tetA-tetR-2Ter-PyeaS-yeaS発現カセットがE. coliH81の染色体中に存在することは、プライマーP20(配列番号45)およびP21(配列番号46)と、E. coli H81 PLtac-tolC-IS5.8::tetA-tetR-2Ter-PyeaS-yeaS株の染色体DNAを鋳型として用いたPCRに
より確認した。PCRの条件は以下の通りである:95℃で3分の変性;95℃で30秒、51℃で30秒、72℃で1.5分の30サイクルのプロファイル;72℃で7分の最終伸長。得られたPCR断片
の長さは、所望の通り、1597 bpであった。
【0188】
実施例8 E. coli MG1655 IS5.8::tetA-tetR-2Ter-PyeaS-yeaS株の構築
第1ステップでは、pAH162-tetA-tetR-2Ter-PyeaS-yeaS組み込みプラスミド(配列番号47、図3)を構築した。プライマーP22(配列番号48)およびP23(配列番号49)を用いて、本来の制御要素を有するyeaS遺伝子をE. coli MG1655 K-12の染色体から増幅した。プ
ロトタイプの野生型K-12株に由来する野生型E. coli MG1655株(ATCC 47076)の染色体を鋳型として用いた。PCRの条件は以下の通りである:95℃で3分の変性;95℃で20秒、55℃で30秒、72℃で1分の最後の30サイクルのプロファイル;72℃で5分の最終ステップ(Pfu DNA Polymerase, Promega)。得られたPCR断片の長さは、所望の通り、808 bpであった。
【0189】
PyeaS-yeaS DNA断片を平滑化し、あらかじめSmaI制限酵素で処理したpAH162-tetA-tetR-2Ter(Minaeva N.I. et al., 2008)とライゲーションした。このようにして、pAH162-tetA-tetR-2Ter-PyeaS-yeaS組み込みプラスミド(配列番号47、図3)を得た。
【0190】
得られたpAH162-tetA-tetR-2Ter-PyeaS-yeaS組み込みプラスミド上にPyeaS-yeaS断片が存在することは、プライマーP24(配列番号50)およびP25(配列番号51)を用いたPCRに
より確認した。pAH162-tetA-tetR-2Ter-PyeaS-yeaSプラスミド(配列番号47、図3)のDN
Aを鋳型として用いた。PCRの条件は以下の通りである:95℃で3分の変性;95℃で30秒、51℃で30秒、72℃で1分の30サイクルのプロファイル;72℃で7分の最終伸長。pAH162-tetA-tetR-2Ter-PyeaS-yeaSプラスミドのDNAを鋳型とした反応で得られたPCR産物(配列番号52)の長さは、所望の通り、1012 bpであった。
【0191】
次のステップでは、pAH162-tetA-tetR-2Ter-PyeaS-yeaSプラスミドを、E. coli MG1655
Δ(φ80-attB) IS5.8::φ80-attB株(Haldimann et al. (2001) J. Bacteriol., 183(21): 6384-6393; Minaeva et al. (2008) BMC Biotechnol., 8: 63)の染色体の人工φ80-attB部位へのPyeaS-yeaS DNA断片のφ80-Intを介した組み込みに用いた。熱誘導性のφ80-int遺伝子を含むpAH123プラスミド(Haldimann A. and Wanner B.L., 2001; GenBank, accession No.: AY048726)を用いて、φ80-Intを介した組み込みを実施した。組み込まれ
た組み換えプラスミドのベクター部分(これは、ファージλのattL/R部位(Sanger F. et
al. (1982) J. Mol. Biol., 162: 729-773)で挟まれた、oriRγおよびテトラサイクリ
ン耐性マーカー遺伝子を含む)を、pMWts- λInt/Xisヘルパープラスミド(Minaeva et al. (2008))を用いたXis/Int部位特異的組み換えシステムによりE. coli染色体から除去
した。
【0192】
組み込まれたpAH162-tetA-tetR-2Ter-PyeaS-yeaSDNAプラスミドがE. coli MG1655 Δ(
φ80-attB) IS 5.8::φ80-attBの染色体の人工φ80-attB部位に存在することは、プライ
マーP20(配列番号45)およびP21(配列番号46)と、E. coliMG1655 IS5.8::tetA-tetR-2Ter-PyeaS-yeaS株の染色体DNAを鋳型として用いたPCRにより確認した。PCRの条件は以下
の通りである:95℃で3分の変性;95℃で30秒、51℃で30秒、72℃で1.5分の30サイクルのプロファイル;72℃で7分の最終伸長。E. coliMG1655 IS5.8::PyeaS-yeaSの染色体DNAを
鋳型とした反応で得られたPCR産物の長さは、所望の通り、1597 bpであった。
【0193】
実施例9 E. coli株を用いたL-バリン生産
E. coli strains H81 PLtac-tolC IS5.8::tetA-tetR-2Ter-PyeaS-yeaS株およびH81 PLtac-tolC IS5.8::tetA-tetR-2Ter-PyeaS-yeaS/pGL2-Ptac-SD1-yibH株を、それぞれ、30℃
で18時間、栄養ブロス中で培養した。得られた培養物0.2 mLを20×200 mm試験管中の2 mLの表3に示す発酵培地に接種し、回転式振盪機(250 rpm)上、30℃で60時間、グルコー
スが消費されるまで培養した。
【0194】
培養後、培地に蓄積したL-バリンの量をTLCで測定した。
【0195】
【表3】
【0196】
8回の試験管発酵の結果(平均値として)を表4に示す。表4から分かるように、改変株であるE. coli H81 PLtac-tolC IS5.8::tetA-tetR-2Ter-PyeaS-yeaS/pGL2-Ptac-SD1-yibHは、対照株であるE. coli H81 PLtac-tolC IS5.8::tetA-tetR-2Ter-PyeaS-yeaSと比較
して、より多量のL-バリンを蓄積できた。
【0197】
【表4】
【0198】
実施例10 P. ananatisのL-システイン生産株EYP Pnlp8-tolC (s) pGL2-Ptac-SD1-yibHの構築
P. ananatis EYP197(s)株は、RU2458981 C2またはWO2012/137689に記載されたようにして構築した。すなわち、P. ananatis EYP197(s)株は、P. ananatis SC17(FERM BP-11091)から、cysE5およびyeaS遺伝子を導入し、cysPTWA遺伝子クラスターの本来のプロモーターをPnlp8プロモーターに置換することにより構築した。
【0199】
EYP197(s)株のtolC遺伝子の長さ200ヌクレオチドのプロモーター領域をPnlp8プロモ
ーターで置換した。PCRは、プラスミドDNA pMW-Km-Pnlp8(RU2458981 C2を参照)を鋳型
とし、プライマーP26(配列番号53)およびP27(配列番号54)を用いて実施した。PCRの
条件は以下の通りである:95℃で3分の変性ステップ;95℃で1分、59℃で30秒、72℃で60秒の最初の2サイクルのプロファイル;92℃で30秒、59℃で30秒、72℃で60秒の最後の30
サイクルのプロファイル;72℃で5分の最終ステップ。増幅されたDNA断片の長さは約1.6 kbpであり、アガロースゲル電気泳動により精製した。得られたDNA断片を用いてP. ananatis SC17株(U.S. Patent No. 6,596,517 B2)をエレクトロポレーションにより形質転換した。得られた形質転換体を、カナマイシン(20 mg/L)を含むLB寒天を入れたプレート
にプレーティングし、プレートを34℃で一晩、個々のコロニーが視認できるまでインキュベートした。プライマーP28(配列番号55)およびP29(配列番号56)を用いたPCR解析に
よって所望の形質転換体を同定した。このようにして、P. ananatis SC17-Pnlp8-tolC株
を構築した。
【0200】
Pnlp8プロモーターを含むtolC遺伝子をEYP197 (s)株に導入するため、SC17-Pnlp8-tolC株から染色体DNAを単離した。10 μgの染色体DNAを用いてP. ananatis EYP197 (s)をエレクトロポレーションにより形質転換した。形質転換体を20 mg/Lのカナマイシンを含むLB
プレート上に塗布し、34℃で一晩、各コロニーが可視化されるまで培養した。プライマーP28(配列番号55)およびP29(配列番号56)を用いたPCR解析により、所望の形質転換体
を同定した。このようにして、P. ananatis EYP Pnlp8-tolC株を構築した。
【0201】
P. ananatis EYP Pnlp8-tolC株からカナマイシン耐性遺伝子(kan)をキュアリングし
、エレクトロポレーションによりプラスミドRSF-int-xis(US20100297716 A1)で形質転
換した。得られた形質転換体を、テトラサイクリン(10 mg/L)を含むLB寒天を入れたプ
レートにプレーティングし、プレートを30℃で一晩、個々のコロニーが視認できるまでインキュベートした。カナマイシン(40 mg/L)に感受性の変異体を選択することで所望の
形質転換体を同定した。このようにして、P. ananatis EYP Pnlp8-tolC (s)株を構築した。
【0202】
EYP Pnlp8-tolC(s)株をプラスミドpGL2-Ptac-SD1-yibH(配列番号33、図2)で形質転
換した。このようにして、P. ananatis EYP Pnlp8-tolC (s) pGL2-Ptac-SD1-yibH株を構
築した。
【0203】
実施例11 P. ananatis株を用いたL-システイン生産
P. ananatis EYP Pnlp8-tolC(s)株およびEYP Pnlp8-tolC(s) pGL2-Ptac-SD1-yibH株を
、それぞれ、LB液体培地を用いて32℃で18時間培養した。次に、得られた培養液0.2 mLを20×200 mmの試験管に入れた表5に示す発酵培地2 mLに接種し、250 rpmの回転式振盪機
上で32℃で24時間、グルコースが消費されるまで培養した。
【0204】
【表5】
【0205】
培養後、培地中に蓄積したL-システインの量を、Gaitonde M.K.(Biochem J.;104(2):627-33(1967))に記載の方法を以下のように一部変更して用いて測定した:各試料150
μLを1 M H2SO4150 μLと混合し、20℃で5分間インキュベートした。その後、700 μLのH2Oを混合液に加え、得られた混合液150 μLを新しいバイアルに移し、800 μLのA液(1 M
Tris pH 8.0, 5 mM ジチオスレイトール(DTT))を添加した。得られた混合液を20℃で5分間インキュベートし、13000 rpmで10分間回転させ、100 μLの混合液を20×200 mmの
試験管に移した。次に、400 μLのH2O、500 μLの氷酢酸、および500 μLのB液(0.63 g
のニンヒドリン, 10 mLの氷酢酸, 10 mLの36% HCl)を添加し、混合液を沸騰水浴中で10
分間インキュベートした。その後、4.5 mLのエタノールを添加し、OD560を測定した。シ
ステインの濃度は、式:C (Cys, g/L) = 11.3 × OD560を用いて算出した。
【0206】
6つの独立した試験管発酵の結果を表6に示す。表6から分かるように、改変株であるP. ananatis EYP Pnlp8-tolC(s) pGL2-Ptac-SD1-yibHは、対照株であるP. ananatis EYP Pnlp8-tolC (s)と比較して、より多量のL-システインを蓄積することができた。
【0207】
【表6】
【0208】
実施例12 E. coliのL-トリプトファン生産株IB119 Ptac3000-tolC Ptac3000-yibIH
の構築
tolC遺伝子の本来のプロモーターを、「Red-driven integration」と呼ばれるDatsenkoとWannerが開発した方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97(12), 6640-6645 (2000))によりPtac3000プロモーター(Katashkina et al. (2005) Mol. Biol. (Mosk.), 39(5): 823-831)で置換した。この手順に従って、PCRプライマーP30(配列番号59)(これは、tolC遺伝子の5'部分とOlacの半分を含むPtac3000プロモーターに相同性がある)およびP31(配列番号60)(これは、tolC遺伝子の調節領域と鋳型染色体のクロラムフェニコール耐性を付与する遺伝子(CmR)に相同性がある)を構築した。E. coli MG1655 cat-Ptac3000-lacZ株(Katashkina et al. (2005) Mol. Biol. (Mosk.), 39(5): 823-831)の染色体DNA
をPCR反応の鋳型として使用した。PCRの条件は以下の通りである:95℃で3分の変性;95
℃で1分,34℃で30秒,72℃で80秒の最初の2サイクルのプロファイル;95℃で30秒、50℃で30秒、72℃で80秒の最後の28サイクルのプロファイル;72℃で5分の最終ステップ。得
られた1782 bpのDNA断片をSilica Bead DNA Gel Extraction Kit(Thermo Scientific)
で精製し、プラスミドpKD46を含むMG1655株のエレクトロポレーションに使用した。CmRの組み換え体を選択し、Ptac3000プロモーターの導入をプライマーP32(配列番号61)およ
びP33(配列番号62)を用いたPCRで確認した。PCRの条件は以下の通りである:94℃で5分の変性;94℃で30秒、59℃で30秒、72℃で90秒の25サイクルのプロファイル;72℃で5分
の最終伸長。親株であるMG1655の菌体のDNAを鋳型とした反応で得られたDNA断片の長さは383 bpであった。また、MG1655 cat-Ptac3000-tolC株の菌体のDNAを鋳型とした反応で得
られたDNA断片の長さは2001 bpであった。
【0209】
得られたMG1655 cat-Ptac3000-tolC株をドナーとして、P1-トランスダクション法(Sambrook J. et al., “Molecular Cloning A Laboratory Manual, 2nd Edition”, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))により、E. coli strain IB119にcat-Ptac3000-tolC発現カセットを導入した。E. coli IB119の構築については後述する。CmRの組み換え体を選択し、Ptac3000プロモーターの導入を上述の通りPCRで確認した。その後、λ-Int/Xisを介したCmRマーカーの切り出しを実施した。切り出しを上述の通りPCRで確認した。
親株であるIB119 cat-Ptac3000-tolCの菌体のDNAを鋳型とした反応で得られたDNA断片の
長さは2001 bpであった。また、IB119 attB-Ptac3000-tolC株の菌体のDNAを鋳型とした反応で得られたDNA断片の長さは395 bpであった。その結果、IB119 attB-Ptac3000-tolC株
を構築した。
【0210】
yibIHオペロンの本来のプロモーターを、上述したRed-dependent integrationによりPtac3000プロモーター(Katashkina et al. (2005) Mol. Biol. (Mosk.), 39(5): 823-831
)で置換した。この手順に従って、PCRプライマーP34(配列番号63)(これは、yibIHオ
ペロンの5'部分とOlacの半分を含むPtac3000プロモーターに相同性がある)およびP35(
配列番号64)(これは、yibIHオペロンの調節領域と鋳型染色体のクロラムフェニコール
耐性を付与する遺伝子(CmR)に相同性がある)を構築した。E. coli MG1655 cat-Ptac30
00-lacZ株(Katashkina et al. (2005) Mol. Biol. (Mosk.), 39(5): 823-831)の染色体DNAをPCR反応の鋳型として使用した。PCRの条件は以下の通りである:95℃で3分の変性;95℃で1分,34℃で30秒,72℃で80秒の最初の2サイクルのプロファイル;95℃で30秒、50℃で30秒、72℃で80秒の最後の28サイクルのプロファイル;72℃で5分の最終ステップ。
得られた1782 bpのDNA断片をSilica Bead DNA Gel Extraction Kit(Thermo Scientific
)で精製し、プラスミドpKD46を含むMG1655株のエレクトロポレーションに使用した。CmRの組み換え体を選択し、Ptac3000プロモーターの導入をプライマーP36(配列番号65)お
よびP37(配列番号66)を用いたPCRで確認した。PCRの条件は以下の通りである:94℃で5分の変性;94℃で30秒、59℃で30秒、72℃で1分の25サイクルのプロファイル;72℃で5分の最終伸長。親株であるMG1655の菌体のDNAを鋳型とした反応で得られたDNA断片の長さは369 bpであった。また、MG1655 cat-Ptac3000-yibIH株の菌体のDNAを鋳型とした反応で得られたDNA断片の長さは2070 bpであった。
【0211】
得られたMG1655 cat-Ptac3000-yibIH株をドナーとして、P1-トランスダクション法により、IB119 attB-Ptac3000-tolCにcat-Ptac3000-yibIH発現カセットを導入した。CmRの組
み換え体を選択し、Ptac3000プロモーターの導入を上述の通りPCRで確認した。このよう
にして、IB119 attB-Ptac3000-tolC cat-Ptac3000-yibIH株を構築した。
【0212】
E. coli IB119株は、E. coli MG1655 (rphwt ilvG-15)株(Biryukova et al. (2010) Genetika (Russian), 46: 349-355)から以下のように構築した。
【0213】
E. coli IB100株(その構築については後述する)は、MG1655 (rphwtilvG-15) ΔtrpR ΔtnaA ΔtyrR Δ(tyrA-pheA)の遺伝子型を有する。全ての欠失は、上述のRed-dependent
integration法により、MG1655株(ATCC 47076)の染色体において得た。この手順に従って、PCRプライマーP38(配列番号67)およびP39(配列番号68)(これらは、trpR遺伝子
に隣接する領域と鋳型プラスミドのクロラムフェニコール耐性を付与するcat遺伝子に隣
接する領域の両方に相同性がある)を構築した。プラスミドpMW118-attL-cat-attR(Katashkina et al. (2005) Mol. Biol. (Mosk.), 39(5): 823-831)をPCR反応の鋳型として用いた。PCRの条件は以下の通りである:95℃で3分の変性;95℃で1分,34℃で30秒,72℃
で80秒の最初の2サイクルのプロファイル;95℃で30秒、50℃で30秒、72℃で80秒の最後
の28サイクルのプロファイル;72℃で5分の最終伸長。得られた1709 bpのDNA断片をSilica Bead DNA Gel Extraction Kit(Thermo Scientific)で精製し、プラスミドpKD46を含
むMG1655株のエレクトロポレーションに使用した。CmRの組み換え体を選択し、選択した
変異体におけるCmR遺伝子で標識されたtrpR遺伝子の欠失をプライマーP40(配列番号69)およびP41(配列番号70)を用いたPCRで確認した。PCRの条件は以下の通りである:95℃
で3分の変性;95℃で30秒、55℃で30秒、72℃で90秒の25サイクルのプロファイル;72℃
で5分の最終伸長。このようにして、MG1655 ΔtrpR::cat株を構築した。
【0214】
MG1655 ΔtrpR::cat株を、MG1655 (rphwt ilvG-15)株(Biryukova et al. (2010) Genetika (Russian), 46: 349-355)へのtrpR遺伝子欠失のP1-トランスダクションのためのドナーとして用いた。CmRの組み換え体を選択し、選択した変異体におけるtrpR遺伝子の欠
失を上述の通りPCRで確認した。その後、λ-Int/Xisを介したMG1655 (rphwtilvG-15) ΔtrpR::cat株からのCmRマーカーの切り出しを実施し、切り出しを上述の通りPCRで確認した。その結果、MG1655 (rphwt ilvG-15) ΔtrpR::attB株を構築した。
【0215】
他の欠失は、プライマー:tnaA遺伝子の欠失にはP42(配列番号71)およびP43(配列番号72)を、tyrR遺伝子の欠失にはP44(配列番号73)およびP45(配列番号74)を、tyrA-pheA遺伝子の欠失にはP46(配列番号75)およびP47(配列番号76)を用いて、同一の方法
で独立に得た。得られたDNA断片をSilica Bead DNA Gel Extraction Kit(Thermo Scientific)で精製し、プラスミドpKD46を含むMG1655株のエレクトロポレーションに使用した
。CmRの組み換え体を選択し、選択した変異体におけるCmR遺伝子で標識されたtnaA、tyrR、およびtyrA-pheA遺伝子の欠失を、それぞれ、プライマーP48(配列番号77)およびP49
(配列番号78)、P50(配列番号79)およびP51(配列番号80)、ならびにP52(配列番号81)およびP53(配列番号82)を用いたPCRで確認した。このようにして、MG1655 ΔtnaA::cat株、MG1655 ΔtyrR::cat株、およびMG1655 Δ(tyrA-pheA)::cat株を構築した。これら3つの株は、MG1655 (rphwt ilvG-15) ΔtrpR::attB株への順次のtnaA、tyrR、およびtyrA-pheA遺伝子の欠失のP1-トランスダクションとそれに続くマーカーの切り出しのためのドナーとして用いた。切り出しを上述の通りPCRで確認した。その結果、MG1655 (rphwt ilvG-15) ΔtrpR::attB ΔtnaA::attB ΔtyrR::attB Δ(tyrA-pheA)::attB株(IB100と命名
した)を構築した。
【0216】
E. coli IB103株は、IB100株の野生型trpオペロンをtrp(L’-‘B)E5(配列番号83)(
これは、trpL遺伝子の一部と全てのアテニュエーターがtrpBとtrpA遺伝子の間の翻訳結合領域により除去され(EP2093291 B1)、且つtrpE遺伝子に高濃度のトリプトファンに対する耐性を付与するGlu39がThrに置換される変異(trpE5)を有する)で改変することによ
り構築した。
【0217】
E. coli AB3257[Ptac-ideal-aroG4-(rplD'-attR-cat-attL-trpE’)-serA5]株(EP2093291 B1)(これは、E. coli AB3257株(CGSC strain # 3257)から得られた改変株である
)をドナーとして、上述したRed-dependent integration法によるP1-トランスダクションとそれに続くマーカーの切り出しの方法により、IB103株にmini-Mu::Ptac-ideal-aroG4-(rplD'-attR-cat-attL-trpE’)-serA5発現カセットを導入した。得られたカセットmini-Mu::Ptac-ideal-aroG4-(rplD'-attB-trpE’)-serA5は、Ptac-idealプロモーター(Olac-ideal-Ptac/Olac)(Mashko et al. (2001)Biotekhnologiya (Russian), 5:3-20)、フェニ
ルアラニンによるフィードバック阻害に対する非感受性を2-デヒドロ-3-デオキシホスホ
ヘプトン酸アルドラーゼ(DAHPシンターゼ)に付与するaroG遺伝子の変異(aroG4)(Kikuchi et al. (1997) Appl. Environ. Microbiol., 63(2): 761-762)、およびセリンによるフィードバック阻害に対する非感受性をD-3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼに付与するserA遺伝子の変異(serA5)(US6180373 B1)を含む。serA5遺伝子の発現を最適化するために、aroG4遺伝子とserA5遺伝子間で翻訳カップリングを実施した(EP2093291 B1)。このようにして、IB105株を構築した。
【0218】
E. coli IB111株は、IB105株をΔpykA、ΔpykF、およびΔiclRで改変することにより構築した。全ての欠失は、上述したRed-dependent integration法により、MG1655株(ATCC 47076)の染色体上に構築した。この手順に従って、PCRプライマー:pykA遺伝子欠失用にP54(配列番号84)およびP55(配列番号85)、pykF遺伝子欠失用にP56(配列番号86)お
よびP57(配列番号87)、ならびにiclR遺伝子欠失用にP58(配列番号88)およびP59(配
列番号89)を構築した。プラスミドpMW118-attL-cat-attRをPCR反応の鋳型として用いた
。PCRの条件は以下の通りである:95℃で3分の変性;95℃1分,34℃30秒,72℃80秒の最
初の2サイクルのプロファイル;95℃で30秒、50℃で30秒、72℃で80秒の最後の28サイク
ルのプロファイル;72℃で5分の最終伸長。得られたDNA断片をSilica Bead DNA Gel Extraction Kit(Thermo Scientific)で精製し、プラスミドpKD46を含むMG1655株のエレクトロポレーションに使用した。CmRの組み換え体を選択し、選択した変異体におけるCmR遺伝子で標識されたpykA、pykF、およびiclR遺伝子の欠失を、それぞれ、プライマーP60(配
列番号90)およびP61(配列番号91)、P62(配列番号92)およびP63(配列番号93)、な
らびにP64(配列番号94)およびP65(配列番号95)を用いたPCRで確認した。このように
して、MG1655 ΔpykA::cat株、MG1655 ΔpykF::cat株、およびMG1655 ΔiclR::cat株を構築した。これら3つの株は、IB105株への順次のpykA、pykF、およびiclR遺伝子の欠失のP1-トランスダクションとそれに続くマーカーの切り出しのためのドナーとして用いた。切
り出しを上述の通りPCRで確認した。その結果、IB105 ΔpykA::attB ΔpykF::attB Δicl
R::attB株(IB111と命名した)を構築した。
【0219】
E. coli VD1株(US7179623 B2)(これは、E. coli MG1655株から得られた改変株であ
る)をドナーとして、上述したRed-dependent integration法によるP1-トランスダクションとそれに続くマーカーの切り出しの方法により、IB111株にmini-Mu::Pscr-scrKYABR発
現カセットを導入した。このカセットは、スクローストランスポゾンTn2555由来のPTS依
存性スクロース消費経路(scr)を含む(Doroshenko et al. (1988) Mol. Biol. (Mosk.), 22: 645-658)。このようにして、IB117株を構築した。
【0220】
芳香族アミノ酸エクスポーター遺伝子(yddG)を高レベルで構成的に発現させるために、上述したRed-dependent integration法により、cat遺伝子で標識したPtac5000プロモーターの制御領域(Katashkina et al. (2005) Mol. Biol. (Mosk.), 39(5): 823-831)をyddG遺伝子の上流に導入した。この手順に従って、PCRプライマーP66(配列番号96)(こ
れは、yddG遺伝子の5'部分とPtac5000プロモーターに相同である)およびP67(配列番号97)(これは、yddG遺伝子に隣接する領域と鋳型染色体のcat遺伝子とPtac5000プロモーターに隣接する領域に相同である)を構築した。MG1655cat-Ptac5000-lacZ株(Katashkina et al. (2005) Mol. Biol. (Mosk.), 39(5): 823-831)の染色体をPCR反応の鋳型として
用いた。PCRの条件は以下の通りである:95℃で3分の変性;95℃で1分,34℃で30秒,72
℃で80秒の最初の2サイクルのプロファイル;95℃で30秒、50℃で30秒、72℃で80秒の最
後の28サイクルのプロファイル;72℃で5分の最終ステップ。得られた1792 bpのDNA断片
をSilica Bead DNA Gel Extraction Kit(Thermo Scientific)で精製し、プラスミドpKD46を含むMG1655株のエレクトロポレーションに使用した。CmRの組み換え体を選択し、Ptac5000プロモーターの導入をプライマーP68(配列番号98)およびP69(配列番号99)を用
いたPCRで確認した。PCRの条件は以下の通りである:94℃で5分の変性;94℃で30秒、59
℃で30秒、72℃で90秒の25サイクルのプロファイル;72℃で5分の最終伸長。親株であるMG1655の菌体のDNAを鋳型とした反応で得られたDNA断片の長さは198 bpであった。また、MG1655 cat-Ptac5000-yddG株の菌体のDNAを鋳型とした反応で得られたDNA断片の長さは1918 bpであった。
【0221】
得られたMG1655 cat-Ptac5000-yddG株をドナーとして、IB117株にcat-Ptac5000-yddG発現カセットを導入した。このカセットは、P1-トランスダクション法により導入した。CmRの組み換え体を選択し、Ptac5000プロモーターの導入を上述の通りPCRで確認した。その
後、λ-Int/Xisを介したCmRマーカーの切り出しを実施した。切り出しを上述の通りPCRで確認した。親株であるIB117 cat-Ptac5000-yddGの菌体のDNAを鋳型とした反応で得られたDNA断片の長さは1918 bpであった。また、IB117 attB-Ptac5000-yddG株の菌体のDNAを鋳
型とした反応で得られたDNA断片の長さは312 bpであった。その結果、IB117 attB-Ptac5000-yddG株(IB119と命名した)を構築した。
【0222】
実施例13 E. coli株を用いたL-トリプトファンの生産
E. coli strains IB119株およびIB119 attB-Ptac3000-tolC cat-Ptac3000-yibIH株(実施例12)を、L-トリプトファンの発酵生産能を比較する生産試験に供した。これらの株を、必要に応じて抗生物質(Cm - 30 mg/L, Amp - 100 mg/L)を添加したL-寒天(yeast extract - 5 g/L, peptone - 10 g/L, NaCl - 5 g/L, agar - 15 g/L)にプレーティングし、37℃で一晩培養した。
【0223】
菌体を3 mL のL-ブロス培地(tryptone - 10 g/L, yeast extract - 5 g/L, NaCl - 5 g/L)に接種し、34 °C、240 rpmで3時間培養した。その後、0.3 mLの種培養液を20×200 mmの試験管中の3 mLの発酵培地に接種し、240 rpmの回転式振盪機上、30℃で42時間
培養した。発酵培地成分を表7に示すが、発酵培地成分は示した通りのそれぞれの群(A
、B、C、D、E、F、G、およびH)で別々に滅菌し、滅菌中の好ましくない相互作用を回避
する。
【0224】
【表7】
【0225】
培養後、蓄積したL-トリプトファンを薄層クロマトグラフィー(TLC)で測定した。
無蛍光指示薬を含むSorbfilシリカゲル(Sorbpolymer, Krasnodar, Russian Federation
)の0.11 mmの層でコーティングしたTLCプレート(10×15 cm)を用いた。サンプルは、Camag Linomat 5サンプルアプリケーターを用いてプレートに塗布した。Sorbfilプレート
は、propan-2-ol : ethylacetate : 25% aqueous ammonia : water = 40 : 40 : 7 : 16 (v/v)からなる移動相で展開した。ニンヒドリン(2%, w/v)のアセトン溶液を可視化試薬として用いた。展開後、プレートを乾燥させ、Camag TLC Scanner 3を用いて、winCATSソフトウェア(バージョン1.4.2)により520 nmで検出する吸光度モードでスキャンした。
【0226】
独立した12回の試験管発酵の結果(平均値として)を表8に示す。表8から分かるよ
うに、改変株であるE. coli IB119 attB-Ptac3000-tolC cat-Ptac3000-yibIHは、対照株
であるIB119と比較して、より多量のL-トリプトファンを蓄積できた。
【0227】
【表8】
【0228】
本発明を例示的な態様を参照して詳細に説明したが、本発明の範囲から逸脱することなく種々の変更や等価物の採用が可能であることは当業者に明らかであろう。上記文献は、いずれも、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0229】
本明細書に記載の方法は、細菌の発酵によりL-アミノ酸を製造するのに有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6