(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】車両、及び車載部品の劣化診断方法
(51)【国際特許分類】
B60W 50/04 20060101AFI20240723BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20240723BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20240723BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
B60W50/04
B60W60/00
B60L3/00 N
B60L15/20 J
(21)【出願番号】P 2022008616
(22)【出願日】2022-01-24
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮介
(72)【発明者】
【氏名】眞屋 朋和
(72)【発明者】
【氏名】岡田 強志
(72)【発明者】
【氏名】藤井 宏光
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2021/0146913(US,A1)
【文献】特開2021-178575(JP,A)
【文献】特開2020-090229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00- 1/16
B60L 3/00
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御装置と記憶装置とを備える車両であって、
前記記憶装置には、前記車両に搭載された部品に関するパラメータの値が入力されると、前記部品の劣化度を出力する推定アルゴリズムが記憶されており、
前記車両は、前記パラメータの値を検出するセンサをさらに備え、
前記制御装置は、前記車両の自動運転による性能テストを実行し、前記性能テスト中に前記部品の性能を示すデータを取得するように構成され、
前記制御装置は、前記性能テスト中に取得された前記データを用いて、前記推定アルゴリズムを更新するように構成さ
れ、
前記制御装置は、所定の運用期間において前記車両の自動運転を実行するように構成され、
前記制御装置に、第1運用期間と、前記第1運用期間の次の運用期間に相当する第2運用期間とが設定されている場合において、前記制御装置は、前記第1運用期間が終了してから前記第2運用期間が開始されるまでの間に前記車両の制御システムが起動すると、前記性能テストを実行し、前記第1運用期間中と前記第2運用期間中とのいずれかにおいて前記車両の制御システムが起動しても前記性能テストを実行しない、車両。
【請求項2】
前記車両は、前記運用期間において自動運転により物流サービス又は旅客輸送サービスを提供するように構成される、請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記制御装置は、前記運用期間内において、前記センサにより検出される前記パラメータの値を前記推定アルゴリズムに入力し、前記推定アルゴリズムから出力される前記部品の劣化度を用いて、前記部品の劣化度が所定の閾値を超えたか否かを判断するように構成される、請求項
1又は2に記載の車両。
【請求項4】
前記性能テストによって取得される前記データは、前記車両の制動性能を示すデータと前記車両の加速性能を示すデータとの少なくとも一方を含み、
前記制御装置は、
前記性能テストを実行した後、前記性能テストによって取得された前記データを用いて、前記車両の自動運転のためのキャリブレーションを実行するように構成される、請求項1~3のいずれか一項に記載の車両。
【請求項5】
前記制御装置は、前記推定アルゴリズムの更新回数が所定回数以上になった場合に、前記車両の自動運転中に前記推定アルゴリズムを用いて前記部品の劣化度を推定するように構成さ
れ、
前記所定回数は3回以上の回数である、請求項1~4のいずれか一項に記載の車両。
【請求項6】
前記車両に搭載された前記部品は、油圧式ディスクブレーキ装置を構成するブレーキパッドであり、
前記部品に関する前記パラメータは、前記ブレーキパッドの油圧レベルであり、
前記性能テストによって取得される前記データは、前記車両の制動性能を示すデータを含
み、
前記制御装置は、前記性能テストにおいて第1関係を実測し、前記第1関係を用いて前記推定アルゴリズムを更新するように構成され、
前記第1関係は、前記ブレーキパッドの劣化度と前記ブレーキパッドの油圧レベルとの関係である、請求項1~5のいずれか一項に記載の車両。
【請求項7】
前記車両に搭載された前記部品は、走行用のモータであり、
前記部品に関する前記パラメータは、前記モータを駆動するための電
流であり、
前記性能テストによって取得される前記データは、前記車両の加速性能を示すデータを含
み、
前記制御装置は、前記性能テストにおいて第2関係を実測し、前記第2関係を用いて前記推定アルゴリズムを更新するように構成され、
前記第2関係は、前記モータの劣化度と前記モータを駆動するための電流との関係である、請求項1~5のいずれか一項に記載の車両。
【請求項8】
自動運転キットと、
前記制御装置と前記自動運転キットとの間での信号のやり取りを仲介する車両制御インターフェースとをさらに備え、
前記自動運転キットは、自動運転のための指令を、前記車両制御インターフェースを介して前記制御装置へ送るように構成され、
前記制御装置は、前記自動運転キットからの前記指令に従って前記車両を制御するように構成され、
前記制御装置は、前記車両の状態を示す信号を、前記車両制御インターフェースを介して前記自動運転キットへ送るように構成さ
れ、
前記制御装置は、前記性能テストを実行する前に、前記車両の自動運転のためのキャリブレーションを前記自動運転キットに要求する、請求項1~7のいずれか一項に記載の車両。
【請求項9】
制御装置と記憶装置とを備える車両であって、
前記記憶装置には、
前記車両に搭載された第1部品に関する第1パラメータの値が入力されると、前記第1部品の劣化度を出力する第1推定アルゴリズムと、
前記車両に搭載された第2部品に関する第2パラメータの値が入力されると、前記第2部品の劣化度を出力する第2推定アルゴリズムと、
が記憶されており、
前記車両は、
前記第1パラメータの値を検出する第1センサと、
前記第2パラメータの値を検出する第2センサと、
をさらに備え、
前記制御装置は、前記車両の自動運転による性能テストを実行し、前記性能テスト中に、前記第1部品の性能を示す第1データと、前記第2部品の性能を示す第2データとを取得するように構成され、
前記制御装置は、前記性能テスト中に取得された前記第1データを用いて前記第1推定アルゴリズムを更新し、前記性能テスト中に取得された前記第2データを用いて前記第2推定アルゴリズムを更新するように構成さ
れ、
前記制御装置は、所定の運用期間において前記車両の自動運転を実行するように構成され、
前記制御装置に、第1運用期間と、前記第1運用期間の次の運用期間に相当する第2運用期間とが設定されている場合において、前記制御装置は、前記第1運用期間が終了してから前記第2運用期間が開始されるまでの間に前記車両の制御システムが起動すると、前記性能テストを実行し、前記第1運用期間中と前記第2運用期間中とのいずれかにおいて前記車両の制御システムが起動しても前記性能テストを実行しない、車両。
【請求項10】
前記車両に搭載された前記第1部品は、前記車両を制動するための部品であり、
前記第1部品の性能を示す前記第1データは、前記車両の制動性能を示すデータを含み、
前記車両に搭載された前記第2部品は、前記車両を駆動するための部品であり、
前記第2部品の性能を示す前記第2データは、前記車両の加速性能を示すデータを含む、請求項9に記載の車両。
【請求項11】
車両に搭載された部品の劣化診断方法であって、
前記車両は、前記部品と、前記部品の劣化度を推定する推定アルゴリズムを記憶する記憶装置とを備え、
運用期間において自動運転により所定のサービスを提供するように構成され、
当該方法は、
前記車両が、
前記運用期間ではない期間において、自動運転による性能テストを実行し、前記性能テスト中に前記部品の性能を示すデータを取得することと、
前記車両が、前記性能テスト中に取得された前記データを用いて前記推定アルゴリズムを更新することと、
前記車両が、
前記運用期間内での自動運転中に、更新された前記推定アルゴリズムを用いて前記部品の劣化度を推定することと、
を含む、車載部品の劣化診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両、及び車載部品の劣化診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば特開2006-096060号公報(特許文献1)には、車載端末を備える顧客車両の少なくとも点検整備に必要とする車両状態情報を、車載端末から管理センターに送るシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、環境負荷を低減する観点から車両の長寿命化が求められている。車両の長寿命化を図るためには、使用される車両において車載部品の劣化診断を行ない、適切なタイミングで車載部品を交換することが望まれる。また、時代とともに変化するニーズに合わせて、市販されるベース車両に対して後付けで機能を付与可能にすることも望まれる。後付けされる機能(システム)の例としては、自動ブレーキシステム、自動運転キット(自動運転システム)が挙げられる。
【0005】
車載部品の劣化診断方法としては、車載部品に関する所定のパラメータ(以下、「劣化パラメータ」とも称する)とその車載部品の劣化度との関係を示す推定アルゴリズムを用いる方法が考えられる。推定アルゴリズムは、車載部品に関する劣化パラメータの値が入力されると、その車載部品の劣化度を出力する。車両に搭載されたコンピュータは、使用される車両において検出された劣化パラメータの値を推定アルゴリズムに入力することによってその車載部品の劣化度を取得できる。
【0006】
ただし、車載部品の劣化の仕方は、車両の個体差によって車両ごとに異なる。そこで、車両の出荷前に自動車製造工場において車両ごとに推定アルゴリズムを最適化し、最適化された推定アルゴリズムを記憶させた記憶装置を車両に搭載することが考えられる。しかしながら、出荷された車両(ベース車両)に対して後付けで機能が付与されると、車両の特性が変化し、推定アルゴリズムの推定精度が低下する可能性がある。また、自動車製造工場において、車両1台1台について個別に推定アルゴリズムを最適化することは非効率であり、車両のコストアップにつながる。
【0007】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、車両に実装された推定アルゴリズムを適切に更新することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1の観点に係る車両は、制御装置と、記憶装置とを備える。記憶装置には、推定アルゴリズムが記憶されている。推定アルゴリズムは、車両に搭載された部品に関するパラメータ(劣化パラメータ)の値が入力されると、部品の劣化度を出力する。車両は、劣化パラメータの値を検出するセンサをさらに備える。制御装置は、車両の自動運転による性能テストを実行し、性能テスト中に部品の性能を示すデータを取得するように構成される。制御装置は、性能テスト中に取得されたデータを用いて、推定アルゴリズムを更新するように構成される。
【0009】
上記構成によれば、車両の自動運転による性能テストが実行され、性能テストの結果(性能テスト中に取得されたデータ)に基づいて、推定アルゴリズムが更新される。こうした構成を有する車両では、当該車両の特性に合わせて推定アルゴリズムを適切に更新することが可能になる。そして、更新された推定アルゴリズムにより、使用される車両において、高い精度で車載部品の劣化度を推定することが可能になる。
【0010】
推定アルゴリズムは、ルールベースのプログラムであってもよいし、AI(人工知能)によるアルゴリズムであってもよい。推定アルゴリズムは、数式、マップ、及びモデルの少なくとも1つを含んでもよい。上記制御装置は、1つのコンピュータで構成されてもよいし、複数のコンピュータを含んでもよい。
【0011】
制御装置は、所定の運用期間において車両の自動運転を実行するように構成されてもよい。制御装置に、第1運用期間と、第1運用期間の次の運用期間に相当する第2運用期間とが設定されている場合には、制御装置は、第1運用期間が終了してから第2運用期間が開始されるまでの間に性能テストを実行するように構成されてもよい。
【0012】
上記構成では、自動運転によって車両が運用される。そして、性能テストは、車両の運用の合間に実行される。これにより、性能テストのために車両の運用が妨げられることが抑制される。
【0013】
制御装置は、上記運用期間内において、前述のセンサ(車載センサ)により検出される劣化パラメータの値を推定アルゴリズムに入力し、推定アルゴリズムから出力される部品の劣化度を用いて、部品の劣化度が所定の閾値を超えたか否かを判断するように構成されてもよい。
【0014】
上記構成では、車両の運用中に、推定アルゴリズムの出力に基づいて部品の劣化度が所定の閾値を超えたか否かが判断される。こうした構成によれば、部品を適切なタイミングで交換しやすくなる。また、更新された推定アルゴリズムによって部品の劣化度を高い精度で推定できるため、閾値のマージンを小さくすることができる。このため、部品を寿命直前まで使用しやすくなる。部品の長寿命化によって環境負荷の低減に貢献できる。
【0015】
性能テストによって取得されるデータは、車両の制動性能を示すデータと車両の加速性能を示すデータとの少なくとも一方を含んでもよい。そして、制御装置は、性能テストによって取得されたデータを用いて、車両の自動運転のためのキャリブレーションを実行するように構成されてもよい。
【0016】
上記構成では、キャリブレーションによって車両の自動運転が適切に実行されやすくなる。また、キャリブレーションのためのデータが性能テストによって取得されることで、効率良くキャリブレーションを行なうことが可能になる。
【0017】
制御装置は、推定アルゴリズムの更新回数が所定回数以上になった場合に、車両の自動運転中に推定アルゴリズムを用いて部品の劣化度を推定するように構成されてもよい。
【0018】
推定アルゴリズムの更新回数が増えるほど推定アルゴリズムの推定精度は向上すると考えられる。上記構成によれば、推定精度が低い状態の推定アルゴリズムが使用されることを抑制できる。
【0019】
車両に搭載された部品は、油圧式ディスクブレーキ装置を構成するブレーキパッドであってもよい。部品に関する劣化パラメータは、ブレーキパッドの油圧レベルであってもよい。性能テストによって取得されるデータは、車両の制動性能を示すデータを含んでもよい。
【0020】
上記構成によれば、制御装置が、更新された推定アルゴリズムを用いて、ブレーキパッドの劣化度を高い精度で推定しやすくなる。そして、ブレーキパッドの劣化度を高い精度で推定することで、ブレーキパッドの長寿命化が図られる。
【0021】
車両に搭載された部品は、走行用のモータであってもよい。部品に関するパラメータは、モータを駆動するための電流と、モータの温度との少なくとも一方であってもよい。性能テストによって取得されるデータは、車両の加速性能を示すデータを含んでもよい。
【0022】
上記構成によれば、制御装置が、更新された推定アルゴリズムを用いて、走行用のモータの劣化度を高い精度で推定しやすくなる。そして、モータの劣化度を高い精度で推定することで、モータの長寿命化が図られる。
【0023】
上述したいずれかの車両は、自動運転キットと、前述の制御装置と自動運転キットとの間での信号のやり取りを仲介する車両制御インターフェースとをさらに備えてもよい。自動運転キットは、自動運転のための指令を、車両制御インターフェースを介して制御装置へ送るように構成されてもよい。制御装置は、自動運転キットからの指令に従って車両を制御するように構成されてもよい。制御装置は、車両の状態を示す信号を、車両制御インターフェースを介して自動運転キットへ送るように構成されてもよい。
【0024】
上記の車両は、車両制御インターフェースを備えるため、自動運転キットを後付けしやすい。自動運転キットは、市販されるベース車両に対して後付けされてもよい。制御装置は、自動運転キットを取り外した状態でも単独で動作可能であってもよい。自動運転キットが後付けされた車両においても、前述した性能テスト及び更新処理が実行されることにより、当該車両の特性に合わせて推定アルゴリズムが適切に更新される。
【0025】
本開示の第2の観点に係る車両は、制御装置と記憶装置とを備える。記憶装置には、第1推定アルゴリズムと第2推定アルゴリズムとが記憶されている。第1推定アルゴリズムは、車両に搭載された第1部品に関するパラメータ(第1劣化パラメータ)の値が入力されると、第1部品の劣化度を出力する。第2推定アルゴリズムは、車両に搭載された第2部品に関するパラメータ(第2劣化パラメータ)の値が入力されると、第2部品の劣化度を出力する。車両は、第1劣化パラメータの値を検出する第1センサと、第2劣化パラメータの値を検出する第2センサとをさらに備える。制御装置は、車両の自動運転による性能テストを実行し、性能テスト中に、第1部品の性能を示す第1データと、第2部品の性能を示す第2データとを取得するように構成される。制御装置は、性能テスト中に取得された第1データを用いて第1推定アルゴリズムを更新し、性能テスト中に取得された第2データを用いて第2推定アルゴリズムを更新するように構成される。
【0026】
上記第2の観点に係る車両によっても、前述した第1の観点に係る車両と同様、車両に実装された推定アルゴリズムを適切に更新することが可能になる。しかも、上記構成では、複数の部品(第1部品及び第2部品)の各々について推定アルゴリズム(第1推定アルゴリズム及び第2推定アルゴリズム)が用意されている。上記構成によれば、部品ごとの推定アルゴリズムを適切に更新することが可能になる。
【0027】
車両に搭載された第1部品は、車両を制動するための部品であってもよい。第1部品の性能を示す第1データは、車両の制動性能を示すデータを含んでもよい。車両に搭載された第2部品は、車両を駆動するための部品であってもよい。第2部品の性能を示す第2データは、車両の加速性能を示すデータを含んでもよい。
【0028】
上記構成によれば、制御装置が、更新された推定アルゴリズム(第1推定アルゴリズム及び第2推定アルゴリズム)を用いて、車両を制動するための部品と車両を駆動するための部品との各々の劣化度を高い精度で推定しやすくなる。これにより、長期間にわたって車両の適切な走行性能を維持しやすくなる。
【0029】
本開示の第3の観点に係る車載部品の劣化診断方法は、車両に搭載された部品の劣化診断方法である。車両は、部品と、部品の劣化度を推定する推定アルゴリズムを記憶する記憶装置とを備える。この車載部品の劣化診断方法は、車両が、自動運転による性能テストを実行し、性能テスト中に部品の性能を示すデータを取得することと、車両が、性能テスト中に取得されたデータを用いて、推定アルゴリズムを更新することと、車両が、自動運転中に、更新された推定アルゴリズムを用いて部品の劣化度を推定することとを含む。
【0030】
上記車載部品の劣化診断方法によっても、前述した車両と同様、車両に実装された推定アルゴリズムを適切に更新することが可能になる。そして、更新された推定アルゴリズムにより、使用される車両において、高い精度で車載部品の劣化度を推定することが可能になる。
【発明の効果】
【0031】
本開示によれば、車両に実装された推定アルゴリズムを適切に更新することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本開示の実施の形態に係る車両の概略構成を示す図である。
【
図2】
図1に示した車両の構成の詳細を示す図である。
【
図3】本開示の実施の形態に係る自動運転制御の処理手順を示すフローチャートである。
【
図4】本開示の実施の形態に係る車載部品の劣化診断方法の概要について説明するための図である。
【
図5】本開示の実施の形態に係る推定アルゴリズムの更新処理を示すフローチャートである。
【
図6】
図4に示した推定アルゴリズムを用いた車載部品の劣化診断方法を示すフローチャートである。
【
図7】
図4に示した第1推定アルゴリズムの変形例を示す図である。
【
図8】
図4に示した第2推定アルゴリズムの第1変形例を示す図である。
【
図9】
図4に示した第2推定アルゴリズムの第2変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0034】
図1は、本開示の実施の形態に係る車両の概略構成を示す図である。
図1を参照して、車両1は、自動運転キット(以下、「ADK(Autonomous Driving Kit)」と表記する)200と、車両プラットフォーム(以下、「VP(Vehicle Platform)」と表記する)2とを備える。
【0035】
VP2は、ベース車両100の制御システムと、ベース車両100内に設けられた車両制御インターフェースボックス(以下、「VCIB(Vehicle Control Interface Box)」と表記する)111とを含む。VCIB111は、CAN(Controller Area Network)のような車内ネットワークを通じてADK200と通信してもよい。なお、
図1では、ベース車両100とADK200とが離れた位置に示されているが、ADK200は、実際にはベース車両100に取り付けられている。この実施の形態では、ベース車両100のルーフトップにADK200が取り付けられる。ただし、ADK200の取り付け位置は適宜変更可能である。
【0036】
ベース車両100は、たとえば市販されるxEV(電動車)である。xEVは、電力を動力源の全て又は一部として利用する車両である。この実施の形態では、ベース車両100としてBEV(電気自動車)を採用する。ただしこれに限られず、ベース車両100は、BEV以外のxEV(HEV、PHEV、FCEVなど)であってもよい。ベース車両100が備える車輪の数は、たとえば4輪である。ただしこれに限られず、ベース車両100が備える車輪の数は、3輪であってもよいし、5輪以上であってもよい。
【0037】
ベース車両100の制御システムは、統合制御マネージャ115に加えて、ベース車両100を制御するための各種システムおよび各種センサを含む。統合制御マネージャ115は、ベース車両100に含まれる各種センサからの信号(センサ検出信号)に基づいて、ベース車両100の動作に関わる各種システムを統合して制御する。
【0038】
この実施の形態では、統合制御マネージャ115が制御装置150を含む。制御装置150は、プロセッサ151、RAM(Random Access Memory)152、及び記憶装置153を含む。プロセッサ151としては、たとえばCPU(Central Processing Unit)を採用できる。RAM152は、プロセッサ151によって処理されるデータを一時的に記憶する作業用メモリとして機能する。記憶装置153は、格納された情報を保存可能に構成される。記憶装置153は、たとえばROM(Read Only Memory)及び書き換え可能な不揮発性メモリを含む。記憶装置153には、プログラムのほか、プログラムで使用される情報(たとえば、マップ、数式、及び各種パラメータ)が記憶されている。この実施の形態では、記憶装置153に記憶されているプログラムをプロセッサ151が実行することで、各種の車両制御が実行される。ただし、制御装置150における車両制御は、ソフトウェアによる実行に限られず、専用のハードウェア(電子回路)で実行することも可能である。なお、制御装置150が備えるプロセッサの数は任意であり、所定の制御ごとにプロセッサが用意されてもよい。
【0039】
ベース車両100は、ブレーキシステム121と、ステアリングシステム122と、パワートレーンシステム123と、アクティブセーフティシステム125と、ボディシステム126とを含む。これらのシステムは、統合制御マネージャ115によって統合制御される。この実施の形態では、各システムがコンピュータを備える。そして、システムごとのコンピュータが車内ネットワーク(たとえば、CAN)を通じて統合制御マネージャ115と通信する。以下では、各システムが備えるコンピュータを、「ECU(Electronic Control Unit)」と称する。
【0040】
ブレーキシステム121は、ベース車両100の各車輪に設けられた制動装置と、制動装置を制御するECUとを含む。この実施の形態では、制動装置として油圧式ディスクブレーキ装置が採用される。ベース車両100は、車輪速センサ127A,127Bを備える。車輪速センサ127Aは、ベース車両100の前輪に設けられ、前輪の回転速度を検出する。車輪速センサ127Bは、ベース車両100の後輪に設けられ、後輪の回転速度を検出する。ブレーキシステム121のECUは、車輪速センサ127A,127Bで検出された各車輪の回転方向及び回転速度を統合制御マネージャ115へ出力する。
【0041】
ステアリングシステム122は、ベース車両100の操舵装置と、操舵装置を制御するECUとを含む。操舵装置は、たとえば、アクチュエータにより操舵角の調整が可能なラック&ピニオン式のEPS(Electric Power Steering)を含む。ベース車両100は、ピニオン角センサ128を備える。ピニオン角センサ128は、操舵装置を構成するアクチュエータの回転軸に連結されたピニオンギヤの回転角(ピニオン角)を検出する。ステアリングシステム122のECUは、ピニオン角センサ128で検出されたピニオン角を統合制御マネージャ115へ出力する。
【0042】
パワートレーンシステム123は、ベース車両100が備える車輪の少なくとも1つに設けられたEPB(Electric Parking Brake)と、ベース車両100のトラッスミッションに設けられたP-Lock装置と、シフトレンジを選択可能に構成されるシフト装置と、ベース車両100の駆動源と、パワートレーンシステム123に含まれる各装置を制御するECUとを含む。EPBは、前述の制動装置とは別に設けられ、電動アクチュエータによって車輪を固定状態にする。P-Lock装置は、たとえば、アクチュエータにより駆動可能なパーキングロックポールによってトランスミッションの出力軸の回転位置を固定状態にする。詳細は後述するが、この実施の形態では、ベース車両100の駆動源として、バッテリから電力の供給を受けるモータを採用する(
図4参照)。パワートレーンシステム123のECUは、EPBとP-Lock装置との各々による固定化の有無、シフト装置によって選択されたシフトレンジ、並びにバッテリ及びモータの各々の状態を、統合制御マネージャ115へ出力する。
【0043】
アクティブセーフティシステム125は、走行中の車両1について衝突の可能性を判定するECUを含む。ベース車両100は、車両1の前方及び後方を含む周辺状況を検出するカメラ129A及びレーダセンサ129B,129Cを備える。アクティブセーフティシステム125のECUは、カメラ129A及びレーダセンサ129B,129Cから受信した信号を用いて、衝突の可能性があるか否かを判定する。アクティブセーフティシステム125によって衝突の可能性があると判定された場合には、統合制御マネージャ115が、ブレーキシステム121に制動指令を出力して、車両1の制動力を増加させる。この実施の形態に係るベース車両100が初期(出荷時)からアクティブセーフティシステム125を備える。しかしこれに限られず、ベース車両に対して後付け可能なアクティブセーフティシステムが採用されてもよい。
【0044】
ボディシステム126は、ボディ系部品(たとえば、方向指示器、ホーン、及びワイパー)と、ボディ系部品を制御するECUとを備える。ボディシステム126のECUは、マニュアルモードでは、ユーザ操作に従ってボディ系部品を制御し、自律モードでは、ADK200からVCIB111及び統合制御マネージャ115を経て受信する指令に従ってボディ系部品を制御する。
【0045】
車両1は自動運転可能に構成される。VCIB111は、車両制御インターフェースとして機能する。車両1が自動運転で走行するときには、統合制御マネージャ115とADK200とがVCIB111を介して相互に信号のやり取りを行ない、ADK200からの指令に従って統合制御マネージャ115が自律モード(Autonomous Mode)による走行制御(すなわち、自動運転制御)を実行する。なお、ADK200は、ベース車両100から取り外すことも可能である。ベース車両100は、ADK200が取り外された状態でも、ユーザの運転によりベース車両100単体で走行することができる。ベース車両100単体で走行する場合には、ベース車両100の制御システムが、マニュアルモードによる走行制御(すなわち、ユーザ操作に応じた走行制御)を実行する。
【0046】
この実施の形態では、ADK200が、通信される各信号を定義するAPI(Application Program Interface)に従ってVCIB111との間で信号のやり取りを行なう。ADK200は、上記APIで定義された各種信号を処理するように構成される。ADK200は、たとえば、車両1の走行計画を作成し、作成された走行計画に従って車両1を走行させるための制御を要求する各種コマンドを、上記APIに従ってVCIB111へ出力する。以下、ADK200からVCIB111へ出力される上記各種コマンドの各々を、「APIコマンド」とも称する。また、ADK200は、ベース車両100の状態を示す各種信号を上記APIに従ってVCIB111から受信し、受信したベース車両100の状態を走行計画の作成に反映する。以下、ADK200がVCIB111から受信する上記各種信号の各々を、「APIシグナル」とも称する。APIコマンド及びAPIシグナルはどちらも、上記APIで定義された信号に相当する。ADK200の構成の詳細については後述する(
図2参照)。
【0047】
VCIB111は、ADK200から各種APIコマンドを受信する。VCIB111は、ADK200からAPIコマンドを受信すると、そのAPIコマンドを、統合制御マネージャ115が処理可能な信号の形式に変換する。以下、統合制御マネージャ115が処理可能な信号の形式に変換されたAPIコマンドを、「制御コマンド」とも称する。VCIB111は、ADK200からAPIコマンドを受信すると、そのAPIコマンドに対応する制御コマンドを統合制御マネージャ115へ出力する。
【0048】
統合制御マネージャ115の制御装置150は、ベース車両100の制御システムにおいて検出されたベース車両100の状態を示す各種信号(たとえば、センサ信号、又はステータス信号)を、VCIB111を介してADK200へ送る。VCIB111は、ベース車両100の状態を示す信号を統合制御マネージャ115から逐次受信する。VCIB111は、統合制御マネージャ115から受信した信号に基づいてAPIシグナルの値を決定する。また、VCIB111は、必要に応じて、統合制御マネージャ115から受信した信号をAPIシグナルの形式に変換する。そして、VCIB111は、得られたAPIシグナルをADK200へ出力する。VCIB111からADK200へは、ベース車両100の状態を示すAPIシグナルがリアルタイムで逐次出力される。
【0049】
この実施の形態において、統合制御マネージャ115とVCIB111との間では、たとえば自動車メーカーによって定義された汎用性の低い信号がやり取りされ、ADK200とVCIB111との間では、より汎用性の高い信号(たとえば、公開されたAPI(Open API)で定義された信号)がやり取りされる。VCIB111は、ADK200と統合制御マネージャ115との間で信号の変換を行なうことにより、ADK200からの指令に従って統合制御マネージャ115が車両制御を行なうことを可能にする。ただし、VCIB111の機能は、上記信号の変換を行なう機能のみには限定されない。たとえば、VCIB111は、所定の判断を行ない、その判断結果に基づく信号(たとえば、通知、指示、又は要求を行なう信号)を、統合制御マネージャ115とADK200との少なくとも一方へ送ってもよい。VCIB111の構成の詳細については後述する(
図2参照)。
【0050】
ベース車両100は、通信装置130をさらに備える。通信装置130は、各種通信I/F(インターフェース)を含む。制御装置150は、通信装置130を通じて車両1の外部の装置(たとえば、後述するモバイル端末UT及びサーバ500)と通信を行なうように構成される。通信装置130は、移動体通信網(テレマティクス)にアクセス可能な無線通信機(たとえば、DCM(Data Communication Module))を含む。通信装置130は移動体通信網を介してサーバ500と通信する。無線通信機は、5G(第5世代移動通信システム)対応の通信I/Fを含んでもよい。また、通信装置130は、車内又は車両周辺の範囲内に存在するモバイル端末UTと直接通信するための通信I/Fを含む。通信装置130とモバイル端末UTとは、無線LAN(Local Area Network)、NFC(Near Field Communication)、又はBluetooth(登録商標)のような近距離通信を行なってもよい。
【0051】
モバイル端末UTは、車両1のユーザによって携帯される端末である。この実施の形態では、モバイル端末UTとして、タッチパネルディスプレイを具備するスマートフォンを採用する。ただしこれに限られず、モバイル端末UTとしては、任意のモバイル端末を採用可能であり、ラップトップ、タブレット端末、ウェアラブルデバイス(たとえば、スマートウォッチ又はスマートグラス)、又は電子キーなども採用可能である。
【0052】
上述の車両1は、MaaS(Mobility as a Service)システムの構成要素の1つとして採用され得る。MaaSシステムは、たとえばMSPF(Mobility Service Platform)を含む。MSPFは、各種モビリティサービス(たとえば、ライドシェア事業者、カーシェア事業者、保険会社、レンタカー事業者、タクシー事業者等により提供される各種モビリティサービス)が接続される統一プラットフォームである。サーバ500は、MSPFにおいてモビリティサービスのための情報の管理及び公開を行なうコンピュータである。サーバ500は、各種モビリティの情報を管理し、事業者からの要求に応じて情報(たとえば、API、及び、モビリティ間の連携に関する情報)を提供する。サービスを提供する事業者は、MSPF上で公開されたAPIを用いて、MSPFが提供する様々な機能を利用することができる。たとえば、ADKの開発に必要なAPIは、MSPF上に公開されている。
【0053】
図2は、車両1の構成の詳細を示す図である。
図1とともに
図2を参照して、ADK200は、車両1の自動運転を行なうための自動運転システム(以下、「ADS(Autonomous Driving System)」と表記する)202を含む。ADS202は、コンピュータ210と、HMI(Human Machine Interface)230と、認識用センサ260と、姿勢用センサ270と、センサクリーナ290とを含む。
【0054】
コンピュータ210は、プロセッサと、APIを利用した自動運転ソフトウェアを記憶する記憶装置とを備え、プロセッサによって自動運転ソフトウェアを実行可能に構成される。自動運転ソフトウェアにより、自動運転に関する制御(後述する
図3参照)が実行される。自動運転ソフトウェアは、OTA(Over The Air)によって逐次更新されてもよい。コンピュータ210は、通信モジュール210A及び210Bをさらに備える。
【0055】
HMI230は、ユーザとコンピュータ210とが情報をやり取りするための装置である。HMI230は、入力装置及び報知装置を含む。ユーザは、HMI230を通じて、コンピュータ210に指示又は要求を行なったり、自動運転ソフトウェアで使用されるパラメータ(ただし、変更が許可されているものに限る)の値を変更したりすることができる。HMI230は、入力装置及び報知装置の両方の機能を兼ね備えるタッチパネルディスプレイであってもよい。
【0056】
認識用センサ260は、車両1の外部環境を認識するための情報(以下、「環境情報」とも称する)を取得する各種センサを含む。認識用センサ260は、車両1の環境情報を取得し、コンピュータ210へ出力する。環境情報は、自動運転制御に用いられる。この実施の形態では、認識用センサ260が、車両1の周囲(前方及び後方を含む)を撮像するカメラと、電磁波又は音波によって障害物を検知する障害物検知器(たとえば、ミリ波レーダ及び/又はライダー)とを含む。コンピュータ210は、たとえば、認識用センサ260から受信する環境情報を用いて、車両1から認識可能な範囲に存在する人、物体(他の車両、柱、ガードレールなど)、及び道路上のライン(たとえば、センターライン)を認識できる。認識のために、人工知能(AI)又は画像処理用プロセッサが用いられてもよい。
【0057】
姿勢用センサ270は、車両1の姿勢に関する情報(以下、「姿勢情報」とも称する)を取得し、コンピュータ210へ出力する。姿勢用センサ270は、車両1の加速度、角速度、及び位置を検出する各種センサを含む。この実施の形態では、姿勢用センサ270が、IMU(Inertial Measurement Unit)及びGPS(Global Positioning System)センサを含む。IMUは、車両1の前後方向、左右方向、及び上下方向の各々の加速度、並びに車両1のロール方向、ピッチ方向、及びヨー方向の各々の角速度を検出する。GPSセンサは、複数のGPS衛星から受信する信号を用いて車両1の位置を検出する。自動車及び航空機の分野においてIMUとGPSとを組み合わせて高い精度で姿勢を計測する技術が公知である。コンピュータ210は、たとえば、こうした公知の技術を利用して、上記姿勢情報から車両1の姿勢を計測してもよい。
【0058】
センサクリーナ290は、車外で外気にさらされるセンサ(たとえば、認識用センサ260)の汚れを除去する装置である。たとえば、センサクリーナ290は、洗浄液及びワイパーを用いて、カメラのレンズ及び障害物検知器の出射口をクリーニングするように構成されてもよい。
【0059】
車両1においては、安全性を向上させるため、所定の機能(たとえば、ブレーキ、ステアリング、及び車両固定)に冗長性を持たせている。ベース車両100の制御システム102は、同等の機能を実現するシステムを複数備える。具体的には、ブレーキシステム121はブレーキシステム121A及び121Bを含む。ステアリングシステム122はステアリングシステム122A及び122Bを含む。パワートレーンシステム123は、EPBシステム123AとP-Lockシステム123Bとを含む。各システムがECUを備える。同等の機能を実現する複数のシステムのうち、一方に異常が生じても、他方が正常に動作することで、車両1において当該機能は正常に働く。
【0060】
VCIB111は、VCIB111AとVCIB111Bとを含む。VCIB111A及び111Bの各々はコンピュータを含む。コンピュータ210の通信モジュール210A、210Bは、それぞれVCIB111A、111Bのコンピュータと通信可能に構成される。VCIB111とVCIB111Bとは、相互に通信可能に接続されている。VCIB111A及び111Bの各々は、単独で動作可能であり、一方に異常が生じても、他方が正常に動作することで、VCIB111は正常に動作する。VCIB111A及び111Bはどちらも統合制御マネージャ115を介して上記各システムに接続されている。ただし、
図2に示すように、VCIB111AとVCIB111Bとでは接続先が一部異なっている。
【0061】
この実施の形態では、車両1を加速させる機能については、冗長性を持たせていない。パワートレーンシステム123は、車両1を加速させるためのシステムとして、推進システム123Cを含む。
【0062】
車両1は、自律モードとマニュアルモードとを切替え可能に構成される。ADK200がVCIB111から受信するAPIシグナルには、車両1が自律モードとマニュアルモードとのいずれの状態かを示す信号(以下、「自律ステート」と表記する)が含まれる。ユーザは、所定の入力装置(たとえば、HMI230又はモバイル端末UT)を通じて、自律モードとマニュアルモードとのいずれかを選択できる。ユーザによっていずれかの運転モードが選択されると、選択された運転モードに車両1がなり、選択結果が自律ステートに反映される。ただし、車両1が自動運転可能な状態になっていなければ、ユーザが自律モードを選択しても自律モードに移行しない。車両1の運転モードの切替えは、統合制御マネージャ115によって行なわれてもよい。統合制御マネージャ115は、車両の状況に応じて自律モードとマニュアルモードとを切り替えてもよい。
【0063】
車両1が自律モードであるときには、コンピュータ210が、VP2から車両1の状態を取得して、車両1の次の動作(たとえば、加速、減速、及び曲がる)を設定する。そして、コンピュータ210は、設定された車両1の次の動作を実現するための各種指令を出力する。コンピュータ210がAPIソフトウェア(すなわち、APIを利用した自動運転ソフトウェア)を実行することにより、自動運転制御に関する指令がADK200からVCIB111を通じて統合制御マネージャ115へ送信される。
【0064】
図3は、この実施の形態に係る自動運転制御においてADK200が実行する処理を示すフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、車両1が自律モードであるときに、APIに対応する周期(API周期)で繰り返し実行される。以下では、フローチャート中の各ステップを、単に「S」と表記する。
【0065】
図1及び
図2とともに
図3を参照して、S101では、コンピュータ210が現在の車両1の情報を取得する。たとえば、コンピュータ210は、認識用センサ260及び姿勢用センサ270から車両1の環境情報及び姿勢情報を取得する。さらに、コンピュータ210はAPIシグナルを取得する。この実施の形態では、車両1が自律モード及びマニュアルモードのいずれである場合にも、車両1の状態を示すAPIシグナルがVCIB111からADK200へリアルタイムで逐次出力されている。コンピュータ210が取得するAPIシグナルには、前述の自律ステートのほか、車輪速センサ127A,127Bで検出された各車輪の回転方向及び回転速度を示す信号などが含まれる。自律ステートがマニュアルモードを示すときには、
図3に示す一連の処理は終了する。
【0066】
S102では、コンピュータ210が、S101で取得した車両1の情報に基づいて走行計画を作成する。たとえば、コンピュータ210が、車両1の挙動(たとえば、車両1の姿勢)を計算し、車両1の状態及び外部環境に適した走行計画を作成する。走行計画は、所定期間における車両1の挙動を示すデータである。すでに走行計画が存在する場合には、S102においてその走行計画が修正されてもよい。
【0067】
S103では、コンピュータ210が、S102で作成された走行計画から制御的な物理量(加速度、タイヤ切れ角など)を抽出する。S104では、コンピュータ210が、S103で抽出された物理量をAPI周期ごとに分割する。S105では、コンピュータ210が、S104で分割された物理量を用いてAPIソフトウェアを実行する。このようにAPIソフトウェアが実行されることにより、走行計画に従う物理量を実現するための制御を要求するAPIコマンド(推進方向コマンド、推進コマンド、制動コマンド、車両固定コマンドなど)がADK200からVCIB111へ送信される。VCIB111は、受信したAPIコマンドに対応する制御コマンドを統合制御マネージャ115へ送信し、統合制御マネージャ115は、その制御コマンドに従って車両1の自動運転制御を行なう。
【0068】
上記S101~S105の処理が繰り返し実行されることにより、車両1の自動運転が実行される。この実施の形態では、車両1が有人の状態であるときに車両1の自動運転が行なわれることを想定している。しかしこれに限られず、車両1が無人の状態であるときに車両1の自動運転が行なわれるようにしてもよい。
【0069】
この実施の形態に係る車両1は、車両1に実装された推定アルゴリズムを用いて、車載部品の劣化診断を行なうように構成される。
図4は、この実施の形態に係る車載部品の劣化診断方法の概要について説明するための図である。
【0070】
図1及び
図2とともに
図4を参照して、ブレーキシステム121は、油圧式ディスクブレーキ装置10を含む。油圧式ディスクブレーキ装置10は、ブレーキ機構及びブレーキアクチュエータを有し、ブレーキアクチュエータによって調整される油圧を用いてブレーキ機構を駆動する。
【0071】
具体的には、ブレーキ機構は、車体に固定されるキャリパと、車輪に固定され車輪と一体的に回転するブレーキロータとを含む。キャリパは、ホイールシリンダ及びブレーキパッドを有し、ブレーキアクチュエータから供給されるブレーキ油の圧力(すなわち、油圧)によってホイールシリンダを作動させることによりブレーキパッドをブレーキロータに押し付けて摩擦制動力を発生させる。ブレーキパッドは、車両1を制動するための部品に相当する。ホイールシリンダに加わる油圧が高圧になるほど摩擦制動力は大きくなる。ブレーキパッドの残り溝が小さくなるほどブレーキパッドによる摩擦制動力は小さくなる傾向がある。ブレーキパッドの残り溝は摩耗により小さくなる。ブレーキパッドの劣化(たとえば、摩耗)が進行すると、同じ油圧でも得られる摩擦制動力は小さくなる。
【0072】
ブレーキアクチュエータは、マスタシリンダから供給された油圧を4輪の各ホイールシリンダに供給する油圧回路と、各油圧回路に設けられた制御弁(たとえば、減圧弁)と、油圧調整用のポンプ(たとえば、加圧用のポンプ)とを備える。
【0073】
ブレーキシステム121は、油圧センサ11及び12を含む。油圧センサ11、12による検出結果は、それぞれブレーキシステム121A、121Bへ出力される。油圧センサ11及び12の各々は、マスタシリンダ及びホイールシリンダの各々の油圧を検出するように構成される。ブレーキシステム121A及び121Bの各々に含まれるECUは、ブレーキアクチュエータの制御弁及びポンプを制御することにより、各ホイールシリンダに加わる油圧(ひいては、各車輪に対する制動力)を調整することができる。この実施の形態では、油圧式ディスクブレーキ装置10を構成する各ブレーキパッドが、本開示に係る「第1部品」の一例に相当する。また、油圧センサ11及び12の各々は、本開示に係る「第1センサ」の一例に相当する。
【0074】
車両1は、推進システム123Cに電力を供給するバッテリ160を備える。バッテリ160としては、公知の車両用蓄電装置(たとえば、液式二次電池、全固体二次電池、又は組電池)を採用できる。車両用二次電池の例としては、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池が挙げられる。
【0075】
推進システム123Cは、MG(Motor Generator)20と、MG20の状態を検出するMGセンサ20aと、ECU21と、PCU(Power Control Unit)22とを含む。推進システム123Cは、バッテリ160に蓄えられた電力を用いて車両1の走行駆動力を発生させる。MG20は、たとえば三相交流モータジェネレータである。PCU22は、たとえば、インバータと、コンバータと、リレー(以下、「SMR(System Main Relay)」と称する)とを含む。PCU22は、ECU21によって制御される。SMRは、バッテリ160からMG20までの電路の接続/遮断を切り替えるように構成される。SMRは、車両1の走行時に閉状態(接続状態)にされる。
【0076】
MG20は、PCU22によって駆動され、車両1の駆動輪を回転させる。また、MG20は、回生発電を行ない、発電した電力をバッテリ160に供給する。PCU22は、バッテリ160から供給される電力を用いてMG20を駆動する。PCU22は、ECU21から指示された電力値(たとえば、電流値)によってMG20を駆動する。この実施の形態では、MG20の駆動電圧(MG20を駆動するための電圧)が概ね一定に維持され、MG20の駆動電流(MG20を駆動するための電流)が大きくなるほどMG20が車両1を推進する力(車両1を加速させる力)が大きくなる。MGセンサ20aは、MG20の駆動電流、駆動電圧、及び温度の各々を検出するように構成される。MGセンサ20aによる検出結果は、ECU21へ出力される。
【0077】
MG20は、車両1を駆動するための部品に相当する。この実施の形態では、車両1が1つのMG20を備える。しかし、車両1が備える走行用のモータ(MG20)の数は任意であり、2つでも3つ以上でもよい。走行用のモータはインホイールモータであってもよい。この実施の形態では、MG20が、本開示に係る「第2部品」の一例に相当する。また、MGセンサ20aは、本開示に係る「第2センサ」の一例に相当する。
【0078】
統合制御マネージャ115に含まれる制御装置150は、ブレーキシステム121AのECUと、ブレーキシステム121BのECUと、推進システム123CのECU21との各々と通信可能に構成される。制御装置150の記憶装置153には、第1推定アルゴリズムE1と第2推定アルゴリズムE2とが記憶されている。第1推定アルゴリズムE1は、油圧式ディスクブレーキ装置10を構成するブレーキパッドごとに用意される。この実施の形態では、車両1が4つのブレーキパッドを備えるため、記憶装置153は4つの第1推定アルゴリズムE1を記憶する。また、記憶装置153は、MG20に対応する1つの第2推定アルゴリズムE2を記憶する。ただし、車両1が走行用のモータを複数備える形態では、走行用のモータごとに第2推定アルゴリズムE2が用意されてもよい。
【0079】
第1推定アルゴリズムE1は、対応するブレーキパッドに関する油圧レベル(第1劣化パラメータ)とそのブレーキパッドの劣化度との関係を示す。第1推定アルゴリズムE1は、対応するブレーキパッドに関して、油圧レベルの値が入力されると、そのブレーキパッドの劣化度を出力する。
【0080】
第2推定アルゴリズムE2は、対応するMG20の駆動電流(第2劣化パラメータ)とそのMG20の劣化度との関係を示す。第2推定アルゴリズムE2は、対応するMG20に関して、駆動電流(MG20を駆動するための電流)の値が入力されると、そのMG20の劣化度を出力する。
【0081】
この実施の形態では、上記各推定アルゴリズムとして、AI(人工知能)によるアルゴリズムを採用する。上記各推定アルゴリズムは、サーバ500が保有するビッグデータ(たとえば、車両1と同一仕様の車両で実測されたデータ)を用いて機械学習された学習済みモデルであってもよい。ただしこれに限られず、上記各推定アルゴリズムは、ルールベースのアルゴリズムであってもよい。上記各推定アルゴリズムは、たとえば数式又はマップであってもよい。
【0082】
制御装置150は、所定の期間(以下、「運用期間」と称する)において車両1の自動運転を実行するように構成される。車両1は、運用期間において、自動運転により所定のサービス(たとえば、物流サービス又は旅客輸送サービス)を提供してもよい。車両1の自動運転中は、
図3に示した処理が実行され、制御装置150がADK200からの指令に従って車両1の各種システム(たとえば、
図2に示したブレーキシステム121、ステアリングシステム122、パワートレーンシステム123、アクティブセーフティシステム125、及びボディシステム126)を制御する。
【0083】
さらに、制御装置150は、車載部品の性能テストのためにも車両1の自動運転を実行する。制御装置150は、車両1の自動運転による性能テストを実行し、性能テスト中に、油圧式ディスクブレーキ装置10を構成する各ブレーキパッドの性能を示す第1データと、MG20の性能を示す第2データとを取得するように構成される。制御装置150は、性能テスト中に取得された第1データを用いて第1推定アルゴリズムE1を更新し、性能テスト中に取得された第2データを用いて第2推定アルゴリズムE2を更新するように構成される。以下、
図5を用いて、推定アルゴリズムの更新処理について説明する。
【0084】
図5は、推定アルゴリズムの更新処理を示すフローチャートである。このフローチャートによって示される一連の処理は、たとえば、所定の条件を満たす状況において、車両1の制御システム(
図2に示した制御システム102、VCIB111、及びADS202を含む)が起動すると、開始される。この実施の形態では、運用期間の合間に車両1の制御システムが起動すると、
図5に示す一連の処理が開始される。たとえば、第1運用期間と、第1運用期間の次の運用期間に相当する第2運用期間とが制御装置150に設定されている場合には、第1運用期間が終了してから第2運用期間が開始されるまでの間に、車両1の制御システムが起動すると、
図5に示す処理が開始される。他方、第1運用期間中と第2運用期間中とのいずれかにおいて車両1の制御システムが起動されても、
図5に示す処理は開始されない。
【0085】
なお、VCIB111及びADS202の各々の起動/停止は、ベース車両100の制御システム102の起動/停止と連動して切り替わってもよい。この実施の形態では、ユーザによって操作されるベース車両100の起動スイッチのON/OFFに連動して、ベース車両100の制御システム102の起動/停止が切り替わる。ベース車両100の起動スイッチは、一般に「パワースイッチ」又は「イグニッションスイッチ」などと称される。
【0086】
図1~
図4とともに
図5を参照して、S11では、制御装置150が、車両1の自動運転のための第1キャリブレーションをADK200に要求する。第1キャリブレーションは、ADK200単独のキャリブレーションである。要求を受けたADK200のコンピュータ210は、たとえば認識用センサ260(カメラ、ライダーなど)の調整を実行する。調整対象となるパラメータ(たとえば、認識用センサ260の視野角)が正常な範囲から外れている場合には、コンピュータ210は、自ら調整を実行してもよいし、ユーザに調整を促してもよい。
【0087】
S12では、制御装置150が、車両1の自動運転による性能テストを実行する。詳しくは、制御装置150がADK200に性能テストを要求することで、性能テストのための車両1の自動運転が実行される。そして、制御装置150は、性能テスト中に所定の部品の性能を示すデータを取得する。この実施の形態では、油圧式ディスクブレーキ装置10を構成する各ブレーキパッド、及びMG20の各々が、上記所定の部品に相当する。
【0088】
制御装置150は、ADK200からの指令に従って性能テストのための自動運転制御を実行する。具体的には、制御装置150は、停止状態の車両1に所定の加速制御を実行し、車両1の加速中に所定のデータ(以下、「加速データ」とも称する)を計測した後、所定の条件で車両1を安定走行させる。そして、制御装置150は、安定走行中の車両1に所定の制動制御を実行し、車両1を停止させる。この際、制御装置150は、車両1の減速中及び停止時に所定のデータ(以下、「制動データ」とも称する)を計測する。
【0089】
上記所定の加速制御においては、車両1に所定の加速性能の発動を指示する推進指令(以下、「推進テスト信号」とも称する)が、ADK200からVCIB111を経て統合制御マネージャ115へ送信される。上記加速データは、車両1の加速性能を示すデータ(以下、「加速性能データ」とも称する)と、MG20の駆動電流とを含む。計測された加速データは、記憶装置153に保存される。
【0090】
この実施の形態では、車両1が停止状態で加速を開始してから所定速度(たとえば、100km/h又は60マイル/h)に到達するまでの時間(以下、「第1加速時間」とも称する)が、加速性能データとして計測される。加速性能データは、車両1の重量をさらに含んでもよい。第1加速時間が短いほど車両1の加速性能は高い。ただし、同じ加速性能でも、車両1の重量が大きくなるほど車両1は加速しにくくなる。制御装置150は、加速性能データ(たとえば、第1加速時間)からMG20の劣化度を推定する。具体的には、制御装置150は、車両1の加速性能が低いほどMG20の劣化度が大きいと推定する。そして、制御装置150は、推定されたMG20の劣化度とMG20の駆動電流とを関連付けて記憶装置153に記録する。
【0091】
上記加速性能データとMG20の駆動電流との各々は、MG20の性能を示すデータに相当する。モータの性能が良いほど同じ加速性能を得るために必要な駆動電流が小さくなる。MG20の駆動電流は、MGセンサ20a(
図4)によって計測される。
【0092】
なお、上記加速性能データは、第1加速時間に代えて又は加えて、車両1が停止状態で加速を開始してから所定距離を走りきるまでの時間(以下、「第2加速時間」とも称する)を含んでもよい。第2加速時間が短いほど車両1の加速性能は高い。
【0093】
上記所定の制動制御においては、車両1に所定の制動性能の発動を指示する制動指令(以下、「制動テスト信号」とも称する)が、ADK200からVCIB111を経て統合制御マネージャ115へ送信される。上記制動データは、車両1の制動性能を示すデータ(以下、「制動性能データ」とも称する)と、各ブレーキパッドの油圧レベルとを含む。計測された制動データは、記憶装置153に保存される。
【0094】
この実施の形態では、制動距離(すなわち、車両1が制動を開始してから停止するまでに進んだ距離)が、制動性能データとして計測される。制動性能データは、車両1の重量をさらに含んでもよい。制動距離が短いほど車両1の制動性能は高い。ただし、同じ制動性能でも、車両1の重量が大きくなるほど車両1は減速しにくくなる。制御装置150は、制動性能データ(たとえば、制動距離)からブレーキパッドの劣化度を推定する。具体的には、制御装置150は、車両1の制動性能が低いほどブレーキパッドの劣化度が大きいと推定する。そして、制御装置150は、推定されたブレーキパッドの劣化度とブレーキパッドの油圧レベルとを関連付けて記憶装置153に記録する。
【0095】
上記制動性能データとブレーキパッドの油圧レベル(すなわち、ホイールシリンダに加わる油圧)との各々は、ブレーキパッドの性能を示すデータに相当する。ブレーキパッドの性能が良いほど同じ制動性能を得るために必要な油圧レベルが小さくなる。各ブレーキパッドの油圧レベルは、油圧センサ11及び12(
図4)の少なくとも一方によって計測される。この実施の形態では、ブレーキシステム121A及び油圧センサ11のいずれにも異常が生じていない場合には、油圧センサ11による検出値を、上記制動データとして採用する。そして、ブレーキシステム121A及び油圧センサ11のいずれかに異常が生じている場合には、油圧センサ12による検出値を、上記制動データとして採用する。
【0096】
なお、上記制動性能データは、制動距離に代えて又は加えて、車両1が制動を開始したときの減速度を含んでもよい。車両1が制動を開始したときの減速度が大きいほど車両1の制動性能は高い。
【0097】
続くS13では、制御装置150が、上記S12における性能テストの結果(実測された加速性能データ及び制動性能データを含む)をADK200に送信して、車両1の自動運転のための第2キャリブレーションをADK200に要求する。第2キャリブレーションは、ベース車両100(統合制御マネージャ115)とADK200との間での信号のやり取りに関するキャリブレーションである。要求を受けたADK200のコンピュータ210は、自動運転に関する指令(たとえば、推進指令又は制動指令)と車両1の挙動との整合をとるための調整を実行する。具体的には、推進テスト信号によって得られた加速性能が正常な範囲から外れている場合には、コンピュータ210は、適正な加速性能が得られるように推進指令を調整する。また、制動テスト信号によって得られた制動性能が正常な範囲から外れている場合には、コンピュータ210は、適正な制動性能が得られるように制動指令を調整する。このように、制御装置150は、性能テストによって取得されたデータを用いて、車両1の自動運転のためのキャリブレーションを実行するように構成される。第1及び第2キャリブレーションが実行されることにより、ADK200による自動運転の準備が完了する。
【0098】
続くS14では、制御装置150が、上記S12における性能テストの結果を用いて、油圧式ディスクブレーキ装置10を構成する各ブレーキパッド、及びMG20の各々について、劣化診断を行なう。この劣化診断によって部品交換の要否が判断される。性能テストにおいて実測された加速性能が所定水準(第1水準)よりも低い場合には、制御装置150は、MG20の交換タイミングになったと判断し(S14にてYES)、処理をS19に進める。また、性能テストにおいて実測された制動性能が所定水準(第2水準)よりも低い場合にも、制御装置150は、油圧式ディスクブレーキ装置10を構成するいずれかのブレーキパッドの交換タイミングになったと判断し(S14にてYES)、処理をS19に進める。
【0099】
S19では、制御装置150が所定の交換処理を実行する。所定の交換処理では、診断結果の記録、報知、及び送信の少なくとも1つが実行される。診断結果は、交換が必要な部品(たとえば、ブレーキパッド、又はMG20)を示す情報を含む。診断結果は、ブレーキパッドとMG20とのいずれの交換が必要かを示してもよい。また、制御装置150は、各ブレーキパッドの油圧レベルに基づいて、油圧式ディスクブレーキ装置10を構成するいずれのブレーキパッドの交換が必要かを特定し、特定結果を上記の診断結果に加えてもよい。制御装置150は、診断結果を記憶装置153に記録してもよい。制御装置150は、所定の報知装置(たとえば、HMI230又はモバイル端末UT)に診断結果を報知させてもよい。制御装置150は、診断結果をサーバ500へ送信してもよい。制御装置150は、S19において、車両1の運用を禁止し、代わりの車両を手配するための処理を実行してもよい。たとえば、制御装置150は、サーバ500に対して車両の手配を依頼してもよい。S19の処理が実行されると、
図5に示す一連の処理は終了する。
【0100】
上記S14において、油圧式ディスクブレーキ装置10を構成する各ブレーキパッド、及びMG20のいずれも交換不要と判断された場合には(S14にてNO)、処理はS15に進む。S15では、制御装置150が、今回の性能テストの結果と、過去に実行された性能テストの結果とを用いて、第1推定アルゴリズムE1及び第2推定アルゴリズムE2の各々を更新する。
【0101】
具体的には、記憶装置153に記録された性能テストの結果によって、ブレーキパッドの劣化度とブレーキパッドの油圧レベルとの関係(以下、「第1関係」と称する)と、MG20の劣化度とMG20の駆動電流との関係(以下、「第2関係」と称する)とが示される。制御装置150は、性能テストにおいて実測された第1関係を用いて、第1推定アルゴリズムE1による推定結果が実測データに近づくように、第1推定アルゴリズムE1を補正する。また、制御装置150は、性能テストにおいて実測された第2関係を用いて、第2推定アルゴリズムE2による推定結果が実測データに近づくように、第2推定アルゴリズムE2を補正する。制御装置150は、公知の学習技術(回帰分析、k最近傍法、決定木、クラスタリング、Q学習など)を用いてアルゴリズムを更新してもよい。ルールベースのアルゴリズムの更新では、たとえば最小二乗法が使用されてもよい。
【0102】
続くS16では、制御装置150が、S15の処理の実行回数(すなわち、推定アルゴリズムの更新回数)が所定回数以上になったか否かを判断する。推定アルゴリズムの更新回数は、車両1が現在の仕様になってからの積算回数である。たとえば、後付けによって車両1の仕様が現在の仕様に変更された場合には、後付けが行なわれてから現在までに推定アルゴリズムが更新された回数(積算回数)が、上記推定アルゴリズムの更新回数に相当する。上記所定回数は任意に設定できる。上記所定回数は、3回~10回程度であってもよいし、10回よりも多い回数であってもよい。
【0103】
推定アルゴリズムの更新回数が上記所定回数以上になった場合には(S16にてYES)、制御装置150は、S171において推定フラグにONを設定する。推定アルゴリズムの更新回数が上記所定回数未満である場合には(S16にてNO)、制御装置150は、S172において推定フラグにOFFを設定する。推定フラグは、記憶装置153に記憶されている。推定フラグがONである場合には、第1推定アルゴリズムE1及び第2推定アルゴリズムE2の各々による推定が許可される。推定フラグがOFFである場合には、第1推定アルゴリズムE1及び第2推定アルゴリズムE2の各々による推定が禁止される。S171とS172とのいずれかにおいて推定フラグが設定されると、
図5に示す一連の処理は終了する。
【0104】
推定フラグがONである場合には、制御装置150は、運用期間内において、第1推定アルゴリズムE1及び第2推定アルゴリズムE2の各々による推定を実行する。なお、運用期間内においては、制御装置150がADK200からの指令に従って車両1の自動運転を実行する。
【0105】
図6は、推定アルゴリズムを用いた車載部品の劣化診断方法を示すフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、部品ごとに実行される。たとえば、制御装置150に設定された運用期間内において、制御装置150がADK200から所定の制動指令(より特定的には、前述した制動テスト信号と同じ指令)を受信すると、制御装置150は、油圧式ディスクブレーキ装置10を構成する各ブレーキパッドについて以下に説明する
図6に示す処理を実行する。また、制御装置150に設定された運用期間内において、制御装置150がADK200から所定の推進指令(より特定的には、前述した推進テスト信号と同じ指令)を受信すると、制御装置150は、MG20について以下に説明する
図6に示す処理を実行する。
【0106】
図1~
図4とともに
図6を参照して、S21では、推定フラグがONであるか否かを制御装置150が判断する。推定フラグは、車両1の運用開始前に、
図4に示した処理(S171又はS172)によって設定される。推定フラグがOFFである場合には(S21にてNO)、S22以降の処理は実行されない。推定フラグがONである場合には(S21にてYES)、処理がS22に進む。
【0107】
S22では、制御装置150が、車載センサにより検出された劣化パラメータの値を推定アルゴリズムに入力する。たとえば、ブレーキパッドに関する処理では、制御装置150が、油圧センサ11により検出されたブレーキパッドの油圧レベルを、そのブレーキパッドに対応する第1推定アルゴリズムE1に入力する。油圧センサ11の代わりに油圧センサ12が使用されてもよい。S22の処理は、各ブレーキパッドについて実行される。また、MG20に関する処理では、制御装置150が、MGセンサ20aにより検出されたMG20の駆動電流を、MG20に対応する第2推定アルゴリズムE2に入力する。
【0108】
S23では、制御装置150が、推定アルゴリズムから出力される部品の劣化度を用いて、その部品の劣化診断を行なう。この劣化診断によって部品交換の要否が判断される。たとえば、ブレーキパッドに関する処理では、第1推定アルゴリズムE1から出力されるブレーキパッドの劣化度が所定の閾値(第1閾値)を超えたか否かを、制御装置150が判断する。ブレーキパッドの劣化度が第1閾値を超えている場合には、制御装置150は、そのブレーキパッドの交換タイミングになったと判断し(S23にてYES)、処理をS24に進める。S24の処理は、各ブレーキパッドについて実行される。また、MG20に関する処理では、第2推定アルゴリズムE2から出力されるMG20の劣化度が所定の閾値(第2閾値)を超えたか否かを、制御装置150が判断する。MG20の劣化度が第2閾値を超えている場合には、制御装置150は、MG20の交換タイミングになったと判断し(S23にてYES)、処理をS24に進める。
【0109】
S24では、制御装置150が所定の交換処理を実行する。S24では、
図4のS19と同様に、診断結果の記録、報知、及び送信の少なくとも1つが実行されてもよい。S24では、制御装置150が、自動運転(車両1の運用)を中断するための走行、及び代わりの車両の手配をさらに実行してもよい。
【0110】
上記S23において、油圧式ディスクブレーキ装置10を構成する各ブレーキパッド、及びMG20のいずれも交換不要と判断された場合には(S23にてNO)、
図6に示す一連の処理は終了する。上記のように、制御装置150は、車両1の運用中に、推定アルゴリズムの出力に基づいて車載部品の劣化度が所定の閾値を超えたか否かを判断する。こうした構成によれば、車載部品を適切なタイミングで交換しやすくなる。
【0111】
以上説明したように、この実施の形態に係る車載部品の劣化診断方法は、
図5及び
図6に示した処理を含む。
図5のS12では、車両1が、自動運転による性能テストを実行し、性能テスト中に部品の性能を示すデータを取得する。
図5のS15では、車両1が、性能テスト中に取得されたデータを用いて、推定アルゴリズムを更新する。
図6のS22及びS23では、車両1が、更新された推定アルゴリズムを用いて部品の劣化度を推定する。こうした車載部品の劣化診断方法によれば、車両1に実装された推定アルゴリズムを適切に更新することが可能になる。そして、更新された推定アルゴリズムにより、使用される車両1において、高い精度で車載部品の劣化度を推定することが可能になる。
【0112】
ブレーキシステム121が備える制動装置は、油圧式ディスクブレーキ装置に限られない。油圧式ディスクブレーキ装置の代わりに、電動サービスブレーキ装置が採用されてもよい。そして、
図4に示した第1推定アルゴリズムE1の代わりに、以下に説明する
図7に示す第1推定アルゴリズムE1Aが記憶装置153に記憶されてもよい。
【0113】
図7は、第1推定アルゴリズムE1の変形例を示す図である。
図7を参照して、第1推定アルゴリズムE1Aは、電動サービスブレーキ装置を構成する電動モータ(油圧ポンプの代わりにマスタシリンダのピストンを押すモータ)の駆動電流が入力されると、対応するブレーキパッドの劣化度を出力する。
図5に示した処理のS15において、第1推定アルゴリズムE1Aが更新され、
図6に示した処理のS22において、電動モータの駆動電流(センサ検出値)が第1推定アルゴリズムE1Aに入力されてもよい。
【0114】
上記実施の形態において、
図4に示した第2推定アルゴリズムE2の代わりに、以下に説明する
図8に示す第2推定アルゴリズムE2Aが記憶装置153に記憶されてもよい。
【0115】
図8は、第2推定アルゴリズムE2の第1変形例を示す図である。
図8を参照して、第2推定アルゴリズムE2Aは、MG20の温度が入力されると、MG20の劣化度を出力する。
図5に示した処理のS15において、第2推定アルゴリズムE2Aが更新され、
図6に示した処理のS22において、MG20の温度(センサ検出値)が第2推定アルゴリズムE2Aに入力されてもよい。
【0116】
推定アルゴリズムの入力は、複数のパラメータであってもよい。たとえば、上記実施の形態において、
図4に示した第2推定アルゴリズムE2の代わりに、以下に説明する
図9に示す第2推定アルゴリズムE2Bが記憶装置153に記憶されてもよい。
【0117】
図9は、第2推定アルゴリズムE2の第2変形例を示す図である。
図9を参照して、第2推定アルゴリズムE2Bは、MG20の駆動電流及び温度が入力されると、MG20の劣化度を出力する。
図5に示した処理のS15において、第2推定アルゴリズムE2Bが更新され、
図6に示した処理のS22において、MG20の駆動電流及び温度(いずれもセンサ検出値)が第2推定アルゴリズムE2Bに入力されてもよい。
【0118】
上記実施の形態において、第1推定アルゴリズムE1と第2推定アルゴリズムE2とのいずれか一方が割愛されてもよい。逆に、推定アルゴリズムを増やしてもよい。たとえば、車両1の操舵に関する部品についても推定アルゴリズムが用意されてもよい。
【0119】
車両の構成は、上記実施の形態で説明した構成(
図1、
図2、及び
図4参照)に限られない。ベース車両が後付けなしの状態で自動運転機能を有してもよい。自動運転のレベルは、完全自動運転(レベル5)であってもよいし、条件付きの自動運転(たとえば、レベル4)であってもよい。車両の構成は、無人走行専用の構成に適宜変更されてもよい。たとえば、無人走行専用の車両は、人が車両を操作するための部品(ステアリングホイールなど)を備えなくてもよい。車両は、ソーラーパネルを備えてもよいし、飛行機能を備えてもよい。車両は、乗用車に限られず、バス又はトラックであってもよい。車両は、個人が所有する車両(POV)であってもよい。車両は、ユーザの使用目的に応じてカスタマイズされる多目的車両であってもよい。車両は、移動店舗車両、ロボタクシー、無人搬送車(AGV)、又は農業機械であってもよい。車両は、無人又は1人乗りの小型BEV(たとえば、マイクロパレット)であってもよい。
【0120】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示により示される技術的範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0121】
1 車両、10 油圧式ディスクブレーキ装置、11,12 油圧センサ、20 MG、100 ベース車両、115 統合制御マネージャ、150 制御装置、200 ADK、202 ADS、210 コンピュータ、260 認識用センサ、270 姿勢用センサ、500 サーバ、E1,E1A 第1推定アルゴリズム、E2,E2A,E2B 第2推定アルゴリズム、UT モバイル端末。