(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 19/12 20060101AFI20240723BHJP
【FI】
F02D19/12 A
(21)【出願番号】P 2022049635
(22)【出願日】2022-03-25
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】土屋 富久
【審査官】稲本 遥
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-096713(JP,A)
【文献】特開2018-003682(JP,A)
【文献】特表2020-537089(JP,A)
【文献】特開2021-011824(JP,A)
【文献】特開2014-136968(JP,A)
【文献】特開2018-119441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00-29/06
41/00-45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの気筒に複数の吸気ポートが接続されており、かつ前記吸気ポートの内部に水を噴射する水噴射弁が前記複数の吸気ポートのそれぞれに設置されたエンジンを制御する装置であって、
前記複数の吸気ポートの中に、吸気バルブの開弁中にのみ前記水噴射弁が水を噴射する同期噴射を実施する吸気ポートと、前記吸気バルブの閉弁中に前記水噴射弁が水を噴射する非同期噴射を実施する吸気ポートと、が含まれた状態となる同期・非同期の混在噴射を実行する際に、前記非同期噴射を実施する吸気ポートを切替える切替処理を行う
エンジン制御装置。
【請求項2】
前記切替処理は、水噴射を1回実施する毎に、前記非同期噴射を実施する吸気ポートを切替える処理である請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記切替処理は、同一の吸気ポートにおける前記非同期噴射の連続実施回数が既定の回数に達する毎に、前記非同期噴射を実施する吸気ポートを切替える処理である請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記複数の吸気ポートのそれぞれの壁面の水付着量を推定する推定処理を行い、
かつ前記切替処理は、前記非同期噴射を実施している吸気ポートの前記水付着量の推定値が既定の閾値以上となったときに前記非同期噴射を実施する吸気ポートを切替える処理である
請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項5】
前記複数の吸気ポートのそれぞれの水噴射量を合計した総水噴射量の要求値である要求水噴射量を演算する第1演算処理と、
前記複数の吸気ポートのすべてで前記同期噴射を実施した場合の前記総水噴射量の最大値である最大同期噴射量を演算する第2演算処理と、
を行い、かつ前記要求水噴射量が前記最大同期噴射量以下の場合には前記複数の吸気ポートのすべてで前記同期噴射を実行し、前記要求水噴射量が前記最大同期噴射量を超えた場合には前記混在噴射を実行する
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のエンジン制御装置。
【請求項6】
前記混在噴射は、前記同期噴射を実施する吸気ポートの水噴射量を、前記同期噴射により当該吸気ポートに噴射可能な水の量の最大値に設定して行われる請求項5に記載のエンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸気中に水を噴射する水噴射弁を備えたエンジンを制御するエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に見られるように、吸気中に水を噴射する水噴射弁を備えたエンジンが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなエンジンでは、吸気中に噴射した水の一部が吸気ポートの壁面に付着する。そして、水噴射を繰り返すうちに、吸気ポートの壁面に付着した水の量が増加していくことがある。そうした場合、吸気ポート内で水滴が成長してしまう。そして、成長した粗大な水滴が気筒内に流入することがある。
【0005】
吸気ポートから気筒内に水滴が流入しても、その水滴が小さければ、気筒内で蒸発してしまう。しかしながら、粗大な水滴が気筒内に流入すると、気筒内で蒸発し切らずにクランクケースに流入してしまう。そして、その結果、水の混入によるエンジンオイルの乳化や、蒸気によるクランクケースの内圧上昇を招く虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するエンジン制御装置は、一つの気筒に複数の吸気ポートが接続されており、かつ前記吸気ポートの内部に水を噴射する水噴射弁が前記複数の吸気ポートのそれぞれに設置されたエンジンを制御する装置である。同エンジン制御装置は、複数の吸気ポートの中に、吸気バルブの開弁中にのみ水噴射弁が水を噴射する同期噴射を実施する吸気ポートと、吸気バルブの閉弁中に水噴射弁が水を噴射する非同期噴射を実施する吸気ポートと、が含まれた状態となる同期・非同期の混在噴射を実行する。そして、同エンジン制御装置は、上記混在噴射の実行する際に、非同期噴射を実施する吸気ポートを切替える切替処理を行っている。
【0007】
上記エンジン制御装置では、吸気ポート壁面への水付着量が同期噴射よりも増加し易い非同期噴射が同一の吸気ポートだけで継続されなくなる。そのため、吸気ポート壁面への水付着が抑えられる。
【0008】
上記エンジン制御装置における切替処理は、水噴射を1回実施する毎に非同期噴射を実施する吸気ポートを切替える処理、同一の吸気ポートにおける非同期噴射の連続実施回数が既定回数に達する毎に非同期噴射を実施する吸気ポートを切替える処理としてもよい。また、複数の吸気ポートのそれぞれの壁面の水付着量を推定する推定処理を行うとともに、切替処理を、非同期噴射を実施している吸気ポートの水付着量の推定値が既定の閾値以上となったときに非同期噴射を実施する吸気ポートを切替えるように処理としてもよい。
【0009】
上記エンジン制御装置は、複数の吸気ポートのそれぞれの水噴射量を合計した総水噴射量の要求値である要求水噴射量を演算する第1演算処理と、複数の吸気ポートのすべてで同期噴射を実施した場合の総水噴射の最大値である最大同期噴射量を演算する第2演算処理と、を行い、かつ要求水噴射量が最大同期噴射量以下の場合には複数の吸気ポートのすべてで同期噴射を実行し、要求水噴射量が前記最大同期噴射量を超えた場合には同期・非同期の混在噴射を実行するように構成してもよい。こうした場合、要求水噴射量と等しい量の水噴射を、同期噴射のみで実施できる場合には、非同期噴射は実施されなくなる。その結果、非同期噴射の実施頻度が減るため、これによっても吸気ポート壁面の水付着が抑えられる。さらに、同期噴射を実施する吸気ポートの水噴射量を、同期噴射により当該吸気ポートに噴射可能な水の量の最大値に設定して上記混在噴射を行うことが望ましい。こうした場合には、混在噴射における非同期噴射の水噴射量の割合を減らすことができるため、これによっても吸気ポート壁面の水付着が抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】エンジン制御装置の第1実施形態が適用されるエンジンの吸気系の構成を模式的に示す図である。
【
図2】同実施形態の制御装置の構成を模式的に示す図である。
【
図3】
図2の制御装置が実行する水噴射制御ルーチンの処理手順を示すフローチャートである。
【
図4】第2実施形態のエンジン制御装置が実行する水噴射制御ルーチンの処理手順を示すフローチャートである。
【
図5】第3実施形態のエンジン制御装置が実行する水噴射制御ルーチンの処理手順の一部を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、エンジン制御装置の第1実施形態を、
図1~
図3を参照して詳細に説明する。
<エンジン10の吸気系の構成>
まず、
図1を参照して、本実施形態の適用対象となるエンジン10の吸気系の構成を説明する。なお、エンジン10は、水素ガスを燃料とする水素燃料エンジンとして構成されている。エンジン10の気筒11には、その内部に水素ガスを噴射する水素ガス噴射弁12と、水素ガスを点火する点火装置13と、が設置されている。
図1のエンジン10は、水素ガス噴射弁12及び点火装置13がそれぞれ設置された気筒11を4つ有している。水素ガス噴射弁12は、気筒11内に水素ガスを噴射する弁である。点火装置13は、水素ガス噴射弁12が気筒11内に噴射した水素ガスを火花放電により点火する装置である。
【0012】
エンジン10の吸気通路14には、スロットルバルブ14Aが設置されている。各気筒11はそれぞれ、第1吸気ポート16及び第2吸気ポート17の2本の吸気ポートを通じて吸気通路14に接続されている。第1吸気ポート16及び第2吸気ポート17と気筒11との接続部分には、吸気バルブ15がそれぞれ設置されている。そして、第1吸気ポート16及び第2吸気ポート17は、エンジン10のクランク軸の回転に連動して動作する吸気バルブ15により気筒11に開閉されている。さらに、各気筒11には、第1水噴射弁18及び第2水噴射弁19の2つの水噴射弁がそれぞれ設けられている。第1水噴射弁18は、第1吸気ポート16内に水を噴射する弁である。また、第2水噴射弁19は、第2吸気ポート17内に水を噴射する弁である。
【0013】
<エンジン制御装置の構成>
次に、
図2を参照して、本実施形態のエンジン制御装置の構成を説明する。エンジン制御装置は、ECM(エンジン制御モジュール)20を備えている。ECM20は、演算処理装置21と記憶装置22とを有する電子制御装置である。記憶装置22には、エンジン制御用のプログラムやデータが記憶されている。演算処理装置21は、記憶装置22から読み込んだプログラムを実行することで、エンジン制御のための各種処理を実施する。
【0014】
ECM20には、エンジン10の運転状態を把握するための各種センサが接続されている。ECM20に接続されたセンサには、エアフローメータ23、水温センサ24、吸気温センサ25、及びクランク角センサ26が含まれる。エアフローメータ23は吸気通路14内の吸気流量を検出するセンサであり、水温センサ24はエンジン10の冷却水温を検出するセンサである。吸気温センサ25は吸気通路14内の吸気の温度を検出するセンサであり、クランク角センサ26はエンジン10の出力軸であるクランク軸の回転位相を検出するセンサである。なお、ECM20は、クランク角センサ26の検出結果に基づき、エンジン10の回転数であるエンジン回転数を求めている。また、ECM20は、吸気流量、エンジン回転数等に基づいて、各気筒11の吸気の充填率であるエンジン負荷率を求めている。
【0015】
ECM20は、それらセンサの検出結果に基づき、水素ガス噴射弁12の水素ガスの噴射制御、点火装置13の点火時期制御、スロットルバルブ14Aの開度制御等のエンジン制御を行っている。そして、ECM20は、エンジン制御の一環として、第1水噴射弁18及び第2水噴射弁19の水噴射の制御を行っている。
【0016】
<水噴射制御>
続いて、ECM20が実施する水噴射制御の詳細を説明する。ガソリン等の液体燃料を用いるエンジンの場合、燃料の気化潜熱により気筒内が冷却される。これに対して水素ガスを噴射するエンジン10の場合、燃料の気化潜熱による冷却が行われないことから、液体燃料を用いるエンジンの場合よりも、気筒11内が高温となって、プレイグニッション等の異常燃焼が生じ易い。そのため、エンジン10では、第1水噴射弁18及び第2水噴射弁19が噴射した水の気化潜熱により、気筒11内を冷却している。
【0017】
図3に、水噴射制御のためにECM20が実行する水噴射制御ルーチンのフローチャートを示す。ECM20は、エンジン10の運転中、既定の制御周期毎に、本ルーチンを繰り返し実行している。
【0018】
本ルーチンを開始すると、ECM20はまずステップS100において、エンジン10の運転状態に基づき、要求水噴射量QSを演算する。本実施形態の場合、ECM20は、エンジン回転数、及びエンジン負荷率に基づき、要求水噴射量QSを演算している。ECM20は、異常燃焼の回避可能となる温度に気筒11内を冷却するために必要な水噴射の量を、要求水噴射量QSの値として演算している。例えば、ECM20は、気筒11での燃焼により生じる単位時間当たりの熱量が大きくなる高回転高負荷運転時には、低回転低負荷運転時よりも多い量を、要求水噴射量QSの値として演算している。なお、要求水噴射量QSは、第1吸気ポート16及び第2吸気ポート17のそれぞれの水噴射量を合計した総水噴射量の要求値を表わしている。
【0019】
続いて、ECM20は、ステップS110において、エンジン回転数に基づき、最大同期噴射量QDLの値を演算する。最大同期噴射量QDLは、各気筒11において、吸気バルブ15の開弁期間内に噴射可能な水の量の最大値を表わしている。各気筒11には、第1水噴射弁18と第2水噴射弁19との2つの水噴射弁が設置されている。よって、最大同期噴射量QDLは、吸気バルブ15の開弁期間内に第1水噴射弁18が噴射可能な水の量の最大値と、同開弁期間内に第2水噴射弁19が噴射可能な水の量の最大値と、を足した値となる。なお、吸気バルブ15の開弁期間は、エンジン回転数が高いほど短い時間となる。よって、ECM20は、エンジン回転数が高いほど少ない量を、最大同期噴射量QDLの値として演算している。こうして演算される最大同期噴射量QDLは、第1吸気ポート16及び第2吸気ポート17の双方で同期噴射を実施した場合の上記総水噴射量の最大値を表わしている。ここでの同期噴射とは、吸気バルブ15の開弁中にのみ実施する水噴射である。より厳密には、同期噴射は、水噴射の開始、及び水噴射の終了がいずれも吸気バルブ15の開弁期間内に行われる水噴射である。
【0020】
次に、ECM20は、ステップS120において、要求水噴射量QSが最大同期噴射量QDLを超えているか否かを判定する。要求水噴射量QSが最大同期噴射量QDL以下の場合(S120:NO)には、ECM20はステップS130に処理を進める。そして、ECM20はそのステップS130において、要求水噴射量QSの2分の1を、同期噴射量指令値QDの値として演算する。続いてECM20は、次のステップS140において、第1水噴射弁18及び第2水噴射弁19のそれぞれに、同期噴射量指令値QDの値と等しい量の同期噴射を指令する。さらに、ECM20は、ステップS140の処理の後、今回の本ルーチンの処理を終了する。
【0021】
これに対して、要求水噴射量QSが最大同期噴射量QDLを超えている場合(S120:YES)には、ECM20はステップS150に処理を進める。ステップS150において、ECM20は、最大同期噴射量QDLの2分の1を同期噴射量指令値QDの値として演算する。このときの同期噴射量指令値QDには、単独の吸気ポートに同期噴射により噴射可能な水の量の最大値が設定される。すなわち、このときの同期噴射量指令値QDには、第1水噴射弁18及び第2水噴射弁19がそれぞれ単独で、吸気バルブ15の開弁期間内に噴射可能な水の量の最大値が値として演算される。また、ECM20は、同ステップS150において、要求水噴射量QSから同期噴射量指令値QDを減算した値を、非同期噴射量指令値QHの値として演算する。そして、ECM20は、続くステップS160において、前回の制御周期に非同期噴射を指令した水噴射弁に対して、同期噴射量指令値QDの値と等しい量の同期噴射を指令する。さらに、ECM20は、ステップS170において、前回の制御周期に同期噴射を指令した水噴射弁に対して、非同期噴射量指令値QHの値と等しい量の非同期噴射を指令する。なお、非同期噴射は、吸気バルブ15の閉弁中に実施する水噴射である。本実施形態では、非同期噴射での水噴射を、吸気バルブ15の開弁前の排気行程中に実施している。
【0022】
なお、ステップS160、S170の処理に際して、前回の制御周期に第1水噴射弁18及び第2水噴射弁19の双方に同期噴射を指令していた場合がある。そうした場合には、ECM20はステップS160において、第1水噴射弁18及び第2水噴射弁19のうちの予め定められた水噴射弁に同期噴射量指令値QDの値と等しい量の同期噴射を指令する。そして、ECM20は、ステップS170において、もう一方の水噴射弁に、非同期噴射量指令値QHの値と等しい量の非同期噴射を指令する。
【0023】
本実施形態では、こうした水噴射制御ルーチンにおけるステップS160,S170の処理が切替処理に対応している。また、ステップS100の処理が第1演算処理に、ステップS110の処理が第2演算処理に、それぞれ対応している。
【0024】
<実施形態の作用効果>
本実施形態の作用及び効果について説明する。
ECM20は、エンジン10の運転状態に基づき演算した要求水噴射量QSと等しい量の水を、第1水噴射弁18及び第2水噴射弁19により噴射するように水噴射制御を行っている。このとき、要求水噴射量QSが最大同期噴射量QDL以下の場合には、吸気バルブ15の開弁期間内に水噴射を行う同期噴射だけで、要求水噴射量QSと等しい量の水を噴射できる。これに対して、要求水噴射量QSが最大同期噴射量QDLを超える場合には、同期噴射だけでは、要求水噴射量QSと等しい量の水を噴射できなくなる。すなわち、この場合には、吸気バルブ15の閉弁中の非同期噴射を実施しなければならなくなる。
【0025】
同期噴射では、吸気ポートが気筒11に開放された状態で水噴射が行われる。この場合には、噴射した水の一部は気筒11に直接流入する。また、吸気ポートから気筒11に向う吸気の流れに水が噴射される。そのため、同期噴射では、吸気ポートの壁面への水の付着が抑えられる。一方、非同期噴射では、吸気ポートが気筒11から閉塞された状態で水噴射が行われる。そのため、非同期噴射では、同期噴射に比べて、吸気ポート壁面に水が付着し易くなる。こうした非同期噴射が同一の吸気ポートで続けられると、その吸気ポートの壁面への水の付着量が次第に増加する。そして、付着量の増加とともに、壁面に付着した水滴が成長してしまう。こうして成長した粗大な水滴が気筒内に流入してエンジンオイルに混入すると、エンジンオイルの白濁化や蒸気圧によるクランクケースの内圧上昇を招く虞がある。
【0026】
これに対して、ECM20は、要求水噴射量QSが最大同期噴射量QDL以下の場合には、要求水噴射量QSの2分の1の量の同期噴射を、第1水噴射弁18及び第2水噴射弁19の双方に指令する。すなわち、ECM20は、可能な場合には、同期噴射だけで水噴射を実施する。
【0027】
一方、要求水噴射量QSが最大同期噴射量QDLを超える場合には、第1水噴射弁18及び第2水噴射弁19のうちの一方の水噴射弁に最大同期噴射量QDLの2分の1に等しい量の同期噴射を指令する。そして、ECM20は、もう一方の水噴射弁に残りの量の非同期噴射を指令している。以下の説明では、第1水噴射弁18及び第2水噴射弁19のうちの一方が同期噴射を、もう一方が非同期噴射を、それぞれ実施する形態の水噴射を、同期・非同期の混在噴射と記載する。
【0028】
こうした混在噴射に際してECM20は、前回の制御周期に非同期噴射を指令した水噴射弁には同期噴射を、前回の制御周期に同期噴射を指令した水噴射弁には非同期噴射を、それぞれ指令している。すなわち、混在噴射に際してECM20は、第1水噴射弁18と第2水噴射弁19との間で、非同期噴射を行う水噴射弁を1噴射毎に交互に切替えている。これにより、同一の吸気ポートで非同期噴射が継続されなくなる。
【0029】
以上の本実施形態のエンジン制御装置によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)ECM20は、同期・非同期の混在噴射を実行する際に、第1水噴射弁18と第2水噴射弁19との間で非同期噴射を行う水噴射弁を交互に切替える切替処理を行っている。そのため、吸気ポート壁面の水付着が抑えられる。
【0030】
(2)吸気ポート壁面の水付着量の増加が抑えられるため、水の混入によるエンジンオイルの白濁化や水蒸気の発生によるクランクケースの内圧上昇が抑えられる。
(3)同期噴射を行う水噴射弁と非同期噴射を行う水噴射弁とが、1噴射毎に切替えられるため、第1吸気ポート16、第2吸気ポート17間の壁面の水付着量の偏りが抑えられる。
【0031】
(4)要求水噴射量QSが最大同期噴射量QDLを超えない限りは、同期噴射のみで水噴射を行っている。そのため、吸気ポート壁面の水付着量が増加し易い非同期噴射の実施頻度を減らせる。
【0032】
(5)混在噴射での同期噴射量指令値QDとして、単一の水噴射弁が同期噴射のみで噴射可能な水の量の最大値を設定している。そのため、非同期噴射による水噴射の量を減らすことができる。
【0033】
(第2実施形態)
次に、エンジン制御装置の第2実施形態を、
図4を併せ参照して詳細に説明する。なお本実施形態にあって、上記実施形態と共通する構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。なお、本実施形態のエンジン制御装置は、水噴射制御ルーチンの処理の一部が相違する以外は、第1実施形態のエンジン制御装置と同様の構成となっている。
【0034】
図4は、本実施形態のエンジン制御装置が、第1実施形態における
図3の制御ルーチンの代わりに実行する水噴射制御ルーチンのフローチャートを示している。
図4のフローチャートにおいても、ステップS100~S150の処理は
図3の場合と共通している。すなわち、本実施形態においても、ECM20は、要求水噴射量QSが最大同期噴射量QDL以下の場合(S120:NO)には、ステップS130において要求水噴射量QSの2分の1を同期噴射量指令値QDの値として演算する。そして、ECM20は、次のステップS140において、第1水噴射弁18及び第2水噴射弁19のそれぞれに、同期噴射量指令値QDの値と等しい量の同期噴射を指令する。本実施形態の場合、ECM20は更にステップS200において、非同期噴射回数Cの値を「0」にリセットした後、今回の本ルーチンの処理を終了する。非同期噴射回数Cは、同一の吸気ポートにおける非同期噴射の連続実施回数を示すカウンタである。
【0035】
また、本実施形態においてもECM20は、要求水噴射量QSが最大同期噴射量QDLを超える場合(S120:YES)には、ステップS150において最大同期噴射量QDLの2分の1を同期噴射量指令値QDの値として演算する。また、同ステップS150においてECM20は、要求水噴射量QSから同期噴射量指令値QDを減算した値を、非同期噴射量指令値QHの値として演算する。本実施形態の場合、ECM20は、続いてステップS210において、非同期噴射回数Cの値が既定の閾値CMAX以上であるか否かを判定する。閾値CMAXには、2以上の整数が予め設定されている。
【0036】
非同期噴射回数Cの値が閾値CMAX未満の場合(S210:NO)には、ECM20は、ステップS220において、前回の制御周期に同期噴射を指令した水噴射弁に対して、同期噴射量指令値QDと等しい量の同期噴射を指令する。さらに、ECM20は、ステップS230において、前回の制御周期に非同期噴射を指令した水噴射弁に対して、非同期噴射量指令値QHの値と等しい量の非同期噴射を指令する。すなわち、この場合のECM20は、前回の制御周期に同期噴射を指令した吸気ポートに対して、引き続き同期噴射を指令する。また、この場合のECM20は、前回の制御周期に非同期噴射を指令した吸気ポートに対して、引き続き非同期噴射を指令する。そして、ECM20は、ステップS240において、非同期噴射回数Cの値をインクリメントした後、今回の本ルーチンの処理を終了する。
【0037】
一方、非同期噴射回数Cの値が閾値CMAX以上の場合(S210:YES)には、ECM20は、ステップS250において、前回の制御周期に非同期噴射を指令した水噴射弁に対して、同期噴射量指令値QDと等しい量の同期噴射を指令する。さらに、ECM20は、ステップS260において、前回の制御周期に同期噴射を指令した水噴射弁に対して、非同期噴射量指令値QHの値と等しい量の非同期噴射を指令する。すなわち、この場合のECM20は、同期噴射、非同期噴射を実施する吸気ポートを入れ替える。そして、ECM20は、上述のステップS200において、非同期噴射回数Cの値を「0」にリセットした後、今回の本ルーチンの処理を終了する。なお、本実施形態では、
図4の水噴射制御ルーチンにおけるステップS200~S260の処理が切替処理に対応している。
【0038】
<実施形態の作用効果>
本実施形態のエンジン制御装置では、同一の吸気ポートにおける非同期噴射の連続実施回数が閾値CMAXに達する毎に、すなわち同連続実施回数が既定の回数に達する毎に、非同期噴射を実施する吸気ポートを切替えている。こうした場合にも、同一の吸気ポートで非同期噴射が継続されなくなる。よって、本実施形態のエンジン制御装置も、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0039】
(第3実施形態)
次に、エンジン制御装置の第3実施形態を、
図5を併せ参照して詳細に説明する。なお本実施形態にあって、上記実施形態と共通する構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。なお、本実施形態のエンジン制御装置は、水噴射制御ルーチンの処理の一部が相違する以外は、第1実施形態のエンジン制御装置と同様の構成となっている。
【0040】
図5に、第1実施形態との水噴射制御ルーチンの相違部分のフローチャートを示す。本実施形態の水噴射制御ルーチンは、
図3のステップS160以降の処理を置き換えたものとなっている。そして、同
図5に示す一連の処理は、
図3のステップS150の処理に引き続き実行される処理となっている。すなわち、本実施形態のECM20は、要求水噴射量QSが最大同期噴射量QDLを超えている場合(S130:YES)のステップS150での同期噴射量指令値QD及び非同期噴射量指令値QHの演算後に
図5の処理を開始する。
【0041】
図5の処理を開始すると、ECM20はまずステップS300において、記憶装置22に記録された、第1吸気ポート16及び第2吸気ポート17の推定ウェット量W1,W2の値を読み込む。推定ウェット量W1,W2は、吸気ポート壁面の水付着量の推定値である。推定ウェット量W1,W2の値は、後述のステップS260で演算されている。そして、ECM20は、ステップS210において、前回の制御周期に非同期噴射が行われていた吸気ポートの推定ウェット量WHが、既定の閾値WMAX以上であるか否かを判定する。
【0042】
推定ウェット量WHが閾値WMAX未満の場合(S310:NO)には、ECM20はステップS320において、前回の制御周期に同期噴射を指令した水噴射弁に、同期噴射量指令値QDに等しい量の同期噴射を指令する。また、ECM20は、次のステップS330において、前回の制御周期に非同期噴射を指令した水噴射弁に、非同期噴射量指令値QHに等しい量の非同期噴射を指令する。すなわち、この場合のECM20は、同期噴射及び非同期噴射をそれぞれ、前回の制御周期と同じ水噴射弁に指令する。そして、そうした水噴射の指令後に、ECM20は、ステップS360に処理を進める。
【0043】
一方、推定ウェット量WHが閾値WMAX以上の場合(S210:YES)には、ECM20はステップS340において、前回の制御周期に非同期噴射を指令した水噴射弁に、同期噴射量指令値QDに等しい量の同期噴射を指令する。また、ECM20は、次のステップS350において、前回の制御周期に同期噴射を指令した水噴射弁に、非同期噴射量指令値QHに等しい量の非同期噴射を指令する。すなわち、この場合のECM20は、同期噴射を行う水噴射弁と非同期噴射を行う水噴射弁とを入れ替える。そして、ECM20は、そうした指令の後、ステップS360に処理を進める。
【0044】
ステップS360に処理を進めると、ECM20は、推定ウェット量W1,W2の値を更新する。そして、ECM20は、ステップS360の処理の後、今回の制御周期における水噴射制御ルーチンの処理を終了する。なお、本実施形態では、
図5の水制御ルーチンにおけるステップS310~S350の処理が切替処理に、ステップS360の処理が推定処理に、それぞれ対応している。
【0045】
<吸気ポート壁面の水付着量の推定>
本実施形態では、
図5のステップS360における推定ウェット量W1,W2の値の更新を通じて、第1吸気ポート16及び第2吸気ポート17のそれぞれの壁面の水付着量を推定している。次に、こうした水付着量の推定について説明する。
【0046】
ECM20は、推定ウェット量W1,W2の値の更新に際して、第1吸気ポート16及び第2吸気ポート17の新規付着量A1,A2を演算する。新規付着量A1,A2は、今回の制御周期から次回の制御周期までの期間に、吸気ポート壁面に新規に付着する水の量を表わしている。新規付着量A1,A2は、各々対応する吸気ポートに噴射された水の量が多いほど多くなる。また、水噴射量が同じでも、非同期噴射の場合には、同期噴射の場合よりも新規付着量A1,A2が多くなる。一方、吸気流量が多いときには、気流による噴射された水の微粒化が進むため、吸気流量が少ないときよりも新規付着量A1,A2は少なくなる。さらに、吸気ポートの壁面や吸気の温度が低いときには、高いときよりも、新規付着量A1,A2が多くなる。ECM20は、これらを勘案して作成された吸気ポート壁面の水付着の物理モデルに従って、水噴射量、水噴射の時期、吸気流量、冷却水温、吸気温等に基づき新規付着量A1,A2を演算している。なお、ここでの水噴射の時期は、同期噴射か非同期噴射かを示している。
【0047】
また、推定ウェット量W1,W2の値の更新に際して、ECM20は、第1吸気ポート16及び第2吸気ポート17の蒸発量B1,B2を演算する。蒸発量B1,B2は、今回の制御周期から次回の制御周期迄の期間に、吸気ポート壁面から蒸発する水の量を表わしている。蒸発量B1,B2は、同壁面に付着している水の量が多いほど、多くなる。また、吸気流量が多いときには、吸気ポート内の気流が強くなるため、吸気流量が少ないときよりも蒸発量B1,B2が多くなる。一方、吸気ポートの壁面や吸気の温度が高いときには、それらの温度が低いときよりも、蒸発量B1,B2が多くなる。さらに、エンジン回転数が高いときには、低いときよりも、今回の制御周期から次回の制御周期迄の期間が短くなるため、同期間における蒸発量B1,B2は少なくなる。ECM20は、これらを勘案して作成された吸気ポート壁面からの水の蒸発の物理モデルに従って、推定ウェット量W1,W2、吸気流量、冷却水温、吸気温、エンジン回転数等に基づき、蒸発量B1,B2を演算している。
【0048】
そして、ECM20は、推定ウェット量W1の更新前の値に、新規付着量A1を加算、かつ蒸発量B1を減算した値を、推定ウェット量W1の更新後の値として演算している(W1[更新後]←W1[更新前]+A1-B1)。また、ECM20は、推定ウェット量W2の更新前の値に、新規付着量A2を加算、かつ蒸発量B2を減算した値を、推定ウェット量W2の更新後の値として演算している(W2[更新後]←W2[更新前]+A2-B2)。
【0049】
<実施形態の作用効果>
本実施形態のエンジン制御装置では、非同期噴射を実施している吸気ポートの推定ウェット量W1,W2が閾値WMAXを超えたときに、非同期噴射を実施する吸気ポートを切替えている。こうした場合にも、同一の吸気ポートで非同期噴射が継続されなくなる。よって、本実施形態のエンジン制御装置も、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0050】
エンジン10の運転状況によっては、第1吸気ポート16及び第2吸気ポート17の推定ウェット量W1,W2が双方共に閾値WMAXを超えることがある。そうした場合には、同期噴射を実施する吸気ポートと非同期噴射を実施する吸気ポートとが、1噴射毎に交互に切替らえるようになる。
【0051】
(他の実施形態)
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0052】
・上記実施形態では、吸気バルブ15の開弁前の排気行程中に水噴射を行うように非同期噴射を実施していたが、吸気バルブ15の閉弁後に非同期噴射を実施するようにしてもよい。
【0053】
・上記実施形態では、要求水噴射量QSが最大同期噴射量QDLを超える場合に、同期・非同期の混在噴射を実行していたが、これとは異なる条件で混在噴射を実行するようにしてもよい。エンジン回転数やエンジン負荷、吸気温、冷却水温などに基づいて、混在噴射の実行の有無を判定するようにしてもよい。
【0054】
・上記実施形態では、同一吸気ポートにおける非同期噴射の実施回数や推定ウェット量W1,W2に基づき、非同期噴射を実施する吸気ポートを切替えていた。非同期噴射による水の噴射量等、上記以外のパラメータに基づいて、非同期噴射を実施する吸気ポートを切替えるようにしてもよい。
【0055】
・上記実施形態の水噴射制御は、一つの気筒11に3つの吸気ポートが接続されたエンジンにも、同様に適用できる。なお、その場合には、同期・非同期の混在噴射の実行中に、3つの吸気ポートの間で非同期噴射を実施する吸気ポートを順次切替えることになる。
【符号の説明】
【0056】
10…エンジン
11…気筒
12…水素ガス噴射弁
13…点火装置
14…吸気通路
14A…スロットルバルブ
15…吸気バルブ
16…第1水噴射弁
17…第2水噴射弁
18…第1吸気ポート
19…第2吸気ポート
20…エンジン制御モジュール
21…演算処理装置
22…記憶装置
23…エアフローメータ
24…水温センサ
25…吸気温センサ
26…クランク角センサ