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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20240723BHJP
   H02K 9/19 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
F16H57/04 P
F16H57/04 B
F16H57/04 Z
H02K9/19 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022053839
(22)【出願日】2022-03-29
(65)【公開番号】P2023146588
(43)【公開日】2023-10-12
【審査請求日】2024-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】片山 隆俊
(72)【発明者】
【氏名】宗藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】花井 孝佳
(72)【発明者】
【氏名】内藤 悠介
(72)【発明者】
【氏名】山下 哲平
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-148140(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102015214334(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
H02K 9/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延在する回転軸を有する回転電機と、
前記回転電機からの駆動力を車輪に伝達する伝達機構と、
軸方向第1側に前記回転電機を収容する第1収容室と、軸方向第2側に前記伝達機構を収容する第2収容室とを形成するケースと、
前記第1収容室と前記第2収容室とに連通し、油が通る連通油路とを備え、
前記第1収容室の下部は、油が溜まる第1油溜め空間部を形成し、
前記第2収容室の下部は、前記伝達機構を形成するギヤの回転によって掻き上げられる油が溜まる第2油溜め空間部を形成し、
前記ケースは、軸方向で前記第1収容室と前記第2収容室を少なくとも部分的に仕切りつつ、前記第1油溜め空間部及び前記第2油溜め空間部より上方まで延在する隔壁部を有し、
前記連通油路は、
前記隔壁部よりも下方を通り、かつ、前記隔壁部から前記軸方向第1側に離れた第1位置にて前記第1収容室に開口する第1開口部を有するとともに前記軸方向に延在する軸方向油路部と、
前記軸方向油路部から連続し、前記軸方向油路部の前記軸方向第2側の端部で上方向に延在する上向き油路部と、を含み、
前記上向き油路部は、前記隔壁部から前記軸方向第2側に離れた前記上向き油路部の上部にある第2位置にて前記第2収容室に開口する第2開口部を有
前記第2開口部が当該第2開口部から前記軸方向第1方向側における第2収容室底部よりも高い位置に形成される、車両用駆動装置。
【請求項2】
前記伝達機構は、差動歯車機構を含み、
前記第2位置は、軸方向に垂直に視て、前記差動歯車機構の差動入力ギヤの前記軸方向第1側の端面よりも前記軸方向第2側に位置する、請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記第2位置は、軸方向に垂直に視て、前記差動歯車機構の差動入力ギヤの前記軸方向第2側の端面よりも前記軸方向第2側に位置する、請求項2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記第1油溜め空間部に溜まる油を、ストレーナを介して吸い上げるオイルポンプを更に備え、
前記第1位置は、軸方向に垂直に視て、前記ストレーナの前記軸方向第2側の端面よりも前記軸方向第1側に位置する、請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記上向き油路部は、軸方向に垂直かつ水平方向に視て、下側より上側が前記軸方向第1側になる態様で傾斜する、請求項1から4のうちのいずれか1項に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機を収容する第1収容室と、伝達機構を収容する第2収容室とを形成するケースを備え、第2収容室の下部に溜まる油を伝達機構のギヤの回転によって掻き上げて伝達機構の各種ベアリングに供給する技術が知られている。この従来技術では、第1収容室と第2収容室とを軸方向に仕切るケースの隔壁部に、第1収容室の下部と第2収容室の下部とを連通する連通油路が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-112052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術では、ケースの隔壁部に連通油路が形成されるので、車両の姿勢や挙動等に起因して、第1収容室の下部と第2収容室の下部において適切な量の油を確保できないおそれがある。具体的には、ケース内の油は、車両の姿勢や挙動等に起因して、第1収容室の下部と第2収容室の下部の間を連通油路を介して行き来するが、上記のような従来技術のような連通油路の場合、第1収容室及び第2収容室の一方側で油の量が過大(他方側で過小)となりやすい。例えば第2収容室内の油が不足すると、ギヤの回転によって掻き上げられる油が不足し、各種ベアリングの潤滑が不足するおそれがある。
【0005】
そこで、1つの側面では、本開示は、第1収容室と第2収容室とを連通する連通油路を形成しつつ、車両の姿勢や挙動が多様に変化した場合でも第1収容室と第2収容室において適切な量の油を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、軸方向に延在する回転軸を有する回転電機と、
前記回転電機からの駆動力を車輪に伝達する伝達機構と、
軸方向第1側に前記回転電機を収容する第1収容室と、軸方向第2側に前記伝達機構を収容する第2収容室とを形成するケースと、
前記第1収容室と前記第2収容室とに連通し、油が通る連通油路とを備え、
前記第1収容室の下部は、油が溜まる第1油溜め空間部を形成し、
前記第2収容室の下部は、前記伝達機構を形成するギヤの回転によって掻き上げられる油が溜まる第2油溜め空間部を形成し、
前記ケースは、軸方向で前記第1収容室と前記第2収容室を少なくとも部分的に仕切りつつ、前記第1油溜め空間部及び前記第2油溜め空間部より上方まで延在する隔壁部を有し、
前記連通油路は、前記隔壁部よりも下方を通り、かつ、前記隔壁部から前記軸方向第1側に離れた第1位置にて前記第1収容室に開口する第1開口部を有するとともに、前記隔壁部から前記軸方向第2側に離れた第2位置にて前記第2収容室に開口する第2開口部を有する、車両用駆動装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本開示によれば、第1収容室と第2収容室とを連通する連通油路を形成しつつ、車両の姿勢や挙動が多様に変化した場合でも第1収容室と第2収容室において適切な量の油を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】回転電機及び動力伝達機構を含む車両用駆動システムのスケルトン図である。
図2】車両用駆動装置の要部を第1軸に沿って視た概略図である。
図3】車両用駆動装置の要部を切断した断面図であり、図2のラインA-Aに沿った断面図である。
図4】比較例による構成(水平姿勢)を示す図である。
図5】比較例による構成(第1傾斜姿勢)を示す図である。
図6】比較例による構成(第2傾斜姿勢)を示す図である。
図7】本実施例による構成(第1傾斜姿勢)を示す図である。
図8】本実施例による構成(第2傾斜姿勢)を示す図である。
図9】ギヤケースの上向き油路部の形成方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。
【0010】
以下では、まず、本実施例による車両用駆動装置17が好適に適用可能な車両用駆動システム100について説明し、本実施例による車両用駆動装置17について説明する。
【0011】
[駆動システム全体]
図1は、回転電機1及び動力伝達機構7を含む車両用駆動システム100のスケルトン図である。図1には、X方向と、X方向に沿ったX1側(第2側の一例)とX2側(第1側の一例)が定義されている。X方向は、第1軸A1の方向(以下、「軸方向」とも称する)に平行である。
【0012】
図1に示す例では、車両用駆動システム100は、車輪の駆動源となる回転電機1と、回転電機1と車輪Wとを結ぶ動力伝達経路に設けられた動力伝達機構7と、を備える。動力伝達機構7は、入力部材3と、カウンタギヤ機構4と、差動歯車機構5と、左右の出力部材6A、6Bと、を備える。
【0013】
入力部材3は、入力軸31と、入力ギヤ32とを有する。入力軸31は、第1軸A1まわりに回転する回転部材である。入力ギヤ32は、回転電機1からの回転トルク(駆動力)をカウンタギヤ機構4に伝達するギヤである。入力ギヤ32は、入力部材3の入力軸31と一体的に回転するように、入力部材3の入力軸31に設けられる。
【0014】
カウンタギヤ機構4は、動力伝達経路において、入力部材3と差動歯車機構5との間に配置される。カウンタギヤ機構4は、カウンタ軸41と、第1カウンタギヤ42と、第2カウンタギヤ43とを有する。
【0015】
カウンタ軸41は、第2軸A2まわりに回転する回転部材である。第2軸A2は、第1軸A1に平行に延在する。第1カウンタギヤ42は、カウンタギヤ機構4の入力要素である。第1カウンタギヤ42は、入力部材3の入力ギヤ32と噛み合う。第1カウンタギヤ42は、カウンタ軸41と一体的に回転するように、カウンタ軸41に連結される。
【0016】
第2カウンタギヤ43は、カウンタギヤ機構4の出力要素である。本実施例では、一例として、第2カウンタギヤ43は、第1カウンタギヤ42よりも小径に形成される。第2カウンタギヤ43は、カウンタ軸41と一体的に回転するように、カウンタ軸41に設けられる。
【0017】
差動歯車機構5は、その回転軸心としての第3軸A3上に配置される。第3軸A3は、第1軸A1に平行に延在する。差動歯車機構5は、回転電機1の側から伝達される駆動力を、左右の出力部材6A、6Bに分配する。差動歯車機構5は、差動入力ギヤ51を備え、差動入力ギヤ51は、カウンタギヤ機構4の第2カウンタギヤ43と噛み合う。また、差動歯車機構5は、差動ケース52を備え、差動ケース52内には、ピニオンシャフトや、ピニオンギヤ、左右のサイドギヤ等が収容される。左右のサイドギヤは、それぞれ、左右の出力部材6A、6Bと一体的に回転するように連結される。
【0018】
左右の出力部材6A、6Bのそれぞれは、左右の車輪Wに駆動連結される。左右の出力部材6A、6Bのそれぞれは、差動歯車機構5によって分配された駆動力を車輪Wに伝達する。なお、左右の出力部材6A、6Bは、2つ以上の部材により構成されてもよい。
【0019】
このようにして回転電機1は、動力伝達機構7を介して車輪Wを駆動する。ただし、他の実施例では、遊星歯車機構のような他の減速機構が利用されてもよい。
【0020】
[車両用駆動装置]
図2は、車両用駆動装置17の要部を第1軸A1に沿ってX1側から視た概略図である。図3は、車両用駆動装置17の要部を切断した断面図であり、図2のラインA-Aに沿った断面図である。なお、図2は、簡易な説明図であり、ケース2の一部等の図示が省略されている。また、図2には、Y方向と、Y方向に沿ったY1側とY2側が定義されている。また、図2及び図3には、Z方向と、Z方向に沿ったZ1側とZ2側が定義されている。この場合、Z方向は、鉛直方向に平行であるとし、Z1側が上側に対応するものとする。なお、図2に示す例では、第1軸A1及び第3軸A3は略同じ高さに位置し、第2軸A2は、第1軸A1及び第3軸A3よりも上方に位置するが、他の位置関係であってもよい。例えば、第1軸A1は、第3軸A3よりもわずかに下方に位置し、第1軸A1及び第2軸A2は略同じ高さに位置に位置してもよい。
【0021】
車両用駆動装置17は、ケース2内に収容される回転電機1及び動力伝達機構7を備える。
【0022】
ケース2は、例えばアルミ等により形成されてよい。ケース2は、鋳造等により形成できる。ケース2は、モータケース250と、モータカバー252と、ギヤケース254と、インバータカバー259(図2参照)とを含む。
【0023】
モータケース250は、回転電機1を収容するモータ収容室SP1を内部に形成する。なお、モータ収容室SP1を内部に形成するとは、壁体で少なくとも部分的に囲まれた内部という意味であり、壁体で完全に閉塞された内部である必要はない。これは、他のギヤ収容室SP2等についても同様である。モータケース250は、回転電機1の径方向外側を囲繞する周壁部を有する形態である。モータケース250は、一体成形部材であるが、複数の部材を結合して実現されてもよい。
【0024】
図3に示す例では、モータケース250は、モータ収容室SP1とギヤ収容室SP2とを軸方向に仕切る隔壁部2500を有する。隔壁部2500は、モータカバー252の底部と軸方向に対向する。
【0025】
隔壁部2500は、径方向内側に、ベアリングBR2、BR3を支持してよい。ベアリングBR2は、モータカバー252に支持されるベアリングBR1と協動して、ロータシャフト11を回転可能に支持する。ベアリングBR3は、ギヤケース254に支持されるベアリングBR4と協動して、入力軸31を回転可能に支持する。なお、変形例では、ベアリングBR2、BR3の一方が省略されてもよい。
【0026】
モータカバー252は、モータケース250のX方向X2側に結合される。モータカバー252は、モータ収容室SP1におけるX方向X2側を覆うカバーの形態である。この場合、モータカバー252は、モータケース250のX方向X2側の開口部を完全に又は略完全に閉塞する態様で覆ってもよい。なお、モータ収容室SP1のX方向X2側の一部は、モータカバー252により形成されてもよい。
【0027】
モータケース250は、インバータ収容室SP3を形成してもよい。インバータ収容室SP3には、回転電機1を駆動するインバータ装置(図示せず)が収容されてよい。インバータ収容室SP3は、モータ収容室SP1及びギヤ収容室SP2に径方向で隣り合う態様で、軸方向に延在してよい。
【0028】
インバータカバー259は、インバータ収容室SP3の上側の開口を覆うように設けられてよい。このように、インバータカバー259は、閉塞空間であるインバータ収容室SP3を形成してよい。この場合、インバータ装置に係るEMC(Electromagnetic Compatibility)対策を適切に実現できるとともに、空間共鳴等の問題も低減できる。
【0029】
ここで、図2及び図3の参照を継続しつつ、本実施例の特徴的な構成を説明する。
【0030】
本実施例では、モータ収容室SP1、ギヤ収容室SP2、及びインバータ収容室SP3のうちの、モータ収容室SP1及びギヤ収容室SP2は、油密空間を形成する。ケース2は、モータ収容室SP1及びギヤ収容室SP2内に一定量の油を有する。この場合、モータ収容室SP1の下部は、油が溜まる油溜め空間部SP10を形成し、ギヤ収容室SP2の下部は、油が溜まる油溜め空間部SP20を形成する。図3には、油溜め空間部SP10に溜まっている油と、油溜め空間部SP20に溜まっている油が、模式的にハッチング領域88で示されている。ケース2の隔壁部2500は、かかる油溜め空間部SP10及び油溜め空間部SP20よりも上側まで、モータ収容室SP1及びギヤ収容室SP2を軸方向に仕切るように形成されてよい。なお、隔壁部2500は、モータ収容室SP1及びギヤ収容室SP2を完全に仕切る必要はなく、上部や第1軸A1まわりの一部で、モータ収容室SP1及びギヤ収容室SP2が連通してもよい。
【0031】
モータ収容室SP1の油溜め空間部SP10に溜まる油は、ストレーナ90を介してオイルポンプ(例えば電動オイルポンプ)により吸い上げられ、回転電機1の冷却や潤滑に利用されてよい。例えば、油は、回転電機1のコイルエンド12やロータ軸心に供給されてよい。また、油は、回転電機1のロータシャフト11を回転可能に支持するベアリングBR1、BR2に供給されてもよい。
【0032】
ギヤ収容室SP2の油溜め空間部SP20に溜まる油は、差動入力ギヤ51により掻き上げられ、動力伝達機構7の潤滑に利用される。例えば、差動入力ギヤ51により掻き上げられた油は、ギヤ収容室SP2の上部に設けられてもよいキャッチャ(図示せず)を介して、入力軸31を回転可能に支持するベアリングBR3、BR4等に供給されてもよい。
【0033】
そして、本実施例では、ケース2は、モータ収容室SP1とギヤ収容室SP2とに連通する連通油路20を有する。すなわち、モータ収容室SP1とギヤ収容室SP2は、互いに対して独立した油密空間ではなく、連通油路20を介して互いに連通し合う空間である。従って、ある時点で、油溜め空間部SP10に溜まっている油は、他の時点で油溜め空間部SP20に溜まる油を構成する場合がある。このように、本実施例によれば、モータ収容室SP1とギヤ収容室SP2とに連通する連通油路20を設けることで、モータ収容室SP1及びギヤ収容室SP2間での油の共通化を図りつつ、油の交換等の作業の利便性を高めることができる。
【0034】
本実施例では、連通油路20は、隔壁部2500よりも下方を通る。すなわち、連通油路20は、隔壁部2500の形成される孔(後出の図4等に示す連通孔20’)とは異なる形態である。従って、連通油路20は、隔壁部2500よりもX方向で離れた位置に、モータ収容室SP1及びギヤ収容室SP2への開口部21、22を有することができる。具体的には、本実施例では、モータ収容室SP1に開口する開口部21は、隔壁部2500からX2側に離れた位置(第1位置の一例)に設けられ、ギヤ収容室SP2に開口する開口部22は、隔壁部2500からX1側に離れた位置(第2位置の一例)に設けられている。開口部21は、油溜め空間部SP10に開口し、開口部22は、油溜め空間部SP20に開口する。
【0035】
本実施例では、このような連通油路20を有することで、図3に模式的に示すように、車両が水平姿勢であるとき(すなわち、第1軸A1が略水平面内に位置する姿勢であるとき)、油面が水平面内となる。これにより、水平姿勢の状態において、油溜め空間部SP10と油溜め空間部SP20のそれぞれにおいて所望の量の油を確保できる。
【0036】
開口部21は、好ましくは、ストレーナ90よりもX2側(軸方向外側)に配置される。これにより、図7を参照して後述する第1傾斜姿勢の状態において、ストレーナ90が気中に露出してしまう可能性を効果的に低減できる。開口部21は、上向きの開口であってもよいが、軸方向の開口であってよい。軸方向の開口の場合、連通油路20の形成に伴って開口部21を容易に形成できる。
【0037】
開口部22は、好ましくは、差動入力ギヤ51よりもX1側(軸方向外側)に配置される。これにより、図8を参照して後述する第2傾斜姿勢の状態において、差動入力ギヤ51の下部が気中に露出してしまう可能性(すなわち差動入力ギヤ51が油を掻き上げられなくなる可能性)を効果的に低減できる。開口部22は、軸方向の開口であってもよいが、好ましくは、上向きの開口である。このような上向きの開口の意義は後述する。
【0038】
連通油路20は、好ましくは、図3に示すように、軸方向に直線状に延在する。この場合、ケース2における連通油路20の形成が容易となる。ただし、ケース2の形状や各種レイアウトに応じて、連通油路20は、適宜、図示とは異なる態様で形成されてもよい。例えば、連通油路20は、局所的な高低差を有してもよい。水平面内に対して傾斜する区間を有してもよい。
【0039】
また、図2に示す例では、連通油路20は、軸方向視で、上下方向で回転電機1に重なる位置に形成されているが(例えば第1軸A1の直下に配置されているが)、回転電機1に重ならない位置に配置されてもよい。例えば、連通油路20は、Y方向で回転電機1及び差動入力ギヤ51の間(例えば、上下方向視で、カウンタ軸41に重なる位置)に形成されてもよい。
【0040】
本実施例では、連通油路20は、モータケース250及びギヤケース254のそれぞれに形成される。すなわち、連通油路20は、モータケース250に形成される油路部2509と、ギヤケース254に形成される油路部2549とを含む。油路部2509のX1側端部と油路部2549のX2側端部とは、モータケース250とギヤケース254の軸方向の合わせ面において、互いに連続する。なお、油路部2509のX1側端部と油路部2549のX2側端部とは端面同士が当接するだけの構造であってよく、連通油路20まわりのシール部材は不要である。
【0041】
次に、図4から図8を参照して、本実施例の効果について説明する。
【0042】
図4から図6は、比較例による構成を示す図であり、それぞれ、図3に対応する断面に沿った断面図である。図4は、水平姿勢のときの油の状態を示し、図5は、水平面に対する車両の姿勢が、Y方向視で一方側に傾斜した傾斜姿勢(以下、「第1傾斜姿勢」とも称する)であるときの油の状態を示し、図6は、Y方向視で他方側に傾斜した傾斜姿勢(以下、「第2傾斜姿勢」とも称する)であるときの油の状態を示す。図7及び図8は、本実施例の場合の油の状態の説明図であり、それぞれ、図3に対応する断面に沿った断面図である。図7は、第1傾斜姿勢であるときの油の状態を示し、図8は、第2傾斜姿勢であるときの油の状態を示す。図4から図8において、油の溜まっている範囲の概略がハッチング領域88により示されている。
【0043】
図4から図6に示す比較例では、隔壁部2500’の下部に連通孔20’が設けられる。このような比較例によっても、連通孔20’を介してモータ収容室SP1内の油とギヤ収容室SP2内の油の行き来が可能である。従って、本実施例と同様、水平姿勢の状態において、モータ収容室SP1内とギヤ収容室SP2内にそれぞれ所望の量の油を確保できる。
【0044】
しかしながら、比較例の場合、連通孔20’が隔壁部2500’に形成されることに起因して、車両の姿勢や挙動が多様に変化した場合に、モータ収容室SP1とギヤ収容室SP2において適切な量の油を確保することが困難となる。
【0045】
具体的には、図5に示す第1傾斜姿勢では、図5に模式的に示すように、モータ収容室SP1よりも鉛直方向下側となるギヤ収容室SP2内の油の量が、モータ収容室SP1内の油の量よりも有意に多くなる。このような油の配分では、モータ収容室SP1側の油が不足することで、油による回転電機1の冷却能力が低下するおそれがある。また、ストレーナ90が気中に露出することで、オイルポンプ(図示せず)が空気を吸い込む可能性(すなわちエア吸いの可能性)も生じる。また、ギヤ収容室SP2側の油の量が過大となることで、差動入力ギヤ51の比較的大きい範囲が油に浸かり、差動入力ギヤ51の回転に対する負荷(抵抗)が大きくなるおそれがある。
【0046】
また、図6に示す第2傾斜姿勢では、図6に模式的に示すように、ギヤ収容室SP2よりも鉛直方向下側となるモータ収容室SP1内の油の量が、ギヤ収容室SP2内の油の量よりも有意に多くなる。このような油の配分では、ギヤ収容室SP2側の油が不足することで差動入力ギヤ51による油の掻きあげが不能又は不十分となり、油による動力伝達機構7の潤滑能力が低下するおそれがある。すなわち、差動入力ギヤ51の回転によって掻き上げられる油が不足し、ベアリングBR3、BR4等の潤滑が不十分となるおそれがある。また、モータ収容室SP1側の油の量が過大となることで、回転電機1のロータ10が油に浸かり、回転電機1のロータ10の回転に対する負荷(抵抗)が大きくなるおそれがある。
【0047】
また、図示しないが、比較例の連通孔20’が隔壁部2500’の最下部よりも上側に位置している場合でも、同様の課題が生じうる。また、かかる場合、連通孔20’の高さが比較的高い場合に、水平姿勢に戻った後に、傾斜姿勢の際に移動した油の全量が戻らずに、モータ収容室SP1とギヤ収容室SP2との間の油量の配分が不安定化しやすくなる。すなわち、水平姿勢においてモータ収容室SP1とギヤ収容室SP2との間で油面が一致しなくなる(すなわち、水平姿勢の状態において、モータ収容室SP1内とギヤ収容室SP2内にそれぞれ所望の量の油を確保できなくなる)という更なる不都合も生じやすい。
【0048】
これに対して、本実施例によれば、このような比較例で生じる不都合を低減又は無くすことができる。
【0049】
具体的には、図7に示す第1傾斜姿勢では、モータ収容室SP1に溜まっていた油は、自重によって、モータ収容室SP1よりも鉛直方向下側となるギヤ収容室SP2へと、比較例の場合と同様に移動する傾向となるが、開口部21の高さに油面が至るときに、当該移動が停止する。開口部21は、上述したように隔壁部2500からX2側に離れて配置されているので、図7に模式的に示すように、開口部21の高さに油面が至る状態でも、モータ収容室SP1内に比較的多くの油を確保できる。この場合、依然として、ストレーナ90を介してオイルポンプが油を吸い上げることが可能である。従って、本実施例によれば、比較例で生じる上述した不都合(モータ収容室SP1側の油が不足することで回転電機1の冷却能力が低下するおそれやエア吸い等)を無くす又は低減できる。
【0050】
また、図8に示す第2傾斜姿勢では、ギヤ収容室SP2に溜まっていた油は、自重によって、ギヤ収容室SP2よりも鉛直方向下側となるモータ収容室SP1へと、比較例の場合と同様に移動する傾向となるが、開口部22の高さに油面が至るときに、当該移動が停止する。開口部22は、上述したように隔壁部2500からX1側に離れて配置されているので、図8に模式的に示すように、開口部22の高さに油面が至る状態でも、モータ収容室SP1内に比較的多くの油を確保できる。この場合、依然として、差動入力ギヤ51が油を掻きあげることが可能である。従って、本実施例によれば、比較例で生じる上述した不都合(ギヤ収容室SP2側の油が不足することで油による動力伝達機構7の潤滑能力が低下するおそれ等)を無くす又は低減できる。
【0051】
また、本実施例によれば、第2傾斜姿勢においても、モータ収容室SP1内における油面の過大な上昇が防止されるので、ブリーザー(図示せず)等のような油が掛からない箇所に配置されるのが好適な部品を、モータ収容室SP1の上部等に配置することも可能である。なお、ブリーザーは、密閉されたケース2内の温度変化による空気の膨張・収縮に対応して、ケース2への空気の出入りを調整すると共に、水や油などの侵入を防ぐ調整孔である。
【0052】
このようにして、本実施例によれば、このような連通油路20を有することで、車両の姿勢や挙動が多様に変化した場合でもモータ収容室SP1とギヤ収容室SP2において適切な量の油を確保することが可能となる。
【0053】
ところで、図7を参照して上述した第1傾斜姿勢において、開口部21の高さに油面が至る状態で、ストレーナ90上に油が十分確保されるようにする観点からは、開口部21の位置がX2側にあるほうが有利であり、かつ、開口部21の高さが高いほど有利である。他方、開口部21の高さを高くすると、最下部から油を抜く際に油の残りが発生しやすくなる点で不利である。
【0054】
この点、本実施例では、隔壁部2500からモータカバー252までのX方向の距離(寸法)が比較的大きいことから、開口部21を、隔壁部2500からX2側に十分離れた位置に配置できる。例えば、開口部21は、モータケース250とモータカバー252の合わせ面付近に配置できる。これにより、開口部21の高さを高くすることなく、上述した第1傾斜姿勢においてストレーナ90上に油を十分確保できる。この場合、モータ収容室SP1の最も低い位置に開口部21が形成されてもよい。
【0055】
また、同様に、図8を参照して上述した第2傾斜姿勢において、開口部22の高さに油面が至る状態で、差動入力ギヤ51の下端側に油が十分確保されるようにする観点からは、開口部22の位置がX1側にあるほうが有利であり、かつ、開口部22の高さが高いほど有利である。
【0056】
この点、本実施例では、隔壁部2500からギヤケース254のX1側端部(ギヤ収容室SP2のX1側端部)までのX方向の距離(寸法)が比較的小さいことから、開口部22を、隔壁部2500からX1側に十分離れた位置に配置し難い。これに対して、本実施例では、開口部22を比較的高い位置に形成することで、上述した第2傾斜姿勢において差動入力ギヤ51の下端側に油を十分確保できる。
【0057】
より具体的には、本実施例では、連通油路20は、軸方向に延在する軸方向油路部200と、軸方向油路部200のX1側の端部で上方向に延在する上向き油路部202とを含む。すなわち、連通油路20は、軸方向油路部200と上向き油路部202が、図3等に示す断面視でL字状をなす。軸方向油路部200は、上述した油路部2509と油路部2549の一部とを含み、上向き油路部202は、油路部2549の他の一部により形成される。この場合、油路部2549のX1側の端部は、上方向に延在する上向き油路部202を形成する。上向き油路部202は、上側の端部に、上向きの開口となる開口部22を形成する。このような上向き油路部202を有することで、開口部22を比較的高い位置に形成でき、その結果、上述した第2傾斜姿勢において差動入力ギヤ51の下端側に油を十分確保できる。換言すると、ギヤケース254の軸方向の体格の最小化を図りつつ、第2傾斜姿勢において差動入力ギヤ51の下端側に油を十分確保できる。
【0058】
ところで、本実施例では、ギヤケース254は、X1側が閉じられており、X2側が開口する形態である。この場合、上向き油路部202は、好ましくは、軸方向に垂直かつ水平方向に視て(例えば図3に示す方向視で)、下側より上側がX2側になる態様で傾斜する。かかる傾斜を上向き油路部202が有することで、ギヤケース254のX2側からのアクセスにより上向き油路部202の形成が容易となる。例えば、図9に示すようなギヤケース254の油路部2549の場合、矢印R9で模式的に示すように、機械加工により上向き油路部202を容易に形成できる。なお、図9は、図3のQ9部に対応する部位の断面図である。
【0059】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
【0060】
例えば、上述した実施例では、連通油路20は、ケース2に形成されるが、連通油路20の一部又は全部が、パイプのような、ケース2とは異なる部材により形成されてもよい。
【0061】
また、上述した実施例では、好ましい例として、開口部21は、ストレーナ90よりもX2側、すなわちストレーナ90のX2側端面よりもX2側に配置されている。これにより、図7を参照して上述したように、図7を参照して上述した第1傾斜姿勢においても、ストレーナ90を介してオイルポンプが十分な油を吸い上げることが可能である。しかしながら、変形例では、開口部21は、ストレーナ90のX1側端面よりもX2側かつX2側端面よりもX1側に配置されてもよい。この場合も、依然として、図7を参照して上述した第1傾斜姿勢においても、ストレーナ90を介してオイルポンプが油を吸い上げることが可能である。なお、この場合、開口部21は、ストレーナ90に対してY方向でオフセットした位置に配置されてよい。
【0062】
また、上述した実施例では、好ましい例として、開口部22は、差動入力ギヤ51よりもX1側、すなわち差動入力ギヤ51のX1側端面よりもX1側に配置されている。これにより、図8を参照して上述したように、図8を参照して上述した第2傾斜姿勢においても、差動入力ギヤ51が十分な油を掻きあげることが可能である。しかしながら、変形例では、開口部22は、差動入力ギヤ51のX2側端面よりもX1側かつX1側端面よりもX2側に配置されてもよい。この場合も、依然として、図8を参照して上述した第2傾斜姿勢においても、差動入力ギヤ51が油を掻きあげることが可能である。
【符号の説明】
【0063】
1・・・回転電機、2・・・ケース、2500・・・隔壁部、5・・・差動歯車機構、51 差動入力ギヤ(ギヤ)、7・・・動力伝達機構(伝達機構)、17・・・車両用駆動装置、20・・・連通油路、200・・・軸方向油路部、202・・・上向き油路部、21・・・開口部(第1開口部)、22・・・開口部(第2開口部)、90・・・ストレーナ、SP1・・・モータ収容室(第1収容室)、SP10・・・油溜め空間部(第1油溜め空間部)、SP2・・・ギヤ収容室(第2収容室)、SP20・・・油溜め空間部(第2油溜め空間部)
図1
図2
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図8
図9