(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】フィルタ装置およびそれを搭載した高周波フロントエンド回路
(51)【国際特許分類】
H03H 7/075 20060101AFI20240723BHJP
H03H 7/46 20060101ALI20240723BHJP
H01F 17/00 20060101ALI20240723BHJP
H01F 27/00 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
H03H7/075 Z
H03H7/46 A
H01F17/00 C
H01F17/00 D
H01F27/00 S
(21)【出願番号】P 2022560708
(86)(22)【出願日】2021-10-21
(86)【国際出願番号】 JP2021038908
(87)【国際公開番号】W WO2022097492
(87)【国際公開日】2022-05-12
【審査請求日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2020185900
(32)【優先日】2020-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 陽
【審査官】竹内 亨
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-092546(JP,A)
【文献】特表2019-507972(JP,A)
【文献】特開2021-027369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 7/00-7/54
H01F 17/00
H01F 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体と、
第1通過帯域を有する第1フィルタと、
前記第1通過帯域とは異なる第2通過帯域を有する第2フィルタとを備え、
前記第1フィルタおよび前記第2フィルタの各々は、少なくとも1つのインダクタを含み、
前記本体の法線方向から平面視した場合に、前記第1フィルタに含まれるインダクタは第1領域に配置され、前記第2フィルタに含まれるインダクタは前記第1領域に隣接する第2領域に配置され
、
前記第1フィルタに含まれるインダクタは、前記本体に設けられた平板電極と、前記本体の法線方向に延在するビアとを含む縦型コイルであり、
前記第2フィルタにおいて、前記第1領域に面する位置に配置されるインダクタは、前記本体の法線方向を巻回軸とする平面コイルであり、
前記本体の法線方向から平面視した場合に、前記第1フィルタにおける前記平板電極の延在方向の中央から、当該延在方向に直交する方向に描いた仮想線は、前記第2フィルタに含まれるインダクタと交差し
ておらず、
前記第1フィルタは、入力端子と出力端子との間に直列に接続された第1インダクタおよび第2インダクタを含み、
前記第1インダクタおよび前記第2インダクタは、前記縦型コイルである、フィルタ装置。
【請求項2】
前記第1領域から前記第2領域へ向かう第1方向と、前記仮想線が延在する第2方向とのなす角は45°以上かつ90°以下である、請求項1に記載のフィルタ装置。
【請求項3】
前記第1方向と前記第2方向とは直交する、請求項2に記載のフィルタ装置。
【請求項4】
前記第1フィルタに含まれるインダクタは、2ターン以上巻回されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のフィルタ装置。
【請求項5】
前記第1インダクタにより生じる磁界の方向と、前記第2インダクタにより生じる磁界の方向とは異なる、請求項
1に記載のフィルタ装置。
【請求項6】
前記第1インダクタにより生じる磁界の方向と、前記第2インダクタにより生じる磁界の方向とは互いに逆方向である、請求項
5に記載のフィルタ装置。
【請求項7】
前記第1フィルタの
前記第1通過帯域は、前記第2フィルタの
前記第2通過帯域よりも低い、請求項1~6のいずれか1項に記載のフィルタ装置。
【請求項8】
本体と、
第1通過帯域を有する第1フィルタと、
前記第1通過帯域とは異なる第2通過帯域を有する第2フィルタとを備え、
前記第1フィルタおよび前記第2フィルタの各々は、少なくとも1つのインダクタを含み、
前記本体の法線方向から平面視した場合に、前記第1フィルタに含まれるインダクタは第1領域に配置され、前記第2フィルタに含まれるインダクタは前記第1領域に隣接する第2領域に配置され、
前記第1フィルタに含まれるインダクタは、前記本体に設けられた平板電極と、前記本体の法線方向に延在するビアとを含む縦型コイルであり、
前記第2フィルタにおいて、前記第1領域に面する位置に配置されるインダクタは、前記本体の法線方向を巻回軸とする平面コイルであり、
前記本体の法線方向から平面視した場合に、前記第1フィルタにおける前記平板電極の延在方向の中央から、当該延在方向に直交する方向に描いた仮想線は、前記第2フィルタに含まれるインダクタと交差しておらず、
前記第1フィルタの前記第1通過帯域は、前記第2フィルタの前記第2通過帯域よりも低い、フィルタ装置。
【請求項9】
本体と、
第1通過帯域を有する第1フィルタと、
前記第1通過帯域とは異なる第2通過帯域を有する第2フィルタとを備え、
前記第1フィルタおよび前記第2フィルタの各々は、少なくとも1つのインダクタを含み、
前記本体の法線方向から平面視した場合に、前記第1フィルタに含まれるインダクタは第1領域に配置され、前記第2フィルタに含まれるインダクタは前記第1領域に隣接する第2領域に配置され、
前記第1フィルタに含まれるインダクタは、前記本体に設けられた平板電極と、前記本体の法線方向に延在するビアとを含む縦型コイルであり、
前記第2フィルタにおいて、前記第1領域に面する位置に配置されるインダクタは、縦型コイル、および、前記本体の法線方向を巻回軸とする平面コイルを含み、
前記第2フィルタの縦型コイルと前記第1領域との間の距離は、前記平面コイルと前記第1領域との間の距離よりも遠く、
前記本体の法線方向から平面視した場合に、
前記第1フィルタにおける平板電極の延在方向の中央から、当該延在方向に直交する方向に描いた第1仮想線は、前記第2フィルタに含まれるインダクタと交差しておらず、
前記第2フィルタにおける平板電極の延在方向の中央から、当該延在方向に直交する方向に描いた第2仮想線は、前記第1フィルタに含まれるインダクタと交差していない、フィルタ装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のフィルタ装置を備えた、高周波フロントエンド回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フィルタ装置およびそれを搭載した高周波フロントエンド回路に関し、より特定的には、2つのLCフィルタを含むダイプレクサにおける通過特性を向上させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特表2019-507972号公報(特許文献1)には、LC回路で構成されたハイバンドフィルタおよびローバンドフィルタを備えたマルチプレクサが開示されている。特表2019-507972号公報(特許文献1)のマルチプレクサにおいては、ハイバンドフィルタのインダクタが基板の表面に2Dスパイラルインダクタとして構成され、ローバンドフィルタのインダクタが基板の内部の層に3Dインダクタとして構成されている。
【0003】
また、特開平11-40920号公報(特許文献2)には、複数のインダクタが集積化された複合部品において、隣接するインダクタによって発生する磁束が互いに略直交するように、インダクタが配置された構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2019-507972号公報
【文献】特開平11-40920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特表2019-507972号公報(特許文献1)および特開平11-40920号公報(特許文献2)に開示された構成においては、隣接して配置されたフィルタに含まれるインダクタにおいて、一方のインダクタの空芯径を貫く磁束が他方のインダクタと干渉しているため、2つのインダクタ同士の磁気結合が生じ得る。
【0006】
複数のLCフィルタを含むフィルタ装置(ダイプレクサ,マルチプレクサ)において、異なるフィルタ間のインダクタ同士が磁気結合すると、Q値の低下および/またはアイソレーションの劣化が生じてしまい、フィルタ特性が低下するおそれがある。
【0007】
本開示は、このような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、複数のLCフィルタを含んで構成されるフィルタ装置において、フィルタ特性の低下を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1の局面に係るフィルタ装置は、本体と、第1通過帯域を有する第1フィルタと、第1通過帯域とは異なる第2通過帯域を有する第2フィルタとを備える。第1フィルタおよび第2フィルタの各々は、少なくとも1つのインダクタを含む。本体の法線方向から平面視した場合に、第1フィルタに含まれるインダクタは第1領域に配置され、第2フィルタに含まれるインダクタは第1領域に隣接する第2領域に配置される。第1フィルタに含まれるインダクタは、本体に設けられた平板電極と、本体の法線方向に延在するビアとを含む縦型コイルである。第2フィルタにおいて、第1領域に面する位置に配置されるインダクタは、本体の法線方向を巻回軸とする平面コイルである。本体の法線方向から平面視した場合に、第1フィルタにおける平板電極の延在方向の中央から、当該延在方向に直交する方向に描いた仮想線は、第2フィルタに含まれるインダクタと交差しない。
【0009】
本開示の第2の局面に係るフィルタ装置は、本体と、第1通過帯域を有する第1フィルタと、第1通過帯域とは異なる第2通過帯域を有する第2フィルタとを備える。第1フィルタおよび第2フィルタの各々は、少なくとも1つのインダクタを含む。本体の法線方向から平面視した場合に、第1フィルタに含まれるインダクタは第1領域に配置され、第2フィルタに含まれるインダクタは第1領域に隣接する第2領域に配置される。第1フィルタに含まれるインダクタは、本体に設けられた平板電極と、本体の法線方向に延在するビアとを含む縦型コイルである。第2フィルタにおいて、第1領域に面する位置に配置されるインダクタは、縦型コイル、および、本体の法線方向を巻回軸とする平面コイルを含む。第2フィルタの縦型コイルと第1領域との間の距離は、上記の平面コイルと第1領域との間の距離よりも遠い。本体の法線方向から平面視した場合に、(i)第1フィルタにおける平板電極の延在方向の中央から、当該延在方向に直交する方向に描いた第1仮想線は、第2フィルタに含まれるインダクタと交差しておらず、(ii)第2フィルタにおける平板電極の延在方向の中央から、当該延在方向に直交する方向に描いた第2仮想線は、第1フィルタに含まれるインダクタと交差しない。
【発明の効果】
【0010】
本開示によるフィルタ装置においては、本体において隣接する領域に2つフィルタ(第1フィルタ,第2フィルタ)が配置されている。第1フィルタのインダクタは、平板電極およびビアで構成された縦型コイルである。第2フィルタにおいて、第1フィルタに面して配置されるインダクタは平面コイルである。そして、第1フィルタにおける平板電極の延在方向の中央から、当該延在方向に直交する方向に描いた仮想線は、第2フィルタに含まれるインダクタと交差していない。このような構成とすることによって、一方のフィルタのインダクタによって生じる磁界が他方のフィルタのインダクタと干渉することを防止できるので、インダクタ同士の磁気結合を抑制することができる。したがって、フィルタ特性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1のフィルタ装置が適用される高周波フロントエンド回路を有する通信装置のブロック図である。
【
図2】実施の形態1のフィルタ装置の等価回路図である。
【
図3】
図2のフィルタ装置の内部を示す斜視図である。
【
図4】
図2のフィルタ装置の積層構造の一例を示す分解斜視図である。
【
図5】
図2のフィルタ装置におけるインダクタの配置を説明するための図である。
【
図6】比較例1のフィルタ装置における各フィルタのインダクタの配置を説明するための図である。
【
図7】実施の形態1および比較例1のフィルタ装置における通過特性を説明するための図である。
【
図8】比較例2のフィルタ装置における各フィルタのインダクタの配置を説明するための図である。
【
図9】実施の形態1および比較例2のフィルタ装置における通過特性を説明するための図である。
【
図10】実施の形態2のフィルタ装置における各フィルタのインダクタの配置を説明するための図である。
【
図11】実施の形態3のフィルタ装置における各フィルタのインダクタの配置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0013】
[実施の形態1]
(通信装置の基本構成)
図1は、実施の形態に従うフィルタ装置100が適用された高周波フロントエンド回路20を含む通信装置10のブロック図である。高周波フロントエンド回路20は、アンテナ装置ANTで受信された高周波信号を、予め定められた複数の周波数帯域に分波して後続の処理回路へ伝達する。高周波フロントエンド回路20は、たとえば、携帯電話、スマートフォンあるいはタブレットなどの携帯端末や、通信機能を備えたパーソナルコンピュータなどの通信装置に用いられる。
【0014】
図1を参照して、通信装置10は、フィルタ装置100を含む高周波フロントエンド回路20と、RF信号処理回路(以下、「RFIC」とも称する。)30とを含む。
図1に示される高周波フロントエンド回路20は、受信系フロントエンド回路である。高周波フロントエンド回路20は、フィルタ装置100と、増幅回路LNA1,LNA2とを含む。
【0015】
フィルタ装置100は、互いに異なる周波数範囲を通過帯域とするフィルタFLT1(第1フィルタ)およびフィルタFLT2(第2フィルタ)を含むダイプレクサである。以降の説明においては、フィルタ装置100を「ダイプレクサ」と称する場合がある。
【0016】
フィルタFLT1は、共通端子であるアンテナ端子TAと、第1端子T1との間に接続される。フィルタFLT1は、ローバンド(LB)群の周波数範囲を通過帯域とし、ハイバンド(HB)群の周波数範囲を非通過帯域とするローパスフィルタである。フィルタFLT2は、アンテナ端子TAと第2端子T2との間に接続される。フィルタFLT2は、ハイバンド群の周波数範囲を通過帯域とし、ローバンド群の周波数範囲を非通過帯域とするハイパスフィルタである。なお、フィルタFLT1およびフィルタFLT2は、バンドパスフィルタであってもよい。
【0017】
フィルタFLT1,FLT2の各々は、アンテナ装置ANTで受信された高周波信号のうち、各フィルタの通過帯域に対応する高周波信号のみを通過させる。これにより、アンテナ装置ANTからの受信信号を予め定められた複数の周波数帯域の信号に分波する。
【0018】
増幅回路LNA1,LNA2の各々は、いわゆる低雑音増幅器である。増幅回路LNA1,LNA2は、対応するフィルタを通過した高周波信号を低雑音で増幅し、RFIC30へ伝達する。
【0019】
RFIC30は、アンテナ装置ANTで送受信された高周波信号を処理するRF信号処理回路である。具体的には、RFIC30は、アンテナ装置ANTから高周波フロントエンド回路20の受信側信号経路を介して入力された高周波信号を、ダウンコンバートなどにより信号処理し、当該信号処理して生成された受信信号をベースバンド信号処理回路(図示せず)へ出力する。
【0020】
図1のように高周波フロントエンド回路20が受信回路として用いられる場合、フィルタ装置100においては、アンテナ端子TAが入力端子INとなり、第1端子T1および第2端子T2がそれぞれ第1出力端子OUT1および第2出力端子OUT2となる。一方で、高周波フロントエンド回路
20は送信回路としても用いることができる。この場合には、フィルタ装置100の第1端子T1および第2端子T2の各々が入力端子となり、アンテナ端子TAが共通の出力端子となる。その場合、増幅回路に含まれる増幅器としてパワーアンプが用いられる。
【0021】
(フィルタ装置の構成)
図2は、
図1におけるフィルタ装置(ダイプレクサ)100の一例の等価回路を示す図である。
図1で説明したように、フィルタFLT1はアンテナ端子TAと第1端子T1との間に接続されている。また、フィルタFLT2はアンテナ端子TAと第2端子T2との間に接続されている。
【0022】
フィルタFLT1は、直列腕回路を構成するインダクタL11,L12およびキャパシタC12と、並列腕回路を構成するキャパシタC11とを含む。インダクタL11はアンテナ端子TAに接続され、インダクタL12はインダクタL11と第1端子T1との間に接続される。すなわち、インダクタL11,L12は、アンテナ端子TAと第1端子T1との間に直列に接続されている。キャパシタC11は、インダクタL11とインダクタL12との間の接続ノードと、接地端子GNDとの間に接続される。キャパシタC12は、インダクタL12に並列に接続される。フィルタFLT1は、これらの構成によって、所定の周波数よりも低い周波数帯域の信号を通過させるローパスフィルタとして機能する。
【0023】
フィルタFLT2は、直列腕回路を形成するインダクタL21,L24およびキャパシタC21,C25と、並列腕回路を形成するインダクタL22,L23およびキャパシタC22~C24とを含む。インダクタL21の一方端はアンテナ端子TAに接続されており、他方端はキャパシタC21の一方端に接続されている。キャパシタC25は、キャパシタC21の他方端と第2端子T2との間に接続されている。インダクタL24は、キャパシタC25に並列に接続されている。
【0024】
キャパシタC22の一方端は、インダクタL21とキャパシタC21との間の接続ノードに接続される。キャパシタC22の他方端は、インダクタL22を介して接地端子GNDに接続される。キャパシタC23の一方端は、キャパシタC21とキャパシタC25との間の接続ノードに接続される。キャパシタC23の他方端は、インダクタL22を介して接地端子GNDに接続される。
【0025】
インダクタL23の一方端は、キャパシタC21とキャパシタC25との間の接続ノードに接続される。インダクタL23の他方端は、キャパシタC24を介して接地端子GNDに接続される。
【0026】
フィルタFLT2は、トラップ用のインダクタL21と、インダクタL22およびキャパシタC21~C23で構成されるLC共振器と、インダクタL23およびキャパシタC24で構成される共振器と、インダクタL24およびキャパシタC25で構成される共振器とによって、バンドパスフィルタとして機能する。
【0027】
なお、実施の形態1のフィルタ装置100の例においては、フィルタFLT1の通過帯域は0~960MHz付近に設定されており、フィルタFLT2の通過帯域は1427MHz~2690MHz付近に設定されている。そのため、フィルタ装置100においては、フィルタFLT2はハイパスフィルタとして機能する。
【0028】
次に、
図3~
図5を用いて、フィルタ装置100の内部構成の詳細について説明する。
図3は
図2のフィルタ装置100の内部を示す斜視図であり、
図4はフィルタ装置100の積層構造の一例を示す分解斜視図である。また、
図5は、フィルタ装置100におけるインダクタの配置を説明するための図であり、具体的には、
図4における誘電体層LY2~誘電体層LY8を重ね合わせた平面図である。
【0029】
図3および
図4を参照して、フィルタ装置100は、複数の誘電体層LY1~LY17が所定の方向に沿って積み上げられて形成された、直方体または略直方体の本体110を備えている。本体110において、複数の誘電体層LY1~LY17が積み上げられている方向を積層方向とする。本体110の各誘電体層は、たとえば低温同時焼成セラミックス(LTCC:Low Temperature Co-fired Ceramics)などのセラミック、あるいは樹脂により形成されている。本体110の内部において、各誘電体層に設けられた複数の電極、および、誘電体層間に設けられた複数のビアによって、フィルタFLT1,FLT2を構成するためのインダクタおよびキャパシタが構成される。なお、
図3~
図5においては、本体110の誘電体は省略してあり、内部に設けられる配線パターン、ビアおよび端子の導電体のみが示されている。本明細書において「ビア」とは、異なる誘電体層に設けられた電極を接続するために、誘電体層中に形成される導体を示す。ビアは、たとえば、導電ペースト、めっき、および/または金属ピンなどによって形成される。
【0030】
以下の説明においては、本体110の積層方向を「Z軸方向」とし、Z軸方向に垂直であって本体110の長辺に沿った方向を「X軸方向」とし、本体110の短辺に沿った方向を「Y軸方向」とする。また、以下では、各図におけるZ軸の正方向を上側、負方向を下側と称する場合がある。
【0031】
本体110の第1主面111(誘電体層LY1)には、フィルタ装置100の方向を特定するための方向性マークDMが配置されている。本体110の第2主面112(誘電体層LY17)には、当該フィルタ装置100と外部機器とを接続するための外部端子であるアンテナ端子TA、第1端子T1、第2端子T2および接地端子GNDが配置されている。各外部端子は平板状の電極であり、本体110の第2主面112に規則的に配置されたLGA(Land Grid Array)端子である。
図3および
図4で示した例においては、概略的には、本体110の左側(X軸の負方向)部分にローバンド側のフィルタFLT1が配置され、右側(X軸の正方向)部分にハイバンド側のフィルタFLT2が配置されている。
【0032】
第2主面112(誘電体層LY17)に配置されたアンテナ端子TAは、ビアVA1,VA2および平板電極PA1を介して、誘電体層LY2においてフィルタFLT1とフィルタFLT2との分岐点PB1に接続されている。ビアVA1およびビアVA2は、誘電体層LY16に設けられた平板電極PA1によってオフセットしている。
【0033】
まず、ローパスフィルタであるフィルタFLT1の詳細について説明する。分岐点PB1には、分岐点PB1からX軸の負方向に延在する直線状の平板電極PL1が接続されている。平板電極PL1の端部にはビアVL1が接続されている。平板電極PL1は、ビアVL1を介して誘電体層LY8に設けられた帯状の平板電極PL1Aの一方端に接続されている。平板電極PL1Aの他方端にはビアVL1Aが接続されている。平板電極PL1Aは、当該ビアVL1Aを介して、誘電体層LY2に設けられた直線状の平板電極PL1Bの一方端に接続されている。平板電極PL1Bは、誘電体層LY2においてX軸方向に延在しており、他方端にはビアVL1Bが接続されている。平板電極PL1Bは、当該ビアVL1Bを介して、誘電体層LY8に設けられた帯状の平板電極PL1Cの一方端に接続されている。
【0034】
平板電極PL1Cの他方端にはビアVL1Cが接続されている。平板電極PL1Cは、ビアVL1Cを介して誘電体層LY2に設けられた直線状の平板電極PL1Dの一方端に接続されている。平板電極PL1Dは、誘電体層LY2においてX軸方向に延在しており、他方端にはビアVL1Dが接続されている。平板電極PL1Dは、当該ビアVL1Dを介して、誘電体層LY8に設けられた帯状の平板電極PL1Eの一方端に接続されている。
【0035】
平板電極PL1Eの他方端にはビアVL1Eが接続されている。平板電極PL1Eは、ビアVL1Eを介して誘電体層LY2に設けられた直線状の平板電極PL1Fの一方端に接続されている。平板電極PL1Fは、誘電体層LY2においてX軸方向に延在しており、他方端にはビアVL1Fが接続されている。平板電極PL1Fは、当該ビアVL1Fを介して、誘電体層LY8に設けられた直線状の平板電極P1の一方端に接続されている。平板電極PA1,PL1~PL1FおよびビアVA1,VA2,VL1~VL1Fによって、
図2におけるインダクタL11が構成される。
【0036】
平板電極P1は、誘電体層LY8においてY軸方向に延在しており、その他方端にはビアVL2が接続されている。平板電極P1は、ビアVL2を介して誘電体層LY2に設けられた直線状の平板電極PL2の一方端に接続されている。平板電極PL2は、誘電体層LY2においてX軸方向に延在しており、他方端にはビアVL2Aが接続されている。平板電極PL2は、当該ビアVL2Aを介して、誘電体層LY8に設けられた直線状の平板電極PL2Aの一方端に接続されている。
【0037】
平板電極PL2Aの他方端にはビアVL2Bが接続されている。平板電極PL2Aは、ビアVL2Bを介して誘電体層LY2に設けられた直線状の平板電極PL2Bの一方端に接続されている。平板電極PL2Bは、誘電体層LY2においてX軸方向に延在しており、他方端にはビアVL2Cが接続されている。平板電極PL2Bは、当該ビアVL2Cを介して、誘電体層LY16に設けられたキャパシタ電極PC1、および、誘電体層LY14に設けられたキャパシタ電極PC3に接続されている。なお、ビアVL2Cは、誘電体層LY9においてオフセットしている。キャパシタ電極PC1は、ビアV1によって第1端子T1に接続されている。平板電極PL2~PL2B、ビアVL2~VL2C,V1およびキャパシタ電極PC1によって、
図2におけるインダクタL12が構成される。
【0038】
本体110を積層方向から平面視した場合に、キャパシタ電極PC1,PC3の各々は、その一部が誘電体層LY15に設けられたキャパシタ電極PC2と重なるように配置されている。キャパシタ電極PC1とキャパシタ電極PC2とによって構成されるキャパシタ、および、キャパシタ電極PC2とキャパシタ電極PC3によっ
て構成キャパシタの合成容量によって、
図2におけるキャパシタC12が構成される。
【0039】
また、キャパシタ電極PC2の一部は、本体110を積層方向から平面視した場合に、誘電体層LY16に設けられた平板電極PGとも重なるような形状を有している。平板電極PGは、ビアVG1,VG2によって、接地端子GNDに接続されている。したがって、キャパシタ電極PC2と平板電極PGとによって、
図2におけるキャパシタC11が構成される。
【0040】
次に、ハイパスフィルタであるフィルタFLT2の詳細について説明する。分岐点PB1には、本体110の積層方向の軸(Z軸)周りに巻回された帯状の平板電極PL3の一方端が接続される。平板電極PL3の他方端には、ビアVL3が接続されている。平板電極PL3は、ビアVL3を介して、誘電体層LY3に設けられた帯状の平板電極PL3Aの一方端に接続される。
【0041】
平板電極PL3Aも、平板電極PL3と同様にZ軸周りに巻回された電極であり、その他方端にはビアVL3Aが接続されている。平板電極PL3Aは、ビアVL3Aを介して、誘電体層LY4に設けられた帯状の平板電極PL3Bの一方端に接続される。平板電極PL3Bも、平板電極PL3等と同様にZ軸周りに巻回された電極であり、その他方端にはビアVL3Bが接続されている。平板電極PL3Bは、ビアVL3Bを介して、誘電体層LY6に設けられた帯状の平板電極PL3Cの一方端に接続される。
【0042】
平板電極PL3Cは、略C字形状を有しており、他方端にはビアVL3Cが接続されている。ビアVL3Cは、誘電体層LY10に設けられたキャパシタ電極PC11、および、誘電体層LY11に設けられたキャパシタ電極PC10に接続されている。平板電極PA1,PL3~PL3CおよびビアVA1,VA2,VL3~VL3Cによって、
図2におけるインダクタL21が構成される。
【0043】
キャパシタ電極PC10は、本体110を積層方向から平面視した場合に、その一部が誘電体層LY12に設けられたキャパシタ電極PC7と重なるように配置されている。キャパシタ電極PC7,PC10によって、
図2のキャパシタC22が構成される。
【0044】
キャパシタ電極PC7は、ビアVL4によって、誘電体層LY6に設けられた帯状の平板電極PL4の一方端に接続されている。平板電極PL4は、略L字形状を有しており、その他方端にはビアVL4Aが接続されている。平板電極PL4は、ビアVL4Aを介して、誘電体層LY5に設けられた帯状の平板電極PL4Aの一方端に接続されている。平板電極PL4Aは、Z軸周りに巻回された電極であり、その他方端にはビアVL4Bが接続されている。平板電極PL4Aは、ビアVL4Bを介して、誘電体層LY4に設けられた帯状の平板電極PL4Bの一方端に接続されている。
【0045】
平板電極PL4Bも、Z軸周りに巻回された電極であり、その他方端にはビアVL4Cが接続されている。平板電極PL4Bは、ビアVL4Cを介して、誘電体層LY3に設けられた帯状の平板電極PL4Cの一方端に接続されている。平板電極PL4Cも、Z軸周りに巻回された電極であり、その他方端にはビアVL4Dが接続されている。平板電極PL4Cは、ビアVL4Dを介して、誘電体層LY2に設けられた直線状の平板電極PL4Dの一方端に接続されている。
【0046】
平板電極PL4Dは、Y軸方向に延在しており、その他方端にはビアVL4Eが接続されている。ビアVL4Eは、誘電体層LY7においてオフセットし、誘電体層LY14に設けられたキャパシタ電極PC5、および、誘電体層LY16に設けられた平板電極PGに接続される。上述のように、平板電極PGは、誘電体層LY17の接地端子GNDに接続されている。したがって、平板電極PG,PL4~PL4DおよびビアVG1,VG2,VL4~VL4Eによって、
図2におけるインダクタL22が構成される。
【0047】
キャパシタ電極PC5の一部は、本体110を積層方向から平面視した場合に、誘電体層LY13に設けられたキャパシタ電極PC6と重なるように配置されている。キャパシタ電極PC5およびキャパシタ電極PC6によって、
図2におけるキャパシタC23が構成される。
【0048】
キャパシタ電極PC6は、ビアVL5によって、誘電体層LY11に設けられたキャパシタ電極PC9に接続されている。キャパシタ電極PC6およびキャパシタ電極PC9の各々は、本体110を積層方向から平面視した場合に、誘電体層LY12に設けられたキャパシタ電極PC7,PC8と部分的に重なるように配置されている。キャパシタ電極PC6,PC9とキャパシタ電極PC7とによって、
図2におけるキャパシタC21が構成される。また、キャパシタ電極PC6,PC9とキャパシタ電極PC8とによって、
図2におけるキャパシタC25が構成される。
【0049】
キャパシタ電極PC9は、ビアVL5Aを介して、誘電体層LY2の分岐点PB2において帯状の平板電極PL5,PL6に接続される。平板電極PL5は、略L字形状を有している。平板電極PL5における分岐点PB2とは反対の端部には、ビアVL5Bが接続されている。平板電極PL5は、ビアVL5Bを介して、誘電体層LY3に設けられた帯状の平板電極PL5Aの一方端に接続される。
【0050】
平板電極PL5Aは、Z軸周りに巻回された電極であり、その他方端にはビアVL5Cが接続されている。平板電極PL5Aは、ビアVL5Cを介して、誘電体層LY4に設けられた帯状の平板電極PL5Bの一方端に接続される。
【0051】
平板電極PL5Bも、平板電極PL5Aと同様にZ軸周りに巻回された電極であり、その他方端にはビアVL5Dが接続されている。平板電極PL5Bは、ビアVL5Dを介して、誘電体層LY5に設けられた帯状の平板電極PL5Cの一方端に接続される。平板電極PL5Cも、平板電極PL5A等と同様にZ軸周りに巻回された電極であり、その他方端にはビアVL5Eが接続されている。平板電極PL5Cは、ビアVL5Eを介して、誘電体層LY15に設けられたキャパシタ電極PC4に接続される。平板電極PL5~PL5C、キャパシタ電極PC9およびビアVL5~VL5Eによって、
図2におけるインダクタL23が構成される。
【0052】
本体110を積層方向から平面視した場合に、キャパシタ電極PC4の一部は、誘電体層LY16に設けられた平板電極PGと重なっている。キャパシタ電極PC4と平板電極PGとによって、
図2におけるキャパシタC24が構成される。
【0053】
平板電極PL6は、誘電体層LY2の分岐点PB2からY軸方向に延在する直線状の電極である。平板電極PL6において、分岐点PB2と反対の端部には、ビアVL6が接続されている。平板電極PL6は、ビアVL6を介して、誘電体層LY7に設けられた帯状の平板電極PL6Aの一方端に接続される。平板電極PL6Aの他方端には、ビアVL6Aが接続されている。平板電極PL6Aは、ビアVL6Aを介して、誘電体層LY2に設けられた平板電極PL6Bの一方端に接続される。
【0054】
平板電極PL6Bは、Y軸方向の延在する直線状の電極であり、その他方端にはビアVL6Bが接続されている。平板電極PL6Bは、ビアVL6Bを介して、誘電体層LY7に設けられた帯状の平板電極PL6Cの一方端に接続される。平板電極PL6Cの他方端には、ビアVL6Cが接続されている。平板電極PL6Cは、ビアVL6Cを介して、誘電体層LY12に設けられたキャパシタ電極PC8および誘電体層LY16に設けられた平板電極PA2に接続される。平板電極PA2は、ビアV2を介して、誘電体層LY17に設けられた第2端子T2に接続される。平板電極PA2,PL6~PL6CおよびビアVL6~VL6Cによって、
図2におけるインダクタL24が構成される。
【0055】
上述のように、
図5はフィルタ装置100における誘電体層LY2~誘電体層LY8を重ね合わせた平面図である。
図3および
図4で説明したように、フィルタ装置100は、本体110において
図5の左側(X軸の負方向
)にローパスフィルタのフィルタFLT1が配置されており、
図5の右側(X軸の正方向
)にハイパスフィルタのフィルタFLT2が配置されている。フィルタFLT1のインダクタL11,L12は、本体110の領域RG1(第1領域)に配置される。また、フィルタFLT2のインダクタL21~L24は、本体110の領域RG2(第2領域)に配置される。
【0056】
図3および
図4で説明したように、フィルタFLT1のインダクタL11,L12は、平板電極とビアとを含む縦型コイルとして構成されている。インダクタL11,L12の巻回軸はY軸方向であり、所望のインダクタンスを確保するために2ターン以上巻回されている。インダクタL11はY軸の正方向に向かって反時計回り(CCW)方向に巻回されており、インダクタL12はY軸の正方向に向かって時計回り(CW)方向に巻回されている。そのため、インダクタL11,L12によってY軸方向に磁界が発生する。
【0057】
図4で説明したインダクタL11とインダクタL12との接続状態から、アンテナ端子TAからフィルタFLT1を通って第1端子T1へ信号が伝達される場合、インダクタL11には矢印AR1の向きに信号が通過し、インダクタL12には矢印AR2の向きに信号が通過する。そのため、インダクタL11によって生じる磁界の方向と、インダクタL12によって生じる磁界の方向とは互いに逆方向となる。したがって、フィルタFLT1においては、インダクタ同士の磁気結合が抑制される。
【0058】
フィルタFLT2において、インダクタL21,L22,L23は、本体110の積層方向(Z軸方向)を巻回軸とする平面コイルがビアによって接続されたヘリカルコイルである。また、インダクタL24は、X軸方向を巻回軸とする縦型コイルである。そのため、インダクタL21,L22,L23によってZ軸方向に磁界が発生し、インダクタL24によってX軸方向に磁界が発生する。フィルタFLT1に面して配置されるインダクタL21,L23は2ターン以上巻回されている。
【0059】
実施の形態1におけるフィルタ装置100において、本体110の積層方向から平面視した場合に、フィルタFLT1によって生じる磁界の方向は、フィルタFLT2によって生じる磁界の方向と直交しており、かつ、互いに相手側のフィルタのコイルに向いていない。言い換えれば、フィルタFLT1においてインダクタを構成する平板電極の延在方向の中央から当該延在方向に直交する方向に描いた仮想線CL1は、フィルタFLT2のインダクタL21~L24と交差しておらず、仮想線CL1が延在する方向(第2方向)と領域RG1から領域RG2に向かう方向(第1方向)とのなす角は90°である。
【0060】
このような構成とすることによって、フィルタ装置100において、フィルタFLT1によって生じる磁界は、領域RG1に面する位置に配置されたフィルタFLT2のインダクタL21,L23によって生じる磁界とは干渉しない。これにより、フィルタFLT1とフィルタFLT2との間のインダクタ同士の磁気結合を抑制することができる。
【0061】
(通過特性)
次に、実施の形態1のフィルタ装置100の通過特性について比較例を用いて説明する。
図6は、比較例1のフィルタ装置100Xにおける各フィルタのインダクタの配置を説明するための図である。フィルタ装置100Xにおいては、ローバンド側のフィルタFLT1Xに含まれるインダクタL11X,L12Xは、Z軸方向を巻回軸とする平面コイルを含む。ハイバンド側については、実施の形態1のフィルタFLT2と同様である。フィルタ装置100Xの場合、フィルタFLT1XのインダクタL11X,L12Xによって生じる磁界が、領域RG1に面する位置に配置されたフィルタFLT2のインダクタL21,L23によって生じる磁界と干渉し、インダクタ同士の磁気結合が生じ得る。
【0062】
図7は、実施の形態1のフィルタ装置100および比較例1のフィルタ装置100Xにおける通過特性を説明するための図である。
図7においては、横軸に周波数が示されており、縦軸には挿入損失が示されている。
図7において、実線LN10,LN20は実施の形態1のフィルタ装置100におけるフィルタFLT1,FLT2の挿入損失をそれぞれ示している。また、破線LN11,LN21は比較例1のフィルタ装置100XにおけるフィルタFLT1X,FLT2の挿入損失をそれぞれ示している。
【0063】
図7に示されるように、ローバンド側においては、磁気結合の抑制によってインダクタのQ値が改善したことにより、比較例1のフィルタ装置100Xの場合に比べて、実施の形態1のフィルタ装置100の挿入損失が改善している。なお、
図2の等価回路に示されるように、ローバンド側のインダクタL11は、ハイバンド側のフィルタFLT2からも直接見える素子となっている。そのため、ハイバンド側については、フィルタ装置100もフィルタ装置100Xも構成は同じであるが、ローバンド側のインダクタL11のQ値が改善したことによって、ハイバンド側のフィルタFLT2の挿入損失についても、比較例1のフィルタ装置100Xよりも実施の形態1のフィルタ装置100の方が若干改善されている。
【0064】
また、
図8は異なる構成を有する比較例2のフィルタ装置100Yにおける各フィルタのインダクタの配置を説明するための図である。フィルタ装置100Yにおいて、ローバンド側のフィルタFLT1Yに含まれるインダクタL11Y,L12Yの各々は、実施の形態1のフィルタ装置100と同様に縦型コイルである。しかしながら、インダクタL11Y,L12YはX軸方向を巻回軸とするように配置されている。すなわち、インダクタL11Y,L12Yにおいて平板電極の延在方向の中央から当該延在方向に直交する方向に描いた仮想線CL2,CL2Aと、領域RG1から領域RG2に向かう方向とのなす角は0°である。
【0065】
そのため、インダクタL11Y,L12Yの各々によって生じる磁界の方向がフィルタFLT2の方向となっている。したがって、フィルタFLT1YのインダクタL11Y,L12Yによって生じる磁界が、領域RG1に面する位置に配置されたフィルタFLT2のインダクタL21,L23によって生じる磁界と干渉し、インダクタ同士が磁気結合し得る。
【0066】
図9は、実施の形態1のフィルタ装置100および比較例2のフィルタ装置100Yにおける通過特性を説明するための図である。
図9においては、横軸に周波数が示されており、縦軸には挿入損失が示されている。
図9において、実線LN30,LN40は実施の形態1のフィルタ装置100におけるフィルタFLT1,FLT2の挿入損失をそれぞれ示している。また、破線LN31,LN41は比較例2のフィルタ装置100YにおけるフィルタFLT1Y,FLT2の挿入損失をそれぞれ示している。
【0067】
図9に示されるように、ローバンド側およびハイバンド側の通過帯域における挿入損失は、フィルタ装置100およびフィルタ装置100Yともほぼ同程度の挿入損失となっている。しかしながら、比較例2のフィルタ装置100Yにおいては、互いのインダクタ同士が磁気結合しているため、ローバンド側の通過帯域近傍(1.5GHz付近)における減衰極の減衰量、および、ハイバンド側の通過帯域近傍(1.0GHz付近)における減衰極の減衰量が小さくなっている。言い換えると、実施の形態1のフィルタ装置100においては、比較例2のフィルタ装置100Yの場合に比べて、非通過帯域における減衰特性が改善されている。
【0068】
以上のように、互いに異なる通過帯域を有する2つのフィルタを備えたフィルタ装置(ダイプレクサ)において、ローバンド側のフィルタのインダクタを縦型コイルで構成するとともに、ハイバンド側のフィルタにおいてローバンド側のフィルタに面して配置されるインダクタを平面コイルで構成し、ローバンド側のインダクタとハイバンド側のインダクタとが磁気結合しないようにローバンド側のインダクタを配置することによって、フィルタ特性の低下が抑制される。
【0069】
なお、上記の説明においては、ローバンド側のインダクタを縦型コイルとして構成し、ローバンド側のフィルタに面するハイバンド側のインダクタを平面コイルとして構成する場合について説明したが、これとは逆に、ローバンド側のインダクタを平面コイルで構成し、ハイバンド側のインダクタを縦型コイルで構成するようにしてもよい。
【0070】
また、上記の説明においては、ローバンド側のフィルタに2つのインダクタが含まれる場合について説明したが、ローバンド側のフィルタに含まれるインダクタの数は3つ以上であってもよい。
【0071】
実施の形態1における「フィルタFLT1」および「フィルタFLT2」は、本開示における「第1フィルタ」および「第2フィルタ」に対応する。実施の形態1における「インダクタL11」および「インダクタL12」は、本開示における「第1インダクタ」および「第2インダクタ」に対応する。
【0072】
[実施の形態2]
実施の形態1においては、ローバンド側のフィルタFLT1に含まれるインダクタの巻回軸がY軸方向である場合、すなわち、フィルタFLT1からフィルタFLT2に向かう方向(第1方向)とフィルタFLT1のインダクタの巻回軸の方向(第2方向)とのなす角が90°である場合について説明した。しかしながら、この第1方向と第2方向とのなす角は必ずしも90°でなくてもよい。
【0073】
図10は、実施の形態2に従うフィルタ装置100Aにおける各フィルタのインダクタの配置を説明するための図である。フィルタ装置100Aにおいては、実施の形態1におけるローバンド側のフィルタFLT1がフィルタFLT1Aに置き換わった構成を有している。なお、ハイバンド側のフィルタFLT2はフィルタ装置100と同様である。フィルタ装置100Aにおいて、フィルタ装置100と重複する要素の説明は繰り返さない。
【0074】
図10を参照して、ローバンド側のフィルタFLT1Aは、縦型コイルとして構成されたインダクタL11A,L12Aを含んでいる。インダクタL11Aは、本体110の積層方向から平面視した場合に、平板電極の延在方向の中央から当該延在方向に直交する方向に描いた仮想線CL3がY軸方向から傾斜するように配置されている。より詳細には、上記の仮想線CL3の方向(すなわち巻回軸の方向)と、領域RG1から領域RG2に向かう方向とのなす角θが45°以上かつ90°以下(45°≦θ≦90°)となるように、インダクタL11Aが配置されている。このとき、仮想線CL3は、フィルタFLT2に含まれるインダクタL21~L24と交差していない。なお、インダクタL12Aは、仮想線CL3AがY軸方向となるように配置されている。
【0075】
このように、ローバンド側の縦型コイルのインダクタの巻回軸が傾斜するように配置された構成においても、当該インダクタによって構成される磁界の方向に平面コイルとして構成されたハイバンド側のインダクタが配置されない構成とすることによって、ローバンド側のインダクタとハイバンド側のインダクタとの磁気結合が抑制される。したがって、ダイプレクサにおけるフィルタ特性の低下を抑制することができる。
【0076】
[実施の形態3]
実施の形態1および実施の形態2では、ハイバンド側のフィルタFLT2において、ローバンド側の領域RG1に面するすべてのインダクタが平面コイルである構成について説明した。実施の形態3においては、ローバンド側の領域RG1に面するハイバンド側のフィルタのインダクタに、縦型コイルが含まれる構成について説明する。
【0077】
図11は、実施の形態3に従うフィルタ装置100Bにおける各フィルタのインダクタの配置を説明するための図である。フィルタ装置100Bは、実施の形態1におけるハイバンド側のフィルタFLT2がフィルタFLT2Bに置き換わった構成を有している。なお、ローバンド側のフィルタFLT1はフィルタ装置100と同様である。フィルタ装置100Bにおいて、フィルタ装置100と重複する要素の説明は繰り返さない。
【0078】
図11を参照して、ハイバンド側のフィルタFLT2Bにおいては、フィルタ装置100のフィルタFLT2のインダクタL23,L24が、インダクタL23B,L24Bに置き換えられている。インダクタL23Bは平面コイルであり、インダクタL21,L22からY軸の正方向に隣接し、さらに領域RG1に面して配置されている。インダクタL24Bは、X軸方向に延在する平板電極と本体110の積層方向に延在するビアとによって構成された縦型コイルである。インダクタL24Bの巻回軸の方向は、Y軸方向である。インダクタL24Bは、インダクタL23BからY軸の正方向に隣接して配置されている。言い換えれば、インダクタL23Bは、インダクタL21とインダクタL24Bとの間に配置されている。
【0079】
インダクタL24BのX軸の負方向の端部は、ローバンド側のフィルタFLT1の領域RG1に面している。ただし、インダクタL24Bと領域RG1との間の距離は、インダクタL21と領域RG1との間の距離およびインダクタL23Bと領域RG1との間の距離よりも遠い。なお、ローバンド側のインダクタL11,L12と、ハイバンド側のインダクタL24Bとの間の距離は、50μm以上であることが望ましい。
【0080】
フィルタFLT1において、縦型コイルであるインダクタL11,L12を構成する平板電極の延在方向の中央から当該延在方向に直交する方向に描いた仮想線CL1は、フィルタFLT2BのインダクタL21、L22,L23B,L24Bと交差していない。また、フィルタFLT2Bにおいて、縦型コイルであるインダクタL24Bを構成する平板電極の延在方向の中央から当該延在方向に直交する方向に描いた仮想線CL4は、インダクタL11,L12とは交差していない。
【0081】
フィルタFLT1におけるインダクタL11,L12をこのような配置とすることによって、フィルタFLT1によって生じる磁界は、領域RG1に面する位置に配置されたフィルタFLT2BのインダクタL21,L23Bによって生じる磁界とは干渉しない。さらに、フィルタFLT2Bの縦型コイルであるインダクタL24Bが、インダクタL21,L23Bよりも、領域RG1から遠い位置に配置されているため、インダクタL24Bによって生じる磁界と、フィルタFLT1のインダクタL11,L12によって生じる磁界との干渉を抑制することができる。
【0082】
このように、フィルタFLT2Bにおいて、縦型コイルとして構成されたインダクタL24Bが、フィルタFLT1の領域RG1に面する位置に配置された構成であっても、平面コイルのインダクタL21,L23Bよりも領域RG1から遠い位置に配置されることによって、縦型コイル同士の磁気結合を抑制し、フィルタFLT1,FLT2B間のアイソレーションの低下を抑制することができる。
【0083】
また、一般的に、コイルのインダクタンス値は、コイルの空芯径に比例し、コイルの長さに反比例することが知られている。そのため、同じインダクタンス値を実現する場合に、インダクタL24Bのように、実施の形態1のインダクタL24に比べて空芯径を大きくすることによって、インダクタの全体のライン長を短くすることができる。これによって、インダクタL24Bにおける導体損失が低減されるので、フィルタFLT2Bの挿入損失を低減することができる。
【0084】
したがって、実施の形態3のフィルタ装置100Bのような構成とすることによって、ダイプレクサにおけるフィルタ特性の低下を抑制することができる。
【0085】
なお、
図11のフィルタ装置100Bにおいては、フィルタFLT1のインダクタL11,L12およびフィルタFLT2BのインダクタL24Bは、Y軸方向を巻回軸とする縦型コイルとして構成される場合について説明した。しかしながら、縦型コイルを構成する平板電極の延在方向の中央から当該延在方向に直交する方向に描いた仮想線が、他方のフィルタのインダクタと交差しないように配置することができれば、これらのインダクタL11,
L12,L24Bは、実施の形態2のフィルタ装置100AにおけるインダクタL11Aのように、巻回軸がY軸方向から傾斜するように配置されていてもよい。
【0086】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0087】
10 通信装置、20 高周波フロントエンド回路、C11,C12,C21~C25 キャパシタ、100,100A,100B,100X,100Y フィルタ装置、110 本体、111,112 主面、ANT アンテナ装置、CL1,CL2,CL2A,CL3,CL3A,CL4 仮想線、DM 方向性マーク、FLT1,FLT1A,FLT1X,FLT1Y,FLT2,FLT2B フィルタ、GND 接地端子、IN 入力端子、L11,L11A,L11X,L11Y,L12,L12A,L12X,L12Y,L21~L24,L23B,L24B インダクタ、LNA1,LNA2 増幅回路、LY1~LY17 誘電体層、OUT1,OUT2 出力端子、P1,PA1,PA2,PG,PL1,PL1A~PL1F,PL2,PL2A,PL2B,PL3,PL3A~PL3C,PL4,PL4A~PL4D,PL5,PL5A~PL5C,PL6,PL6A~PL6C 平板電極、PB1,PB2 分岐点、PC1~PC11 キャパシタ電極、T1 第1端子、T2 第2端子、TA アンテナ端子、V1,V2,VA1,VA2,VG1,VG2,VL1,VL1A~VL1F,VL2,VL2A~VL2C,VL3,VL3A~VL3C,VL4,VL4A~VL4E,VL5,VL5A~VL5E,VL6,VL6A~VL6C ビア。