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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20240723BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240723BHJP
   H01M 50/117 20210101ALI20240723BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240723BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/052
H01M50/117
H01M50/434
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022565080
(86)(22)【出願日】2021-09-16
(86)【国際出願番号】 JP2021034047
(87)【国際公開番号】W WO2022113487
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2020194348
(32)【優先日】2020-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110003236
【氏名又は名称】弁理士法人杉浦特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100123973
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 拓真
(74)【代理人】
【識別番号】100082762
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 正知
(72)【発明者】
【氏名】三田 洋樹
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/132339(WO,A1)
【文献】特開2005-174655(JP,A)
【文献】特開2020-113465(JP,A)
【文献】特開2015-118879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587;10/36-10/39
H01M50/10、50/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを介して正極と負極とを積層した電極体と、電解質と、外装材とから構成される電池であって、
前記電解質、前記セパレータ、又は、前記外装材のうち少なくとも一つにフィラーを含み、
前記フィラーは、アルミノフォスフェート型ゼオライトを含む電池。
【請求項2】
前記アルミノフォスフェート型ゼオライトの細孔径は、3.8Å以上5.4Å以下である請求項に記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池等では、電池性能の改良のために電池内にゼオライトを混ぜて使用することが行われるようになってきている。
【0003】
特許文献1では、アルミニウムケイ酸塩からなるゼオライトの表面に炭素を配置することで、電池に優れた電気特性及び寿命特性が付与されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-216089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術は、アルミニウムケイ酸塩からなるゼオライトにより電池内で発生したガスを吸着する技術である。しかしながら、電解質塩に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を用いた場合、LiPFと電解液に含まれる水分(HO)とが反応して、例えば、フッ化水素(HF)が発生し、充放電を繰り返しているうちに、HFとアルミニウムケイ酸塩のSiとが化学反応をして、ゼオライトが破壊される可能性がある。ゼオライトが破壊される過程でHOが発生するので、このHOがLiPFと反応してHFを発生させ、再びゼオライトを破壊させるという化学反応が進むことで、ゼオライトが更に破壊される可能性がある。ゼオライトが破壊されると、電池内で発生したガスをゼオライトで吸着しきれないため、電池の形状が膨れ、容量維持率が低下してしまうという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、充放電を繰り返しても、高い容量維持率を有し、形状が膨れない電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するために、本発明は、セパレータを介して正極と負極とを積層した電極体と、電解質と、外装材とから構成される電池であって、電解質、セパレータ、又は、外装材のうち少なくとも一つにフィラーを含み、フィラーは、アルミノフォスフェート型ゼオライトを含む電池である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フィラーとしてアルミノフォスフェート型ゼオライトを含む電池を提供でき、係る電池は、充放電を繰り返しても、高い容量維持率を有し、膨れによる変形を抑制できる。なお、ここに記載された効果に必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果またはそれらと異質な効果があってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1の電池の例に係る非水電解質二次電池の構成の一例を示す分解斜視図である。
図2図2は、外装材の構成の一例を示す断面図である。
図3図3は、図1のIII-III線に沿った断面図である。
図4図4は、第2の電池の例に係る非水電解質二次電池が備えるセパレータの構成の一例を示す断面図である。
図5図5は、第3の電池の例に係る非水電解質二次電池が備える外装材の構成の一例を示す断面図である。
図6図6は、変形例に係る非水電解質二次電池の構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の電池の例、一実施の形態および変形例について以下の順序で説明する。
1-1.第1の電池の例
1-2.第2の電池の例
1-3.第3の電池の例
2.一実施の形態
3.変形例
なお、第1から第3の電池の例では、電池内でのフィラーの配置などに関して述べ、一実施の形態では、電池内に配置されたフィラーについて述べる。
【0011】
<1-1.第1の電池の例>
[電池の構成]
図1は、本発明の第1の電池の例に係る非水電解質二次電池(以下単に「電池」という。)の構成の一例を示す。電池は、いわゆるラミネート型電池であり、正極リード31および負極リード32が取り付けられ、扁平状を有する巻回型の電極体20と、この電極体20を収容するフィルム状の外装材10とを備えたものであり、小型化、軽量化および薄型化が可能となっている。
【0012】
(正極、負極リード)
正極リード31および負極リード32はそれぞれ、外装材10の内部から外部に向かい、例えば同一方向に導出されている。正極リード31および負極リード32は、例えば、薄板状または網目状を有している。正極リード31および負極リード32は、例えば、Al、Cu、Niまたはステンレス等の金属材料により構成されている。
【0013】
外装材30と正極リード31の間、外装材30と負極リード32の間にはそれぞれ、外気の侵入を抑制するための密着フィルム33A,33Bが挿入されている。密着フィルム33A,33Bは、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンまたは変性ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂により構成されている。
【0014】
(外装材)
図2は、外装材10の構成の一例を示す。外装材10は、例えば、柔軟性を有する矩形状のラミネートフィルムからなる。外装材10は、金属層11、金属層11の一方の面(第1の面)に設けられた樹脂層(第1の樹脂層)12と、金属層11の他方の面(第2の面)に設けられた樹脂層(第2の樹脂層)13とを備える。外装材10は、必要に応じて、金属層11と樹脂層12との間、および金属層11と樹脂層13との間のうちの少なくとも一方に接着層をさらに備えるようにしてもよい。なお、外装材10の両面のうち、樹脂層12側の面が外側の面となり、樹脂層13側の面が電極体20を収納する内側の面となる。
【0015】
金属層11は、水分等の浸入を抑制し、収納物である電極体20を保護する役割を担うバリア層である。金属層11は、金属箔であり、例えば、アルミニウムまたはアルミニウム合金を含む。
【0016】
樹脂層12は、外装材10の表面を保護する機能を有する表面保護層である。樹脂層12は、例えば、ナイロン(Ny)、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリエチレンナフタレート(PEN)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0017】
樹脂層13は、折り返された外装材10の内側面の周縁同士を熱融着によりシールするための熱融着樹脂層である。樹脂層13は、例えば、ポリプロピレン(PP)およびポリエチレン(PE)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0018】
なお、外装材10は、上述したラミネートフィルムに代えて、他の構造を有するラミネートフィルム、ポリプロピレン等の高分子フィルムまたは金属フィルムにより構成されていてもよい。あるいは、アルミニウム製フィルムを心材として、その片面または両面に高分子フィルムを積層したラミネートフィルムにより構成されていてもよい。
【0019】
また、外装材10は、外観の美しさ等の観点から、有色層をさらに備えていてもよいし、樹脂層12、13のうちの少なくとも一方の層に着色材を含んでいてもよい。外装材10が、金属層11と樹脂層12との間、および金属層11と樹脂層13との間のうちの少なくとも一方に接着層をさらに備える場合には、接着層が着色材を含むようにしてもよい。
【0020】
(電極体)
図3は、図1に示した電極体20のIII-III線に沿った断面図である。電極体20は、長尺状を有する正極21と、長尺状を有する負極22と、正極21および負極22の間に設けられ、長尺状を有するセパレータ23と、正極21およびセパレータ23の間および負極22およびセパレータ23の間に設けられた電解質層24とを備える。電極体20は、正極21と負極22とをセパレータ23および電解質層24を介して積層し、扁平状かつ渦巻状になるように長手方向に巻回された構成を有しており、最外周部は保護テープ25により保護されている。
【0021】
以下、電池を構成する正極21、負極22、セパレータ23および電解質層24について順次説明する。
【0022】
(正極)
正極21は、例えば、正極集電体21Aと、正極集電体21Aの両面に設けられた正極活物質層21Bとを備える。正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム箔、ニッケル箔またはステンレス箔等の金属箔により構成されている。正極活物質層21Bは、リチウムを吸蔵および放出することが可能な1種または2種以上の正極活物質を含む。正極活物質層21Bは、必要に応じてバインダーおよび導電剤のうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。
【0023】
(正極活物質)
正極活物質としては、例えば、リチウム酸化物、リチウムリン酸化物、リチウム硫化物またはリチウムを含む層間化合物等のリチウム含有化合物が適当であり、これらの2種以上を混合して用いてもよい。エネルギー密度を高くするには、リチウムと遷移金属元素と酸素とを含むリチウム含有化合物が好ましい。このようなリチウム含有化合物としては、例えば、層状岩塩型の構造を有するリチウム複合酸化物、オリビン型の構造を有するリチウム複合リン酸塩等が挙げられる。リチウム含有化合物としては、遷移金属元素として、Co、Ni、MnおよびFeからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものであればより好ましい。このようなリチウム含有化合物としては、例えば、層状岩塩型の構造を有するリチウム複合酸化物、スピネル型の構造を有するリチウム複合酸化物、またはオリビン型の構造を有するリチウム複合リン酸塩等が挙げられ、具体的には、例えば、LiNi0.50Co0.20Mn0.302、LiCoO2、LiNiO2、LiNiCo1-a2(0<a<1)、LiMn24またはLiFePO4等があり、その他、公知のものが利用可能である。
【0024】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極活物質としては、これらの他にも、MnO2、V25、V613、NiS、MoS等のリチウムを含まない無機化合物を用いることもできる。
【0025】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極活物質は、上記以外のものであってもよい。また、上記で例示した正極活物質は、任意の組み合わせで2種以上混合されてもよい。
【0026】
(バインダー)
バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、およびこれら樹脂材料のうちの1種を主体とする共重合体等からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0027】
(導電剤)
導電剤としては、例えば、黒鉛、炭素繊維、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブおよびグラフェン等からなる群より選ばれる少なくとも1種の炭素材料を用いることができる。なお、導電剤は導電性を有する材料であればよく、炭素材料に限定されるものではない。例えば、導電剤として金属材料または導電性高分子材料等を用いるようにしてもよい。また、導電剤の形状としては、例えば、粒状、鱗片状、中空状、針状または筒状等が挙げられるが、特にこれらの形状に限定されるものではない。
【0028】
(負極)
負極22は、例えば、負極集電体22Aと、負極集電体22Aの両面に設けられた負極活物質層22Bとを備える。負極集電体22Aは、例えば、銅箔、ニッケル箔またはステンレス箔等の金属箔により構成されている。負極活物質層22Bは、リチウムを吸蔵および放出することが可能な1種または2種以上の負極活物質を含む。負極活物質層22Bは、必要に応じてバインダーおよび導電剤のうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。
【0029】
なお、この電池では、負極22または負極活物質の電気化学当量が、正極21の電気化学当量よりも大きくなっており、理論上、充電の途中において負極22にリチウム金属が析出しないようになっていることが好ましい。
【0030】
(負極活物質)
負極活物質としては、例えば、難黒鉛化性炭素、易黒鉛化性炭素、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維または活性炭等の炭素材料が挙げられる。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスまたは石油コークス等がある。有機高分子化合物焼成体というのは、フェノール樹脂やフラン樹脂等の高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいい、一部には難黒鉛化性炭素または易黒鉛化性炭素に分類されるものもある。これら炭素材料は、充放電時に生じる結晶構造の変化が非常に少なく、高い充放電容量を得ることができると共に、良好なサイクル特性を得ることができるので好ましい。特に黒鉛は、電気化学当量が大きく、高いエネルギー密度を得ることができ好ましい。また、難黒鉛化性炭素は、優れたサイクル特性が得られるので好ましい。さらにまた、充放電電位が低いもの、具体的には充放電電位がリチウム金属に近いものが、電池の高エネルギー密度化を容易に実現することができるので好ましい。
【0031】
また、高容量化が可能な他の負極活物質としては、金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素(例えば、合金、化合物または混合物)として含む材料も挙げられる。このような材料を用いれば、高いエネルギー密度を得ることができるからである。特に、炭素材料と共に用いるようにすれば、高エネルギー密度を得ることができると共に、優れたサイクル特性を得ることができるのでより好ましい。なお、本発明において、合金には2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含める。また、非金属元素を含んでいてもよい。その組織には固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物またはそれらのうちの2種以上が共存するものがある。
【0032】
このような負極活物質としては、短周期型周期表における4B族の金属元素または半金属元素を構成元素として含むものが挙げられ、その中で好ましいのはSiを構成元素として含むものである。Siは、リチウムを吸蔵および放出する能力が大きく、高いエネルギー密度を得ることができるからである。このような負極活物質としては、例えば、Siの単体、合金または化合物や、それらの1種または2種以上を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。Siの化合物としては、例えば、SiO(x≧0)が挙げられ、これらと炭素材料が粒子内に混在した物質などが挙げられる。
【0033】
その他の負極活物質としては、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能な金属酸化物または高分子化合物等も挙げられる。金属酸化物としては、例えば、チタン酸リチウム(Li4Ti512)等のLiとTiとを含むリチウムチタン酸化物、酸化鉄、酸化ルテニウムまたは酸化モリブデン等が挙げられる。高分子化合物としては、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンまたはポリピロール等が挙げられる。
【0034】
(バインダー)
バインダーとしては、正極活物質層21Bと同様のものを用いることができる。
【0035】
(導電剤)
導電剤としては、正極活物質層21Bと同様のものを用いることができる。
【0036】
(セパレータ)
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触による短絡を防止すると共に、リチウムイオンを透過させる絶縁性の多孔質膜である。セパレータ23の空孔には電解質が保持されるため、セパレータ23は、電解質に対する耐性が高く、反応性が低く、膨張しにくいという特性を有することが好ましい。
【0037】
セパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオレフィン樹脂(ポリプロピレン(PP)またはポリエチレン(PE)等)、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂、または、これらの樹脂をブレンドした樹脂からなる多孔質膜によって構成されており、これらの2種以上の多孔質膜を積層した構造とされていてもよい。
【0038】
中でも、ポリオレフィン製の多孔質膜は短絡防止効果に優れ、かつシャットダウン効果による電池の安全性向上を図ることができるので好ましい。特にポリエチレンは、100℃以上160℃以下の範囲内においてシャットダウン効果を得ることができ、かつ電気化学的安定性にも優れているので、セパレータ23を構成する材料として好ましい。その中でも、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状ポリエチレンは溶融温度が適当であり、入手が容易なので好適に用いられる。他にも、化学的安定性を備えた樹脂を、ポリエチレンまたはポリプロピレンと共重合またはブレンド化した材料を用いることができる。あるいは、多孔質膜は、ポリプロピレン層と、ポリエチレン層と、ポリプロピレン層を順次に積層した3層以上の構造を有していてもよい。セパレータ23の作製方法としては、湿式、乾式を問わない。
【0039】
セパレータ23としては、不織布を用いてもよい。不織布を構成する繊維としては、アラミド繊維、ガラス繊維、ポリオレフィン繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、またはナイロン繊維等を用いることができる。また、これら2種以上の繊維を混合して不織布としてもよい。
【0040】
(電解質層)
電解質層24は、電解液と、高分子化合物と、フィラーとを含み、電解質層24中において電解液とフィラーとが接触した状態となっている。後述するように、フィラーに対して本発明が適用される。電解質層24は、ゲル状を有していることが好ましい。電解質層24がゲル状を有していると、高いイオン伝導率を得ることができると共に、電池の漏液を抑制することができる。
【0041】
(電解液)
電解液は、いわゆる非水電解液であり、有機溶媒(非水溶媒)と、この有機溶媒に溶解された電解質塩とを含む。電解液が、電池特性を向上するために、公知の添加剤を含んでいてもよい。
【0042】
有機溶媒としては、炭酸エチレンまたは炭酸プロピレン等の環状の炭酸エステルを用いることができ、炭酸エチレンおよび炭酸プロピレンのうちの一方、特に両方を混合して用いることが好ましい。サイクル特性をさらに向上させることができるからである。
【0043】
有機溶媒としては、また、これらの環状の炭酸エステルに加えて、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルまたは炭酸メチルプロピル等の鎖状の炭酸エステルを混合して用いることが好ましい。高いイオン伝導性を得ることができるからである。
【0044】
なお、これらの有機溶媒の少なくとも一部の水素をフッ素で置換した化合物は、組み合わせる電極の種類によっては、電極反応の可逆性を向上させることができる場合があるので、好ましい場合もある。
【0045】
電解質塩としては、例えば、リチウム塩が挙げられ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiB(C654、LiCH3SO3、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32、LiC(SO2CF33、LiAlCl4、LiSiF6、LiCl、ジフルオロ[オキソラト-O,O']ホウ酸リチウム、リチウムビスオキサレートボレート、またはLiBr等が挙げられる。中でも、LiPF6は高いイオン伝導性を得ることができると共に、サイクル特性をさらに向上させることができるので好ましい。
【0046】
(高分子化合物)
高分子化合物は、電解液を保持する保持体であり、電解液により膨潤されている。高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリル-ブタジエンゴム、ポリスチレンまたはポリカーボネートが挙げられる。特に電気化学的な安定性の観点からは、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンまたはポリエチレンオキサイドが好ましい。
【0047】
(フィラー)
フィラーはSiを含むゼオライトとSiを含まないゼオライトである。Siを含むゼオライトとは、例えば、アルミノケイ酸塩であり、例えば、以下の組成式で表される組成を有するものが用いられる。
(M1,M21/2m(AlmSin2(m+n))・xH2
M1は、Li+、Na+、K+等の1価のカチオンであり、M2は、Ca2+、Mg2+、Ba2+等の2価のカチオンである。
Siを含まないゼオライトとは、例えば、アルミノフォスフェートである。アルミノフォスフェートは、アルミノフォスフェート型ゼオライト、又は、AlPO型ゼオライトとも称され、組成式はAlPOのように書くことができる。
【0048】
ゼオライトとしては、例えば、A型ゼオライト(LTA)、X型ゼオライト(FAU)、Y型ゼオライト(FAU)、ベータ型ゼオライト(BEA)およびAlPO-5(AFI)等からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0049】
正極21とセパレータ23の間に設けられた電解質層24、および負極22とセパレータ23の間に設けられた電解質層24におけるフィラーの濃度が異なっていてもよい。電池を高充電圧化すると、充電時に正極21側で電解液が分解し、ガスが発生しやすいことを考慮すると、正極21とセパレータ23の間に設けられた電解質層24のフィラーの濃度が、負極22とセパレータ23の間に設けられた電解質層24におけるフィラーの濃度よりも高いことが好ましい。
【0050】
フィラーの形状は特に限定されるものではなく、球状、板状、繊維状、キュービック状およびランダム形状等のいずれも用いることができる。
【0051】
フィラーの粒径は、10μm以下の範囲内であることが好ましい。粒径が10μmを超えると、電極間距離が大きくなり、限られたスペースで活物質充填量が十分得られず、電池容量が低くなる。
【0052】
[正極電位]
満充電状態における正極電位は、好ましくは4.20V(vs. Li/Li+)を超え、より好ましくは4.25V(vs. Li/Li+)以上、さらにより好ましくは4.40V(vs. Li/Li+)を超え、特に好ましくは4.45V(vs. Li/Li+)以上、最も好ましくは4.50V(vs. Li/Li+)以上である。但し、満充電状態における正極電位が、4.20V(vs. Li/Li+)以下であってもよい。満充電状態における正極電位の上限値は、特に限定されるものではないが、好ましくは6.00V(vs. Li/Li+)以下、より好ましくは5.00V(vs. Li/Li+)以下、さらにより好ましくは4.80V(vs. Li/Li+)以下、特に好ましくは4.70V(vs. Li/Li+)以下である。
【0053】
[電池の動作]
上述の構成を有する電池では、充電を行うと、例えば、正極活物質層21Bからリチウムイオンが放出され、電解質層24を介して負極活物質層22Bに吸蔵される。また、放電を行うと、例えば、負極活物質層22Bからリチウムイオンが放出され、電解質層24を介して正極活物質層21Bに吸蔵される。
【0054】
[電池の製造方法]
次に、本発明の第1の電池の例に係る電池の製造方法の一例について説明する。
【0055】
(正極の作製工程)
正極21は次のようにして作製される。まず、例えば、正極活物質と、バインダーと、導電剤とを混合して正極合剤を調製し、この正極合剤をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーを作製する。次に、この正極合剤スラリーを正極集電体21Aの両面に塗布し溶剤を乾燥させ、ロールプレス機等により圧縮成型することにより正極活物質層21Bを形成し、正極21を得る。
【0056】
(負極の作製工程)
負極22は次のようにして作製される。まず、例えば、負極活物質と、バインダーとを混合して負極合剤を調製し、この負極合剤をN-メチル-2-ピロリドン等の溶剤に分散させてペースト状の負極合剤スラリーを作製する。次に、この負極合剤スラリーを負極集電体22Aの両面に塗布し溶剤を乾燥させ、ロールプレス機等により圧縮成型することにより負極活物質層22Bを形成し、負極22を得る。
【0057】
(電解質層の形成工程)
電解質層24は次のようにして形成される。まず、例えば、電解液と、電解液を保持する保持体としての高分子化合物と、フィラーと、有機溶剤とを混合することにより、混合溶液を得る。次に、例えばホモジナイザを用いて混合溶液を加熱撹拌し、高分子化合物を溶解させると共に、フィラーを分散させることで、ゾル状の前駆体溶液を調製する。次に、この前駆体溶液を正極21および負極22の両面に均一に塗布して含浸させる。その後、希釈溶剤を気化させて除去することにより、電解質層24を形成する。
【0058】
(巻回工程)
電極体20は次のようにして作製される。まず、正極集電体21Aの端部に正極リード31を溶接により取り付けると共に、負極集電体22Aの端部に負極リード32を溶接により取り付ける。次に、電解質層24が形成された正極21と負極22とをセパレータ23を介して積層し積層体としたのち、この積層体をその長手方向に巻回して、最外周部に保護テープ25を接着して電極体20を得る。
【0059】
(封止工程)
電極体20は外装材10により次のようにして封止される。まず、例えば、柔軟性を有する外装材10の間に電極体20を挟み込む。この際、外装材30と正極リード31の間、外装材30と負極リード32の間にそれぞれ密着フィルム33A,33Bを挿入する。なお、正極リード31、負極リード32にそれぞれ密着フィルム33A,33Bを予め取り付けておいてもよい。また、外装材10に予めエンボス成型を施し、電極体20を収容する収容空間としての凹部を形成しておいてもよい。次に、外装材10の外縁部同士を熱融着等により密着させて封止する。以上により、外装材10に電極体20が収容された電池が得られる。封止後、必要に応じて、ヒートプレスにより電池を成型等するようにしてもよい。
【0060】
<1-2.第2の電池の例>
第2の電池の例では、フィラーを含むセパレータを備える電池について説明する。なお、第2の電池の例に係る電池は、電解質層24に代えてセパレータがフィラーを含むこと以外の点では、第1の電池の例に係る電池と同様の構成を有するので、以下では、フィラーを含むセパレータの構成についてのみ説明する。後述するように、フィラーに対して本発明が適用される。
【0061】
[セパレータの構成]
図4は、フィラーを含むセパレータ26の構成の一例を示す。セパレータ26は、基材26Aと、基材26Aの両面に設けられた表面層26Bとを備える。セパレータ26には、電解質層24を構成する電解質の一部が含浸されており、フィラーと電解質が接触する状態となっている。
【0062】
(基材)
基材26Aとしては、上述したセパレータ23と同様のものを用いることができる。なお、基材26Aが、フィラーを含んでもよい。
【0063】
(表面層)
表面層26Bは、フィラーと、フィラーを基材26Aの表面に結着すると共に、フィラー同士を結着する樹脂材料とを含む。フィラーは、第1の電池の例におけるフィラーと同様である。樹脂材料は、例えば、フィブリル化し、複数のフィブリルが繋がった三次元的なネットワーク構造を有していてもよい。この場合、フィラーは、この三次元的なネットワーク構造を有する樹脂材料に担持される。また、樹脂材料は、フィブリル化せずに、基材26Aの表面とフィラーを結着すると共に、フィラー同士を結着してもよい。この場合、より高い結着性を得ることができる。
【0064】
樹脂材料としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体またはその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体またはその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体またはその水素化物、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のゴム類、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、全芳香族ポリアミド(アラミド)等のポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリエーテル、アクリル酸樹脂またはポリエステル等の融点およびガラス転移温度の少なくとも一方が180℃以上の高い耐熱性を有する樹脂等が挙げられる。これら樹脂材料は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。中でも、耐酸化性および柔軟性の観点からは、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂が好ましく、耐熱性の観点からは、アラミドまたはポリアミドイミドが好ましい。
【0065】
表面層26B中におけるフィラーの含有量は、20質量%以上70質量%以下であることが好ましい。フィラーの含有量が20質量%以上であると、電池特性(例えばサイクル特性)の低下や、電池の外観不良(例えば電池膨れ)の発生を特に抑制することができる。一方、フィラーの含有量が70質量%以下であると、巻回工程における表面層26Bの脱離を抑制することができる。
【0066】
表面層の形成方法としては、例えば、樹脂材料、溶媒およびフィラーを含むスラリーを基材26Aの両面に塗布し、樹脂材料の貧溶媒かつ上記溶媒の親溶媒浴中を通過させて相分離させ、その後、乾燥させる方法を用いることができる。
【0067】
<1-3.第3の電池の例>
第3の電池の例では、フィラーを含む外装材を備える電池について説明する。第3の電池の例に電池は、電解質として電解質層24に代えて電解液を備えると共に、電解質層24に代えて外装材がフィラーを含む点において、第1の電池の例に係る電池とは異なっている。後述するように、フィラーに対して本発明が適用される。
【0068】
(電解液)
電解液は、第1の電池の例における電解質層24に含まれる電解液と同様である。
【0069】
(外装材)
図5は、フィラーを含む外装材10Aの構成の一例を示す。外装材10Aは、樹脂層(第2の樹脂層)13上に設けられた粒子含有層14を備える点において、第1の電池の例における外装材10と異なっている。なお、第3の電池の例において、第1の電池の例と同様の箇所には同一の符号を付して説明を省略する。
【0070】
粒子含有層14は、樹脂層13の表面のうち、熱融着によりシールする周縁部を除く部分に設けられる。粒子含有層14は、発生ガスの吸着量の向上の観点から、電極体20の全体を覆うように設けられていることが好ましいが、電極体20の一部を覆うように設けられていてもよい。例えば、電極体20の両端面、または電極体20の周面を覆うように設けられていてもよい。
【0071】
粒子含有層14は、フィラーと、フィラーを樹脂層13の表面に結着すると共に、フィラー同士を結着する樹脂材料とを含む。フィラーは、第1の電池の例におけるフィラーと同様である。樹脂材料は、例えば、第2の電池の例における表面層26Bに含まれる樹脂材料と同様である。粒子含有層14が、ゲル状を有していることが好ましい。電解質層24がゲル状を有していると、電池の漏液を抑制することができる。
【0072】
粒子含有層14中におけるフィラーの含有量は、50質量%以上90質量%以下である。フィラーの含有量が50質量%以上であると、電池特性(例えばサイクル特性)の低下や、電池の外観不良(例えば電池膨れ)の発生を特に抑制することができる。一方、フィラーの含有量が90質量%以下であると、封止工程において粒子含有層14の脱離を抑制することができる。
【0073】
粒子含有層14は、例えば、第2の電池の例における表面層26Bと同様にして作製される。電解液は、電極体20に含浸されていると共に、外装材10Aと電極体20との間にも設けられおり、粒子含有層14に含まれるフィラーが電解液と接触した状態となっている。
【0074】
<2.一実施の形態>
本発明は、上述した第1から第3の電池の例におけるフィラーに関するものである。以下では、第1の電池の例におけるフィラーに対して本発明を適用した例について説明する。
一般的に、非水電解質二次電池では、電解質の中に電解液を用いている。電解液としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)を始めとした有機分子が用いられている。電池を使用して、充放電を繰り返していると、このECなどの電解液が分解して、炭酸ガス(CO)、エチレンガスやメタンガスなどのガスが電池内で発生する。これらのガスが発生すると、ラミネート型電池の場合、電池の形状が膨れて変形してしまう。ラミネート型電池は、スマートフォンやタブレット端末等の薄型の機器の狭い空間に搭載されているため、電池の膨れにより、スマートフォンやタブレット端末等の筐体のカバーが開いてしまうことがあり、ユーザーの使用状況によっては、内部の電子部品が水に曝され易くなってしまう。つまり、電池の膨れは、外観の悪化を招くだけでなく、機器の故障の原因となることがある。
【0075】
そこで、電池内で発生したガスを吸着するために、電解質にフィラーとしてゼオライトを混入させる技術がある。ゼオライトは、例えば、SiやAlなどから構成される粒子状の無機酸化物であり、ゼオライトの表面には細孔があいている。ゼオライトの細孔の直径(細孔径)よりも小さな分子は、ゼオライトの内部に入ることができ、ゼオライト内に吸着されることがある。細孔径が大きいと、電池内で発生したガスの分子に限らず、電解液の分子まで吸着してしまうことがあり、適宜、ゼオライトの細孔径を調節する必要がある。
【0076】
ところで、ECなどの電解液には、多少の水分(HO)が混入していて、EC作製過程で脱水工程を加えたとしても、僅かな量の水分が混入していることがある。電解質塩として、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)をECに溶解させる(例えば、LiPFの濃度が1mol/l)ことが一般的であるが、この場合、LiPFがEC中のHOと化学反応して、フッ化水素(HF)が発生する(化学反応1)ことがある。もし、電池内で発生したガスの吸着のために、フィラーとして、Siを含有するゼオライトを使用している場合、このHFがゼオライト中のSiと化学反応して、Siを含有するゼオライトを破壊するとともに、HOを発生させる(化学反応2)。この発生したHOが残りのLiPFと化学反応をしてHFを生じさせる(化学反応1)。このように、化学反応1と化学反応2が繰り返され、Siを含有するゼオライトを徐々に破壊することがある。
【0077】
そこで、本発明では、フィラーとしてSiを含有しないゼオライトを用いることで、上述のようなゼオライトが破壊していく化学反応を回避し、電池内で発生したガスの吸着を十分に行い、電池の形状の膨れを防ぐことにした。本発明のフィラーは、以下の実施例1から実施例3に記載するように、AlPO型ゼオライト(アルミノフォスフェート型ゼオライト)である。アルミノフォスフェート型ゼオライトは、構成元素がAlやPやOなどからなり、Siを含まない。以下に、電池の作製方法を示す。
【0078】
(正極の作製工程)
正極を以下のようにして作製した。まず、混合した正極活物質90重量%、アモルファス性炭素粉(ケッチェンブラック)5wt%と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)5wt%とを混合して正極合剤を調製した。この正極合剤をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に分散させて正極合剤スラリーを作製した後、この正極合剤スラリーを帯状アルミニウム箔(正極集電体)の両面に均一に塗布して、塗膜を形成した。次に、この塗膜を温風乾燥した後、ロールプレス機で圧縮成型(ロール温度130℃、線圧0.7t/cm、プレス速度10m/min)し、正極シートを形成した。次に、この正極シートを48mm×300mmの帯状に切り出して、正極を作製した。次に、正極の正極集電体露出部分に正極リードを取り付けた。
【0079】
(負極の作製工程)
負極を以下のようにして作製した。まず、負極活物質としての黒鉛粒子とポリイミドバインダーを20重量%含むNMP溶液とを重量比で9:1となるように混合して、負極合剤スラリーを作製した。次に、負極合剤スラリーをギャップ35μmのバーコーターを用いて15μm厚の銅箔(負極集電体)の両面に塗布して塗膜を形成し、この塗膜を80℃で乾燥させた。次に、ロールプレス機で塗膜を圧縮成型した後、700℃で3時間加熱して負極シートを形成した。この負極シートを50mm×310mmの帯状に切り出して、負極を作製した。次に、負極の負極集電体露出部分に負極リードを取り付けた。
【0080】
(ラミネートセルの作製工程)
作製した正極および負極を、厚み25μmの微孔性ポリエチレンフィルムよりなるセパレータを介して密着させ、長手方向に巻回して、最外周部に保護テープを貼り付けることにより、扁平形状の巻回電極体を作製した。次に、この巻回電極体を外装部材の間に装填し、外装部材の3辺を熱融着し、一辺は熱融着せずに開口を有するようにした。外装部材としては、最外層から順に25μm厚のナイロンフィルムと、40μm厚のアルミニウム箔と、30μm厚のポリプロピレンフィルムとが積層された防湿性のアルミラミネートフィルムを用いた。
【0081】
(電解液の調製および注液工程)
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを、質量比がEC:EMC=1:1となるようにして混合した混合溶媒を調製した。次に、この混合溶媒に、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1mol/lとなるように溶解させて電解液を調製した。この電解液に以下の表1に示すフィラーを2wt%の濃度となるように混合し、フィラー含有電解液を作製した。この電解液を外装部材の開口から注入し、外装部材の残りの1辺を減圧下において熱融着し、密封した。これにより、目的とする非水電解質二次電池が得られた。
【実施例
【0082】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0083】
[実施例1]
電解液の調製の工程において、フィラーの種類をAlPO型ゼオライト(AlPO-18,構造コード:AEI)とした。フィラーのSi/Al比率(原子比)を0とした。フィラーの細孔径を3.8Åとした。なお、ゼオライトの構造コードは「国際ゼオライト学会(IZA:International Zeolite Association)」により規定されたコードを使用している。
【0084】
[実施例2]
電解液の調製の工程において、フィラーの種類をAlPO型ゼオライト(AlPO-5,構造コード:AFI)とし、フィラーのSi/Al比率(原子比)を0とした。フィラーの細孔径を5.4Åとした。
【0085】
[実施例3]
電解液の調製の工程において、フィラーの種類をAlPO型ゼオライト(AlPO-31,構造コード:ATO)とし、フィラーのSi/Al比率(原子比)を0とした。フィラーの細孔径を7.3Åとした。
【0086】
[比較例1]
電解液の調製の工程において、電解液にフィラーを全く混合しなかった。フィラーを無しとした。
【0087】
[比較例2]
電解液の調製の工程において、フィラーの種類をアルミナとした。Si/Al比率を0とした。アルミナには細孔があいていないものとし、フィラーの細孔径を0Åとした。
【0088】
[比較例3]
電解液の調製の工程において、フィラーの種類を4A型ゼオライト(構造コード:LTA)とした。4A型ゼオライトは元素記号がSiとAlを含むゼオライトであり、フィラーのSi/Al比率(原子比)を1とした。フィラーの細孔径を4.0Åとした。
【0089】
[比較例4]
電解液の調製の工程において、フィラーの種類をZSM-5型ゼオライト(構造コード:MFI)とした。ZSM-5型ゼオライトはSiとAlを含むゼオライトであり、フィラーのSi/Al比率(原子比)を1500とした。フィラーの細孔径を5.8Åとした。
【0090】
[比較例5]
電解液の調製の工程において、フィラーの種類を13X型ゼオライト(構造コード:FAU)とした。13X型ゼオライトはSiとAlを含むゼオライトであり、フィラーのSi/Al比率(原子比)を1.23とした。フィラーの細孔径を10Åとした。
【0091】
[評価]
(容量維持率の評価)
まず、充電電流0.5Aで定電流充電したのち、電流値が1/10に絞られるまで定電圧充電した。その後、放電電流0.2Aでの放電容量を測定した。ここで得られた放電容量から1Cとなる放電電流の値を算出した。次に、上述の充電条件にて23℃、並びに45℃環境下恒温槽中にて充電を行い、その後、同環境下で放電電流0.5C、終止電圧3.0Vの条件で放電を行った。この充放電条件にて300サイクル充放電を行い、その際の容量維持率を算出した。容量維持率は初回充放電から求めた容量に対する300サイクル目の充放電から求めた容量の割合とした。
(電池の膨れの評価)
300サイクル後に電池の厚みを測定し、初回充電後のセル厚さから3%以上厚さが増加していた場合に、電池の膨れが「あり」とし、初回充電後のセル厚さから3%未満の厚さの増加の場合に、電池の膨れが「なし」とした。
以下の表1に、その結果を示す。
【0092】
【表1】
【0093】
実施例1から実施例3(AlPO型ゼオライト)では、室温(23℃)と45℃とでの充放電サイクルにおいて、容量維持率が比較的高かったのに対し、比較例1から比較例5では、室温23℃での充放電サイクルにおいて、容量維持率が比較的低い例があり、45℃での充放電サイクルにおいて、どの例も容量維持率が比較的低かった。実施例1から実施例3ではSiを含まないゼオライトを含むため、電池内で発生したHFにより、ゼオライトがあまり分解せずに、ゼオライトが十分に機能し、容量維持率が比較的高かったと考えられる。比較例1と比較例2ではゼオライトが存在しないため、容量維持率が比較的低かったと考えられる。比較例3から比較例5では、Siを含むゼオライトを含むため、電池内で発生したHFにより、ゼオライトが比較的多く分解したため、ゼオライトが十分に機能せず、容量維持率が比較的低かったと考えられる。表1より、フィラーが構成元素にSiを含まないゼオライト(アルミノフォスフェート型ゼオライト)を含むとき、電池は充放電を繰り返しても、高い容量維持率を有すると判断できる。
【0094】
特に、実施例1から実施例3のうち、実施例1(フィラーの細孔径が3.8Å)と実施例2(フィラーの細孔径が5.4Å)では、23℃での充放電サイクルにおいて、電池の膨れがなかったのに対し、実施例3では電池の膨れがあった。実施例1と実施例2では、ゼオライトが充放電中に発生したガスを十分に吸着していたと考えられ、実施例3では、ゼオライトの細孔径が大きすぎて、ゼオライトに電解液の分子(例えばEC)が入って吸着してしまったため、ゼオライトが発生したガスを十分には吸着できなかったと考えられる。表1より、フィラーが構成元素にSiを含まないゼオライト(アルミノフォスフェート型ゼオライト)を含み、フィラーの細孔径が3.8Å以上5.4Å以下であるとき、電池は充放電を繰り返しても、高い容量維持率を有し、形状の膨れが一定以下となり抑制できていると判断できる。
【0095】
<3.変形例>
以上、本発明の一実施の形態について具体的に説明したが、本発明の内容は上述した一実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく、各種の変形が可能である。
【0096】
第1の電池の例から第3の電池の例、及び、一実施の形態では、電極体20が扁平形状を有する巻回電極体であるとしていたが、電極体20は、セパレータを介して正極と負極を交互に重ねた構造を有する積層電極体であってもよい。
【0097】
第1の電池の例から第3の電池の例では、フィラーを含む電解質層24を備えるラミネート型電池の例、フィラーを含むセパレータを備えるラミネート型電池の例、及び、フィラーを含む外装材を備えるラミネート型電池の例と別々に説明したが、これらを組み合わせてもよく、電解質、セパレータ、又は、外装材のうち、少なくとも一つにフィラーを含んでいてもよい。
【0098】
第1の電池の例では、電池が、電解質として、電解液と、高分子化合物と、フィラーとを含む電解質層24を備える場合について説明したが、電解質として、フィラーを含む電解液を備えるようにしてもよい。この場合にも、第1の電池の例と同様の効果を得ることができる。
【0099】
第1の電池の例では、電解質層24がフィラーを含む場合について説明したが、正極21および負極22のうちの少なくとも一方が、フィラーを含むようにしてもよい。この場合にも、第1の電池の例と同様の効果を得ることができる。
【0100】
正極21中および負極22中におけるフィラーの含有量は、0.1質量%以上1質量%以下であることが好ましい。フィラーの含有量が0.1質量%以上であると、電池特性(例えばサイクル特性)の低下や、電池の外観不良(例えば電池の膨れ)の発生を特に抑制することができる。一方、フィラーの含有量が1質量%以下であると、電池容量の低下を抑制することができる。
【0101】
第1の電池の例では、正極21とセパレータ23の間に設けられた電解質層24、および負極22とセパレータ23の間に設けられた電解質層24の両方が、フィラーを含む場合について説明したが、これらの電解質層24のうちの一方がフィラーを含むようにしてもよい。
【0102】
第1の電池の例では、正極21および負極22の両面に前駆体溶液を塗布して電解質層24を形成する場合について説明したが、セパレータ23の両面に前駆体溶液を塗布して電解質層24を形成するようにしてもよい。
【0103】
第2の電池の例では、セパレータ26が、基材26Aの両面にフィラーを含む表面層26Bを備える場合について説明したが、基材26Aの片面にフィラーを含む表面層26Bを備えるようにしてもよい。
【0104】
セパレータ26が基材26Aの片面に表面層26Bを備える場合には、セパレータ26は、基材26Aの両面うち、正極21に対向する側の面に表面層26Bを備えることが好ましい。この場合、セパレータ26の両面のうち、正極21に対向する面の耐酸化性(高電位の正極21に対する安定性)を向上することができる。
【0105】
第2の電池の例では、セパレータ26が、基材26Aと、フィラーを含む表面層26Bとを備える積層構造を有する場合について説明したが、セパレータ26が、フィラーを含む基材からなる単層構造を有していてもよい。
【0106】
電極体20の外周外において、セパレータ23が正極21および負極22よりも長くなっており、電極体20の外周をセパレータ23が覆っているようにしてもよい。この場合、電極体20から出てきた発生ガスを電極体20の外周を覆うセパレータで吸収することができる。セパレータ23は、発生ガスの吸収性向上の観点からすると、正極21および負極22のうち、より外周側に位置する電極よりも1周以上長く巻回されていることが好ましい。
【0107】
第3の電池の例では、外装材10Aが、樹脂層13上に粒子含有層14を備える場合について説明したが、粒子含有層14を備える代わりに、フィラーを含む樹脂層13を備えるようにしてもよい。この場合、フィラーの一部が樹脂層13の表面から露出していることが好ましい。このような構成を採用することで、発生ガスの吸収量を向上することができる。
【0108】
第3の電池の例では、外装材10Aがフィラーを含む場合について説明したが、図6に示すように、電池が外装材10Aと電極体20との間に粒子含有層27が備えるようにしてもよい。粒子含有層27は、例えば、第1の電池の例における電解質層24、またはフィラーを含むシートである。フィラーを含むシートは、発生ガスの吸収量を向上する観点からすると、電解液を透過可能な構成を有していることが好ましい。また、電池が、外装材10Aと電極体20との間に、フィラーを含む電解液を備えるようにしてもよい。
【0109】
以上、本発明の電池の例、一実施の形態、および変形例について具体的に説明したが、本発明は、上述の電池の例、一実施の形態、および変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0110】
例えば、上述の電池の例、一実施の形態、および変形例において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値等を用いてもよい。また、化合物等の化学式は代表的なものであって、同じ化合物の一般名称であれば、記載された価数等に限定されない。
【0111】
また、上述の電池の例、一実施の形態、および変形例の構成、方法、工程、形状、材料および数値等は、本発明の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0112】
また、本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値または下限値は、他の段階の数値範囲の上限値または下限値に置き換えてもよい。また、本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【符号の説明】
【0113】
10,10A・・・外装材,14,27・・・粒子含有層,20・・・電極体,21・・・正極,21A・・・正極集電体,21B・・・正極活物質層,22・・・負極,22A・・・負極集電体,22B・・・負極活物質層,23,26・・・セパレータ,24・・・電解質層,25・・・保護テープ,26A・・・基材,26B・・・表面層31・・・正極リード,32・・・負極リード,33A,33B・・・密着フィルム
図1
図2
図3
図4
図5
図6