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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】広帯域伝送線路配線基板
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/02 20060101AFI20240723BHJP
   H01P 1/00 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
H05K1/02 B
H05K1/02 N
H01P1/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022572068
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(86)【国際出願番号】 JP2021044579
(87)【国際公開番号】W WO2022138087
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2020213011
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 充浩
(72)【発明者】
【氏名】上山 博也
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-061104(JP,A)
【文献】特開2008-047711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/02
H01P 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部品実装面に形成される高周波信号が伝搬する伝送線路と、
前記部品実装面で前記伝送線路との接続点に最も近い箇所において前記伝送線路に一端が接続されて前記部品実装面に実装される先頭チップインダクタ、および、前記接続点に2番目に近い箇所から前記先頭チップインダクタに直列に接続されて前記部品実装面に実装され、最後に直列に接続される最後尾のものが直流電源に接続される複数の後続チップインダクタから構成され、自己共振周波数が、前記接続点に2番目に近い箇所において前記先頭チップインダクタの次に接続される前記後続チップインダクタの中の後続先頭チップインダクタが最も大きく、前記先頭チップインダクタが前記後続先頭チップインダクタの次に大きく、前記後続先頭チップインダクタに後続する前記後続チップインダクタが前記先頭チップインダクタと同じかまたは前記先頭チップインダクタより順次小さく設定されるバイアス回路と、
前記部品実装面の裏面に形成され、前記バイアス回路が実装される部品実装面部分の裏面に位置する領域の導電部が除去されるグランド面と
を備える広帯域伝送線路配線基板。
【請求項2】
前記グランド面は、前記部品実装面に最も近い層面を含む複数の層面において、前記バイアス回路が実装される部品実装面部分の裏面に位置する領域の導電部が除去されることを特徴とする請求項1に記載の広帯域伝送線路配線基板。
【請求項3】
前記グランド面は、前記バイアス回路が実装される部品実装面部分のうちの、前記先頭チップインダクタから前記後続先頭チップインダクタが実装される箇所までの部品実装面部分の裏面に位置する領域だけの導電部が除去されることを特徴とする請求項1に記載の広帯域伝送線路配線基板。
【請求項4】
前記バイアス回路は、前記先頭チップインダクタおよび前記後続チップインダクタのうちの少なくとも1つに並列に抵抗が接続されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の広帯域伝送線路配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広帯域の高周波信号が伝搬する伝送線路が形成され、その伝送線路に電源供給するバイアス回路が実装される広帯域伝送線路配線基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の配線基板としては、例えば、特許文献1に開示されたインダクタ配線基板がある。このインダクタ配線基板では、40Gb/sクラスの高周波信号が伝搬する伝送線路と、その伝送線路に接続される伝送路パタンとがフレキシブル基板に実装される。伝送路パタンは、伝送線路の入力端と出力端との間に一端が接続され、その一端から離れるにつれて放射状に広がるように配線されて、コニカル構造のインダクタを生成する。このインダクタは、伝送線路に近いほどインダクタンスが小さく、伝送線路から離れるほどインダクタンスが大きくなるインダクタL1,L2,…Ln(L1<L2<…<Ln)が連続して接続された構成となり、伝送線路に電源供給するバイアス回路となる。このインダクタの実装面の裏面にある基板のグランド面は削除され、寄生容量の低減化が図られる。
【0003】
また、従来、この種のバイアス回路として、例えば、特許文献2に開示された広帯域バイアス回路がある。この広帯域バイアス回路は、直列接続された3段のインダクタL1,L2,L3から構成され、一端が電源に接続され、他端が増幅回路の出力に接続された伝送線に接続される。この伝送線には、1MHzから3GHzの帯域の高周波信号が伝搬する。伝送線に接続される1段目のインダクタL1は最も小さいインダクタンスを有し、2,3段目に接続されるインダクタL2,L3は順に大きいインダクタンスを有する(L1<L2<L3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-47711号公報
【文献】特開2010-232988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の特許文献1および特許文献2に開示された各バイアス回路は、いずれも、伝送線路の透過特性を広い周波数帯域で高く維持する目的で、伝送線路との接続点に近いインダクタほど小さいインダクタンスを持つインダクタを配置する構成になっている。伝送線路の透過特性はSパラメータS21で表される。しかし、インダクタンスの小さいインダクタは、伝搬信号の低い周波数帯域で損失を発生してしまうため、伝送線路は、例えば、数MHzから数十GHzにわたる超広帯域にわたって高い透過特性を維持することができない。
【0006】
また、特許文献1に開示されたバイアス回路は、伝送路パタンが放射状に広がるように配線されてコニカル構造のインダクタが構成されるため、その裏面のグランド面が大きな面積で除去されて、寄生容量の低減化が図られる。このため、グランド面のインピーダンスが高くなり、グランド面に生じる電位振動などでノイズの問題が発生する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はこのような課題を解消するためになされたもので、
部品実装面に形成される高周波信号が伝搬する伝送線路と、
部品実装面で伝送線路との接続点に最も近い箇所において伝送線路に一端が接続されて部品実装面に実装される先頭チップインダクタ、および、接続点に2番目に近い箇所から先頭チップインダクタに直列に接続されて部品実装面に実装され、最後に直列に接続される最後尾のものが直流電源に接続される複数の後続チップインダクタから構成され、自己共振周波数が、接続点に2番目に近い箇所において先頭チップインダクタの次に接続される後続チップインダクタの中の後続先頭チップインダクタが最も大きく、先頭チップインダクタが後続先頭チップインダクタの次に大きく、後続先頭チップインダクタに後続する後続チップインダクタが先頭チップインダクタと同じかまたは先頭チップインダクタより順次小さく設定されるバイアス回路と、
部品実装面の裏面に形成され、バイアス回路が実装される部品実装面部分の裏面に位置する領域の導電部が除去されるグランド面と
を備え、広帯域伝送線路配線基板を構成した。
【0008】
本構成によれば、伝送線路を伝搬して、伝送線路との接続点に最も近い箇所に位置するインダクタで損失を発生させていた低い周波数帯域の伝搬信号は、後続先頭チップインダクタの次に自己共振周波数が大きい先頭チップインダクタの有するインピーダンスによって反射し、バイアス回路への侵入が阻止される。したがって、損失を発生させていた低い周波数帯域の伝搬信号は、伝送線路との接続点に最も近い箇所に位置する先頭インダクタで損失を発生させなくなる。
【0009】
また、後続先頭チップインダクタが有する最も大きい自己共振周波数の高周波帯域における伝搬信号は、先頭チップインダクタを通過して後続先頭チップインダクタまで侵入し、先頭チップインダクタから後続先頭チップインダクタに至る経路で、部品実装面裏面のグランド面との間に生じる寄生容量を介して、伝送線路からグランド面へ漏れようとする。しかし、グランド面は、バイアス回路が実装される部品実装面部分の裏面に位置する領域の導電部が除去されるので、そのような寄生容量の発生が低減され、高周波帯域における伝搬信号が伝送線路からグランド面へ漏れるのが防がれる。このため、広帯域にわたって伝送線路を高い透過特性に維持することが可能になる。
【0010】
また、バイアス回路を構成する各インダクタは、面実装タイプのチップインダクタによって構成される。したがって、バイアス回路を構成する各インダクタは、特許文献1に開示された、伝送路パタンでコニカル構造に形成されるインダクタのように、基板に大きな面積を占めることなく実装することができる。したがって、バイアス回路が実装される部品実装面部分裏面のグランド面に位置する導電部除去領域の面積を小さくして、グランド面のインピーダンスが高くなるのを抑制することができる。このため、グランド面に生じる電位振動などでノイズの問題が発生しなくなる。
【発明の効果】
【0011】
この結果、本発明によれば、広帯域にわたって伝送線路を高い透過特性に維持することが可能で、しかも、グランド面に生じる電位振動などでノイズの問題が発生することのないバイアス回路を配線基板に実装できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の広帯域伝送線路配線基板の概念を説明する図である。
図2】本発明の第1の実施形態による広帯域伝送線路配線基板の概略を説明する図である。
図3】第1の実施形態による広帯域伝送線路配線基板においてバイアス回路を構成する各チップインダクタが有するインピーダンスの周波数特性を示すグラフである。
図4】従来の広帯域伝送線路配線基板におけるバイアス回路を、第1の実施形態による広帯域伝送線路配線基板においてバイアス回路を構成する各チップインダクタで模した図である。
図5図4に示すバイアス回路の透過特性を示すグラフである。
図6図4に示す広帯域伝送線路配線基板を破断して矢視方向から見た断面図である。
図7】第1の実施形態による広帯域伝送線路配線基板における伝送線路の透過特性の測定に用いた測定基板を説明する図である。
図8図7に示す測定基板を破断して矢視方向から見た断面図である。
図9図7および図8に示す測定基板における伝送線路の透過特性の測定に用いた測定系を示す斜視図である。
図10図9に示す測定系を使って伝送線路の透過特性を測定した結果を比較例と共に示すグラフ、並びに、各比較例の構成を説明する図である。
図11】本発明の第2の実施形態による広帯域伝送線路配線基板の概略を説明する図である。
図12】本発明の第3の実施形態による広帯域伝送線路配線基板の概略を説明する図である。
図13】第3の実施形態による広帯域伝送線路配線基板の表面およびその裏面における配線パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明による広帯域伝送線路配線基板を実施するための形態について、説明する。なお、以下の説明において、同一または相当する部分には同一符号を付して説明する。
【0014】
図1は、本発明の広帯域伝送線路配線基板1の概念を説明する図であり、同図(a)は配線基板1の平面図、同図(b)は配線基板1をIb-Ib線で破断して矢視方向から見た断面図である。
【0015】
配線基板1の部品実装面1aには、IC(高集積化回路)2およびバイアス回路3が実装され、伝送線路4が形成される。伝送線路4には、IC2が図示しない回路と送受信する超広帯域の高周波信号sが伝搬する。バイアス回路3は、伝送路4に一端が接続されて部品実装面1aに実装される先頭チップインダクタL2、および、先頭チップインダクタL2に直列に接続されて部品実装面1aに実装される複数の後続チップインダクタL1,…,Lnから構成される。
【0016】
一般的に、バイアス回路3はバイアスT回路と呼ばれ、バイアス回路3を構成する先頭チップインダクタL2および後続チップインダクタL1,…,LnはそれぞれバイアスTインダクタと呼ばれる。先頭チップインダクタL2および後続チップインダクタL1,…,Lnは、直方体状の本体の両端部に電極が設けられて構成される表面実装タイプのインダクタであり、配線パターン5a,5b,…5n-1で直列に接続されて、伝送線路4にシャントに接続される。先頭チップインダクタL2に最後に直列に接続される最後尾の後続チップインダクタLnは、配線パターン5nを介して図示しない直流電源に接続される。
【0017】
直流電源からはバイアス回路3を介して伝送線路4に直流バイアス電流iが供給され、IC2、および、伝送線路4を介してIC2と通信する図示しない回路に、バイアス回路3によって直流バイアス電源が供給される。
【0018】
伝送線路4を使って行われる通信には、1本の伝送線路4に信号と直流バイアス電源とを重畳させて通信を行うPoC(Power Over Coax.)伝送技術が使用される。PoC伝送技術では、伝送線路4を伝搬する高周波信号と、伝送線路4へ供給される直流バイアス電源とをバイアス回路3によって分離している。バイアス回路3は、直流電源から伝送線路4へ直流電流iを供給しつつ、伝送線路4を伝搬する高周波の伝搬信号sが、伝送線路4の信号入力端から伝送線路4の信号出力端へ透過するのを妨げないようにする必要がある。その透過を阻害する要因としては、バイアス回路3への伝搬信号sの漏洩や、バイアス回路3での伝搬信号sの損失(熱への変換)、バイアス回路3と伝送線路4との接続部の特性インピーダンスの乱れによる伝搬信号sの反射が考えられる。
【0019】
バイアス回路3を構成する先頭チップインダクタL2および後続チップインダクタL1,…,Lnは、自己共振周波数が、先頭チップインダクタL2の次に接続される、後続チップインダクタL1,…,Lnの中の後続先頭チップインダクタL1が最も大きく設定される。先頭チップインダクタL2は、後続先頭チップインダクタL1の次に大きく自己共振周波数が設定される。後続先頭チップインダクタL1に後続する後続チップインダクタ…,Lnは、先頭チップインダクタL2と同じかまたは先頭チップインダクタL1より順次小さく、自己共振周波数が設定される。また、インダクタンス値は、後続先頭チップインダクタL1が最も小さく、先頭チップインダクタL2が次に小さく、後続チップインダクタ…,Lnは、先頭チップインダクタL2と同じかまたは先頭チップインダクタL1より順次大きく設定される。
【0020】
これらチップインダクタL2,L1,…,Lnは自己共振周波数付近でインピーダンスが高くなり、各自己共振周波数付近の帯域の伝搬信号sがバイアス回路3に漏洩することを防ぐことができる。これらチップインダクタL2,L1,…,Lnの数は4つ以上になってもよい。
【0021】
部品実装面1aの裏面に形成されるグランド面1bは、同図(a)の平面図に薄墨色で描かれており、バイアス回路3が実装される部品実装面部分の裏面に位置する領域1b1の導電部1b2が除去される。部品実装面1aには、同図(b)に一部が示される、後述する表層グランド6が形成されることがある。配線基板1は、複数層に形成され、グランド面1bが形成される層の他、グランド面1cが形成される層を備え、基板裏面にはグランド面1dが形成される。これら表層グランド6および各グランド面1b,1c,1dはスルーホール7によって導通している。
【0022】
図2は、本発明の第1の実施形態によるバイアス回路3が実装される広帯域伝送線路配線基板1Aの概略を説明する図であり、同図(a)は配線基板1Aの平面図、同図(b)は配線基板1AをIIb-IIb線で破断して矢視方向から見た断面図である。
【0023】
第1の実施形態による配線基板1Aは、バイアス回路3が先頭チップインダクタL2および2つの後続チップインダクタL1,L3から構成される点だけが、図1に示す配線基板1と異なり、他の構成は図1に示す配線基板1と同様である。配線基板1Aは、伝送線路4を伝搬信号sが透過するのを阻害する上記の各要因を回避し、伝送線路4の透過特性S21が、45GHzまでの伝搬信号sは-0.5dB以上、45GHz~60GHzの伝搬信号sは-2.5dB以上となるように、バイアス回路3が広帯域に構成されている。
【0024】
伝送線路4には、特性インピーダンスが50Ωに設計されたマイクロストリップ線路やコプレーナ線路等の線路が用いられる。配線基板1Aでは、部品実装面1aに伝送線路4を囲む表層グランド6が形成され、伝送線路4はコプレーナ線路として用いられる。また、バイアス回路3に接続される直流電源にはバッテリーや電圧レギュレータなどが用いられる。
【0025】
図3は、各チップインダクタL1,L2,L3が有するインピーダンスの周波数特性を示すグラフである。同グラフの横軸は周波数[Hz]、縦軸はインピーダンス[Ω]を表す。また、太い実線で示される特性線21は後続先頭チップインダクタL1の特性、細い実線で示される特性線22は先頭チップインダクタL2の特性、破線で示される特性線23は後続チップインダクタL3の特性を表す。
【0026】
後続先頭チップインダクタL1には、0603(mm)サイズで、自己共振周波数が約15GHz、インダクタンス値が0.04μHの高周波向けのものが用いられ、先頭チップインダクタL2には、0603(mm)サイズで、自己共振周波数が約1GHz、インダクタンス値が3μHの中間周波数向けのものが用いられる。また、後続チップインダクタL3には、1608(mm)サイズで、自己共振周波数が約20GHz、インダクタンス値が47μHの低周波向けのものが用いられる。
【0027】
広帯域にわたりバイアス回路3への伝搬信号sの漏洩を防ぐために、後続先頭チップインダクタL1の自己共振周波数は10~30GHz、先頭チップインダクタL2の自己共振周波数は10MHz~10GHz、後続チップインダクタL3の自己共振周波数は1~500MHzの各帯域となることが望ましい。各チップインダクタL1,L2,L3は、自己共振周波数付近でインピーダンスが高くなり、これら各自己共振周波数付近の帯域の伝搬信号sがバイアス回路3に漏洩することを防ぐ。
【0028】
インピーダンスの周波数特性を示すグラフにおいて、各チップインダクタL1,L2,L3のインピーダンスカーブが急峻で、直列に接続した際の合成インピーダンスに谷が生じる場合は、その谷が埋まるように、バイアス回路3が、各チップインダクタL1,L2,L3のうちの少なくとも1つに並列に抵抗を接続してもよい。その場合、並列に接続する抵抗の抵抗値は500~1000Ωが望ましい。
【0029】
このようにいずれかのチップインダクタL1,L2,L3に並列に抵抗Rが接続されることで、そのチップインダクタの自己共振周波数の帯域幅は、隣接するチップインダクタの自己共振周波数の帯域幅との関係が、各自己共振周波数間で透過特性S21の劣化を招く帯域を発生させない最適な帯域幅に適宜設定される。
【0030】
図4は、従来の配線基板1Zを各チップインダクタL1,L2,L3で模したバイアス回路8を示す。このバイアス回路8は、特許文献1,2に示される各バイアス回路と同様に、伝送線路4との接続点から最も近い位置に、自己共振周波数が最も大きい後続先頭チップインダクタL1が配置され、その次に、後続先頭チップインダクタL1の次に自己共振周波数が大きい先頭チップインダクタL2、最後尾に自己共振周波数が最も小さい後続チップインダクタL3が配置されて、構成される。
【0031】
図5は、上記のバイアス回路8によって電源供給される伝送線路4の透過特性S21を示すグラフである。同グラフの横軸は周波数、縦軸は透過特性S21[dB]を表す。また、特性線24は伝送線路4の透過特性S21、破線は、透過特性S21の目標ライン25の一例を示す。特性線24は、同グラフにおいて目標ライン25よりも上に位置することが望まれる。
【0032】
従来のバイアス回路8は、伝送線路4との接続点に近いほど自己共振周波数が大きく、インダクタンスが小さいインダクタを配置する構成になっている。したがって、伝送線路4との接続点に最も近い自己共振周波数が10~30GHzの後続先頭チップインダクタL1は、10GHzより低い周波数の伝搬信号sを通して損失を発生させ、熱に変換してしまう。このため、同グラフに示されるように、伝送線路4の透過特性S21は、10GHzより低い楕円26で示す周波数の帯域において、目標ライン25を下回っている。このため、バイアス回路8は、数MHzから数十GHの超広帯域にわたって伝送線路4の透過特性S21を-0.5dB以上に維持することができない。
【0033】
しかし、第1の実施形態による配線基板1Aによれば、配線基板1Zで伝送線路4との接続点に最も近い箇所に位置するインダクタ(チップインダクタL1)で損失を発生させていた10GHzより低い周波数帯域の伝搬信号sは、後続先頭チップインダクタL1の次に自己共振周波数が大きい先頭チップインダクタL2の有するインピーダンスによって反射し、バイアス回路3への侵入が阻止される。したがって、損失を発生させていた低い周波数帯域の伝搬信号sは、伝送線路4との接続点に最も近い箇所に位置する先頭チップインダクタL2で損失を発生させなくなる。
【0034】
また、後続先頭チップインダクタL1が有する最も大きい自己共振周波数の高周波帯域における伝搬信号sは、先頭インダクタL2を通過して後続先頭チップインダクタL1まで侵入し、図6に示す配線基板1Zの断面図に示すように、先頭チップインダクタL2から後続先頭チップインダクタL1に至る経路で、部品実装面裏面のグランド面1bとの間に生じる寄生容量Cを介して、伝送線路4からグランド面1bへ漏れようとする。なお、図6は、各チップインダクタL1,L2,L3の並びを配線基板1Aと同じにした図4に示す配線基板1ZをVIーVI線で破断して矢視方向から見た断面図である。しかし、配線基板1Aにおけるグランド面1bは、図2(b)に示すように、バイアス回路3が実装される部品実装面部分の裏面に位置する領域1b1の導電部1b2が除去されるので、そのような寄生容量Cの発生が低減され、高周波帯域における伝搬信号sが伝送線路4からグランド面1bへ漏れるのが防がれる。このため、超広帯域にわたって伝送線路4を高い透過特性S21に維持することが可能になる。
【0035】
また、バイアス回路3を構成する各チップインダクタL1,L2,L3は、面実装タイプのチップインダクタによって構成される。したがって、バイアス回路3を構成する各チップインダクタL1,L2,L3は、特許文献1に開示された、伝送路パタンでコニカル構造に形成されるインダクタのように、配線基板1Aに大きな面積を占めることなく実装することができる。したがって、バイアス回路3が実装される部品実装面部分裏面のグランド面1bに位置する導電部除去領域1b1の面積を小さくして、グランド面1bのインピーダンスが高くなるのを抑制することができる。このため、グランド面1bに生じる電位振動などでノイズの問題が発生しなくなる。
【0036】
第1の実施形態による配線基板1Aの上記の効果を確認するため、伝送線路4の透過特性S21を実際に測定した。図7(a)は、この測定に用いた測定基板1A’の部品配置図、図7(b)は測定基板1A’の表面およびその裏面に形成される配線パターン図、図8は、図7(a)に示すVIII-VIII線で測定基板1A’を破断して矢視方向から見た断面図である。なお、これら各図における数値の単位は[mm]である。
【0037】
図7(a)に示すように、測定基板1A’は、12mm角の大きさを有し、上端から5mm離れた位置に特性インピーダンス51Ωの伝送線路4がコプレーナ線路として形成されている。伝送線路4は0.20mmの幅を有し、左端が信号入力端4a、右端が信号出力端4bになっている。伝送路4の両脇には、0.1mmの間隔をあけて表層グランド6,6が形成されている。後続チップインダクタL3には1,000Ωの抵抗Rが並列に接続されている。先頭チップインダクタL2および後続先頭チップインダクタL1の中心線は後続チップインダクタL3の中心線に一致しており、各中心線はVIII-VIII線上にある。
【0038】
図7(b)に示すように、破線で示す各チップインダクタL1,L2,L3は配線パターン5a,5bによって直列に接続される。最後尾の後続チップインダクタL3は、配線パターン5cによって電源に代えて基板グランドに接続される。配線パターン5b,5c間には後続チップインダクタL3を実装するための実装パッド5d,5eが形成され、各実装パッド5d,5eには並列に、抵抗Rを実装するための実装パッド5f,5gが形成される。バイアス回路3の裏面における領域1b1の導電部1b2は除去されている。
【0039】
図8に示すように、基板裏面のグランド面1b,1c,1dは、0.15mm間隔で3層に設けられている。導電部除去領域1b1は測定基板1A’の最も表面に近い層に形成されている。
【0040】
図9は、測定基板1A’における伝送線路4の透過特性S21の測定に用いた測定系を示す斜視図である。測定は、Keysight社製ネットワークアナライザ31(型名:N5222A)と、Cascade Microtech社製のプローバー32(型名:SUMMIT9000)と、RFプローブ33(型名:ACP65A-GSG-250)とを用いて行った。ネットワークアナライザ31からRFプローブ33の先端までをOPEN/LOAD/SHORT補正をかけて校正し、測定基板1A’における伝送線路4の両端の入力端子4aおよび出力端子4b間におけるSパラメータを測定した。測定したSパラメータは伝送線路4の部分のディエンベディングを行い、図7(b)に白矢印34で示す、バイアス回路3と伝送線路4との接続部分の透過特性S21のみを取得した。
【0041】
図10(a)は、上記の測定結果を比較例と共に示すグラフである。同グラフの横軸は周波数[Hz]、縦軸は透過特性S21[dB]を表す。また、太い実線で表される特性線41は、測定基板1A’におけるバイアス回路3が、図10(b)に示すように、チップインダクタL2,L1,L3の順に直列に接続されて構成され、裏面グランド1bに導電部除去領域1b1が形成されるときに、上記のようにして測定される伝送線路4の透過特性S21を示す。細い実線で表される特性線42は、測定基板1A’におけるバイアス回路3が、図10(c)に示すように、チップインダクタL2,L1,L3の順に直列に接続されて構成されるが、裏面グランド1bに導電部除去領域1b1が形成されないときに、上記のようにして測定される伝送線路4の透過特性S21を示す。破線で表される特性線43は、測定基板1A’におけるバイアス回路3’が、図10(d)に示すように、チップインダクタL1,L2,L3の順に直列に接続されて構成され、裏面グランド1bに導電部除去領域1b1が形成されないときに、上記のようにして測定される伝送線路4の透過特性S21を示す。
【0042】
同グラフから、第1の実施形態による配線基板1Aのようにバイアス回路3に伝送線路4が接続されるときにおける、特性線41に表される伝送線路4の透過特性S21は、数MHzから数十GHの超広帯域にわたって目標ライン25を上回って、超広帯域にわたって伝送線路4の透過特性S21を目標値以上に維持することが確認された。
【0043】
また、バイアス回路3の裏面に導電部除去領域1b1が形成されないときにおける、特性線42に表される伝送線路4の透過特性S21は、浮遊容量C(図6参照)の影響によって、55GHz付近以上の高周波帯域で目標ライン25を下回り、高周波特性が劣化することが確認された。
【0044】
また、従来のように自己共振周波数の大きい順に各チップインダクタL1,L2,L3が直列に接続されるときにおける、特性線43に表される伝送線路4の透過特性S21は、図5を用いた従来技術の課題で説明したように、10GHz以下の低周波帯域で目標ライン25を下回り、低周波特性が劣化することが確認された。これは、自己共振周波数が10~30GHzのチップインダクタL1は1~10GHzのインピーダンスが低いため(図3参照)、この1~10GHzの周波数帯域の伝搬信号sを通過させてしまうことによる。このときチップインダクタL1の損失によって、この1~10GHzの周波数帯域の伝搬信号sは熱に変換されてしまうため、チップインダクタL1を伝送線路4との接続点直近に配置した場合、伝送線路4の透過特性S21はこの低い周波数帯域において低下してしまう。
【0045】
このため、本実施形態では、1~10GHzに自己共振周波数の周波数帯域を持つ先頭チップインダクタL2を後続先頭チップインダクタL1の前段、つまり、伝送線路4との接続点の直近に配置し、この周波数帯域の伝搬信号sを後続先頭チップインダクタL1に到達させないようにしている。このとき、後続先頭チップインダクタL1を伝送線路4から離して配置するため、伝送線路4との接続点から後続先頭チップインダクタL1までの間に高周波の伝搬信号sに干渉する寄生容量Cが発生しやすくなる。この寄生容量Cにより、伝送線路4とバイアス回路3との接続点の特性インピーダンスが低下して、伝送線路4の透過特性S21が劣化してしまう。このため、本実施形態では、バイアス回路3の裏面のグランド面1bにおける領域1b1を削除することで、寄生容量Cの発生を低減させ、透過特性S21を維持させている。
【0046】
これらの測定結果から、第1の実施形態による配線基板1Aの有効性が確認された。すなわち、第1の実施形態による配線基板1Aによれば、超広帯域にわたって伝送線路4を高い透過特性S21に維持することが可能で、しかも、グランド面1bに生じる電位振動などでノイズの問題が発生することのないバイアス回路3を配線基板1Aに実装できるようになる。
【0047】
図11は、本発明の第2の実施形態による広帯域伝送線路配線基板1Bの断面図である。
【0048】
この配線基板1Bは、基板裏面のグランド面が、部品実装面1aに最も近い層面を含む複数の層面において、バイアス回路3が実装される部品実装面部分の裏面に位置する領域の導電部が除去される。例えば、図示するように、部品実装面1aに最も近い層面のグランド面1bにおける、バイアス回路3が実装される部品実装面部分の裏面に位置する領域1b1の導電部1b2が除去されると共に、部品実装面1aに次に近い層面のグランド面1cにおける、バイアス回路3が実装される部品実装面部分の裏面に位置する領域1c1の導電部1c2が除去される。
【0049】
この第2の実施形態によるバイアス回路3を備える配線基板1Bによれば、バイアス回路3が実装される部品実装面1aに最も近い層面を含む複数の層面において、バイアス回路3が実装される部品実装面部分の裏面に位置する例えば領域1b1、1c1の導電部1b2、1c2が除去されるので、先頭インダクタL2から後続先頭チップインダクタL1に至る経路で、部品実装面裏面の各層面における例えばグランド面1b、1cとの間に生じる寄生容量Cが低減される。このため、寄生容量Cの大きさがさらに抑制されて、高周波帯域における伝搬信号sの伝送線路4から例えばグランド面1b、1cへの漏れが、より効果的に防がれる。よって、高周波帯域における伝送線路4の透過特性S21をより高めることが可能になる。
【0050】
図12は、本発明の第3の実施形態による広帯域伝送線路配線基板1Cの断面図、図13は配線基板1Cの表面およびその裏面に形成される配線パターン図である。
【0051】
この配線基板1Cは、基板裏面のグランド面が、バイアス回路3が実装される部品実装面部分のうちの、先頭チップインダクタL2から後続先頭チップインダクタL1が実装される箇所までの部品実装面部分裏面に位置する領域1b3だけの導電部1b2が除去される。
【0052】
この第3の実施形態による配線基板1Cによれば、寄生容量Cの発生を低減させるためにグランド面の導電部が除去される領域は、先頭チップインダクタL2から後続先頭チップインダクタL1が実装される箇所までの部品実装面部分の裏面に位置する領域だけに限定される。これは、高周波帯域における透過特性S21の劣化は、伝送線路4とバイアス回路3との接続点から後続先頭チップインダクタL1までの間に発生する寄生容量Cが、特性インピーダンスを低下させることに起因するからである。このため、裏面グランドの削除領域を接続点から後続先頭チップインダクタL1までに絞っても、高周波領域の透過特性劣化を抑制する効果は大きく損なわれることはない。
【0053】
第3の実施形態による配線基板1Cによれば、バイアス回路3が実装される部品実装面部分裏面のグランド面1bに位置する導電部除去領域1b3の面積をより小さくして、グランド面1bのインピーダンスが高くなるのをさらに抑制することができる。よって、グランド面1bの面内を交流電流が流れた際の電流振幅とグランドインピーダンスとの積で求められる、グランド面1bに生じる電位振動などで、ノイズの問題が発生するのを最小限に抑制することができる。
【符号の説明】
【0054】
1,1A,1B,1C…配線基板
1a…部品実装面
1b,1c,1d…グランド面
1b1,1c1,1b3…領域
1b2,1c2…導電部
2…IC
3…バイアス回路
4…伝送線路
5a,5b,5n-1,5n…配線パターン
5d,5e,5f,5g…実装パッド
6…表層グランド
7…スルーホール
L1…後続先頭チップインダクタ
L2…先頭チップインダクタ
L3,Ln…後続チップインダクタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13