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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】細胞培養用容器の使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240723BHJP
   C12M 1/12 20060101ALI20240723BHJP
   C12M 3/06 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C12M1/00 D
C12M1/12
C12M3/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023024199
(22)【出願日】2023-02-20
(62)【分割の表示】P 2022000715の分割
【原出願日】2017-04-14
(65)【公開番号】P2023062116
(43)【公開日】2023-05-02
【審査請求日】2023-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2016083193
(32)【優先日】2016-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 郷史
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 貴彦
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-063404(JP,A)
【文献】特開2003-274923(JP,A)
【文献】特許第5731704(JP,B1)
【文献】国際公開第2016/052657(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養の用途に供される細胞培養用容器を用いて凝集塊を形成する細胞を培養する当該容器の使用方法であって、
前記細胞培養用容器は、
プラスチックフィルムからなる容器本体と、注入出用ポートとを備え、
前記容器本体の内部が、フィルタ部材によって、前記容器本体の天面側の第一の槽と、前記容器本体の底面側の第二の槽とに区画され、
少なくとも前記天面側の第一の槽に、前記注入出用ポートを少なくとも一つ備えており、
前記フィルタ部材として、凝集塊を形成する前の細胞の通過は許容するが、凝集塊の通過は許容しない細孔を有するフィルタ部材を選択し、
前記細胞を、前記第一の槽に注入し、次いで、前記フィルタ部材を通過した細胞を、前記第二の槽に沈降させて培養し培養が進行して形成された凝集塊を前記第二の槽に留まらせた状態で培養することを特徴とする細胞培養用容器の使用方法。
【請求項2】
前記容器本体の底面に、複数の凹部が設けられ、前記複数の凹部のそれぞれの底部に、前記細胞を集めて培養する請求項1に記載の細胞培養用容器の使用方法。
【請求項3】
前記第一の槽に備えられた前記注入出用ポートから、洗浄液を注入出して前記凝集塊の洗浄を行う、請求項1又は2に記載の細胞培養用容器の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養に際して行われる種々の操作を簡便、かつ、効率良く行うために細胞培養の用途に供される細胞培養用容器、及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品の生産、遺伝子治療、再生医療、免疫療法などの医薬学・生化学分野において、細胞(組織、微生物、ウイルスなどを含む)を人工的な環境下で効率良く大量に培養することが求められている。
【0003】
このような要求に応えるべく、本出願人は、閉鎖系の環境を構築してコンタミネーションのリスクを低減しつつ、効率的に細胞培養を行うことができる細胞培養システムについて検討を重ねてきた。
【0004】
例えば、特許文献1において、細胞を培養するための培養容器と、培地等を貯蔵しておくための培地貯蔵容器と、細胞を注入するための細胞注入容器と、培養後の細胞懸濁液を回収する細胞回収容器とを導管によって連結し、閉鎖系の環境を構築してなる細胞培養用キットを提案している。このような細胞培養用キットによれば、細胞注入から培地追加、サンプリング、回収までをキット内で閉鎖系を維持しながら行うことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2013/114845号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1には、培養された細胞を回収するにあたり、培養容器を静置して細胞懸濁液中の細胞を沈降させた後に、細胞懸濁液の上澄みを排出し、液量を低減させてから、濃縮された細胞懸濁液を培養容器から細胞回収容器に移送する例が示されている。
【0007】
また、細胞の培養には、通常、数日~数週間の期間を要するため、培地成分の枯渇や細胞の代謝物の蓄積によって細胞の成長が阻害されてしまわないように、培養期間中に、必要に応じて培地交換を行うことがある。培地交換を行うに際しては、細胞懸濁液の上澄みを排出することによって古い培地を取り除くとともに、それに代えて新しい培地を追加することが考えられる。
【0008】
しかしながら、このようにして細胞の回収や培地交換を行うには、細胞懸濁液の上澄みを排出するに先立って、培養容器を静置して細胞懸濁液中の細胞を沈降させておかなければならず、細胞を沈降させるまでに時間を要してしまう。一方、十分な時間をかけて細胞懸濁液中の細胞を沈降させても、排出操作によって上澄みに細胞が混入し、上澄みと一緒に細胞が排出されてしまう虞もある。特に、培地交換を行うにあたっては、古い培地ができるだけ多く取り除かれるようにして、新しい培地がより多く追加されるようにすることが望まれるが、上澄みの排出量が多くなるほど、細胞の混入が避けられなくなってしまう。
【0009】
また、培地交換を行う際に、古い培地と一緒に細胞が排出されてしまうのを防ぐには、培養容器に設けられたポートの流路にフィルタを取り付けることも考えられる。
しかしながら、ポートの流路径は、通常、1~10mm程度であり、フィルタの面積も比較的小さくなるため、捕捉された細胞によってフィルタに目詰まりが生じ易く、古い培地の排出を妨げてしまう虞がある。さらに、フィルタに捕捉された細胞が培養容器内に戻らずに、フィルタに捕捉されたまま死滅してしまう虞もある。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであり、例えば、培地交換を行う際に、古い培地と一緒に細胞が排出されてしまうのを抑制できるなど、細胞培養に際して行われる種々の操作を簡便、かつ、効率良く行うために細胞培養の用途に供される細胞培養用容器、及びその使用方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る細胞培養用容器の使用方法は、細胞培養の用途に供される細胞培養用容器を用いて凝集塊を形成する細胞を培養する当該容器の使用方法であって、前記細胞培養用容器は、プラスチックフィルムからなる容器本体と、注入出用ポートとを備え、前記容器本体の内部が、フィルタ部材によって、前記容器本体の天面側の第一の槽と、前記容器本体の底面側の第二の槽とに区画され、少なくとも前記天面側の第一の槽に、前記注入出用ポートを少なくとも一つ備えており、前記フィルタ部材として、凝集塊を形成する前の細胞の通過は許容するが、凝集塊の通過は許容しない細孔を有するフィルタ部材を選択し、前記細胞を、前記第一の槽に注入し、次いで、前記フィルタ部材を通過した細胞を、前記第二の槽に沈降させて培養し培養が進行して形成された凝集塊を前記第二の槽に留まらせた状態で培養する細胞培養用容器の使用方法としてある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、細胞培養に際して行われる種々の操作を簡便、かつ、効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第一実施形態に係る細胞培養用容器の一例を示す説明図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る細胞培養用容器の使用例を示す説明図である。
図3】本発明の第一実施形態に係る細胞培養用容器の他の使用例を示す説明図である。
図4】本発明の第一実施形態に係る細胞培養用容器の他の使用例を示す説明図である。
図5】本発明の第一実施形態に係る細胞培養用容器の他の使用例を示す説明図である。
図6】本発明の第二実施形態に係る細胞培養用容器の一例を示す説明図である。
図7】本発明の第二実施形態に係る細胞培養用容器の使用例を示す説明図である。
図8】本発明の第三実施形態に係る細胞培養用容器の一例を示す説明図である。
図9】本発明の第三実施形態に係る細胞培養用容器の使用例を示す説明図である。
図10】本発明の第四実施形態に係る細胞培養用容器の一例を示す説明図である。
図11】本発明の第四実施形態に係る細胞培養用容器の使用例を示す説明図である。
図12】本発明の第五実施形態に係る細胞培養用容器の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
[第一実施形態]
まず、本発明の第一実施形態について説明する。
なお、図1は、本実施形態に係る細胞培養用容器の一例を示す説明図である。
【0016】
本実施形態の一例として図1に示す容器1は、容器本体2と注入出用ポート3a,3bとを備えている。そして、容器本体2の内部は、シート状のフィルタ部材4によって、天面2a側の第一の槽1stと、底面2b側の第二の槽2ndとに区画されており、天面2a側の第一の槽1stと、底面2b側の第二の槽2ndのそれぞれに、注入出用ポート3a,3bが備えられている。
【0017】
容器本体2は、培地又は培地中に細胞を懸濁させた細胞懸濁液を、培養に支障なく収容できれば、その具体的な形態は限定されない。例えば、射出成形、ブロー成形などにより所定の形状に成形された容器としてもよく、二枚のプラスチックフィルムを重ねて周辺部をシールしたパウチ状の容器としてもよい。
【0018】
注入出用ポート3a,3bは、培地や細胞を注入、排出などする際の出入り口となる部位であり、例えば、培地や細胞などが流通可能な管状の部材を容器本体2に取り付けることによって備えることができる。
【0019】
また、特に図示しないが、天面2a側の第一の槽1stと底面2b側の第二の槽2ndには、例えば、培養中の培地や細胞をサンプリングなどするための注入出用ポートを別途備えるようにしてもよい。
フィルタ部材4によって区画されたそれぞれの槽は、必要に応じて、二以上の注入出用ポートを備えることができる。
【0020】
図1に示す一例において、容器本体2は、プラスチックフィルムからなり、周辺部がシールされ、その天面2a側が台地状に膨出した膨出形状を有し、平坦面とされた天面2aの縁が傾斜して周辺部に連なるように形成されている。さらに、底面2b側も台地状に膨出した膨出形状を有しており、平坦面とされた底面2bの縁が傾斜して周辺部に連なるように形成されている。
【0021】
容器本体2が、このような膨出形状を有することで、培地や細胞を注入する際の変形を抑制することができる。
すなわち、二枚のプラスチックフィルムを重ねて周辺部をシールしただけの平パウチ状の容器では、容器内が内容液で満たされていくにつれて周辺部が持ち上がるように底面が変形するが、注入量を考慮して容器本体2の膨出形状を設計することで、培地や細胞を注入する際の容器本体2の変形を抑制して、容器本体2の底面2bを平坦面のままとすることが可能となる。
したがって、図1に示す容器1は、容器本体2の底面2bに培地中の細胞を均一に沈降させ、底面2bに沈降した細胞の密度(単位面積あたりの細胞数)に偏りが生じないようにすることが求められる場合に好適に用いられる。
【0022】
図1に示す容器1は、例えば、次のようにして製造することができる。
まず、二枚のプラスチックフィルムとシート状のフィルタ部材4とを用意し、これらを必要に応じて裁断して、その大きさを揃える。そして、一方のプラスチックフィルムを容器本体2の天面2a側となる天面側プラスチックフィルムとし、他方のプラスチックフィルムを容器本体2の底面2b側となる底面側プラスチックフィルムとして、これらを真空成形、圧空成形などにより、その周辺部を残して台地状に膨出するように成形する。
【0023】
次に、成形された天面側プラスチックフィルムと底面側プラスチックフィルムとの間に、シート状のフィルタ部材4を挿入して、これらの周辺部を重ね合せる。そして、天面側プラスチックフィルムとフィルタ部材4との間と、底面側プラスチックフィルムとフィルタ部材4との間に、それぞれ周辺部の所定の位置において、注入出用ポート3a,3bを形成する管状の部材を挟み込み、その状態で周辺部を熱融着によりシールし、必要に応じて周辺部をトリミングする。これにより、図1に示す容器1が製造される。
【0024】
容器本体2を形成するプラスチックフィルムは、JIS K 7126のガス透過度試験方法に準拠して、試験温度37℃で測定した酸素の透過度が、5000mL/(m・day・atm)以上のガス透過性を有するものであるのが好ましい。
また、当該プラスチックフィルムは、細胞培養の進行状況や細胞の状態などを確認できるように、一部又は全部が透明性を有しているのが好ましい。
【0025】
容器本体2を形成するプラスチックフィルムに用いる材料としては、特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、ポリアミド、シリコーン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などの熱可塑性樹脂が挙げられる。これらは単層で用いても、同種又は異種の材料を積層して用いてもよいが、所定のガス透過性を有しているのが好ましい。さらに、周辺部をシールする際の熱融着性を考慮すると、シーラント層として機能する層を有しているのが好ましい。
【0026】
また、可撓性を有しながらも、容器本体2の膨出形状が保たれる適度の形状保持性を有するように、容器本体2を形成するのに用いるプラスチックフィルムの厚みは、30~200μmであるのが好ましい。
【0027】
また、注入出用ポート3a,3bを形成する管状の部材は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリスチレン系エラストマー、FEPなどの熱可塑性樹脂を用いて、射出成形、押出成形などにより、所定の形状に成形することができる。
【0028】
また、フィルタ部材4は、少なくとも培地の通過を許容する細孔を有する多孔質体を用いて形成されるが、細胞が細孔に入り込んで抜け出せなくなってしまうようなものは不適である。このような観点から、ポリオレフィン、ポリエステル、ナイロン等のポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂等からなる合成樹脂繊維を編んだメッシュシートなどを用いて形成するのが好ましい。
【0029】
フィルタ部材4の細孔の大きさは、容器1の使用態様によって適宜選択することができる。フィルタ部材4には、培地の通過性を高めるために親水処理が施されているのが好ましく、親水処理を施すことで、細胞が接着し難くすることもできる。
また、フィルタ部材4は、容器1の使用態様によって要求される機能が損なわれない限り、少なくとも一部が上記したような多孔質体を用いて形成されていればよい。例えば、前述したようにして容器1を製造するに際し、上記多孔質体の周囲を枠状に裁断されたプラスチックフィルムで保持するなどしてフィルタ部材4を形成することで、天面側及び底面側プラスチックフィルムとの熱融着がより良好になされるようにすることもできる。
【0030】
また、容器本体2の大きさは特に限定されないが、例えば、縦50~500mm、横50~500mmとするのが好ましい。
【0031】
次に、本実施形態の一例として図1に示す容器1の使用例について説明する。
【0032】
[第一実施形態の使用例1]
図2は、図1に示す容器1を、培地交換などの操作を簡便、かつ、効率良く行うことができる培養容器として細胞培養の用途に供する例を示している。
【0033】
本使用例では、培地で満たされた容器本体2内に、底面2b側の第二の槽2ndが備える注入出用ポート3bから、培養対象の細胞Cを注入して培養を行う。このとき、培養対象の細胞Cの大きさを考慮して、フィルタ部材4として、かかる細胞Cの通過を許容しない細孔を有するものを選択する。これにより、培養中の細胞Cは、底面2b側の第二の槽2ndに留まり、天面2a側の第一の槽1stには移動しないようにすることができる(図2(a)参照)。
【0034】
培養期間中に培地交換を行う際には、天面2a側の第一の槽1stが備える注入出用ポート3aから、古い培地を排出する(図2(b)参照)。このとき、培養中の細胞Cを、底面2b側の第二の槽2ndに留まらせることができるため、古い培地と一緒に排出されないようにすることができ、古い培地をより多く排出させることが可能になる。古い培地を排出した後は、それと同量の新しい培地を天面2a側の第一の槽1stが備える注入出用ポート3aから注入し(図2(c)参照)、培養を継続する。
【0035】
このように、本使用例にあっては、培養期間中の培地交換、特に、古い培地の排出操作を簡便、かつ、効率良く行うことができる。
【0036】
また、本使用例における容器1は、底面2b側の第二の槽2ndに細胞Cを留まらせた状態で、天面2a側の第一の槽1stが備える注入出用ポート3aから、容器内の内容液を排出することができる。このため、例えば、特許文献1の細胞培養用キットの培養容器として使用すれば、特許文献1が例示する細胞の回収操作も、細胞の沈降に時間をかけずに、簡便、かつ、効率良く行うことができる。さらに、特許文献1の細胞培養用キットの細胞回収容器として使用し、培養容器から回収された細胞懸濁液を底面2b側の第二の槽2ndに移送して、天面2a側の第一の槽1stが備える注入出用ポート3aから、洗浄液の注入、排出を繰り替えして細胞の洗浄操作が行われるようにすることで、特許文献1の細胞培養用キットに洗浄回収機構を導入することができる。
【0037】
また、抗体産生細胞を底面2b側の第二の槽2ndで培養し、産生された抗体を天面2a側の第一の槽1stが備える注入出用ポート3aから取り出すというように、抗体産生容器としての応用も可能である。
【0038】
このように、本使用例では、フィルタ部材4として、培養対象の細胞Cの通過を許容しない細孔を有するものを選択して、フィルタ部材4によって区画された一方の槽2ndに細胞Cを注入して培養を行うことで、当該槽2ndに細胞Cを留まらせた状態で、フィルタ部材4によって区画された他方の槽1stが備える注入出用ポート3aから、培地や洗浄液などを注入出することができる。
【0039】
したがって、図1に示す容器1を使用するに際しては、必要に応じて、天面2a側の第一の槽1stで細胞培養を行い、底面2b側の第二の槽2ndが備える注入出用ポート3bから、培地や洗浄液などの注入出がなされるようにしてもよい。
【0040】
[第一実施形態の使用例2]
図3は、図1に示す容器1を、細胞の凝集塊Caggを所望の大きさに分割する操作を簡便、かつ、効率良く行うことができる凝集塊分割容器として細胞培養の用途に供する例を示している。
【0041】
本使用例では、培地で満たされた容器本体2内に、天面2a側の第一の槽1stが備える注入出用ポート3aから、凝集塊Caggを培地とともに圧送する。このとき、フィルタ部材4として、凝集塊Caggを分割したい大きさに応じた細孔を有するものを選択する。これにより、凝集塊Caggは、フィルタ部材4を通過する際に、フィルタ部材4の細孔に応じた大きさに分割されながら、底面2b側の第二の槽2ndに送られていく。
所望の大きさに分割された凝集塊Cdivは、底面2b側の第二の槽2ndが備える注入出用ポート3bから取り出すことができる。
【0042】
このように、本使用例にあっては、フィルタ部材4として、細胞の凝集塊Caggを分割したい大きさに応じた細孔を有するものを選択し、フィルタ部材4によって区画された一方の槽1stに、凝集塊Caggを培地とともに圧送することで、細胞の凝集塊Caggを所望の大きさに分割する操作を簡便、かつ、効率良く行うことができる。
【0043】
したがって、図1に示す容器1を使用するに際しては、必要に応じて、底面2b側の第二の槽2ndが備える注入出用ポート3bから、凝集塊Caggを培地とともに圧送するようにしてもよい。
また、特に図示しないが、容器本体2の内部を三槽以上に区画しておき、各槽を区画するフィルタ部材4の細孔の大きさを適宜調整することで、凝集塊Caggを段階的に分割することもできる。さらに、各槽に注入出用ポートを備えるようにすることで、異なる大きさに分割された凝集塊Cdivを、それぞれ取り出すようにすることもできる。
【0044】
[第一実施形態の使用例3]
図4は、図1に示す容器1を、混在する大きさの異なる二種類の細胞、例えば、シングルセルCsとその凝集塊Caggとを分離する操作を簡便、かつ、効率良く行うことができる細胞分離容器として細胞培養の用途に供する例を示している。
【0045】
本使用例では、培地で満たされた容器本体2内に、天面2a側の第一の槽1stが備える注入出用ポート3aから、大きさの異なる二種類の細胞Cs,Caggが混在した細胞懸濁液を注入する(step1)。注入後は、容器1を静置し、必要に応じて振動を与える。このとき、フィルタ部材4として、分離したい二種類の細胞Cs,Caggのうち、小さい方の細胞Csの通過を許容するが、大きい方の細胞Caggの通過を許容しない細孔を有するものを選択する。これにより、小さい方の細胞Csは、フィルタ部材4の細孔を通過して、底面2b側の第二の槽2ndに沈降していき、大きい方の細胞Caggは、天面2a側の第一の槽1stに留まるようにすることができる。
【0046】
底面2b側の第二の槽2ndに沈降した小さい方の細胞Csは、大きい方の細胞Caggと分離されて、底面2b側の第二の槽2ndが備える注入出用ポート3bから取り出すことができる(step2)。一方、小さい方の細胞Csと分離されて天面2a側の第一の槽1stに留まる大きい方の細胞Caggは、天面2a側の第一の槽1stが備える注入出用ポート3aから取り出すことができる(step3)。
【0047】
このように、本使用例にあっては、フィルタ部材4として、混在する細胞のうち少なくとも一の細胞の通過を許容するが、それ以外の細胞の通過を許容しない細孔を有するものを選択し、フィルタ部材4によって区画された一方の槽1stに、混在する大きさの異なる細胞を注入して、フィルタ部材4によって区画された他方の槽2ndから、フィルタ部材4を通過した細胞を取り出すことで、混在する大きさの異なる細胞を分離する操作を簡便、かつ、効率良く行うことができる。
【0048】
したがって、特に図示しないが、容器本体2の内部を三槽以上に区画しておき、各槽を区画するフィルタ部材4の細孔の大きさを適宜調整するとともに、各槽に注入出用ポートを備えるようにすることで、大きさの異なる三種類以上の細胞を分離することもできる。
【0049】
[第一実施形態の使用例4]
図5は、図1に示す容器1を、異なる種類の細胞Ca,Cbを同一容器内で共培養した後に、これらを別々に取り出す操作を簡便、かつ、効率良く行うことができる共培養容器として細胞培養の用途に供する例を示している。
【0050】
本使用例では、培地で満たされた容器本体2内に、天面2a側の第一の槽1stが備える注入出用ポート3aから細胞Caを注入するとともに、底面2b側の第二の槽2ndが備える注入出用ポート3bから細胞Cbを注入して、細胞Caと細胞Cbとを共培養する。このとき、フィルタ部材4として、共培養されるいずれの細胞Ca,Cbも通過を許容しない細孔を有するものを選択する。これにより、一方の細胞Caは天面2a側の第一の槽1stに、他方の細胞Cbは底面2b側の第二の槽2ndに、それぞれが留まった状態で、両者が混ざり合うことなく同一容器内で共培養することができる。
【0051】
培養終了後には、一方の細胞Caは天面2a側の第一の槽1stが備える注入出用ポート3aから取り出すことができ、他方の細胞Cbは底面2b側の第二の槽2ndが備える注入出用ポート3bから取り出すことができる。
【0052】
このように、本使用例にあっては、フィルタ部材4として、共培養されるいずれの細胞Ca,Cbも通過を許容しない細孔を有するものを選択し、フィルタ部材4によって区画されたそれぞれの槽1st,2ndに、異なる種類の細胞Ca,Cbを種類ごとに別々に注入することで、当該細胞Ca,Cbが混ざり合うことなく同一容器内で共培養することができ、培養終了後に、これらを別々に取り出す操作を簡便、かつ、効率良く行うことができる。
【0053】
したがって、特に図示しないが、容器本体2の内部を三槽以上に区画しておき、各槽に注入出用ポートを備えるようにすることで、三種類以上の細胞を共培養することもできる。
【0054】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について説明する。
なお、図6は、本実施形態に係る細胞培養用容器の一例を示す説明図である。
【0055】
本実施形態の一例として図6に示す容器1は、容器本体2と注入出用ポート3aとを備えている。そして、容器本体2の内部は、シート状のフィルタ部材4によって、天面2a側の第一の槽1stと、底面2b側の第二の槽2ndとに区画されており、天面2a側の第一の槽1stに、注入出用ポート3aが備えられている。
【0056】
図6に示す容器1は、底面2b側の第二の槽2ndが注入出用ポート3bを備えていない点で、第一実施形態の一例として図1に示した容器1と異なっているが、その以外の構成は共通している。このような容器1は、第一実施形態の図1に示した容器1と同様にして製造することができ、その際、注入出用ポート3bを形成する管状の部材を省略すればよい。
【0057】
本実施形態が、前述した第一実施形態と異なるのは、底面2b側の第二の槽2ndが注入出用ポート3bを備えていない点にあり、これ以外の構成は、前述した第一実施形態と共通するため、重複する説明は省略する。
なお、第一実施形態と同様に、容器本体2の具体的な形態が限定されないことはいいうまでもない。
【0058】
次に、本実施形態の一例として図6に示す容器1の使用例について説明する。
【0059】
[第二実施形態の使用例]
図7は、図6に示す容器1を、凝集塊Caggを形成する細胞Csを培養するにあたり、その培地交換などの操作を簡便、かつ、効率良く行うことができる培養容器として細胞培養の用途に供する例を示している。
【0060】
本使用例では、凝集塊Caggを形成する細胞Csを培養対象とし、フィルタ部材4として、凝集塊Caggを形成する前の細胞(シングルセル)Csの通過は許容するが、凝集塊Caggの通過は許容しない細孔を有するものを選択する。
【0061】
これにより、培地で満たされた容器本体2内に、天面2a側の第一の槽1stが備える注入出用ポート3aから、培養対象の細胞(シングルセル)Csを注入すると、細胞Csはフィルタ部材4を通過して、底面2b側の第二の槽2ndに沈降していく(図7(a)参照)。そして、培養が進行すると、細胞Csは凝集塊Caggを形成し、フィルタ部材4を通過できなくなり、これによって、底面2b側の第二の槽2ndに凝集塊Caggを留まらせた状態で、培養を進行させることができる(図7(b)参照)。
【0062】
したがって、培養期間中に培地交換を行う際には、天面2a側の第一の槽1stが備える注入出用ポート3aから、古い培地を排出するとともに、新しい培地を注入することにより(図7(c)参照)、底面2b側の第二の槽2ndに凝集塊Caggを留まらせたまま、培地交換を行うことができる。さらに、培養終了後には、天面2a側の第一の槽1stが備える注入出用ポート3aから、洗浄液の注入、排出を繰り替えして行うことにより、底面2b側の第二の槽2ndに凝集塊Caggを留まらせたまま、凝集塊Caggを洗浄することもできる。
【0063】
このように、本使用例にあっては、凝集塊Caggを形成する細胞Csを培養するにあたり、フィルタ部材4として、凝集塊Caggを形成する前の細胞Csの通過は許容するが、凝集塊Caggの通過は許容しない細孔を有するものを選択し、細胞Csを第一の槽1stに注入し、次いで、第二の槽2ndに沈降させて、形成された凝集塊Caggを第二の槽2ndに留まらせた状態で培養することで、培養期間中の培地交換や、培養終了後の洗浄などの操作を簡便、かつ、効率良く行うことができる。
【0064】
そして、洗浄後は、容器本体2内に保存液などを注入することで、容器1を培養された細胞(凝集塊Cagg)の保管、搬送に利用することもできる。
なお、特に図示しないが、前述した第一実施形態と同様に、底面2b側の第二の槽2ndが注入出用ポート3bを備えるようにすれば、注入出用ポート3bから培養された細胞(凝集塊Cagg)を取り出すこともできる。
【0065】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態について説明する。
なお、図8は、本実施形態に係る細胞培養用容器の一例を示す説明図である。
【0066】
本実施形態の一例として図8に示す容器1は、容器本体2と注入出用ポート3aとを備えている。そして、容器本体2の内部は、シート状のフィルタ部材4によって、天面2a側の第一の槽1stと、底面2b側の第二の槽2ndとに区画されており、天面2a側の第一の槽1stに、注入出用ポート3aが備えられているとともに、容器本体2の底面2bには、複数の凹部5が設けられている
【0067】
図8に示す容器1は、容器本体2の底面2bに、複数の凹部5が設けられている点で、第二実施形態の一例として図6に示した容器1と異なっているが、その以外の構成は共通している。このような容器1は、第二実施形態の図6に示した容器1と同様にして製造することができ、底面側プラスチックフィルムを成形するに際して、金型などを適宜調整することで、凹部5を所望の形状、配列で成形することができる。
【0068】
容器本体2の底面2bに複数の凹部5を設けることで、培地中を沈降する細胞が、それぞれの凹部5の底部に集められ、細胞密度が高められた状態で、効率良く培養することができる。それぞれの凹部5の底部に集められた細胞が、容器本体2内を移動することなく、一つの凹部5に留まって、細胞密度が高められた状態が維持されるようにするために、凹部5は、その開口径(直径)が0.3~10mmであるのが好ましく、より好ましくは0.3~5mm、さらに好ましくは0.5~4mm、特に好ましくは0.5~2mmであり、深さが0.1mm以上であるのが好ましい。
また、図示する例では、凹部5を椀状に形成しているが、必要に応じて、円錐状、円錐台状などに形成することもできる。
【0069】
本実施形態が、前述した第二実施形態と異なるのは、容器本体2の底面2bに複数の凹部5を設けた点にあり、これ以外の構成は、前述した第二実施形態と共通するため、重複する説明は省略する。
なお、第一及び第二実施形態と同様に、容器本体2の具体的な形態が限定されないことはいいうまでもない。
【0070】
次に、本実施形態の一例として図8に示す容器1の使用例について説明する。
【0071】
[第三実施形態の使用例]
図9は、図8に示す容器1を、凝集塊Caggを形成する細胞Csを培養するにあたり、細胞密度が高められた状態で効率良く培養するとともに、その培地交換などの操作を簡便、かつ、効率良く行うことができる培養容器として細胞培養の用途に供する例を示している。
【0072】
本使用例では、凝集塊Caggを形成する細胞Csを培養対象とし、フィルタ部材4として、凝集塊Caggを形成する前の細胞(シングルセル)Csの通過は許容するが、凝集塊Caggの通過は許容しない細孔を有するものを選択する。
【0073】
これにより、培地で満たされた容器本体2内に、天面2a側の第一の槽1stが備える注入出用ポート3aから、培養対象の細胞(シングルセル)Csを注入すると、細胞Csはフィルタ部材4を通過して、底面2b側の第二の槽2ndに沈降していく。沈降した細胞Csは、それぞれの凹部5の底部に集められ、細胞密度が高められた状態で効率良く培養することができる。そして、培養が進行すると、細胞Csは凝集塊Caggを形成し、フィルタ部材4を通過できなくなり、これによって、底面2b側の第二の槽2ndに凝集塊Caggを留まらせた状態で、培養を進行させることができる。
【0074】
したがって、培養期間中に培地交換を行う際には、天面2a側の第一の槽1stが備える注入出用ポート3aから、古い培地を排出するとともに、新しい培地を注入することにより、底面2b側の第二の槽2ndに凝集塊Caggを留まらせたまま、培地交換を行うことができる。このとき、特に図示しないが、例えば、底面2bの凹部5の周囲(隣接する凹部5の間に位置する面)にフィルタ部材4を接着するなどして、凹部5の開口部を覆うようにフィルタ部材4を容器本体2内に固定しておくのが好ましい。このようにすることで、凹部5の底部に集められた細胞(凝集塊Cagg)の移動を抑止して、より確実に一つの凹部5に留まらせておくことができる。さらに、培養終了後には、天面2a側の第一の槽1stが備える注入出用ポート3aから、洗浄液の注入、排出を繰り替えして行うことにより、底面2b側の第二の槽2ndに凝集塊Caggを留まらせたまま、凝集塊Caggを洗浄することができる。
【0075】
このように、本使用例にあっては、凝集塊Caggを形成する細胞Csを培養するにあたり、フィルタ部材4として、凝集塊Caggを形成する前の細胞Csの通過は許容するが、凝集塊Caggの通過は許容しない細孔を有するものを選択し、細胞Csを第一の槽1stに注入し、次いで、第二の槽2ndに沈降させて、沈降した細胞Csを凹部5の底部に集めて、細胞密度が高められた状態で効率良く培養しつつ、形成された凝集塊Caggを第二の槽2ndに留まらせた状態で培養することで、培養期間中の培地交換や、培養終了後の洗浄などの操作を簡便、かつ、効率良く行うことができる。
【0076】
そして、洗浄後は、容器本体2内に保存液などを注入することで、容器1を培養された細胞(凝集塊Cagg)の保管、搬送に利用することもできる。
なお、特に図示しないが、前述した第一実施形態と同様に、底面2b側の第二の槽2ndが注入出用ポート3bを備えるようにすれば、注入出用ポート3bから培養された細胞(凝集塊Cagg)を取り出すこともできる。
【0077】
[第四実施形態]
次に、本発明の第四実施形態について説明する。
なお、図10は、本実施形態に係る細胞培養用容器の一例を示す説明図である。
【0078】
本実施形態の一例として図10に示す容器1は、容器本体2と注入出用ポート3a,3b,3cとを備えている。そして、容器本体2の内部は、二つのシート状のフィルタ部材4によって、天面2a側の第一の槽1stと、底面2b側の第二の槽2ndと、これらの間に位置する第三の槽3rdとに区画されている。
【0079】
また、天面2a側の第一の槽1stには、その流入出口となる注入出用ポート3a(IN),3a(OUT)が備えられており、これと同様に、底面2b側の第二の槽2ndには、その流入出口となる注入出用ポート3b(IN),3b(OUT)が備えられている。さらに、第三の槽3rdには、注入出用ポート3cが備えられている。
【0080】
図10に示す容器1は、容器本体2の内部を三つの槽に区画し、それぞれの槽に注入出用ポートが備えられているとともに、天面2a側の第一の槽1stに二つの注入出用ポート3a(IN),3a(OUT)が備えられ、底面2b側の第二の槽2ndに二つの注入出用ポート3b(IN),3b(OUT)が備えられている点で、第一実施形態の一例として図1に示した容器1と異なっているが、その以外の構成は共通している。このような容器1は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0081】
まず、二枚のプラスチックフィルムと二枚のシート状のフィルタ部材4とを用意し、これらを必要に応じて裁断して、その大きさを揃える。そして、一方のプラスチックフィルムを容器本体2の天面2a側となる天面側プラスチックフィルムとし、他方のプラスチックフィルムを容器本体2の底面2b側となる底面側プラスチックフィルムとして、これらを真空成形、圧空成形などにより、その周辺部を残して台地状に膨出するように成形する。
【0082】
次に、成形された天面側プラスチックフィルムと底面側プラスチックフィルムとの間に、二枚のシート状のフィルタ部材4を挿入して、これらの周辺部を重ね合せる。そして、天面側プラスチックフィルムとフィルタ部材4との間に、その周辺部の所定の位置において、注入出用ポート3a(IN),3a(OUT)を形成する管状の部材を挟み込み、底面側プラスチックフィルムとフィルタ部材4との間に、その周辺部の所定の位置において、注入出用ポート3b(IN),3b(OUT)を形成する管状の部材を挟み込み、二枚のシート状のフィルタ部材4の間に、その周辺部の所定の位置において、注入出用ポート3cを形成する管状の部材を挟み込み、その状態で周辺部を熱融着によりシールし、必要に応じて周辺部をトリミングする。これにより、図10に示す容器1が製造される。
【0083】
本実施形態が、前述した第一実施形態と異なるのは、容器本体2の内部が三つの槽に区画され、それぞれの槽が注入出用ポートを備えるとともに、天面2a側の第一の槽1stが二つの注入出用ポート3a(IN),3a(OUT)を備え、底面2b側の第二の槽2ndが二つの注入出用ポート3b(IN),3b(OUT)を備えている点にあり、これ以外の構成は、前述した第一実施形態と共通するため、重複する説明は省略する。
なお、第一、第二、及び第三実施形態と同様に、容器本体2の具体的な形態が限定されないことはいうまでもない。
【0084】
次に、本実施形態の一例として図10に示す容器1の使用例について説明する。
【0085】
[第四実施形態の使用例]
図11は、図10に示す容器1を、培養対象の細胞Cが、生体内で成長、増殖、分化する環境を再現する操作を簡便、かつ、効率良く行うことができる培養容器として細胞培養の用途に供する例を示している。
【0086】
本使用例では、第三の槽3rdが備える注入出用ポート3cから培養対象の細胞Cを注入して培養を行うが、その際、天面2a側の第一の槽1stと、底面2b側の第二の槽2ndとのそれぞれには、成分組成の異なる培地を流通させる。より詳しくは、天面2a側の第一の槽1stが備える注入出用ポート3a(IN)と、底面2b側の第二の槽2ndが備える注入出用ポート3b(IN)のそれぞれから流入した成分組成の異なる培地が、第三の槽3rdで混ざり合いながら、それぞれの注入出用ポート3a(OUT),3b(OUT)から流出するようにする。
【0087】
このとき、培養対象の細胞Cの大きさを考慮して、フィルタ部材4として、かかる細胞Cの通過を許容しない細孔を有するものを選択する。そして、天面2a側の第一の槽1stと、底面2b側の第二の槽2ndのそれぞれに流通させる培地は、細胞の成長、増殖、分化を制御する種々の細胞外基質や、細胞に刺激を与える種々のシグナル物質などを含み、これらが第三の槽3rdで混ざり合ったときに、その濃度勾配や到達方向などが生体内の環境と同等となるように、成分組成や流量・流速などが調整される。これにより、第三の槽3rdに生体内の環境を再現しつつ、細胞Cを第三の槽3rdに留まらせた状態で培養を行うことができる。
【0088】
このように、本使用例にあっては、フィルタ部材4として、培養対象の細胞Cの通過を許容しない細孔を有するものを選択し、第一の槽1stと第二の槽2ndとのそれぞれに、成分組成の異なる培地を流通させながら、第三の槽3rdに細胞Cを注入して培養を行うことで、培養対象の細胞Cが、生体内で成長、増殖、分化する環境を再現する操作を簡便、かつ、効率良く行うことができる。
【0089】
[第五実施形態]
次に、本発明の第五実施形態について説明する。
なお、図12は、本実施形態に係る細胞培養用容器の一例を示す説明図である。
【0090】
従来、細胞培養に際しては、ウェルプレートが広く用いられている。例えば、ES細胞やiPS細胞から、神経幹細胞や、心筋、膵臓、肝臓、軟骨などへの分化誘導の際には、ウェルプレート(例えば、96ウェルプレート)に細胞を播種し、ウェル内で凝集塊を形成させて分化誘導を進めるという方法が採られるのが一般的である。
【0091】
しかしながら、ウェルプレートを用いて細胞を培養するに際しては、それぞれのウェルに対して培地交換を行わなければならない。このため、培養中の細胞が混入しないように気をつけながら古い培地をピペットで吸い上げて排出し、次いで、新しい培地をピペットで注入するというように、煩雑なピペット操作をウェルの数だけ何回も繰り返す必要がある。
【0092】
本実施形態は、ウェルプレートのように、複数の細胞培養部を有する容器を用いて細胞を培養するに際し、培地交換などの操作を簡便、かつ、効率良く行うことができるようにするためのものである。
【0093】
本実施形態の一例として図12に示す容器1は、細胞培養部となる複数の凹部6を有する容器本体2を備えており、それぞれの凹部6の開口部が、シート状のフィルタ部材4によって覆われている。それぞれの凹部6の開口部を覆うフィルタ部材4は、凹部6の周囲(隣接する凹部6の開口部の間に位置する面)に密着するように、容器本体2に取り付ける。好ましくは、容器本体2に剥離可能に接着する。
【0094】
本実施形態において、容器本体2は、細胞や培地などを、それぞれの凹部6に培養に支障なく収容できれば、その具体的な形態は限定されないが、容器本体2には、その周りを取り囲むようにして立ち上る側壁部7を設けておくのが好ましい。
【0095】
また、フィルタ部材4については、前述した第一実施形態で説明した通りである。本実施形態では、凝集塊を形成する細胞を培養対象とし、フィルタ部材4として、凝集塊の通過は許容しない細孔を有するものを選択する。
【0096】
このような容器1を用いて培養対象の細胞を培養するには、細胞培養部となるそれぞれの凹部6に、培養対象の細胞を培地とともに注入して培養を開始する。そして、培養が進行するにつれて、凹部6に注入された細胞は凝集塊を形成する。
【0097】
培養が進行して培地を交換する時期になったら、それぞれの凹部6から古い培地を排出する。このとき、それぞれの凹部6の開口部を覆うフィルタ部材4は、凝集塊の通過を許容しないので、培地交換を行うに際しては、容器1を傾けるだけで古い培地のみを流出させることができ、ピペット操作を伴わずに、それぞれの凹部6から古い培地を排出することができる。
【0098】
また、容器本体2に、その周りを取り囲むようにして立ち上る側壁部7を設けておけば、側壁部7の内側に新しい培地を注ぐだけで、それぞれの凹部6に新しい培地が流入していくようにすることができる。このようにすることで、ピペット操作を伴わずに、それぞれの凹部6に新しい培地を注入することができる。
【0099】
そして、培養終了後には、フィルタ部材4を容器本体2から取り外して、凹部6の開口部を開放することで、凝集塊を崩さずに取り出すことが可能となる。
なお、培養終了後には、培地交換を行うのと同様にして、それぞれの凹部6に洗浄液を注入、排出させることで、凝集塊を洗浄することもできる。
【0100】
このように、本実施形態によれば、凝集塊を形成する細胞を培養するに際し、その培養期間中の培地交換などの操作を簡便、かつ、効率良く行うことができる。
【0101】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることはいうまでもない。
【0102】
本発明によれば、細胞培養、特に、ES細胞やiPS細胞の継代、及びそれら幹細胞から、神経幹細胞や、心筋、膵臓、肝臓、軟骨などへの分化誘導の過程で形成させるスフェア(凝集塊)培養に際して行われる種々の操作を簡便、かつ、効率良く行うことができる。また、リンパ球やハイブリドーマなどの抗体産生細胞、巨核球や赤血球等の浮遊細胞の培養に関しても、種々の操作を簡便、かつ、効率良く行うことができる。
【0103】
この明細書に記載の文献及び本願のパリ優先権の基礎となる日本出願明細書の内容を全てここに援用する。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、医薬学・生化学分野において、細胞を効率良く培養する技術として利用できる。
【符号の説明】
【0105】
1 容器(細胞培養用容器)
2 容器本体
2a 天面
2b 底面
3a,3b,3c 注入出用ポート
4 フィルタ部材
5 凹部
6 凹部
7 側壁部
1st 第一の槽
2nd 第二の槽
3rd 第三の槽
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12