(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】電動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20240723BHJP
【FI】
B60L15/20 K
(21)【出願番号】P 2023048754
(22)【出願日】2023-03-24
【審査請求日】2023-09-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神崎 謙太郎
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-035224(JP,A)
【文献】特開2020-068549(JP,A)
【文献】特開2022-030868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-58/40
B60W 10/00-20/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気モータを含む車両駆動装置と、模擬変速のために運転者によって操作される模擬変速操作器とを備える電動車両を制御する制御装置であって、
前記運転者によって選択される前記電動車両の走行モードは、
アクセル開度に基づく第1要求駆動力に従って前記車両駆動装置を制御する第1モードと、
前記アクセル開度とともに前記模擬変速操作器の操作に応じたギヤ段に基づく第2要求駆動力に従って前記車両駆動装置を制御する第2モードと、
を含み、
前記電動車両の走行中に前記第1モードと前記第2モードとの間で切り替えを行う場合、前記制御装置は、
前記切り替えの前後の駆動力が0を含む所定の範囲内となるタイミングで前記切り替えの実行を許可する
ことを特徴とする電動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、手動変速機(MT)と内燃機関とを有するMT車両のようなトルク特性で電気モータを制御するMTモードと、通常のトルク特性で電気モータを制御するEVモードとを切り替え可能な電気自動車を開示している。この電気自動車の制御装置は、走行モードの変更が行われた場合、変更前の走行モードにおいて演算されるモータトルクから変更後の走行モードにおいて演算されるモータトルクに徐々に変化するようにモータトルクを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の手法によれば、EVモードとMTモードとを切り替える際に、運転者の意図しないモータトルク(駆動力)の段差の発生に起因して車両挙動が乱れることを抑制できる。しかしながら、走行モードの切り替え中のモータトルクを単純に徐々に変化させるという手法では、モータトルクの変化を緩やかにするほど、走行モードの切り替えに要する時間が長くなってしまう。このことは、運転者の違和感につながる。
【0005】
本開示は、上述のような課題に鑑みてなされたものであり、第1モード(EVモード)と第2モード(模擬手動変速モード)との切り替えに起因する運転者の違和感を抑制できるようにした電動車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る電動車両の制御装置は、電気モータを含む車両駆動装置と、模擬変速のために運転者によって操作される模擬変速操作器とを備える電動車両を制御する。運転者によって選択される電動車両の走行モードは、アクセル開度に基づく第1要求駆動力に従って車両駆動装置を制御する第1モードと、アクセル開度とともに模擬変速操作器の操作に応じたギヤ段に基づく第2要求駆動力に従って車両駆動装置を制御する第2モードと、を含む。第1モードと第2モードとの間で切り替えを行う場合、制御装置は、切り替えの前後の駆動力の差が閾値以下であるタイミングで切り替えの実行を許可する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、第1モードと第2モードとの切り替えに起因する運転者の違和感を抑制できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態に係る電動車両の構成を模式的に示す図である。
【
図2】EVモード及び模擬MTモードのそれぞれにおける電動車両の駆動力特性を表した図である。
【
図3】実施の形態に係る走行モードの切り替えに関する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
添付図面とともに本開示の実施の形態について説明する。
【0010】
1.電動車両の構成
図1は、実施の形態に係る電動車両10の構成を模式的に示す図である。
図1に示すように、電動車両10は、電気モータ2を含む「車両駆動装置」を備えている。電気モータ2の出力軸3はギヤ機構4を介してプロペラシャフト(又は「ペラ軸」)5の一端に接続されている。ペラ軸5には、その回転速度(ペラ軸回転速度Np)を検出するための回転速度センサ40が設けられている。ペラ軸回転速度Npは、「車両駆動装置」の出力軸回転速度に相当する。ペラ軸5の他端はディファレンシャルギヤ6を介してドライブシャフト7に接続されている。電動車両10は駆動輪8と従動輪12とを備えている。駆動輪8はドライブシャフト7の両端にそれぞれ設けられている。各車輪8、12には車輪速センサ30が設けられている。
図1では、代表して右後輪の車輪速センサ30のみが描かれている。車輪速センサ30は電動車両10の車速センサとしても用いられる。
【0011】
電動車両10は、バッテリ14とインバータ16とを備えている。バッテリ14は電気モータ2を駆動する電気エネルギを蓄える。すなわち、電動車両10は、例えば、バッテリ14に蓄えられた電気エネルギで走行するバッテリ電気自動車(BEV)である。インバータ16は加速時にバッテリ14から入力される直流電力を電気モータ2の駆動電力に変換する。また、インバータ16は減速時に電気モータ2から入力される回生電力を直流電力に変換し、バッテリ14に充電する。なお、本開示に係る「電動車両」は、車両駆動装置として少なくとも電気モータを含むものであればよく、例えば、電気モータの駆動力のみで走行するモードを有するハイブリッド電気自動車(HEV)や燃料電池電気自動車(FCEV)であってもよい。
【0012】
電動車両10は、運転者が電動車両10に対する加速要求を入力するためのアクセルペダル22と、制動要求を入力するためのブレーキペダル24とを備えている。アクセルペダル22には、アクセル開度を検出するためのアクセルポジションセンサ32が設けられている。また、ブレーキペダル24には、ブレーキ踏込量を検出するためのブレーキポジションセンサ34が設けられている。
【0013】
電動車両10は、さらにパドル式のシーケンシャルシフタ(又は、単にパドルシフタ)26を備えているが、手動変速機(MT)車両が備える変速機を備えていない。すなわち、パドルシフタ26は、本来のパドルシフタとは異なるダミーであり、後述の「模擬変速」のために運転者によって操作される「模擬変速操作器」の一例に相当する。パドルシフタ26によれば、模擬変速のためのギヤ段(模擬的に再現された複数のギヤ段のうちの1つのギヤ段)を選択できる。パドルシフタ26はステアリングホイールに取り付けられている。パドルシフタ26は操作ポジションを決定するアップシフトスイッチ26uとダウンシフトスイッチ26dを備える。アップシフトスイッチ26uはアップシフト信号を出力し、ダウンシフトスイッチ26dはダウンシフト信号を出力する。なお、本開示に係る「模擬変速操作器」は、レバー式などの他の方式のシーケンシャルシフタであってもよく、あるいは、H型シフタとクラッチペダルの組み合わせであってもよい。
【0014】
電動車両10は、モード選択装置42を備えている。モード選択装置42は、電動車両10の走行モードを選択するスイッチである。電動車両10の走行モードは、例えば、EVモードと模擬手動変速モード(模擬MTモード)とを含む。EVモード(第1モード)は、パドルシフタ26の操作ポジションによらずにアクセルペダル22の操作に応じて電気モータ2の出力を変化させる制御モードである。模擬MTモード(第2モード)は、電動車両10をMT車両のように運転するための制御モードであり、アクセルペダル22の操作に対する電気モータ2の出力特性をパドルシフタ26の操作ポジションに応じて変化させるようにプログラムされている。
【0015】
電動車両10は、制御装置50を備えている。電動車両10に搭載された各センサや制御対象の機器は情報通信ネットワークによって制御装置50に接続されている。制御装置50は、例えば、電動車両10に搭載される電子制御ユニット(ECU)である。制御装置50は複数のECUの組み合わせであってもよい。制御装置50は、インターフェース52と、メモリ54と、プロセッサ56とを備えている。プロセッサ56は、プログラムやデータをメモリ54から読み出して実行し、上述の各センサから取得した信号に基づいて制御信号を生成する。
【0016】
2.走行モードの切り替えに関する処理
上述のように、電動車両10の走行モードは、EVモードと模擬MTモードとを含む。
図2は、EVモード及び模擬MTモードのそれぞれにおける電動車両10の駆動力特性を表した図である。
図2の縦軸はペラ軸トルクTpであり、横軸はペラ軸回転速度Npである。ペラ軸トルクTpは、ペラ軸5の出力トルク、すなわち、「車両駆動装置」の出力軸トルクに相当する。なお、ペラ軸トルクTpは電動車両10の駆動力と相関を有し、ペラ軸回転速度Npは車速と相関を有する。
【0017】
図2において、特性線Lev_wotは、EVモードの選択中に運転者によってアクセルペダル22が全開状態とされている時に得られるペラ軸トルクTpの特性を示している。特性線Lev_minは、EVモードの選択中にアクセルペダル22が全閉状態とされている時に得られる。一方、特性線Lmt_wotは、模擬MTモードの選択中にアクセルペダル22が全開状態とされている時に各ギヤ段(例えば、第1速から第6速のギヤ段)の選択の下で得られる。特性線Lmt_minは、模擬MTモードの選択中にアクセルペダル22が全閉状態とされている時に各ギヤ段の選択の下で得られる。
【0018】
制御装置50は、電気モータ2によって生成されるペラ軸トルクTpが要求ペラ軸トルク(又は、単に要求トルク)Tprとなるようにインバータ16を制御する。当該トルク制御のために、制御装置50は、EVモード及び模擬MTモードのそれぞれの要求トルクTprを次のように算出する。
【0019】
すなわち、EVモードの要求トルクTpr_ev(本開示に係る「第1要求駆動力」の一例に相当)は、アクセル開度と電動車両10の回転速度情報(例えば、ペラ軸回転速度Np)とに基づいて算出される。要求トルクTpr_evは、
図2中の2つの特性線Lev_wot及びLev_minによって囲まれた領域内の値として算出される。
【0020】
一方、模擬MTモードの要求トルクTpr_mt(本開示に係る「第2要求駆動力」の一例に相当)は、アクセル開度及びペラ軸回転速度Npとともに、パドルシフタ26の操作によって選択されるギヤ段に基づいて算出される。各ギヤ段における要求トルクTpr_mtは、
図2中の2つの特性線Lmt_wot及びLmt_minによって挟まれた領域内の値として算出される。
【0021】
EVモードとMTモードとを切り替える際に、運転者の意図しないペラ軸トルクTp(駆動力)の段差が発生し得る。より詳細には、
図2からも分かるように、EVモード時には、模擬MTモード時と比べて高いペラ軸トルクTpを発生可能である。このため、
図2中に例示されているように、モード切り替え時に大きなトルク段差が発生し得る。付け加えると、このようなトルク段差は、特に高出力の電気モータを搭載する電動車両において小排気量のMT車両を模擬する場合に顕著に発生する。トルク段差の発生は、車両挙動の乱れにつながる。
【0022】
上述のトルク段差自体は、走行モードの切り替え中のペラ軸トルクTpを徐々に変化させる処理(なまし処理)を行うことによって抑制できる。しかしながら、なまし処理によれば、走行モードの切り替え中のペラ軸トルクTpの変化を緩やかにするほど、走行モードの切り替えに要する時間が長くなってしまう。このことは、運転者の違和感につながる。また、切り替え中になまし処理によってペラ軸トルクTpを徐々に変化させていると、運転者によるアクセルペダル22及びブレーキペダル24の操作が車両挙動に反映されにくくなる。この点においても、運転者に違和感を与える可能性がある。
【0023】
上述の課題に鑑み、本実施形態では、EVモードと模擬MTモードとの間で切り替えを行う場合、制御装置50は、切り替え前後の要求トルクTprの差ΔTpr(すなわち、駆動力の差)が閾値TH以下であるタイミングで当該切り替えの実行を許可する。付け加えると、トルク差ΔTprが閾値THより大きいタイミングでは、制御装置50は、当該切り替えの実行を不可とする。
【0024】
図3は、実施の形態に係る走行モードの切り替えに関する処理を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、電動車両10のシステム起動中に制御装置50によって繰り返し実行される。
【0025】
ステップS100において、制御装置50(プロセッサ56)は、走行モードの切り替え要求があるか否かを判定する。ここで、モード切り替え要求は、次の2通りの要求を含む。1つは、運転者によるモード選択装置42の操作に基づく「通常切り替え」の要求である。もう1つは、強制リジェクトによる模擬MTモードからEVモードへの強制的な切り替えの要求である。強制リジェクトは、例えば、電動車両10のハードウェアの保護を目的として働き、又は、バッテリ14のSOC(State Of Charge)の低下時に航続距離確保を目的として働く。
【0026】
ステップS100においてモード切り替え要求がない場合、処理はリターンに進む。一方、モード切り替え要求がある場合、処理はステップS102に進む。
【0027】
ステップS102において、制御装置50は、今回のモード切り替え要求が通常切り替えの要求であるか否かを判定する。その結果、通常切り替えの要求でない場合、つまり、強制リジェクトに基づく要求である場合には、処理はステップS104に進む。一方、通常切り替えの要求の場合には、処理はステップS106に進む。
【0028】
ステップS104において、制御装置50は、強制リジェクト時のなまし処理のトルク変化率(すなわち、切り替え前のモードでの要求トルクTprから切り替え後のモードでの要求トルクTprに変化させる際の要求トルクTprの時間変化率)を設定する。具体的には、ハードウェア保護のための強制リジェクト時には、走行モードを速やかに切り替えるために、車両挙動が乱れないように考慮しつつ事前に定められた高いトルク変化率が設定される。一方、バッテリ14のSOCの低下に伴う強制リジェクト時には、ハードウェア保護を目的とする場合と比べて低いトルク変化率が設定される。
【0029】
ステップS106において、制御装置50は、走行モードの切り替え前後のトルク差ΔTprを算出する。より詳細には、トルク差ΔTprは、処理がステップS106に進んだ時点におけるEVモードの要求トルクTpr_evと、同時点における模擬MTモードの要求トルクTpr_mtとの差の絶対値である。
【0030】
ステップS106に続くステップS108において、制御装置50は、算出されたトルク差ΔTprが所定の閾値TH以下であるか否かを判定する。その結果、トルク差ΔTprが閾値THより大きい場合には、処理はステップS110に進み、トルク差ΔTprが閾値TH以下の場合には、処理はステップS112に進む。
【0031】
ステップS110において、制御装置50は、走行モードの切り替えを不可とする。これにより、現在(すなわち、切り替え前)の走行モードの要求トルクTprがペラ軸トルクTpの制御のために継続して使用される。
【0032】
一方、ステップS112において、制御装置50は、走行モードの切り替えを許可する。これにより、ペラ軸トルクTpの制御のために用いられる要求トルクTprが、次のステップS114の設定を利用するなまし処理を伴って、切り替え後の走行モードの要求トルクTpr_mt又はTpr_evに切り替えられる。付け加えると、
図2中に示されているように、切り替えが許可されるシーンは、例えば、停車時と、走行中に要求トルクTprが0近辺となる時とを含む。
【0033】
ステップS112に続くステップS114において、制御装置50は、通常時のなまし処理のトルク変化率を設定する。具体的には、制御装置50は、例えば、トルク差ΔTprが小さいほど低くなるようにトルク変化率を設定する。
【0034】
以上説明したように、本実施形態によれば、EVモードと模擬MTモードとの切り替えの実行は、切り替え前後のトルク差ΔTprが閾値TH以下であるタイミングで許可される。このようにトルク差ΔTpr(駆動力の段差)が小さい状況下で切り替えを行うことにより、短時間で切り替え処理(例えば、なまし処理)を完了させることができる。このため、走行モードの切り替えに起因する運転者の違和感を抑制できる。
【0035】
付け加えると、本実施形態によれば、トルク差ΔTprが大きい状況下では切り替えは許可されず、切り替え前の走行モードでのトルク演算が維持される。これにより、当該状況下では、運転者によるアクセルペダル22及びブレーキペダル24の操作通りに要求トルクTprが演算されて車両挙動に反映される。このため、運転者に違和感を与えない。
【符号の説明】
【0036】
2 電気モータ、 5 ペラ軸、 10 電動車両、 16 インバータ、 22 アクセルペダル、 26 パドルシフタ、 42 モード選択装置、 50 制御装置
【要約】
【課題】第1モードと第2モードとの切り替えに起因する運転者の違和感を抑制できるようにする。
【解決手段】電動車両の制御装置は、電気モータを含む車両駆動装置と、模擬変速のために運転者によって操作される模擬変速操作器とを備える電動車両を制御する。運転者によって選択される電動車両の走行モードは、アクセル開度に基づく第1要求駆動力に従って車両駆動装置を制御する第1モードと、アクセル開度とともに模擬変速操作器の操作に応じたギヤ段に基づく第2要求駆動力に従って車両駆動装置を制御する第2モードと、を含む。第1モードと第2モードとの間で切り替えを行う場合、制御装置は、切り替えの前後の駆動力の差が閾値以下であるタイミングで切り替えの実行を許可する。
【選択図】
図3