(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】生体情報処理装置、情報処理システム、生体情報処理方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20240723BHJP
A63B 69/00 20060101ALI20240723BHJP
A63B 71/06 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
A61B5/11 230
A63B69/00 C
A63B71/06 M
(21)【出願番号】P 2023510109
(86)(22)【出願日】2021-04-01
(86)【国際出願番号】 JP2021014124
(87)【国際公開番号】W WO2022208838
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】福司 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】オウ シンイ
(72)【発明者】
【氏名】黄 晨暉
(72)【発明者】
【氏名】二瓶 史行
(72)【発明者】
【氏名】中原 謙太郎
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-180361(JP,A)
【文献】国際公開第2019/008689(WO,A1)
【文献】特開2010-178908(JP,A)
【文献】特開2018-143412(JP,A)
【文献】ALLET Lara et al.,The influence of stride-length on plantar foot-pressures and joint moments,Giat & Posture,2011年,34,300-306,https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0966636211001688
【文献】ESPY D.D. et al,Independent influence of gait speed and step length on stability and fall risk,Gait & Posture,2010年,32(3),378-382,https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0966636210001712
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06-5/22
A63B 69/00-69/40
A63B 71/00-71/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの足の動きに関するセンサデータを用いて計測される日常計測データから、施設で計測された施設計測データと共通する共通計測項目の日常計測値を抽出する抽出手段と、
抽出された前記共通計測項目の日常計測値に基づいて、予め記憶された前記共通計測項目の施設計測値を補正する補正手段と、を備える生体情報処理装置。
【請求項2】
前記補正手段は、
前記共通計測項目の日常計測値の分布の代表値と、前記共通計測項目の施設計測値との偏差を計算し、
算出された前記偏差を用いて、前記共通計測項目の施設計測値を補正する請求項1に記載の生体情報処理装置。
【請求項3】
前記補正手段は、
前記共通計測項目の日常計測値に基づいて、前記共通計測項目の施設計測値を補正し、
補正された前記共通計測項目の施設計測値に基づいて、前記共通計測項目に関連する施設計測項目の施設計測値を補正する請求項1または2に記載の生体情報処理装置。
【請求項4】
前記抽出手段は、
前記共通計測項目としてストライド長の日常計測値を抽出し、
前記補正手段は、
抽出された前記ストライド長の日常計測値に基づいて、前記ストライド長に関連する施設計測項目である膝関節負荷の施設計測値を補正する請求項3に記載の生体情報処理装置。
【請求項5】
前記抽出手段は、
前記共通計測項目としてストライド長および歩行速度の日常計測値を抽出し、
前記補正手段は、
抽出された前記ストライド長および前記歩行速度の日常計測値に基づいて、前記ストライド長および前記歩行速度に関連する施設計測項目である歩行安定性の施設計測値を補正する請求項3に記載の生体情報処理装置。
【請求項6】
前記補正手段によって補正された施設計測値の補正値を出力する出力手段を備え、
前記出力手段は、
前記施設計測値の補正値を、前記ユーザの運動を管理するトレーナーによって閲覧可能な端末装置に出力し、
前記施設計測値の補正値に応じて前記トレーナーによって作成されたトレーニングメニューを取得し、
取得された前記トレーニングメニューを、前記ユーザによって閲覧可能な端末装置の画面に表示させる請求項1乃至5のいずれか一項に記載の生体情報処理装置。
【請求項7】
前記補正手段によって補正された施設計測値の補正値を出力する出力手段を備え、
前記出力手段は、
前記施設計測値の補正値に応じた推薦情報を、前記ユーザによって閲覧可能な端末装置の画面に表示させる請求項1乃至5のいずれか一項に記載の生体情報処理装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の生体情報処理装置と、
ユーザの履物に配置され、前記ユーザの歩行に応じて空間加速度および空間角速度を計測し、計測された前記空間加速度および前記空間角速度に基づくセンサデータを生成し、生成された前記センサデータを前記生体情報処理装置に出力する計測装置と、を備える情報処理システム。
【請求項9】
コンピュータが、
ユーザの足の動きに関するセンサデータを用いて計測される日常計測データから、施設で計測された施設計測データと共通する共通計測項目の日常計測値を抽出し、
抽出された前記共通計測項目の日常計測値に基づいて、予め記憶された前記共通計測項目の施設計測値を補正する生体情報処理方法。
【請求項10】
ユーザの足の動きに関するセンサデータを用いて計測される日常計測データから、施設で計測された施設計測データと共通する共通計測項目の日常計測値を抽出る処理と、
抽出された前記共通計測項目の日常計測値に基づいて、予め記憶された前記共通計測項目の施設計測値を補正する処理と、をコンピュータに実行させるプログラ
ム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歩行に伴って計測されるセンサデータを処理する生体情報処理装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
体調管理を行うヘルスケアへの関心の高まりから、歩行の特徴を含む歩容を計測し、計測された歩容に応じた情報を提供するサービスに注目が集まっている。そのようなサービスでは、歩行等における運動機能を精度よく評価する技術が求められる。例えば、歩行等における運動機能は、病院やスポーツジム等の施設で評価される。
【0003】
非特許文献1には、足底圧と関節モーメントに対する歩幅の影響について開示されている。非特許文献2には、安定性と転倒リスクに対する歩行速度と歩幅の独立した影響について開示されている。非特許文献1や非特許文献2の手法を用いれば、歩幅や歩行速度等の計測データを検証することによって、膝関節負荷や歩行安定性などの運動機能を評価できる。
【0004】
病院やスポーツジムなどの施設では、日常とは異なる環境におかれるため、歩行等の動作が日常とは異なる様相を呈する場合がある。そのような場合、本来の運動機能が反映されていない評価結果が得られる可能性がある。
【0005】
特許文献1には、病院や自宅で計測された生体データを相互に校正する生体データ管理システムについて開示されている。特許文献1のシステムは、被検体の生体データを測定する第1生体測定装置および第2生体測定装置を備える。第1生体測定装置は、病院内で使用される。第2生体測定装置は、第1生体測定装置とは異なる自宅等の環境で使用される。特許文献1のシステムは、第1生体測定装置で測定された被検体の生体データと、第2生体測定装置で測定された被検体の生体データとの誤差を予めキャリブレーション値として記憶する。特許文献1のシステムは、被検体の生体データをキャリブレーション値で校正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Lara Allet, et al., “The influence of stride-length on plantar foot-pressures and joint moments”, Gait & Posture 34, (2011), pp.300-306.
【文献】D. D. Espy, et al., “Independent Influence of Gait Speed and Step Length on Stability and Fall Risk”, Gait Posture, 2010 Jul, 32(3), 378-82.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の手法では、病院や自宅などのように、異なる環境で測定された生体データを、予め記憶されたキャリブレーション値で校正する。特許文献1の手法では、一定のキャリブレーション値で生体データを校正するため、環境間の相違が予め明確になっていないと、生体データを正確に校正することができなかった。また、自宅などの日常において、生体データの計測環境を一定にするためには、体を静止させた状態に保つ必要がある。歩行などの運動機能を評価する場合、体を静止した状態に保つことはできない。
【0009】
本開示の目的は、異なる環境において計測された、運動機能を評価するための生体データの相違を補正できる生体情報処理装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様の生体情報処理装置は、ユーザの足の動きに関するセンサデータを用いて計測される日常計測データから、施設で計測された施設計測データと共通する共通計測項目の日常計測値を抽出する抽出部と、抽出された共通計測項目の日常計測値に基づいて、予め記憶された共通計測項目の施設計測値を補正する補正部と、を備える。
【0011】
本開示の一態様の生体情報処理方法においては、コンピュータが、ユーザの足の動きに関するセンサデータを用いて計測される日常計測データから、施設で計測された施設計測データと共通する共通計測項目の日常計測値を抽出し、抽出された共通計測項目の日常計測値に基づいて、予め記憶された共通計測項目の施設計測値を補正する。
【0012】
本開示の一態様のプログラムは、ユーザの足の動きに関するセンサデータを用いて計測される日常計測データから、施設で計測された施設計測データと共通する共通計測項目の日常計測値を抽出る処理と、抽出された共通計測項目の日常計測値に基づいて、予め記憶された共通計測項目の施設計測値を補正する処理と、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、異なる環境において計測された、運動機能を評価するための生体データの相違を補正できる生体情報処理装置等を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態に係る情報処理システムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】第1の実施形態に係る情報処理システムの計測装置の配置例を示す概念図である。
【
図3】第1の実施形態に係る情報処理システムの計測装置に設定される座標系について説明するための概念図である。
【
図4】第1の実施形態に係る情報処理システムの説明で用いられる人体面について説明するための概念図である。
【
図5】第1の実施形態に係る情報処理システムの説明で用いられる歩行周期について説明するための概念図である。
【
図6】第1の実施形態に係る情報処理システムの日常計測項目の一例について説明するための概念図である。
【
図7】第1の実施形態に係る情報処理システムの日常計測項目の別の一例について説明するための概念図である。
【
図8】第1の実施形態に係る情報処理システムの日常計測項目のさらに別の一例について説明するための概念図である。
【
図9】第1の実施形態に係る情報処理システムの計測装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図10】第1の実施形態に係る情報処理システムの生体情報処理装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図11】第1の実施形態に係る情報処理システムの生体情報処理装置によって計測される日常計測データの一例を示す図である。
【
図12】第1の実施形態に係る情報処理システムの生体情報処理装置に記憶される共通計測項目の施設計測値の一例である。
【
図13】第1の実施形態に係る情報処理システムの生体情報処理装置によって計測されるストライド長の日常計測値の度数分布の一例である。
【
図14】第1の実施形態に係る情報処理システムの生体情報処理装置によって計測される歩行速度の日常計測値の度数分布の一例である。
【
図15】第1の実施形態に係る情報処理システムの生体情報処理装置によって算出される共通計測項目の計測値の補正値の一例である。
【
図16】第1の実施形態に係る情報処理システムの生体情報処理装置の動作の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図17】第2の実施形態に係る情報処理システムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図18】第2の実施形態に係る情報処理システムの生体情報処理装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図19】第2の実施形態に係る情報処理システムの生体情報処理装置に記憶される共通計測項目および施設計測項目の施設計測値の一例である。
【
図20】第
2の実施形態に係る情報処理システムの生体情報処理装置によって算出される施設計測項目の施設計測値の補正値の一例である。
【
図21】第2の実施形態に係る情報処理システムの生体情報処理装置の動作の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図22】第2の実施形態に係る情報処理システムの適用例1について説明するための概念図である。
【
図23】第2の実施形態に係る情報処理システムの適用例1について説明するための概念図である
【
図24】第2の実施形態に係る情報処理システムの適用例2について説明するための概念図である
【
図25】第3の実施形態に係る生体情報処理装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図26】各実施形態の制御や処理を実行するハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がされているが、発明の範囲を以下に限定するものではない。なお、以下の実施形態の説明に用いる全図においては、特に理由がない限り、同様箇所には同一符号を付す。また、以下の実施形態において、同様の構成・動作に関しては繰り返しの説明を省略する場合がある。また、図面中の矢印の向きは、一例を示すものであり、ブロック間の信号等の向きを限定するものではない。
【0016】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係る情報処理システムについて図面を参照しながら説明する。本実施形態の情報処理システムは、ユーザの足部に設置されたセンサによって取得されたセンサデータを用いて、日常における計測データ(日常計測データとも呼ぶ)を計測する。本実施形態の情報処理システムは、計測された日常計測データから、スポーツジムや病院等の施設で計測された計測データ(施設計測データとも呼ぶ)と共通する計測項目(共通計測項目とも呼ぶ)を抽出する。日常計測データは、データ量は多いが、情報量が制限される浅いデータである。施設計測データは、データ量は少ないが、情報量が多い深いデータである。本実施形態の情報処理システムは、データ量が多い日常計測データに基づいて施設計測データを補正する。
【0017】
(構成)
図1は、本実施形態の情報処理システム10の構成の一例を示すブロック図である。情報処理システム10は、計測装置11および生体情報処理装置15を備える。計測装置11と生体情報処理装置15は、有線で接続されてもよいし、無線で接続されてもよい。また、計測装置11と生体情報処理装置15は、単一の装置で構成されてもよい。また、情報処理システム10の構成から計測装置11を除き、生体情報処理装置15だけで情報処理システム10が構成されてもよい。
【0018】
計測装置11は、足部に設置される。計測装置11は、靴等の履物を履くユーザの足の動きに関する物理量として、加速度(空間加速度とも呼ぶ)および角速度(空間角速度とも呼ぶ)を計測する。計測装置11が計測する足の動きに関する物理量には、加速度や角速度に加えて、加速度や角速度を積分することによって計算される速度や角度、位置(軌跡)も含まれる。計測装置11は、計測された物理量をデジタルデータ(センサデータとも呼ぶ)に変換する。計測装置11は、変換後のセンサデータを生体情報処理装置15に送信する。計測装置11によって生成される加速度や角速度などのセンサデータを歩行パラメータとも呼ぶ。例えば、加速度や角速度を積分することによって計算される速度や角度、軌跡なども歩行パラメータに含まれる。例えば、地面に対する足裏の角度(足底角とも呼ぶ)も歩行パラメータに含まれる。
【0019】
計測装置11は、例えば、加速度センサと角速度センサを含む慣性計測装置によって実現される。慣性計測装置の一例として、IMU(Inertial Measurement Unit)が挙げられる。IMUは、3軸の加速度センサと、3軸の角速度センサを含む。計測装置11には、加速度センサと角速度センサ以外のセンサが含まれてもよい。慣性計測装置の別の一例として、VG(Vertical Gyro)や、AHRS(Attitude Heading Reference System)、GPS/INS(Global Positioning System/Inertial Navigation System)が挙げられる。
【0020】
図2は、靴100の中に計測装置11を設置する一例を示す概念図である。
図2の例では、計測装置11は、足弓の裏側に当たる位置に設置される。例えば、計測装置11は、靴100の中に挿入されるインソールに設置される。例えば、計測装置11は、靴100の底面に設置される。例えば、計測装置11は、靴100の本体に埋設される。計測装置11は、靴100から着脱できてもよいし、靴100から着脱できなくてもよい。計測装置11は、足の動きに関するセンサデータを取得できさえすれば、足弓の裏側ではない位置に設置されてもよい。また、計測装置11は、ユーザが履く靴下や、ユーザが装着するアンクレット等の装飾品に設置されてもよい。また、計測装置11は、足に直に貼り付けられたり、足に埋め込まれたりしてもよい。
図2においては、両足の靴100に計測装置11が設置される例を示す。計測装置11は、少なくとも一方の足部に設置されればよい。両足の靴100に計測装置11を設置すれば、左右の足に設置された計測装置11によって計測されたセンサデータに基づいて評価できる。
【0021】
図3は、計測装置11に設定されるローカル座標系(x軸、y軸、z軸)と、地面に対して設定される世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)について説明するための概念図である。世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)では、ユーザが直立した状態で、ユーザの横方向がX軸方向(右向きが正)、ユーザの正面の方向(進行方向)がY軸方向(前向きが正)、重力方向がZ軸方向(鉛直上向きが正)に設定される。本実施形態においては、計測装置11を基準とするx方向、y方向、およびz方向からなるローカル座標系を設定する。
【0022】
生体情報処理装置15は、計測装置11からセンサデータを受信する。生体情報処理装置15は、受信されたセンサデータを用いて、日常計測データを計測する。例えば、日常計測データは、ストライド長、歩行速度、最大背屈角度、最大底屈角度、足上げ高さ、分回し量、および足角を含む。
【0023】
生体情報処理装置15は、計測された日常計測データのうち、施設計測データと共通する共通計測項目の日常計測データの値(日常計測値とも呼ぶ)を抽出する。共通計測項目は、評価対象の運動機能に応じて、予め設定される。例えば、ストライド長および歩行速度が共通計測項目に設定される。例えば、生体情報処理装置15は、共通計測項目であるストライド長および歩行速度の日常計測値を抽出する。なお、ストライド長および歩行速度以外の日常計測データが共通計測項目に設定されてもよい。
【0024】
生体情報処理装置15は、抽出された共通計測項目の補正値を計算する。例えば、生体情報処理装置15は、センサデータに基づいて計測された日常計測データから抽出される共通計測項目の日常計測値と、予め記憶された共通計測項目の施設計測データの値(施設計測値とも呼ぶ)との差分を補正値として計算する。例えば、生体情報処理装置15は、日常計測データから抽出される共通計測項目の日常計測値の分布における代表値と、予め記憶された共通計測項目の施設計測値との偏差を補正値として計算する。
【0025】
生体情報処理装置15は、共通計測項目の補正値を出力する。例えば、生体情報処理装置15は、共通計測項目の施設計測値の補正値を出力する。例えば、生体情報処理装置15は、施設計測データが計測された施設で閲覧可能な端末装置(図示しない)に補正値を出力する。例えば、端末装置に出力された補正値は、その端末装置の画面に表示される。例えば、端末装置の画面に表示された補正値を確認した人物は、施設計測データと日常計測データの相違を認識できる。例えば、生体情報処理装置15は、表示装置(図示しない)や外部システムに、共通計測項目の補正値を出力するように構成されてもよい。
【0026】
続いて、本実施形態において検証される歩行に関する事項について図面を参照しながら説明する。以下の事項は、本実施形態において検証される歩行に関し、一般的な定義とは異なる場合がある。以下の事項は、本開示の他の実施形態においても適用される。
【0027】
図4は、人体に対して設定される面(人体面とも呼ぶ)について説明するための概念図である。本実施形態では、身体を左右に分ける矢状面、身体を前後に分ける冠状面、身体を水平に分ける水平面が定義される。なお、
図4のような直立した状態では、世界座標系とローカル座標系が一致する。本実施形態においては、x軸を回転軸とする矢状面内の回転をロール、y軸を回転軸とする冠状面内の回転をピッチ、z軸を回転軸とする水平面内の回転をヨーと定義する。また、x軸を回転軸とする矢状面内の回転角をロール角、y軸を回転軸とする冠状面内の回転角をピッチ角、z軸を回転軸とする水平面内の回転角をヨー角と定義する。本実施形態においては、右側面から身体を見て、矢状面内における時計回りの回転を正と定義し、矢状面内における反時計回りの回転を負と定義する。
【0028】
図5は、右足を基準とする一歩行周期について説明するための概念図である。左足を基準とする一歩行周期も、右足と同様である。
図5の横軸は、右足の踵が地面に着地した時点を起点とし、次に右足の踵が地面に着地した時点を終点とする右足の一歩行周期を100%として正規化された歩行周期である。片足の一歩行周期は、足の裏側の少なくとも一部が地面に接している立脚相と、足の裏側が地面から離れている遊脚相とに大別される。立脚相は、さらに、立脚初期T1、立脚中期T2、立脚終期T3、遊脚前期T4に細分される。遊脚相は、さらに、遊脚初期T5、遊脚中期T6、遊脚終期T7に細分される。なお、
図5は一例であって、一歩行周期を構成する期間や、それらの期間の名称等を限定するものではない。
【0029】
図5のように、歩行においては、複数の事象(歩行イベントとも呼ぶ)が発生する。
図5の(a)は、右足の踵が接地する事象(踵接地)を表す(HS:Heel Strike)。
図5の(b)は、右足の足裏が接地した状態で、左足の爪先が地面から離れる事象(反対足爪先離地)を表す(OTO:Opposite Toe Off)。
図5の(c)は、右足の足裏が接地した状態で、右足の踵が持ち上がる事象(踵持ち上がり)を表す(HR:Heel Rise)。
図5の(d)は、左足の踵が接地した事象(反対足踵接地)である(OHS:Opposite Heel Strike)。
図5の(e)は、左足の足裏が接地した状態で、右足の爪先が地面から離れる事象(爪先離地)を表す(TO:Toe Off)。
図5の(f)は、左足の足裏が接地した状態で、左足と右足が交差する事象(足交差)を表す(FA:Foot Adjacent)。
図5の(g)は、左足の足裏が接地した状態で、右足の脛骨が地面に対してほぼ垂直になる事象(脛骨垂直)を表す(TV:Tibia Vertical)。
図5の(h)は、右足の踵が接地する事象(踵接地)を表す(HS:Heel Strike)。
図5の(h)は、
図5の(a)から始まる歩行周期の終点に相当するとともに、次の歩行周期の起点に相当する。なお、
図5は一例であって、歩行に付随して発生する事象や、それらの事象の名称を限定するものではない。
【0030】
図6は、生体情報処理装置15が算出する歩行パラメータについて説明するための概念図である。
図6には、右足ステップ長S
R、左足ステップ長S
L、ストライド長T、分回し量C、および足角Fを図示する。右足ステップ長S
Rは、左足の足裏が接地した状態から、進行方向に振り出された右足の踵が着地した状態に遷移した際の、右足の踵と左足の踵のY座標の差である。左足ステップ長S
Lは、右足の足裏が接地した状態から、進行方向に振り出された左足の踵が着地した状態に遷移した際の、左足の踵と右足の踵のY座標の差である。ストライド長Tは、右足ステップ長S
Rと左足ステップ長S
Lの和である。分回し量Cは、水平面内(XY面内)における足の分回しの度合である。ここで、一方の足の足裏が接地した状態における計測装置11の位置と、進行方向に振り出されたその足の足裏が接地した状態に遷移した際の計測装置11の位置とを結ぶ直線を進行軸と定義する。分回し量Cは、一方の足の足裏が接地した状態から、進行方向に振り出されたその足の足裏が再び接地した状態に遷移までの期間において、その足が水平面内で進行軸から最も離れたタイミングにおける計測装置11と進行軸との距離である。足角Fは、足裏面が接地した状態において、足の中心線と進行軸(Y軸)が成す角度である。
【0031】
図7は、足底角について説明するための概念図である。足底角は、地面(XY平面)に対する足底の角度である。足底角は、爪先が上を向いた状態(背屈)をマイナス、爪先が下を向いた状態(底屈)をプラスと定義する。一歩行周期において、背屈状態の足底角の絶対値が最大になる角度を最大背屈角度と呼ぶ。一歩行周期において、底屈状態の足底角の絶対値が最大になる角度を最大底屈角度と呼ぶ。
【0032】
例えば、生体情報処理装置15は、X軸方向の加速度とY軸方向の加速度を用いて足底角を計算する。例えば、生体情報処理装置15は、X軸、Y軸、およびZ軸の各々を中心軸とする角速度の値を積分することによって、それらの軸周りの足底角を計算する。加速度データおよび角速度データには、色々な方向に変化する高周波数および低周波のノイズが入る。そのため、加速度データおよび角速度データにローパスフィルタおよびハイパスフィルタをかけて、高周波成分および低周波成分を除去する。高周波成分および低周波成分が除去されれば、ノイズが乗りやすいセンサデータの精度を向上できる。また、加速度データおよび角速度データの各々に相補フィルタをかけて重み付き平均を取ることでも、センサデータの精度を向上できる。なお、計測装置11が足底角を計測するように構成されてもよい。
【0033】
図8は、足上げ高さについて説明するための概念図である。足上げ高さは、地面に対する足裏の高さである。
図8には、一歩行周期において、足裏が地面に接地した位置(破線)から、足裏の地面に対す足上げ高さが最大の位置(実線)に遷移した状態を示す。足上げ高さHは、Z方向における計測装置11の位置に相当する。すなわち、足上げ高さHは、靴100を履いて歩行するユーザの足裏のZ方向における高さとほぼ一致する。
図8の例の場合、足上げ高さHは、Z方向の加速度を二階積分することによって算出できる。計測装置11は、靴100の中の初期高さdの位置に設置される。そのため、足裏が地面に接地した状態を基準とすると、Z方向における足裏の高さはH-dだけ変化する。また、靴100の靴底の高さもH-dに相当する。足上げ高さに基づく運動機能の評価においては、H-dを足上げ高さとした方が好ましいこともある。
【0034】
〔データ取得装置〕
次に、計測装置11の詳細について図面を参照しながら説明する。
図9は、計測装置11の詳細構成の一例を示すブロック図である。計測装置11は、加速度センサ111、角速度センサ112、制御部113、および送信部115を有する。また、計測装置11は、図示しない電源を含む。
【0035】
加速度センサ111は、3軸方向の加速度(空間加速度とも呼ぶ)を計測するセンサである。加速度センサ111は、計測した加速度を制御部113に出力する。例えば、加速度センサ111には、圧電型や、ピエゾ抵抗型、静電容量型等の方式のセンサを用いることができる。なお、加速度センサ111に用いられるセンサは、加速度を計測できれば、その計測方式に限定を加えない。
【0036】
角速度センサ112は、3軸周りの角速度(空間角速度とも呼ぶ)を計測するセンサである。角速度センサ112は、計測した角速度を制御部113に出力する。例えば、角速度センサ112には、振動型や静電容量型等の方式のセンサを用いることができる。なお、角速度センサ112に用いられるセンサは、角速度を計測できれば、その計測方式に限定を加えない。
【0037】
制御部113は、加速度センサ111から3軸方向の加速度を取得する。制御部113は、角速度センサ112から3軸周りの角速度を取得する。制御部113は、取得した加速度および角速度をデジタルデータに変換する。制御部113は、変換後のデジタルデータ(センサデータとも呼ぶ)を送信部115に出力する。センサデータには、アナログデータからデジタルデータに変換された加速度データと、アナログデータからデジタルデータに変換された角速度データとが少なくとも含まれる。デジタルデータに変換された加速度データには、3軸方向の加速度ベクトルが含まれる。デジタルデータに変換された角速度データには、3軸方向の角速度ベクトルが含まれる。加速度データおよび角速度データには、それらのデータの取得時間が紐付けられる。また、制御部113は、取得した加速度データおよび角速度データに対して、実装誤差や温度補正、直線性補正などの補正を加えたセンサデータを出力するように構成されてもよい。また、制御部113は、取得した加速度データおよび角速度データを用いて、3軸周りの角度データや足底角を計測するように構成されてもよい。
【0038】
例えば、制御部113は、計測装置11の制御や処理を行う、マイクロコンピュータやマイクロコントローラである。例えば、制御部113は、CPU(Central Processing Unit)やRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等を有する。制御部113は、加速度センサ111および角速度センサ112を制御して角速度や加速度を計測する。例えば、制御部113は、計測された角速度および加速度等の物理量(アナログデータ)をAD変換(Analog-to-Digital Conversion)し、変換後のデジタルデータをフラッシュメモリに記憶させる。なお、加速度センサ111および角速度センサ112によって計測された物理量(アナログデータ)は、加速度センサ111および角速度センサ112の各々においてデジタルデータに変換されてもよい。フラッシュメモリに記憶されたデジタルデータは、所定のタイミングで送信部115に出力される。
【0039】
送信部115は、制御部113からセンサデータを取得する。送信部115は、取得したセンサデータを生体情報処理装置15に送信する。送信部115は、ケーブルなどの有線を介してセンサデータを生体情報処理装置15に送信してもよいし、無線通信を介してセンサデータを生体情報処理装置15に送信してもよい。例えば、送信部115は、Bluetooth(登録商標)やWiFi(登録商標)などの規格に則した無線通信機能(図示しない)を介して、センサデータを生体情報処理装置15に送信するように構成される。なお、送信部115の通信機能は、Bluetooth(登録商標)やWiFi(登録商標)以外の規格に則していてもよい。
【0040】
〔生体情報処理装置〕
次に、情報処理システム10が備える生体情報処理装置15の詳細について図面を参照しながら説明する。
図10は、生体情報処理装置15の構成の一例を示すブロック図である。生体情報処理装置15は、計測部151、抽出部152、記憶部153、補正部155、および出力部157を有する。
【0041】
計測部151は、歩行者の履いている履物に設置された計測装置11からセンサデータを取得する。計測部151は、取得したセンサデータを用いて、日常計測データを計測する。例えば、計測部151は、ストライド長、歩行速度、最大背屈角度、最大底屈角度、足上げ高さ、分回し量、および足角などの日常計測データを計測する。以下に、計測部151による日常計測データの計測方法の一例をあげる。
【0042】
まず、計測部151は、取得されたセンサデータの座標系を、ローカル座標系から世界座標系に変換する。ユーザが直立した状態では、ローカル座標系(x軸、y軸、z軸)と世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)は一致する。一方、ユーザが歩行している間、計測装置11の空間的な姿勢が変化するため、ローカル座標系(x軸、y軸、z軸)と世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)は一致しない。そのため、計測部151は、計測装置11によって取得されたセンサデータを、計測装置11のローカル座標系(x軸、y軸、z軸)から世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)に変換する。
【0043】
計測部151は、世界座標系に変換されたセンサデータを用いて、計測装置11が設置された履物を履いたユーザの歩行に伴う時系列データを生成する。計測部151は、生成された時系列データから、一歩行周期分の歩行波形データを抽出する。例えば、計測部151は、空間加速度や空間角速度などの時系列データを生成する。また、計測部151は、空間加速度や空間角速度を積分し、空間速度や空間角度、足底角、空間軌跡などの時系列データを生成する。計測部151が時系列データを生成するタイミングは、任意に設定できる。例えば、計測部151は、一般的な歩行周期やユーザに固有の歩行周期に合わせて設定された所定のタイミングで時系列データを生成する。例えば、計測部151は、歩行周期に合わせて設定された所定の時間間隔で時系列データを生成する。例えば、計測部151は、ユーザの歩行が継続されている期間、時系列データを生成し続ける。例えば、計測部151は、特定の時刻において、時系列データを生成してもよい。
【0044】
計測部151は、生成された歩行波形データから、計測装置11が設置された履物を履いて歩行するユーザの歩行イベントを検出する。例えば、計測部151は、足の動きに関する物理量の歩行波形から、歩行イベントごとの特徴を抽出する。例えば、計測部151は、抽出された歩行イベントごとの特徴のタイミングを、それぞれの歩行イベントのタイミングとして検出する。
【0045】
例えば、計測部151は、連続する踵接地や、連続する爪先離地などのタイミングにおける計測装置11のY方向の移動距離をストライド長として計測する。例えば、計測部151は、Y方向の加速度を積分することによって、歩行速度を計測する。例えば、計測部151は、足底角の絶対値が背屈方向において最大となる角度を最大背屈角度として計測する。計測部151は、足底角の絶対値が底屈方向において最大となる角度を最大底屈角度として計測する。例えば、計測部151は、Z方向加速度を二階積分することによって、足上げ高さを計算する。例えば、計測部151は、一歩行周期分のX方向の加速度を二階積分することで、X方向における位置の軌跡を得る。計測部151は、X方向における位置と進行軸の間隔が最大となる距離を、分回し量として計測する。例えば、計測部151は、足裏が接地した状態における足の中心線と進行軸(Y軸)が成す角度を、足角として計測する。なお、ここであげた日常計測データの計測方法は一例であって、計測部151による日常計測データの計測方法を限定するものではない。
【0046】
例えば、計測部151は、爪先離地、踵接地、および足交差を歩行イベントとして検出し、それらの歩行イベントに基づいて、ストライド長を計測してもよい。足交差は、一方の足の爪先が、他方の足の爪先と踵の中点の位置を通過するタイミングに相当する。計測部151は、一歩行周期分のY方向軌跡の歩行波形から、爪先離地と踵接地の間の区間を、一歩分のY方向軌跡の歩行波形として抽出する。計測部151は、一歩分のY方向軌跡の歩行波形を用いて、足交差における空間位置と、爪先離地における空間位置との差の絶対値を計算する。足交差における空間位置と、爪先離地における空間位置との差の絶対値は、左足が前、右足が後ろの状態の左足ステップ長SL(第1ステップ長とも呼ぶ)に相当する。また、計測部151は、一歩分のY方向軌跡の歩行波形を用いて、足交差のタイミングにおける空間位置と、踵接地における空間位置との差の絶対値を計算する。足交差のタイミングにおける空間位置と、踵接地における空間位置との差の絶対値は、右足が前、左足が後ろの状態の右足ステップ長SR(第2ステップ長とも呼ぶ)に相当する。右足ステップ長SRと左足ステップ長SLの和がストライド長に相当する。この手法によれば、各足のステップ長を個別に計測できる。
【0047】
抽出部152は、計測部151によって計測された日常計測データから、施設計測データとの共通計測項目の日常計測値を抽出する。例えば、抽出部152は、ストライド長と歩行速度の日常計測値を共通計測項目として抽出する。
【0048】
例えば、抽出部152は、計測部151によって継続的に計測された日常計測データから、施設計測データとの共通計測項目の日常計測値の代表値を抽出する。
図11は、複数の日時に亘って計測された日常計測値の度数分布をまとめた図である。
図11は、ストライド長、歩行速度、最大背屈角度、最大底屈角度、足上げ高さ、分回し量、および足角の日常計測値の度数分布を含む。
図11においては、横軸と縦軸の目盛りを省略する。
図11の例では、ストライド長と歩行速度が共通計測項目である。例えば、抽出部152は、ストライド長および歩行速度の日常計測値の代表値を共通計測項目として抽出する。
【0049】
記憶部153は、共通計測項目の施設計測値を記憶する。例えば、記憶部153は、ストライド長と歩行速度の施設計測値を記憶する。
図12は、記憶部153に記憶される施設計測値の一例である。
図12の例では、ストライド長の施設計測値147cm(センチメートル)と、歩行速度の施設計測値4.8m/s(メートル毎秒)が記憶部153に記憶される。記憶部153に記憶された共通計測項目の施設計測値は、任意のタイミングで更新可能である。例えば、記憶部153に記憶された共通計測項目の施設計測値は、スポーツジムや病院などの施設から送信されたデータに応じて更新される。記憶部153に記憶された共通計測項目の施設計測値の更新方法については、特に限定を加えない。
【0050】
補正部155は、共通計測項目の日常計測値と施設計測値の補正値を計算する。例えば、補正部155は、共通計測項目の日常計測値と施設計測値の差分を補正値として算出する。例えば、補正部155は、共通計測項目の日常計測値の分布の代表値と施設計測値との偏差を補正値として算出する。例えば、補正部155は、共通計測項目の日常計測値の分布の代表値として、その分布を構成する複数の日常計測値の相加平均や相乗平均、調和平均などの平均値を代表値として用いる。例えば、補正部155は、共通計測項目の日常計測値の分布の代表値として、その分布を構成する複数の日常計測値の最頻値や中央値を代表値として用いる。
【0051】
図13は、ストライド長の日常計測値の度数分布の一例である。
図13のストライド長の日常計測値は、約40日間に亘る歩行で計測され、外れ値が除去された561個のサンプルの分布である。
図13の例では、ストライド長の日常計測値の平均値は140cmである。それに対し、歩幅の施設平均値は147cmである。ストライド長の日常計測値の分布の平均値と施設計測値との偏差は7cmである。
【0052】
図14は、歩行速度の日常計測値の度数分布の一例である。
図13の歩行速度の日常計測値は、
図14と同じタイミングで計測された値である。
図14の例では、歩行速度の日常計測値の平均値は4.8m/sである。それに対し、歩行速度の施設平均値は4.5m/sである。歩行速度の日常計測値の分布の平均値と施設計測値との偏差は0.3m/sである。
【0053】
図15は、補正部155による補正の前後における共通計測項目の値をまとめた表である。
図15の表には、補正前のストライド長および歩行速度の施設計測値の行と、補正後のストライド長および歩行速度の補正値の行とを上下に並べて表記する。例えば、
図15のデータの取得元のユーザに対して運動指導するトレーナーは、補正前後のストライド長および歩行速度を比較することによって、補正前のデータに基づいて作成したトレーニングメニューを見直すことができる。
【0054】
施設計測値は、施設における観察下で計測されるため、日常計測値とは異なる傾向がある。例えば、対象人物が、通常よりもよい姿勢で歩こうとすると、ストライドが大きくなり、歩行速度が速くなる傾向がある。
図13~
図15の例は、そのような傾向があらわれたものと推測される。その反対に、例えば、対象人物が、通常よりも不調な感じを見せようとして歩くと、ストライドが小さくなり、歩行速度が遅くなる傾向がある。本実施形態では、自然な歩行に基づく日常計測値を用いて、施設計測値を補正できる。そのため、本実施形態によれば、施設における詳細な運動機能の評価に、日常環境における本来の運動機能を反映できる。
【0055】
出力部157は、共通計測項目の補正値を出力する。例えば、出力部157は、補正値によって補正された共通計測項目の値を出力する。例えば、出力部157は、補正値によって補正された共通計測項目および施設計測項目の値を、ユーザの携帯する携帯端末の画面に表示させる。例えば、出力部157は、ネットワーク(図示しない)を介して、施設計測値が計測された施設で閲覧可能な端末装置に補正値を出力する。例えば、端末装置に出力された補正値は、その端末装置の画面に表示される。例えば、端末装置の画面に表示された補正値を確認した人物は、施設計測データと日常計測データの相違を認識できる。例えば、出力部157は、表示装置(図示しない)や外部システムに、共通計測項目の補正値を出力するように構成されてもよい。
【0056】
(動作)
次に、本実施形態の情報処理システム10の動作の一例について図面を参照しながら説明する。ここでは、情報処理システム10の生体情報処理装置15の動作の一例について、フローチャートを参照しながら説明する。
図16は、生体情報処理装置15の動作の一例について説明するためのフローチャートである。
図16のフローチャートに沿った説明においては、生体情報処理装置15を動作主体として説明する。
【0057】
図16において、まず、生体情報処理装置15は、足の動きに関するセンサデータを計測装置11から取得する(ステップS11)。
【0058】
次に、生体情報処理装置15は、取得されたセンサデータを用いて、日常計測データを計測する(ステップS12)。
【0059】
次に、生体情報処理装置15は、計測された日常計測データから、共通計測項目の日常計測値を抽出する(ステップS13)。
【0060】
次に、生体情報処理装置15は、抽出された共通計測項目の日常計測値に基づいて、共通計測項目の施設計測値の補正値を計算する(ステップS14)。
【0061】
次に、生体情報処理装置15は、算出された共通計測項目の施設計測値の補正値を出力する(ステップS15)。生体情報処理装置15から出力された共通計測項目の施設計測値の補正値は、用途に応じて使用される。
【0062】
以上のように、本実施形態の情報処理システムは、計測装置と生体情報処理装置を備える。計測装置は、ユーザの履物に配置される。計測装置は、ユーザの歩行に応じて空間加速度および空間角速度を計測する。計測装置は、計測された空間加速度および空間角速度に基づくセンサデータを生成する。計測装置は、生成されたセンサデータを生体情報処理装置に出力する。生体情報処理装置は、計測部、抽出部、記憶部、補正部、および出力部を有する。計測部は、ユーザの足の動きに関するセンサデータを計測装置から受信する。計測部は、受信したセンサデータを用いて日常計測データを計測する。抽出部は、計測部によって計測される日常計測データから、施設で計測された施設計測データと共通する共通計測項目の日常計測値を抽出する。記憶部は、共通計測項目の施設計測値を記憶する。補正部は、抽出部によって抽出された共通計測項目の日常計測値に基づいて、記憶部に予め記憶された共通計測項目の施設計測値を補正する。出力部は、補正部によって補正された施設計測値を出力する。
【0063】
本実施形態の情報処理システムは、共通計測項目の日常計測値に基づいて、その共通計測項目の施設計測値を補正する。そのため、本実施形態によれば、施設や日常生活などのように異なる環境において計測された、運動機能を評価するための計測値(生体データ)の相違を補正できる。
【0064】
本実施形態の一態様において、補正部は、共通計測項目の日常計測値の分布の代表値と、共通計測項目の施設計測値との偏差を計算する。補正部は、算出された偏差を用いて、共通計測項目の施設計測値を補正する。本態様によれば、日常の歩行で蓄積された日常計測値の分布の代表値に基づいて施設計測値を補正できるので、より日常が反映された高精度の補正を行うことができる。
【0065】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る情報処理システムについて図面を参照しながら説明する。本実施形態の情報処理システムは、計測装置によって計測される日常計測値に基づいて、日常計測データには含まれない施設計測項目の施設計測値の補正値を計算する。以下において、日常計測データには含まれない施設計測項目の施設計測値を、施設計測項目の施設計測値と呼ぶ。
【0066】
(構成)
図17は、本実施形態の情報処理システム20の構成の一例を示すブロック図である。情報処理システム20は、計測装置21および生体情報処理装置25を備える。計測装置21と生体情報処理装置25は、有線で接続されてもよいし、無線で接続されてもよい。また、計測装置21と生体情報処理装置25は、単一の装置で構成されてもよい。また、情報処理システム20の構成から計測装置21を除き、生体情報処理装置25だけで情報処理システム20が構成されてもよい。
【0067】
計測装置21は、足部に設置される。計測装置21は、第1の実施形態の計測装置11と同様の構成である。計測装置21は、靴等の履物を履くユーザの足の動きに関する物理量として、加速度(空間加速度とも呼ぶ)および角速度(空間角速度とも呼ぶ)を計測する。計測装置21は、計測された物理量をデジタルデータ(センサデータとも呼ぶ)に変換する。計測装置21は、変換後のセンサデータを生体情報処理装置25に送信する。
【0068】
生体情報処理装置25は、計測装置21からセンサデータを受信する。生体情報処理装置25は、受信されたセンサデータを用いて、日常計測データを計測する。例えば、日常計測データは、ストライド長、歩行速度、最大背屈角度、最大底屈角度、足上げ高さ、分回し量、および足角を含む。生体情報処理装置25は、計測された日常計測データのうち、施設計測データとの共通計測項目を抽出する。生体情報処理装置25は、抽出された共通計測項目の補正値を計算する。生体情報処理装置25は、算出された共通計測項目の補正値を用いて、その共通計測項目に関連する施設計測項目の施設計測値を補正する。
【0069】
例えば、生体情報処理装置25は、ストライド長、歩行速度、最大背屈角度、最大底屈角度、足上げ高さ、分回し量、および足角を日常計測値として計測する。例えば、生体情報処理装置25は、ストライド長および歩行速度の日常計測値を共通計測項目として抽出する。生体情報処理装置25は、ストライド長および歩行速度の補正値を計算する。例えば、生体情報処理装置25は、算出されたストライド長の補正値を用いて、ストライド長に関連する膝関節負荷に関する補正量を計算する。膝関節負荷は、膝関節の関節モーメントである。膝関節負荷の値が大きいほど、膝への負担が大きいことを示す。例えば、生体情報処理装置25は、算出されたストライド長および歩行速度の補正量を用いて、ストライド長および歩行速度に関連する歩行安定性の補正値を計算する。歩行安定性は、荷重支持面からの重心のずれである。歩行安定性は、0に近いほど安定である。重心が前方に偏心した状態で歩行していると、歩行安定性が正に傾く。重心が後方に偏心した状態で歩行していると、歩行安定性が負に傾く。なお、共通計測項目に関連する施設計測値は、膝関節負荷や歩行安定性に限定されない。共通計測項目に関連する施設計測値は、評価対象の運動機能に応じて適宜選択されればよい。
【0070】
生体情報処理装置25は、共通計測項目に関連する施設計測項目の施設計測値の補正値を出力する。例えば、生体情報処理装置25は、補正値によって補正された施設計測項目の施設計測値の補正値を出力する。例えば、生体情報処理装置25は、施設計測データが計測された施設で閲覧可能な端末装置に補正値を出力する。例えば、端末装置に出力された補正値は、その端末装置の画面に表示される。例えば、端末装置の画面に表示された補正値を確認した人物は、施設計測データと日常計測データの相違を認識できる。例えば、生体情報処理装置25は、表示装置(図示しない)や外部システムに、施設計測項目の補正値を出力するように構成されてもよい。
【0071】
〔生体情報処理装置〕
次に、情報処理システム20が備える生体情報処理装置25の詳細について図面を参照しながら説明する。
図18は、生体情報処理装置25の構成の一例を示すブロック図である。生体情報処理装置25は、計測部251、抽出部252、記憶部253、補正部255、および出力部257を有する。補正部255は、第1補正部261と第2補正部262を有する。
【0072】
計測部251は、ユーザの履いている履物に設置された計測装置21からセンサデータを取得する。計測部251は、第1の実施形態の計測部151と同様の構成である。計測部251は、取得したセンサデータを用いて、日常計測データを計測する。例えば、計測部251は、ストライド長、歩行速度、最大背屈角度、最大底屈角度、足上げ高さ、分回し量、および足角などの日常計測データを計測する。
【0073】
抽出部252は、計測部251によって計測された日常計測データから、施設計測データとの共通計測項目の日常計測値を抽出する。例えば、抽出部252は、計測部251によって継続的に計測された日常計測データから、施設計測データとの共通計測項目の日常計測値の代表値を抽出する。例えば、抽出部252は、ストライド長と歩行速度を共通計測項目として抽出する。
【0074】
記憶部253は、共通計測項目を記憶する。また、記憶部253は、共通計測項目に関連する施設計測項目の施設計測値を記憶する。例えば、記憶部253は、ストライド長と歩行速度の施設計測値を記憶する。例えば、記憶部253は、ストライド長と歩行速度に関連する施設計測項目である膝関節負荷および歩行安定性の施設計測値を記憶する。
【0075】
図19は、記憶部253に記憶される施設計測値の一例である。
図19の例では、ストライド長の施設計測値147cm、歩行速度の施設計測値4.8m/s、膝関節負荷の施設計測値61Nm(ニュートンメートル)、歩行安定性の施設計測値-0.5が記憶部153に記憶される。膝関節負荷および歩行安定性は、ストライド長および歩行速度の日常計測値を計測する計測装置21とは異なる計測方法で計測される。例えば、膝関節負荷は、モーションキャプチャと床反力計を用いて計測される。例えば、歩行安定性は、トレッドミル上における外乱刺激に対する応答として観測される。記憶部253に記憶された施設計測値は、任意のタイミングで更新可能である。例えば、記憶部253に記憶された施設計測値は、ネットワーク(図示しない)を介して、スポーツジムや病院などの施設から送信されたデータに応じて更新される。記憶部253に記憶された施設計測値の更新方法については、特に限定を加えない。
【0076】
第1補正部261は、共通計測項目の日常計測値と施設計測値の補正値を計算する。第1補正部261は、第1の実施形態の補正部155と同様の構成である。例えば、第1補正部261は、ストライド長および歩行速度の補正値を計算する。例えば、第1補正部261は、共通計測項目の日常計測値と施設計測値の差分を補正値として算出する。例えば、第1補正部261は、共通計測項目の日常計測値の分布の代表値と施設計測値との偏差を補正値として算出する。例えば、第1補正部261は、共通計測項目の日常計測値の分布の代表値として、その分布を構成する複数の日常計測値の相加平均や相乗平均、調和平均などの平均値を代表値として用いる。例えば、第1補正部261は、共通計測項目の日常計測値の分布の代表値として、その分布を構成する複数の日常計測値の最頻値や中央値を代表値として用いる。
【0077】
第2補正部262は、第1補正部261によって算出された共通計測項目の補正値を用いて、その共通計測項目に関連する施設計測項目の施設計測値を補正する。例えば、第2補正部262は、ストライド長の補正値を用いて、ストライド長に関連する膝関節負荷に関する補正量を計算する。例えば、第2補正部262は、ストライド長および歩行速度の補正値を用いて、ストライド長および歩行速度に関連する歩行安定性に関する補正量を計算する。第2補正部262は、算出された補正量を用いて、膝関節負荷および歩行安定性の補正値を計算する。
【0078】
例えば、第2補正部262は、非特許文献1の手法を用いて、膝関節負荷の補正量を計算する(非特許文献1:Lara Allet, et al., “The influence of stride-length on plantar foot-pressures and joint moments”, Gait & Posture 34, (2011), pp.300-306.)。非特許文献1によると、ストライド長が20%(パーセント)増加すると、膝関節負荷が18%増加する。ここで、ストライド長に関して、日常計測値が147cmであり、施設計測値が140cmの場合を想定する。この場合、膝関節負荷の補正量C
KJLは、下記の式1を用いて算出される。
すなわち、記憶部253に記憶された補正前の膝関節負荷が61Nmの場合、補正後の膝関節負荷は、上記の式1を用いて算出された補正量C
KJL(-4.8%)だけ低減された値(58Nm)になる。
【0079】
例えば、第2補正部262は、非特許文献2の手法を用いて、歩行安定性の補正量を計算する(非特許文献2: D. D. Espy, et al., “Independent Influence of Gait Speed and Step Length on Stability and Fall Risk”, Gait Posture, 2010 Jul, 32(3), 378-82.)。非特許文献2によると、正規化歩行速度が1増加すると、歩行安定性が0.229向上する。正規化歩行速度とは、身長に9.8を掛けた値の平方根で歩行速度を割った値である。また、非特許文献2によると、正規化歩幅が1増加すると、歩行安定性が0.901悪化する。正規化歩幅とは、歩幅(ストライド長の2分の1)を身長で割った値である。ここで、身長が1.84mの被検者のストライド長および歩行速度に関して、日常計測値が147cmおよび4.5m/s、施設計測値が140cmおよび4.8m/sの場合を想定する。この場合、歩行安定性の補正量C
WSは、下記の式2を用いて算出される。
すなわち、記憶部253に記憶された補正前の歩行安定性が-0.5の場合、補正後の歩行安定性は、上記の式2を用いて算出された補正量C
WS(0.155)だけ改善された値(-0.345)になる。
【0080】
図20は、第1補正部261および第2補正部262による補正の前後における施設計測項目の値をまとめた表である。
図20の表には、補正前の膝関節負荷および歩行安定性の施設計測値の行と、補正後の膝関節負荷および歩行安定性の補正値の行とを上下に並べて表記する。例えば、
図20のデータの取得元のユーザに対して運動指導するトレーナーは、補正後の膝関節負荷および歩行安定性を参照することによって、補正前のデータに基づいて作成したトレーニングメニューを見直すことができる。ストライド長や歩行速度と比べると、膝関節負荷や歩行安定性は、運動機能を図る指標として明確である。そのため、膝関節負荷や歩行安定性に基づけば、より精度の高いトレーニングメニューを作成できる。
【0081】
出力部257は、共通計測項目および施設計測項目の補正値を出力する。例えば、出力部257は、補正値によって補正された共通計測項目および施設計測項目の値を出力する。例えば、出力部257は、補正値によって補正された共通計測項目および施設計測項目の値を、ユーザの携帯する携帯端末の画面に表示させる。例えば、出力部257は、施設計測値が計測された施設で閲覧可能な端末装置に補正値を出力する。例えば、端末装置に出力された補正値は、その端末装置の画面に表示される。例えば、端末装置の画面に表示された補正値を確認した人物は、日常計測値が反映された施設計測項目の補正値を認識できる。例えば、出力部257は、表示装置(図示しない)や外部システムに、共通計測項目の補正値を出力するように構成されてもよい。
【0082】
(動作)
次に、本実施形態の情報処理システム20の動作の一例について図面を参照しながら説明する。ここでは、情報処理システム20の生体情報処理装置25の動作の一例について、フローチャートを参照しながら説明する。
図21は、生体情報処理装置25の動作の一例について説明するためのフローチャートである。
図21のフローチャートに沿った説明においては、生体情報処理装置25を動作主体として説明する。
【0083】
図21において、まず、生体情報処理装置25は、足の動きに関するセンサデータを計測装置21から取得する(ステップS21)。
【0084】
次に、生体情報処理装置25は、取得されたセンサデータを用いて、日常計測データを計測する(ステップS22)。
【0085】
次に、生体情報処理装置25は、計測された日常計測データから共通計測項目の日常計測値を抽出する(ステップS23)。
【0086】
次に、生体情報処理装置25は、抽出された共通計測項目の日常計測値に基づいて、共通計測項目の施設計測値の補正値を計算する(ステップS24)。
【0087】
次に、生体情報処理装置25は、算出された共通計測項目の施設計測値の補正値に基づいて、共通関連項目に関連する施設計測項目の施設計測値の補正値を計算する(ステップS25)。
【0088】
次に、生体情報処理装置25は、算出された施設計測項目の施設計測値の補正値を出力する(ステップS26)。生体情報処理装置25から出力された施設計測項目の施設計測値の補正値は、用途に応じて使用される。
【0089】
(適用例)
次に、本実施形態の適用例について図面を参照しながら説明する。以下の適用例においては、ユーザが履く靴に設置された計測装置21によって計測されたセンサデータを、そのユーザの携帯端末にインストールされたアプリケーション(アプリとも呼ぶ)で処理する例について説明する。以下の適用例においては、第2の実施形態の生体情報処理装置25の機能を発揮するアプリが携帯端末にインストールされているものとする。
【0090】
〔適用例1〕
図22は、適用例1について説明するための概念図である。本適用例では、計測装置21が設置された靴200を履いたユーザの歩行に応じて、そのユーザが携帯する携帯端末260にセンサデータが送信される。携帯端末260にインストールされたアプリ(生体情報処理装置25)は、受信したセンサデータに基づいて、施設計測データとの共通計測項目に関連する施設計測項目の施設計測値を補正する補正値を出力する。アプリから出力された補正値は、ユーザの携帯端末260から、そのユーザの運動を管理するトレーナーの携帯端末270に送信される。
【0091】
トレーナーの携帯端末270に送信された補正値に関する情報は、その携帯端末270の画面に表示される。例えば、トレーナーが携帯端末270の画面に表示されたボタンに触れると、補正された施設計測データに関する情報が、携帯端末270の画面に表示される。
図22の例では、「ストライド長の日常計測値は140cmです。日常歩行における膝関節負荷は58Nmです。」という情報が表示される。例えば、携帯端末270の画面に表示された情報を見たトレーナーは、その情報に応じたトレーニングメニューを作成することができる。
【0092】
施設計測値は、運動機能を評価する専門的な機器を用いて計測された計測値に限定されない。例えば、施設計測値は、スポーツジムのトレーナーや、理学療法士等の専門家による目視によって生成されるものであってもよい。例えば、トレーナーによって作成されるトレーニングメニューに、生体情報処理装置25によって算出された補正値を反映させるようにしてもよい。例えば、施設においてトレーナーが目視で判定したユーザの運動機能の指標値に関連する日常計測データが共通計測項目として計測可能である場合、その共通計測項目に基づいて、指標値を補正するようにしてもよい。例えば、共通計測項目に基づいて補正された指標値を、トレーナーの携帯する携帯端末270の画面に表示させる。例えば、携帯端末270の画面に表示された情報を見たトレーナーは、その指標値に応じたトレーニングメニューを作成することができる。例えば、トレーニングメニューは、トレーニングジムやトレーナーに特有のメソッドに基づいてカスタマイズされてもよい。
【0093】
図23は、
図22の例で作成されたトレーニングメニューを、ユーザの携帯する携帯端末260の画面に表示させる例である。例えば、携帯端末270の画面に表示された情報を見たトレーナーによって作成されたトレーニングメニューは、そのトレーナーのコメントと合わせて、管理対象のユーザの携帯端末260に送信される。ユーザの携帯端末260に送信されたトレーニングメニューに関する情報は、その携帯端末260の画面に表示される。例えば、携帯端末260の画面に表示された情報を見たユーザは、そのトレーニングメニューやコメントに応じた運動を行うことができる。
【0094】
本適用例では、施設計測値に基づいて作成されたユーザ専用のトレーニングメニューを、そのユーザの日常計測データに基づいて補正する。そのため、本適用例によれば、ユーザの本来の運動機能が反映されたトレーニングメニューを作成できる。
【0095】
〔適用例2〕
図24は、適用例2について説明するための概念図である。本適用例では、計測装置21が設置された靴200を履いたユーザの歩行に応じて、そのユーザが携帯する携帯端末260にセンサデータが送信される。携帯端末260にインストールされたアプリ(生体情報処理装置25)は、受信したセンサデータに基づいて、施設計測データとの共通計測項目に関連する施設計測項目の施設計測値を補正する補正値を算出する。
【0096】
例えば、アプリは、算出された補正値に基づいて、施設計測値との相違の度合を検証する。例えば、日常計測値に基づいて補正された施設計測値の補正値が、元の施設計測値を過剰に上回っている場合、アプリは、歩数を減らすことを薦める推薦情報を生成する。例えば、日常計測値に基づいて補正された施設計測値の補正値が、元の施設計測値を過剰に下回っている場合、アプリは、歩数を増やすことを薦める推薦情報を生成する。例えば、日常計測値に基づいて補正された施設計測値の補正値が、元の施設計測値に近い場合、アプリは、その時点における歩数を維持することを薦める推薦情報を生成する。例えば、アプリは、算出された補正値に応じた推薦情報を携帯端末260の画面に表示させる。
図24の例では、施設計測値の補正値が元の施設計測値を過剰に上回っていたことに応じて、「膝に負担がかかっています。明日は歩数を減らしましょう。」という推薦情報が、携帯端末260の画面に表示される。例えば、携帯端末260の画面に表示された情報を見たユーザは、その情報に応じて、日々の歩行を見直すことができる。
【0097】
例えば、アプリは、算出された補正値に基づいて、所定の期間(1時間、1日など)における膝関節負荷の積算値と、所定の閾値を比較して、利用者の膝関節負荷に応じたアドバイスを携帯端末260に通知する。例えば、日常計測値に基づいて補正された膝関節負荷の施設計測値の補正値の、前記所定の期間における積算値が、所定の閾値を上回っている場合、アプリは、歩数を減らすことを薦める推薦情報を生成する。この場合の所定の閾値とは、膝関節を傷めないための膝関節負荷の制限値である。また、例えば、日常計測値に基づいて補正された膝関節負荷の施設計測値の補正値の、所定の期間における積算値が、所定の閾値に近い場合、アプリは、歩数を維持することを薦める推薦情報を生成する。この場合の所定の閾値とは、健康を維持するのに必要十分な膝関節負荷の適正値である。例えば、アプリは、算出された補正値に応じた推薦情報を携帯端末260の画面に表示させる。
図24の例では、日常計測値に基づいて補正された膝関節負荷の施設計測値の補正値の、所定の期間における積算値が、所定の閾値を上回っていたことに応じて、「膝に負担がかかっています。明日は歩数を減らしましょう。」という推薦情報が、携帯端末260の画面に表示される。例えば、携帯端末260の画面に表示された情報を見たユーザは、その情報に応じて、日々の歩行を見直すことができる。
【0098】
本適用例では、施設計測値の補正値と元の施設計測値との関係や、所定の期間における日常計測値に基づいて補正された施設計測値の補正値の積算値と所定の閾値の関係に応じた推薦情報を、ユーザの携帯する携帯端末260の画面に表示する。そのため、本適用例によれば、ユーザの本来の運動機能が反映された推薦情報を、そのユーザに提供できる。例えば、膝の痛みが気になるが、健康のための歩行を継続することが望ましい高齢者にとっては、日常において適度な歩数で歩行をすることが望ましい。本適用例によれば、ユーザの膝関節負荷の実情に応じて、歩数が多すぎる場合には歩数を減らすことを薦め、歩数が少なすぎる場合には歩数を増やすことを薦めることによって、ユーザは適切な歩行を継続できる。
【0099】
以上のように、本実施形態の情報処理システムは、計測装置と生体情報処理装置を備える。計測装置は、ユーザの履物に配置される。計測装置は、ユーザの歩行に応じて空間加速度および空間角速度を計測する。計測装置は、計測された空間加速度および空間角速度に基づくセンサデータを生成する。計測装置は、生成されたセンサデータを生体情報処理装置に出力する。生体情報処理装置は、計測部、抽出部、記憶部、補正部、および出力部を有する。計測部は、ユーザの足の動きに関するセンサデータを計測装置から受信する。計測部は、受信したセンサデータを用いて日常計測データを計測する。抽出部は、計測部によって計測される日常計測データから、施設で計測された施設計測データと共通する共通計測項目の日常計測値を抽出する。記憶部は、共通計測項目の施設計測値と、共通計測項目に関連する施設計測項目の施設計測値とを記憶する。補正部は、第1補正部と第2補正部を含む。
第1補正部は、抽出部によって抽出された共通計測項目の日常計測値に基づいて、共通計測項目の施設計測値を補正する。第2補正部は、第1補正部によって補正された共通計測項目の施設計測値に基づいて、共通計測項目に関連する施設計測項目の施設計測値を補正する。出力部は、第2補正部によって補正された施設計測項目の施設計測値を出力する。
【0100】
本実施形態の情報処理システムは、共通計測項目の日常計測値に基づいて、その共通計測項目に関連する施設計測項目の施設計測値を補正する。そのため、本実施形態によれば、施設や日常生活などのように異なる環境において計測された計測項目に関連する計測項目の計測値(生体データ)の相違を補正できる。
【0101】
本実施形態の一態様において、抽出部は、共通計測項目としてストライド長の日常計測値を抽出する。補正部は、抽出部によって抽出されたストライド長の日常計測値に基づいて、ストライド長に関連する施設計測項目である膝関節負荷の施設計測値を補正する。本態様によれば、日常で計測されたストライド長に基づいて、日常とは異なる環境(施設)で計測された膝関節負荷の施設計測値を補正できる。
【0102】
本実施形態の一態様において、抽出部は、共通計測項目としてストライド長および歩行速度の日常計測値を抽出する。補正部は、抽出部によって抽出されたストライド長および歩行速度の日常計測値に基づいて、ストライド長および歩行速度に関連する施設計測項目である歩行安定性の施設計測値を補正する。本態様によれば、日常で計測されたストライド長および歩行速度に基づいて、日常とは異なる環境(施設)で計測された歩行安定性の施設計測値を補正できる。
【0103】
本実施形態の一態様において、出力部は、施設計測値の補正値を、ユーザの運動を管理するトレーナーによって閲覧可能な端末装置に出力する。出力部は、施設計測値の補正値に応じてトレーナーによって作成されたトレーニングメニューを取得する。例えば、出力部は、図示しない入力部を介して、トレーニングメニューを取得する。出力部は、取得されたトレーニングメニューを、ユーザによって閲覧可能な端末装置の画面に表示させる。本態様によれば、日常計測値が反映された施設計測値に基づいて、トレーナーによって更新されたトレーニングメニューをユーザに提供できる。
【0104】
本実施形態の一態様において、出力部は、施設計測値の補正値に応じた推薦情報を、ユーザによって閲覧可能な端末装置の画面に表示させる。本態様によれば、日常の運動状況を反映させた推薦情報をユーザに提供できる。
【0105】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態に係る生体情報処理装置について図面を参照しながら説明する。本実施形態の生体情報処理装置は、第1~第2の実施形態の生体情報処理装置を簡略化した構成である。
図25は、本実施形態の生体情報処理装置35の構成の一例を示すブロック図である。生体情報処理装置35は、抽出部352と補正部355を備える。
【0106】
抽出部352は、ユーザの足の動きに関するセンサデータを用いて計測される日常計測データから、施設で計測された施設計測データと共通する共通計測項目の日常計測値を抽出する。補正部355は、抽出部352によって抽出された共通計測項目の日常計測値に基づいて、予め記憶された共通計測項目の施設計測値を補正する。
【0107】
本実施形態の生体情報処理装置は、共通計測項目の日常計測値に基づいて、その共通計測項目の施設計測値を補正する。そのため、本実施形態によれば、施設や日常生活などのように異なる環境において計測された、運動機能を評価するための計測値(生体データ)の相違を補正できる。
【0108】
(ハードウェア)
ここで、本開示の各実施形態に係る制御や処理を実行するハードウェア構成について、
図26の情報処理装置90を一例として挙げて説明する。なお、
図26の情報処理装置90は、各実施形態の制御や処理を実行するための構成例であって、本開示の範囲を限定するものではない。
【0109】
図26のように、情報処理装置90は、プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93、入出力インターフェース95、および通信インターフェース96を備える。
図26においては、インターフェースをI/F(Interface)と略記する。プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93、入出力インターフェース95、および通信インターフェース96は、バス98を介して、互いにデータ通信可能に接続される。また、プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93、および入出力インターフェース95は、通信インターフェース96を介して、インターネットやイントラネットなどのネットワークに接続される。
【0110】
プロセッサ91は、補助記憶装置93等に格納されたプログラムを、主記憶装置92に展開する。プロセッサ91は、主記憶装置92に展開されたプログラムを実行する。本実施形態においては、情報処理装置90にインストールされたソフトウェアプログラムを用いる構成とすればよい。プロセッサ91は、本実施形態に係る制御や処理を実行する。
【0111】
主記憶装置92は、プログラムが展開される領域を有する。主記憶装置92には、プロセッサ91によって、補助記憶装置93等に格納されたプログラムが展開される。主記憶装置92は、例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリによって実現される。また、主記憶装置92として、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)などの不揮発性メモリが構成/追加されてもよい。
【0112】
補助記憶装置93は、プログラムなどの種々のデータを記憶する。補助記憶装置93は、ハードディスクやフラッシュメモリなどのローカルディスクによって実現される。なお、種々のデータを主記憶装置92に記憶させる構成とし、補助記憶装置93を省略することも可能である。
【0113】
入出力インターフェース95は、規格や仕様に基づいて、情報処理装置90と周辺機器とを接続するためのインターフェースである。通信インターフェース96は、規格や仕様に基づいて、インターネットやイントラネットなどのネットワークを通じて、外部のシステムや装置に接続するためのインターフェースである。入出力インターフェース95および通信インターフェース96は、外部機器と接続するインターフェースとして共通化してもよい。
【0114】
情報処理装置90には、必要に応じて、キーボードやマウス、タッチパネルなどの入力機器が接続されてもよい。それらの入力機器は、情報や設定の入力に使用される。なお、タッチパネルを入力機器として用いる場合は、表示機器の表示画面が入力機器のインターフェースを兼ねる構成としてもよい。プロセッサ91と入力機器との間のデータ通信は、入出力インターフェース95に仲介させればよい。
【0115】
また、情報処理装置90には、情報を表示するための表示機器を備え付けてもよい。表示機器を備え付ける場合、情報処理装置90には、表示機器の表示を制御するための表示制御装置(図示しない)が備えられていることが好ましい。表示機器は、入出力インターフェース95を介して情報処理装置90に接続すればよい。
【0116】
また、情報処理装置90には、ドライブ装置が備え付けられてもよい。ドライブ装置は、プロセッサ91と記録媒体(プログラム記録媒体)との間で、記録媒体からのデータやプログラムの読み込み、情報処理装置90の処理結果の記録媒体への書き込みなどを仲介する。ドライブ装置は、入出力インターフェース95を介して情報処理装置90に接続すればよい。
【0117】
以上が、本発明の各実施形態に係る制御や処理を可能とするためのハードウェア構成の一例である。なお、
図26のハードウェア構成は、各実施形態に係る制御や処理を実行するためのハードウェア構成の一例であって、本発明の範囲を限定するものではない。また、各実施形態に係る制御や処理をコンピュータに実行させるプログラムも本発明の範囲に含まれる。さらに、各実施形態に係るプログラムを記録したプログラム記録媒体も本発明の範囲に含まれる。記録媒体は、例えば、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)などの光学記録媒体で実現できる。記録媒体は、USB(Universal Serial Bus)メモリやSD(Secure Digital)カードなどの半導体記録媒体によって実現されてもよい。また、記録媒体は、フレキシブルディスクなどの磁気記録媒体、その他の記録媒体によって実現されてもよい。プロセッサが実行するプログラムが記録媒体に記録されている場合、その記録媒体はプログラム記録媒体に相当する。
【0118】
各実施形態の構成要素は、任意に組み合わせてもよい。また、各実施形態の構成要素は、ソフトウェアによって実現されてもよいし、回路によって実現されてもよい。例えば、各実施形態の計測装置は、マイクロコンピュータやマイクロコントローラなどによって実現される。例えば、各実施形態の生体情報処理装置は、クラウドやサーバに含まれるコンピュータの機能によって実現される。各実施形態の生体情報処理装置は、スマートフォンやタブレット、ノート型や設置型のパーソナルコンピュータなどにインストールされたソフトウェアによって実現されてもよい。
【0119】
以上、実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0120】
10、20 情報処理システム
11、21 計測装置
15、25、35 生体情報処理装置
111 加速度センサ
112 角速度センサ
113 制御部
115 送信部
151、251 計測部
152、252、352 抽出部
153、253 記憶部
155、255、355 補正部
157、257 出力部
261 第1補正部
262 第2補正部