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特許7525061交通流監視装置、交通流監視方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】交通流監視装置、交通流監視方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/01 20060101AFI20240723BHJP
【FI】
G08G1/01 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023516006
(86)(22)【出願日】2021-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2021016465
(87)【国際公開番号】W WO2022224445
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【弁理士】
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】松田 侑真
【審査官】秋山 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-106593(JP,A)
【文献】特開2017-16460(JP,A)
【文献】特開平3-260799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路上の所定の地点を走行する車両の平均速度と時刻とが関連付けられた速度データに基づいて、第1の時刻における前記平均速度と第1の基準速度との比較結果である第1の比較結果を出力する検出手段と、
前記第1の時刻以前の前記平均速度の変動に基づいて前記第1の時刻における近似速度を求める近似速度算出手段と、
前記第1の比較結果、及び、前記近似速度と第2の基準速度との比較結果である第2の比較結果に基づいて、前記所定の地点における交通流の変化を判定する判定手段と、
を備える交通流監視装置。
【請求項2】
前記近似速度算出手段は、前記第1の時刻以前の前記平均速度の時間変動を直線近似し、前記第1の時刻における直線近似の値を前記近似速度とする、請求項1に記載された交通流監視装置。
【請求項3】
前記第1の基準速度が第1の閾値であり、前記第2の基準速度が第2の閾値である場合に、
前記第1の比較結果が、前記第1の時刻において前記平均速度が前記第1の閾値以下となったことを示し、かつ、前記近似速度が前記第2の閾値以下である場合に、
前記判定手段は、前記所定の地点において渋滞が発生したと判定する、
請求項1又は2に記載された交通流監視装置。
【請求項4】
前記第1の基準速度が第3の閾値であり、前記第2の基準速度が第4の閾値である場合に、
前記第1の比較結果が、前記第1の時刻において前記平均速度が前記第3の閾値以上となったことを示し、かつ、前記近似速度が前記第4の閾値以上である場合に、
前記判定手段は、前記所定の地点において渋滞が解消したと判定する、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載された交通流監視装置。
【請求項5】
前記判定手段は、前記近似速度が前記第4の閾値以上である場合に、前記所定の地点において渋滞が解消したと判定する、請求項4に記載された交通流監視装置。
【請求項6】
光ファイバの後方散乱光を解析することによって得られた前記速度データを蓄積する光ファイバセンシング手段をさらに備える、請求項1乃至5のいずれか1項に記載された交通流監視装置。
【請求項7】
道路上の所定の地点を走行する車両の平均速度と時刻とが関連付けられた速度データに基づいて、第1の時刻における前記平均速度と第1の基準速度との比較結果である第1の比較結果を出力し、
前記第1の時刻以前の前記平均速度の変動に基づいて前記第1の時刻における近似速度を求め、
前記第1の比較結果、及び、前記近似速度と第2の基準速度との比較結果である第2の比較結果に基づいて、前記所定の地点における交通流の変化を判定する、
交通流監視方法。
【請求項8】
前記第1の時刻以前の前記平均速度の時間変動を近似し、
前記第1の時刻における近似直線の値を前記近似速度とする、
請求項7に記載された交通流監視方法。
【請求項9】
前記第1の基準速度が第1の閾値であり、前記第2の基準速度が第2の閾値である場合に、
前記第1の比較結果が、前記第1の時刻において前記平均速度が前記第1の閾値以下となったことを示し、かつ、前記近似速度が前記第2の閾値以下である場合に、
前記所定の地点において渋滞が発生したと判定する、
請求項7又は8に記載された交通流監視方法。
【請求項10】
交通流監視装置が備えるコンピュータに、
道路上の所定の地点を走行する車両の平均速度と時刻とが関連付けられた速度データに基づいて、第1の時刻における前記平均速度と第1の基準速度との比較結果である第1の比較結果を出力する手順、
前記第1の時刻以前の前記平均速度の変動に基づいて前記第1の時刻における近似速度を求める手順、
前記第1の比較結果、及び、前記近似速度と第2の基準速度との比較結果である第2の比較結果に基づいて、前記所定の地点における交通流の変化を判定する手順、
を実行させるためのプログラ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交通流監視装置、交通流監視方法及び記録媒体に関する。本発明は、特に、交通流監視システムにおいて用いられる、交通流の変化を検出可能な交通流監視装置、交通流監視方法、及び、交通流監視装置の機能をコンピュータに実現させるためのプログラムを記録した記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ内にパルス光を送信し、その後方散乱光の物理的特性を解析することで光ファイバに沿った位置における歪や振動を検出可能な光ファイバセンシング技術が知られている。また、高速道路に沿って光ファイバを敷設し、光ファイバセンシングによって検出された振動を解析することで、高速道路の各地点において走行する自動車の速度を求めることが可能な交通流監視システムも知られている。例えば、特許文献1には、通信用光ファイバを用いた光ファイバセンシングによって車両の走行状態を検出する道路監視システムが記載されている。
【0003】
光ファイバを用いた交通流監視システムでは、道路上の交通流を長距離にわたってリアルタイムかつ連続的に監視できる。このため、光ファイバを用いた道路監視システムは、カメラやレーダを用いた一般的な速度検出装置では死角になるため測定できないエリアでの交通流の急変を、迅速に検知できる。また、既設の通信用光ファイバを用いることで、道路監視システムの設置コストを抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2020/116030号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光ファイバを用いた交通流監視システムでは、後方散乱光の物理的特性は車両の振動以外に、車両以外の機械や強風などによる振動によるノイズの影響を受ける。このため、検出された後方散乱光の物理的特性にこのようなノイズの影響が含まれていると、算出された速度に誤差が生じる恐れがある。そして、算出された速度の誤差は、渋滞の発生などの、交通流の変化を検知する精度を低下させる要因となる。
【0006】
(発明の目的)
本発明は、交通流の変化を高い精度で検出可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の交通流監視装置は、
道路上の所定の地点を走行する車両の平均速度と時刻とが関連付けられた速度データに基づいて、第1の時刻における前記平均速度と第1の基準速度との比較結果である第1の比較結果を出力する検出手段と、
前記第1の時刻以前の前記平均速度の変動に基づいて前記第1の時刻における近似速度を求める近似速度算出手段と、
前記第1の比較結果、及び、前記近似速度と第2の基準速度との比較結果である第2の比較結果に基づいて、前記所定の地点における交通流の変化を判定する判定手段と、を備える。
【0008】
本発明の交通流監視方法は、
道路上の所定の地点を走行する車両の平均速度と時刻とが関連付けられた速度データに基づいて、第1の時刻における前記平均速度と第1の基準速度との比較結果である第1の比較結果を出力し、
前記第1の時刻以前の前記平均速度の変動に基づいて前記第1の時刻における近似速度を求め、
前記第1の比較結果、及び、前記近似速度と第2の基準速度との比較結果である第2の比較結果に基づいて、前記所定の地点における交通流の変化を判定する、
ことを特徴とする。
【0009】
本発明の記録媒体には、
交通流監視装置が備えるコンピュータに、
道路上の所定の地点を走行する車両の平均速度と時刻とが関連付けられた速度データに基づいて、第1の時刻における前記平均速度と第1の基準速度との比較結果である第1の比較結果を出力する手順、
前記第1の時刻以前の前記平均速度の変動に基づいて前記第1の時刻における近似速度を求める手順、
前記第1の比較結果、及び、前記近似速度と第2の基準速度との比較結果である第2の比較結果に基づいて、前記所定の地点における交通流の変化を判定する手順、
を実行させるためのプログラムが記録される。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、交通流の変化を高い精度で検出可能な技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】交通流監視システム1の構成例を示す図である。
図2】交通流監視システム1において得られる軌跡図の例である。
図3】交通流監視装置200の構成例を示すブロック図である。
図4】軌跡図におけるノイズの影響を説明する図である。
図5】渋滞の開始に伴う車両の速度の変動を説明する軌跡図の例である。
図6】平均速度の測定例を示す図である。
図7】ノイズの影響による車両の速度の変動を説明する軌跡図の例である。
図8】平均速度の測定例を示す図である。
図9】渋滞が始まる直前の平均速度の変動の例を示す図である。
図10】誤差による平均速度の変動の例を示す図である。
図11】近似直線を用いた交通流の速度低下による渋滞の判定結果の例を示す図である。
図12】交通流監視装置200の動作手順の例を示すフローチャートである。
図13】交通流監視装置200の他の動作手順の例を示すフローチャートである。
図14】第2の実施形態の交通流監視装置400の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について図面を参照して以下に説明する。図中に示された矢印の方向は例示であり、方向の限定を意図しない。各実施形態及び図面では既出の要素には同一の参照符号を付して、重複する説明は省略する。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の交通流監視システム1の構成例を示す図である。交通流監視システム1は、光ファイバセンシング装置100、交通流監視装置200、出力装置300を備える。光ファイバセンシング装置100は、道路10に沿って敷設された光ファイバ30にパルス光を送信する。道路10の近傍に埋設された通信用光ケーブルが備える複数の光ファイバの一部が、光ファイバ30として用いられてもよい。光ファイバセンシング装置100は、パルス光の後方散乱光を受信し、光ファイバ30に加わる振動の情報をその光ファイバ30上の位置と関連付けて取得する。振動とその位置の関係を解析することにより、光ファイバセンシング装置100は、測定地点の任意の時刻において光ファイバ30に沿った道路10上の測定地点を通過する車両20の平均速度を求めることができる。測定地点には、光ファイバ30に沿った道路10上の任意の地点を選択可能である。このようにして、光ファイバセンシング装置100は、道路10上の測定地点を走行する車両20の平均速度と時刻とが関連付けられたデータ(以下、「速度データ」という。)を交通流監視装置200に出力する。
【0014】
なお、光ファイバ30を伝搬する後方散乱光を解析することで、所定の地点を通過する車両20の平均速度を測定する技術は知られている。例えば、光ファイバセンシング装置100には、特許文献1に記載された道路監視システムの技術が適用できる。
【0015】
交通流監視装置200は、光ファイバセンシング装置100によって求められた速度データに基づいて、所定の地点における車両の平均速度が所定の閾値を超えて変動した場合に、その区間において交通流が変化したと判断する。交通流監視装置200の動作の詳細は後述する。
【0016】
出力装置300は交通流監視装置の判定結果を外部へ出力する装置であり、例えばディスプレイ装置、プリンタ、ランプ、ブザーである。交通流監視装置200が交通流の変化に関して何らかの判断をした場合には、出力装置300はその内容をディスプレイに表示したり、プリンタで印刷したりする。出力装置300は、その際にランプを点灯させたり、ブザーを鳴らしたりしてもよい。
【0017】
図2は、交通流監視システム1において用いられる、道路上の位置と時間との関係を示す図(以下、「軌跡図」という。)の例である。以下の軌跡図では、横軸が道路10上の位置、縦軸が時間を示す。軌跡図に示される1本の線(以下、「走行軌跡」という。)は、1台の車両又はほぼ同一の位置を同一の方向へ走行する複数の車両に対応する。軌跡図において、横軸では車両は右から左へ進み、時間は上から下へ経過する。すなわち、各車の走行軌跡は時間の経過とともに通常は軌跡図の右上から左下方向に進む。軌跡図において走行軌跡の傾きが急であることは、車両が一定時間に進む距離が短いこと、すなわち車両の速度が遅いことを示す。逆に、軌跡図において走行軌跡の傾きが緩いことは、車両が一定時間に進む距離が長いこと、すなわち車両の速度が速いことを示す。例えば、図2の走行軌跡Aで示される車両は、地点Bまでは比較的速い速度で移動していたが、地点Bを過ぎると速度が低下したことを示す。このように、軌跡図は道路10上の測定地点における車両の速度を示す図であり、光ファイバセンシング装置100が出力する速度データと等価の情報を持つ。光ファイバセンシング装置100は、道路10における速度データを軌跡図として交通流監視装置200に出力する機能を備えてもよい。
【0018】
軌跡図又は速度データに基づいて得られた地点Bを通過する車両の平均速度の時間的変動を所定の閾値と記録することで、地点Bにおける交通流の変化を検出できる。交通流監視装置200は、例えば、地点Bを通過する車両の平均速度が次第に低下し、時刻T1において所定の速度(例えば40km/h)以下となった場合には、地点Bにおいて時刻T1に渋滞が始まった可能性があると判断してもよい。
【0019】
図3は、交通流監視システム1で用いられる、交通流監視装置200の構成例を示すブロック図である。交通流監視装置200は、蓄積部210、検出部220、近似速度算出部230、判定部240を備える。
【0020】
蓄積部210は、光ファイバセンシング装置100から入力された速度データを蓄積し、現在及び過去の速度データを検出部220及び近似速度算出部230に提供する。速度データは、道路10上を走行する車両20の速度と道路10上の位置とが対応付けられたデータである。蓄積部210は、図2に例示した軌跡図のデータを検出部220及び近似速度算出部230に出力してもよい。なお、蓄積部210は、光ファイバセンシング装置100に備えられてもよい。
【0021】
検出部220は、道路10上の所定の地点における平均速度の変動を監視する。検出部220は、道路10上の車両の、1つ以上の地点の平均速度を監視し、平均速度が第1の閾値TH1(例えば40km/h)以下となった地点を検出する。地点Bにおいて平均速度がTH1以下となったことが検出された場合には、検出部220は、地点B及び時刻T1を判定部240及び近似速度算出部230へ通知する。
【0022】
近似速度算出部230は、地点Bを通過する車両の時刻T1以前の平均速度に基づいて、時刻T1における、地点Bを通過する車両の近似速度を求める。近似速度算出部230は、時刻T1以前の平均速度の時間変動を直線近似し、時刻T1における速度を近似速度として求めてもよい。近似速度算出部230の動作の詳細については後述する。
【0023】
判定部240は、時刻T1において、地点Bにおける平均速度がTH1以下であり、かつ、近似速度が第2の閾値TH2(例えば60km/h)以下である場合には、地点Bにおいて時刻T1に平均速度が低下し、渋滞が始まったと判断する。判定部240は、判定結果を出力装置300へ出力する。
【0024】
ここで、車両の平均速度の低下を検出する際のノイズの影響について説明する。
【0025】
図4は、軌跡図におけるノイズの影響を説明する図である。図4の(A)は、検出部220に入力される軌跡図の例である。図4の軌跡図は、地点Bの近傍において明瞭な線ではない。これは、道路10上の地点Bの前後の区間において、光ファイバセンシング装置100による光ファイバ30のセンシングの際のノイズのために速度の測定値のばらつきが大きいこと、すなわち、地点B付近では速度データにおける速度の誤差が大きいことを示す。このような状態において、軌跡図あるいは速度データから求められた地点Bの車両の速度は、ノイズのため大きい誤差を含む恐れがある。図4の(B)は、軌跡図から正しく軌跡の傾き(すなわち、車両の速度)が検出できた場合の例である。図4の(B)では、得られた速度(例えば80km/h)は道路10上の前後のノイズの少ない区間の速度と整合する、正しい値である。一方、図4の(C)は、ノイズの影響によって軌跡の傾きが軌跡図から正しく検出できなかった場合の例である。図4の(C)では、ノイズの影響により走行軌跡の傾きがより急峻と判断された例を示す。その結果、車両の速度は40km/hと算出された。このように、センシングの際のノイズが大きいと、走行軌跡の傾きのばらつきによって、得られる平均速度の誤差が大きい場合がある。そして、平均速度による大きい誤差が含まれる場合には、ノイズに起因する平均速度の低下が交通流の変動と誤認され、渋滞情報が誤発報される恐れがある。本実施形態の交通流監視装置200は、平均速度の変動を検出する際に、このようなノイズの影響による誤検出を抑制するための機能を備える。
【0026】
図5図8を用いて、平均速度の低下が渋滞に起因する場合とノイズによる平均速度の誤差に起因する場合との相違について説明する。なお、図5図8のデータはそれぞれ異なる速度データに基づいている。すなわち、図5図8はそれぞれ異なる交通流に基づく例示である。
【0027】
図5は、渋滞の開始に伴う車両の速度の変動を説明する軌跡図の例である。図5において、地点Bにおける軌跡の傾きは時間の経過とともに徐々に急峻になっており、これは地点Bを通過する車両の平均速度が徐々に低下していることを示す。図6は、ある地点において平均速度が滑らかに低下する場合における平均速度の測定例を示す図である。図6の横軸の経過時間が500秒から800秒の間では、時間の経過とともに、車両の平均速度は次第に低下している。
【0028】
図7は、ノイズの影響による車両の速度の変動を説明する軌跡図の例である。図7の地点Bの近傍において、走行軌跡Aの線は明瞭でない。これは、ノイズの影響により地点Bの近傍では走行軌跡Aの速度の誤差が大きいことを示す。一方、図7の走行軌跡Aの軌跡の傾きは、ノイズのために地点B付近でその前後の時間と比較して大きく異なるものの、図5と比較すると地点Bにおける平均速度の時間的な変動には特定の傾向は見られない。図8は、ある地点において平均速度が一時的に大きく変動する場合における平均速度の測定例を示す図である。時間の経過に対して車両の平均速度は大きく変動しないが、測定時のノイズの影響により、短い時間の間に突然大きく低下する場合がある。このため、このような短期間の速度低下に基づいて交通流の変化を判断すると、渋滞の開始に伴う速度低下とノイズの影響による速度低下とを区別して検知できない恐れがある。
【0029】
交通流が図7又は図8で例示された状況である場合における渋滞の誤検知を抑制するために、交通流監視装置200は、近似速度算出部230及び判定部240を備える。近似速度算出部230は、時刻T1において平均速度の低下を検知した場合に、時刻T1以前の平均速度の変動を示す直線(近似直線)を求め、その近似直線上の時刻T1における速度を近似速度として求める。近似直線は、平均速度の時間変動を示す回帰直線として求められてもよい。このように、近似速度算出部230は、時刻T1以前の平均速度の時間変動を直線近似し、時刻T1における直線近似の値を近似速度とする。
【0030】
図9は、渋滞が始まる直前の平均速度の変動の例を示す図である。ある地点において渋滞が始まる直前は、その地点を通過する車両の平均速度はなだらかに低下していく。例えば、高速道路では、渋滞が始まる直前の平均時速は、60km/h以下までなだらかに低下していく場合が多い。そして、渋滞による速度低下が生じている場合は、速度低下の時刻T1における近似速度と、その時刻における平均速度との差は小さい(図9の円)。すなわち、近似直線を時刻T1まで外挿して得られる当該時刻における近似速度は、その時刻における平均速度に近い値となる。
【0031】
図10は、誤差による平均速度の変動の例を示す図である。ノイズに起因する誤差による速度低下は突然発生するため、ノイズによる平均速度の低下が発生するまでは近似速度の大きな変動はなく、ノイズの影響により平均速度のみが急激に大きく低下する(図10の楕円)。この場合、平均速度の低下が検出された場合に、その直前の平均速度の変動を示す近似直線を求めると、平均速度の低下の発生時刻における近似速度はその時刻の平均速度よりも相当大きくなる。
【0032】
渋滞が始まる直前の平均速度の変動を直線近似して近似直線を求め、得られた近似直線を外挿することで、平均速度の低下が検出された時刻T1における近似速度を求めることができる。近似直線を求める際に、どの程度過去の平均速度のデータを用いるかは、実際の交通流の状況に応じて決定してもよい。例えば、時刻T1以前の過去1分、5分、10分のいずれかの期間の平均速度に基づいて、その近似直線を求めてもよい。そして、判定部240は、平均速度と近似速度との関係を評価することで、時刻T1において平均速度が大きく変動した場合に、それが渋滞等の交通流の変化に起因するものか、ノイズ等に起因する平均速度の誤差に起因するものかを切り分けることができる。
【0033】
図11は、近似直線を用いた交通流の速度低下による渋滞の判定結果の例を示す図である。この例では、高速道路において、ある時刻に車両の平均速度が40km/h以下となった場合に平均速度の変動を直線近似し、近似直線を求めた。そして、その近似直線から求めた当該時刻における近似速度が60km/h以下である場合に、渋滞が発生したと判断した。実際に渋滞が発生した20例(正解データが「渋滞」)と、平均速度の低下が観測されたものの渋滞でなかった20例(正解データが「非渋滞」)について本実施形態の構成による判定を実施した。図11では、渋滞と判定された例の数(判定結果が「渋滞」)と、渋滞と判定されなかった例の数(判定結果が「速度誤差」)とを示す。図11に示すように、正解データが「渋滞」である20例はすべて「渋滞」と判定され、正解データが「非渋滞」である20例はすべて「速度誤差」と判定され、本実施形態の渋滞の判定手順の有効性が確認できた。
【0034】
図12は、交通流監視装置200の動作手順の例を示すフローチャートである。蓄積部210は、測定地点の速度データ、又は、速度データに対応する軌跡図のデータを光ファイバセンシング装置100から取得して蓄積する(図12のステップS01)。測定地点は、道路10上における交通流の監視が行われる地点である。検出部220において現在の測定地点における車両の平均速度が40km/h以下であることが検出されると(ステップS02:YES)、近似速度算出部230は、過去の平均速度から平均速度の時間変動を直線近似する(ステップS03)。近似速度算出部230は、直線近似の結果に基づいて、現在の近似速度を求める(ステップS04)。現在の近似速度は平均速度が40km/h以下であることが検出された時刻における近似速度である。判定部240は、平均速度が40km/h以下となった時刻における近似速度が60km/h以下である場合に(ステップS05:YES)、測定地点において渋滞が発生したと判定する(ステップS06)。判定部240は、判定結果を出力装置300へ出力してもよい。
【0035】
なお、図12においてはステップS02の平均速度の閾値(第1の閾値)を40km/hとし、ステップS05の近似速度の閾値(第2の閾値)を60km/hとした。しかし、第1及び第2の閾値はこれらに限定されない。第1及び第2の閾値は、実際の交通流に応じて設定することができる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態の交通流監視装置200及びこれを備える交通流監視システム1は、平均速度及び近似速度を用いて交通流の急変を判定している。このため、速度データにノイズの影響が含まれる場合でも、高い精度で渋滞の開始等の交通流の急変を検出できる。
(第1の実施形態の変形例)
第1の実施形態で説明した交通流監視装置200は、渋滞の解消の判定にも用いることができる。図12のステップS06において渋滞が発生したと判定された測定地点において渋滞が解消すると、測定地点における車両の平均速度は次第に上昇する。しかしながら、平均速度の変動のみによって渋滞の解消を判定すると、速度データに含まれるノイズの影響により急激に平均速度が上昇した場合に、渋滞が解消されたと誤判定される原因となる。
【0037】
そこで、第1の実施形態で説明した近似速度を用いた判定方法を、渋滞の解消の判定に適用する手順の例を説明する。
【0038】
図13は、交通流監視装置200の他の動作手順の例を示すフローチャートである。交通流監視装置200及び交通流監視システム1の構成は、第1の実施形態と同様である。
【0039】
蓄積部210は、渋滞が発生したと判定された測定地点の速度データ又は速度データに対応する軌跡図のデータを光ファイバセンシング装置100から取得して蓄積する(図13のステップS11)。検出部220において現在の測定地点における車両の平均速度が60km/h以上であることが検出されると(ステップS12:YES)、近似速度算出部230は、過去の平均速度から平均速度の時間変動を直線近似する(ステップS13)。図13に示された手順においても、直線近似の結果は、平均速度の変動を示す近似直線として求められてもよい。近似速度算出部230は、直線近似の結果に基づいて、現在の近似速度を求める(ステップS14)。現在の近似速度は、平均速度が60km/h以上であることが検出された時刻における近似速度である。現在の近似速度は、近似直線を外挿して求めてもよい。判定部240は、平均速度が60km/h以上となった時刻における近似速度が40km/h以上である場合に(ステップS15:YES)、測定地点において渋滞が解消したと判定する(ステップS16)。判定部240は、判定結果を出力装置300へ出力してもよい。
【0040】
なお、図13においてはステップS12の平均速度の閾値(第3の閾値)を60km/hとし、ステップS15の近似速度の閾値(第4の閾値)を40km/hとした。しかし、第3及び第4の閾値はこれらに限定されない。第3及び第4の閾値は、実際の交通流に応じて設定することができる。
【0041】
このように、閾値と速度との関係の判定基準及び閾値の変更によって、交通流監視装置200及びこれを備える交通流監視システム1は、速度データにノイズの影響が含まれる場合でも、高い精度で渋滞の解消を検出できる。
【0042】
(第2の実施形態)
図14は、第2の実施形態の交通流監視装置400の構成例を示すブロック図である。交通流監視装置400は、検出部420と、近似速度算出部430と、判定部440と、を備える。
【0043】
検出部420は、道路上の所定の地点を走行する車両の平均速度と時刻とが関連付けられた速度データに基づいて、平均速度と第1の基準速度との比較結果である第1の比較結果を出力する検出手段を担う。
【0044】
近似速度算出部430は、第1の時刻以前の平均速度の変動に基づいて第1の時刻における近似速度を求める近似速度算出手段を担う。
【0045】
判定部440は、検出部420が出力する第1の比較結果、及び、近似速度と第2の基準速度との比較結果である第2の比較結果に基づいて、所定の地点における交通流の変化を判定する、判定手段を担う。
【0046】
このような構成を備える交通流監視装置400は、平均速度が第1の基準速度との比較結果、及び、過去の平均速度の変動に基づいて求められた近似速度と第2の基準速度との比較結果に基づいて交通流の変化を判定する。このため、速度データにノイズの影響が含まれる場合でも、近似速度による評価を併用することで、高い精度で交通流の変化を検出できる。
【0047】
なお、近似速度算出部230は、第1の時刻以前の平均速度の変動を直線近似し、第1の時刻における直線近似の値を近似速度としてもよい。
【0048】
また、第1の基準速度を40km/hとし、第2の基準速度を60km/hとしてもよい。そして、第1の時刻において平均速度が40km/h以下に低下しており、かつ、その時刻における近似速度60km/h以下である場合に、判定部240は、所定の地点において渋滞が発生したと判定してもよい。
【0049】
あるいは、第1の基準速度を60km/hとし、第2の基準速度を40km/hとしてもよい。そして、第1の時刻において平均速度が60km/h以上に上昇しており、かつ、その時刻における近似速度40km/h以上である場合に、判定部240は、所定の地点において渋滞が解消したと判定してもよい。
【0050】
このように、交通流監視装置400は、渋滞の開始や解消といった交通流の変化を高い精度で検出できる。交通流監視装置400は、第1の実施形態で説明した交通流監視システム1において、交通流監視装置200に変えて用いられてもよい。この場合、交通流監視装置200の蓄積部210の機能は、光ファイバセンシング装置100によって担われてもよい。
【0051】
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記の実施形態に限定されない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0052】
各実施形態の交通流監視装置200及び400は、中央処理装置(central processing unit、CPU)及び記憶部を備えてもよい。CPUは、プログラムを実行することにより、交通流監視装置200及び400の各構成要素の機能の一部又は全部をソフトウェア的に実現してもよい。
【0053】
すなわち、CPUは、記憶部に格納されているプログラムを実行し、交通流監視装置200及び400の動作を制御することにより、各機能をソフトウェアによって実現してもよい。交通流監視装置200の機能の一部又は全部は、サーバ上で実行されるプログラムによって実現されてもよい。サーバは、光ファイバセンシング装置100及び出力装置300とはネットワークを介して接続されてもよい。サーバは、光ファイバセンシング装置100及び出力装置300の機能の一部又は全部をさらに備えてもよい。
【0054】
また、それぞれの実施形態に記載された構成は、必ずしも互いに排他的なものではない。本発明の作用及び効果は、上述の実施形態の全部又は一部を組み合わせた構成によって実現されてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 交通流監視システム
10 道路
20 車両
30 光ファイバ
100 光ファイバセンシング装置
200、400 交通流監視装置
210 蓄積部
220、420 検出部
230、430 近似速度算出部
240、440 判定部
300 出力装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14