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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】多層ポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/34 20060101AFI20240723BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240723BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20240723BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
B32B27/34
B32B27/30 D
B32B7/025
H05K1/03 630D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020168179
(22)【出願日】2020-10-05
(65)【公開番号】P2022060624
(43)【公開日】2022-04-15
【審査請求日】2023-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】新美 公康
(72)【発明者】
【氏名】澤崎 孔一
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-132898(JP,A)
【文献】特開2017-136755(JP,A)
【文献】特開2018-150544(JP,A)
【文献】特開2020-139039(JP,A)
【文献】国際公開第2019/188611(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
C08G73/00-73/26
C08J5/00-5/02;5/12-5/22;7/04-7/06
H05K1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミン成分としてパラフェニレンジアミン及び1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、テトラカルボン酸成分としてピロメリット酸二無水物及び3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主たる重合成分とするポリイミドフィルムであって、前記ポリイミドフィルムにおけるジアミン成分の割合が、全ジアミン成分に対して、25~50モル%のパラフェニレンジアミン及び50~75モル%の1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンとからなり、前記ポリイミドフィルムにおけるテトラカルボン酸成分の割合が、全テトラカルボン酸成分に対して、25~65モル%のピロメリット酸二無水物及び35~75モル%の3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とからなり、5.8GHzにおける誘電率が3.5以下、誘電正接が0.006以下、吸水率が1.2%以下、50~200℃における線膨張係数が2~18ppm/℃であることを特徴とするポリイミドフィルムの少なくとも片面に、フッ素樹脂層が積層された多層ポリイミドフィルム。
【請求項2】
前記ポリイミドフィルムの360℃の貯蔵弾性率が0.1GPa以上である請求項1に記載の多層ポリイミドフィルム。
【請求項3】
前記ポリイミドフィルムの破断伸度が20%以上である請求項1または2に記載の多層ポリイミドフィルム。
【請求項4】
前記ポリイミドフィルムの引張弾性率が5GPa以上である請求項1~のいずれか1項に記載の多層ポリイミドフィルム。
【請求項5】
前記ポリイミドフィルムの厚みが25μm以下である請求項1~のいずれか1項に記載の多層ポリイミドフィルム。
【請求項6】
フッ素樹脂層の総厚が多層ポリイミドフィルムの厚みに対して0.1倍以上である請求項1~のいずれか1項に記載の多層ポリイミドフィルム。
【請求項7】
前記ポリイミドフィルムの厚みとフッ素樹脂層の総厚との比が、90/10~10/90である請求項1~のいずれか1項に記載の多層ポリイミドフィルム。
【請求項8】
前記ポリイミドフィルムとフッ素樹脂層の間にプライマー層を含む請求項1~のいずれか1項に記載の多層ポリイミドフィルム。
【請求項9】
フッ素樹脂層が、ポリテトラフルオルエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選択される少なくとも1種以上を含む請求項1~のいずれかに記載の多層ポリイミドフィルム。
【請求項10】
金属層に積層するための請求項1~のいずれかに記載の多層ポリイミドフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層ポリイミドフィルム等に関する。
【背景技術】
【0002】
電機製品において、小型や薄型化が進み、フレキシブルプリント基板(FPC)が必要とされてきた。これらに加えて無線インターネットや通信機器の高速化が進み、近年では5G通信で使用されるミリ波帯のような高周波領域において高い伝送速度を実現できる回路基板が求められている。
【0003】
回路基板が用いられる具体的な例としては、スマートフォンやタブレット端末のアンテナ部分が挙げられ、これらは小型薄型化が進んでいる為に、出来るだけ薄いことも回路基板の要求特性としてあげられる。
【0004】
半導体素子の伝送速度は、主として信号を運ぶ金属ワイヤ間での遅延の発生によって制限されることが知られている。信号伝送の遅延を低減するために、誘電率の低い絶縁層をワイヤ間に配置し、それによりワイヤ間の容量結合を小さくすることにより、動作速度を高め、雑音障害を低減できる。
【0005】
絶縁層は電流の流れを遮断でき、かつ、誘電率が低いと伝送速度が向上し、誘電正接が低いと伝送損失が低減できる。つまり、高周波数回路基板は、熱膨張率(CTE、線膨張係数)が低く、さらに誘電率(Dk)、誘電正接(Tanδ)が安定して低くなければならない。また、製造工程においてロール トゥ ロールで搬送される為、高強度、高弾性であることが求められる。また、回路基板の形成時の半田工程では高い耐熱性が求められる。
【0006】
このような絶縁層として、フッ素樹脂フィルムとポリイミドフィルムの積層フィルムを使用することが検討されてきた。
【0007】
例えば、特許文献1には、ポリイミドフィルムの両面又は片面にフッ素系樹脂を積層した積層フィルムが記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、両表面に放電処理が施された、ビフェニルテトラカルボン酸から誘導された主酸骨格を有する芳香族ポリイミドフィルムの両面又は片面に、両表面に放電処理が施されたフッ素樹脂フィルムが積層された積層フィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平8-276547号公報
【文献】特公平5-59828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1,2のように、FPCなどの絶縁層には、フッ素樹脂フィルムとポリイミドフィルムとの積層フィルムが使用されている。このように2つの樹脂フィルムを組み合わせているのは、各種物性のバランスを考慮したものと考えられる。例えば、ポリイミドフィルムでは通信速度(誘電率)が十分でない場合がある一方で、フッ素樹脂フィルムでは強度や寸法安定性(熱膨張率)において十分でない場合があるが、これらを組み合わせることで両樹脂のこのような欠点を低減できることが想定される。
【0011】
しかし、本発明者らの検討によれば、特許文献1,2のようなフッ素樹脂フィルムとポリイミドフィルムとの積層フィルムにおいても、使用されるポリイミドフィルムの誘電正接が高いために、ミリ波帯のような高周波領域では十分に伝送損失を低減させることができず、改善すべき点があることがわかった。
【0012】
本発明の目的は、新規な多層ポリイミドフィルムを提供することにある。上述の通り、熱膨張率(CTE、線膨張係数)が低く、さらに誘電率(Dk)、誘電正接(Tanδ)が安定して低く、高強度、高弾性であり、高い耐熱性が求められるが、中でも、誘電正接が安定して低い、多層ポリイミドフィルムを提供することを目的とする。
【0013】
しかしながら、低い誘電正接と、高い寸法精度とを両立させることは容易ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような中、本発明者らは、吸水率に着目し、鋭意研究を重ねた結果、ポリイミドの原料のジアミン成分とテトラカルボン酸成分を特定の化合物としたり、フィルムの前駆体であるゲルフィルムの態様を選択するなどにより、安価な材料を用いて、高い寸法精度を有しながら、低い誘電正接のポリイミドフィルムを得て、これにフッ素樹脂層を設けて、所望の特性を充足しうることを見出し、さらなる検討を重ねて本発明を完成した。
【0015】
本発明は、以下の多層ポリイミドフィルムに関する。
[1]
ジアミン成分としてパラフェニレンジアミン及び1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、テトラカルボン酸成分としてピロメリット酸二無水物及び3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主たる重合成分とするポリイミドフィルムであって、5.8GHzにおける誘電率が3.5以下、誘電正接が0.006以下、吸水率が1.2%以下、50~200℃における線膨張係数が2~18ppm/℃であることを特徴とするポリイミドフィルムの少なくとも片面に、フッ素樹脂層が積層された多層ポリイミドフィルム。
[2]
前記ポリイミドフィルムにおけるジアミン成分の割合が、全ジアミン成分に対して、25~50モル%のパラフェニレンジアミン及び50~75モル%の1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンとからなる[1]に記載の多層ポリイミドフィルム。
[3]
前記ポリイミドフィルムにおけるテトラカルボン酸成分の割合が、全テトラカルボン酸成分に対して、25~65モル%のピロメリット酸二無水物及び35~75モル%の3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とからなる[1]または[2]に記載の多層ポリイミドフィルム。
[4]
前記ポリイミドフィルムの360℃の貯蔵弾性率が0.1GPa以上である[1]~[3]のいずれかに記載の多層ポリイミドフィルム。
[5]
前記ポリイミドフィルムの破断伸度が20%以上である[1]~[4]のいずれかに記載の多層ポリイミドフィルム。
[6]
前記ポリイミドフィルムの引張弾性率が5GPa以上である[1]~[5]のいずれかに記載の多層ポリイミドフィルム。
[7]
前記ポリイミドフィルムの厚みが25μm以下である[1]~[6]のいずれかに記載の多層ポリイミドフィルム。
[8]
フッ素樹脂層の総厚が前記ポリイミドフィルムの厚みに対して0.1倍以上である[1]~[7]のいずれかに記載の多層ポリイミドフィルム。
[9]
前記ポリイミドフィルムの厚みとフッ素樹脂層の総厚との比が、90/10~10/90である[1]~[8]のいずれかに記載の多層ポリイミドフィルム。
[10]
前記ポリイミドフィルムとフッ素樹脂層の間にプライマー層を含む[1]~[9]のいずれかに記載の多層ポリイミドフィルム。
[11]
フッ素樹脂層が、ポリテトラフルオルエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選択される少なくとも1種以上を含む[1]~[10]のいずれかに記載の多層ポリイミドフィルム。
[12]
金属層に積層するための[1]~[11]のいずれかに記載の多層ポリイミドフィルム。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、熱膨張率(CTE、線膨張係数)が低く、さらに誘電率(Dk)、誘電正接(Tanδ)が安定して低く、高強度、高弾性であり、高い耐熱性を有する、新規な多層ポリイミドフィルムを提供できる。
【0017】
本発明の多層ポリイミドフィルムは、低誘電率や低吸水性(ひいては水蒸気やガスの低透過性)などの特性を有している。そのため、例えば、FPC用のフィルム(基材フィルム、カバーレイなど)などとして好適に使用でき、特に、高周波対応基板用に好適に使用することができる。
【0018】
また、本発明の多層ポリイミドフィルムは、CTE(線膨張係数)が低い。そのため、金属層に積層する場合でも寸法安定性が高く、FPC用途などにおいて好適である。
【0019】
低い誘電特性(誘電率や誘電正接)と、高い寸法精度とを両立させることは容易ではなく、これらの両立は意外であり、本発明の有用性は極めて高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】ポリイミドフィルムの両面にフッ素樹脂層が積層された多層ポリイミドフィルムの概略図である。
図2】ポリイミドフィルムの片面にフッ素樹脂層が積層された多層ポリイミドフィルムの概略図である。
図3】ポリイミドフィルムの両面にフッ素樹脂層が積層され、プライマー層を有する多層ポリイミドフィルムの概略図である。
図4】ポリイミドフィルムの片面にフッ素樹脂層が積層され、プライマー層を有する多層ポリイミドフィルムの概略図である。
図5】多層ポリイミドフィルムを用いた銅張り積層体の概略図である。
図6】多層ポリイミドフィルムを用いた銅張り積層体の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[ポリイミドフィルム]
本発明のポリイミドフィルムは、誘電特性(誘電率、誘電正接)や吸水率において特定の範囲を充足する。
【0022】
本発明のポリイミドフィルムの誘電正接は、0.006以下である。好ましくは0.0055以下、より好ましくは0.005以下、さらに好ましくは0.0045以下である。誘電正接が0.006を超えると基板にしたときの伝送損失が大きくなるので好ましくない。
【0023】
本発明のポリイミドフィルムの誘電率は、3.5以下である。3.4以下が好ましい。誘電率が3.5を超えると基板にしたときの伝送速度が低下するので好ましくない。
【0024】
なお、誘電正接及び誘電率の測定方法は、後述する実施例に記載された通りの方法で行い、測定周波数は5.8GHzで行う。
【0025】
本発明のポリイミドフィルムの吸水率は、1.2%以下である。1.1%以下が好ましい。水分を含むと誘電率や誘電正接を上げてしまう弊害があり吸水率が1.2%を超えることは好ましくない。
【0026】
なお、吸水率は、後述する実施例に記載の方法で測定する。
【0027】
ポリイミドフィルムの線膨張係数(線膨張係数の絶対値)は、2ppm/℃以上18ppm/℃以下である。好ましくは4ppm/℃以上16ppm/℃以下、さらに好ましくは6ppm/℃以上14ppm/℃以下である。線膨張係数が2ppm/℃未満あるいは18ppm/℃を超えると銅箔等の金属との線膨張係数差異が大きくなり、後述のように金属積層体を構成する場合の寸法変化率を悪化させるので好ましくない。
【0028】
線膨張係数は、後述する実施例に記載の方法で測定し、温度範囲は50~200℃で行う。
【0029】
本発明のポリイミドフィルムの破断伸度は、20%以上が好ましく、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上である。破断伸度が20%未満であるとフィルムを搬送する時にかかる張力でフィルムが破れたり、またフィルム自体が脆いためフィルム搬送でのトラブルの要因となり得るため好ましくない。
【0030】
なお、破断伸度は、後述する実施例に記載の方法で測定する。
【0031】
ポリイミドフィルムの引張弾性率は、5GPa以上が好ましく、より好ましくは6GPa以上、さらに好ましくは7GPa以上である。引張弾性率が5GPaを下回るとフィルムを搬送する時にかかる張力によってフィルムの伸び量が大きくなり寸法安定性を損なうことになるので好ましくない。
【0032】
なお引張弾性率は、後述する実施例に記載の方法で測定する。
【0033】
360℃の貯蔵弾性率は0.1GPa以上であることが好ましく、より好ましくは0.15GPa以上、さらに好ましくは0.2GPa以上、特に好ましくは0.3GPa以上が好ましい。0.1GPa以下であると高温で金属と貼り合わせたときの寸法変動が大きくなったり、部材の接合や実装時に変形を起こすので好ましくない。
【0034】
なお、貯蔵弾性率は、後述する実施例に記載の方法で測定する。
【0035】
ポリイミドフィルムの厚みは、特に限定されず、用途などに応じて適宜選択できるが、1~25μm、好ましくは3~22μm、さらに好ましくは5~20μmであってよい。
【0036】
なお厚みは、後述する実施例に記載の方法で測定する。
【0037】
本発明のポリイミドフィルムは、複数のポリイミドフィルムの積層体であってもよく、通常、単一のポリイミドフィルムであってもよい。
【0038】
ポリイミドフィルムは、延伸フィルムであってもよい。このような延伸フィルムにおいて、延伸条件(例えば、TD方向及び/又はMD方向の延伸倍率等)は、後述の条件であってもよい。
【0039】
本発明では、延伸フィルムにおいても、上記のような物性・特性を効率よく実現しやすい。
【0040】
[ポリイミド及びポリイミドフィルムの製造方法]
ポリイミドフィルム(又はポリイミドフィルムを構成するポリイミド、又はポリアミック酸)は、ジアミン成分とテトラカルボン酸成分とを重合成分とする。
【0041】
具体的には、ポリイミド(又はポリイミドフィルム)を製造するに際して、まず、ジアミン成分(ジアミン成分(A))とテトラカルボン酸成分(テトラカルボン酸成分(B))とを有機溶媒中で重合させることにより、ポリアミック酸(ポリイミド前駆体)溶液を得る。
【0042】
なお、ポリアミック酸は環化反応に供されるが、本発明では後述のように化学閉環法により環化するのが好ましい。そのため、ポリアミック酸(ジアミン成分(A)及びテトラカルボン酸成分(B))は、化学閉環法を適用可能(化学閉環可能)な成分(又は化学閉環法により効率よく環化できる成分)であるのが好ましい。
【0043】
ジアミン成分(A)は、通常、少なくとも芳香族ジアミン成分を含む。また、テトラカルボン酸成分(B)は、通常、芳香族テトラカルボン酸成分を含む。
【0044】
具体的なジアミン成分(A)としては、パラフェニレンジアミンと1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンが挙げられ、具体的なテトラカルボン酸成分(B)としては、ピロメリット酸二無水物と3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が挙げられ、これらで構成される重合成分が全重合成分の60%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上を占めるものとする。すなわち、本発明のポリイミドフィルムは、ジアミン成分としてパラフェニレンジアミン及び1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、テトラカルボン酸成分としてピロメリット酸二無水物及び3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主たる重合成分とする。
【0045】
このようなジアミン成分(A)において、パラフェニレンジアミンの割合は、25~50モル%が好ましく、より好ましくは28~47モル%、さらに好ましくは30~45モル%である。この範囲よりも割合が下回ると線膨張係数が大きくなり金属との貼り合わせにおいて寸法変化が大きくなるので好ましくなく、またこの範囲よりも割合が上回ると作成したフィルムが脆くなり製膜困難となるので好ましくない。
【0046】
ジアミン成分(A)のもう1つに挙げられている1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンの割合は、50~75モル%が好ましく、より好ましくは53~72モル%、さらに好ましくは55~70モル%である。この範囲よりも割合が下回ると誘電率、誘電正接が高くなり、基板にしたときの伝送損失等に悪影響を及ぼすので好ましくない。またこの範囲よりも割合が上回ると、耐熱性が低下するので好ましくない。
【0047】
ジアミン成分(A)としては、上記の他に、例えばメタフェニレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、ジアミノビアリール[又はビス(アミノアリール)、例えば、ベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン]、ジ(アミノアルキル)アレーン(例えば、パラキシリレンジアミンなど)、ジ(アミノアリール)エーテル(例えば、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテルなど)、ジ(アミノアリール)アルカン(例えば、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン)、ジ(アミノアリール)スルホン(例えば、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン)、ジ(アミノアリール)アレーン[例えば、1,4-ビス(3-メチル-5-アミノフェニル)ベンゼンなど]、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ジ[(アミノアリールオキシ)アリール]アルカン{例えば、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンなど}などが挙げられる。
【0048】
テトラカルボン酸成分(B)において、ピロメリット酸二無水物の割合は、25~65モル%が好ましく、より好ましくは30~60モル%、さらに好ましくは35~55モル%である。この範囲よりも割合が下回ると耐熱性や寸法安定性が低くなり、またこの範囲よりも割合が上回ると吸水率ひいては誘電正接が高くなるので好ましくない。
【0049】
テトラカルボン酸成分(B)のもう1つに挙げられている3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の割合は、35~75モル%が好ましく、より好ましくは40~70モル%、さらに好ましくは45~65モル%である。この範囲よりも割合が下回ると誘電率、誘電正接が高くなり、基板にしたときの伝送損失等に悪影響を及ぼすので好ましくない。またこの範囲よりも割合が上回ると耐熱性や寸法安定性が低くなるので好ましくない。
【0050】
テトラカルボン酸成分(B)としては、上記の他に、例えばアレーンテトラカルボン酸成分[例えば、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸、ピリジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、これらの酸無水物など]、ビス(ジカルボキシアリール)エーテル成分(例えば、4,4’-オキシジフタル酸、4,4’-オキシジフタル酸無水物など)、ビアリールテトラカルボン酸成分[例えば、2,3’,3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、これらの酸無水物など]、ジアリールケトンテトラカルボン酸成分(例えば、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸及びその無水物など)、ビス[(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]アルカン成分{例えば、5,5’-[1-メチル-1,1-エタンジイルビス(1,4-フェニレン)ビスオキシ]ビス(イソベンゾフラン-1,3-ジオン)など}などが挙げられる。
【0051】
ポリアミック酸溶液の形成に使用される有機溶媒の具体例としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド等のホルムアミド系溶媒、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド等のアセトアミド系溶媒、N-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン等のピロリドン系溶媒、フェノール、o-,m-,又はp-クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコール等のフェノール系溶媒又はヘキサメチルホスホルアミド、γ-ブチロラクトン等の非プロトン性極性溶媒を挙げることができ、これらを単独又は2種以上を使用した混合物として用いるのが望ましいが、さらにはキシレン、トルエン等の芳香族炭化水素の使用も可能である。
【0052】
重合方法は、公知のいずれの方法で行ってもよく、例えば以下(1)~(5)が一般的な方法として挙げられる。
【0053】
(1)先にジアミン成分全量を溶媒中に入れ、その後、テトラカルボン酸成分をジアミン成分全量と当量(等モル)になるように加えて重合する方法。
【0054】
(2)先にテトラカルボン酸成分全量を溶媒中に入れ、その後、ジアミン成分をテトラカルボン酸成分と当量になるように加えて重合する方法。
【0055】
(3)一方のジアミン成分(a1)を溶媒中に入れた後、反応成分に対して一方のテトラカルボン酸成分(b1)が95~105モル%となる比率で反応に必要な時間混合した後、もう一方のジアミン成分(a2)を添加し、続いて、もう一方のテトラカルボン酸成分(b2)を全ジアミン成分と全テトラカルボン酸成分とがほぼ当量になるように添加して重合する方法。
【0056】
(4)一方のテトラカルボン酸成分(b1)を溶媒中に入れた後、反応成分に対して一方のジアミン成分(a1)が95~105モル%となる比率で反応に必要な時間混合した後、もう一方のテトラカルボン酸成分(b2)を添加し、続いてもう一方のジアミン成分(a2)を全ジアミン成分と全テトラカルボン酸成分とがほぼ当量になるように添加して重合する方法。
【0057】
(5)溶媒中で一方のジアミン成分とテトラカルボン酸成分をどちらかが過剰になるよう反応させてポリアミック酸溶液(A)を調整し、別の溶媒中でもう一方のジアミン成分とテトラカルボン酸成分をどちらかが過剰になるよう反応させてポリアミック酸溶液(B)を調整する。こうして得られた各ポリアミック酸溶液(A)とポリアミック酸溶液(B)を混合し、重合を完結する方法。
重合方法はこれらに限定されることはなく、その他公知の方法を用いてもよいが、線膨張係数を低く、かつ誘電正接を低くでき、さらに引張弾性率の高いフィルム特性を得るのに効果的な方法として以下を挙げておく。
【0058】
(6)ポリイミドのブロック成分を形成させるために、重合の第1段階として、パラフェニレンジアミンに対してピロメリット酸二無水物が90モル%以上、100モル%未満となる比率で、溶媒中で1時間以上混合し、次いで共重合ポリイミドのランダム成分を形成させるために、重合の第2段階として、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンを添加した後、芳香族テトラカルボン酸成分(b1)を添加して1時間以上攪拌し、さらに(b1)と異なる芳香族テトラカルボン酸成分(b2)を全芳香族テトラカルボン酸成分と全芳香族ジアミン成分とがほぼ等モルとなる量添加して1時間以上攪拌する。この重合では第1段階と第2段階はアミン成分過剰下で連続して行われるため、それぞれで形成されるブロック重合成分とランダム共重合成分とが分子結合して形成されることになる。こうして得られたブロック重合成分には低線膨張係数化の効果、ランダム共重合成分には低誘電正接化の効果があり、両者併せ持つ特性を得ることができる。
【0059】
ポリアミック酸溶液は、通常、5~40重量%程度の固形分を含有し、好ましくは10~30重量%程度の固形分を含有してもよい。また、ポリアミック酸溶液の粘度は、ブルックフィールド粘度計による測定値で通常10~2000Pa・s程度であってもよく、安定した送液のために、好ましくは100~1000Pa・s程度であってもよい。また、有機溶媒溶液中のポリアミック酸は部分的にイミド化されていてもよい。
【0060】
次に、ポリイミドフィルムの製造方法について説明する。ポリイミドフィルムの製膜(製造)は、例えば、ポリアミック酸溶液を環化反応させてゲルフィルムを得る(ポリアミックス酸又はポリアミック酸溶液をゲルフィルムに転化する)工程(1)、得られたゲルフィルムを乾燥(及び脱溶媒)処理し、熱処理する工程(2)を経て得ることができる。なお、乾燥及び熱処理により、乾燥及びイミド化が進行する。
【0061】
工程(1)において、ポリアミック酸溶液を環化反応させる方法は、特に限定されないが、具体的には、(i)ポリアミック酸溶液をフィルム状にキャストし、熱的に脱水環化させてゲルフィルムを得る方法(熱閉環法)、又は(ii)ポリアミック酸溶液に触媒(環化触媒)及び脱水剤(転化剤)を混合し化学的に脱環化させてゲルフィルムを作製し、加熱により、ゲルフィルムを得る方法(化学閉環法)等が挙げられ、特に後者の方法(化学閉環法)が好ましい。
【0062】
化学閉環法(さらには、前記のような特定のジアミン成分及び/又はテトラカルボン酸成分を選択しつつ、化学閉環法を選択すること)によれば、意外にも、本発明のポリイミドフィルムに要求される物性・特性(誘電特性、吸水率、CTEなど)を効率よく得やすいようである。また、量産性の観点からも、化学閉環法は好適である。
【0063】
なお、上記ポリアミック酸溶液は、ゲル化遅延剤等を含有してもよい。ゲル化遅延剤としては、特に限定されず、アセチルアセトン等を使用することができる。
【0064】
環化触媒としては、アミン類、例えば、脂肪族第3級アミン(トリメチルアミン、トリエチレンジアミンなど)、芳香族第3級アミン(ジメチルアニリンなど)、複素環第3級アミン(例えば、イソキノリン、ピリジン、β-ピコリンなど)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらのうち、β-ピコリンなどの複素環式第3級アミンが好ましい。
【0065】
脱水剤としては、酸無水物、例えば、脂肪族カルボン酸無水物(例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸など)、芳香族カルボン酸無水物(例えば、無水安息香酸など)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、無水酢酸及び/又は無水安息香酸が好ましく、特に無水酢酸が好ましい。
【0066】
環化触媒及び脱水剤の使用量は、特に限定されないが、それぞれ、ポリアミック酸(又はポリアミド酸)のアミド基(又はカルボキシル基)1モルに対して、例えば、1モル以上(例えば、1.5~10モル)程度であってもよい。
【0067】
ゲルフィルムは、通常、ポリアミック酸溶液(特に環化触媒及び転化剤を混合したポリアミック酸溶液)を、支持体上に流延(塗布)して部分的に乾燥及び硬化(イミド化)させることで得ることができる。
【0068】
より具体的には、ポリアミック酸溶液を、スリット付き口金から支持体上に流延してフィルム状に成型し、支持体からの受熱、熱風又は電気ヒーター等の熱源からの受熱により、加熱して閉環反応させ、遊離した有機溶媒等の揮発分を乾燥させることによりゲルフィルムとした後、支持体から剥離することにより得てもよい。
【0069】
ここで、ゲルフィルムは剥離するために自己支持性を備える必要があるが、通常、化学閉環法で得られたゲルフィルムと、熱閉環法で得られたゲルフィルムとでは、その態様が大きく異なる。すなわち、化学閉環法では、触媒によりゲル化(転化)できるため、溶媒を多く含む自己支持性のゲルフィルム(柔軟又はウェットなゲルフィルム)が得られる一方、熱閉環法では、ゲル化の(自己支持性を持たせる)ために多大な熱処理が必要となり、結果として比較的硬い(残存溶媒の少ない)ゲルフィルムが得られる。
【0070】
本発明では、意外にも、化学閉環法を経たゲルフィルムを用いることで、所望の特性(低誘電正接、低誘電率、低吸水性、低CTEなど)を有するポリイミドフィルムを効率よく形成できる。
【0071】
支持体としては、特に限定されないが、金属(例えばステンレス)製の回転ドラム、エンドレスベルト等が例として挙げられる。支持体の温度は、特に限定されず、例えば、30~200℃、好ましくは40~150℃、さらに好ましくは50~120℃であってもよい。
【0072】
なお、支持体の温度は、(i)液体又は気体の熱媒体、(ii)電気ヒーター等の輻射熱等により制御できる。
【0073】
工程(2)では、ゲルフィルムを乾燥(脱溶媒)後、熱処理する。通常、工程(2)は、ゲルフィルムの幅方向両端を把持しつつ加熱炉(テンター加熱炉など)を通過させて、乾燥し、その後、熱処理を行う工程を含んでいてもよい。
【0074】
具体的には、支持体から剥離されたゲルフィルムは、特に限定されないが、通常、回転ロールにより走行速度を規制しながら搬送方向に延伸されてもよい。搬送方向への延伸は、所定の温度(例えば、140℃以下の温度)で実施されてもよい。その延伸倍率(MDX)は、通常1.05~1.9倍であり、好ましくは1.1~1.6倍であり、さらに好ましくは1.1~1.5倍(例えば、1.15~1.4倍)である。
【0075】
乾燥において、乾燥温度は、例えば、210℃以上(例えば、213~500℃)、好ましくは215℃以上(例えば、218~400℃)、さらに好ましくは220℃以上(例えば、220~300℃)で行ってもよい。
【0076】
また、乾燥は、フィルム幅方向における乾燥ムラ(バラツキ)を抑えつつ行ってもよい。例えば、フィルム幅方向の乾燥温度ムラは、例えば、25℃未満(例えば、0~24℃)、好ましくは22℃以下(例えば、1~21℃)、さらに好ましくは20℃以下(例えば、2~19℃)、特に18℃以下(例えば、3~18℃)であってもよい。
【0077】
なお、乾燥温度ムラは、例えば、フィルム幅方向に沿って所定の間隔(例えば、200mm)で複数点をとり、測定した乾燥温度の最大値と最小値との差(幅)を乾燥温度ムラとして測定できる。
【0078】
ゲルフィルム(特に、搬送方向に延伸されたゲルフィルム)は、乾燥後、熱処理される。熱処理温度は、特に限定されず、例えば、200℃以上(例えば、250~600℃)、好ましくは300℃以上、さらに好ましくは350℃以上であってもよい。
【0079】
また、乾燥後、さらに、幅方向へ延伸されてもよい。幅方向への延伸は、熱処理と共に行ってもよい。
【0080】
幅方向への延伸において、延伸倍率(TDX)は、例えば、1.05~1.9倍であり、好ましくは1.1~1.6倍であり、さらに好ましくは1.1~1.5倍(例えば、1.15~1.4倍)であってもよい。
【0081】
なお、このような延伸により、誘電正接、比誘電率、CTE、吸水率などをより小さくしやすい(又は調整しやすい)場合がある。
【0082】
このようにしてポリイミドフィルムが得られる。得られたポリイミドフィルムに対しては、さらにアニール処理や、易接着処理(例えば、コロナ処理、プラズマ処理のような電気処理又はブラスト処理)を行ってもよい。
【0083】
[多層ポリイミドフィルム]
本発明の多層ポリイミドフィルムは、前記ポリイミドフィルムの少なくとも片面に、フッ素樹脂層が積層されてなる。
【0084】
多層ポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルムの少なくとも片面にフッ素樹脂層が積層されていればよく、ポリイミドフィルムの両面にフッ素樹脂層が積層されていてもよい。
【0085】
多層ポリイミドフィルムは、例えば、図1に示す多層ポリイミドフィルム(a)のように、ポリイミドフィルム3の両面に、フッ素樹脂層1及び2が積層されてなる。
【0086】
ポリイミドフィルムの片面にフッ素樹脂層が積層された場合、多層ポリイミドフィルムは、例えば、図2に示す多層ポリイミドフィルム(b)のように、ポリイミドフィルム3の片面に、フッ素樹脂層1が積層されてなる。
また、多層ポリイミドフィルムは、フッ素樹脂層とポリイミドフィルムの接着性を向上させる等の観点から、フッ素樹脂層とポリイミドフィルムとの間に、プライマー層を有していてもよい。
【0087】
ポリイミドフィルム3の両面にフッ素樹脂層1及び2が積層された多層ポリイミドフィルムの場合、ポリイミドフィルム3とフッ素樹脂層1の間、並びにポリイミドフィルム3とフッ素樹脂層2の間の両方にプライマー層を有していてもよいし、どちらか一方にのみプライマー層を有していてもよい。
【0088】
例えば、図3に示す多層ポリイミドフィルム(c)のように、フッ素樹脂層1とポリイミドフィルム3との間、並びに、フッ素樹脂層2とポリイミドフィルム3との間に、プライマー層3’を有していてもよい。
【0089】
また、ポリイミドフィルムの片面にフッ素樹脂層が積層された場合、図4に示す多層ポリイミドフィルム(d)のように、フッ素樹脂層1とポリイミドフィルム3との間に、プライマー層3’を有していてもよい。
【0090】
多層ポリイミドフィルムにおいて、各フッ素樹脂層(フッ素樹脂層1、フッ素樹脂層2など)の厚みは、例えば30μm以下(例えば、0.1~25μm)であり、好ましくは0.1~20μm(例えば、0.5~15μm)、より好ましくは0.5~15μm(例えば、0.7~10μm)であってもよい。
【0091】
多層ポリイミドフィルムにおいて、フッ素樹脂層の総厚は、ポリイミドフィルムの厚みに対して、例えば0.05倍以上(例えば、0.1~10倍)であり、好ましくは0.1倍以上(例えば、0.15~7倍)、より好ましくは0.1~5倍(例えば、0.15~1.5倍)、さらに好ましくは0.2~3倍(例えば、0.25~1.5倍)であってもよい。
【0092】
また、多層ポリイミドフィルムにおいて、ポリイミドフィルムの厚みとフッ素樹脂層の総厚との比は、例えば99/1~1/99、好ましくは90/10~10/90(例えば、80/20~20/80)、より好ましくは90/10~30/70(例えば、80/20~40/60)である。
【0093】
多層ポリイミドフィルムにおいて、フッ素樹脂層の総厚は、多層ポリイミドフィルムの誘電率を低くできる等の観点から、多層ポリイミドフィルムの厚み(総厚)に対して、例えば0.1倍以上(例えば、0.1~0.9倍)、好ましくは0.15~0.8倍(例えば、0.15~0.55倍)である。
【0094】
多層ポリイミドフィルムの厚み(総厚)は、ポリイミドフィルムやフッ素樹脂層の厚み等によって適宜調整することができ、特に限定されないが、例えば5~100μm、好ましくは7~70μm、より好ましくは10~50μmであってもよい。
【0095】
多層ポリイミドフィルムがプライマー層を有する場合、各プライマー層の厚みは、例えば0.1~5μm、好ましくは0.5~3μmである。
【0096】
多層ポリイミドフィルムにおいて、フッ素樹脂層及びプライマー層の総厚[例えば、ポリイミドフィルム(c)における、フッ素樹脂層1及び2とプライマー層3’の総厚など]と、ポリイミドフィルムとの比は、例えば99/1~1/99、好ましくは90/10~10/90(例えば、80/20~20/80)、より好ましくは90/10~30/70(例えば、80/20~40/60)である。
【0097】
多層ポリイミドフィルムにおいて、フッ素樹脂層及びプライマー層の総厚は、多層ポリイミドフィルムの総厚に対して、例えば0.15倍以上であり、好ましくは0.2~2倍(例えば、0.25~1.5倍)、より好ましくは0.2~1倍(例えば、0.2~0.65倍)である。
【0098】
[フッ素樹脂層]
フッ素樹脂層に使用するフッ素樹脂は、フッ素を含有する樹脂であれば特に限定されない。
【0099】
フッ素樹脂は、通常、フッ素原子を有するモノマーを重合成分として含む重合体(共重合体又は単独重合体、以下、単にフッ素含有重合体ともいう)を少なくとも含む。
【0100】
フッ素原子を有するモノマーとしては、特に限定されないが、不飽和フッ化炭化水素(例えば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン等のフルオロオレフィン類)、エーテル基含有不飽和フッ化炭化水素(例えば、フッ化アルキルビニルエーテル等)等が挙げられ、少なくとも不飽和フッ化炭化水素を含むことが好ましく、少なくともテトラフルオロエチレンを含むことがより好ましい。
【0101】
また、フッ素樹脂は、エチレン等のオレフィン系炭化水素を重合成分として含んでいてもよい。
【0102】
フッ素含有重合体としては、例えば、ポリテトラフルオルエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などが挙げられる。
【0103】
これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0104】
フッ素樹脂において、フッ素含有重合体の含有量は、例えば50質量%以上(例えば、60~90質量%等)である
フッ素樹脂は、フッ素含有重合体以外の成分を含んでいてもよいが、サーモトロピック型の液晶高分子(例えば、液晶ポリエステル系樹脂、液晶ポリアミド系樹脂、液晶ポリエステルアミド系樹脂等)を含まないことが好ましい。
【0105】
また、フッ素含有重合体の形状は、特に限定されず、例えば、粒子状であってもよい。
【0106】
この場合、フッ素含有重合体粒子の平均粒径は、例えば1~5μm(例えば、2~4μmなど)である。
【0107】
フッ素樹脂としては、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、三井デュポンフロロケミカル製フッ素塗料(EJCL-565等)等が挙げられる。
【0108】
多層ポリイミドフィルムにおいて、フッ素樹脂層の誘電率は、好ましくは2~2.9である。また、フッ素樹脂層の誘電正接は、好ましくは2~2.5である。
【0109】
[プライマー層]
プライマー層に使用するプライマー樹脂(接着成分)としては、ポリイミドフィルムとの親和性を有する成分であれば、特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂(例えば、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂)、熱硬化性樹脂等(例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等)等の樹脂が挙げられ、好ましくは、熱可塑性樹脂である。これらの樹脂は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0110】
プライマー樹脂は、樹脂以外の他の成分{例えば、水、有機溶媒[例えば、アセトアミド系溶媒(例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド等)、ピロリドン系溶媒(例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン等)等]、無機粒子[例えば、金属酸化物(例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化スズ等)、カーボンブラック等]、有機粒子[例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)粒子、ポリエーテルケトン(PEEK)粒子等]等}を含んでいてもよい。
【0111】
また、プライマー層は、フッ素樹脂を含むことが、フッ素樹脂層との接着性を向上しやすい等の観点から好ましい。フッ素樹脂としては、例えば、上記したフッ素樹脂層に使用できるフッ素樹脂等であってよい。
【0112】
プライマー樹脂は、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等の樹脂が、水及び/又は有機溶媒中に分散された分散液であってもよい。
【0113】
プライマー樹脂としては、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、三井デュポンフロロケミカル製のPFAプライマー(例えば、PJ-YL910等のPJ-910シリーズ等)等が挙げられる。
【0114】
[多層ポリイミドフィルムの製造方法]
ポリイミドフィルムにフッ素樹脂層を積層させて多層ポリイミドフィルムを得る方法は、特に限定されないが、ポリイミドフィルムにフッ素樹脂を塗布(コーティング)する方法が好ましい。
【0115】
ポリイミドフィルムにフッ素樹脂を塗布する方法は、特に限定されず、例えば、スプレー塗布、ディッピング、グラビアコート等を使用することができる。これらの方法は、特に限定されない。
【0116】
多層ポリイミドフィルムがプライマー層を有する場合は、ポリイミドフィルム表面にプライマー層を形成させてから、プライマー層の上にフッ素樹脂層を形成させることが好ましい。
【0117】
プライマー層は、例えば、ポリイミドフィルムにプライマー樹脂を塗布(コーティング)することによって形成させることができる。ポリイミドフィルムにプライマー樹脂を塗布する方法は、特に限定されず、ポリイミドフィルムにフッ素樹脂を塗布する方法と同様の方法を使用することができる。
【0118】
尚、多層ポリイミドフィルムには、金属積層体に用いる際に金属との接着性を向上させる等の観点から、電気処理(例えば、コロナ処理、プラズマ処理等)、物理的処理(例えば、ブラスト処理等)をさらに行ってもよい。これらの処理条件は特に限定されない。
【0119】
[金属積層体]
本発明の多層ポリイミドフィルムは、金属層と積層して金属積層体を形成するために使用することができる。
【0120】
金属積層体は、通常、多層ポリイミドフィルムの少なくとも片面に金属層が積層されてなる。
【0121】
金属層に使用される金属としては、例えば、銅、アルミニウム等が挙げられ、好ましくは、銅である。
【0122】
金属積層体は、例えば、図5及び図6に示すように、多層ポリイミドフィルム(a)、(b)、(c)又は(d)の少なくとも片面に、金属層4(及び5)が形成されてなる。
【0123】
金属層の厚みは、特に限定されないが、例えば5~100μm、好ましくは9~70μm、更に好ましくは18~35μmである。
【0124】
金属層の形成方法としては、特に限定されないが、例えば、接着剤を介して多層ポリイミドフィルムと金属箔を貼り合わせる方法、多層ポリイミドフィルムの表面を金属めっき処理する方法、熱プレスにより多層ポリイミドフィルムのフッ素樹脂層を溶融させて金属箔と貼り合わせる方法等を使用することが出来る。
【0125】
本発明の金属積層体は、線膨張係数が低く、誘電率(Dk)や誘電正接(Tanδ)が低く、強度等も優れたものである。
【実施例
【0126】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。実施例、比較例に記載したPPDはパラフェニレンジアミン、RODAは1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ODAは4,4‘-ジアミノジフェニルエーテル、PMDAはピロメリット酸二無水物、BPDAは3,3’-4,4‘-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、DMAcはN,N-ジメチルアセトアミドを表す。
【0127】
実施例及び比較例で作製したポリイミドフィルムについて、以下の特性を測定した。
【0128】
[誘電特性(誘電率、誘電正接)の評価]
測定サンプルは、23±1℃/50±5%RHに調整された温調室で3日以上調整した。同じ温調室内に設置されたアジレント・テクノロジー株式会社/株式会社関東電子応用開発製の摂動法誘電率測定装置CP521(5.8GHz用)を同軸ケーブルでネットワークアナライザ8722A/C/Dに接続して誘電特性(誘電率、誘電正接)を測定した。フィルム厚みは、[フィルム厚み]記載の方法で測定した。
【0129】
[吸水率]
蒸留水中に1日間静置し、乾燥時重量に対しての増加重量%で評価した。具体的には6cm径の円形にフィルムを切り取り、200℃1時間熱処理した後の重量(W0)を乾燥時の重量として測定し、蒸留水中に1日間静置し吸水させたフィルムの重量(W1)を測定し、下記計算式により吸水率を求めた。
吸水率(%)=(W1-W0)/W0×100。
【0130】
[CTE(線膨張係数)の評価]
島津製作所製TMA-50熱機械分析装置を使用し、測定温度範囲:50~200℃、昇温速度:10℃/分の条件で測定した。荷重を0.25Nとし、まず35℃から10℃/分で昇温して230℃まで温度を上げた。230℃にて5分間保持し、その後10℃/分で降温して35℃まで温度を下げ、35℃で30分間保持し、しかる後に10℃/分で昇温して230℃まで温度を上げた。2度目の35℃から230℃までの昇温の時のデータを読み、50~200℃の部分の平均からCTE(線膨張係数)を算出した。
【0131】
[引張弾性率および破断伸度の評価]
引張弾性率および破断伸度は、RTM-250(エー・アンド・デイ製)を使用し、サンプル幅:10mm、チャック間距離:50mm、引張速度:100mm/分の条件で測定した。フィルム厚みは、[フィルム厚み]記載の方法で測定した。
【0132】
[360℃貯蔵弾性率]
日立ハイテクサイエンス製粘弾性装置DMS EXSTER6100を使用し、測定温度範囲:25~400℃、昇温速度:2℃/分、周波数:5Hz、窒素雰囲気下で測定し、360℃時の値を360℃貯蔵弾性率とした。
【0133】
[フィルム厚み]
Mitutoyo製ライトマチック(Series318)厚み計を使用して、フィルム前面から任意に15箇所を選び、この15箇所について厚みを測定し、その平均を算出し、フィルム厚みとした。
【0134】
[ポリアミック酸溶液Aの合成]
DCスターラーを備えた500mlセパラブルフラスコ中にDMAc239.1gを入れ、ここにPPD5.50g(0.051モル)とPMDA10.77g(0.049モル)を投入し、常温常圧中で1時間反応させた。次にここにRODA22.32g(0.076モル)を投入し均一になるまで攪拌した後、BPDA20.59g(0.070モル)を添加し。1時間反応させた。続いてここにPMDA1.72g(0.008モル)を添加してさらに1時間反応させて粘度3000ポイズのポリアミック酸溶液Aを得た。
【0135】
[ポリアミック酸溶液Bの合成]
DCスターラーを備えた500mlセパラブルフラスコ中にDMAc239.1gを入れ、ここにPPD4.69g(0.043モル)とPMDA9.17g(0.042モル)を投入し、常温常圧中で1時間反応させた。次にここにRODA23.54g(0.081モル)を投入し均一になるまで攪拌した後、BPDA21.87g(0.074モル)を添加し。1時間反応させた。続いてここにPMDA1.63g(0.007モル)を添加してさらに1時間反応させて粘度3000ポイズのポリアミック酸溶液Bを得た。
【0136】
[ポリイミドフィルム1の作成]
冷却したポリアミック酸溶液A100gにβ-ピコリン18gと無水酢酸20g、DMAc10gを添加し、アプリケーターを用いてガラス板状に流延し、自己支持性のゲルフィルムを得た。得られたゲルフィルム(無延伸フィルム)を、クリップ付きの二軸延伸機にセットし、縦方向(搬送方向)に1.1倍、その後横方向(幅方向)に1.1倍の倍率になるように段階的に延伸処理を行い、延伸したゲルフィルムを10cm角針付きの金枠にピンニングし、200℃30分、300℃20分、360℃5分の条件で熱処理を行うことにより、厚さ12.5μmのポリイミドフィルム1(逐次二軸延伸フィルム)を得た。このフィルムの各特性の評価を行い、表1にその結果を示した。
【0137】
[ポリイミドフィルム2の作成]
冷却したポリアミック酸溶液B100gにβ-ピコリン18gと無水酢酸20g、DMAc10gを添加し、アプリケーターを用いてガラス板状に流延し、自己支持性のゲルフィルムを得た。得られたゲルフィルム(無延伸フィルム)を、クリップ付きの二軸延伸機にセットし、縦方向(搬送方向)に1.1倍、その後横方向(幅方向)に1.1倍の倍率になるように段階的に延伸処理を行い、延伸したゲルフィルムを10cm角針付きの金枠にピンニングし、200℃30分、300℃20分、360℃5分の条件で熱処理を行うことにより、厚さ12.5μmのポリイミドフィルム2(逐次二軸延伸フィルム)を得た。このフィルムの各特性の評価を行い、表1にその結果を示した。
【0138】
[ポリイミドフィルム3の作成]
冷却したポリアミック酸溶液B100gにβ-ピコリン18gと無水酢酸20g、DMAc10gを添加し、アプリケーターを用いてガラス板状に流延し、自己支持性のゲルフィルムを得た。得られたゲルフィルム(無延伸フィルム)を、クリップ付きの二軸延伸機にセットし、縦方向(搬送方向)に1.1倍、その後横方向(幅方向)に1.1倍の倍率になるように段階的に延伸処理を行い、延伸したゲルフィルムを10cm角針付きの金枠にピンニングし、200℃30分、300℃20分、360℃5分の条件で熱処理を行うことにより、厚さ20μmのポリイミドフィルム3(逐次二軸延伸フィルム)を得た。このフィルムの各特性の評価を行い、表1にその結果を示した。
【0139】
[ポリイミドフィルム4の作成]
冷却したポリアミック酸溶液A100gにβ-ピコリン18gと無水酢酸20g、DMAc10gを添加し、アプリケーターを用いてガラス板状に流延し、自己支持性のゲルフィルムを得た。得られたゲルフィルム(無延伸フィルム)を、クリップ付きの二軸延伸機にセットし、縦方向(搬送方向)に1.1倍、その後横方向(幅方向)に1.1倍の倍率になるように段階的に延伸処理を行い、延伸したゲルフィルムを10cm角針付きの金枠にピンニングし、200℃30分、300℃20分、360℃5分の条件で熱処理を行うことにより、厚さ25μmのポリイミドフィルム4(逐次二軸延伸フィルム)を得た。このフィルムの各特性の評価を行い、表1にその結果を示した。
【0140】
[実施例1]
三井デュポンフロロケミカル製のプライマーPJ-YL910を、液体用スプレーガン(W-101-101G、アネスト岩田社製)を用いて、ポリイミドフィルム1の両面にスプレー塗装し、150℃にて15分間乾燥させ、ポリイミドフィルム1の両面に、表2に記載の厚みを有するプライマー層を形成した。この上に、フッ素樹脂(三井デュポンフロロケミカル製フッ素塗料 EJCL-565)を液体用スプレーガン(W-101-101G、アネスト岩田社製)を用いてスプレー塗装し、380℃で15分間焼結し、表2に記載の厚みを有するフッ素樹脂層を形成し、22.5μmの多層ポリイミドフィルムを得た。多層ポリイミドフィルムの評価結果を表2示す。
【0141】
[実施例2~7]
表2に記載したポリイミドフィルムを使用し、フッ素樹脂層を表2に記載の厚みとした以外は実施例1と同様にして多層ポリイミドフィルムを得た。得られた多層ポリイミドフィルムの評価結果を表2に示す。
【0142】
[比較例1]
フッ素樹脂層を形成しないポリイミドフィルム1の物性を表2に示す。
【0143】
【表1】
【0144】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明では、フレキシブルプリント基板用などに好適に使用できる多層ポリイミドフィルムを提供できる。
【符号の説明】
【0146】
1.フッ素樹脂層
2.フッ素樹脂層
3.ポリイミドフィルム
3’.プライマー層
4.金属層
5.金属層
図1
図2
図3
図4
図5
図6