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特許7525105炭酸カルシウムを含む熱分解残渣の製造方法および製造装置
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  • 特許-炭酸カルシウムを含む熱分解残渣の製造方法および製造装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】炭酸カルシウムを含む熱分解残渣の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/40 20220101AFI20240723BHJP
   B09B 5/00 20060101ALN20240723BHJP
   B09B 101/70 20220101ALN20240723BHJP
   B09B 101/25 20220101ALN20240723BHJP
   B09B 101/85 20220101ALN20240723BHJP
【FI】
B09B3/40 ZAB
B09B5/00 M
B09B101:70
B09B101:25
B09B101:85
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023102160
(22)【出願日】2023-06-22
【審査請求日】2024-03-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523233628
【氏名又は名称】株式会社アマノ
(73)【特許権者】
【識別番号】523233639
【氏名又は名称】加藤 栄一
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】加藤 栄一
【審査官】村山 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-058103(JP,A)
【文献】特開2010-005581(JP,A)
【文献】特開2012-073016(JP,A)
【文献】特開2010-155231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/40
B09B 5/00
B09B 101/70
B09B 101/25
B09B 101/85
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面又は側面に、空気導入口が設けられ、側面底部又は底面に、酸素排出口が設けられた、物質を熱分解するための熱分解処理槽と、
前記熱分解処理槽の底部に位置する磁石ユニットと、
加熱手段と、
を少なくとも含む熱分解装置を用いて、少なくとも動植物由来有機物を含む被処理物から、炭酸カルシウムを含む熱分解残渣を製造する方法であって、
熱分解処理槽に、少なくとも動植物由来有機物を含む被処理物を導入し、
空気導入口から空気を導入し、
空気中に含有されている酸素を、磁石ユニットにより引きつけ、熱分解処理槽の底部に誘導して、酸素排出口から排出し、
加熱手段にて少なくとも動植物由来有機物を含む被処理物を加熱して、少なくとも動植物由来有機物を含む被処理物を150℃以上825℃未満の温度範囲で熱分解し、炭酸カルシウムを含む熱分解残渣を得る、製造方法。
【請求項2】
前記磁石ユニットを構成する磁石は、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、アルニコ磁石、電磁石およびこれらの2つ以上の組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上面又は側面に空気導入口が設けられ、側面底部又は底面に酸素排出口が設けられた、物質を熱分解するための熱分解処理槽と、
前記熱分解処理槽の底部に位置する磁石ユニットと、
加熱手段と、
を少なくとも含む、少なくとも動植物由来有機物を含む被処理物を熱分解して炭酸カルシウムを含む熱分解残渣を製造する装置。
【請求項4】
前記磁石ユニットを構成する磁石は、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、アルニコ磁石、電磁石およびこれらの2つ以上の組み合わせからなる群より選択される、請求項3に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物を熱分解して炭酸カルシウムを主成分として含む熱分解残渣を製造する方法およびこれに使用する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環境汚染が深刻な問題となっている昨今、廃棄物をそのまま廃棄することは困難である。家庭ごみおよび産業廃棄物等を含む廃棄物は、主に、焼却処理を行い処分されている。廃棄物の焼却処理には、高温処理が必要であり、燃料や電力が多量に必要である。また、廃棄物の焼却により二酸化炭素を含む温室効果ガスを大量に空気中に放出する他、焼却時の温度によっては焼却灰中にダイオキシン等の有害物質が発生するおそれがあることが知られている。
【0003】
廃棄物を効率的に焼却することを目的とした装置が各種検討されている。例えば、特許文献1には、焼却時の廃棄物に磁気を作用させる磁気作用手段を備えた熱分解装置が開示されている。また特許文献2には、強い磁場の中を通過した空気により被燃焼物を燃焼させることを目的とした永久磁石が備えられた磁場熱分解炉が開示されている。さらに特許文献3には、磁化熱を利用して有機物を熱分解することを目的とした、空気を磁化する永久磁石が設けられた磁気熱分解装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-73016号公報
【文献】特開2014-13136号公報
【文献】特開2014-113574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
永久磁石などの磁化手段を備えた従来の熱分解装置は、いずれも、「熱分解」を謳ってはいるものの、実際には、被処理物を効率的に「燃焼」させることを目的としたものであった。特許文献1には、「酸素による燃焼効率の高い」装置に関するものであることが開示され、特許文献2は、「被燃焼物と微小クラスターの酸素とが激しく反応し、燃焼熱により被燃焼物が燃焼してさらに分解される」という燃焼の仕組みを開示し、特許文献3には、有機物の分解に必要な磁気熱を発生させるための空気を有機物収容空間全域に十分給気することが重要であることが開示されていることから、これらの従来技術は、被処理物の「燃焼」を効率的に行うための装置にかかるものであると云える。
【0006】
熱分解(反応)とは、有機物等を、酸素やハロゲンの非存在下で加熱して分解することを指し、有機物等と酸素とが化合して熱と光とを出す現象である燃焼(反応)とは全く異なる。空気中の酸素濃度は約21%であり、被処理物を燃焼させるには、必要な酸素濃度(限界酸素濃度)がある。例えば、爆発的な燃焼を起こす可燃性ガスであるメタンは、酸素濃度12.1%を下回ると燃焼が起こらない。またロウソクの火は酸素濃度17%を下回ると消えることが知られている。従来技術において、被処理物の燃焼を効率的に起こすことを目的とする場合は、限界酸素濃度を下回ることがないように、装置内に可燃性の高い燃料を随時投入し、さらに新鮮な空気を大量に導入して、燃焼状態を維持する。詳しくは後述するが、被処理物が熱分解したか、燃焼したか、は、排出されるガスと残渣とを分析することにより明らかにすることができる。
本発明は、廃棄物を「燃焼」させるのではなく、文字通り「熱分解」させることにより、二酸化炭素を含む温室効果ガスをほぼ排出することなく、廃棄物中の有機物のほぼすべてを炭酸塩として回収することが可能な、熱分解装置およびこれを用いて被処理物から炭酸カルシウムを主成分として含む熱分解残渣を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の形態は、上面又は側面に、空気導入口が設けられ、側面底部又は底面に、酸素排出口が設けられた、物質を熱分解するための熱分解処理槽と、
前記熱分解処理槽の底部に位置する磁石ユニットと、
加熱手段と、
を少なくとも含む熱分解装置を用いて、少なくとも動植物由来有機物を含む被処理物から、炭酸カルシウムを含む熱分解残渣を製造する方法であって、
熱分解処理槽に、少なくとも動植物由来有機物を含む被処理物を導入し、
空気導入口から空気を導入し、
空気中に含有されている酸素を、磁石ユニットにより引きつけ、熱分解処理槽の底部に誘導して、酸素排出口から排出し、
加熱手段にて少なくとも動植物由来有機物を含む被処理物を加熱して、少なくとも動植物由来有機物を含む被処理物を熱分解し、炭酸カルシウムを含む熱分解残渣を得る、製造方法である。
ここで磁石ユニットを構成する磁石は、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、アルニコ磁石、電磁石およびこれらの2つ以上の組み合わせからなる群より選択されることが好ましい。
【0008】
さらに本発明の二の形態は、上面又は側面に空気導入口が設けられ、側面底部又は底面に酸素排出口が設けられた、物質を熱分解するための熱分解処理槽と、
前記熱分解処理槽の底部に位置する磁石ユニットと、
加熱手段と、
を少なくとも含む、少なくとも動植物由来有機物を含む被処理物を熱分解して炭酸カルシウムを含む熱分解残渣を製造する装置である。
ここで磁石ユニットを構成する磁石は、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、アルニコ磁石、電磁石およびこれらの2つ以上の組み合わせからなる群より選択されることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本実施形態の熱分解装置は、燃料を投下することなく被処理物を熱分解することができる。被処理物の熱分解によって、二酸化炭素を含む温室効果ガスを環境に排出せず、熱分解処理後には、炭酸塩を含む有価物を多く含んだ熱分解残渣を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明にかかる熱分解装置の概略を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一の実施形態にかかる炭酸カルシウムを含む熱分解残渣の製造方法は、少なくとも動植物由来有機物を含む被処理物を酸素やハロゲン等を存在させることなく加熱して化学的に分解し、炭酸塩を製造する方法である。一の実施形態の製造方法において熱分解される被処理物は、少なくとも動植物由来有機物を含む。ここで動植物由来有機物とは、有機化合物を含む物質であって、ヒトを含む動物および植物に由来するものを意味する。動植物由来有機物の具体例として、たとえば、生ごみ、紙類(たとえば新聞紙、ダンボール、雑誌、コピー用紙、シュレッダ処理済み紙)、食品、生物死体を挙げることができる。動植物由来有機物には、成分の一つとして、カルシウムが含まれていることが特徴である。一の実施形態の製造方法にて用いられる被処理物は、上記の動植物由来有機物を含むことが好ましく、さらに樹脂を含んでいても良い。ここで樹脂とは、合成熱可塑性樹脂、合成熱硬化性樹脂およびこれらの混合物ならびにこれらと他の添加剤等を含む樹脂組成物を包含する。本明細書で樹脂とは、特に、動植物由来ではないもの、すなわち人工の高分子物質およびそれらを含む組成物を意味するものとする。本明細書における樹脂の具体例として、たとえば、使用済みの各種プラスチック成形品や各種樹脂成形品を含む廃プラスチックや廃樹脂、プラスチック製手袋、プラスチック製シリンジ、樹脂製チューブ等の使用済み医療用器具を挙げることができる。一の実施形態の製造方法では、被処理物として、動植物由来有機物を用いることが好ましく、さらに動植物由来有機物と樹脂とを含む混合物を用いることもできる。動植物由来有機物と樹脂とを含む混合物の具体例として、廃棄物混合物(たとえば一般的な都市ゴミ)が挙げられる。
一の実施形態の製造方法は、少なくとも熱分解処理槽と、磁石ユニットと、加熱手段とから構成された、少なくとも動植物由来有機物を含む被処理物を熱分解して炭酸カルシウムを含む熱分解残渣を製造する装置(本明細書では、単に「熱分解装置」と称することがある。)を用いて行うことができる。ここで熱分解処理槽は、被処理物を熱分解するために、被処理物を収容するための密封可能な容器である。熱分解処理槽は、概ね筒状、直方体状、立方体状、球状等、被処理物を所定の時間収容することが可能であれば、種々の形状をしていてよい。熱分解処理槽は、鉄、鋼、ステンレス等の材料で形成されていることが好ましい。熱分解処理槽の内容積は、被処理物の量にもよるが、約0.4m-4.0m、あるいは約0.8m-2.0m、好ましくは約0.5m-1.0mであれば被処理物の熱分解を効率良く行うことができる。熱分解処理槽の内容積が小さすぎると、酸素濃度の制御が難しくなり、熱分解反応を安定して続行することが困難になり得る。熱分解処理槽の内容積が大きすぎると、熱分解処理槽内部に温度ムラが生じやすくなり、熱分解に要する時間や、投入する被処理物の量等に鑑みた、熱分解効率が低下するおそれがある。熱分解処理槽の上面又は側面には、空気導入口が設けられている。空気導入口は、後述するが、被処理物の熱分解に必要な空気(詳細には低酸素濃度空気)を熱分解処理槽に常時、あるいは適時に送り込むために設けられる。空気導入口は少なくとも1つ、必要に応じて2つ以上設けることができる。
【0012】
磁石ユニットは、少なくとも1つ、好ましくは2つ以上の磁石の組み合わせから構成された部材である。ここで磁石ユニットを構成する磁石は、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、アルニコ磁石、電磁石およびこれらの2つ以上の組み合わせからなる群より選択されることが好ましい。磁石ユニットは、熱分解処理槽に導入された空気中の酸素を引きつけ、熱分解処理槽の底部に誘導するために必要な部材である。
酸素は常磁性体であり、強い磁力に引き寄せられることが知られている。空気雰囲気下に磁力の強い磁石が存在すると、常磁性体である酸素が磁石に引きつけられ、一方窒素は磁石に引きつけられることはない。さらに、酸素と窒素の比重の違いにより、空気中において、酸素は窒素よりも下方に沈む傾向にある。熱分解処理槽の底部に磁石ユニットを配置しておくと、熱分解処理槽内部の空気中で、比重が大きく常磁性体である酸素のみが磁石ユニットのある方に誘導されるので、熱分解処理槽内部には酸素濃度の勾配が発生する。すなわち、熱分解処理槽底部に配置された磁石ユニットの近傍の酸素濃度は高くなり(例えば21%を超える酸素濃度)、熱分解処理槽上部の酸素濃度は低くなる(例えば21%を下回る酸素濃度)。熱分解処理槽底部に磁石ユニットを配置することで、熱分解処理槽上部に、限界酸素濃度を下回る環境を作り出すことが可能となる。このように、熱分解処理槽に導入された空気中の酸素を磁石ユニットに引き付けるためには、磁石ユニットを構成する磁石の残留磁束密度が900mT以上、好ましくは1000mT以上、さらに好ましくは1200mT以上である必要がある。
【0013】
磁石ユニットに引き寄せられ、熱分解処理槽の底部に集積した酸素は、熱分解処理槽の側面底部又は底面に設けられた酸素排出口より熱分解処理槽の外部に排出される。これにより熱分解処理槽内部に低酸素濃度環境を作り出すことができる。低酸素濃度環境とは、熱分解処理槽内部の気体が、空気中の酸素の含有量(約21%)を下回る酸素濃度を有することを意味する。本発明の熱分解装置を用いて被処理物を熱分解するのに適した酸素濃度は、17%以下、12%以下、さらには9%以下である。低酸素濃度状態の空気を、低酸素濃度空気と呼ぶものとする。
【0014】
熱分解処理槽は、さらに加熱手段を有する。加熱手段は、被処理物を熱分解するために被処理物の温度を上昇させるための手段である。加熱手段として、電熱線を用いることが好ましい。加熱手段を用いて、熱分解処理槽内部にある被処理物の一角の温度を150℃以上、好ましくは200℃以上さらに好ましくは250℃以上にすることができる。熱分解処理槽内部を上記の低酸素濃度環境にし、加熱手段を用いて温度を上昇させると、熱分解処理槽内部の被処理物が熱分解する。上記の通り、低酸素濃度空気中で温度を上昇させると、被処理物は燃焼することはない。加熱手段により熱分解処理槽内部にある被処理物の一部の温度が上昇し、被処理物の熱分解反応が開始すると、反応は連鎖的かつ自発的に進む。したがって、それ以上加熱手段による加熱を行う必要はない。被処理物の熱分解反応が開始した後は、加熱手段を適宜熱分解処理槽外部に取り出すことができる。
【0015】
都市ゴミを燃焼させ、焼却処理を行った場合、生成する焼却灰についてエネルギー分散型蛍光X線分析装置による定性分析(EDX分析)を行うと、その構成元素から計算した焼却灰の構成成分は、酸化カルシウム(CaO)約38%、塩素(Cl)約18%、二酸化ケイ素(SiO)約11%、酸化ナトリウム(NaO)約8%、酸化カリウム(KO)約7%等の無機塩である(全て質量%)ことが知られている。都市ゴミの主成分は廃プラスチックや廃樹脂と、生ゴミ、紙類、食品廃棄物等の動植物由来有機物等とを含んだ、種々の廃棄物の混合物である。都市ゴミの大部分の成分は、有機物(主成分は炭素(C))であり、その他カルシウム(Ca)、塩素(Cl)、金属等の無機物が含まれている。ところが、都市ゴミを燃焼させて形成された焼却灰には、有機物由来の炭素(C)がほとんど含まれていない。有機物由来の炭素は、燃焼の際に、空気中の酸素と化合して二酸化炭素を形成し、排ガスとして排出されてしまうからである。
【0016】
一方、一の実施形態の製造方法により、都市ゴミを熱分解処理して得られる熱分解残渣についてEDX分析を行うと、構成元素は、酸素(O)約38%、カルシウム(Ca)約22%、炭素(C)約16%、ケイ素(Si)約7%(全て質量%)である。都市ゴミの熱分解残渣の構成元素から計算した、熱分解残渣の構成成分は、炭酸カルシウム(CaCO)を主成分とする炭酸塩であることがわかった。ここで主成分という場合、熱分解残渣の質量のおよそ60%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上が炭酸カルシウムで構成されていることを意味するものとする。被処理物である都市ゴミが、動植物由来有機物のみで構成されている場合、一の実施形態の製造方法で得られる熱分解残渣に含まれている炭酸カルシウムの含有率は、質量でおよそ85%以上になる。一方、被処理物である都市ゴミが、動植物由来有機物と樹脂との混合物である場合は、一の実施形態の製造方法で得られる熱分解残渣に含まれている炭酸カルシウムの含有率はやや減少することがわかっている。そこで被処理物として動植物由来有機物と樹脂との混合物を用いる場合は、必要な炭酸カルシウム含有率に合わせて、適宜これらの混合比を調節することが好ましい。さらに都市ゴミを熱分解処理して得られる熱分解残渣の構成成分には、少量の木炭、および他の炭酸塩(炭酸マグネシウム、炭酸カリウム等)が含まれている。都市ゴミの熱分解処理の反応を経時的に追跡したところ熱分解処理の途中で、木酢液および木タールが形成されていることがわかった。すなわち、都市ゴミの熱分解反応は、木材の乾留に類するメカニズムにて進行していることが推測できる。
都市ゴミの大部分を構成している有機化合物は、主に、炭素、水素、酸素、窒素の各原子から構成されている。そのうち、酸素(O)原子は、主に下記の構造:
【化1】

のように、アルコール、エーテル結合、カルボニル基、エステル結合の形で存在している。一方、都市ゴミの熱分解処理により中間的に発生する木酢液(主成分である酢酸)の構造は、以下:
【化2】

である。一方、熱分解処理の最終生成物である熱分解残渣に主成分として含まれている炭酸塩(炭酸イオン)の構造は、以下:
【化3】

である。これらの化学式中の酸素の結合様式を比較すると、都市ゴミに含まれている有機化合物は、熱分解して、木酢液に変化していると考えることができる。また、炭酸イオンと酢酸の結合様式が非常に似ており、化学構造上、これらに類する結合様式を含む分子種も存在しないことから、都市ゴミの熱分解処理により得られる熱分解残渣に主成分として含まれている炭酸塩は、木酢液由来のものであることが推測できる。
先に記載した通り、都市ゴミに多く含まれている動植物由来有機物にはカルシウムが多く含まれているため、生成した炭酸イオンはカルシウムイオンと結合して炭酸カルシウム(CaCO)を生成すると考えられる。なお、このような熱分解反応は、被処理物である都市ゴミの一部の温度が上昇し、一旦熱分解反応が開始すると、燃料や酸素を供給しなくても連鎖的かつ自発的に進む。これは、有機物の熱分解反応を構成する各種反応(たとえば、ヘミセルロース、セルロースおよびリグニンがそれぞれ熱分解する反応)が発熱反応であるためである。
【0017】
このように、都市ゴミの燃焼による焼却灰と、熱分解による熱分解残渣の構成成分には、明確な違いが見られる。本発明の一の実施形態の製造方法は、熱分解装置により都市ゴミのような、少なくとも動植物由来有機物を含む被処理物を熱分解する工程を含むので、排ガスの大部分(85%超)は窒素であり、二酸化炭素はほぼ排出されない。一方、形成される熱分解残渣の主成分は炭酸カルシウムであるので、これを有価物として取引することが可能である。一の実施形態の製造方法によれば、二酸化炭素を含む温室効果ガスを排出することなく、炭酸カルシウムを含む熱分解残渣(有価物)を得ることができることになる。
【0018】
本発明の二の実施形態は、上記の一の実施形態の製造方法に用いるための熱分解装置である。二の実施形態の熱分解装置は、上面又は側面に空気導入口が設けられ、側面底部又は底面に酸素排出口が設けられた、物質を熱分解するための熱分解処理槽と、前記熱分解処理槽の底部に位置する磁石ユニットと、加熱手段と、を少なくとも含む。
【0019】
二の実施形態の熱分解装置を、図面を用いて説明する。図面は、本発明の二の実施形態の熱分解装置の一例を示すものであって、本発明の熱分解装置を限定することを意図するものではない。
図1は、二の実施形態の熱分解装置1の構成を模式的に示したものである。図中、10:熱分解処理槽、11:空気導入口、12:酸素排出口、13:排ガス排出口、14:被処理物導入口、15:熱分解残渣排出口、16:磁石ユニット、17:加熱手段、18:排ガス濾過塔、19:排ガス濾過ユニットである。熱分解処理槽10の内部は底部が逆円錐形であり、被処理物は熱分解処理槽10の底部中央に被処理物および熱分解残渣が集まるような形状をしていることが好ましい。熱分解処理槽10は、概ね筒状、直方体状、立方体状、球状等、被処理物を所定の時間収容することが可能であれば、種々の形状をしていてよく、鉄、鋼、ステンレス等の材料で形成されていることが好ましい。熱分解処理槽10の内容積は、被処理物の量にもよるが、約0.4m-4.0m、あるいは約0.8m-2.0m、好ましくは約0.5m-1.0mである。熱分解処理槽10は、空気導入口11や酸素排出口12等の出入り口を全て塞ぐことにより密閉することができる。
【0020】
続いて、二の実施形態の熱分解装置を用いて、一の実施形態の製造方法を行う手順を説明する。まず、熱分解処理槽10の内部に、被処理物導入口14から被処理物を導入する(図中二重線で示される矢印)。被処理物導入口14から熱分解処理槽10に導入される被処理物は、生ごみ、紙類(たとえば新聞紙、ダンボール、雑誌、コピー用紙、シュレッダ処理済み紙)、食品、生物死体等の動植物由来有機物を含み、場合により、樹脂(たとえば、使用済みの各種プラスチック成形品や各種樹脂成形品を含む廃プラスチックや廃樹脂、プラスチック製手袋、プラスチック製シリンジ、樹脂製チューブ等の使用済み医療用器具)を含んでいて良い、廃棄物混合物である。熱分解処理槽10に導入された被処理物は、熱分解処理槽10の底部に集積される。
【0021】
続いて熱分解処理槽10の内部に、空気導入口11から空気を導入する(図中実線で示される矢印)。空気導入口11は、1つ以上設けられ、2以上設けることもできる。空気導入口11は、熱分解処理槽10の上面、側面又は底面のいずれに設けられていても良い。図中では、図面向かって、熱分解処理槽10の左側面と右側面とに1つずつの空気導入口11が設けられている。空気導入口11から導入された空気中の酸素は、常磁性体であるため、強力な残留磁束密度を有する磁石ユニット16に引きつけられる。磁石ユニット16は、1以上の磁石から構成され、磁石は、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、アルニコ磁石、電磁石およびこれらの2つ以上の組み合わせからなる群より選択されることが好ましい。磁石の残留磁束密度は、900mT以上、好ましくは1000mT以上、さらに好ましくは1200mT以上である。磁石ユニット16は、熱分解処理槽10の底部に1つ以上設けられている。磁石ユニット16は、必要に応じて2以上配置することもできる。熱分解処理槽10の底部に設けられた磁石ユニット16に引きつけられた空気中の酸素は、熱分解処理槽10の底部方向に誘導される。空気中の酸素が熱分解処理槽10の底部に誘導された結果、熱分解処理槽10の上部空間の気体中に含まれている酸素は相対的に減少し、この結果、熱分解処理槽10の内部の酸素濃度に勾配ができる。熱分解処理槽10の底部に誘導された酸素は、酸素排出口12より熱分解処理槽10の外部に排出される(図中破線で示される矢印)。酸素排出口12は、1つ以上設けられ、2以上設けることもできる。酸素排出口12は、熱分解処理槽10の側面底部又は底面に設けられていることが好ましい。図中では、熱分解処理槽10の底面やや左とやや右とに1つずつの酸素排出口12が設けられている。こうして、熱分解処理槽10の内部が、酸素濃度17%以下、好ましくは12%以下、さらに好ましくは9%以下の低酸素濃度環境になったところで、加熱手段17を作動させ被処理物の一部を加熱する。加熱手段として、電熱線を用いることが好ましい。加熱手段17により加熱して、熱分解処理槽10の内部にある被処理物の一部の温度がおよそ150℃以上、好ましくは200℃以上、さらに好ましくは250℃以上になると、導入された被処理物の熱分解が開始する。被処理物の熱分解が開始すると、大量の空気や燃料等の投入は不要であり、そのまま連鎖的かつ自発的に熱分解が進行する。熱分解の進行により発生する熱分解残渣が熱分解処理槽10の底部に堆積していくと、被処理物が燻焼状態となる。燻焼状態の被処理物自体が熱源となって熱分解処理槽10内部の温度の維持に役立つ。
【0022】
こうして、低酸素濃度環境下で被処理物の熱分解は進行し、炭酸塩(炭酸カルシウム)を主成分とする熱分解残渣となる。熱分解残渣は、熱分解中に熱分解残渣排出口15から随時排出することもできるが、熱分解が終了した後に、発生した全ての熱分解残渣をまとめて熱分解残渣排出口15から排出することもできる。熱分解残渣排出口15は、熱分解処理槽10の側面底部や底面に設けることができる。図中では、図面向かって、熱分解処理槽10の手前側側面底部に熱分解残渣排出口15が設けられている。熱分解残渣排出口15から排出された熱分解残渣には、炭酸カルシウムが多く(およそ60%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上)含まれているため、これを有価物として取引することができる。また、熱分解処理により生じた排ガスは、排ガス濾過塔18に通過させることができる。排ガスは、図中点線で示される矢印のように、排ガス濾過塔18内部に配置された、水、濾紙等の各種吸着剤から構成された排ガス濾過ユニット19に通過させる。こうして臭気等が除去された排ガスは、排ガス排出口13から排出される。排出される排ガスの80%以上は窒素であり、排ガス中に二酸化炭素はほとんど含まれていない。一方、排ガス濾過塔18内部に配置され、排ガスが通過した排ガス濾過ユニット19に含まれている吸着剤(たとえば水)は、適宜環境分析した上で、排ガス濾過塔18に設けられた吸着剤排出口から排出することができる(吸着剤排出口は図示せず)。
【0023】
本発明の熱分解装置を用いて、廃棄物等の被処理物を熱分解処理し、炭酸カルシウムを含む熱分解残渣を製造することができる。この際、廃棄物を燃焼させて焼却処理するために必要であった大量の空気や燃料は不要である。本発明の熱分解装置を用いて廃棄物を含む被処理物を熱分解処理すると、二酸化炭素を含む温室効果ガスを発生させることがなく、また熱分解処理により発生した熱分解残渣は、炭酸塩を主成分として含み、これを有価物として取引可能である。
【符号の説明】
【0024】
1 熱分解装置
10 熱分解処理槽
11 空気導入口
12 酸素排出口
13 排ガス排出口
14 被処理物導入口
15 熱分解残渣排出口
16 磁石ユニット
17 加熱手段
18 排ガス濾過塔
19 排ガス濾過ユニット
【要約】
【課題】廃棄物を燃焼させずに熱分解させることにより、二酸化炭素を含む温室効果ガスをほぼ排出することなく、廃棄物中の有機物のほぼすべてを炭酸塩として回収することが可能な、熱分解装置、および熱分解装置を用いて炭酸カルシウムを含む熱分解残渣を製造する方法を提供すること。
【解決手段】上面又は側面に空気導入口が設けられ、側面底部又は底面に酸素排出口が設けられた、物質を熱分解するための熱分解処理槽と、
前記熱分解処理槽の底部に位置する磁石ユニットと、
加熱手段と、
を少なくとも含む、熱分解装置、および熱分解装置を用いて、少なくとも動植物由来有機物を含む被処理物から、炭酸カルシウムを含む熱分解残渣を製造する方法を提供する。
【選択図】 図1
図1