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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】歯科加工用ブランクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/09 20060101AFI20240723BHJP
   A61C 5/70 20170101ALI20240723BHJP
   A61C 13/087 20060101ALI20240723BHJP
   A61C 13/07 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
A61C13/09
A61C5/70
A61C13/087
A61C13/07
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020157556
(22)【出願日】2020-09-18
(65)【公開番号】P2022051208
(43)【公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】山根 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】永沢 友康
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-151339(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0175802(US,A1)
【文献】特開2017-113224(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0014589(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 13/09
A61C 5/70
A61C 13/087
A61C 13/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性単量体、無機フィラー及び重合開始剤を含むペースト状重合硬化性組成物からなる層が複数層積層されたペースト積層体の硬化体からなる被切削部を有する歯科加工用ブランクを製造する方法において、
A: 両端が開口し、内部に柱状空洞部が形成された筒状体からなる複数の型枠ユニットからなる型枠キットであって、前記複数の型枠ユニットを前記筒状体の軸方向に連結することにより、各型枠ユニットの筒状体及び柱状空洞部が夫々連結して形成された連結筒状体及び連結柱状空洞部を有する連結型枠を形成し得る前記型枠キットを準備する工程;
B:上記工程で準備された複数の型枠ユニットの夫々に充填される複数種のペースト状重合硬化性組成物を準備する工程;
C: 上記工程で準備された複数の型枠ユニットの夫々に前記ペースト状重合硬化性組成物を充填して、複数のペースト充填型枠ユニットを作製する工程;
D: 上記工程で得られた複数のペースト充填型枠ユニットを順次連結して、前記連結型枠を形成すると共に、その連結柱状空洞部内において、各ペースト充填型枠ユニットに充填されたペースト状重合硬化性組成物を接合してペースト積層体を形成することにより、ペースト積層体充填連結型枠を得る工程;
E: 上記工程で得られたペースト積層体充填連結型枠を前記筒状体の軸方向に加圧する加圧工程;並びに
F: 上記工程で加圧された前記連結柱状空洞部内部のペースト積層体を硬化させて硬化体とする硬化工程;
を含む、
ことを特徴とする前記歯科加工用ブランクの製造方法。
【請求項2】
前記工程Bにおいて、互いに色調の異なるペースト状重合硬化性組成物を準備し、前記工程Cにおいて、各型枠ユニットに夫々異なる色調のペースト状重合硬化性組成物を充填する、請求項1に記載の歯科加工用ブランクの製造方法。
【請求項3】
前記型枠キットが2つの型枠ユニットからなり、その一方を基端型枠ユニットとし、他方を先端型枠ユニットとしたときに、
前記工程Cでは、基端型枠ユニット及び先端型枠ユニットの夫々について、前記柱状空洞部内に充填されるペースト状重合硬化性組成物と接触する平坦な接触面を有し、充填されたペースト状重合硬化性組成物を他方側の開口である供給側開口から押し出すための押出板を、前記柱状空洞部内を進退自在且つ着脱自在に嵌挿して各型枠ユニットの一方の端部開口である閉側開口を塞いでから前記柱状空洞部内に前記ペースト状重合硬化性組成物を密に充填することによって、一方側の開口である閉鎖側開口が押出板で塞がれ、他方側の開口である供給側開口に平面状又は実質的に平面状のペースト接合面が形成された、ペースト充填基端型枠ユニット及びペースト充填先端型枠ユニットを作製し、
前記工程Dは、
Da1: ペースト充填基端型枠ユニット及びペースト充填先端型枠ユニットの少なくとも一方について、押出板を供給側開口に向けて移動させてペースト状重合硬化性組成物を押し出して、該ペースト状重合硬化性組成物の一部を供給側開口から突出せしめて、ペースト接合面を凸曲面状とする工程;及び
Da2: 前記工程後に、ペースト充填基端型枠ユニットのペースト接合面とペースト充填先端型枠ユニットのペースト接合面とが重なるように両ペースト充填型枠ユニットを連結して、連結型枠を形成すると共に、その連結柱状空洞部内において、両ペースト充填型枠ユニットに充填されたペースト状重合硬化性組成物を接合してペースト積層体を形成して、連結型枠の両端開口が押出板で実質的に塞がれたペースト積層体充填連結型枠を得る工程;
を含む、
請求項1又は2に記載の歯科加工用ブランクの製造方法。
【請求項4】
前記型枠キットが3つ以上の型枠ユニットからなり、前記連結型枠の一方端部及び他方端部に配置される型枠ユニットを、夫々、基端型枠ユニット及び先端型枠ユニットとし、これら両型枠ユニット間に配置される型枠ユニットを中間型枠ユニットとしたときに、
前記工程Cでは、基端型枠ユニット、先端型枠ユニット及び中間型枠ユニットの各々について、前記柱状空洞部内に充填されるペースト状重合硬化性組成物と接触する平坦な接触面を有し、充填された前記ペースト状重合硬化性組成物を他方側の開口から押し出すための押出板を、柱状空洞部内を進退自在且つ着脱自在に嵌挿して各型枠ユニットの一方の端部開口を塞ぎ、次いでペースト状重合硬化性組成物を柱状空洞部内に密に充填することによって、一方側の開口である閉鎖側開口が押出板で塞がれ、他方側の開口である供給側開口に平面状又は実質的に平面状のペースト接合面が形成された、ペースト充填基端型枠ユニット、ペースト充填先端型枠ユニット及びペースト充填中間端型枠ユニットを作製し、
前記工程Dは、
Db1: ペースト充填基端型枠ユニット及びこれに隣接して配置されるペースト充填中間型枠ユニットの少なくとも一方について、押出板を供給側開口に向けて移動させてペースト状重合硬化性組成物を押し出して、該ペースト状重合硬化性組成物の一部を供給側開口から突出せしめて、ペースト接合面を凸曲面状とする工程:
Db2: 前記工程後に、ペースト充填基端型枠ユニットのペースト接合面とペースト充填中間型枠ユニットのペースト接合面とが重なるようにして重ね合わせを行うことにより両型枠ユニットを連結して、両型枠ユニットの連型体からなる部分連結型枠を形成すると共に、その内部において、両ペースト充填型枠ユニットに充填されたペースト状重合硬化性組成物を接合してペースト部分積層体を形成してからペースト充填中間型枠ユニットの閉鎖側開口を塞ぐ押出板を除去して当該閉鎖側開口を部分連結型枠の供給側開口として平面状又は実質的に平面状のペースト接合面を有する、部分ペースト積層体充填連結型枠を得る工程;
Db3: 部分ペースト積層体充填連結型枠に隣接配置すべきペースト充填中間型枠ユニットが存在しない場合には、前記工程で得られた部分ペースト積層体充填連結型枠を最終部分ペースト積層体充填連結型枠とし、
部分ペースト積層体充填連結型枠に隣接配置すべきペースト充填中間型枠ユニットが更に存在する場には、隣接配置すべきペースト充填中間型枠ユニットが無くなるまで、部分ペースト積層体充填連結型枠におけるペースト充填基端型枠ユニットの押出板及び/又は隣接配置すべきペースト充填中間型枠ユニットの押出板を供給側開口に向けて移動させてペースト状重合硬化性組成物を押し出して、部分ペースト積層体充填連結型枠と隣接配置すべきペースト充填中間型枠ユニットとの少なくとも一方のペースト接合面を凸曲面状としてから、両者のペースト接合面が重なるようにして重ね合わせることによる連結及び押出板の除去操作を繰り返すことによって、連結されるペースト充填中間型枠ユニット数及び形成されるペースト部分積層体の層数が増やされた、平面状又は実質的に平面状のペースト接合面を有する延長部分ペースト積層体充填連結型枠を最終部分ペースト積層体充填連結型枠として得る、工程;及び
Db4: 上記工程で得られた最終部分ペースト積層体充填連結型枠におけるペースト充填基端型枠ユニットの押出板及び/又はペースト充填先端型枠ユニットの押出板を供給側開口に向けて移動させてペースト状重合硬化性組成物を押し出して、最終部分ペースト積層体充填連結型枠とペースト充填先端型枠ユニットとの少なくとも一方のペースト接合面を凸曲面状としてから、両者のペースト接合面が重なるようにして重ね合わせを行うことにより両ペースト充填型枠ユニットを連結して、連結型枠を形成すると共に、その連結柱状空洞部内において、両ペースト充填型枠ユニットに充填されたペースト状重合硬化性組成物を接合してペースト積層体を形成して、連結型枠の両端開口が押出板で実質的に塞がれたペースト積層体充填連結型枠を得る工程;
を含む、
請求項1又は2に記載の歯科加工用ブランクの製造方法。
【請求項5】
前記工程Eにおける加圧により、ペースト積層体充填連結型枠における、型枠ユニットの連結部の少なくとも一部及び/又は連結柱状空洞部と前記両押出板との摺接部の少なくとも一部から余剰のペースト状重合硬化性組成物を滲出させながらペースト積層体における層間密着性及びペースト積層体と連結型枠内面との密着性の向上を図る、
請求項3又は4に記載の歯科加工用ブランクの製造方法。
【請求項6】
前記工程E(加圧工程)における加圧を、0.024~0.60MPaの圧力を1~120分の間加えることにより行う、請求項5に記載の歯科加工用ブランクの製造方法。
【請求項7】
前記工程Db2終了後のタイミング、及び前記工程Db3において少なくとも1回行われる前記重ね合わせによる連結終了後であって押出板除去前のタイミングからなる群より選ばれる少なくとも1つのタイミングで、部分ペースト積層体充填連結型枠及び/又は延長部分ペースト積層体充填連結型枠を前記筒状体の軸方向に加圧する予備加圧工程を行う、請求項4に記載の前記歯科加工用ブランクの製造方法。
【請求項8】
前記工程Bで、何れも熱重合開始剤を含む複数種のペースト状重合硬化性組成物を準備し、
前記工程F(硬化工程)における硬化を、前記工程E(加圧工程)を経た前記ペースト積層体充填連結型枠を、下記ステップ1~3:
ステップ1:30℃以上45℃以下の温度範囲内に少なくとも2時間保持するステップ
ステップ2:45℃を越え65℃以下の温度範囲内に少なくとも5時間保持するステップ
ステップ3:65℃を越え~100℃以下の温度範囲内に少なくとも2時間保持するステップ
を順次行う昇温パターンで加熱することにより行う、
請求項1~7の何れか1項に記載の歯科加工用ブランクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯冠、部分歯冠、義歯等の歯科用補綴物を切削して加工する歯科加工用ブランク、特に、その被切削部が、色調等が異なるハイブリッドレジン層が積層された積層体からなる歯科加工用ブランクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療に用いられる歯科用補綴物は、一般に、金や銀、チタン、パラジウム合金等のように金属材料から鋳造によって成形されるか、セラミックスやハイブリッドレジン等の非金属材料を加工することによって成形されるか、又はコア部を金属材料で構成し、前装部等の表層部を非金属材料で構成することにより形成されている。なお、ハイブリッドレジンとはレジンマトリックス中に無機充填材(以下、「無機フィラー」ともいう)が高密度で分散された複合材料を意味し、通常は、重合性単量体、無機フィラー及び重合開始剤を含むペースト状重合硬化性組成物を加圧・加熱する等して重合硬化させることによって得られる。
【0003】
非金属材料を用いて全体を構成した歯科用補綴物は、金属アレルギーの心配がなく審美性に優れるという特長を有することに加え、近年のデジタル画像技術やコンピュータ処理技術等の発達により、その加工が容易になったことも有り、その需要は急速に高まっている。例えば、特許文献1に開示されているように、口腔内の撮影画像から、コンピュータ支援設計(CAD:Computer Adid Design)及びコンピュータ支援製造(CAM:Computer Aided Manufacturing)技術によるCAD/CAM装置を用いて、非金属材料からなる歯科加工用ブランクに切削加工を施して歯科用補綴物を成形するCAD/CAMシステムが多用されるようになってきている。ここで、歯科加工用ブランクとは、CAD/CAMシステムにおける切削加工機に取り付け可能にされた被切削体(ミルブランクとも呼ばれる。)を意味し、通常は、被切削部と、これを切削加工機に取り付け可能にするための保持部と、を有する。そして、被切削部としては、直方体や円柱の形状に成形された(ソリッド)ブロック又は板状若しくは盤状に形成された(ソリッド)ディスク等が一般的に知られており、被切削部がハイブリッドレジンからなるものも知られている。
【0004】
ところで、歯冠歯列修復治療では、歯科用補綴物に天然組織と等しい、あるいは近い色調や外観等の審美性が要求される場合がある。このような審美性を確保するためには、例えば、単一の色調からなる歯科加工用ブランクから製作する場合では十分でない場合も多く、異なる色調の歯科加工用ブランクから製作することが行われている。そのためには、異なる色調の複数の層を一体化した多層構造の歯科加工用ブランクが用いられる。
【0005】
例えば、特許文献2には、審美的効果に優れ、被覆処理等の特別な加工を行わなくとも機械的強度に優れ、長期にわたって安定的に使用でき、切削、研削等の加工性に優れ、泡がブロックの内部に残留することがなく、複数の樹脂層の重ね合わせによりブロックを形成するとき、加圧工程を伴うことなく樹脂層どうしを強固に結合させるとともに、天然に近い色調及びさらに向上された審美的効果を備え、色調にグラデーションを与えた歯科補綴物加工用ブロックを形成することができる方法として、次のような方法が提案されている。すなわち、複数のブロック構成員の一体的な結合体からなる歯科補綴物加工用ブロックを製造する方法であって、ブロックの外面形状に対応する内面形状を備えた鋳型を準備する工程と、前記鋳型に、硬化処理により前記ブロックを形成可能な、樹脂とそれに分散せしめられた無機充填材とを含む複合樹脂材を充填する工程と、前記複合樹脂材を前記鋳型に収容したまま、前記複合樹脂材を回転攪拌処理に供する工程と、攪拌処理後の前記複合樹脂材を重合により硬化させる工程とを含み、前記複合樹脂材を複数回に分けて充填し、それぞれの充填工程の後に前記回転攪拌処理工程及び前記硬化工程を順次実施し、最後の硬化工程の後、得られた硬化物をさらに重合して硬化させることにより前記結合体を形成する歯科補綴物加工用ブロックの製造方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献3には、汎用性と生産性に優れ、なおかつ天然歯の美観の再現性が高いとする歯科CAD/CAM用切削ブロックとして、象牙質修復用レジン層とエナメル質修復用レジン層とが積層された歯科CAD/CAM用レジン系ブロックであって、少なくとも象牙質修復用レジン層は光拡散性粒子を含有し、特定の拡散比を有する歯科CAD/CAM用切削ブロックが提案されている。そして、特許文献3には、象牙質修復用レジン層となる組成物を金型へ気泡を巻き込まないように所定の高さまで填入し、上面を平滑化した後、加熱加圧重合した後に、エナメル質修復用レジン層となる組成物を前記金型内に追加填入し、上面を平滑化した後、加熱加圧重合することより上記ブロックを得たことが記載されている。
【0007】
更に、特許文献4には、審美性が高く、かつ機械的強度も高いとする積層されたミルブランクの製造方法が開示されている。このミルブランクの製造方法は、たとえば、成形型となる所定の底面積及び高さを有するフッ素樹脂製の容器内に複数のペースト状重合硬化性組成物を夫々所定の厚みとなるように順次充填して重合前の積層体を得てから当該積層体を重合する工程を含むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2016-535610号公報
【文献】国際公開第2009/154301号パンフレット
【文献】特開2017-213394号公報
【文献】特開2017-113224号公報
【文献】特開2015-097854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2及び3に開示された多層構造の歯科加工用ブランク(歯科補綴物加工用ブロック又は歯科CAD/CAM用切削ブロック)の製造方法は、下地層の原料となる硬化性組成物を金型に充填して重合硬化させて(硬化体の)下地層を形成してから、更に上層の原料となるペースト状硬化性組成物を前記金型に追加充填して重合硬化させて(硬化体の)上層を形成するものであり、加圧加熱や光照射を要する重合硬化処理を複数回行う必要がある。また、隣接する2つの層の原料となるペースト状重合硬化性組成物の層の界面において両組成物が微視的に混ざり合わないために、重合後の前記界面において強度低下がみられることある。
【0010】
これに対し、特許文献4に記載された方法では、各層の原料となるペースト状硬化性組成物の(重合前の)積層体(以下、「ペースト積層体」とも言う。)を得てから重合を行うため、重合硬化処理は1回で済み、層間の界面強度を高くすることができるというメリットがある。
【0011】
しかし、特にペースト状硬化性組成物の総質量に占める無機充填材の質量の割合(以下、「無機フィラー充填率」ともいう。)が高い場合には、ペーストの積層方法によっては、層間の境界が乱れたり、層間に気泡が入ってしまったりすることがある。たとえば、1つの型内に種類の異なるペースト状硬化性組成物を順次充填して積層する場合には、1段目の充填を行った後に(境界面となる)上面が平面となるように整えてから2段目の充填を行っても充填時のペーストの流動によって層間の境界が乱れてしまうことがあった。そしてこのような乱れに起因して、得られる製品が、乱れた層間界面を有するものとなってしまったり、内部に空隙を含み、強度低下や切削加工時におけるチッピングが発生し易いものとなってしまったりすることがあった。
【0012】
そこで、本発明は、ハイブリッドレジンで構成される層が複数積層されたハイブリッドレジン積層体からなる被切削部を有する歯科加工用ブランクを製造する方法であって、ハイブリッドレジンの原料となるペースト状硬化性組成物を重合硬化させる回数を少なくすることができ、しかも、無機フィラー充填率の高いペースト状硬化性組成物を用いた場合でも、被切削部となるハイブリッドレジン積層体について、層の界面の乱れの発生や内部界面における空隙の発生を抑制して、強度低下やチッピングが起こらないように各層をきれい且つ確実に積層されたものとすることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前記課題を解決するものであり、本発明の形態は、重合性単量体、無機フィラー及び重合開始剤を含むペースト状重合硬化性組成物からなる層が複数層積層されたペースト積層体の硬化体からなる被切削部を有する歯科加工用ブランクを製造する方法において、
A: 両端が開口し、内部に柱状空洞部が形成された筒状体からなる複数の型枠ユニットからなる型枠キットであって、前記複数の型枠ユニットを前記筒状体の軸方向に連結することにより、各型枠ユニットの筒状体及び柱状空洞部が夫々連結して形成された連結筒状体及び連結柱状空洞部を有する連結型枠を形成し得る前記型枠キットを準備する工程;
B:上記工程で準備された複数の型枠ユニットの夫々に充填される複数種のペースト状重合硬化性組成物を準備する工程;
C: 上記工程で準備された複数の型枠ユニットの夫々に前記ペースト状重合硬化性組成物を充填して、複数のペースト充填型枠ユニットを作製する工程;
D: 上記工程で得られた複数のペースト充填型枠ユニットを順次連結して、前記連結型枠を形成すると共に、その連結柱状空洞部内において、各ペースト充填型枠ユニットに充填されたペースト状重合硬化性組成物を接合してペースト積層体を形成することにより、ペースト積層体充填連結型枠を得る工程;
E: 上記工程で得られたペースト積層体充填連結型枠を前記筒状体の軸方向に加圧する加圧工程;並びに
F: 上記工程で加圧された前記連結柱状空洞部内部のペースト積層体を硬化させて硬化体とする硬化工程;
を含む、ことを特徴とする前記歯科加工用ブランクの製造方法である。
【0014】
上記形態の歯科加工用ブランクの製造方法(以下、「本発明の製造方法」とも言う。)では、前記工程Bにおいて、互いに色調の異なるペースト状重合硬化性組成物を準備し、前記工程Cにおいて、各型枠ユニットに夫々異なる色調のペースト状重合硬化性組成物を充填することが好ましい。
【0015】
また、本発明の製造方法は、前記型枠キットが2つの型枠ユニットからなる場合と、3つ以上の型枠ユニットからなる場合を含み、夫々は、次のような方法であることが好ましい。
【0016】
すなわち、前記型枠キットが2つの型枠ユニットからなる場合には、その一方を基端型枠ユニットとし、他方を先端型枠ユニットとしたときに、
前記工程Cでは、基端型枠ユニット及び先端型枠ユニットの夫々について、前記柱状空洞部内に充填されるペースト状重合硬化性組成物と接触する平坦な接触面を有し、充填されたペースト状重合硬化性組成物を他方側の開口である供給側開口から押し出すための押出板を、前記柱状空洞部内を進退自在且つ着脱自在に嵌挿して各型枠ユニットの一方の端部開口である閉鎖側開口を塞いでから前記柱状空洞部内に前記ペースト状重合硬化性組成物を密に充填することによって、一方側の開口である閉鎖側開口が押出板で塞がれ、他方側の開口である供給側開口に平面状又は実質的に平面状のペースト接合面が形成された、ペースト充填基端型枠ユニット及びペースト充填先端型枠ユニットを作製し、
前記工程Dは、
Da1: ペースト充填基端型枠ユニット及びペースト充填先端型枠ユニットの少なくとも一方について、押出板を供給側開口に向けて移動させてペースト状重合硬化性組成物を押し出して、該ペースト状重合硬化性組成物の一部を供給側開口から突出せしめて、ペースト接合面を凸曲面状とする工程;及び
Da2: 前記工程後に、ペースト充填基端型枠ユニットのペースト接合面とペースト充填先端型枠ユニットのペースト接合面とが重なるように両ペースト充填型枠ユニットを連結して、連結型枠を形成すると共に、その連結柱状空洞部内において、両ペースト充填型枠ユニットに充填されたペースト状重合硬化性組成物を接合してペースト積層体を形成して、連結型枠の両端開口が押出板で実質的に塞がれたペースト積層体充填連結型枠を得る工程;を含む方法(以下、「2ユニット積層法」とも言う。)であることが好ましい。
【0017】
また、前記型枠キットが3つ以上の型枠ユニットからなる場合には、前記連結型枠の一方端部及び他方端部に配置される型枠ユニットを、夫々、基端型枠ユニット及び先端型枠ユニットとし、これら両型枠ユニット間に配置される型枠ユニットを中間型枠ユニットとしたときに、
前記工程Cでは、基端型枠ユニット、先端型枠ユニット及び中間型枠ユニットの各々について、前記柱状空洞部内に充填されるペースト状重合硬化性組成物と接触する平坦な接触面を有し、充填された前記ペースト状重合硬化性組成物を他方側の開口から押し出すための押出板を、柱状空洞部内を進退自在且つ着脱自在に嵌挿して各型枠ユニットの一方の端部開口を塞ぎ、次いでペースト状重合硬化性組成物を柱状空洞部内に密に充填することによって、一方側の開口である閉鎖側開口が押出板で塞がれ、他方側の開口である供給側開口に平面状又は実質的に平面状のペースト接合面が形成された、ペースト充填基端型枠ユニット、ペースト充填先端型枠ユニット及びペースト充填中間端型枠ユニットを作製し、
前記工程Dは、
Db1: ペースト充填基端型枠ユニット及びこれに隣接して配置されるペースト充填中間型枠ユニットの少なくとも一方について、押出板を供給側開口に向けて移動させてペースト状重合硬化性組成物を押し出して、該ペースト状重合硬化性組成物の一部を供給側開口から突出せしめて、ペースト接合面を凸曲面状とする工程:
Db2: 前記工程後に、ペースト充填基端型枠ユニットのペースト接合面とペースト充填中間型枠ユニットのペースト接合面とが重なるようにして重ね合わせを行うことにより両型枠ユニットを連結して、両型枠ユニットの連型体からなる部分連結型枠を形成すると共に、その内部において、両ペースト充填型枠ユニットに充填されたペースト状重合硬化性組成物を接合してペースト部分積層体を形成してからペースト充填中間型枠ユニットの閉鎖側開口を塞ぐ押出板を除去して当該閉鎖側開口を部分連結型枠の供給側開口として平面状又は実質的に平面状のペースト接合面を有する、部分ペースト積層体充填連結型枠を得る工程;
Db3: 部分ペースト積層体充填連結型枠に隣接配置すべきペースト充填中間型枠ユニットが存在しない場合には、前記工程で得られた部分ペースト積層体充填連結型枠を最終部分ペースト積層体充填連結型枠とし、
部分ペースト積層体充填連結型枠に隣接配置すべきペースト充填中間型枠ユニットが更に存在する場には、隣接配置すべきペースト充填中間型枠ユニットが無くなるまで、部分ペースト積層体充填連結型枠におけるペースト充填基端型枠ユニットの押出板及び/又は隣接配置すべきペースト充填中間型枠ユニットの押出板を供給側開口に向けて移動させてペースト状重合硬化性組成物を押し出して、部分ペースト積層体充填連結型枠と隣接配置すべきペースト充填中間型枠ユニットとの少なくとも一方のペースト接合面を凸曲面状としてから、両者のペースト接合面が重なるようにして重ね合わせることによる連結及び押出板の除去操作を繰り返すことによって、連結されるペースト充填中間型枠ユニット数及び形成されるペースト部分積層体の層数が増やされた、平面状又は実質的に平面状のペースト接合面を有する延長部分ペースト積層体充填連結型枠を最終部分ペースト積層体充填連結型枠として得る、工程;及び
Db4: 上記工程で得られた最終部分ペースト積層体充填連結型枠におけるペースト充填基端型枠ユニットの押出板及び/又はペースト充填先端型枠ユニットの押出板を供給側開口に向けて移動させてペースト状重合硬化性組成物を押し出して、最終部分ペースト積層体充填連結型枠とペースト充填先端型枠ユニットとの少なくとも一方のペースト接合面を凸曲面状としてから、両者のペースト接合面が重なるようにして重ね合わせを行うことにより両ペースト充填型枠ユニットを連結して、連結型枠を形成すると共に、その連結柱状空洞部内において、両ペースト充填型枠ユニットに充填されたペースト状重合硬化性組成物を接合してペースト積層体を形成して、連結型枠の両端開口が押出板で実質的に塞がれたペースト積層体充填連結型枠を得る工程;を含む、方法(以下、「3以上ユニット積層法」とも言う。)であることが好ましい。
【0018】
また、2ユニット積層法及び3以上ユニット積層法においては、前記工程Eにおける加圧により、ペースト積層体充填連結型枠における、型枠ユニットの連結部の少なくとも一部及び/又は連結柱状空洞部と前記両押出板との摺接部の少なくとも一部から余剰のペースト状重合硬化性組成物を滲出させながらペースト積層体における層間密着性及びペースト積層体と連結型枠内面との密着性の向上を図る、ことが好ましく、更に前記工程Eにおける加圧を、0.024~0.60MPaの圧力を1~120分の間加えることにより行うことが好ましい。
【0019】
また、3以上ユニット積層法においては、前記工程Db2終了後のタイミング、及び前記工程Db3において少なくとも1回行われる前記重ね合わせによる連結終了後であって押出除去前のタイミングからなる群より選ばれる少なくとも1つのタイミングで、部分ペースト積層体充填連結型枠及び/又は延長部分ペースト積層体充填連結型枠を前記筒状体の軸方向に加圧する予備加圧工程を行う、ことが好ましい。
【0020】
さらに、本発明の製造方法においては、前記工程Bで、何れも熱重合開始剤を含む複数種のペースト状重合硬化性組成物を準備し、前記工程F(硬化工程)における硬化を、前記工程E(加圧工程)を経た前記ペースト積層体充填連結型枠を、下記ステップ1~3:
ステップ1:30℃以上45℃以下の温度範囲内に少なくとも2時間保持するステップ
ステップ2:45℃を越え65℃以下の温度範囲内に少なくとも5時間保持するステップ
ステップ3:65℃を越え~100℃以下の温度範囲内に少なくとも2時間保持するステップ
を順次行う昇温パターンで加熱することにより行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の製造方法では、被切削部となるハイブリッドレジン積層体は、ペースト状重合硬化性組成物からなる層が複数層積層されたペースト積層体を重合硬化して得るので、重合硬化回数を少なく(通常は1回と)することができる。また、複数の型枠ユニットからなり、これらを連結することにより連結型枠を形成し得る型枠キットを用いて、ペースト状重合硬化性組成物(以下、「流動性ペースト」ということもある。)を、型枠ユニットに充填した状態で積層したので、無機フィラー充填率が高く流動性の低い流動性ペーストを用いた場合であっても、各層の界面に乱れや空隙等の欠陥も生じ難い。さらに、積層後に加圧してから重合硬化を行うようにしたので、型の形状を確実に転写できるばかりでなく、空隙等の欠陥の発生をより高度に抑制することができる。
【0022】
特に、硬化工程:Fにおいて、加熱下で重合硬化を行う場合に特定の昇温パターンを採用することにより、用いる型枠ユニットの材質によらず、連結型枠における型枠ユニットの接合部(継ぎ目)からのエア侵入等を防止し、且つ当該接合部における硬化不良の発生を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】この発明の2ユニット積層法の形態の方法における積層工程を説明する図である。
図2】歯科加工用ブランクを成形するための型枠ユニットを示す斜視図である。
図3】この発明の一実施形態に係る多層構造の歯科加工用ブランクの製造方法における工程Cに用いられる充填具の一例を示す斜視図であり、流動性ペーストの充填前の状態を示す図である。
図4】充填具を使用して流動性ペーストを充填する状態を示す平面図である。
図5】流動性ペーストが充填された型枠ユニットを型枠ユニットの保持板と共に、離脱させる途中の状態を示す平面図である。
図6】流動性ペーストが充填された型枠ユニットを型枠ユニットの保持板と共に、離脱させた状態を示す斜視図である。
図7】型枠ユニットに流動性ペーストを充填する状態を説明する、充填具の概略断面図である。
図8】この発明の一実施形態に係る多層構造の歯科加工用ブランクの製造方法により二層からなる歯科加工用ブランクを製造するに際して、積層工程に用いられる積層装置の一例を示す斜視図であり、流動性ペーストが充填された型枠ユニットのうちの最下層となるものを、積層装置に配置した状態を示す図である。
図9】積層装置に配置した型枠ユニットから充填された流動性ペーストを突出させた状態を示す斜視図である。
図10】積層装置によって積層された型枠ユニットを示す斜視図である。
図11】積層された型枠ユニットを硬化工程に供する際に、積層された型枠ユニットを保持させる型枠ユニット保持具の一例を示して説明する斜視図である。
図12】三層構造の歯科加工用ブランクを製造する場合の積層工程を説明する図である。
図13】二層構造を備えた歯科加工用ブランクに、切削加工のためのブランク保持ピンを接合させた状態を示す概略の斜視図である。
図14】歯科加工用ブランクが切削されて加工された奥歯用の歯科用補綴物の概略を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.本発明の製造方法の概要
本発明の製造方法では、歯科加工用ブランクの被切削部となるハイブリッドレジン積層体を得るに際し、重合硬化処理回数を少なく、好ましくは1回とするために、重合性単量体、無機フィラー及び重合開始剤を含むペースト状重合硬化性組成物からなる層が複数層積層されたペースト積層体を重合硬化させてハイブリッドレジン積層体を得るようにすると共に、得られるハイブリッドレジン積層体に形状欠陥が発生し難く、更に、各層の界面に乱れや空隙等の欠陥も生じ難くするために、下記工程F(硬化工程)を行う前に下記工程A~Eを行うことを特徴とする。
【0025】
A: 両端が開口し、内部に柱状空洞部が形成された筒状体からなる複数の型枠ユニットからなる型枠キットであって、前記複数の型枠ユニットを前記筒状体の軸方向に連結することにより、各型枠ユニットの筒状体及び柱状空洞部が夫々連結して形成された連結筒状体及び連結柱状空洞部を有する連結型枠を形成し得る前記型枠キットを準備する型枠キット準備工程
B:上記工程で準備された複数の型枠ユニットの夫々に充填される複数種のペースト状重合硬化性組成物(以下、「流動性ペースト」ともいう。)を準備する、ペースト状重合硬化性組成物(流動性ペースト)準備工程
C: 上記工程で準備された複数の型枠ユニットの夫々に前記ペースト状重合硬化性組成物を充填して、複数のペースト充填型枠ユニットを作製する、ペースト充填型枠ユニット作製工程
D: 上記工程で得られた複数のペースト充填型枠ユニットを順次連結して、前記連結型枠を形成すると共に、その連結柱状空洞部内において、各ペースト充填型枠ユニットに充填されたペースト状重合硬化性組成物を接合してペースト積層体を形成することにより、ペースト積層体充填連結型枠を得る積層工程
E: 上記工程で得られたペースト充填連結型枠を前記筒状体の軸方向に加圧する加圧工程
F: 上記工程で加圧された前記連結柱状空洞部内部のペースト積層体を硬化させて硬化体とする硬化工程。
【0026】
なお、ハイブリットレジンを得るためにペースト状重合硬化性組成物を加圧・加熱する等して重合硬化させることは一般的に行われることであり、また、重合時における気泡の混入や割れの発生を抑制するためにペースト状重合硬化性組成物を金属以外の材料により形成された内外の圧力が等しくなる手段を具備する型に充填してから、前記型ごと全体的に所定の圧力に加圧してから加熱して重合する方法も知られている(特許文献5参照。)。しかし、本発明の方法における工程E(硬化工程)では特に加圧する必要は無く、また、工程E(加圧工程)では、所定の方向のみに加圧すれば足り、型ごと全体を加圧する必要は特にない。
【0027】
1-2.本発明の製造方法の特徴点1:型枠
本発明の製造方法は、型の内部でペースト積層体を形成してからこれを重合硬化させてハイブリッドレジン積層体とするという点は、前記特許文献4に記載された方法と同様であるが、使用する型(工程A)やペースト積層体の形成方法(工程C及びD)が異なり、さらに重合硬化を行う前に所定の加圧を行う(工程E)点、でも異なっている。
【0028】
すなわち、本発明の方法は、互いに連結することにより連結型枠を形成し得る複数の型枠ユニットからなる型枠キットを用い、各型枠ユニットにペースト状重合硬化性組成物を充填して「ペースト充填型枠ユニット」とし、これを連結して前記連結型枠内にペースト積層体が充填された「ペースト積層体充填連結型枠」を得る点に大きな特徴を有する。そしてこのことにより、無機フィラー充填率が高く流動性の低い流動性ペーストを用いた場合であっても、各層の界面に乱れや空隙等の欠陥も生じ難い。さらに、本発明の製造方法は、「ペースト積層体充填連結型枠」を筒状体の軸方向(積層方向)に加圧してから硬化を行う点にも特徴を有しており、このことによって型の形状を確実に転写できるばかりでなく、空隙等の欠陥の発生をより高度に抑制することが可能である。そのため、外観に優れたハイブリッドレジン積層体からなる被切削部を有する歯科加工用ブランクを効率的に製造することができる。
【0029】
なお、使用する型枠ユニットの材質が樹脂製である場合には、重合硬化時に連結型枠における型枠ユニットの接合部においてエアの僅かな侵入や硬化不良が見られることがあるが、加熱下で重合硬化を行う際に特定の昇温パターンを採用することにより、このようなエア侵入や硬化不良の発生を防止することができる。
【0030】
1-3.本発明の製造方法の特徴点2:積層方法
本発明の製造方法では、工程Cで、型枠ユニットの一方の端部開口(閉鎖側開口)を押出板で塞いでから、ペースト状重合硬化性組成物(流動性ペースト)を充填し、型枠ユニットの一他方の端部開口(供給側開口)から露出する流動ペーストの面(当該面は、工程Dにおいて連結される他の「ペースト充填型枠ユニット」に充填された流動ペーストと接合する面であることから、当該露出面を「ペースト接合面」ともいう。)が、供給開口端面と同一平面又は実質的に同一な平面を構成する平面状又は実質的に平面状とした「ペースト充填型枠ユニット」を得、工程Dにおいて、「ペースト充填型枠ユニット」を連結するに際し、連結する2つの「ペースト充填型枠ユニット」内の少なくとも一方についてペースト接合面を供給側開口より僅かに凸出した凸曲面としてからペースト接合面どうしを接合させる方法(以下、「凸曲面接合法」ともいう。)を採用することが好ましい。
【0031】
凸曲面接合法を採用した場合には、ペースト接触面の中央部に存在する凸曲面のから接触が始まり、曲面に沿って周方向に徐々に接触領域が広がっていくため、気泡等の欠陥が生じにくいばかりでなく、生じた場合も周方向に押出されるため、内部に残存することが無い。また、仮に接触界面の周縁近傍に気泡等が残存した場合でも、加圧工程で外部に排出されるため、各層界面の乱れや空隙等の欠陥発生防止効果を極めて高いレベルとすることができる。
【0032】
凸曲面接合法を採用する場合、D工程は、2ユニット積層法と3以上ユニット積層法とで若干異なり、夫々次に示すようなものとなる。
【0033】
≪2ユニット積層法における工程D(積層工程)≫
下記工程Da1及び工程Da2を含む工程
Da1: ペースト充填基端型枠ユニット及びペースト充填先端型枠ユニットの少なくとも一方について、押出板を供給側開口に向けて移動させてペースト状重合硬化性組成物を押し出して、該ペースト状重合硬化性組成物の一部を供給側開口から突出せしめて、ペースト接合面を凸曲面状とする工程;及び
Da2: 前記工程後に、ペースト充填基端型枠ユニットのペースト接合面とペースト充填先端型枠ユニットのペースト接合面とが重なるように両ペースト充填型枠ユニットを連結して、連結型枠を形成すると共に、その連結柱状空洞部内において、両ペースト充填型枠ユニットに充填されたペースト状重合硬化性組成物を接合してペースト積層体を形成して、連結型枠の両端開口が押出板で実質的に塞がれたペースト積層体充填連結型枠を得る工程。
【0034】
<<3以上ユニット積層法における工程D(積層工程)>>
下記工程Db1~工程Db4を含む工程
Db1: ペースト充填基端型枠ユニット及びこれに隣接して配置されるペースト充填中間型枠ユニットの少なくとも一方について、押出板を供給側開口に向けて移動させてペースト状重合硬化性組成物を押し出して、該ペースト状重合硬化性組成物の一部を供給側開口から突出せしめて、ペースト接合面を凸曲面状とする工程:
Db2: 前記工程後に、ペースト充填基端型枠ユニットのペースト接合面とペースト充填中間型枠ユニットのペースト接合面とが重なるようにして重ね合わせを行うことにより両型枠ユニットを連結して、両型枠ユニットの連型体からなる部分連結型枠を形成すると共に、その内部において、両ペースト充填型枠ユニットに充填されたペースト状重合硬化性組成物を接合してペースト部分積層体を形成してからペースト充填中間型枠ユニットの閉鎖側開口を塞ぐ押出板を除去して当該閉鎖側開口を部分連結型枠の供給側開口として平面状又は実質的に平面状のペースト接合面を有する、部分ペースト積層体充填連結型枠を得る工程;
Db3: 部分ペースト積層体充填連結型枠に隣接配置すべきペースト充填中間型枠ユニットが存在しない場合には、前記工程で得られた部分ペースト積層体充填連結型枠を最終部分ペースト積層体充填連結型枠とし、
部分ペースト積層体充填連結型枠に隣接配置すべきペースト充填中間型枠ユニットが更に存在する場には、隣接配置すべきペースト充填中間型枠ユニットが無くなるまで、部分ペースト積層体充填連結型枠におけるペースト充填基端型枠ユニットの押出板及び/又は隣接配置すべきペースト充填中間型枠ユニットの押出板を供給側開口に向けて移動させてペースト状重合硬化性組成物を押し出して、部分ペースト積層体充填連結型枠と隣接配置すべきペースト充填中間型枠ユニットとの少なくとも一方のペースト接合面を凸曲面状としてから、両者のペースト接合面が重なるようにして重ね合わせることによる連結及び押出板の除去操作を繰り返すことによって、連結されるペースト充填中間型枠ユニット数及び形成されるペースト部分積層体の層数が増やされた、平面状又は実質的に平面状のペースト接合面を有する延長部分ペースト積層体充填連結型枠を最終部分ペースト積層体充填連結型枠として得る、工程;及び
Db4: 上記工程で得られた最終部分ペースト積層体充填連結型枠におけるペースト充填基端型枠ユニットの押出板及び/又はペースト充填先端型枠ユニットの押出板を供給側開口に向けて移動させてペースト状重合硬化性組成物を押し出して、最終部分ペースト積層体充填連結型枠とペースト充填先端型枠ユニットとの少なくとも一方のペースト接合面を凸曲面状としてから、両者のペースト接合面が重なるようにして重ね合わせを行うことにより両ペースト充填型枠ユニットを連結して、連結型枠を形成すると共に、その連結柱状空洞部内において、両ペースト充填型枠ユニットに充填されたペースト状重合硬化性組成物を接合してペースト積層体を形成して、連結型枠の両端開口が押出板で実質的に塞がれたペースト積層体充填連結型枠を得る工程。
【0035】
以下、本発明の好ましい実施の形態に係る多層構造の歯科加工用ブランクの製造方法と製造装置とを、図面を参照して説明する。
【0036】
2.「2ユニット積層法」について
2ユニット積層法では、基端型枠ユニット及び先端型枠ユニット前記型枠キットからなる型枠キットを用いる。そして、前記工程C(ペースト充填型枠ユニット作製工程)では、基端型枠ユニット及び先端型枠ユニットの夫々について、前記柱状空洞部内に充填されるペースト状重合硬化性組成物と接触する平坦な接触面を有し、充填されたペースト状重合硬化性組成物を他方側の開口である供給側開口から押し出すための押出板を、前記柱状空洞部内を進退自在且つ着脱自在に嵌挿して各型枠ユニットの一方の端部開口である閉鎖側開口を塞いでから前記柱状空洞部内に前記ペースト状重合硬化性組成物を密に充填することによって、一方側の開口である閉鎖側開口が押出板で塞がれ、他方側の開口である供給側開口に平面状又は実質的に平面状のペースト接合面が形成された、ペースト充填基端型枠ユニット及びペースト充填先端型枠ユニットを作製し、
前記工程Dは、下記工程Da1及びDa2を含む。
【0037】
工程Da1: ペースト充填基端型枠ユニット及びペースト充填先端型枠ユニットの少なくとも一方について、押出板を供給側開口に向けて移動させてペースト状重合硬化性組成物を押し出して、該ペースト状重合硬化性組成物の一部を供給側開口から突出せしめて、ペースト接合面を凸曲面状とする工程。
【0038】
工程Da2: 前記工程後に、ペースト充填基端型枠ユニットのペースト接合面とペースト充填先端型枠ユニットのペースト接合面とが重なるように両ペースト充填型枠ユニットを連結して、連結型枠を形成すると共に、その連結柱状空洞部内において、両ペースト充填型枠ユニットに充填されたペースト状重合硬化性組成物を接合してペースト積層体を形成して、連結型枠の両端開口が押出板で実質的に塞がれたペースト積層体充填連結型枠を得る工程。
【0039】
上記「2ユニット積層法」では、基端型枠ユニット及び先端型枠ユニットに、互いに色調の異なる第1のペースト状重合硬化性組成物及び第2のペースト状重合硬化性組成物を夫々充填して、図13に示すように、色調等が異なる第一層1aと第二層1bとによる二層構造のハイブリッドレジン積層体からなる被切削部を有する歯科加工用ブランク1を製造する。この歯科加工用ブランク1にブランク保持ピン2が接合され、このブランク保持ピン2を介してCAD/CAMシステムの切削加工装置に固定されて、図14に示すように、歯科用補綴物10に切削加工される。
【0040】
2-1.工程A(型枠キット準備工程)及び型枠ユニット並びに押出板
工程A(型枠キット準備工程)では、両端が開口し、内部に柱状空洞部が形成された筒状体からなる複数の型枠ユニットからなる型枠キットであって、前記複数の型枠ユニットを前記筒状体の軸方向に連結することにより、各型枠ユニットの筒状体及び柱状空洞部が夫々連結して形成された連結筒状体及び連結柱状空洞部を有する連結型枠を形成し得る前記型枠キットを準備する。図1~3を参照して連結型枠、型枠ユニット及び流動性ペースト充填の際に使用する押出板等について説明する。
【0041】
図1は二層構造を備えた歯科加工用ブランク1を製造する際に、二つの層を接合させる積層工程を説明する図である。第一層1aと第二層1bとはそれぞれ、基端型枠ユニットである第一型枠ユニット3と先端型枠ユニットである第二型枠ユニット4とにより形成される。すなわち、これら第一型枠ユニット3と第二型枠ユニット4のそれぞれには、種類の異なる歯科用の硬化性組成物の流動性ペースト(第1及び第2のペースト状重合硬化性組成物)Pが充填される。
【0042】
なお、第一層1aと第二層1bとの肉厚が等しい場合には、これら第一層1aと第二層1bとを形成する第一型枠ユニット(基端型枠ユニット)3と第二型枠ユニット(先端型枠ユニット)4には、同じ型枠ユニットが用いられる。また、肉厚が異なる場合であっても、これら型枠ユニット3、4の基本的構造は等しいため、図2を参照して第一型枠ユニット3について、以下に説明する。
【0043】
図2に示すように、第一型枠ユニット3は柱状の空洞部を有した筒状体からなり、この筒状体の両端の開口は閉鎖側開口3bと供給側開口3cとされている。また、閉鎖側開口3bには、この第一型枠ユニット3の空洞部内を筒状体の軸方向に摺動自在とされた平坦な接触面を有する押出板3aが収容される。なお、図1(C)に示すように、第二型枠ユニット4の閉鎖側開口4bには押出板4aが収容されている。これら押出板3a、4aは型枠ユニット3、4に流動性ペーストPが充填された状態で閉鎖側開口3b、4bに位置して、この閉鎖側開口3b、4bを閉じた状態とする。なお、この閉鎖側開口3b、4bとは反対側の供給側開口3c、4cから、後述するように、流動性ペーストPが供給されて、型枠ユニット3、4に充填される。
【0044】
また、これら第一型枠ユニット3と第二型枠ユニット4とが有する柱状空洞部の母線を一致させて連結させると、連結柱状空洞部が形成される。すなわち、これら第一型枠ユニット(基端型枠ユニット)3と第二型枠ユニット(先端型枠ユニット)4とで、型枠キットが構成され、準備工程ではこの型枠キットが用意される。なお、図示のブロック形状だけでなく、目的とするブランク形状に合わせた型枠ユニット形状とすることで、任意の形状のブランクを作製することが可能である。
【0045】
また、図では第一型枠ユニット3及び第二型枠ユニット4として、柱状空洞部がいずれも同一形状となっているものを示したが、空洞部の形状は、母線を一致させて連結したときに連結柱状空洞部が形成される柱状のものであればよく、たとえば、一方または双方が円柱状、更には四角錐台や円錐台形状の連結柱状空洞部であってもよい。柱状空洞部内面にブランク保持ピンの固定・位置決め構造や、切削加工装置への固定構造、その他の機能性を付与するための形状を付与することもできる。
【0046】
型枠ユニットの筒状体の材質としては、アルミニウムまたはアルミニウム合金、ステンレス、鉄、真鍮といった金属材料や、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、POM、PEK、PEKK、PEEK等といった熱硬化性や熱可塑性を有するプラスチック材料などが使用できるが、成形が容易でF工程で加熱重合を行う場合にも使用できると言う理由から耐熱温度が100℃以上の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を使用することが好ましい。
【0047】
2-2.工程B(流動性ペースト準備工程)及び流動性ペースト
工程B(流動性ペースト準備工程)では、前記工程で準備された複数の型枠ユニットの夫々に充填される複数種のペースト状重合硬化性組成物(流動性ペースト)、具体的には、互いに色調の異なる第1のペースト状重合硬化性組成物(基端型枠ユニット用充填用)及び第2のペースト状重合硬化性組成物(先端型枠ユニット用充填用)を準備する。
【0048】
ここで、ペースト状重合硬化性組成物(流動性ペースト)とは、重合性単量体、無機フィラー及び重合開始剤を含むペースト状の重合硬化性組成物を意味する。これら材料は歯科用のハイブリッドレジンの材料として使用できるものが特に制限なく使用でき、例えば重合性単量体としては(メタ)アクリル酸系重合性単量体が、重合開始剤としては熱重合開始剤が好適に使用できる。流動ペーストの無機フィラー充填率としては、60~99wt%が好ましく、65~97wt%である事がより好ましく、70~95wt%がさらに好ましい。無機充填率を60%以上とすることで流動性が低下するものの、歯科補綴物として優れた物性をもつ歯科用ブランクが得られる。ペーストの色調、延いてはその硬化体であるハイブリッドレジンの色調は、顔料や染料等の着色物質を配合することにより調整することができる。また、目的とするブランクの性質を達成するために、上記に対してさらに任意成分を加えても良い。例えば、重合禁止剤、連鎖移動剤、蛍光剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、抗菌剤、X線造影剤などが挙げられるが、これらによらず歯科用ブランクとして公知の添加材を使用できる。
【0049】
歯科加工用ブランク1の製造に先立って、流動性ペーストを真空下に供して脱気して気泡を除去することが好ましい。
【0050】
2-3.工程C(ペースト充填型枠ユニット作製工程)及び充填具
前記工程C(ペースト充填型枠ユニット作製工程)では、前記第1のペースト状重合硬化性組成物(第1流動ペースト)を基端型枠ユニットに充填し、第2のペースト状重合硬化性組成物(第2流動ペースト)を先端型枠ユニットに充填しペースト充填基端型枠ユニット及びペースト充填先端型枠ユニットを作製する。このとき、基端型枠ユニット及び先端型枠ユニットの夫々について、前記柱状空洞部内に充填されるペースト状重合硬化性組成物と接触する平坦な接触面を有し、充填されたペースト状重合硬化性組成物を他方側の開口である供給側開口から押し出すための押出板を、前記柱状空洞部内を進退自在且つ着脱自在に嵌挿して各型枠ユニットの一方の端部開口である閉鎖側開口を塞いでから前記柱状空洞部内に前記ペースト状重合硬化性組成物を密に充填し、更に、一方側の開口である閉鎖側開口が押出板で塞がれ、他方側の開口である供給側開口に平面状又は実質的に平面状のペースト接合面を形成することが重要である。なお、ここで、平面状のペースト接合面とは、供給開口端面と同一平面を構成するものを意味し、実質的に平面状のペースト接合面とは、供給開口端面と実質的に同一な平面を構成するものを意味する。また、実質的とは供給開口端面との段差が無視できる程度、例えば±500μm以下、特に±300μm以下であることを意味する。
【0051】
(1)充填具
工程Cは、以下に説明する充填具を用いて好適に行うことができる。すなわち、図3図7に、型枠ユニット3、4に流動性ペーストPを充填する際に使用される充填具5を模式的に示す。図3に示すように、この充填具5は型枠ユニット3、4を保持する保持板5aと、この保持板5aを収容させて位置決めするほぼU字形の位置決めブロック5bと、この位置決めブロック5bが支持面5c1に取り付けられた充填盤5cとを備えている。
【0052】
保持板5aには、型枠ユニット3、4を収容する型枠ユニット収容部5dが設けられている。この型枠ユニット収容部5dは保持板5aに設けられた貫通孔で形成されている。
【0053】
なお、この実施形態においては、保持板5aに単一の型枠ユニット収容部5dが形成された構造について説明してあるが、このような配置に限らず、直線上や円周上に複数個を整列させて配したり、行列させて配したりすることでも構わない。これらの配置は充填装置の都合に合わせて適宜設計することができる。
【0054】
また、保持板5a及び、又は型枠ユニット収容部5dには、位置決めや、前後工程の都合を加味した形状を付与することが好ましく、目的とするブランク形状や、その配列の都合に合わせて適宜設計すれば良い。
【0055】
一方、位置決めブロック5bは、図3に示されているように、充填盤5cの支持面5c1上に固定されている。位置決めブロック5bのU字形の内側部分が保持板5aの外形形状と対応する構造となって、このU字形の内側部分に保持板5aが保持される。なお。図に示した形状に限らず、保持板5aの形状や装置の都合に合わせて形状を設計することが好ましく、保持板5aの離脱と固定が容易なように都合に合わせて適宜設計すれば良い。
【0056】
例えば、U字形に限らず、V字型とすることやレール等のスライド部材を用いることもできる。さらに、一つの保持板5aに複数個の型枠ユニット収容部5dを形成し、位置決めブロック5bをこの保持板5aを保持する形状とすることもできる。また、位置決めブロック5bを分割させた一対とした構造とすることもでき、この位置決めブロック5bの充填盤5cに対する取付位置を変更して、保持板5aの保持状態を調整することできるようにすることも好ましい。
【0057】
充填盤5cには、支持面5c1に設けられた開口による充填ノズル5eが配されている。図3図6図7(A)に示すように、この充填ノズル5eの開口に向かってペースト流路5c2が形成されている。流路の形状は勾配の無いストレートでも良いが、図7(B)に示すように、充填ノズル5eの開口を上底とする角錐または円錐形状のペースト流路5c3としても良く、流動性ペーストの性質と目的とするブランク形状を加味して、不都合が無いよう適宜設計することが好ましい。なお、充填ノズル5eの開口は図示の円形によらず、開口面積、形状共に適宜設定することができる。例えば、型枠ユニットの開口部と同じ形状とすることも可能である。また、充填ノズル5eは、位置決めブロック5bによって保持された保持板5aの型枠ユニット収容部5dの貫通孔に対応させた位置に配されている。このため、図示しない押出装置から押し出される硬化性組成物の流動性ペーストPは、ペースト流路5c2内を流動して、充填ノズル5eから型枠ユニット収容部5dに収容された型枠ユニット3、4内に供給されることになる。
【0058】
(2)充填具を用いた具体的充填方法
充填具5を用いた具体的な充填方法について説明すると、先ず、充填具5の保持板5aの型枠ユニット収容部5dに、第一型枠ユニット(基端型枠ユニット)3を保持させる。次いで、図4に示すように、第一型枠ユニット(基端型枠ユニット)3を保持させた保持板5aを、位置決めブロック5bのU字形の内側に収まるようにして、位置決めブロック5bに保持させる。この状態で、第一型枠ユニット(基端型枠ユニット)3の空洞部に、支持面5c1に配された充填ノズル5eが対向して位置する。そして、流動性ペーストPの充填を開始する前に、押出板3aを型枠ユニットの前記柱状空洞部内に、その接触面が支持面5c1と接触するようにして挿入する。その後、充填盤5cの下方に接続させた図示しない射出装置によって、第1のペースト状重合硬化性組成物(流動ペースト)Pがペースト流路5c2を通り第一型枠ユニット(基端型枠ユニット)3内に充填される。流動性ペーストPの充填量が増加するに応じて、第一型枠ユニット3の供給側開口3cに位置していた押出板3aが、図7に示すように、徐々に押し上げられて、閉鎖側開口3bへ向かって移動する。押出板3aが閉鎖側開口3bに移動した状態では、所定量の流動性ペーストPが第一型枠ユニット3に充填された状態となる。このとき流動性ペーストPの過剰供給を避けるためには、充填量が所定量に達したときに供給を停止するか、また、押出板3aの位置を検知し、押出板3aが所定の位置に達したときに供給を停止するようにすればよい。
【0059】
所定量の流動性ペーストPが充填されてペースト充填型枠ユニットとなった第一型枠ユニット3を、保持板5aと共に位置決めブロック5bから離脱させる。このとき、図5図6に示すように、保持板5aを、位置決めブロック5bのU字形の内側の壁面に案内させながらこのU字形の開放側から引き出すように移動させ、保持板5aの下面が充填盤5cの支持面5c1を擦過するように移動させて、保持板5aを充填盤5cから離脱させる。このように保持板5aが支持面5c1を擦過することにより、図1(A)に示すような、流動性ペーストPの表面には、平面状のペースト接合面Paが形成される。そして、充填具5から離脱させた後に保持板と分離することにより、型枠ユニットの供給側開口から露出する流動ペーストの面(ペースト接合面)が、供給開口端面と同一平面又は実質的に同一な平面を構成する平面状又は実質的に平面状とした「ペースト充填型枠ユニット」であるペースト充填基端型枠ユニットを作製することができる。
【0060】
第二型枠ユニット(先端型枠ユニット)4についても、場合と同様にして流動性ペーストPを充填して、図1(C)に示すような、平面状のペースト接合面Paが形成されたペースト充填先端型枠ユニットを作製することができる。
【0061】
2-4.工程D(積層工程)及び積層装置
工程D(積層工程)では、先ず、ペースト充填基端型枠ユニット3及びペースト充填先端型枠ユニット4の少なくとも一方について、押出板を供給側開口に向けて移動させてペースト状重合硬化性組成物を押し出して、該ペースト状重合硬化性組成物の一部を供給側開口から突出せしめて、ペースト接合面を凸曲面状とし(工程Da1)、次いで、ペースト充填基端型枠ユニット3のペースト接合面とペースト充填先端型枠ユニット4のペースト接合面とが重なるように両ペースト充填型枠ユニットを連結して、連結型枠を形成すると共に、その連結柱状空洞部内において、両ペースト充填型枠ユニットに充填されたペースト状重合硬化性組成物を接合してペースト積層体を形成して、連結型枠の両端開口が押出板で実質的に塞がれた「ペースト積層体充填連結型枠」を得る(工程Da2)。
【0062】
(1)積層装置
上記工程Dは、以下に説明する積層装置を用いて好適に行うことができる。すなわち、図8図10に、ペースト充填第一型枠ユニット(ペースト充填基端型枠ユニット)3及びペースト充填第一型枠ユニット(ペースト充填先端型枠ユニット)4に充填された流動性ペーストPを積層させる積層工程で使用される積層装置6を、模式的に示す。なお、生産性や効率の観点を考慮して、積層装置の構造を適宜設計することが好ましい。各ペースト充填型枠ユニット3、4の位置を保持しつつ積層することが可能であれば、図示のようなピンによる保持構造や配置に限らない。直線上や円周上に複数個を整列させたり、より多くを行列させて配したりしても良い。
【0063】
積層装置6は、図8に示すように、ペースト充填型枠ユニット3、4を載置させて保持する保持板6aとこの保持板6aの下面と重なる押上板6bとが主要な構成要素として備えられている。
【0064】
保持板6aには、各型枠ユニット3、4の保持構造として4本を1組とする位置決めピン6a1が植設されており、その位置決めピン6a1は第一型枠ユニット3、4の側面に対向して、ペースト充填第一型枠ユニット(ペースト充填基端型枠ユニット)3及びペースト充填第一型枠ユニット(ペースト充填先端型枠ユニット)4の位置を規制する。なお、隣接して位置するペースト充填型枠ユニット3、4の間に位置する位置決めピン6a1は、図8図10の例示においては、隣接するペースト充填型枠ユニット3、4の保持構造に共通とされている。保持構造としては図示の構造によらず、ピンや円柱の他に、角柱、平板、L字アングル、レール状など、型枠ユニット3、4の形状に合わせて、十分に保持できる構造であることが好ましい。
【0065】
図8には、ペースト充填第一型枠ユニット(ペースト充填基端型枠ユニット)3を保持板6aに載置させた状態が示されており、このペースト充填第一型枠ユニット3に、後述するように、ペースト充填第二型枠ユニット(ペースト充填先端型枠ユニット)4が載置される。なおペースト充填、第二型枠ユニット4を保持板6aに載置させて、このペースト充填第二型枠ユニット4にペースト充填第一型枠ユニット3を積層させることでも構わない。
【0066】
また、ペースト充填型枠ユニット3、4が位置する部分であって、ペースト充填型枠ユニット3、4を位置決めする4本の決めピン6a1で囲まれた部分の中央部には、保持板6aを貫通する透孔6a2が設けられている。
【0067】
また、押上板6bには、透孔6a2に挿抜可能な押上ロッド6b1が植設されている。そして、保持板6aと押上板6bとが重ねられた状態では、この押上ロッド6b1の先端部が、後述する作用を果たすのに十分な程度で、保持板6aの上面から突出する。透孔6a2と押上ロッド6b1の寸法や形状、配置は、目的とするブランクの形状や保持板6aで保持する際の配置等の状況に合わせて適宜設計することができる。
【0068】
(2)積層装置を用いた具体的積層方法
積層装置6を用いた具体的な積層方法について説明すると、先ずペースト充填第一型枠ユニット(ペースト充填基端型枠ユニット)3を、図8に示すように、積層装置6の保持板6aの位置決めピン6a1で規制された位置に、閉鎖側開口3bを保持板6aの上面に対向させて配置する。この実施形態では、第一型枠ユニット3が鉛直方向の最下層に配置されたものとなる。次いで、図1(A)に示すように、保持板6aの透孔6a2に押上板6bの押上ロッド6b1を挿入させて、押上板6bを保持板5aに接近させる。押上板6bが保持板6aに重なる状態となると、押上ロッド6b1の先端部が保持板6aの上面から突出して、第一型枠ユニット3内に配された押出板3aを押し上げる。これにより、図1(B)と図9に示すように、第一型枠ユニット3に充填された流動性ペーストPの一部が、供給側開口3cから突出し、凸曲面状のペースト接合面Paが形成される。このとき、流動性ペーストPが第一型枠ユニット3から溢出又は零出することがない位置まで突出するように、押上ロッド6b1の突出量を定めればよい。
【0069】
流動性ペーストPのペースト接合面Paが突出した状態のペースト充填第一型枠ユニット(ペースト充填基端型枠ユニット)3に、図1(C)に示すように、供給側開口4cを供給側開口3cに対向させ、ペースト充填第二型枠ユニット(ペースト充填先端型枠ユニット)4をペースト充填第一型枠ユニット(ペースト充填基端型枠ユニット)3に押しつける。これにより、図1(D)と図10に示すように、両ペースト充填型枠ユニットを重ね合わせて、連結型枠を形成すると共に、その連結柱状空洞部内において、両ペースト充填型枠ユニットに充填されたペースト状重合硬化性組成物を接合してペースト積層体を形成して、連結型枠の両端開口が押出板で実質的に塞がれた「ペースト積層体充填連結型枠」を得る。
【0070】
このとき、ペースト充填第二型枠ユニット(ペースト充填先端型枠ユニット)4を重ねる際には、ペースト充填第一型枠ユニット(ペースト充填基端型枠ユニット)3の供給側開口3cから突出していた流動性ペーストPのペースト接合面Paをペースト充填第二型枠ユニット(ペースト充填先端型枠ユニット)4内の流動性ペーストPのペースト接合面Paが押し込むため、予め押上ロッド6b1を保持板6aの上面に突出することのない位置まで下降させておく。これにより、両ペースト充填型枠ユニットを重ねた際に、これらの流動性ペーストPを円滑に合体させることができる。しかも、第一型枠ユニット3内の流動性ペーストPのペースト接合面Paが突出しているので、第二型枠ユニット4内の流動性ペーストPのペースト接合面Paとの間に空気が混入することを抑制できる。このため、これらの流動性ペーストを確実に一体化させることができる。これにより、連結型枠内部界面が整った二層構造のペースト積層体を形成することができる。
【0071】
2-5.工程E(加圧工程)及び加圧装置
工程E(加圧工程)では、前記工程で得られたペースト充填連結型枠を前記筒状体の軸方向(積層方向)に加圧する。
【0072】
連結した第一型枠ユニット3と第二型枠ユニット4内で接合した流動性ペーストPの層間密着性、及びペーストPと連結型枠内面との密着性の向上を図るために、連結型枠ユニットの軸方向に加圧する工程を行う。加圧する為に使用される装置に関しては特に制限はないが、連結型枠ユニットの閉鎖側開口3b又は4bに対して平行な面を持つ加圧部位によって加圧する方法が好ましい。
【0073】
例えば図11に一例を示すような、型枠ユニット保持装置7を用いることができる。該型枠ユニット保持装置7は、ペースト充填連結型枠を工程F(硬化工程)に供する際の冶具として好適に用いられるものであり、ペースト充填連結型枠の型枠ユニット3、4を受容する一対の保持枠7a、7bを備えている。一対の保持枠7a、7bは、それぞれ断面が型枠ユニットの外形を保持できる形状に形成され、その開放側を対向させて、底板7cに立設させて取り付けられている。この保持枠7a、7bの内側には、ペースト充填連結型枠を保持させることができる。そして、ペースト充填連結型枠を底板7cに対して押圧する押圧ブロック7dが保持枠7a、7bの上部に着脱自在に取り付けられる。なお、この押圧ブロック7dは、ボルト7eとナット7fの組み合わせやその他の構造による固定手段により固定される。図11に示すように、一組のペースト充填連結型枠を固定する以外にも、複数のペースト充填連結型枠を直線や平面上に整列させたように固定することも可能である。このような型枠ユニット保持装置7を用いて加圧を行う場合には、ナット7fを締め付けることにより、又はナット7fを用いずに保持枠7a、7bに保持された状態のペースト充填連結型枠に対し、固定されていない状態の押圧ブロック7dを介して、油圧プレス機等を用いて加圧すればよい。
【0074】
加圧時には、連結型枠ユニットの連結部の少なくとも一部及び/又は連結柱状空洞部と押出板3a及び4aとの摺接部の少なくとも一部から余剰の流動性ペーストPを滲出させながら加圧されることで、流動性ペーストPの層間密着性、及びペーストPと連結型枠内面との密着性を効率的に向上させることが出来る。ペーストPと連結型枠内面の密着性が十分でない場合、ペーストPと連結型枠内面の間に間隙が発生し、重合時雰囲気内に存在する気体や雰囲気中に存在する不純物がペーストPに入り込む可能性が大きくなる。その結果、重合硬化後に得られるハイブリッドレジン積層体の層界面または各層の表面性状の審美性が低下する可能性が高まるため、この加圧工程は硬化体の審美性向上に対し有効となる。
【0075】
連結型枠に印加される圧力の大きさは0.024~0.60MPaであることが好ましく、0.072~0.48MPaであるとより好ましく、0.12~0.36MPaであると更に好ましい。加えて、連結型枠に加圧を行う時間は1~120分であることが好ましく、3~100分であるとより好ましく、5~60分であると更に好ましい。上記の加圧条件に加え、加圧装置あるいは治具の加圧部位が連結型枠ユニットに接触して加圧が開始されてから、最終圧力に到達するまでの最大圧力到達時間が短時間となるように加圧を行うことが好ましい。時間は120秒以下であれば良いが、60秒以下であれば好ましく、30秒以下であれば更に好ましい。
【0076】
このようにして加圧を行った連結型枠ユニットは、たとえば型枠ユニット保持装置7によって固定された状態で、工程F(硬化工程)に供されることになる。
【0077】
2-6.工程F(硬化工程)及び重合装置
工程F(硬化工程)では、前記工程で加圧されたペースト充填連結型枠の連結柱状空洞部内部のペースト積層体を硬化させる。このときの硬化は、使用した重合開始剤の種類に応じた重合硬化法を採用して行われ、重合条件も用いる重合開始剤の種類に応じて適宜決定すればよい。多数のペースト充填連結型枠の重合を確実に行うことができるとい観点から、重合開始剤としては熱重合開始剤を使用して、加熱重合を行うことが好ましい。
【0078】
本発明者等の検討によれば、型枠ユニットの材質が樹脂製、具体的には、耐熱温度が100℃以上の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂、を使用して加熱重合を行う場合には、加熱条件によっては、連結型枠における型枠ユニットの接合部においてエアの僅かな侵入や硬化不良が見られることがあることが判明した。
【0079】
このような現象の発生を抑制するためには、工程F(硬化工程)における硬化を、前記工程E(加圧工程)を経た前記ペースト積層体充填連結型枠を、下記ステップ1~3を順次行う昇温パターンで加熱することにより行うことが好ましい。
【0080】
ステップ1:30℃以上45℃以下の温度範囲内に少なくとも2時間保持するステップ
ステップ2:45℃を越え65℃以下の温度範囲内に少なくとも5時間保持するステップ
ステップ3:65℃を越え~100℃以下の温度範囲内に少なくとも2時間保持するステップ。
【0081】
各ステップにおける保持時間は上記条件を満たすものであればよいが、ステップ2については一定の範囲で長いほど効果が高くなる傾向が見られ、8~90時間、特に10~80時間とすることが好ましい。また、ステップ3については2~20時間、特に3~18時間とすることが好ましい。なお、ステップ1については、2~10時間、特に2~7時間とすることが好ましい。なお、上記ステップでは、必ずしも保持時間中に温度を一定に保つ必要は無く、寧ろ初期においては徐々に昇温して行くようなグラジエントを持たせることが好ましい。このような昇温パターンの加熱は、所定の温度になるまで一定の速度で昇温して保持を行うプログラムや、初期温度と最終温度を設定してその間でグラジエント制御を行うプログラム等を適宜設定することが可能であり、これらプログラムは所定温度領域内であれば降温工程を含むこともできる。さらに、ステップごとに、それら制御方法を単一で、または組み合わせたプログラムとしても良い。
【0082】
上記したような昇温パターンを採用することにより、樹脂製型枠ユニットを用いた際に起こることがある前記現象が抑制される機構は必ずしも明らかではないが、重合時における重合収縮に追随して樹脂が均一に変形できるようになったためであると考えている。このような効果は、前記工程E(加圧工程)の有無に拘わらず得られる。別言すれば、工程Eを行わない場合でも(加圧による効果が無い場合でも)、一定の、エアの僅かな侵入や硬化不良を防止する効果は得られる。
【0083】
上記したような昇温パターンを採用することによる効果が顕著であると言う理由から、上記昇温パターンによる加熱重合を行う場合は、耐熱温度が100℃以上樹脂製型枠ユニットとして次のような樹脂製のものを使用することが好ましい。すなわち、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、ポリアセタール、ポリカーボネートのような熱可塑性樹脂や、ポリイミド、ポリアミド、フェノール、メラミン樹脂などの熱硬化性樹脂、PEEK、PTFE、PEK、PEKK、などの、各種の(スーパー)エンジニアリングプラスチックなどが用いられ、価格や成形時の取り扱い性を考慮すると、ポリプロピレンや高密度ポリエチレンなどの汎用樹脂が好適である。これら樹脂は、製造時の取り回しや、流動性ペーストの流し込みやすさ等で適宜選択することができる。
【0084】
硬化時の雰囲気に制限は無いが、酸化劣化による色調変化を防ぐために窒素等の不活性ガス雰囲気下で加熱処理する事が好ましい。処理に用いる装置は、硬化体を所望の温度に加熱する事ができる装置で有れば制限は無いが、一般的に自然対流式よりも強制対流式オーブンの方が内温の均一性が高く好ましい。また、不活性ガス雰囲気下とするための方法にも制限は無いが、例えば、別途硬化体を収容するための密閉容器を用いても良く、オーブン自体に密閉構造を持たせて内部雰囲気を置換しても良い。オーブンが密閉構造でない場合でも、雰囲気ガスを連続的に流す方法を用いることもできる。
【0085】
また、硬化時の圧力は常圧下であっても良いが、0.1MPa~0.9MPa、好ましくは0.2MPa~0.6MPaの加圧化で行うことが好ましい。このような加圧下での熱重合は、加圧オーブンやオートクレーブのような加熱可能な圧力容器を用いて行うことができる。
【0086】
その後、硬化された二層の流動性ペーストPを型枠ユニット3、4から取り出し、必要に応じてバリ等の除去や、表面を滑らかにするための研磨処理、面だし、印字、熱処理などの後処理を行うことにより、二層構造のハイブリッドレジン積層体をからなる被切削部が製造される。
【0087】
以上、2ユニット積層法により二層構造のハイブリッドレジン積層体を得る例について説明したが、2ユニット積層法により三層構造のハイブリッドレジン積層体を得ることも可能である。例えば、前記工程Bにおいて第1流動ペースト及び第2流動ペーストの他に第3流動ペーストを準備し、工程Cにおいて、ペースト充填型枠ユニットを作製する際に、少なくとも何れか一方の型枠ユニットにおいて、第1流動ペースト又は第2流動ペーストをフル充填せずに、一定の厚さの未充填部が残るように充填し、この未充填部に第3流動ペーストを充填し、D以降の工程を同様にして行うことにより、三層の構造のハイブリッドレジン積層体を得ることもできる。第3流動ペーストの充填の際には、下地となる流動ペースト層の表面を一旦平面状態としてから行うことが好ましい。第3流動ペーストの層厚が薄い場合には、このようにしてから第3流動ペーストを注意深く充填すれば、積層界面に乱れや欠陥が生じないようにすることができる。また第3流動ペーストを前記未充填部の厚さと同じ厚さのシート状にして未充填部に充填するようにしても良い。このような方法は、後述する3ユニット積層法にも適用でき、使用する型枠ユニット数よりも多い層を有するハイブリッドレジン積層体を得ることができる。
【0088】
2-7. F工程で得られた硬化体からなるハイブリッドレジン積層体を被切削部とする歯科加工用ブランクの製造について
F工程で得られた二層構造のハイブリッドレジン積層体をからなる被切削部に、必要に応じて図13に示すように、ブランク保持ピン2を接着剤等で接着させれば、図14に示すような歯科用補綴物10を切削加工するための歯科加工用ブランク1の製品となる。ブランク保持ピンは、切削加工機にブランクを固定できるような形状のものであれば特に制限はなく、ブランクの形状と加工機の要求によっては具備されなくともよい。ブランク保持ピンの材質は、ステンレス、真鍮、アルミニウムなどが使用される。ブランク保持ピンの歯科切削加工用レジン材料への固定方法は前記の接着によらず、はめ込み、ネジ止め等の方法でよく、上記接着方法についても特に制限はなく、イソシアネート系、エポキシ系、ウレタン系、シリコーン系、アクリル系等の各種市販の接着材を使用することができる。
【0089】
3.「3以上ユニット積層法」について
前記2.項で説明した実施形態では、2つの型枠ユニットからなる型枠キットを用い、各型枠ユニットに夫々1種類のペースト状重合硬化性組成物を充填して、二層構造のハイブリッドレジン積層体からなる被切削部を有する歯科加工用ブランク1を製造する「2ユニット積層法」(I)について説明した。ここでは、3つ以上の型枠ユニットからなる型枠キット、すなわち基端型枠ユニット及び先端型枠ユニット並びにこれら両型枠ユニット間に配置される少なくとも1つの中間型枠ユニットを有する型枠キットを用い、各型枠ユニットに夫々1種類のペースト状重合硬化性組成物を充填して、三層以上の積層構造を有するハイブリッドレジン積層体からなる被切削部を有する歯科加工用ブランク1を製造する方法である「3以上ユニット積層法」について説明する。
【0090】
前記したように、「3以上ユニット積層法」は、工程Dが前記工程Db1~工程Db4を含む工程となる他は、「2ユニット積層法」(I)と大きく変わる点は無い。また、D工程の違いも、要約すれば、「2ユニット積層法」(I)で得られた、連結型枠の両端開口が押出板で実質的に塞がれた「ペースト積層体充填連結型枠」の一方の開口を塞ぐ押出板を除去して、これを「部分ペースト積層体充填連結型枠」とし、その上に「ペースト充填型枠ユニット」を連結(積層)するという、連結(積層)⇒一方の押出板による「ペースト充填型枠ユニット」化⇒「ペースト充填型枠ユニット」と「ペースト充填型枠ユニット」との連結(積層)と言う操作を中間型枠ユニットの数分だけ繰り返して「ペースト積層体充填連結型枠」を得るという点だけである。そこで、「3以上ユニット積層法」については、中間型枠ユニットの数が1である(上記操作を1回のみ行う)ケースについて図12を参照して説明することとする。なお、図12は三層構造の歯科加工用ブランク1を製造する場合の、積層工程を説明する図であり、図1に相当する図である。
【0091】
三層の構造の歯科加工用ブランク1を製造する場合には、前述した基端型枠ユニット3及び先端型枠ユニット4と同様に、押出板21aを有する第一端用型枠ユニット(基端型枠ユニット)21と、押出板22aを有する第二端用型枠ユニット(先端型枠ユニット)22とを準備する。これら第一端用型枠ユニット21と第二端用型枠ユニット22との間に、中間用型枠ユニット23が配される。そして、これら三つの型枠ユニット21~23が連結されることにより連結型枠となる。また、これら型枠ユニット21~23のそれぞれが有する柱状空洞部が連続することで、連結した柱状の空洞部を有する連結キットが構成される。なお、中間用型枠ユニット23には押出板21a、22aに相当する押出板は備えられていない。すなわち、これら第一端用型枠ユニット21と第二端用型枠ユニット22、中間用型枠ユニット23とのそれぞれで色調等が異なる層が形成される。
【0092】
そして、前述と同様に、それぞれの型枠ユニット21~23に充填具5によって流動性ペーストが充填されて、それぞれの型枠ユニット21~23によりペースト充填型枠ユニットが作製される。
【0093】
これら型枠ユニット21~23を積層させる工程を、図12を参照して説明する。まず、積層装置6の保持板6aに第一端用型枠ユニット21を配し、この第一端用型枠ユニット21に中間用型枠ユニット23を重ねる。この状態で、押上板6bを保持板6aに接近させて、透孔6a2に挿入された押上ロッド6b1の上端部を保持板6aの上面から突出させると、図12(A)に示すように、第一端用型枠ユニット21の押出板21aが押し上げられる。これにより、第一端用型枠ユニット21内の流動性ペーストPが上方に突出し、さらに中間用型枠ユニット23内の流動性ペーストPが上方に突出する。このため、中間用型枠ユニット23の流動性ペーストPが上方に突出した部分の上面がペースト接合面Paとなる。なお、中間用型枠ユニット23を第一端用型枠ユニット21に重ねるに先立って、第一端用型枠ユニット21内の流動性ペーストPを押し上げて凸曲面状等のペースト接合面Paを形成し、これに中間用型枠ユニット23内の流動性ペーストPを積層すれば、第一端用型枠ユニット21内の流動性ペーストPのペースト接合面Paと中間用型枠ユニット23内の流動性ペーストPのペースト接合面Paとの間に空気が混入しないので好ましい。
【0094】
次に、図12(B)と図12(C)とに示すように、第一端用型枠ユニット21に積み重ねられた中間用型枠ユニット23の押出板を除去して、これを「部分ペースト積層体充填連結型枠」としてから、その上側に第二端用型枠ユニット22を載置して、押しつける。このとき、図12(B)に示すように、押上ロッド6b1を保持板6aの上面から突出することのない位置まで押上板6bを保持板6aから離隔させる。この状態で、第二端用型枠ユニット22を中間用型枠ユニット23に押しつける。このため、図12(C)に示すように、第一端用型枠ユニット21内の流動性ペーストPと中間用型枠ユニット23内の流動性ペーストPとが一体化され、さらに中間用型枠ユニット23内の流動性ペーストPと第二端用型枠ユニット22内の流動性ペーストPとが一体化される。これにより、界面が整った三層構造となる。
【0095】
この様にして得られた「ペースト積層体充填連結型枠」すなわち、三層構造となった型枠ユニット21~23を、図11に例示する型枠ユニット保持装置7に供して保持させ、加圧した後に硬化させる。これによりこれらの流動性ペーストPが一体化して硬化し、三層構造の歯科加工用ブランク1が形作られる。
【0096】
次いで、硬化された三層の流動性ペーストを型枠ユニット21~23から取り出し、必要に応じてバリ等の除去や、研磨処理といった後工程を行うことにより、三層構造の歯科加工用ブランク1を得られる。
【0097】
そして、製造された歯科加工用ブランク1に、図13に示すように、ブランク保持ピン2を接着剤等で接着させれば、図14に示すような歯科用補綴物10を切削加工するための歯科加工用ブランク1の製品となる。
【0098】
なお、図12には三層構造を備えた歯科加工用ブランク1について説明したが、四層以上の構造の歯科加工用ブランク1を製造する場合には、中間用型枠ユニット23と同様な中間用型枠ユニットを増やすことによって、所望の層構造の歯科加工用ブランク1を製造することができる。
【0099】
また、この実施形態では、製造装置として、充填具5と積層装置6、型枠ユニット保持装置7とを用いて説明したが、充填工程や積層工程、硬化工程に用いられる装置としては、これらの構造を備えた装置に限られない。
【0100】
また、積層されるそれぞれの層を形成する流動性ペーストは、色調が異なるものとすることができ、さらに、歯の欠損部に使用される歯科用補綴物10に要求される性質のものとすることができ、性質の異なる層を有する構造とすることができる。
【0101】
製造装置に用いられる材質としては、用途に応じて適した材質を適宜選定して使用する事ができる。例えば、アルミニウムまたはアルミニウム合金、ステンレス、鉄、真鍮といった金属材料や、ポリプロピレン、ポリエチレン、ウレタン、POM、PEK、PEKK、PEEK等といった熱硬化性や熱可塑性を有するプラスチック材料や、シリコンゴム等のエラストマー材料、その他にもセラミック系の材料等が挙げられるが、上記の記載に留まらず公知の材料を、使用する部材に求められる物性や必要とされる部材の精度に応じて適宜選択することが好ましい。
【0102】
さらに、必要に応じて装置部材の後処理を行う事が好ましい。研磨や表面処理等の後処理によって部材の耐久性や、機能性を向上することができる。
【実施例
【0103】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0104】
実施例1
まず、夫々同一形状を有し、内部の柱状空洞部の寸法が18.5mm×15mm×9.5mmであるポリプロピレン製の基端型枠ユニット(第一型枠ユニット)及び先端基端型枠ユニットか(第二型枠ユニット)らなる型枠ユニットを準備した(工程A)。
【0105】
次に、トリエチレングリコールジメタクリレート25質量%及び1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン75質量%からなる重合性単量体組成物成分20質量部、無機フィラー80質量部及び熱重合開始剤である過酸化ベンゾイル0.4質量部を、プラネタリーミキサーを用いて均一になるまで混合した後に、真空脱泡をして流動ペーストを調製した。なお、無機フィラーとしては、平均粒径0.2ミクロンの球状シリカジルコニア及び平均粒径10ミクロンの球状シリカジルコニア(何れもγ-メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理したもの)を同質量部混合したものを使用した。このようにして得られた流動ペーストを2分割し、夫々に種類の異なる顔料を配合して混錬し、夫々色調の異なる第1流動ペーストと第2流動ペーストを調製した(工程B)。
【0106】
第一型枠ユニット及び第二型枠ユニットの夫々の柱状空洞部内に、18.3mm×14.8mm×2.0mmである押出板を進退自在且つ着脱自在に嵌挿して各型枠ユニットの一方の端部開口を塞いだ後、図7(A)に示す充填具5を用い、第一型枠ユニットについては第1流動ペーストを、第二型枠ユニットについては第2流動ペーストを充填し(工程C)、更に図8に示す積層装置6を用い、図1に示す様な方法でペースト積層体充填連結型枠を得た(工程D)。
【0107】
このようにして得たペースト積層体充填連結型枠を図11に示す型枠ユニット保持装置7にセットし、ナットを締めない状態で連結型枠の軸方向に0.024MPaの圧力を5分間印加して、加圧処理を行った(工程E)。
【0108】
その後、型枠ユニット保持装置7にセットのナットを締めてペースト積層体充填連結型枠を固定し、オーブンを用いて常圧で加熱重合硬化を行った。このときの加熱は、40℃で2h、55℃で5h、80℃で2順次保持するという昇温パターンを採用して行った(工程F)。
【0109】
室温まで冷却後に型枠ユニット保持装置から連結型枠外し、内部の硬化体(ハイブリッドレジン積層体)を取り出し、得られたハイブリッドレジン積層体について層界面および各層表面を目視で評価し、それぞれ以下のよう評価基準で評価を行ったところ、層界面の状態は、B(界面の乱れがほとんどない)であり、全体に対するエアの侵入は1(表面の荒れが生じているが、許容できる)であった。
【0110】
層界面の状態の評価基準:
A:界面の乱れが全くない
B:界面の乱れがほとんどない
C:一部界面の乱れが見られるが許容できる
D:一部界面の乱れが見られ、許容範囲を下回る
E:界面の乱れが極めて目立ち、許容範囲を著しく下回る。
【0111】
エアの侵入の評価基準:
10:エアの侵入が無く、表面に光沢がある
5:エアの侵入が無いが、光沢は劣る
1:表面の荒れが生じているが、許容できる
0:エアが侵入し、表面が大きく荒れている。
なお、評価基準6~9は、評価基準5と10との中間の評価で、数値が大きいほど10に近い状態を表し、評価基準2~4は、評価基準1と5との中間の評価で、数値が大きいほど5に近い状態を表している。
【0112】
比較例1
工程E(加圧工程)を行わない他は実施例1と同様にしてハイブリッドレジン積層体を製造し、層界面の状態を評価したところ、評価はE(界面の乱れが極めて目立ち、許容範囲を著しく下回る)であった。
【0113】
実施例2~15
工程E(加圧工程)における加圧条件を表1に示すように変更し、工程F(硬化工程)における加熱条件を、ステップ1:40℃で5h保持、ステップ2:45~65℃で30h保持、ステップ3:80℃で15h保持という条件に変更した他は実施例1と同様にしてハイブリッドレジン積層体を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。なお、表中の「↑」は、「同上」を意味する。
【0114】
【表1】
【0115】
実施例16~28
工程F(重合工程)における各ステップの保持温度及び保持時間件を、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてハイブリッドレジン積層体を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0116】
【表2】
【0117】
実施例29~31
これら実施例は、加圧工程を含むことにより層界面乱れは改善されたが、樹脂製の型枠ユニットを用い、更に硬化工程における昇温条件が好適な条件から外れたため、型枠ユニットの隙間から表面全体にエアの侵入や硬化不良が起こってしまった例である。すなわち、工程F(重合工程)における各ステップの保持温度及び保持時間件を、表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてハイブリッドレジン積層体を製造した例である。実施例1と同様にして評価を行った結果を表3に示す。
【0118】
【表3】
【符号の説明】
【0119】
1 歯科加工用ブロック
1a 第一層
1b 第二層
2 ブランク保持ピン
3 第一型枠ユニット
3a 押出板
3b 閉鎖側開口
3c 供給側開口
4 第二型枠ユニット
4a 押出板
4b 閉鎖側開口
4c 供給側開口
5 充填具
5a 保持板
5a1 突出部
5b 位置決めブロック
5b1 段部
5c 充填盤
5c1 支持面
5c2 ペースト流路
5c3 ペースト流路
5d 型枠ユニット収容部
5e 充填ノズル
6 積層装置
6a 保持板
6a1 位置決めピン
6a2 透孔
6b 押上板
6b1 押上ロッド
7 型枠ユニット保持装置
7a、7b 保持枠
7c 底板
7d 押圧ブロック
10 歯科用補綴物
21 第一端用型枠ユニット
22 第二端用型枠ユニット
23 中間用型枠ユニット
21a 押出板
22a 押出板
P 流動性ペースト
Pa ペースト接合面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14