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特許7525138字消し、鉛筆類および熱変色インキ含有筆記具共用の消字組成物、ならびに熱変色インキの消字体
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  • 特許-字消し、鉛筆類および熱変色インキ含有筆記具共用の消字組成物、ならびに熱変色インキの消字体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】字消し、鉛筆類および熱変色インキ含有筆記具共用の消字組成物、ならびに熱変色インキの消字体
(51)【国際特許分類】
   B43L 19/00 20060101AFI20240723BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
B43L19/00 B
C08L27/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019157447
(22)【出願日】2019-08-29
(65)【公開番号】P2021030708
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-07-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年7月3日に青雲クラウン・シーズンマーケットにて展示 令和1年7月4日にエコービッグコレクション2019にて展示令和1年7月9日に名古屋エコール見本市「ECOLLE2019」にて展示 令和1年7月10~11日に第28回2019夏の文紙フェアにて展示 令和1年7月10~11日に2019年7月 MDS商談会にて展示令和1年7月18~19日に2019 Myoko corp Trade Fairにて展示 令和1年7月22~23日に2019年ステーショナリフェアOKAYAMA・(株)岡山エコール年末商談会にて展示 令和1年8月6~7日に文紙MESSE2019にて展示 令和1年8月29日にCROWN AUTUMN FAIR 2019にて展示 令和1年7月1日(発行日)(頒布日:令和1年8月6日)に月刊事務用品 夏季特別号(7・8月合併号)第52巻 第7号 第29頁 株式会社文研社発行にて公開 令和1年7月25日にCLIPS 令和元年7月25日付 第2348号 第7頁 紙製品新聞社発行にて公開 令和1年7月25日に旬刊ステイショナー 2019年(令和元年)7月25日付 第1949号 第22頁 株式会社ステイショナー発行にて公開 令和1年7月30日にザ・トピックス 令和元年(2019年)7月30日付 第1076号 暑中特別号 第27頁 株式会社ザ・トピックス社発行にて公開 令和1年7月31日に月刊文具 2019年7月号 第16~17頁 月刊文具新聞社発行にて公開 令和1年8月1日にオフイスマガジン 令和元年8月1日付 第3029号 第7頁 株式会社オフマガNEXT発行にて公開 令和1年8月7日に文紙MESSE協議会から報道関係者への2019年8月7日付の速報にて公開 令和1年8月15日に週刊ビューロウ 令和元年8月15・22日(木)付 第3227・3228号 第3頁 株式会社全通発行にて公開 令和1年8月15日にオフイスマガジン 令和元年8月15日付 第3030号 第1~2頁 株式会社オフマガNEXT発行にて公開 令和1年8月25日にCLIPS 令和元年8月25日付 第2351号 第3頁 紙製品新聞社発行にて公開 令和1年8月25日に旬刊ステイショナー 2019年(令和元年)8月25日付 第1951号 第3頁 株式会社ステイショナー発行にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年8月25日に日本文具新聞 2019(令和元年)8月号 第1頁 株式会社日本文具新聞社発行にて公開 令和1年8月29日に週刊ビューロウ 令和元年8月29日(木)付 第3229号 第2頁 株式会社全通発行にて公開 令和1年7月8日に株式会社シードの公式ブログ(http://seedr.blog.jp/archives/18571019.html)および公式ツイッター(https://twitter.com/seed_zero_oneの令和1年7月8日のツイート)にて公開 令和1年7月8日にウェブサイト「文マガ(文具流通マガジン)」の令和1年7月8日の記事(https://www.nichima.co.jp/new_item/entry/3096.html)にて公開 令和1年7月9日にウェブサイト「文具のとびら」の令和1年7月9日の記事(https://www.buntobi.com/articles/entry/news/009817/)にて公開 令和1年7月11日にウェブサイト「オフィスマガジンonline」の令和1年7月11日の記事(http://ofmaga.com/news.html?eid=01783)にて公開令和1年7月11日にウェブサイト「文マガ(文具流通マガジン)」の令和1年7月11日の記事(https://www.nichima.co.jp/news/entry/3956.html)にて公開 令和1年7月16日以降にウェブサイト文紙MESSE2019の「新製品コンテスト」のページ(https://www.bunshi-messe.com/itemcontest-2)からアクセスするWEB投票のページにて公開 令和1年8月6日に文紙メッセの公式ツイッター(2019年8月6日のツイート)(https://twitter.com/Bunshi_Messe/status/1158994924542427136)にて公開 令和1年8月7日および8日にウェブサイト「オフィスマガジンonline」の令和1年8月7日(http://ofmaga.com/news.html?eid=01793)および令和1年8月8日(http://ofmaga.com/news.html?eid=01796)の記事にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年8月8日にウェブサイト「Value press」内の「一般社団法人大阪文具工業連盟のプレスリリース」の2019年8月8日の記事(https://www.value-press.com/corporation/57085、https://www.value-press.com/pressrelease/226183、https://www.value-press.com/pressrelease/226179)にて公開 令和1年8月19日にウェブサイト「文マガ(文具流通マガジン)」の令和1年8月19日の記事(https://www.nichima.co.jp/news/entry/3996.html)にて公開 令和1年8月20日にウェブサイト「GetNaviweb」の令和1年8月20日の記事(https://getnavi.jp/stationery/416120/2/)にて公開 令和1年8月24日にhttps://news.livedoor.com/article/detail/16974148/およびhttps://bg-mania.jp/2019/08/24305858.htmlのアドレスの令和1年8月24日の記事にて公開 令和1年8月24日にhttps://www.excite.co.jp/news/article/bg_mania_2019_2_305858/のアドレスの令和1年8月24日の記事にて公開令和1年8月24日にhttps://news.nicovideo.jp/watch/nw5838742のアドレスの令和1年8月24日の記事にて公開 令和1年8月24日にhttps://matome.naver.jp/odai/2156662889626010601のアドレスの令和1年8月24日の記事にて公開 令和1年7月1日に販売委託先に公開 令和1年7月10日に販売委託先に公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年8月1日にヨドバシ・ドット・コムのウェブサイト(https://www.yodobashi.com/category/168001/168002/168056/168057/m0000005476/、https://www.yodobashi.com/product/100000001004829507/、https://www.yodobashi.com/product/100000001004829508/)にて公開令和1年8月26日にロフト公式ネットストアのウェブサイト(https://loft.omni7.jp/search/?keyword=SEED&searchKeywordFlg=1&intpr=loft_frmng_basic_headnav_schbox&siteCateCode=0300000000000000&userKeywordFlg=1、https://loft.omni7.jp/detail/4906643013703、https://loft.omni7.jp/detail/4906643013680)および公式ツイッター(2019年8月26日のツイート)(https://twitter.com/LOFT_Official/status/1165903053175681024)にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000106782
【氏名又は名称】株式会社シード
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100076820
【弁理士】
【氏名又は名称】伊丹 健次
(72)【発明者】
【氏名】亀山 詩織
(72)【発明者】
【氏名】水口 裕太
(72)【発明者】
【氏名】藤田 悠介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 理子
(72)【発明者】
【氏名】堀 奈津美
(72)【発明者】
【氏名】河行 愛子
【審査官】市川 勝
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-242098(JP,A)
【文献】特開2012-200908(JP,A)
【文献】特開2016-194033(JP,A)
【文献】特開2014-008773(JP,A)
【文献】国際公開第2018/116767(WO,A1)
【文献】特開2017-113911(JP,A)
【文献】特開2014-076598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43L 19/00
C08L 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
800~1500の平均重合度を有する塩化ビニル樹脂と、1.50以上の屈折率および9.4~11.0の溶解パラメータを有する可塑剤とを含有し、
JIS S 6050(2002)に準拠した硬さが60~80である、鉛筆類および熱変色インキ含有筆記具共用の消字組成物。
【請求項2】
前記可塑剤が、安息香酸エステル、リン酸エステル、およびフタル酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、請求項に記載の鉛筆類および熱変色インキ含有筆記具共用の消字組成物。
【請求項3】
平均厚み10.7mmに成形した際の該厚み方向における明度L*に基づいて算出された透明度の最大値が90%以上である組成物で構成されている、請求項またはに記載の鉛筆類および熱変色インキ含有筆記具共用の消字組成物。
【請求項4】
800~1500の平均重合度を有する塩化ビニル樹脂と、1.50以上の屈折率および9.4~11.0の溶解パラメータを有する可塑剤とを含有し、
JIS S 6050(2002)に準拠した硬さが60~80である、熱変色インキの消字体。
【請求項5】
前記可塑剤が、安息香酸エステル、リン酸エステル、およびフタル酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、請求項に記載の熱変色インキの消字体。
【請求項6】
平均厚み10.7mmに成形した際の該厚み方向における明度L*に基づいて算出された透明度の最大値が90%以上である組成物で構成されている、請求項またはに記載の熱変色インキの消字体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、字消し、鉛筆類および熱変色インキ含有筆記具共用の消字組成物、ならびに熱変色インキの消字体に関し、より詳細には良好な消字性を提供し得る、字消し、鉛筆類および熱変色インキ含有筆記具共用の消字組成物、ならびに熱変色インキの消字体に関する。
【背景技術】
【0002】
字消し(消しゴム)は、基材樹脂の種類によって大別され、例えば、塩化ビニル樹脂からなる塩ビ字消し、スチレン系熱可塑性エラストマーまたはオレフィン系熱可塑性エラストマーからなる非塩ビ字消し、および天然ゴム字消しが挙げられる。こうした字消しのうち良好な消字性を有するものは、主に白色または所定の色彩を呈したものである。これは字消しを構成する基材樹脂と、可塑剤、充填材の種類との相関性に基づくためである。このため、従来市販されている字消しは、色彩面から見た意匠性の自由度が限られているという点では幾分画一的なものであった。
【0003】
他方、意匠性を高めるために、透明な字消しがいくつか提案されている(例えば特許文献1および2)。しかし、こうした透明な字消しは、消字性が十分でない、折れ易い、字消し本体の硬さが柔らかくなり易い等の点で実用性を満足し難いことが指摘されていた。
【0004】
他方、近年では、熱変色インキを用いた消字可能なボールペンが市販されている。こうしたボールペンの多くには、キャップの端部に樹脂製の消字体が設けられている。熱変性インキの消字は、当該消字体でインキ付着部分を摩擦することにより発生する摩擦熱を通じて熱変色インキの変色を促し、消字を可能にする。
【0005】
ただ、こうしたボールペンは、例えば、代表的な購買層である学生の間では、シャープペンシルや鉛筆などの鉛筆類と併用されることも多い。その際、鉛筆類の消字には字消しを使用し、熱変色インキの消字には消字体を使用しなければならず、両者の使い分けが必須であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭59-024737号公報
【文献】特開昭63-049640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、優れた透明性を有するとともに消字性および折れ難さ等の実用性を兼ね備え、かつ鉛筆類および熱変色インクの消字にあたり使い分けの煩雑さを解消し得る、字消し、鉛筆類および熱変色インキ含有筆記具共用の消字組成物、ならびに熱変色インキの消字体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、800~1500の平均重合度を有する塩化ビニル樹脂と、1.50以上の屈折率および9.4~11.0の溶解パラメータを有する可塑剤とを含有する、字消しである。
【0009】
1つの実施形態では、上記可塑剤は、安息香酸エステル、リン酸エステル、およびフタル酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種の化合物である。
【0010】
1つの実施形態では、本発明の字消しは充填材を含有しない。
【0011】
1つの実施形態では、平均厚み10.7mmに成形した際の該厚み方向における明度L*に基づいて算出された透明度の最大値が90%以上である組成物で構成されている。
【0012】
1つの実施形態では、JIS S 6050(2002)に準拠した硬さが60~80である。
【0013】
1つの実施形態では、長さ30mm×幅20mm×厚み5mmの大きさに切断された試験片の上面および下面を、長側面に対して片方の手の親指と人差し指とで保持し、該試験片を押し潰しによる該試験片の屈曲とその解放とを1回の動作として繰り返す際の該試験片の平均折れ回数が100以上である。
【0014】
本発明はまた、800~1500の平均重合度を有する塩化ビニル樹脂と、1.50以上の屈折率および9.4~11.0の溶解パラメータを有する可塑剤とを含有する、鉛筆類および熱変色インキ含有筆記具共用の消字組成物である。
【0015】
1つの実施形態では、上記可塑剤は、安息香酸エステル、リン酸エステル、およびフタル酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種の化合物である。
【0016】
1つの実施形態では、平均厚み10.7mmに成形した際の該厚み方向における明度L*に基づいて算出された透明度の最大値が90%以上である組成物で構成されている。
【0017】
1つの実施形態では、JIS S 6050(2002)に準拠した硬さが60~80である。
【0018】
1つの実施形態では、長さ30mm×幅20mm×厚み5mmの大きさに切断された試験片の上面および下面を、長側面に対して片方の手の親指と人差し指とで保持し、該試験片を押し潰しによる該試験片の屈曲とその解放とを1回の動作として繰り返す際の該試験片の平均折れ回数が100以上である。
【0019】
本発明はまた、800~1500の平均重合度を有する塩化ビニル樹脂と、1.50以上の屈折率および9.4~11.0の溶解パラメータを有する可塑剤とを含有する、熱変色インキの消字体である。
【0020】
1つの実施形態では、上記可塑剤は、安息香酸エステル、リン酸エステル、およびフタル酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種の化合物である。
【0021】
1つの実施形態では、平均厚み10.7mmに成形した際の該厚み方向における明度L*に基づいて算出された透明度の最大値が90%以上である組成物で構成されている。
【0022】
1つの実施形態では、JIS S 6050(2002)に準拠した硬さが60~80である。
【0023】
1つの実施形態では、長さ30mm×幅20mm×厚み5mmの大きさに切断された試験片の上面および下面を、長側面に対して片方の手の親指と人差し指とで保持し、該試験片を押し潰しによる該試験片の屈曲とその解放とを1回の動作として繰り返す際の該試験片の平均折れ回数が100以上である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、消字性、折れ難さ等の実用性を保持したまま、優れた透明性を通じて字消しのバリエーションを拡張することができる。さらに、鉛筆類で記載した文字や線図だけでなく、熱変性インキで記載したものも一緒に消字することができ、鉛筆類および熱変性インキを併用した場合の消字に要する時間を短縮することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の字消し、消字組成物または消字体から作製した試験片の平均折れ回数を測定する際の試験片の屈曲と解放とを繰り返す動作を説明するための写真である。
図2】本発明の字消し、消字組成物または消字体から作製した試験片の透明度を測定する際に使用される、コピー機またはレーザー複合機から出力されたサンプル用紙を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について詳述する。
【0027】
(字消し)
本発明の字消しは、基材樹脂として塩化ビニル樹脂を含有する。
【0028】
塩化ビニル樹脂は、800~1500、好ましくは1000~1450、さらに好ましくは1200~1430の平均重合度を有するペースト塩化ビニル樹脂である。本発明において、塩化ビニル樹脂の平均重合度が800未満であると、得られる字消しの硬さが低下するとともに、十分な消字性が得られないことがある。塩化ビニル樹脂の平均重合度が1500を上回ると、後述する可塑剤との間のマッチングが比較的困難となり、得られる字消しに対して透明性が低下するとともに折れ易くなることがある。
【0029】
塩化ビニル樹脂は、塩化ビニルのホモポリマーであるか、または構成単位として塩化ビニルを主として含みかつ酢酸ビニル、エチレン、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等のコモノマーとして含む個ポリマーであってもよい。本発明では、字消しの透明性を高める観点から、塩化ビニル樹脂は塩化ビニルのホモポリマーで構成されていることが好ましい。
【0030】
本発明では、基材樹脂として、後述する字消しの透明性を損なわない限りにおいて、上記塩化ビニル樹脂以外に他の樹脂またはゴムを含有していてもよい。他の樹脂としては、例えば、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、アクリル系熱可塑性エラストマー、塩ビ系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ナイロン系熱可塑性エラストマー、および塩素化ポリエチレンコポリマー架橋体アロイ、ならびにそれらの組み合わせなどの熱可塑性エラストマーが挙げられる。他のゴムとしては、例えば、天然ゴムおよび合成ゴム、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。合成ゴムの具体的な例としては、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、およびアクリロニトリルブタジエンゴム、ならびにそれらの組み合わせなどのジエン系ゴム;やブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロヒドリンゴム、およびフッ素ゴム、ならびにそれらの組み合わせなどの非ジエン系ゴムが挙げられる。
【0031】
このような他の樹脂またはゴムは、得られる字消しの透明性を損なわないために、上記塩化ビニル樹脂と略同等の屈折率、すなわち、好ましくは1.50以上、より好ましくは1.52~1.55の屈折率を有することが望ましい。当該他の樹脂またはゴムの含有量は当業者によって適宜選択され得る。
【0032】
可塑剤は、得られる字消しに対して適切な柔軟性と摩擦抵抗を付与するために添加されている。本発明の字消しを構成する可塑剤は、塩化ビニル樹脂の屈折率(Rpvc)に近い1.50以上、好ましくは1.52~1.56の屈折率(Rpl)を有する。可塑剤の屈折率(Rpl)が1.50未満であると、上記塩化ビニル樹脂の屈折率(Rpvc)との差が大きくなり、得られる字消しの透明性が低下する場合がある。むしろ、本発明においては、得られる字消しの透明性を高めるために、塩化ビニル樹脂の屈折率(Rpvc)と可塑剤の屈折率(Rpl)との差の絶対値(|Rpvc-Rpl|)が、例えば:
【0033】
【数1】
【0034】
を満足することが好ましい。
【0035】
可塑剤はまた、9.4~11.0、好ましくは9.5~10.5、より好ましくは9.6~10.0の溶解パラメータ(sp値)を有する。可塑剤の溶解パラメータが9.4~11.0の範囲外であると、塩化ビニル樹脂との相溶性が低下してより均質かつ透明な字消しを得ることが困難となる場合がある。
【0036】
可塑剤の例としては、安息香酸エステル、リン酸エステル、およびフタル酸エステル、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。安息香酸エステルの具体的な例としては、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエートならびにそれらの組み合わせが挙げられる。リン酸エステルの具体的な例としては、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェートならびにそれらの組み合わせが挙げられる。フタル酸エステルの具体的な例としては、フタル酸ベンジルブチルが挙げられる。本発明においては、自然環境により優しい材料であり、それにより製品訴求力を高めることができるという点から、可塑剤として安息香酸エステルを用いることが好ましい。
【0037】
本発明において可塑剤の含有量は必ずしも限定されないが、上記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、好ましくは50質量部~200質量部、より好ましくは100質量部~150質量部である。可塑剤の含有量が50質量部を下回ると、得られる字消しは硬く、粘着性が低下することで消字性が低下するおそれがある。可塑剤の含有量が200質量部を上回ると、字消しの硬さが低下し、使いづらくなるおそれがある。
【0038】
本発明の字消しはまた、上記塩化ビニル樹脂と可塑剤との組み合わせのみから達成される透明性、消字性、および折れ難さ等を著しく阻害しない範囲において他の成分を含有していてもよい。このような他の成分としては、例えば安定剤および着色剤ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0039】
安定剤は、樹脂成形分野において一般的に使用されるものであり、塩化ビニル樹脂の熱安定剤であることが好ましい。塩化ビニル樹脂の熱安定剤の例としては、バリウム、亜鉛、カルシウムなどの金属とステアリン酸、ラウリン酸、リシノール酸、ナフテン酸、2-エチルヘキソイン酸などの有機酸との金属石鹸が挙げられる。安定剤の他の例としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、および光安定剤が挙げられる。酸化防止剤の例としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、および硫黄系酸化防止剤が挙げられる。紫外線吸収剤の例としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、およびオキザニリド系紫外線吸収剤が挙げられる。光安定剤の例としては、種々のヒンダードアミン系光安定剤、シュウ酸誘導体、サリチル酸誘導体、およびヒドラジン誘導体が挙げられる。
【0040】
着色剤は、塩化ビニル樹脂に対して汎用されるものであることが好ましい。着色剤の例としては、無機系顔料、有機系顔料、分散染料、および反応染料が挙げられる。
【0041】
従来の字消しにおいて、充填材は消字を必要とする紙面との摩擦を高め、消しくずを生じることにより消字性を高める役割を果たす。これに対し、当該充填材は字消しの透明性に影響を及ぼすおそれがあるため、本発明の字消しは、充填材を含有しないことが好ましい。本発明の字消しは、充填材を含有しないことにより消しくずの発生量が抑えられる一方で、適度な粘りがあり折れにくく、かつ良好な消字性は十分に保持されている。
【0042】
本発明の字消しは、以下の様々な物性的特徴を有する。
【0043】
例えば、本発明の字消しでは、長さ30mm×幅20mm×厚み5mmの大きさに切断された試験片の上面および下面を、長側面(長さ方向)に対して片方の手の親指と人差し指とで保持し(図1の(a))、該試験片を押し潰しによる該試験片の屈曲(図1の(b))とその解放(図1の(a))とを1回の動作として繰り返す際の該試験片の平均折れ回数が100以上である。このような試験片の平均折れ回数は、2個の試験片を作製し、上記屈曲と解放との動作を試験片が折れるまでの回数を測定し、得られた回数の平均値として算出される。当該平均折れ回数がこのような範囲を満足することにより、得られる字消しは、消字にあたり容易には折れ難く、実用性に耐え得る十分な強度を有する。
【0044】
あるいは、本発明の字消しは、平均厚み10.7mmに成形した際の該厚み方向における明度L*に基づいて算出された透明度の最大値が好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、さらにより好ましくは95%である組成物で構成されている。ここで、本明細書中に用いられる用語「平均厚み10.7mmに成形した際の該厚み方向における明度L*に基づいて算出された透明度の最大値」とは、対象となる字消しと同一組成の樹脂組成物を用いて、平均厚み10.7mmの厚みを有する直方体を成形した際の当該厚み方向の明度L*に基づいて算出された透明度であって、当該直方体内に、平均厚み10.7mmを有する対向する面の組み合わせとして、複数の組み合わせが存在する場合(例えば、当該直方体の1つにおいて、ある1組の対向する面が平均厚み10.7mmの間隔で配置されている際に、残りの1組または2組の対向する面もまた平均厚み10.7mmの間隔で配置されている場合)の各厚み方向の明度L*に基づいて算出された透明度のうち、最も大きな値を示すものをいう。
【0045】
このような透明度の最大値は、以下のようにして測定される。
【0046】
まず、平均厚み10.7mmに成形した直方体のサンプル(平均厚み10.7mm)が約50mm×約100mmの大きさに裁断され試験片が作製される。この試験片が、コピー機またはコピー機能を備えたレーザー複合機の原稿台ガラスの中央に、当該平均厚みを有する面が当接するように配置され、この試験片の当該当接した面と対向する面の全面を覆い、かつ当該試験片(3)が略中央に位置するように平滑な黒色のポリスチレン板(182mm×257mm×0.3mm)が重ねて配置される。この状態で、コピー機またはレーザー複合機の印刷ボタンを押し、モノクロモードにてA3サイズのコピー用紙への印刷を行い、図2に示すような、コピー用紙104に試験片106の周囲がポリスチレン板に相当する黒色枠体102で囲まれた画像が印刷されたサンプル用紙100が作製される。
【0047】
その後、このサンプル用紙100における試験片106および黒色のポリスチレン板が配置されていない部分(黒色枠体102の外側に存在する白色部分)として、黒色枠体102の外周よりも外側に位置する任意の4点(A点、B点、C点、およびD点)の明度L*が濃度計でそれぞれ測定され、それらの平均値WL*が算出される。また、黒色のポリスチレン板の印刷部分(黒色枠体102の部分)として、黒色枠体102の外周よりも内側に位置し、かつ試験片106の外周よりも外側に位置する任意の4点(E点、F点、G点、およびH点)の明度L*が濃度計でそれぞれ測定され、それらの平均値BL*が算出される。さらに、試験片106の印刷部分(黒色枠体102の内側に存在する部分)として、試験片106の外周よりも内側に位置する任意の4点(I点、J点、K点およびL点)の明度L*が濃度計でそれぞれ測定され、それらの平均値SL*が算出される。そして、これらWL*、BL*およびSL*を用いて、以下の式にしたがって透明度(%)が算出される。
【0048】
【数2】
【0049】
ここで、測定した試験片を構成する直方体の少なくとも2組の対向する面が平均厚み10.7mmを有する場合は、各対向する面から得られた当該透明度(%)のうち最も大きな値が上記透明度の最大値として採用される。あるいは、測定した試験片を構成する直方体が1組の対向する面についてのみ平均厚み10.7mmを有する場合は、当該対向する面から得られた透明度(%)が上記透明度の最大値として採用される。
【0050】
本発明の字消しは、上記塩化ビニル樹脂と可塑剤とを含有する組成物であって、当該透明度の最大値を有する組成物から構成されていることにより、優れた透明性を有するとともに、消字性、折れ難さ等の実用性を保持することができる。
【0051】
あるいは、本発明の字消しでは、JIS S 6050(2002)(プラスチック字消し)に準拠した硬さが好ましくは60~80、より好ましくは62~69を有する。当該硬さがこのような範囲を満足することにより、得られる字消しは、消字を必要とする紙面との間に適度な摩擦力と粘着性を得ることができ、結果として消字性が高く、使用し易い字消しを得ることができる。
【0052】
本発明の字消しは、上記成分を溶融混練した後、加熱成形することにより製造することができる。当該成形の方法としては、例えばプレス成形、射出成形、押出成形が挙げられる。具体的な例としては、本発明の字消しは、上記成分をブレンダーにて混練してゾルを作製し、脱泡後に金型に入れてゲル化させ、その後所定の圧力でプレスすることにより製造され得る。成形温度は必ずしも限定されないが、例えば100℃~130℃、好ましくは110℃~120℃であり、加熱時間は例えば20分間~40分間である。冷却後、金型から取り出すことにより、本発明の字消しを得ることができる。
【0053】
(鉛筆類および熱変色インキ含有筆記具共用の消字組成物)
本発明の鉛筆類および熱変色インキ含有筆記具共用の消字組成物は、塩化ビニル樹脂および可塑剤を含有する。
【0054】
ここで、本明細書中に用いる用語「鉛筆類」とは、鉛筆およびシャープペンシル、ならびにグラファイトを主成分として含有する芯材を備えるその他の筆記具を包含する。
【0055】
一方、本明細書中に用いる用語「熱変色インキ」とは、摩擦熱により変色する着色剤を含有する水性または油性のインキを包含し、これを加温することにより、筆跡上に存在する着色剤を可逆的または不可逆的に変色(透明化や消色)させるものが挙げられる。摩擦熱により変色する着色剤の例としては、特開2012-219160号公報、特開2014-5422号公報等に記載されるような可逆タイプの着色剤、ならびに特開2010-229332号公報等に記載されるような不可逆タイプの着色剤が挙げられる。
【0056】
さらに、本明細書中に用いられる用語「熱変色インキ含有筆記具」とは上記熱変色インキを筆記用成分として含有する、ボールペン、カラーペン、蛍光ペン、色鉛筆、およびスタンプを包含していう。
【0057】
本発明の消字組成物を構成する塩化ビニル樹脂および可塑剤はいずれも、上記字消しと同様のものである。本発明の消字組成物はまた、上記字消しと同様の他の成分を含有していてもよい
【0058】
さらに、本発明の消字組成物は、上記字消しと同様の、平均厚み10.7mmに成形した際の該厚み方向における明度L*に基づいて算出された透明度の最大値、JIS S 6050(2002)(プラスチック字消し)に準拠した硬さ、および所定形状の試験片における平均折れ回数のうちの1つまたはそれ以上の物性的特徴を満たしていることが好ましい。このような成分および/または物性的特徴を満たしていることにより、本発明の消字組成物は、鉛筆類で書かれた筆跡に対して良好な消字性を発揮するのに加え、熱変色インキ含有筆記具で書かれた筆跡に対しては、紙面との摩擦を通じて適切な摩擦熱を発生させ、当該紙面上の熱変色インキの変色を促すことができる。
【0059】
例えば、ノートやレポート用紙などの紙面に対し、シャープペンシルにより文字を筆記し、かつその文字の前後に熱変色インキ含有筆記具により文字や線図を筆記した場合には、本発明の消字組成物によって両者の筆跡を一括して消去することが可能である。その結果、字消しと(熱変色インキの)消字体とを別々に使用することなく、鉛筆類および熱変色インキ含有筆記具の共用として、これらの筆跡を一度に消去することができる。
【0060】
(熱変色インキの消字体)
本発明の熱変色インキの消字体は、塩化ビニル樹脂および可塑剤を含有する。
【0061】
ここで、本明細書中に用いる用語「熱変色インキの消字体」とは、熱変色インキ含有筆記具を用いて紙面上に筆記された熱変性インキを紙面との摩擦を通じて摩擦熱を発生させ、それにより加温して当該熱変性インキに含まれる着色剤を可逆的または不可逆的に変色(透明化や消色)させるものを指していう。
【0062】
本発明の消字体を構成する塩化ビニル樹脂および可塑剤はいずれも、上記字消しと同様のものである。本発明の消字体はまた、上記字消しと同様の他の成分を含有していてもよい
【0063】
さらに、本発明の消字体は、上記字消しと同様の、平均厚み10.7mmに成形した際の該厚み方向における明度L*に基づいて算出された透明度の最大値、JIS S 6050(2002)(プラスチック字消し)に準拠した硬さ、および所定形状の試験片における平均折れ回数のうちの1つまたはそれ以上の物性的特徴を満たしていることが好ましい。このような成分および/または物性的特徴を満たしていることにより、本発明の消字体は、熱変色インキ含有筆記具で書かれた筆跡に対して、紙面との摩擦を通じて適切な摩擦熱を発生させ、当該紙面上の熱変色インキの変色を促すことができる。
【0064】
本発明の消字体は、熱変色インキ含有筆記具を構成するキャップの端部に配置されていてもよく、あるいは直方体等の任意の形状に成形され、熱変色インキ含有筆記具とは独立した物品を形成するものであってもよい。
【0065】
本発明の字消し、鉛筆類および熱変色インキ含有筆記具共用の消字組成物、ならびに熱変色インキの消字体はいずれも、消字性および折れ難さ等の実用性を保持しつつ、優れた透明性を有する。これにより、例えば従来の字消しと比較して色彩面からの意匠性を向上させることができる。また、鉛筆類および熱変色インキ含有筆記具のいずれの筆跡に対しても、消字の際に発生する消しくずの量を抑えることができる。
【0066】
本発明によれば、消字可能な筆記具の範囲が拡張する。これにより、鉛筆類および熱変色インキ含有筆記具が各々独立して進歩する中で、これらの筆記具に対応する字消しまたは消去体として厳格な区別を要することなく、より簡便にこれらの筆跡の消去を行うことができる点で有用である。
【実施例
【0067】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
後述する実施例1~3および比較例1~7で得られたサンプルについて、それぞれ以下の評価を行った。
【0069】
(硬さ)
JIS S 6050(2002)に準拠して、得られたサンプルの硬さを測定した。
【0070】
(HB鉛筆消字率)
JIS S 6050(2002)に準拠して、得られたサンプルのHB鉛筆消字率を測定した。
【0071】
(くず量)
JIS S 6050(2002)に準拠してサンプルから消しゴム試験片(1)を作製し、JIS S 6050(2002)に記載の消し字試験機に基づいて作製した摩耗試験機を用いて、未着色の試験紙上で消しゴム試験片(1)に500gの荷重をかけ、3cmのストロークを1往復あたり2秒の速さで10往復させた。その際に消しゴム試験片(1)の質量変化量をくず量とした。
【0072】
(平均折れ回数)
サンプルを、長さ30mm×幅20mm×厚み5mmの大きさにスライスして試験片(2)を作製し、得られた試験片(2)の上面および下面を、長側面(長さ方向)に対して片方の手の親指と人差し指とで保持し(図1の(a))、該試験片(2)を押し潰しによる該試験片の屈曲(図1の(b))とその解放(図1の(a))とを1回の動作として繰り返し、当該試験片(2)が折れるまでの回数を測定した。この測定を2個の試験片(2)について行い、それらの平均値を平均折れ回数とした。
【0073】
(透明度の目視評価)
サンプル(平均厚み10.7mm)を約50mm×約100mmの大きさに裁断して試験片(3)を作製した。一方、レーザー複合機(キヤノン株式会社製iR-ADV-C3530)を用いて白色コピー用紙に、「株式会社シード」の文字列をモノクロ(黒色)で游明朝体のフォントおよび18ポイントのサイズにて印刷して、基準印刷物を作製した。
【0074】
次いで、この基準印刷物を白色の室内灯を取り付けた室内に水平に配置し、当該基準印刷物の印字部分の上に、上記平均厚みを有する一方の面が当接するように試験片(3)を配置し、当該試験片(3)を通して上記平均厚みを有する他方の面より約30cm離れた距離から、基準印刷物における印字部分の文字の見え方を6人のパネラーが目視で観察し、使用した試験片(3)の透明性を以下の基準に基づいてパネラー全員で協議して決定した。
「○」無色透明であり、基準印刷物上の文字をはっきりと認識することができた。
「△」僅かに有色透明であるか、または基準印刷物上の文字がぼやけて見えた。
「×」基準印刷物上の文字が見えなかった。
【0075】
(透明度の最大値)
上記で得られた試験片(3)を、レーザー複合機(キヤノン株式会社製iR-ADV-C3530)の原稿台ガラスの中央に、平均厚み10.7mmを有する面が当接するように配置し、この試験片(3)の当該当接した面と対向する面の全面を覆い、かつ当該試験片(3)が略中央に位置するように平滑な黒色のポリスチレン板(182mm×257mm×0.3mm)を重ねて配置した。この状態で、レーザー複合機の印刷ボタンを押し、モノクロモードにてA3サイズのコピー用紙への印刷を行い、図2に示すような、コピー用紙104に試験片(3)106の周囲がポリスチレン板に相当する黒色枠体102で囲まれた画像が印刷されたサンプル用紙100を作製した。
【0076】
その後、このサンプル用紙100における試験片(3)106および黒色のポリスチレン板が配置されていない部分(黒色枠体102の外側に存在する白色部分)として、黒色枠体102の外周よりも外側に位置する任意の4点(A点、B点、C点、およびD点)の明度L*を濃度計でそれぞれ測定し、それらの平均値をWL*とした。また、黒色のポリスチレン板の印刷部分(黒色枠体102の部分)として、黒色枠体102の外周よりも内側に位置し、かつ試験片(3)106の外周よりも外側に位置する任意の4点(E点、F点、G点、およびH点)の明度L*を濃度計でそれぞれ測定し、それらの平均値をBL*とした。さらに、試験片(3)106の印刷部分(黒色枠体102の内側に存在する部分)として、試験片(3)106の外周よりも内側に位置する任意の4点(I点、J点、K点およびL点)の明度L*を濃度計でそれぞれ測定し、それらの平均値をSL*とした。そして、これらWL*、BL*およびSL*を用いて、以下の式にしたがって透明度(%)を算出した。
【0077】
【数3】
【0078】
以下の実施例および比較例では、作製したサンプルについて平均厚み10.7mmを有するのは、いずれも一組の対向する面の間のみであったため、上記で得られた透明度(%)を、当該サンプルの透明度の最大値とした。
【0079】
(実施例1:サンプル(E1)の作製)
ペースト状塩化ビニル樹脂(新第一塩ビ株式会社製PQ140;平均重合度1210~1410)100質量部と、可塑剤(株式会社ADEKA製PN6120;安息香酸エステル系可塑剤,屈折率1.53,sp値9.8)120質量部とをブレンダー内で混練してゾルを形成し、これを脱泡した後に金型に入れて、115℃にて30分間加熱してゲル化させた。金型を冷却した後、内容物を金型から取り出し、サンプル(E1)を得た。このサンプル(E1)は、10.5~10.9mmの厚みを有しており、平均厚みは10.7mmであった。得られたサンプル(E1)の評価結果を表1に示す。
【0080】
(実施例2~3および比較例1~7:サンプル(E2)~(E3)および(C1)~(C7)の作製)
表1に示す種類および量のペースト状酸化ビニル樹脂および可塑剤ならびに成形条件を使用したこと以外は実施例1と同様にして、対応するサンプル(E2)、(E3)、および(C1)~(C7)を作製した。これらのサンプル(E2)、(E3)、および(C1)~(C7)について、冷却後の熱収縮により厚み方向の平均厚みは10.7mmであった。その他の長さおよび幅はいずれも平均厚みが10.7mmを上回っていた。得られたサンプル((E2)、(E3)、および(C1)~(C7)の評価結果を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
表1に示すように、実施例1~3で作製されたサンプル(E1)~(E3)はいずれも、透明度の最大値が90%を上回り、無色でかつ優れた透明性を呈していたことがわかる。さらに、サンプル(E1)~(E3)はいずれも、平均折れ回数が100回を越えており、くず量も極めて少ないものであった。こうした状態において、HB鉛筆消字率はいずれも高い値を示しており、字消しとして適切な機能を有していた。
【0083】
一方、比較例1~7で得られたサンプル(C1)~(C7)は、比較例5のサンプル(C5)を除き、透明度の最大値が90%に達するものはなく、実施例1~3のサンプル(E1)~(E3)と比較して透明性に欠くものであった。一方、比較例5のサンプル(C5)は透明度の最大値は90%に到達していたが、目視によれば実際には黄色味がかった透明であり、実施例1~3のサンプル(E1)~(E3)で見られたような無色透明とは大きくかけ離れたものであった。
【0084】
比較例1~7で得られたサンプル(C1)~(C7)では、可塑剤の種類や成形温度の相違により、くず量を抑えることができたり(例えば、比較例5~7)、平均折れ回数を高めることができた(例えば比較例5)ものの、上記のような硬さ、HB鉛筆消字率、くず量、平均折れ回数、透明度の目視評価および透明度の最大値のいずれをも満足するものは得られなかった。
【0085】
以上のことから、実施例1~3で作製されたサンプル(E1)~(E3)は、優れた透明性を有する字消しとして有用であることがわかる。
【0086】
(熱変色インキ筆記具による消字率)
実施例1で得られたサンプル(E1)および比較例2で得られたサンプル(C2)を用いて、熱変色インキ筆記具による消字率(%)を以下のようにして測定した。
【0087】
JIS S 6050(2002)のHB鉛筆消字率と同様にして、サンプルから所定の試験片(4)を作製した。次いで、JIS S 6050(2002)に記載の消し字試験機に基づいて作製した摩耗試験機を用いて、JIS S 6050(2002)に基づいて熱変性インキで構成される黒色色鉛筆(株式会社パイロットコーポレーション製フリクションいろえんぴつ)で筆記した試験紙上で消しゴム試験片に500gの荷重をかけ、3cmのストロークを1往復あたり2秒の速さで4往復させた。その後の試験紙における筆記部分の濃度をJIS S 6050(2002)と同様にして測定した。
【0088】
一方、上記黒色色鉛筆に予め付属の消去体(C8)(この消去体を比較例8とする)について同様に消字率を測定した。さらに、この黒色色鉛筆に付属の消去体(C8)について、上記と同様にして硬さ、HB鉛筆消字率、およびくず量を測定した。得られた結果を表2に示す。
【0089】
【表2】
【0090】
表2に示すように、実施例1で作製されたサンプル(E1)について、熱変性インキ筆記具の消字率(%)が、使用した黒色色鉛筆に付属の消去体(C8)よりも高い値を示していた。一方、比較例2で作製されたサンプル(C2)では、当該消字率(%)が使用した黒色色鉛筆に付属の消去体(C8)よりも劣るものであった。このことから、実施例1で作製されたサンプル(E1)は、熱変性インキ筆記具の消去体として有用であることがわかる。
【0091】
一方、使用した黒色色鉛筆に付属の消去体(C8)について、実施例1のサンプル(E1)と比較して、HB鉛筆消字率は極めて低く、字消し(消しゴム)としては到底使用し得ないものであった。
【0092】
表1および表2の結果を総合すると、実施例1で得られたサンプル(E1)は、鉛筆類の字消しおよび熱変性インキ筆記具の消去体のいずれに対しても有用であり、鉛筆類および熱変色インキ含有筆記具の区別を問わないこれらの共用の消字組成物として使用可能であることがわかる。
【符号の説明】
【0093】
100 サンプル用紙
102 黒色枠体
104 コピー用紙
106 試験片,試験片(3)
図1
図2