(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】防振用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 23/22 20060101AFI20240723BHJP
C08L 23/02 20060101ALI20240723BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20240723BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C08L23/22
C08L23/02
C08L23/26
F16F15/08 D
(21)【出願番号】P 2020039141
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2023-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000114710
【氏名又は名称】ヤマウチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸子 広行
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-169646(JP,A)
【文献】特開2006-249674(JP,A)
【文献】特開2000-198169(JP,A)
【文献】特開2003-026865(JP,A)
【文献】特開2005-179525(JP,A)
【文献】特開2004-301299(JP,A)
【文献】特開2002-105328(JP,A)
【文献】特開2017-110094(JP,A)
【文献】特開2010-144142(JP,A)
【文献】特開2014-009601(JP,A)
【文献】国際公開第03/060005(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
F16F15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチル系ゴムからなるA成分と、非晶性α-オレフィン共重合体からなるB成分と、水添非極性炭化水素樹脂およびテルペン系炭化水素樹脂の少なくとも1つからなるC成分と、を含有し、
前記B成分は0~60℃の温度範囲に損失正接tanδのピークが存在し、
前記A成分と前記B成分との質量比率A:Bが90:10から65:35までの範囲にある防振用ゴム組成物。
【請求項2】
0℃かつ5Hz、20℃かつ5Hz、および40℃かつ5Hzの3つの条件における動的粘弾性測定において得られる損失正接tanδがいずれも0.40以上であり、前記損失正接tanδの間の差がいずれも0.40以下である請求項1に記載の防振用ゴム組成物。
【請求項3】
前記A成分がブチルゴムおよびハロゲン化ブチルゴムの少なくとも1つである請求項1または請求項2に記載の防振用ゴム組成物。
【請求項4】
前記A成分および前記B成分の合計含有量100質量部に対して、前記C成分の含有量が10質量部以上50質量部以下である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の防振用ゴム組成物。
【請求項5】
70℃かつ24時間で25%圧縮後の圧縮永久歪みが30%以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の防振用ゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
広い温度領域および周波数領域において、安定した防振性を発揮する防振ゴムが、様々な用途、たとえば、建築物の防振、車両または自動車の防振、精密機器の防振、家庭用電気機器(たとえば、洗濯機、冷蔵庫、エアコンなど)の防振などで要求されている。
【0003】
たとえば、特開2009-173906号公報(特許文献1)は、ハロゲン化ブチルゴムを主成分とし、非極性の脂環族飽和炭化水素樹脂および反応型アルキルフェノール樹脂の成分を含有する高減衰ゴム組成物を開示する。
【0004】
特開2010-144142号公報(特許文献2)は、ブチル系ゴムを主成分とし、非極性の脂環族飽和炭化水素樹脂、所定の液状ポリマー、窒素吸着比表面積が50m2/g以下の所定の無機フィラー、および加硫剤の成分を含有する高減衰ゴム組成物を開示する。
【0005】
特開2002-187987号公報(特許文献3)は、(A)ブチルゴム、(B)その他のエラストマー、(C)粘着付与樹脂、(D)加硫剤および/または架橋剤、(E)加硫促進剤および/または活性剤を主成分として含有し、(A)成分の含有量が50~100重量部、(B)成分の含有量が0~50重量部、(C)成分の含有量が1~50重量部である(ここで、(A)成分、(B)成分の合計量を100重量部とする)ゴム組成物を開示する。
【0006】
特開2005-179525号公報(特許文献4)は、ガラス転移温度が-80~0℃の範囲内、溶解度パラメータが7.5~8.5の範囲内であるポリマー(A)の100質量部と、ガラス転移温度が10~60℃の範囲内、溶解度パラメータが8.5以上であるポリマー(B)の5~150質量部と、融点が50~160℃の範囲内、溶解度パラメータが8.5以上であるポリマー(C)の5~50質量部と、が必須の成分として配合されてなる防振用ゴム組成物を開示する。
【0007】
特開2012-82388号公報(特許文献5)は、15~75モル%の4-メチル-ペンテンから導かれる構成単位(i)と、25~85モル%のα-オレフィン(ただし、4-メチル-1-ペンテンを除く。)から導かれる構成単位(ii)の割合とからなり、デカリン中135℃で測定した極限粘度が0.1~5.0dL/gの範囲にあり、ゲルパーミッションクロマトグラフィーにより測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との割合(分子量分布;Mw/Mn)が1.0~3.5の範囲にある、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体を少なくとも含有する防振材を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-173906号公報
【文献】特開2010-144142号公報
【文献】特開2002-187987号公報
【文献】特開2005-179525号公報
【文献】特開2012-82388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の防振用ゴム組成物では、動的粘弾性測定において、周波数が低いほど損失正接tanδが低下し、また、高温であるほど損失正接tanδが低下するため、低周波数かつ広い温度範囲において高い防振性能(減衰性能)を有することは困難であるという問題があった。また、高温における損失正接tanδを高く保持するため、ゴム組成物のガラス転移温度を室温(たとえば25℃)付近にシフトさせる手法が用いられるが、かかる手法では、たとえば0~40℃の広い温度範囲において損失正接tanδの変化が大きく、限定された温度以外で防振性能を発揮することが困難であるという問題があった。
【0010】
たとえば0~40℃の広い温度範囲における損失正接tanδの変化が大きいと、外的環境の変化(季節変化など)あるいは機器内部の発熱などによる温度変化により防振性能が変化するという問題があった。このため、建築物、車両または自動車、精密機器、および家庭用電気機器などの設計を容易にするため、広い温度範囲において損失正接tanδの値が大きくかつその変化(すなわち損失正接tanδ間の差)が小さい防振ゴム組成物の開発が求められている。
【0011】
しかしながら、特許文献1~5のいずれにおいても、低周波数(たとえば5Hz)においても広い温度範囲(たとえば0℃、20℃、および40℃)の条件において高い減衰性能(たとえば、動的粘弾性測定において得られる損失正接tanδがいずれも0.40以上、かつ、それらの条件における損失正接tanδの間の差がいずれも0.40以下)を示すゴム組成物は得られていない。
【0012】
そこで、本発明は、上記問題を解決するため、5Hzの低周波数においても0℃、20℃、および40℃の広い温度範囲において動的粘弾性測定により得られる損失正接tanδがいずれも0.40以上、かつ、それらの条件における損失正接tanδの間の差がいずれも0.40以下の高く安定した減衰性能を示す防振用ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様にかかる防振用ゴム組成物は、ブチル系ゴムからなるA成分と、非晶性α-オレフィン共重合体からなるB成分と、水添非極性炭化水素樹脂およびテルペン系炭化水素樹脂の少なくとも1つからなるC成分と、を含有し、A成分とB成分との質量比率A:Bが90:10から65:35までの範囲にある。
【発明の効果】
【0014】
上記防振用ゴム組成物は、5Hzの低周波数においても0℃、20℃、および40℃の広い温度範囲において動的粘弾性測定により得られる損失正接tanδがいずれも0.40以上、かつ、それらの条件における損失正接tanδの間の差がいずれも0.40以下の高く安定した減衰性能を示す防振用ゴム組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[防振用ゴム組成物]
本実施形態の防振用ゴム組成物は、ブチル系ゴムからなるA成分と、非晶性α-オレフィン共重合体からなるB成分と、水添非極性炭化水素樹脂およびテルペン系炭化水素樹脂の少なくとも1つからなるC成分と、を含有し、A成分とB成分との質量比率A:Bが90:10から65:35までの範囲にある。本実施形態の防振用ゴム組成物は、5Hzの低周波数においても0℃、20℃、および40℃の広い温度範囲において動的粘弾性測定により得られる損失正接tanδが0.40以上の高い減衰性能を示す。なお、本明細書において、範囲を示す「X~Y」の表記は、XおよびYの値を含むことを意味する。
【0016】
(A成分)
本実施形態の防振用ゴム組成物は、低温における減衰特性が良好である観点から、ブチル系ゴムからなるA成分を含む。ブチル系ゴムは、その損失正接tanδのピークが0℃以下の温度範囲に存在するため、低温においても減衰特性が良好である。ここで、「ブチル系ゴム」とは、ブチルおよびブチル誘導体からなるゴムをいい、上記観点から、ブチルゴム(以下、IIRともいう)およびハロゲン化ブチルゴム(以下、X-IIRともいう)などが好適に挙げられる。さらに、ハロゲン化ブチルゴムとして、塩素化ブチルゴム(以下、Cl-IIRともいう)、臭素化ブチルゴム(以下、Br-IIRともいう)などが挙げられる。なお、加硫時間の短縮を図る観点から、X-IIRがより好ましい。また、IIRおよびX-IIRは、防振用ゴム組成物の使用目的および使用用途により、それぞれ単独で用いても、併用して用いてもよい。
【0017】
(B成分)
本実施形態の防振用ゴム組成物は、損失正接tanδのピークが0℃以下の温度範囲(すなわち低温側)に存在するA成分に、0~60℃の温度範囲(すなわち高温側に)に損失正接tanδのピークが存在するB成分を組み合わせることにより、0℃、20℃、および40℃の広い温度範囲において損失正接tanδを高くする観点から、非晶性α-オレフィン共重合体からなるB成分を含む。B成分は、非晶性α-オレフィン共重合体からなること、すなわち、α-オレフィン共重合体であることからオレフィン系ゴムであるブチル系ゴムからなるA成分と相溶性が高く、かつ、非晶性であるため、A成分と混ざり易い。結晶性α-オレフィンは、α-オレフィンであっても融点が存在するため、融点以上の温度で混練しないと混ざりが悪くなり、得られる防振ゴム組成物の圧縮永久歪みが大きくなる。
【0018】
「非晶性α-オレフィン共重合体」について、「非晶性」とは、結晶性がないことをいい、明確な融点が存在しないことにより確認される。明確な融点が存在しないとは、示差走査熱量測定(以下、DSCともいう)において、窒素ガス雰囲気中で10℃/minで昇温させたときに融解ピークが認められないことをいう。具体的には、DSC(たとえば、Mettler-Toledo社製DSC822)を用いて、試料7mgを窒素ガス気流(40mL/min)雰囲気中、室温(25℃)から200℃まで10℃/minで昇温させ、試料を完全融解させるために5分間保持し、次いで、200℃から-50℃まで10℃/minで降温させ、-50℃で5分間保持した後、-50℃から200℃まで10℃/minで再び昇温させたとき(すなわち2回目の昇温のとき)に現れる融解ピークの温度を融点と定義するときに、その融解ピークが認められないことをいう。
【0019】
「α-オレフィン共重合体」とは、2種類以上のα-オレフィンが共重合されたものをいう。ここで、「α-オレフィン」とは、末端他炭素C1と隣接炭素C2との間に二重結合が位置する脂肪族不飽和炭化水素の総称である。α-オレフィン共重合体は、0℃、20℃、および40℃の広い温度範囲において損失正接tanδを高くする観点から、共重合されている2種類以上のα-オレフィンのうち、1種類のα-オレフィンが4-メチル-1-ペンテンである4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン(ただし、4-メチル-1-ペンテンを除く)共重合体であることが好ましい。
【0020】
(A成分とB成分との質量比率)
A成分とB成分との質量比率A:Bは、A成分に由来する低温側の損失正接tanδのピークとB成分に由来する高温側の損失正接tanδのピークとの組み合わせの比率を調整することにより、0℃、20℃、および40℃の広い温度範囲において損失正接tanδを高くする観点から、90:10から65:35までの範囲であり、90:10から70:30までの範囲が好ましい。
【0021】
(C成分)
本実施形態の防振用ゴム組成物は、A成分に由来する低温側の損失正接tanδのピークを高温側にシフトさせ、かつ、B成分に由来する高温側の損失正接tanδを上昇させることにより、0℃、20℃、および40℃の広い温度範囲において損失正接tanδを高くする観点から、水添非極性炭化水素樹脂およびテルペン系炭化水素樹脂の少なくとも1つからなるC成分を含む。
【0022】
「水添非極性炭化水素樹脂」について、「水添」とは水素が添加されていることをいう。「非極性」とは、「極性を有する」の対語であり、全く極性を有しないことを意味するものでなく、具体的には、極性官能基(極性を有する官能基、たとえばヒドロキシ基、カルボニル基などをいう)を含まないことをいう。「炭化水素樹脂」とは炭素および水素のみで構成されている樹脂をいう。水添非極性炭化水素樹脂としては、脂環族飽和炭化水素樹脂、水添脂環族/芳香族共重合系炭化水素樹脂などが好適に挙げられる。「テルペン系炭化水素樹脂」とは、イソプレンを構成単位とする炭化水素である「テルペン」を含む炭化水素樹脂をいう。水添非極性炭化水素樹脂およびテルペン系炭化水素樹脂は、それぞれ単独で用いても、併用して用いてもよい。水添非極性炭化水素樹脂およびテルペン系炭化水素樹脂は、特に制限はなく、市販されている融点90~150℃程度のものが好適に用いられる。
【0023】
(C成分の含有量)
本実施形態の防振用ゴム組成物は、A成分に由来する上記低温側の損失正接tanδのピークを高温側にシフトさせることにより、0℃、20℃、および40℃の広い温度範囲において損失正接tanδを高くする観点から、A成分およびB成分の合計含有量100質量部に対して、C成分の含有量が10質量部以上50質量部以下であることが好ましい。具体的には、上記低温側の損失正接tanδのピークを高温側にシフトさせる効果を高める観点から、C成分の含有量は、10質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましい。また、損失正接tanδのピーク温度の位置を好ましくは0℃以下とすることにより低温時の硬度が高くなり過ぎるのを抑制する観点から、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましい。
【0024】
(その他の成分)
本実施形態の防振用ゴム組成物は、A成分、B成分、およびC成分以外のその他の成分として、一般的にゴム組成物に使用される充填剤、加硫剤、加工助剤、可塑剤、軟化剤、老化防止剤、カップリング剤、着色剤、放熱材、導電材などを含むことができる。充填剤としては、特に制限はないが、補強性が高く圧縮永久歪みが小さくなる観点から、カーボンブラック、焼成クレーなどが好適に挙げられる。加硫剤としては、特に制限はないが、X-IIRの場合、強度、圧縮永久歪み、加硫速度等のバランスが良い観点から、酸化亜鉛、ジチオカルバミン酸系加硫促進剤などが好適に挙げられる。同様の理由から、IIRの場合は、低硫黄加硫、または無硫黄加硫(サルファードナー加硫)などが好適に挙げられる。加工助剤としては、少量で効果があり、物性への影響が少ない観点から、ステアリン酸などが好適に挙げられる。
【0025】
[防振用ゴム組成物の特性]
(動的粘弾性測定における損失正接tanδ)
本実施形態の防振用ゴム組成物は、上記のA成分、B成分、およびC成分を含有し、A成分とB成分との質量比率A:Bが90:10から65:35までの範囲にあるため、0℃かつ5Hz、20℃かつ5Hz、および40℃かつ5Hzの3つの条件における動的粘弾性測定において得られる損失正接tanδが、いずれも0.40以上であり、いずれも0.50以上であることが好ましい。このため、本実施形態の防振用ゴム組成物は、5Hzの低周波数においても0℃、20℃、および40℃の広い温度範囲において、損失正接tanδが、いずれも0.40以上、好ましくはいずれも0.50以上の高い減衰性能を示す。
【0026】
本実施形態の防振用ゴム組成物は、0℃かつ5Hz、20℃かつ5Hz、および40℃かつ5Hzの3つの条件における動的粘弾性測定において得られる損失正接tanδの間の差が、いずれも0.40以下であり、いずれも0.30以下であることが好ましい。かかる防振用ゴム組成物は、5Hzの低周波数においても0℃、20℃、および40℃の広い温度範囲において、損失正接tanδの間の差が、いずれも0.40以下、好ましくはいずれも0.30以下の安定した減衰性能を示す。ここで、「損失正接tanδの間の差が、いずれも」とは、上記3つの条件から選ばれる全ての組合せの2つの条件の間の損失正接tanδの差(すなわち損失正接tanδの差の個数は3個)の全てを意味する。すなわち、上記3つの条件における損失正接tanδの最大値と最小値との差が0.40以下であり、0.30以下であることが好ましい。
【0027】
本実施形態の防振用ゴム組成物は、0℃かつ5Hz、20℃かつ5Hz、および40℃かつ5Hzの3つの条件に、さらに20℃かつ100Hzの条件を加えた4つの条件における動的粘弾性測定において得られる損失正接tanδが、いずれも0.40以上であることが好ましく、いずれも0.50以上であることがより好ましく、上記4つの条件における損失正接tanδの間の差が、いずれも0.40以下であることが好ましく、いずれも0.30以下であることがより好ましい。かかる防振用ゴム組成物は、5Hzおよび100Hzの広い低周波範囲かつ0℃、20℃、および40℃の広い温度範囲において、損失正接tanδが、いずれも0.40以上、好ましくはいずれも0.50以上のより高い減衰性能を示すとともに、損失正接tanδの間の差が、いずれも0.40以下、好ましくはいずれも0.30以下のより安定した減衰性能を示す。ここで、「損失正接tanδの間の差が、いずれも」とは、上記4の条件から選ばれる全ての組合せの2つの条件の間の損失正接tanδの差(すなわち損失正接tanδの差の個数は6個)の全てを意味する。すなわち、上記4つの条件における損失正接tanδの最大値と最小値との差が0.40以下であることが好ましく、0.30以下であることがより好ましい。
【0028】
本実施形態の防振用ゴム組成物は、0℃かつ5Hz、20℃かつ5Hz、40℃かつ5Hz、および20℃かつ100Hzの4つの条件に、さらに-10℃かつ5Hzの条件を加えた5つの条件における動的粘弾性測定において得られる損失正接tanδが、いずれも0.40以上であることがより好ましく、いずれも0.50以上であることがさらに好ましく、上記5つの条件における損失正接tanδの間の差が、いずれも0.40以下であることがより好ましく、いずれも0.30以下であることがさらに好ましい。かかる防振用ゴム組成物は、5Hzおよび100Hzの広い低周波範囲かつ-10℃、0℃、20℃、および40℃のさらに広い温度範囲において、損失正接tanδが、いずれも0.40以上、好ましくはいずれも0.50以上のさらに高い減衰性能を示すとともに、損失正接tanδの間の差が、いずれも0.40以下、好ましくはいずれも0.30以下のさらに安定した減衰性能を示す。ここで、「損失正接tanδの間の差が、いずれも」とは、上記5つの条件から選ばれる全ての組合せの2つの条件の間の損失正接tanδの差(すなわち損失正接tanδの差の個数は10個)の全てを意味する。すなわち、上記5つの条件における損失正接tanδの最大値と最小値との差が0.40以下であることがより好ましく、0.30以下であることがさらに好ましい。
【0029】
(圧縮永久歪み)
本実施形態の防振用ゴム組成物は、上記のA成分、B成分、およびC成分を含有し、A成分とB成分との質量比率A:Bが90:10から65:35までの範囲にあるため、70℃かつ24時間で25%圧縮後の永久圧縮歪みが30%以下であり、防振性能(減衰性能)について長期期間に亘って高い安定性を有する。本実施形態の防振用ゴム組成物は、減衰性能の長期間に亘る高い安定性を保持する観点から、上記25%圧縮後の永久圧縮歪みが、30%以下であり、20%以下が好ましい。
【0030】
[防振用ゴム組成物の製造方法]
本実施形態の防振用ゴム組成物の製造方法の製造方法は、特に制限はなく、防振用ゴム組成物の一般的な製造方法が用いられる。たとえば、所定量のA成分、B成分、C成分、その他の成分(充填剤、加工助剤、加硫剤など)を、順次、オープンロールや密閉式混練機(たとえば、バンバリーミキサ、ニーダなど)投入して混合する。このとき、C成分が十分溶融するように、A成分およびB成分からなるゴム生地温度をC成分の融点以上に上昇させることが好ましい。次に、混練り中に反応しないよう、ゴム温度を低下させてから、加硫剤、加硫促進剤を適宜投入し、オープンロールなどで混合することにより得られた混練り防振用ゴム組成物を、140~190℃で1~30分間加硫することにより架橋防振用ゴム組成物が得られる。
【実施例】
【0031】
1.防振用ゴム組成物の作製
[実施例1]
表1に示す質量部のA成分、加工助剤、B成分、C成分、充填剤を10Lニーダーに順次投入し、ゴム組成物の温度が110℃になるまで混練りし、A練り組成物を得た。得られたA練り組成物を12インチのオープンロールに投入し、加硫剤、加硫促進剤を投入した後、約50℃で10分間混練りすることにより、防振用ゴム組成物を作製した。次に、得られた防振用ゴム組成物を160℃で20分間加硫することにより、架橋防振用ゴム組成物を作製した。
【0032】
[実施例2~19、比較例1~11]
表1~表6に示すように、各成分の配合量を変更すること、および、ニーダー練りの排出温度を各C成分の融点以上にすること以外は、実施例1に準じてゴム組成物を作製した。C成分を含まない比較例に関しては、実施例1と同様に110℃になるまで混練りしA練り組成物を得た。次に得られた防振用ゴム組成物を、実施例1と同様に加硫し架橋防振用ゴム組成物を作製した。ただし、実施例2、16、比較例1、2は170℃で30分間加硫した。
【0033】
ここで、表1~6におけるA成分について、「Cl-IIR」は塩素化ブチルゴム(JSR株式会社製クロロブチル1066)を示し、「IIR」はブチルゴム(JSR株式会社製ブチル268)を示し、「EPDM」はエチレンプロピレンジエンゴム(JSR株式会社製EP-33)を示し、「NBR」はアクリロニトリルブタジエンゴム(JSR株式会社製N230、アクリロニトリル含有量が35質量%)を示す。
【0034】
また、表1~6におけるB成分について、「非晶性α-オレフィン共重合体」は非晶性4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(三井化学株式会社製EP1001、明確な融点が存在しない)を示し、「結晶性α-オレフィン共重合体」は結晶性4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(三井化学株式会社製EP1013、融点が121℃および134℃)を示し、「水添スチレンブタジエン共重合体」は非晶性スチレン・ブタジエン共重合体(旭化成株式会社製SOE1605、明確な融点が存在しない)を示し、「ポリエチレン」は結晶性ポリエチレン(住友精化株式会社製フローセンUF、融点が104℃)を示す。
【0035】
また、表1~6におけるC成分について、「水添非極性炭化水素樹脂a」は脂環式飽和炭化水素樹脂(荒川化学工業株式会社製アルコンP90、融点が90℃)を示し、「水添非極性炭化水素樹脂b」は脂環式飽和炭化水素樹脂(荒川化学工業株式会社製アルコンP100、融点が100℃)を示し、「水添非極性炭化水素樹脂c」は脂環式飽和炭化水素樹脂(荒川化学工業株式会社製アルコンP140、融点が140℃)を示し、「水添非極性炭化水素樹脂d」は水添炭化水素樹脂(JXTGホーディングス株式会社製T-REZ、融点が103℃)を示し、「テルペン系樹脂a」は芳香族変性テルペン樹脂(ヤスハラケミカル株式会社製YSポリスターTO-125、融点が125℃)を示し、「テルペン系樹脂b」はテルペン樹脂(ヤスハラケミカル株式会社製YSレジンPX1000、融点が100℃)を示し、「非水添炭化水素樹脂a」はC5-C9系炭化水素樹脂(東ソー株式会社製ペトロタック100V、融点が96℃)を示し、「非水添炭化水素樹脂b」はC9系炭化水素樹脂(東ソー株式会社製ペトコール100T、融点が95℃)を示し、「ロジンエステル樹脂」は荒川化学工業株式会社製パインクリスタルKE-100(融点が100℃)を示す。
【0036】
また、表1~6における充填剤について、「SRF」は粒子の硬さが低いソフトカーボンタイプの中補強性のカーボンブラック(東海カーボン株式会社製シーストS)を示し、「HAF」は粒子の硬さが高いハードカーボンタイプの高耐摩耗性のカーボンブラック(東海カーボン株式会社製シースト3H)をいい、「焼成クレー」は白石カルシウム株式会社製バーゲスKEを示す。
【0037】
また、表1~6における加工助剤について、「ステアリン酸」は花王株式会社製ルナックS-70Vを示す。
【0038】
また、表1~6における加硫剤について、「酸化亜鉛」は堺化学株式会社製亜鉛華1種を示し、「硫黄」は鶴見化学工業株式会社製サルファックスAを示し、「ZDEC」はジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(大内新興化学工業株式会社製ノクセラーEz)を示し、「DTDM」は4,4’-ジチオジモルホリン(大内新興株化学工業式会社製バルノックR)を示し、「CBS」はN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(大内新興株式会社製ノクセラーCz)を示し、「ジクミルペルオキシド」は日油株式会社製パークミルDを示す。
【0039】
2.防振用ゴム組成物の特性評価
上記により得られた架橋防振用ゴム組成物の特性として、硬度、破断強度、圧縮永久歪み、および損失正接tanδを以下の要領で測定して、結果を表1~6にまとめた。
【0040】
(硬度)
JIS K6253:2012に準拠した要領で、タイプAデュロメータ(高分子計器株式会社製P-2A)を用いて、押針から3秒後の指示値を読み取った。
【0041】
(破断強度)
厚さ2mmのシートを成形し、打ち抜きによりJIS3号ダンベルを作製して、測定サンプルとした。JIS K6251:2017に準拠した要領で、引張試験機(株式会社島津製作所製オートグラフAG-1)を用いて、引張速度500mm/minで引張って測定サンプルが破断したときの強度(破断強度:単位MPa)を測定した。
【0042】
(圧縮永久歪み)
直径29mm×厚さ12.5mmの測定サンプルを作製した。JIS K6262:2013に準拠した要領で、70℃で24時間、測定サンプルを厚さ方向に25%の圧縮率で圧縮した後、室温(25℃)の室内に取り出し30分放置した後の測定サンプルの厚さを測定し、以下の式(1)により、
CS=100×(t0-t2)/(t0-t1) ・・・(1)
式(1)において、
CS:圧縮永久歪み(%)
t0:測定サンプルの元の厚さ(mm)
t1:測定サンプルの圧縮時の厚さ(mm)
t2:測定サンプルの室温放置30分後の厚さ(mm)
圧縮永久歪みを算出した。
【0043】
(損失正接tanδ)
基本的にJIS K6394:2007に準拠した要領で、測定サンプルの動的粘弾性を測定した。詳細な測定条件は、
測定サンプル:長さ20mm×幅5mm×厚さ2mm
チャック間距離:15mm
測定モード:引張り
初期歪み:12.5%伸長
振幅:±2μm(0.013%)
昇温速度:3℃/分
測定温度・周波数:0℃・5Hz、20℃・5Hz、40℃・5Hz、20℃・100hz、または-10℃・5Hz
測定機:株式会社ユービーエム製Rheogel-E4000
とした。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
表1を参照して、実施例1および2は、ブチル系ゴムである塩素化ブチルゴムまたはブチルゴムからなるA成分、非晶性α-オレフィン共重合体からなるB成分、および水添非極性炭化水素樹脂からなるC成分を有し、A成分とB成分との質量比率A:Bが90:10から65:35までの範囲にある防振用ゴム組成物であるため、目標特性(0℃かつ5Hz、20℃かつ5Hz、および40℃かつ5Hzの3つの条件における損失正接tanδがいずれも0.4以上であり、損失正接tanδの間の差がいずれも0.4以下、以下同じ。)を達成できた。比較例1および2の防振用ゴム組成物は、A成分がブチル系ゴムでないため、上記3つの条件における損失正接tanδがいずれも0.4未満であった。比較例3の防振用ゴム組成物は、C成分を有していないため、0℃かつ5Hzおよび20℃かつ5Hzの条件における損失正接tanδが0.4未満であった。比較例4の防振用ゴム組成物は、B成分を有していないため、40℃かつ5Hzの条件における損失正接tanδが0.4未満であり、また、0℃かつ5Hzの条件と40℃かつ5Hzの条件とにおける損失正接tanδの差が極めて大きかった。
【0051】
表2を参照して、実施例1は、ブチル系ゴムである塩素化ブチルゴムからなるA成分、非晶性α-オレフィン共重合体からなるB成分、および水添非極性炭化水素樹脂からなるC成分を有し、A成分とB成分との質量比率A:Bが90:10から65:35までの範囲にある防振用ゴム組成物であるため、目標特性を達成できた。比較例5~7の防振用ゴム組成物は、B成分が非晶性α-オレフィン共重合体でないため、目標特性を達成できなかった。
【0052】
表3を参照して、実施例1および3~5は、ブチル系ゴムである塩素化ブチルゴムからなるA成分、非晶性α-オレフィン共重合体からなるB成分、および水添非極性炭化水素樹脂からなるC成分を有し、A成分とB成分との質量比率A:Bが90:10から65:35までの範囲にある防振用ゴム組成物であるため、目標特性を達成できた。実施例6および7は、ブチル系ゴムである塩素化ブチルゴムからなるA成分、非晶性α-オレフィン共重合体からなるB成分、およびテルペン系樹脂からなるC成分を有し、A成分とB成分との質量比率A:Bが90:10から65:35までの範囲にある防振用ゴム組成物であるため、目標特性を達成できた。実施例8は、ブチル系ゴムである塩素化ブチルゴムからなるA成分、非晶性α-オレフィン共重合体からなるB成分、ならびに水添非極性炭化水素樹脂およびテルペン系樹脂からなるC成分を有し、A成分とB成分との質量比率A:Bが90:10から65:35までの範囲にある防振用ゴム組成物であるため、目標特性を達成できた。比較例8~10の防振用ゴム組成物は、C成分が水添非極性炭化水素樹脂およびテルペン系樹脂のいずれでもないため、目標特性を達成できなかった。
【0053】
表4を参照して、実施例1、9および10は、ブチル系ゴムである塩素化ブチルゴムからなるA成分、非晶性α-オレフィン共重合体からなるB成分、および水添非極性炭化水素樹脂からなるC成分を有し、A成分とB成分との質量比率A:Bが90:10から65:35までの範囲にある防振用ゴム組成物であるため、充填剤としてカーボンブラック(SRFおよびHAF)および焼成クレーのいずれを有していても、目標特性を達成できた。ここで、硬度および破断特性が高い観点から、充填剤としてカーボンブラックが好適であった。
【0054】
表5を参照して、実施例1および11~15は、ブチル系ゴムである塩素化ブチルゴムからなるA成分、非晶性α-オレフィン共重合体からなるB成分、および水添非極性炭化水素樹脂からなるC成分を有し、A成分とB成分との質量比率A:Bが90:10から65:35までの範囲にあり、かつ、A成分およびB成分の合計含有量100質量部に対して、C成分の含有量が10質量部以上50質量部以下である防振用ゴム組成物であるため、目標特性を達成できた。
【0055】
表6を参照して、実施例1および16~19は、ブチル系ゴムである塩素化ブチルゴムまたはブチルゴムからなるA成分、非晶性α-オレフィン共重合体からなるB成分、および水添非極性炭化水素樹脂からなるC成分を有し、A成分とB成分との質量比率A:Bが90:10から65:35までの範囲にあるため、目標特性を達成できた。比較例11の防振用ゴム組成物は、A成分とB成分との質量比率A:Bが90:10から65:35までの範囲外であるため、目標特性を達成できなかった。
【0056】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。