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特許7525142複合体、その製造方法、それを用いた触媒、および、ガスセンサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】複合体、その製造方法、それを用いた触媒、および、ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/38 20060101AFI20240723BHJP
   G01N 27/12 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C01B33/38
G01N27/12 C
G01N27/12 M
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020085866
(22)【出願日】2020-05-15
(65)【公開番号】P2021178763
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】藤井 和子
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】竹之内 智
(72)【発明者】
【氏名】下村 周一
(72)【発明者】
【氏名】若原 孝次
(72)【発明者】
【氏名】安藤 寿浩
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-154037(JP,A)
【文献】FUJII,Kazuko et al. ,Synthesis and optical properties of layered inorganic-imidazoline monoliths,Journal of Inorganic and Organometallic Polymers and Materials,Springer,2018年12月17日,Vol. 29, No.3,pp.745-757
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B
B01J
G01N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層間に有機基を有する層状ケイ酸化合物を含有する複合体であって、
前記有機基は、X1-L1で表され、
前記X1は、複素環基、アミン基、アミド基、チオエーテル基、スルホン基、ニトロ基、カルボキシル基、および、これらの誘導体からなる群から選択される官能基であり、
前記L1は、2価の基であり、
前記層状ケイ酸化合物と共有結合しており、
前記層間に、第8族元素、第9族元素、および、第10族元素からなる群から少なくとも1種選択される遷移金属元素の金属粒子が位置し、
前記金属粒子は、1.5nm以上20nm以下の範囲の粒径を有する、複合体。
【請求項2】
前記遷移金属元素は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)および鉄(Fe)からなる群から少なくとも1種選択される、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記X1は、イミダゾリン基である、請求項1または2に記載の複合体。
【請求項4】
前記層状ケイ酸化合物は、前記遷移金属元素の陽イオンの八面体シートが一対のケイ素系シートで挟持された層状化合物である、請求項1~3のいずれかに記載の複合体。
【請求項5】
前記遷移金属元素の陽イオンの八面体シートは、前記遷移金属元素の陽イオンと酸素と水酸基とからなる八面体が稜共有して連なっている、請求項4に記載の複合体。
【請求項6】
前記ケイ素系シートは、ポリシロキサンシートである、請求項4または5に記載の複合体。
【請求項7】
前記ポリシロキサンシートは、前記有機基の前記L1と共有結合している、請求項6に記載の複合体。
【請求項8】
前記複合体は、化学式(1)で表される、請求項1~7のいずれかに記載の複合体。
(M NP)(Mx1 n+,mHO)Mx2Si(OH) (1)
ここで、MNPは前記層間に位置する金属粒子であり、Mは前記遷移金属元素であり、Rは前記有機基であり、nは、前記遷移金属元素の価数であり、m、x1、x2、y、z、k、pおよびqは、それぞれ、0≦m≦100、0≦x1≦4、2≦x2≦4、1≦y≦6、2.2≦z≦4.5、2≦k≦5、9≦p≦11、1.5≦q≦8を満たす。
【請求項9】
前記パラメータm、x1、x2、y、z、k、pおよびqは、それぞれ、6≦m≦12、0.8≦x1≦1、2.6≦x2≦3.4、1≦y≦2、3.2≦z≦4、3.2≦k≦4、9≦p≦11、1.5≦q≦5を満たす、請求項8に記載の複合体。
【請求項10】
前記層状ケイ酸化合物は、サポナイト、ヘクトライト、モンモリロナイト、および、スチーブンサイトからなる群から選択される層状ケイ酸塩である、請求項1~3のいずれかに記載の複合体。
【請求項11】
前記金属粒子の含有量は、0wt%より多く30wt%以下の範囲である、請求項1~10のいずれかに記載の複合体。
【請求項12】
層間に有機基を有する層状ケイ酸化合物を含有し、前記有機基は、X1-L1で表され、前記X1は、複素環基、アミン基、アミド基、チオエーテル基、スルホン基、ニトロ基、カルボキシル基、および、これらの誘導体からなる群から選択される官能基であり、前記L1は、2価の基であり、前記層状ケイ酸化合物と共有結合しており、前記層間に、第8族元素、第9族元素、および、第10族元素からなる群から少なくとも1種選択される遷移金属元素の金属粒子が位置する複合体の製造方法であって、
第8族元素、第9族元素、および、第10族元素からなる群から少なくとも1種選択される遷移金属元素の塩または水酸化物と、ケイ素を含有する有機物とを混合することと、
前記混合することによって得られた混合物を水熱合成することと、
前記水熱合成することによって得られた生成物に電子線を照射することと
を包含し、
前記有機物は、X1-L1で表される有機基を含有し、
前記X1は、複素環基、アミン基、アミド基、チオエーテル基、スルホン基、ニトロ基、カルボキシル基、および、これらの誘導体からなる群から選択される官能基であり、
前記L1は、2価の基である、方法。
【請求項13】
前記水熱合成することは、前記混合物を80℃以上200℃以下の温度範囲で加熱する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記混合することは、前記遷移金属元素の塩または水酸化物と前記有機物とを、モル比で、前記遷移金属元素の塩または水酸化物:前記有機物=3:2.5~3:5を満たすように混合する、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記混合することにおいて、アルコキシシランを混合する、請求項12~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記電子線を照射することは、前記生成物に、1kV以上200kV以下の範囲の加速電圧で、10pA以上10mA以下の範囲の電流で、電子線を照射する、請求項12~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記電子線を照射することにおいて、前記電子線を前記生成物の一部にのみ照射する、請求項12~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
合体を用いた触媒であって、
前記複合体は、層間に有機基を有する層状ケイ酸化合物を含有し、
前記有機基は、X1-L1で表され、
前記X1は、複素環基、アミン基、アミド基、チオエーテル基、スルホン基、ニトロ基、カルボキシル基、および、これらの誘導体からなる群から選択される官能基であり、
前記L1は、2価の基であり、
前記層状ケイ酸化合物と共有結合しており、
前記層間に、第8族元素、第9族元素、および、第10族元素からなる群から少なくとも1種選択される遷移金属元素の金属粒子が位置する、触媒
【請求項19】
請求項18に記載の触媒を有するガス感知部を備えたガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体、その製造方法、それを用いた触媒、および、ガスセンサに関し、詳細には、層間に有機基を有する層状ケイ酸化合物を含有する複合体、その製造方法、それを用いた触媒、および、ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、層状化合物上に金属ナノ粒子を合成する技術が開発された(例えば、非特許文献1~3を参照)。非特許文献1~3によれば、酢酸銅とサポナイトとの混合物に紫外線を照射することにより、カルボン酸、チオール、高分子といった保護剤を用いることなく、サポナイト上に分散した銅ナノ粒子が得られることを開示する。しかしながら、金属ナノ粒子同士が凝集・酸化する、さらには形状制御が難しいという問題がある。
【0003】
一方、近年、層状無機化合物の層間に有機物が存在する層状無機-有機複合体は、無機物と有機物双方の特性を併せ持つ可能性があることから研究が盛んである。例えば、イミダゾリン誘導体を用いて、ケイ酸化合物とイミダゾリン基が有する有機基とが共有結合した層状無機-有機複合体の合成が報告されている(例えば、非特許文献4~7を参照)。
【0004】
非特許文献4~7によれば、ニッケルやマグネシウムの金属酢酸塩の水溶液や酸化ニッケルの分散液に、トリエトキシ-3-(2-イミダゾリン-1-イル)プロピルシランを滴下・混合した混合物を80℃~170℃、10時間~6日間加熱することによって、上述の層状無機-有機複合体が得られることを開示する。しかしながら、このような複合体において金属ナノ粒子は見られなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】宮川 雅矢ら,粘土科学,第58巻,第1号,26-37,2019
【文献】Masaya Miyagawaら,RSC Adv.,2017,7,41896
【文献】Masaya Miyagawaら,Chem.Commun.,2018,54,8454
【文献】藤井 和子ら,第59回粘土科学討論会,「層状無機-イミダゾリン複合体の合成と評価」
【文献】K.Fujiiら,Journal of Inorganic and Organometallic Polymers and Materials (2019) 29:745-757
【文献】藤井 和子ら,第63回粘土科学討論会,「層状無機-イミダゾリン共有結合体の合成条件と構造」
【文献】藤井 和子ら,第100回春季年会,予稿集「層状無機-イミダゾリン共有結合体の形態観察」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、化学的に安定な金属ナノ粒子を担持した複合体、その製造方法、それを用いた触媒、および、ガスセンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による層間に有機基を有する層状ケイ酸化合物を含有する複合体は、前記有機基は、X1-L1で表され、前記X1は、複素環基、アミン基、アミド基、チオエーテル基、スルホン基、ニトロ基、カルボキシル基、および、これらの誘導体からなる群から選択される官能基であり、前記L1は、2価の基であり、前記層状ケイ酸化合物と共有結合しており、前記層間に、第8族元素、第9族元素、および、第10族元素からなる群から少なくとも1種選択される遷移金属元素の金属粒子が位置し、これにより上記課題を解決する。
前記遷移金属元素は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)および鉄(Fe)からなる群から少なくとも1種選択されてもよい。
前記金属粒子は、1.5nm以上20nm以下の範囲の粒径を有してもよい。
前記X1は、イミダゾリン基であってもよい。
前記層状ケイ酸化合物は、前記遷移金属元素の陽イオンの八面体シートが一対のケイ素系シートで挟持された層状化合物であってもよい。
前記遷移金属元素の陽イオンの八面体シートは、前記遷移金属元素の陽イオンと酸素と水酸基とからなる八面体が稜共有して連なっていてもよい。
前記ケイ素系シートは、ポリシロキサンシートであってもよい。
前記ポリシロキサンシートは、前記有機基の前記L1と共有結合していてもよい。
前記複合体は、化学式(1)で表されてもよい。
(M NP)(Mx1 n+,mHO)Mx2Si(OH)
ここで、MNPは前記層間に位置する金属粒子であり、Mは前記遷移金属元素であり、Rは前記有機基であり、nは、前記遷移金属元素の価数であり、m、x1、x2、y、z、k、pおよびqは、それぞれ、0≦m≦100、0≦x1≦4、2≦x2≦4、1≦y≦6、2.2≦z≦4.5、2≦k≦5、9≦p≦11、1.5≦q≦8を満たす。
前記パラメータm、x1、x2、y、z、k、pおよびqは、それぞれ、6≦m≦12、0.8≦x1≦1、2.6≦x2≦3.4、1≦y≦2、3.2≦z≦4、3.2≦k≦4、9≦p≦11、1.5≦q≦5を満たしてもよい。
前記層状ケイ酸化合物は、サポナイト、ヘクトライト、モンモリロナイト、および、スチーブンサイトからなる群から選択される層状ケイ酸塩であってもよい。
前記金属粒子の含有量は、0wt%より多く30wt%以下の範囲であってもよい。
本発明による上記複合体の製造方法は、第8族元素、第9族元素、および、第10族元素からなる群から少なくとも1種選択される遷移金属元素の塩または水酸化物と、ケイ素を含有する有機物とを混合することと、前記混合することによって得られた混合物を水熱合成することと、前記水熱合成することによって得られた生成物に電子線を照射することとを包含し、前記有機物は、X1-L1で表される有機基を含有し、前記X1は、複素環基、アミン基、アミド基、チオエーテル基、スルホン基、ニトロ基、カルボキシル基、および、これらの誘導体からなる群から選択される官能基であり、前記L1は、2価の基であり、これにより上記課題を解決する。
前記水熱合成することは、前記混合物を80℃以上200℃以下の温度範囲で加熱してもよい。
前記混合することは、前記遷移金属元素の塩または水酸化物と前記有機物とを、モル比で、前記遷移金属元素の塩または水酸化物:前記有機物=3:2.5~3:5を満たすように混合してもよい。
前記混合することにおいて、アルコキシシランを混合してもよい。
前記電子線を照射することは、前記生成物に、1kV以上200kV以下の範囲の加速電圧で、10pA以上10mA以下の範囲の電流で、電子線を照射してもよい。
前記電子線を照射することにおいて、前記電子線を前記生成物の一部にのみ照射してもよい。
本発明による触媒は、上記複合体を用い、これにより上記課題を解決する。
本発明によるガスセンサは、上記触媒を有するガス感知部を備え、これにより上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の複合体は、層間に有機基を有する層状ケイ酸化合物を含有する複合体であり、その層間に、第8族元素、第9族元素、および、第10族元素からなる群から少なくとも1種選択される遷移金属元素の金属粒子が位置する。さらに、有機基は上述した式で表される有機基を含有しており、層状ケイ酸化合物と共有結合している。このため、金属粒子は、層間に化学的に安定に位置することができる。また、金属粒子は、保護剤で覆われていないので、効果的にその特性を発揮でき、本発明の複合体は、触媒活性、プラズモン発光、光電効果、発光制御を示す。本発明の複合体の機能を生かし、本発明の複合体を用いた触媒、それを用いたガスセンサを提供できる。
【0009】
本発明の複合体の製造方法は、上述の選択された金属元素の塩または水酸化物と、上述した式で表される有機基を含有し、かつ、ケイ素を含有する有機物とを混合することと、それによって得られた混合物を水熱合成することと、それによって得られた生成物に電子線を照射することとを包含し、これにより上述の複合体が得られる。電子線の照射によって、ナノメートルオーダの粒径を有する金属粒子を層状ケイ素化合物の層間に成長させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の複合体を示す模式図
図2図1の点線で示す部分を拡大して示す図
図3】本発明の複合体の製造工程を示すフローチャート
図4】本発明の複合体を用いたガスセンサを示す模式図
図5】例1の試料のSAD像を示す図
図6】例6の試料のSAD像を示す図
図7】例1の試料のTEM像を示す図
図8】例2の試料のTEM像を示す図
図9】例6の試料のTEM像を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0012】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明の複合体およびその製造方法について説明する。
図1は、本発明の複合体を示す模式図である。
【0013】
本発明の複合体100は、層状ケイ酸化合物110と、その層間に有機基120とを含有する。ここで、有機基120は、X1-L1で表され、X1は、複素環基、アミン基、アミド基、チオエーテル基、スルホン基、ニトロ基、カルボキシル基、および、これらの誘導体からなる群から選択される官能基であり、L1は、2価の基である。有機基120のL1が層状ケイ酸化合物110と共有結合する。
【0014】
さらに、本発明の複合体100は、層間に、第8族元素、第9族元素、および、第10族元素からなる群から少なくとも1種選択される遷移金属元素の金属粒子130が位置する。上記共有結合により、金属粒子130は、有機基120に覆われることはなく、効果的に金属本来の特性を発揮できる。
【0015】
なお、本願明細書において、層状ケイ酸化合物110は、少なくとも、ケイ素(Si)と水素(H)と酸素(O)とを含有する無機化合物を表している。これにより、有機基120と容易に共有結合し得る。
【0016】
本願発明者らは、上述の特定の有機基120のうちL1が層状ケイ酸化合物110に共有結合し、さらに、上述の特定の遷移金属元素からなる金属粒子130を層状ケイ酸化合物110の層間に分散させて維持した複合体を見出した。このような、金属粒子130は、層間に位置するため、化学的に安定である。また、金属粒子130は、後述する製造方法によれば、保護剤で覆う必要はないので、効果的に金属本来の特性を発揮できる。
【0017】
以降では、本発明の複合体100の各構成要素について詳述する。
【0018】
複素環基は、好ましくは、含窒素複素環基である。含窒素複素環基は、より好ましくは、ピロール基、チアゾール基、イソチアゾール基、オキサゾール基、イソオキサゾール基、イミダゾール基、イミダゾリン基、イミダゾリジン基、ピラゾール基、1,3,5-トリアジン基、ピリジン基、ピリミジン基、ピリダジン基、ピラジン基、インドール基、キノリン基、イソキノリン基、ブリン基、テトラゾール基、テトラジン基、トリアゾール基、カルバゾール基、アクリジン基、キノキサリン基、キナゾリン基、インドリジン基、イソインドール基、3H-インドール基、2H-ピロール基、1H-インダゾール基、プリン基、フタラジン基、ナフチリジン基、シンノリン基、プテリジン基、カルボリン基、フェナントリジン基、ペリミジン基、フェナントロリン基、フェナジン基、フェナルサジン基、フェノチアジン基、フラザン基、フェノキサジン基、ピロリジン基、ピロリン基、ピラゾリン基、ピラゾリジン基、ピペリジン基、ピペラジン基、インドリン基、イソインドリン基、キヌクリジン基およびこれらの誘導体からなる群から選択される。
【0019】
中でも、X1は、イミダゾリン基が好ましい。これにより、高収率で本発明の複合体を製造できる。
【0020】
L1は、2価の基としては特に制限されないが、ヘテロ原子を有していてもよい2価の炭化水素基が挙げられる。ヘテロ原子を有していてもよい2価の炭化水素基としては、例えば、アルキレン基(炭素数1~10個が好ましい)、シクロアルキレン基(炭素数3~10個が好ましい)、アルケニレン基(炭素数2~10個が好ましい)、アルキニレン基(炭素数2~10個が好ましい)、及び、これらの組み合わせ、並びに、上記と-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-、-O-、-S-、及び、-NR-(Rは水素原子又は1価の有機基を表す)との組み合わせ等が挙げられる。
【0021】
第8族元素の群は、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)およびハッシウム(Hs)からなる。第9族元素の群は、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)およびマイトネリウム(Mt)からなる。第10族元素の群は、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)およびダームスタチウム(Ds)からなる。
【0022】
金属粒子130は、上述した元素群から選択される限り、単一の元素からなってもよいし、2以上の元素からなる複合金属であってもよいし、2以上の元素からなる金属のコアシェル構造であってもよい。
【0023】
金属粒子130は、好ましくは、Ni、CoおよびFeからなる群から少なくとも1つ選択される遷移金属元素からなる。これらの金属元素であれば、後述する製造方法によって金属粒子130を層間に効率的に位置させることができる。また、これらの金属元素であれば、触媒活性、プラズモン発光、光電効果、発光制御など金属元素に基づく機能を発揮できる。中でもNiは収率の観点から好ましい。
【0024】
図2は、図1の点線で示す部分を拡大して示す図である。
【0025】
層状ケイ酸化合物110は、好ましくは、金属粒子130を構成する遷移金属元素を含有してもよい。図2に示すように、層状ケイ酸化合物110は、金属粒子130を構成する遷移金属元素の陽イオン八面体シート210が一対のケイ素系シート220で挟持されていてもよい。八面体シート210は、詳細には、図2に示すように、遷移金属元素の陽イオンと酸素と水酸基とからなる八面体が稜共有して連なっている。
【0026】
ケイ素系シート220は、本願明細書においてシロキサン結合を有するものを表すものであるが、好ましくは、シロキサン(Si-O-Si)結合が連なり、シート状の形態をであるポリシロキサンシートである。このようなポリシロキサンシートは、例示的には、以下の2種類が挙げられる。
(1)シロキサン結合のSiの4つの手の内1つは、有機基と、残りの手の3つが酸素と結合する。Siと結合する酸素は、Si-O-Si、Si-OH、または、陽イオン八面体のO(陽イオン八面体と頂点共有)である。
(2)シロキサン結合のSiの4つの手全てが酸素と結合し、Si四面体を形成する。4つの手のうち3つはシロキサン結合する。そして、Si四面体は頂点共有で二次元状のヘキサゴナルネットワークを形成する。4つの手のうち残る1つは陽イオン八面体と頂点共有する。これらのポリシロキサンシートであれば、八面体シート210を挟持し、有機基120のL1と共有結合し得る。
【0027】
ポリシロキサンシートが上述のL1と共有結合したものをオルガノポリシロキサンシートと呼ぶ場合がある。
【0028】
層状ケイ酸化合物110の各層の厚さは、好ましくは、0.5nm以上2nm以下の範囲である。これにより、層状ケイ酸化合物110は、一対のケイ素系シート220で八面体シート210を挟持した積層構造となり得る。
【0029】
層状ケイ酸化合物110は、サポナイト、ヘクトライト、モンモリロナイト、および、スチーブンサイトからなる群から選択される層状ケイ酸塩であってもよい。これらの層状ケイ酸塩も、有機基120と共有結合し、金属粒子130を層間に位置させつつ、安定である。
【0030】
層状ケイ酸化合物110が上述の層状ケイ酸塩以外の場合には、本発明の複合体100は、化学式(1)で表されてもよい。
(M NP)(Mx1 n+,mHO)Mx2Si(OH) (1)
ここで、MNPは金属粒子130であり、Mは金属粒子130を構成する遷移金属元素であり、Rは有機基120であり、nは、遷移金属元素の価数であり、m、x1、x2、y、z、k、pおよびqは、それぞれ、0≦m≦100、0≦x1≦4、2≦x2≦4、1≦y≦6、2.2≦z≦4.5、2≦k≦5、9≦p≦11、および、1.5≦q≦8を満たす。
【0031】
上記パラメータm、x1、x2、y、z、k、pおよびqは、それぞれ、より好ましくは、6≦m≦12、0.8≦x1≦1、2.6≦x2≦3.4、1≦y≦2、3.2≦z≦4、3.2≦k≦4、9≦p≦11、および、1.5≦q≦5を満たす。これにより、上述の層間に金属粒子を含有した複合体が安定となる。
【0032】
金属粒子130は、好ましくは、0.5nm以上100nm以下の範囲の粒径を有する。後述する製造方法を採用すれば、上記範囲の粒径を有する金属粒子130が得られる。ナノメートルオーダの金属粒子であるため、金属本来の特性に加えて、量子サイズ効果による特有の物性など期待される。
【0033】
金属粒子130は、より好ましくは、1.5nm以上50nm以下の範囲の粒径を有し、より好ましくは、1.5nm以上20nm以下の範囲の粒径を有し、なお好ましくは、2nm以上15nm以下の範囲の粒径を有する。粒径の大きさは後述する製造方法によって制御されるが、本発明の複合体100は、ナノメートルオーダの小さな粒径を有する金属粒子130を有することができるため、触媒、プラズモン発光など量子サイズ効果が期待される。
【0034】
なお、本願明細書において、金属粒子130の粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察された画像において無作為に選んだ粒子100点の粒径を測定し、その平均粒径とする。
【0035】
金属粒子130の含有量は、好ましくは、0wt%より多く30wt%以下の範囲である。これにより、触媒活性、プラズモン発光、光電効果、発光制御など金属元素に基づく機能を効果的に発揮できる。金属粒子130の含有量は、より好ましくは、1wt%以上15wt%以下の範囲である。金属粒子130の含有量は、さらに好ましくは、3wt%以上10wt%以下の範囲である。この範囲であれば、上述の触媒活性、プラズモン発光、光電効果、発光制御など金属元素に基づく機能をより効果的に発揮できる。質量パーセント濃度を「wt%」と表記する。
【0036】
層状ケイ酸化合物110の層間距離は、有機基120の種類に依存するが、例示的には、7Å以上50Å以下の範囲である。有機基120として長鎖アルキル基の様に嵩高い基を有する有機基を選べば、層間距離を大きくでき、その逆の有機基を選べば、層間距離を小さくできる。このような選択は、複合体100の用途に応じて行われる。
【0037】
上述したように、本発明の複合体100は、層間に位置する金属粒子130に基づく、触媒活性、プラズモン発光、光電効果、発光制御などの機能を発揮するため、触媒、表面増強ラマン散乱(SERS)活性材料、光電効果材料、発光材料として機能する。特に、本発明の複合体100を触媒として利用する場合、層状ケイ酸化合物110の層間に金属粒子130が位置するため、層間を通過する物質のみを選択的に反応させることができる。
【0038】
図3は、本発明の複合体の製造工程を示すフローチャートである。
【0039】
ステップS310:第8族元素、第9族元素、および、第10族元素からなる群から少なくとも1種選択される遷移金属元素の塩または水酸化物と、ケイ素を含有する有機物とを混合する。ここで、第8族元素、第9族元素、および、第10族元素は、上述した通りであるため説明を省略する。
【0040】
ステップS320:ステップS310によって得られた混合物を水熱合成する。水熱合成は、密閉した容器内において熱水の存在下で行われる化合物の合成を表す。水熱合成には、既存のオートクレーブ反応器や水熱合成反応装置が使用され得る。
【0041】
ステップS330:ステップS320で得られた生成物に電子線を照射する。これにより、生成物中における金属粒子を成長させることができる。
【0042】
各ステップについて詳述する。
ステップS310において、遷移金属元素の塩または水酸化物は、特に制限されるものではないが、具体的には、遷移金属元素の酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、塩化物等である。
【0043】
ステップS310において、ケイ素を含有する有機物は、ケイ素を有し、かつ、X1-L1で表される有機基を有する限り制限はないが、好ましくは、ケイ素は、L1に結合されている。これにより、層状ケイ酸化合物110の形成を促進する。X1は、複素環基、アミン基、アミド基、チオエーテル基、スルホン基、ニトロ基、カルボキシル基、および、これらの誘導体からなる群から選択される官能基であり、L1は、2価の基である。X1およびL1は、上述した通りであるため、説明を省略する。
【0044】
なお、X1がイミダゾリン基である場合、有機物は、例示的には、トリエトキシ-3-(2-イミダゾリン-1-イル)プロピルシラン、トリメトキシ-3-(2-イミダゾリン-1-イル)プロピルシラン、トリアルコキシ-3-(2-イミダゾリン-1-イル)プロピルシラン、トリアルコキシ-3-(2-イミダゾリン-1-イル)アルキルシラン、トリアルコキシ-2-メチル-2-イミダゾリン-プロピルシラン、トリアルコキシ-2-フェニル-2-イミダゾリン-プロピルシラン等であり得る。これらであれば、高収率で上述の複合体が得られる。
【0045】
ステップS310において、遷移金属元素の塩または水酸化物とケイ素を含有する有機物とを、モル比で、金属元素の塩または水酸化物:ケイ素を含有する有機物=3:2.5~3:5を満たすように混合する。これにより、遷移金属元素の塩または水酸化物とともに、後述の水熱合成によって、上述の化学式(1)によって表される層状ケイ酸化合物の形成が促進する。
【0046】
ステップS310において、アルコキシシランをさらに混合してもよい。これにより、上述の層状ケイ酸塩である層状ケイ酸化合物の形成が促進する。
【0047】
アルコキシシランは、好ましくは、テトラエトキシシラン(TEOS)、メトキシシラン、エトキシシラン、プロポキシシラン、イソプロポキシシラン、アリールオキシシラン、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラプロポキシシラン(TPOS)、アミノプロピルシラン、アミノエチルアミノプロピルシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、グリシドキシプロポキシルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3-[2-(2-アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリメトキシシラン、[2(シクロヘキセニル)エチル]トリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランおよびビニルトリエトキシシランからなる群から少なくとも1種選択される。
【0048】
アルコキシシランは、モル比で、金属元素の塩または水酸化物:ケイ素を含有する有機物:アルコキシシラン=3:0~5:0~5(ただし、0は含まない)を満たすように混合されてもよい。これにより、層状ケイ酸塩の生成が促進する。
【0049】
ステップS310において、分散媒として、蒸留水、ミリQ(登録商標 MILLI-Q)水、脱イオン水、超純水等とともに原料を混合してもよいし、ステップS320において混合物を分散媒に分散させ、水熱合成を行ってもよい。
【0050】
分散媒に、メタノール、エタノール等のアルコール、トルエン、ヘキサン、ベンゼン等の有機溶媒、塩酸、硝酸等の酸、アンモニア、水酸化ナトリウム等の塩基を含有させてもよい。これにより、合成反応を促進・制御できる。これらの添加量は、0.0001wt%以上95wt%以下の範囲である。
【0051】
ステップS320において、水熱合成は、好ましくは、混合物を80℃以上200℃以下の温度範囲で加熱する。この範囲であれば、反応が促進し得る。好ましくは、混合物を140℃以上200℃以下の温度範囲で加熱する。これにより、反応がさらに促進し得る。加熱時間は、特に制限はないが、1時間以上10日間以内の間である。1時間未満では反応が十分でなく、収率が低くなり得る。10日を超えて加熱しても、反応はそれ以上進まないため、非効率である。好ましくは、加熱時間は、10時間以上7日以内の間である。
【0052】
ステップS330において、電子線の照射は、好ましくは、生成物に、1kV以上200kV以下の範囲の加速電圧で、10pA以上10mA以下の範囲の電流で電子線を照射する。これにより、金属粒子の成長を促進させることができる。電子線の照射は、より好ましくは、50kV以上150kV以下の範囲の加速電圧で、50pA以上200pA以下の範囲の電流で電子線を照射する。なおさらに好ましくは、75kV以上125kV以下の範囲の加速電圧で、70pA以上110pA以下の範囲の電流で電子線を照射する。
【0053】
電子線の照射には、電子線源を備える任意の装置を使用できるが、例示的には、電子線照射装置、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡等である。なお、上述の条件は、通常の透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡による観察条件に比べて、小さい電流を用いるため、通常の観察では金属粒子の成長が見られなかったのではないかと想定する。
【0054】
ステップS330において、マスク等を用い生成物の一部のみに電子線を照射するようにしてもよい。これにより、所定の領域のみの金属粒子を成長させることができ、配線加工なども可能となる。
【0055】
このように、ステップS310~S330によりナノメートルオーダの粒径を有する金属粒子を層状ケイ素化合物の層間に含有する本発明の複合体を製造できる。
【0056】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1で説明した本発明の複合体を触媒として用いたガスセンサについて説明する。
図4は、本発明の複合体を用いたガスセンサを示す模式図である。
【0057】
本発明のガスセンサ400は、少なくとも、基板410上に一対の電極420を有し、一対の電極420間にガス感知部430を備える。基板410は、絶縁性基板であれば特に制限はないが、アルミナ基板、ガラス基板、シリコン基板、プラスチック基板、ポリカーボネート基板等がある。例えば、基板410が導電性を有するシリコン基板である場合、基板表面を熱酸化等の酸化処理し、酸化膜(SiO)を形成すればよい。また、基板410が耐熱性を有せば、例えば、300℃~400℃程度の高温下で使用できるので望ましい。このような観点から、基板410は、好ましくは、ガラス基板、アルミナ基板等である。
【0058】
一対の電極420は、導電性を有するものであれば特に制限はないが、具体的には、金、白金、パラジウム、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、チタニウム、クロム、スズ、モリブデン、インジウム、および、これらの合金からなる金属からなる。なお、一対の電極420は、物理的気相成長法、化学的気相成長法など既存の成膜技術により形成される。
【0059】
ガス感知部430は、実施の形態1で説明した本発明の複合体100を含有する。ガス感知部430は、複合体100単体からなってもよいし、これに加えて、有機バインダ樹脂、有機溶剤等を含んでもよい。
【0060】
ガス感知部430は、複合体100を含有する膜の形態であってよい。このような膜は、複合体100を水または有機溶媒に分散させ、これを一対の電極420が形成された基板410上に付与すればよい。有機溶媒は、例示的には、エタノール、エチレングリコール、α-テルピネオールである。付与は、塗布、ドロップキャスト、スプレー、浸漬、スピンコート、スクリーン印刷などによって行われる。好ましくは、付与後に溶媒を除去するために、加熱が行われる。ガス感知部430は、50nm以上500nm以下の範囲の厚さを有する。これにより、センサ感度が高まる。
【0061】
本発明のガスセンサ400は、基板410のガス感知部430とは反対側にヒータ(図示せず)を備えてもよい。これにより、ガス感知部430の温度を制御し、高温での動作を可能にするため、高いセンサ感度を発揮するため好ましい。ヒータは、ガス感知部430の温度を制御できれば特に制限はないが、例示的には白金、タンタル、タングステン等の耐酸化性の高い高融点材料からなる金属膜であり、通電した際に昇温可能である。このようなヒータもまた、物理的気相成長法、化学的気相成長法など既存の成膜技術により形成される。
【0062】
本発明のガスセンサ400の動作を簡単に説明する。本発明のガスセンサ400は、トルエン、ベンゼン、フロン類、ジクロロメタンなどの揮発性有機化合物(VOC)ガスを含有しない気体中では、ガスセンサ400のガス感知部430を構成する複合体100は気体中のVOCと相互作用しないため、電気が流れにくい状態にある(高抵抗状態)。このため、ガス感知部430が高抵抗状態を示すとき、ガスセンサ400はVOCガスが存在しないことを検知する。
【0063】
一方、本発明のガスセンサは、VOCガスを含有する気体中では、ガス感知部430を構成する複合体100は、気体中のVOCと相互作用し、電気が流れやすい状態になる(低抵抗状態)。このため、ガス感知部430が低抵抗状態を示すとき、ガスセンサ400はVOCガスが存在することを検知する。
【0064】
図4では、一対の電極420を用いて複合体100の抵抗値を測定することによりセンシングを行うガスセンサ400を説明したが、ガスセンサはこれに限らない。例えば、複合体100の抵抗値の変化に代えて、発光特性や吸収スペクトルの変化を測定してもよい。
【0065】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例
【0066】
[例1~例8]
例1~例8では、表1に示すように、金属元素の塩または水酸化物と、ケイ素を含有する有機物とを、所定のモル比で混合(図3のステップS310)し、水熱合成装置を用い、所定の水熱合成を行った(図3のステップS320)。例1~例4および例7については、水熱合成後、透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL製、JEM-1010)を用いて、電子線を照射した(図3のステップS330)。
【0067】
【表1】
【0068】
得られた試料について発光分光分析装置(ICP-OES、日立ハイテクサイエンス製、SPS3520UV-DD)を用いて組成分析を行った。結果を表2に示す。得られた試料についてX線回折(XRD、リガク製、Rigaku RINT-2200HF)を行った。さらに、得られた試料についてTEMを用いて制限視野電子線回折(SAD)を調べ、TEM観察した。結果を図5図9に示す。得られた試料についてフーリエ変換赤外分光高度計(FTIR、日本分光製、Jasco FT/IR-4600)を用いてFTIRスペクトルを測定した。
【0069】
以上の結果をまとめて説明する。
図5は、例1の試料のSAD像を示す図である。
図6は、例6の試料のSAD像を示す図である。
【0070】
図5によれば、例1の試料は、複数のリング状の回折パターンを示し、コントラストが濃く示される内側のリングは、層状化合物による回折パターンであり、外側のリングは、Ni粒子による111cおよび311cの回折パターンであった。例2~例4の試料のSAD像(図示せず)も、図5と同様の回折パターンを示した。このことから、例1~例4の試料は、層状化合物であり、Ni粒子を含有することが分かった。
【0071】
一方、図6によれば、例6の試料は、層状化合物による内側のリングを示したが、Ni粒子による111cおよび311cの回折パターンを示さなかった。例5、例7および例8の試料も金属粒子によるリング状の回折パターンを示さなかった。
【0072】
また、例1の試料のXRDパターン(図示せず)によれば、低角側に複数のピークがみられ、最も低角に現れるピークのd値が層間距離に相当し、19Åであった。また、XRDパターンには、原料に基づくピークは見られず、水熱合成によって原料が反応し、層状化合物が形成されたことが分かった。図示しないが、例1~例8の試料のXRDパターンも同様に低角側に複数のピークが見られ、層状化合物であることを確認した。
【0073】
例2および例7の試料のFTIRスペクトル(図示せず)によれば、2900cm-1近傍にCHに起因する吸収、1200cm-1~1700cm-1には3-(2-イミダゾリン-1-イル)プロピルシリル基に起因する吸収、1650cm-1近傍にC=Nに起因する吸収、1186cm-1近傍にSi-Cに起因する吸収、1050cm-1近傍にSi-O-Cに起因する吸収、1000cm-1近傍にSi-O-Siに起因する吸収が、それぞれ見られた。
【0074】
このことから、例2および例7の試料は、有機基のX1としてイミダゾリン基およびL1としてプロピル基を含有することが分かった。また、FTIRスペクトルからプロピル基が層状化合物と共有結合していることを確認した。図示しないが、例1、例3~例6の試料も同様のFTIRスペクトルを示すことを確認した。なお、例8の試料のFTIRスペクトル(図示せず)によれば、層間に有機基の存在を示さなかった。
【0075】
図7は、例1の試料のTEM像を示す図である。
図8は、例2の試料のTEM像を示す図である。
図9は、例6の試料のTEM像を示す図である。
【0076】
図7は、例1の試料の明視野像(A)と暗視野像(B)とである。図8は、例2の試料の明視野像である。図7および図8には、粒子状の複数のスポットが多数観察された。図5のSAD像の結果と併せて、複数のスポットはNi粒子であることが分かった。図示しないが、例3~例4の試料のTEM像も同様に複数のスポットを示した。
【0077】
一方、図9によれば、電子線を照射していない例6の試料のTEM像には、粒子状のスポットは見られなかった。同様に、電子線を照射していない例5の試料のTEM像(図示せず)にも明瞭な粒子状のスポットは見られなかった。また、電子線を照射しているが、第8族元素、第9族元素、および、第10族元素のいずれにも該当しない例7の試料のTEM像(図示せず)もまた、粒子状のスポットを示さなかった。
【0078】
以上より、例1~例4の試料は、層間に有機基のX1としてイミダゾリン基およびL1としてプロピル基を有する層状ケイ酸化合物であり、その層間にニッケル粒子が位置する複合体であることが分かった。本発明の複合体を製造するためには、図3を参照して説明したプロセスが有効であることが示された。
【0079】
【表2】
【0080】
表2の組成分析によれば、例1の試料は、化学式(2)で表され、
(M NP)(Mx1 n+,mHO)Mx2Si(OH) (2)
ここで、MNPはNi粒子あり、MはNiであり、Rは有機基であり、nは、2であり、m、x1、x2、y、z、k、pおよびqは、それぞれ、0≦m≦12、x1=0.94、x2=3、y=1.5、z=3.5、k=3.5、9≦p≦11、1.5≦q≦5を満たすことが分かった。XRDパターンおよびFTIRスペクトルの結果と併せて、層状ケイ酸化合物は、図2に示すような、Niイオンの八面体シートが一対のポリシロキサンシートで挟持された層状化合物あることが分かった。また、層状ケイ酸化合物の各層の厚さは、1nmと算出された。化学式(2)は、化学式(1)に含まれる。
【0081】
同様に、例2~例4の試料も、化学式(1)を満たすことを確認した。
(M NP)(Mx1 n+,mHO)Mx2Si(OH)
ここで、MNPはNi粒子であり、MはNiであり、Rは有機基であり、nは、金属元素の価数であり、m、x1、x2、y、z、k、pおよびqは、それぞれ、6≦m≦12、0.8≦x1≦1、2.6≦x2≦3.4、1≦y≦2、3.2≦z≦4、3.2≦k≦4、9≦p≦11、1.5≦q≦5を満たす。
【0082】
一方、例5~例7の試料は、層間に有機基としてイミダゾリン基およびプロピル基を有する層状ケイ酸化合物であるが、その層間に金属粒子は位置しなかった。これらの試料は、次の化学式で表されることが分かった。
(Mx1 n+,mHO)Mx2SikO(OH)
ここで、MはNiまたはMgであり、Rは有機基であり、nは、金属元素の価数であり、m、x1、x2、z、k、pおよびqは、それぞれ、0≦m≦100、0≦x1≦1、1≦x2≦3、2.2≦z≦4.5、2≦k≦5、9≦p≦11、および、1.5≦q≦8を満たす。
【0083】
さらに、例8の試料は、層間に有機基も金属粒子も有しない層状ケイ酸塩であった。
【0084】
図示しないが、例1の試料を真空中、300℃で1時間、熱処理をし、熱処理前後のXRDパターンを比較としたところ、変化は見られなかった。このことから、層間に位置する有機基のプロピル基は、層状ケイ酸化合物と共有結合しており、厳しい環境下においても、安定であることが分かった。
【0085】
また、層間にNi粒子を含有する例1および例2の試料について、Ni粒子の粒径および含有量を測定した。粒径は、TEM像から選んだ100点の粒径を測定し、その平均粒径である。含有量は、上記化学式(1)または(2)から算出された。結果を表3に示す。
【0086】
【表3】
【0087】
表3によれば、例1および例2の試料は、粒径が2nm以上15nm以下の範囲であり、含有量が3wt%以上10wt%以下の範囲を満たす金属粒子を層間に有することが分かった。例3および例4の試料も同様であった。
【0088】
以上から、本発明の複合体は、層間にX1-L1で表される有機基を有する層状ケイ酸化合物を含有し、その層間にNi粒子を含む、第8族元素、第9族元素、および、第10族元素からなる群から少なくとも1種選択される遷移金属元素の金属粒子が位置することが示された。また、実施例では、層間に含有される金属粒子の粒径は、2nm以上15nm以下の範囲であり、その含有量は、3wt%以上10wt%以下を満たす複合体が得られたことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の複合体は、良好に分散し、化学的に安定な金属粒子を含有するため、金属粒子の特性を生かした、触媒、プラズモン発光、光電効果等に利用される。本発明の複合体を触媒材料に用いれば、ガスセンサを提供できる。
【符号の説明】
【0090】
100 複合体
110 層状ケイ酸化合物
120 有機基
130 金属粒子
210 遷移金属元素の陽イオン八面体シート
220 ケイ素系シート
400 ガスセンサ
410 基板
420 一対の電極
430 ガス感知部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9