(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】合成繊維用処理剤、及び合成繊維
(51)【国際特許分類】
D06M 15/643 20060101AFI20240723BHJP
D06M 13/02 20060101ALI20240723BHJP
D06M 101/38 20060101ALN20240723BHJP
【FI】
D06M15/643
D06M13/02
D06M101:38
(21)【出願番号】P 2020168856
(22)【出願日】2020-10-06
【審査請求日】2023-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2020108987
(32)【優先日】2020-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】西川 武志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】土井 章弘
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/105386(WO,A1)
【文献】特許第2702244(JP,B2)
【文献】特開昭52-135307(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104358108(CN,A)
【文献】特開2011-058129(JP,A)
【文献】特開2005-060876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00 - 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃における動粘度が8~22mm
2/sであるジメチルシリコーン、及び鉱物油を含有する合成繊維用処理剤であって、
前記ジメチルシリコーンにおけるゲル浸透クロマトグラフィ法によって求められるポリスチレン換算の相対分子量25000以上の割合が0質量%を超えて1質量%以下であることを特徴とする合成繊維用処理剤。
【請求項2】
前記ジメチルシリコーン、及び前記鉱物油の含有割合の合計を100質量部とすると、前記ジメチルシリコーンを1~60質量部、及び前記鉱物油を40~99質量部の割合で含む請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
前記ジメチルシリコーン、及び前記鉱物油の含有割合の合計を100質量部とすると、前記ジメチルシリコーンを1~30質量部、及び前記鉱物油を70~99質量部の割合で含む請求項1又は2に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
前記鉱物油の粘度が40~80レッドウッド秒である請求項1~3のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
前記合成繊維が弾性繊維である請求項1~4のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする合成繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維用処理剤、及び合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば合成繊維で構成される弾性繊維は、他の合成繊維に比べて繊維間の粘着性が強い。そのため、例えば合成繊維を紡糸してパッケージに巻き取った後、該パッケージから引き出して加工工程に供する際に、パッケージから安定して解舒することが難しい場合がある。パッケージから安定して解舒させるために、シリコーンオイル等の平滑剤を含有する合成繊維用処理剤が使用されることがある。
【0003】
特許文献1には、ジオルガノポリシロキサンを含有する合成繊維用処理剤としての油剤が付与されたポリウレタン弾性繊維が開示されている。
特許文献2には、シリコーンオイル及び炭化水素系潤滑剤からなる群より選ばれる少なくとも1種のベースオイル、膠着防止剤、有機変性シリコーン、及びアニオン界面活性剤からなる合成繊維用処理剤としての弾性繊維用油剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-115377号公報
【文献】特開2009-179902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、合成繊維は低温環境下で使用される場合があり、合成繊維用処理剤には、低温においても安定した状態を維持すること(以下、「低温安定性」ともいう。)が求められる。
【0006】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、低温安定性が好適に向上した合成繊維用処理剤を提供することにある。また、この合成繊維用処理剤が付着した合成繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための合成繊維用処理剤は、25℃における動粘度が8~22mm2/sであるジメチルシリコーン、及び鉱物油を含有する合成繊維用処理剤であって、前記ジメチルシリコーンにおけるゲル浸透クロマトグラフィ法によって求められるポリスチレン換算の相対分子量25000以上の割合が0質量%を超えて1質量%以下であることを要旨とする。
【0008】
上記合成繊維用処理剤について、前記ジメチルシリコーン、及び前記鉱物油の含有割合の合計を100質量部とすると、前記ジメチルシリコーンを1~60質量部、及び前記鉱物油を40~99質量部の割合で含むことが好ましい。
【0009】
上記合成繊維用処理剤について、前記ジメチルシリコーン、及び前記鉱物油の含有割合の合計を100質量部とすると、前記ジメチルシリコーンを1~30質量部、及び前記鉱物油を70~99質量部の割合で含むことが好ましい。
【0010】
上記合成繊維用処理剤について、前記鉱物油の粘度が40~80レッドウッド秒であることが好ましい。
上記合成繊維用処理剤について、前記合成繊維が弾性繊維であることが好ましい。
【0011】
上記課題を解決するための合成繊維は、上記合成繊維用処理剤が付着していることを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、合成繊維用処理剤の低温安定性を好適に向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
本発明に係る合成繊維用処理剤(以下、単に処理剤ともいう。)を具体化した第1実施形態について説明する。
【0014】
本実施形態の処理剤は、25℃における動粘度が8~22mm2/sであるジメチルシリコーン、及び鉱物油を含有する。また、ジメチルシリコーンにおけるゲル浸透クロマトグラフィ法によって求められるポリスチレン換算の相対分子量25000以上の割合が0質量%を超えて1質量%以下である。
【0015】
上記ジメチルシリコーン、及び鉱物油を含有することにより、合成繊維用処理剤の低温安定性を好適に向上させることができる。
上記ジメチルシリコーンの動粘度の測定方法、及びジメチルシリコーンにおけるゲル浸透クロマトグラフィ法によって求められるポリスチレン換算の相対分子量25000以上の割合の測定方法については後述する。以下では、ジメチルシリコーンにおけるゲル浸透クロマトグラフィ法によって求められるポリスチレン換算の相対分子量を、単に相対分子量ともいう。
【0016】
上記鉱物油としては、例えば、芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素等が挙げられる。より具体的には、例えばスピンドル油、流動パラフィン等が挙げられる。これらの鉱物油は、市販品を適宜採用することができる。
【0017】
上記鉱物油の粘度は、40~80レッドウッド秒であることが好ましい。鉱物油の粘度が40~80レッドウッド秒であることにより、合成繊維用処理剤の低温安定性をより好適に向上させることができる。
【0018】
上記鉱物油は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記ジメチルシリコーン及び鉱物油の含有割合に制限はない。ジメチルシリコーン、及び鉱物油の含有割合の合計を100質量部とすると、ジメチルシリコーンを1~60質量部、及び鉱物油を40~99質量部の割合で含むことが好ましく、ジメチルシリコーンを1~30質量部、及び鉱物油を70~99質量部の割合で含むことがより好ましい。
【0019】
ジメチルシリコーンを1~30質量部、及び鉱物油を70~99質量部の割合で含むことにより、比較的高価なジメチルシリコーンの割合を相対的に小さくして、処理剤をより安価に提供することが可能になる。
【0020】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る合成繊維を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の合成繊維は、第1実施形態の処理剤が付着している合成繊維である。合成繊維に対する第1実施形態の処理剤(溶媒を含まない)の付着量は、特に制限はないが、本発明の効果をより向上させる観点から0.1~10質量%の割合で付着していることが好ましい。
【0021】
合成繊維としては、特に制限はないが、弾性繊維であることが好ましい。弾性繊維としては、例えばポリエステル系弾性繊維、ポリアミド系弾性繊維、ポリオレフィン系弾性繊維、ポリウレタン系弾性繊維等が挙げられる。これらの中でもポリウレタン系弾性繊維が好ましい。かかる場合に本発明の効果の発現をより高くすることができる。
【0022】
ここで、弾性繊維とは、弾力性に富んだ繊維であって、引張り応力を付与すると伸長することができるとともに、引張り応力が解除されると元の長さに戻る繊維を意味するものとする。
【0023】
本実施形態の合成繊維の製造方法は、第1実施形態の処理剤を合成繊維に給油することにより得られる。処理剤の給油方法としては、希釈することなくニート給油法により、合成繊維の紡糸工程において合成繊維に付着させる方法が好ましい。付着方法としては、例えばローラー給油法、ガイド給油法、スプレー給油法等の公知の方法が適用できる。給油ローラーは、通常口金から巻き取りトラバースまでの間に位置することが一般的であり本実施形態の製造方法にも適用できる。これらの中でも延伸ローラーと延伸ローラーの間に位置する給油ローラーにて第1実施形態の処理剤を合成繊維、例えばポリウレタン系弾性繊維に付着させることが効果の発現が顕著であるため好ましい。
【0024】
本実施形態に適用される合成繊維自体の製造方法は、特に限定されず、公知の方法で製造が可能である。例えば湿式紡糸法、溶融紡糸法、乾式紡糸法等が挙げられる。これらの中でも、弾性繊維の品質及び製造効率が優れる観点から乾式紡糸法が好ましく適用される。
【0025】
本実施形態の処理剤、及び合成繊維によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)25℃における動粘度が8~22mm2/sであるジメチルシリコーン、及び鉱物油を含有する合成繊維用処理剤であって、ジメチルシリコーンにおけるゲル浸透クロマトグラフィ法によって求められるポリスチレン換算の相対分子量25000以上の割合が0質量%を超えて1質量%以下である。ジメチルシリコーンにおける相対分子量25000以上の割合を小さくすることによって、処理剤の低温安定性を好適に向上させることができる。
【0026】
(2)ジメチルシリコーンを1~30質量部、及び鉱物油を70~99質量部の割合で含むことにより、比較的高価なジメチルシリコーンの割合を相対的に小さくして、処理剤をより安価に提供することが可能になる。その一方で、ジメチルシリコーンの割合が小さいと、ジメチルシリコーンは温度による影響を受けやすくなる。本実施形態の処理剤によれば、ジメチルシリコーンの割合が小さくても、低温安定性を好適に向上させることができる。
【0027】
上記実施形態は、以下のように変更して実施できる。上記実施形態、及び、以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・本実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤や制電剤、帯電防止剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常処理剤に用いられる成分(以下、その他成分ともいう。)をさらに配合してもよい。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0029】
試験区分1(合成繊維用処理剤の調製)
(実施例1)
まず、以下の方法により、ジメチルシリコーンを調製した。
【0030】
フラスコに、ヘキサメチルジシロキサン23.8gと、オクタメチルシクロテトラシロキサン76.2gのシリコンモノマーを入れ、さらに触媒として硫酸1gを添加して、80℃で4時間反応させた。
【0031】
室温に冷却後、炭酸水素ナトリウム1.71gを添加して、室温で1時間撹拌して触媒を中和した。
中和塩を濾過した後、130℃で2時間減圧処理することで、ジメチルシリコーン(A-1)を調製した。ジメチルシリコーンの動粘度は、キャノンフェンスケ粘度計を用いて、25℃における試料液の動粘度を測定した。
【0032】
次に、鉱物油として、レッドウッド粘度計での粘度が60秒である市販の鉱物油(B-2)を用意した。
ジメチルシリコーン(A-1)が20部、鉱物油(B-2)が80部の配合割合となるようにビーカーに加えた。これらを撹拌してよく混合した。
【0033】
(実施例2~9及び比較例1、2)
実施例2~9及び比較例1、2の各合成繊維用処理剤は、表1に示される各成分を使用し、実施例1と同様の方法にて調製した。
【0034】
なお、ジメチルシリコーン(A-2)は、ジメチルシリコーン(A-1)を調製する際の反応時間である4時間を、6時間に長くして調製した。
ジメチルシリコーン(A-3)は、ジメチルシリコーン(A-1)を調製する際の反応時間である4時間を、更に8時間に長くして調製した。
【0035】
ジメチルシリコーン(A-4)は、オクタメチルシクロテトラシロキサンの比率をジメチルシリコーン(A-1)よりも大きくして調製した。
比較例1、2のジメチルシリコーン(A-5)は、以下の方法により調製した。
【0036】
まず、フラスコに、ヘキサメチルジシロキサン23.8gと、オクタメチルシクロテトラシロキサン76.2gのシリコンモノマーを入れ、さらに触媒として活性白土1gを添加して、80℃で10時間反応させた。
【0037】
触媒を濾過した後、140℃で2時間減圧処理することで、ジメチルシリコーン(A-5)を調製した。
なお、各例の処理剤中におけるジメチルシリコーンの種類と含有量、鉱物油の種類と含有量、その他成分の種類と含有量は、表1の「(A)ジメチルシリコーン」欄、「(B)鉱物油」欄、及び「(C)その他成分」欄にそれぞれ示すとおりである。
【0038】
【表1】
表1の記号欄に記載するA-1~A-5、B-1~B-5、C-1~C-4の各成分の詳細は以下のとおりである。
【0039】
(シリコーンオイル)
A-1:ジメチルシリコーン(25℃における動粘度が10mm2/s、相対分子量25000以上の割合0.005質量%)
A-2:ジメチルシリコーン(25℃における動粘度が10mm2/s、相対分子量25000以上の割合0.1質量%)
A-3:ジメチルシリコーン(25℃における動粘度が10mm2/s、相対分子量25000以上の割合1質量%)
A-4:ジメチルシリコーン(25℃における動粘度が20mm2/s、相対分子量25000以上の割合0.8質量%)
A-5:ジメチルシリコーン(25℃における動粘度が10mm2/s、相対分子量25000以上の割合5.3質量%)
ジメチルシリコーンにおけるゲル浸透クロマトグラフィ法(以下、「GPC」ともいう。)によって求められるポリスチレン換算の相対分子量25000以上の割合の測定方法について説明する。
【0040】
まず、レッドウッド粘度計での粘度が190秒である鉱物油80部に、分析対象となるジメチルシリコーン20部を添加して混合物を調製した。
この混合物に対して、遠心分離機を用いて12000rpm×60分の条件で遠心分離を行った。混合物の上層をデカンテーションにて除去した後、底部に沈降した沈降物0.5部を回収した。この沈降物をクロロホルムに溶解して、下記の条件でGPCを行った。相対分子量25000以上の割合を、GPCの面積比より算出した。
【0041】
試料濃度:0.2w/v%
標準物質:ポリスチレン
溶離液:クロロホルム
注入量:20μL
流量:0.3mL/分
カラム温度:40℃
測定装置:HLC-8220GPC(東ソー(株)社製)
カラム:Shodex GPC KF-405L HQ×3(昭和電工(株)社製)
例えば分子量25000以上の高分子量成分とその他の成分の面積比が15:85である場合、遠心分離した100部の中に含まれる高分子量成分の量は、
沈降物(0.5部)×GPC比率(15%)=0.075部となる。
【0042】
一方、遠心分離した100部の中に、ジメチルシリコーンは20部含まれているため、ジメチルシリコーン中の高分子量成分は、
0.075/20×100=0.375質量%と算出される。
【0043】
なお、上記GPCによって求められるポリスチレン換算の相対分子量は、ポリスチレンを標準物質としてGPCによって求められる質量平均分子量Mwや数平均分子量Mnではなく、ポリスチレン換算の相対分子量である。
【0044】
(鉱物油)
B-1:鉱物油(レッドウッド粘度計での粘度が40秒)
B-2:鉱物油(レッドウッド粘度計での粘度が60秒)
B-3:鉱物油(レッドウッド粘度計での粘度が70秒)
B-4:鉱物油(レッドウッド粘度計での粘度が80秒)
B-5:鉱物油(レッドウッド粘度計での粘度が190秒)
(その他成分)
C-1:有機リン酸エステルのカリウム塩
C-2:有機リン酸エステルのアンモニウム塩
C-3:アミノ変性シリコーン
C-4:アミノ基含有シリコーンレジン
試験区分2(評価)
実施例1~9及び比較例1、2の処理剤について、低温安定性を評価した。試験の手順について以下に示す。また、試験結果を表1の“低温安定性”欄に示す。
【0045】
(低温安定性)
処理剤を-5℃の低温環境下に静置して、経時変化を目視で観察した。以下の基準で低温安定性の評価を行った。
【0046】
・低温安定性
◎(良好):1カ月静置後に、沈降物も白濁も見られない場合
〇(可):1か月静置後に、沈降物は無いものの、若干の白濁が見られた場合
×(不良):1週間静置後に、沈降物が見られた場合
表1の結果から、本発明によれば、合成繊維用処理剤の低温安定性を好適に向上させることができる。また、ジメチルシリコーンの割合が小さくても、低温安定性を好適に向上させることができる。